説明

製品材質値の予測方法、装置、操業条件の決定方法、プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体

【課題】製造プロセスの過去事例を高速、高精度に検索して、製品の材質予測を的確に行うことを可能にする。
【解決手段】指定された時刻から過去時刻までの、指定した所定のプロセス変数値と材質値を時系列データベースから抽出して、それを量子化し、検索用テーブルに量子化したプロセス変数値と材質値を格納する。材質を予測したい製品のプロセス変数値を量子化し、これを検索キーとして、検索用テーブルを検索し、類似する量子化した値を持つ過去事例と取り出し、その過去事例の材質値に基づいて、製品の材質の予測値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板や厚板、鋼管等の製造プロセスの操業中又は操業後に、操業条件及びプロセスの状態量からなるプロセス変数値に基づいて、そのプロセス変数値と類似した過去事例を検索し、検索の結果得られた過去事例の材質値に基づいて製品の材質値を予測する製品材質値の予測方法、装置、プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体、更にはその予測手法を利用した操業条件の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顧客から製品の注文があると、機械試験特性範囲等、顧客の製品に対する要求仕様から製品を製造するための操業条件を決定し、製品を製造する。
【0003】
製造の途中において、これまでに通過した工程(上工程)での操業実績並びに今後の通過工程(下工程)での操業予定条件に基づいて、製品が要求仕様を満足するかを評価し、場合によっては、下工程の操業条件を変更する作業や、顧客への不良品の流出を回避するために、出荷前検査を重点的に実施する作業が行われる。従って、製造の過程において、材質等製品の品質を予測することは、非常に重要である。
【0004】
上記の操業条件から製品の品質を推定し、必要に応じて操業条件を変更する作業は、従来は、過去の知見等、人間の記憶・判断に基づいて行われていた。
【0005】
また、人間の記憶のみに頼るのではなく、計算機を援用して予測や操業条件の変更案を決定するための技術として、事例ベース推論を用いた技術がいくつかの分野で応用されている。特許文献1では、過去の問題解決事例に基づいて現在の問題を解決する事例ベース推論を適用する技術が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、浄水場プロセスの濁度予測システムとして、複数の過去事例を集約して代表事例を作成し、作成した代表事例を用いて事例ベース推論モデルを構築しプロセスの状態を予測している。予測されたプロセスの状態を担当者に提示することで、担当者は、濁度を改善するための適切な操業条件案を決定することが可能となる。
【0007】
また、特許文献3では、素材成分や操業条件の指示値と実績値、及び材質の実績値を事例として蓄積し、入力される素材成分や操業条件の指示値と蓄積されたデータを用いて、ルールベースによる入力データの削減を行った上で、材質推定モデルを線形モデルで近似し、下工程の操業条件と製品時の材質の推定値と推定誤差を出力する技術が提案されている。
【0008】
また、特許文献4では、製造プロセスのプロセス変数値のデータを量子化して検索用テーブルに格納し、制御したい状態の目標値も同様に量子化し、更には制御の起点時刻におけるプロセス変数値のデータも量子化して、該状態の目標値と現在の状態それぞれの量子化値を検索キーとして、類似した過去事例を検索し、該過去事例の操業パターンに基づいて操作変数の値を決定することによって、高炉のような複雑、非線形かつ非定常な製造プロセスにおける操業状態を予測し、状態が設定した目標値となる操作変数の値を決定する技術が提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開平3−132826号公報
【特許文献2】特開2002−119956号公報
【特許文献3】特開2003−268428号公報
【特許文献4】特開2007−4728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が対象とする製鉄プロセスは、製銑、製鋼、薄板や厚板、鋼管、条鋼等の製造プロセス等の大規模、複雑、非線形かつ非定常なプロセスである。操業条件に基づく予測・製造条件の変更を、人間の判断に基づいて行う方法は、決定を行う担当者の経験、熟練度等の差異により、操業条件変更の指示が異なり、必ずしも有効な変更案が立案できるとは限らない問題があった。
【0011】
また、特許文献1に記載された手法では、過去の問題解決事例は、製造プロセスの設備更新や経年変化等によって、現在の製造プロセスには適切でない場合があり、特に事例の更新が不十分な場合、有効な対策案が得られないという問題があった。
【0012】
また、特許文献2に記載された手法は、事前に過去の事例を集約して事例ベースを作成する必要があることから、更新に時間を要し、結果として事例の更新が不十分な状況となりやすく、予測精度が劣化する問題があった。
【0013】
更に、特許文献3に記載された手法では、入力される素材成分や操業条件の指示値と蓄積されたデータは用いているものの、ルールベースにて行っている入力データの削減が製造プロセスの設備更新や経年変化によって適切でない状況に対応できず、また材質推定モデルを線形モデルで近似しているため、大規模、複雑、非線形かつ非定常なプロセス、で製造される製品の予測には、十分な精度が得られない問題があった。また大規模、複雑、非線形かつ非定常な製造プロセスの製品を予測するためには、大量のデータが必要であるが、データベースに蓄積された過去事例が膨大になるにつれ、事例の検索に要する時間が長時間となり、オンラインでの予測に必要な高速性を維持できない課題があった。
【0014】
更にまた、特許文献4に記載された方法は、複雑・非線形・非定常な製造プロセスの操業状態を予測・制御するために、現在の操業状態及び目標とする操業状態に類似した操業状態を有する過去事例を量子化された検索テーブルから類似度に従って特定し、この過去事例の操作実績に基づいて操作量を決定している。また、新たな事例のデータが入手されるに伴い、この新たな過去事例をデータベースに追加し、最も古い過去事例のデータを棄却することで、設備の経時変化等に伴う特性の変化に適応した予測が可能であるとしている。しかしながら、複雑・非線形・非定常な製造プロセスの特性を予測・制御するためには、大量のデータを用いる必要があり、必然的に長期間の過去事例をデータベースに蓄積して予測・制御に用いることとなる。このため、データベース内の過去事例のデータも、設備の経時変化等による特性変化の影響が無視できず、予測対象に類似したプロセス変数値の過去事例が複数個ある場合は、現在時刻に近いタイミングで製造された事例に高い重みを設定して予測を行う方が精度は高い。しかしながら、特許文献4に記載された方法では、操業状態の類似性のみを考慮して予測値や操作量を決定しており、予測対象事例の処理時刻である現在と過去事例の処理時刻との時刻差が考慮されていないために、特性の異なる古い過去事例の影響を強く受けて予測を行う場合があり、精度が劣化する課題があった。更に、劣化した精度の予測値にも基づいて算出された制御入力や、操作変数のガイダンス指示も、精度が劣化する問題があった。
【0015】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、大規模、複雑、非線形かつ非定常なプロセスについて、そのプロセス変数値と材質値の実績データを過去事例として格納する際に、プロセス変数値を量子化して格納し、予測したい製品のプロセス変数値に類似した過去事例の検索を近接した量子化メッシュに対してのみ行うようにすることで、オンライン予測に要求される検索の高速化を実現することを目的とする。また、プロセス変数値と材質値との間になんら数式を仮定することなく予測を行うことで、複雑、非線形かつ非定常なプロセスで製造される製品材質の予測を的確に行うことを可能にするとともに、過去事例データを適切なタイミングで更新することで、プロセスの変化に適応して予測精度を維持したオンライン予測を行うことを可能にすることを目的とする。更には、類似した過去事例が複数存在する場合においては、予測対象である現在時刻に近い過去事例に高い重みを設定して予測値を計算することで、設備の経時変化に伴う特性変化にも適応した予測を可能とするものである。また、製造途中の製品の材質値を高い精度で予測し、良好な材質を実現する操業条件を決定可能とすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の製品材質値の予測方法は、製造プロセスの操業条件及びプロセスの状態量からなるプロセス変数値、並びに製造された製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻と共に、該製造プロセスにおける製造実績の過去事例として保存した時系列データベースを作成し、該時系列データベースを用いて、材質値を予測したい製品のプロセス変数値に類似したプロセス変数値を持つ過去事例を検索し、該検索で得られた過去事例の材質値に基づいて予測したい製品の材質値を予測する製品材質値の予測方法であって、
製造及び製品の材質値の測定が完了した製品のプロセス変数値、並びに製品の材質値のデータを製造プロセスから収集し、製造プロセスでの処理時刻と共に蓄積した時系列データベースを作成する工程と、
