説明

装飾成形品の製造方法および装飾成形品

【課題】製造工数や部品点数が少なく製造コストを低減できる装飾成形品の製造方法の提供。また、製法上のデザイン制約が起き難い装飾成形品の製造方法の提供。
【解決手段】表側成形体12と裏側成形体13との間で一体成形にて挟持した加飾フィルム14によって加飾するため、製造工数及び部品点数を少なくすることができる。そして、表側成形体12を形成した後の工程数が少ないため、表側成形体12を傷付け難くすることができ、高歩留りの生産を実現することができる。また、加飾フィルム14を固着して加飾するため、製法上のデザイン制約を起き難くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、電気製品などの外装部材として用いられる外装パネルや装飾プレートなどの装飾成形品の製造方法、及びその製造方法によって得られる装飾成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
車両外装部材の1つであるエンブレムは、透明な樹脂板の内部に立体的な文字や記号が形成されている装飾成形品である。そしてこの立体的な文字や記号は、金属光沢を呈する金属調に加飾されていることが多い。このような装飾成形品の一例として図20、図21で示すエンブレム1について説明する。エンブレム1は、透明で上面が凸状に湾曲する円板状の表面側樹脂成形体2とその表面側樹脂成形体2の裏面側に固着する円板状の裏面側樹脂成形体3とを備えている。そして表面側樹脂成形体2と裏面側樹脂成形体3との間には、「丸付き英文字E」を表す加飾層4と接着層5が設けられており、この「E」は立体的な金属調を呈している。
【0003】
こうしたエンブレム1は、特開2001−266687号公報に記載されるマスキング技術や金属蒸着技術などを利用して、金属調の文字や記号を形成し製造されており、その製造方法について説明する。先ず、図22で示すように、上面が凸状に湾曲し、裏面に「E」に対応する表示凹部2aを形成した表面側樹脂成形体2を成形し、その上面及び裏面の外縁にマスキング層6を形成する。次に、図23で示すように、表面側樹脂成形体2の裏面に「丸付き英文字E」の背景となる青色などの着色層4aを印刷形成し、そして図24で示すように、表面側樹脂成形体2の裏面側に金属薄膜層4bを蒸着形成する。その後、図25で示すように、マスキング層6を剥離し、図26で示すように、表面側樹脂成形体2の裏面側に黒色などの着色層4cを塗布形成する。最後に、図27で示すように、表面側樹脂成形体2の裏面側に接着層5を塗布し、別途形成した裏面側樹脂成形体3を、接着層5を介して表面側樹脂成形体2の裏面側に固着する。このような工程を経てエンブレム1を得ることができる。
【特許文献1】特開2001−266687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにして得られるエンブレム1は、金属調で立体的な「E」が視認でき、高級感のあるものではあるが、製造工数(工程数)が多く、部品点数も多いため、製造コストが高いものとなっている。特に、表面側樹脂成形体2を形成した後の工程数が多いため、表面側樹脂成形体2を傷付け易く、製造中の取扱いが難しい。
また、上面に形成したマスキング層6は、上面の縁を完全に覆うため裏面の外縁にまで形成されることから、「E」を囲むように見える金属調の円環が外周縁取り状に形成され、デザイン価値が不十分なものとなっている。
【0005】
以上のような従来技術を背景としてなされたのが本発明である。すなわち、本発明の目的は、製造工数や部品点数が少なく製造コストを低減できる技術を提供することにある。また、製法上のデザイン制約が起き難い技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく本発明は以下のように構成される。
表面側の表側成形体と、裏面側の裏側成形体と、加飾層を有する樹脂フィルムで形成され前記両成形体の間に挟持される加飾フィルムと、を備える装飾成形品の製造方法であって、立体形状に変形した前記加飾フィルムを成形金型に配置して、加飾フィルムの一方面と表側成形体又は裏側成形体の何れか一方とを一体成形し、その加飾フィルムの他方面と表側成形体又は裏側成形体の何れか他方とをさらに一体成形する装飾成形品の製造方法を提供する。
【0007】
本発明では、表側成形体と裏側成形体との間で一体成形にて挟持された加飾フィルムが装飾成形品を加飾するため、どちらか一方の成形体を加飾していく従来技術の製造方法に比べ製造工数を少なくすることができる。例えば、成形体に「加飾層」としての蒸着層を形成する場合、従来技術では蒸着工程の前に成形体における蒸着層の不要な部分にマスキング層を形成し、蒸着工程の後に成形体に形成したマスキング層を除去する必要がある。しかしながら本発明では、蒸着層を備える加飾フィルムを成形体と一体成形するため、成形体に形成するマスキング層を不要にすることができ、製造工数を少なくすることができる。さらに、表側成形体と裏側成形体が、加飾フィルムとの一体成形で形成されるため、それぞれ別々に形成する従来技術の製造方法に比べ部品点数を少なくすることができる。
以上より従来技術の製造方法に比べ製造コストを低減することができる。
さらに、表面側樹脂成形体に加飾層を設けていく従来技術の製造方法に比べ、表面側の表側成形体を形成した後の工程数が少ないため、表側成形体を傷付け難くすることができ、高歩留りの生産を実現することができる。
【0008】
また、前述したように加飾フィルムが装飾成形品を加飾するため、表側成形体や裏側成形体における加飾フィルムとの固着面の全面に亘って加飾することができる。例えば、成形体に蒸着層を形成する場合、前述したような従来技術では成形体における蒸着面の隣接面にマスキング層が必要となり、その隣接面を完全に覆うために蒸着面の外縁にもマスキング層が形成されて、蒸着面の蒸着層は外周が縁取り状に形成される。しかし本発明では、蒸着層を有する加飾フィルムを成形体と一体成形するため、加飾フィルム固着面の全面に亘って蒸着層で加飾することができ、製法上のデザイン制約を起き難くすることができる。
【0009】
このような加飾フィルムは、表側成形体や裏側成形体と一体成形する前に、予め立体形状に変形されている。加飾フィルムを立体形状に変形することなく成形金型に配置して加飾フィルムの一方面と1度目の一体成形を行うと、加飾フィルムは射出された溶融樹脂によってキャビティーのゲート側から変形していくため、加飾フィルムには偏った変形が起きやすく破れ易い。しかし本発明のように加飾フィルムを予め立体形状に変形すれば、この変形加工は金型や治具などで加飾フィルムの伸長部分を特定しながら行えるため、加飾フィルムに偏った変形が起き難く、加飾フィルムを破れ難くすることができる。なお、加飾フィルムの立体形状は、表示する文字、記号などの表示要素に対応する凸状又は凹状の湾曲部を有するように形成することができる。例えば、加飾フィルムを表示要素に対応する凸状の湾曲部を有する立体形状に変形すれば、この表示要素は手前側に浮き出たように視認することができ、加飾フィルムを表示要素に対応する凹状の湾曲部を有する立体形状に変形すれば、この表示要素は奥側に沈み込んだように視認することができる。
