説明

補強布及びこれを用いた化粧材

【課題】製造過程において、木質単板に見栄えを損なうような割れや皺が発生することを抑制することができるようにすること。
【解決手段】化粧材10は、補強布12と、一方の面に補強布12がロールプレスで貼着された木質単板11とを備えて構成されている。補強布12は、織布14と、この織布14の木質単板11に相対する面に散在するように設けられた点状の接着剤15とを備えている。織布14は、みかけヤング率が0.025kN/mm〜0.300kN/mmに設定されている。接着剤15は、最大幅が0.05〜0.3mmの平面形状に設けられ、15〜45個/inchに設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強布及びこれを用いた化粧材に係り、更に詳しくは、木質単板の膨張や収縮に対する強度を高めることができる補強布及びこれを用いた化粧材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、木質単板を用いた化粧材が広く利用されており、かかる化粧材の製造では、木質単板に漂白や染色を行うべく液体への浸漬処理及び乾燥処理を行ったものが知られている。前記浸漬処理及び乾燥処理にあっては、処理中又は処理後に、木質単板が膨張及び収縮し、見栄えを損なうような割れや皺が生じる場合がある。
【0003】
これを更に詳述すると、木質単板の導管に沿う位置には、密度が小さく部分的に裂けたり薄くなったりした微小な裂け目が形成されている。この裂け目は、浸漬処理により水分を含むと膨張し、乾燥させると収縮するように変形する。また、裂け目は、木質単板の性質上、密度や強度にばらつきが生じるものであり、密度が小さくなったり強度が弱い裂け目において、前記変形により大きな割れや皺が生じ易くなる。
しかも、乾燥処理後、木質単板を型に沿わせて曲げ加工する賦形処理を行う際、その曲げ加工に抗する引っ張り力が部分的に大きく発生し、裂け目が拡がり易くなる。
【0004】
ところで、前記木質単板を補強する構造として、木質単板の裏面に不織布や紙を貼着したものがある(特許文献1及び2参照)。この貼着処理は、先ず、木質単板に相対する不織布等の面の全ての領域に熱硬化性の接着剤を塗布或いは含浸させる。その後、不織布等と木質単板とを重ねてプレス圧を付与することにより貼着が完了し、その後、前述した漂白や染色が行われる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−226931号公報
【特許文献2】特開昭60−23543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前述のような補強構造とした場合、木質単板が本来有するしなやかさが損なわれ、前記浸漬処理及び乾燥処理を行うと、結果として、木質単板等の割れや皺を十分に回避し得なくなる、という不都合がある。
具体的には、浸漬処理時に木質単板の膨張が規制され、当該木質単板に圧縮応力が大きく発生するため、その後の乾燥処理で木質単板や不織布に皺が生じることとなる。また、前記賦形処理において、木質単板及び不織布が伸び難くなり、曲げ加工した部分に割れが発生する。
【0007】
しかも、不織布等の全面に亘って接着剤を塗布しているので、所定の対象物に化粧材の裏面側を接着固定する場合、その接着のための接着剤が、不織布等の接着用の接着剤により木質単板の裏面に届かなくなり、接着力が十分に得られなくなる、という不都合もある。
【0008】
また、熱硬化性の接着剤を用いているので、染料や顔料の浸透性が低くなり、染色を深く行い難くなる、という不都合を招来する。
【0009】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、製造過程において、木質単板に見栄えを損なうような割れや皺が発生することを抑制することができる補強布及びこれを用いた化粧材を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、所定の対象物に木質単板を良好に接着固定することができる補強布及びこれを用いた化粧材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、木質単板の面に貼着するための補強布であって、
織布と、この織布の木質単板に相対する面に散在するように設けられた点状の接着剤とを備える、という構成を採っている。
【0011】
本発明において、前記織布は、みかけヤング率が0.025kN/mm〜0.300kN/mmに設定される、という構成を採ることが好ましい。
