説明

複合材料および装飾品

【課題】耐食性に優れた、ピンク色の複合材料および装飾品を提供する。
【解決手段】本発明は、Ptを主成分とする第1相と、少なくともCuおよびAuを含み、PdおよびAgをさらに含む第2相と、を有している複合材料、およびその複合材料を少なくとも一部に有する装飾品に関する。前記第2相におけるAu、PdおよびAgの組成は、それらの質量比率を、それぞれX質量%、Y質量%およびZ質量%とし、かつ(X+Y+Z=100)としたとき、三元ダイヤグラムにおける6点(X,Y,Z)=(90,10,0),(80,20,0),(78,16,6),(78,6,16),(80,0,20),(90,0,10)で囲まれる範囲(ただし、点(X,Y,Z)=(90,10,0)と点(X,Y,Z)=(80,20,0)を結ぶ直線上の値、及び、点(X,Y,Z)=(80,0,20)と点(X,Y,Z)=(90,0,10)を結ぶ直線上の値を除く)にあるとするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PtおよびCuを含む複合材料、この複合材料を少なくとも一部に使用した装飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Pt合金としては、Pt−Pd合金、Pt−Pd−Cu合金、Pt−Pd−Ru合金、Pt−Pd−Co合金、Pt−Ru合金、Pt−Co合金、あるいはPt−Ir合金などがある。これらのPt合金は、宝石とのマッチングが良好である白系色を呈している。その一方で、Ptは、銀(Ag)に比べてかなり低い反射率を示しており、その清楚な輝き、また、その価格が金(Au)より高く、かつ希少性も認められることから、好まれて宝飾品に用いられている。
【0003】
近年嗜好の多様化により、Ptに関しても金装飾品や銀装飾品と同様に多色化が求められている。例えばピンク色は、銀装飾品においても見られるとおり、女性から多くの支持を集めており、Ptについてもピンク色は装飾品の登場を望まれている。一方、Ptとアルミニウム(Al)との金属間化合物PtAlにCuを添加し、あるいはPt・Al・Cuを一緒に溶融させることにより、種々の色の発現させることも試みられている(たとえば特許文献1参照)。より具体的には、特許文献1には、Cuの添加量を1〜8質量%とすることにより黄色化合物が、Cuの添加量を8〜15質量%とすることにより褐色化合物が、Cuの添加量を20〜30質量%とすることにより赤褐色(桃色がかったふじ色)が得られる旨が記載されている。
【0004】
また、基材に形成した段差の表面に、透明硬質膜として酸化アルミニウムを一様に形成することで色調を調整する装飾用部材が記載されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平3−158430号公報
【特許文献2】特開平4−344300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に記載の金属材料は、PtとAlとの金属間化合物PtAlにCuを添加したもの、あるいはPt・Al・Cuを一緒に溶融させて形成したものであるため、その全体が金属間化合物であると考えられる。このような金属間化合物は、反射率の波長依存性において、複数の波長が混在した色になるため、所望の色にならない。
【0006】
また、特許文献2に記載の装飾用部材では、基材と透明硬質膜の材質が大きく異なるので、透明硬質膜と酸化アルミニウムとの密着性が悪い。さらに、膜厚の分布が局所的に異なるので、局所的な内部応力が発生して剥がれやすい。
【0007】
本発明は、耐食性に優れた、ピンク色の複合材料および装飾品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に鑑みて本発明は、Ptを主成分とする第1相と、少なくともCuおよびAuを含み、PdおよびAgをさらに含む第2相と、を有していることを特徴とする。
【0009】
さらに、前記第2相におけるAu、PdおよびAgの組成は、それらの質量比率を、それぞれX質量%、Y質量%およびZ質量%とし、かつ(X+Y+Z=100)としたとき、三元ダイヤグラムにおける6点(X,Y,Z)=(90,10,0),(80,20,0),(78,16,6),(78,6,16),(80,0,20),(90,0,10)で囲まれる範囲(ただし、点(X,Y,Z)=(90,10,0)と点(X,Y,Z)=(80,20,0)を結ぶ直線上の値、及び、点(X,Y,Z)=(80,0,20)と点(X,Y,Z)=(90,0,10)を結ぶ直線上の値を除く)にあることを特徴とする。
【0010】
さらに、前記第1および第2相のうちの一方の相は、他方の相の周囲に配置されている、ことを特徴とする。
【0011】
さらに、前記複数の第2相は、前記第1相内に配置されている、ことを特徴とする。
【0012】
さらに、前記複数の第1相は、前記第2相内に配置されている、ことを特徴とする。
【0013】
さらに、前記第1相と前記第2相との間において両相に接し、PtとCuとにより形成された金属間化合物を含む第3相をさらに有している、ことを特徴とする。
【0014】
さらに、前記第3相は、前記第1相または前記第2相を被覆している、特徴とする。
【0015】
さらに、前記第1相中に含まれるPtの総量は、全組成の25質量%以上75質量%以下である、ことを特徴とする。
【0016】
さらに、前記第2相に含まれるCuの総量は、第2相の全組成の20質量%以上80質量%以下である、ことを特徴とする。
【0017】
さらに、前記複合材料により形成された複合材料領域を有する装飾品であることを特徴とする。
【0018】
さらに、前記第2相および前記第3相の少なくとも一部は表面より露出している、ことを特徴とする。
【0019】
さらに、前記第2相の露出部は前記第3相の露出部によって囲まれている、ことを特徴とする。
【0020】
さらに、前記複合材料領域は、少なくとも直径1mmの円で規定される領域を有している、ことを特徴とする。
【0021】
さらに、前記複合材料領域は、少なくとも表面より1mmの深さの領域まで形成されている、ことを特徴とする。
【0022】
さらに、前記複合材料領域の表面に酸化アルミニウムからなる被覆層を形成したことを特徴とする。
【0023】
さらに、前記酸化アルミニウムが非単結晶であることを特徴とする。
【0024】
さらに、前記被覆層の厚さが5〜50nmの範囲内であることを特徴とする。
【0025】
さらに、前記被覆層の平均屈折率は1.5〜2.5の範囲内であることを特徴とする。
【0026】
