説明

複合体の製造方法

【課題】半導体材料として用いられるIII族窒化物結晶と接合膜として用いられる酸化物膜との間の接合強度が高い複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】本複合体の製造方法は、III族窒化物結晶11と酸化物膜12とを含む複合体10の製造方法であって、III族窒化物結晶11を準備する工程と、III族窒化物結晶11上に酸化物膜12を形成することにより複合体10を作製する工程と、複合体10を500℃以上1100℃以下で熱処理する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物結晶と酸化物膜とを含む複合体の製造方法に関する。かかる複合体は、光デバイス、電子デバイスなどの半導体デバイスに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
光デバイス、電子デバイスなどの半導体デバイスに用いられる複合基板の作製方法に関して、特開2007−201429号公報(特許文献1)および特開2007−201430号公報(特許文献2)は、支持基板と半導体材料の活性層との間に介在させた少なくとも1つの薄い絶縁層を備える複合基板の作製方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−201429号公報
【特許文献2】特開2007−201430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2007−201429号公報(特許文献1)および特開2007−201430号公報(特許文献2)に開示された方法で作製された複合基板は、半導体材料として用いられるSi(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、SiGe(シリコンゲルマニウム)、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)、GaAs(ヒ化ガリウム)、InP(リン化インジウム)などと、絶縁層として用いられるSiO2(酸化ケイ素)、Si34(窒化ケイ素)、TiO2(二酸化チタン)、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)などとの間の界面の接合密着性が低いため、半導体材料と絶縁層との接合強度が低いという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決して、半導体材料として用いられるIII族窒化物結晶と接合膜として用いられる酸化物膜との間の接合強度が高い複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、III族窒化物結晶と酸化物膜とを含む複合体の製造方法であって、III族窒化物結晶を準備する工程と、III族窒化物結晶上に酸化物膜を形成することにより複合体を作製する工程と、複合体を500℃以上1100℃以下で熱処理する工程と、を含む複合体の製造方法である。
【0007】
本発明にかかる複合体の製造方法において、熱処理する工程は、不活性ガスまたは不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスの雰囲気中で行うことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、半導体材料として用いられるIII族窒化物結晶と接合膜として用いられる酸化物膜との間の接合強度が高い複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明にかかるIII族窒化物結晶と酸化物膜とを含む複合体の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明にかかるIII族窒化物結晶と酸化物膜とを含む複合体の製造方法の工程の一例を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1および2を参照して、本発明の一実施形態である複合体の製造方法は、III族窒化物結晶11と酸化物膜12とを含む複合体10の製造方法であって、III族窒化物結晶11を準備する工程S1(図1(A)および図2)と、III族窒化物結晶11上に酸化物膜12を形成することにより複合体10を作製する工程S2(図1(B)および図2)と、複合体10を500℃以上1100℃以下で熱処理する工程S3(図1(B)および図2)と、を含む。
本実施形態の複合体の製造方法によれば、複合体10を500℃以上1100℃以下で熱処理することにより、III族窒化物結晶11と酸化物膜12との間の接合強度が高い複合体10が効率的に得られる。
【0011】
(III族窒化物結晶の準備工程)
図1(A)および図2を参照して、本実施形態の複合体の製造方法は、III族窒化物結晶11を準備する工程S1を含む。