【0010】
加飾フィルムの一方面と表側成形体又は裏側成形体の何れか一方とを一体成形した後に、一体成形した加飾フィルムの不要部分を切断除去し、加飾フィルムの他方面と表側成形体又は裏側成形体の何れか他方とを一体成形することができる。加飾フィルムを立体形状に変形する際や加飾フィルムの一方面と成形体との1度目の一体成形においては、加飾フィルムを金型などに対して位置決めする必要がある。しかし2度目の一体成形では、既に形成した成形体によってキャビティー内に位置決めできるため、加飾フィルムの金型に対する位置決めが不要となる。そこでこのように2度目の一体成形の前に加飾フィルムの不要部分を切断除去すれば、2度目の一体成形後に行う加飾フィルムの仕上工程を省くことができ、装飾成形品を傷付け難くすることができる。
また、2度目の一体成形において、加飾フィルムの外縁を覆うように成形体を形成すれば、加飾フィルムを表側成形体と裏側成形体とで封止することができる。加飾フィルムを封止できれば、金属層を加飾層として備える場合に、その金属層を腐食や酸化し難くすることができ、金属光沢の経時的な低下を生じ難くすることができる。
【0011】
加飾フィルムを、複数の樹脂フィルムの積層で形成することができる。このようにすれば、蒸着層や着色層などの「加飾層」を樹脂フィルムどうしの間に挟むことができ、立体形状の変形時や一体成形時に加飾層を保護することができる。
さらにこのような加飾フィルムは、加飾層との固着力が高い樹脂フィルムや成形体との固着力が高い樹脂フィルムを組み合わせて形成することができる。このようにすれば、加飾フィルムを形成する際に可能な限り接着層を省くことができ、製造工数を少なくすることができる。例えば、蒸着が容易な樹脂フィルムに蒸着層を形成し、この樹脂フィルムの一方面側に表側成形体と固着し易い樹脂フィルムを積層して、他方面側に裏側成形体と固着し易い樹脂フィルムを積層すれば、蒸着形成工程や一体成形工程で接着層の形成を省くことができる。接着層には塗布する際に被着体との濡れ性を高めたり消泡を目的として添加剤が含まれているものが多い。するとこの添加剤が接着層を濁らすおそれがあり、濁った接着層は蒸着層の光沢輝度を低下させてしまう。このため、接着層を省くことができれば、接着層による蒸着層の光沢輝度低下を防止することができる。
さらに、表側成形体と固着し易く蒸着形成が容易な樹脂フィルムに蒸着層を形成し、この蒸着層を裏側成形体と固着し易い樹脂フィルムで挟んで積層すれば、2つの樹脂フィルムを積層した総厚の薄い加飾フィルムを形成することができる。このように総厚の薄い加飾フィルムは剛性を小さく抑えることができ、絞り変形の際に立体形状に形成し易くすることができる。そして総厚の薄い加飾フィルムは一体成形の際にキャビティーにおけるゲート付近を広く確保することができ、ゲートから射出された溶融樹脂を通り易くすることができる。
【0012】
加飾フィルムを、単数の樹脂フィルムで形成することができる。このようにすれば、樹脂フィルムどうしのラミネート工程を省くことができ、加飾フィルムの製造工数や部品点数を少なくすることができる。
【0013】
加飾フィルムの一方面と一体成形する成形体を、加飾フィルムの他方面と一体成形する成形体より荷重たわみ温度が高い樹脂で成形することができる。加飾フィルムの一方面と一体成形する成形体は、1度目の一体成形によって形成される成形体である。このようにすれば、加飾フィルムの他方面と2度目の一体成形を行う際に、加飾フィルムの一方面と固着する成形体を熱変形し難くすることができ、加飾フィルムを破れ難くすることができる。さらに好ましくは、加飾フィルムの一方面と一体成形する成形体に、荷重たわみ温度100℃以上の熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、荷重たわみ温度は、JIS K 7191(1.8MPa) に準じて測定されたものである。荷重たわみ温度が100℃以上の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが挙げられる。
【0014】
加飾フィルムが、他方面と一体成形する成形体より荷重たわみ温度が高い樹脂でなる樹脂フィルムを備えることができる。このようにすれば、加飾フィルムの耐熱性を高めることができ、加飾フィルムの他方面と2度目の一体成形を行う際に、加飾フィルムを破れ難くすることができる。さらに好ましくは、荷重たわみ温度100℃以上の熱可塑性樹脂でなる樹脂フィルムを備えることができる。荷重たわみ温度が100℃以上でフィルム成形が可能な熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが挙げられる。なかでも加飾フィルムの立体変形を容易にするためには、荷重たわみ温度が100℃〜150℃のポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが好ましく、さらに透明性の高いポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0015】
複数の樹脂フィルムの積層で形成される加飾フィルムは、一方面側がその一方面と一体成形する成形体と同材質の樹脂フィルムで形成され、他方面側がその他方面と一体成形する成形体と同材質の樹脂フィルムで形成することができる。同材質どうしは強固に固着できる一体成形が可能であり、このようにすれば、加飾フィルムの両面側においてそれぞれ成形体と強固に固着することができ、一体成形工程で接着層の形成を省くことができる。よって製造工数を少なくすることができる。
【0016】
加飾フィルムが、金属の不連続蒸着層を備えることができる。このようにすれば、不連続蒸着層は電波を透過し易く無線通信やレーダーなどの障害となり難いことから、本発明の装飾成形品をミリ波レーダー装置やマイクロ波レーダー装置などのカバー部材やこれら装置を搭載する車両のエンブレムとして用いることができる。また、不連続蒸着層は加飾フィルムを立体形状に変形する際に亀裂が生じ難く、立体的な金属加飾を実現することができる。金属としては、例えば、錫、インジウム、銀などが挙げられる。
【0017】
