説明

複合溶接方法と複合溶接装置

【課題】 ワイヤにレーザビームが直接照射するよう前記レーザビームの光軸と前記ワイヤの中心軸とを配置し、レーザ・アーク間距離に応じてパルス周波数を設定する複合溶接方法と複合溶接装置に関する。
【解決手段】 レーザ・アーク間距離L0を設定するレーザ・アーク間距離設定手段17の設定値を入力してパルス周波数を設定するパルス周波数設定手段15と、前記パルス周波数設定手段15とパルス波形設定手段14の設定値を入力してパルスアーク溶接を行うパルスアーク発生手段13とを備え、前記レーザ・アーク間距離L0に応じてパルス周波数を設定することによって被溶接物6への入熱を低減させ、ギャップ裕度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶接物にレーザビームの照射とアーク溶接を行う複合溶接方法と複合溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は、エネルギー密度が高いため、高速で熱影響部の狭い溶接を行うことが可能である。しかし、被溶接物間にギャップがあると、例えば、突合せ継手ではレーザビームがそのギャップから抜けてしまい、被溶接物を溶接できなくなる恐れがあった。この問題を克服するために、消耗電極方式のアーク溶接との複合溶接方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
図8は従来の複合溶接装置の構成を示すブロック図である。1はレーザ発生手段で、レーザ発振器2とレーザ伝送手段3と集光光学系4とからなり、レーザビーム5を被溶接物6の溶接位置に照射する。前記レーザ伝送手段3は、光ファイバーであってもよく、レンズによって組み合わせた伝送系であってもよい。また、前記集光光学系4は、一枚あるいは複数のレンズから構成されてもよい。7はワイヤで、ワイヤ送給手段8によってトーチ9を通して前記被溶接物6の溶接位置に送給される。10はアーク発生手段で、溶接開始時には前記ワイヤ送給手段8を制御し、前記トーチ9を通して前記ワイヤ7を前記被溶接物6の溶接位置に向かって送給し、前記ワイヤ7と前記被溶接物6との間に溶接アーク11を発生するよう制御するが、溶接終了時には前記ワイヤ送給手段8によるワイヤ7の送給を停止させると共に、前記溶接アーク11を停止するよう制御する。12は制御手段で、図示していないが、外部から溶接開始または溶接終了命令を受けてから、前記レーザ発生手段1から発生するレーザビーム5の照射開始と終了タイミングを制御すると共に、前記アーク発生手段10から発生する溶接アーク11の放電開始と終了タイミングを制御する。前記制御手段12は、コンピュータを使用して構成してもよいが、コンピュータのような演算機能を有する部品、デバイス、装置あるいはそれらの組み合わせを使用してもよい。また、前記制御手段12としては、ロボットを使用してもよい。詳細の説明を省略するが、ロボットを使用する際には、前記ロボットのマニピュレータ部に前記集光光学系4と前記トーチ11とを固定して使用することができる。前記レーザ発振器2は、図示していないが、予め設定した所定のレーザ出力を出力するが、前記制御手段12で設定したレーザ出力の信号を受け、それを出力することができる。また、前記アーク発生手段10は、前記レーザ発生手段1と同様に、予め設定した所定のアーク出力値を出力するが、前記制御手段12で設定したアーク出力値の信号を受け、それを出力することができる。
以上のように構成された複合溶接装置の動作としては、溶接開始時には、溶接開始命令を受けた制御手段12はレーザ発生手段1にレーザ溶接開始信号を送り、レーザビーム5の照射を開始すると共に、アーク発生手段10にアーク溶接開始信号を送り、アーク放電を開始することによって溶接を開始するが、溶接終了時には、溶接終了命令を受けた制御手段12はレーザ発生手段1にレーザ溶接終了信号を送り、レーザビーム5の照射を終了すると共に、アーク発生手段10にアーク溶接終了信号を送り、アーク放電を終了することによって溶接を終了する。
【0003】
