説明

複合微多孔膜の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法

【課題】微多孔膜の高い破膜温度を維持することが可能であり、しかも生産効率を十分に優れたものとできる複合微多孔膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】第1の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含み、第1の熱可塑性樹脂と可塑剤との合計質量に対する可塑剤の含有割合が20〜80質量%である原反シートと、第2の熱可塑性樹脂を主成分として含む不透気性フィルムとの積層体を延伸し延伸複合フィルムを得る工程と、延伸複合フィルムから可塑剤を抽出する工程とを有する、複合微多孔膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合微多孔膜の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの小型機器用電源として用いられている。この電池に備えられるセパレータには、イオン透過性に優れることが要求される。また、電池の安全性を確保するために、電池が130〜150℃程度まで過熱された際にシャットダウンできることもセパレータに要求される。ここで、「シャットダウン」とは、電池内の温度が上昇した際に、微多孔膜を構成するポリマーの溶融によってその連通孔が閉塞し、膜の電気抵抗が増大してリチウムイオンの流れが遮断される現象である。これらの要求を満足するために、セパレータにはポリエチレンを主成分とする微多孔膜(以下、単に「ポリエチレン製微多孔膜」という。)が主に採用されている。電池用セパレータは、上記シャットダウンの発生する温度(「シャットダウン温度」という。)ができるだけ低いという特性を有することが望ましい。
【0003】
また、リチウムイオン電池は電気自動車、小型バイクなどへの応用も図られている。これらの用途に用いられるリチウムイオン電池は、大型かつ高エネルギー容量となるため、更に高い安全性が必要となってくる。それに伴い、例えば電池の異常発熱を想定した高温時にも安全性を確保し、かつ各種特性を維持することができるリチウムイオン電池用セパレータが求められている。
【0004】
しかしながら、ポリエチレンはその結晶が融解すると機械的強度が低下する傾向にある。そのため、ポリエチレン製微多孔膜を電池用セパレータとして用いると、電池内の温度がシャットダウン温度よりも更に上昇した場合、膜形状を維持できなくなり破膜する場合がある(この時の温度を「破膜温度」という)。その結果、電池の電極間でショートが発生する場合がある(この時の温度を「ショート温度」という)。したがって、当該セパレータは、いかにショート温度を高くして、シャットダウン後も形状を維持し、電極間の絶縁を保持できるかが課題となる。言い換えれば、当該セパレータを構成する微多孔膜の破膜温度をいかに高くするかが課題となる。従来、リチウム電池用セパレータの高温時の膜強度を向上させる試みとして、ポリエチレン製微多孔膜をポリプロピレンを主成分とする微多孔膜と積層する試みが多数行われている。このような背景から、最近では微多孔膜の積層体の需要が高まっており、種々の積層体が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1では、延伸法により多孔化された、電池用セパレータに使用される特定の積層多孔質フィルムが提案されている。この文献における多孔質フィルム、すなわち微多孔膜は、融点の異なる熱可塑性樹脂をそれぞれ別々に押し出してラミネートしたものを延伸多孔化する方法で製造される。あるいは、この微多孔膜は、融点の異なる熱可塑性樹脂をそれぞれ別々に押し出して延伸法により多孔化した後、ラミネートする方法、又は、融点の異なる熱可塑性樹脂を共押出したものを延伸法により多孔化する方法で製造される。また、特許文献2では無孔前駆体フィルムをポリマー組成物でコーティングする工程と、コーティングされた無孔前駆体を特定の方法で延伸する工程とを含む複合微多孔膜の製法が提案されている。
【0006】
一方、特許文献3、4では特定のポリオレフィン不透気性フィルムを、熱処理を行って微多孔化する高分子量ポリオレフィン微多孔フィルムの製造方法が提案されている。この方法は、特定の液体中で不透気性フィルムのポリオレフィンの非晶部分を選択的に溶融もしくは溶解後、結晶として残存する葉脈状をなすフィブリルの各繊維上に、該溶融もしくは溶解したポリオレフィンを晶析させ、凝集した微結晶とする熱処理を行うことにより微多孔膜を作製する方法である。
【特許文献1】特開平11−123799号公報
【特許文献2】特開2005−254814号公報
【特許文献3】特開平10−306168号公報
【特許文献4】特開平11−302436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の微多孔膜は縦延伸による調整が必要であり、延伸倍率が低くなるため、高い生産性を達成することは困難である。また、特許文献2記載の方法では無孔前駆体フィルムをコーティングする煩雑な工程が必要であり、しかも特許文献1に記載のものと同様に縦方向のみにしか延伸せず、高倍率に延伸しようとすると膜が破断してしまう。このように特許文献2記載の製法も、生産効率が十分ではないという問題が予想される。
【0008】
さらに特許文献3、4記載の方法では、液体中で不透気性フィルムの熱処理を行う工程が必須となるため、製造工程が複雑になり、高い生産効率を達成することが困難となる。また、これらの文献に記載の不透気性フィルムは極限粘度〔η〕を4dl/g以上、もしくは〔η〕を2.5dl/g以上かつMw/Mnを10以下に限定される上、面配向されるものである。そして、上記不透気性フィルムに代えて、より低粘度の不透気性フィルムを採用してこれらの文献記載の方法を実施した場合、液体中で熱処理を行う際に不透気性フィルムが溶解してしまうことも懸念される。その結果、これらの文献記載の方法で微多孔膜を作製できる不透気性フィルムが限定されてしまうという問題が予想される。