加飾フィルムが、薄膜樹脂フィルムの積層体による金属調フィルムを備えることができる。薄膜樹脂フィルムの積層体は光の屈折を利用して金属光沢を呈するため、金属を用いることなく金属調の加飾を実現することができる。よって装飾成形品をミリ波レーダー装置やマイクロ波レーダー装置などのカバー部材やこれら装置を搭載する車両のエンブレムとして用いることができ、また絞り変形時に亀裂が生じ難く、立体的な金属調加飾を実現することができる。薄膜樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルムなどが挙げられる。このような薄膜樹脂フィルムは、1層の厚さが0.050μm〜0.500μmで、積層体としては500層〜2000層が積層している。
【0018】
変形した加飾フィルムを成形金型に配置して、加飾フィルムの一方面と裏面側となる裏側成形体とを一体成形し、一体成形した加飾フィルムの他方面と表面側となる表側成形体をさらに一体成形する装飾成形品の製造方法については、表側成形体を形成する樹脂を高流動性樹脂とすることができる。このようにすれば、表側成形体を成形する際に溶融樹脂がキャビティー内を流れ易く裏側成形体を熱変形し難くすることができ、加飾フィルムも破れ難くすることができる。なお、高流動性樹脂は、メルトフローレート(MFR)が10g/10min以上が好ましい。このMFRは、JIS K 7210に準拠して測定されたもので、測定条件が300℃・1.20kgf、又は230℃・3.80kgfである。
【0019】
また、本発明は、加飾層を有する樹脂フィルムが立体形状に変形形成された加飾フィルムと、その加飾フィルムの表面側に対し一体成形で固着する透明な表側成形体と、その加飾フィルムの裏面側に対し一体成形で固着する裏側成形体と、を備える装飾成形品を提供する。
【0020】
本発明の装飾成形品は加飾フィルムを表側成形体や裏側成形体と一体成形したものであるため、従来技術に比べ製造工数や部品点数が少なくすることができ、廉価な装飾成形品を実現することができる。
さらに、表側成形体を形成した後の工程数が少ないため、表側成形体に傷が付け難く、高品質を実現することができる。
【0021】
また、前述したように加飾フィルムが装飾成形品を加飾するため、表側成形体や裏側成形体における加飾フィルムとの固着面の全面に亘って加飾することができ、従来技術のようなデザイン制約を起き難くして豊富なデザインバリエーションを実現することができる。
【0022】
さらに、加飾フィルムが立体形状に変形形成されているため、装飾成形品を立体的に加飾することができる。例えば、表示する文字、記号などの表示要素に対応する凸状の湾曲部を有する立体形状に変形すれば、この表示要素は手前側に浮き出たように視認することができ、表示要素に対応する凹状の湾曲部を有する立体形状に変形すれば、この表示要素は奥側に沈み込んだように視認することができる。
【0023】
加飾フィルムを、複数の樹脂フィルムを積層して形成することができる。このようにすれば、立体形状の変形時や一体成形時に加飾層を保護することができ、見映えの良い加飾を実現することができる。また、「加飾層」と固着力の高い樹脂フィルムや成形体と固着力が高い樹脂フィルムを組み合わせて形成すれば、高耐久な装飾成形品を実現することができ、さらに可能な限り接着層を省いて、接着層による視認性の悪化を防止することができる。
【0024】
加飾フィルムを、単数の樹脂フィルムで形成することができる。このようにすれば、樹脂フィルムどうしのラミネート工程を省いて加飾フィルムの製造工数や部品点数を少なくすることができ、廉価な装飾成形品を実現することができる。
【0025】
加飾フィルムの表面側又は裏面側の何れか一方に対し一体成形で固着する成形体を、加飾フィルムの表面側又は裏面側の何れか他方に対し一体成形で固着する成形体より荷重たわみ温度が高い樹脂で形成することができる。このようにして荷重たわみ温度の高い樹脂を1度目の一体成形で形成すれば、2度目の一体成形を行う際に、既に成形した成形体を熱変形し難くすることができ、加飾フィルムを破れ難くすることができる。よって外観品質のよい装飾成形品を実現することができる。さらに好ましくは、荷重たわみ温度の高い樹脂に、荷重たわみ温度が100℃以上の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0026】
加飾フィルムは、表側成形体又は裏側成形体の少なくとも1つより荷重たわみ温度が高い樹脂でなる樹脂フィルムを備えることができる。このようにすれば、加飾フィルムの耐熱性を高めることができ、加飾フィルムの2度目の一体成形を行う際に加飾フィルムを破れ難くすることができる。よって外観品質のよい装飾成形品を実現することができる。さらに好ましくは、荷重たわみ温度が100℃以上の熱可塑性樹脂でなる樹脂フィルムを備えることができる。
【0027】
加飾フィルムは、表面側が表側成形体と同材質の樹脂フィルムで形成され、裏面側を裏側成形体と同材質の樹脂フィルムで形成することができる。同材質どうしは強固に固着できる一体成形が可能であるため、接着層の形成を省いて加飾フィルムの両面側とそれぞれ成形体とを強固に固着することができ、鮮明な加飾を実現することができる。
【0028】
加飾フィルムは、金属の不連続蒸着層や、薄膜樹脂フィルムの積層体による金属調フィルムを備えることができる。このようにすれば、本発明の装飾成形品をミリ波レーダー装置やマイクロ波レーダー装置などのカバー部材やこれら装置を搭載する車両のエンブレムとして用いることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の装飾成形品の製造方法、装飾成形品によれば、製造工数や部品点数を従来技術の製造方法に比べ少なくすることができる。よって従来技術の製造方法に比べ製造コストを低減することができ、廉価な装飾成形品を実現することができる。さらに、表側成形体を傷付け難く高歩留りを実現することができる。
また、製法上のデザイン制約を起き難くすることができ、豊富なデザインバリエーションを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
以下に説明する各実施形態では、「装飾成形品」としてのエンブレムについて説明する。なお、各実施形態で共通する構成については、同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0031】
第1実施形態〔図1〜図8(A)〕
第1実施形態のエンブレム11とその製造方法を図1〜図8(A)に示す。図1はエンブレム11の平面図、図2はエンブレム11のSB−SB線断面図、図3〜図7はエンブレム11の製造方法を示す説明図、図8(A)はエンブレム11に用いる加飾フィルム14における図3のR領域の拡大図である。このエンブレム11は、表面側の表側成形体12と裏面側の裏側成形体13と加飾フィルム14を備えている。
【0032】
エンブレム11を構成する各部材について説明する。
