説明

表面調整用組成物及び表面調整方法

【課題】リン酸チタン化合物が分散液中で安定に存在して長期間分散液で保存でき、浴中の安定性も良好であるうえ、高張力鋼板等の難化成性金属材料に適用した場合においても充分な皮膜量の化成皮膜を形成できる表面調整用組成物を提供する。
【解決手段】リン酸チタン化合物を含有し、特定のpHを有する表面調整用組成物において、特定の構造を有するアミン化合物、芳香族有機酸、フェノール化合物、フェノール樹脂等を配合することにより、分散性が良好であり、且つ、充分な皮膜量の化成皮膜を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面調整用組成物及び表面調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体、家電製品等は、鋼板、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム系金属材料等の金属材料からなり、通常、前処理としての化成処理工程を経た後に、塗装等の処理が行われる。化成処理としては、リン酸塩処理が一般に行われている。リン酸塩化成処理においては、微細で緻密なリン酸塩の結晶を金属材料表面に析出させるために、前工程として表面調整処理を行うのが一般的である。
【0003】
このような表面調整処理において使用する表面調整用組成物としては、ジャーンステッド塩と呼ばれるリン酸チタン化合物を含有した処理液が知られている。しかしながら、リン酸チタン粒子は、液中での安定性が充分ではないという欠点を有する。
【0004】
このため、濃厚液の状態で長期間保存することが困難であり、粉末状態で保存して使用時に溶液に分散させることによって浴を調製していた。しかしながら、工程簡略化のために、液体状態で長期保存が可能であるようなリン酸チタン系の表面調整剤が求められていた。加えて、浴の長期安定性も求められていた。
【0005】
また、このように不安定であるが故、水道水中のマグネシウムイオンやカルシウムイオン等の金属イオンが浴中に混入した場合の影響が大きく、リン酸チタン化合物の沈降が生じる。このため、表面調整浴を順次更新する必要がある。
【0006】
さらには、表面調整剤としての機能そのものも充分であるとは言えなかった。金属基材には、化成処理反応を容易に生じる基材もあれば、反応を生じにくい基材もあり、例えば、アルミニウム系金属材料及び高張力鋼板等の難化成性金属材料は、一般にリン酸塩処理反応が進行しにくく、充分な皮膜量の化成皮膜を形成することが困難であるとされている。これらの基材を従来のジャーンステッド塩を主体とする処理液で処理しても、化成処理反応を進行させることは困難である。従って、これらの難化成性金属材料にも対応できる機能を有する表面調整剤が求められている。特に、多くの種類の金属基材に対応できるような表面調整剤を得ることができれば、多種の金属を同時に化成処理できることから、多くの金属種からなる被処理物の化成処理を行うことができるようになる。
【0007】
また、鉄系基材や亜鉛系基材のように、ジャーンステッド塩によって処理を行うことができる基材であっても、表面調整剤の機能を向上させることによって、性能の更なる向上が望まれる。
【0008】
例えば、特許文献1には、ジャーンステッド塩、特定のホスホン酸塩、及び、特定の多糖類樹脂を含有する処理液が開示されている。しかしながら、この処理液によっても、安定化の効果は充分ではなく、濃厚液の状態では充分な安定性を有するものではない。むしろ、表面調整としての機能は低下する。
【0009】
また、特許文献2には、リン酸チタン及び1種以上の銅化合物を含有し、更にリン酸、ホスホン酸を含有する金属表面活性化剤が開示されている。しかしながら、濃厚溶液での安定性に関する検討はなされていないうえ、表面調整としての機能の向上に関しても検討されてはいない。
【特許文献1】特開平5−247664号公報
【特許文献2】特開平4−254589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、リン酸チタン化合物が分散液中で安定に存在して長期間分散液で保存でき、浴中の安定性も良好であるうえ、高張力鋼板等の難化成性金属材料に適用した場合においても充分な皮膜量の化成皮膜を形成できる表面調整用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定のpHを有する表面調整用組成物において、特定の構造を有するアミン化合物、芳香族有機酸、フェノール化合物、フェノール樹脂等を配合することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0012】
(1) リン酸チタン化合物を含有するpH3以上12以下の表面調整用組成物であって、前記表面調整用組成物は、更に、下記一般式(1)で表されるアミン化合物を含有する表面調整用組成物。
【化1】

[式(1)中、R、R、及び、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基、又は、極性基を骨格中に有する炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。ただし、R、R、及び、Rが全て水素原子であることはない。]
【0013】
(2) 前記表面調整用組成物は、更に、芳香族有機酸、フェノール化合物、及び、フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含有する(1)記載の表面調整用組成物。
【0014】
(3) 前記極性基は、水酸基である(1)又は(2)記載の表面調整用組成物。
【0015】
(4) リン酸チタン化合物を含有するpH3以上12以下の表面調整用組成物であって、前記表面調整用組成物は、更に、芳香族有機酸、フェノール化合物、及び、フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含有する表面調整用組成物。
【0016】
(5) 前記表面調整用組成物は、更に、水分散性樹脂粒子、粘土化合物、酸化物微粒子、及び、水溶性増粘剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する(1)から(4)いずれか記載の表面調整用組成物。
【0017】
(6) 前記表面調整用組成物は、更に、水溶性カルボキシル基含有樹脂、糖類、及び、ホスホン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する(1)から(5)いずれか記載の表面調整用組成物。
【0018】
(7) 前記表面調整用組成物は、更に、キレート剤及び/又は界面活性剤を含有する(1)から(6)いずれか記載の表面調整用組成物。
【0019】
(8) 前記表面調整用組成物は、更に、Zr錯イオン及び/又は酸化型金属イオンを含有する(1)から(7)いずれか記載の表面調整用組成物。
【0020】
(9) (1)から(8)いずれか記載の表面調整用組成物を金属材料表面に接触させる工程を含む表面調整方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の表面調整用組成物は、上記構成からなるものであるため分散安定性に優れ、液体状態で長期間、保存できるうえ、浴安定性にも優れる。また、表面調整効果も改善されており、種々の金属材料に適用しても良好な化成皮膜を形成できる。特に、難化成性の金属素材であるアルミニウムや高張力鋼板に適用した場合であっても、緻密な化成皮膜を形成できる。従って、本発明の表面調整用組成物は、自動車車体や家電製品等に使用される各種材料に対して、好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
リン酸チタン化合物は極めて微細な粒子であり、リン酸塩処理前の表面調整剤として使用した場合には、多くの活性点を高密度で金属表面に形成し、高機能の表面調整剤として機能することが期待される。しかしながら、上述したように、リン酸チタン化合物を含有する表面調整剤は、種々の欠点を有する。
【0024】
本発明を完成するにあたって、本発明者らはリン酸チタン化合物を使用した表面調整剤において、上記欠点が生じる原因を検討した。その結果、リン酸チタン化合物の凝集がその主要な原因であるとの推論に達した。即ち、溶液中でリン酸チタン化合物が凝集して経時的に粒子径が大きくなる結果、沈降が生じて有効成分量が減少し、ひいては表面調整剤としての機能が著しく低下するのである。
【0025】
また、リン酸チタン化合物は、溶液中に存在している場合のみならず、被処理物表面に付着する際にも基材表面で凝集する。このため、付着粒子数に比して反応の活性点となり得る部分の数が減少し、このことも化成処理性能が低下する原因であると推測される。
【0026】
例えば、アルミニウム系基材においては、通常の状態では表面に金属化合物皮膜が形成されている。具体的には、一般式Al(OH)xで表される化合物の皮膜である。このため、リン酸チタン化合物を含有する表面調整剤によって処理を行うと、表面調整剤中のリン酸類によって、リン酸アルミニウムによる皮膜が表面に形成されると推測される。これらの皮膜によって、リン酸塩による化成処理反応の活性が低下し、化成皮膜が形成されにくくなるものと思われる。
