説明

複合基板の製造方法及び複合基板

【課題】圧電基板と支持基板とを貼り合わせただけのものに比して温度の変化に対する大きさの変化が少なく弾性波素子に用いられる複合基板を比較的簡単に製造する。
【解決手段】シリコン基板12と、SAWを伝搬可能なLT基板10と、LT基板10と同じ形状の樹脂フィルム18とを用意する。次に、LT基板10に有機接着剤13を塗布しシリコン基板12と貼り合わせると共に樹脂フィルム18をシリコン基板12に重ね合わせた後加熱して貼り合わせ基板16を形成する。続いて、LT基板10の表面を研磨定盤により研磨することによりこのLT基板10の厚みを薄くすると共にその表面を鏡面研磨する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板の製造方法及び複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、支持基板と圧電基板とを貼り合わせた複合基板に、電極を設けて弾性波素子を作製することが知られている。ここで、弾性波素子は、例えば、携帯電話などの通信機器におけるバンドパスフィルタとして使用されている。また、圧電基板として一般的に用いられるニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどは熱膨張係数が比較的大きい。それによって、この圧電基板単体でその表面に電極を設けて弾性波素子の1つである弾性表面波素子を作製すると、電極の設けられた圧電基板の大きさが温度が変化したときに変化し、弾性表面波素子としての周波数特性が変化するという問題がある。そこで、圧電基板にこの圧電基板よりも熱膨張係数の小さな支持基板を貼り合わせて複合基板とし、温度が変化したときの圧電基板の大きさの変化を小さくして、この複合基板を用いて作製した弾性表面波素子の温度変化に対する周波数特性の変化を抑制するということが行われている。例えば、特許文献1に記載の複合基板では、圧電基板と支持基板とを貼り合わせ、更に、支持基板のうち圧電基板に貼り合わせられた面とは逆の面に別の基板(補償基板)を貼り合わせて、温度が変化したときの圧電基板の大きさの変化をより小さくしている。ここで、補償基板の材質としては、銅、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、鋼、ニッケル、アルミニウム、青銅、熱膨張係数の比較的高いセラミック・合金などが挙げられている。また、圧電基板の材質としては、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなどが挙げられている。更に、支持基板の材質としては、シリコン、二酸化ケイ素などが挙げられている。
【特許文献1】米国特許第7,408,286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の複合基板では、支持基板に補償基板を貼り合わせるときには、例えば、接着剤など補償基板とは別の物質を介して貼り合わせたり、別の物質を介さず直接接合する場合でも貼り合わせる前に親水化処理などをしたりするなど手間がかかっていた。また、支持基板に補償基板を貼り合わせる構造を、他の用途(例えば、MEMS)に用いる複合基板に、温度が変化したときの圧電基板の大きさの変化を抑制するため適用した場合でも手間がかかるのは同様である。
【0004】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、圧電基板と支持基板とを貼り合わせただけのものに比して温度の変化に対する大きさの変化が少ない複合基板を比較的簡単に製造することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の複合基板の製造方法は、
(a)支持基板と、該支持基板よりも熱膨張係数が大きな圧電基板と、該支持基板よりも熱膨張係数が大きく加熱することにより前記支持基板に接着する樹脂フィルムとを用意する工程と、
(b)前記支持基板の表面と前記圧電基板の裏面とを有機接着層を介して貼り合わせると共に前記支持基板の裏面に前記樹脂フィルムを加熱して接着させて貼り合わせ基板を形成する工程と、
(c)前記圧電基板の厚みを薄くすると共に該圧電基板の表面を鏡面研磨する工程と、
を含むものである。
【0007】
本発明の複合基板は、
支持基板と、
前記支持基板よりも熱膨張係数が大きな圧電基板と、
前記圧電基板の裏面と前記支持基板の表面とを接着する有機接着層と、
