説明

複合容器の製造方法及び複合容器の製造装置

【課題】所望の形状および強度を有する複合容器の製造方法及び複合容器の製造装置を提供する。
【解決手段】本製法は、トウプリプレグ20をライナ5に巻き付けて繊維層を形成し(ステップS4)、ライナ5の内部から加熱して、ライナ5に巻き付けられた繊維の樹脂の粘度を、ライナ5に巻き付ける前の粘度よりも低下させ(ステップS5)、粘度を低下させた後、ライナ5の内部から加熱して、繊維層の樹脂をライナ5の表面に近い側から離れる側に向けて徐々に硬化させる(ステップS6)。粘度が低下した樹脂は、繊維間に浸透しやすくなるので繊維間に空隙されず、繊維どうしの密着性が向上する。また、本製造方法は、硬化した繊維上に樹脂を巻き付けていくことができるので繊維間での滑りを抑制できる。また、本製造方法は、ライナ5の内部から加熱するため、複合容器の内側部分の樹脂も十分に硬化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧の気体あるいは液体を収納する複合容器の製造方法及び複合容器の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維等を強化材とし、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等をマトリックス樹脂とした複合材料は、スポーツ用品、自動車部品を始め広く使用されている。
【0003】
複合材料の製造方法には、繊維強化材に未硬化のマトリックス樹脂を含浸させてプリプレグとし、該プリプレグを成形硬化させる方法が広く採用されている。一方で、FWによる中空物の成形方法、いわゆるFW法も複合材料の製造方法として多く採用されている。
【0004】
FW(フィラメントワインディング)法には、あらかじめ熱硬化性樹脂マトリックスを含浸したストランドプリプレグを用意し、これをマンドレルに巻き付けて成形する方法(Dry FW法)、とストランドに低粘度樹脂を含浸させながら、マンドレルに巻き付けて成形する方法(Wet FW法)とがあることは広く知られている。更にこのWet FW法は、ストランドに低粘度樹脂を含浸させる方法の種類によって、キスタッチ法、浸漬法その他の方法に分類されている。
【0005】
FW成形における現在の主流は、液状の樹脂を用いる、レジンバス法等のいわゆるWet法である。図1にWet法に用いられるレジンバスを有するタンクの製造装置の一例の模式的な概念図を示す。
【0006】
図1に示す製造装置は、炭素繊維等のトウを巻廻した供給ロール101と、樹脂102を収納したレジンバス103と、レジンバス103内に回転可能に設けられた回転ロール104と、樹脂を含浸させたトウを巻き取り、タンクを成形するライナ105とを有する。
【0007】
複数の供給ロール101から供給されたトウはレジンバス103内へと案内される。レジンバス103内の炭素繊維は回転ロール104の周縁を案内されながら樹脂が含浸される。樹脂含有量調ロール106によって余剰の樹脂が搾り取られ、樹脂含有量の調整がなされる。樹脂含有量の調整がなされたトウは、巻付張力調整部107により、巻き付け時の張力が調整されながらライナ105に巻き付けられる。
【0008】
レジンバス法は、トウをレジンバス103内に通過させて樹脂含浸させた後、樹脂含有量調ロール106によって余剰の樹脂を搾り取り樹脂含有量を調整する際、トウとの摩擦が生じ、糸切れ、毛羽立ち等を伴うトウの損傷が生じる。また樹脂を搾り取ることによって樹脂含有量を調整するため、樹脂含有量を高精度で調整するのが困難である。
【0009】
また、レジンバス法は、レジンバス103内に直接トウを通過させるので、レジンバス103内が毛羽等で汚損してしまう問題がある。
【0010】
さらに、レジンバス103内に収納されている樹脂は、例えば、0.1Pa・S程度の低粘度のものである。このような低粘度の樹脂内で回転ロール104を高速回転させると樹脂が飛散してしまうため、回転ロール104の回転速度は制限を受けてしまう。また、低粘度の樹脂を用いることから、ライナ105に巻き付けられたトウが滑りやすい状態にある。このため、Wet法は、成形品の形状を所望の形状にすべく、装置を一旦停止して樹脂を固め、固化されたら再度装置を駆動する、といった制御を繰り返す必要がある。これらが原因でWet法は生産性を向上させるのが困難となる。
【0011】
また、レジンバス法では、反応性の高い樹脂を用いることが多く、このため室温で徐々に硬化反応が進行し、ワインディング中に樹脂粘度が増加する傾向がある。このような粘度変化は樹脂のピックアップ量に影響するため、結果として樹脂含量の均一性が損なわれることになる。