【0027】
このような不具合を改善するために、分散剤を使用してリン酸チタン化合物の分散性を改善することが考えられている。分散剤によって無機粒子の分散安定性を改善することは、様々な技術分野において行われており、特に、リン酸化合物、糖類、親水性官能基を有する樹脂等がしばしば使用される。しかしながら、これらの成分を使用しても、安定性改善の効果は充分なものではなく、上記不具合を完全に改善することはできなかった。
【0028】
そこで、本発明者らは、上記観点に基づいて種々の化合物の検討を行い、リン酸チタン化合物の分散性改善に特に優れた効果を発揮する化合物を見出し、本発明を完成したものである。
【0029】
<第一実施形態>
第一実施形態に係る表面調整用組成物は、リン酸チタン化合物を含有するpH3以上12以下の表面調整用組成物であって、更に、下記一般式(1)で表されるアミン化合物(a)を含有する表面調整用組成物である。
【化2】

[式(1)中、R、R、及び、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基、又は、極性基を骨格中に有する炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。ただし、R、R、及び、Rが全て水素原子であることはない。]
【0030】
この表面調整用組成物によれば、リン酸チタン化合物の水中での安定性は従来に比して格段に向上する。このため、リン酸チタン化合物を安定的に調製でき、且つ、基材表面に密に付着させることができる。
【0031】
上記アミン化合物(a)は、リン酸チタン化合物の分散安定性を向上させる上で良好な性質を有する。上記アミン化合物(a)が分散剤としての良好な性質を有する作用は明らかではないが、その化学構造によるものと推測される。即ち、上記アミン化合物(a)は、孤立電子対を有する窒素原子を有するうえ低分子量であることから、リン酸チタン化合物粒子の表面に窒素原子が配位し、分散安定性が向上するものと推測される。また、上記アミン化合物(a)が、極性基を骨格中に更に有する場合には、分散安定性はより向上する。
【0032】
第一実施形態に係る表面調整用組成物は、リン酸チタン化合物が高い安定性を有することから、濃厚液の状態においても長期間保存することができるという利点を有する。さらに、表面調整処理浴の状態における安定性も良好である。また、化成反応における化成性を良好なものとする効果に優れ、高張力鋼板等の難化成性金属材料に適用した場合においても、充分な皮膜量の化成皮膜を形成できる。
【0033】
[アミン化合物(a)]
上記アミン化合物(a)は、上記一般式(1)で表される化合物であれば特に限定されない。一般式(1)中における極性基としては、特に限定されず、例えば、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基等が挙げられる。これらのうち、水酸基が特に好ましい。
【0034】
アミン化合物(a)の具体例としては、トリエチルアミン、エチレンジアミン、2エチルジアミン、トリnブチルアミン、nプロピルアミン、トリエチレンテトラミン、ヒドラジン、タウリン、アジピン酸ジヒドラジド等の他、NTA(Nitrilo Triacetic Acid)、DTPA(Diethylene Triamine Pentaacetic Acid)、EDTA(Ethylene Diamine Tetraacetic Acid)、HIDA(Hydroxyethyl Imino Diacetic Acid)、DHEG(Dihydrixyethyl Glycine)等のアミノカルボン酸が挙げられる。
【0035】
また、特に好ましく用いられる水酸基を有するアミン化合物としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン等の脂肪族ヒドロキシアミン化合物、アミン変性レゾール、アミン変性ノボラック等の芳香族アミン化合物等が挙げられる。これらのアミン化合物は単独又は二種以上を組み合せて使用してもよい。これらのうち、上記リン酸チタン化合物への吸着性に優れ、二次凝集しにくく、液中での分散安定性に優れる点で、脂肪族ヒドロキシアミン化合物が好ましく、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンが更に好ましい。
【0036】
上記アミン化合物(a)の含有量としては、金属材料表面処理時の上記リン酸チタン化合物(固形分)の質量に対して、下限0.01質量%、上限1000質量%であることが好ましい。0.01質量%未満であると、上記リン酸チタン化合物への吸着量が不充分であるため、上記リン酸チタン化合物の金属材料への吸着効果が期待できず、表面調整効果が得られないおそれがある。1000質量%を超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記下限は、0.1質量%であることがより好ましく、上記上限は、100質量%であることがより好ましい。
【0037】
また、上記アミン化合物(a)の添加量は、濃厚液中、下限0.1質量%、上限50質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、分散安定性を充分に改善できないおそれがある。50質量%を超えると、過剰な添加剤の影響により分散性が悪くなるおそれがあり、また、分散が充分であったとしても、経済的には有利ではない。上記下限は、0.5質量%であることがより好ましく、上記上限は、20質量%であることがより好ましい。
【0038】
上記アミン化合物(a)の含有量は、表面調整処理浴中で、下限1ppm、上限10000ppmであることが好ましい。1ppm未満であると、上記リン酸チタン化合物への吸着量が不充分となり、二次凝集しやすくなるおそれがある。10000ppmを超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記下限は、10ppmであることがより好ましく、上記上限は、5000ppmであることがより好ましい。
【0039】
<第二実施形態>
第二実施形態に係る表面調整用組成物は、リン酸チタン化合物を含有するpH3以上12以下の表面調整用組成物であって、更に、芳香族有機酸、フェノール化合物、及び、フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(b)を含有する表面調整用組成物である。
【0040】
上記化合物(b)は、上記アミン化合物(a)と同様に、リン酸チタン化合物を安定化する作用を有する。また、アルミニウム系基材の化成処理における表面調整剤として、特に優れた性質を有する。具体的には、従来のリン酸チタン化合物を含有する表面調整剤は、アルミニウム系基材の処理に際しては、効果が不充分であったところ、本実施形態に係る表面調整剤によれば、良好な化成皮膜を形成できる。
【0041】
これは、次のような理由による。通常のアルミニウム系基材の表面には、一般式Al(OH)xで表される化合物からなる不動態皮膜が形成されており、リン酸チタン化合物を含有する表面調整組成物によって処理を行うと、リン酸アルミニウムによる皮膜が表面に形成される。このリン酸アルミニウムによる皮膜は、リン酸チタン化合物中に含まれるリン酸が基材表面と反応することによって形成されるものである。そして、このリン酸アルミニウムによる皮膜が表面に形成されたアルミニウム系基材は、表面調整の機能が著しく低下する傾向にある。これらの水酸化アルミニウム層、リン酸アルミニウム層が反応を妨げるためであると推測される。
【0042】
これに対して、上記化合物(b)は、アルミニウム金属との親和性が高い化合物であることから、これらの化合物を使用することによって、リン酸チタン化合物を基材表面に安定して付着させることができ、表面調整としての機能が向上すると推測される。さらに上記化合物(b)は、水道水中のカチオン成分をキレートする機能を有するため、処理浴の経時安定性が維持される。
【0043】
[化合物(b)]
上記芳香族有機酸としては、特に限定されないが、安息香酸、サリチル酸、没食子酸、リグニンスルホン酸、タンニン酸が好ましく用いられる。これらのうち、没食子酸、リグニンスルホン酸、タンニン酸が特に好ましく用いられる。
【0044】
上記フェノール化合物としては、フェノール系水酸基を有する化合物であり、特に限定されない。例えば、フェノール、カテコール、ピロガロール、カテキンが好ましく用いられ、これらのうち、カテキンが特に好ましく用いられる。
【0045】
上記フェノール樹脂としては、上記芳香族有機酸及び/又は上記フェノール化合物を基本骨格とするポリマー(例えば、フラボノイド、タンニン、カテキン等を包含するポリフェノール化合物、ポリビニルフェノールや水溶性レゾール、ノボラック樹脂等)、リグニン等が挙げられる。
【0046】