表側成形体12は硬質の透明樹脂でなり、上面が凸状に湾曲し、裏面に英文字「E」に対応する表示凹部12aを形成した円板状に形成されている。
表側成形体12の材質としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などが挙げられる。
【0033】
裏側成形体13は硬質樹脂でなり、表側成形体12側の上面には英文字「E」に対応する表示突部13aが突出し、裏面を平坦に形成した円板状に形成されている。
裏側成形体13の材質としては、本実施形態の製造方法では表側成形体12より先に加飾フィルム14と一体成形するため、表側成形体12より荷重たわみ温度が高い樹脂を用いる。好ましくは荷重たわみ温度が100℃以上の熱可塑性樹脂を用いる。例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが挙げられる。
【0034】
加飾フィルム14は表側成形体12と裏側成形体13の間に挟持され、英文字「E」に対応する凸状の湾曲部を有する立体形状に形成されており、エンブレム11を加飾する部材である。この加飾フィルム14は、2つの樹脂フィルム14a,14bと、これらに挟まれている不連続蒸着層14c及び接着層14dと、表側成形体12側の外面に形成され背景となる着色層14eとから構成されている。このような加飾フィルム14によって、金属調の「丸付き英文字E」を表している。なお、本実施形態の加飾フィルム14は、図8(A)で示すように、表側成形体12側の樹脂フィルム14aに不連続蒸着層14cが固着し、裏側成形体13側の樹脂フィルム14bは不連続蒸着層14cに対し接着層14dで固着している。
樹脂フィルム14a,14bの材質としては、絞り変形を容易に行うことができる熱可塑性樹脂で形成されている。例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリケトン樹脂、液晶ポリマーなどが挙げられる。但し、不連続蒸着層14cより表面側に積層される樹脂フィルム14aは透明でなければならず、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などが挙げられる。さらに表側成形体12より荷重たわみ温度が高い樹脂でなる樹脂フィルムを備えることができる。好ましくは、樹脂フィルム14a,14bのうち少なくとも1つが荷重たわみ温度100℃以上の熱可塑性樹脂で形成されており、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが挙げられる。なかでも加飾フィルムの絞り変形を容易にするためには、荷重たわみ温度が100℃〜150℃のポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが好ましい。このような樹脂フィルム14a,14bについて、樹脂フィルム14aを表側成形体12と同材質とし、樹脂フィルム14bを裏側成形体13と同材質とすれば、接着剤を用いることなくそれぞれの一体成形を可能とすることができる。
不連続蒸着層14cの材質は、樹脂フィルムに形成できる金属を使用する。例えば、錫、インジウム、銀などが挙げられる。なお、本実施形態では不連続蒸着層14cにて金属調に加飾しているが、アルミニウム、クロム、ニッケル、ステンレス鋼、銅、金、チタンなどの薄膜金属層とすることもできる。
【0035】
エンブレム11の製造方法について説明する。
先ず、図3で示すように、樹脂フィルム14aに不連続蒸着層14cを形成し、この不連続蒸着層14cに対し接着層14dを塗布して樹脂フィルム14bを接着層14dで固着した後、樹脂フィルム14aの外面に着色層14eを塗布して加飾フィルム14を形成する。なお、この加飾フィルム14には外縁部分に、絞り変形工程や一体成形工程で金型に対する位置決め用として透孔14fを数カ所設けてある。
【0036】
次に、図4で示すように、加飾フィルム14を絞り変形用の絞り金型15,16で圧縮変形し、加飾フィルム14に英文字「E」に対応する湾曲部を形成する。加飾フィルム14の表面側と接触する絞り金型15には、加飾フィルム14を嵌め込む嵌合凹部15aが形成されている。この嵌合凹部15aには加飾フィルム14の透孔14fと係合する係合ピン15bが設けられ、さらに英文字「E」に対応して窪む表示凹部15cが形成されている。加飾フィルム14の裏面側と接触する絞り金型16には、絞り金型15の表示凹部15c内に加飾フィルム14を湾曲変形させる表示突起16aが突出形成されている。
【0037】
そして図5で示すように、変形した加飾フィルム14を、裏側成形体13の成形金型17,18にインサートして、加飾フィルム14の裏面と裏側成形体13とを一体成形する。加飾フィルム14の表面側と接触する成形金型17には、加飾フィルム14を嵌め込む嵌合凹部17aが形成されている。この嵌合凹部17aには加飾フィルム14の透孔14fと係合する係合ピン17bが設けられ、さらに英文字「E」に対応して窪む表示凹部17cが形成されている。加飾フィルム14の裏面側と接触する成形金型18には、裏側成形体13を成形するキャビティー18aと、キャビティー18a内に溶融樹脂を注入する注入ゲート18bが形成されている。
【0038】
その後図6で示すように、裏側成形体13と一体成形した加飾フィルム14の不要部分を裁断除去する。この工程で用いられる抜き刃19は、裏側成形体13の外周縁に合わせて形成されている。
【0039】
最後に、図7で示すように、抜き加工した加飾フィルム14と裏側成形体13との一体物を、表側成形体12の成形金型20,21にインサートして、加飾フィルム14の表面と表側成形体12とを一体成形する。加飾フィルム14の表面側と対向する成形金型20には、表側成形体12を成形するキャビティー20aと、キャビティー20内に溶融樹脂を注入する注入ゲート20bが形成されている。加飾フィルム14と裏側成形体13との一体物をインサートする成形金型21には、裏側成形体13を嵌め込む嵌合凹部21aが形成されている。
このような製造方法によってエンブレム11を得る。
【0040】
エンブレム11の製造方法及びエンブレム11によれば、表側成形体12と裏側成形体13との間で一体成形にて挟持した加飾フィルム14によって加飾するため、マスキング工法を用いる従来技術の製造方法に比べ製造工数を少なくすることができる。さらにそれぞれ別々に形成した表側成形体と裏側成形体とを固着する従来技術の製造方法に比べ部品点数を少なくすることができる。以上より従来技術の製造方法に比べ製造コストを低減することができる。また、表面側の表側成形体12を形成した後の工程数が少ないため、表側成形体12を傷付け難くすることができ、高歩留りの生産を実現することができる。
【0041】
