説明

複合光学フィルム及びその製造方法

【課題】位相差板と粘着剤層との間の密着力が経時的に低下しにくい複合光学フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】1/4波長板2、第二位相差板3、粘着剤層4がこの順に積層された複合光学フィルム1であって、1/4波長板2は、面内に配向した樹脂フィルムを少なくとも1枚含み、第二位相差板3は、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体との混合物を含んでいる。無機層状化合物が有機物で修飾されていないため、有機物の遊離による粘着剤層4の変性等が生じにくく、粘着力が低下しにくい。好ましくは無機層状化合物がスメクタイト族鉱物であり、セルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比が0.5〜5の範囲内である。さらに、1/4波長板2と第二位相差板3の間に他の粘着剤層8を有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合光学フィルム及びその製造方法に関し、特に、液晶表示装置などに用いられる複合光学フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話,携帯情報端末,コンピュータ用のモニター,テレビなどの情報用表示デバイスとして、液晶表示装置(LCD)が使用されている。近年、消費電力が少なく、低電圧で駆動し、軽量かつ薄型の液晶表示装置が急速に普及してきている。液晶技術の進展に伴い、さまざまなモードの液晶表示装置が提案されており、応答速度やコントラスト、狭視野角といった液晶表示装置に特有の問題点が解消されつつある。しかしながら、液晶表示装置は、依然として陰極線管(CRT)に比べて視野角が狭いことが指摘されており、視野角拡大のための各種試みがなされている。
【0003】
このような液晶表示装置の一つに、正又は負の誘電率異方性を有する棒状の液晶分子を基板に対して垂直に配向させた、垂直配向(VA)モードの液晶表示装置がある。この垂直配向モードは、非駆動状態においては、液晶セルの液晶分子が基板に対して垂直に配向しているため、光は偏光の変化を伴わずに液晶層を通過する。このため、液晶パネルの上下に互いに吸収軸が直交するように直線偏光板を配置することで、正面から見た場合にほぼ完全な黒表示を得ることができ、高いコントラスト比を得ることができる。
【0004】
しかしながら、液晶セルに偏光板のみを備えたVAモードの液晶表示装置では、それを斜めから見た場合に、配置された偏光板の軸角度が90°からずれてしまうこととセル内の棒状の液晶分子が複屈折を発現することに起因して光漏れが生じてしまう。その結果、見る角度によってコントラスト比の著しい変動や大きな色調変化を引き起こすという不具合があった。なお、このような液晶表示装置を斜めから見た場合のコントラスト比と色変化を「視野角特性」と呼ぶ。
【0005】
この視野角特性の不具合を解消するためには、液晶セルと直線偏光板の間に光学補償フィルムを配置する必要がある。従来は、光学補償フィルムとして二軸性の位相差フィルムを液晶セルと上下の偏光板の間にそれぞれ1枚ずつ配置する仕様や、一軸性の位相差フィルムと完全二軸性の位相差フィルムを、それぞれ1枚ずつ液晶セルの上下に配置する仕様、2枚とも液晶セルの片側に配置する仕様などが採用されてきた。例えば、特開2001−109009号公報(特許文献1)には、垂直配向モードの液晶表示装置において、上下の偏光板と液晶セルの間に、それぞれaプレート(すなわち、正の一軸性の位相差フィルム)とcプレート(すなわち、完全二軸性の位相差フィルム)を配置することが記載されている。
【0006】
ここで、正の一軸性の位相差フィルムとは、Nz係数が概ね1.0のフィルムであり、また完全二軸性の位相差フィルムとは、面内の位相差値R0がほぼ0のフィルムである。なお、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、フィルムの面内進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをdとしたとき、面内の位相差値R0、厚み方向の位相差値RthとNz係数は、それぞれ下式(1)〜(3)で定義される。
【0007】
0=(nx−ny)×d (1)
th=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (2)
z係数=(nx−nz)/(nx−ny) (3)
【0008】
一軸性のフィルムではnz≒nyとなるため、Nz係数≒1.0となる。しかし、一軸性のフィルムであっても、Nz係数は延伸条件により0.8〜1.5程度の間で変化する。また、完全二軸性のフィルムではnx≒nyとなるため、R0≒0となる。完全二軸性のフィルムは、厚み方向の屈折率のみが異なる(小さい)ことから負の一軸性を有し、光学軸が法線方向にあるフィルムとも呼ばれ、また前記のとおりcプレートとも称される。
【0009】
一軸性の位相差フィルムとしては、例えば、自由端縦一軸延伸、固定端横一軸延伸などによって延伸された樹脂フィルムが多く用いられている。自由端一軸延伸のフィルムは、例えばフィルムの長手方向(流れ方向)に縦一軸延伸する方法で得られ、通常は0.9≦Nz係数≦1.1となる。固定端横一軸延伸のフィルムは、例えばテンターなどで横一軸延伸する方法で得られ、通常は0.8≦Nz係数≦1.5となる。この方法で得られるフィルムは、若干の二軸性を帯びることが多いが、概ね一軸性の光学特性を有するといえる。したがって、本明細書中では、この範囲のNz係数を有するフィルムも含めて一軸性の位相差フィルムと称する。
【0010】
一方、完全二軸性のフィルム(cプレート)としては、無機層状化合物のコーティング層を用いることが知られている。例えば、特開2008−15500号公報(特許文献2)と特開2009−25671号公報(特許文献3)には、セルロースアセテートなどのセルロースアシレートフィルムに、ポリビニルアルコールと無機層状化合物を含む被覆層を形成し、偏光板用保護フィルムとすることが開示されている。また、特許第3060744号公報(特許文献4)には、無機層状化合物層を位相差フィルムとすることが開示されている。さらに、この文献には、水に膨潤又は分散することができる無機層状化合物にポリビニルアルコールなどの親水性樹脂を混合してコーティング層を形成し、位相差フィルムとすることも開示されている。特開平10−10320号公報(特許文献5)にも、ポリビニルアルコールと水膨潤性無機層状化合物を含む組成物を製膜して位相差フィルムとすることが開示されている。
【0011】
これらの文献に開示される無機層状化合物は、そのままでは一般に親水性であることから、それにポリビニルアルコールなどの親水性樹脂が配合された組成物から製膜した光学フィルムや位相差フィルムは、耐水性が十分でないことがあった。そこで最近では、比較的良好な耐水性を有し、厚み方向の位相差値Rthを容易にコントロールできることから、無機層状化合物を有機修飾した有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂からなる塗工液をコーティングした位相差フィルムが広く用いられている。
【0012】
例えば、特開2005−338215号公報(特許文献6)には、第一位相差板とコーティング層とを備えた複合位相差フィルムが開示されている。この文献には、面内に配向している透明樹脂フィルムからなる樹脂位相差フィルムに、屈折率異方性を有し、かつ有機溶媒に分散可能な有機修飾粘土複合体を含むコーティング位相差層を、粘着剤層(感圧接着剤層)を介して積層し、さらにそのコーティング位相差層の表面に粘着剤層を設けて複合位相差フィルムとすることが開示されている。また、特開2006−10912号公報(特許文献7)には、位相差板とコーティング層とを備えた複合偏光板が開示されている。この文献には、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂をバインダーとし、これと有機修飾粘土複合体とを含む組成物をフィルム状に形成して位相差フィルムとすることが開示されている。さらにこの文献には、位相差フィルムに第一の粘着剤層(感圧接着剤層)を介して偏光板を積層して複合偏光板とすることや、その位相差フィルム側に第二の粘着剤層(感圧接着剤層)を形成することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−109009号公報(請求項15、段落0036)
【特許文献2】特開2008−15500号公報(請求項1,4,13)