さらに、前記被覆層の屈折率は前記複合材料領域の表面側が高いことを特徴とする。
【0027】
さらに、前記酸化アルミニウムのアルミニウムに対する酸素の原子比率は25〜75%であることを特徴とする。
【0028】
さらに、前記被覆層の酸素濃度は前記複合材料領域の表面側が低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る複合材料によれば、Ptを主成分とする第1相と、CuおよびAuを含み、かつAgおよびPdをさらに含む第2相と、を有しているため、耐食性(耐硫化性)の良好な複合材料を提供することができる。すなわち、第2相においては、イオン化傾向がCuおよびPtよりも小さいAuを所定量含んでいるために、複合材料全体としての耐食性が向上する。また、第2相において、イオン化傾向がCuとPtの間であるAgまたはPdを含ませることにより、PtとCuのイオン化傾向の相違に基づく電池効果、すなわちCuからPtへの電子の移動に基づくCuのイオン化を抑制し、耐食性の悪化を抑制することができる。
【0030】
本発明において、前記第2相におけるCu、Au、AgおよびPdの組成が所定の範囲とされることにより、耐食性が良好なピンク系の色彩を有する複合材料を提供することができる。
【0031】
本発明に係る複合材料において、第1相および第2相に接する第3相をさらに有するものとすれば、第1相と第2相の間に金属間化合物を介在することになる。これにより、第1相のPtと第2相のCuとの間のイオン化傾向の相違に基づく電池効果の発生を、第3相の金属間化合物により抑制することができる。そのため、本発明の複合材料では、耐食性に優れたものとなるため、金属光沢を長期にわたって維持できるようになる。
【0032】
本発明において、Ptの含有量を25質量%以上75質量%以下とすれば、Ptの割合が比較的に高いためにPt品位を上げることができるので、Pt本来の金属光沢を呈するとともに耐食性に優れたものとなる。
【0033】
本発明において、前記第2相に含まれるCuの総量は、たとえば全組成(第2相の全組成)の20質量%以上80質量%以下とすれば、良好なピンク色とすることができるとともに、耐食性の悪化を抑制することができる。
【0034】
本発明に係る装飾品では、第1の側面に係る複合材料を含む複合材料領域を有している。本発明の装飾品では、少なくとも一部にPt本来の金属光沢を有するピンク色を付与できるため、耐食性を維持しつつ審美性を向上させることができる。
【0035】
本発明に係る装飾品において、複合材料領域を、第1相および第2相に接する第3相をさらに有するものとすれば、複合材料領域の耐食性を向上させることができるため、複合材料領域における金属光沢を長期にわたって維持できるようになる。とくに、指輪などの装飾品のように人肌に触れる装飾品においては、汗などにより腐食が進行しやすい状況にあるため、耐食性を向上させることの意義は大きい。
【0036】
また、本発明の装飾品によれば、耐食性、平滑性を付与することができる。
【0037】
またそれを保護するための被覆層として、特に非晶質の酸化アルミニウムを用いることで、応力を低くして形成することができるので、被覆層の剥離を低減しつつ、装飾品を保護することができる。さらに、被覆層のアルミニウムが酸化して非晶質となっていることから、基材と被覆層との間での電池効果による腐食を防止することができる。
【0038】
さらに、この被覆層の屈折率と厚さを変化させることにより、装飾品の色相、明度、および彩度を適当に変化させることができ、遊色効果も期待でき、美しくバラエティに富んだ装飾品の提供が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下においては、本発明に係る装飾品および複合材料について、指輪を例にとって図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明に係る複合材料の適用対象である装飾品、あるいは本発明に係る装飾品は、指輪に限定されるものではない。
【0040】
図1(a)および図1(b)に示した指輪1は、リング状の部分の全体が複合材料2によって形成されたものである。図2に示したように、本発明の一実施形態は複合材料20は、第1相21、第2相22、および第3相23を有しており、複合材料20では、第1相21がPtを主成分とし、第2相22がCuおよびAuを含み、PdおよびAgをさらに含んでいる。
【0041】
第1相21は、複合材料2の母材となるものであり、プラチナ(Pt)を主成分としている。第1相21中に含まれるPtの総量は、たとえば全組成の25質量%以上75質量%以下とされている。第1相21中に含まれるPtの総量全組成の25質量%以上75質量%以下であれば耐食性が高くピンク発色が容易である。すなわち、Ptの総量が25質量%以上であれば、後述する第2相22の主成分である銅(Cu)の比率を小さく抑えることができるので、PtとCuとの間の電池効果によって耐食性が悪化することなく、また色合いが銅の色に近くなることもない。一方、Ptの総量が75質量%以下であれば、Cuの比率が小さくならないので、ピンク色とすることができる。
【0042】
第1相21のPt質量は、EDS(エネルギー分散型X線分析)定量分析によって計算することができる。すなわち、表面から数μmの深さ領域より発生する特性X線を検出して各元素の分析を行い、そのピーク強度から組成を計算することができる。
【0043】
第2相22は、第1相21中に分散されたものであり、銅(Cu)および金(Au)を含んでおり、パラジウム(Pd)および銀(Ag)のうちの少なくとも一方をさらに含んでいる。この第2相22の存在により、複合材料2はPtに加えてCuを含んだものとなり、その表面において第2相22の一部が露出するためにピンク色となる。また、複合材料2は、第2相22を第1相21中に分散させたものであるため、複合材料2の全体が金属間化合物とはなっていない。そのため、複合材料2は、鋳造法によって得られるPt−Cu材料のように全体が金属間化合物とされている場合に比べて靭性が小さくなっており、第2相22の存在によって加工性が向上する。
【0044】
第2相22におけるCuの組成は、第2相の全組成に対して20質量%以上80質量%以下とされる。Cuの総量が80質量%を以下であれば、PtとCuとの間の電池効果によって耐食性が悪化することもなく、また色合いが銅の色に近くなることもない。また、Cuの総量が20質量%を以上であれば、ピンク色を維持するのに十分である。
【0045】
