説明

表面親水化剤

【課題】水と接触した場合であっても基材から離脱しがたく、親水性に優れた被膜を基材表面上で形成しうる表面親水化剤を提供すること。
【解決手段】式(I):


(R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1〜6のアルキレン基、R3、R4及びR5は炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、それらのうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基、Xは酸素原子又は−NH−基を示す)で表されるケイ素原子含有モノマーと、4級アンモニウム塩を側鎖に有するモノマーを重合させてなる(メタ)アクリル系ポリマーを含有する表面親水化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面親水化剤に関する。さらに詳しくは、基材表面に被膜を形成することにより、基材表面に親水性を付与することができる表面親水化剤に関する。本発明の表面親水化剤は、例えば、ガラスプレート、医療用材料、生体適合性材料、光学材料、樹脂フィルム、樹脂シートなどの基材表面に親水性を付与するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
基材に求められる表面特性として、防曇性、帯電防止性、防汚性などが知られている。これらの表面特性は、一般に基材に親水性を付与することによって与えられている。
【0003】
基材に親水性を付与することができるポリマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸塩とアクリルアミドとの共ポリマーのグラフト側鎖に親水性アクリルアミドポリマーが用いられた親水性グラフトポリマーが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この親水性グラフトポリマーは、原料としてカルボン酸塩が用いられているのでアニオン性を呈することから、当該親水性グラフトポリマーの親水性がこれと接触する水のpHによって大きく変化するという欠点を有する。
【0004】
疎水性の樹脂基材の表面に容易に固着させることができる親水性層として、親水性シリカと酸化チタンとの混合物をフィルム基材に塗布し、乾燥させることによって得られた親水性層が提案されている。この親水性層は、プラスチック成形物の表面に転写させることによってプラスチック成形物の表面で用いられている(例えば、特許文献2参照)。しかし、プラスチック成形物に用いられている樹脂基材が可撓性を有する場合、外的応力を受けたときに親水性層が割れたり、剥がれ落ちたりするおそれがある。
【0005】
また、基材表面に防曇性を付与するために界面活性剤を基材表面に塗布することは、従来から広く行なわれているが(例えば、特許文献3および特許文献4参照)、基材表面に水分が付着したとき、界面活性剤が水分に溶解して基材表面から離脱するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−308950号公報
【特許文献2】特開2006−231890号公報
【特許文献3】特開平02−16185号公報
【特許文献4】特開2003−238207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、水と接触した場合であっても基材から離脱しがたく、優れた親水性を有する被膜を基材表面上で形成しうる表面親水化剤、および当該表面親水化剤からなる被膜が基材表面上に形成された表面親水化基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1) 式(I):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜6のアルキレン基、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R3、R4およびR5のうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基、Xは酸素原子または−NH−基を示す)
で表わされるケイ素原子含有モノマーと式(II):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R1、R2およびXは前記と同じ。R6およびR7はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基、R8は炭素数1〜4のアルキレン基を示す)
で表わされる窒素原子含有モノマーを含有するモノマー成分を重合させてなる(メタ)アクリル系ポリマーを含有することを特徴とする表面親水化剤、
(2) 式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーと式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーとの重量比(ケイ素原子含有モノマー/窒素原子含有モノマー)が、3/97〜95/5である前記(1)に記載の表面親水化剤、
(3) モノマー成分が、さらに式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーおよび式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーと共重合可能なモノマーを含有する前記(1)または(2)に記載の表面親水化剤、
(4) 式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーおよび式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーと共重合可能なモノマーが、スチレン系モノマー、カルボン酸エステル系モノマーおよびアミド系モノマーからなる群より選ばれた少なくとも1種である前記(3)に記載の表面親水化剤、
(5) 式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーおよび式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーと共重合可能なモノマーの量が、式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーと式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーとの合計量100重量部あたり0〜100重量部である前記(3)または(4)に記載の表面親水化剤、および
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載の表面親水化剤からなる被膜が基材表面上に形成されてなる表面親水化基材
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水と接触した場合であっても基材から離脱しがたく、優れた親水性を有する被膜を基材表面上で形成しうる表面親水化剤、および当該表面親水化剤からなる被膜が基材表面上に形成された表面親水化基材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の表面親水化剤は、前記したように、式(I):