上記フラボノイドは、特に限定されず、例えばフラボン、イソフラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノール、アントシアニジン、オーロン、カルコン、エピガロカテキンガレード、ガロカテキン、テアフラビン、ダイズイン、ゲニスチン、ルチン、ミリシトリン等が挙げられる。
【0047】
上記タンニンは、広く植物界に分布する多数のフェノール性水酸基を有する複雑な構造の芳香族化合物の総称である。上記タンニンは、加水分解型タンニンでも縮合型タンニンでもよい。上記タンニンとしては、ハマメリタンニン、カキタンニン、チャタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランタンニン、ジビジビタンニン、アルガロビラタンニン、バロニアタンニン、カテキンタンニン等が挙げられる。上記タンニンは、植物中に存在するタンニンを加水分解等の方法によって分解した加水分解型タンニンであってもよい。また、上記タンニンとして、市販のもの、例えば「タンニン酸エキスA」、「Bタンニン酸」、「Nタンニン酸」、「工業用タンニン酸」、「精製タンニン酸」、「Hiタンニン酸」、「Fタンニン酸」、「局タンニン酸」(いずれも大日本製薬社製)、「タンニン酸:AL」(富士化学工業製)等を使用することもできる。上記タンニンの2種類以上を同時に使用するものであってもよい。なお、上記リグニンは、プロピル基の結合したフェノール誘導体を基本単位とする網状高分子化合物である。
【0048】
上記化合物(b)の含有量は、金属材料表面処理時の上記リン酸チタン化合物(固形分)の質量に対して、下限0.01質量%、上限1000質量%であることが好ましい。0.01質量%未満であると、上記リン酸チタン化合物への吸着量が不充分であるため、分散時の粉砕効果や上記リン酸チタン化合物の金属材料への吸着効果が期待できず、表面調整効果が得られないおそれがある。1000質量%を超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記下限は、0.1質量%であることがより好ましく、上記上限は、100質量%であることがより好ましい。
【0049】
また、上記化合物(b)の添加量は、濃厚液中、下限0.1質量%、上限50質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、充分に分散できないおそれがある。50質量%を超えると、過剰な添加剤の影響により分散性が悪くなるおそれがあり、また、分散が充分であったとしても、経済的には有利ではない。上記下限は、0.5質量%であることがより好ましく、上記上限は、20質量%であることがより好ましい。
【0050】
上記化合物(b)の含有量は、表面調整処理浴中で、下限1ppm、上限10000ppmであることが好ましい。1ppm未満であると、上記リン酸チタン化合物への吸着量が不充分となり、二次凝集しやすくなるおそれがある。10000ppmを超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記下限は、10ppmであることがより好ましく、上記上限は、5000ppmであることがより好ましい。
【0051】
<第三実施形態>
第三実施形態に係る表面調整用組成物は、リン酸チタン化合物を含有するpH3以上12以下の表面調整用組成物であって、更に、上記一般式(1)で表されるアミン化合物(a)と、芳香族有機酸、フェノール化合物、及び、フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(b)と、を含有する表面調整用組成物である。
【0052】
第三実施形態に係る表面調整用組成物は、上記アミン化合物(a)及び化合物(b)を併用するものであり、これにより、各種金属材料の表面により緻密な化成皮膜の結晶を形成できる。特に、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板に対しては金属材料全面に均一に細かく被覆することができる点で好ましい。
【0053】
[リン酸チタン化合物]
上記第一、第二、第三実施形態に係る表面調整用組成物はいずれも、リン酸チタン化合物を含有する。上記リン酸チタン化合物は、表面調整機能を得るための結晶核となるものであり、これらの粒子が金属材料表面に付着等することによって、化成処理反応が促進されるのである。
【0054】
上記リン酸チタン化合物としては、特に限定されず、リン酸チタン、リン酸水素チタン等が用いられる。また、いわゆるジャーンステッド塩として表面調整剤において一般的に使用されるものを用いることもできる。上記リン酸チタン化合物の製造方法としては特に限定されず、例えば、密閉容器中で水中に硫酸チタニル及び第二リン酸ナトリウムを添加し、加熱、ろ過、粉砕することにより、リン酸チタン化合物の粉末状の沈殿を得ることができる。
【0055】
上記リン酸チタン化合物は、平均粒径(D50)が3μm以下であることが好ましく、これにより、緻密な化成皮膜を形成できる。リン酸チタン化合物の粒子径が更に大きい場合には、表面調整処理浴中でのリン酸チタン化合物の安定性が不充分であり、リン酸チタン化合物が沈降するおそれがある。D50が3μm以下のリン酸チタン化合物を含む表面調整用組成物は、リン酸チタン化合物の表面調整処理浴中での安定性に優れるため、表面調整処理浴中でのリン酸チタン化合物の沈降を抑制でき、緻密な化成皮膜を形成できる。
【0056】
上記リン酸チタン化合物のD50は、下限0.001μmであることがより好ましい。0.001μm未満では生産効率が悪く、不経済となるおそれがある。上記D50は、0.01μm以上であることが更に好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。1μmを超えると、表面調整の効果が得られず、化成処理反応が進行しにくくなるおそれがある。
【0057】
上記D50は、体積50%径とも呼ばれ、水性分散液中での粒度分布に基づき、粒子の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径である。上記D50は、例えば、電気泳動光散乱光度計(「Photal ELS−800」、商品名、大塚電子社製)等の粒度測定装置を用いて測定できる。なお、本明細書において、平均粒径と記載した場合には、D50を示すものである。
【0058】
上記表面調整用組成物において、上記原料のリン酸チタン化合物の配合量は、水性分散液中、通常、下限0.5質量%、上限50質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、リン酸チタン化合物の含有量が少なすぎるため、分散液を用いて得られる表面調整用組成物の効果が充分に得られないおそれがある。一方、50質量%を超えると、固化してしまう可能性がある。
【0059】
上記表面調整用組成物は、リン酸チタン化合物の配合量が5質量%〜40質量%という濃厚領域でも安定性を有するため、液体で長期間保存できるという優れた効果を有する。
【0060】
上記リン酸チタン化合物の含有量は、表面調整処理浴中で、10ppm以上10000ppm以下であることが好ましい。10ppm未満であると、結晶核となるリン酸チタン化合物が不足し、充分な表面調整効果が得られないおそれがある。10000ppmを超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記リン酸チタン化合物の含有量は、100ppm以上5000ppm以下であることがより好ましい。
【0061】
上記表面調整用組成物は、pHの下限が3、上限が12である。pHが3未満であると、上記リン酸チタン化合物が溶解しやすくなり、不安定となり、次工程に影響を与える。pHが12を超えると、次工程の化成浴のpH上昇を招くことになり、化成不良の影響が生じる。上記下限は、6であることが好ましく、上記上限は、11であることが好ましい。
【0062】
[化合物(c)]
上記表面調整用組成物は、水分散性樹脂粒子、粘土化合物、酸化物微粒子、及び、水溶性増粘剤からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(c)を更に含有することが好ましい。
【0063】
上記化合物(c)は、本発明の表面調整用組成物中に添加されることにより、化成性を大きく向上させる。また、リン酸チタン化合物と吸着等の相互作用をすることにより安定化に寄与し、水性分散液(表面調整に使用前の濃厚液)の状態での長期間貯蔵安定性や表面調整処理浴の安定性、水道水に由来するカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の硬度成分に対する安定性に寄与するものと推測される。
【0064】
また、上記化合物(c)は、リン酸チタン化合物と相互作用するため、上記化合物(c)を使用しない場合と比べて、上記化合物(c)に起因すると推測される浮き輪効果等により、リン酸チタン化合物が沈降しにくくなるものと推測される。よって、上記化合物(c)を更に含有することにより、各種金属材料の表面上により緻密な化成皮膜の結晶を形成することができ、特に、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板に対しては、金属材料全面に均一に細かく被覆することができる点で好ましい。
