説明

補体が関係している眼の状態の予防および治療

本発明は、D因子アンタゴニストの投与による、脈絡膜新生血管(CNV)および加齢性黄斑変性(AMD)のような、補体が関係している眼の状態の予防および治療に関する。本発明によって処置される状態としては、例えば、加齢性黄斑変性(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血に関係する網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、ならびに網膜血管新生が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈絡膜新生血管(CNV)および加齢性黄斑変性(AMD)のような、補体が関係している眼の状態の予防および治療に関する。
【背景技術】
【0002】
補体系は、通常は不活性なプロ酵素の形態で存在する、一連の血清糖タンパク質からなる複合酵素カスケードである。2つの主要な経路(古典経路と第2経路)は補体を活性化することが可能であり、これらはC3のレベルで統合され、ここでは、2つの類似しているC3転換酵素が、C3をC3aとC3bになるように切断する。
【0003】
マクロファージは、細胞表面で発現される識別タグの構造(いわゆる、分子パターン)の微妙な差異を認識する先天的な能力を示す特殊な細胞である(Taylorら、Eur J Immunol 33、2090−2097(2003);Taylorら、Annu Rev Immunol 23、901−944(2005))。これらの表面構造の直接の認識は先天性免疫の基本的な特徴であるが、オプソニン作用によっても、一般的なマクロファージ受容体が飲み込みを媒介することが可能になり、それにより、食細胞の効率が上がり、認識レパートリーが多様化する(StuartおよびEzekowitz、Immunity 22、539−550(2005))、食作用のプロセスには、多数のリガンド−受容体相互作用が関与しており、現在、様々なオプソニン(免疫グロブリン、コレクチン、および補体成分を含む)がマクロファージの細胞表面受容体との相互作用による病原体のインターナリゼーションに必要な細胞活動を導くことが明らかになっている(AderemおよびUnderhill、Annu Rev Immunol 17、593−623(1999);UnderhillおよびOzinsky、Annu Rev Immunol 20、825−852(2002)に概説されている)。生殖細胞系列の遺伝子によってコードされる天然の免疫グロブリンは多種多様な病原体を認識できるが、オプソニン作用のあるIgG(opsonizing IgG)の大部分は適応免疫によって生じ、したがって、Fc受容体による効率的なクリアランスは迅速ではない(Carroll、Nat Immunol 5、981−986(2004))。一方、補体は病原体表面の分子を迅速に認識し、補体受容体による粒子の取り込みのきっかけをつくる(Brown、Infect Agents Dis 1、63−70(1991))。
【0004】
補体は、補体受容体によって認識される多種多様な病原体をオプソニン化する30を超える血清タンパク質からなる。カスケードの最初の誘因に応じて、3つの経路に区別できる(Walport、N Engl J Med 344、1058−1066(2001)に概説されている)。3つの全てが中心的構成成分C3を活性化させる共通の工程を共有しているが、これらは認識の性質と、C3活性化を導く最初の生化学的工程により異なる。古典経路は病原体表面に結合した抗体によって活性化され、これは次いでC1q補体成分に結合し、C3をその活性化形態であるC3bまで最終的に切断するセリン・プロテアーゼ・カスケードを誘発する。レクチン経路は、レクチンタンパク質による炭水化物モチーフの認識後に活性化される。今日までに、この経路の3つのメンバーが同定されている:マンノース結合レクチン(MBL)、レクチンのSIGN−R1ファミリー、およびフィコリン(Pyzら、Ann Med 38、242−251(2006))。MBLとフィコリンはいずれもセリンプロテアーゼと関係があり、これは古典経路においてC1と同様に作用して成分C2およびC4を活性化させて、中心的なC3工程を導く。第2経路は、これが、内部C3エステルの病原体表面上の認識モチーフとの直接の反応が原因で活性化される点で、古典経路およびレクチン経路のいずれとも対照的である。活性化表面への内部C3の結合によっては、第2経路のプロテアーゼであるB因子およびD因子の作用によりC3bの蓄積の迅速な増幅が導かれる。重要なことは、古典経路またはレクチン経路のいずれかにより蓄積したC3bもまた、B因子およびD因子の作用によりC3bの蓄積の増幅を導き得ることである。補体活性化の3つの経路の全てにおいて、オプソニン化の中枢的工程は成分C3のC3bへの変換である。補体カスケードの酵素によるC3の切断は、チオエステルを求核攻撃に曝し、それによりチオエステルドメインを介する抗原表面上へのC3bの共有結合を可能にする。これは、補体オプソニン作用の最初の工程である。続いて、結合したC3bのタンパク質分解によって、異なる受容体によって認識される断片であるiC3b、C3c、およびC3dgが生じる(RossおよびMedof、Adv Immunol 37、217−267(1985))。この切断により、C3bの蓄積をさらに増幅させるC3bの能力が消失し、直接膜を損傷させることができる補体カスケードの後期成分(膜攻撃複合体を含む)が活性化される。しかしながら、マクロファージの食細胞受容体はC3bとその断片を優先的に認識する。エステル結合の形成の多様性の理由から、C3媒介性オプソニン作用は病原体認識の中核をなし(Holersら、Immunol Today 13、231−236(1992))、したがって、様々なC3分解産物の受容体は宿主免疫応答において重要な役割を果たす。
【0005】
C3自体は、13個の異なるドメインからなる複合体である可撓性タンパク質である。分子のコアは8個のいわゆるマクログロブリン(MG)ドメインからなり、これらはC3の密集した状態のα鎖およびβ鎖を構成する。この構造にはCUB(1r/C1s、egf and one mophogenetic protein−I)とTEDドメインが挿入されており、後者には、病原体表面とのC3bの共有結合を可能にするチオエステル結合が含まれている。残りのドメインにはC3aが含まれるか、または残りのドメインはコアドメインのリンカーおよびスペーサーとして作用する。C3に対するC3bとC3cの構造の比較により、この分子が、TEDだけではなく、細胞性受容体と相互作用できる分子のさらに新しい表面をも露出させる、重要な立体構造の再配置をそれぞれのタンパク質分解によって受けることが明らかである(JanssenおよびGros、Mol Immunol 44、3−10(2007))。
【0006】
加齢性黄斑変性(AMD)は、全世界において高齢者の失明の主原因である。AMDは、良好な視力に関連する眼の網膜の非常に特殊な領域である黄斑における退化性であり、新生血管変化が原因で中心部視野が除々に失われることを特徴とする。最近の試算は、1400万人がAMDが原因で失明しているか、または重篤な視力障害があることを示している。この疾患は高齢者集団と彼らの家族の身体および心の健康に多大な影響を与え、公衆衛生における大きな負担となりつつある。
【0007】
しかしながら、新しい発見によると、初期AMDと関係がある関連する細胞性事象、遺伝的因子、および生化学的プロセスのより鮮明な概念の提供が開始されつつある。補体H因子遺伝子は、複数の無関係な実験において同定された最初の遺伝子であり、これはAMDの発症に関して有意な遺伝的リスクを与える。それゆえ、H因子のアミノ酸402位のチロシン−ヒスチジン多形がAMDの発症と関係があることが3つの別のグループによって報告された(非特許文献1;非特許文献2;および非特許文献3)。疾患と関係があるH因子対立遺伝子による第2経路の阻害の低下が、AMDの発症を引き起こすかまたはAMDの発症に有意に寄与するかのいずれかであることが示唆されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kleinら、Science(2005)308:385−389
【非特許文献2】Hainesら、Science(2005)308:419−421
【非特許文献3】Edwardsら、Science(2005)308:421−424
【非特許文献4】ThurmanおよびHolers、J Immunol(2006)176:1305−1310
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの態様においては、本発明は、有効量のD因子アンタゴニストを必要な被験体に投与する工程を含む、補体が関係している眼の状態の予防または治療方法に関する。
【0010】
様々な実施形態において、必要な被験体は哺乳動物(例えば、ヒト)であり、D因子アンタゴニストは、抗D因子抗体およびその断片、結合ポリペプチド、ペプチド、ならびに非ペプチド低分子からなる群より選択される。
【0011】
好ましい実施形態においては、D因子アンタゴニストは抗体または抗体断片である。様々な実施形態において、抗体はD因子の活性部位に結合する場合があり、また、D因子の活性化部位残基を含むエピトープに結合する場合もある。
【0012】
本発明の範囲に含まれる特異的な抗体としては、抗体20D12、31A9、25A1、および32H12、ならびにそれらの変異体が挙げられるがこれらに限定されない。好ましい実施形態においては、抗体または抗体断片は本質的に抗体20D12と同じエピトープに結合するか、または、抗体20D12の重鎖および/もしくは軽鎖CDR配列(配列番号:1および2)を含むか、または抗体20D12もしくはその断片である。
【0013】
抗D因子抗体としては、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体が挙げられる。
【0014】
抗体断片は、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、(scFv)、dAb、相補性決定領域(CDR)断片、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、または抗体断片から形成された多特異的抗体であり得る。
【0015】
補体が関係している眼の状態としては、例えば、加齢性黄斑変性(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血に関係する網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、ならびに網膜血管新生が挙げられる。
【0016】
別の態様においては、本発明は、D因子アンタゴニストと、補体が関係している眼の状態を治療するために上記アンタゴニストを投与するための説明書を含むキットに関する。
【0017】
なお別の態様においては、本発明は、補体が関係している眼の状態の治療のための医薬品の調製におけるD因子アンタゴニストの使用に関する。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、補体が関係している眼の状態の治療での使用のためのD因子アンタゴニストに関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】正常な眼とAMDドナーの眼から得られた硝子体およびブルッフ膜(Bruch’s)中でのD因子のレベル。D因子のレベルは記載するようにD因子特異的ELISAによって測定した:眼の中のD因子の総レベルは、ブルッフ膜の中で発現されたD因子の全体に対する寄与(total contribution)と硝子体の中で見られるD因子の総量を計算することによって決定した。
【図2】AMDドナーの眼に由来するブルッフ膜の切断面のD因子の免疫組織化学。差し込み図は、ブルッフ膜の上部に層をなしたドルーゼ(Druse)の中のD因子の染色を示す。ドルーゼに加えて、ブルッフ膜と脈絡膜もD因子についてポジティブであった。
【図3】補体の第2経路について選択的である溶血アッセイにおける12D20の特性。IC50値を下に示し、アッセイは方法セクションに記載するように行った。
【図4】マウスモノクローナル抗体12D20の重鎖および軽鎖可変ドメイン配列(配列番号:1および2)。
【図5】様々な抗D因子抗体のエピトープマッピング。溶血アッセイでのそれらの相対的な効力を示す。
【図6】天然のヒトD因子ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号3)。
【図7】表1:AMDにおける補体成分の分析。
【図8】表2:実験で使用したドナーの組織。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.定義
用語「D因子」および「補体D因子」は互換的に使用され、天然配列と変異体D因子ポリペプチドをいう。
【0021】
「天然配列」のD因子は、その調製様式にかかわらず、自然界に由来するD因子ポリペプチドと同じアミノ酸配列を有しているポリペプチドである。したがって、天然配列のD因子は自然界から単離することができ、また、組み換えおよび/もしくは合成手段によって生産することもできる。成熟D因子タンパク質(例えば、成熟ヒトD因子タンパク質(NM-001928;配列番号3))に加えて、用語「天然配列のD因子」には、具体的に、D因子の自然界に存在する前駆体形態(例えば、タンパク質分解によって切断されて活性化形態を生じる不活性な前タンパク質)、自然界に存在する変異体形態(例えば、オルタナティブスプライシングされた形態)、およびD因子の自然界に存在する対立遺伝子変異体、ならびに自然界から導かれたD因子ポリペプチドと同じアミノ酸配列を有しているD因子分子の立体構造変異体が含まれる。ヒト以外の動物(高等霊長類およびヒト以外の哺乳動物を含む)のD因子ポリペプチドは具体的にこの定義に含まれる。
【0022】
「D因子変異体」または「補体D因子変異体」は、天然配列のD因子ポリペプチド(例えば、配列番号3の天然配列のヒトD因子ポリペプチド)に対して少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有している、以下で定義されるような活性なD因子ポリペプチドを意味する。通常、D因子変異体は、配列番号3の成熟ヒトアミノ酸配列と、少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約98%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有するであろう。最高度の配列同一性がD因子の活性部位の中にあることが好ましい。
【0023】
D因子の「活性部位」は、ヒトD因子配列においてはHis−57、Asp−102、およびSer−195(キモトリプシンノーゲン・ナンバリング)によって定義される。D因子は、主要な特異性ポケットの底にAsp189(キモトリプシン・ナンバリング)を有しており、Argペプチド結合を切断する。触媒3残基(catalytic triad)は、His−57、Asp−102およびSer−195からなる。Asp−102とHis57は、他のセリンプロテアーゼと比較して非定型の立体構造を呈する(Narayanaら、J.Mol.Biol.235(1994)、695−708)。特有のsal架橋が、S1ポケットの底にあるAsp189とArg218の間で観察され、これは、ループ214−218を押し上げ(elevated loop)、深くて狭いS1ポケットをもたらす(Jingetら、J.Mol.Biol.282(1998)1061−1081)。このループと、活性部位の周囲にあるいくつかの他の残基は、D因子エステル分解活性の鍵となる構造的決定要因であることが変異分析によって示されている(Kimら、J.Biol.Chem.270(1995)24399−24405)。これらの結果に基づき、D因子はC3bに結合したB因子に結合すると立体構造の変化を受けて、タンパク質分解活性の発現を生じる可能性があると提唱された(VolanakisおよびNarayana、Protein Sci.5(1996)553−564)。
【0024】
「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列をアラインメントし、必要である場合にはギャップを導入して、最大のパーセント配列同一性を得た後の、配列同一性の一部として保存的置換を全く考慮しない、参照D因子配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的におけるアラインメントは、当業者の能力の範囲内である様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST−2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手できるコンピューターソフトウェアを使用して行うことができる。当業者はアラインメントを測定するための適切なパラメータを決定できる。これには、比較される配列の全長にわたる最大アラインメントを得るために必要な任意のアルゴリズムが含まれる。その後、配列同一性はより長い配列と比較して計算される。すなわち、より短い配列がより長い配列の一部分と100%の配列同一性を示す場合でもなお、全体的な配列同一性は100%未満であり得る。
【0025】
