説明

複合球状ポリマー粒子およびその製造方法、並びにこれを用いた化粧料

【課題】0.1μm以下のナノ粒子顔料を均一に分散した状態でアクリル樹脂に内包させた、複合球状ポリマー粒子およびその製造方法、並びにこれを用いた化粧料を提供すること。
【解決手段】一次粒子径が0.1〜0.005μmのナノ粒子顔料が、該顔料に吸着性の高い高分子分散剤とアクリル樹脂に分散状態で内包され、上記顔料が内包粒子の5〜70質量%であり、内包粒子の平均粒子径が1〜20μmであることを特徴とする複合球状ポリマー粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料の原材料に適したナノ粒子顔料を内包した複合球状ポリマー粒子、その製造方法およびその粒子の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料には、その機能を考慮して数多くの粉体材料が配合使用されている。例えば、酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄などの着色無機顔料、カオリン、タルク、マイカなどの体質無機顔料、赤色202号、赤色226号、黄色4号アルミニウムレーキなどのタール色素などである。そして、配合される一部の粉体には一次粒子径が0.1μm以下のナノ粒子が機能性材料として配合されている。
【0003】
従来から紫外線遮蔽材料には酸化チタン、酸化亜鉛が使用されているが、一次粒子径が0.1μm以下のナノ粒子の酸化チタン、酸化亜鉛は、紫外線遮蔽効果とともに高い透明性を有しているため、UVカット化粧料には有用な原材料である。
【0004】
赤色酸化鉄、黄色酸化鉄の一次粒子径が0.1μm以下のナノ粒子は透明酸化鉄と呼ばれ、隠蔽性は低下するものの、透明感に優れた鮮明な着色顔料として化粧料に使用されている。これらを使用した化粧料の色感は、隠蔽性は低下するものの透明感が高く、一般に消費者が好む自然な仕上がりとなる化粧料の原材料に適している。
【0005】
しかしながら、機能性を高めるために微細化を進めたナノ粒子顔料は、比表面積が増大するとともに、表面エネルギーが大きくなるため一次粒子は凝集しやすい。そのため分散が困難で、ナノ粒子顔料を二次凝集のまま使用すると、本来その粉体材料が持っている機能を充分に発揮することができない化粧料となる。また、一次粒子に分散し配合させても、高い表面エネルギーのため再凝集化しやすく、その化粧料は経時変化を起こし、色相、使用感、保存安定性(粘度変化・沈降・凝集・変退色)など、品質不良の原因となる。また、0.1μm以下のナノ粒子は微細すぎるため、配合させた化粧料は延びが悪く、さらに酸化チタンのような針状結晶材料は肌に刺さるような不快な使用感となり、クレンジング性も悪い化粧料となる。
【0006】
近年、0.1μm以下のナノ粒子の安全性が国内外で問われ、日本ではNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を主体に「工業ナノ材料のリスク評価」の構築を目指している。化粧料原材料では、ナノ粒子がその微細さに起因して、細胞膜を通過する能力などが皮膚のバリヤー性を阻害し、皮膚上に留まるばかりでなく体内にも侵入する可能性や、触媒作用による毒性の高い活性酸素を生成させるなど、人の健康に有害な影響を及ぼす懸念を与えている。
【0007】
その他、カーボンブラック、シリカ、タール色素などの粉体材料も化粧料に配合される0.1μm以下のナノ粒子であり、同様の意味で安全面には心配が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−24768号公報
【特許文献2】特開平9−208437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように一次粒子径が0.1μm以下のナノ粒子は化粧料の粉体材料に適しているが、微細化したナノ粒子は物理化学的特性から起因する欠点、例えば、分散性、凝集性、増粘性、大きい比表面積、高い表面活性、有害性などを有し、取り扱いを困難にしている。このためナノ粒子を配合した化粧料の品質設計には分散安定化、保存安定性(粘度変化・沈降・凝集・変退色)、使用感の向上など、かなり高度な技術が要求される。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するために為されたもので、0.1μm以下のナノ粒子顔料を均一に分散した状態でアクリル樹脂に内包させた、複合球状ポリマー粒子およびその製造方法、並びにこれを用いた化粧料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、一次粒子径が0.1〜0.005μmのナノ粒子顔料が、該顔料に吸着性の高い高分子分散剤とアクリル樹脂に分散状態で内包され、上記顔料が内包粒子の5〜70質量%であり、内包粒子の平均粒子径が1〜20μmであることを特徴とする複合球状ポリマー粒子を提供する。
【0012】