【0065】
上記水分散性樹脂粒子は、水に不溶であり、且つ、水中で沈降しない樹脂粒子であれば特に限定されず、水系溶媒中に均一分散した樹脂粒子である。具体的には、乳化重合によって得られた樹脂粒子エマルション、懸濁重合又は非水分散重合等によって得られた樹脂粒子等が挙げられる。上記水分散性樹脂粒子は、内部架橋構造を有するものであっても、有さないものであってもよい。
【0066】
上記水分散性樹脂粒子は、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、ホスホン基、ポリアルキレンオキサイド基、アミノ基、アミド基等の親水性官能基を有する樹脂からなるものであることが好ましい。上記親水性官能基を有する水分散性樹脂粒子は、水分散性樹脂粒子表面に親水性官能基及び親水性官能基を有する樹脂溶解鎖が樹脂粒子近傍に局在化する傾向にあるため、親水性官能基及び樹脂溶解鎖とリン酸チタン化合物とが相互作用し、水系溶媒中でのリン酸チタン化合物の安定化に寄与するものと推測される。また、金属材料とリン酸チタン化合物間の相互作用も生じさせ、これによって化成性が良好なものとなると推測される。また、親水性官能基は表面に配向されやすいため、電気二重層を形成し、構造反発による粒子の安定化が図られると推測される。さらに濃厚な原液では、リン酸チタン化合物が微粒子であることでチキソトロピー効果も安定化に寄与する。
【0067】
上記水分散性樹脂粒子は、樹脂の種類は特に限定されず、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂等の公知の樹脂粒子を使用することができる。これらのうち、アクリル樹脂及び/又はスチレン樹脂であることが好ましい。アクリル樹脂及び/又はスチレン樹脂からなる水分散性樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及びスチレン等のような1分子中にエチレン性不飽和結合を1つ有するエチレン性不飽和単量体組成物の重合によって得ることができる。
【0068】
上記エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルとεカプロラクトンとの反応物、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のエチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体;等のアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシブチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド及びその誘導体;(メタ)アクリロニトリル、α−クロル(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系単量体等が挙げられる。上記エチレン性不飽和二重結合を有する単量体としては、上記単量体を単独で使用するものであっても、2以上の成分を併用して使用するものであってもよい。
【0069】
また、1分子中に2以上のエチレン性不飽和結合を有する単量体を使用して、内部架橋型の水分散性樹脂粒子としてもよい。上記1分子中に2以上のエチレン性不飽和結合を有する単量体としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールアリロキシジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート等の多価アルコールの不飽和モノカルボン酸エステル;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート等の多塩基酸の不飽和アルコールエステル;ジビニルベンゼン等の2個以上のビニル基で置換された芳香族単量体等が挙げられる。
【0070】
上記水分散性樹脂粒子は、エチレン性不飽和単量体組成物をラジカル重合して得られた設計親水性官能基価が1〜200であるアクリル樹脂粒子及び/又はスチレン樹脂粒子であることが好ましい。上記水分散性樹脂粒子を使用することによって、特に、リン酸チタン化合物の分散安定性を向上させる効果が良好なものとなる。
【0071】
なお、上記設計親水性官能基価は、単量体組成物1g中のカルボキシル基、水酸基、スルホン基、ホスホン基、ポリアルキレンオキサイド基、アミノ基、アミド等の親水性官能基のモル数に水酸化カリウムの分子量(分子量56.10)を乗じて計算される計算値(mg)を表す。例えば、1分子中に1つのカルボキシル基を有する単量体であるメタクリル酸(分子量86)3質量部及び親水性官能基を有さない単量体であるメチルメタクリレート(分子量100)97質量部をラジカル重合して得られる樹脂粒子の設計親水性官能基価は、先ず、単量体組成物1g中の親水性官能基(ここではメタクリル酸中のカルボキシル基)のモル数を算出する(本例の場合、0.00035モルと算出される)。次いで、水酸化カリウムの分子量を上記値に乗じて算出される(本例の場合、設計親水性官能基価は約20と算出される)。1分子中にカルボキシル基以外の親水性官能基を有する単量体の場合も上記と同様に設計親水性官能基価を算出することができる。上記設計親水性官能基価が1未満となると本発明の効果が得られなくなるおそれがある。また上記設計親水性官能基価が200を超えると、親水性樹脂粒子を工業的に得ることは困難である。
【0072】
上記水分散性樹脂粒子は、D50が3μm未満のものであることが好ましく、下限0.01μm、上限1μmであることが更に好ましい。0.01μm未満であると、性能上問題ないが、工業的に製造するのが困難となる。1μmを超えると、リン酸チタン化合物と吸着せずに沈降し易くなり、リン酸チタン化合物の安定性を低下させるおそれがある。
【0073】
上記粘土化合物としては特に限定されず、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト族;カオリナイト、ハロサイト等のカオリナイト族;ジオクタヘドラルバーミキュライト、トリオクタヘドラルバーミキュライト等のバーミキュライト族;テニオライト、テトラシリシックマイカ、マスコバイト、イライト、セリサイト、フロゴパイト、バイオタイト等のマイカ等;ハイドロタルサイト;パイロフィロライト;カネマイト、マカタイト、アイラアイト、マガディアイト、ケニヤアイト等の層状ポリケイ酸塩等が挙げられる。これらの粘土化合物は、天然鉱物であってもよく、水熱合成、溶融法、固相法等による合成鉱物であってもよい。
【0074】
上記粘土化合物は、更に水分散状態にある平均粒径が0.1μm以下であることが好ましい。水分散状態にある平均粒径が0.1μmを超える粘土化合物を適用すると、分散安定性が低下するおそれがある。また、上記粘土化合物の平均アスペクト比(=最大寸法/最小寸法の平均値)は、10以上がより好ましく、更に好ましくは20以上である。10未満であると、分散安定性が低下するおそれがある。上記水分散状態にある平均粒径は、水分散溶液を凍結乾燥させ、TEMやSEMにより測定できる。また、これら2種以上を同時に使用するものであってもよい。
【0075】
また、上記粘土化合物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理したもの、シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等の表面修飾をしたものも必要に応じて使用できる。これらの粘土化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記サポナイトの市販品としては、例えば、合成サポナイト(「スメクトンSA」、商品名、クニミネ工業社製)等が挙げられる。上記天然ヘクトライトの市販品としては、例えば、「BENTON EW」及び「BENTON AD」(いずれもELEMENTIS社製)等が挙げられる。上記合成ヘクトライトの市販品としては、例えば、ROOKWOOD Additives Ltd.製の商品名で「ラポナイトB、S、RD、RDS、XLG、XLS」等が挙げられる。これらは白色粉末であり、水に加えると容易にゾル(ラポナイトS、RDS、XLS)又はゲル(ラポナイトB、RD、XLG)を形成する。また、他にコープケミカル社の「ルーセンタイトSWN」も挙げられる。これらの天然ヘクトライト、合成ヘクトライトは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
上記酸化物微粒子としては特に限定されず、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、酸化ニオブ粒子等が挙げられる。上記酸化物粒子としては、平均粒子径が1nm以上300nm以下程度のものが好適である。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、チキソトロピー性の観点から、アルミナ粒子、珪酸化合物が好ましく用いられる。