【0009】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、微多孔膜の高い破膜温度を維持することが可能であり、しかも生産効率を十分に優れたものとできる複合微多孔膜の製造方法及びリチウムイオン電池の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、熱可塑性樹脂と所定量の可塑剤とを含む原反シートと不透気性フィルムとの積層体から、延伸する工程及び可塑剤を抽出する工程を経て得られる複合微多孔膜が上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)第1の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含み、第1の熱可塑性樹脂と可塑剤との合計質量に対する可塑剤の含有割合が20〜80質量%である原反シートと、第2の熱可塑性樹脂を主成分として含む不透気性フィルムとの積層体を延伸し延伸複合フィルムを得る工程と、延伸複合フィルムから可塑剤を抽出する工程とを有する、複合微多孔膜の製造方法。
(2)第1の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む原反シートと、第2の熱可塑性樹脂を主成分として含む不透気性フィルムとを積層して不透気性フィルムの膜厚及び/又は機械的強度を可塑剤により不均一化した積層体を延伸し延伸複合フィルムを得る工程と、延伸複合フィルムから可塑剤を抽出する工程とを有する、複合微多孔膜の製造方法。
(3)不透気性フィルムがポリプロピレンフィルムである、上記(1)又は(2)の複合微多孔膜の製造方法。
(4)積層体を延伸する際の延伸温度が90℃以上である、上記(1)〜(3)のいずれか一つの複合微多孔膜の製造方法。
(5)積層体を延伸する際の延伸面倍率が10倍以上である、上記(1)〜(4)のいずれか一つの複合微多孔膜の製造方法。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一つの複合微多孔膜の製造方法により得られた複合微多孔膜をセパレータとして組み込む工程を有する、リチウムイオン電池の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微多孔膜の高い破膜温度を維持することが可能であり、しかも生産効率に十分優れた複合微多孔膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の複合微多孔膜の製造方法は、第1の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む原反シートと、第2の熱可塑性樹脂を主成分として含む不透気性フィルムとの積層体を延伸し延伸複合フィルムを得る工程(以下、「延伸工程」という。)と、延伸複合フィルムから可塑剤を抽出する工程(以下、「可塑剤抽出工程」という。)とを有する。本実施形態の複合微多孔膜の製造方法は、上記延伸工程よりも前に、上述の原反シートを作製する工程(以下、「原反シート作製工程」という。)を有していてもよく、原反シートと不透気性フィルムとを積層する工程(以下、「積層工程」という。)を有していてもよい。以下、各工程について順次説明する。
【0015】
(A)原反シート作製工程
本実施形態において「原反シート」は、第1の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含むシートである。原反シート作製工程はこの原反シートを作製する工程であれば特に限定されない。原反シート作製工程において、第1の熱可塑性樹脂及び可塑剤の混合物を溶融混練して得られた混練物をシート状に成形して原反シートを得ると好ましい。
【0016】
第1の熱可塑性樹脂としては、上記混合物を溶融混練し冷却した後、可塑剤との間で相分離する熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。このような熱可塑性樹脂は、可塑剤に起因する連通孔を複合微多孔膜に形成することができる。また、連通孔の数や大きさをセパレータに適したものとする観点から、第1の熱可塑性樹脂は可塑剤と混合及び/又は溶融混練した際に可塑剤と相溶するものであると好ましい。これらの観点から、第1の熱可塑性樹脂としてはポリオレフィンが好ましい。このポリオレフィンとしては、例えば密度0.93g/cm3以上の高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン及びこれらの共重合体に代表されるポリオレフィン樹脂が好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0017】
第1の熱可塑性樹脂がポリオレフィンである場合、その粘度平均分子量(Mv)は5万〜300万であると好ましい。このMvは、得られる微多孔膜の機械的強度を高める観点から5万以上であることが好ましく、生産時の成形性を良好にする観点から300万以下であることが好ましい。同様の観点から、Mvは10万〜100万であるとより好ましく、20万〜80万であると更に好ましい。また、微多孔膜の機械的強度を制御するために、第1の熱可塑性樹脂として、Mvの異なるポリオレフィンを2種以上混合したものを用いてもよい。さらに、Mvが80万を超えるポリオレフィンが原反シートに含まれる場合、成形性の悪化を抑制する観点から、原反シートに含まれるポリオレフィンの総量に対して、Mvが80万を超えるポリオレフィンの含有割合は50質量%未満であることが好ましい。
【0018】
