説明

被覆電線および被覆電線と端子の組立体

【課題】電気的特性を低下させることなく、従来の電線よりも強度を向上させた被覆電線、および、この被覆電線と端子の組立体を提供すること。
【解決手段】導体である複数の素線12が束ねられてなる導体部10と、前記導体部10の外周を覆う絶縁体である被覆材20と、前記導体部10の外周側かつ前記被覆材20の内周側であって前記素線12同士の間に存在する谷間14に配された繊維状の補強材30と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線および被覆電線と端子の組立体に関し、詳しくは、自動車等に好適に用いられる高強度の被覆電線、および、その被覆電線と電線端部に圧着された端子との組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車に用いられる被覆電線(以下、単に電線と称することもある)は、自動車の高性能化や車内設備の充実などに伴い、自動車一台あたりに用いられる電線量が増加している。そのため、自動車用電線には、燃費向上等を目的とした車両の軽量化に対応するためや、車両の小型化を目的とした電線の配索スペースの狭小化に対応するため、電線の細径化が求められている。
【0003】
電線を細径化するに際し、電線の強度(本発明では、特に電線の耐引張性や、電線とその端部に圧着される端子との接続強度(端子把持力)のことをいう)確保という点が問題となる。電線を細径化すれば、その分必然的に電線の強度が低下することとなるが、電線の組み付け時や、電線組み付け後における電線の断線等を防止するため、電線を細径化しても使用環境に耐えうる電線の強度は確保しなければならない。特に、自動車用電線においては、電線を組み付ける際に掛かる張力に耐えるだけの強度を確保することが重要である。
【0004】
特許文献1には、電線の強度確保のための補強材(テンションメンバ)として、ステンレスのような金属材料が配された構成が記載されている。しかし、補強材を一般的な金属材料で形成した断面積0.1mm程度の細径の電線になると、補強材が細すぎて十分な補強効果を得ることができない。
【0005】
一方、特許文献2には、炭素繊維の周囲に銅素線を配してなる高張力電線が記載されている。細くとも十分な引張強度を有する炭素繊維を中央に配して、電線全体の引張強度を向上させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−207079号公報
【特許文献2】特開2002−150841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2のように、炭素繊維の周りに素線が配された構成とすれば、細線であっても十分な引張強度が得られる可能性がある。しかし、従来であれば素線が配されていた位置(中央位置)に炭素繊維が配された(素線を炭素繊維に置換した)構成であるため、同じ径を有する従来の電線と比較し、電線としての電気的特性が低下する。炭素繊維は導電性を有するものの、銅等からなる素線に比べて導電率は低いため、同じ径を有する従来の電線よりも導体抵抗が大きくなってしまうからである。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、電気的特性を低下させることなく、従来の電線よりも強度を向上させた被覆電線、および、この被覆電線と端子の組立体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明にかかる被覆電線は、導体である複数の素線が束ねられてなる導体部と、前記導体部の外周を覆う絶縁体である被覆材と、前記導体部の外周側かつ前記被覆材の内周側であって前記素線同士の間に存在する谷間に配された繊維状の補強材と、を備えることを要旨とする。なお、繊維状の補強材とは、炭素繊維やアラミド繊維などの高強度ポリマー繊維といったいわゆる高強度繊維を指す。
【0010】
上記本発明にかかる被覆電線において、前記繊維状の補強材は、導電性を有する引張強度3000MPa以上の高強度繊維からなるものであれば好適である。
【0011】
また、上記本発明にかかる被覆電線において、前記繊維状の補強材は、前記導体部の外縁に接する接円より内側に配されていれば好適である。
【0012】
また、前記導体部の断面積が、0.03mm 以上0.08mm 以下であればよい。
【0013】
