説明

複合材及びその製造方法

【課題】機能性層を最上層に形成しないとその機能による効果が十分に得られず、従ってそれ以下の層に光触媒層を形成せざるを得ない場合においても、両機能を同時に発現してそれらの効果を共に得ることが可能となる複合材の製造方法を提供する。
【解決手段】基材1の表面に光触媒層2と機能性層3を形成して製造する複合材の製造方法に関する。基材1の表面に光触媒を含有する光触媒層2を形成した後、その表面に光触媒で分解可能な有機物4を含有する機能性層3を形成する工程と、機能性層3に光を照射して光触媒層2中の光触媒を活性化させ機能性層3中の有機物4を分解する工程とを有する。機能性層3中の有機物4の含有量が10〜40質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒層と他の機能性層を形成して製造する複合材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に光触媒を含有する塗料を塗布、硬化させるなどして光触媒層を形成した材料では、その光触媒に励起波長(例えば400nm)の光(紫外線)が当たると、活性酸素が発生して有機物を分解することにより、自己洗浄効果、消臭効果、抗菌・防かび効果などが期待できるとともに、空気中の水分又は材料表面に付着した水分を水酸化ラジカル化して親水性が向上することにより、防曇効果、雨水洗浄効果などが期待できる。光触媒層によるこれら様々な効果に加えて、基材表面に他の機能を付加させた複合機能を有する複合材もいくつか提案されている。例えば、特許文献1では、基材の表面にまず赤外線を反射するヒートミラーを形成し、その上層に光触媒層を形成することにより、熱線反射効果+光触媒効果の複合効果を持たせており、また、特許文献2では、基材表面に5〜7層からなる反射防止層を備え、最上層の直下に光触媒層、最上層に膜厚が300nm以下のSiO層を形成することにより、反射防止効果+光触媒効果の複合効果を持たせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−51447号公報
【特許文献2】特開2000−329904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の従来技術では、機能性層が最上層でなくてもその機能を発現し効果が得られる場合には光触媒層を最上層に形成することにより両機能を同時に発現してそれらの効果を得ることが可能であったが、機能性層を最上層に形成しないとその機能発現が十分ではなく効果が得られない場合には、最上層に機能性層を、それ以下の層に光触媒層を形成しなくてはならず、そうすることによって光触媒層による様々な効果が弱くなったり、あるいは全く得られない場合があった。
【0005】
そこで本発明では、機能性層を最上層に形成しないとその機能による効果が十分に得られず、従ってそれ以下の層に光触媒層を形成せざるを得ない場合においても、両機能を同時に発現してそれらの効果を共に得ることが可能となる複合材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る複合材の製造方法は、基材1の表面に光触媒層2と機能性層3を形成して製造する複合材の製造方法において、基材1の表面に光触媒を含有する光触媒層2を形成した後、その表面に光触媒で分解可能な有機物4を含有する機能性層3を形成する工程と、機能性層3に光を照射して光触媒層2中の光触媒を活性化させ機能性層3中の有機物4を分解する工程とを有し、機能性層3中の有機物4の含有量が10〜40質量%であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項2に係る複合材の製造方法は、請求項1において、機能性層3は光触媒層2よりも屈折率が低い層であることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項3に係る複合材の製造方法は、請求項1又は2において、前記光触媒で分解可能な有機物4が有機基を有するシランカップリング剤であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項4に係る複合材の製造方法は、請求項1乃至3のいずれか一項において、前記光触媒で分解可能な有機物4が有色であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項5に係る複合材は、基材1の表面に光触媒層2を介して機能性層3が形成された複合材であって、光触媒層2はバインダーとして一般式(RSi(OR4