前記時系列データベースから、材質値を予測したい製品の処理時刻よりも予め指定された時刻だけ遡った過去時刻から現在時刻までの、プロセス変数値と製品の材質値のデータを抽出する工程と、
前記抽出したプロセス変数値のデータを所定の整数化を行うことにより量子化して、該量子化値を過去事例検索のためのインデックスキーとして、前記製造プロセスの処理時刻、或いは製造プロセスの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号の少なくとも何れか1つと合せて、製品の材質値と共に検索用テーブルのメモリに格納する工程と、
前記材質値を予測したい製品のプロセス変数値の中で、予測のために予め抽出するよう指定したプロセス変数値のデータを製造プロセスから取り込み、該プロセス変数値を量子化する工程と、
該量子化したプロセス変数値を検索キーとして、前記検索用テーブルを検索し、前記検索キーの値と類似するインデックスキーを持つ過去事例のデータを類似事例として、類似度に従い選択する工程と、
前記選択した類似事例のデータから、製品の材質値と製造プロセスでの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号を取り出す工程と、
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する工程と、
該予測値を表示手段に出力し表示する工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明の製品材質値の予測方法の他の特徴とするところは、前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する工程において、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例の製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻又は格納番号に基づいて重み付けした平均値を算出し、これを製品の材質の予測値とする点にある。
また、本発明の製品材質値の予測方法の他の特徴とするところは、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例の製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻に基づいて重み付けした平均値を算出するときに、現在時刻と該過去事例の処理時刻の差で定義される時刻差tiを全ての該過去事例に対して算出し、該時刻差tiに基づき式(2)を用いて該各過去事例に対応する重み係数Wiを算出して、重み付けした平均値の算出に用いる点にある。
【数1】

また、本発明の製品材質の予測方法の他の特徴とするところは、前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する工程において、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例のプロセス変数値及び製品の材質値に基づいて、未定係数を乗じたプロセス変数値の線形和として材質値を推定する重回帰モデルの未定係数値を算出し、この重回帰モデルに予測したい製品のプロセス変数値を設定して得られる材質の推定値を製品材質の予測値とする点にある。
また、本発明の製品材質値の予測方法の他の特徴とするところは、前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する工程において、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例の製品の材質値に基づいて、予め設定された確率密度関数のパラメータを算出し、この確率密度関数モデルに該算出されたパラメータと予め設定した確率値を設定して、該確率値における材質指標を算出し、製品材質の予測値とする点にある。
また、本発明の製品材質値の予測方法の他の特徴とするところは、前記時系列データベースのプロセス変数について、ステップワイズ法を用いて変数の数を削減する点にある。
また、本発明の製品材質値の予測方法の他の特徴とするところは、前記時系列データベースのプロセス変数について、互いに類似したインデックスキーの過去事例を選択し、該選択された過去事例間のプロセス変数値の差分量及び製品の材質値の差分量を算出し、該プロセス変数値の差分量と該製品の材質値の差分量の相関係数を算出して、予め設定された閾値よりも、前記相関係数の絶対値が小さいプロセス変数は、前記予測のために予め抽出するよう指定したプロセス変数値からは除外する点にある。
また、本発明の製品材質値の予測方法の他の特徴とするところは、前記時系列データベースが薄板の製造プロセスを対象とし、前記プロセス変数値を、処理時刻、試片番号、採取部位、Hot(熱延)コイルNo、巻No、注文厚み、注文巾、連続焼鈍ラインの入側板厚、連続焼鈍ラインの入側板巾、冷延材質コード、連続焼鈍ラインの中央速度、連続焼鈍ラインの加熱ゾーンの出側板温、連続焼鈍ラインの均熱ゾーンの出側板温、連続焼鈍ラインの冷却ゾーンの出側板温、連続焼鈍ラインの再加熱ゾーンの出側板温、連続焼鈍ラインの過時効ゾーンの出側板温、連続焼鈍ラインの調質圧延工程の伸び率、連続焼鈍ラインの調質圧延工程の圧延力、熱延ラインの粗圧延最終スタンド出側板温、熱延ラインの仕上出側温度、熱延ラインの巻取温度、精錬工程を終了した時点での溶鋼内のC量、Si量、Mn量、P量、S量、Cu量、Ni量、Cr量、Mo量、Nb量、V量、Ti量、B量、Al量、N量、O量、Ca量から少なくとも1つ以上選択する点にある。
また、本発明の製品材質値の予測方法の他の特徴とするところは、前記時系列データベースが薄板の製造プロセスを対象とし、前記材質値を降伏強度、引張強度、延性、ランクフォード値から少なくとも1つ以上選択する点にある。
また、本発明の製品材質値の予測方法の他の特徴とするところは、前記時系列データベースが電磁鋼板の製造プロセスを対象とし、前記プロセス変数値を、製品の注文厚み、精錬工程を終了した時点での溶鋼内のC量、Si量、Mn量、P量、S量、Cu量、Ni量、Cr量、Mo量、Nb量、V量、Ti量、B量、Al量、N量、O量、Ca量、精錬工程の終了時刻、連続鋳造におけるスラブの鋳造位置、連続鋳造工程の終了時刻、熱延加熱炉装入時のスラブ温度、加熱炉の在炉時間、加熱炉抽出時のスラブ温度、熱延の粗圧延から仕上圧延の延滞時間、粗圧延出側での板温度、仕上圧延出側での板温度、仕上圧延出側での板厚、捲取での板温度、熱延工程の終了時刻、熱延板焼鈍工程における冷却帯出側での板温度、熱延板焼鈍工程の終了時刻、冷延時の板温度、冷延のロール径、冷延工程の終了時刻、脱炭焼鈍工程における均熱帯での板温度、均熱帯の炉内露点、脱炭焼鈍工程における脱炭焼鈍温度のアンモニアガス導入量、脱炭焼鈍工程の終了時刻、仕上焼鈍工程での温度パターンコード、仕上焼鈍工程の終了時刻、から少なくとも1つ以上選択する点にある。
また、本発明の製品材質値の予測方法の他の特徴とするところは、前記時系列データベースが電磁鋼板の製造プロセスを対象とし、前記材質値を電磁鋼板の飽和磁束密度、鉄損値から少なくとも1つ以上選択する点にある。
本発明の操業条件の決定方法は、本発明の記載の製品材質値の予測方法を用いて製造途中の製品の材質値を予測し、予め設定された評価指標に基づき最も優れた材質の予測値を実現する製造プロセスの操業条件を決定する操業条件の決定方法であって、
前記材質値を予測したい製品の製造の途中過程において、操業が完了し実績が確定したプロセス変数値のデータを製造プロセスから取り込み量子化し、未だ完了していない操業条件に対応するプロセス変数については、該完了していない操業条件のとり得る範囲を網羅する量子化値の全ての組合せを作成して、該全ての組合せに対して本発明の製品材質値の予測方法を用いて、それぞれ材質の予測値を算出し、予め設定された材質の評価指標に基づいて最も優れた材質の予測値を実現する量子化値の組合せを選択し、この量子化値の組合せに対応するプロセス変数値を良好な材質値を実現する操業条件として表示手段に出力することを特徴とする。
本発明のプログラムは、製造プロセスの操業条件及びプロセスの状態量からなるプロセス変数値、並びに製造された製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻と共に、該製造プロセスにおける製造実績の過去事例として保存した時系列データベースを作成し、該時系列データベースを用いて、材質値を予測したい製品のプロセス変数値に類似したプロセス変数値を持つ過去事例を検索し、該検索で得られた過去事例の材質値に基づいて予測したい製品の材質値を予測する製品材質値の予測するためのプログラムであって、
製造及び製品の材質値の測定が完了した製品のプロセス変数値、並びに製品の材質値のデータを製造プロセスから収集し、製造プロセスでの処理時刻と共に蓄積した時系列データベースを作成する工程と、
前記時系列データベースから、材質値を予測したい製品の処理時刻よりも予め指定された時刻だけ遡った過去時刻から現在時刻までの、プロセス変数値と製品の材質値のデータを抽出する処理と、
前記抽出したプロセス変数値のデータを所定の整数化を行うことにより量子化して、該量子化値を過去事例検索のためのインデックスキーとして、前記製造プロセスでの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号の少なくとも何れか1つと合せて、製品の材質値と共に検索用テーブルのメモリに格納する処理と、
前記材質値を予測したい製品のプロセス変数値の中で、予測のために予め抽出するよう指定したプロセス変数値のデータを製造プロセスから取り込み、該プロセス変数値を量子化する処理と、