特に、最終的に得られる複合微多孔膜を電池用セパレータとして用いる場合、良好な加工性を得る観点、適正なシャットダウン温度を定める観点などから、原反シートが上記ポリオレフィンとして高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。同様の観点から、原反シート中の高密度ポリエチレンの含有割合は、原反シートに含まれるポリオレフィンの総量に対して、20〜100質量%であると好ましく、40〜100質量%であるとより好ましく、60〜100質量%であると更に好ましい。また、上記高密度ポリエチレンの粘度平均分子量は、同様の観点から、100万以下であることが好ましく、80万以下であることがより好ましく、50万以下であることが更に好ましい。
【0019】
可塑剤としては、第1の熱可塑性樹脂と混合した際に、その樹脂の融点以上の温度においてその樹脂と相溶することのできる有機化合物であると好ましい。これにより、可塑剤としての機能をより有効に発揮することができる。また、可塑剤は後述の不透気性フィルムの開孔に寄与することができる。その観点から、可塑剤は、不透気性フィルムに用いる熱可塑性樹脂の非晶性部分を溶融若しくは溶解可能な有機化合物であることが好ましい。このような可塑剤としては、流動パラフィン、パラフィンワックスに代表される炭化水素類、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジイソデシルフタレート、ジヘプチルフタレートに代表されるフタル酸エステル類が挙げられる。これらの中では、流動パラフィンが好ましい。可塑剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0020】
第1の熱可塑性樹脂と可塑剤との好適な組み合わせは、上述の第1の熱可塑性樹脂による各種効果、並びに可塑剤による各種効果を一層バランスよく奏する観点から、高密度ポリエチレンと流動パラフィンとの組み合わせ、高密度ポリエチレンとDOPの組み合わせであると好ましい。
【0021】
原反シートにおいて、第1の熱可塑性樹脂と可塑剤との合計質量に対する可塑剤の含有割合は、後述の不透気性フィルムにおける不均一化を可能にする割合であれば特に限定されない。ただし、この可塑剤の含有割合は20〜80質量%であると好ましく、30〜75質量%であるとより好ましく、40〜70質量%であると更に好ましい。この含有割合を80質量%以下とすることは、最終的に得られる複合微多孔膜の、リチウムイオン電池用セパレータとして良好な透気度、ひいては良好なイオン透過性を実現する観点から好ましい。また、この含有割合を20質量%以上とすることは、不透気性フィルムの機械的強度の不均一化を促進する観点、及び当該不透気性フィルムの延伸性を向上させる観点から好ましい。この場合、複合微多孔膜の生産効率が向上し得る。これは、可塑剤が一定割合以上含まれることで、不透気性フィルムに含まれる第2の熱可塑性樹脂に、より有効に作用することに起因する。
【0022】
また、原反シートの全質量に対する第1の熱可塑性樹脂及び可塑剤の合計の含有割合は、本実施形態の目的を達成可能な範囲であれば特に限定されず、30〜100質量%であると好ましい。
【0023】
第1の熱可塑性樹脂を配合して原反シートに成形する際の樹脂劣化を防止するために、原反シートに酸化防止剤を添加してもよい。この添加のタイミングは、第1の熱可塑性樹脂と可塑剤とを混合する際であってもよく、それらを溶融混練する際であってもよい。原反シートにおける酸化防止剤の含有割合は、第1の熱可塑性樹脂の合計量に対して、樹脂劣化を更に防止する観点から0.2質量%以上であることが好ましく、経済性の観点から3質量%以下であることが好ましい。同様の観点から、この酸化防止剤の含有割合は、より好ましくは0.4〜3質量%、更に好ましくは0.5〜2質量%である。
【0024】
上記酸化防止剤としては、その機能をより有効に発揮する観点から、1次酸化防止剤であるフェノール系酸化防止剤が好ましい。かかる酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、1次酸化防止剤と併用して2次酸化防止剤を原反シートに含有してもよい。2次酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレン−ジフォスフォナイトに代表されるリン系酸化防止剤、ジラウリル−チオ−ジプロピオネートに代表されるイオウ系酸化防止剤が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0025】
原反シート作製工程では、その製膜性を損なうことなく、かつ本実施形態の目的の達成を阻害しない範囲において、上記ポリオレフィン以外のポリマーや上記各成分以外の有機材料、シリカやアルミナに代表される無機材料を上記混合物及び/又は混練物に配合してもよい。
【0026】
シート状に成形して原反シートを得る方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用してもよい。例えば、公知の押出機に第1の熱可塑性樹脂と可塑剤とを供給し、混合、溶融混練した後に得られたゲル状の混練物を冷却しつつシート状に成形する方法が挙げられる。この際の冷却方法としては、例えば、冷風や冷却水等の冷却媒体に直接混練物を接触させる方法、冷媒で冷却したロールやプレス機に混練物を接触させる方法が挙げられる。前者の場合、ゲル状の混練物が自重などによって膜形状に広がることでシート状に成形されてもよい。また、後者の場合、ロールやプレス機によって混練物が延伸されることでシート状に成形されてもよい。これらの中では、冷媒で冷却したロール及びプレス機に混練物を接触させる方法が、原反シートの厚み制御に優れる点で好ましい。
【0027】
得られる原反シートの厚さは、第1の熱可塑性樹脂や後述の延伸工程での倍率を考慮して調整される。この原反シートの厚さは、後述の延伸工程における膜破断を防止する観点から100μm以上であると好ましく、延伸工程の後の過剰な膜厚斑を抑制する観点から3000μm未満であると好ましい。
【0028】