−n(n=0〜2)からなるシリコーン樹脂と、固形分で20〜80質量%の光触媒とからなり、機能性層3は有機基を有するシランカップリング剤を10〜40質量%含有して成ることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項6に係る複合材は、請求項5において、前記基材1を透明ガラス基材あるいは透明プラスチック基材とし、ショーウィンドウ、ショーケース、建築構造物の窓、車両用の窓のいずれかを構成する部材として形成して成ることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項7に係る複合材は、前記基材1を透明プラスチックフィルムとし、該基材1の光触媒層2及び機能性層3を形成した面とは反対側の面がショーウィンドウ、ショーケース、建築構造物の窓、車両用の窓のいずれかに貼付されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明では、有機物4の分解により機能性層3中に疎の部分5を形成することができ、この疎の部分5を通じて光触媒層2に光を照射することができるものであり、機能性層3と光触媒層2の両機能を同時に発現してそれらの効果を共に得ることが可能となるものである。また、機能性層3中の有機物4の含有量が10〜40質量%であるので、機能性層3の機能を損なうことなく光触媒層2の効果が得られ、かつ機能性層3の膜の強度(密着性や耐摩耗性)を実用上問題ないレベルで保つことができるものである。
【0014】
請求項2の発明では、機能性層3の屈折率が光触媒層2よりも低い層になっているため、得られる基板1の表面に形成される層(膜)は光触媒性能を有した反射防止膜となるものである。
【0015】
請求項3の発明では、光触媒で分解可能な有機物が有機基を有するシランカップリング剤であるため、機能性層3が光触媒で分解されない無機系の樹脂(シリコーン樹脂等)で形成されている場合、その骨格に入って膜(機能性層3)の強度をあまり損なわずに可とう性を付与することができるものである。
【0016】
請求項4の発明では、有機物4の分解により有色から無色へと変色させることができ、光触媒層2の機能の発現を容易に確認することができるものである。
【0017】
請求項5の発明では、バインダー成分のシリコーン樹脂で光触媒を光触媒層2に確実に保持することができ、光触媒層2の機能低下を防止することができると共に、機能性層3の機能を損なうことなく光触媒層2の効果が得られ、かつ機能性層3の膜の強度(密着性や耐摩耗性)を実用上問題ないレベルで保つことができるものである。
【0018】
請求項6の発明では、光触媒層2と機能性層3の両機能を有するショーウィンドウや窓などを容易に形成することができるものである。
【0019】
請求項7の発明では、既存のショーウィンドウや窓などに貼付することにより、光触媒層2と機能性層3の両機能を有するショーウィンドウや窓などを容易に形成することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示し、(a)(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0022】
本発明で製造される複合材は、基材1の表面に光触媒層2を設けると共に光触媒層2の表面に最外層となる機能性層3を設けて形成されるものである。
【0023】
機能性層3は、最上層に形成しないと十分な効果が得られない機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、反射防止層などが挙げられる。この機能性層3は最上層に形成されるのみの単層構造でも最上層及び下部の層にそれぞれ形成される複層構造でも構わない。また、この機能性層3は光触媒層2の直上層に形成されるため、有機材料を主体とする材料からなる層では光触媒による有機物の分解作用により劣化させられる。従って、機能性層3は有機成分を多少は含んでいても、その塗膜が経時的に劣化しにくい無機成分主体の材料からなる塗膜である必要がある。このような無機成分主体の材料は、特に限定されないが、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂などが挙げられる。
【0024】
また、機能性層3の屈折率が光触媒層2の屈折率よりも低いことが好ましく、例えば、機能性層3が反射防止層の場合は、光触媒層2との屈折率の差が大きい方がその機能性層3の機能(反射防止)による効果もより高められて好ましい。
【0025】