該量子化したプロセス変数値を検索キーとして、前記検索用テーブルを検索し、前記検索キーの値と類似するインデックスキーを持つ過去事例のデータを類似事例として、類似度に従い選択する処理と、
前記選択した類似事例のデータから、製品の材質値と製造プロセスでの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号を取り出す処理と、
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する処理と、
該予測値を表示手段に出力し表示する処理とを、コンピュータに実行させる。
本発明のプログラムの他の特徴とするところは、前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する処理において、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例の製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻又は格納番号に基づいて重み付けした平均値を算出し、これを製品の材質の予測値とする点にある。
本発明の記録媒体は、本発明のプログラムを記録したことを特徴とする。
本発明の製品材質値の予測装置は、製造プロセスの操業条件及びプロセスの状態量からなるプロセス変数値、並びに製造された製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻と共に、該製造プロセスにおける製造実績の過去事例として保存した時系列データベースを作成し、該時系列データベースを用いて、材質値を予測したい製品のプロセス変数値に類似したプロセス変数値を持つ過去事例を検索し、該検索で得られた過去事例の材質値に基づいて予測したい製品の材質値を予測する製品材質値の予測装置であって、
製造及び製品の材質値の測定が完了した製品のプロセス変数値、並びに製品の材質値のデータを製造プロセスから収集し、製造プロセスでの処理時刻と共に蓄積した時系列データベースと、
前記時系列データベースから、材質値を予測したい製品の処理時刻よりも予め指定された時刻だけ遡った過去時刻から現在時刻までの、プロセス変数値と製品の材質値のデータを抽出する手段と、
前記抽出したプロセス変数値のデータを所定の整数化を行うことにより量子化して、該量子化値を過去事例検索のためのインデックスキーとして、前記製造プロセスでの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号の少なくとも何れか1つと合せて、製品の材質値と共に検索用テーブルのメモリに格納する手段と、
前記材質値を予測したい製品のプロセス変数値の中で、予測のために予め抽出するよう指定したプロセス変数値のデータを製造プロセスから取り込み、該プロセス変数値を量子化する手段と、
該量子化したプロセス変数値を検索キーとして、前記検索用テーブルを検索し、前記検索キーの値と類似するインデックスキーを持つ過去事例のデータを類似事例として、類似度に従い選択する手段と、
前記選択した類似事例のデータから、製品の材質値と製造プロセスでの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号を取り出す手段と、
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する手段と、
該予測値を表示手段に出力し表示する手段と、を有することを特徴とする。
本発明の製品材質値の予測装置の他の特徴とするところは、前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する手段において、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例の製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻又は格納番号に基づいて重み付けした平均値を算出し、これを製品の材質の予測値とする点にある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大規模、複雑、非線形かつ非定常なプロセス類似例を高速に検索することができ、また、時系列データベースを利用することにより人手を介することなくシステマチックに類似例の検索性能を常に高い精度に維持することができる。また、これにより、大規模、複雑、非線形かつ非定常なプロセスの将来状態予測の性能を常に高い精度に維持することができる。同時に、大規模、複雑、非線形かつ非定常な要因が影響を与える製品の材質の予測値を常に高い精度に維持することができる。また、操業アクションを決定するための重要なガイダンスとなり、操業並びに材質の安定化や不良発生頻度の低減に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の実施形態に係る製品材質値の予測装置の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る製品材質値の予測装置は、製造プロセスのプロセス変数値並びに製造された製品の材質値の時系列データベースを作成し、作成したデータベースを用いて材質値を予測したい製品のプロセス変数値に類似したプロセス変数値を持つ過去事例を検索し、その過去事例に基づいて製造される製品の材質値を予測するものである。
【0019】
図1の10は製造プロセスの1つの代表例である薄板の製造プロセスである。製造プロセス10には、プロセス変数値として、処理時刻、試片番号、採取部位、Hot(熱延)コイルNo、巻No、注文厚み、注文巾、CAPL(連続焼鈍ライン)入側板厚、CAPL入側板巾、冷延材質コード、CAPL中央速度、HF(加熱ゾーン)出側板温、1S(第1均熱ゾーン)出側板温、2S(第2均熱ゾーン)出側板温、1C(第1冷却ゾーン)出側板温、RH(再加熱ゾーン)出側板温、OA(過時効ゾーン)出側板温、2C(第2冷却ゾーン)出側板温、SPM(調質圧延工程)伸び率、SPM圧延力、熱延ラインにおけるR6(粗圧延最終スタンド)出側温度、仕上出側温度、巻取温度、精錬工程を終了した時点での溶鋼内のC量、Si量、Mn量、P量、S量、Cu量、Ni量、Cr量、Mo量、Nb量、V量、Ti量、B量、Al量、N量、O量、Ca量を計測する各種センサ、また、入力する端末が複数設置されている。また、製造プロセス10には、材質値YP(降伏強度)、TS(引張強度)、EL(延性)、R値(ランクフォード値)を計測する装置、又は、結果を入力する端末が複数設置されている。
【0020】
図1の20は薄板の製造プロセスの計測・制御・データ収集部であり、薄板の製造プロセス10から計測した各種のプロセス変数値情報の時系列データを収集し、操業オペレータに提示し、必要に応じてオペレータの介在のもとプロセスの制御操作を行うと同時に、プロセス変数値情報を収集する。また、材質値YP、TS、EL、R値の入力情報を材質管理者に提示し、同時に収集する。計測されたプロセス変数値並びに材質値から、少なくとも1つ以上が選択されて、図1の30の時系列データベースに取り込まれる。ここで、薄板の製造プロセスの計測・制御・データ収集部20は、具体的にはプロセスコンピュータ(プロコン)、ビジネスコンピュータ(ビジコン)により構成される。
【0021】
また、製造プロセスの他の代表例である電磁鋼板の製造プロセスを対象とする場合、図1の製造プロセス10には、プロセス変数値として、製品の注文厚み、精錬工程を終了した時点での溶鋼内のC量、Si量、Mn量、P量、S量、Cu量、Ni量、Cr量、Mo量、Nb量、V量、Ti量、B量、Al量、N量、O量、Ca量、精錬工程の終了時刻、連続鋳造におけるスラブの鋳造位置、連続鋳造工程の終了時刻、熱延加熱炉装入時のスラブ温度、加熱炉の在炉時間、加熱炉抽出時のスラブ温度、熱延の粗圧延から仕上圧延の延滞時間、粗圧延出側での板温度、仕上圧延出側での板温度、仕上圧延出側での板厚、捲取での板温度、熱延工程の終了時刻、熱延板焼鈍工程における冷却帯出側での板温度、熱延板焼鈍工程の終了時刻、冷延時の板温度、冷延のロール径、冷延工程の終了時刻、脱炭焼鈍工程における均熱帯での板温度、均熱帯の炉内露点、脱炭焼鈍工程における脱炭焼鈍温度のアンモニアガス導入量、脱炭焼鈍工程の終了時刻、仕上焼鈍工程での温度パターンコード、仕上焼鈍工程の終了時刻、を計測する各種センサ、また、入力する端末が複数設置されている。また、製造プロセス10には、電磁鋼板の材質値とである飽和磁束密度、鉄損値を計測する装置、又は、結果を入力する端末が複数設置されている。
【0022】
電磁鋼板の製造プロセスを対象とする場合、図1の20は電磁鋼板の製造プロセスの計測・制御・データ収集部であり、電磁鋼板の製造プロセス10から計測した各種のプロセス変数値情報の時系列データを収集して、操業オペレータに提示し、必要に応じてオペレータの介在のもとプロセスの制御操作を行うと同時に、プロセス変数値情報を収集する処理を行う。また、飽和磁束密度、鉄損値の入力情報を材質管理者に提示し、同時に収集する。計測されたプロセス変数値並びに材質値から、少なくとも1つ以上が選択されて、図1の30の時系列データベースに取り込まれる。電磁鋼板の製造プロセスの計測・制御・データ収集部20は、具体的にはプロセスコンピュータ(プロコン)、ビジネスコンピュータ(ビジコン)により構成される。
【0023】
なお、本発明の範囲は、上記の薄板の製造プロセスや、電磁鋼板の製造プロセスに限定されるものではなく、操業条件及びプロセスの状態量からなるプロセス変数値と、製造された製品の材質値が得られる製造プロセス全てに対して適用可能な、一般的なものである。
【0024】