【0077】
上記水溶性増粘剤としては特に限定されず、例えば、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アクリルアマイド等のアマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドのリン酸塩等のポリアマイド系の増粘剤;ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム等の無機顔料;顔料の形状により粘性が発現する偏平顔料等が挙げられる。これらのうち、化成阻害を起こし難いという観点から、アクリルアマイド、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体が好ましく用いられる。
【0078】
上記化合物(c)の含有量は、上記リン酸チタン化合物(固形分)の質量に対して、下限0.01質量%、上限1000質量%であることが好ましい。0.01質量%未満であると、上記リン酸チタン化合物への吸着量が不充分であるため粒子の金属材料への吸着効果が充分でなく、添加効果が期待できないおそれがある。1000質量%を超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記下限は、0.1質量%であることがより好ましく、上記上限は、100質量%であることがより好ましい。
【0079】
上記化合物(c)の添加量は、濃厚液中、下限0.1質量%、上限50質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、充分に分散できないおそれがある。50質量%を超えると、過剰な添加剤の影響により分散性が悪くなるおそれがあり、また、分散が充分であったとしても、経済的には有利ではない。上記下限は、0.5質量%であることがより好ましく、上記上限は、20質量%であることがより好ましい。
【0080】
上記化合物(c)の含有量は、表面調整処理浴中で、下限1ppm、上限1000ppmであることが好ましい。1ppm未満であると、リン酸チタン化合物への吸着量が不充分であるため、リン酸チタン化合物の金属材料表面への吸着等が促進されないおそれがある。1000ppmを超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記下限は、10ppmであることがより好ましく、上記上限は、500ppmであることがより好ましい。
【0081】
上述したような化合物(a)〜(c)の全てを含有することは、リン酸チタン化合物の水溶液中での安定化、粒子の基板吸着及び濃厚液での安定性の観点から好ましい。
【0082】
また、上記表面調整用組成物は、上述した化合物の他に、表面調整用組成物において使用される種々の成分を添加することもできる。
【0083】
[化合物(d)]
上記表面調整用組成物は、更に水溶性カルボキシル基含有樹脂、糖類、及び、ホスホン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(d)を含有するものであってもよい。
【0084】
上記化合物(d)は、溶液中でマイナス帯電する傾向にあり、これがリン酸チタン化合物の表面に付着等することによって、電磁気学的な反発作用が生じる。その結果、リン酸チタン化合物の再凝集が抑制され、結晶核として均一な密度で金属材料表面に付着しやすくなり、化成処理時に充分な皮膜量のリン酸塩皮膜を金属材料表面に形成させるものと推測される。
【0085】
上記化合物(d)は、表面調整用組成物中のリン酸チタン化合物の沈降を抑制するだけでなく、リン酸チタン化合物の水性分散液(表面調整に使用する前の濃厚液)中のリン酸チタン化合物の沈降も抑制し、上記濃厚液の長期間の貯蔵安定性を維持することができる。
【0086】
上記水溶性カルボキシル基含有樹脂としては、水に可溶な樹脂であれば特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の重合によって得られた樹脂等が挙げられる。上記水溶性カルボキシル基含有樹脂は、エチレン性不飽和単量体組成物をラジカル重合して得られた酸価が10〜500である樹脂であることが好ましい。このような樹脂を使用することによって、リン酸チタン化合物の分散安定性をより向上させることができる。上記水溶性カルボキシル基含有樹脂は、市販のものでもよく、例えば、「アロンA12SL」(東亜合成社製)を用いることができる。
【0087】
上記糖類としては、特に限定されず、多糖類、多糖類誘導体、及び、これらのナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。上記多糖類としては、例えば、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヘミセルロース、デンプン、メチルデンプン、エチルデンプン、メチルエチルデンプン、寒天、カラギーナン、アルギン酸、ペクチン酸、グアーガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、コンニャクマンナン、デキストラン、ザンサンガム、プルラン、ゲランガム、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒアルロン酸等が挙げられる。また、上記多糖類誘導体としては、例えば、上記多糖類をカルボキシアルキル化あるいはヒドロキシアルキル化したカルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、デンプングリコール酸、寒天誘導体、カラギーナン誘導体等が挙げられる。
【0088】
上記ホスホン酸化合物としては、ホスホン酸、及び、炭素原子とリン原子が直接結合したもの、また、そのアミン塩又はそのアンモニウム塩であり、リン酸エステルは含まない。
【0089】
上記表面調整用組成物において、上記化合物(d)の含有量は、リン酸チタン化合物(固形分)の質量に対して、0.01質量%以上1000質量%以下であることが好ましい。0.01質量%未満であると、沈降防止効果を充分に得られないおそれがある。1000質量%を超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記濃度は、0.1質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0090】
また、濃厚液中での、上記化合物(d)の含有量は、0.1質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0091】
上記化合物(d)の含有量は、表面調整用処理浴中で、1ppm以上1000ppm以下であることが好ましい。1ppm未満であると、沈降防止効果を充分に得られないおそれがある。1000ppmを超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記濃度は、10ppm以上500ppm以下であることがより好ましい。
【0092】
[化合物(e)]
上記表面調整用組成物は、更に、キレート剤及び/又は界面活性剤である化合物(e)を含むものであってもよい。化合物(e)を含有することにより、より優れた分散安定性を付与できるうえ、分散安定性における性質をも改善できる。即ち、水道水中のマグネシウムイオンやカルシウムイオン等の硬度成分が表面調整用組成物中に混入した場合であっても、リン酸チタン化合物が凝集することがなく、表面調整処理浴の安定性を維持できる。従って、上記キレート剤は、水溶液中においてマグネシウムイオン、カルシウムイオンを捕捉する能力を有する化合物を意味するものである。
【0093】
上記キレート剤としては特に限定されず、例えば、クエン酸、酒石酸、EDTA、グルコン酸、コハク酸、及び、リンゴ酸と、これらの化合物や誘導体が挙げられる。
【0094】
上記キレート剤の含有量は、表面調整用処理浴中で、1ppm以上10000ppm以下であることが好ましい。1ppm未満であると、水道水中の硬度成分を充分キレートできず、硬度成分であるカルシウムイオン等の金属ポリカチオンが、リン酸チタン化合物を凝集させるおそれがある。10000ppmを超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく、また、化成液の有効成分と反応し、化成性を阻害するおそれがある。上記含有量は、10ppm以上1000ppm以下であることがより好ましい。
【0095】
上記界面活性剤としては、より好ましくは、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤が用いられる。
【0096】