また、第2相22におけるAu、PdおよびAgの組成は、それらの質量比率を、それぞれX質量%、Y質量%およびZ質量%とし、かつ(X+Y+Z=100)としたとき、図3および図4に示した三元ダイヤグラムにおける6点(X,Y,Z)=A(90,10,0),B(80,20,0),C(78,16,6),D(78,6,16),E(80,0,20),F(90,0,10)で囲まれる範囲(ただし、点(X,Y,Z)=(90,10,0)と点(X,Y,Z)=(80,20,0)を結ぶ直線上の値、及び、点(X,Y,Z)=(80,0,20)と点(X,Y,Z)=(90,0,10)を結ぶ直線上の値を除く)とするのが好ましい。なお、図3は、Au、PdおよびAgの質量比率を基準とした三元ダイヤグラムであり、図4は図3における網掛け部分を拡大して示した三元ダイヤグラムである。
【0046】
ここで、図4におけるB−C−D−E線よりもAuが少ない側(B−C−D−E線の下側)は、第2相22における最もイオン化傾向の大きなAu量が少なくなり、腐食を適切に抑制できないため好ましくない。そのため、耐食性を良好なものとするために、B−C−D−E線よりもAu量が多い側(B−C−D−E線の上側)の組成とすることが好ましい。
【0047】
一方、A−F線よりもAuが多い側(A−F線の上側)は、第2相22において、Au量が増す一方でPd量およびAg量が減るために、第2相22の色合いがピンク色から離れていき、求める淡ピンク色とならない。そのため、色を良好な淡ピンクとするために、A−F線よりもAuが少ない側(A−F線の下側)の組成とすることが好ましい。
【0048】
したがって、第2相22の組成は、Au、PdおよびAgに関しては、複合材料の耐食性を良好なものとしつつ、所望の淡ピンクを得るためには、図4に示した三元ダイヤグラムにおいて、A,B,C,D,E,Fの6点によって囲まれる範囲(境界線上を含む)に設定することが好ましい。
【0049】
第2相22のCu、Au、PdおよびAgの質量は、第1相21のPtの質量を測定する場合と同様に、EDS半定量分析によって計算することができる。
【0050】
図2から予想されるように、指輪1において、第2相22の一部は表面に露出しており、このような露出部の直径(平均値)は、5μm以上150μm以下であるのが好ましい。第2相22の露出部の直径が5μm以上であれば、複合材料2のピンク色が薄くならず、第2相22の直径が150μm以下であれば、第2相22の露出面積が大きくなることを抑制することができるので、長期間にわたって使用していると露出部が酸化されてしまう可能性を低減することができる。ここで第1相も露出すればプラチナの光沢を付与するとともに、耐食性に寄与することも期待できるので好ましい。
【0051】
なお、第2相22における露出部の直径(平均値)は任意の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)において得られる写真(SEM写真)にて算出することができる。SEMによる断面観察においては、断面に対して金蒸着を行なわずに、電子反射像によって結晶相を観察するのが好ましい。そうすれば、第1相21と第2相22との区別を確実にできるため、第2相22における露出部の直径を適切に算出することができる。
【0052】
第3相23は、複合材料2の耐食性の向上に寄与するものであり、金属間化合物により形成されている。この第3相23は、第1相21および第2相22の双方に接するものであり、複合材料2の内部においては第3相23が第2相22を被覆し、表面においては第3相の露出部が第2層22の露出部を取り囲むように配置されている。すなわち、第3相23は、第1相21と第2相22との間に介在している。このようにして金属間化合物である第3相23が第1相21と第2相22との間に介在することにより、第1相21のPtと第2相22のCuとの間のイオン化傾向の相違に基づく電池効果を抑制することができる。その結果、複合材料2は、耐食性に優れたものとなる。
【0053】
第3相23の金属間化合物は、典型的には、PtとCuが整数比で存在するものであり、たとえばPtCuあるいはPtCuとして存在する。また、第3相23には、Pt以外の貴金属とCuとの金属間化合物、たとえばPtAuが存在してもよい。PtとCu、PtとAuの比は整数比である方が、化学的に安定であるので好ましい。
【0054】
第3相23の厚みは、たとえば20μm以下とされ、好ましくは0.59μm以下とされる。第3相の厚みが0.59μm以下であれば、複合材料2を外形加工して宝飾品などを製作する際に、靭性の高い金属間化合物からなる第3相23の部分が他の部位と比べて研磨されにくくなることによって、表面に比較的大きな凹凸ができて光沢を出しにくくなるような傾向を低減できる。
【0055】
第3相23の厚み(露出面においては幅)は、複合材料2の任意の断面をSEMによって20×20μmの範囲を3500倍で撮影した断面SEM写真から算出することができる。より具体的には、第3相23の厚みは、第1相21および第2相22の双方の表面に対して垂直に交差する接線を含む部分を5箇所選択して、それらの箇所における第3相23における厚みをそれぞれ測定し、それらの平均値として算出することができる。
【0056】
複合材料2の表面における第3相23の面積比率は、任意の100μm×100μmの範囲において、1%以上10%以下とするのが好ましく、先の範囲における第3相23が第2相22を囲む割合は、第2相22の外周の長さに対して85%以上とするのが好ましい。
【0057】
図2に示した例では、Ptを主成分とする第1相21内に、Cuを含む複数の第2相22が配置されたものとなっているが、本発明の複合材料は、Cuを含む第2相を母材とし、この第2相内にPtを主成分とする複数の第1相が配置されたものであってもよい。この場合、第1相は、PtとCuとの金属間化合物である第3相により被覆されているのが好ましい。
【0058】
次に、本発明の複合材料2の製造方法を、放電プラズマ焼結法により指輪1のリング状部分を形成する場合を例にとって説明する。
【0059】
まず、Pt、Cu、Au、PdおよびAg(PdおよびAgのうちの一方については省略される場合もある)が所望の質量比率とされた粉末を混合して原料粉末とする。各元素は、金属単体の粉末として混合してもよいし、合金粉末として混合してもよい。
【0060】