図1の30は製造プロセスのプロセス変数値並びに製造された製品の材質値の時系列データベースであり、計測・制御・データ収集部20で収集した各種のプロセス変数値データや製品の材質値データが一定時刻毎、若しくは一定長さ毎、或いは薄板製品の製造単位であるコイル毎に製造プロセスでの処理時刻と共に格納される。プロセス変数値データや材質値データは、種類によって測定される周期や長さが異なる場合が多いが、短周期のデータに合せて、長周期のデータは値をホールドすることにより短周期のデータに変換する、或いは長周期のデータにあわせて短周期のデータを平均処理することにより、周期や長さをそろえたデータとすることができる。このように同一の単位(ここで言う単位とは、一定時刻、一定長さ、製品を指す)となるよう処理された製造プロセスのプロセス変数値並びに製造された製品の材質値を、該当する単位が製造プロセスで処理された時刻と合わせて格納したものを、本発明では時系列データベースと定義する。なお、前記単位が、一定長さの場合には、製造プロセスで処理された時刻の代わりに、製品の開始点からの位置情報を格納しておき、時系列データベースに格納された製造プロセスの処理速度で位置情報を割ることで、処理時刻に等価な情報を得られるようにした場合も、時系列データベースの範疇である。
【0025】
なお、時系列データベース30のプロセス変数は、例えばステップワイズ法を用いて予測に有効ではないと判明した変数は格納せず、数を削減しても良い。また、時系列データベースのプロセス変数について、互いに類似したインデックスキーの過去事例を選択し、選択された複数の過去事例間で、プロセス変数値の差分量及び製品の材質値の差分量を算出し、これらプロセス変数値の差分量と該製品の材質値の差分量の相関係数を算出して、予め設定された閾値よりも、この相関係数の絶対値が小さい場合は、このプロセス変数を予測に使用する変数から除外しても良い。これによりデータの格納に必要なメモリやハードディスク容量を低減し、更に計算機処理に要する演算時間を短縮することができる。また、プロセス変数を削減する処理は、上記の処理に限定されるものではなく、例えば操業に関する知識から、互いに相関が高いことが判明しているプロセス変数は、一方を削減する等の方法を用いても良く、更にプロセス変数値の削減手法は、単独で適用しても良く、或いは複数の絞込み手法を組み合わせても良い。
【0026】
図2に、製造プロセスのプロセス変数値並びに製造された製品の材質値の時系列データベース30のデータ格納形式の例を示す。プロセス変数値は、処理時刻、試片番号、採取部位、Hot(熱延)コイルNo、巻No、注文厚み、注文巾、連続焼鈍ライン入側板厚、連続焼鈍ライン入側板巾、冷延材質コード、連続焼鈍ライン中央速度、連続焼鈍ラインにおけるHF出側板温、1S出側板温、2S出側板温、1C出側板温、RH出側板温、OA出側板温、2C出側板温、SPM伸び率、SPM圧延力までを記載している。製造された製品の材質値は、YP、TS、EL、R値である。図2は、これら製造プロセスのプロセス変数値並びに製造された製品の材質値を、薄板製品であるコイル単位で格納した例である。ここで格納番号は、例えば、前記時系列データベースに格納された過去事例データを製造プロセスでの処理時刻が古い順番にデータをソートして得られる順番に対し、昇順に整数を付与することで作成される番号で、前記製造プロセスでの処理時刻の代りに、過去事例の処理順番を特定する情報を含むものである。
【0027】
また、図9には、製造プロセスのプロセス変数値並びに製造された製品の材質値を、長さ単位で格納した時系列データベースの例を示す。図9は、コイルの長さが1000m単位で格納した例を示すもので、時系列データベースには、各過去事例にコイル内位置開始点、並びにコイル内位置終了点の情報が付与されており、この位置に対応する製造プロセスのプロセス変数値並びに製造された製品の材質値が、処理時刻、並びに格納番号と共に格納されている。
【0028】
図1の40はプロセス変数値と材質値のデータ抽出部であり、時系列データベース30から予め指定した所定のプロセス変数値と材質値を抽出する。具体的には、時系列データベース30からデータを取り込み、材質を予測したい製品の処理時刻よりも、予め指定された時刻だけ遡った過去時刻から現在時刻までの、予め指定したプロセス変数値と材質値を抽出する。
【0029】
図1の50は検索用テーブル作成部であり、類似事例検索に用いるコンピュータメモリ内の検索用テーブル60を時系列データベース30からデータ抽出部40を用いて作成する。具体的には、データ抽出部40で抽出したプロセス変数値と材質値を量子化し、この量子化値をインデックスキーとして、前記製造プロセスの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号の少なくとも何れか1つと合せて、製品の材質値と共に検索用テーブル60のデータとしてコンピュータメモリに格納する。
【0030】
図1の60はコンピュータメモリ内の検索用テーブルであり、入力変数として、材質を予測したい製品のプロセス変数値を量子化したものを用いる。プロセス変数の量子化は、プロセス変数値を1からNの値(Nは設定値で、例えば5)に変換して行う。前記設定値Nの決定法としては、例えば製品の材質値が取り得る値の範囲を、予測に必要な分解能で除して、最も近い整数に切り上げた値を前記設定値Nとする方法がある。図10は、プロセス変数値の個数が一変数の場合を例にして、前記の設定値Nの決定法の考え方を示す図である。一般に、製造プロセスのプロセス変数値と材質値の間には連続な関係があり、類似したプロセス変数値で製造された製品は、類似した材質値を有している。このため、材質の上限値から下限値を差し引いた材質値の範囲を、予測に必要な分解能で除した値がN(図10にはN=5の場合を示している)であって、材質値をN個の区分に分けて予測する必要がある場合、プロセス変数値も、材質値と同様にN個の区分に量子化することで、必要な分解能を確保することができる。製造プロセスのプロセス変数値が複数個の場合は、上記の考え方で決定した設定値Nを、各プロセス変数値に適用して、量子化すれば良い。
【0031】
一例として示す本薄板の製造プロセスの場合は、処理時刻、試片番号、採取部位、Hot(熱延)コイルNo、巻No、注文厚み、注文巾、連続焼鈍ライン入側板厚、連続焼鈍ライン入側板巾、冷延材質コード、連続焼鈍ライン中央速度、HF出側板温、1S出側板温、2S出側板温、1C出側板温、RH出側板温、OA出側板温、2C出側板温、SPM伸び率、SPM圧延力、R6出側温度、仕上出側温度、巻取温度、精錬工程を終了した時点での溶鋼内のC量、Si量、Mn量、P量、S量、Cu量、Ni量、Cr量、Mo量、Nb量、V量、Ti量、B量、Al量、N量、O量、Ca量の40プロセス変数について、各事例の各々の変数値のデータを例えば1から5の値に量子化して、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60のインデックスを作成している。
【0032】
また、他の例である電磁鋼板の製造プロセスの場合、製品の注文厚み、精錬工程を終了した時点での溶鋼内のC量、Si量、Mn量、P量、S量、Cu量、Ni量、Cr量、Mo量、Nb量、V量、Ti量、B量、Al量、N量、O量、Ca量、精錬工程の終了時刻、連続鋳造におけるスラブの鋳造位置、連続鋳造工程の終了時刻、熱延加熱炉装入時のスラブ温度、加熱炉の在炉時間、加熱炉抽出時のスラブ温度、熱延の粗圧延から仕上圧延の延滞時間、粗圧延出側での板温度、仕上圧延出側での板温度、仕上圧延出側での板厚、捲取での板温度、熱延工程の終了時刻、熱延板焼鈍工程における冷却帯出側での板温度、熱延板焼鈍工程の終了時刻、冷延時の板温度、冷延のロール径、冷延工程の終了時刻、脱炭焼鈍工程における均熱帯での板温度、均熱帯の炉内露点、脱炭焼鈍工程における脱炭焼鈍温度のアンモニアガス導入量、脱炭焼鈍工程の終了時刻、仕上焼鈍工程での温度パターンコード、仕上焼鈍工程の終了時刻、の41個のプロセス変数に対して、各事例の各々の変数値のデータを例えば1から5の値に量子化して、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60のインデックスを作成している。
【0033】
図3に、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60の作成手順を示す。ステップS101では、時系列データベース30にデータ抽出部40を用いてアクセスし、前記時系列データベース30から、材質値を予測したい製品の処理時刻よりも予め指定された時刻だけ遡った過去時刻から現在時刻までの所定のプロセス変数のデータ値、製造プロセスの処理時刻、又は格納番号を収集する。
【0034】
ステップS102では、プロセス変数のデータ値の量子化を行う。なお、本発明における量子化とは、信号処理等の分野で行われるデジタル化とは異なり、プロセス変数のデータ値に基づいて、近接したデータ値の事例に、同一の整数番号を付与する演算処理を行うことで、予測対象事例に類似した過去事例を検索する際に対象範囲を絞り込み、演算量を削減することを目的とするものである。具体的な量子化方法としては、プロセス変数データをXiとし、予め与えられたその上下限の値がXimax、Ximin、量子化数をNとすれば、Xiの量子化値IXiを、下式(1)で算出する方法がある。
Xi=整数化(N*(Xi−Ximin)/(Ximax−Ximin)+1)・・・(1)
i=1〜40
ここで、整数化は、少数点以下切り捨ての意味である。また、量子化に用いたプロセス変数の上下限値の例を図4に示す。
【0035】