一方、本発明にかかる被覆電線と端子の組立体は、前記繊維状の補強材として導電性を有する引張強度3000MPa以上の高強度繊維が用いられた被覆電線の前記被覆材が電線端部から所定長さ剥離され、露出した前記導体部および前記繊維状の補強材に端子が圧着されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる被覆電線は、繊維状の補強材(高強度繊維からなる補強材)が配された構成であるため、従来の電線よりも強度が向上する。また、その繊維状の素線同士の間に存在する谷間を巧く利用した構成であるため、複数の素線からなる導体部の断面積が小さくなることはない。つまり、本発明によれば、電気的特性を低下させずに、従来よりも高強度の電線を得ることができる。
【0015】
また、補強材は導体部の外側に配されるため、導電性を有しない補強材である場合、その補強材は、電線とその端部に圧着される端子との間の電気伝導を阻害する(導体部と一緒に補強材も圧着されるため)。しかし、補強材が導電性を有するものであれば、電線と端子との間の電気伝導を阻害する原因となりうる補強材の影響を小さく抑えることができる。また、引張強度が3000MPa以上である機械的強度が高い高強度繊維が導体部の外側に配されているため、補強材の存在による端子把持力の低下につながるおそれもない。
【0016】
また、補強材が導体部の外縁に接する接円より内側に配されていれば、補強材によって電線の径が大きくなることはない。つまり、電線の太さを変えずに、従来よりも高強度の電線を得ることができる。
【0017】
また、本発明は、導体部の断面積が、0.03mm 以上0.08mm 以下であるような、従来であれば電線の強度確保が困難であった細径電線に有効である。
【0018】
そして、本発明にかかる被覆電線と端子の組立体は、繊維状の補強材が導電性を有するため、補強材の存在による電線と端子との間の電気抵抗の増加が小さい。また、導体部およびその外側に配された機械的強度が高い繊維状の補強材に端子が圧着された構成であるため、端子把持力の低下につながるおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態にかかる被覆電線の外観を模式的に示した図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる被覆電線をその軸線と直交する平面で切断した断面図である。
【図3】被覆電線の端部に端子が圧着された状態を示す外観図である。
【図4】素線が真っ直ぐ延びた状態にある被覆電線(図1に示した被覆電線の一変形例)を模式的に示した図である。
【図5】三本の素線を有する被覆電線(図1に示した被覆電線の一変形例)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態にかかる被覆電線1について、図面等を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態にかかる被覆電線1の外観を模式的に示した図、図2は、被覆電線1をその軸線と直交する平面で切断した断面図、図3は、被覆電線1の端部に端子90が圧着された状態(本発明の一実施形態にかかる被覆電線と端子の組立体2)を示す外観図である。
【0021】
被覆電線1は、中央に位置する導体部10と、導体部10の外周を覆う被覆材20と、導体部10と被覆材20との間に配された補強材30とを備える。
【0022】
導体部10は、導体である複数の素線12が束ねられてなる。なお、ここでいう「束ねられた」構成には、図1に示すような素線12が撚り合わされたもの(いわゆる撚り線)だけでなく、図4に示すような素線12が真っ直ぐ延びたもの(被覆電線1a)も含む。素線12は導電性の金属材料で形成されている。好適な材質としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などが例示できる。図2に示すように、本実施形態の導体部10は、断面で見ると、中心に配された一本の素線12の周囲に、六本の素線12が環状に配されてなる。つまり、計七本の素線12によって構成されている。なお、本実施形態において「環状」とは、断面で見て素線12の中心が同一の円上に位置する状態のことをいう。
【0023】
導体部10の外周を覆う被覆材20は、合成樹脂製の絶縁体であって、導体部10を電気的に絶縁する役割を果たす。
【0024】
補強材30は、被覆電線1の強度を高めるための部材である。図2に示されるように、補強材30は、導体部10の外周側かつ被覆材20の内周側に配されている。具体的には、断面で見て環状に並べられた六本の素線12同士の間に存在する六つの谷間14のそれぞれに配されている。このように、補強材30を谷間14に配することによって、補強材30による被覆電線1の大径化が抑制される。
【0025】