【0012】
このように、レジンバス法により製造された成型品は、繊維と樹脂との重量比を精度良く一定にすることが困難であることによる品質安定性の低さ、またトウの摩擦による損傷を防ぐために生産速度が低いことによる製造コストの高さ等の問題がある。
【0013】
そこで、予め樹脂が含浸されたトウプリプレグを用いてFWを行う、いわゆるDry法が用いられることがある。図2にトウプリプレグを用いたタンクの製造装置の一例の模式的な概念図を示す。ここで、「トウプリプレグ」とは、繊維束に樹脂を含浸し、半硬化状態としたものを意味する。
【0014】
図2に示す製造装置は、トウプリプレグを巻廻した供給ロール201と、巻付張力調整部207と、タンクを成形するライナ205とを有する。なお、トウプリプレグの製造法としては、例えば、特許文献1において、ノズルを介してマトリックス樹脂を一定の供給量でトウに供給し、かつ該ノズルを通過するトウを一定速度に制御することにより、トウへの樹脂含浸量の均一性を実現しうる製造法が提案されている。
【0015】
供給ロール201から供給されたトウプリプレグは、すでに樹脂が含浸されているため、レジンバスを通過することなく、巻付張力調整部207により、巻き付け時の張力が調整されながらライナ205に巻き付けられる。ライナ205へのトウプリプレグの巻き付け時に、ライナ205外部からトウプリプレグを加熱することでトウプリプレグを硬化させる。なお、トウプリプレグに含浸されている樹脂の粘度は供給ロール201部分で5〜100Pa・S程度であり、ライナ205に巻き付ける時点で10Pa・S程度となっており、Wet法のトウに比べ粘度が高い。
【0016】
トウプリプレグを用いたDry法によれば、Wet法の問題点が解消される。すなわち、本方法によれば、含有樹脂量の高精度化が可能であり、樹脂を絞り取る際に生じる糸切れ、毛羽立ち等を伴うトウの損傷を生じることもない。また、レジンバスを用いないので、レジンバスの汚損、樹脂の粘度に起因する生産性向上の制限もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006−300194号公報
【特許文献2】WO2004/070258
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、トウプリプレグを用いたDry法によりタンクを製造する場合、比較的樹脂粘度が高いことからFW時に繊維が浸透しにくい、という問題があった。
【0019】
また、Dry法においては、樹脂の粘度がWet法に比べ高いため、樹脂が繊維間に浸透しにくい。そのため、繊維間の密着性が低く、タンクの強度を確保するのが困難となる場合があった。また、トウプリプレグは、樹脂が半硬化状態のため、積層されたトウプリプレグ間には樹脂が未硬化の場合より空隙(ボイド)が生じ易い。
【0020】
また、外側からのみの加熱では、巻き付け後、内側の繊維が室温に戻ってしまう。温度が低下することで内側を十分に固化しにくいため、タンクの強度を確保するのが困難となる場合があった。
【0021】
さらに、外側からのみ加熱するDry法においては、繊維の巻量が多くなると、内側に巻かれた樹脂が硬化する前に繊維が重ねて巻かれてしまうことになる。そのため、繊維間で滑りを生じてしまい、所望の形状のタンクを形成するのが困難となる場合があった。
【0022】
そこで、本発明は、所望の形状および強度を有する複合容器の製造方法及び複合容器の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
そこで上記目的を達成するため、本発明の複合容器の製造方法は、熱硬化性の樹脂が予め含浸された繊維をライナに巻き付けて繊維層を形成する工程と、ライナの内部から加熱することで、ライナに巻き付けられた繊維の樹脂の粘度を、ライナに巻き付ける前の粘度よりも低下させる工程と、粘度を低下させた後、ライナの内部から加熱することで、繊維層の樹脂をライナの表面に近い側から離れる側に向けて徐々に硬化させる工程と、を含むものとしている。
【0024】
上記のとおり、本発明の複合容器の製造方法は、ライナの内部から加熱するため、ライナに巻き付けられた繊維の樹脂の粘度をライナに巻き付ける前の粘度よりも低下させている。粘度が低下した樹脂は、繊維間に樹脂が浸透しやすくなるので繊維間に空隙されず、繊維どうしの密着性が向上し、その結果、複合容器としての強度を高めることができる。
【0025】