以上に示した複合溶接方法では、レーザ溶接とアーク溶接とをいかに配置するかは非常に重要であるため、従来から多数の提案があった。例えば、被溶接物の溶融速度向上に視点を置いてなされたものとしては、レーザ照射とアーク放電との間隔をアークがレーザと干渉しないよう所定の間隔を開けて配置したほうがよいというものがあった(例えば特許文献2参照)。また、開先溶接の開先中心位置倣い制御に視点を置いてなされたものとしては、溶接状態をセンシングすることによってレーザ照射点とアーク発生点間の距離を制御するものがあった(例えば特許文献3参照)。
【0004】
前述した従来の提案は、被溶接物の溶融速度の向上または倣い制御に視点を置いてなされたものであったが、レーザビームが直接にワイヤとかかわりそれを溶融することがなかった。したがって、その場合の溶接電流はほとんどアーク溶接の溶接電流のままであり、また、溶融池の大きさもアーク溶接の溶融池の大きさによってほぼ決まってしまう(非特許文献1)。そのため、被溶接物への投入熱量が大きく、大きな熱変形をもたらす恐れがあった。この問題を克服するために本発明の発明者は、レーザビームを直接にワイヤに照射してアークと共にそれを溶融することによってアーク電流を低減させ、溶融池の大きさを減少させる提案をすでに行っている(例えば未公開自社出願の特願2006−280059号参照)。しかし、前記本発明の発明者による提案は、アーク電流を減少させることに視点を置いて行ったため、レーザビームがワイヤに照射した場合のアーク溶接の溶接出力をいかに制御するかについては、その具体的方法まで提示していなかった。
【特許文献1】特開2002−336982号公報
【特許文献2】特開2002−346777号公報
【特許文献3】特開2007−920号公報
【非特許文献1】片山聖二、内海怜、水谷正海、王静波、藤井孝治、アルミニウム合金のYAGレーザ・MIGハイブリッド溶接における溶込み特性とポロシティの防止機構、軽金属溶接、44、3(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、レーザ・アーク間距離に応じてパルスアーク溶接のパルス周波数を制御することによって被溶接物への入熱を低減させ、ギャップ裕度を向上させる複合溶接方法と複合溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置にワイヤを送給して前記被溶接物との間でパルスアーク溶接を同時に行う複合溶接方法において、
前記レーザビームの光軸と前記ワイヤの中心軸を交わる位置に前記光軸と前記中心軸を配置し、前記光軸と前記被溶接物との交点と前記中心軸と前記被溶接物との交点との距離となるレーザ・アーク間距離に応じ、パルスアーク溶接におけるパルス電流とパルス幅とベース電流を所定の値にしたままレーザ・アーク間距離が長いほどパルス周波数を低く設定する複合溶接方法または、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射するレーザ発生手段と、トーチを介して前記溶接位置にワイヤを送給するワイヤ送給手段と、前記ワイヤと前記被溶接物にパルスアーク溶接のための電力を供給するパルスアーク発生手段と、前記レーザ発生手段と前記パルスアーク発生手段を制御する制御手段を備え、
前記レーザ発生手段と前記トーチは、前記レーザビームの光軸と前記ワイヤの中心軸とが交わる位置に前記光軸と前記中心軸とを配置する構成とし、前記光軸と前記被溶接物との交点と前記中心軸と前記被溶接物との交点との距離となるレーザ・アーク間距離を設定するレーザ・アーク間距離設定手段と、前記レーザ・アーク間距離設定手段の設定値を入力し、レーザ・アーク間距離が長いほどパルス周波数を低く設定するパルス周波数設定手段と、パルスアーク溶接におけるパルス波形を設定するパルス波形設定手段を設け、
前記パルスアーク発生手段に前記パルス周波数設定手段と前記パルス波形設定手段からの設定値を入力し、パルスアーク溶接におけるパルス電流とパルス幅とベース電流を所定の値にしたままレーザ・アーク間距離が長いほどパルス周波数を低くする複合溶接装置である。
【0007】