なお、このような被覆電線1であって、導体部10が、素線12を撚り合わせてなるいわゆる撚り線の場合には、補強材30も素線12と一緒に撚り合わされた構成となる。撚り線である被覆電線1は、素線12と一緒に補強材30を撚り合わせることによって作製することができる。つまり、通常の撚り工程が適用できる。
【0026】
また、補強材30は、導体部10(外側に位置する素線12)の外縁に接する接円C(被覆材20の内周)より内側に配されている。このようにすれば、補強材30が導体部10よりも外側に突出しないため、補強材30が配されていない被覆電線(従来型の被覆電線)と同径の被覆電線1とすることができる。つまり、電線径を従来と同じ大きさに維持したまま、電線の強度向上を図ることができる。
【0027】
なお、図2に示したように、導体部10は、中心に配された一本の素線12の周囲に、六本の素線12が環状に配されてなるものであったが、これはあくまで例示であり、このような構成に限られるものではない。例えば、図5に示すような、断面で見て三本の素線12が環状に配されてなる導体部10と、その周りを覆う被覆材20とを有する被覆電線1bの場合、それぞれの素線12の間に存在する三つの谷間14に、補強材30が配された構成となる。つまり、断面で見て二以上の素線12が環状に配されて、その間に谷間14が形成されるような形状であればよい。また、素線12によって形成される谷間14の全てに補強材30を配さなければならないわけではなく、必要な電線強度等に応じて適宜増減してもよい。
【0028】
補強材30が配される素線12同士の間に存在する谷間14は、非常に狭小なスペースである。特に、本実施形態のような細径の電線であればなおさらである。これに対応するため、本実施形態の補強材30は繊維状の材料からなる。具体的には、繊維状の材料が撚り合わされて、谷間14に収容可能な大きさ(径)の糸状に成形されたものである。最も好適なものとしては炭素繊維が挙げられる。炭素繊維は、細くとも、高い引張強度、耐屈曲性等、優れた機械的特性を有する。そのため、炭素繊維は、補強材30を配するためのスペースが、導体部10の外縁に接する接円Cより内側であって、素線12同士の間に存在する谷間14のような狭小なものであっても、被覆電線1の強度を大きく向上させることができる点で補強材30として有効である。
【0029】
また、炭素繊維は、上述のような優れた機械的特性に加え、導電性を有することが広く一般に知られている。この炭素繊維の特性は、図3に示した、被覆電線1と端子90との接続の面で以下の点で優れる。換言すれば、次のような点で優れた被覆電線1と端子90との組立体(本発明の一実施形態にかかる被覆電線と端子の組立体2)が得られる。
【0030】
第一の点は、被覆電線1と端子90との間の電気抵抗が小さいということである。通常、電線の端末に接続される端子90は、電線端部から被覆材20が所定長さ剥離されることで露出した導体部10に圧着される。具体的には、導体部10が端子90のバレル部92によってかしめられる。このとき、導体部10は、その外周に存在する補強材30(炭素繊維)と一緒に端子90のバレル部92にかしめられる。そのため、炭素繊維のように導電性を有する材料で補強材30を形成すれば、補強材30の存在を原因とする、被覆電線1と端子90との間の電気抵抗の増大を抑制することができる。
【0031】
第二の点は、炭素繊維の機械的強度が高いことから、被覆電線1と端子90(バレル部92)の接続強度(端子把持力)も高いということである。つまり、圧着される側である導体部10の周囲に炭素繊維が配された構成であるため、圧着される側の強度が高く、被覆電線1と端子90との高い接続強度が得られる(端子把持力が大きい)。
【0032】
なお、図3に示した被覆電線1と端子90との組立体2の構成は例示である。端子90が、露出した導体部10の外周から圧着される構成であればよい。例えば、図示したいわゆるオープンバレルタイプのバレル部92ではなく、いわゆるクローズドバレルタイプ(バレルが筒状)のバレル部を有する端子であってもよい。
【0033】
補強材30を構成する繊維状の材料としては、上述した良好な端子把持力の確保、被覆電線1と端子90との間の電気抵抗の増大の抑制の観点から、細くても機械的強度が高く、かつ、導電性を有するものであれば、炭素繊維以外のものを適用することができる。例えば、アラミド繊維などの高強度ポリマー繊維の表面を導電性の金属でメッキした、いわゆる「メッキ繊維」などを適用してもよい。具体的には、導電性を有し、十分な電線強度が確保できる引張強度が3000MPa以上である高強度繊維であればよい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態にかかる被覆電線1によれば、電線の電気的特性の低下、電線径の増大を回避しつつ、従来の電線よりも強度を向上させることができる。特に、従来の手法では強度確保が困難である細径の電線、具体的には導体部10の断面積が0.03mm 以上0.08mm 以下の細径の電線に有効である。したがって、本発明は、自動車用の電線等、電線の軽量化や電線の配索スペースの狭小化が求められる分野において好適に利用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、具体的な実施例で本発明を検証する。