原料粉末におけるPtの質量比率は、たとえば25質量%以上75質量%以下とされる。原料粉末におけるCuの質量比率は5質量%以上60質量%以下とされる。Au、PdおよびAgの合計質量比率は、たとえば5質量%以上60質量%以下とさる。Au、PdおよびAgの質量比率はまた、それぞれをX質量%、Y質量%およびZ質量%とし、かつ(X+Y+Z=100)としたとき、三元ダイヤグラムにおける6点(X,Y,Z)=A(90,10,0),B(80,20,0),C(78,16,6),D(78,6,16),E(80,0,20),F(90,0,10)で囲まれる範囲(ただし、点(X,Y,Z)=(90,10,0)と点(X,Y,Z)=(80,20,0)を結ぶ直線上の値、及び、点(X,Y,Z)=(80,0,20)と点(X,Y,Z)=(90,0,10)を結ぶ直線上の値を除く)とされる。
【0061】
次いで、混合粉末を焼結金型内に充填してリング形状に成形した後、この成形体に対して、真空雰囲気中で、たとえば焼成温度が200℃以上500℃以下、4V以上20V以下の低電圧でパルス状電流を印加する。これにより、成形体の粒子の間隙において、放電プラズマが瞬間的に発生し、成形体が焼結される。
【0062】
ここで、成形体を形成するときの成形圧力は、たとえば300MPa以上500MPa以下とされる。成形圧力が300MPaを下回る場合には、複合材料2に気孔が発生しやすく脆くなってしまい、成形圧力が500MPaを超える場合には、原料充填により応力集中を起こし、金型の破損へとつながることがある。焼成温度を200℃以上500℃以下とするのは、焼成温度が200℃以上であれば焼結不良となることを低減でき、焼成温度が500℃以下であれば過焼成となることを低減できる。一方、印加パルス電圧を4V以上20V以下とするのは、印加パルス電圧が4Vを以上であれば成形体の間隙において充分な放電が起こり、目的とするプラズマ状態が達成でき、印加パルス電圧が20V以下であれば異常放電が生じる可能性を低減することができるため、いずれの場合も目的とする組織状態が得られ易くなる。
【0063】
このような放電プラズマ焼結法では、高エネルギー密度とジュール熱を広く応用することにより、電力消費量が少なく効率の良い焼結が可能となる。そのため、昇温・保持時間を含めた焼結時間は、概ね5〜20分程度の比較的短時間となり、鋳造法のように、材料全体が金属間化合物となることもなく、Ptを主成分とする第1相21に、Cu、Au、PdおよびAgを含む複数の第2相22を分散させたものとすることができ、また第2相22を適当な厚みの金属間化合物の第3相23で被覆したものとすることができ、あるいは、Cu、Au、PdおよびAgを含む第2相に、Ptを主成分とする複数の第1相を分散させるとともに、第1相を適当な厚みの金属間化合物の第3相で被覆したものとすることができる。
【0064】
このようにして得られる指輪1(リング状の部分)は、Ptを主成分とする第1相21と、Cu、Au、PdおよびAgを含む第2相22と、を有しているとともに、第2相22におけるAu、PdおよびAgの組成は、それらの質量比率を、それぞれX質量%、Y質量%およびZ質量%とし、かつ(X+Y+Z=100)としたとき、三元ダイヤグラムにおける6点(X,Y,Z)=A(90,10,0),B(80,20,0),C(78,16,6),D(78,6,16),E(80,0,20),F(90,0,10)で囲まれる範囲(ただし、点(X,Y,Z)=(90,10,0)と点(X,Y,Z)=(80,20,0)を結ぶ直線上の値、及び、点(X,Y,Z)=(80,0,20)と点(X,Y,Z)=(90,0,10)を結ぶ直線上の値を除く)となる。すなわち、第2相においては、イオン化傾向がCuおよびPtよりも小さいAuを所定量含んでいるために、複合材料全体としての耐食性が向上する。また、第2相において、イオン化傾向がCuとPtの間であるPdおよびAgの両方を含ませることにより、PtとCuのイオン化傾向の相違に基づく電池効果、すなわちCuからPtへの電子の移動に基づくCuのイオン化を抑制し、耐食性の悪化を抑制することができる。
【0065】
指輪1(リング状の部分)はまた、第1相21内に第2相22が配置され、あるいは第2相内に第1相が配置され、第1相21および第2相22に接する第3相23をさらに有する複合材料2からなる。そのため、全体が金属間化合物相により形成された複合材料のように靭性が必要以上に高くなり過ぎることもなく、加工性に優れたものとなる。その結果、指輪1は、仕上げの表面加工などを容易に行なうことができ、また表面を鏡面加工とするのが容易であるため、Pt本来の金属光沢である清楚な輝きを維持したピンク色のものとすることができる。
【0066】
また、複合材料2が第1相21および第2相22に接する第3相23をさらに有している場合には、第1相21と第2相22の間に金属間化合物である第3相23が介在することになる。そのため、第1相21のPtと第2相22のCuとの間のイオン化傾向の相違に基づく電池効果の発生を、金属間化合物である第3相23により抑制することができる。その結果、指輪1は、耐食性がより一層高いものとなるため、Ptの金属光沢を長期にわたって維持できるようになる。とくに、指輪1などの装飾品のように人肌に触れる装飾品においては、汗などにより腐食が進行しやすい状況にあるため、耐食性を向上させることの意義は大きい。
【0067】
次に、装飾品の一部に複合材料層を形成した例について、図5に示した指輪を例にとって説明する。
【0068】
図5に示した指輪3は、芯材30の表面を複合材料層31によって被覆したものである。
【0069】
芯材30は、主として指輪3の形状を規定するものであり、たとえば内径が13〜22mm、外径が15〜24mm、厚みが2〜10mmのリング状に形成されている。このような芯材30は、たとえば鋳造法あるいは押し出し成形法により形成することができる。
【0070】
芯材30を形成するための材料としては、貴金属および卑金属をいずれをも使用することができる。ただし、材料コストなどを考慮する必要がある場合は、Ag、Feおよびそれらを含む合金を使用しても良い。
【0071】
複合材料層31は、図1を参照して説明した指輪1と同様に図2に示した組成状態を有する複合材料2により形成されている。すなわち、複合材料層31は、Ptを主成分とする第1相21内に、Cuを含む複数の第2相22が分散され、この第2相22がPtとCuとの金属間化合物を含む第3相23によって被覆された組織とされている(図2参照)。複合材料層31の厚みは、たとえば0.03〜0.1μmとされている。もちろん、複
合材料層31は、Cuを含む第2相内に、Ptを主成分とする第1相が分散され、この第1相がPtとCuとの金属間化合物を含む第3相によって被覆された組織であってもよい。
【0072】