前記支持基板よりも熱膨張係数が大きく前記支持基板の裏面に接着された樹脂フィルムと、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合基板の製造方法によれば、支持基板よりも熱膨張係数の大きい圧電基板及び樹脂フィルムが支持基板を挟んで貼り合わせられている。このため、温度が高くなったときに、圧電基板が支持基板よりも伸びて複合基板を反らせようとする力と、樹脂フィルムが支持基板よりも伸びて複合基板を反らせようとする力とが、互いに打ち消し合う方向に作用する。その結果、圧電基板と支持基板とを貼り合わせるだけの場合に比して、温度変化に対する圧電基板の大きさの変化が小さくなる。また、例えば、樹脂フィルムの代わりに金属板を用いる場合には、例えば、接着剤など金属板とは別の物質を介して貼り合わせたり、別の物質を介さず直接接合する場合でも貼り合わせる前に親水化処理などをしたりする必要があった。これに対して、加熱することにより支持基板に接着する樹脂フィルムを用いる場合には、この樹脂フィルムと支持基板との間に何も設けることなく加熱することによって貼り合わせることが可能である。したがって、複合基板を比較的簡単に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の複合基板の製造方法において、工程(a)では、支持基板と、該支持基板よりも熱膨張係数が大きな圧電基板と、該支持基板よりも熱膨張係数が大きく加熱することにより前記支持基板に接着する樹脂フィルムとを用意する。ここで、圧電基板としては、弾性波(特に、弾性表面波)を伝搬可能な基板が挙げられ、この圧電基板の材質としては、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶などが挙げられる。この伝播基板の大きさは、特に限定するものではないが、例えば、直径が50〜150mm、厚さが250〜500μmである。なお、圧電基板の裏面には、例えば、厚さが0.1〜5μmの金属や二酸化ケイ素の層が設けられていてもよい。支持基板の材質としては、シリコン、サファイア、窒化アルミニウム、アルミナ、ホウ珪酸ガラス、石英ガラスなどが挙げられる。この支持基板の大きさは、特に限定するものではないが、例えば、直径が50〜150mm、厚さが250〜500μmである。樹脂フィルムの材質としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。この樹脂フィルムは、支持基板と同様の形状、大きさに形成してもよい。この樹脂フィルムの厚さは、圧電基板の熱膨張係数を小さくする効果を考慮すると厚い方が好ましいが、最終的に製造された複合基板を用いて作製した圧電素子の大きさとして通常許容される範囲を考慮すると、600μm以下とするのが好ましい。
【0010】
本発明の複合基板の製造方法において、工程(b)では、前記支持基板の表面と前記圧電基板の裏面とを有機接着層を介して貼り合わせると共に前記支持基板の裏面に前記樹脂フィルムを加熱して接着させて貼り合わせ基板を形成する。例えば、支持基板の表面及び圧電基板の裏面の一方又は両方に有機接着剤を均一に塗布し、両者を重ね合わせた状態で有機接着剤を固化させ、樹脂フィルムを支持基板の裏面に重ね合わせた状態とした後加熱して接着することにより貼り合わせ基板を形成する。ここで、例えば、樹脂フィルムの代わりに金属板を用いる場合には、例えば、接着剤など金属板とは別の物質を介して貼り合わせたり、別の物質を介さず直接接合する場合でも貼り合わせる前に親水化処理などをしたりする必要がある。加熱することにより支持基板に接着する樹脂フィルムを用いる場合には、この樹脂フィルムと支持基板との間に何も設けることなく加熱することによって貼り合わせることが可能である。このため、比較的簡単な工程となっている。ここで、有機接着剤を塗布する方法としては、例えば、スピンコートや印刷が挙げられる。有機接着剤としては、エポキシ系接着剤やアクリル系接着剤が挙げられる。ここで、支持基板の表面及び圧電基板の裏面の一方又は両方に有機接着剤を塗布してこの支持基板及び圧電基板を重ね合わせると共に支持基板の裏面に樹脂フィルムを重ね合わせた状態とした後、加熱することによって貼り合わせ基板を形成するものとするのが好ましい。こうすれば、一度だけ加熱することによって、支持基板及び圧電基板の貼り合わせと支持基板及び樹脂フィルムの接着とを同時に行うため、より簡単な工程で製造することができる。また、有機接着層と、樹脂フィルムとは同じ材質からなるものとするのが好ましい。こうすれば、取り扱い方が同じでよいため製造工程においてこれらを管理しやすい。
【0011】