なお、本実施形態の複合微多孔膜の製造方法は、原反シート作製工程を備えていなくてもよく、例えば、上述のような構成を有する原反シートを単に入手してもよい。
【0029】
(B)積層工程
積層工程においては、上記原反シートと不透気性フィルムとを積層してシート状の積層体を得る。本実施形態において「不透気性フィルム」は、後述のガーレー式透気度計によって測定した透気度が10000秒/100mL以上のフィルムである。本実施形態に係る不透気性フィルムは第2の熱可塑性樹脂を主成分として含むものであれば特に限定されない。第2の熱可塑性樹脂としては可塑剤との親和性の観点からポリオレフィンが好ましい。その具体例としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン及びこれらの共重合体が挙げられる。これらの中では、リチウム電池用セパレータに適した微多孔膜を容易に形成する観点から、ポリプロピレンが好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0030】
不透気性フィルムは、透気度が上述の条件を満足し第2の熱可塑性樹脂を主成分として含むものであれば、市販のフィルムであってもよく、公知の製法により作製してもよい。なお、本実施の形態において「主成分」とは、特定成分がマトリックス成分中に占める割合として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であることを意味し、100質量%であってもよいことを意味する。
また、第2の熱可塑性樹脂の含有割合は、本実施形態の目的を効率的に達成する観点から、不透気性フィルムの全質量に対して50〜100質量%であると好ましく、70〜100質量%であるとより好ましく、90〜100質量%であると更に好ましい。
【0031】
また、原反シートと不透気性フィルムとの組み合わせは、シャットダウン温度が150℃以下の原反シートと、ショート温度(耐破膜温度)が150℃を超える不透気性フィルムとの組み合わせが好ましい。これにより、電池の安全性を更に確実に得ることができる。原反シートに含まれる第1の熱可塑性樹脂としてポリエチレンを用いる場合、不透気性フィルムに含まれる第2の熱可塑性樹脂は、シャットダウン後に膜形状を良好に保持し、コストを抑える観点から、ポリプロピレンが好ましい。
【0032】
原反シートに含まれる可塑剤と不透気性フィルムに含まれる第2の熱可塑性樹脂との組み合わせは、本実施形態の目的を一層有効に達成する観点から、流動パラフィンとポリプロピレンとの組み合わせ、DOPとポリプロピレンの組み合わせであると好ましい。
【0033】
本実施形態では原反シートと不透気性フィルムとを積層した状態でそれらを延伸するため、不透気性フィルムの粘度は特に限定されない。ただし、複合微多孔膜を電池用セパレータとして用いる場合、電池内で電極に接するセパレータの表層が低粘度であると、電池内での昇温の際にセパレータが電極に張り付きやすくなり、膜形状を維持しやすくなる。この観点から、不透気性フィルムの極限粘度〔η〕が、5dL/g以下であると好ましい。同様の観点から、この極限粘度〔η〕は、より好ましくは4dL/g以下、更に好ましくは2.5dL/g以下である。また、延伸時の膜破断を防止し、得られる膜の強度を向上させる観点から、この極限粘度〔η〕が0.5dL/g以上であると好ましい。
【0034】
原反シートと不透気性フィルムとを積層する(重ね合わせる)方法は特に限定されない。例えば、後述の延伸工程よりも前に原反シートと不透気性フィルムとを互いに押し付けて積層する方法、延伸工程の際に積層する、すなわち原反シートと不透気性フィルムとを延伸しながら積層する方法、上記混練物を冷媒で冷却したロールやプレス機に接触させる際に不透気性フィルムを積層する方法、並びに、原反シートと不透気性フィルムとを加熱圧延ロールを用いて圧延しながら積層する方法が挙げられる。不透気性フィルムは、原反シートの片面又は両面に少なくとも1層以上積層する。ただし、得られる積層体のカール防止の観点から、原反シートの両面に不透気性フィルムを積層することが好ましい。
【0035】
不透気性フィルムの膜厚は、好ましくは原反シートの厚さの1〜50%の膜厚、より好ましくは2〜30%の膜厚である。高温時の膜強度を確保する観点から、原反シートの厚さの1%以上の膜厚が好ましく、延伸時の膜破断防止の観点から、原反シートの厚さの50%以下の膜厚が好ましい。
【0036】
この積層工程により、原反シートに含まれる可塑剤が不透気性フィルムの主成分である第2の熱可塑性樹脂に作用する。例えば、可塑剤が第2の熱可塑性樹脂の一部を溶解することによって、溶解した部分と溶解していない部分との間で不透気性フィルムの膜厚を不均一化する。あるいは、可塑剤が第2の熱可塑性樹脂の一部を膨潤する、又は一部と反応して変質する等の作用によって、作用した部分と作用していない部分との間で不透気性フィルムの機械的強度を不均一化する。この際、不透気性フィルムに部分的に連通孔が形成されてもよい。
【0037】
なお、本実施形態の複合微多孔膜の製造方法は、積層工程を備えていなくてもよく、例えば、上述のような構成を有する積層シートを単に入手してもよい。
【0038】
(C)延伸工程
延伸工程においては、上述の積層体を面内方向に延伸し延伸複合フィルムを得る。延伸方法としては、例えば、ロール延伸機による一軸延伸、ロール延伸機とテンターとの組み合わせによる逐次二軸延伸、同時二軸テンターによる同時二軸延伸が挙げられる。これらの中では、膜の強度と透過性をバランスよく調整でき、生産性が高い観点より、逐次二軸延伸、同時二軸延伸であることが好ましい。
【0039】
積層体を延伸する際の「延伸面倍率」は、延伸前の積層体主面の面積に対する延伸後に得られる延伸複合フィルム主面の面積の倍率を意味する。生産性及び得られる延伸複合フィルムの強度を向上させる観点から、この延伸面倍率は10倍以上が好ましく、過度の延伸による熱収縮応力の増大を防ぐために、この延伸面倍率は200倍以下が好ましい。同様の観点から、延伸面倍率は、より好ましくは15〜100倍、更に好ましくは20〜60倍である。