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜6のアルキレン基、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R3、R4およびR5のうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基、Xは酸素原子または−NH−基を示す)
で表わされるケイ素原子含有モノマーと式(II):
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、R1、R2およびXは前記と同じ。R6およびR7はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基、R8は炭素数1〜4のアルキレン基を示す)
で表わされる窒素原子含有モノマーを含有するモノマー成分を重合させてなる(メタ)アクリル系ポリマーを含有することを特徴とする。
【0019】
式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーにおいて、R1は、水素原子またはメチル基である。R2は、炭素数1〜6のアルキレン基であるが、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基である。R2の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、tert−ブチレン基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0020】
3、R4およびR5は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R3、R4およびR5のうちの少なくとも1つの基は、炭素数1〜4のアルコキシ基である。R3、R4およびR5のうちの少なくとも1つの基が炭素数1〜4のアルコキシ基であるのは、本発明の表面親水化剤を強固に基材に固定するためである。したがって、R3、R4およびR5のうちの少なくとも1つの基が炭素数1〜4のアルコキシ基であるが、R3、R4およびR5のうちの少なくとも2つの基が炭素数1〜4のアルコキシ基であることが好ましく、R3、R4およびR5のいずれもが炭素数1〜4のアルコキシ基であることがより好ましい。炭素数1〜4のアルキル基のなかでは、メチル基およびエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。炭素数1〜4のアルコキシ基のなかでは、メトキシ基およびエトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。Xは、酸素原子または−NH−基である。
【0021】
式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーとしては、例えば、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジプロポキシシランなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのケイ素原子含有モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリ」は、「アクリ」および/または「メタクリ」を意味する。
【0023】
式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーにおいて、R1、R2およびXは、前記と同様であればよい。より具体的には、R1は、水素原子またはメチル基である。R2は、炭素数1〜6のアルキレン基であるが、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基である。R2の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、tert−ブチレン基などが挙げられる。Xは、酸素原子または−NH−基である。
【0024】
6およびR7は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基である。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0025】
8は、炭素数1〜4のアルキレン基である。炭素数1〜4のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、tert−ブチレン基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0026】
式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーとしては、例えば、N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、N−(メタ)アクリロイルアミノエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの窒素原子含有モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーは、水和物であってもよい。なお、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインは、例えば、特開平9−95474号公報、特開平9−95586号公報、特開平11−222470号公報などに記載されている方法により、高純度で容易に調製することができる。
【0027】
式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーと式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーとの重量比(ケイ素原子含有モノマー/窒素原子含有モノマー)は、基材との密着性を高める観点から、好ましくは3/97以上、より好ましくは5/95以上であり、表面親水化剤からなる被膜の親水性を高める観点から、好ましくは95/5以下、より好ましくは85/15以下、さらに好ましくは75/25以下である。
【0028】
本発明に用いられる単量体組成物は、式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーおよび式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーを含有するものであるが、必要により、さらに、式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーおよび式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーと共重合可能なモノマーを含有していてもよい。前記共重合可能なモノマーの代表例としては、炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーなどが挙げられる。
【0029】