【特許文献3】特開2009−25671号公報(請求項1〜5)
【特許文献4】特許第3060744号公報(請求項1、段落0022)
【特許文献5】特開平10−10320号公報(請求項1)
【特許文献6】特開2005−338215号公報(請求項1,4)
【特許文献7】特開2006−10912号公報(請求項1,7,8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これら特許文献6,7に記載される複合位相差フィルムや複合偏光板においては、有機修飾粘土複合体を含むコーティング位相差層の上に粘着剤層が形成されるが、この場合、コーティング位相差層と粘着剤層との間の密着力が経時的に低下する場合があった。そのため、このようにコーティング位相差層と粘着剤層が接触した状態で長期間保管した後に、コーティング位相差層の外側に設けられた粘着剤層側で液晶セルに貼合するとき、その粘着力が低下していたり、粘着剤層が部分的に抜け落ちやすくなって取扱い性が悪化したりする場合があった。また、コーティング位相差層を含む光学フィルムが液晶セルに貼合された液晶表示装置を高温高湿環境にさらしたとき、その光学フィルムが液晶セルから剥離したりする場合があった。
【0015】
本発明の目的は、2以上の位相差板を備えた複合光学フィルムにおいて、位相差板と粘着剤層との間の密着力が経時的に低下しにくい複合光学フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、本発明の複合光学フィルムによれば、第一位相差板、第二位相差板及び粘着剤層がこの順に積層された複合光学フィルムであって、前記第一位相差板は、面内に配向した樹脂フィルムを少なくとも1枚含み、前記第二位相差板は、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体との混合物を含むことにより解決される。
【0017】
また、前記無機層状化合物がスメクタイト族鉱物であることが好ましい。
【0018】
前記第二位相差板中の前記セルロース誘導体に対する前記無機層状化合物の重量比が0.5〜5の範囲にあることが好ましい。
【0019】
また、前記第二位相差板の面内の位相差値が0〜5nmであり、厚み方向の位相差値が40〜300nmであると好適である。
【0020】
さらに、前記第一位相差板は、1/4波長板であるか、又は1/2波長板と前記第二位相差板側に配置される1/4波長板とが積層された波長板であることが好ましい。
【0021】
また、前記第一位相差板と前記第二位相差板との間に更に別の粘着剤層を有すると好適である。
【0022】
前記第一位相差板の前記第二位相差板とは反対側の面に偏光板を更に備えることが好ましい。
【0023】
上記課題は、本発明の複合光学フィルムの製造方法によれば、第一位相差板、第二位相差板及び粘着剤層がこの順に積層された複合光学フィルムの製造方法であって、極性有機溶媒と、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体との混合物である塗工液を少なくとも1枚の面内に配向している樹脂フィルムを含む第一位相差板の表面に塗工し、前記塗工された前記塗工液から前記極性有機溶媒を除去して第二位相差板を形成し、前記除去後の前記第二位相差板の塗工面に粘着剤層を形成して、第一位相差板/第二位相差板/粘着剤層の層構成からなる複合位相差板を製造することにより解決される。
【0024】
また、上記課題は、本発明の複合光学フィルムの製造方法によれば、第一位相差板、第二位相差板及び粘着剤層がこの順に積層された複合光学フィルムの製造方法であって、面内に配向している樹脂フィルムを少なくとも1枚含む第一位相差板の表面に粘着剤層が形成された粘着剤付き位相差板を用意し、極性有機溶媒と、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体との混合物である塗工液を転写基材上に塗工し、前記塗工された前記塗工液から前記極性有機溶媒を除去して第二位相差板を形成し、前記粘着剤付き位相差板の粘着剤面と前記第二位相差板の塗工面とを貼合し、次いで、前記転写基材を前記第二位相差板から剥離し、前記剥離後の前記第二位相差板の転写基材剥離面に第二の粘着剤層を形成して第一位相差板/粘着剤層/第二位相差板/粘着剤層の層構成からなる複合位相差板を製造することにより解決される。
【0025】
さらに上記製造方法において、前記複合位相差板を製造した後、該複合位相差板の前記第一位相差板側から少なくとも偏光板を含む光学フィルムを積層することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の複合光学フィルムによれば、第二位相差板が有機物で修飾されていない無機層状化合物とセルロース誘導体との混合物を含むため、第二位相差板と粘着剤層との間の密着力が経時的に低下しにくい複合光学フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る複合光学フィルムの断面模式図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る複合光学フィルムの製造方法を示した断面模式図である。
【図3】本発明の第二の実施形態に係る複合光学フィルムの断面模式図である。
【図4】本発明の第二の実施形態に係る複合光学フィルムの製造方法を示した断面模式図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る複合光学フィルムの断面模式図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る複合光学フィルムの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、本発明は以下に説明する部材や配置等によって限定されず、これらの部材等は本発明の趣旨に沿って適宜改変することができる。
【0029】
図1〜図6は本発明の複合光学フィルムの実施形態を示しており、図1は第一の実施形態に係る複合光学フィルムの断面模式図、図2は第一の実施形態に係る複合光学フィルムの製造方法を示した断面模式図、図3は第二の実施形態に係る複合光学フィルムの断面模式図、図4は第二の実施形態に係る複合光学フィルムの製造方法を示した断面模式図、図5,6は他の実施形態に係る複合光学フィルムの断面模式図である。
【0030】
以下に、本発明の複合光学フィルムの具体的な実施形態について説明する。以下に説明する各実施形態では、複合光学フィルムの例として円偏光板の実施形態を示している。なお、本明細書における「円偏光板」とは「楕円偏光板」を含む概念である。
【0031】
<第一の実施形態>
図1に示すように、本実施形態の複合光学フィルム1は、1/4波長板2(第一位相差板)と、第二位相差板3と、粘着剤層4がこの順に積層された複合位相差板5を有している。さらに、本実施形態では、複合位相差板5の1/4波長板2側の面(第二位相差板3と反対側の面)に接着剤層7を介して偏光板6が積層されている。
【0032】
[第一位相差板]
本実施形態の第一位相差板は、面内に配向した樹脂フィルムからなる、光学異方性を有する1/4波長板2である。1/4波長板2は、可視光の波長領域(380〜780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/4波長(90度)の位相差を示す位相差板であり、直線偏光と円偏光を相互に変換する機能を有するとともに、液晶セル内の液晶などの視野角を補償する機能を有している。1/4波長板2は、ポリマーフィルムに一軸延伸、二軸延伸などの延伸処理を適用することで得ることができる。ポリマーフィルムの材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなど公知の材料を適宜選択して使用することができる。
【0033】
1/4波長板2が一軸延伸フィルムの場合、面内位相差値Rと厚み方向位相差値Rthの比R/Rthは通常2前後、例えば1.8〜2.2程度の範囲となる。一方、1/4波長板2が二軸延伸フィルムの場合、面内遅相軸方向の屈折率n、面内進相軸方向の屈折率n、厚み方向の屈折率nとすると、n>n>nの関係となり、R/Rthは通常0〜2程度となる。
【0034】
1/4波長板2の面内位相差値Rは、10〜300nm程度の範囲から適宜選択することが可能であり、好ましくは70〜160nmであり、より好ましくは80〜150nmである。この位相差値は、液晶表示装置の種類や目的に応じて、円偏光(楕円偏光)の楕円率や長軸方位角などを考慮して適宜決定することができる。1/4波長板2の位相差軸の公差は、偏光板6が貼合された画像表示装置の正面コントラストの観点から、中心値±5nm以内、好ましくは±3nm以内である。