量子化の具体的な算出方法は、式(1)に限定されるものではなく、例えばプロセス変数データをXi及びその上下限の値Ximax、Ximinの対数値を算出し、その対数値を式(1)に代入して算出された整数値を量子化値とする方法を用いても良い。或いは、予測対象の材質とプロセス変数の特性に関する知識に基づいて、プロセス変数の取り得る範囲を不均等に分割し、各分割範囲に対応する量子化値を設定したテーブルを予め作成して、予測を実行する際には、このテーブルに基づいて量子化値を算出する方法でも良い。
【0036】
ステップS103では、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60に量子化されたデータ値をインデックスキーとして、製造プロセスでの処理時刻、又は格納番号のいずれか一つと合わせて、製品の材質値を設定する。その後、材質値を予測したい製品の処理時刻よりも予め指定された時刻だけ遡った過去時刻から現在時刻まで図3のステップS101〜S103を繰り返す。
【0037】
図1の70は類似事例検索・材質予測部であり、図5に示す手順で類似事例を検索し、類似事例のプロセス変数値、並びに材質値を用いて製品の材質値を予測する。すなわち、ステップS201で、予測したい製品のプロセス変数値のデータを計測・制御・データ収集部20から取り込み、ステップS202では、式(1)に基づいて、このプロセス変数値を量子化する処理を行う。次いでステップS203で、この量子化されたプロセス変数値(=検索テーブルの入力値)を検索キーとして、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60より類似事例の検索を行う。ステップS204では、検索の結果得られた類似事例のプロセス変数値、製品の材質値、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号を用いて材質値の予測を行う。
【0038】
具体的な材質予測値の算出手段としては、検索の結果得られた複数個の類似事例の材質値の平均値を算出し、製品の材質予測値とする方法がある。具体的な平均値の算出法として最も基本的な方法としては、類似事例の材質値を加算し、類似事例の個数で除することで得られる単純平均値を求める方法がある。
【0039】
また、製造プロセスにおいては、設備の経時変化等によって、プロセス変数値と製品材質値の特性が変化することがある。この場合は、検索の結果得られた複数個の過去事例に対し、製造プロセスでの処理時刻に基づいて、現在に近い過去事例の材質値に高い重み付けを行って平均値を算出し、予測値とすることで高い精度の予測値を得ることができる。具体的には、検索で得られた全ての過去事例に対して、その処理時刻と現在時刻との差で定義される時刻差tiを求めて、該時刻差tiに基づき式(2)を用いて重み係数Wiを算出し、式(3)で重み付き平均値を算出する方法がある。
【0040】
【数2】

【0041】
図11(a)に、時刻に対する式(2)による重み係数の分布を模式的に説明した図を示す。現在時刻に最も近い過去事例に一番高い重みが設定され、その他の過去事例では、時刻差が大きいほど低い重みとなることから、設備の経時変化による特性の変化を反映した予測値が算出される。指数関数の正値パラメータλは、時刻差に基づく重みの度合いを調整するためのパラメータであり、値が大きいほど、最新の過去事例に高い重みが設定される。このパラメータは、製造プロセスに関する知識から経験的に決定しても良く、或いは予測値が最も実績値に良く一致するよう調整して決定しても良い。なお、時刻差tiに基づいて重み係数を算出する式は、式(2)に限定されるものではなく、図11(b)に示す線形関数等、現在時刻において最も高い重みを有する任意の単調関数の式を用いたものも本発明に含まれる。また、関数式で重みを算出する方法ではなく、時刻差の範囲と重み係数を対応表にした重み係数テーブルを予め作成し、時刻差の値から重み係数テーブルを参照して重み係数を決定する方式としても良い。
【0042】
なお、過去事例に対する重みを設定して平均値を算出する方法としては、予測対象製品のプロセス変数値と過去事例のプロセス変数値に基づいて、重み係数を決定する方法を用いても良い。具体的には、材質値を予測したい製品のプロセス変数値の量子化した値と、検索の結果得られた類似事例のプロセス変数値の量子化した値との差で定義する類似度から重み係数を算出し、材質値に乗じた上で加算することで得られる類似度重み付き平均値を予測値とする方法もある。或いは、予測したい事例のプロセス変数値と類似事例のプロセス変数値の差分量から重み係数を算出し、材質値に乗じた上で加算することで得られる差分量重み付き平均値を製品の予測値とするようにしても良い。
【0043】
上記の製造プロセスの処理時刻や、或いはプロセス変数値に基づいて重み係数を算出し、重み付き平均値を算出して予測値とする方法は、単独で適用しても良く、またそれぞれの手法を組み合わせて時刻差とプロセス変数値の両者を考慮した重み係数を求めて、予測値を算出しても良い。
【0044】
また、具体的な予測値の他の算出方法としては、検索の結果得られた複数個の類似事例のプロセス変数、及び材質値の実績データから重回帰モデルを作成し、予測対象のプロセス変数値を、この重回帰モデルに入力して材質の予測値を求める方法がある。重回帰モデルの未定係数は、類似事例のプロセス変数と材質の実績値より、最小二乗法等の最適化手法で算出し、この未定係数値に予測したい時点のプロセス変数値を乗じて和を取った線形和を算出して、予測値とする。
【0045】
更に、他の具体的な予測値の算出方法としては、検索の結果得られた複数個の類似事例の材質値に基づいて、予め設定された関数形の確率密度関数のパラメータを算出し、この確率密度関数モデルに基づいて予測値を算出する方法がある。一般にプロセス変数値と材質値の間には、測定ノイズ等の外乱や、センサで測定できない等の理由で時系列データベースに収集されていない因子の影響により、ほぼ同一のプロセス変数値であるにも係わらず材質値が互いに異なるという、いわゆるバラツキが存在する。特に鉄鋼プロセスのような、高温環境等の理由で測定センサの設置に制約が多く、かつ外乱ノイズの多い製造プロセスにおいては、相当量のバラツキが存在する。このようなバラツキの大きい材質値の予測においては、顧客との取り決めで設定された材質の保証範囲を予測対象製品が満足しているかが重要であり、平均的な材質値を予測するよりも、ある所定の確率における材質値の範囲を予測することが有用であり、過去事例に基づく材質値の確率密度分布による予測が適切である。予測値の算出に用いる確率密度関数は、予め関数式を設定しておく必要があり、対象の製造プロセスに関する知識や、或いは材質値のデータの度数分布に基づいて、分布を適切に表現できる関数を選定すれば良い。具体的には、正規分布関数、指数分布関数、ポアソン分布関数、対数正規分布関数等統計学の研究分野で提案された関数を用いるのが一般的であるが、本発明は、これらの関数に限定されるものではなく、任意の関数系を用いることができる。これら確率密度関数のパラメータ(例えば正規分布関数の場合は、平均値と標準偏差)は、検索の結果得られた複数個の類似事例の材質値より算出され、この算出されたパラメータと、予め設定した確率値(例えば材質値の平均値を中心とする確率90%)を、前記設定した確率密度関数の累積確率密度逆関数に代入して演算する処理によって、製品の材質値の範囲を算出し、予測値とすることができる。図12に、確率密度関数に基づく材質の予測値の算出する処理を模式的に表した図を示す。
【0046】
図5のステップS201では、計測・制御・データ収集部(プロコン、ビジコン)20から材質値を予測したい製品のプロセス変数値を入手する。
【0047】
ステップS202では、入手したプロセス変数値に対して、先に説明した量子化した値を算出する演算を行い、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60の入力値を作成する。
【0048】
ステップS203では、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60と選択した入力データの照合を行う。照合は単純な方法としてコンピュータメモリ内の検索用テーブル60におけるインデックスキーを順番に照合する。材質を予測したい製品のプロセス変数を量子化した値が、全て一致するインデックスキーを持つ過去事例があれば、そのデータを適合した数だけ記録する。この場合は、事例類似度を0と設定する。コンピュータメモリ内の検索用テーブル60に入力データと全て適合するものがなければ、再度入力データの近傍1を探索する。近傍データは、まず各入力データの量子化データ値の前後(+1、−1)まで探索する。但し、前記入力データの近傍1の範囲の中で、取り得る量子化データ値の範囲を超える範囲があれば、その範囲は探索の対象とはならない。
【0049】
例えば、注文厚みの量子化データが3であれば、2〜4の範囲のデータが照合範囲となる。各入力変数について範囲を前後に拡大して探索を行い、すべてを満足するものを探し、適合すれば、そのデータを類似事例として記憶する。この場合は、類似度は1となる。同様に探索するものがなければ、次の近傍2を探索し、適合するものがあれば、同様に類似事例として記憶する。この場合は、類似度は2となる。設定された近傍kまで探索し、適合するものがなければ類似例なしとする。この近傍kは、0以上かつ前記量子化数Nを超えない範囲の整数値であって、例えば、プロセス変数値が極めて近い類似事例のみで製品の材質値を予測したい場合には0を設定すれば良い。
【0050】
ステップS204では、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60から検索された複数の類似事例のデータからプロセス変数値、製品の材質値、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号を抽出して、予測したい製品の材質値を算出する演算を行い、結果を画面やファイルに出力する。