準備されるIII族窒化物結晶11は、III族元素であるAl、Ga、InなどとN(窒素)とで形成される結晶、たとえばAlxGayIn1-x-yN結晶(0≦x、0≦y、x+y≦1)であり、半導体としての物性を有する。III族窒化物結晶11の形状は、特に制限はないが、光デバイス、電子デバイスなどの半導体デバイスの製造に好適な観点から、主表面が円、多角形などの板状またはウエハ状であることが好適である。具体的には、III族窒化物結晶基板、III族窒化物結晶ウエハなどが好適に挙げられる。
【0012】
III族窒化物結晶11を準備する方法は、特に制限はなく、たとえば、大口径で厚いIII族窒化物バルク結晶(図示せず)を、ワイヤーソー、内周刃、外周刃などにより所定の間隔でスライスすることにより、所定の厚さのIII族窒化物結晶を準備する方法が挙げられる。また、大口径で厚いIII族窒化物バルク結晶の主表面から所定の深さの面に水素イオン、ヘリウムイオンを注入して、そのイオン注入領域を脆化させた後、応力をかけることにより脆化されたイオン注入領域でそのIII族窒化物バルク結晶を分離することにより、所定の厚さのIII族窒化物結晶を準備する方法が挙げられる。
【0013】
III族窒化物バルク結晶を成長させる方法は、特に制限はなく、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOPVE(有機金属気相成長)法、MBE(分子線成長)法、昇華法などの気相法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などが挙げられる。結晶成長速度が高く、大口径で厚いIII族窒化物バルク結晶が得られやすい観点から、HVPE法が好ましい。
【0014】
(複合体の作製工程)
図1(B)および図2を参照して、本実施形態の複合体の製造方法は、III族窒化物結晶11上に酸化物膜12を形成することにより複合体10を作製する工程S2を含む。
【0015】
形成される酸化物膜12は、特に制限はないが、安価に成膜できる観点からSiO2膜、Si34膜などが好ましく挙げられ、その酸化物膜の屈折率がGaNなどのIII族窒化物結晶の屈折率に近く酸化物膜とIII族窒化物結晶との界面で高い光透過性を有する観点からTiO2膜、SrTiO3膜などが好ましく挙げられ、その酸化物膜を損なうことなく安定した不純物の添加ができる観点から、TiO2膜には不純物としてNb、La、Sb、Mo、Fe、Al、Sn、Pt、I、B、Nなどが添加されることが好ましく、SrTiO3膜には不純物としてLa、Nb、Sb、Mo、Fe、Al、Sn、Pt、I、B、Nなどが添加されることが好ましい。
【0016】
酸化物膜12を形成する方法は、その酸化物膜12を形成するのに適した方法であれば特に制限はなく、たとえば、スパッタ法、CVD(化学気相堆積)法、電子ビーム蒸着法、MBE(分子線エピタキシ)法、PLD(パルスレーザ堆積)法などが挙げられる。
【0017】
(複合体の熱処理工程)
図1(B)および図2を参照して、本実施形態の複合体の製造方法は、複合体10を500℃以上1100℃以下で熱処理する工程を含む。複合体10を500℃以上1100℃以下で熱処理することにより、複合体10のIII族窒化物結晶11と酸化物膜12との間の接合強度が高くなる。
【0018】
複合体10の熱処理の温度が500℃より低いと上記の接合強度は高くならず、複合体10の熱処理の温度が1100℃より高いと酸化物膜12が劣化するため上記の接合強度は高くならない。かかる観点から、熱処理の温度は、500℃以上1100℃以下であることが必要であり、600℃以上800℃以下であることが好ましい。
【0019】
また、複合体10を熱処理する工程は、特に制限はないが、III族窒化物結晶11と酸化物膜12との間の接合強度を高めるために酸化物膜12の酸化による劣化を抑制する観点から、不活性ガスまたは不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスの雰囲気中で行なわれることが好ましい。ここで、不活性ガスとは、酸化物膜12と反応しないガスをいい、たとえば、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。また、還元性ガスには、水素ガスなどが挙げられる。
【実施例】
【0020】
[実施例A]
(比較例A−R)
1.III族窒化物結晶の準備
HVPE法により、直径2インチ(5.08cm)で厚さ10mmのGaNバルク結晶(III族窒化物バルク結晶)を成長させた。得られたGaNバルク結晶をワイヤーソーでスライスして、主表面をCMP(化学機械的研磨)により研磨して、直径2インチ(5.08cm)で厚さ300μmのGaN結晶(III族窒化物結晶)を準備した。
【0021】
2.複合体の作製
上記のGaN結晶(III族窒化物結晶)の主表面上に、スパッタ法により、酸化物膜としてNbが1質量%添加された厚さ300nmのTiO2膜(以下、Nb添加TiO2膜という。)を成長させることにより、GaN結晶とNb添加TiO2膜とが接合した複合体を作製した。
【0022】
3.複合体の接合強度の測定
上記で得られた複合体について、GaN結晶とNb添加TiO2膜との接合強度を以下の引張試験により測定した。試験サンプルは12mm×12mmの大きさとし、試験サンプルをエポキシ接着剤により試験装置の所定部分に固定して引張試験を行ない、複合体の接合強度として試験サンプルが破断するときの引張強度を測定した。本比較例A−Rの複合体の接合強度に対する以下の実施例A−1〜A−6の複合体の接合強度の比を接合強度比とした。すなわち、本比較例A−Rの複合体の接合強度比は1.00であった。結果を表1にまとめた。