光触媒によって分解可能な機能性層3に含有される有機物4については、特に限定はされないが、機能性層3がシリコーン樹脂やアクリルシリコーン樹脂主体の材料で構成される場合、有機基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。シランカップリング剤は特に限定はされないが、一般的に、XSi(OR) …(1)などと表され、(1)中のXは有機質材料と結合する反応基を表し、特に限定はされないが、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基などがある。また(1)中のORは無機質材料と化学結合する反応基を表し、特に限定はされないが、メトキシ基、エトキシ基、クロル基などがある。
【0026】
また、光触媒によって分解可能な機能性層3に含有される有機物4は、有色の材料でもよい。その場合は有色の該有機物4が光触媒層2中の光触媒の作用によって先ず分解され、無色になることで光触媒層2の光触媒性能の発現を確認することができる。この有色の有機物は、特に限定されず、天然および人工の色素や染料、有機顔料など有機基が分解されることにより発色しなくなるものを挙げることができ、具体的には、メチレンブルー、メチルバイオレット、メチルオレンジなどを用いることができる。
【0027】
機能性層3中の上記有機物4の含有量は、機能性層(固形分)3の全量に対して10〜40質量%である。有機物4の含有量が10質量%未満であると、有機物4の分解により生じる機能性層3の疎の部分が少なくなりすぎて、機能性層3の下側の光触媒層2の機能を充分に発揮することができなくなるおそれがあり、有機物4の含有量が40質量%より多くなると、有機物4の分解により生じる機能性層3の疎の部分が多くなりすぎて、機能性層3の強度が低くなって脱落するおそれがある。
【0028】
光触媒層2は光触媒を含有する材料で特に限定はされず、バインダー成分を含まない光触媒単体の光触媒層2であっても、バインダー成分を含む混合の光触媒層2であっても構わない。光触媒としては酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化クロム、酸化モリブテン、酸化ルテニウム、酸化ゲルマニウム、酸化鉛、酸化カドミウム、酸化銅、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ロジウム、酸化ニッケル、酸化レニウム等の金属酸化物の他、チタン酸ストロンチウム等を例示することができ、これらをそれぞれ単独で用いたり二種以上併用したりすることができる。また、バインダー成分としてはシリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂などを用いることができる。光触媒層2を光触媒とバインダー成分とから形成した場合は、光触媒層2中の光触媒の含有量は、光触媒層(固形分)2の全量に対して20〜80質量%であることが好ましく、さらに最適な含有量は30〜60質量%である。光触媒の含有量が少なすぎると、有機物4の分解を充分に行うことができず、機能性層3の下側の光触媒層2の機能を充分に発揮することができなくなるおそれがあり、光触媒の含有量が多すぎると、バインダー成分による光触媒層2の塗膜の強度を確保することができず、脱落する等の耐久性の低下が生じるおそれがある。
【0029】
光触媒層のバインダー成分としては、一般式(RSi(OR4−n(n=0〜2)からなるシリコーン樹脂を用いることができる。R、Rは1価の炭化水素基を示し、特に限定はされないが、Rとして炭素数1〜8の置換または非置換の炭酸水素基とすることができる。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等のアラルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ビニル基、アリル基等のアニケニル基、クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基、及びγ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基等の置換炭化水素基を挙げることができる。これらの中でも、合成の容易さ、入手の容易さから、Rは炭素数1〜4のアルキル基及びフェニル基であることが好ましい。Rは炭素数1〜4のアルキル基を主原料にするものを用いることができる。特に、n=0のテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等を例示することができ、n=1のオルガノトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等を例示することができ、n=2のジオルガノジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等を例示することができる。これらのシリコーン樹脂は、n=0またはn=1のものをそれぞれ単独で用いたり、n=0、1のもの又はn=0、1、2のものの混合物であってもよい。尚、上記のRとRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0030】