このように被溶接物に供給するワイヤにレーザビームを直接照射するよう前記レーザビームの光軸と前記ワイヤの中心軸とが交わる位置に前記光軸と前記中心軸とを配置し、レーザ・アーク間距離に応じてパルス電流とパルス幅とベース電流とを所定の値にしたままパルス周波数のみを変更して溶接することによって母材への入熱を低減させ、ギャップ裕度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明は、被溶接物に供給するワイヤにレーザビームを直接照射するよう前記レーザビームの光軸と前記ワイヤの中心軸とが交わる位置に前記光軸と前記中心軸とを配置し、レーザ・アーク間距離に応じてパルス電流とパルス幅とベース電流とを所定の値にしたままパルス周波数のみを変更して溶接することによって母材への入熱を低減させ、ギャップ裕度を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(実施の形態)
図1は本発明の実施の形態における複合溶接装置の構成を示す模式図である。なお、図8に示した内容と同様の構成および動作と作用効果を奏するところには同一符号を付して詳細な説明を省略し、異なるところを中心に説明する。
【0010】
図1は、図8のアーク発生手段10の代わりにパルスアーク発生手段13を使用したものである。前記パルスアーク発生手段13は、パルス波形設定手段14で設定した所定のパルス電流とパルス幅とベース電流と後述するパルス周波数設定手段15で設定したパルス周波数とからなるパルス状の溶接電力を出力し、ワイヤ7と被溶接物6との間にパルスアーク16を発生しながらパルスアーク溶接を行う。18はレーザ発振器2のレーザ出力を設定するレーザ出力設定手段、19は溶接位置近傍Aでのレーザ輝度を設定するレーザ輝度入力手段で、レーザ出力設定手段18からレーザ出力の設定値が、また、レーザ輝度入力手段19からレーザ輝度の設定値が、夫々、パルス周波数設定手段15に入力するようにしている。なお、レーザ出力設定手段18は制御手段12が兼ねても良い。この場合は制御手段12の信号をパルス周波数設定手段15に入力するように構成を変える。
【0011】
前記パルス周波数設定手段15は、レーザビーム5の光軸と被溶接物6との交点とワイヤ7の中心軸と被溶接物6との交点との距離、すなわち、レーザ・アーク間距離L0(図1には溶接位置近傍Aの略図のみを示したが、その詳細を図2以降に説明する。)を入力し、前記レーザ・アーク間距離L0に応じて前記パルスアーク発生手段13にパルス周波数を出力する。
【0012】
実際のパルスアーク溶接では、前記パルス周波数設定手段15で設定するパルス周波数は、レーザ・アーク間距離L0またはレーザ出力またはレーザ輝度によって異なる。
【0013】
すなわち、レーザ・アーク間距離L0が長いほど前記パルス周波数を低く、前記レーザ・アーク間距離L0が短いほど前記パルス周波数を高く設定する。
【0014】
また、同一のレーザ・アーク間距離L0であっても、レーザ出力が高くなるほど前記パルス周波数を低く、前記レーザ出力が低くなるほど前記パルス周波数を高く設定する。
【0015】
なお、同一のレーザ出力であっても、レーザ輝度が高いほど前記パルス周波数を低く、前記レーザ輝度が低いほど前記パルス周波数を高く設定する。
【0016】
前述したパルス周波数設定手段15のパルス周波数の設定方法の原理について、図2〜図4を参照して説明する。
【0017】
図2は、本発明の実施の形態の複合溶接装置の溶接位置近傍Aにおけるレーザビーム5とワイヤ7との配置方法(図2(a1)、図2(b1))およびそれと対応するパルスアーク溶接のパルス状の溶接出力を示すパルス波形の模式図(図2(a2)、図2(b2))である。
【0018】
L1とL2はレーザ・アーク間距離で、いずれも図1のレーザ・アーク間距離L0に相当するものである。説明のため、図2(a)に示した前記レーザ・アーク間距離L1が図2(b)に示した前記レーザ・アーク間距離L2より短いものとする。9aは、トーチ9の先端に取り付けられ、ワイヤ7に電力を供給する給電チップである。aa’はレーザビーム5の光軸で、bb’はワイヤ7の中心軸である。100と101は前記レーザ・アーク間距離L1と前記レーザ・アーク間距離L2とに対応するパルスアーク溶接のパルス波形の模式図である。F1とF2とはそれぞれ前記パルス波形100と前記パルス波形101のパルス周波数である。Ipはパルス電流、tpはパルス幅、Ibはベース電流である。
【0019】
図2の動作について説明するためにはワイヤ7の先端から溶滴が離脱して被溶接物6の溶接位置に移行するプロセスについて説明する必要があり、その内容については図3と図4とを参照しつつ説明する。図3はパルスアーク溶接の溶滴離脱・移行形態を示す模式図である。図4は複合溶接の溶滴離脱・移行形態を示す模式図である。パルス電流Ipとパルス幅tpとベース電流Ibは図2と同様なので、その表示を省略する。
