説明

複合光学素子及びその製造方法

【課題】基材側光学素子と成形側光学素子とを、接合境界面に光学薄膜を介在させて接合一体化することで、小型・薄型化等を図る。
【解決手段】基材レンズ22は、成形レンズ124の軟化温度よりも高く、該成形レンズ124との熱線膨張係数の差が3.0×10-6/℃の範囲内にある光学ガラスから選択され、光学薄膜123は、光学的に透明なMgOからなる薄膜で構成され、その融点が成形レンズ124の軟化温度よりも高く、基材レンズ22と成形レンズ124とは、光学薄膜123を間に介在させて直接的に接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱軟化したガラス成形素材を成形して成形側光学素子を得るとともに、成形側光学素子とガラスの基材側光学素子とを接合して一体化させた複合光学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ上で、文字、静止画、動画、音声等の様々な形態の情報を統合して扱うマルチメディアの発達が著しい。例えば、デジタルカメラ等で取得した映像面の情報を、ネットワークを通じて送受信することで、効率的に情報を共有化することが可能となった。これに伴い、デジタルカメラ等を含む光学装置にあっては、その小型かつ高品質なものが求められている。
【0003】
従って、光学装置に組み込まれる光学系や光学レンズに関しては、小型であることを前提に、薄型化、高品質化に着目した開発が進められている。ここでは、光学レンズのうち複数の光学レンズを組み合わせた複合レンズに限定して話を進める。複合レンズの薄型化に関しては、成形手段により複合レンズを製造する方法の活用が考えられる。また、高品質化の面では、収差補正能力の向上、入射光の損失低減、赤外線等の不要光の抑制の観点から、非球面の形成に加えて光学薄膜との組み合わせの活用が考えられる。更に、安定した品質を満足させていく必要がある。
【0004】
ところで、このような複合レンズに関し、従来、例えば特許文献1及び特許文献2に記載の技術が公知である。
特許文献1では、ガラスの基材レンズの一方の表面上に成形素材を加圧被覆し、形成されるガラス層の成形レンズを基材レンズに融着させて直接的に一体化した複合レンズが提案されている。対象とするレンズは、主として外径がφ20mm以上の大口径のものである。成形レンズは、0.5〜2mmよりも薄い層状に形成される。更に、成形面に非球面を形成することが可能である。
【0005】
成形レンズのガラスと基材レンズのガラスは、次の条件を満たすことが記載されている。第1に、成形レンズのガラスのガラス転移点は基材レンズのガラスのガラス転移点よりも40℃以上低くする。第2に、成形レンズのガラスの平均熱線膨張係数は基材レンズのガラスの平均熱線膨張係数より3×10-7〜8×10-7/℃小さくする。なお、一体化の際は、成形レンズと基材ガラスの間には何も介在させていない。
【0006】
また、特許文献2では、光学ガラスを成形により薄肉化して光学多層膜を形成し、成形レンズを基板あるいは光学多層膜のどちらかと直接的に接合させた複合レンズが提案されている。光学多層膜は光学薄膜として光学フィルタ、反射膜、反射防止膜の機能を保有させている。
【0007】
製造方法は、まず、基板上に光学ガラス多層積層体を載せ、光学ガラス多層積層体を加熱軟化させた状態でプレス成形する。次に、成形で光学ガラス多層積層体を薄肉化させて光学多層膜を形成するとともに、基板と接合して一体化する。更に、基板上に別の光学ガラスを載せ、その光学ガラスを光学多層膜が軟化しない温度で加熱軟化させて成形する。次いで、成形により光学ガラスを変形させてレンズを形成するとともに、基板上に接合一体化する。
【特許文献1】特開平10−45419号公報
【特許文献2】特開2004−347718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、成形レンズと基材レンズとは、成形によって接合境界面に何も介在させない状態で、直接的に接合されている。このため、成形レンズのガラスの屈折率と基材レンズのガラスの屈折率との差が大きい場合、接合境界面で光の反射が発生しやすくなる。この反射光は、ゴーストやフレアなどの迷光となりやすく、複合レンズの品質を低下させる原因になる。
【0009】
また、特許文献2では、基板上に載せた光学ガラス多層積層体を、加熱軟化させた状態でプレス成形して、光学多層膜を形成している。この光学多層膜は、光学薄膜としての機能を保有しており、機能を十分に発揮させるためには膜厚を光の波長以下のオーダーで管理する必要がある。