【0023】
(実施例A−1)
比較例A−Rと同様にして、GaN結晶とNb添加TiO2膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、1気圧のN2ガス雰囲気中500℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例A−Rと同様に測定した。実施例A−1の複合体の接合強度比は1.02であった。結果を表1にまとめた。
【0024】
(実施例A−2)
比較例A−Rと同様にして、GaN結晶とNb添加TiO2膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、0.5気圧のN2ガスと0.5気圧のH2ガスとの混合ガス雰囲気中500℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例A−Rと同様に測定した。実施例A−2の複合体の接合強度比は1.10であった。結果を表1にまとめた。
【0025】
(実施例A−3)
比較例A−Rと同様にして、GaN結晶とNb添加TiO2膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、1気圧のN2ガス雰囲気中800℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例A−Rと同様に測定した。実施例A−3の複合体の接合強度比は1.35であった。結果を表1にまとめた。
【0026】
(実施例A−4)
比較例A−Rと同様にして、GaN結晶とNb添加TiO2膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、0.5気圧のN2ガスと0.5気圧のH2ガスとの混合ガス雰囲気中800℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例A−Rと同様に測定した。実施例A−4の複合体の接合強度比は1.50であった。結果を表1にまとめた。
【0027】
(実施例A−5)
比較例A−Rと同様にして、GaN結晶とNb添加TiO2膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、1気圧のN2ガス雰囲気中1100℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例A−Rと同様に測定した。実施例A−5の複合体の接合強度比は1.17であった。結果を表1にまとめた。
【0028】
(実施例A−6)
比較例A−Rと同様にして、GaN結晶とNb添加TiO2膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、0.5気圧のN2ガスと0.5気圧のH2ガスとの混合ガス雰囲気中1100℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例A−Rと同様に測定した。実施例A−6の複合体の接合強度比は1.30であった。結果を表1にまとめた。
【0029】
【表1】

【0030】
表1を参照して、GaN結晶とNb添加TiO2膜とが接合した複合体について、500℃以上800℃以下で熱処理することによりGaN結晶とNb添加TiO2膜との接合強度が高くなった。また、1気圧のN2ガス雰囲気中で熱処理する場合に比べて、0.5気圧のN2ガスと0.5気圧のH2ガスとの混合ガス雰囲気中で熱処理した場合の方が、GaN結晶とNb添加TiO2膜との接合強度がより高くなった。
【0031】
[実施例B]
(比較例B−R)
1.III族窒化物結晶の準備
HVPE法により、直径2インチ(5.08cm)で厚さ10mmのGaNバルク結晶(III族窒化物バルク結晶)を成長させた。得られたGaNバルク結晶をワイヤーソーでスライスして、主表面をCMP(化学機械的研磨)により研磨して、直径2インチ(5.08cm)で厚さ300μmのGaN結晶(III族窒化物結晶)を準備した。
【0032】
2.複合体の作製
上記のGaN結晶(III族窒化物結晶)の主表面上に、スパッタ法により、酸化物膜としてLaが1質量%添加された厚さ300nmのSrTiO3膜(以下、La添加SrTiO3膜という。)を成長させることにより、GaN結晶とLa添加SrTiO3膜とが接合した複合体を作製した。
【0033】
3.複合体の接合強度の測定
上記で得られた複合体について、GaN結晶とLa添加SrTiO3膜との接合強度を以下の引張試験により測定した。試験サンプルは12mm×12mmの大きさとし、試験サンプルをエポキシ接着剤により試験装置の所定部分に固定して引張試験を行ない、複合体の接合強度として試験サンプルが破断するときの引張強度を測定した。本比較例B−Rの複合体の接合強度に対する以下の実施例B−1〜B−6の複合体の接合強度の比を接合強度比とした。すなわち、本比較例B−Rの複合体の接合強度比は1.00であった。結果を表2にまとめた。