【0035】
[第二位相差板]
第二位相差板3は、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり、数平均分子量が2万5千〜12万であるセルロース誘導体とを含有している。本実施形態の第二位相差板3は、上記無機層状化合物とセルロール誘導体とを含み、屈折率異方性を有するコーティング層である。
【0036】
一般に、樹脂に無機層状化合物を分散した複合材料は、無機層状化合物を有機修飾して樹脂との親和性を高め分散性をもたらすものが多く、逆に修飾などの変性がなされていない無機層状化合物を用いた複合材料は、しばしば透明性に劣る。そこで、従来は透明材料には何らかの修飾された無機層状化合物が用いられていたが、無機層状化合物を修飾する有機物が遊離して複合材料からブリードアウトするなどの弊害を起こす場合があった。有機物で修飾された無機層状化合物を含む位相差板と粘着剤層(感圧接着剤層)との経時による粘着力低下は、その作用機構は明確ではないが、上述したように無機層状化合物を修飾する修飾剤化合物が遊離し、感圧接着剤を変性させているものと推定される。ところが、これを回避するために有機物で修飾されていない無機層状化合物を選択すると、透明性に劣り第二位相差板としての使用には困難であった。
【0037】
本発明では、上述したセルロース誘導体と有機物で修飾されていない無機層状化合物とを組み合わせて用いるにもかかわらず、有機物で修飾されていない無機層状化合物がセルロース誘導体中で十分な分散性を示し、光学用途に適する透明性を持つことを見出した。本発明は、有機物で修飾されていない無機層状化合物を用いるため、上述した修飾剤化合物に起因する物性低下、特に粘着剤層と組み合わせた場合におけるその粘着力低下を生じないという効果が奏される。
【0038】
また、一般に工程数が多く量産性に劣る修飾された無機層状化合物を用いない点でも、それを含む位相差板が廉価になり、かつ、生産性の高くなるという効果も奏される。なお、本発明の「有機物で修飾されていない」とは、第二位相差板3と粘着剤層4との粘着力を低下させる量の有機化合物を実質的に含んでいないことを意味する。
【0039】
本発明に用いられる無機層状化合物は、有機物などで修飾されていない無機層状化合物である。無機層状化合物とは、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、鉄などの金属イオンと珪酸が連結してなるシート型構造が層状に形成された粘土鉱物であり、層状ケイ酸塩鉱物であることが好ましい。
【0040】
このような無機層状化合物としては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スチブンサイトなどのスメクタイト族鉱物、カオリナイト、アンチゴナイト、単斜クリソタイル石、斜方クリソタイル石、パラクリソタイル石、リザード石、アメス石、ケリー石、グルーナ石、ヌポア石などのカオリナイト族鉱物、白雲母、セラドン石、ロスコー雲母、砥部雲母、鉄雲母、金雲母、真珠雲母、クリントン石などのマイカ族鉱物などが挙げられる。このような無機層状化合物は、それぞれ単独で用いられてもよいし、異なる複数種が併用されてもよい。
【0041】
これら無機層状化合物のうち、人工的に合成された層状ケイ酸塩鉱物が好ましく、スメクタイト族鉱物中でも合成スメクタイトがより好ましい。合成スメクタイトは、天然物に比べて高純度であり、粒子径が小さく、その分布が狭いことから、位相差板の構成材料として比較的好適である。
【0042】
また、天然物の層状ケイ酸塩鉱物は地中から掘り出すために、地中で有機物によって多少修飾されている可能性があり、この有機物が無機層状化合物から遊離して粘着剤層4に悪影響を及ぼすことも否定できない。一方、人工的に合成された無機層状化合物は、一般にケイ素やアルミニウムなどの無機物から水熱合成、溶融合成により人工的に製造される。水熱合成や溶融合成は、いずれも200℃以上の高温で行われるため、合成の過程で有機物が分解される。このため、人工の無機層状化合物が有機物で修飾されている可能性は限りなくゼロに近い。したがって、人工物では無機層状化合物から有機物が遊離することがほとんどなく、天然物よりも好ましい。
【0043】
なお、天然物の層状ケイ酸塩鉱物であっても、高純度化され粒子径が十分に小さく、位相差板としての用途に支障ないものも適宜使用することができる。このような天然の層状ケイ酸塩鉱物は、人工的に合成されたものより一般に廉価であるため、位相差板の生産性向上に大きく寄与する点で好ましい。天然に存在する無機層状化合物は、海底や湖底に堆積した火山灰が加温度、加圧力下で浸食、風化作用を受けることにより生成される。これらを採掘し精製することにより、工業的に利用可能な無機層状化合物を得ることができる。
【0044】
また、無機層状化合物を人工的に合成するには、通常、目的の無機層状化合物に近い組成を持つゲルや長石などの鉱物を出発原料に用い、この出発原料を十分な熱エネルギーと反応時間で水熱反応させる方法が採用される。
【0045】
こうして得られる無機層状化合物は、市販品として容易に入手可能であり、例えば、クニピア(クニミネ工業株式会社販売:天然物ベントナイト精製物)、スメクトンSA(クニミネ工業株式会社製:合成サポナイト)、ベンゲル(株式会社ホウジュン販売:天然ベントナイト精製物)、ホワイトベントナイト(株式会社ボルクレイ・ジャパン販売:天然ベントナイト精製物)、ビーガム(バンダービルト社製:天然スメクタイト精製物)、ルーセンタイト(コープケミカル株式会社製:合成スメクタイト)、ミクロマイカ(コープケミカル株式会社製:合成雲母)、ソマシフ(コープケミカル株式会社製:合成雲母)、ラポナイト(ロックウッド・アディティブズ社製:合成スメクタイト)などが挙げられる。
【0046】
本発明に用いられるセルロース誘導体とは、下式(I)に相当するセルロースにおいて、水酸基の一部がエステル化やエーテル化などにより、アルカノイルオキシ基やアルコキシ基などで置換されている化合物をいう。
【化1】

【0047】
セルロース誘導体としては、例えば、セルロースアセテート(セルローストリアセテートやセルロースジアセテートと呼ばれている化合物を含む)、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースナイトレート、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースなどが含まれる。このようなセルロース誘導体は、それぞれ単独で用いられてもよいし、異なる複数種が併用されてもよい。また、少量の可塑剤などの添加剤を加えて用いてもよい。
【0048】
本発明では、水酸基の置換度が2.1〜3.0の範囲にあるセルロース誘導体が採用される。ここで、セルロース誘導体における水酸基の置換度とは、一般にいわれる置換度(Degree of Substitution)と同じ意味であって、下式(II)に相当するセルロースの単位環(ピラノース環と呼ぶこともできる)1個あたり3個存在する水酸基が、他の基によって置換されている割合を意味する。
【化2】

【0049】
式(I)のとおり、セルロースは式(II)に相当する単位環(ピラノース環)が多数結合した構造を有するので、水酸基の置換度は、平均的な値として求められる。また、上の定義からわかるように、セルロースの単位環(ピラノース環)には水酸基が3個存在するので、セルロース誘導体における水酸基の置換度は、最大で3.0となる。
【0050】
このような水酸基の置換度は、公知の方法で測定できる。例えば、セルロースアセテートの水酸基の置換度は、セルロースアセテートをプロピオニル化した後、13C−NMRを測定することにより求めることができる。測定方法については、手塚らの方法(Carbohydr. Res. 273 (1995) 83−91)を参照できる。
【0051】
セルロース誘導体における水酸基の置換度は、2.1以上が好ましく、より好ましくは2.4以上、更に好ましくは2.5以上である。また、セルロース誘導体における水酸基の置換度は、3.0以下が好ましく、より好ましくは2.9以下である。水酸基の置換度が2.1を下回るセルロース誘導体を用いると、得られる位相差板の高温高湿環境下における耐久性が十分でなくなる傾向にある。反対に、水酸基が一部残っているセルロース誘導体を用いることで、無機層状化合物が分散しやすくなる傾向にある。このため、セルロース誘導体としては、水酸基の7割以上(好適には8割以上)が置換されているが、一部が水酸基のまま残っているものが好ましい。