上記本発明においては、前記アクリル樹脂が、単官能疎水性アクリルモノマーおよび/または多官能疎水性アクリルモノマーからなる重合体であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、一次粒子径が0.1〜0.005μmのナノ粒子顔料を、該顔料に吸着性の高い高分子分散剤の存在下に疎水性アクリルモノマーと分散混合し、この分散体を水媒体中に混合して懸濁重合することを特徴とする複合球状ポリマー粒子の製造方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、化粧料基材中に、上記本発明の複合球状ポリマー粒子が含有されていることを特徴とする化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明者は、化粧料の原材料として使用されるナノ粒子顔料を、微細粒子の機能を損なわず、かつ前述のナノ粒子顔料の有害性を回避する方法を鋭意研究した結果、ナノ粒子顔料を、該顔料に吸着性の高い高分子分散剤の存在下、アクリル樹脂中に均一な状態で分散含有して得られるミクロンサイズの複合球状ポリマー粒子とその製造方法の発明に到達した。
【0016】
そして、このようにして得られたミクロンサイズの複合球状ポリマー粒子を配合して製造される化粧料は、直接ナノ粒子顔料の性状で配合させていないため、ナノ粒子の有害性を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1、実施例2、実施例3、比較例3の複合球状ポリマー粒子のUV−Vis透過率曲線を示す。
【図2】実施例4、実施例5の複合球状ポリマー粒子のUV−Vis透過率曲線を示す。
【図3】実施例6、比較例2の複合球状ポリマー粒子のVis透過率曲線を示す。
【図4】実施例7、実施例8、比較例4、比較例5の複合球状ポリマー粒子のVis透過率曲線を示す。
【図5】実施例6の複合球状ポリマー粒子の透過型電子顕微鏡写真を示す。
【図6】実施例10のUV−Vis透過率曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の複合球状ポリマー粒子およびその製造方法、並びにこれを用いた化粧料について詳細に説明する。
【0019】
<複合球状ポリマー粒子>
本発明の複合球状ポリマー粒子は、化粧料に配合されることから、その平均粒子径は1〜20μmが望ましく、より好ましくは1〜15μmである。平均粒子径が小さ過ぎる複合球状ポリマー粒子を配合した化粧料は、延びが悪く、一方、平均粒子径が大き過ぎる複合球状ポリマー粒子を配合した化粧料は異物感などを生じ、化粧料の使用感を悪くする。複合球状ポリマー粒子の形状は特に限定するものではないが、優れた使用感から真球に近いものが好まれる。
【0020】
尚、複合球状ポリマー粒子の平均粒子径は、電気抵抗法(コールター社:マルチサイザー3)で測定した体積平均径(メジアン径)である。
【0021】
本発明の複合球状ポリマー粒子は、ナノ粒子顔料の内包量が、複合球状ポリマー粒子の5〜70質量%であり、好ましくは10〜50質量%である。ナノ粒子顔料の内包量が少な過ぎると、ナノ粒子顔料の機能が発揮されない。一方、ナノ粒子顔料の内包量を多くするには技術的に限界があるが、必要以上に多く配合させると、ナノ粒子顔料が凝集状態で内包され、ナノ粒子顔料の機能が発揮されない。
【0022】
<ナノ粒子顔料>
本発明において用いられるナノ粒子顔料としては、一次粒子径が0.1〜0.005μmのナノ粒子顔料であって、微粒子化された無機顔料としては、例えば、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、赤色透明酸化鉄、黄色透明酸化鉄、シリカ、チタンブラック、カーボンブラックなどが挙げられ、タール色素としては、例えば、赤色202号、赤色226号、黄色4号アルミニウムレーキ、黄色5号アルミニウムレーキ、青色1号アルミニウムレーキなどが挙げられる。
【0023】
<高分子分散剤>
本発明において用いられる高分子分散剤としては、内包するナノ粒子顔料の粒子表面に吸着する官能基と、分散媒であるモノマーとの親和性の高い官能基を有する分子構造をもった高分子分散剤であり、高分子の分子構造は、ウレタン系、アクリル系で、ポリスチレン換算重量平均分子量は3,000〜30,000、好ましくは5,000〜20,000の高分子分散剤が望ましい。
【0024】
高分子分散剤の分子量が小さ過ぎると、顔料吸着鎖が短いためナノ粒子顔料の分散安定性能に乏しい。一方、分子量が高すぎると、高分子分散剤の粘度が高いため複合球状ポリマー粒子の粒子径制御が困難となる。高分子分散剤の市販品としては、例えば、DISPERBYK-163、DISPERBYK-170、DISPERBYK-2000(以下ビックケミー・ジャパン株式会社)、EFKA-1101、EFKA-4310(以下チバスペシャルティ・ケミカルス株式会社)などが挙げられる。
【0025】
この高分子分散剤の存在下で、前記ナノ粒子顔料をモノマー中に分散すると、高濃度でかつ低粘度化された分散安定性に優れた分散液が得られ、これを水性媒体中で懸濁重合することにより、ナノ粒子顔料が高濃度でかつ均一な状態で分散安定化された複合球状ポリマー粒子が得られることとなる。
【0026】
また、前述のナノ粒子顔料を内包させる場合、当該高分子分散剤が存在しない、または必要量より不足する状態では、ナノ粒子顔料の分散が不十分なだけでなく、ナノ粒子顔料の粒子表面は充分に吸着されていないため、後述する製造方法では仕込み全量の無機顔料は内包されない。