本発明の複合基板の製造方法において、工程(c)では、前記圧電基板の厚みを薄くすると共に該圧電基板の表面を鏡面研磨する。工程(c)で使用する装置としては、一般的な研磨機が挙げられる。例えば、貼り合わせ基板の片面を研磨する研磨機では、まず、プレッシャープレートと研磨定盤との間に研磨対象の貼り合わせ基板を加圧して挟み込み、貼り合わせ基板と研磨定盤との間に研磨砥粒を含むスラリーを供給しながらプレッシャープレートに自転運動を与えることによって、圧電基板を薄くする。続いて、研磨定盤を表面にパッドが貼られたものとすると共に研磨砥粒を番手の高いものへと変更し、プレッシャープレートに自転運動及び公転運動を与えることによって、圧電基板の表面を鏡面研磨する。
【0012】
上述した複合基板の製造方法によって製造された複合基板の具体例の断面を図1に示す。図中、一点鎖線で囲まれた部分は工程(c)で研磨により除去された部分を示す。図1は、支持基板と同じ外径の圧電基板と支持基板とを貼り合わせると共に、支持基板と同じ外径の樹脂フィルムを支持基板の裏面に貼り合わせて貼り合わせ基板を形成し(かっこ内参照)、その後、圧電基板を研磨して得られた複合基板である。なお、図1のかっこ内は工程(b)で得られた貼り合わせ基板を示す。この複合基板は、上述した製造方法で製造されるため、圧電基板と支持基板とを貼り合わせただけの場合に比して温度変化に対する圧電基板の大きさの変化が小さいものであり、且つ、比較的簡単に製造されたものである。
【0013】
本発明の複合基板は、支持基板と、前記支持基板よりも熱膨張係数が大きな圧電基板と、前記圧電基板の裏面と前記支持基板の表面とを接着する有機接着層と、前記支持基板よりも熱膨張係数が大きく前記支持基板の裏面に接着された樹脂フィルムと、を備えたものである。この複合基板は、圧電基板と支持基板とを貼り合わせただけの場合に比して温度変化に対する圧電基板の大きさの変化が小さいものである。また、こうした複合基板は、例えば上述した複合基板の製造方法によって製造することができる。
【実施例】
【0014】
[実施例1]
図2は、本実施例の複合基板の製造プロセスを模式的に示す断面図である。まず、支持基板として、オリエンテーションフラット部(OF部)を有し、直径が100mm、厚さが350μmのシリコン基板12を用意した。また、圧電基板として、OF部を有し、直径が100mm、厚さが250μmのタンタル酸リチウム基板(LT基板)10を用意した。更に、樹脂フィルムとして、形状が圧電基板と同様の形状であり、直径が100mm、厚さが350μm、線膨張係数が40ppm/℃のエポキシ樹脂製の樹脂フィルム18を用意した(図2(a)参照)。LT基板10は、弾性表面波(SAW)の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である36°YカットX伝搬LT基板を用いた。このLT基板10の外径は、シリコン基板12の外径(100mm)と同じ100mmとした。次いで、LT基板10の裏面にスピンコートによりエポキシ系接着剤13を塗布し、シリコン基板12の表面に重ね合わせると共に、シリコン基板12の裏面に樹脂フィルム18を重ね合わせ、この状態で180℃に加熱した。その結果、貼り合わせ基板16を得た。この貼り合わせ基板16は、エポキシ系接着剤13が固化して有機接着層14になると共に、樹脂フィルム18がシリコン基板12に接着したものである(図2(b)参照)。このときの有機接着層14の厚さは0.3μmであった。
【0015】
次いで、研磨機にてLT基板10の厚さが30μmとなるまで研磨した(図2(c)参照)。研磨機としては、以下のように厚みを薄くしたあと鏡面研磨を行うものを用いた。即ち、厚みを薄くするときには、研磨定盤とプレッシャープレートとの間に貼り合わせ基板16を挟み込み、その貼り合わせ基板16と研磨定盤との間に研磨砥粒を含むスラリーを供給し、このプレッシャープレートにより貼り合わせ基板16を定盤面に押し付けながらプレッシャープレートに自転運動を与えて行うものを用いた。続いて、鏡面研磨を行うときには、研磨定盤を表面にパッドが貼られたものとすると共に研磨砥粒を番手の高いものへと変更し、プレッシャープレートに自転運動及び公転運動を与えることによって、圧電基板の表面を鏡面研磨するものを用いた。まず、貼り合わせ基板16のLT基板の表面を定盤面に押し付け、自転運動の回転速度を100rpm、研磨を継続する時間を60分として研磨した。続いて、研磨定盤を表面にパッドが貼られたものとすると共に研磨砥粒を番手の高いものへと変更し、貼り合わせ基板16を定盤面に押し付ける圧力を0.2MPa、自転運動の回転速度を100rpm、公転運動の回転速度を100rpm、研磨を継続する時間を60分として鏡面研磨した。