式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーおよび式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、スチレン系モノマー、カルボン酸エステル系モノマー、アミド系モノマーなどの炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの共重合可能なモノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
モノマー成分にスチレン系モノマーを含有させた場合、本発明の表面親水化剤の耐熱性を向上させることができるという利点がある。スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのスチレン系モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
モノマー成分にカルボン酸エステル系モノマーを含有させた場合、本発明の表面親水化剤の親油性を向上させることができるという利点がある。カルボン酸エステル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステルなどをはじめ、イタコン酸メチル、イタコン酸エチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのカルボン酸エステル系モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
モノマー成分にアミド系モノマーを含有させた場合、本発明の表面親水化剤の耐加水分解性を向上させることができるという利点がある。アミド系モノマーとしては、例えば、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド系モノマーをはじめ、(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアミド系モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーおよび式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーと共重合可能なモノマーの量は、式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーと式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーとの合計量100重量部あたり、親水性を向上させる観点から、好ましくは100重量部以下、すなわち0〜100重量部、より好ましくは50重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下であり、当該共重合可能なモノマーの種類などによってその量が異なるが、当該共重合可能なモノマーを用いることによって付与される性質を十分に発現させる観点から、好ましくは0.3重量部以上、より好ましくは1重量部以上、さらに好ましくは3重量部以上である。
【0034】
式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマー、式(II)で表わされる窒素原子含有モノマー、および必要によりこれらのモノマーと共重合可能なモノマーを含有するモノマー成分を重合させることにより、(メタ)アクリル系ポリマーが得られる。
【0035】
モノマー成分を重合させる際には、重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸メチル、アゾビスジメチルバレロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾフェノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ベンゾケトン誘導体、フェニルチオエーテル誘導体、アジド誘導体、ジアゾ誘導体、ジスルフィド誘導体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
重合開始剤の量は、特に限定されないが、通常、モノマー成分100重量部あたり0.01〜10重量部程度であることが好ましい。
【0037】
また、本発明においては、モノマー成分を重合させる際には、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤は、通常、モノマー成分と混合することによって用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリセロールなどのメルカプタン基含有化合物、次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
連鎖移動剤の量は、特に限定されないが、通常、モノマー成分100重量部あたり0.01〜10重量部程度であればよい。
【0039】
モノマー成分を重合させる方法としては、例えば、溶液重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。モノマー成分を溶液重合法によって重合させる場合には、例えば、モノマー成分を溶媒に溶解させ、得られた溶液を攪拌しながら重合開始剤を添加し、重合させることができる。
【0040】
溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
溶媒の量は、通常、モノマー成分を溶媒に溶解させることによって得られる溶液におけるモノマー成分の濃度が10〜80重量%程度となるように調整することが好ましい。
【0042】
モノマー成分を重合させる際の重合温度、重合時間などの重合条件は、そのモノマー成分の組成、重合開始剤の種類およびその量などに応じて適宜調整することが好ましい。
【0043】
モノマー成分を重合させるときの雰囲気は、不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0044】
重合反応の終了や反応系内における未反応モノマーの有無は、例えば、ガスクロマトグラフィーなどの一般的な分析方法で確認することができる。
【0045】
以上のようにしてモノマー成分を重合させることにより、(メタ)アクリル系ポリマーを得ることができる。
【0046】
(メタ)アクリル系ポリマーの粘度平均分子量は、表面親水化効果を十分に発現させる観点から、好ましくは100以上、より好ましくは500以上であり、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系ポリマーの溶解性を高める観点から、好ましくは100000以下、より好ましくは50000以下である。なお、(メタ)アクリル系ポリマーの粘度平均分子量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーなどによって測定することができる。
【0047】
本発明の表面親水化剤は、前記(メタ)アクリル系ポリマーを含有するものであるが、本発明の目的が阻害されない範囲内で、他のポリマーや溶媒、各種添加剤などが含まれていてもよい。
【0048】
溶媒としては、前記モノマー成分を重合させる際に用いられる溶媒と同様であればよい。当該溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