【0010】
しかしながら、プレス成形による厚みの制御では、装置の温度管理や制御方法の問題から、厚みに数μmから数十μm程度のばらつきが生じやすく、数十nmから数百nm程度の管理は非常に困難なものになる。このように、光学多層膜の膜厚がばらつくことにより、光学薄膜の効果に差が生じて、複合レンズの品質を不安定にさせる原因となる。また、光学ガラスには接合に寄与しない物質が含まれることがあり、接合状態が安定しないケースが生じる。
【0011】
本発明は、斯かる課題を解決するためになされたもので、基材側光学素子と成形側光学素子とを、接合境界面に光学薄膜を介在させて接合一体化することで、小型・薄型化等を図り得る複合光学素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、請求項1に係る複合光学素子の発明は、
基材側光学素子、成形側光学素子、及び光学薄膜を備えた複合光学素子において、
前記基材側光学素子は、前記成形側光学素子の軟化温度よりも高く、該成形側光学素子との熱線膨張係数の差が3.0×10-6/℃の範囲内にある光学ガラスから選択され、
前記光学薄膜は、光学的に透明な酸化物、フッ化物、硫化物の化合物のうち少なくとも1つの化合物からなる薄膜で構成され、その融点が前記成形側光学素子の軟化温度よりも高く、
前記基材側光学素子と前記成形側光学素子とは、前記光学薄膜を間に介在させて直接的に接合されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の複合光学素子において、
前記光学薄膜は、1つの化合物からなる単層膜又は複数の化合物からなる多層膜で構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の複合光学素子において、
前記光学薄膜は、反射防止膜又は波長選択タイプの光学フィルターの機能を有することを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の複合光学素子において、
前記光学薄膜は、Al23、MgO、Nb25、SiO2、Ta25、TiO2、ZrO2、MgF2、Sb23、ZnSの化合物のうち、少なくとも1つの化合物の中から選択されることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の複合光学素子において、
前記光学薄膜において、前記基材側光学素子あるいは前記成形側光学素子との境界面側にSiO2の膜を介在させたことを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る複合光学素子の製造方法の発明は、
成形素材を加熱軟化して成形側光学素子を成形し、該成形側光学素子と基材側光学素子とを接合して一体化する複合光学素子の製造方法において、
前記基材側光学素子を、前記成形側光学素子よりも軟化温度が高く、該成形側光学素子との熱線膨張係数の差が3.0×10-6/℃の範囲内にある光学ガラスから選択する工程と、
光学的に透明な酸化物、フッ化物、硫化物の化合物のうち少なくとも1つの化合物からなる薄膜で構成される光学薄膜を、前記基材側光学素子が前記成形側光学素子と接合される前に予め前記基材側光学素子の光学面に成膜する工程と、
前記基材側光学素子と前記成形側光学素子とを、前記光学薄膜を間に介在させて直接的に接合する工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の複合光学素子の製造方法において、
前記光学薄膜は、1つの化合物からなる単層膜又は複数の化合物からなる多層膜で構成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項8に係る発明は、請求項6又は7に記載の複合光学素子の製造方法において、
前記光学薄膜は、蒸着手段によって所定の厚みに成膜されることを特徴とする。
請求項9に係る発明は、請求項6〜8のいずれかに記載の複合光学素子の製造方法において、
前記光学薄膜は、Al23、MgO、Nb25、SiO2、Ta25、TiO2、ZrO2、MgF2、Sb23、ZnSの化合物のうち、少なくとも1つの化合物の中から選択されることを特徴とする。
【0020】
請求項10に係る発明は、請求項6〜9のいずれかに記載の複合光学素子の製造方法において、