【0051】
図1の80は類似事例・材質予測値結果表示部であり、予測したい製品に対して検索で得られた複数の類似事例点の個々のプロセス変数値や材質値の予測グラフ、及び平均化したグラフ、又は変動範囲を画面に表示する。また、表示にあたって、事例の類似度に対応した信頼度も同時に表示する。例えば、類似度0の場合は信頼度が高いとし、類似度1の場合は信頼度がやや高いとし、類似度2の場合は信頼度が普通とし、類似度3の場合は信頼度が低いとして表示する。
【0052】
図6には、薄板の材質YPの予測結果を画面表示した例を示す。この例では、横軸に実績値、縦軸に予測値をとり、予測に用いた過去事例と予測対象事例の相似度(類似度)を類似度の高い順番に●、▲、×、△、○の記号で表現している。
【0053】
また、電磁鋼板の材質値である鉄損値を、本発明で予測した結果を画面表示した例を図8に示す。図8の横軸は実績値、縦軸は予測値であり、本図には類似度に関する情報は記載していない。
【0054】
以上述べた手法によれば、製造プロセスの経時変化を反映して直近の事例に基づき予測を行うことは、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60の更新を行うことで容易に行うことができる。検索用テーブル60の更新は、プロセス変数値と材質実績データが時系列データベース30に取り込まれるごとに逐次実施することも可能であるが、更新用のデータが時系列データベース30に一定量蓄積された時点で、そのデータを使って図3の手順でコンピュータメモリ内の検索用テーブル60に値を追記するようにしても良い。また、操業の変化等の理由により利用ができなくなったある時点以前のデータを予測に使用しないようにすることも、その年月日と時刻、或いはその時点に対応する格納番号のデータをコンピュータメモリ内の検索用テーブル60から削除することにより容易に行うことができる。
【0055】
また、量子化の方法は上式(1)に限るものではない。データに応じてXiの分割を非等間隔に取っても良い。
【0056】
また、プロセスの現状状態に類似な事象を検索するだけでなく、時系列データベース30の特定時点に類似な事象を検索することも可能である。
【0057】
(第2の実施の形態)
次に、材質値を予測したい製品の製造の途中過程において、望ましい材質を得るための操業条件を決定する方法について、図13に基づき説明する。
【0058】
図13のステップS301では、計測・制御・データ収集部(プロコン、ビジコン)20から材質値を予測したい製品のプロセス変数値を入手するが、この際、既に製造プロセスにおける処理が完了し、実績が確定したプロセス変数に関する値のみを収集する。
【0059】
ステップS302では、入手したプロセス変数値に対してコンピュータメモリ内の検索用テーブル60の入力値を作成する。具体的な入力値の作成方法は、先に説明した図5のステップS202における量子化した値を算出する演算処理と同様の方法である。
【0060】
ステップS303では、材質予測に必要なプロセス変数値の中で、未だ処理が確定していないためにステップS301では収集しなかったプロセス変数について、該プロセス変数が取り得る全て操業範囲を網羅する全ての量子化値を作成し、更に収集していないプロセス変数が複数個ある場合は、それぞれのプロセス変数の量子化値の全ての組み合わせを作成する。例えば、量子化数N=5で、かつ処理が確定していないプロセス変数が3変数ある場合は、それぞれのプロセス変数は5通りの量子化値を有するため、その組合せは5×5×5=125通りとなる。
【0061】
ステップS304では、ステップ302で作成したプロセス変数値の実績に相当する量子化値と、ステップ303で作成した確定していないプロセス変数値の取り得る量子化値を合わせて、検索用テーブル60を参照するための入力データを作成する。この入力データは、ステップS303で作成した全ての組合せの数だけ作成され、これらは予測対象の製品が今後、取り得る操業条件をすべて網羅したものに相当する。
【0062】
ステップS305では、ステップS304で作成した入力データの内の一つと、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60との検索を行い、入力データに類似した過去事例を選択する処理を行う。具体的な検索方法としては、図5のステップS203における類似事例の選択方法と同様の処理である。
【0063】
ステップS306では、コンピュータメモリ内の検索用テーブル60から検索された複数の類似事例のデータから予測したい製品の材質値を算出する演算を行う。具体的な演算方法としては、図5のステップS204における計算と同様の処理である。
【0064】
ステップS305及びS306の処理は、ステップS304で作成した全ての入力データに対して行われる。これは、予測対象製品が今後取り得る操業条件の全てに対して、各々の材質予測値を算出することに相当する。
【0065】
ステップS307では、上記までのステップで算出した各操業条件に対する材質の予測値を、予め設定した評価関数に基づいて評価し、最も良好な材質予測値となった入力データを選択し、その入力データに相当するプロセス変数値に換算して出力する処理を行う。該換算は、式(1)をXiについて解いた数式に、前記入力データの量子化数IXiを代入して行えば良い。図14には、3つのプロセス変数で材質を予測する場合で、X1とX2のプロセス変数は実績が確定した状況下で、最良の材質を実現するX3の操業条件を選択する処理を模式的に表した図を示す。また、材質の評価関数としては、材質の目標値と予測値の差分を計算し、この差分の絶対値が最も小さい場合を最良と評価する関数がある。例えば材質値が、薄板の降伏強度、引張り強度、延性、ランクフォード値等の機械特性値である場合、その値は顧客との間で取り決めた所定の目標値に一致していることが最も望ましい。このような場合は、材質の目標値と予測値の差分の絶対値が最も小さい操業条件を選択するよう評価関数を設定する。また、材質値が電磁鋼板の飽和磁束密度等、値が大きいほうが望ましい場合は、最大の予測値となる操業条件を選択する評価関数とする。更に、材質が電磁鋼板の鉄損のような、値が小さいほうが望ましい場合は、最小の予測値となる操業条件を選択する評価関数とすれば良い。
【0066】
以上の演算処理により算出された操業条件は、ステップS306の製品材質値の予測において、予測対象製品の処理時刻に基づき重み係数を求めて、材質の予測値を算出していることから、製造設備の経時変化による特性の変化も考慮した精度の高い計算値となっている。このため、この予測値を類似事例・材質予測値結果表示部に出力することで、オペレータが、これを参照して操業条件を変更することにより、望ましい材質値の製品を製造することが可能となり、材質改善の効果を得ることができる。
【0067】
(第3の実施の形態)
その他の実施形態について、以下に述べる。本発明の製品材質値の予測装置及び方法はコンピュータにより実現可能である。図7に、本発明の製品材質値の予測装置として機能し得るコンピュータシステム1200の構成例を示す。コンピュータシステム1200は、CPU1201と、ROM1202と、RAM1203と、キーボード(KB)1209のキーボードコントローラ(KBC)1205と、表示部としてのCRTディスプレイ(CRT)1210のCRTコントローラ(CRTC)1206と、ハードディスク(HD)1211及びフレキシブルディスク(FD)1212のディスクコントローラ(DKC)1207と、LAN1220との接続のためのネットワークインターフェースコントローラ(NIC)1208とが、システムバス1204を介して互いに通信可能に接続された構成としている。
【0068】
CPU1201は、ROM1202或いはHD1211に記憶されたソフトウェア、或いはFD1212より供給されるソフトウェアを実行することで、システムバス1204に接続された各構成部を総括的に制御する。すなわち、CPU1201は、所定の処理シーケンスに従った処理プログラムを、ROM1202、或いはHD1211、或いはFD1212から読み出して実行することで、上記本実施の形態での動作を実現するための制御を行う。
【0069】
RAM1203は、CPU1201の主メモリ或いはワークエリア等として機能する。KBC1205は、KB1209や図示していないポインティングデバイス等からの指示入力を制御する。CRTC1206は、CRT1210の表示を制御する。DKC1207は、ブートプログラム、種々のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム、及び本実施の形態における所定の処理プログラム等を記憶するHD1211及びFD1212とのアクセスを制御する。NIC1208は、LAN1220上の装置或いはシステムと双方向にデータをやりとりする。
【0070】
また、コンピュータに対し、上述した実施形態の機能を実現するためのソフトウェアのプログラムコードを供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータに格納されたプログラムに従って各種デバイスを動作させることによって実施したものも、本発明の範疇に含まれる。
【0071】
また、この場合、前記ソフトウェアのプログラムコード自体が上述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体は本発明を構成する。そのプログラムコードの伝送媒体としては、プログラム情報を搬送波として伝播させて供給するためのコンピュータネットワークシステムにおける通信媒体を用いることができる。
【0072】