【0052】
また、セルロース誘導体の数平均分子量は、2万5千〜12万が好ましい。数平均分子量が2万5千を下回るセルロース誘導体を用いると、得られる位相差板の機械強度が弱くなる傾向にある。一方、数平均分子量が12万を超えるセルロース誘導体を用いると、それに相溶する高分子と無機層状化合物を配合して得られる塗工液において、無機層状化合物が十分に分散しにくくなる傾向にある。その結果、このような塗工液を用いて得られた位相差板においても、無機層状化合物の分散状態が悪くなり、透明性が低下する。セルロース誘導体の数平均分子量は、2万5千〜9万5千であるのが好ましい。これらの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した値を採用することができる。
【0053】
セルロース誘導体は、低置換度セルロースアセテートと高置換度セルロースアセテートの混合物が好ましい。低置換度セルロースアセテートと高置換度セルロースアセテートの混合物の水酸基の置換度は、2.5〜2.75であることが好ましい。低置換度セルロースアセテートの水酸基の置換度は2.1〜2.6が好ましく、数平均分子量は2万5千〜7万5千であることが好ましい。また、高置換度セルロースアセテートの水酸基の置換度は2.8〜3が好ましく、数平均分子量は6万5千〜9万5千が好ましい。低置換度セルロースアセテートと高置換度セルロースアセテートの混合物の水酸基の置換度が2.5未満であると、位相差板の耐湿熱性が低下し、位相差板が白化する場合がある。また、これらの混合物の水酸基の置換度が2.75を超えると、位相差板の中の有機物で修飾されていない無機層状化合物の分散状態が悪化し、透明性が低下する場合がある。
【0054】
セルロース誘導体の製法は、特に限定されないが、通常、以下の手順で行われる。まず、α−セルロース含有量の比較的高い木材パルプなどのセルロース原料を離解・解砕した後、酢酸、プロピオン酸、酪酸や少量の酸性触媒を含んだ酢酸などを散布混合する前処理活性化工程を行う。次に、酢酸、プロピオン酸又は酪酸などとその無水物及び酸性触媒(例えば硫酸)を含む混酸で活性化セルロースを処理して一次セルロースエステルを得る酢化工程を行う。こうして得られた一次セルロースエステルを加水分解して所望の置換度の二次セルロースエステルにする熟成工程を行う。さらに、この工程で得られた二次セルロースエステルを反応溶液から沈澱分離、精製、安定化、乾燥する後処理工程を経ることで、セルロース誘導体を得ることができる。
【0055】
こうして得られるセルロース誘導体は、市販品として容易に入手可能であり、例えば、LM−80(ダイセル化学工業株式会社製)、L−20、L−30、L−40、L−70(ダイセル化学工業株式会社製:セルロースジアセテート)、LT−35、LT−55、LT−105(ダイセル化学工業株式会社製:セルローストリアセテート)、TC−5(信越化学工業株式会社製:ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、メトローズ(信越化学工業株式会社製:メチルセルロース)、信越AQOAT(信越化学工業株式会社製:ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート)、メセロース(巴工業株式会社製:メチルセルロース)、cellulose triacetate製品番号181005(アルドリッチ社製:セルローストリアセテート)などが挙げられる。
【0056】
第二位相差板3では、セルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比が0.5〜5の範囲となるようにするのが好ましい。第二位相差板3におけるセルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比が0.5未満であると、位相差板としたときに十分な厚み方向の位相差値が得られにくい。一方、第二位相差板3におけるセルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比が5を超えると、それらを極性有機溶媒と混合して塗工液としたときに、無機層状化合物が十分に分散しにくくなる。そして、このような塗工液を用いて得られた第二位相差板3においても、無機層状化合物の分散状態が悪くなり、透明性が低下する。セルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比は、1〜4の範囲となるようにするのがより好ましい。
【0057】
第二位相差板3において、内部ヘイズ値は10%以下であることが好ましい。第二位相差板3には、疎水性、耐久性、可塑性、凝集力をさらに向上させるための各種添加剤、例えば、滑剤、架橋剤、可塑剤などを含有していてもよい。
【0058】
第二位相差板3は、フィルムの厚みやそれを構成する組成物の配合比率を適宜調整して厚み方向の位相差値を制御し、完全二軸性の位相差フィルム(cプレート)とすることができる。
【0059】
第二位相差板3の位相差値としては、面内が0〜10nmであり、厚み方向が40〜400nmであることが好ましい。面内の位相差値が10nmを超えると、その値が無視できなくなり厚み方向の負の一軸性が損なわれ、複合偏光板化し液晶セルに貼合した際に光漏れなどが生じることがある。厚み方向の負の一軸性を維持するという観点から、面内の位相差値は、好ましくは0〜5nmである。また、第二位相差板3の厚み方向の位相差値は、この位相差フィルムの用途、特に複合偏光板が貼合して用いられる液晶セルの特性にあわせて適時選択されるものであり、上記の範囲内に特に制限されるものではないが、50〜350nmがより好ましく、40〜300nmが特に好ましい。
【0060】
この厚み方向の位相差値は、第二位相差板3中の粘土鉱物の含有量とフィルムの厚みによって制御することができる。したがって、フィルムの厚みは特に制限されず、位相差板に求められる位相差値を実現するのに必要な厚みであればよい。
【0061】
なお、厚み方向の屈折率異方性は、式(2)により定義される厚み方向の位相差値Rthで表される。位相差値Rthは、面内の位相差値R、遅相軸を傾斜軸として40度傾斜して測定した位相差値R40、フィルムの厚みd、フィルムの平均屈折率nを用いて、式(1)と次式(4)と(5)から数値計算によりn、n、nを求め、これらを式(2)に代入して算出することができる。
40=(n−ny′)×d/cos(φ) (4)
(n+n+n)/3=n (5)
ここで、
φ=sin−1[sin(40°)/n] (6)
y′=n×n/[n×sin(φ)+n×cos(φ)]1/2 (7)
【0062】
市販の位相差測定装置においては、ここに示した数値計算を装置内で自動的に行ない、面内位相差値Rや厚み方向位相差値Rthなどを自動的に表示するようになっているものが多い。後述する実施例で用いたKOBRA−WR(王子計測機器株式会社製)も、そのようになっている。
【0063】
[塗工液]
第二位相差板3は、塗工液を所定の基材などに塗工することで製造することができる。塗工液は、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり、数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体と、極性有機溶媒を含有する。
【0064】
塗工液は、セルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比が0.5〜5の範囲にあり、極性有機溶媒に対する無機層状化合物とセルロース誘導体の合計濃度(固形分濃度)が3〜15重量%であることが好ましい。塗工液Bの最適な固形分濃度は、無機層状化合物とセルロース誘導体の各固形分の種類や各々の組成比によって適宜選択される。
【0065】
極性有機溶媒としては、無機層状化合物を膨潤させ、さらにコロイド状を呈するまで膨潤させ得るものや、セルロース誘導体を溶解するものであれば特に限定されない。このような極性有機溶媒としては、例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリンなどが好ましい。これらをそれぞれ単独か、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0066】
極性有機溶媒の比誘電率は30以上が好ましい。このような好ましい極性有機溶媒の典型的な例として、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、炭酸プロピレンなどが挙げられる。また、これらから複数選択された混合溶媒を用いることもできる。また、この塗工液組成物には、基板上に塗工する際の塗布性を向上させるための粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤などを含有させてもよい。