【0020】
図3のパルスアーク溶接について説明する。102はパルスアーク溶接のパルス波形であり、F0はそのパルス周波数である。良好な溶接を得るためには、通常一つのパルスで一つの溶滴を移行させるよう、前記パルス電流Ipとパルス幅tpとベース電流Ibとは言うまでもなく、前記パルス波形102のパルス周波数F0を選定する。これは、すなわち、1パルス1ドロップ移行である。その動作について説明する。タイミング(1)では、ベース期間がほぼ終了し、ワイヤ7の先端部分に極わずかな溶融金属しか残っていない。200は前記溶融金属と前記ワイヤ7の未溶融部分の境界を示す溶融・未溶融境界である。以下の説明では、図面を簡略化するために、タイミング(2)からは前記溶融・未溶融境界の図示を省略する。タイミング(2)では、パルス期間が始まりパルス電流Ipの作用でワイヤ7の先端に溶融金属であるワイヤ端溶滴201が形成される。タイミング(3)では、パルス期間の後半に入りパルス電流Ipのピンチ作用によって前記溶融・未溶融境界200付近の前記ワイヤ端溶滴201側にくびれ202が生じる。その後、前記くびれ202が更に成長し、ベース期間に入った直後のタイミング(4)では前記ワイヤ端溶滴201が前記ワイヤ7の先端から離脱して溶滴203を形成する。その後、前記溶滴203は、ベース期間中のタイミング(5)を経てベース期間終了直前のタイミング(6)まで、被溶接物6の溶接位置に移行していく。ベース電流Ibは通常低く設定されるので、ベース期間中にはワイヤ7がほとんど溶融しない。ベース期間終了直前のタイミング(6)は、前記タイミング(1)と同様の状態である。以上のタイミング(1)からタイミング(6)までのプロセスは溶接中に繰り返され、1パルス1ドロップ移行を実現する。その結果、スパッタの少ない、良好な溶接結果を得ることができる。
【0021】
図4の複合溶接について説明する。図4(a)と図4(b)はそれぞれ図2(a)と図2(b)と対応するものであり(L1<L2)、それぞれのパルス波形は100と101である。図3と同様の動作または機能のものについては同一の記号を付与しその説明を省略する。なお、図面簡略化のため、パルス電流Ipとパルス幅tpとベース電流Ibの表示を省略する。図3に示したパルスアーク溶接と同様、複合溶接でも基本的には良好な溶接を得るためには、1パルス1ドロップ移行になるようパルス周波数を決定する必要がある。
【0022】
図4(a)について説明する。説明のため、ベース期間に入った直後の、溶滴がワイヤ7の先端から離脱した直後のタイミング(1)から説明する。タイミング(1)では、204はワイヤ7の先端から離脱した直後の溶滴である。205は、溶滴離脱直後に前記ワイヤ7の先端部分に残った極わずかな溶融金属と前記ワイヤ7の未溶融部分の境界を示す溶融・未溶融境界である。タイミング(2)では、ベース期間中ではあるが、この時、図示していないが、前記ワイヤ7の先端部分の表面はレーザビーム5の直接照射を受けて溶融するので、前記ワイヤ7の先端が時間の増加と共に溶融し、ワイヤ端溶滴206を形成する。その後、前記ワイヤ端溶滴206は、ベース期間が終了する直前まで成長し続く(タイミング(3)を含む。)。言うまでもなく、この期間中には前記溶滴204が被溶接物6の溶接位置に移行していく。その後、パルス期間に入ったタイミング(4)では、パルス電流Ipの作用もワイヤ7の溶融に寄与するので、ワイヤ端溶滴206の大きさが更に増加していく。パルス期間の後半のタイミング(5)では、パルスアーク溶接の時と同様に、パルス電流Ipのピンチ作用によって前記溶融・未溶融境界205付近の前記ワイヤ端溶滴206側にくびれ207を生じる。その後、前記くびれ207が成長し、ベース期間に入った直後のタイミング(6)では前記ワイヤ端溶滴206が前記ワイヤ7の先端から離脱して、溶滴208を形成する。このタイミング(6)は、前記タイミング(1)と同様な状態となる。以降、以上のタイミング(1)からタイミング(6)までのプロセスが繰り返される。図3と比較すると、前記溶滴204または208の大きさは、ベース期間からワイヤ7の先端部分がレーザビーム5の直接照射を受けて溶融するため、パルスアーク溶接の時の溶滴203よりサイズが大きくなる。したがって、1パルス1ドロップ移行を実現するためのパルス周波数F1は、図3に示したパルスアーク溶接の時のパルス周波数F0より低くなる。