【0027】
一方、高分子分散剤の使用量が多過ぎると、高分子分散剤が無駄になるばかりでなく、アクリル樹脂中の架橋ポリマー成分比率が低下し、球状粒子の物理的強度の低下、配合させた化粧料の保存安定性(粘度変化、沈降、凝集、変退色)にも影響を及ぼす。この高分子分散剤の使用量は、内包材料の粒子径、表面物性や内包量によって異なるが、ナノ粒子顔料の5〜100質量%、好ましくは10〜70質量%である。
【0028】
<モノマー>
本発明において用いられるモノマーは、単官能および多官能の疎水性(メタ)アクリルエステルモノマーの少なくとも1種である。
【0029】
単官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、t−オクチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−n−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルジグリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ブトシキメチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、アルコキシメチル(メタ)アクリレート、アルコキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、4−ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,5−テトラメチルフェニル(メタ)アクリレート、EO変性−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0030】
比較的分子量の高い単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーが疎水性であり、このような疎水性モノマーを用いることで、重合過程で水相に移行してナノ粒子顔料を含まないポリマー粒子の生成が少ないので好ましい。
【0031】
多官能の(メタ)アクリル酸エステルとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオール(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチル−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチル−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0032】
上記モノマーの使用において、モノマーの組成は、多官能の(メタ)アクリル酸エステルの比率が多いとポリマー粒子中のナノ粒子顔料濃度を高くし、得られたポリマー粒子の耐溶剤性を向上させるため好ましい。単官能の(メタ)アクリル酸エステル(A)と多官能の(メタ)アクリル酸エステル(B)の比率(A/B)は質量比で0/100〜50/50が好ましく、1/99〜40/60がさらに好ましい。
【0033】
<複合球状ポリマー粒子の製造方法>
本発明で実施される複合球状ポリマー粒子の製造方法における手順の一例を説明する。
まず、上記モノマーまたはその混合物中にナノ粒子顔料および高分子分散剤を添加し、充分に攪拌混合後分散処理してナノ粒子顔料のモノマー分散液を調製する。さらにその分散液に重合開始剤を溶解したモノマーまたはその混合物を添加して、均一に攪拌混合し重合性溶液を調製する。必要に応じてモノマーの一部を有機溶剤で置き換えてもよい。
【0034】
本発明において、使用される重合開始剤は、過酸化物系ではラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサエイト)、アゾ化合物では2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。
【0035】
次に、脱イオン水に分散安定剤(保護コロイド)を溶解した水媒体を調製し、その水媒体中に上記重合性溶液を攪拌しながら混合し、さらにホモジナイザーなどの乳化装置を用いて重合性溶液の懸濁液滴径を調整する。ホモジナイザーなどは回転数を変えて剪断力を調整することにより、容易に重合性溶液を目的の懸濁液滴径に調整できる。
【0036】
ホモジナイザーなどの乳化装置により作製された懸濁液滴は、液滴調製中や重合装置への移送中、重合過程中に液滴の破壊、合一など不具合が発生しないように、分散安定剤の種類、濃度を設定しなければならない。
【0037】
本発明において、使用される分散安定剤としては、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル酸ソーダなどの水溶性高分子、ハイドロキシアパタイト、第3リン酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機塩類が挙げられる。
【0038】
上記のようにして得られた懸濁液は、温度60〜80℃にて3〜10時間継続して加熱し懸濁重合を行うことにより、ナノ粒子顔料の内包量が複合球状ポリマー粒子全質量の5〜70質量%、好ましくは10〜50質量%の複合球状ポリマー粒子が得られる。重合反応終了後、濾過、遠心分離などで水媒体から分離する。さらに洗浄工程にて分散安定剤を除去し、乾燥させ、凝集した状態で得られた粒子は解砕して粉状の複合球状ポリマー粒子が得られる。