また、本発明の複合容器の製造方法は、ライナの内部から加熱するため、繊維層をライナの表面に近い側から離れる側に向けて樹脂を徐々に硬化させることができる。このため、硬化した繊維の上に樹脂を巻き付けていくことができるので繊維間における滑りを抑制できることとなり、その結果、複合容器を所望の形状に形成することができる。また、本製造方法は、ライナの内部から加熱するため、複合容器の内側部分の樹脂も十分に硬化することができるので、複合容器としての強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、所望の形状および強度を有する複合容器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】Wet法に用いられるレジンバスを有するタンクの製造装置の一例の模式的な概念図である。
【図2】トウプリプレグを用いたタンクの製造装置の一例の模式的な概念図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る複合容器の製造装置の模式的概念図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る複合容器の製造方法の製造フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図3に、本実施形態にかかる複合容器の製造方法に用いられる製造装置を説明するための概略図である。なお、以下の説明において「繊維層の内側」とは、ライナ5に巻き付けられて形成されたトウプリプレグ20の層のうち、ライナ5に近い側の層を意味する。
【0029】
本実施形態の製造装置10は、供給部1と、巻付張力調整部2と、速度センサプーリ3、デリバリーアイ4と、ライナ5と、駆動装置6と、外部加熱装置7と、内部加熱装置8と、制御部9とを有する。
【0030】
供給部1は、トウプリプレグ20を供給する装置であり、トウプリプレグ20が巻廻された複数の供給ロール11を有する。供給ロール11に巻廻されたトウプリプレグ20は5Pa・S〜100Pa・S、好ましくは7Pa・S〜50Pa・Sの粘度を維持した状態で保持されている。供給部1からのトウプリプレグ20の供給速度は制御部9により制御される。なお、本実施形態における供給部1は、すでに製造されたトウプリプレグが供給ロール11に巻廻された状態で供給される方式を例に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、供給部1において、トウに樹脂供給してトウプリプレグを製造し、この製造されたトウプリプレグを供給する方式を採用するものであってもよい。
【0031】
巻付張力調整部2及び速度センサプーリ3は供給部1とライナ5との間に配置されている。巻付張力調整部2は、ライナ5に巻き付けるトウプリプレグ20に所要の巻付張力を付与することができるように構成されており、制御部9によって付与する巻付張力が制御される。速度センサプーリ3は、トウプリプレグ20の線速度を感知する速度センサである。速度センサプーリ3で検出されたトウプリプレグ20の線速度は、不図示の信号送信器から制御部9に送信される。制御部9は、信号送信器からの信号に基づき、供給部1からのトウプリプレグ20の供給速度を制御する。すなわち、トウプリプレグ20の線速度は、速度センサプーリ3により常時測定され、リアルタイムで信号送信器から制御部9にフィードバックされるため、例えば、デリバリーアイ4の折り返し時に速度が低下した際も、あるいは、巻き始めから巻き終わりまでにおけるワインディング成形体の径が変化した場合でも、樹脂供給量が制御され、トウに対する樹脂含浸量は終始一定に制御されてFW成形が実施される。
【0032】
デリバリーアイ4は、供給部1から供給されたトウプリプレグ20を集束させ、FWでライナ5に巻きつける装置であり、ライナ5の軸方向と平行な方向に往復移動可能に設けられている。トウプリプレグ20の配向角度は、ライナ5の回転速度とデリバリーアイ4の移動速度の比により決定される。デリバリーアイ4の移動速度は制御部9により制御される。
【0033】
ライナ5は、金属製の中空円筒部材であり、駆動装置6により回転駆動される。デリバリーアイ4を通過してきたトウプリプレグ20はライナ5の外周面にFWで巻廻される。ライナ5を回転駆動する駆動装置6の制御は制御部9によりなされる。
【0034】
外部加熱装置7は、ライナ5の外周面に巻廻されたトウプリプレグ20を加熱するヒータである。外部加熱装置7の温度制御は、制御部9によりなされる。
【0035】