溶媒の量は、特に限定されないが、通常、(メタ)アクリル系ポリマーを溶媒に溶解させることによって得られる溶液における(メタ)アクリル系ポリマーの濃度が10〜80重量%程度となるように調整することが好ましい。
【0050】
本発明の表面親水化基材は、基材表面上に表面親水化剤からなる被膜を形成させることによって得られる。
【0051】
基材の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロンに代表されるポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、尿素樹脂、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリスルホン、ポリカーボネート、ABS樹脂、AS樹脂、シリコーン樹脂、ガラス、セラミック、金属などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。基材のなかでは、本発明の表面親水化剤に含まれている(メタ)アクリル系ポリマーを強固に基材に固定する観点から、その表面上に水酸基が存在する基材が好ましい。
【0052】
表面上に水酸基が存在していない基材を用いる場合には、本発明の表面親水化剤を基材に強固に固定させる観点から、その表面上に水酸基が存在するように表面を親水化させることが好ましい。なお、例えば、ガラスなどからなる基材のように、その表面に水酸基が十分に存在している場合には、その表面上に水酸基が存在するように表面を親水化させなくてもよいことは言うまでもない。
【0053】
基材の形状は、特に限定されず、例えば、フィルム、シート、プレート、ロッド、所定形状に成形された成形体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0054】
本発明の表面親水化剤を基材に塗布する方法としては、例えば、フローコート法、スプレーコート法、浸漬法、刷毛塗法、ロールコート法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0055】
本発明の表面親水化剤を基材に塗布する際の雰囲気は、大気であればよく、また塗布する際の温度は、通常、常温であってもよく、加温であってもよい。本発明の表面親水化剤を基材に塗布する際の本発明の表面親水化剤の塗布量は、基材の用途などによって異なるので一概には決定することができないため、その用途などに応じて適宜調整することが好ましい。本発明の表面親水化剤を基材に塗布した後は、生産効率を高める観点から、基材を加熱することが好ましい。基材を加熱する際の加熱温度は、その基材の耐熱温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、50〜150℃の範囲内で、その基材に適した温度を選択することが好ましい。
【0056】
なお、本発明の表面親水化基材は、モノマー成分を基材表面上に塗布し、光を照射したり、加熱したりすることにより、モノマー成分を重合させ、被膜を形成させることによって製造することもできる。
【0057】
本発明の表面親水化基材の表面上に形成される被膜の厚さ(乾燥後の厚さ)は、当該表面親水化基材の種類や用途などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、10nm〜10μm程度であることが好ましい。
【0058】
以上のようにして、本発明の表面親水化剤からなる被膜を基材の表面上に形成させることにより、本発明の表面親水化基材が得られる。
【0059】
本発明の表面親水化基材は、その表面上に本発明の表面親水化剤に含まれている(メタ)アクリル系ポリマーが固定化されているので、当該(メタ)アクリル系ポリマーが有する親水性を基材に付与することができ、従来の界面活性剤を用いたときのように水分が付着したときに流失することを防止することができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
実施例1
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン一水和物〔大阪有機化学工業(株)、商品名:GLBT〕25.0g、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503〕30.6gおよびエチルアルコール500.3gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0062】
次に、アゾビスイソブチロニトリル2.8gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は39000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0063】
実施例2
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン一水和物〔大阪有機化学工業(株)、商品名:GLBT〕25.0g、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503〕11.4gおよびエチルアルコール327.7gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0064】
次に、アゾビスイソブチロニトリル1.8gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は10000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0065】
実施例3
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン一水和物〔大阪有機化学工業(株)、商品名:GLBT〕30.0g、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503〕3.6gおよびエチルアルコール302.0gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0066】
次に、アゾビスイソブチロニトリル1.7gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は10000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0067】
実施例4
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン一水和物〔大阪有機化学工業(株)、商品名:GLBT〕25.0g、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503〕4.4g、ブチルメタクリレート7.6gおよびエチルアルコール333.5gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0068】