前記光学薄膜において、前記基材側光学素子あるいは前記成形側光学素子との境界面側にSiO2の膜を介在させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基材側光学素子と成形側光学素子とを接合一体化することで、より薄肉化した複合レンズを得ることができる。また、接合境界面に介在している光学薄膜によって、反射防止機能あるいは光学フィルター機能を備え、入射光の損失を低減したり不要光を抑制したりすることで、高品質化した複合レンズを得ることができる。更に、接合境界面に介在する光学薄膜は膜厚変化が抑えられ、安定した品質を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
(蒸着装置の構成)
図1は、複合光学素子の製造に使用される蒸着装置の概要を示す図である。
【0023】
蒸着装置10の概略の構成は次の通りである。なお、蒸着は真空蒸着による方法を示しているが、これに限定されない。
この蒸着装置10は、壁面11で仕切られた室内に蒸着器12と光学式膜厚モニター13が配置され、室外に真空ポンプ14が接続されている。この真空ポンプ14によって、蒸着装置10の内部は、10-3torr以下の真空状態となるようにすることができる。
【0024】
蒸着器12は、ヒータ15が内蔵された加熱皿16と、この加熱皿16の上方の蒸着経路上で該加熱皿16と対向配置された試料台17と、蒸着経路を開放及び遮断可能なシャッタ18と、を有している。このシャッタ18は、加熱皿16の近傍に設けられていて、モータ19により支持軸20を中心として取付面と略水平に回動自在となっている。
【0025】
加熱皿16上には、蒸着材料23が載置されている。また、試料台17には蒸着経路に沿って開口部21が形成されている。この開口部21の上面に、蒸着面22aを下側に向けた基材レンズ22が載せられる。加熱皿16のヒータ15、シャッタ18を駆動するモータ19は、制御装置28に接続されている。
【0026】
次に、蒸着の概略の工程を簡単に説明する。
まず、制御装置28によってヒータ16に通電され、加熱皿16の中の蒸着材料23を加熱する。シャッタ18は、初期状態として蒸着材料23の上方にあり、蒸着経路を遮断している。加熱された蒸着材料23は、気化あるいは昇華して発散を始める。蒸着材料23が十分に加熱された時点で、制御装置28により、シャッタ18が蒸着経路を開放するように移動する。発散した蒸着材料23の一部が、基材レンズ22の蒸着面22aに付着して蒸着膜を形成する。
【0027】
蒸着膜を所望の膜厚まで成膜させた時点で、制御装置28はシャッタ18が蒸着経路を遮断するように移動させ、ヒータ16の通電を止める。このようにして、基材レンズ22の蒸着面22aに光学薄膜が形成される。多層膜を形成する場合は、蒸着材料23を切り替えながら上記工程を繰り返す。
【0028】
光学式膜厚モニター13は、光の干渉現象を利用して膜厚を測定するものである。この光学式膜厚モニター13は、投光部25と受光部26、及びこれら投光部25と受光部26の略中間点を通る鉛直線上に配置されたモニターガラス27を有している。受光部26は、制御装置28に接続されている。
【0029】
次に、光学式膜厚モニター13による膜厚の測定工程を説明する。
まず、投光部25からモニターガラス27に光を照射し、モニターガラス27からの反射光を受光部26で検出する。反射光ではなく、透過光を受光する形式としてもよい。この場合、光源の光の波長をλ、蒸着材料23の屈折率をnとするとき、モニターガラス27に付着した蒸着材料23の膜厚がλ/(4n)変化するごとに反射率の極値が現れる。そこで、制御装置28は受光部26からの信号を取り込んでこの変化を検出する。なお、発散した蒸着材料23は、基材レンズ22の蒸着面22aの他、モニターガラス27にも付着して略同一厚さの蒸着膜が形成されるものとする。なお、膜厚モニターには、他に振動子の共振周波数を利用して膜厚を測定する水晶式膜厚モニターがあるが、どちらを使用しても構わない。
【0030】
以上において、モニターガラス27に付着した蒸着膜が所望の膜厚に達した時点で、制御装置28はシャッタ18を蒸着経路を遮断するように回動させる。そして、蒸着材料23が基材レンズ22の蒸着面22aに付着することを停止する。
(成形型の構成)
図2は、成形装置の部分概要を示す図である。
【0031】
成形装置30は、金型組立体32を挟んで上下に対向する1対の上側プレート33及び下側プレート34と、上側プレート33を上下方向(対向方向)に駆動する加圧装置35と、を備えている。上側プレート33及び下側プレート34には、それぞれヒータ36,37が設けられている。そして、加圧装置35による上側プレート33の昇降動作により、金型組立体32の挟持、挟圧、解放等の動作が行われる。