内部加熱装置8は、ヒータ8aと、流体供給部8bとを有し、配管8cを介してライナ5に接続されている。内部加熱装置8はヒータ8aにより流体を加熱し、加熱された流体を流体供給部8bにより配管8cを介してライナ5内に供給することでライナ5の内側からトウプリプレグ20を加熱するための装置である。配管8cは、ライナ5の両端部5aに接続されており、内部加熱装置8からライナ5に供給された流体が再び内部加熱装置8に戻されるように循環経路を構成している。本実施形態では、加熱用の流体として空気が用いられている。加熱用の流体として空気を用いることで、回転駆動されるライナ5と配管8cとの接続部分のシール構造を、加熱用の流体として液体や空気以外の他の気体を用いた場合に比べ、簡素化することが可能である。もっとも、本発明は、加熱用の流体として液体や空気以外の他の気体を適用を排除するものではない。ヒータ8aとしては、例えば電熱ヒータ等を用いることができ、流体供給部8bとしては、例えばポンプ、ファン等を用いることができる。
【0036】
ライナ5内の流体温度は温度センサ8dにより検知される。温度センサ8dで検知した流体温度は制御部9に送信される。制御部9は、温度センサ8dから送信されてきた信号に基づき、流体温度が所定の温度となるようヒータ8aを制御する。本実施形態においては、流体温度は、約40℃〜130℃の温度範囲内で制御されるが、本発明における温度制御範囲はこれに限定されるものではなく、適用されるトウプリプレグ20の特性に応じて適宜変更されるものであってもよい。
【0037】
また、本実施形態では、温度制御をヒータ8aの制御により行うものとして説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、流体供給部8bによる流体の供給量により制御するものであってもよいし、あるいは配管8cの途中に不図示の弁を設け、この弁の開度を調整することにより行うものであってもよい。これら流体供給部8b及び弁の開度の制御も温度センサ8dから送信されてきた信号に基づき制御部9により行われる。
【0038】
制御部9は、上述したように、供給部1、巻付張力調整部2、デリバリーアイ4、ライナ5、外部加熱装置7及び内部加熱装置8等を駆動制御する。
【0039】
本実施形態に適用可能なトウプリプレグ20の強化繊維は特に限定されず、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、アラミド繊維等が具体的に挙げられ、特に炭素繊維が好ましく用いられる。更に好ましくは、樹脂が含浸し難い、繊維径が6μm以下でかつ繊度が800g/km以上の炭素繊維が挙げられる。また、トウに含浸される樹脂も特に限定されず、例えば、熱硬化性の樹脂、特にエポキシ樹脂が取り扱い易いので好ましく挙げられる。エポキシ樹脂としては、潜在型硬化剤を用いた一液型のエポキシ樹脂でもよいが、より低粘度の2液型エポキシ樹脂をスタティックミキサにより混合しながら用いることが好ましい。スタティックミキサの使用により、従来のWet法FWにおける問題点の1つであった、ワインディング中に樹脂が徐々に反応して粘度が上昇し、従って樹脂含浸量が増加してしまうという問題が解決できる。
【0040】
次に、図4を用いて本実施形態にかかる複合容器の製造方法について説明する。図4は、本実施形態の製造方法の製造フローを示す図である。
【0041】
まず、制御部9は、内部加熱装置8により温風をライナ5内へと供給し、ライナ5を所定の温度にまで昇温させておく(ステップS1)。なお、本実施形態の場合、ライナ5は、30℃〜220℃の範囲内で温度制御がなされる。
【0042】
次に、供給部1は、5Pa・S〜100Pa・S、好ましくは7Pa・S〜50Pa・Sの粘度のトウプリプレグ20を巻付張力調整部2へと供給する(ステップS2)。続いて、トウプリプレグ20は巻付張力調整部2により張力を調整されながらデリバリーアイ4へと供給されることで集束される(ステップS3)。さらに、トウプリプレグ20は、デリバリーアイ4でライナ5の軸方向と平行な方向に往復移動させられつつ、回転駆動されているライナ5へと巻き付けられる(ステップS4)。
【0043】
制御部9は、ライナ5へと巻き付けられたトウプリプレグ20の樹脂を、ライナ5を内部から加熱することで低粘度化させるべく、内部加熱装置8を温度制御する(ステップS5)。例えば、加熱温度の制御については、熱画像センサを用いて、外表面温度を測定し、ヒータ8aを制御する。なお、このときのライナ5内の温度は30℃以上100℃以下に設定しておく。
【0044】
樹脂は、低粘度化されることで流動性が高い状態となるが、特に本実施形態の場合、内部加熱装置8によりライナ5の内側から加熱しているため、巻き付けが進行することでライナ5上に形成された繊維層の内側部分の樹脂についても流動性の高い状態を維持することができる。流動性が高くなったトウプリプレグ20の樹脂は、トウプリプレグ20間に浸透しやすい状態となり、トウプリプレグ20間の気泡が除去されるとともにトウプリプレグ20どうしの密着性が高められる。