【0039】
<化粧料>
本発明の化粧料は、上記した本発明の複合球状ポリマー粒子を必須成分として含有してなり、液状、固形状、ワックス状など種々の形態で提供される。
本発明の化粧料に配合される複合球状ポリマー粒子の含有量は、化粧料基材の0.5〜60質量%、好ましくは2〜40質量%であり、その用途はサンスクリーン、ファンデーション、マスカラなど基礎化粧料やメイクアップ化粧料である。
【0040】
本発明の化粧料には、本発明の複合球状ポリマー粒子のほかに、本発明の効果を損なわない種々の粉体基材、例えば、酸化チタン、タルク、セリサイト、パール顔料などが適宜選択して使用することができる。またさらに、化粧料に通常使用されている水、油脂類、シリコン油、界面活性剤、防腐剤、香料なども配合できる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。また、以下に述べる実施例において記載する「部」または「%」は、いずれも質量基準である。微粒子赤色酸化鉄、微粒子黄色酸化鉄、黄色酸化鉄の粒子径は、電子顕微鏡写真からの計測値であり、その他はBET法による換算値である。
【0042】
[実施例1]
・微粒子酸化チタン(平均粒子径0.01μm) 90部
・高分子分散剤(BYK−170、純分30%) 90部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 100部
【0043】
上記材料を予備混合後ビーズミルにて分散し、微粒子酸化チタン分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部をエチレングリコールジメタクリレート55部に溶解し、その溶液に上記微粒子酸化チタン分散液185部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。次に、別の容器にイオン交換水700部、部分ケン化ポリビニルアルコール35部を溶解した水相中に上記重合性溶液を混合し、ホモジナイザーにて10,000rpmで5分間攪拌して均一な懸濁液が得られた。その懸濁粒子の状態を光学顕微鏡で観察したところ、重合性モノマーの懸濁液滴の中に分散された微粒子酸化チタンが存在し、水相には移行していなかった。
【0044】
次に、攪拌機、窒素ガス導入管を備え付けた重合装置の反応缶に、上記懸濁液を仕込み70℃、6時間続けて重合反応を行った。その重合液を光学顕微鏡で観察したところ、水相中に微粒子酸化チタンは存在しなかった。冷却後、この懸濁液から生成微粒子を濾別、乾燥、解砕処理を行い、複合球状ポリマー粒子を得た。図1より、この複合球状ポリマー粒子は、UV−B吸収能と透明性のバランスが良好な粒子である。
【0045】
[実施例2]
2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.5部をヘキサメチレンジメタクリレート20部と2−エチルヘキシルメタクリレート50部とエチレングリコールジメタクリレート35部との混合モノマーに溶解し、その溶液に実施例1の微粒子酸化チタン分散液125部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を8,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。図1より、この複合球状ポリマー粒子は実施例1よりUV−B吸収能に乏しいが、透明性の高い粒子である。
【0046】
[実施例3]
2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部をプロピレングリコールモノメチルアセテート20部とエチレングリコールジメタクリレート7部との混合液に溶解し、その溶液に実施例1の微粒子酸化チタン分散液250部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を11,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。図1より、この複合球状ポリマー粒子は、実施例1よりUV−B吸収能は優れているが、透明性が若干低くなる粒子である。
【0047】
[実施例4]
・微粒子酸化亜鉛(平均粒子径0.025μm) 120部
・高分子分散剤(BYK−170、純分30%) 80部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 40部
【0048】
上記材料を予備混合後ビーズミルにて分散し、微粒子酸化亜鉛分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部をヘキサメチレンジメタクリレート25部とエチレングリコールジメタクリレート50部との混合モノマーに溶解し、その溶液に上記微粒子酸化亜鉛分散液160部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。図2より、この複合球状ポリマー粒子は、UV−A吸収能と透明性のバランスが良好な粒子である。