【0032】
図3は、金型組立体32の概要を示す図である。
金型組立体32は、上型40、下型41、及びスリーブ42を有している。上型40及び下型41は、スリーブ42の内部で、それぞれの成形面40a、支持面41aが対向するようにスリーブ42の両端側から嵌挿され、上型40はスリーブ42の軸方向に摺動自在になっている。上型40と下型41の成形面40a、支持面41aの間には、例えば基材レンズ22の上に光学ガラス等の成形素材24が載置されている。
【0033】
そして、これら基材レンズ22と成形素材24とが一体的に接合されて、複合レンズが成形される。本実施形態では、上型40、下型41、及びスリーブ42は、タングステンカーバイド(WC)等の超硬合金から成っている。
(第1の実施の形態)
図4(a)〜(d)は、本実施形態の複合レンズ及びその製造工程を示している。
【0034】
本実施形態では、後述する図4(d)で示すように、基材レンズ22の接合面側に、予め単層膜の光学薄膜123を蒸着で付着させた状態で、成形手段により成形レンズ124を成形し、基材レンズ22と成形レンズ124とを接合一体化したものである。なお、ここで使用する光学薄膜123は反射防止機能を有している。
【0035】
図4(a)に示すように、メニスカス形状の基材レンズ22の光学面のうち、成形レンズ124が接合される側には、成形で使用する前に、前述した蒸着装置10を用いた蒸着処理によって光学薄膜123を付着させている。この光学薄膜123は、反射防止機能を有する単層膜である。
【0036】
光学薄膜123の材料は、光学ガラスの原料となり得るもののうち、比較的取り扱いが容易な化合物から選ばれる。これにより、光学薄膜123は可視領域で透明であり、かつ、基材レンズ22と成形レンズ124の直接的な接合作用を確保できる。
【0037】
例えば、酸化化合物ではAl23、MgO、Nb25、SiO2、Ta25、TiO2、ZrO2などがある。更には、フッ化化合物としてMgF2、硫化化合物としてSb23、ZnSが使用可能である。本実施形態では、光学薄膜123の材料としてMgOを選択した。
【0038】
光学薄膜123の膜厚は、基材レンズ22のガラスと成形レンズ124のガラスとの組み合わせから設定される。通常、数十nmから数百nmの範囲になる。また、光学薄膜123の成形素材は、ボール形状のガラス素材である。この成形素材の形状は、ボール形状以外にも、成形レンズと近似した形状あるいは平行平板形状としてもよい。ただし、基材レンズ22のガラスと成形素材24のガラスとの組み合わせに関して、成形上の制約がある。
【0039】
すなわち、基材レンズ22のガラスと成形素材24のガラスとの組み合わせは、次の条件を満足する範囲で選定する。
第1の条件は、基材レンズ22のガラスは成形素材24のガラスよりも屈伏点あるいはガラス転移点が高いものを選ぶことである。これは、成形工程において、成形素材24のガラスを変形させる段階で、基材レンズ22のガラスの変形を抑える必要があるためである。
【0040】
第2の条件は、両者の熱線膨張係数が略一致するものを選ぶことである。これは、異種ガラス間の接合において、接合後に割れが生じないようにするためである。
ここで、熱線膨張係数の差Δαについて補足する。
【0041】
熱線膨張係数のマッチングには、ガラスのヤング率E(標準的なものでは7×104MPa程度)と強度S(最大約90MPa)、成形温度Tmを考慮する。
概算値を算出するため、Δα≦S/(E×Tm)とおく。
【0042】
上述した値から、Δα≦2.5×10-6/℃が得られる。
但し、実用上は、もう少し範囲を広げられ、Δα≦3×10-6-1程度に設定することができる。
【0043】
そこで、成形素材24のガラスは次の条件を満たすように選択される。
基材レンズ22のガラスの熱線膨張係数をα1、成形素材24のガラスの熱線膨張係数をα2とした場合、
|α1−α2|≦3×10-6 (/℃) (式1)
となる。
【0044】
次に、図4(b)〜図4(d)に基づき、成形素材24の成形工程について説明する。
図4(b)に示すように、金型組立体32の内部では、成形素材24が成形温度に加熱されて軟化状態になる。成形温度は成形素材24のガラスの屈伏点より高く設定する。基材レンズ22のガラスは屈伏点が成形温度よりも高いため、ほとんど軟化しない。また、光学薄膜123に使用している化合物は融点が成形温度よりも高いため、その膜厚は変わらない。