基材1は有機材料、無機材料を問わず、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス、金属、プラスチック、フィルム等があげられる。これらの基材1は光触媒層2、機能性層3など形成の際、その層が均一に形成できるように、あるいは基材1との密着性が向上するために、前洗浄しておくと良い。その方法としては、アルカリ洗浄、ふっ化アンモニウム洗浄、プラズマ洗浄、コロナ洗浄、UV洗浄等があげられる。
【0031】
光触媒層2、機能性層3の形成方法としては、特に限定されず、蒸着法、スパッタ法、溶液塗布法などが挙げられ、溶液塗布法は刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディッピング、ディップコートともいう)、ロールコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、グラビアコート、バーコート等の通常の各種方法を選択することができる。
【0032】
光触媒層2、機能性層3を形成した後、各々の層を硬化させるために、加熱を行ってもよい。加熱は基材材質によってその耐熱温度以下で行う必要があるが、常温から高温まで幅広く選択できる。ただし、光触媒によって分解させる有機物4が分解されるような高温での加熱硬化は、本発明の狙いの効果が得られにくくなるため、有機物4が分解される温度以下で行うことが好ましく、例えば、100〜250℃で5〜60分間行うことができる。
【0033】
光触媒層2、機能性層3を形成した後、図1(a)に示すように、機能性層3に含有される有機物4をその下層の光触媒層2中の光触媒によって分解させるために、光Lの照射を行う。光触媒を活性化させるために必要な励起波長(例えば、400nm)以下の波長の光(紫外線など)を含む光Lで行う。その光源は特に限定されないが、太陽光、キセノンランプ、ブラックライト、水銀灯、殺菌灯などが挙げられる。光照射の時間は、例えばブラックライトの場合、12〜120時間、光の強度は1〜3mW/cmとすることができる。
【0034】
上記のようにして形成される複合材は、図1(b)に示すように、機能性層3中の有機物4が分解して消失することにより、機能性層3の有機物4が消失した部分が、機能性層3の他の部分よりも密度の小さい疎の部分(低密度部分)5になり、この疎の部分5を通じて光触媒層2に光を照射することができる。従って、光触媒層2は最外層になくてもその機能を発揮させることができるものである。尚、本発明において、機能性層3の厚みは0.05〜0.2μm、光触媒層2の厚みは0.01〜0.3μmとすることができるが、これに限定されるものではない。
【0035】
本発明の複合材は、ショーウィンドウ、ショーケース、建築構造物の窓、車両用の窓などを形成するための部材として形成することができる。この場合、ある程度の剛性が必要となるため、基材1としては透明ガラス基材や透明プラスチック基材などを使用するのが好ましい。透明プラスチック基材としては特に限定されないが、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などを挙げることができる。そして、建築構造物や車両等の開口部に嵌め込んだり、複数の複合材を箱状に連結したりすることにより、上記のような光触媒層2と機能性層3によって得られる機能を併せ持つショーウィンドウ、ショーケース、建築構造物の窓、車両用の窓などを形成することができる。
【0036】