【0012】
また、前記接着剤は、最大幅が0.05〜0.3mmの平面形状に設けられ、15〜45個/inchに設定される、という構成が好ましくは採用される。
【0013】
更に、前記接着剤が熱可塑性樹脂からなることが好ましい。
【0014】
また、本発明の化粧材は、請求項1〜4の何れかに記載の補強布と、一方の面に前記補強布がロールプレスで貼着された木質単板とを備える、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、接着剤が点状に散在するので、織布において、接着剤により接着されない非接着領域を形成でき、この非接触領域が伸縮変形し易くなる。従って、木質単板に補強布を貼着した状態で浸漬処理及び乾燥処理を行ったときに、木質単板の膨張及び収縮に追随するように織布全体を弾性的に変形でき、且つ、織布において前記膨張変形を抑制する方向の力を発生させることができる。
これにより、木質単板の膨張や賦形処理により応力が生じる領域を分散し、強度が弱い裂け目に割れが大きく生じることを回避することができ、織布の繊維に沿って網目状に目立たない小さい割れを多数生じさせ、外観上の体裁を良好に保つことができる。
また、木質単板のしなやかさや柔らかさをある程度保ちつつ木質単板を補強できるので、前述した乾燥処理時の圧縮応力の残存を抑制でき、木質単板や不織布に見栄えを損なう皺が生じることを回避可能となる。
しかも、所定の対象物に木質単板を接着固定する場合、当該固定に用いる接着剤が前記非接着領域を通じて木質単板の面に直接達することとなり、固定強度を向上させることができる。
【0016】
また、みかけヤング率を前述した範囲に設定した場合、浸漬処理や乾燥処理、賦形処理を行ったときに、木質単板の膨張及び収縮変形に織布をより良く追従させることができ、見栄えを損なう割れや皺の発生を良好に抑制することが可能となる。
【0017】
更に、接着剤の平面形状や形成数を前述した範囲に設定した場合、木質単板と織布の接着力を良好に保ちつつ、木質単板の柔軟性がより一層保たれ易くなる。また、木質単板の表面側に接着剤が浸透して染みとなって表出したり、接着剤を設けた位置だけ織布が膨らんで影のように見えることを防止することができる。
【0018】
また、熱可塑性樹脂からなる接着剤とした場合、ポリマー分子が架橋していないので、熱硬化性のものに比べ、染料や顔料の浸透性を向上でき、深く染色し易くすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「みかけヤング率」とは、特に明示しない限り、織布に荷重を付与し、40mmの評点間距離で変位が1mmになるまでの荷重の最大値をPmax(kN)、最小値をPmin(kN)、評点間の断面積A(mm)とした場合、以下の式(A)で求められた値とする。
みかけヤング率=(Pmax−Pmin)×40/A (kN/mm)・・(A)
【0020】
図1には、実施形態に係る化粧材を模式的に表した分解斜視図が示されている。この図において、化粧材10は、木質単板11と、この木質単板11の裏面(図1中下面)に貼着される補強布12とを備えて構成されている。化粧材10は、所定の型に押さえ付けて沿わせて膨らみや凹みを形成する賦形処理を行った後、裏側に基材を樹脂成形することにより、複合成形品として用いることができる。
【0021】
前記木質単板11は、厚さ0.3〜1.5mmに木材を薄くスライスすることにより形成され、その導管が木質単板11の面に沿う直線方向(図1では矢印A方向)に沿って設けられる。
【0022】
前記補強布12は、織布14と、この織布14の木質単板に相対する面、すなわち、図1中上面に散在するように設けられた点状の接着剤15とを備えている。補強布12の目付は、特に限定されるものでないが、約26〜117g/mに設定されている。
【0023】
前記織布14は、特に限定されるものでないが、ポリエステルや綿、レーヨン等の繊維を100%用いたり、それらを所定割合で混紡したものを用いて構成されている。織布14の織り方としては、図2に示されるように、経糸と緯糸とを交互に上下に交叉させた汎用の平織りしたレギュラータイプのものが例示できる。この場合、図2(A)に示されるように、経糸又は緯糸が木質単板11の導管に略平行となるように織布14を貼着する他、図2(B)に示されるように、導管に対して経糸又は緯糸がバイアスする方向(図では、約45°傾斜する方向)に織布14を貼着してもよい。