【0045】
次いで、図4(c)に示すように、上型40を加圧することで、上型40と基材レンズ22で挟まれた成形素材24が押し潰され、成形が進行する。なお、成形素材24の変形量を制御することで成形レンズ124の厚みを調整することが可能である。
【0046】
すなわち、単体レンズでは強度が不足して加工時の応力で割れてしまうような薄さでも、基材レンズ22と接合させることで、成形レンズ124をより薄肉化させることができる。成形素材24は変形しながら、上型40の成形面40aが転写されて成形レンズ124を成形すると同時に、光学薄膜123を介在させた状態で基材レンズ22との境界面で接合する。
【0047】
こうして、金型組立体32を冷却して、成形レンズ124を上型40から離型させれば、図4(d)に示すように、成形レンズ124と基材レンズ22とが接合一体化した複合レンズ44が得られる。
【0048】
なお、図示していないが、上型40の成形面40aを非球面にすることで複合レンズ44の成形面を非球面化することが可能である。また、接合面側を非球面に形成した基材レンズ22を使用することも可能である。
【0049】
更に、成形で基材レンズ22と成形レンズ124を一体化するため、成形レンズ124の接合面は基材レンズ22の非球面形状に倣うことができる。その際、基材レンズ22の非球面の形状に多少のばらつきがあったとしても、成形レンズ124と基材レンズ22の接合状態には何ら影響を及ぼさない。また、成形後、複合レンズ44が空気と接する両表面の光学面には、反射防止膜を蒸着によって付着させることが可能である。
【0050】
図5は、光学薄膜123を介在させた場合と介在させない場合との、波長と透過率との関係を示す図である。
同図で明らかな通り、光学薄膜123を介在させた場合は、介在させない場合と比較して略全波長域において透過率が高くなっている。すなわち、光学薄膜123の介在により接合面の反射防止機能が向上している。
【0051】
本実施形態によれば、複合レンズ44を構成する成形レンズ124は、基材レンズ22と接合させることで、より薄肉にすることができる。これによって、複合レンズ44の薄型化が可能になる。更に、複合レンズ44の接合面に、反射防止機能を有する光学薄膜123を介在させるため、接合境界面での光の反射を低減させることができる。
【0052】
また、蒸着で付着させた光学薄膜123は、融点が高いことから、成形時に膜厚が変化することがなく、安定した反射防止機能を得ることができる。更に、複合レンズ44の両表面に形成した反射防止膜と組み合わせれば、入射光の損失を大幅に低減することができる。これによって、複合レンズ44を高品質化させることができるとともに、得られる品質が安定化する。また、非球面を組み合わせることで、収差補正能力を向上させた複合レンズ44を得ることができる。
(第2の実施の形態)
図6(a)〜(d)は、第2の実施形態の複合レンズ及びその製造工程を示している。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0053】
本実施形態では、図6(a)に示すように、両凸形状の基材レンズ22の接合面側に予め多層膜の光学薄膜123を蒸着で付着させた状態で、成形手段により成形レンズ124を成形し、基材レンズ22と成形レンズ124とを接合一体化させたものである。なお、ここで使用する光学薄膜123は反射防止機能を高めている。
【0054】
この光学薄膜123は、ZrO2とMgF2を2層に重ねた多層膜である。また、光学ガラスと接する光学薄膜123の両方の境界面側にSiO2膜を追加した多層膜としてもよい。このように、接合境界面にSiO2の成分が存在すると、化学結合が促進されやすくなり、接合状態が安定化する。
【0055】
図6(b)〜(d)は、本実施形態の複合レンズ44及びその製造工程を示す。
その製造工程は、前述した図4(b)〜(d)と同様であるので、概説すると、図6(b)に示すように、金型組立体32の内部では、成形素材24が成形温度に加熱されて軟化状態になる。
【0056】
次いで、図6(c)に示すように、上型40を加圧することで、上型40と基材レンズ22で挟まれた成形素材24が押し潰され、成形が進行する。成形素材24は変形しながら、上型40の成形面40aが転写されて成形レンズ124を成形すると同時に、光学薄膜123を介在させた状態で基材レンズ22との境界面で接合する。
【0057】