また、本発明の複合材は、ショーウィンドウ、ショーケース、建築構造物の窓、車両用の窓などを形成しているガラス板やプラスチック板等の透明部材の表面に貼付することができる。この場合、基材1としては貼付の作業性等を考慮して透明プラスチックフィルムを用いることができ、特に限定されないが、ポリエステル系フィルム、アクリル系フィルム、フッ素系フィルムなどを例示することができる。また、基材1の透明部材の表面に貼付する側の表面は、光触媒層2及び機能性層3を形成した面とは反対側の面、すなわち、光触媒層2や機能性層3が設けられていない方の面とする。また、複合材を貼付するにあたっては、基材1の貼付する側の表面に粘着層を設けて接着したり、複合材と透明部材とを熱ラミネート(熱融着)したりする方法がある。粘着層は、特には限定されないが、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、酢酸ビニル系粘着剤などを塗布して形成することができる。また、熱ラミネートする場合は、特に限定されないが、ポリカーボネートやアクリル樹脂などのプラスチック製の透明部材を用いるのが好ましい。そして、建築構造物や車両等の窓やショーウィンドウ、ショーケースの表面に複合材を貼付することにより、上記のような光触媒層2と機能性層3によって得られる機能を併せ持つショーウィンドウ、ショーケース、建築構造物の窓、車両用の窓などを形成することができる。
【0037】
このようにして得られるショーウィンドウ、ショーケース、建築構造物の窓、車両用の窓などは、光触媒機能と機能性層によって得られる他の機能とを併せ持つことになり、機能性層として例えば、反射防止機能を選択すると、光触媒機能と反射防止機能を併せ持つことにより、それらを通して対象物を見た場合に、反射防止機能により映り込みがなく、鮮明に対象物を見ることができるという効果が得られ、かつ光触媒機能により長期間汚れの付着が低減できるため、長期にわたって上記の効果を持続させることができるものである。
【実施例】
【0038】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、以下の記載の中では、特に断らない限り、「部」はすべて「質量部」を、「%」はすべて「質量%」を表す。また、分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、測定機種として東ソー(株)のHLC8020を用いて、標準ポリスチレンで検量線を作成し、その換算値として測定したものである。また、本発明は、下記の実施例に限定されない。
【0039】
<実施例1>
厚み50μmのアクリルフィルムの基材に光触媒ガード層としてシリコーン樹脂を主体とするコーティング材を膜厚約1.5μmになるようにグラビアコーターにて塗布し、加熱硬化させた後、その上層に光触媒(TiO)を含有しバインダーがシリコーン樹脂主体である光触媒含有コーティング材を膜厚約0.03μmになるようにグラビアコーターにて塗布し、加熱硬化させて光触媒層を形成した。この光触媒層にはその固形分に対して50質量%の光触媒を含有するものである。
【0040】
さらに、上記の光触媒層の上に光触媒で分解可能な有機物を含有する機能性層を形成した。最上層の機能性層には反射防止機能を有する層を選び、その反射防止層のバインダー樹脂としてはメチルシリケートおよびシランカップリング剤を有効固形分で1:1になるよう混合し、さらにシリカゾルをバインダー樹脂に対して有効固形分で樹脂:シリカゾル=2:3となるように加えたものにさらに水と硝酸を加えて加水分解させたものを固形分5%になるようイソプロピルアルコールにて希釈したものを用いた。シランカップリング剤としてはγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いた。このようにして調製した反射防止層用のコーティング材を先ほどの光触媒層をコーティングしたアクリルフィルム上にグラビアコーターにて膜厚約0.1μmとなるように塗布し、加熱硬化させて機能性層を形成した。この機能性層にはその固形分に対して20質量%の有機物(シランカップリング剤)を含有するものである。
【0041】
こうして作製したコーティングフィルムに中心波長365nmのブラックライトを用いて紫外線を1mW/cmの強度で96時間照射し、目的の複合材を得た。
【0042】
この場合、機能性層の屈折率は約1.37、光触媒層の屈折率は約1.72であった。
【0043】
<実施例2>
実施例1において、シランカップリング剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いた以外は実施例1と同様の方法で目的の材料を得た。
【0044】
<実施例3>