織布14の他の織り方としては、規則的に織の目をとばして織られた朱子組織や、紡いでいない糸を使用したスパン織物も例示できる。また、織布14は、通常のものより接着力が大きい高接着タイプ、通常のものより熱に対して安定性があり、100℃の湯による高温洗浄に耐え得る耐熱タイプ、引っ張ったときに通常より伸びない伸度が約8〜10%となる低伸度タイプ等の機能を付加することができる。織布14の繊維の太さは、22dt(デシテックス)×22dt〜65dt×65dtに設定されている。
【0024】
前記織布14のみかけヤング率は、0.025kN/mm〜0.300kN/mmに設定されている。みかけヤング率が0.300kN/mmより大きいと、化粧材10の液体への浸漬処理で木質単板11が膨張変形したときに、織布14から木質単板11に付与される前記膨張変形を規制する方向の力が大き過ぎ、木質単板11に圧縮的応力が分布されるため、その後の化粧材10の乾燥処理時に木質単板11に皺が表れ易くなる。また、化粧材10に前記賦形処理を行うときに、木質単板11及び織布14が伸び難いために、前記三次元形状を形成することができなくなる。みかけヤング率が0.025kN/mmより小さいと、浸漬処理や乾燥処理、賦形処理時に、木質単板11に補強布12を貼着しない場合と同様に皺や割れが生じる。
【0025】
前記接着剤15は、ポリアミド等の熱可塑性樹脂からなり、隣り合う点状の接着剤15と所定間隔を隔てて織布14に塗布されている。接着剤15は、平面形状の最大幅が0.05〜0.3mmとなる点状に設けられ、また、点状の接着剤15の形成数は、15〜45個/inchに設定される。前記最大幅が0.05mmより小さい又は前記形成数が14個/inch以下であると、木質単板11に対する補強布12の接着力が不十分になり易くなる。前記最大幅が0.3mmより大きい又は前記形成数が46個/inch以上であると、木質単板11に接着剤15が浸透して染みとなったり、接着剤15を設けた位置が膨らんで影のように見えるようになる。また、木質単板11の柔軟性が損なわれて前記膨張変形に抗する応力が大きくなり易くなる。
接着剤15は、その融点が100℃以上、好ましくは130℃以上に設定され、これにより、耐候性が良好に保たれ、乗用車等の内装部材として化粧材10を用意に用いることができる。
【0026】
ここで、本発明の具体的な実施形態としては、表1,2及び図3のグラフに示される条件とした構成を例示することができる。
図3のグラフは、織布14のみかけヤング率を表すものであり、各実施形態において、左側の白塗りの棒が、経糸及び緯糸と45°バイアスする方向に引っ張り力を付与した際のデータであり、右側の黒塗りの棒が、経糸又は緯糸と平行となる方向に引っ張り力を付与した際のデータである。また、図3のみかけヤング率の各データは、実施形態の前記バイアス方向及び平行方向それぞれに対し、織布14のサンプルを5枚用意して測定した平均データである。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
前記化粧材10の木質単板11と補強布12は、図4に示されるような貼着装置20を用いて貼着処理が行われる。この貼着装置20は、複数のローラ21を介してループ状に掛け回される上ベルト22及び下ベルト23と、水平方向に沿って上下二列に並設されたヒータ25とを備えている。上ベルト22及び下ベルト23は、上下のヒータ25間で対向するように設けられており、図中矢印R方向に進行することで、上下のヒータ25間に位置する各ベルト22,23の間に挿入した部材を送出できるようになっている。従って、上ベルト22及び下ベルト23の間に、図4中左側から木質単板11と補強布12を重ね合わせた状態で挿入すると、上下のヒータ25間を通過して加熱され、接着剤15が溶融する。その後、木質単板11と補強布12が同図中右側の上下各二個のローラ21間を通過するときに、所定時間、所定圧力によりロールプレスされて貼着される。
【0030】
前記貼着処理が完了した後、木質単板11の表面に漂白及び染色するために水溶液への浸漬処理を行う。漂白では、酸化剤又は還元剤、その他の添加物を配合した水溶液に化粧材10を浸漬し、染色では、各種の染色液に浸漬する。この浸漬処理は、連続ではなく、ある単位釜毎に工程を繰り返すバッチの釜に入れて行われる。浸漬処理を終えた後、木質単板11や織布14に吸収された水分を放出すべく乾燥処理を行う。
【0031】
従って、このような実施形態によれば、木質単板11に補強布12を貼着した状態で、織布14に接着剤15が接着されていない非接着領域が各接着剤15の間に網目状に形成されることとなる。これにより、木質単板11や織布14のしなやかさや柔らかさを維持しつつ、木質単板11の強度が弱くなった裂け目を織布14の弾性により効果的に補強することができる。よって、浸漬処理、乾燥処理及び賦形処理により木質単板11が圧縮及び収縮しても、これに追従して織布14を伸縮させることができ、外観で目立つような大きな割れや皺が生じることを抑制することが可能となる。