加飾フィルム14がエンブレム11を加飾するため、表側成形体12及び裏側成形体13における加飾フィルム14固着面の全面に亘って加飾することができ、従来製法で形成される外周の縁取りを無くすことができる。よって製法上のデザイン制約を起き難くすることができる。
【0042】
加飾フィルム14が2つの樹脂フィルム14a,14bを積層して形成されるため、不連続蒸着層14cを樹脂フィルム14a,14bどうしの間に挟むことができ、絞り変形時や一体成形時に不連続蒸着層14cを保護することができる。
樹脂フィルム14aに不連続蒸着層14cを形成し、この樹脂フィルム14aと同材質の表側成形体12を一体成形すれば、不連続蒸着層14cより表面側に接着層を省くことができ、接着層による不連続蒸着層14cの光沢輝度低下を防止することができる。
さらに加飾フィルム14は2つの樹脂フィルム14a,14bを積層した総厚の薄いものであるため、剛性を小さく抑えることができ、絞り変形の際に立体形状に形成し易くすることができる。
【0043】
加飾フィルム14は、裏側成形体13と一体成形する前に、予め絞り金型15,16で立体形状に絞り変形されるため、偏った変形が起きにくく破れ難くすることができる。よって正確に表された英文字「E」を手前側に浮き出るように視認することができる。
【0044】
加飾フィルム14はその裏面と裏側成形体13とを一体成形した後に不要部分が裁断除去され、加飾フィルム14の表面と表側成形体12とが一体成形されるため、表側成形体12の一体成形後に加飾フィルム14の仕上工程を省くことができ、エンブレム11の表面を傷付け難くすることができる。
【0045】
加飾フィルム14の裏面と一体成形する裏側成形体13を、表側成形体12より荷重たわみ温度が高い熱可塑性樹脂で形成すれば、その後加飾フィルム14の表面と表側成形体12とを一体成形する際に、裏側成形体13を変形し難くすることができ、加飾フィルム14も破れ難くすることができる。
【0046】
加飾フィルム14を構成する樹脂フィルム14a,14bの少なくとも1つを、表側成形体12より荷重たわみ温度が高い熱可塑性樹脂で形成すれば、2度目の一体成形となる加飾フィルム14の表面と表側成形体12との一体成形の際に、加飾フィルム14を破れ難くすることができる。
【0047】
加飾フィルム14が、不連続蒸着層14cを備えるため、エンブレム11をミリ波レーダー装置やマイクロ波レーダー装置などのカバー部材やこれら装置を搭載する車両のエンブレムとして用いることができる。また、不連続蒸着層14cは絞り変形時に亀裂が生じ難く、立体的な金属加飾を実現することができる。
【0048】
第1実施形態の変形例〔図8(B)〜図9〕
第1実施形態で用いた加飾フィルム14では樹脂フィルム14aと樹脂フィルム14bの2つの樹脂フィルムを例示したが、変形例として次の加飾フィルム22,23を用いることができる。
【0049】
第1変形例の加飾フィルム22は、図8(B)で示すように、3つの樹脂フィルム22a,22b,22cと、これらに挟まれている不連続蒸着層22d及び接着層22eと、表側成形体12側の外面に形成されている着色層22fとから構成されている。例えば、裏側成形体13と一体成形できる樹脂フィルム22cに不連続蒸着層22dを形成して、この樹脂フィルム22cを加飾フィルム22の裏面側とし、不連続蒸着層22dに接着層22eを介して表側成形体12より荷重たわみ温度が高い熱可塑性樹脂でなる樹脂フィルム22bを積層し、さらに接着層22eを介して表側成形体12と一体成形できる樹脂フィルム22aを積層して、この樹脂フィルム22aを表面側とした。
【0050】
このようにしても、加飾フィルム22の裏面側の樹脂フィルム22cと裏側成形体13とを一体成形でき、加飾フィルム22の樹脂フィルム22aと表側成形体12とを一体成形することができる。そして加飾フィルム22を構成する樹脂フィルム22bに、表側成形体12より荷重たわみ温度が高い熱可塑性樹脂を用いるため、2度目の一体成形となる加飾フィルム22の表面と表側成形体12との一体成形の際に、加飾フィルム22を破れ難くすることができる。
【0051】
第2変形例の加飾フィルム23は、図9で示すように、3つの樹脂フィルム23a,23b,23cと、これらに挟まれている接着層23dと、表側成形体12側の外面に形成されている着色層23eとから構成されている。例えば、加飾フィルム23の裏面側として裏側成形体13と一体成形できる樹脂フィルム23cに接着層23dを介して薄膜樹脂フィルムの積層体でなる樹脂フィルム23bを積層し、さらに接着層23dを介して表側成形体12と一体成形できる樹脂フィルム23aを積層して、この樹脂フィルム23aを表面側とした。この積層体でなる樹脂フィルム23bは、1層の厚さが0.050μm〜0.500μmで、積層体としては500層〜2000層積層したもので、光の屈折を利用して金属光沢を呈する。
【0052】
このようにすれば、金属を用いることなく金属調の加飾を実現することができるため、エンブレム11をミリ波レーダー装置やマイクロ波レーダー装置などのカバー部材やこれら装置を搭載する車両のエンブレムとして用いることができ、また絞り変形時に亀裂が生じ難く、立体的な金属調加飾を実現することができる。
【0053】
第2実施形態〔図10〜図12〕
第2実施形態のエンブレム24の製造方法を図10〜図12に示す。エンブレム25がエンブレム11と異なるのは、製造方法である。この製造方法の違いから加飾フィルム14の外縁側の断面形状が異なっているが、エンブレム24の平面図はエンブレム11と同じであり(図1参照)、また各部材の材質、作用、効果も同じである。
【0054】
エンブレム24の製造方法について説明する。先ず、エンブレム11の製造方法と同様に、加飾フィルム14を形成し(図3参照)、さらにこの加飾フィルム14を絞り変形する(図4参照)。
【0055】
そして図10で示すように、変形した加飾フィルム14を、表側成形体12の成形金型25,26にインサートして、加飾フィルム14の表面と表側成形体12とを一体成形する。加飾フィルム14の表面側と接触する成形金型25には、表側成形体12を成形するキャビティー25aと、キャビティー25内に溶融樹脂を注入する注入ゲート25bが形成されている。加飾フィルム14の裏面側と接触する成形金型26には、加飾フィルム14を嵌め込む嵌合凹部26aが形成されている。この嵌合凹部26aには加飾フィルム14の透孔14fと係合する係合ピン26bが設けられ、さらに英文字「E」に対応して突出する表示突起26cが形成されている。
【0056】