【0049】
[実施例5]
2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部をイソボルニルメタクリレート80部とヘキサメチレンジメタクリレート20部とエチレングリコールジメタクリレート40部との混合モノマーに溶解し、その溶液に実施例4の微粒子酸化亜鉛分散液80部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を7,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。図2より、この複合球状ポリマー粒子にもUV−A吸収能が認められる。
【0050】
[実施例6]
・カーボンブラック(平均粒子径0.013μm) 42部
・高分子分散剤(BYK−163、純分45%) 47部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 80部
・プロピレングリコールモノメチルアセテート 23部
【0051】
上記材料を予備混合後ビーズミルにて分散し、カーボンブラック分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.5部をエチレングリコールジメタクリレート78部に溶解し、その溶液に上記カーボンブラック分散液165部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。図3より、この複合球状ポリマー粒子は、化粧料に配合させる粉体基材には適当な隠蔽性のある黒色粒子である。また、図5より、その粒子内はカーボンブラックが均一に分散されていた。
【0052】
[実施例7]
・微粒子赤色酸化鉄 80部
(粒子長径0.05μm、短径0.01μm)
・高分子分散剤(EFKA−4310、純分40%) 60部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 100部
・プロピレングリコールモノメチルアセテート 20部
【0053】
上記材料を予備混合後ビーズミルにて分散し、微粒子赤色酸化鉄分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部を2−エチルヘキシルメタクリレート47部に溶解し、その溶液に上記微粒子赤色酸化鉄分散液195部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を9,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。図4より、この複合球状ポリマー粒子は、ナノ粒子顔料の高い透明性の機能を有したミクロンサイズの赤色粒子であった。
【0054】
[実施例8]
・微粒子黄色酸化鉄 100部
(粒子長径0.07μm、短径0.01μm)
・高分子分散剤(EFKA−4310、純分40%) 75部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 80部
・プロピレングリコールモノメチルアセテート 25部
【0055】
上記材料を予備混合後ビーズミルにて分散し、微粒子黄色酸化鉄分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部を2−エチルヘキシルメタクリレート32部に溶解し、その溶液に上記微粒子黄色酸化鉄分散液224部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を85,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。図4より、この複合球状ポリマー粒子は、ナノ粒子顔料の高い透明性の機能を有した、ミクロンサイズの黄色粒子であった。
【0056】
[実施例9]
・微粒子酸化チタン(平均粒子径0.01μm) 30部
・高分子分散剤(BYK−170、純分30%) 10部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 200部
【0057】
上記材料をペイントシェーカーにて分散し、微粒子酸化チタン分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.8部を2−エチルヘキシルメタクリレート45部に溶解し、その溶液に上記微粒子酸化チタン分散液160部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その重合性溶液は比較例1とは異なり、均一な分散が行われていた。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を8,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、懸濁粒子の状態を光学顕微鏡で観察したところ、重合性モノマーの懸濁液滴の中に微粒子酸化チタンは存在していたが、一部の微粒子酸化チタンは水相に移行していた。実施例1と同様に加熱重合を行い、球状ポリマー粒子は得られたが、一部の微粒子酸化チタンは内包されず、球状ポリマー粒子の表面に付着していた。高分子分散剤の使用量が多少不足するため、本発明の目的である複合球状ポリマー粒子は得られるが、十分とは言えない。