上記ノニオン性界面活性剤としては特に限定されないが、親水性脂溶性バランス(HLB)が6以上のノニオン界面活性剤が好ましく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノードアミド、ノニルフェノール、アルキルノニルフェノール、ポリオキシアルキレングリコール、アルキルアミンオキサイド、アセチレンジオール、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル変性シリコーン等のシリコン系界面活性剤、炭化水素系界面活性剤の疎水基にある水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたフッ素系界面活性剤等が挙げられる。これらのうち、本発明の効果がより得られる点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルが特に好ましい。
【0097】
上記アニオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリビスフェノールスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチルアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチルアルキルアリル硫酸エステル塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、メチルタウリン酸塩、ポリアスパラギン酸塩、エーテルカルボン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。これらのうち、本発明の効果がより得られる点から、アルキルエーテルリン酸エステル塩が好ましい。
【0098】
上記界面活性剤の含有量は、表面調整処理浴中で、下限3ppm、上限500ppmであることが好ましい。上記範囲内であると、本発明の効果を良好に得ることができる。上記下限は、5ppmであることがより好ましく、上記上限は、300ppmであることがより好ましい。また、上記界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
[イオン(f)]
表面調整用組成物は、更に、Zr錯イオン及び/又は酸化型金属イオン(f)を含有することが好ましい。上記イオン(f)は、基板表面の偏析物除去の観点から好ましく用いられる。本明細書における酸化型金属イオンとは、価数を複数個有する金属において、価数の高い方の金属イオンをいう。具体的には、Fe、Mn、Co、Ni、Ce等の酸化型金属イオンが挙げられる。
【0100】
上記Zr錯イオンの供給源は、特に限定されないが、例えば、ジルコンフッ化水素酸、炭酸ジルコニウムアンモニウム;水酸化ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、ホウ酸ジルコニウム、蓚酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、塩化ジルコニウム等;ジブチルジルコニウムジラウリレート、ジブチルジルコニウムジオクテート、ナフテン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム、アセチルアセトンジルコニウム等の有機ジルコニウム化合物等が挙げられる。これらのうち、ジルコンフッ化水素酸、硝酸ジルコニルが、基板表面の偏析物除去の観点から好ましく用いられる。
【0101】
上記Feの酸化型金属イオンの供給源は、特に限定されないが、例えば、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、過塩素酸鉄(III)等の水溶性第2鉄塩;硫酸鉄(II)、硝酸鉄(II)等の水溶性第1鉄塩等が挙げられる。これらのうち、硝酸第二鉄が基板表面の酸化の観点から好ましく用いられる。
【0102】
上記Mnの酸化型金属イオンの供給源は、特に限定されないが、例えば、酢酸マンガン、安息香酸マンガン、乳酸マンガン、ギ酸マンガン、酒石酸マンガン等の有機酸塩;塩化マンガン、臭化マンガン等のハロゲン化物;硝酸マンガン、炭酸マンガン、リン酸マンガン、硫酸マンガン、リン酸マンガン等の無機酸塩;マンガンメトキサイド等のアルコキサイド;アセチルアセトンマンガン(II)、アセチルアセトンマンガン(III)、二酸化マンガン、酸化マンガン等が挙げられる。これらのうち、過マンガン酸カリウムが基板表面の酸化の観点から好ましく用いられる。
【0103】
上記Coの酸化型金属イオンの供給源は、特に限定されないが、例えば、硝酸コバルトや硫酸コバルト等が挙げられる。
【0104】
上記Niの酸化型金属イオンの供給源は、特に限定されないが、例えば、炭酸ニッケル(II)、塩基性炭酸ニッケル(II)、酸性炭酸ニッケル(II)等の炭酸塩;リン酸ニッケル(II)、ピロリン酸ニッケル等のリン酸塩;硝酸ニッケル(II)、塩基性硝酸ニッケル等の硝酸塩;硫酸ニッケル(II)等の硫酸塩;酸化ニッケル(II)、四酸化三ニッケル、酸化ニッケル(III)等の酸化物;酢酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(III)等の酢酸塩;シュウ酸ニッケル(II)等のシュウ酸塩;アミド硫酸ニッケル、アセチルアセトンニッケル(II)、水酸化ニッケル(II)等が挙げられる。
【0105】
上記Ceの酸化型金属イオンの供給源は、特に限定されないが、例えば、硝酸セリウムや硫酸セリウム等が挙げられる。
【0106】
上記イオン(f)の含有量は、濃厚液中、下限0.01質量%、上限10質量%であることが好ましい。0.01質量%未満であると、効果が得られないおそれがあり、10質量%を超えると、濃厚液が不安定となるおそれがある。
【0107】
上記イオン(f)の含有量は、表面調整処理浴中で、下限0.1ppm、上限1000ppmであることが好ましい。0.1ppm未満であると、効果が得られないおそれがあり、1000ppmを超えても、それ以上の効果が得られない。
【0108】
上記表面調整用組成物は、錆の発生をより抑制するために、必要に応じて2価又は3価の金属亜硝酸化合物を添加することもできる。
【0109】
上記表面調整用組成物は、上述した成分以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、更に金属アルコキシド、消泡剤、防錆剤、防腐剤、増粘剤、ケイ酸ナトリウム等のアルカリビルダー等を配合していてもよい。脱脂ムラを補うべく、各種界面活性剤を添加して濡れ性を向上させてもよい。
【0110】
上記表面調整用組成物は、リン酸チタン化合物を分散させる分散媒を含有させることもできる。分散媒としては、水を80質量%以上含む水性媒体が挙げられる他、水以外の媒体としては各種水溶性の有機溶剤を用いることができるが、有機溶剤の含有量は低く抑えるのが良く、好ましくは水性媒体の10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。水以外の分散媒を全く含まない分散液とすることもできる。
【0111】
水溶性の有機溶剤は特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノプロピルエーテル、ブチルグリコール、1−メトキシ−2−プロパノール等のエーテル系溶剤;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン系溶剤;ジメチルアセトアミド、メチルピロリドン等のアミド系溶剤;エチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0112】
上記表面調整用組成物には、更に、リン酸チタン化合物を安定化させ、次に行われるリン酸塩化成処理工程において微細な化成皮膜を形成する目的でソーダ灰等のアルカリ塩が添加されてもよい。
【0113】
なお、上記表面調整用組成物は、例えば、以下の方法により製造できる。上記リン酸チタン化合物は、従来の表面調整用組成物において、原料として使用するリン酸チタン化合物を用いて得ることができる。
【0114】
上記原料のリン酸チタン化合物の形状としては特に限定されず、任意の形状のものを使用できる。市販品は白色の粉末状が一般的であるが、粉末の形状は、微粒子状、板状、鱗片状等、いずれの形状でも構わない。上記リン酸チタン化合物の粒径も特に限定されないが、通常、D50が数μm程度の粉末である。特に、塩基性付与の処理をすることにより緩衝作用を高めた製品等、防錆顔料として市販されているものが好適に使用される。後述するように、本発明に従うと、原料のリン酸チタン化合物としての一次粒径や形状にかかわらず、微細に均一分散した安定なリン酸チタン化合物の分散液を調製できる。
【0115】
上記水性分散液は、リン酸チタン化合物を10質量%以上、更には20質量%以上、特には30質量%以上まで配合した高濃度の水性分散液を得ることもできる。
【0116】