「核酸配列同一性パーセント(%)」は、配列をアラインメントし、必要である場合にはギャップを導入して、最大のパーセント配列同一性を得た後の、参照D因子コード配列中のヌクレオチドと同一である候補配列中のヌクレオチドの割合として定義される。核酸配列同一性パーセントを決定する目的におけるアラインメントは、当業者の能力の範囲内である様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST−2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手できるコンピューターソフトウェアを使用して行うことができる。当業者は、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定できる。これには、比較される配列の全長にわたる最大アラインメントを得るために必要な任意のアルゴリズムが含まれる。その後、配列同一性はより長い配列と比較して計算される。すなわち、より短い配列がより長い配列の一部分と100%の配列同一性を示す場合でもなお、全体的な配列同一性は100%未満であり得る。
【0026】
「単離された」核酸分子は、、核酸の天然の供給源において通常会合している少なくとも1つの混入している核酸分子から同定かつ分離された核酸分子である。単離された核酸分子は、自然界において見られる形態または環境以外のものである。したがって、単離された核酸分子は、それが天然の細胞の中に存在する場合の核酸分子とは区別される。しかしながら、単離された核酸分子には、例えば、天然の細胞の中での染色体位置とは異なる染色体位置にその核酸分子が存在している場合に、コードされるポリペプチドを通常どおり発現する細胞中に含まれる核酸分子も含まれる。
【0027】
「単離された」D因子ポリペプチドをコードする核酸分子は、、D因子をコードする核酸の天然の供給源の中では通常会合している少なくとも1つの混入している核酸分子から同定かつ分離された核酸分子である。単離されたD因子ポリペプチドをコードする核酸分子は、自然界において見られる形態または環境以外のものである。したがって、単離されたD因子ポリペプチドをコードする核酸分子は、それらが天然の細胞の中に存在する場合のコード核酸分子とは区別される。しかしながら、単離されたD因子をコードする核酸分子には、例えば、その核酸分子が天然の細胞の中での染色体位置とは異なる染色体位置でD因子を通常発現する細胞中に含まれるD因子をコードする核酸分子も含まれる。
【0028】
用語「アンタゴニスト」は最も広い意味で使用され、D因子の生物学的活性を中和する、ブロックする、部分的もしくは完全に阻害する、破棄する、低下させる、あるいは妨害することができる任意の分子が含まれる。D因子アンタゴニストとしては、抗D因子抗体およびその抗原結合断片、他の結合ポリペプチド、ペプチド、ならびに、D因子に結合してD因子の活性(例えば、補体が関係している眼の病状に関与するD因子の能力)を中和する、ブロックする、部分的もしくは完全に阻害する、破棄する、低下させる、または妨害することができる非ペプチド低分子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
「低分子」は、本明細書中では、約600ダルトン未満、好ましくは、約1000ダルトン未満の分子量を有すると定義される。
【0030】
「活性である」または「活性」または「生物学的活性」は本発明のD因子アンタゴニストの状況では、D因子の生物学的活性をアンタゴナイズする(部分的または完全に阻害する)能力である。D因子アンタゴニストの好ましい生物学的活性は、例えば、補体が関係している眼の状態のようなD因子が関係している疾患または状態の状態(例えば、病状)の測定可能な改善を達成する能力である。活性は、インビトロまたはインビボ試験(結合アッセイを含む)において、関連する動物モデルまたはヒトの臨床試験を使用して決定することができる。
【0031】
用語「補体が関係している眼の状態」は最も広い意味で使用され、その病状に補体(補体の古典経路と第2経路、および特に第2経路を含む)が関係している全ての眼の状態が含まれる。補体が関係している眼の状態としては、黄斑変性疾患(例えば、加齢性黄斑変性(AMD)の全ての段階、乾性形態と湿性形態(非滲出型と滲出型)を含む)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血関連網膜症、ならびに他の眼内血管新生疾患、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、および網膜血管新生が挙げられるが、これらに限定されない。補体が関係している眼の状態の好ましいグループには、加齢性黄斑変性(AMD)(非滲出型(湿性)AMDおよび滲出型(乾性または萎縮型)AMDを含む)、脈絡膜新生血管(CNV)、糖尿病性網膜症(DR)、ならびに眼内炎が挙げられる。
【0032】
「治療は、障害の発症を予防するか、または障害の病状を変化させる意図で行われる介入である。したがって、「治療」は、治療的治療と、予防的治療または予防対策の両方をいう。治療が必要なものには、すでに障害を有しているもの、ならびに障害が予防されるものが含まれる。免疫関連の疾患の治療においては、治療薬は免疫応答の成分の応答の大きさを直接変化させる場合があり、また、他の治療薬(例えば、抗生物質、抗真菌薬、抗炎症薬、化学療法薬など)による治療に対して疾患をより敏感にする場合もある。
【0033】
疾患の病状(例えば、補体が関係している眼の状態)には、患者の満足できる生活状態を損なうあらゆる表現形が含まれる。これには、異常なまたは制御不可能な細胞増殖(好中球、好酸球、単球、リンパ球細胞)、抗体生産、自己抗体の生産、補体の生産、近隣細胞の正常な機能の妨害、サイトカインの放出、または異常なレベルでの他の分泌産物、任意の炎症応用もしくは免疫学的応答の抑制または激化、炎症細胞(好中球、好酸球、単球、リンパ球)の細胞空間への浸潤などが含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
用語「哺乳動物」は、本明細書中で使用されるとき、ヒト、高等霊長類、家畜動物(domestic and farm animals)、動物園用、競技用、またはペット用の動物(例えば、ウマ、ブタ、ウシ、イヌ、ネコ、およびイタチなど)が挙げられるが、これらに限定されない、哺乳動物と分類される任意の動物をいう。本発明の好ましい実施形態においては、哺乳動物はヒトである。
【0035】
1つ以上のさらなる治療薬「と組み合わせた」投与には、同時(併用)投与および任意の順序での連続投与が含まれる。
【0036】
「治療有効量」は、例えば、補体が関係している眼の状態のような標的である疾患または状態の状態(例えば、病状)の測定可能な改善を達成するために必要な「D因子アンタゴニスト」の量である。
【0037】
用語「制御配列」は、特定の宿主生物の中での作動可能に連結されたコード配列の発現に不可欠なDNA配列をいう。原核生物に好適な制御配列には、例えば、プロモーター、状況に応じてオペレーター配列、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核生物細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサーを利用することが公知である。
【0038】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係で配置されている場合に「作動可能に連結され」ている。例えば、先行配列または分泌リーダーのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与しているプレタンパク質として発現される場合には、ポリペプチドのDNAに作動可能に連結される。プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を与える場合には、コード配列に作動可能に連結される。または、リボソーム結合部位が、それが翻訳を促進するように配置される場合には、コード配列に作動可能に連結される。一般的には、「作動可能に連結された」は、連結されているDNA配列が連続しており、分泌リーダーの場合には、連続しており、リーディングフレーム内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは必ずしも連続している必要はない。連結は使いやすい制限酵素部位での連結によって行われる。そのような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが従来の実施方法にしたがって使用される。
【0039】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は当業者によって容易に決定可能であり、一般的には、プローブの長さ、洗浄温度および塩濃度に依存する経験的計算である。一般に、より長いプローブには、適切なアニーリングのためにより高い温度が必要であり、一方、より短いプローブには、より低い温度が必要である。ハイブリダイゼーションは一般的には、相補的な鎖がそれらの融解温度よりも低い環境に存在する時の、変性したDNAが再度アニーリングする能力に依存する。プローブと、ハイブリダイゼーション可能な配列との間で所望される相同性の程度が大きければ大きいほど、使用できる相対的な温度は高くなる。したがって、結果として、より高い相対的温度が反応条件をよりストリンジェントにする傾向があり、一方、より低い温度は反応条件のストリンジェンシーをより低くする。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーのさらなる詳細と説明については、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley Interscience Publishers、(1995)を参照のこと。
【0040】
「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシーの条件」は、本明細書中で定義される場合には以下によって特定され得る:(1)洗浄において、低いイオン強度と高温(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)を使用する;(2)ホルムアミドのような変性剤(例えば、42℃で、0.1%のウシ血清アルブミンを含む50%(v/v)のホルムアミド/0.1%のFicoll/0.1%のポリビニルピロリドン/750mMの塩化ナトリウムを含む50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)、75mMのクエン酸ナトリウム)をハイブリダイゼーションの間に使用する;または、(3)50%のホルムアミド、5×SSC(0.75MのNaCl、0.075Mのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%のピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、超音波処理したサケの精液DNA(50μg/ml)、0.1%のSDS、および10%のデキストラン硫酸塩を42℃で使用し、0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中42℃で、50%のホルムアミド中55℃で洗浄し、55℃でEDTAを含む0.1×SSCからなる高ストリンジェンシーの洗浄が続く。
【0041】
「中程度にストリンジェントな条件」は、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、New York:Cold Spring Harbor Press、1989に記載されているように同定することができ、これには、上記よりもストリンジェンシーの低い洗浄溶液とハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度、およびSDS%)の使用が含まれる。中程度にストリンジェントな条件の一例は、20%のホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%のデキストラン硫酸塩、および20mg/mLの変性させて剪断したサケの精液DNAを含む溶液中で37℃で一晩のインキュベーションであり、その後に、約37〜50℃での1×SSC中でのフィルターの洗浄が続く。当業者は、プローブの長さなどの要因に適合させる必要に応じて、温度、イオン強度などを調整する方法を理解しているであろう。
【0042】
用語「エピトープタグ化」は、本明細書中で使用されるとき、「タグポリペプチド」と融合した本発明のポリペプチドを含むキメラポリペプチドをいう。タグポリペプチドは、それに対する抗体を作製できるエピトープを提供するのに十分な長さを有しているが、それに対して融合するポリペプチドの活性を妨害しないように十分に短い。タグポリペプチドはまた、抗体が他のエピトープと実質的に交差反応しないように極めて固有なものであることが好ましい。適切なタグポリペプチドは、一般的には、少なくとも6個のアミノ酸残基を有し、通常は、約8〜50個のアミノ酸残基(好ましくは、約10〜20個のアミノ酸残基)を有する。
【0043】
用語「抗体」は最も広い意味で使用され、これには具体的に、単鎖抗D因子モノクローナル抗体(アゴニスト、アンタゴニスト、および中和抗体を含む)、ならびに多エピトープ特異性を有している抗D因子抗体組成物が含まれるが、これらに限定されない。用語「モノクローナル抗体」は、本明細書中で使用されるとき、実質的に均質な抗体の集団から得られた1つの抗体をいい、すなわち、個々の抗体を含む集団は、主要ではない量で存在する可能性がある自然界において起こる可能性がある変異を除いて同一である。
【0044】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書中で使用されるとき、実質的に均質な抗体の集団から得られた1つの抗体をいい、すなわち、個々の抗体を含む集団は、主要ではない量で存在する可能性がある自然界において起こる可能性がある変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は特異性が高く、1つの抗原性部位を指向する。さらに、伝統的な(ポリクローナル)抗体調製物(これには、通常は、異なる決定基(エピトープ)に特異的な様々な抗体が含まれている)とは対照的に、個々のモノクローナル抗体は抗原上にある1つの決定基に特異的である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体の集団から得られたという抗体の特性を示し、任意の特定の方法によって抗体を生産する必要があるとは解釈されるべきではない。例えば、本発明にしたがって使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら(1975)Nature 256:495によって最初に記載されたハイブリドーマ方法によって作製される場合があり、また、組み換えDNA法によって作製される場合もある(例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと)。「モノクローナル抗体」はまた、ファージ抗体ライブラリーから、例えば、Clacksonら(1991)Nature 352:624−628およびMarksら(1991)J.Mol.Biol.222:581−597に記載されている技術を使用して単離される場合もある。
【0045】
本明細書中でのモノクローナル抗体には、具体的には、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)が含まれる。ここでは、重鎖および/または軽鎖の一部分は、特定の種に由来するか、または特定の抗体のクラスもしくはサブクラスに属している抗体中の対応している配列と同一であるか相同であるが、それらが所望される生物学的活性を示すとの条件で、鎖の残りは別の種に由来するか、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属している抗体、さらにはそのような抗体の断片中の対応している配列と同一であるかあるいは相同である(米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855)。
【0046】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態はキメラ抗体であり、これには、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列が含まれる。大部分については、ヒト化抗体はヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、その中のレシピエントの超可変領域由来の残基がヒト以外の種(ドナー抗体)(例えば、マウス、ラット、ウサギ、または所望される特異性、親和性、および能力を有しているヒト以外の霊長類)の超可変領域由来の残基によって置き換えられる。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応しているヒト以外の残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体には、レシピエント抗体の中にも、またドナー抗体の中にも見られない残基が含まれる場合がある。これらの修飾は、抗体の性能をさらに高めるために行われる。一般的には、ヒト化抗体には、少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメインの実質的に全体が含まれるであろう。ここでは、超可変ループ全体または実質的に全体が非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FR領域全体または実質的に全体がヒト免疫グロブリン配列の物である。ヒト化抗体にはまた、状況に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)(通常は、ヒト免疫グロブリンのもの)の少なくとも一部分も含まれるであろう。さらなる詳細については、Jonesら(1986)Nature 321:522−525;Riechmannら(1988)Nature 332:323−329;およびPresta(1992)Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596を参照のこと。
