説明

被牽引トレーラ、トレーラトラックおよびトレーラトラックの旋回方法

【課題】十分な旋回半径を確保できない場所にトレーラトラックを進入させることが容易な被牽引トレーラを提案すること。
【解決手段】トレーラトラック1の被牽引トレーラ10は、そのシャーシ13の後端部に荷重負担調整機構30を備え、この荷重負担調整機構30の旋回式フレーム32によって前側車軸16、後側車軸17が支持されている。旋回式フレーム32を油圧シリンダ34によって下方に旋回すると、後側車軸17の左右の後側後車輪17L、17Rよりも前側車軸16の左右の前側後車輪16L、16Rによるトレーラ荷重の負担割合を多くして、前側後車輪16L、16Rを中心としてトレーラ車体11が左右方向に旋回できる状態を形成できる。よって、従来よりも旋回半径を小さくでき、狭い場所への車庫入れ操作などが簡単になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前車輪を有しない被牽引トレーラを連結しトレーラの荷重の一部を牽引トラクタが受け持つセミトレーラ方式と呼ばれるトレーラトラックに関する。さらに詳しくは、車庫入れなどの際に被牽引トレーラの旋回半径を小さくして、狭い場所に被牽引トレーラを簡単に移動できるようにした被牽引トレーラ、当該被牽引トレーラが連結されたトレーラトラック、および当該トレーラトラックの旋回方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セミトレーラ方式のトレーラトッラクに用いる被牽引トレーラとしては一軸車あるいは二軸車、三軸車などが知られている。二軸車、三軸車などの多軸車においては、荷物が搭載されていない状態での走行時に、多軸走行を一軸走行に切り替え可能なものが知られている。非特許文献1には、空車または軽量貨物積載時に、3軸車における前側の2軸をリフトアップして、最も後側に位置する一軸での走行状態、後側の2軸のみによる2軸走行状態を形成可能なウイングトレーラが提案されている。このように走行軸を増減させる目的は、接地車輪を減らして車輪、ブレーキの摩耗を回避できるようにすること、高速料金が多軸車に比べて一軸車の方が安いので、一軸走行による大型車扱いとすることで高速料金を節約することなどである。いずれの場合においても、走行安定性を確保するために接地面から浮き上げる車軸は前側の一軸あるいは二軸とされている。
【0003】
なお、特許文献1、2には、トラックにおける各車輪を昇降させるための昇降機構が提案されている。これらの文献においても走行安定性を確保するために前側の車輪を接地面から浮上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−193537号公報
【特許文献2】特開平08−332827公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“ウィングトレーラ・リフトアクスル”、[online]、日本フルハーフ株式会社、[平成21年6月26日検索]、インターネット<URL:http://www.fruehauf.co.jp/product/trailer/trailer20.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、トレーラトラックは車体長が長いので、荷物の積み下ろしの際の車庫入れ、クランク状の狭い場所に進入する場合に、その最少回転半径よりも大きな旋回半径を確保できない場合が多い。このため、都心部に位置する工場、店舗などに荷物を搬送する場合には、目的地手前で小型トラックに荷物を積み替えて搬送するなどの手間が掛かっており、極めて非効率である。しかしながら、このような車庫入れなどの際におけるトレーラトラックの操舵性の改善については何ら提案されていないのが現状である。
【0007】
本発明の課題は、この点に着目して、十分な旋回半径を確保できない場所にトレーラトラックを進入させることが容易な被牽引トレーラ、当該被牽引トレーラが連結されたトレーラトラック、および当該トレーラトラックの旋回方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の被牽引トレーラは、
トレーラ車体におけるシャーシの後端部に取り付けた前側車軸と、
シャーシにおける前側車軸よりも後側の部位に取り付けた後側車軸と、
前側車軸の両端部に取り付けた左右の前側後車輪と、
後側車軸の両端部に取り付けた左右の後側後車輪と、
前側車軸を後側車軸に対して相対的に接地面の側に降下させて、後側後車輪よりも前側後車輪によるトレーラ荷重の負担割合を多くして、前側後車輪を中心としてトレーラ車体が左右方向に旋回できる状態を形成する荷重負担調整機構とを有していることを特徴としている。
【0009】
ここで、前記荷重負担調整機構は、
トレーラ車体のシャーシの後端側の部位に取り付けた車幅方向に水平に延びる旋回中心軸と、
後端部が前記旋回中心軸を中心として旋回可能な状態でシャーシに取り付けられ、当該旋回中心軸を中心として下方に旋回可能な旋回式フレームと、
この旋回式フレームを旋回させるために当該旋回式フレームとシャーシの間に架け渡した油圧シリンダとを有しており、
旋回式フレームによって前側車軸および後側車軸が支持されている構成とすることができる。
【0010】
次に、本発明のトレーラトラックは、上記構成の被牽引トレーラと、この被牽引トレーラの前端部を分離可能な状態、および、当該被牽引トレーラの荷重の一部を受け持つ状態で連結される牽引トラクタとを有していることを特徴としている。