【0040】
また、積層体を延伸する際の延伸温度は、第1の熱可塑性樹脂等の原反シートの材質、第2の熱可塑性樹脂等の不透気性フィルムの材質、原反シート及び不透気性フィルムの膜厚などを考慮して選択することが可能である。ただし、延伸温度が、第1の熱可塑性樹脂及び不透気性フィルムの中で融点の最も低いものの融点よりも50℃低い温度から、その融点よりも5℃高い温度の範囲にあると好ましい。これにより、延伸工程での延伸による破膜を一層有効に抑制すると共に、得られる膜の強度を高くすることができる。また、延伸工程での延伸時に原反シートの破膜を更に有効に防止する観点より、第1の熱可塑性樹脂の融点よりも不透気性フィルムの融点が高いことが好ましい。なお、本実施形態において「融点」とは、DSC測定により得られた吸発熱曲線における最大吸熱ピークのピークトップ温度のことである。
【0041】
第1の熱可塑性樹脂にポリエチレンを採用し、不透気性フィルムに、第2の熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを含むフィルムを採用する場合、延伸工程での延伸時の破膜防止の観点から、延伸温度は90℃以上が好ましい。一方、得られる複合微多孔膜の強度を高くする観点から、延伸温度は135℃以下が好ましい。
【0042】
この延伸工程により、上記積層工程において可塑剤が作用した第2の熱可塑性樹脂の一部を中心にして、不透気性フィルムに微細な連通孔が形成されることが望ましい。また、それに併せて、原反シートの一部に連通孔が形成されてもよい。
【0043】
(D)可塑剤抽出工程
可塑剤抽出工程においては、延伸複合フィルムから可塑剤を抽出する。この際に用いる抽出溶媒としては、延伸複合フィルムを構成する第1及び第2の熱可塑性樹脂に対して貧溶媒であり、可塑剤に対しては良溶媒である上、沸点が膜を構成する第1及び第2の熱可塑性樹脂の融点よりも低いものが望ましい。このような抽出溶媒としては、例えば、n−ヘキサンやシクロヘキサンに代表される炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタンに代表される塩素系溶剤、ハイドロフロロエーテルやハイドロフロロカーボンに代表される非塩素系溶剤、エタノールやイソプロパノールに代表されるアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフランに代表されるエーテル類、アセトンやメチルエチルケトンに代表されるケトン類が挙げられる。これらの抽出溶媒は1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。これらの中でも、溶剤の汎用性、可塑剤の溶解性の観点から、塩化メチレン、メチルエチルケトンが好ましい。
【0044】
可塑剤抽出の方法としては、延伸工程で得られた延伸複合フィルムを抽出溶剤に浸漬して可塑剤を抽出する方法、延伸複合フィルムに抽出溶媒をシャワーして可塑剤を抽出する方法が挙げられる。この可塑剤抽出工程により、原反シートの可塑剤が抽出された部分に微細な連通孔が形成される。
可塑剤抽出工程の後のフィルムから乾燥などにより抽出溶剤を除去することにより、複合微多孔膜が得られる。
【0045】
また、可塑剤抽出工程の後の複合微多孔膜を、膜厚や透気度の調整のため、必要に応じて延伸してもよい。この際の延伸としては、例えば、一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸が挙げられ、好ましくは同時二軸延伸、逐次二軸延伸である。この際の延伸温度は、第1の熱可塑性樹脂及び不透気性フィルムの中で融点の最も低いものがポリエチレンである場合(第1の熱可塑性樹脂がポリエチレンである場合、又は、不透気性フィルムがポリエチレンフィルムである場合)、延伸工程での延伸による破膜を一層有効に抑制する観点から好ましくは100〜135℃である。また、延伸面倍率は、生産性及び得られる複合微多孔膜の強度を向上させる観点、並びに、過度の延伸による熱収縮応力の増大を防ぐ観点から、好ましくは1倍超3倍以下である。
【0046】
さらに、その延伸の後に緩和操作を行ってもよい。「緩和操作」とは、複合微多孔膜のMD方向及び/又はTD方向への縮小操作のことである。良好な熱収縮率を得る観点より、緩和操作後の複合微多孔膜のMD方向又はTD方向の寸法は、緩和操作前の寸法に対して、好ましくは1.0倍以下、より好ましくは0.95倍以下、更に好ましくは0.9倍以下である。また、しわ発生防止の観点より、緩和操作後の寸法は緩和操作前の寸法に対して0.6倍以上であることが好ましい。緩和操作時の温度は、良好な熱収縮率を得る観点より、100℃以上が好ましく、110℃以上が更に好ましい。また、電池用セパレータとして好適な気孔率及び透過性を得る観点より、140℃以下が好ましく、135℃以下が更に好ましい。
【0047】
以上説明した本実施形態の複合微多孔膜の製造方法によると、不透気性フィルムと原反シートとを積層することで、原反シートに含まれる可塑剤を不透気性フィルムに接触させる。これにより、不透気性フィルムの非晶性部分が溶解又は膨潤等すると考えられる。その後、積層体を好ましくは延伸面倍率で10倍以上延伸し、また、可塑剤を抽出することにより、高透過性の微多孔膜を高い生産効率で製造することができる。
従来の湿式法、すなわち樹脂組成物を共押出して積層した微多孔膜を作製する場合、異なる材料を共押出可能な特殊なダイスが必要となる。しかしながら、上述の本実施形態では、不透気性フィルムを重ね合わせるだけで、簡便に複合微多孔膜が得られるという利点がある。また、不透気性フィルムに可塑剤を直接散布する等して微多孔化する場合、不透気性フィルム単独では高倍率に延伸することは困難である。しかしながら、上述の本実施形態では、支持体としての原反シートと共に不透気性フィルムを延伸することで、高倍率の延伸が容易に可能になるため、単独では微多孔化困難な不透気性フィルムも容易に微多孔化することができる。また、不透気性フィルムと原反シートを積層することにより、原反シートを単独で用いるよりも高い破膜温度を実現することができる。