【0047】
「種依存性抗体」は、第1の哺乳動物種に由来する抗原に対して、第2の哺乳動物種に由来するその抗原のホモログに対して有しているよりも強い結合親和性を有するものである。通常、種依存性抗体は、ヒト抗原に「特異的に結合する」(すなわち、約1×10−7M以下、好ましくは、約1×10−8M以下、最も好ましくは、約1×10−9以下Mの結合親和性(K)値を有する)が、第2の非ヒト哺乳動物種由来のその抗原のホモログに対して結合親和性を有しており、これはヒト抗原に対するその結合親和性よりも少なくとも約50倍、または少なくとも約500倍、または少なくとも約1000倍弱い。種依存性抗体は、上記で定義された様々なタイプの抗体のうちのいずれかであり得るが、ヒト化抗体またはヒト抗体であることが好ましい。
【0048】
本明細書中で使用されるとき、「抗体突然変異体」または「抗体変異体」は、種依存性抗体のアミノ酸残基のうちの1つ以上が修飾されている、種依存性抗体のアミノ酸配列変異体をいう。そのような突然変異体は、種依存性抗体と100%未満の配列同一性または類似性を必ず有する。好ましい実施形態においては、抗体突然変異体は、種依存性抗体の重鎖または軽鎖のいずれかの可変ドメインのアミノ酸配列と少なくとも75%、より好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性または類似性を有しているアミノ酸配列を有するであろう。この配列に関する同一性または類似性は、本明細書中では、配列をアラインメントし、必要である場合にはギャップを導入して、最大のパーセント配列同一性を得た後の、種依存性抗体残基と同一である(すなわち、同じ残基)または類似している(すなわち、共通する側鎖特性に基づく同じグループに由来するアミノ酸残基)、候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。可変ドメインの外側にある抗体配列へのN末端、C末端、または内部伸張、欠失、あるいは挿入はいずれも、配列同一性または類似性に影響を与えないと解釈されるべきである。
【0049】
「単離された」抗体は、同定され、その自然界での環境にある成分とは分離されている、および/またはそれらから回収されたものである。その自然界での環境の混入している成分は、抗体の診断的または治療的使用を妨害する可能性がある物質であり、これには、酵素、ホルモン、および他のタンパク質様または非タンパク質様の溶質が含まれ得る。好ましい実施形態においては、抗体は、(1)Lowry法によって決定された場合には、アンタゴニストのうち95重量%より高く、好ましくは99重量%より高く、(2)スピニングカップシーケネーター(spinning cup sequenator)の使用によってN末端アミノ酸配列もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、または(3)クマシーブルー染色または好ましくは銀染色を使用する、還元条件下もしくは非還元条件下でのSDS−PAGEにより均一性を示すように、精製されるであろう。抗体の天然の環境の少なくとも1つの成分が存在することはないので、単離された抗体には、組換え体細胞内でインサイチュでの抗体が含まれる。しかし通常は、単離された抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製されるであろう。
【0050】
本明細書中で使用されるとき、「抗体可変ドメイン」は、相補性決定領域(CDR;すなわち、CDR1、CDR2、およびCDR3)ならびにフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む抗体分子の軽鎖および重鎖の部分をいう。Vは、重鎖の可変ドメインをいう。Vは軽鎖の可変ドメインをいう。本発明で使用される方法に従うと、CDRおよびFRに割り当てられたアミノ酸位置はKabat(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health、Bethesda、Md、1987および1991))にしたがって定義され得る。抗体または抗原結合断片のアミノ酸ナンバリングもまたKabatのものにしたがう。
【0051】
本明細書中で使用されるとき、用語「相補性決定領域」(CDR;すなわち、CDR1、CDR2、およびCDR3)は、その存在が抗原結合に不可欠である抗体可変ドメインのアミノ酸残基をいう。個々の可変ドメインは、通常、CDR1、CDR2、およびCDR3として特定された3個のCDR領域を有する。個々の相補性決定領域には、Kabatによって定義された「相補性決定領域」に由来するアミノ酸残基が含まれ得る(すなわち、軽鎖可変ドメイン中の残基約24〜34(L1)、残基約50〜56(L2)および残基約89〜97(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン中の残基約31〜35(H1)、残基約50〜65(H2)および残基約95〜102(H3);Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD.(1991))由来のアミノ酸残基、および/または「超可変ループ」(すなわち、軽鎖可変ドメイン中の残基約26〜32(L1)、残基約50〜52(L2)および残基約91〜96(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン中の残基約26〜32(H1)、残基約53〜55(H2)および残基約96〜101(H3);ChothiaおよびLesk(1987)J.Mol.Biol.196:901−917)由来の残基が含まれ得る。いくつかの場合には、相補性決定領域には、Kabatにしたがって定義されたCDR領域と超可変ループの両方に由来するアミノ酸が含まれ得る。例えば、抗体4D5の重鎖CDRH1にはアミノ酸26〜35が含まれる。
【0052】
「フレームワーク領域」(本明細書中、以後、「FR」)は、CDR残基以外の可変領域の残基である。個々の可変ドメインは、通常は、FR1、FR2、FR3、およびFR4として同定された4個のFRを有する。CDRがKabatにしたがって定義される場合は、軽鎖FR残基は、残基約1〜23(LCFR1)、約35〜49(LCFR2)、約57〜88(LCFR3)、および約98〜107(LCFR4)にあり、重鎖FR残基は、重鎖残基の中の残基約1〜30(HCFR1)、約36〜49(HCFR2)、約66〜94(HCFR3)、および約103〜113(HCFR4)にある。CDRに超可変ループ由来のアミノ酸残基が含まれる場合は、軽鎖FR残基は、軽鎖の中の残基約1〜25(LCFR1)、約33〜49(LCFR2)、約53〜90(LCFR3)、および約97〜107(LCFR4)にあり、重鎖FR残基は、重鎖残基の中の残基約1〜25(HCFR1)、約33〜52(HCFR2)、約56〜95(HCFR3)、および約102〜113(HCFR4)にある。CDRに、Kabatによって定義されたCDRと超可変ループのものの両方に由来するアミノ酸が含まれるいくつかの場合には、FR残基は、それに応じて調製されるであろう。例えば、CDRH1にアミノ酸H26〜H35が含まれる場合には、重鎖FR1残基は1〜25位にあり、FR2残基は36〜49位にある。
【0053】
本明細書中で使用されるとき、「コドンセット」は、所望される変異体アミノ酸をコードするために使用される様々なヌクレオチドトリプレット配列の1つのセットをいう。コドンセットによって提供されるヌクレオチドトリプレットの可能な組み合わせの全てを提示し、アミノ酸の所望されるグループをコードするであろう配列を含むオリゴヌクレオチドの1つセットは、例えば、固相合成によって合成することができる。コドン表示の標準的な形態はIUBコードのコドン表示である。これは当該分野で公知であり、本明細書中に記載される。コドンセットは、通常、斜体の3つの大文字(例えば、NNK、NNS、XYZ、DVKなど)によって表される。したがって、「非無作為コドンセット」は本明細書中で使用されるとき、本明細書中に記載されるアミノ酸選択の基準を部分的に(好ましくは完全に)満たす選択されたアミノ酸をコードするコドンセットをいう。特定の位置に選択されたヌクレオチド「縮重」を有するオリゴヌクレオチドの合成は当該分野で周知である。例えば、TRIMアプローチ(Knappekら(1999)J.Mol.Biol.296:57−86);GarrardおよびHenner(1993)Gene 128:103)。特定のコドンセットを有しているオリゴヌクレオチドのそのようなセットは、市販されている核酸合成装置(例えば、Applied Biosystems、Foster City、CAから入手できる)を使用して合成することができ、また商業的に入手することもできる(例えば、Life Technologies、Rockville、MDから)。したがって、特定のコドンセットを有している合成されたオリゴヌクレオチドの1つのセットには、通常、様々な配列を持つ複数のオリゴヌクレオチドが含まれるであろう。これらの差異は、配列全体の中にコドンセットによって確立される。本発明にしたがって使用されるとき、オリゴヌクレオチドは、可変ドメイン核酸鋳型へのハイブリダイゼーションを可能にする配列を有し、また、例えば、クローニングの目的に有用である制限酵素部位を含むことができるが、これは必ずしも必要ではない。
【0054】
用語「抗体断片」は本明細書中では最も広い意味で使用され、これには、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、(scFv)、dAb、および相補性決定領域(CDR)断片、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、ならびに抗体断片から形成された多特異的抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
「Fv」断片は、完全な抗原認識および結合部位を含む抗体断片である。この領域は、例えば、scFvにおいて堅く会合した(本来は共有結合であり得る)1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインの2量体からなる。この立体配置においては、個々の可変ドメインの3個のCDRが、V−V二量体の表面上の抗原結合部位の輪郭を提示する。まとめると、6個のCDRまたはそれらのサブセットが抗体に抗原結合特異性を与える。しかしながら、1つの可変ドメイン(または抗原に特異的なCDRを3個しか含まないFvの半分)もなお抗原を認識して抗原に結合する能力を有しているが、通常は、完全な結合部位よりも親和性が低い。
【0056】
「Fab」断片には、軽鎖の可変ドメインおよび定常ドメインと、重鎖の可変ドメインおよび第1の定常ドメイン(CH1)が含まれる。F(ab’)抗体断片には1対のFab断片が含まれ、これは通常、それらの間にあるヒンジシステインによってそれらのカルボキシ末端付近に共有結合する。抗体断片の他の化学的カップリングもまた当該分野で公知である。
【0057】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片には、抗体のVおよびVドメインが含まれる。ここでは、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖の中に存在する。一般的には、Fvポリペプチドにはさらに、VドメインとVドメインの間にポリペプチドリンカーが含まれ、これによりscFvは抗原結合のための所望される構造を形成することができる。scFvの概要については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal antibodies、第113巻、RosenburgおよびMoore編、Springer−Verlag、New York、269−315頁(1994)を参照のこと。
【0058】
用語「ダイアボディ」は、2つの抗原結合部位を持つ小さい抗体断片をいう。この断片には、同じポリペプチド鎖(VおよびV)の中に、軽鎖可変ドメイン(V)に連結した重鎖可変ドメイン(V)が含まれる。同じ鎖上にある2つのドメインの間での対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、これらのドメインは別の鎖の相補ドメインと対合するように向けられ、2つの抗原結合部位を作製する。ダイアボディは、例えば、EP404,097号;WO93/11161号;およびHollingerら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448にさらに詳細に記載されている。
【0059】
表現「直鎖抗体」は、Zapataら(1995 Protein Eng、8(10):1057−1062)に記載されている抗体をいう。簡単に説明すると、これらの抗体には、1対のタンデムなFdセグメントの(V−C1−V−C1)が含まれる。これは、相補的な軽鎖ポリペプチドと一緒に、1対の抗原結合領域を形成する。直鎖抗体は二重特異的であって、また単特異的でもあり得る。
【0060】
本明細書中で使用されるとき、「ライブラリー」は、複数の抗体または抗体断片配列(例えば、本発明のポリペプチド)、またはこれらの配列をコードする核酸をいう。これらの配列は、本発明の方法にしたがってこれらの配列の中に導入される変異体アミノ酸の組み合わせが異なる。
【0061】
「ファージディスプレイ」は、それによって変異体ポリペプチドが、ファージ(例えば、糸状ファージ)粒子”の表面上にある外被タンパク質の少なくとも一部に対する融合タンパク質として提示される技術である。ファージディスプレイの有用性は、無作為化されたタンパク質変異体の大きなライブラリーが、高い親和性を有している標的抗原に結合するそのような配列について迅速に、かつ効率よく選別され得るという事実にある。ファージ上にあるペプチドおよびタンパク質ライブラリーのディスプレイは、特異的結合特性を有しているものについて何百万ものポリペプチドをスクリーニングするために使用されている。多価ファージディスプレイ法は、糸状ファージの遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIのいずれかへの融合によって小さい無作為ペプチドおよび小さいタンパク質を提示するために使用されている。WellsおよびLowman(1992)Curr.Opin.Struct.Biol.3:355−362、および本明細書中で引用される参考文献。1価のファージディスプレイにおいては、タンパク質またはペプチドライブラリーは、遺伝子IIIまたはその一部に融合させられ、ファージ粒子が1コピーの融合タンパク質を提示するか、または融合タンパク質を全く提示しないように、野生型遺伝子IIIタンパク質の存在下で低レベルで発現する。親和性効果は多価ファージと比較して低く、結果として、選別は固有のリガンド親和性に基づき、ファージミドベクターが使用され、これはDNAの操作を簡素化する。LowmanおよびWells(1991)Methods:A companion to Methods in Enzymology 3:205−0216。
【0062】
「ファージミド」は、細菌の複製起点(例えば、Co1E1)とバクテリオファージの遺伝子間領域の1つのコピーを有しているプラスミドベクターである。ファージミドは、任意の公知のバクテリオファージ(糸状バクテリオファージおよびラムダ型バクテリオファージを含む)に対して使用することができる。プラスミドにはまた、一般的には、抗生物質耐性のための選択マーカーが含まれるであろう。これらのベクターの中にクローニングされたDNAのセグメントは、プラスミドとして増殖させることができる。これらのベクターを保有している細胞がファージ粒子の生産に必要な遺伝子全てとともに提供されると、プラスミドの複製の態様が複製サイクルを回転させるように変化して、プラスミドDNAの一方の鎖のコピーとパッケージファージ粒子が作製される。ファージミドは感染性ファージ粒子を形成する場合も、また非感染性ファージ粒子を形成する場合もある。この用語には、異種ポリペプチドがファージ粒子の表面上に提示されるように、遺伝子融合体として異種ポリペプチド遺伝子に連結したファージ外被タンパク質遺伝子またはその断片を含むファージミドが含まれる。
【0063】
用語「ファージベクター」は、異種遺伝子を含み、複製が可能なバクテリオファージの二本鎖の複製可能な形態を意味する。ファージベクターは、ファージの複製とファージ粒子の形成を可能にするファージの複製起点を有する。ファージは、M13、f1、fd、Pf3ファージのような糸状バクテリオファージまたはそれらの誘導体、あるいは、ラムダ、21、phi80、phi81、82、424、434などのラムダ型ファージまたはそれらの誘導体であることが好ましい。
【0064】