こうして、金型組立体32を冷却して、成形レンズ124を上型40から離型させれば、図6(d)に示すように、成形レンズ124と基材レンズ22とが接合一体化した複合レンズ44が得られる。
【0058】
図7は、光学薄膜123を介在させた場合と介在させない場合との、波長と透過率との関係を示す図である。
同図で明らかな通り、光学薄膜123を介在させた場合は、略全波長域において透過率が高くなっている。すなわち、光学薄膜123の介在により接合面の反射防止機能が向上している。
【0059】
本実施形態によれば、第1の実施の形態と同様に、複合レンズ44を構成する成形レンズ124は、基材レンズ22と接合させることで、より薄肉にすることができる。これによって、複合レンズ44の薄型化が可能になる。更に、複合レンズ44の接合面に、反射防止機能を有する光学薄膜123を介在させるため、接合境界面での光の反射を低減させることができる。
(第3の実施の形態)
図8(a)〜(d)は、第3の実施形態の複合レンズ及びその製造工程を示している。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0060】
本実施形態では、図8(a)に示すように、平凸形状の基材レンズ22の接合面側に予め多層膜の光学薄膜123を蒸着で付着させた状態で、成形手段により成形レンズ124を成形し、基材レンズ22と成形レンズ124とを接合一体化させたものである。
【0061】
この光学薄膜123は、近赤外線カット、すなわち可視領域は通して赤外領域をカットする光学フィルター機能を有している。なお、光学フィルター機能として、UVカット、帯域選択のフィルターとしても構わない。
【0062】
本実施形態の光学薄膜123は、TiO2とSiO2を交互に15層重ねた多層膜である。
図8(b)〜(d)は、本実施形態の複合レンズ44及びその製造工程を示す。
【0063】
その製造工程は、前述した図4(b)〜(d)と同様であるので、概説すると、図8(b)に示すように、金型組立体32の内部では、成形素材24が成形温度に加熱されて軟化状態になる。
【0064】
次いで、図8(c)に示すように、上型40を加圧することで、上型40と基材レンズ22で挟まれた成形素材24が押し潰され、成形が進行する。成形素材24は変形しながら、上型40の成形面40aが転写されて成形レンズ124を成形すると同時に、光学薄膜123を介在させた状態で基材レンズ22との接合境界面で接合する。
【0065】
こうして、金型組立体32を冷却して、成形レンズ124を上型40から離型させれば、図8(d)に示すように、成形レンズ124と基材レンズ22とが接合一体化した複合レンズ44が得られる。
【0066】
図9は、光学薄膜123を介在させた場合と介在させない場合との、波長と透過率との関係を示す図である。
同図で明らかな通り、光学フィルター機能を実現でき、像面側への不要光の入射が抑止することができる。すなわち、近赤外線領域において透過率が急激に低下する、近赤外線カット機能を有している。
【0067】
本実施形態によれば、複合レンズ44を構成する成形レンズ124は、基材レンズ22と接合させることで、より薄肉にすることができる。また、デジタルカメラの光学系の中で使用されていた光学フィルター素子を削減でき、光学系の小型化、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】複合光学素子の製造に使用される蒸着装置の概要を示す図である。
【図2】成形装置の部分概要を示す図である。
【図3】金型組立体の概要を示す図である。
【図4】(a)〜(d)は、第1の実施形態の複合レンズ及びその製造工程を示す図である。
【図5】光学薄膜を介在させた場合と介在させない場合との、波長と透過率との関係を示す図である。
【図6】(a)〜(d)は、第2の実施形態の複合レンズ及びその製造工程を示す図である。
【図7】光学薄膜を介在させた場合と介在させない場合との、波長と透過率との関係を示す図である。
【図8】(a)〜(d)は、第3の実施形態の複合レンズ及びその製造工程を示す図である。
【図9】光学薄膜を介在させた場合と介在させない場合との、波長と透過率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
10 蒸着装置
12 蒸着器
13 光学式膜厚モニター
14 真空ポンプ
15 ヒータ
16 加熱皿
17 試料台
18 シャッタ
21 開口部
22 基材レンズ
22a 蒸着面
23 蒸着材料
24 成形素材