【0048】
本実施形態に係る複合微多孔膜は、電池(二次電池を含む)用セパレータ、より好ましくはリチウム電池用セパレータとして好適に用いられる。この場合、電池用セパレータの膜厚は、電池の絶縁性不良を防止する観点から、5μm以上であると好ましく、電池容量を確保する観点から100μm以下であると好ましい。同様の観点から、この膜厚は、より好ましくは7〜50μmである。
【0049】
また、電池用セパレータの透気度(膜厚20μm換算)は、機械的強度を向上させる観点から、50秒/100mL以上であると好ましく、電池のサイクル特性及びレート特性を良好にする観点から、900秒/100mL以下であると好ましい。同様の観点から、この透気度は、より好ましくは100秒/100mL〜800秒/100mLである。ここで、電池用セパレータの透気度は、JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計にて測定した。これに20(μm)/電池用セパレータの膜厚(μm)を乗じて、透気度(膜厚20μm換算)とした。
【0050】
電池用セパレータの突刺強度(膜厚20μm換算)は、好ましくは3N以上、より好ましくは3.5N以上である。この突刺強度を3N以上にすることで、脱落した活物質などによるセパレータの破膜を抑制することができる。また、セパレータの加工性を良好にする観点から、この突刺強度は20N未満であると好ましい。ここで、電池用セパレータの突刺強度は、圧縮試験機(例えば、カトーテック社製のハンディ圧縮試験器(商品名「KES−G5」))を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突き刺し速度2mm/秒の条件で突き刺し試験を行って測定した。この際の、最大突き刺し荷重(N)を突刺強度とし、これに20(μm)/電池用セパレータの膜厚(μm)を乗じて、突刺強度(膜厚20μm換算)とした。
【0051】
電池用セパレータの気孔率は、好ましくは20%超80%未満、より好ましくは30%超60%未満である。この気孔率は、電池用セパレータの透過性を優れたものとする観点から、20%超であると好ましく、機械強度を高くする観点から、80%未満であると好ましい。ここで、電池用セパレータの気孔率は、その体積と質量から以下の式によって算出される。
気孔率(%)=(体積(cm3)−質量(g)/ポリマー組成物の密度)/体積(cm3)×100
【0052】
電池用セパレータの平均孔径は、好ましくは0.01〜0.5μm、より好ましくは0.02〜0.1μmである。この平均孔径は、イオン透過性を良好にする観点から0.01μm以上であると好ましく、膜強度及び耐熱性を向上させる観点から1μm以下であると好ましい。ここで、電池用セパレータの平均孔径は、走査型電子顕微鏡から得られた倍率3万倍の電子像3枚から画像解析により導出したセパレータ表面の平均孔径である。
【0053】
電池用セパレータのシャットダウン温度は、電池昇温時の安全性を確保する観点から、好ましくは150℃未満であり、更に好ましくは140℃未満である。
【0054】
電池用セパレータのショート温度は、電池昇温時の安全性、及び耐熱性を確保する観点から、好ましくは190℃以上であり、更に好ましくは195℃以上である。
【0055】
本実施形態のリチウムイオン電池の製造方法は、上記本実施形態に係る複合微多孔膜を電池用セパレータとして組み込む工程を備える。リチウムイオン電池を製造する際の、当該組み込み工程以外の工程については、従来公知の工程を採用し得る。
【0056】
以上、本実施形態を実施するための最良の形態について説明したが、本実施形態は上記実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、上述の実施形態に係る複合微多孔膜の用途は、電池用セパレータに限定されず、例えば、精密濾過膜、コンデンサー用セパレータとして用いることもできる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。なお、実施例における各種特性の測定方法は下記のとおりである。
【0058】
(1)膜厚
ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製、商品名「PEACOCK No.25」)にて測定した。MD方向10mm×TD方向10mmの寸法を有するサンプルを微多孔膜から切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)の局所膜厚を測定した。得られた9箇所の局所膜厚の相加平均値を微多孔膜の膜厚とした。
(2)透気度(膜厚20μm換算)
JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計にて微多孔膜の透気度を測定した。これに20(μm)/微多孔膜の膜厚(μm)を乗じることにより、微多孔膜の透気度(膜厚20μm換算、単位:秒/100mL)を算出した。
(3)突刺強度(膜厚20μm換算)
カトーテック社製、商品名「KES−G5」のハンディ圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突き刺し速度2mm/secの条件で微多孔膜に対して突き刺し試験を行い、最大突き刺し荷重(N)を測定した。これに20(μm)/微多孔膜の膜厚(μm)を乗じることにより、微多孔膜の突刺強度(膜厚20μm換算、単位:N)を算出した。
【0059】
(4)表面観察
微多孔膜の表面反射電子像(撮影倍率3万倍)を、走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、商品名「S-5500」)を用いて、加速電圧1.5kVの条件にて得た。
(5)シャットダウン温度、ショート温度