次に、アゾビスイソブチロニトリル1.9gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は24000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0069】
実施例5
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン一水和物〔大阪有機化学工業(株)、商品名:GLBT〕25.0g、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503〕4.4g、スチレン5.6gおよびエチルアルコール315.2gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0070】
次に、アゾビスイソブチロニトリル1.8gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は26000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0071】
実施例6
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン一水和物〔大阪有機化学工業(株)、商品名:GLBT〕25.0g、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503〕4.4g、tert−ブチルメタクリルアミド7.6gおよびエチルアルコール333.0gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0072】
次に、アゾビスイソブチロニトリル1.9gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は22000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0073】
実施例7
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン一水和物〔大阪有機化学工業(株)、商品名:GLBT〕25.0g、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−502〕30.6gおよびエチルアルコール500.3gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0074】
次に、アゾビスイソブチロニトリル2.8gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は34000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0075】
実施例8
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、N−メタクリロイルアミノエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン一水和物〔大阪有機化学工業(株)製〕25.0g、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503〕30.6gおよびエチルアルコール500.3gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0076】
次に、アゾビスイソブチロニトリル2.8gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は35000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0077】
比較例1
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン一水和物〔大阪有機化学工業(株)、商品名:GLBT〕21.5g、ブチルメタクリレート28.5gおよびエチルアルコール450.0gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0078】
次に、アゾビスイソブチロニトリル2.5gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は32000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0079】
比較例2
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、N,N−ジメチルアンモニウムメタクリレートのメチルクロライド塩21.5g、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503〕28.5gおよびエチルアルコール450.0gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0080】
次に、アゾビスイソブチロニトリル2.5gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は29000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0081】
比較例3
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、メタクリル酸21.5g、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503〕28.5gおよびエチルアルコール450.0gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0082】
次に、アゾビスイソブチロニトリル2.5gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は22000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0083】
比較例4
窒素ガス導入管、コンデンサーおよび撹拌機を備えた1L容のコルベンに、ブチルメタクリレート21.5g、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503〕28.5gおよびエチルアルコール450.0gを添加した。コルベン内を減圧することによって脱気した後、窒素ガスをコルベン内に導入して常圧に戻した。
【0084】
次に、アゾビスイソブチロニトリル2.5gをコルベン内に添加し、コルベンの内容物の温度を70℃に保持しながら8時間熟成させた後、水浴にて30℃に冷却することにより、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計〔(株)相互理化学硝子製作所製、品番:U−0327−26〕にて25℃で測定することにより、粘度平均分子量を求めたところ、その粘度平均分子量は36000であった。この(メタ)アクリル系ポリマー溶液を表面親水化剤として用いた。
【0085】
実験例
各実施例または各比較例で得られた表面親水化剤をガラスプレート(縦:100mm、横:100mm、厚さ:1mm)上にフローコートし、余剰の表面親水化剤をエチルアルコールで洗浄することによって除去した後、このガラスプレートを温風乾燥機内に入れ、120℃の温度で30分間温風乾燥を行なうことにより、表面親水化基材を得た。
