説明

被覆構造体

【課題】様々な分野への応用が可能な被覆構造体を得る。
【解決手段】CVD装置10は、電気炉12を備えている。電気炉12内には、石英管14が通されており、この石英管14の周囲にはヒータ16、熱電対18が設けられている。ヒータ16及び熱電対18は図示しない制御部に接続されており、この制御部は、石英管14の内部がカーボンナノチューブの成長に適した所定温度となるように、熱電対18により検出された温度に基づいてヒータ16を制御する。石英管14内部にセットされた石英ボード20上に触媒としてFeClまたはFeClが塗布された細線状部材を載せてセットする。そして、石英管14内が例えば500〜800°Cとなるようにヒータ16を制御し、石英管14の入口から、図中矢印A方向にガスを入れ、触媒と化学反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆構造体に係り、特に、細線状の部材がカーボンナノチューブにより被覆された被覆構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、機械的強度が高い、軽い、電気伝導特性が良い、熱特性が良い、電界電子放出特性が良い等の特性を有することから、走査プローブ顕微鏡(SPM)の探針、電界放出ディスプレイ(FED)、の冷陰極、導電性樹脂、高強度樹脂、耐腐食性樹脂、耐摩耗性樹脂、高度潤滑性樹脂、二次電池や燃料電池の電極、LSIの層間配線材料、バイオセンサーなどへの応用が注目されている。
【0003】
カーボンナノチューブの製造方法としては、例えばアーク放電法やレーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)等があり、特許文献1には、CVD法によりカーボンナノチューブを製造する技術が開示されている。
【0004】
CVD法では、基本的には触媒金属と炭素源の炭化水素を共存させ、例えば650°C〜1300°C程度のプロセス温度でカーボンナノチューブを合成させる。触媒粒子のサイズが小さいときには単層カーボンナノチューブ(SWNT)が得られる。触媒の種類、その支持の仕方(基板上や浮遊など)に多くのバリエーションがあり、例えばCVD法では触媒の選択によりコイル状のカーボンナノチューブや数珠状のカーボンナノチューブを得ることが可能であることがわかっている。また、CVD法は大量合成の他、配向成長、成長位置の選択が可能である。
【特許文献1】特開2006−265006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、石英細線(ファイバー)をカーボンナノチューブで包み込んだ被覆構造体は、電磁シールドを備えた光ファイバー、大電流密度が可能な導体等、様々な分野への応用が期待されている。
【0006】
しかしながら、従来技術は、基板等の平板状のものに対してカーボンナノチューブを鉛直方向へ成長させる技術であり、例えば細線状の部材の長手方向にカーボンナノチューブを成長させることはできず、上記のような電磁シールドを備えた光ファイバー等への様々な分野へ応用することが困難であった。
【0007】
本発明は上記事実を考慮して成されたものであり、様々な分野への応用が可能な被覆構造体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、細線状部材がカーボンナノチューブにより被覆されたことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記細線状部材の長手方向に前記カーボンナノチューブが配向していることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記細線状部材の鉛直方向に前記カーボンナノチューブが配向していることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記細線状部材が、石英、セラミックス、及び導電性材料の何れかの材料から成ることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、前記細線状部材が、ウール状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細線状部材をカーボンナノチューブにより被覆することで様々な分野への応用が可能になる、という効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1には、CVD法により細線状部材にカーボンナノチューブを成長させるCVD装置10の概略構成図を示した。
【0016】
同図に示すように、CVD装置10は、電気炉12を備えている。電気炉12内には、石英管14が通されており、この石英管14の周囲にはヒータ16、熱電対18が設けられている。
【0017】
ヒータ16及び熱電対18は図示しない制御部に接続されており、この制御部は、石英管14の内部がカーボンナノチューブの成長に適した所定温度となるように、熱電対18により検出された温度に基づいてヒータ16を制御する。
【0018】
次に、細線状部材にカーボンナノチューブを成長させた被覆構造体を得る方法について説明する。
【0019】
まず、石英管14内部にセットされた石英ボード20上に触媒が塗布された細線状部材を載せてセットする。
【0020】
なお、細線状部材としては、例えば石英やセラミックス、銅やアルミ合金等の材料から成る細線状の部材を用いることができる。また、細線状部材をウール状としてもよい。
【0021】
触媒としては、FeCl(塩化第二鉄)やFeCl(塩化第三鉄)を用いることができる。細線状部材に触媒を塗布する方法としては、例えば触媒をエタノールに溶解し、これをスピンコートにより塗布する方法等があるが、これに限られるものではない。
【0022】
そして、石英管14内が例えば500〜800°Cとなるようにヒータ16を制御し、石英管14の入口から、図中矢印A方向にガスを入れ、触媒と化学反応させる。ガスとしては、例えばC(アセチレン)、NH(アンモニア)等のガスを用いることができるが、これに限られるものではない。
【0023】
また、ガスの圧力は、例えば0.1〜10(torr)とすることができ、カーボンナノチューブを成長させる時間、すなわち触媒と化学反応させる時間としては1〜60分とすることができるが、これに限られるものではない。
【0024】
例えば成長時間を60分、圧力を0.1(torr)とした場合には、カーボンナノチューブの成長率を200(μm/h)とすることができ、圧力を10(torr)とした場合には、カーボンナノチューブの成長率を2(mm/h)とすることができる。このように、圧力を変化させることで、カーボンナノチューブの成長率を制御することができる。