【0036】
本発明にかかる実施例として、図2で示したような素線七本から構成される被覆電線を作成した。断面で見て、中央に位置する一本の素線の周りに配された六本の素線同士の間の谷間に、補強材が六本配された構成である。各素線は、タフピッチ軟銅からなり、その直径は0.12mmである。この場合、素線から構成される導体部の外縁に接する接円Cの直径は、約0.36mmとなる。各補強材は、炭素繊維からなる。直径0.36mmの接円C1より内側であって、素線同士の間に形成される谷間に配される補強材は、直径0.06mm相当のものである。
【0037】
一方、比較例として、実施例1と同様に配された素線七本からなる被覆電線であって、補強材が配されていないものを作成した。なお、仮に、従来品のようにステンレスなどの金属材料からなる補強材を配したとしても、直径0.06mm程度の太さでは電線の強度向上に全く寄与しない。そのため、補強材が配されていないものを従来品である比較例とした。比較例1は、実施例1と同様に素線がタフピッチ軟銅からなるものである。比較例2は、素線が3wt%の錫を含む銅合金硬質材からなるものである。比較例3は、素線が6wt%の錫を含む銅合金硬質材からなるものである。
【0038】
これら実施例、比較例1〜3にかかる被覆電線の引張強度(N)、導体抵抗(mΩ/m)の比較を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
上記表1から分かるように、実施例にかかる被覆電線は、最も引張強度が高い。特に、素線として同じタフピッチ軟銅を用いた比較例1にかかる被覆電線よりも約四倍引張強度が高いものが得られる。また、導体抵抗は、比較例1と同じものが得られる。つまり、本実施例にかかる被覆電線は、従来の電線の電気的特性を維持しつつ、電線の強度が高められている。
【0041】
また、比較例2、3の素線を構成する材料である銅合金は、比較例1と比較すれば分かるように、タフピッチ軟銅よりも強度は大きいという利点を有するが、導体抵抗が大きいという難点を有するものである。本実施例にかかる被覆電線は、このような強度に優れる材料を素線に用いた比較例2、3にかかる被覆電線よりも、引張強度が大きくなる。また、導体抵抗は、当然比較例2、3よりも小さく、電気的特性に優れる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0043】
被覆電線 1
導体部 10
素線 12
谷間 14
被覆材 20
補強材 30
端子 90

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体である複数の素線が束ねられてなる導体部と、
前記導体部の外周を覆う絶縁体である被覆材と、
前記導体部の外周側かつ前記被覆材の内周側であって前記素線同士の間に存在する谷間に配された繊維状の補強材と、
を備えることを特徴とする被覆電線。
【請求項2】
前記繊維状の補強材は、導電性を有する引張強度3000MPa以上の高強度繊維からなることを特徴とする請求項1に記載の被覆電線。
【請求項3】
前記繊維状の補強材は、前記導体部の外縁に接する接円より内側に配されていることを特徴とする請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項4】
前記導体部の断面積が、0.03mm 以上0.08mm 以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の被覆電線。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の被覆電線の前記被覆材が、電線端部から所定長さ剥離され、露出した前記導体部および前記繊維状の補強材に端子が圧着されていることを特徴とする被覆電線と端子の組立体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−3853(P2012−3853A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135007(P2010−135007)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】