この複合材料層31もまた、第2相22においてCu、Au、PdおよびAgを含んでいるとともに、Au、PdおよびAgの組成は、それらの質量比率を、それぞれX質量%、Y質量%およびZ質量%とし、かつ(X+Y+Z=100)としたとき、三元ダイヤグラムにおける6点(X,Y,Z)=A(90,10,0),B(80,20,0),C(78,16,6),D(78,6,16),E(80,0,20),F(90,0,10)で囲まれる範囲(ただし、点(X,Y,Z)=(90,10,0)と点(X,Y,Z)=(80,20,0)を結ぶ直線上の値、及び、点(X,Y,Z)=(80,0,20)と点(X,Y,Z)=(90,0,10)を結ぶ直線上の値を除く)とされている。
【0073】
このような指輪3は、予め形成しておいた芯材30を、Pt、Cu、Au、PdおよびAg(PdまたはAgは省略される場合がある)との混合粉末によってインサートした成形体を形成した後に、この成形体を放電プラズマ焼結法により焼成することにより形成することができる。
【0074】
このようにして得られる指輪3においても、図2に示した組織状態の複合材料2からなる複合材料層31、あるいは第2相内に第3相により被覆された第1相が分散された複合材料層31が表面に形成される。
【0075】
次に、本発明に係る装飾品の他の例について、図6ないし図10を参照して説明する。
【0076】
図6に示した首飾り4は、ヘッド40およびチェーン41を備えたものであり、ヘッド40およびチェーン41のうちの少なくとも一方は、少なくとも表層が先に説明した指輪1,3(図1ないし図3参照)と同様な組成および組織状態の複合材料層とされている。
【0077】
ヘッド40あるいはチェーン41は、全体が本発明の複合材料により形成されていてもよく、芯材の表面を本発明の複合材料により被覆したものであってもよい。ヘッド40あるいはチェーン41において芯材の表面に複合材料層を形成する場合には、複合材料層の厚みは、たとえば0.03〜0.1μmとされる。
【0078】
首飾り4においては、ヘッド40およびチェーン41の形態は種々に変更可能であり、またヘッド40を省略してネックレスとして構成してもよい。
【0079】
図7に示したブレスレット5は、複数のピース50をリング状に連結したものであり、各ピース50の少なくとも表層が先に説明した指輪1,3(図1ないし図3参照)と同様な組成および組織状態の複合材料層とされている。ピース50は、全体が本発明の複合材料により形成されていてもよく、芯材の表面を本発明の複合材料により被覆したものであってもよい。ピース50において芯材の表面に複合材料層を形成する場合には、複合材料層の厚みは、たとえば0.03〜0.1μmとされる。
【0080】
ブレスレット5は、ピース50の形状については種々に変更可能であり、また本発明のブレスレットは、必ずしも複数のピースにより構成されている必要もない。
【0081】
図8に示した時計6は、ベルト60の少なくとも表層が先に説明した指輪1,3(図1ないし図3参照)と同様な組成および組織状態を有する複合材料層とされている。ベルト60は、全体が本発明の複合材料により形成されていてもよく、芯材の表面を本発明の複合材料により被覆したものであってもよい。時計6においては、側縁61が本発明の複合材料により形成されていてもよく、この場合にも、側縁61は、全体が本発明の複合材料により形成されていてもよく、芯材の表面を本発明の複合材料により被覆したものであってもよい。ベルト60または側縁61において芯材の表面に複合材料層を形成する場合には、複合材料層の厚みは、たとえば0.03〜0.1μmとされる。
【0082】
時計6は、ベルト60および側縁61などの形状については種々に変更可能であり、図示した以外の形態の時計についても本発明を適用することができる。
【0083】
図9に示したメガネ7は、フレーム70の少なくとも表層が先に説明した指輪1,3(図1ないし図3参照)と同様な組成および組織状態の複合材料層(以下、このように複合材料が形成されている領域を複合材料領域という)とされている。フレーム70は、全体が本発明の複合材料により形成されていてもよく、芯材の表面を本発明の複合材料により被覆したものであってもよい。フレーム70において芯材の表面に複合材料層を形成する場合には、複合材料層の厚みは、たとえば0.03〜0.1μmとされる。
【0084】
メガネ7は、フレーム70などの形状については種々に変更可能であり、図示した以外の形態の時計についても本発明を適用することができる。
【0085】
前記複合材料領域は、少なくとも直径1mmの円で規定される領域を有していると、肉眼で発色として確認しやすくすることができる。
【0086】
前記複合材料領域は、少なくとも表面より1mmの深さの領域まで形成されていると、研磨を繰り返しても面内で色むらが発生することを低減できる。
【0087】
図10に示した万年筆8は、ペン先80の少なくとも一方の表層が先に説明した指輪1,3(図1ないし図4参照)と同様な組成および組織状態の複合材料層とされている。ペン先80は、全体が本発明の複合材料により形成されていてもよく、芯材の表面を本発明の複合材料により被覆したものであってもよい。ペン先80において芯材の表面に複合材料層を形成する場合には、複合材料層の厚みは、たとえば0.03〜0.1μmとされる。万年筆8においては、ペン先80に加えて、あるいはペン先80に代えて、クリップ81などの他の部位における少なくとも表層を、複合組織層として形成してもよい。
【0088】
万年筆8は、ペン先80およびクリップ81などの形状については種々に変更可能であり、図示した以外の形態の時計についても本発明を適用することができる。
【0089】
また、図6ないし図10に示した装飾品、すなわち首飾り4、ブレスレット5、時計6、メガネ7および万年筆8における複合材料層は、Cuを含む第2相内に、Ptを主成分とする第1相が配置され、この第1相がPtとCuとの金属間化合物を含む第3相によって囲まれた組織状態のものであってもよく、PtとCuとの金属間化合物を含む第3相が実質的に存在しない組織状態のものであってもよい。
【0090】
本発明は上述した実施の形態には限定されず、種々に変更可能である。たとえば、複合材料2(複合材料層6)の第3相23は、用途に応じた耐食性及び強度が確保できる限りは省略してもよく、また第3相23は、成形体の形成条件や焼成条件を適宜設定することにより、放電プラズマ焼結法以外の方法により生成させてもよい。たとえば、多少のボイドが発生するものの、真空焼成などにより1.33×10-2Paの真空条件下で500℃まで徐々に昇温し、この温度で30分間焼成することによっても生成することができる。
【0091】