【0025】
なお、成長したカーボンナノチューブは、図2に示すように直径が約20nmの中空構造の多層構造のカーボンナノチューブとなる。
【0026】
上記の方法により、細線状部材上にカーボンナノチューブが成長させることができ、細線状部材をカーボンナノチューブで被覆した被覆構造体が得られる。
【0027】
なお、触媒をFeClとした場合には、細線状部材の鉛直方向にカーボンナノチューブを成長(配向)させることができ、触媒をFeClとした場合には、細線状部材の長手方向にカーボンナノチューブを成長(配向)させることができる。
【0028】
このように、触媒によってカーボンナノチューブの成長方向が異なるのは、触媒が化学反応して細線状部材に結晶化した際の結晶構造の違いによるものと考えられる。
【0029】
図3(A)には、細線状部材の鉛直方向にカーボンナノチューブが成長した被覆構造体を、同図(B)には、細線状部材の長手方向にカーボンナノチューブが成長した被覆構造体を示した。同図(A)に示すように、細線状部材の鉛直方向にカーボンナノチューブが成長しているので、カーボンナノチューブが毛羽立つようになっており、同図(B)に示すように、細線状部材の長手方向にカーボンナノチューブが成長しているので、カーボンナノチューブが綺麗に細線状部材を被覆するようになっている。
【0030】
また、図4(A)には、従来技術により基板上にカーボンナノチューブを成長させた時のカーボンナノチューブの配向状態を示し、同図(B)には、本発明の手法によりカーボンナノチューブを成長させた時のカーボンナノチューブの配向状態を示した。同図(A)に示すように、従来の場合はカーボンナノチューブが無配向で絡み合っているのに対し、高密度に一定方向に配向されているのがわかる。
【0031】
また、図5には、従来技術により基板上にカーボンナノチューブを成長させた時のカーボンナノチューブについてラマン測定した時のラマンスペクトルの結果を示し、図6には、本発明の手法によりカーボンナノチューブを成長させた時のカーボンナノチューブについてラマン測定した時のラマンスペクトルの結果を示した。
【0032】
カーボンナノチューブの欠陥はラマン測定により評価することができる。具体的には、1350cm−1付近に現れるピークをD−band、1600cm−1付近に現れるピークをG−bandといい、D−bandとG−bandとのピーク強度比(G/D比)を用いて欠陥を評価することができる。G/D比の高いものが欠陥が少なく、品質が高いといえる。
【0033】
図5に示すように、従来の場合はG/D比が1程度であるのに対し、図6に示すように、本発明の場合は、G/D比が2.3程度となり、従来の場合と比較して品質が高いことがわかる。
【0034】
また、図7(A)に示すように、細線状部材を耐熱温度が1000°C程度の石英ウールとすることもできる。この石英ウールは、同図(B)に示すように、その直径が数ミクロンである。
【0035】
図8(A)には、図7(A)に示した石英ウールにカーボンナノチューブを成長させたものを示した。図8(B)には図8(A)の一部拡大図を示した。同図(B)に示す点線部分が石英の細線を表わしており、その周りにカーボンナノチューブが成長しており、石英ウールの内部にまでカーボンナノチューブが成長しているのがわかる。
【0036】
なお、細線状部材をウール状とした場合、配向性はないものの、30μm程度の厚さでもカーボンナノチューブで一様に石英ウールをコーティングすることができ、石英ウールの内部までカーボンナノチューブを良く浸透させることができる。例えば光ファイバーに応用した場合、直径が0.5〜100μm程度の光ファイバーを得ることが可能となる。
【0037】
このように細線状部材をカーボンナノチューブで被覆した被覆構造体の応用例としては、光ファイバーの静電シールド、熱吸収あるいは熱拡散する光ファイバーとして、ウール状の場合には加熱部材や放熱部材として用いることができる。また、材料表面に電気伝導性を付与したい場合や、フィルターにカーボンナノチューブをコーティングして網目を微細化したい場合等にも用いることができる。
【0038】
なお、本実施形態では、細線状の部材にカーボンナノチューブを成長させる場合について説明したが、これに限らず、様々な形状の部材にカーボンナノチューブを成長させる場合にも本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】CVD装置の概略構成図である。
【図2】カーボンナノチューブの拡大図である。
【図3】(A)は細線状部材の鉛直方向に成長したカーボンナノチューブを示す図、(B)は細線状部材の長手方向に成長したカーボンナノチューブを示す図である。
【図4】(A)は従来手法により成長させたカーボンナノチューブの配向状態を示す図、(B)は本発明の手法により成長させたカーボンナノチューブの配向状態を示す図である。
【図5】従来手法により成長させたカーボンナノチューブのラマン測定の結果を示す図である。
【図6】本発明の手法により成長させたカーボンナノチューブのラマン測定の結果を示す図である。
【図7】(A)は石英ウールを示す図、(B)は(A)の一部拡大図である。
【図8】(A)は石英ウールにカーボンナノチューブを成長させたものを示す図、(B)は(A)の一部拡大図である。
【符号の説明】
【0040】
10 CVD装置
12 電気炉
14 石英管
16 ヒータ
18 熱電対
20 石英ボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細線状部材がカーボンナノチューブにより被覆された被覆構造体。
【請求項2】
前記細線状部材の長手方向に前記カーボンナノチューブが配向していることを特徴とする請求項1記載の被覆構造体。
【請求項3】
前記細線状部材の鉛直方向に前記カーボンナノチューブが配向していることを特徴とする請求項1記載の被覆構造体。
【請求項4】
前記細線状部材が、石英、セラミックス、及び導電性材料の何れかの材料から成ることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の被覆構造体。
【請求項5】
前記細線状部材が、ウール状に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の被覆構造体。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−296338(P2008−296338A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146255(P2007−146255)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】