【0023】
図4(b)について説明する。比較のために、図4(b)に図4(a)のパルス波形100を図示する。209はパルス期間の直後にワイヤ7の先端から離脱した溶滴で、210は前記溶滴209が離脱した直後に前記ワイヤ7の先端部分に残った極わずかな溶融金属とワイヤ7の未溶融部分との境界を示す溶融・未溶融境界である(タイミング(1))。211は、ベース期間中にワイヤ7の先端部分の表面がレーザビーム5の直接照射を受け溶融して形成したワイヤ端溶滴である(タイミング(2))。212は、その後のパルス期間の後半部分においてパルス電流Ipのピンチ作用によって前記溶融・未溶融境界210付近の前記ワイヤ端溶滴211側に生じたくびれである(タイミング(5))。213は、前記タイミング(5)を経過してからベース期間に入った直後のタイミング(6)において前記ワイヤ端溶滴211がワイヤ7の先端から離脱して形成した溶滴である。図4(b)が図4(a)と異なるのは、図4(b)のレーザ・アーク間距離L2が図4(a)のレーザ・アーク間距離L1より大きいため、ワイヤ7の先端部分がレーザビーム5の直接照射を受ける範囲が広くなったことである。この場合、たとえ同一のレーザ出力でも溶融できるワイヤ7の量が増加することが容易に推察される。その結果、図4(a)と同一のベース期間の長さでも図4(b)では、次のパルス期間で離脱するワイヤ端溶滴211の大きさが増加する。したがって、1パルス1ドロップ移行を実現するためのパルス周波数F2は、図4(a)に示した前記パルス周波数F1より低くなる。結果的に、パルス電流Ipとパルス幅tpとベース電流Ibとが同じであれば、パルス周波数がF1からF2のように低くなると、アーク電流の平均値が低下してしまう。アーク電流が低下すると、アーク電流による入熱が減少し、アークによる溶融池の大きさの減少ができる(未公開自社出願の特願2006−280059号)。継手の溶接に適用した場合は、ギャップ裕度を広げることが可能と考えられる。
【0024】
図3と図4の結果から以下のことが言える。パルスアーク溶接と比較すると、レーザ・アーク間距離L1の複合溶接では溶滴204または溶滴208の大きさがパルスアーク溶接の時の溶滴203より大きくなる。その結果、1パルス1ドロップ移行を維持するために、レーザ・アーク間距離がL1の時のパルス周波数F1をパルスアーク溶接のパルス周波数F0より低く設定する必要がある。一方、レーザ・アーク間距離がL1からL2のように長くなった場合、レーザビーム5がワイヤ7の先端部分に照射できる範囲が広くなるので、形成し得る溶滴209または溶滴213は前記溶滴204または溶滴208よりも更にそのサイズが大きくなる。したがって、レーザ・アーク間距離が長くなると(L2)、パルス周波数F2を前記パルス周波数F1より低く設定する必要がある。
【0025】
本発明の実施の形態の効果を確認するために、板厚2mmのA5052アルミニウム合金に対してA5356のワイヤを使用し、2.7kWのYAGレーザ(被溶接物6の表面における集光径はφ0.6mmである。)で複合溶接を行った。使用するパルスアーク溶接法は、パルスMIGアーク溶接法であった。図5にレーザ・アーク間距離を変えた場合のアーク電流とパルス周波数の計測例を示す。図6に、図5と同様の溶接条件を使用してレーザ・アーク間距離を変えた場合のアーク電流および電圧波形を計測した例を示す。なお、電圧波形は、トーチ9の通電部(図示していない)と被溶接物6との間から、できるだけ通電ケーブルの電圧降下分を除いた形で採集したものである。レーザ・アーク間距離が0mmの場合は、レーザビーム5とワイヤ7とのかかわりがないため、そのアーク電流は基本的にはパルスMIGアーク溶接と同様である。一方、前記レーザ・アーク間距離を0mmより長くすると共に、アーク電流が減少し、パルス周波数が減少した。前記A5052材料の突合せ継手に本発明の実施の形態の複合溶接方法およびパルスMIGアーク溶接法を適用した場合のビード形状の測定例およびギャップ裕度の計測例を示す。本実施の形態の複合溶接方法では、前述の通りアーク電流を減少させることが可能なため、パルスMIGアーク溶接法と比較して広いギャップ裕度を得ることができた。目視による溶接状態の観察の結果によると、パルスMIGアーク溶接と同様に、本実施の形態の複合溶接方法によるスパッタの発生が非常に少なかった。