上述のようにして得られた水性分散液に、必要に応じて、他の成分(2価又は3価の金属亜硝酸化合物、分散媒、増粘剤等)を混合することもできる。上記水性分散液と上記他の成分との混合方法は特に限定されず、例えば、水性分散液に他の成分を添加して混合してもよいし、水性分散液の調製中に他の成分が配合されてもよい。また、ディスク型、ピン型等に代表されるビーズミル、高圧ホモジェナイザー、超音波分散機等に代表されるメディアレス分散機等を用いることにより、リン酸チタン化合物の分散安定性を向上させることができる。これは、分散剤として働く上記アミン化合物(a)又は化合物(b)が、リン酸チタン化合物を被覆するためであると推察される。
【0117】
上記表面調整用組成物は、例えば、上記水性分散液を水で希釈して調製される。上記添加剤は、必要に応じて、リン酸チタン化合物の添加と同時に水性媒体に添加されるのが好ましいが、リン酸チタン化合物を分散させた水性分散液に後に添加されても良い。上記表面調整用組成物は、分散安定性に優れ、金属材料に良好な表面調整を施すことができる。
【0118】
本発明の表面調整方法は、上記表面調整用組成物を金属材料表面に接触させる工程を含む。これにより、鉄系及び亜鉛系の金属材料に加え、アルミニウム、高張力鋼板等の難化成性金属材料表面にリン酸チタン化合物の微細粒子を充分な量付着させることができ、化成処理工程で良好な化成皮膜を形成できる。
【0119】
上記表面調整方法における表面調整用組成物と金属材料表面とを接触させる方法は特に限定されず、浸漬、スプレー等の従来公知の方法を適宜採用できる。
【0120】
上記表面調整が行われる金属材料としては特に限定されず、一般にリン酸塩化成処理を行う種々の金属、例えば亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム又はアルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料、マグネシウム合金、或いは、冷延鋼板、高張力鋼板等の鉄系金属材料に適用できる。特に、冷延鋼板、高張力鋼板に好適に適用できる。
【0121】
また、上記表面調整用組成物を用いて、脱脂兼表面調整工程に使用することもできる。これにより、脱脂処理後の水洗工程を省略できる。上記脱脂兼表面調整工程では、洗浄力を高めるために公知の無機アルカリビルダー及び有機ビルダー等を添加しても構わない。また、公知の縮合リン酸塩等を添加しても構わない。上記表面調整において、表面調整用組成物と金属材料表面との接触時間、表面調整用組成物の温度は特に限定されず、従来公知の条件で行うことができる。
【0122】
上記表面調整を行った後、次いでリン酸塩化成処理を行うことにより、リン酸塩化成処理金属板を製造することができる。リン酸塩化成処理方法は特に限定されず、浸漬(ディップ)処理、スプレー処理、電解処理等の種々の公知の方法を適用できる。これらを複数組み合わせてもよい。金属材料表面上に析出させるリン酸塩結晶皮膜に関しても、金属のリン酸塩であれば特に限定されず、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸カルシウム等、何ら制限されるものではない。リン酸塩化成処理において、化成処理剤と金属材料表面との接触時間、化成処理剤の温度は特に限定されず、従来公知の条件で行うことができる。
【0123】
上記表面調整及び化成処理を行った後、更に、塗装を行うことにより塗装板を製造することができる。塗装方法としては電着塗装が一般的である。塗装に用いられる塗料は特に限定されず、一般にリン酸塩化成処理金属板の塗装に用いられる種々のもの、例えばエポキシメラミン塗料、カチオン電着塗料とポリエステル系中塗塗料とポリエステル系上塗塗料等が挙げられる。なお、化成処理後、塗装前に洗浄工程を行うといった公知の方法が採用される。
【実施例】
【0124】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「部」又は「%」はそれぞれ「質量部」、「質量%」を意味する。
【0125】
<リン酸チタン化合物の製造>
純水30質量部に、硫酸チタニル10質量部及び第二リン酸ナトリウム60質量部を添加し、120℃で60分ホットニーダーで焼成を行った後、ろ過してリン酸チタン化合物の粉末を得た。
【0126】
<実施例1>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、及び、ジエタノールアミン1質量部を添加し、残り純水を添加して100質量部とし、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0127】
<実施例2>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、及び、ポリリン酸(「SN2060」、商品名、サンノプコ社製)固形分1質量部を添加し、残り純水を添加して100質量部とし、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0128】
<実施例3>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、タンニン酸(試薬)1質量部、及び、ジエタノールアミン1質量部を添加し、残りの水を添加して全量100質量部とし、NaOHで中和を行った。これを、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%でSGミルで180分間分散した。得られた分散液を水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0129】
<実施例4>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物10質量部、タンニン酸(試薬)0.5質量部、及び、ジエタノールアミン1質量部を添加し、残りの水を添加して全量100質量部とし、NaOHで中和を行った。これを、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%でSGミルで180分間分散した。得られた分散液を水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0130】
<実施例5>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、リグニンスルホン酸(「サンエキスP252」、商品名、日本製紙社製)1質量部、及び、水分散性樹脂粒子5質量部を添加し、残り純水を添加して100質量部とし、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0131】
<実施例6>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物25質量部、タンニン酸(試薬)1質量部、サポナイト1質量部、及び、アクリル樹脂(「アロンA12SL」、商品名、東亜合成社製)1質量部を添加し、残りの水を添加して全量100質量部とし、NaOHで中和を行った。これを、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%でSGミルにより180分間分散した。得られた分散液を水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0132】
<実施例7>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、ジメチルエタノールアミン3質量部、没食子酸1質量部、及び、アクリルアマイド1質量部を添加し、残り純水を添加して100質量部とし、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0133】
<実施例8>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、トリエタノールアミン1質量部、カテキン2質量部、アルミナゾル1質量部、及び、ホスホン酸1質量部を添加し、残り純水を添加して100質量部とし、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0134】
<実施例9>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物30質量部、ジメチルエタノールアミン1質量部、SN2060(前出)固形分1質量部、及び、ジルコンフッ化水素酸1質量部を添加し、残り純水を添加して100質量部とし、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0135】
<実施例10>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、トリエチルアミン3質量部、タンニン酸(試薬)1質量部、水分散性樹脂粒子5質量部、及び、第三リン酸ナトリウム1質量部を添加し、残りの水を添加して全量100質量部とし、NaOHで中和を行った。これを、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%でSGミルにより180分間分散した。得られた分散液を水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0136】