本明細書中で使用されるとき、「溶媒が接近しやすい位置(solvent accessible position)」は、抗体もしくは抗原結合断片の構造、構造の集合体、および/またはモデル化された構造に基づいて、分子(例えば、抗体特異的抗原)との溶媒の接近および/または接触に利用される可能性があるとして決定される、供給源である抗体または抗原結合断片の重鎖および軽鎖の可変領域中のアミノ酸残基の位置をいう。これらの位置は、通常、CDRの中、およびタンパク質の外側に見られる。抗体または抗原結合断片の溶媒が接近しやすい位置は、本明細書中で定義される場合は、当該分野で公知の多数のアルゴリズムのうちの任意のものを使用して決定され、好ましくは、溶媒が接近しやすい位置は、抗体の3次元モデルから座標を使用して、好ましくは、InsightIIプログラム(Accelrys、San Diego、CA)のようなコンピュータープログラムを使用して決定される。溶媒が接近しやすい位置はまた、当該分野で公知のアルゴリズムを使用して決定することもできる(例えば、LeeおよびRichards(1971)J.Mol.Biol.55、379、およびConnolly(1983)J.Appl.Cryst.16、548を参照のこと)。溶媒が接近しやすい位置の決定は、抗体から得られたタンパク質のモデル化および3次元構造情報に好適なソフトウェアを使用して行うことができる。これらの目的のために利用できるソフトウェアとしては、SYBYL Biopolymer Moduleソフトウェア(Tripos Associates)が挙げられる。一般的には、好ましくは、アルゴリズム(プログラム)に使用者がサイズパラメーターを入力する必要がある場合には、計算に使用されるプローブの「サイズ」は、約1.4オングストローム以下の半径に設定される。加えて、パーソナル・コンピュータ用のソフトウェアを使用する溶媒が接近しやすい領域および範囲の決定は、Pacios(1994)Comput.Chem.18(4):377−386によって記載されている。
【0065】
II.詳細な説明
補体は体の防御において重要な役割を果たしており、免疫系の他の成分とともに、体への病原体の侵入から個体を防御する。しかしながら、適切に活性化または制御されなければ、補体もまた宿主組織に対して損傷を引き起こす可能性がある。補体の不適切な活性化は、補体が関係している疾患または障害(例えば、免疫複合体および自己免疫疾患)ならびに様々な炎症状態(補体によって媒介される炎症性の組織損傷を含む)と呼ばれる様々な疾患の病状に関係している。補体が関係している疾患の病状は様々であり、これには、長期間または短期間の補体活性化、カスケード全体の活性化、複数のカスケードのうちの1つだけ(例えば、古典経路または第2経路)の活性化、カスケードのうちのいくつかの成分だけの活性化などが関係している可能性がある。いくつかの疾患においては、補体断片の補体生物学的活性が組織の損傷および疾患を生じる。したがって、補体の阻害剤は治療的有効性が高い。第2経路の選択的阻害剤は、古典経路による血液からの病原体および他の微生物のクリアランスがまだ損なわれていないので、特に有用であろう。
【0066】
本発明のD因子アンタゴニストは、補体が関係している眼の状態(その病状に補体(補体の古典経路と第2経路、特に、第2経路を含む)が関係している全ての眼の状態および疾患であって、例えば、黄斑変性疾患(例えば、加齢性黄斑変性(AMD)の全ての段階(乾性形態と湿性形態(非滲出型と滲出型)を含む)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血関連網膜症、眼内炎、ならびに他の眼内血管新生疾患、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、および網膜血管新生の予防および治療に有用である。補体が関係している眼の状態の好ましいグループには、加齢性黄斑変性(AMD)(非滲出型(湿性)AMDおよび滲出型(乾性)AMDを含む)、脈絡膜新生血管(CNV)、糖尿病性網膜症(DR)、ならびに眼内炎が含まれる。
【0067】
AMDは、黄斑の加齢性の変性である。これは、60歳を超えた個体における不可逆的な視力障害の主原因である。AMDには2種類のタイプ:非滲出性(乾性)AMDと滲出性(湿性)AMDがある。乾性、すなわち、非滲出性の形態には、中心網膜(黄斑)の基部にある網膜色素上皮(RPE)の萎縮性変化および肥大性変化、ならびにRPE上への蓄積(ドルーゼ)が含まれる。非滲出性AMDの患者は、AMDの湿性(すなわち、滲出型)形態へと進行する可能性があり、ここでは、脈絡膜新生血管膜(CNVMs)と呼ばれる異常な血管が網膜の下に生じ、体液と血液が漏出し、最終的には網膜中および網膜下に失明にいたる円盤状の瘢痕が生じる。非滲出性AMD(これは、通常は滲出型AMDの前兆である)がより多く見られる。非滲出性AMDの状態は様々である;堅いドルーゼ、柔らかいドルーゼ、RPE地図状萎縮(geographic atrophy)、および色素クランピング(pigment clumping)が存在し得る。補体成分はAMDの初期にRPE上に蓄積し、ドルーゼドルーゼの主要な構成成分である。
【0068】
本発明は特に、カテゴリー3およびカテゴリー4のAMDを含むハイリスクAMDの治療に関する。カテゴリー3のAMDは、いずれの眼にも進行したAMDは存在せず、少なくとも一方の眼が20/32以上の視力を有しており、少なくとも1つの大きなドルーゼ(例えば、125μm)、広範囲に及ぶ(ドルーゼの面積によって測定される場合)中程度のドルーゼ、または地図状萎縮(GA)(これには黄斑の中心部は含まれない)、あるいはこれらの任意の組み合わせが伴うことを特徴とする。カテゴリー3のAMD(これは、まだ「乾性」AMDと考えられる)は脈絡膜新生血管(CNV)に転化するリスクが高い。
【0069】
カテゴリー4のハイリスクAMD(「湿性」AMDと分類される)は、20/32以上の視力と、指標となる眼には進行していない(no advanced)AMDが存在する(GAに黄斑の中心または脈絡膜新生血管の特徴が含まれている)ことを特徴とする。もう一方の(fellow)眼は、進行したAMD、またはAMD黄斑変性症が原因である20/32未満の視力を特徴とする。通常、ハイリスクAMDは、治療しなければ、迅速に脈絡膜新生血管(CNV)へと、カテゴリー1または2(ハイリスクではない)のAMDの進行速度の約10〜30倍の速度で進行する。
【0070】
D因子アンタゴニストは、CNVへのAMD(特に、カテゴリー3またはカテゴリー4のAMD)の進行の予防、および/または、罹患していないかもしくは罹患の程度の低いもう一方の眼のAMDまたはCNVの発症/進行の予防に特に有用性が見出されている。この状況では、用語「予防」は、疾患の進行の完全なまたは部分的なブロックおよび進行速度を遅らせること、ならびに、疾患のより重篤な形態の発症(unset)を遅らせることを含むように、最も広い意味で使用される。ハイリスク(カテゴリー4)のAMDまたはCMVを発症するか、またはそれへと進行するリスクが高い患者は、本発明のこの態様によって特に利点が得られる。
【0071】
補体H因子(CFH)多形がAMDおよび/またはCNVを発症する個体のリスクと関係があることは公知である。CFHの中での突然変異は補体を活性化させる可能性があり、これは次いで、AMD/CNVに至る場合がある。補体H因子(CFH)多形がAMDの寄与リスクの50%を占めることが最近報告されている(Kleinら、Science 308:385−9(2005))。CFHの一般的なハプロタイプ(halpotype)(HF1/CFH)は、個体を加齢性黄斑変性にかかりやすくする素因であることが明らかになっている(Hagemanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、102(2):7227−7232(2005))。AMDは常染色体優性形質として分離されており、マーカーD1S466〜D1S413間の染色体1q25−q31に、約3.20の最大ロッドスコアで(Kleinら、Arch Opthalmol.116(8):1082−9(1998);Majewskiら、Am.J.Hum.Genet.73(3):540−50(2003);Seddonら、Am.J.Hum.Genet.73(4):780−90(2003);Weeksら、Am.J.Ophthalmol.132(5):682−92(2001);Iyengarら、Am.J.Hum.Genet.74(1):20−39(2004));マーカーD12S1391〜D2S1384間の染色体2q3/2q32に、2.32/2.03の最大ロッドスコアで(Seddonら、前出);マーカーD12S1300〜D12S1763間の3p13に、2.19の最大ロッドスコアで(Majewskiら、前出;Schickら、Am.J.Hum.Genet.72(6):1412−24(2003));マーカーD6S1056〜DS249間の6q14に、3.59/3.17の最大ロッドスコアで(Kniazevaら、Am.J.Ophthlmol.130(2):197−202(2000));マーカーD9S934にある9q33に、2.06の最大ロッドスコアで(Mejwskiら、前出);マーカーD10S1230にある10q26に、3.06最大ロッドスコアで(Majewskiら、前出;Iyengarら、前出;Kenealyら、Mol.Vis.10:57−61(2004);マーカーD17S928にある17q25に、3.16の最大ロッドスコアで(Weeksら、前出);および、マーカーD22S1045にある22q12に、2.0の最大ロッドスコアで(Seddonら、前出)疾患遺伝子マッピングされている。したがって、遺伝子スクリーニングは予防的治療(より重篤な形態への(例えば、AMDからCNVへの)疾患の進行の予防を含む)のための特に良好な候補である患者を同定する重要な部分である。
【0072】
1.抗D因子抗体
本明細書中の本発明には、抗D因子抗体の生産と使用が含まれる。抗体の代表的な作製方法が以下の節でさらに詳細に記載される。
【0073】
抗D因子抗体は、哺乳動物種由来のD因子抗原を使用して選択される。抗原がヒトD因子であることが好ましい。しかしながら、他の種に由来するD因子(例えば、マウスD因子)もまた標的抗原として使用できる。様々な哺乳動物種に由来するD因子抗原を天然の供給源から単離することができる。他の実施形態においては、抗原は組み換えによって生産されるか、または、当該分野で公知の他の合成方法を使用して作成される。
【0074】
選択された抗体は、通常は、D因子抗原に対して十分に強い結合親和性を有するであろう。例えば、抗体は、約5nM以下、好ましくは約2nM以下、より好ましくは約500pM以下のK値でヒトD因子に結合し得る。抗体親和性は、例えば、表面プラズモン共鳴に基づくアッセイ(例えば、実施例に記載されるBIAcoreアッセイ);酵素結合免疫中着アッセイ(ELISA);および競合アッセイ(例えば、RIA’s)によって決定され得る。
【0075】
また、抗体は、例えば、治療薬としてのその有効性を評価するための、他の生物学的活性のアッセイにも供することができる。そのようなアッセイは当該分野で公知であり、標的抗原と抗体について意図される用途に応じて様々である。例としては、HUVEC阻害アッセイ(以下の実施例に記載される);腫瘍細胞増殖阻害アッセイ(例えば、WO89/06692号に記載されている);抗体依存性細胞傷害性(ADCC)および補体媒介性細胞傷害性(CDC)アッセイ(米国特許第5,500,362号);ならびに、D因子アンタゴニストについて以下に記載されるインビトロおよびインビボでのアッセイが挙げられる。
【0076】
目的の抗原上の特定のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするためには、日常的に行われているクロス・ブロッキング(cross−blocking)アッセイ(例えば、Antibodies、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Ed HarlowおよびDavid Lane(1988)に記載されているアッセイ)を行うことができる。あるいは、エピトープマッピング(例えば、Champeら(1995)J.Biol.Chem.270:1388−1394に記載されている)を、抗体が目的のエピトープに結合するかどうかを決定するために行うことができる。
【0077】
好ましい実施形態においては、抗D因子抗体は特有のファージディスプレイアプローチを使用して選択される。このアプローチには単一のフレームワーク鋳型に基づく合成の抗体ファージライブラリーの作製、可変ドメインの中での十分な多様性の設計、多様化した可変ドメインを有しているポリペプチドのディスプレイ、標的D因子抗原に対して高い親和性を有している候補抗体の選択、および選択された抗体の単離が含まれる。
【0078】
ファージディスプレイ方法の詳細は、例えば、2003年12月11日に公開されたWO03/102157号に見ることができる。
【0079】
1つの態様においては、抗体ライブラリーは、抗体可変ドメインの少なくとも1つのCDRの中にある溶媒が接近しやすい位置および/または多様性に富む位置を突然変異させることによって作製することができる。CDRのいくつかまたは全てを、本明細書中に提供される方法を使用して突然変異させることができる。いくつかの実施形態においては、CDRH1、CDRH2、およびCDRH3中の複数の位置を突然変異させて1つのライブラリーを形成させることによって、または、CDRL3およびCDRH3中の複数の位置を突然変異させて1つのライブラリーを形成させること、または、CDRL3とCDRH1、CDRH2とCDRH3の中の複数の位置を突然変異させて1つのライブラリーを形成させることにより、多様性抗体ライブラリーを作製することが好ましい場合がある。
【0080】
例えば、CDRH1、CDRH2、およびCDRH3の溶媒が接近しやすい位置および/または多様性に富む位置の中に複数の突然変異を有している抗体可変ドメインのライブラリーを作製することができる。CDRL1、CDRL2、およびCDRL3の中に複数の突然変異を有している別のライブラリーを作製することができる。これらのライブラリーはまた、所望される親和性のバインダーを作製するために、互いに組み合わせて使用することもできる。例えば、標的抗原に対する結合についての重鎖ライブラリーの1回以上の選択の後、軽鎖ライブラリーを、バインダーの親和性を増大させるためのさらなる回の選択のために、重鎖バインダーの集団の中に入れることができる。
【0081】
好ましくは、ライブラリーは、重鎖配列の可変領域のCDRH3領域中での、変異体アミノ酸でのもとのアミノ酸の置換によって作製される。得られるライブラリーには複数の抗体配列が含まれ得る。ここでは、配列多様性は、主に、重鎖配列のCDRH3領域の中にある。
【0082】
1つの態様においては、ライブラリーは、ヒト化抗体4D5配列、またはヒト化抗体4D5配列のフレームワークアミノ酸の配列の状況において作製される。好ましくは、ライブラリーは、DVKコドンセットによってコードされるアミノ酸での重鎖の少なくとも残基95〜100aの置換によって作製される。ここでは、DVKコドンセットは、これらの位置の全ての変異体アミノ酸の1つのセットをコードするために使用される。これらの置換の作製に有用なオリゴヌクレオチドセットの一例には、配列(DVK)が含まれる。いくつかの実施形態においては、ライブラリーは、DVKコドンセットとNNKコドンセットの両方によってコードされるアミノ酸での、少なくとも残基95〜100aの置換によって作製される。これらの置換の作製に有用なオリゴヌクレオチドセットの例には、配列(DVK)(NNK)が含まれる。別の実施形態においては、ライブラリーは、DVKコドンセットとNNKコドンセットコドンセットの両方によってコードされるアミノ酸での、少なくとも残基95〜100aの置換によって作製される。これらの置換の作製に有用なオリゴヌクレオチドセットの一例には、配列(DVK)(NNK)が含まれる。これらの置換の作製に有用なオリゴヌクレオチドセットの別の例には配列(NNK)が含まれる。適切なオリゴヌクレオチド配列の他の例は、本明細書中に記載される基準にしたがって当業者によって決定され得る。
【0083】
別の実施形態においては、様々なCDRH3のデザインが、高親和性バインダーを単離するため、様々なエピトープに対するバインダーを単離するために利用される。このライブラリーの中で作製されたCDRH3の長さの範囲は11〜13アミノ酸であるが、これとは異なる長さもまた作製され得る。H3多様性は、NNK、DVK、およびNVKコドンセット、ならびに、N末端および/またはC末端でのより限定された多様性を使用することにより拡大させることができる。
【0084】
多様性はまた、CDRH1およびCDRH2の中に作製することもできる。CDR−H1およびH2の多様性のデザインは、以前のデザインよりも自然界での多様性にさらにきっちりと適合する多様性に焦点を合わせた修飾を用いる、記載されるような天然の抗体レパートリーを模倣するための標的化のストラテジーにしたがう。
【0085】
CDRH13の中での多様性については、様々なH3の長さを有している複数のライブラリーを別々に構築し、その後、標的抗原に対するバインダーについて選択するために合わせて1つにすることができる。複数のライブラリーは、プールすることができ、以前に記載されており、本明細書中に記載されるように、固体支持体選択と溶液選別方法を使用して選別することができる。複数の選別方法論を使用することができる。例えば、1つのバリエーションには、固体に結合した標的についての選別、それに続く、融合ポリペプチド上に存在し得るタグ(例えば、抗gDタグ)についての選別、その後の、固体に結合した標的についての別の選別が含まれる。あるいは、ライブラリーは、固体表面に結合した標的について最初に選別され得、溶離したバインダーが、その後、標的抗原の濃度を低下させつつ、溶液相の結合を使用して餞別される。様々な選別方法の組み合わせを利用することにより、高度に発現された配列だけの選択の最小化が提供され、多数の様々な高親和性クローンの選択が提供される。
【0086】