【0067】
このような塗工液組成物の成分を分散・溶解するのに用いられる装置としては、特に限定されない。例えば、タービン型などの攪拌翼を備えた通常の攪拌混合機、ホモジナイザー(ホモゲナイザー)、ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、超音波分散機などが挙げられる。中でも、ビーズミル、ペイントシェーカーは有機物で修飾されていない無機層状化合物を効率よく微分散させることができるため好ましい。これらの装置は、有機物で修飾されていない無機層状化合物の分散状態や、セルロース誘導体やセルロース誘導体に相溶する高分子などの樹脂成分の溶解程度に応じて異なる複数種が併用されてもよい。
【0068】
[塗工液の製造方法]
塗工液の製造方法は、以下の手順で行うことができる。まず、無機層状化合物を極性有機溶媒中に分散させる分散工程を行い、得られる分散液とセルロース誘導体の極性溶媒溶液を混合するセルロース誘導体混合工程を行うことで、塗工液を製造する。
【0069】
この分散工程では、無機層状化合物を極性有機溶媒と混合して無機層状化合物を極性有機溶媒中に分散させる。ここで用いられる極性有機溶媒としては、上述したように有機物で修飾されていない無機層状化合物を膨潤させるものが用いられる。この場合、さらにコロイド状を呈するまで膨潤させ得るものが好ましい。この極性有機溶媒として好適なものは、上述したとおりである。
【0070】
最後に、セルロース誘導体混合工程で得られた無機層状化合物の分散液を、セルロース誘導体の極性有機溶媒溶液と混合する。このような工程を経て、上述したような第二位相差板3の製造に好適に用いられ得る塗工液Bが好適に製造される。
【0071】
[粘着剤層]
粘着剤層4は、粘着性のある材料で形成され、第二位相差板3と図示しないガラス基材などとを接着する機能を有している。本実施形態では、粘着剤層4として感圧接着剤を使用している。感圧接着剤は、押さえるだけで他の物質の表面に接着する性質を有しており、被着面に強度さえあれば被着面から引き剥がすだけでほとんど痕跡を残さずに除去できる。このような感圧接着剤は、粘着剤とも呼ばれる粘弾性体である。感圧接着剤としては、公知の粘着剤から適宜選択して用いることが可能であり、例えばアクリル系、ゴム系、ウレタン系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系などの粘着剤が挙げられる。
【0072】
[偏光板]
偏光板6は、ある方向の振動面を有する直線偏光を吸収し、それと直交する方向の振動面を有する直線偏光を透過させる機能を有する。偏光板6の種類は特に限定されず、公知の偏光板を用いることが可能である。偏光板6として、例えばポリビニルアルコールやエチレン・酢酸ビニル共重合体などの樹脂フィルムにヨウ素や二色性染料を配向させたものを使用することができる。また、必要に応じて樹脂フィルムの表面に補強のためトリアセチルセルロース層(TAC層)を積層したり、TAC層にハードコート処理や防眩処理を施したりしてもよい。偏光板6の製造方法は、公知の手法を採用することが可能であり、例えば、上述した樹脂フィルムをヨウ素や二色性色素で染色したのち、樹脂フィルムを一軸延伸し、ホウ酸処理を施す方法が挙げられる。
【0073】
本実施形態では、接着剤層7を介して1/4波長板2と偏光板6が積層されている。接着剤層7は、水溶媒系接着剤、有機溶媒系接着剤、ホットメルト系接着剤、無溶剤系接着剤など公知の接着剤を挙げることができる。接着剤の材料種別としては、例えば、モノマー・オリゴマー系接着剤、樹脂系接着剤、ゴム系接着剤、天然系接着剤などが挙げられる。モノマー・オリゴマー系接着剤としては、(メタ)アクリレート系、オキセタン系接着剤が挙げられる。また、樹脂系接着剤としては、尿素樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、レゾルシノール樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、ポリビニルアルコール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロース樹脂系接着剤が挙げられる。また、ゴム系接着剤としては、クロロプレン系、ニトリルゴム系、スチレンブタジエンゴム系、スチレンブロック共重合熱可塑性エラストマー系、ブチルゴム系、天然ゴム系、再生ゴム系、塩化ゴム系、シリコーンゴム系接着剤が挙げられる。天然系接着剤としては、膠や澱粉系接着剤が挙げられる。接着剤層7の厚みは、通常1〜30μm程度である。
【0074】
複合光学フィルム1を円偏光板とするには、1/4波長板2の面内遅相軸を基準に反時計回り方向を正として、偏光板6の吸収軸に至る角度が35〜55度、好ましくはほぼ45度となるように配置する。あるいは、1/4波長板2の面内遅相軸を基準に反時計回りを正として、偏光板6の吸収軸に至る角度が125〜145度、好ましくはほぼ135度となるように配置することでも、複合光学フィルム1は円偏光板として機能するようになる。なお、これらの角度は、偏光板6の側から1/4波長板2方向をみたときの回転角度を基準としている。
【0075】
以上のように、この実施形態の複合光学フィルム1は、後述する第二の実施形態の複合光学フィルム(図3参照)とは異なり、第一位相差板2と第二位相差板3とが粘着剤層を介して貼合されておらず、両者が直接積層された層構成となっている。この層構成は、第二位相差板3の塗工液の溶媒が1/4波長板2を溶かすなどにより1/4波長板2の光学特性に悪影響を与えず、しかも両者の密着性がよい場合には、1/4波長板2の上に塗工液を直接塗工することで製造することができる。このように、本実施形態では1/4波長板2と第二位相差板3との間に粘着剤層を設ける必要がないため、その分だけ厚みを減らすことができ、複合光学フィルム1を薄膜化することが可能となる。さらに、第二位相差板3の無機層状化合物が有機物で修飾されていないため、遊離の有機物による1/4波長板2の光学特性の低下などが生じることがなく好ましい。以下、この製造方法について詳細に説明する。
【0076】
[複合光学フィルムの製造方法]
図2は、本実施形態の複合光学フィルム1の製造方法を示している。本実施形態の複合光学フィルム1は、以下の手順で製造することができる。図2(A)に示すように、あらかじめ1/4波長板2を用意しておく。並行して、上述した極性有機溶媒と、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、セルロース誘導体とを混合し、塗工液を調製する。
【0077】
次に、図2(B)に示すように、1/4波長板2の表面に調製した塗工液を塗工する。塗工液を1/4波長板2に塗工する方法は、塗工液の物性や固形分濃度などに応じて適宜選択することができる。塗工方法としては、例えばダイコーター、カンマコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、ワイヤーバーコーター、ドクターブレードコーター、エアドクターコーターなど公知の塗工機を用いて行うことができる。
【0078】
続いて、1/4波長板2の表面に塗工された塗工液から極性有機溶媒を除去する工程を行う。この工程では、乾燥により極性有機溶媒を揮発させて除去する方法を採用することができる。具体的には、塗工直後の1/4波長板2を乾燥炉へ導入して乾燥させる方法が挙げられる。乾燥温度と乾燥時間は、用いた溶媒を除去するのに十分な範囲であれば特に制限されない。例えば、温度は50〜170℃程度、時間は30秒〜30分程度の範囲から適宜選択することができる。この極性有機溶媒を除去する工程により、1/4波長板2の上に第二位相差板3が形成される。
【0079】
次に、図2(C)に示すように、第二位相差板3の塗工面に粘着剤層4を形成する。粘着剤層4の形成方法も、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、上述した塗工液の塗工工程で挙げた公知の塗工機を用いて粘着剤を塗布し乾燥する方法によって形成できる。また、離型処理が施されたフィルムの離型処理面に感圧接着剤層が形成されたものを用意し、これを第二位相差板3の塗工面に貼合する方法によっても形成することができる。以上の工程により、1/4波長板2(第一位相差板)/第二位相差板3/粘着剤層4の層構成からなる複合位相差板5を製造することができる。なお、粘着剤層4の露出面を埃や乾燥等から保護するために、粘着剤層4の露出面に離型フィルムを貼合してもよい。