さらに、複合材料領域の表面に酸化アルミニウムからなる被覆層を形成するとよい。この被覆層は、例えばアルミニウムをターゲット材として、アルゴンガス雰囲気下での酸素ガス混入による反応性スパッタリングなどにより形成が可能である。その際、アルゴンガス圧は1Pa程度,酸素ガス流量は10sccmとし、DC電力を100〜500Wで制御しながら成膜速度を管理することで、好適な被覆層を形成することができる。つまり、硬度の高い透明な酸化アルミニウムが形成可能であるので、傷がつきにくく、しかも耐候性に優れた常に美しい装飾品を提供することができる。
【0092】
前記酸化アルミニウムを非単結晶にすると、さらに好適な被覆層にすることができる。ここで、酸化アルミニウムを非単結晶とするには、酸素ガス流量を所定量よりも低く抑えるか、DC電力を高くして、アルミニウムに対する酸素の原子比率を酸化アルミニウムの定比より低くすることで形成が可能である。このように、被覆層を非単結晶酸化アルミニウムに形成することにより、へき解による被覆層の剥離を防止することができ、この効果は被覆層を結晶粒界のない非晶質酸化アルミニウムとすることで顕著であり、信頼性の高い装飾品を提供することができる。
【0093】
また、前記被覆層の厚みが特に5〜50nmの範囲内であれば、装飾品の表面に傷がつくことを防止できる厚みを確保しつつ、厚すぎて被覆層のそり量が大きくなることによる剥離の防止が可能である。
【0094】
特に従来技術と比較すれば、本発明の被覆層は均一な膜を形成するようにしているので、局所的な応力が発生することがない。応力は被覆層を形成するときの熱や膜自体の密度差で発生するが、本発明ではDC反応性スパッタを用いており、DC電力を低く抑えて発熱を低減することができ、また特に、徐々に酸素流量を変化させることで、急激に膜密度が変化することを避けることができるので、応力差の発生を低減することができるというものである。
【0095】
また、本発明は純粋なアルミニウムの層は存在せず、特に化学的に安定な非晶質の酸化アルミニウムを好ましく用いているので、急激に腐食が進むことはない。
【0096】
また、前記被覆層の平均屈折率は特に1.5〜2.5の範囲内であるとよい。この平均屈折率は一般的に使用される市販のエリプソメータを用いて、平坦な被覆層に対してレーザを照射することで測定し求めることが可能である。
【0097】
なお、平均屈折率の測定にはエリプソメーター(アルバック製ESM−1型)を使用するが、測定サンプルは対象となる装飾品を鏡面加工した平板に、被覆層100nmを形成したものを用いる。あるいは、石英ガラス基板の主面上に被覆層を形成して、反対面側に黒色塗料を測定光が透過しない程度に塗布したものでもよい。
【0098】
なお、5nmのように薄い被覆層を形成する場合でも、100nmの厚さの測定サンプルを作成して平均屈折率を事前評価することになる。
【0099】
また、酸素濃度やDC電力を経時的に変化させるような場合は、経過時間の中間点での成膜条件によって、測定サンプルを形成することになる。
【0100】
ここで、被覆層の平均屈折率は酸化アルミニウムにおける酸素量が多くなれば低くなる傾向があるので、被覆層の形成の際の酸素ガス流量とDC電力のいずれかを制御することにより管理が容易である。平均屈折率は特に1.5〜2.5の範囲内であれば、被覆層は透過率が高く、かつ反射率と吸収係数が低い透明な状態を維持しつつ、所定の屈折率を維持していることにより、装飾品自体の色相を変化させずに明度および彩度を強調させることが可能であり、これにより美しくバラエティに富んだ装飾品の提供が可能である。
【0101】
また、被覆層の屈折率は複合材料領域の表面側が高い(または、酸素濃度が複合材料領域の表面側が低い)とよい。このようにするには、被覆層の成膜開始時点での酸素ガス流量を少なくしておくか、DC電力を大きくしておくことで可能である。これにより、被覆層における複合材料領域の表面側の界面においてアルミニウムがリッチとなるので、金属である複合材料領域の表面と被覆層のアルミニウムリッチの面との結合をより強固にすることが可能であり、密着性向上による剥離防止が可能となる。これにより、いっそう信頼性の高い装飾品の提供が可能である。
【0102】
また、被覆層のアルミニウムに対する酸素の原子比率を25〜75%とすることで、非単結晶の結晶粒界の少ない酸化アルミニウムコートにより、被覆層の複合材料領域からの剥離が防止された信頼性に優れた装飾品を提供できる。
【0103】
さらに、この被覆層の屈折率と厚さを変化させることにより、装飾品の色相、明度、および彩度を適当に変化させることができ、遊色効果も期待でき、美しくバラエティに富んだ装飾品の提供が可能である。
【0104】
本発明は、上述した指輪、首飾り、ブレスレット、時計およびメガネに限らず、他の装飾品の一部または全部として適用することができる。本発明を適用することができる他の装飾品としては、たとえば食器、置物、ゴルフクラブ、携帯電話、あるいはボタンなどを挙げることができる。また、本発明の複合材料は、装飾品に限らず、PVD(物理気相成長)法による成膜におけるターゲット材料として使用することもできる。
【実施例1】
【0105】
本実施例では、Pt、Cu、Au、PdおよびAg(PdまたはAgは含まれない場合もある)を含む複合材料より得られた試料について、色、耐食性(耐硫化性)、変色性および生産性を評価した。
【0106】
(試料の作製)
試料は、下記表1に記載の組成の混合粉末を焼結金型において直径10mmのタブレット状に成形した後、放電プラズマ焼結法により焼成することにより形成した。第1相(Pt)と第2相(Cu,Au,Pd,Ag)の質量比率は50質量%:50質量%とした。
【0107】
また、第2相(Cu,Au,Pd,Ag)におけるCuと、その他の組成(Au,Pd,Ag)の合計質量と、の質量比率は50質量%:50質量%とした。
【0108】
放電プラズマ焼結は、1.33×10−2Paの真空雰囲気にて、40℃/分の速度で500℃まで昇温し、10分間焼成することにより行なった。
【0109】
(色の評価)
色の評価は、放電プラズマ焼結後の試料にバフ研磨を施した後に、目視により、市販のピンクシルバー(京セラ株式会社製PSV)と色あいを比較することにより行なった。試料のバフ研磨は、面布に酸化アルミニウム砥粒を付着させたハブを用いるとともに、研磨液として有機溶剤を供給しながら、このバフをベルト上で回転させながら対象物に押し当てて表面を磨くことにより行なった。バフ研磨後の試料の算術平均表面粗さは、0.04〜0.07μmRaの範囲となるようにした。色の評価結果は、下記表1および図11に示した。下記表1においては、ピンクシルバーと比較して同等以上のピンク色の発色があったものにはO印を、またピンク色の発色がなかったものには×印を付してある。図11においては、ピンクシルバーに比較して同等以上のピンク色の発色があったものにはO印を、ピンク色の発色がなかったものには●印を付してある。