<実施例11>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、ジエタノールアミン1質量部、SN2060(前出)固形分3質量部、サポナイト1質量部、及び、界面活性剤1質量部を添加し、残り純水を添加して100質量部とし、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0137】
<比較例1>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部を添加し、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した後、分散液を水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、トリポリリン酸Na0.005質量部を添加し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0138】
<比較例2>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、及び、ポリアクリル酸(「SN44C」、商品名、サンノプコ社製)1質量部を添加し、残り純水を添加して100質量部とし、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0139】
<比較例3>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、及び、カルボキシメチルセルロース(CMC)(「APP84」、商品名、日本製紙社製)1質量部を添加し、残り純水を添加して100質量部とし、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0140】
<比較例4>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、及び、PVA(「PVA105」、商品名、クラレ社製)1質量部を添加し、残り純水を添加して100質量部とし、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%で、SGミルにより180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを10に調整して表面調整用組成物を得た。
【0141】
<比較例5>
純水60質量部に、リン酸チタン化合物20質量部、タンニン酸(試薬)1質量部、及び、ジエタノールアミン1質量部を添加し、残りの水を添加して全量100質量部とし、NaOHで中和を行った。これを、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%でSGミルで180分間分散した。得られた分散液を、水道水でリン酸チタン化合物濃度0.1%になるように建浴し、苛性ソーダでpHを2.5に調整して表面調整用組成物を得た。
【0142】
<比較例6>
チタン系粉体表面調整剤(「5N10」、商品名、日本ペイント社製)を水道水で0.1%に建浴し、NaOHでpHを10に調製した。
【0143】
[試験板の作成1]
冷延鋼板(SPC)(70mm×150mm×0.8mm)、亜鉛メッキ鋼板(GA)(70mm×150mm×0.8mm)、6000系アルミニウム(Al)(70mm×150mm×0.8mm)、高張力鋼板(70mm×150mm×1.0mm)のそれぞれに、脱脂剤(「サーフクリーナーEC92」、商品名、日本ペイント社製)を使用して、40℃で2分間脱脂処理し、次いで、上記で得られた実施例1〜11及び比較例1〜6の表面調整用組成物それぞれを用いて、室温で30秒間表面調整処理した。上記で得られた表面調整用組成物の組成比を表1に示す。次いで、それぞれの金属板に、リン酸亜鉛処理液(「サーフダイン6350」、商品名、日本ペイント社製)を用いて浸漬法で35℃、2分間化成処理し、水洗、純水洗、乾燥して試験板を得た。
【0144】
【表1】

【0145】
[評価試験]
下記の方法により、得られた表面調整用組成物のリン酸チタン化合物の粒径及び安定性、並びに、得られた試験板の各種評価を行い、その結果を表2に示す。
【0146】
〔リン酸チタン化合物の粒径の測定〕
実施例1〜11及び比較例1〜6で得られた表面調整用組成物に含まれるリン酸チタン化合物の粒径について、電気泳動光散乱光度計(「Photal ELS−800」、商品名、大塚電子社製)を用いて、粒度分布測定を行い、D50(分散体の平均径)を測定した。
【0147】
〔皮膜外観〕
形成された化成皮膜の外観を、目視にて、下記の基準で評価した。サビが発生した場合は、「サビ発生」とした。また、形成された化成皮膜の結晶の大きさを電子顕微鏡により測定した。
◎・・・全面に均一に細かく被覆されている
〇・・・全面に粗く被覆されている
△・・・一部被覆されていない
△×・・・△と×との間の評価
×・・・化成皮膜がほとんど形成されていない
【0148】
〔化成皮膜量〕
蛍光X線測定装置(「XRF−1700」、商品名、島津製作所社製)を用い、化成皮膜中に含まれるP元素量を指標として、化成皮膜質量を測定した。
【0149】
なお、SPCやGAのように比較的化成処理性に優れた金属材料を使用した場合は、できるだけ緻密な結晶皮膜が形成されることが望ましいため、粒子径が小さく、皮膜量が少ないほうが、化成性能が高いと判断される。一方、高張力鋼板等の難化成性金属材料の場合は、化成処理性が低いため、結晶皮膜量を増加させることが必要とされる。このため、皮膜量は多いほうが、化成性能が高いと判断される。
【0150】
〔安定性〕
分散体を40℃で30日間放置し、以下の基準により、外観および性能を評価した。
○・・・外観異常なし、化成性能初期品と変化なし
△・・・外観分離、化成性能初期品と変化なし
×・・・沈殿、化成されず
−・・・未評価
【0151】
【表2】

【0152】
表2より、製造例の表面調整用組成物を使用した場合には、リン酸チタン化合物の水分散液であるにも関わらず、水分散液中で長期間安定に保存することができ、且つ、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム板、高張力鋼板の全てに対して、良好な化成皮膜を形成することができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸チタン化合物を含有するpH3以上12以下の表面調整用組成物であって、
前記表面調整用組成物は、更に、下記一般式(1)で表されるアミン化合物を含有する表面調整用組成物。
【化1】

[式(1)中、R、R、及び、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基、又は、極性基を骨格中に有する炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。ただし、R、R、及び、Rが全て水素原子であることはない。]
【請求項2】
前記表面調整用組成物は、更に、芳香族有機酸、フェノール化合物、及び、フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項1記載の表面調整用組成物。
【請求項3】
前記極性基は、水酸基である請求項1又は2記載の表面調整用組成物。
【請求項4】
リン酸チタン化合物を含有するpH3以上12以下の表面調整用組成物であって、
前記表面調整用組成物は、更に、芳香族有機酸、フェノール化合物、及び、フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含有する表面調整用組成物。
【請求項5】
前記表面調整用組成物は、更に、水分散性樹脂粒子、粘土化合物、酸化物微粒子、及び、水溶性増粘剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項1から4いずれか記載の表面調整用組成物。
【請求項6】
前記表面調整用組成物は、更に、水溶性カルボキシル基含有樹脂、糖類、及び、ホスホン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項1から5いずれか記載の表面調整用組成物。
【請求項7】
前記表面調整用組成物は、更に、キレート剤及び/又は界面活性剤を含有する請求項1から6いずれか記載の表面調整用組成物。
【請求項8】
前記表面調整用組成物は、更に、Zr錯イオン及び/又は酸化型金属イオンを含有する請求項1から7いずれか記載の表面調整用組成物。
【請求項9】
請求項1から8いずれか記載の表面調整用組成物を金属材料表面に接触させる工程を含む表面調整方法。

【公開番号】特開2007−204835(P2007−204835A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27562(P2006−27562)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】