標的D因子抗原に対する高親和性バインダーをライブラリーから単離することができる。H1/H2領域の中の多様性を制限することにより、縮重性は約10倍〜10倍減少し、さらなるH3多様性がより高親和性のバインダーを提供することを可能にする。CDRH3の中に様々なタイプの多様性を有しているライブラリーを利用する(例えば、DVKまたはNVTを利用する)ことにより、標的抗原の様々なエピトープに結合し得るバインダーの単離が提供される。
【0087】
別の実施形態においては、CDRH1、CDRH2、およびCDRH3領域の中に多様性を有しているライブラリー(1つ以上)が作製される。この実施形態においては、CDRH3の中の多様性は、様々な長さのH3領域を使用し、主要なコドンセットXYZおよびNNKまたはNNSを使用して作製される。複数のライブラリーが個々のオリゴヌクレオチドを使用して形成され得、プールされ得るか、またはオリゴヌクレオチドは、ライブラリーのサブセットを形成させるためにプールされ得る。この実施形態の複数のライブラリーは、固体に結合したした標的に対して選別することができる。複数回の選別によって単離されたクローンは、ELISAアッセイを使用して特異性および親和性についてスクリーニングすることができる。特異性については、クローンは所望される標的抗原ならびに他の非標的抗原に対してスクリーニングすることができる。標的NRP1抗原に対するこれらのバインダーは、その後、溶液結合競合ELISAアッセイまたはスポット競合アッセイにおいて親和性についてスクリーニングすることができる。高親和性バインダーは、上記に記載されたように調製されたXYZコドンセットを利用してライブラリーから単離することができる。これらのバインダーは、細胞培養物中で高収率で抗体または抗原結合断片として容易に生産することができる。
【0088】
いくつかの実施形態においては、CDRH3領域の長さに関して、より大きな多様性を有しているライブラリーを生じさせることが所望され得る。約7〜19アミノ酸までの範囲のCDRH3領域を有しているライブラリーを作製することが所望され得る。
【0089】
これらの実施形態のライブラリーから単離された高親和性バインダーは、細菌および真核生物細胞培養物の中で高収率で容易に生産される。ベクターは、gDタグ、ウイルス外被タンパク質成分配列のような配列を容易に除去しおよび/または高収率での全長抗体または抗原結合断片の生産がもたらされるように定常領域配列の中に加えるように設計され得る。
【0090】
CDRH3の中に突然変異を有しているライブラリーは、他のCDRの変異体バージョン(例えば、CDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、および/またはCDRH2)を含むライブラリーと組み合わせることができる。したがって、例えば1つの実施形態においては、CDRH3ライブラリーは、予め決定されたコドンセットを使用して28、29、30、31、および/または32位に変異体アミノ酸を有しているヒト化4D5抗体配列の状況において作製されたCDRL3ライブラリーと組み合わせられる。別の実施形態においては、CDRH3に突然変異を有しているライブラリーは、変異体CDRH1および/またはCDRH2重鎖可変ドメインを含むライブラリーと組み合わせることができる。1つの実施形態においては、CDRH1ライブラリーは、28、30、31、32、および33位に変異体アミノ酸を有しているヒト化抗体4D5配列を用いて作製される。CDRH2ライブラリーは、予め決定されたコドンセットを使用して50、52、53、54、56、および58位に変異体アミノ酸を有しているヒト化抗体4D5の配列を用いて作製され得る。
【0091】
ファージライブラリーから作製された抗D因子抗体は、もとの抗体を上回る改善された物理的、化学的、および/または生物学的特性を有する抗体突然変異体を生じるようにさらに修飾することができる。使用されるアッセイが生物学的活性のアッセイである場合には、抗体突然変異体は、好ましくは、選択されたアッセイにおいて生物学的活性を有し、これはそのアッセイにおけるもとの抗体の生物学的活性よりも、少なくとも約10倍大きい、好ましくは少なくとも約20倍大きい、より好ましくは少なくとも約50倍大きい、多くの場合は少なくとも約100倍または200倍大きい。例えば、抗D因子抗体突然変異体は、好ましくは、NRPに対して結合親和性を有し、これは、もとの抗D因子抗体(例えば、図5に示される抗体のうちのいずれか、具体的には、抗体20D12)の結合親和性よりも少なくとも約10倍強い、好ましくは少なくとも約20倍強い、より好ましくは、少なくとも約50倍強い、多くの場合は少なくとも約100倍または200倍強い。
【0092】
抗体突然変異体を作製するためには、1つ以上のアミノ酸の変更(例えば、置換)が、もとの抗体の1つ以上の超可変領域の中に導入される。あるいは、または加えて、フレームワーク領域残基の1つ以上の変更(例えば、置換)がもとの抗体の中に導入され得、ここでは、これらは第2の哺乳動物種に由来する抗原に対する抗体突然変異体の結合親和性の改善を生じる。修飾されるフレームワーク領域残基の例としては、抗原に直接非共有結合するもの(Amitら(1986)Science 233:747−753);CDRの立体構造と相互作用する/立体構造に影響を与えるもの(Chothiaら(1987)J.Mol.Biol.196:901−917);および/またはV−V界面に関与するもの(EP 239 400B1)が挙げられる。特定の実施形態においては、1つ以上のそのようなフレームワーク領域残基の修飾は、第2の哺乳動物種に由来する抗原に対する抗体の結合親和性の増強を生じる。例えば、約1個から約5個のフレームワーク残基が本発明のこの実施形態において変化させられ得る。多くの場合には、これは、超可変領域残基がいずれも変化させられていない場合でもなお、前臨床試験での使用に好適な抗体突然変異体を得るために十分であり得る。しかしながら、通常は、抗体突然変異体にはさらなる超可変領域の変更が含まれるであろう。
【0093】
変更される超可変領域残基は無作為に変化させることができ、特に、もとの抗体の最初の結合親和性がそのような無作為に生産された抗体突然変異体である場合に、容易にスクリーニングできる。
【0094】
そのような抗体突然変異体を作製するための1つの有用な手順は「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる(CunninghamおよびWells(1989)Science 244:1081−1085)。ここでは、1つ以上の超可変領域残基が、第2の哺乳動物種に由来する抗原とのアミノ酸の相互作用に影響を与えるアラニンまたはポリアラニン残基によって置き換えられる。置換に対して機能的感度を示しているこれらの超可変領域残基は、その後、置換部位に、もしくは置換部位についてさらなるまたは他の突然変異を導入することによって詳細に調べられる。したがって、アミノ酸配列のバリエーションを導入するための部位は予め決定されるが、突然変異自体の性質は予め決定される必要はない。この方法で生産されたala突然変異体は、本明細書中に記載されるようにそれらの生物学的活性についてスクリーニングされる。
【0095】
通常、当業者は、「好ましい置換基」の表題で以下に示されるような保存的置換を用いて開始するであろう。そのような置換が生物学的活性(例えば、結合親和性)において変化を生じる場合には、以下の表において、またはアミノ酸のクラスに関して以下にさらに記載されるように「代表的な置換基」と命名されたさらなる置換変化が導入され、生成物がスクリーニングされる。好ましい置換は以下の表に列挙される。
【0096】
【表1】

抗体の生物学的特性のなおさらに実質的な修飾は、(a)置換の領域内にあるポリペプチド骨格の構造(例えば、シートまたはヘリックス構造)、(b)標的部位にある分子の電荷または疎水性、あるいは(c)側鎖のかさ、を維持することに対するそれらの作用が有意に異なる置換基を選択することによって行われる。自然界に存在している残基は共通する側鎖特性に基づいて複数のグループに分類される。
【0097】
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性親水性:cys、ser、thr、asn、gln;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:his、lys、arg;
(5)鎖の方向性に影響を与える残基:gly、pro;および
(6)芳香族:trp、tyr、phe。
【0098】
非保存的置換には、別のクラスをこれらのクラスのうちの1つのメンバーで交換することを必然的に伴うであろう。
【0099】
別の実施形態においては、修飾のために選択された部位は、ファージディスプレイを使用して親和性が発達する(上記を参照のこと)。
【0100】
アミノ酸配列突然変異体をコードする核酸分子は、当該分野で公知の様々な方法によって調製される。これらの方法としては、もとの抗体の以前に調製された突然変異体または非突然変異体バージョンの、オリゴヌクレオチド媒介性(または部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、およびカセット突然変異誘発が挙げられるが、これらに限定されない。突然変異を作製するための好ましい方法は部位特異的突然変異誘発である(例えば、Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488を参照のこと)。
【0101】
特定の実施形態においては、抗体突然変異体は、単一の置換された超可変領域残基のみを有するであろう。他の実施形態においては、もとの抗体の超可変領域残基のうちの2つ以上が置換されているであろう(例えば、約2〜約10個までの超可変領域置換)。
【0102】
通常は、改善された生物学的特性を有している抗体突然変異体は、もとの抗体の重鎖または軽鎖のいずれかの可変ドメインのアミノ酸配列と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性または類似性を有しているアミノ酸配列を有するであろう。この配列に関する同一性または類似性は、本明細書中では、配列をアラインメントし、必要である場合にはギャップを導入して、最大のパーセント配列同一性を得た後の、もとの抗体残基と同一である(すなわち、同じ残基)または類似している(すなわち、共通する側鎖特性に基づく同じグループに由来するアミノ酸残基、上記を参照のこと)、候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。可変ドメインの外側にある抗体配列へのN末端、C末端、または内部伸張、欠失、あるいは挿入はいずれも、配列同一性または類似性に影響を与えないと解釈されるべきである。
【0103】
抗体突然変異体の生産後、もとの抗体と比較した分子の生物学的活性が決定される。上記のように、これには、抗体の結合親和性および/または他の生物学的活性の決定が含まれ得る。本発明の好ましい実施形態においては、抗体変異体のパネルが調製され、抗原(例えば、NRP1)またはその断片に対する結合親和性についてスクリーニングされる。この最初のスクリーニングによって選択された抗体突然変異体のうちの1つ以上が、状況に応じて、結合親和性が増大したこの抗体突然変異体が実際に(例えば、前臨床試験に)有用であることを確認するために、1つ以上のさらなる生物学的活性のアッセイに供される。
【0104】
そのように選択された抗体突然変異体は、多くの場合には、抗体の意図される用途に応じたさらなる修飾に供され得る。そのような修飾としては、アミノ酸配列のさらなる変更、異種ポリペプチドに対する融合、および/または以下に詳細に述べられるもののような共有結合による修飾を挙げることができる。アミノ酸配列の変更に関しては、代表的な修飾は上記で詳細に述べられる。例えば、抗体突然変異体の適切な立体構造の維持には関与していない任意のシステイン残基もまた、分子の酸化能力を改善し、異常な架橋を防ぐために、通常はセリンで置換され得る。逆に、システイン結合は、その安定性を改善するために抗体に付加され得る(特に、抗体がFc断片のような抗体断片である場合)。アミノ酸突然変異体の別のタイプは、変更されたグリコシル化パターンを有する。これは、抗体の中に見られる1つ以上の炭水化物部分を欠失させること、および/または抗体の中には存在しない1つ以上のグリコシル化部分を付加することによって行われ得る。抗体のグリコシル化は、通常、N結合またはO結合のいずれかである。N結合は、アスパラギン残基の側鎖に対する炭水化物部分の結合をいう。トリペプチド配列であるアスパラギン−X−セリンとアスパラギン−X−スレオニン(式中、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖に対する炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。したがって、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在することにより、潜在的グリコシル化部位が作製される。O結合グリコシル化は、糖であるN−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうちの1つの、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的には、セリンまたはスレオニン)に対する結合をいうが、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリジンもまた使用され得る。抗体に対するグリコシル化部位の付加は、1つ以上の上記トリペプチド配列を含むようにアミノ酸配列を変化させることによって便利に行われる(N結合グリコシル化部位について)。変更はまた、もとの抗体の配列に対する1つ以上のセリンもしくはスレオニン残基の付加またはそれらによる置換によっても行われ得る(O結合グリコシル化部位について)。
【0105】
本発明の抗D因子抗体は、容易に入手できる技術と材料を使用して組み換えによって生産することができる。
【0106】
抗D因子抗体の組み換え生産のためには、それをコードする核酸が単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)のため、または発現のために複製可能ベクターに挿入される。抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードするDNAに特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離または合成される。多くのベクターを利用できる。一般的には、ベクター成分には、以下のうちの1つ以上が含まれるがこれらに限定されない:シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロオーター、および転写終結配列。
【0107】
(i)シグナル配列成分
本発明の抗体は、組み換えによって直接生産できるだけではなく、異種ポリペプチド(これは、シグナル配列、または成熟タンパク質もしくはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有している他のポリペプチド)を持つ融合ポリペプチドとしても生産できる。選択される異種シグナル配列は、好ましくは、宿主細胞により認識され、プロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。本来の抗体シグナル配列を認識せず、プロセシングしない原核生物宿主細胞については、シグナル配列列は、選択された原核生物シグナル配列(例えば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、または熱安定性エンテロトキシンIIリーダーのグループに由来する)によって置換される。酵母からの分泌については、本来のシグナル配列は、例えば、酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー(SaccharomycesおよびKluyveromycesのα因子リーダーを含む)、または酸性ホスファターゼリーダー、C.albicansグルコアミラーゼリーダー、あるいは、WO90/13646号に記載されているシグナルによって置換され得る。哺乳動物細胞での発現においては、哺乳動物のシグナル配列、ならびにウイルスの分泌リーダー(例えば、単純ヘルペスgDシグナル)を利用できる。そのような先行領域のDNAは、抗体をコードするDNAに対してリーディングフレーム内になるように連結される。
【0108】
(ii)複製起点成分
発現ベクターとクローニングベクターにはいずれも、1つ以上の選択された宿主細胞の中でのベクターの複製を可能にする核酸配列が含まれる。一般的には、クローニングベクターにおいては、この配列は宿主の染色体DNAとは無関係にベクターが複製することを可能にするものであり、これには複製起点または自律複製配列が含まれる。そのような配列は、様々な細菌、酵母、およびウイルスについて周知である。プラスミドpBR322に由来する複製起点がほとんどのグラム陰性細菌に適しており、2μプラスミド起点が酵母に適しており、様々なウイルス起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV、またはBPV)が哺乳動物細胞中のクローニングベクターに有用である。一般的には、複製起点成分は哺乳動物発現ベクターには必要ない(SV40起点は通常、これに初期プロモーターが含まれるので、単独で使用され得る)。
【0109】
(iii)選択遺伝子成分