厚さ10μmの電極A(長さ100mm×幅25mm)、厚さ10μmの電極B(長さ100mm×幅15mm)、所定の電解液に30分間以上浸漬したセパレータ(MD方向長さ75mm×TD方向長さ25mm)、中心に10mm×10mmの矩形窓5を設けたアラミカフィルム(登録商標、75mm×75mm)、スライドガラス(長さ75mm×幅25mm)、ガラス板(長さ25mm×幅20mm)を準備した。続いて、図1に示すように、スライドガラス3、電極A、セパレータ(測定対象物)1、アラミカフィルム4、電極B、ガラス板2の順にそれらを重ね合わせ、市販のダブルクリップで固定してセルを完成した。次に、上記セルに熱電対6を接続し、オーブン内に静置した。その後、セルを5℃/分の速度で加熱し、このときの両電極A、B間のインピーダンス変化を、LCRメーターにて交流1V,1kHzの条件下で測定した。この測定において、インピーダンスが1000Ωに達した時点の温度をシャットダウン温度とし、その後インピーダンスが1000Ωを下回った時点の温度をショート温度とした。なお、所定の電解液の組成比は以下のとおりである。
溶媒の組成比(体積比):炭酸プロピレン/炭酸エチレン/δ−ブチルラクトン=1/1/2
溶質の組成比:上記溶媒にてLiBF4を1mol/リットルの濃度になるように溶解させた。
(6)融点
微多孔膜6〜7mgをアルミパンへ投入し、窒素気流下、10℃/分の昇温速度で室温から600℃まで昇温した。この際の吸発熱曲線を、島津製作所社製のDSCである商品名「DSC60」を用いて測定した。得られた吸発熱曲線の最大吸熱ピークのピークトップ温度を融点とした。
【0060】
〔実施例1〜3〕
重量平均分子量(Mv)が25万、極限粘度〔η〕が2.8dL/g、融点が136℃の高密度ポリエチレン(HDPE)19質量部、粘度平均分子量(Mv)が70万、極限粘度〔η〕が5.6dL/g、融点が138℃のHDPE19質量部、Mvが40万、極限粘度〔η〕が3.3dL/g、融点が163℃のポリプロピレン(PP)2質量部からなる第1の熱可塑性樹脂40質量%、及び流動パラフィン(松村石油社製、商品名「P350P」)60質量%を混合して混合物を得た。次に、その混合物を溶融混練した後、冷風で冷却することにより厚さ1000μmの原反シートを作製した(原反シート作製工程)。それとは別に、Mvが16万、極限粘度〔η〕が1.6dL/g、融点が162℃、膜厚30μm、透気度10000秒/100mLを超えるキャストポリプロピレン(CPP)フィルムを不透気性フィルムとして準備した。次いで、原反シートの片面に不透気性フィルムを積層してシート状の積層体を得た(積層工程)。更に積層体に対して面内方向に同時二軸延伸を行って、微多孔化を試みた(延伸工程)。この際の延伸速度は一定で、積層体長さに対して20%/秒の歪速度であった。こうして得られた延伸複合フィルムを塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去した(可塑剤抽出工程)。その後、乾燥して塩化メチレンを除去し、実施例1〜3の複合微多孔膜を得た。表1に微多孔膜の膜構成、可塑剤の含有割合、延伸温度及び延伸倍率を示す。表2に、得られた微多孔膜の各種特性の測定結果を示す。また、実施例3で作製した複合微多孔膜の原反シート由来の表面、並びに不透気性フィルム由来の表面の、SEMによる観察結果を図2、3に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
〔実施例4、5〕
第1の熱可塑性樹脂を40質量%から30質量%に、流動パラフィンを60質量%から70質量%に変更した以外は実施例2、3と同様にして、それぞれ実施例4、5の複合微多孔膜を作製した。表1に微多孔膜の膜構成、可塑剤の含有割合、延伸温度及び延伸倍率を示す。表2に、得られた微多孔膜の各種特性の測定結果を示す。
【0064】
〔実施例6〕
第1の熱可塑性樹脂を40質量%から20質量%に、流動パラフィンを60質量%から80質量%に、延伸温度を110℃から100℃に変更した以外は実施例2と同様にして、実施例6の複合微多孔膜を作製した。表1に微多孔膜の膜構成、可塑剤の含有割合、延伸温度及び延伸倍率を示す。表2に、得られた微多孔膜の各種特性の測定結果を示す。
【0065】
〔実施例7、8〕
第1の熱可塑性樹脂を40質量%から20質量%に、流動パラフィンを60質量%から80質量%に変更した以外は実施例2、3と同様にして、それぞれ実施例7、8の複合微多孔膜を作製した。表1に微多孔膜の膜構成、可塑剤の含有割合、延伸温度及び延伸倍率を示す。表2に、得られた微多孔膜の各種特性の測定結果を示す。
【0066】
〔実施例9〕
CPPフィルムを原反シートの片面ではなく両面に積層した以外は実施例3と同様にして、実施例9の複合微多孔膜を作製した。表1に微多孔膜の膜構成、可塑剤の含有割合、延伸温度及び延伸倍率を示す。表2に、得られた微多孔膜の各種特性の測定結果を示す。
【0067】
〔比較例1、2〕
Mvが16万、極限粘度〔η〕が1.6dL/g、融点が162℃、膜厚30μm、透気度10000秒/100mLを超えるCPPフィルムを流動パラフィン(松村石油社製、商品名「P350P」)に浸漬した後、その面内方向に同時二軸延伸を行って、微多孔化を試みた。種々の条件で延伸を試みたが、特に比較例1では実施例1と同様の延伸条件では微多孔化せず、破膜した。表1に微多孔膜の膜構成、可塑剤の含有割合、延伸温度及び延伸倍率を示す。表2に、得られた微多孔膜の各種特性の測定結果を示す。
【0068】
〔比較例3〕
CPPフィルムを用いることなく、原反シートを単層で延伸した以外は実施例3と同様にして、比較例3の微多孔膜を作製した。表1に微多孔膜の膜構成、可塑剤の含有割合、延伸温度及び延伸倍率を示す。表2に、得られた微多孔膜の各種特性の測定結果を示す。
【0069】
〔比較例4〕