その後図11で示すように、加飾フィルム14と表側成形体12との一体物を、裏側成形体13の成形金型27,28にインサートして、加飾フィルム14の裏面と裏側成形体13とを一体成形する。加飾フィルム14と表側成形体12との一体物をインサートする成形金型27には、加飾フィルム14を嵌め込む嵌合凹部27aが形成されている。この嵌合凹部27aには加飾フィルム14の透孔14fと係合する係合ピン27bが設けられ、さらに表側成形体12を収容するために窪む収容凹部27cが形成されている。加飾フィルム14の裏面側と対向する成形金型28には、裏側成形体13を成形するキャビティー28aと、キャビティー28a内に溶融樹脂を注入する注入ゲート28bが形成されている。
【0057】
最後に、図12で示すように、表側成形体12及び裏側成形体13と一体成形した加飾フィルム14の不要部分を切断除去する。この工程では炭酸ガスレーザー29のレーザー光29aを当てて、表側成形体12及び裏側成形体13の外周縁に合わせて加飾フィルム14を切断していく。
このような製造方法によってエンブレム24を得る。
【0058】
第3実施形態〔図13〜図18〕
第3実施形態のエンブレム31とその製造方法を図13〜図18に示す。図13はエンブレム31の平面図、図14はエンブレム31のSC−SC線断面図、図15〜図18はエンブレム31の製造方法を示す説明図である。エンブレム31がエンブレム11と異なるのは、表側成形体32及び裏側成形体33の構成である。エンブレム31の製造方法による作用、効果は同じである。
【0059】
表側成形体32は硬質の透明樹脂でなり、上面が凸状に湾曲し、裏面には加飾フィルム14及び裏側成形体33を埋込み保持する埋込凹部32aが設けられている。この埋込凹部32aの底面には「丸付き英文字E」に対応する表示凹部32bが形成されている。
【0060】
裏側成形体33は硬質樹脂でなり、上面には「丸付き英文字E」に対応する表示突部33aが突出し裏面には中央に係合凹部33bを有する円板状に形成されている。
【0061】
エンブレム31の製造方法について説明する。先ず、エンブレム11の製造方法と同様に、加飾フィルム14を形成する(図3参照)。
【0062】
次に、図15で示すように、加飾フィルム14を絞り変形用の絞り金型34,35で圧縮変形し、加飾フィルム14に「丸付き英文字E」に対応する湾曲部を形成する。加飾フィルム14の表面側と接触する絞り金型34には、加飾フィルム14を嵌め込む嵌合凹部34aが形成されている。この嵌合凹部34aには加飾フィルム14の透孔14fと係合する係合ピン34bが設けられ、さらに「丸付き英文字E」に対応して窪む表示凹部34cが形成されている。加飾フィルム14の裏面側と接触する絞り金型35には、絞り金型34の表示凹部34c内に加飾フィルム14を湾曲させる表示突起35aが突出形成されている。
【0063】
そして図16で示すように、変形した加飾フィルム14を、裏側成形体33の成形金型36,37にインサートして、加飾フィルム14の裏面と裏側成形体33とを一体成形する。加飾フィルム14の表面側と接触する成形金型36には、加飾フィルム14を嵌め込む嵌合凹部36aが形成されている。この嵌合凹部36aには加飾フィルム14の透孔14fと係合する係合ピン36bが設けられ、さらに「丸付き英文字E」に対応して窪む表示凹部36cが形成されている。加飾フィルム14の裏面側と接触する成形金型37には、裏側成形体33を成形するキャビティー37aと、キャビティー37a内に溶融樹脂を注入する注入ゲート37bが形成されている。なお、注入ゲート37bの先端はキャビティー37a内に突出しており、この先端によって裏側成形体33の裏面には係合凹部33bが形成される。
【0064】
その後図17で示すように、裏側成形体33と一体成形した加飾フィルム14の不要部分を裁断除去する。この工程で用いられる抜き刃19は、裏側成形体33の外周縁に合わせて形成されている。
【0065】
最後に、図18で示すように、抜き加工した加飾フィルム14と裏側成形体33との一体物を、表側成形体32の成形金型38,39にインサートして、加飾フィルム14の表面と表側成形体32とを一体成形する。加飾フィルム14の表面側と対向する成形金型38には、表側成形体32を成形するキャビティー38aと、キャビティー38a内に溶融樹脂を注入する注入ゲート38bが形成されている。加飾フィルム14と裏側成形体13との一体物をインサートする成形金型39には、裏側成形体13の係合凹部33bと係合する係合突起39aが形成されている。
このような製造方法によってエンブレム31を得る。
【0066】
エンブレム31の製造方法及びエンブレム31によれば、表側成形体32が加飾フィルム14の外縁を覆うように形成されているため、加飾フィルム14を表側成形体32と裏側成形体33とで封止することができ、不連続蒸着層14cを腐食や酸化し難くすることができる。よって金属光沢の経時的な低下を生じ難くすることができる。
【0067】
各実施形態に共通の変形例〔図19〕
各実施形態のエンブレム11,24,31では複数の樹脂フィルムを積層して形成する加飾フィルム14を備える例を示したが、変形例のエンブレム41では単数の樹脂フィルムで形成する加飾フィルム42を備えることができる。図19で示すように、エンブレム41をエンブレム11の変形例として説明する。
【0068】
加飾フィルム42は表側成形体12と裏側成形体13の間に挟持され、英文字「E」に対応する凸状の湾曲部を有する立体形状に形成されている。この加飾フィルム42は、1つの樹脂フィルム42aと、樹脂フィルム42aの裏面に順次形成した不連続蒸着層42b及び接着層42cと、表側成形体12側の外面に形成され背景となる着色層42dとから構成されている。このような加飾フィルム42によって、金属調の「丸付き英文字E」を表している。なお、樹脂フィルム42aは、表側成形体12より荷重たわみ温度が高い樹脂で形成することが好ましい。さらに荷重たわみ温度100℃以上の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0069】
エンブレム41の製造方法及びエンブレム41によれば、樹脂フィルムどうしのラミネート工程を省くことができ、加飾フィルム42の製造工数や部品点数を少なくすることができる。よって廉価なエンブレム41を実現することができる。
【実施例】
【0070】
次に、具体的な各部材の材質を示して本発明をさらに詳細に説明する。なお、第1実施形態を代表例として説明する。
【0071】
実施例1
次のようにして第1実施形態で示したエンブレム11を製造した。
ポリメチルメタクリレート樹脂フィルム14aにインジウムでなる不連続蒸着層14cを形成し、この不連続蒸着層14cに接着層14dを介してポリカーボネート樹脂フィルム14bを固着する。その後ポリメチルメタクリレート樹脂フィルム14aの外面に青色の着色層14eを塗布し、外縁部分に4箇所の透孔14fを設けて加飾フィルム14を形成する。