発現ベクターとクローニングベクターには選択遺伝子が含まれる場合があり、これは選択マーカーとも呼ばれる。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質または他の毒素(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、またはテトラサイクリン)に対する耐性を付与する、(b)栄養要求性欠損を補う、あるいは(c)複合培地からは利用できない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする(例えば、BacilliについてはD−アラニンラセマーゼをコードする遺伝子)。
【0110】
選択方式の一例では、宿主細胞の増殖を停止させる薬物が利用される。異種遺伝子でうまく形質転換されたこれらの細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を生産し、それにより、選択レジュメを生き残る。そのような優性選択の例では、薬物であるネオマイシン、マイコフェノール酸、およびハイグロマイシンが使用される。
【0111】
哺乳動物細胞に好適な選択マーカーの別の例は、抗体核酸を取り込むための細胞成分(例えば、DHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン−Iおよび−II、好ましくは、霊長類のメタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなど)の同定を可能にするものである。
【0112】
例えば、DHFR選択遺伝子で形質転換された細胞は、DHFRの競合アンタゴニストであるメトトレキセート(Mtx)を含む培養培地中で全ての形質転換体を培養することによって最初に同定される。適切な宿主細胞は、野生型DHFRが使用される場合には、DHFR活性が欠損しているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0113】
あるいは、抗体である野生型DHFRタンパク質をコードするDNA配列で形質転換されたか、または別の選択マーカー(例えば、アミノグリコシド3’−ホスホトランスフェラーゼ(APH))と一緒に同時形質転換された宿主細胞(特に、内因性DHFRを含む野生型宿主)は、選択マーカーについての選択試薬(例えば、アミノグリコシド性抗生物質、例えば、カナマイシン、ネオマイシン、またはG418)を含む培地の中での細胞増殖により選択することができる。米国特許第4,965,199号を参照のこと。
【0114】
酵母において使用される適切な選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7の中に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcombら(1979)Nature 282:39)。trp1遺伝子は、トリプトファン中で増殖する能力が欠失している酵母の突然変異株(例えば、ATCC No.44076またはPEP4−1)についての選択マーカーを提供する。Jones(1977)Genetics 85:12。それにより、酵母の宿主細胞ゲノム中のtrp1損傷の存在は、トリプトファンが存在しない条件下での増殖により形質転換体を検出するための有効な環境を提供する。同様に、Leu2欠損酵母株(ATCC 20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を有している公知のプラスミドによって補われる。
【0115】
加えて、1.6μmの環状プラスミドpKD1に由来するベクターは、Kluyveromyces酵母の形質転換に使用できる。あるいは、組み換え体ウシキモシンの大規模生産のための発現システムが、K.lactisについて報告されている。Van den Berg(1990)Bio/Technology 8:135。Kluyveromycesの産業用株による成熟組み換え体ヒト血清アルブミンの分泌のための安定な多コピーの発現ベクターもまた開示されているFleerら(1991)Bio/Technology 9:968−975。
【0116】
(iv)プロモーター成分
発現ベクターとクローニングベクターには、通常、宿主生物によって認識され、抗体核酸に対して作動可能に連結された1つのプロモーターが含まれる。プロモーターは、原核細胞宿主とともに使用される好適なプロモーターとしては、phoAプロモーター、β−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、ならびにtacプロモーターのようなハイブリッドプロモーターが挙げられる。しかしながら、他の公知の細菌プロモーターも好適である。細菌系で使用されるプロモーターにはまた、抗体をコードするDNAに対して作動可能に連結されたシャイン−ダルガーノ(SD)配列も含まれるであろう。
【0117】
真核生物細胞についてのプロモーター配列も知られている。事実全ての真核生物遺伝子が、転写が開始される部位からおよそ25〜30塩基上流に位置するATを多く含む領域を有する。多くの遺伝子の転写開始部位から70〜80塩基上流に見られる他の配列は、1つのCNCAAT領域(式中、Nどの核酸でもよい)である。ほとんどの真核生物遺伝子の3’末端には、コード配列の3’末端にポリAテイルを付加するためのシグナルであり得るAATAAA配列がある。これらの全ての配列は、真核生物発現ベクターに適切に挿入される。
【0118】
酵母宿主とともに使用される適切なプロモーター配列の例としては、3−ホスホグリセレートキナーゼのためのプロモーター、または他の解糖酵素(例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、およびグルコキナーゼ)のためのプロモーターが挙げられる。
【0119】
増殖条件によって制御される転写のさらなる利点を有している誘導性プロモーターである他の酵母プロモーターは、アルコールデハイドロゲナーゼ2、イソチトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関係がある分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、およびマルトースとガラクトースの利用に関与している酵素のプロモーター領域である。酵母発現に使用される好適なベクターとプロモーターは、EP73,657号にさらに記載されている。酵母エンハンサーもまた酵母プロモーターとともに好都合に使用される。
【0120】
哺乳動物の宿主細胞の中でのベクターからの抗体の転写は、ウイルス(例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、ニワトリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスそして最も好ましくは、シミアンウイルス40(SV40))のゲノムから得られるプロモーターによって、異種哺乳動物プロモーター(例えば、アクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーター)によって、熱ショックプロモーターによって、そのようなプロモーターが宿主細胞系と適合するとの条件で制御される。
【0121】
SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、SV40ウイルス複製起点もまた含むSV40制限酵素断片として簡単に得られる。ヒトのサイトメガロウイルスの前初期プロモーターは、HindIII E制限酵素処理断片として簡単に得られる。ベクターとしてウシパピローマウイルスを使用する哺乳動物宿主の中でDNAを発現させるための系は、米国特許第4,419,446号に記載されている。この系の修飾は米国特許第4,601,978号に記載されている。単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの制御下での、マウス細胞中でのヒトβ−インターフェロンcDNAの発現については、Reyersら(1982)、Nature、297:598−601もまた参照のこと。あるいは、ラウス肉腫ウイルス長末端反復をプロモーターとして使用できる。
【0122】
(v)エンハンサーエレメント成分
本発明の抗体をコードするDNAの高等真核生物細胞による転写は、多くの場合、そのベクターの中にエンハンサー配列を挿入することによって増大する。哺乳動物の遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテイン、インシュリン)に由来する多くのエンハンサー配列が、現在知られている。しかしながら、典型的には、真核生物細胞ウイルス由来のエンハンサーが使用されるであろう。例として、複製起点(100〜270bp)の後期側(late side)にあるSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側にあるポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。真核生物細胞のプロモーターの活性化のためのエンハンスエレメントについては、Yaniv(1982)、Nature、297:17−18(1982))もまた参照のこと。このエンハンサーはベクターの中で、抗体をコードする配列の5’位置または3’位置でスプライシングされ得るが、プロモーターから5’の位置に配置されることが好ましい。
【0123】
(vi)転写終結成分
真核生物宿主細胞において使用される発現ベクター(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、または他の多細胞生物由来の有核細胞)には、転写の終結のため、mRNAの安定化のために必要な配列もまた含まれるであろう。このような配列は、通常、真核生物もしくはウイルスのDNAまたはcDNAの5’非翻訳領域、場合によっては、3’非翻訳領域から得ることができる。これらの領域には、抗体をコードするmRNAの非翻訳部分の中にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントが含まれる。1つの有用な転写終結成分は、ウシ成長ホルモンのポリアデニル化領域である。WO94/11026および本明細書中に開示される発現ベクターを参照のこと。
【0124】
(vii)宿主細胞の選択と形質転換
本明細書中のベクター中でのDNAのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、上記に記載された原核生物細胞、酵母細胞、または高等真核生物細胞である。この目的に好適な原核生物としては、グラム陰性微生物またはグラム陽性微生物のような真正細菌、例えば、腸内細菌(例えば、Escherichia(例えば、E.coli)、Enterobacter、Erwinia、Klebsiella、Proteus、Salmonella(例えば、Salmonella typhimurium)、Serratia(例えば、Serratia marcescans)、およびShigella、およびBacilli(例えば、B.subtilisおよびB.licheniformis(例えば、1989年4月12日に公開されたDD 266,710に開示されているB.licheniformis 41P)、Pseudomonas(例えば、P.aeruginosa)、ならびにStreptomycesが挙げられる。1つの好ましいE.coliクローニング宿主は、E.coli294(ATCC 31,446)であるが、E.coli B、E.coli X1776(ATCC 31,537)、およびE.coli W3110(ATCC 27,325)のような他の株も好適である。これらの例は限定でなく例示である。
【0125】
原核生物細胞に加えて、神格微生物(例えば、糸状菌または酵母)が抗体をコードするベクターに好適なクローニングまたは発現宿主である。Saccharomyces cerevisiae(すなわち、一般的なパン酵母)は、下等真核生物宿主微生物のうちで最も一般的に使用されている。しかしながら、以下のような多数の他の属、種、および株も一般に利用することができ、本明細書中で有用である:Schizosaccharomyces pombe;Kluyveromyces宿主(例えば、K.lactis、K.fragilis(ATCC 12,424)、K.bulgaricus(ATCC 16,045)、K.wickeramii(ATCC 24,178)、K.waltii(ATCC 56,500)、K.drosophilarum(ATCC 36,906)、K.thermotolerans、およびK.marxianus;yarrowia(EP 402,226);Pichia pastoris(EP 183,070);Candida;Trichoderma reesia(EP 244,234);Neurospora crassa;Schwanniomyces(例えば、Schwanniomyces occidentalis);ならびに、糸状菌(例えば、Neurospora、Penicillium、Tolypocladium、およびAspergillus宿主(例えば、A.nidulansおよびA.niger))。
【0126】
グリコシル化抗体の発現に好適な宿主細胞は多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞および昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株と変異体、以下のような宿主に由来する対応する許容される昆虫宿主細胞が同定されている:Spodoptera frugiperda(毛虫)、Aedes aegypti(蚊)、Aedes albopictus(蚊)、Drosophila melanogaster(ハエ)、およびBombyx mori。トランスフェクションのための様々なウイルス株(例えば、Autographa californica NPVのL−1変異体およびBombyx mori NPVのBm−5株)は公に入手することができ、そのようなウイルスは本発明に従って本明細書中でウイルスとして、特に、Spodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために、使用され得る。綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペツニア、トマト、およびタバコの植物細胞培養もまた宿主として利用できる。
【0127】
しかしながら、最大の関心は脊椎動物細胞に向けられており、培養物(組織培養物)中での脊椎動物細胞の増殖は日常的に行われている作業となってきた。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS−7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎臓細胞株(293、または懸濁培養中の増殖についてサブクローニングされた293細胞、Grahamら(1977)J.Gen Virol.36:59);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO、Urlaubら(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather(1980)Biol.Reprod.23:243−251);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76、ATCC CRL−1587);ヒト頚管腫瘍細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳腺腫瘍細胞(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら(1982)Annals N.Y.Acad.Sci.383:44−68);MRC5細胞;FS4細胞、およびヒト肝ガン細胞株(Hep G2)である。
【0128】
宿主細胞は、抗体生産のために上記の発現ベクターまたはクローニングベクターで形質転換され、プロモーターを誘導するため、形質転換体を選択するため、または所望される配列をコードする遺伝子を増幅するために適切に修飾された通常の栄養培地の中で培養される。
【0129】
(viii)宿主細胞の培養
本発明の抗体を生産するために使用される宿主細胞は様々な培地中で培養され得る。HamのF−10(Sigma)、Minimal Essential Medium(「MEM」、Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、およびDulbeccoの改変Eagle Medium(「D−MEM」、Sigma)などの商業的に入手することができる培地は、宿主細胞の培養に好適である。加えて、Hamら(1997)Meth.Enz.58:44(1979)、Barnesら(1980)、Anal.Biochem、102:255(1980);米国特許第4,767,704号、同第4,657,866号、同第4,927,762号、または同第5,122,469号;WO90/03430号;WO87/00195号;あるいは、米国再発行特許第30,985号に記載されている培地のうちの任意のものが、宿主細胞用の培養培地として使用され得る。これらの培地にはいずれも、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の成長因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、または上皮増殖因子)、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液(例えば、HEPES)、ヌクレオシド(例えば、アデノシンおよびチミジン)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン(GENTAMYCIN(商標)))、微量元素(最終濃度がマイクロモルの範囲で通常存在する無機化合物として定義される)、ならびにグルコースまたは同等のエネルギー源が補充され得る。いずれの他の必要な添加物も、当業者に公知であろう好適な濃度で含められ得る。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞について以前に使用された条件であり、当業者には明らかであろう。