【0045】
巻き付けが進行することでライナ5上に繊維層が形成されていくと、制御部9は、ライナ5に巻き付けられたトウプリプレグ20の樹脂を硬化させるべく、内部加熱装置8を温度制御する(ステップS6)。本実施形態の場合、ライナの容量と樹脂の粘度によってライナ5内の温度を30℃〜220℃の範囲内、好ましくは60℃以上220℃以下となるように設定しておく。
【0046】
本実施形態の製造方法は、ライナ5の内部を温風で加熱することで繊維層の内側から徐々に熱を加えるため、トウプリプレグ20の繊維層の内側から外側に向けて(ライナ5に近い側から離れていく側に向けて)徐々に樹脂を硬化させていくことができる。繊維層の内側部分から樹脂を確実に硬化させることで、巻量が多くなったときのトウプリプレグ20間における滑りが抑制され、複合容器を所望の形状に成形することができる。また、本製造方法は、ライナ5の内部から繊維層を加熱するため、複合容器の内側部分の樹脂も十分に硬化することができるので、複合容器としての強度を高めることができる。
【0047】
以上、本実施形態の製造方法によれば、トウプリプレグ20間の密着性が極めて高く、かつ容器内側部分の樹脂も十分に硬化されているため高耐圧性を有するとともに、繊維の滑りを抑制しつつ成形されているため所望の形状に成形された複合容器を製造することができる。
【実施例1】
【0048】
本実施例では、以下の条件において、本発明の複合容器の製造方法により円筒管を製造し、その破裂強度を測定した。
【0049】
トウに含浸させる樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂80重量部、ビスフェノールF型エポキシ樹脂20重量部にジシアンジアミド(DICY)18重量部および3−(3、4−ジクロロフェニル)−1、1−ジメチルウレア(DCMU)9重量部を混合した樹脂組成物を用いた。この樹脂組成物の粘度は25℃で7Pa・s、80℃で0.1Pa・sであった。この樹脂組成物を東レ社製炭素繊維T800SCの24000フィラメントに含浸し、ボビンに巻き取り、樹脂含有率29%のトウプリプレグとした。
【0050】
上述のトウプリプレグを中央部分の外径99mm、内径95mmのアルミ製円筒管にフィラメントワインディング(FW)した。なお、FW条件は、回転数200rpm、張力50Nのヘリカル巻、内部加熱温度は80℃とした。樹脂硬化のため、FW終了後、内部加熱温度を130℃とし、2時間保持した後、放冷した。
【0051】
以上のようにして作製した円筒管の破裂強度を測定したところ、その破裂圧力は120MPaであった。
【実施例2】
【0052】
本実施例では、以下の条件において、本発明の複合容器の製造方法により円筒管を製造し、その破裂強度を測定した。
【0053】
トウに含浸させる樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂80重量部、フェノールノボラック型エポキシ樹脂20重量部にジシアンジアミド(DICY)18重量部およびDCMU9重量部を混合した樹脂組成物を用いた。この樹脂組成物の粘度は25℃で50Pa・s、80℃で0.2Pa・sであった。この樹脂組成物を東レ社製炭素繊維T800SCの24000フィラメントに含浸し、ボビンに巻き取り、樹脂含有率28%のトウプリプレグとした。
【0054】
上述のトウプリプレグを中央部分の外径99mm、内径95mmのアルミ製円筒管にフィラメントワインディング(FW)した。なお、FW条件は、回転数200rpm、張力50Nのヘリカル巻、内部加熱温度は80℃とした。また、FWの際に、あらかじめトウプリプレグのボビンを赤外線ランプで約40℃に保温し、巻き付け時の瞬間的な温度変化を和らげた。樹脂硬化のため、FW終了後、内部加熱温度を130℃とし、2時間保持した後、放冷した。
【0055】
以上のようにして作製した円筒管の破裂強度を測定したところ、その破裂圧力は125MPaであった。
【実施例3】
【0056】
本実施例では、以下の条件において、本発明の複合容器の製造方法により円筒管を製造し、その破裂強度を測定した。
【0057】
本実施例では、新日本石油株式会社製トウプリプレグT800S−24−RC27−SY2を中央部分の外径99mm、内径95mmのアルミ製円筒管にフィラメントワインディング(FW)した。なお、FW条件は、回転数200rpm、張力50Nのヘリカル巻、内部加熱温度は80℃とした。樹脂硬化のため、FW終了後、内部加熱温度を130℃とし、2時間保持した後、放冷した。