【0016】
こうして得られた複合基板について、LT基板の中心の表面の熱膨張係数を測定した。具体的には、スペックル歪み法を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0017】
[実施例2〜5]
樹脂フィルム18の厚さを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして複合基板を作製した。作製した複合基板につき実施例1と同様にして測定したLT基板の中心の表面の熱膨張係数の測定結果を表1に示す。表1から明らかなように、樹脂フィルム18の厚さが大きい方が、LT基板の中心の表面の熱膨張係数が小さい即ち温度変化に対するLT基板の大きさの変化が小さいことが分かった。
【0018】
【表1】

【0019】
[比較例1]
樹脂フィルム18をシリコン基板12の裏面に接着しなかった以外は、実施例1と同様にして複合基板を作製した。作製した複合基板につき実施例1と同様にして測定したLT基板の中心の表面の熱膨張係数は、8ppm/℃であった。
【0020】
実施例1〜5及び比較例1の結果から、樹脂フィルム18をシリコン基板12に接着すると、この樹脂フィルム18をシリコン基板12に接着しない場合に比して、熱膨張係数を小さくできることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の複合基板の製造方法で製造した複合基板の断面図である。
【図2】複合基板の製造プロセスを模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 タンタル酸リチウム基板(LT基板)、12 シリコン基板、13 有機接着剤、14 有機接着層、16 貼り合わせ基板、18 樹脂フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)支持基板と、該支持基板よりも熱膨張係数が大きな圧電基板と、該支持基板よりも熱膨張係数が大きく加熱することにより前記支持基板に接着する樹脂フィルムとを用意する工程と、
(b)前記支持基板の表面と前記圧電基板の裏面とを有機接着層を介して貼り合わせると共に前記支持基板の裏面に前記樹脂フィルムを加熱して接着させて貼り合わせ基板を形成する工程と、
(c)前記圧電基板の厚みを薄くすると共に該圧電基板の表面を鏡面研磨する工程と、
を含む複合基板の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)では、前記支持基板の表面及び前記圧電基板の裏面の一方又は両方に有機接着剤を塗布して該支持基板及び該圧電基板を重ね合わせると共に前記支持基板の裏面に前記樹脂フィルムを重ね合わせた状態とした後加熱する、
請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項3】
前記有機接着層と、前記樹脂フィルムとは同じ材質からなる、
請求項1又は2に記載の複合基板の製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)では、弾性表面波を伝搬可能な圧電基板を用意する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合基板の製造方法。
【請求項5】
前記圧電基板は、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム及びニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶からなる群より選ばれた材質からなり、
前記支持基板は、シリコン、サファイア、窒化アルミニウム、アルミナ、ホウ珪酸ガラス及び石英ガラスからなる群より選ばれた材質からなる、
請求項4に記載の複合基板の製造方法。
【請求項6】
支持基板と、
前記支持基板よりも熱膨張係数が大きな圧電基板と、
前記圧電基板の裏面と前記支持基板の表面とを接着する有機接着層と、
前記支持基板よりも熱膨張係数が大きく前記支持基板の裏面に接着された樹脂フィルムと、
を備えた複合基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−153962(P2010−153962A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326880(P2008−326880)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】