【0011】
次に、本発明は上記構成のトレーラトラックの旋回方法であって、
旋回場所まで移動させたトレーラトラックを止め、
前記荷重負担調整機構により、前側車軸を後側車軸に対して相対的に接地面の側に降下させて、後側後車輪よりも前側後車輪によるトレーラ荷重の負担割合を多くして、前側後車輪を中心としてトレーラ車体が左右方向に旋回できる状態を形成し、
しかる後に、牽引トラクタを前進あるいは後退させると共に旋回方向に操舵することにより、被牽引トレーラを前側後車輪を中心として旋回させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の被牽引トレーラは、荷重負荷調整機構によって、前側車軸に多くの荷重を負担させた状態を形成できる。この状態で、被牽引トレーラが連結されている牽引トラクタを左右に旋回させた場合には、被牽引トレーラは前側車軸の車輪を中心として牽引トラクタの旋回方向に旋回する。すなわち、牽引トラクタの操舵輪と被牽引トレーラの接地車輪との間の距離が短くなるので、トレーラトラックの全体を旋回させるために必要な旋回半径を短くできる。
【0013】
よって、同一規格のトレーラトラックでは不可能であった、後退により狭い場所に車庫入れすること、前進により狭い場所に旋回させながら進入させることなどが可能になり、また、このような操作を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用したセミトレーラ方式のトレーラトラックを示す側面図である。
【図2】(a)は図1のトレーラトラックの被牽引トレーラの荷重負担調整機構を示す説明図であり、(b)はその動きを示す説明図である。
【図3】(a)は図1のトレーラトラックの旋回時の動きを示す側面図であり、(b)はその平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明を適用したトレーラトラックの実施の形態を説明する。
【0016】
図1を参照して説明すると、本実施の形態に係るトレーラトラック1は、牽引トラクタ2と、ここに分離可能に連結された二軸式の被牽引トレーラ10から構成されている。牽引トラクタ2は操舵輪3および駆動輪4を備え、そのシャーシ5の後端部には被牽引トレーラ連結用のカプラ6が取り付けられている。
【0017】
被牽引トレーラ10は、そのトレーラ車体11の底部に前後方向に延びる左右一対のフレーム12を備えたシャーシ13を有している。シャーシ13の前端部には牽引トラクタ2のカプラ6に上側から着脱可能に連結されるキングピン14が取り付けられている。シャーシ13におけるキングピン14の後側には下方に垂直に延びるランディングギヤ15が取り付けられている。
【0018】
図1、図2(a)を参照して説明すると、被牽引トレーラ10のシャーシ13の後端部には荷重負担調整機構30が取り付けられている。この荷重負担調整機構30には前側車軸16および後側車軸17が取り付けられ、前側車軸16の左右の端には、前側後車輪16L、16Rが取り付けられ、後側車輪17には後側後車輪17L、17Rが取り付けられている。前側車軸16の左右の端部は板ばね式懸架機構18L、18R、およびショックアブソーバ19L、19Rを介して荷重負荷調整機構20に取り付けられている。同様に、後側車輪17の左右の端部も、板ばね式懸架機構20L、20R、およびショックアブソーバ21L、21Rを介して荷重負荷調整機構30に取り付けられている。
【0019】
ここで、荷重負担調整機構30は、トレーラ車体11のシャーシ13の後端側の部位に取り付けた車幅方向に水平に延びる旋回中心軸31を備えている。この旋回中心軸31には、荷重負担調整機構30の旋回式フレーム32が上下方向に旋回可能な状態で取り付けられている。この旋回式フレーム32の下側に、左右の板ばね式懸架機構18L、18Rおよびショックアブソーバ19L、19Rを介して前側車軸16が支持されており、また、左右の板ばね式懸架機構20L、20Rおよびショックアブソーバ21L、21Rを介して後側車軸17が支持されている。
【0020】
旋回式フレーム32は、車幅方向に水平に延びる底板部分32aと、この底板部分の左右の端から上方に直角に折れ曲がって延びている左右の側板部分32L、32Rとを備えている。左右の側板部分32L、32Rの後端部の上側部位が旋回中心軸31の左右の軸端部に旋回可能に取り付けられている。また、旋回式フレーム32の前端部には車幅方向に延びる補強材33が取り付けられており、この補強材33とシャーシ13との間には、油圧シリンダ34が架け渡されている。油圧シリンダ34が図に示す引き込み状態においては、旋回式フレーム32の底板部分32aはシャーシ13の下面に下側から当たっている水平姿勢の状態に保持される。
【0021】
図2(b)に示すように、油圧シリンダ34を伸長させると、旋回式フレーム32はその後端部側の旋回中心軸31を中心として下方に旋回する。この結果、旋回式フレーム32の下側に支持されている前側車軸16および後側車軸17も水平姿勢を維持したまま下方に旋回する。後側車軸17に比べて旋回中心軸31から離れている前側車軸16の旋回量が多いので、旋回式フレーム32の旋回に伴って、後側車輪17の側の後側後車輪17L、17Rが前側後車輪16L、16Rに対して相対的に浮き上がっていく。
【0022】