【0058】
以上のようにして作製した円筒管の破裂強度を測定したところ、その破裂圧力は129MPaであった。
【比較例1】
【0059】
本比較例では、以下の条件において、内部加熱を行わずに円筒管を製造し、その破裂強度を測定した。
【0060】
本比較例では、実施例1と同じトウプリプレグを使用し、温度条件以外は同じ条件で円筒管にFWを行った。なお、本比較例では、内部加熱は行わず、室温でFWを行い、樹脂硬化のため、FW終了後、内部加熱温度を130℃とし、2時間保持した後、放冷した。
【0061】
以上のようにして作製した円筒管の破裂強度を測定したところ、その破裂圧力は100MPaであった。
【比較例2】
【0062】
本比較例では、以下の条件において、WET法により円筒管を製造し、その破裂強度を測定した。
【0063】
本比較例では、市販の希釈タイプエポキシ樹脂(商品名:エピコート801P、ジャパン エポキシ レジン(株)製)100重量部および市販イミダゾール系硬化剤(商品名:EMI24、ジャパン エポキシ レジン(株)製)4重量部を混合した樹脂組成物を用いた。この樹脂組成物の粘度は25℃で1Pa・s、80℃で0.02Pa・sであった。なお、本比較例では、この樹脂組成物をWET用樹脂として使用した。東レ社製炭素繊維T800SCの24000フィラメントをFWする工程内で、この樹脂組成物に含浸させ、実施例1と同じ条件(張力50Nのヘリカル巻、内部加熱温度は80℃)でFWし、樹脂硬化のため、FW終了後、内部加熱温度を80℃とし、2時間保持した後、放冷した。但し、樹脂が飛散するため回転数は60rpmとした。
【0064】
以上のようにして作製した円筒管の破裂強度を測定したところ、その破裂圧力は110MPaであった。
【符号の説明】
【0065】
1 供給部
2 巻付張力調整部
3 速度センサプーリ
4 デリバリーアイ
5 ライナ
5a 両端部
6 駆動装置
7 外部加熱装置
8 内部加熱装置
8a ヒータ
8b 流体供給部
8d 温度センサ
8c 配管
9 制御部
10 製造装置
11 供給ロール
20 トウプリプレグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性の樹脂が予め含浸された繊維をライナに巻き付けて繊維層を形成する工程と、
前記ライナの内部から加熱することで、前記ライナに巻き付けられた前記繊維の前記樹脂の粘度を、前記ライナに巻き付ける前の粘度よりも低下させる工程と、
前記粘度を低下させた後、前記ライナの内部から加熱することで、前記繊維層の樹脂を前記ライナの表面に近い側から離れる側に向けて徐々に硬化させる工程と、を含む複合容器の製造方法。
【請求項2】
前記ライナに巻き付ける前の粘度よりも低下させる工程における前記ライナ内の温度は30℃以上100℃以下であり、
前記樹脂を硬化させていく工程における前記ライナ内の温度は、60℃以上220℃以下である、請求項1に記載の複合容器の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化性の樹脂が予め含浸された繊維はトウプリプレグである、請求項1または2に記載の複合容器の製造方法。
【請求項4】
前記ライナの内部に加熱された流体を供給する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複合容器の製造方法。
【請求項5】
熱硬化性の樹脂が予め含浸された繊維を供給する供給部と、
前記供給部から供給された前記繊維を巻き取り、外周面に繊維層を形成させるライナと、
前記ライナの内部を加熱する内部加熱部と、
前記ライナに巻き付けられた前記繊維の前記樹脂の粘度を、前記ライナに巻き付ける前の粘度よりも低下させ、かつ前記粘度を低下させた後、前記繊維層を前記ライナの表面に近い側から前記樹脂を硬化させるように、前記内部加熱部の温度制御を行う制御部と、を有する複合容器の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−221401(P2010−221401A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67786(P2009−67786)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「低コスト型70MPa級水素ガス充填対応大型複合蓄圧器の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】