【0080】
これまでの工程と並行して、図2(D)に示すように、接着剤層7が形成された偏光板6を用意しておく。偏光板6に接着剤層7を形成する方法も、上述した公知の方法を適宜用いることができる。例えば、上で挙げた公知の塗工機を用いて接着剤を塗布し乾燥する方法や、離型処理が施されたフィルムの離型処理面に感圧接着剤が形成されたものを用意して偏光板6の表面に貼合する方法などが挙げられる。本実施形態では、感圧接着剤を含む接着剤層7を偏光板6にあらかじめ形成している。
【0081】
次に、図2(E)に示すように、1/4波長板2側の表面に接着剤層7を貼合することで、複合位相差板5に偏光板6を積層する。以上の工程により、偏光板6/接着剤層7/1/4波長板2(第一位相差板)/第二位相差板3/粘着剤層4の層構成からなる複合光学フィルム1を製造することができる。なお、粘着剤層4の露出面を埃や乾燥等から保護するために、粘着剤層4の露出面に離型フィルムを貼合してもよい。
【0082】
以上の工程で製造した複合光学フィルム1は、円偏光板として機能する。この複合光学フィルム1を液晶セルの少なくとも一方側に配置して液晶表示装置を製造することも可能である。複合光学フィルム1を液晶セルに配置するには、液晶セルのガラス基板上で複合光学フィルム1の粘着剤層4に離型フィルムが貼り付けられている場合は離型フィルムをはがし、ガラス基板の表面に粘着剤層4を貼り付ける。なお、複合光学フィルム1は、液晶セルの一方側のみに配置してもよく、両側に配置してもよい。液晶表示装置に用いられる液晶セルのモードは、垂直配向(VA)が好ましい。
【0083】
<第二の実施形態>
次に、本発明の第二の実施形態に関する複合光学フィルム1について説明する。図3は、1/4波長板2と第二位相差板3との間に粘着剤層8が形成されている実施形態を示している。この実施形態では、第二位相差板3に含まれる無機層状化合物が有機化合物で修飾されておらず、かつ1/4波長板2と第二位相差板3との間に粘着剤層8が形成されている。このため、1/4波長板2と第二位相差板3の間の密着性が向上するとともに、両者の粘着力が経時的に低下しにくい点が特徴である。この実施形態の複合光学フィルム1のうち粘着剤層8以外の他の構成については、第一の実施形態で説明したとおりであるため、説明を省略する。粘着剤層8は、粘着剤層4と同様に感圧接着剤を使用することができる。
【0084】
この実施形態の複合光学フィルム1は、第一の実施形態の複合光学フィルム(図1参照)とは異なり、第一位相差板2と第二位相差板3とが粘着剤層8を介して貼合されている。この層構成は、第二位相差板3の塗工液の溶媒が1/4波長板2を溶かすなどにより1/4波長板2の光学特性に悪影響を与えるため1/4波長板2に塗工液を直接塗工できない場合や、1/4波長板2と第二位相差板3との間の密着性が悪い場合に採用することが好ましい。
【0085】
[複合光学フィルムの製造方法]
図4は、本実施形態の複合光学フィルム1の製造方法を示している。本実施形態の複合光学フィルム1は、以下の手順で製造することができる。図4(A)に示すように、あらかじめ転写基材20を用意しておく。並行して、極性有機溶媒と、上述した有機物で修飾されていない無機層状化合物と、セルロース誘導体とを混合し、塗工液を調製する。
【0086】
次に、図4(B)に示すように、転写基材20の表面に調製した塗工液を塗工する。塗工液を転写基材20に塗工する方法は、塗工液の物性や固形分濃度などに応じて適宜選択することができる。塗工方法としては、上述した公知の塗工機を用いて行う方法が挙げられる。
【0087】
続いて、転写基材20の表面に塗工された塗工液から極性有機溶媒を除去する工程を行う。この工程では、乾燥により極性有機溶媒を揮発させて除去する方法を採用することができる。例えば、塗工直後の転写基材20を乾燥炉へ導入して乾燥させる方法が挙げられる。乾燥温度と乾燥時間は、用いた溶媒を除去するのに十分な範囲であれば特に制限されない。例えば、温度は50〜170℃程度、時間は30秒〜30分程度の範囲から適宜選択することができる。この極性有機溶媒を除去する工程により、転写基材20の上に第二位相差板3が形成される。
【0088】
上述した塗布・乾燥工程と並行して、図4(C)に示すように、1/4波長板2の表面に粘着剤層8が形成された粘着剤付き位相差板を用意しておく。粘着剤層8は、上述した塗工機などを用いて公知の方法で形成することができる。また、粘着剤層8の塗工面には、表面を保護するために離型フィルムを貼合してもよい。
【0089】
次に、図4(D)に示すように、粘着剤付き1/4波長板2の粘着剤面と第二位相差板3の塗工面とを貼合し、1/4波長板2(第一位相差板)/粘着剤層8/第二位相差板3/転写基材20の層構成からなる半製品を製造する。続いて、この半製品から転写基材20を剥離し、1/4波長板2(第一位相差板)/粘着剤層8/第二位相差板3の層構成からなる転写基材20の剥離後の半製品とする。
【0090】
次に、図4(E)に示すように、第二位相差板3の剥離面に粘着剤層4を形成する。粘着剤層4の形成方法も、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、上述した塗工液の塗工工程で挙げた公知の塗工機を用いて粘着剤を塗布し乾燥する方法によって形成できるほか、離型処理が施されたフィルムの離型処理面に感圧接着剤層が形成されたものを用意し、これを第二位相差板3の剥離面に貼合する方法によっても形成することができる。以上の工程により、1/4波長板2(第一位相差板)/粘着剤層8/第二位相差板3/粘着剤層4の層構成からなる複合位相差板5を製造することができる。なお、粘着剤層4の露出面を埃や乾燥等から保護するために、粘着剤層4の露出面に離型フィルムを貼合してもよい。
【0091】
これまでの工程と並行して、図4(F)に示すように、接着剤層7が形成された偏光板6を用意しておく。偏光板6に接着剤層7を形成する方法も、上述した公知の方法を適宜用いることができる。本実施形態では、感圧接着剤を含む接着剤層7を偏光板6にあらかじめ形成している。
【0092】
次に、図4(G)に示すように、複合位相差板5の1/4波長板2側の表面に接着剤層7を貼合することで、複合位相差板5に偏光板6を積層する。以上の工程により、偏光板6/接着剤層7/1/4波長板2(第一位相差板)/粘着剤層8/第二位相差板3/粘着剤層4の層構成からなる複合光学フィルム1を製造することができる。なお、粘着剤層4の露出面を埃や乾燥等から保護するために、粘着剤層4の露出面に離型フィルムを貼合してもよい。
【0093】
<他の実施形態>
次に、本発明の他の実施形態に関する複合光学フィルム1について説明する。図5は、第一位相差板11として1/4波長板12と1/2波長板13の2枚の波長板を用いた実施形態である。このうち図5(a)は粘着剤層8を有していない実施形態、図5(b)は1/4波長板12と第二位相差板3の間に粘着剤層8を有している実施形態を示している。
【0094】
上述した第一の実施形態(図1)のように、一般の延伸樹脂フィルムから形成される1/4波長板を1枚だけ用いた場合には、限られた波長範囲でしか完全円偏光が得られない場合が多い。このため、広い波長範囲で円偏光を得るための方法の1つに、1/2波長板と1/4波長板を組み合わせる方法がある。本実施形態の第一位相差板11は、1/4波長板12と、1/2波長板13と、両者を接着する接着剤層14とにより構成されている。これにより、複合光学フィルム1の円偏光を広帯域化することができ、波長特性を向上させることが可能となる。
【0095】
(1/2波長板)
1/2波長板13は、可視光の波長領域(380〜780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/2波長(180度)の位相差を示す位相差板であり、直線偏光の向きを180度回転させる機能を有している。1/2波長板13は、ポリマーフィルムを一軸延伸、二軸延伸などの延伸処理を適用することで得ることができる。ポリマーフィルムの材料としては、上述した1/4波長板2と同様に、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなど公知の材料を適宜選択して使用することができる。
【0096】
1/2位相差板13の面内位相差値Rは240〜400nmであり、好ましくは200〜300nmである。この位相差値は、液晶表示装置の種類や目的に応じて、円偏光(楕円偏光)の楕円率や長軸方位角などを考慮して適宜決定することができる。1/2波長板13の位相差軸の公差は、偏光板6が貼合された画像表示装置の正面コントラストの観点から、中心値±5nm以内、好ましくは±3nm以内である。