【0058】
[比較例1]
・微粒子酸化チタン(平均粒子径0.01μm) 40部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 260部
【0059】
上記材料をペイントシェーカーにて分散し、微粒子酸化チタン分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.8部を2−エチルヘキシルメタクリレート50部に溶解し、その溶液に上記微粒子酸化チタン分散液150部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その重合性溶液は高分子分散剤が存在しないため、均一な分散が行われていなかった。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を8,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、懸濁粒子の状態を光学顕微鏡で観察したところ、重合性モノマーの懸濁液滴の中に微粒子酸化チタンは存在しないで水相に移行していた。実施例1と同様に加熱重合を行い、球状ポリマー粒子は得られたが、微粒子酸化チタンは内包されず、球状ポリマー粒子の表面に付着していた。本発明の目的である複合球状ポリマー粒子は得られなかった。
【0060】
[比較例2]
・カーボンブラック(平均粒子径0.013μm) 12部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 138部
【0061】
上記材料を予備混合後ビーズミルにて分散し、カーボンブラック分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)2部をエチレングリコールジメタクリレート100部に溶解し、その溶液に上記カーボンブラック分散液100部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を8,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。比較例2では、高分子分散剤が存在しないため、カーボンブラックを高濃度に分散できない。そのためカーボンブラックの内包量を高くすることができなく、隠蔽性の低い粒子となる。図3より、この複合球状ポリマー粒子の透過率は実施例6よりかなり低く、化粧料に配合させる粉体基材には適さない黒色粒子である。
【0062】
[比較例3]
・酸化チタン(平均粒子径0.26μm) 80部
・高分子分散剤(BYK−170、純分30%) 80部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 100部
【0063】
上記材料をペイントシェーカーにて分散し、酸化チタン分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部をエチレングリコールジメタクリレート47部に溶解し、その溶液に上記酸化チタン分散液195部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を7,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。図1より、この複合球状ポリマー粒子は、UV吸収能に劣り透明性も低く、実施例1のようなナノ粒子顔料の特性を有した、透明でUV吸収特性に優れた粒子は得られない。
【0064】
[比較例4]
・赤色酸化鉄(粒子径0.16μm) 80部
・高分子分散剤(EFKA−4310、純分40%) 60部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 100部
【0065】
上記材料を予備混合後ビーズミルにて分散し、赤色酸化鉄分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部を2−エチルヘキシルメタクリレート47部に溶解し、その溶液に上記赤色酸化鉄分散液180部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を9,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。図4より、この複合球状ポリマー粒子は、実施例7のようなナノ粒子顔料の特性を有した透明な赤色粒子としては得られない。
【0066】
[比較例5]
・黄色酸化鉄 100部
(粒子長径0.7μm、短径0.07μm)
・高分子分散剤(EFKA−4310、純分40%) 75部
・ヘキサメチレンジメタクリレート 80部
【0067】
上記材料を予備混合後ビーズミルにて分散し、黄色酸化鉄分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部を2−エチルヘキシルメタクリレート32部に溶解し、その溶液に上記黄色酸化鉄分散液204部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後はホモジナイザーにて攪拌速度を85,000rpmにした以外は実施例1と同様に操作し、複合球状ポリマー粒子を得た。図4より、この複合球状ポリマー粒子は、実施例8のようなナノ粒子顔料の特性を有した透明な黄色粒子としては得られない。