【0130】
(ix)抗体精製
組み換え技術を使用する場合には、抗体を、細胞内で、ペリプラズム空間で生産させることができ、また、培地に直接分泌させることもできる。抗体が細胞内で生産される場合には、最初の工程として、特定の破片(宿主細胞または溶解した断片のいずれか)が、例えば、遠心分離または超遠心分離によって除去される。Carterら(1992)Bio/Technology 10:163−167には、E.coliのペリプラズム空間に分泌される抗体を単離するための手順が記載されている。簡単に説明すると、細胞ペーストが酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、およびフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)の存在下で約30分間かけて解凍される。細胞の破片は遠心分離によって除去することができる。抗体が培地中に分泌される場合は、そのような発現システムに由来する上清は、通常は、市販されているタンパク質濃縮フィルター(例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon限外濾過ユニット)を使用して最初に濃縮される。PMSFのようなプロテアーゼ阻害剤を、タンパク質分解を阻害するために上記工程のいずれかに含めることができ、抗生物質は、付随する混入物質の増殖を防ぐために含めることができる。
【0131】
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、およびアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製することができ、アフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技術である。親和性リガンドとしてのプロテインAの適性は、抗体の中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種およびイソ型に依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、またはγ4重鎖をベースとする抗体を精製するために使用することができる(Lindmarkら(1983)J.Immunol.Meth.62:1−13)。プロテインGは、全てのマウスイソ型およびヒトγ3に推奨される(Gussら(1986)EMBO J.5:15671575)。親和性リガンドがそれに対して結合するマトリックスは、最も多くの場合にはアガロースであるが、他のマトリックスを利用することもできる。機械的に安定なマトリックス(例えば、多孔質ガラス(controlled pore glass)またはポリ(スチレンジビニル)ベンゼン))は、アガロースを用いて得ることができるよりも早い流速と短い処理時間を可能にする。抗体にC3ドメインが含まれる場合は、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker、Phillipsburg、NJ)が精製に有用である。タンパク質精製のための他の技術(例えば、イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上でのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロース(SEPHAROSE(商標))上でのクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)上でのクロマトグラフィー、クロマト分画、SDS−PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿もまた、回収される抗体に応じて利用することができる。
【0132】
任意の予備的な精製工程の後、目的の抗体と混入物質を含む混合物は、好ましくは、低塩濃度(例えば、約0〜0.25Mの塩)で行われる、約2.5〜4.5のpHの溶離緩衝液を使用する低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供され得る。
【0133】
2.D因子アンタゴニストを同定するためのスクリーニングアッセイと動物モデル
D因子アンタゴニストは、補体が関係している疾患または障害の様々な細胞をベースとするアッセイおよび動物モデルにおいて評価することができる。
【0134】
したがって、例えば、組み換え体(トランスジェニック)動物モデルを、トランスジェニック動物を作製するための標準的な技術を使用して、目的の動物のゲノムの中に目的の遺伝子のコード部分を導入することによって操作することができる。トランスジェニック操作の標的となり得る動物としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジ、ヤギ、ブタ、およびヒト以外の霊長類(例えば、ヒヒ、チンパンジー、および他のサル)が挙げられるが、これらに限定されない。そのような動物にトランスジーンを導入するための当該分野で公知の技術としては、プロ核酸マイクロインジェクション(pronucleic microinjection)(HoppeおよびWanger、米国特許第4,873,191号);生殖細胞系列へのレトロウイルスを介した遺伝子導入(例えば、Van der Puttenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82、6148−615[1985]);胚性幹細胞の中での遺伝子標的化(Thompsonら、Cell 56、313−321[1989]);胚のエレクトロポレーション(Lo、Mol.Cell.Biol.3、1803−1814[1983]);精液を介した遺伝子導入(Lavitranoら、Cell 57、717−73[1989])が挙げられる。概要については、例えば、米国特許第4,736,866号を参照のこと。
【0135】
本発明の目的については、トランスジェニック動物には、それらの細胞の一部にのみトランスジーンを持つ動物(「モザイク動物」)が含まれる。トランスジーンは、単一のトランスジーンとして、またはコンカタマー(例えば、頭−頭、または頭−尾のタンデム)中のいずれかに組み込まれ得る。特定の細胞タイプへのトランスジーンの選択的導入もまた、例えば、Laskoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89、623−636(1992)の技術にしたがって可能である。
【0136】
トランスジェニック動物中でのトランスジーンの発現は標準的な技術によってモニターすることができる。例えば、サザンブロット分析またはPCR増幅をトランスジーンの組み込みを確認するために使用することができる。その後、mRNAの発現レベルを、インサイチュハイブリダイゼーション、ノーザンブロット分析、PCR、または免疫細胞化学技術のような技術を使用して分析することができる。
【0137】
動物はさらに、免疫疾患の病状の兆候について、例えば、特異的組織への免疫細胞の浸潤を決定するための組織学的試験によって試験され得る。ブロッキング実験もまた行うことができ、ここでは、トランスジェニック動物は、補体および補体活性化(古典経路または第2経路を含む)またはT細胞の増殖に対する効果の程度を決定するために候補のD因子アンタゴニストで処理される。これらの実験では、本発明のポリペプチドに結合するブロッキング抗体が動物に投与され、目的の生物学的効果がモニターされる。
【0138】
あるいは、D因子ポリペプチドをコードする内因性遺伝子と、動物の胚性細胞に導入された同じポリペプチドをコードする変更されたゲノムDNAとの間での相同組み換えの結果として、D因子をコードする欠損遺伝子または変更された遺伝子を有する「ノックアウト」動物を構築することができる。例えば、D因子をコードするcDNAを使用して、確立されている技術にしたがってD因子をコードするゲノムDNAをクローニングすることができる。D因子をコードするゲノムDNAの部分は欠失させることも、また別の遺伝子(例えば、組み込みをモニターするために使用することができる選択マーカーをコードする遺伝子)で置き換えることもできる。通常は、数キロ塩基の変更されていない隣接DNA(5’末端および3’末端の両方)がベクターに含まれる(相同組み換えベクターの記載については、例えば、ThomasおよびCapecchi、Cell、51:503(1987)を参照のこと)。ベクターは胚性幹細胞株の中に(例えば、エレクトロポレーションによって)導入され、その中で導入されたDNAが内因性DNAと相同組み換えされた細胞が選択される(例えば、Liら、Cell、69:915(1992)を参照のこと)。選択された細胞は、その後、動物(例えば、マウスまたはラット)の未分化胚芽細胞(blastocyst)の中に注入されて、キメラ凝集体が形成する(例えば、Bradley、Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells:A Practical Approach、E.J.Robertson編(IRL、Oxford、1987)、pp.113−152を参照のこと)。キメラ胚はその後、適切な偽妊娠させた雌の里親動物および胚に移植することができ、「ノックアウト」動物を作製するための期間が与えられる。相同組み換えされたDNAをそれらの生殖細胞系列細胞の中に有している子孫は標準的な技術によって同定することができ、その動物の全ての細胞が相同組み換えされたDNAを含む動物を繁殖させるために使用される。ノックアウト動物は、例えば、特定の複数の病理学的状態に対して防御するそれらの能力、およびD因子ポリペプチドが存在しないことが原因である複数の病理学的状態のそれらの発症を特徴とする。
【0139】
したがって、潜在的D因子アンタゴニストの生物学的活性は、マウスD因子ノックアウトマウスにおいてさらに実験することができる。
【0140】
加齢性黄斑変性(AMD)の動物モデルは、Ccl−2またはCcr−2遺伝子にヌル変異を有しているマウスからなる。これらのマウスはAMDの基本的な特徴を発症し、これには、リポフスシンの蓄積、および網膜色素上皮(RPE)の真下にあるドルーゼ、光受容体アトロフィー、および脈絡膜新生血管(CNV)が含まれる。これらの特徴は、6ヶ月の年齢を過ぎて発祥する。候補のD因子アンタゴニストは、ドルーゼの形成、光受容体後ロフィー、および脈絡膜新生血管について試験することができる。
【0141】
3.薬学的組成物
本発明のD因子アンタゴニスト(抗D因子抗体、および上記に開示されたスクリーニングアッセイによって同定された他の分子を含む)は、薬学的組成物の形態で、補体が関係している眼の状態の治療のための投与することができる。
【0142】
本発明のD因子アンタゴニストの治療用処方物は、所望される純度を有している活性分子を、任意の薬学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版、Osol、A.編[1980])と混合することによって、凍結乾燥した処方物または水溶液の形態で、保存用に調製される。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、使用される投与量および濃度でレシピエントに対して非毒性であり、これらとしては、以下が挙げられる:緩衝剤(例えば、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸);抗酸化物質(アスコルビン酸およびメチオニンを含む);保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンズアルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン(例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベン);カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾール):低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン);単糖類、二糖類および他の炭化水素(例えば、グルコース、マンノース、またはデキストリン);キレート化剤(例えば、EDTA);糖類(例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、またはソルビトール);塩を形成する対イオン(例えば、ナトリウム);金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、トゥイーン(TWEEN(商標))、プルロニクス(PLURONICS(商標))またはポリエチレングリコール(PEG)。
【0143】
リポフェクションまたはリポソームもまた、ポリペプチド、抗体、または抗体断片を細胞に送達するために使用することができる。抗体断片が使用される場合は、標的タンパク質の結合ドメインに特異的に結合する最も小さい断片が好ましい。例えば、抗体の可変領域配列に基づいて、標的タンパク質配列に結合する能力を保持しているペプチド分子を設計することができる。そのようなペプチドは化学合成することができ、および/または組み換えDNA技術によって生産することができる(例えば、Marascoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90、7889−7893[1993]を参照のこと)。
【0144】
活性分子はまた、例えば、コアセルベーション技術によって、または界面重合によって調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセル、およびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)の中に、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)の中に、あるいは、マイクロエマルジョンの中に捕捉される場合もある。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Osol、A.編(1980)に開示されている。
【0145】
インビボでの投与に使用される処方物は滅菌されていなければならない。これは、滅菌濾過膜を通す濾過によって容易に行われる。
【0146】
徐放性調製物が調製され得る。徐放性調製物の適切な例としては、抗体を含む固体の疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられる。このマトリックスは成型されたもの(例えば、フィルムまたはマイクロカプセル)の形態である。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニルコポリマー、分解性乳酸−グリコール酸コポリマー(例えば、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グルコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドから構成される注射可能なマイクロスフェア))、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン−酢酸ビニルおよび乳酸−グルコール酸のようなポリマーは100日を越える期間にわたり分子を放出することができるが、特定のヒドロゲルはより短い期間にわたりタンパク質を放出する。カプセル化された抗体が体内に長期間留まる場合には、これらは、37℃で水分に曝された結果として変性または凝集する可能性があり、それにより生物学的活性の消滅が生じ、免疫原性が変化する可能性がある。合理的な方法論は、関係がある機構に応じた安定化のために考案することができる。例えば、凝集機構がチオ−ジスルフィド交換による分子内S−S結合形成であることが発見された場合には、安定化は、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分含有量を制御し、適切な添加剤を使用し、特異的なポリマーマトリックス組成物を生じさせることによって行われ得る。
【0147】
眼の疾患もしくは状態の予防または治療のための本発明の化合物は、通常は、眼への注射、眼内注射、および/または硝子体内注射によって投与される。他の投与方法もまた使用され、これには、局所投与、非経口投与、皮下投与、腹腔内投与、肺内投与、鼻腔内投与、および病変内投与が含まれるが、これらに限定されない。非経口での注入には、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、または皮下投与が含まれる。
【0148】
眼への投与、眼内投与、および/または硝子体内投与のための処方物は、当該分野で公知の方法によって、当該分野で公知の成分を使用して調製することができる。有効な治療の主要な要件は、眼からの適切な浸透である。薬物を局所的に送達することができる眼の前部の疾患とは異なり、網膜の疾患にはより部位特異的なアプローチが必要である。点眼薬および眼用軟膏はまれにしか眼の裏側に浸透せず、血液−眼バリアは、全身投与された薬物の眼組織への浸透の妨げとなる。したがって、通常は、網膜の疾患(例えば、AMDおよびCNV)を治療するための薬物送達に選択される方法は、直接の硝子体内注射である。硝子体内注射は、通常は、患者の状態、および送達される薬物の特性と半減期に応じた間隔で繰り返される。眼内(例えば、硝子体内)への浸透のためには、通常は、より小さな大きさの分子が好ましい。