このようにして、荷重負担調整機構30においては、油圧シリンダ34によって旋回式フレーム32を下方に旋回させることにより、前側車軸16を後側車軸17に対して相対的に接地面G側に降下させて、後側後車輪17L、17Rよりも前側後車輪16L、16Rによるトレーラ荷重の負担割合を多くすることができる。この結果、前側後車輪16L、16Rを中心としてトレーラ車体11が左右方向に旋回できる状態が形成される。
【0023】
図3を参照して本例のトレーラトラック1の動きを説明する。通常の走行状態においては、図1に示すように被牽引トレーラ10は二軸走行状態のままである。これに対して、旋回させながら狭い敷地に進入する場合には、旋回場所まで移動させたトレーラトラックを止めて、荷重負担調整機構30の油圧シリンダ34を伸長させて、図3(a)に示すように、後側後車輪17L、17Rに比べて前側後車輪16L、16Rにより多くの荷重が作用する状態を形成する。この後に、牽引トラクタ2を前進させ、前側後車輪16L、16Rが角Rを過ぎた時点でハンドルを切り旋回させる。荷重負荷調整機構30を用いない場合には、旋回半径としてR2が必要であるが、これをR1に減少させることができ、小回りができるようになる。
【0024】
したがって、後退による車庫入れ操作、狭い敷地内への進入操作を容易に行うことができる。また、従来における同一の大きさのトレーラトラックでは進入できない狭い敷地内に移動させることが可能になる。
【0025】
なお、旋回時に、後側後車輪17L、17Rが完全に浮き上がった状態にしてもよいが、完全には浮き上がっていない状態であっても、前側後車輪の後側後車輪に対する荷重負担割合が6:4よりも大きくなる状態にすれば、前側後車輪を中心として被牽引トレーラ10を旋回させることが可能である。したがって、車軸の前後方向への移動は実質的に無いので安全上も問題がない。
【0026】
また、通常走行時においては油圧シリンダ34を動作不能に設定しておき、車庫入れなどの後退時にのみ動作可能にしておけば、より安全である。
【0027】
さらに、油圧シリンダ34の代わりにエアーシリンダを用いることも可能であり、流体圧シリンダ以外の駆動機構を用いることも可能である。
【0028】
次に、上記の例は被牽引トレーラが2軸車の場合であるが、3軸車の場合においては、中間の車軸を前後の車軸に対して相対的に接地面側に下げて、当該車軸の車輪による荷重負担割合を前後の車輪よりも多くすればよい。
【符号の説明】
【0029】
1 トレーラトラック
2 牽引トラクタ
3 操舵輪
4 駆動輪
5 シャーシ
6 カプラ
10 被牽引トレーラ
11 トレーラ車体
12 フレーム
13 シャーシ
14 キングピン
15 ランディングギヤ
16 前側車軸
16L、16R 前側後車輪
17 後側車軸
17L、17R 後側後車輪
30 荷重負担調整機構
31 旋回中心軸
32 旋回式フレーム
32a 底板部分
32L、32R 側板部分
33 補強材
34 油圧シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレーラ車体におけるシャーシの後端部に取り付けた前側車軸と、
シャーシにおける前側車軸よりも後側の部位に取り付けた後側車軸と、
前側車軸の両端部に取り付けた左右の前側後車輪と、
後側車軸の両端部に取り付けた左右の後側後車輪と、
前側車軸を後側車軸に対して相対的に接地面の側に降下させて、後側後車輪よりも前側後車輪によるトレーラ荷重の負担割合を多くして、前側後車輪を中心としてトレーラ車体が左右方向に旋回できる状態を形成する荷重負担調整機構とを有していることを特徴とする被牽引トレーラ。
【請求項2】
前記荷重負担調整機構は、
トレーラ車体のシャーシの後端側の部位に取り付けた車幅方向に水平に延びる旋回中心軸と、
後端部が前記旋回中心軸を中心として旋回可能な状態でシャーシに取り付けられ、当該旋回中心軸を中心として下方に旋回可能な旋回式フレームと、
この旋回式フレームを旋回させるために当該旋回式フレームとシャーシの間に架け渡した油圧シリンダとを有しており、
旋回式フレームによって前側車軸および後側車軸が支持されていることを特徴とする請求項1に記載の被牽引トレーラ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の被牽引トレーラと、
この被牽引トレーラの前端部を分離可能な状態、および、当該被牽引トレーラの荷重の一部を受け持つ状態で連結される牽引トラクタとを有していることを特徴とするトレーラトラック。
【請求項4】
請求項3に記載のトレーラトラックの旋回方法であって、
旋回場所まで移動させたトレーラトラックを止め、
前記荷重負担調整機構により、前側車軸を後側車軸に対して相対的に接地面の側に降下させて、後側後車輪よりも前側後車輪によるトレーラ荷重の負担割合を多くして、前側後車輪を中心としてトレーラ車体が左右方向に旋回できる状態を形成し、
しかる後に、牽引トラクタを前進あるいは後退させると共に旋回方向に操舵することにより、被牽引トレーラを前側後車輪を中心として旋回させることを特徴とするトレーラトラックの旋回方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−6002(P2011−6002A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152878(P2009−152878)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(595028568)
【出願人】(509182537)
【Fターム(参考)】