【0086】
次に、前記で得られた表面親水化基材の物性として、水に対する接触角、耐摩擦性、耐水性、耐溶剤性および皮膜の厚さを以下の方法に基づいて評価した。その結果を表1に示す。
【0087】
〔水に対する接触角〕
表面親水化基材に水滴を滴下し、接触角計〔エルマ(株)製〕を用いて水に対する接触角を25℃で測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:水に対する接触角が10度未満
×:水に対する接触角が10度以上
【0088】
〔耐摩擦性〕
ワイピングクロス〔日本製紙クレシア(株)製、商品名:キムワイプS−200〕を表面親水化基材に荷重100gで3000回擦った後、その表面に水滴を滴下し、水に対する接触角を25℃の雰囲気中で測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:水に対する接触角が10度未満
×:水に対する接触角が10度以上
【0089】
〔耐水性〕
80℃に加温しておいた熱水中に、表面親水化基材を5時間浸漬した後、この熱水から表面親水化基材を取り出し、表面親水化基材上の表面親水化剤に含まれている(メタ)アクリル系ポリマーが熱水中に溶出しているかどうかを水に対する接触角を測定することによって調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:耐水性試験後の水に対する接触角が10度未満
×:耐水性試験後の水に対する接触角が10度以上
【0090】
〔耐溶剤性〕
40度に加温しておいたアセトン中に、表面親水化基材を1時間浸漬することによって耐溶剤性試験を行なった後、このアセトン中から表面親水化基材を取り出し、表面親水化基材上の表面親水化剤に含まれている(メタ)アクリル系ポリマーがアセトン中に溶出しているかどうかを水に対する接触角を測定することによって調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:耐溶剤試験後の水に対する接触角が10度未満
×:耐溶剤試験後の水に対する接触角が10度以上
【0091】
〔皮膜の厚さ〕
表面親水化基材に形成されている表面親水化剤からなる皮膜の厚さを、触針式段差計〔ケーエルエー・テンコール(株)製、品番:P−10〕を用いて測定した。
【0092】
【表1】

【0093】
表1に示された結果から、各実施例で得られた表面親水化剤によれば、基材に親水性を付与することができることがわかる。また、各実施例で得られた表面親水化剤は、比較例1〜4と対比して明らかなように、耐摩擦性、耐水性および耐溶剤性に優れた親水性被膜を基材に付与することができることから、水と接触した場合であっても基材から離脱しがたい親水性の被膜を形成させることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の表面親水化剤は、ガラス、金属、有機物などの種々の材質からなる基材に塗布することにより、その基材表面に親水性を付与することができることから、先端医療器具、人工臓器などに用いられているシリコーン樹脂表面の親水化技術や、タンパク質、細胞などの付着防止技術に適用することが期待されるものである。さらに、本発明の表面親水化剤は、食品の包装材料に塗布した場合、その表面に細菌やバクテリアなどが付着しがたくなるため、食品衛生の向上にも期待される。
【0095】
また、本発明の表面親水化剤は、自動車のガラス、鏡などの表面を容易に親水化させることができるので、鏡、太陽電池パネルのガラス面、住宅の窓ガラスなどに防曇性や自己クリーニング機能などを付与したり、液晶ディスプレイなどの帯電防止によるチリやホコリなどの付着防止などにも有用である。
【0096】
さらに、本発明の表面親水化剤は、船底の表面に塗布したとき、当該船底に親水性が付与されることから、船の燃費削減に貢献することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜6のアルキレン基、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R3、R4およびR5のうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基、Xは酸素原子または−NH−基を示す)
で表わされるケイ素原子含有モノマーと式(II):
【化2】

(式中、R1、R2およびXは前記と同じ。R6およびR7はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基、R8は炭素数1〜4のアルキレン基を示す)
で表わされる窒素原子含有モノマーを含有するモノマー成分を重合させてなる(メタ)アクリル系ポリマーを含有することを特徴とする表面親水化剤。
【請求項2】
式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーと式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーとの重量比(ケイ素原子含有モノマー/窒素原子含有モノマー)が、3/97〜95/5である請求項1に記載の表面親水化剤。
【請求項3】
モノマー成分が、さらに式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーおよび式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーと共重合可能なモノマーを含有する請求項1または2に記載の表面親水化剤。
【請求項4】
式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーおよび式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーと共重合可能なモノマーが、スチレン系モノマー、カルボン酸エステル系モノマーおよびアミド系モノマーからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項3に記載の表面親水化剤。
【請求項5】
式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーおよび式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーと共重合可能なモノマーの量が、式(I)で表わされるケイ素原子含有モノマーと式(II)で表わされる窒素原子含有モノマーとの合計量100重量部あたり0〜100重量部である請求項3または4に記載の表面親水化剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の表面親水化剤からなる被膜が基材表面上に形成されてなる表面親水化基材。

【公開番号】特開2012−7053(P2012−7053A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143219(P2010−143219)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】