【0026】
以上のように本発明の実施の形態によれば、被溶接物に供給するワイヤにレーザビームを直接照射するよう前記レーザビームの光軸と前記ワイヤの中心軸とが交わる位置に前記光軸と前記中心軸とを配置し、前記レーザ・アーク間距離に応じてパルス電流とパルス幅とベース電流とを所定の値にしたままパルス周波数のみを所定の値に設定して溶接することによって母材への入熱を低減させ、ギャップ裕度を向上させることが可能である。
【0027】
以上に示したように、同一のレーザ出力ではレーザ・アーク間距離が長いと、ベース期間中にレーザビームの直接照射を受けて溶融したワイヤが長くなり大きな溶滴を形成できるため、1パルス1ドロップ移行を実現するためには、パルス周波数を低く設定する必要があった。言うまでもなく、レーザ出力を上げること、またはレーザ輝度を上げることによって同一長さのベース期間中に溶融し得るワイヤの長さを長くすることが可能なため、レーザ出力またはレーザ輝度が高くなるほどパルス周波数を低く設定する必要がある。逆に、レーザ出力またはレーザ輝度が低くなるほどパルス周波数を高く設定する必要があることが言うまでもない。
【0028】
また、以上の説明ではパルスアーク溶接の例としてパルスMIGアーク溶接をすでに使用したが(図5〜図7)、言うまでもなく、本発明の実施の形態としてはパルスMIGアーク溶接を使用することが望ましい。
【0029】
また、被溶接物とワイヤとしては共にアルミニウム合金を使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように本発明によれば、レーザ・アーク間距離に応じてパルスアーク溶接のパルス周波数を設定することによって被溶接物への入熱を低減させ、ギャップ裕度を向上させることのできる複合溶接方法と複合溶接装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態における複合溶接装置の構成を示すブロック図
【図2】溶接位置近傍Aの詳細を示す模式図およびそれと対応するパルス波形を示す模式図
【図3】パルスアーク溶接の溶滴離脱・移行形態を示す模式図
【図4】本発明の実施の形態の複合溶接の溶滴離脱・移行形態を示す模式図
【図5】レーザ・アーク間距離を変えた場合のアーク電流とパルス周波数の計測例を示す図
【図6】レーザ・アーク間距離を変えた場合のアーク電流および電圧波形の計測例を示す図
【図7】発明の実施の形態の複合溶接方法とパルスアーク溶接法を突合せ継手に適用した場合のビード形状およびギャップ裕度の例を示す図
【図8】従来の複合溶接装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0032】
1 レーザ発生手段
2 レーザ発振器
3 レーザ伝送手段
4 集光光学系
5 レーザビーム
6 被溶接物
7 ワイヤ
8 ワイヤ送給手段
9 トーチ
9a 給電チップ
10 アーク発生手段
11 溶接アーク
12 制御手段
13 パルスアーク発生手段
14 パルス波形設定手段
15 パルス周波数設定手段
16 パルスアーク
17 レーザ・アーク間距離設定手段
100 パルス波形
101 パルス波形
102 パルス波形
200 溶融・未溶融境界
201 ワイヤ端溶滴
202 くびれ
203 溶滴
204 溶滴
205 溶融・未溶融境界
206 ワイヤ端溶滴
207 くびれ
208 溶滴
209 溶滴
210 溶融・未溶融境界
211 ワイヤ端溶滴
212 くびれ
213 溶滴
A 溶接位置近傍
L0 レーザ・アーク間距離
L1 レーザ・アーク間距離
L2 レーザ・アーク間距離
aa’ 光軸
bb’ 中心軸
F0 パルス周波数
F1 パルス周波数
F2 パルス周波数
Ib ベース電流
Ip パルス電流
tp パルス時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置にワイヤを送給して前記被溶接物との間でパルスアーク溶接を同時に行う複合溶接方法において、
前記レーザビームの光軸と前記ワイヤの中心軸を交わる位置に前記光軸と前記中心軸を配置し、前記光軸と前記被溶接物との交点と前記中心軸と前記被溶接物との交点との距離となるレーザ・アーク間距離に応じ、パルスアーク溶接におけるパルス電流とパルス幅とベース電流を所定の値にしたままレーザ・アーク間距離が長いほどパルス周波数を低く設定する複合溶接方法。