【0110】
(耐食性の評価)
試料の耐食性は、バフ研磨した試料を人口汗に半浸漬させて40±5℃の雰囲気にて2時間放置した後に変色の度合い、表面の状態を目視により確認することにより行なった。
【0111】
人口汗は、食塩9.2g/リットル、硫化ナトリウム0.8g/リットル、尿素1.7g/リットル、アンモニア水0.18ミリリットル/リットル、ショ糖0.22g/リットル、乳酸1.1ミリリットル/リットル、純水1リットルにより作製した。
【0112】
耐食性の評価結果は、下記表1および図12に示した。下記表1においては、色調に変化が全くないものには○印を、また変色や黒色化があったものには×印を付した。図121においては、色調に変化が全くないものには○印を、また変色や黒色化があったものには●印を付した。
【0113】

【表1】

【0114】
表1から分かるように、色に関しては、試料番号12以外について良好なピンク色の発色が確認された。図11から分かるように、色について良好な結果が得られる第2相におけるAu、PdおよびAgの組成は、質量比率(三元ダイヤグラム)において、試料番号1,13,14,15,6の組成に対応する点によって囲まれる範囲(境界線上を含む)となった。
【0115】
表1から分かるように、耐食性に関しては、試料番号1〜9,12について良好な結果が得られた。図12から分かるように、色について良好な結果が得られる第2相におけるAu、PdおよびAgの組成は、質量比率(三元ダイヤグラム)において、試料番号1,2,3,4,5,6,12の組成に対応する点によって囲まれる範囲(境界線上を含む)となった。
【0116】
また、色および耐食性ともに良好な結果が得られたのは、試料番号1〜9となった。これらの試料1〜5は、表1から分かるように、変色もなく、生産性に優れたものでもあった。
【0117】
ここで、図13として、発色および耐食性の双方の結果同時に示した。図13においては、色および耐食性ともに良好な結果が得られたものについては○印を付してあり、色および耐食性のうちの一方でも好ましくない結果が得られたものについては●印を付してある。
【0118】
図13から分かるように、第2相におけるAu、PdおよびAgの組成は、耐食性に優れたピンク色の複合材料を得るためには、質量比率において、試料番号1の組成にほぼ対応する点A、試料番号2の組成にほぼ対応する点B、試料番号3の組成に対応する点C、試料番号4の組成に対応する点D、試料番号5の組成にほぼ対応する点E、および試料番号6の組成にほぼ対応する点Fによって囲まれる範囲(境界線上を含む)とするのが好ましい。より具体的には、第2相におけるAu、PdおよびAgの組成は、それらの質量比率を、それぞれX質量%、Y質量%およびZ質量%とし、かつ(X+Y+Z=100)としたとき、三元ダイヤグラムにおける6点(X,Y,Z)=A(90,10,0),B(80,20,0),C(78,16,6),D(78,6,16),E(80,0,20),F(90,0,10)で囲まれる範囲(ただし、点(X,Y,Z)=(90,10,0)と点(X,Y,Z)=(80,20,0)を結ぶ直線上の値、及び、点(X,Y,Z)=(80,0,20)と点(X,Y,Z)=(90,0,10)を結ぶ直線上の値を除く)とするのが好ましい。
【実施例2】
【0119】
本実施例では、第1相と第2相との組成比を変化させた試料について、色および耐食性(耐硫化性)を評価した。
【0120】
(試料の作製)
試料は、下記表2に示した組成の混合粉末を成型金型において直径10mmのタブレット状に成形した後、放電プラズマ焼結法により焼成することにより形成した。表2に示した各試料16〜20は、第1相と第2相との質量比率が異なるものであり、第2相における組成は一定である。
【0121】
放電プラズマ焼結は、1.33×10−2Paの真空雰囲気にて、40℃/分の速度で500℃まで昇温し、10分間焼成することにより行なった。
【0122】
色および耐食性の評価は、実施例1と同様にして行なった。色および耐食性の評価結果は、下記表2に示した。下記表2においては、色に関しては、ピンクシルバーよりも良好なピンク色の発色があったものにはO印を、またピンクシルバーと同程度のピンク色の発色があったものには△印を付してある。一方、下記表2においては、耐食性に関しては、色調に変化が全くないものには○印を、また変色や黒色化が若干認められるものの、実用上問題がない程度であったものには△印を付した。
【0123】

【表2】

【0124】
表2から分かるように、色に関しては、試料番号16〜19について良好なピンク色の発色が確認された。試料番号20については、ピンク色の発色が認められるものの、市販のピンクシルバーと同程度であった。
【0125】
一方、耐食性に関しては、試料番号17〜20について良好な結果が得られた。試料番号16については、実用上十分な耐食性は認められるものの、若干の変色が認められた。
【0126】
以上の結果から、複合材料における第1相の質量比率は、良好なピンク色の発色および耐食性を得るためには、試料番号16〜19の組成比である25質量%以上75質量%以下とするのが好ましいことがわかる。
【実施例3】
【0127】
本実施例では、第1相と第2相との組成比を変化させたと試料について、色および耐食性(耐硫化性)を評価した。
【0128】
(試料の作製)
試料は、下記表3に示した組成の混合粉末を焼結金型において直径10mmのタブレット状に成形した後、放電プラズマ焼結法により焼成することにより形成した。表3に示した各試料21〜25は、第1相と第2相との質量比率が同一なものであり、第2相におけるAu、PdおよびAgの質量比率を一定に保ちつつ、第2相におけるCuの質量比率を変えたものである。
【0129】
放電プラズマ焼結は、1.33×10−2Paの真空雰囲気にて、40℃/分の速度で500℃まで昇温し、10分間焼成することにより行なった。
【0130】
色および耐食性の評価は、実施例1と同様にして行なった。色および耐食性の評価結果は、下記表2に示した。下記表3においては、色に関しては、ピンクシルバーよりも良好なピンク色の発色があったものにはO印を、またピンクシルバーと同程度のピンク色の発色があったものには△印を付してある。一方、下記表3においては、耐食性に関しては、色調に変化が全くないものには○印を、また変色や黒色化が若干認められるものの、実用上問題がない程度であったものには△印を付した。
【0131】

【表3】