【0149】
補体が関係している眼の状態(例えば、AMDまたはCNV)の治療の有効性は、眼内疾患の評価において一般的に使用されている様々な評価項目によって測定することができる。例えば、失明を評価することができる。失明は、例えば、ベースラインから所望される時点までの最も正確な視力(BCVA)の平均変化による測定(例えば、BCVAはEarly Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)視力チャートと、4メートルの試験距離での評価に基づく)、ベースラインと比較して所望される時点で視力において15文字未満の視力低下がある被験体の集団の測定、ベースラインと比較して所望される時点で15文字以上の視力を取り戻した(gain)被験体の集団の測定、所望される時点で20/2000またはそれよりもさらに悪いSnellen視力を有している被験体の集団の測定、NEI Visual Functioning Questionnaireの測定、所望される時点でのCNVの大きさとCNVの漏出量の測定(例えば、フルオレセイン血管造影法による)などによって評価することができるが、これらに限定されない。例えば、眼の検査を行うこと、眼内圧を測定すること、視力を評価すること、スリットランプ圧(slitlamp pressure)を測定すること、眼内の炎症を評価することなどを含むがこれらに限定されない、眼の評価を行うことができる。
【0150】
以下の実施例は、例示の目的だけのために提供され、いかなる方法においても本発明の範囲を限定するようには意図されない。
【0151】
本明細書中で引用された全ての特許および参考文献は、それらの全体が引用により本明細書中に組み入れられる。
【実施例】
【0152】
実施例において言及される市販されている試薬は、他の場所に明記されない限りは、製造業者の説明書にしたがって使用した。以下の実施例の中、および明細書全体を通じてATCC登録番号によって特定されたこれらの細胞の供給源は、American Type Culture Collection、10801 University Boulevard、Manassas、VA 20110−2209である。
【0153】
(実施例1)
抗D因子抗体の調製と試験
方法:
タンパク質分析のための硝子体液とブルッフ膜の調製
ヒトAMDと非AMD死体眼を解凍し、硝子体、網膜、およびRPEに沿って前眼部を取り出した。硝子体をマイクロチューブの中に回収し、ドライアイス上で凍結させ、さらに処理するまで−70℃で保存した。ブルッフ膜−脈絡膜層を後半分の眼球(posterior half−globe)から剥がし(Crabb,J.W.ら、Proc Natl Acad Sci USA.、99:14682−7(2002))、4mmまたは6mmのいずれかのトレフィンで手術した試料を、黄斑と中心領域の周囲から、その後の分析のために単離した。ブルッフ膜の調製、年齢、性別、AMDの病期、解剖所見、およびプロテオミクス分析に使用した量についての添付のまとめの表(表2)を参照のこと。1つの角膜切除した4mmの直径の試料を、補体D因子タンパク質レベルの分析に使用した。この試料をAssay Diluent(PBS/0.5%のBSA/0.5%のTween−20)中で10分間超音波処理し、可溶性画分と不溶性画分を、5000rpmで10分間の遠心分離によって分離させた。可溶性画分をELISAアッセイに使用した。
【0154】
ヒトD因子に対するモノクローナル抗体の作製
ヒトD因子に対するモノクローナル抗体を、モノホスホリルリピッドA/トレハロースジコリノミコレートアジュバント(Corixa、Hamilton、MT)中の2μgのD因子(Comptech、Taylor、TX)をBalb/cマウスの足裏に11回注射することによって作製した。マウスに由来する膝窩リンパ節をP3X63Ag.U.1骨髄腫細胞と融合させた。ハイブリドーマ細胞を、結合親和性についてマウスD因子に対してスクリーニングした。抗体を生産している細胞株を限界稀釈によってクローニングした。
【0155】
溶血アッセイ
第2経路の活性を決定するために、ウサギの赤血球(Er、Colorado Serum)をGVB中で3回洗浄し、2×10/mlになるように再度懸濁した。阻害剤(50μl)と20μlのEr懸濁液を、GVB/0.1MのEGTA/0.1MのMgClと1:1で混合した。補体活性化をC1q枯渇ヒト血清(Quidel;GVB中に1:3で希釈した30μl)の添加によって開始させた.室温で30分のインキュベーションの後、200μlのGVB/10mMのEDTAを添加して反応を停止させ、試料を500gで5分間遠心分離した。溶血を412nmで吸光度を測定することによって200μlの上清の中で決定した。データは、阻害剤が存在しない場合に誘導された溶血に対する%として表した。補体の古典経路に対するD因子抗体の効果を決定するために、ErをIgMでコーティングしたヒツジの赤血球(E−IgM、CompTech)で置き換えたことを除いて同様の手順を行い、アッセイをGVB++中のB因子欠損ヒト血清中で行った。
【0156】
ヒトD因子についてのELISA
抗ヒト補体D因子ヤギポリクローナル抗体(pAb)(R&D Systems、Minneapolis、MN)をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に1μg/mLになるように希釈し、ELISAプレート(384ウェル、高結合プレート(high−bind plates)、Greiner Bio One through VWR International、Bridgepoint、New Jersey)上に、4℃で一晩のインキュベーションの間にコーティングした。洗浄緩衝液(PBS/0.05%のTween−20)での3回の洗浄後、プレートをPBS/0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)で1から2時間ブロックした。このインキュベーションと全ての他のインキュベーションは、オービタルシェーカー上で室温で行った。ヒトの硝子体液とブルッフ膜の溶解物試料をアッセイ希釈液(Assay Diluent)(PBS/0.5%のBSA/0.5%のTween−20)を使用して稀釈した。同じ緩衝液を使用して、D因子(Complement Technology社、Tyler、Texas)標準曲線(15.6pg/mL〜1,000pg/mL)の段階稀釈物を調製した。標準曲線の高、中、および低領域で定量するために予め稀釈した凍結させた対照試料を解凍した。ブロッキング工程の後、プレートを洗浄し、試料、標準物、および対照を添加し、2時間インキュベートした。プレートを洗浄し、ビオチン化抗ヒトD因子モノクローナル抗体9G7.1.16を62.5ng/mLになるように希釈し、1から2時間のインキュベーションのためのプレートに添加した。ストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼ(SA−HRP)(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)をアッセイ希釈液の中に1/10,000に稀釈し、洗浄したプレートに添えた。30分のインキュベーションと最後の洗浄工程の後、テトラメチルベンジジン(TMB)(Kirkegaard & Perry Laboratories、Gaithersburg、MD)を添加し、5から7分間発色させた。最後に、反応を1Mのリン酸の添加によって停止させた。光学密度をマイクロプレートリーダー(450nm、650nmの参照)を使用して得、試料濃度を標準曲線の4パラメーターフィットから計算した。ヒトの硝子体液とブルッフ膜の溶解物試料中のD因子の最小定量可能濃度は、それぞれ、780pg/mL(1/50の最小稀釈)および156pg/mL(1/10の最小稀釈)であった。
【0157】
免疫組織化学
ブルッフ膜試料をOCT化合物中で凍結させ、7μmの切片になるようにクライオミクロトーム(cryomicrotome)上で切断した。免疫染色。切片を、切片化後に5分間アセトンの中で固定し、染色の準備まで−80℃で保存した。凍結したスライドをPBS中で2回濯ぎ、その後、0.1%のTweenを含むTris緩衝化生理食塩水(TBST)で2回濯いだ。内因性のアビジンとビオチンをVector Avidin Biotin Blocking Kit(SP−2001)で、製造業者の指示にしたがって室温でブロックした。切片をTBSTで、2回交換してそれぞれ5分間濯ぎ、内因性の免疫グロブリンを3%のBSA/PBS中の10%のウマ血清で、室温で30分間ブロックした。切片を、10%のウマ血清中に10μg/mlになるように希釈した抗ヒトD因子(9G7.1.16)抗体とともに、室温で60分間インキュベートした。Naive Mouse IgG2a@10μg/ml(Pharmingen)をネガティブ対照として使用した。TBST中で、2回交換して、それぞれ5分間濯いだ後、切片を、ウマ血清の中に2.5μg/mlになるように(1:200)希釈したビオチン化ウマ抗マウス抗体(Vector)とともに30分間インキュベートした。切片をTBST中で、2回交換して、それぞれ5分間濯ぎ、Vectastain ABC−AP Elite Reagentとともに室温で30分間インキュベートし、TBST中で濯ぎ(2回交換、それぞれ5分間)、新しく調製したVector Red溶液中でインキュベートした。Vector Redは以下のように調製した:200mMのTris HClについては、1MのTris HClをdH2O中で1:5に希釈した(1部のTris HClと4部のdH20)。1滴のレバミゾール(Levamisole)を各5mlの200mMの新しく調製したTris HCl中に混合した。Vector Redキットによる2滴の試薬1、2、および3を、5mlの200mMのTris HCl−レバミゾール溶液中に個別に混合した。Vector Redキットによる試薬3の添加から5〜10分以内に使用した。切片をH2O中で濯ぎ、ヘマトキシリン中に10〜15回浸す(20〜30秒間)ことによってMayerのヘマトキシリンで対比染色し、水およびブルー(blue)で濯ぎ、ブルーイング試薬(bluing reagent)を洗い流すために5分間流水中で十分に濯いだ。切片をCrystal Mount溶液でマウントし、一晩放置して乾燥させた。乾燥したCrystalマウントカバースライドをキシレンに浸し、permamount封入剤を使用してカバースライドをかけた。
【0158】
20D12の重鎖と軽鎖のクローニング
全RNAを、マウス抗ヒトD因子モノクローナル20D12を生産しているハイブリドーマ細胞から、RNeasy Mini Kit(Qiagen、Germany)を使用して抽出した。可変軽鎖(VL)ドメインと可変重鎖(VH)ドメインをRT−PCRを使用して、以下の縮重プライマーを用いて増幅させた:
軽鎖(LC)正方向:
5’GATCGATATCGTRATGACHCARTCTCA3’(配列番号4)
軽鎖逆方向:
5’TTTDAKYTCCAGCTTGGTACC3’(配列番号5)
重鎖(HC)正方向:
5’GATCCGTACGCTCAGGTYCARYTGCARCARTCTGG3’ (配列番号6)
重鎖逆方向:
5’ACAGTGGGCCCTTGGTGGAGGCTGMRGAGACDGTGASHRDRGT3’(配列番号7) 。
【0159】
正方向プライマーはVL領域とVH領域のN末端アミノ酸配列に特異的であった。LC逆方向プライマーとHC逆方向プライマーはそれぞれ、種間で高度に保存されている軽鎖定常ドメイン(CL)と重鎖定常ドメイン1(CH1)の中の領域にアニーリングするように設計した。
【0160】
増幅したVLを、ヒトκ定常ドメインを含むpRK哺乳動物細胞発現ベクター(Shieldsら、J Biol Chem 2000;276:6591−604)にクローニングした。増幅したVHは全長のヒトIgG定常ドメインをコードするpRK哺乳動物細胞発現ベクターに挿入した。これにより、20D12をマウス−ヒトIgGキメラに構築し直した。
【0161】
上記に記載された詳細は、当業者が本発明を実施できるために十分であると考えられる。本発明は寄託された構築物により範囲が限定されることはない。なぜなら寄託された実施形態は本発明の特定の態様についての単なる説明と意図され、機能的に等価である任意の構築物が本発明の範囲に含まれる。本明細書中の材料の寄託は、本明細書中に含まれる記載された記述が本発明の任意の態様の実施(その最良の態様を含む)を可能にするには不適切であるという事実の承認に寄与するものではなく、それが提示する特異的な説明に対する特許請求の範囲の限定とも解釈されない。
【0162】
実際、示され、本明細書中に記載されたものに加えて様々な本発明の改変が、上記の記載から当業者に明らかとなるであろう。そしてこれらは添付の特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のD因子アンタゴニストを必要な被験体に投与する工程を含む、補体が関係している眼の状態の予防または治療方法。
【請求項2】
前記被験体が哺乳動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験体がヒトである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記D因子アンタゴニストが、抗D因子抗体およびその断片、結合ポリペプチド、ペプチド、ならびに非ペプチド低分子からなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記D因子アンタゴニストが抗体または抗体断片である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体がD因子の活性部位に結合する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体がD因子の活性部位の残基を含むエピトープに結合する。請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が、抗体20D12、31A9、25A1、および32H12、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体が本質的に抗体20D12と同じエピトープに結合する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体に、抗体20D12の重鎖CDR配列および/または軽鎖CDR配列(配列番号1および2)が含まれている、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、(scFv)、dAb、相補性決定領域(CDR)断片、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、および抗体断片から形成された多特異的抗体からなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、または(scFv)断片である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記補体が関係している眼の状態が、加齢性黄斑変性(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血に関係する網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、ならびに網膜血管新生からなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
前記AMDが乾性AMDである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記AMDが湿性AMDである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
D因子アンタゴニストと、補体が関係している眼の状態を治療するために該アンタゴニストを投与するための説明書を含む、キット。
【請求項18】
前記補体が関係している眼の状態が、加齢性黄斑変性(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血に関係する網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、ならびに網膜血管新生からなる群より選択される、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
前記補体が関係している眼の状態がAMDまたはCNVである、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
補体が関係している眼の状態の治療のための医薬品の調製におけるD因子アンタゴニストの使用。
【請求項21】
補体が関係している眼の状態の治療に使用されるD因子アンタゴニスト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−528047(P2010−528047A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509554(P2010−509554)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/064526
【国際公開番号】WO2008/147883
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】