実施例1の光触媒層の上に形成する機能性層として、反射防止機能を有する層を選び、その反射防止層のバインダー樹脂としてはメチルシリケートを、さらにシリカゾルをバインダー樹脂に対して有効固形分で樹脂:シリカゾル=2:3となるように加えたものにさらに水と硝酸を加えて加水分解させたものを固形分5%になるようイソプロピルアルコールにて希釈したものを用いた。さらに光触媒で分解可能な有機物として、メチルバイオレットを5%水溶液として前記コーティング液100重量部に対して20重量部添加して調製した反射防止層用のコーティング材を先ほどの光触媒層をコーティングしたアクリルフィルム上にグラビアコーターにて膜厚約0.1μmとなるように塗布し、加熱硬化させて機能性層を形成した。この機能性層にはその固形分に対して20質量%の有機物を含有するものである。
【0045】
こうして作製したコーティングフィルムに中心波長365nmのブラックライトを用いて紫外線を1mW/cmの強度で96時間照射し、目的の複合材を得た。
【0046】
<実施例4>
実施例1においてメチルシリケート:シランカップリング剤=3:1(有効固形分比)にした以外は実施例1と同様の方法で目的の材料を得た。この場合、機能性層にはその固形分に対して10質量%の有機物(シランカップリング剤)を含有するものである。
【0047】
<実施例5>
実施例1においてメチルシリケート:シランカップリング剤=1:2(有効固形分比)になるよう混合し、さらにシリカゾルをバインダー樹脂に対して有効固形分で樹脂:シリカゾル=3:2になるように加えた以外は、実施例1と同様の方法で目的の材料を得た。この場合、機能性層にはその固形分に対して40質量%の有機物(シランカップリング剤)を含有するものである。
【0048】
<比較例1>
実施例1において、シランカップリング剤を全く含有しない以外は実施例1と同様の方法で目的の材料を得た。
【0049】
<比較例2>
実施例1においてメチルシリケート:シランカップリング剤=35:5(有効固形分比)にした以外は実施例1と同様の方法で目的の材料を得た。この場合、機能性層にはその固形分に対して9質量%の有機物(シランカップリング剤)を含有するものである。
【0050】
<比較例3>
実施例1においてメチルシリケート:シランカップリング剤=1:5(有効固形分比)になるよう混合し、さらにシリカゾルをバインダー樹脂に対して有効固形分で樹脂:シリカゾル=3:2になるように加えた以外は、実施例1と同様の方法で目的の材料を得た。この場合、機能性層にはその固形分に対して41質量%の有機物(シランカップリング剤)を含有するものである。
【0051】
[塗膜性能の評価]
機能性層の主機能(反射率)を評価した。すなわち、分光光度計により機能性層の5°正反射の反射率を測定し、その最小値を最小反射率として評価した。
【0052】
また、紫外線照射後の親水性能を評価した。すなわち、中心波長365nmのブラックライトを用いて、紫外線を1mW/cmの強度で96時間照射した後の水に対する機能性層の接触角を測定した。
【0053】
また、膜表面(機能性層表面)の耐摩耗性を評価した。接地部が5×20mmの先端に布を貼り付け、荷重500gをかけて100回膜表面を擦り、試験後の傷の状態を目視観察した。
【0054】
◎:傷なし、○:傷5本以下、△:傷5〜10本、×:傷10本以上
評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例1〜5、比較例1〜3とも機能性層である反射防止層の効果は十分に発現されているが、紫外線照射による表面親水性に関しては実施例1〜5が良好であり、比較例1、2においてはUV照射前と照射後の接触角がほとんど変化なく、ほとんど親水性が得られていない。比較例3ではUV照射後の親水性は得られているが、膜(機能性層)の耐摩耗性がまったくなく、実用に耐えないレベルである。
【0057】
従って、本発明では表面の機能性層の効果を保ちつつ、かつ実用に耐えうるレベルの耐摩耗性を確保しつつ、光触媒性能を付与した複合層の形成が可能である。
【0058】
<実施例6>
実施例1記載のアクリルフィルムの基材を用いた複合材を、建物の窓ガラスの両面に粘着剤にて貼り付けて複合材付の建築構造物の窓を得た。
【0059】
<実施例7>
厚み5mmのガラス板に実施例1と同様の光触媒層と機能性層とを形成し、窓ガラスの部材とした。これを建築構造物の開口部に嵌め込んで複合材付の建築構造物の窓を得た。
【0060】
<実施例8>
実施例1において、光触媒層の光触媒の含有量を固形分に対して19質量%とし、複合材を形成した。この複合材を実施例6と同様に窓ガラスの両面に粘着剤にて貼り付けて複合材付の建築構造物の窓を得た。
【0061】
<実施例9>
実施例1において、光触媒層の光触媒の含有量を固形分に対して20質量%とし、複合材を形成した。この複合材を実施例6と同様に窓ガラスの両面に粘着剤にて貼り付けて複合材付の建築構造物の窓を得た。
【0062】
<実施例10>