この加飾フィルム14をポリメチルメタクリレート樹脂フィルム14aを表面側として絞り金型15,16で圧縮変形した後、裏側成形体13の成形金型17,18にインサートして、ポリカーボネート樹脂を射出し加飾フィルム14のポリカーボネート樹脂フィルム14bとポリカーボネート樹脂でなる裏側成形体13とを一体成形する。
裏側成形体13と一体成形した加飾フィルム14の不要部分を抜き刃19で裁断除去し、表側成形体12の成形金型20,21にインサートして、ポリメチルメタクリレート樹脂を射出し加飾フィルム14のポリメチルメタクリレート樹脂フィルム14aとポリメチルメタクリレート樹脂でなる表側成形体12とを一体成形する。
このようにして、実施例1のエンブレム11を得た。
なお、本実施例1では、ポリカーボネート樹脂フィルムに対しインジウムの均一蒸着が難しいため、ポリメチルメタクリレート樹脂フィルム14aにインジウムを蒸着している。そして荷重たわみ温度が120℃前後のポリカーボネート樹脂フィルム14bを、インジウムでなる不連続蒸着層14cに接着層14dで積層している。
【0072】
ポリメチルメタクリレート樹脂フィルム14aにインジウムを蒸着し、このポリメチルメタクリレート樹脂フィルム14aにポリメチルメタクリレート樹脂でなる表側成形体12を一体成形するため、不連続蒸着層14cより表面側に接着層を省くことができ、接着層による不連続蒸着層14cの光沢輝度低下を防止することができる。
さらに、加飾フィルム14はポリメチルメタクリレート樹脂フィルム14aとポリカーボネート樹脂フィルム14bを積層した総厚の薄いものであるため、剛性を小さく抑えることができ、絞り変形の際に立体形状に形成し易くすることができる。
【0073】
加飾フィルム14の裏面と一体成形する裏側成形体13を、荷重たわみ温度が120℃前後のポリカーボネート樹脂で形成するため、その後加飾フィルム14の表面と荷重たわみ温度が90℃前後のポリメチルメタクリレート樹脂でなる表側成形体12とを一体成形する際に、裏側成形体13を変形し難くすることができ、加飾フィルム14も破れ難くすることができる。
【0074】
加飾フィルム14を構成する樹脂フィルム14bに、荷重たわみ温度が120℃前後のポリカーボネート樹脂フィルムを用いるため、2度目の一体成形となる加飾フィルム14の表面と荷重たわみ温度が90℃前後のポリメチルメタクリレート樹脂でなる表側成形体12との一体成形の際に、加飾フィルム14を破れ難くすることができる。
【0075】
加飾フィルム14が、インジウムでなる不連続蒸着層14cを備えるため、エンブレム11をミリ波レーダー装置やマイクロ波レーダー装置などのカバー部材やこれら装置を搭載する車両のエンブレムとして用いることができる。また、不連続蒸着層14cは絞り変形時に亀裂が生じ難く、立体的な金属加飾を実現することができる。
【0076】
実施例2
第1実施形態で示したエンブレム11の加飾フィルム14に替えて、その第1変形例としての加飾フィルム22を用いて製造した。
ポリエチレンテレフタレート樹脂でなる樹脂フィルム22cにインジウムでなる不連続蒸着層22dを形成して、このポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム22cを加飾フィルム22の裏面側とし、不連続蒸着層22dに接着層22eを介してポリカーボネート樹脂でなる樹脂フィルム22bを積層し、さらに接着層22eを介してポリメチルメタクリレート樹脂でなる樹脂フィルム22aを積層して、このポリメチルメタクリレート樹脂フィルム22aを表面側とした(図8(B))。
【0077】
このようにしても、加飾フィルム22の裏面側のポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム22cとポリカーボネート樹脂でなる裏側成形体13とを一体成形することができ、加飾フィルム22のポリメチルメタクリレート樹脂フィルム22aとポリメチルメタクリレート樹脂でなる表側成形体12とを一体成形することができる。そして加飾フィルム22を構成する樹脂フィルム22bに、荷重たわみ温度が120℃前後のポリカーボネート樹脂を用いるため、2度目の一体成形となる加飾フィルム22の表面と荷重たわみ温度が90℃前後のポリメチルメタクリレート樹脂でなる表側成形体12との一体成形の際に、加飾フィルム22を破れ難くすることができる。また、不連続蒸着層22dはポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム22cに形成するため、均一な層とすることができる。
【0078】
実施例3
第1実施形態で示したエンブレム11の加飾フィルム14に替えて、その第2変形例としての加飾フィルム23を用いて製造した。
加飾フィルム23の裏面側とするポリカーボネート樹脂でなる樹脂フィルム23cに接着層23dを介して薄膜ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの積層体でなる樹脂フィルム23bを積層し、さらに接着層23dを介してポリメチルメタクリレート樹脂でなる樹脂フィルム23aを積層して、このポリメチルメタクリレート樹脂フィルム23aを表面側とした(図9)。この積層体でなる樹脂フィルム23bは、1層の厚さ0.125μmのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムが800層積層したものである。
【0079】
このようにすれば、金属を用いることなく金属調の加飾を実現することができるため、エンブレム11をミリ波レーダー装置やマイクロ波レーダー装置などのカバー部材やこれら装置を搭載する車両のエンブレムとして用いることができ、また絞り変形時に亀裂が生じ難く、立体的な金属調加飾を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】第1実施形態の装飾成形品を示す平面図。
【図2】図1のSB−SB線断面図。
【図3】第1実施形態の製造方法を示す説明図。
【図4】第1実施形態の製造方法を示す説明図。
【図5】第1実施形態の製造方法を示す説明図。
【図6】第1実施形態の製造方法を示す説明図。
【図7】第1実施形態の製造方法を示す説明図。
【図8】第1実施形態の装飾成形品に用いる加飾フィルムを示す拡大図。
【図9】第1実施形態の装飾成形品に用いる別な加飾フィルムを示す拡大図。
【図10】第2実施形態の製造方法を示す説明図。
【図11】第2実施形態の製造方法を示す説明図。
【図12】第2実施形態の製造方法を示す説明図。
【図13】第3実施形態の装飾成形品を示す平面図。
【図14】図13のSC−SC線断面図。
【図15】第3実施形態の製造方法を示す説明図。
【図16】第3実施形態の製造方法を示す説明図。
【図17】第3実施形態の製造方法を示す説明図。
【図18】第3実施形態の製造方法を示す説明図。