更に前記プログラムコードをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムコードを格納した記憶媒体は本発明を構成する。かかるプログラムコードを記憶する記憶媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態に係る製品材質値の予測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態における製造プロセスのプロセス変数値並びに製造された製品の材質値の時系列データベース30のデータ格納形式の例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態における検索用テーブルの作成手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態における量子化に用いた入力変数の上下限値の例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態における、類似事例を検索し、その類似事例を用いて製品の材質を予測する手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態における薄板の材質YPの予測結果の例を示す図である。
【図7】本発明の製品材質値の予測装置として機能し得るコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施形態における電磁鋼板の材質鉄損の予測結果の例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態における製造プロセスのプロセス変数値並びに製造された製品の材質値の時系列データベース30のデータ形式の他の例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態におけるプロセス変数値の量子化の設定値Nの決定法の例を説明する図である。
【図11】本発明の実施形態における製品の製造時刻に基づく重み係数を説明する図であり、(a)は製造時刻に対して指数関数で変化する重み係数の場合を説明する図、(b)は製造時刻に対して線形関数で変化する重み係数の場合を説明する図である。
【図12】本発明の実施形態における確率密度関数により材質の予測値を算出する処理を模式的に説明する図である。
【図13】本発明の実施形態における製品製造の途中過程において最良の材質値の製品を製造する条件を算出する処理を説明する図である。
【図14】3つのプロセス変数で材質を予測する場合で、2つのプロセス変数が確定した状況下で、残る一つ変数の操業条件を決定する処理を模式的に表す図である。
【符号の説明】
【0074】
10 薄板の製造プロセス
20 薄板の製造プロセスの計測・制御・データ収集装置
30 製造プロセスのプロセス変数値並びに製造された製品の材質値の時系列データベース
40 プロセス変数値と材質値の抽出部
50 検索用テーブル作成部
60 検索用テーブル
70 類似事例検索・材質予測部
80 類似事例・材質予測値表示部
1200 コンピュータ(PC)
1201 CPU
1202 ROM
1203 RAM
1204 システムバス
1205 キーボードコントローラ(KBC)
1206 表示コントローラ(CRTC)
1207 ディスクコントローラ(DKC)
1208 ネットワークインタフェースカード(NIC)
1209 キーボード(KB)
1210 表示装置(CRT)
1211 ハードディスク(HD)
1212 フレキシブルディスクドライブ(FD)
1220 LAN

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造プロセスの操業条件及びプロセスの状態量からなるプロセス変数値、並びに製造された製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻と共に、該製造プロセスにおける製造実績の過去事例として保存した時系列データベースを作成し、該時系列データベースを用いて、材質値を予測したい製品のプロセス変数値に類似したプロセス変数値を持つ過去事例を検索し、該検索で得られた過去事例の材質値に基づいて予測したい製品の材質値を予測する製品材質値の予測方法であって、
製造及び製品の材質値の測定が完了した製品のプロセス変数値、並びに製品の材質値のデータを製造プロセスから収集し、製造プロセスでの処理時刻と共に蓄積した時系列データベースを作成する工程と、
前記時系列データベースから、材質値を予測したい製品の処理時刻よりも予め指定された時刻だけ遡った過去時刻から現在時刻までの、プロセス変数値と製品の材質値のデータを抽出する工程と、
前記抽出したプロセス変数値のデータを所定の整数化を行うことにより量子化して、該量子化値を過去事例検索のためのインデックスキーとして、前記製造プロセスの処理時刻、或いは製造プロセスの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号の少なくとも何れか1つと合せて、製品の材質値と共に検索用テーブルのメモリに格納する工程と、
前記材質値を予測したい製品のプロセス変数値の中で、予測のために予め抽出するよう指定したプロセス変数値のデータを製造プロセスから取り込み、該プロセス変数値を量子化する工程と、
該量子化したプロセス変数値を検索キーとして、前記検索用テーブルを検索し、前記検索キーの値と類似するインデックスキーを持つ過去事例のデータを類似事例として、類似度に従い選択する工程と、
前記選択した類似事例のデータから、製品の材質値と製造プロセスでの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号を取り出す工程と、
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する工程と、
該予測値を表示手段に出力し表示する工程と、を有することを特徴とする製品材質値の予測方法。
【請求項2】
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する工程において、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例の製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻又は格納番号に基づいて重み付けした平均値を算出し、これを製品の材質の予測値とすることを特徴とする請求項1に記載の製品材質値の予測方法。
【請求項3】
複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例の製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻に基づいて重み付けした平均値を算出するときに、現在時刻と該過去事例の処理時刻の差で定義される時刻差tiを全ての該過去事例に対して算出し、該時刻差tiに基づき式(2)を用いて該各過去事例に対応する重み係数Wiを算出して、重み付けした平均値の算出に用いることを特徴とする請求項2に記載の製品材質値の予測方法。
【数1】

【請求項4】
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する工程において、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例のプロセス変数値及び製品の材質値に基づいて、未定係数を乗じたプロセス変数値の線形和として材質値を推定する重回帰モデルの未定係数値を算出し、この重回帰モデルに予測したい製品のプロセス変数値を設定して得られる材質の推定値を製品材質の予測値とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製品材質値の予測方法。
【請求項5】
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する工程において、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例の製品の材質値に基づいて、予め設定された確率密度関数のパラメータを算出し、この確率密度関数モデルに該算出されたパラメータと予め設定した確率値を設定して、該確率値における材質指標を算出し、製品材質の予測値とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製品材質値の予測方法。
【請求項6】
前記時系列データベースのプロセス変数について、ステップワイズ法を用いて変数の数を削減することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製品材質値の予測方法。
【請求項7】
前記時系列データベースのプロセス変数について、互いに類似したインデックスキーの過去事例を選択し、該選択された過去事例間のプロセス変数値の差分量及び製品の材質値の差分量を算出し、該プロセス変数値の差分量と該製品の材質値の差分量の相関係数を算出して、予め設定された閾値よりも、前記相関係数の絶対値が小さいプロセス変数は、前記予測のために予め抽出するよう指定したプロセス変数値からは除外することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製品材質値の予測方法。
【請求項8】