【0097】
1/4波長板12と1/2波長板13を積層して円偏光板とする場合、1/2波長板13の面内遅相軸を基準に反時計回りを正として、偏光板6の吸収軸に至る角度が5〜25度、好ましくはほぼ15度となり、かつ1/4波長板12の面内遅相軸を基準に反時計回り方向を正として、偏光板6の吸収軸に至る角度が65〜85度、好ましくはほぼ75度となるように配置する。あるいは、1/2波長板13の面内遅相軸を基準に反時計回りを正として、偏光板6の吸収軸に至る角度が155〜175度、好ましくはほぼ165度となり、かつ1/4波長板12の面内遅相軸を基準に反時計回り方向を正として、偏光板6の吸収軸に至る角度が95〜115度、好ましくはほぼ105度となるように配置しても、ほぼ円偏光板として機能する。なお、これらの角度は、偏光板6側から1/4波長板12や1/2波長板13の方向をみたときの回転角度を基準としている。
【0098】
なお、第一位相差板11としては上記のような2枚の位相差板を組み合わせる構成に限定されない。例えば、逆波長分散型の位相差板を1枚用いて広帯域化を実現することも可能である。このような逆波長分散型の位相差板は、長波長側に向かうにつれて位相差値が大きくなる位相差板であり、例えば1/4波長板では、400〜800nmの広帯域の波長範囲において、いずれの波長においても位相差値がほぼ1/4となる。逆波長分散型の位相差板は、市販品として容易に入手可能であり、例えば、「ピュアエース(登録商標)WR」(帝人株式会社製)が挙げられる。このような逆波長分散型の位相差板を採用することで、複合光学フィルム1の円偏光を広帯域化することができるとともに、位相差板を2枚組み合わせる場合と比較して、加工の手間が少なく、組合せの際の位置ズレなどの不具合も生じにくいため好ましい。
【0099】
本実施形態の複合光学フィルム1の製造方法は、上述した第一,第二の実施形態で説明した製造方法を適宜改変することができる。例えば、図2(A)の1/4波長板2に替えて、本実施形態の1/4波長板12、接着剤層14、1/2波長板13がこの順に積層された第一位相差板11を使用することで、図5(a)に示す実施形態の複合光学フィルム1を製造することができる。
【0100】
また、例えば、図4(C)の1/4波長板2に替えて、本実施形態の1/4波長板12、接着剤層14、1/2波長板13がこの順に積層された第一位相差板11を使用することで、図5(b)に示す実施形態の複合光学フィルム1を製造することができる。その他の工程については既に説明しているため、詳細な説明は省略する。
【0101】
次に、本発明の他の実施形態に関する複合光学フィルム1について説明する。図6は、接着剤層を介さずに複合位相差板5の1/4波長板2に偏光板6を直接積層した実施形態である。このような層構成とすることで、接着剤層の厚さ分だけ厚みを減らすことができ、複合光学フィルム1を薄膜化することが可能となる。
【0102】
偏光板6を1/4波長板2に直接積層するには、あらかじめ製造した1/4波長板2の表面に偏光板6の塗工液を直接塗工する技術を用いることができる。このような塗工技術としては、例えば特開2009−251288号公報に記載された技術を採用することができる。具体的には、サーモトロピック液晶性の二色性色素や二色性色素とサーモトロピック液晶性物質の混合物を塗工液とする場合、1/4波長板2を配向基材として塗工液を塗布して分子を配向させ、この状態で硬化させることで偏光板6を形成する。また、リオトロピック液晶性物質を塗工液とする場合、1/4波長板2に塗工した後で塗工液にせん断を加えることで分子を配向させることも可能である。
【実施例】
【0103】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。例中、含有量ないし使用量を表す「%」や「部」は、特記ない限り重量基準である。
【0104】
(粘着力測定)
以下の実施例において、粘着力の測定は以下の方法で行った。まず、幅25mm、長さ約250mmの短冊状に複合光学フィルムを切断し、液晶セルガラスに貼合した後、オートクレーブを用いて、圧力5kgf/cm、温度50℃で20分間の加圧処理を行う。次に、測定機(オートグラフ AG−1:株式会社島津製作所製)を用い、180度剥離、引っ張り速度300mm/分で粘着力を測定する。
【0105】
[実施例1]
(1)スメクタイト/N,N−ジメチルアセトアミド分散液の調製
有機物で修飾されていない無機層状化合物である合成スメクタイト(ルーセンタイトSWN、コープケミカル株式会社製)6.6g、N,N−ジメチルアセトアミド96.1gを加え、ジルコニアビーズ(直径:0.8mm)79mlと高速攪拌機(スリーワンモーターBL1200、新東科学株式会社製)を用いて攪拌し、スメクタイトを分散させスメクタイト分散液を得た。
【0106】
(2)セルロースアセテート溶液の調製
水酸基の置換度が2.88で数平均分子量が76000のセルロースアセテート(セルローストリセテート LT−35、ダイセル化学工業株式会社製)15部にN,N−ジメチルアセトアミド85部を加え、攪拌して溶解させ、15%濃度の高置換度セルロースアセテート溶液を調製した。
【0107】
(3)塗工液の調製
上記(1)で調製したスメクタイトとN,N−ジメチルアセトアミドの分散液102.7gに、同じく上記(2)で調製した15%濃度の高置換度セルロースアセテート溶液22.2gを加え、湯浴を用いて塗工液の温度を60℃に調整し、高速攪拌機でさらに2時間攪拌し、分散処理を行なった。得られた分散液を孔径6μmのメンブランフィルターで濾過し、塗工液を調製した。この塗工液は、全体を100部としたときに以下の組成を有する。
・ルーセンタイトSWN 5.3部
・水酸基の置換度が2.88の高置換度セルロースアセテート 2.7部
・N,N−ジメチルアセトアミド 92.0部
【0108】
(4)光学フィルム(第二位相差板3)の作製と評価
上記(3)で調製した塗工液を、離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケーターを用いて塗工し、80℃で5分間乾燥して、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングされた光学フィルムを作製した。その光学フィルム側(コーティング層側)を、感圧接着剤を介して4cm角のガラス板に転写し、位相差値測定用サンプルを作製した。このサンプルの面内位相差値R0と厚み方向の位相差値Rthを、位相差測定装置(KOBRA−WR、王子計測機器株式会社製)を用いて、波長589nmの単色光で回転検光子法により測定した。その結果、面内位相差値R0=0.2nm、厚み方向の位相差値Rth=114.1nmであった。
【0109】
また、基材のポリエチレンテレフタレートフィルムをガラス板に替え、他は上と同様にして、ガラス板上に上記の塗工液を塗工し、乾燥して、光学フィルムを作製した。光学フィルムをフタル酸ジメチル溶液に浸け、その光学フィルムの内部ヘイズ値をヘイズメーター(NDH2000、日本電色工業株式会社製)を用いて測定したところ、0.0%であった。
【0110】
基材のポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングされた光学フィルム(第二位相差板)の露出面に、片面に粘着剤層を有する環状ポリオレフィン系樹脂の延伸フィルムからなるλ/4板(第一位相差板、住友化学株式会社製の商品名"スミカライト CSES430120Z6"、R0=120nm)を、その粘着剤層側で貼合し、第一位相差板/粘着剤層/第二位相差板/離型フィルムからなる半製品とした。
【0111】
その後、上で得られた半製品の離型フィルムを剥離しながら、離型フィルム剥離後のコーティング層表面に、別途離型処理面に粘着剤が塗工されたポリエチレンテレフタレートフィルムをその粘着剤層側で貼合し、第一位相差板/粘着剤層/第二位相差板/第二の粘着剤層/離型フィルムからなる複合位相差板とした。この複合位相差板から離型フィルムを剥がして液晶セルガラスに貼合し、先に述べた方法で粘着力を測定した。その結果を表1に示す。この表に示すとおり、貼合直後(初期)の複合位相差板の対ガラス粘着力は9.1N/25mmであった。また、液晶セルガラスに貼合した状態のまま、50℃で1週間(7日間)保管した後の粘着力は9.0N/25mm、同温度で1ヶ月保管した後の粘着力は9.1N/25mmであった。したがって、実施例1の複合位相差板では、1ヶ月経過した後でも液晶セルガラスとの間の粘着力がほとんど低下していないことがわかった。
【0112】