25 投光部
26 受光部
27 モニターガラス
28 制御装置
30 成形装置
32 金型組立体
33 上側プレート
34 下側プレート
35 加圧装置
36 ヒータ
37 ヒータ
40 上型
40a 成形面
41 下型
41a 成形面
42 スリーブ
44 複合レンズ
123 光学薄膜
124 成形レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材側光学素子、成形側光学素子、及び光学薄膜を備えた複合光学素子において、
前記基材側光学素子は、前記成形側光学素子の軟化温度よりも高く、該成形側光学素子との熱線膨張係数の差が3.0×10-6/℃の範囲内にある光学ガラスから選択され、
前記光学薄膜は、光学的に透明な酸化物、フッ化物、硫化物の化合物のうち少なくとも1つの化合物からなる薄膜で構成され、その融点が前記成形側光学素子の軟化温度よりも高く、
前記基材側光学素子と前記成形側光学素子とは、前記光学薄膜を間に介在させて直接的に接合されている、
ことを特徴とする複合光学素子。
【請求項2】
前記光学薄膜は、1つの化合物からなる単層膜又は複数の化合物からなる多層膜で構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合光学素子。
【請求項3】
前記光学薄膜は、反射防止膜又は波長選択タイプの光学フィルターの機能を有する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合光学素子。
【請求項4】
前記光学薄膜は、Al23、MgO、Nb25、SiO2、Ta25、TiO2、ZrO2、MgF2、Sb23、ZnSの化合物のうち、少なくとも1つの化合物の中から選択される、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合光学素子。
【請求項5】
前記光学薄膜において、前記基材側光学素子あるいは前記成形側光学素子との境界面側にSiO2の膜を介在させた、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合光学素子。
【請求項6】
成形素材を加熱軟化して成形側光学素子を成形し、該成形側光学素子と基材側光学素子とを接合して一体化する複合光学素子の製造方法において、
前記基材側光学素子を、前記成形側光学素子よりも軟化温度が高く、該成形側光学素子との熱線膨張係数の差が3.0×10-6/℃の範囲内にある光学ガラスから選択する工程と、
光学的に透明な酸化物、フッ化物、硫化物の化合物のうち少なくとも1つの化合物からなる薄膜で構成される光学薄膜を、前記基材側光学素子が前記成形側光学素子と接合される前に予め前記基材側光学素子の光学面に成膜する工程と、
前記基材側光学素子と前記成形側光学素子とを、前記光学薄膜を間に介在させて直接的に接合する工程と、を含む、
ことを特徴とする複合光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記光学薄膜は、1つの化合物からなる単層膜又は複数の化合物からなる多層膜で構成されている、
ことを特徴とする請求項6に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記光学薄膜は、蒸着手段によって所定の厚みに成膜される、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記光学薄膜は、Al23、MgO、Nb25、SiO2、Ta25、TiO2、ZrO2、MgF2、Sb23、ZnSの化合物のうち、少なくとも1つの化合物の中から選択される、
ことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記光学薄膜において、前記基材側光学素子あるいは前記成形側光学素子との境界面側にSiO2の膜を介在させた、
ことを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の複合光学素子の製造方法。

【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−83188(P2008−83188A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260766(P2006−260766)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】