実施例1において、光触媒層の光触媒の含有量を固形分に対して80質量%とし、複合材を形成した。この複合材を実施例6と同様に窓ガラスの両面に粘着剤にて貼り付けて複合材付の建築構造物の窓を得た。
【0063】
<実施例11>
実施例1において、光触媒層の光触媒の含有量を固形分に対して80質量%とし、複合材を形成した。この複合材を実施例6と同様に窓ガラスの両面に粘着剤にて貼り付けて複合材付の建築構造物の窓を得た。
【0064】
<比較例4>
実施例1において、アクリルフィルムの基材に反射防止層を直接形成し、光触媒層の無い反射防止フィルムを形成した。この反射防止フィルムを実施例6と同様に窓ガラスの両面に粘着剤にて貼り付けて反射防止フィルム付の建築構造物の窓を得た。
【0065】
<比較例5>
実施例6において、複合材を貼り付ける前の建築構造物の窓を用いた。
【0066】
[防汚性能の評価]
3ヶ月後の窓ガラスの汚染を色差計により測定し、色差ΔEで評価した。また、色差測定後に霧吹きにより水をかけて表面濡れ性の評価を行った。尚、ΔEが小さいほど、防汚性能が高いことを示す。
○:噴霧した水が濡れ広がり、親水性を示す。
△:噴霧した水が濡れ広がるが、直ぐに広がりがなくなる。
×:噴霧した水が液滴状に付着し、撥水性を示す。
【0067】
[反射防止性能の評価]
夜間、室内側に照明を点灯し、窓ガラスに対して室内側で3m離れた位置からその窓ガラスを通して屋外の景色を見た場合の見え方について評価を行った。
○:室内のもの(評価している人も含む)が映り込まずに屋外の景色が見える。
△:室内のもの(評価している人も含む)が映り込まないが、汚れで屋外の景色が見えにくい。
×:室内のもの(評価している人も含む)が映り込んで、屋外の景色が見えない。
【0068】
[耐久性の評価]
上記[防汚性能の評価]を行った後の光触媒層の脱落を評価した。
○:脱落がないもの。
△:実用上問題がないが、微細な脱落が若干見られるもの。
×:大きな脱落が見られるもの。
【0069】
評価結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【符号の説明】
【0071】
1 基材
2 光触媒層
3 機能性層
4 有機物
5 疎の部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に光触媒層と機能性層を形成して製造する複合材の製造方法において、基材の表面に光触媒を含有する光触媒層を形成した後、その表面に光触媒で分解可能な有機物を含有する機能性層を形成する工程と、機能性層に光を照射して光触媒層中の光触媒を活性化させ機能性層中の有機物を分解する工程とを有し、機能性層中の有機物の含有量が10〜40質量%であることを特徴とする複合材の製造方法。
【請求項2】
機能性層は光触媒層よりも屈折率が低い層であることを特徴とする請求項1に記載の複合材の製造方法。
【請求項3】
前記光触媒で分解可能な有機物が有機基を有するシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材の製造方法。
【請求項4】
前記光触媒で分解可能な有機物が有色であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の複合材の製造方法。
【請求項5】
基材の表面に光触媒層を介して機能性層が形成された複合材であって、光触媒層はバインダー成分として一般式(RSi(OR4−n(n=0〜2)からなるシリコーン樹脂と、固形分で20〜80質量%の光触媒とからなり、機能性層は有機基を有するシランカップリング剤を10〜40質量%含有して成ることを特徴とする複合材。
【請求項6】
前記基材を透明ガラス基材あるいは透明プラスチック基材とし、ショーウィンドウ、ショーケース、建築構造物の窓、車両用の窓のいずれかを構成する部材として形成して成ることを特徴とする請求項5に記載の複合材。
【請求項7】
前記基材を透明プラスチックフィルムとし、該基材の光触媒層及び機能性層を形成した面とは反対側の面がショーウィンドウ、ショーケース、建築構造物の窓、車両用の窓のいずれかに貼付されることを特徴とする請求項5に記載の複合材。


【図1】
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【公開番号】特開2010−99651(P2010−99651A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107075(P2009−107075)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】