【図19】各実施形態に共通の変形例を示す断面図。
【図20】従来の装飾成形品を示す平面図。
【図21】図20のSA−SA線断面図。
【図22】従来の製造方法を示す説明図。
【図23】従来の製造方法を示す説明図。
【図24】従来の製造方法を示す説明図。
【図25】従来の製造方法を示す説明図。
【図26】従来の製造方法を示す説明図。
【図27】従来の製造方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0081】
1 エンブレム(従来例)
2 表面側樹脂成形体
2a 表示凹部
3 裏面側樹脂成形体
4 加飾層
4a 着色層
4b 金属薄膜層
4c 着色層
5 接着層
6 マスキング層
11 エンブレム(第1実施形態)
12 表側成形体
12a 表示凹部
13 裏側成形体
13a 表示突部
14 加飾フィルム
14a 樹脂フィルム
14b 樹脂フィルム
14c 不連続蒸着層
14d 接着層
14e 着色層
14f 透孔
15 絞り金型
15a 嵌合凹部
15b 係合ピン
15c 表示凹部
16 絞り金型
16a 表示突起
17 成形金型
17a 嵌合凹部
17b 係合ピン
17c 表示凹部
18 成形金型
18a キャビティー
18b 注入ゲート
19 抜き刃
20 成形金型
20a キャビティー
20b 注入ゲート
21 成形金型
21a 嵌合凹部
22 加飾フィルム
22a 樹脂フィルム
22b 樹脂フィルム
22c 樹脂フィルム
22d 不連続蒸着層
22e 接着層
22f 着色層
23 加飾フィルム
23a 樹脂フィルム
23b 樹脂フィルム
23c 樹脂フィルム
23d 接着層
23e 着色層
24 エンブレム(第2実施形態)
25 成形金型
25a キャビティー
25b 注入ゲート
26 成形金型
26a 嵌合凹部
26b 係合ピン
26c 表示突起
27 成形金型
27a 嵌合凹部
27b 係合ピン
27c 収容凹部
28 成形金型
28a キャビティー
28b 注入ゲート
29 炭酸ガスレーザー
29a レーザー光
31 エンブレム(第3実施形態)
32 表側成形体
32a 埋込凹部
32b 表示凹部
33 裏側成形体
33a 表示突部
33b 係合凹部
34 絞り金型
34a 嵌合凹部
34b 係合ピン
34c 表示凹部
35 絞り金型
35a 表示突起
36 成形金型
36a 嵌合凹部
36b 係合ピン
36c 表示凹部
37 成形金型
37a キャビティー
37b 注入ゲート
38 成形金型
38a キャビティー
38b 注入ゲート
39 成形金型
39a 係合突起
41 エンブレム(各実施形態に共通の変形例)
42 加飾フィルム
42a 樹脂フィルム
42b 不連続蒸着層
42c 接着層
42d 着色層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側の表側成形体と、裏面側の裏側成形体と、加飾層を有する樹脂フィルムで形成され前記両成形体の間に挟持される加飾フィルムと、を備える装飾成形品の製造方法であって、
立体形状に変形した前記加飾フィルムを成形金型に配置して、加飾フィルムの一方面と表側成形体又は裏側成形体の何れか一方とを一体成形し、
その加飾フィルムの他方面と表側成形体又は裏側成形体の何れか他方とをさらに一体成形する装飾成形品の製造方法。
【請求項2】
加飾フィルムの一方面と表側成形体又は裏側成形体の何れか一方とを一体成形した後に、一体成形した加飾フィルムの不要部分を切断除去し、その加飾フィルムの他方面と表側成形体又は裏側成形体の何れか他方とを一体成形する請求項1記載の装飾成形品の製造方法。
【請求項3】
加飾フィルムの一方面と一体成形する成形体を、加飾フィルムの他方面と一体成形する成形体より荷重たわみ温度が高い樹脂で成形する請求項1または請求項2記載の装飾成形品の製造方法。
【請求項4】
加飾フィルムが、他方面と一体成形する成形体より荷重たわみ温度が高い樹脂でなる樹脂フィルムを備える請求項1〜請求項3何れか1項記載の装飾成形品の製造方法。
【請求項5】
加飾フィルムを、複数の樹脂フィルムの積層で形成する請求項1〜請求項4何れか1項記載の装飾成形品の製造方法。
【請求項6】
加飾フィルムは、一方面側がその一方面と一体成形する成形体と同材質の樹脂フィルムで形成され、他方面側がその他方面と一体成形する成形体と同材質の樹脂フィルムで形成されている請求項1〜請求項5何れか1項記載の装飾成形品の製造方法。
【請求項7】
加飾フィルムが、金属の不連続蒸着層を備える請求項1〜請求項6何れか1項記載の装飾成形品の製造方法。
【請求項8】
加飾フィルムが、薄膜樹脂フィルムの積層体による金属調フィルムを備える請求項1〜請求項7何れか1項記載の装飾成形品の製造方法。
【請求項9】
加飾フィルムを、単数の樹脂フィルムで形成する請求項1〜請求項4何れか1項記載の装飾成形品の製造方法。
【請求項10】
加飾層を有する樹脂フィルムが立体形状に変形形成された加飾フィルムと、
その加飾フィルムの表面側に対し一体成形で固着する透明な表側成形体と、
その加飾フィルムの裏面側に対し一体成形で固着する裏側成形体と、を備える装飾成形品。
【請求項11】
加飾フィルムの表面側又は裏面側の何れか一方に対し一体成形で固着する成形体が、加飾フィルムの表面側又は裏面側の何れか他方に対し一体成形で固着する成形体より荷重たわみ温度が高い樹脂でなる請求項10記載の装飾成形品。
【請求項12】
加飾フィルムは、表側成形体又は裏側成形体の少なくとも1つより荷重たわみ温度が高い樹脂でなる樹脂フィルムを備える請求項10または請求項11記載の装飾成形品。
【請求項13】
加飾フィルムは、表面側が表側成形体と同材質の樹脂フィルムで形成され、裏面側が裏側成形体と同材質の樹脂フィルムで形成される請求項10〜請求項12何れか1項記載の装飾成形品。
【請求項14】
加飾フィルムが、複数の樹脂フィルムを積層して形成される請求項10〜請求項13何れか1項記載の装飾成形品。
【請求項15】
加飾フィルムが、金属の不連続蒸着層を備える請求項10〜請求項14何れか1項記載の装飾成形品。
【請求項16】
加飾フィルムが、薄膜樹脂フィルムの積層体による金属調フィルムを備える請求項10〜請求項15何れか1項記載の装飾成形品。
【請求項17】
加飾フィルムが、単数の樹脂フィルムで形成される請求項10〜請求項13何れか1項記載の装飾成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2010−99870(P2010−99870A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271383(P2008−271383)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】