【0034】
(実施例B−1)
比較例B−Rと同様にして、GaN結晶とLa添加SrTiO3膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、1気圧のN2ガス雰囲気中500℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例B−Rと同様に測定した。実施例B−1の複合体の接合強度比は1.01であった。結果を表2にまとめた。
【0035】
(実施例B−2)
比較例B−Rと同様にして、GaN結晶とLa添加SrTiO3膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、0.5気圧のN2ガスと0.5気圧のH2ガスとの混合ガス雰囲気中500℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例B−Rと同様に測定した。実施例B−2の複合体の接合強度比は1.10であった。結果を表2にまとめた。
【0036】
(実施例B−3)
比較例B−Rと同様にして、GaN結晶とLa添加SrTiO3膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、1気圧のN2ガス雰囲気中800℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例B−Rと同様に測定した。実施例B−3の複合体の接合強度比は1.26であった。結果を表2にまとめた。
【0037】
(実施例B−4)
比較例B−Rと同様にして、GaN結晶とLa添加SrTiO3膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、0.5気圧のN2ガスと0.5気圧のH2ガスとの混合ガス雰囲気中800℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例B−Rと同様に測定した。実施例B−4の複合体の接合強度比は1.40であった。結果を表2にまとめた。
【0038】
(実施例B−5)
比較例B−Rと同様にして、GaN結晶とLa添加SrTiO3膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、1気圧のN2ガス雰囲気中1100℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例B−Rと同様に測定した。実施例B−5の複合体の接合強度比は1.08であった。結果を表2にまとめた。
【0039】
(実施例B−6)
比較例B−Rと同様にして、GaN結晶とLa添加SrTiO3膜とが接合した複合体を作製した。得られた複合体を、0.5気圧のN2ガスと0.5気圧のH2ガスとの混合ガス雰囲気中1100℃で熱処理した。熱処理した複合体の接合強度を比較例B−Rと同様に測定した。実施例B−6の複合体の接合強度比は1.20であった。結果を表2にまとめた。
【0040】
【表2】

【0041】
表2を参照して、GaN結晶とLa添加SrTiO3膜とが接合した複合体について、500℃以上800℃以下で熱処理することによりGaN結晶とLa添加SrTiO3膜との接合強度が高くなった。また、1気圧のN2ガス雰囲気中で熱処理する場合に比べて、0.5気圧のN2ガスと0.5気圧のH2ガスとの混合ガス雰囲気中で熱処理した場合の方が、GaN結晶とLa添加SrTiO3膜との接合強度がより高くなった。
【0042】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により製造される複合体は、発光ダイオード、レーザダイオードなどの発光デバイス、整流器、バイポーラトランジスタ、FET(電界効果トランジスタ)、HEMT(高電子移動度トランジスタ)などの電子デバイスに広く用いられる。
【符号の説明】
【0044】
10 複合体、11 III族窒化物結晶、12 酸化物膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物結晶と酸化物膜とを含む複合体の製造方法であって、
前記III族窒化物結晶を準備する工程と、
前記III族窒化物結晶上に前記酸化物膜を形成することにより前記複合体を作製する工程と、
前記複合体を500℃以上1100℃以下で熱処理する工程と、を含む複合体の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理する工程は、不活性ガスまたは不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスの雰囲気中で行なわれる請求項1に記載の複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−53021(P2013−53021A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190634(P2011−190634)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】