Mvが25万、〔η〕が2.8dL/g、融点が136℃のHDPEを溶融混練し、冷却することで未延伸PEシートを作製した。それとは別にMvが40万、〔η〕が3.3dL/g、融点が163℃のPPを溶融混練し、冷却することで未延伸PPシートを作製した。未延伸PEシートを95℃、未延伸PPシートを120℃で熱処理した後、熱圧着により両外層がPPで内層がPEの三層積層シートを作製し、室温、次いで120℃でMD方向に延伸した。こうして、延伸開孔法によりPP/PE/PPからなる比較例4の三層微多孔膜を作製した。表1に微多孔膜の膜構成、可塑剤の含有割合、延伸温度及び延伸倍率を示す。表2に、得られた微多孔膜の各種特性の測定結果を示す。
【0070】
〔比較例5〕
第1の熱可塑性樹脂を40質量%から90質量%に、流動パラフィンを60質量%から10質量%に変更した以外は実施例3と同様にして、比較例5の複合微多孔膜を作製した。表1に微多孔膜の膜構成、可塑剤の含有割合、延伸温度及び延伸倍率を示す。表2に、得られた微多孔膜の各種特性の測定結果を示す。
【0071】
図2、3に示す実施例3の複合微多孔膜の表面観察結果から、両面(原反シート由来の表面、不透気性フィルム由来の表面)ともに本実施形態の製造方法により微多孔化していることが明らかになった。この電子像の写真から画像解析により各表面における平均孔径を算出した結果、原反シート由来の表面における平均孔径は0.05μm、不透気性フィルム由来の表面における平均孔径は0.02μmであった。
【0072】
また、実施例1、3と比較例1、2との対比から、不透気性フィルムであるCPPフィルム単独では高倍率に延伸できず高い生産性を達成することが困難である一方、原反シートを支持体とすることで高い延伸倍率での微多孔膜の作製が可能であることが判明した。さらに、実施例1と3の対比から、高倍率に延伸することにより、微多孔膜が十分な高透過性を示すと共に高強度になることが明らかになった。
【0073】
実施例1〜9(特に実施例3)と比較例3との対比から、原反シートに不透気性フィルムを積層して延伸することにより、ショート温度が高い複合微多孔膜が得られることがわかった。また、実施例2〜9では比較例3と同じ倍率で延伸できることから、従来の湿式法で得られる膜の強度及び透過性に遜色のない複合微多孔膜が、従来の湿式法並みの生産性で作製できることが判明した。
【0074】
実施例9と比較例4との対比から、本実施形態の製造方法で作製した複合微多孔膜は、従来のいわゆる延伸開孔法よりも高い延伸倍率で複合微多孔膜が作製できることが明らかになった。このことから、本実施形態の製造方法は、延伸開孔法よりも生産性に優れていることが確認できた。
【0075】
比較例5の結果から、原反シートに含まれる可塑剤が少ない場合、その量が不十分であるため、不透気性フィルムの微多孔化が困難であることがわかった。
【0076】
なお、表には示していないが、延伸温度を120℃から85℃に変更する以外は実施例3と同様にして複合微多孔膜の作製を試みたが、延伸性が良好ではなく、複合微多孔膜が得られなかった。また、延伸面倍率を49倍から9倍(MD倍率:3倍、TD倍率:3倍)に変更する以外は実施例3と同様にして複合微多孔膜を作製した。この場合、複合微多孔膜の作製が可能であることは明らかになったものの、高い生産効率を達成することは困難であった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】シャットダウン温度及びショート温度を測定する際に用いるセルを概略的に示す断面図である。
【図2】実施例の複合微多孔膜における原反シート由来の表面の走査型電子顕微鏡電子像(倍率3万倍)を示す写真である。
【図3】実施例の複合微多孔膜における不透気性フィルム由来の表面の走査型電子顕顕微鏡電子像(倍率3万倍)を示す写真である。
【符号の説明】
【0078】
A,B 電極
1 測定対象物
2 ガラス板
3 スライドガラス
4 アラミカフィルム
5 矩形窓
6 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含み、前記第1の熱可塑性樹脂と前記可塑剤との合計質量に対する前記可塑剤の含有割合が20〜80質量%である原反シートと、第2の熱可塑性樹脂を主成分として含む不透気性フィルムとの積層体を延伸し延伸複合フィルムを得る工程と、
前記延伸複合フィルムから前記可塑剤を抽出する工程と、
を有する、複合微多孔膜の製造方法。
【請求項2】
第1の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む原反シートと、第2の熱可塑性樹脂を主成分として含む不透気性フィルムとを積層して前記不透気性フィルムの膜厚及び/又は機械的強度を前記可塑剤により不均一化した積層体を延伸し延伸複合フィルムを得る工程と、
前記延伸複合フィルムから前記可塑剤を抽出する工程と、
を有する、複合微多孔膜の製造方法。
【請求項3】
前記不透気性フィルムがポリプロピレンフィルムである、請求項1又は2に記載の複合微多孔膜の製造方法。
【請求項4】
前記積層体を延伸する際の延伸温度が90℃以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合微多孔膜の製造方法。
【請求項5】
前記積層体を延伸する際の延伸面倍率が10倍以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合微多孔膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合微多孔膜の製造方法により得られた複合微多孔膜をセパレータとして組み込む工程を有する、リチウムイオン電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−202413(P2009−202413A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46775(P2008−46775)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】