【0132】
表3から分かるように、色に関しては、試料番号22〜25について良好なピンク色の発色が確認された。試料番号21については、ピンク色の発色が認められるものの、市販のピンクシルバーと同程度であった。
【0133】
一方、耐食性に関しては、試料番号21〜24について良好な結果が得られた。試料番号25については、実用上十分な耐食性は認められるものの、若干の変色が認められた。
【0134】
以上の結果から、複合材料の第2相におけるCuの質量比率は、良好なピンク色の発色および耐食性を得るためには、試料番号22〜24の組成比である20質量%以上80重量%以下とするのが好ましいことがわかる。
【0135】
表2における試料番号18は実施例1における試料番号9と同一の組成のものである。
【0136】
表3における試料番号23は実施例1における試料番号9と同一の組成のものである。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】図1(a)は本発明に係る装飾品の一例である指輪の全体斜視図であり、図1(b)は図1(a)のIb−Ib線に沿う断面図である。
【図2】本発明に係る複合材料の組織状態の一例を示す模式図である。
【図3】本発明に係る複合材料を説明するための三元ダイヤグラムである。
【図4】図3に示した三元ダイヤグラムの一部を拡大して示した三元ダイヤグラムである。
【図5】本発明に係る装飾品の一例である指輪の他の例を示す断面図である。
【図6】本発明に係る装飾品の一例である首飾りを示す正面図である。
【図7】本発明に係る装飾品の一例であるブレスレットを示す正面図である。
【図8】本発明に係る装飾品の一例である時計を正面図である。
【図9】本発明に係る装飾品の一例であるメガネを示す全体斜視図である。
【図10】本発明に係る装飾品の一例である万年筆を示す正面図である。
【図11】実施例における色の評価結果を示す三元ダイヤグラムである。
【図12】実施例における耐食性の評価結果を示す三元ダイヤグラムである。
【図13】実施例における色・耐食性の双方の評価結果を示す三元ダイヤグラムである。
【符号の説明】
【0138】
1,3 指輪
2 複合材料
21,21′ 第1相
22,22′ 第2相
23,23′ 第3相
31 複合材料層(複合材料領域)
4 首飾り
5 ブレスレット
6 時計
7 メガネ
8 万年筆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ptを主成分とする第1相と、
少なくともCuおよびAuを含み、PdおよびAgをさらに含む第2相と、を有していることを特徴とする、複合材料。
【請求項2】
前記第2相におけるAu、PdおよびAgの組成は、それらの質量比率を、それぞれX質量%、Y質量%およびZ質量%とし、かつ(X+Y+Z=100)としたとき、三元ダイヤグラムにおける6点(X,Y,Z)=(90,10,0),(80,20,0),(78,16,6),(78,6,16),(80,0,20),(90,0,10)で囲まれる範囲(ただし、点(X,Y,Z)=(90,10,0)と点(X,Y,Z)=(80,20,0)を結ぶ直線上の値、及び、点(X,Y,Z)=(80,0,20)と点(X,Y,Z)=(90,0,10)を結ぶ直線上の値を除く)にある、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記第1および第2相のうちの一方の相は、他方の相の周囲に配置されている、請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記複数の第2相は、前記第1相内に配置されている、請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
前記複数の第1相は、前記第2相内に配置されている、請求項3に記載の複合材料。
【請求項6】
前記第1相と前記第2相との間において両相に接し、PtとCuとにより形成された金属間化合物を含む第3相をさらに有している、請求項1ないし5のいずれかに記載の複合材料。
【請求項7】
前記第3相は、前記第1相または前記第2相を被覆している、請求項6に記載の複合材料。
【請求項8】
前記第1相中に含まれるPtの総量は、全組成の25質量%以上75質量%以下である、請求項1ないし7のいずれかに記載の複合材料。
【請求項9】
前記第2相に含まれるCuの総量は、第2相の全組成の20質量%以上80質量%以下である、請求項1ないし8のいずれかに記載の複合材料。
【請求項10】
複合材料により形成された複合材料領域を有する装飾品であって、前記複合材料は、請求項1ないし9のいずれかに記載のものであることを特徴とする、
装飾品。
【請求項11】
前記第2相および前記第3相の少なくとも一部は表面より露出している、請求項10に記載の装飾品。
【請求項12】
前記第2相の露出部は前記第3相の露出部によって囲まれている、請求項11に記載の装飾品。
【請求項13】
前記複合材料領域は、少なくとも直径1mmの円で規定される領域を有している、請求項10ないし12のいずれかに記載の装飾品。
【請求項14】
前記複合材料領域は、少なくとも表面より1mmの深さの領域まで形成されている、請求項13に記載の装飾品。
【請求項15】
前記複合材料領域の表面に酸化アルミニウムからなる被覆層が形成されている、請求項10ないし14のいずれかに記載の装飾品。
【請求項16】
前記酸化アルミニウムが非単結晶である、請求項15に記載の装飾品。
【請求項17】
前記被覆層の厚さが5〜50nmの範囲内である、請求項15または16に記載の装飾品。
【請求項18】
前記被覆層の平均屈折率は1.5〜2.5の範囲内である、請求項15ないし17のいずれかに記載の装飾品。
【請求項19】
前記被覆層の屈折率は前記複合材料領域の表面側が高い、請求項15ないし18のいずれかに記載の装飾品。
【請求項20】
前記酸化アルミニウムのアルミニウムに対する酸素の原子比率は25〜75%である、請求項15ないし19のいずれかに記載の装飾品。
【請求項21】
前記被覆層の酸素濃度は前記複合材料領域の表面側が低い、請求項15ないし20のいずれかに記載の装飾品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−30156(P2009−30156A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18808(P2008−18808)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】