さらに、片面に粘着剤層を有するポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光板(住友化学株式会社製の商品名"スミカラン SRW842A")を用意し、上で得た複合位相差板の遅相軸が偏光板の吸収軸と45°の角度をなし、偏光板の粘着剤層が上記複合位相差板の第一位相差板と重なるように貼合して、対角寸法2インチ(38.2mm×30.7mm)の円偏光板を作製した。
【0113】
[比較例1]
(1)塗工液の調製
トリオクチルメチルアンモニウムイオンで修飾された合成スメクタイト(ルーセンタイトSTN、コープケミカル株式会社製)7.2部に、トルエン76.8部とウレタン樹脂ワニス(SBUラッカー0866、ウレタン樹脂30%濃度のメチルイソブチルケトン溶液、住化バイエルウレタン株式会社製)16部を加え、実施例1で用いたのと同じ高速攪拌機TKホモミキサーで1時間攪拌し、上記有機修飾スメクタイトを分散させた。次いで純水0.3部を加え、さらに2時間攪拌した後、孔径6μmのメンブランフィルターで濾過し、塗工液を調整した。この塗工液は、水を除く各成分の合計重量を100としたときに、以下の組成を有する。
【0114】
・有機修飾合成スメクタイト 7.2部
・ウレタン樹脂 4.8部
・トルエン 76.8部
・メチルイソブチルケトン 11.2部
・純水 0.3部
【0115】
(2)位相差フィルムの作製と評価
上記(1)で調製した塗工液を、離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケーターを用いて塗工し、50℃で1分、次に90℃で3分保持して乾燥させ、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングされた位相差フィルムを得た。この位相差フィルムを、実施例1(4)と同様に感圧接着剤を介してガラス板に転写し、位相差値を測定したところ、面内位相差値R0=0.0nm、厚み方向の位相差値Rth=148nmであった。また、基材のポリエチレンテレフタレートフィルムをガラス板に替え、他は上と同様にして、ガラス板上に上記の塗工液を塗工し、乾燥して、位相差フィルムを作製し、その内部ヘイズ値を実施例1(4)と同じヘイズメーターで測定したところ、0.5%であった。
【0116】
このポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングされた第二位相差板の露出面に、片面に粘着剤層を有する環状ポリオレフィン系樹脂の延伸フィルムからなるλ/4板(第一位相差板、住友化学株式会社製の商品名"スミカライト CSES430120Z6"、R0=120nm)を、その粘着剤層側で連続的に貼合して巻き取り、第一位相差板/粘着剤層/第二位相差板/離型フィルムからなる半製品とした。
【0117】
その後、上で得られた半製品の離型フィルムを剥離しながら、離型フィルム剥離後のコーティング層表面に、別途離型処理面に粘着剤が塗工されたポリエチレンテレフタレートフィルムをその粘着剤層側で貼合し、第一位相差板/粘着剤層/第二位相差板/第二の粘着剤層/離型フィルムからなる複合位相差板とした。この複合位相差板から離型フィルムを剥がして液晶セルガラスに貼合し、先に述べた方法で粘着力を測定した。その結果を表1に示す。この表に示すとおり、貼合直後(初期)の複合位相差板の対ガラス粘着力は9.3N/25mmであった。また、液晶セルガラスに貼合した状態のまま、50℃で1週間(7日間)保管した後の粘着力は6.2N/25mm、同温度で1ヶ月保管した後の粘着力は4.1N/25mmであった。したがって、比較例1の複合位相差板では、経時変化により液晶セルガラスとの間の粘着力が低下したことがわかった。
【0118】
さらに、片面に粘着剤層を有するポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光板(住友化学株式会社製の商品名"スミカラン SRW842A")を用意し、上で得た複合位相差板の遅相軸が偏光板の吸収軸と45°の角度をなし、偏光板の粘着剤層が上記複合位相差板の第一位相差板と重なるように貼合して、対角寸法2インチ(38.2mm×30.7mm)の円偏光板を作製した。
【0119】
【表1】

【符号の説明】
【0120】
1 複合光学フィルム、2 1/4波長板(第一位相差板)、3 第二位相差板、4 粘着剤層、5 複合位相差板、6 偏光板、7 接着剤層、8 粘着剤層、11 第一位相差板、12 1/4波長板、13 1/2波長板、14 接着剤層、20 転写基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一位相差板、第二位相差板及び粘着剤層がこの順に積層された複合光学フィルムであって、
前記第一位相差板は、面内に配向した樹脂フィルムを少なくとも1枚含み、
前記第二位相差板は、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体との混合物を含むことを特徴とする複合光学フィルム。
【請求項2】
前記無機層状化合物がスメクタイト族鉱物である請求項1に記載の複合光学フィルム。
【請求項3】
前記第二位相差板中の前記セルロース誘導体に対する前記無機層状化合物の重量比が0.5〜5の範囲にある請求項1又は2に記載の複合光学フィルム。
【請求項4】
前記第二位相差板の面内の位相差値が0〜5nmであり、厚み方向の位相差値が40〜300nmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合光学フィルム。
【請求項5】
前記第一位相差板は、1/4波長板であるか、又は1/2波長板と前記第二位相差板側に配置される1/4波長板とが積層された波長板である請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合光学フィルム。
【請求項6】
前記第一位相差板と前記第二位相差板との間に更に別の粘着剤層を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合光学フィルム。
【請求項7】
前記第一位相差板の前記第二位相差板とは反対側の面に偏光板を更に備える請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合光学フィルム。
【請求項8】
第一位相差板、第二位相差板及び粘着剤層がこの順に積層された複合光学フィルムの製造方法であって、
極性有機溶媒と、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体との混合物である塗工液を少なくとも1枚の面内に配向している樹脂フィルムを含む第一位相差板の表面に塗工し、
前記塗工された前記塗工液から前記極性有機溶媒を除去して第二位相差板を形成し、
前記除去後の前記第二位相差板の塗工面に粘着剤層を形成して、第一位相差板/第二位相差板/粘着剤層の層構成からなる複合位相差板を製造することを特徴とする複合光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
第一位相差板、第二位相差板及び粘着剤層がこの順に積層された複合光学フィルムの製造方法であって、
面内に配向している樹脂フィルムを少なくとも1枚含む第一位相差板の表面に粘着剤層が形成された粘着剤付き位相差板を用意し、
極性有機溶媒と、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体との混合物である塗工液を転写基材上に塗工し、
前記塗工された前記塗工液から前記極性有機溶媒を除去して第二位相差板を形成し、
前記粘着剤付き位相差板の粘着剤面と前記第二位相差板の塗工面とを貼合し、
次いで、前記転写基材を前記第二位相差板から剥離し、
前記剥離後の前記第二位相差板の転写基材剥離面に第二の粘着剤層を形成して第一位相差板/粘着剤層/第二位相差板/粘着剤層の層構成からなる複合位相差板を製造することを特徴とする複合光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記複合位相差板を製造した後、該複合位相差板の前記第一位相差板側から少なくとも偏光板を含む光学フィルムを積層する請求項8又は9に記載の複合光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−247967(P2011−247967A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118874(P2010−118874)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】