【請求項2】
被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置にワイヤを送給して被溶接物との間でパルスアーク溶接を同時に行う複合溶接方法において、
前記レーザビームの光軸と前記ワイヤの中心軸を交わる位置に前記光軸と前記中心軸を配置し、前記光軸と前記被溶接物との交点と前記中心軸と前記被溶接物との交点との距離となるレーザ・アーク間距離に応じ、パルスアーク溶接におけるパルス電流とパルス幅とベース電流とを所定の値にしたままレーザ・アーク間距離が長いほど、また、レーザ出力が高くなるほどパルス周波数を低く設定する複合溶接方法。
【請求項3】
同一のレーザ出力でも、レーザ輝度が高いほどパルス周波数を低く設定する請求項1または請求項2記載の複合溶接方法。
【請求項4】
パルスアーク溶接としてパルスMIGアーク溶接を用いる請求項1から請求項3のいずれかに記載の複合溶接方法。
【請求項5】
被溶接物とワイヤは共にアルミニウム合金を用いる請求項1から請求項4のいずれかに記載の複合溶接方法。
【請求項6】
被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射するレーザ発生手段と、トーチを介して前記溶接位置にワイヤを送給するワイヤ送給手段と、前記ワイヤと前記被溶接物にパルスアーク溶接のための電力を供給するパルスアーク発生手段と、前記レーザ発生手段と前記パルスアーク発生手段を制御する制御手段を備え、
前記レーザ発生手段と前記トーチは、前記レーザビームの光軸と前記ワイヤの中心軸とが交わる位置に前記光軸と前記中心軸とを配置する構成とし、前記光軸と前記被溶接物との交点と前記中心軸と前記被溶接物との交点との距離となるレーザ・アーク間距離を設定するレーザ・アーク間距離設定手段と、前記レーザ・アーク間距離設定手段の設定値を入力し、レーザ・アーク間距離が長いほどパルス周波数を低く設定するパルス周波数設定手段と、パルスアーク溶接におけるパルス波形を設定するパルス波形設定手段を設け、
前記パルスアーク発生手段に前記パルス周波数設定手段と前記パルス波形設定手段からの設定値を入力し、パルスアーク溶接におけるパルス電流とパルス幅とベース電流を所定の値にしたままレーザ・アーク間距離が長いほどパルス周波数を低くする複合溶接装置。
【請求項7】
被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射するレーザ発生手段と、トーチを介して前記溶接位置にワイヤを送給するワイヤ送給手段と、前記ワイヤと前記被溶接物にパルスアーク溶接のための電力を供給するパルスアーク発生手段と、前記レーザ発生手段と前記パルスアーク発生手段を制御する制御手段を備え、
前記レーザ発生手段と前記トーチは、前記レーザビームの光軸と前記ワイヤの中心軸とが交わる位置に前記光軸と前記中心軸とを配置する構成とし、前記光軸と前記被溶接物との交点と前記中心軸と前記被溶接物との交点との距離となるレーザ・アーク間距離を設定するレーザ・アーク間距離設定手段と、前記レーザ発生手段におけるレーザ出力を設定するレーザ出力設定手段と、前記レーザ出力設定手段と前記レーザ・アーク間距離設定手段の設定値を入力し、レーザ・アーク間距離が長いほど、また、レーザ出力が高くなるほどパルス周波数を低く設定するパルス周波数設定手段と、パルスアーク溶接におけるパルス波形を設定するパルス波形設定手段とを設け、
前記パルスアーク発生手段にパルス周波数設定手段とパルス波形設定手段からの設定値を入力し、パルスアーク溶接におけるパルス電流とパルス幅とベース電流を所定の値にしたままレーザ・アーク間距離が長いほど、また、レーザ出力が高くなるほどパルス周波数を低くする複合溶接装置。
【請求項8】
前記レーザビームのレーザ輝度を設定するレーザ輝度設定手段を設け、前記レーザ輝度の設定値を前記パルスアーク発生手段に入力し、レーザ輝度が高いほどパルス周波数を低く設定する請求項6または請求項7記載の複合溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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