前記時系列データベースが薄板の製造プロセスを対象とし、前記プロセス変数値を、処理時刻、試片番号、採取部位、Hot(熱延)コイルNo、巻No、注文厚み、注文巾、連続焼鈍ラインの入側板厚、連続焼鈍ラインの入側板巾、冷延材質コード、連続焼鈍ラインの中央速度、連続焼鈍ラインの加熱ゾーンの出側板温、連続焼鈍ラインの均熱ゾーンの出側板温、連続焼鈍ラインの冷却ゾーンの出側板温、連続焼鈍ラインの再加熱ゾーンの出側板温、連続焼鈍ラインの過時効ゾーンの出側板温、連続焼鈍ラインの調質圧延工程の伸び率、連続焼鈍ラインの調質圧延工程の圧延力、熱延ラインの粗圧延最終スタンド出側板温、熱延ラインの仕上出側温度、熱延ラインの巻取温度、精錬工程を終了した時点での溶鋼内のC量、Si量、Mn量、P量、S量、Cu量、Ni量、Cr量、Mo量、Nb量、V量、Ti量、B量、Al量、N量、O量、Ca量から少なくとも1つ以上選択することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製品材質値の予測方法。
【請求項9】
前記時系列データベースが薄板の製造プロセスを対象とし、前記材質値を降伏強度、引張強度、延性、ランクフォード値から少なくとも1つ以上選択することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製品材質値の予測方法。
【請求項10】
前記時系列データベースが電磁鋼板の製造プロセスを対象とし、前記プロセス変数値を、製品の注文厚み、精錬工程を終了した時点での溶鋼内のC量、Si量、Mn量、P量、S量、Cu量、Ni量、Cr量、Mo量、Nb量、V量、Ti量、B量、Al量、N量、O量、Ca量、精錬工程の終了時刻、連続鋳造におけるスラブの鋳造位置、連続鋳造工程の終了時刻、熱延加熱炉装入時のスラブ温度、加熱炉の在炉時間、加熱炉抽出時のスラブ温度、熱延の粗圧延から仕上圧延の延滞時間、粗圧延出側での板温度、仕上圧延出側での板温度、仕上圧延出側での板厚、捲取での板温度、熱延工程の終了時刻、熱延板焼鈍工程における冷却帯出側での板温度、熱延板焼鈍工程の終了時刻、冷延時の板温度、冷延のロール径、冷延工程の終了時刻、脱炭焼鈍工程における均熱帯での板温度、均熱帯の炉内露点、脱炭焼鈍工程における脱炭焼鈍温度のアンモニアガス導入量、脱炭焼鈍工程の終了時刻、仕上焼鈍工程での温度パターンコード、仕上焼鈍工程の終了時刻、から少なくとも1つ以上選択することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製品材質値の予測方法。
【請求項11】
前記時系列データベースが電磁鋼板の製造プロセスを対象とし、前記材質値を電磁鋼板の飽和磁束密度、鉄損値から少なくとも1つ以上選択することを特徴とする請求項1〜7、10のいずれか1項に記載の製品材質値の予測方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の製品材質値の予測方法を用いて製造途中の製品の材質値を予測し、予め設定された評価指標に基づき最も優れた材質の予測値を実現する製造プロセスの操業条件を決定する操業条件の決定方法であって、
前記材質値を予測したい製品の製造の途中過程において、操業が完了し実績が確定したプロセス変数値のデータを製造プロセスから取り込み量子化し、未だ完了していない操業条件に対応するプロセス変数については、該完了していない操業条件のとり得る範囲を網羅する量子化値の全ての組合せを作成して、該全ての組合せに対して請求項1〜11のいずれか1項に記載の製品材質値の予測方法を用いて、それぞれ材質の予測値を算出し、予め設定された材質の評価指標に基づいて最も優れた材質の予測値を実現する量子化値の組合せを選択し、この量子化値の組合せに対応するプロセス変数値を良好な材質値を実現する操業条件として表示手段に出力することを特徴とする操業条件の決定方法。
【請求項13】
製造プロセスの操業条件及びプロセスの状態量からなるプロセス変数値、並びに製造された製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻と共に、該製造プロセスにおける製造実績の過去事例として保存した時系列データベースを作成し、該時系列データベースを用いて、材質値を予測したい製品のプロセス変数値に類似したプロセス変数値を持つ過去事例を検索し、該検索で得られた過去事例の材質値に基づいて予測したい製品の材質値を予測する製品材質値の予測するためのプログラムであって、
製造及び製品の材質値の測定が完了した製品のプロセス変数値、並びに製品の材質値のデータを製造プロセスから収集し、製造プロセスでの処理時刻と共に蓄積した時系列データベースを作成する工程と、
前記時系列データベースから、材質値を予測したい製品の処理時刻よりも予め指定された時刻だけ遡った過去時刻から現在時刻までの、プロセス変数値と製品の材質値のデータを抽出する処理と、
前記抽出したプロセス変数値のデータを所定の整数化を行うことにより量子化して、該量子化値を過去事例検索のためのインデックスキーとして、前記製造プロセスでの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号の少なくとも何れか1つと合せて、製品の材質値と共に検索用テーブルのメモリに格納する処理と、
前記材質値を予測したい製品のプロセス変数値の中で、予測のために予め抽出するよう指定したプロセス変数値のデータを製造プロセスから取り込み、該プロセス変数値を量子化する処理と、
該量子化したプロセス変数値を検索キーとして、前記検索用テーブルを検索し、前記検索キーの値と類似するインデックスキーを持つ過去事例のデータを類似事例として、類似度に従い選択する処理と、
前記選択した類似事例のデータから、製品の材質値と製造プロセスでの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号を取り出す処理と、
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する処理と、
該予測値を表示手段に出力し表示する処理とを、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する処理において、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例の製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻又は格納番号に基づいて重み付けした平均値を算出し、これを製品の材質の予測値とすることを特徴とする請求項13に記載のプログラム。
【請求項15】
請求項13又は14に記載のプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項16】
製造プロセスの操業条件及びプロセスの状態量からなるプロセス変数値、並びに製造された製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻と共に、該製造プロセスにおける製造実績の過去事例として保存した時系列データベースを作成し、該時系列データベースを用いて、材質値を予測したい製品のプロセス変数値に類似したプロセス変数値を持つ過去事例を検索し、該検索で得られた過去事例の材質値に基づいて予測したい製品の材質値を予測する製品材質値の予測装置であって、
製造及び製品の材質値の測定が完了した製品のプロセス変数値、並びに製品の材質値のデータを製造プロセスから収集し、製造プロセスでの処理時刻と共に蓄積した時系列データベースと、
前記時系列データベースから、材質値を予測したい製品の処理時刻よりも予め指定された時刻だけ遡った過去時刻から現在時刻までの、プロセス変数値と製品の材質値のデータを抽出する手段と、
前記抽出したプロセス変数値のデータを所定の整数化を行うことにより量子化して、該量子化値を過去事例検索のためのインデックスキーとして、前記製造プロセスでの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号の少なくとも何れか1つと合せて、製品の材質値と共に検索用テーブルのメモリに格納する手段と、
前記材質値を予測したい製品のプロセス変数値の中で、予測のために予め抽出するよう指定したプロセス変数値のデータを製造プロセスから取り込み、該プロセス変数値を量子化する手段と、
該量子化したプロセス変数値を検索キーとして、前記検索用テーブルを検索し、前記検索キーの値と類似するインデックスキーを持つ過去事例のデータを類似事例として、類似度に従い選択する手段と、
前記選択した類似事例のデータから、製品の材質値と製造プロセスでの処理時刻、或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号を取り出す手段と、
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する手段と、
該予測値を表示手段に出力し表示する手段と、を有することを特徴とする製品材質値の予測装置。
【請求項17】
前記取り出した製品の材質値、並びに、製造プロセスでの処理時刻或いは製造プロセスでの処理時刻に対応する前記時系列データベースの格納番号、に基づいて、製品の材質の予測値を算出する手段において、複数個の過去事例を検索で選択し、該複数個の過去事例の製品の材質値を、製造プロセスでの処理時刻又は格納番号に基づいて重み付けした平均値を算出し、これを製品の材質の予測値とすることを特徴とする請求項16に記載の製品材質値の予測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−33536(P2010−33536A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318908(P2008−318908)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】