【実施例】
【0032】
[実施例1〜10]
実施例1〜5では、前記実施形態6に対し、接着剤15の形成数及び最大幅を表3に示されるように変更するとともに、図2(A)のように織布14の向きを設定し、木質単板11と補強布12との貼着処理を前述したようにロールプレスにより行った。貼着処理の条件は、ヒータ25のよる加熱温度140℃、プレス圧3kg/cm、加圧時間30秒とした。
実施例6〜10では、実施例1〜5に対して貼着処理を変更しており、木質単板11と補強布12を重ね合わせて一対の押圧板間に配置し、温度150℃、プレス圧5kg/cm、加圧時間1分の条件下で、木質単板11の厚み方向に加圧した。
【0033】
【表3】

【0034】
各実施例に対し、漂白染色耐久性、ドレープ性、ポイント影の評価をそれぞれ行った。結果を表4に示す。
「漂白染色耐久性」は、前述した水溶液、染色液にオートクレーブで連続に処理し、十分な乾燥処理を行った後に評価した。表4中「○」は、浸漬処理後の木質単板11と補強布12との接着状態が良好に保たれ、「×」は、木質単板11から補強布12が剥がれた状態となる。
「ドレープ性」は、前述の賦形処理を行った際、化粧板10の型に対する追従性を評価した。表4中「○」は、木質単板11に割れが生じることなく化粧板10が型にスムースに追従し、「△」は、木質単板11に割れが生じないものの、型に化粧板10を追従させる作業に若干の支障がある。
「ポイント影」は、木質単板11と補強布12との接着により接着剤15が、木質単板11の表面から染み出て見えるかを評価した。表4中「○」は、接着剤15の染みが全く目視できないものであり、「△」は、化粧板10表面を数秒間凝視することで接着剤15の染みが若干目視される。
【0035】
【表4】

【0036】
表4から、木質単板11と補強布12との接着状態は、ロールプレスによる貼着処理の方が好ましいことが理解される。また、接着剤15の形成数及び最大幅を表3に示す条件としたことにより、化粧材10の賦形処理の容易化と、化粧材10表面への接着剤15の染み出しの抑制を図ることが可能となる。
【0037】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施形態、実施例に対し、形状、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係る化粧材を概念的に表した分解斜視図。
【図2】(A)及び(B)は、補強布を一部破断した化粧材の底面図。
【図3】実施形態1〜11のみかけヤング率を表すグラフ。
【図4】木質単板及び補強布を貼着する貼着装置の正面図。
【符号の説明】
【0039】
10・・・化粧材、11・・・木質単板、12・・・補強布、14・・・織布、15・・・接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質単板の面に貼着するための補強布であって、
織布と、この織布の木質単板に相対する面に散在するように設けられた点状の接着剤とを備えていることを特徴とする補強布。
【請求項2】
前記織布は、みかけヤング率が0.025kN/mm〜0.300kN/mmに設定されていることを特徴とする請求項1記載の補強布。
【請求項3】
前記接着剤は、最大幅が0.05〜0.3mmの平面形状に設けられ、15〜45個/inchに設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の補強布。
【請求項4】
前記接着剤は、熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1,2又は3記載の補強布。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の補強布と、一方の面に前記補強布がロールプレスで貼着された木質単板とを備えていることを特徴とする化粧材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−119832(P2008−119832A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302624(P2006−302624)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】