【0068】
[比較例6]
・微粒子酸化チタン(平均粒子径0.01μm) 90部
・アニオン活性剤 27部
(ジポリオキシエチレン(8)(C12-15)アルキルエーテルリン酸)
・メチルメタクリレート 147部
【0069】
上記材料を予備混合後ビーズミルにて分散し、微粒子酸化チタン分散液を得た。そこへ予め2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部をエチレングリコールジメタクリレート24部に溶解し、その溶液に上記微粒子酸化チタン分散液176部を均一に攪拌混合し、重合性モノマー液を調製する。その後は実施例1と同様に操作し、懸濁粒子の状態を光学顕微鏡で観察したところ、重合性モノマーの懸濁液滴の中に微粒子酸化チタンは存在していたが、一部の微粒子酸化チタンは水相に移行していた。実施例1と同様に加熱重合を行い、球状ポリマー粒子は得られたが一部の微粒子酸化チタンは内包されず、球状ポリマー粒子の表面に付着していた。アニオン活性剤では吸着による微粒子酸化チタンの疎水化が不充分のため、実施例1のように高濃度に内包させることができなく、本発明の目的である複合球状ポリマー粒子は得られなかった。
上記実施例、比較例で得られた粒子の組成と平均粒子径を表1〜表3に示す。なお、表中の数値は平均粒子径を除き質量%である。
【0070】

【0071】

【0072】

【0073】
[実施例10]
配合例
(1)実施例1の粉体 4.5部
(2)実施例4の粉体 12部
(3)モノラノリン酸ポリオキシソルビット 3部
(4)セスキオレイン酸ソルビタン 7部
(5)シリコンオイル 20部
(6)スクワラン 18.5部
(7)精製水 30部
(8)1,3−ブタンジオール 5部
【0074】
製法:上記(3)〜(6)を65℃に加温して溶解させた中に、上記(1)と(2)を攪拌機で攪拌しながら均一に混合し、油相部作製する。上記(7)と(8)を65℃に加温して混合溶解させて水相部を作製する。油相部を攪拌機で攪拌しながら水相部を添加し乳化後冷却し、日焼け止め乳液を得た。図6は作製した乳液を石英板に7.18g/m2塗布し、分光光度計によるUV−Vis透過率測定データで、可視光線の透過が高く、紫外線A波、B波とも遮蔽効果が高いことがわかる。すなわち、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛の高透明性の機能を有したミクロンサイズの粉体基材を配合させ、ナノ粒子顔料の有害性を回避する日焼け止め乳液が製造できる。
【0075】
[実施例11]
配合例
(1)シリコン処理タルク 18.7部
(2)シリコン処理マイカ 38部
(3)シリコン処理酸化チタン 20部
(4)実施例7の粉体 3部
(5)実施例8の粉体 8部
(6)実施例6の粉体 0.3部
(7)スクワラン 6部
(8)ラノリン 1部
(9)ペンタオレイン酸デカグリセリル 5部
【0076】
製法:上記(1)〜(6)を混合、粉砕し、ブレンダーに入れる。さらに上記(7)〜(9)を加えブレンダーで均一に混合する。所定の中皿に入れ、プレス成型しパウダーファンデーションを得た。この成型板表面を分光測色計にて測定し、L*値74.7、a*値7.0、b*値18.4の色表示を示した。これより微粒子赤色酸化鉄、微粒子黄色酸化鉄、カーボンブラックをミクロンサイズの粉体性状で配合させることにより、ナノ粒子顔料の有害性を回避したパウダーファンデーションが製造できる。
【0077】
[実施例12]
配合例
(1)アクリルエマルジョン(固形分50%) 40部
(2)ポリビニルピロリドン 3部
(3)実施例6の粉体 15部
(4)1,3−ブタンジオール 5部
(5)精製水 37部
【0078】
製法:上記(4)と(5)の混合液を攪拌しながら、上記(2)を少量ずつ添加し溶解させる。さらに上記(3)を攪拌しながら添加し均一に分散させた後、上記(1)を攪拌しながら均一に混合させマスカラを得た。これよりカーボンブラックをミクロンサイズの粉体性状で配合させることにより、ナノ粒子顔料の有害性を回避したマスカラが製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上述べたように、本発明のナノ粒子顔料を高濃度にかつ均一に分散した状態で内包させた複合球状ポリマー粒子は、ナノ粒子顔料の機能を有するミクロンサイズの粒子であるため、微細から起因するナノ粒子固有の有害性を回避することができる。そのためこの複合球状ポリマー粒子を配合した化粧料は安全に、かつ安定した性状で使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子径が0.1〜0.005μmのナノ粒子顔料が、該顔料に吸着性の高い高分子分散剤とアクリル樹脂に分散状態で内包され、上記顔料が内包粒子の5〜70質量%であり、内包粒子の平均粒子径が1〜20μmであることを特徴とする複合球状ポリマー粒子。
【請求項2】
前記アクリル樹脂が、単官能疎水性アクリルモノマーおよび/または多官能疎水性アクリルモノマーからなる重合体である請求項1に記載の複合球状ポリマー粒子。
【請求項3】
一次粒子径が0.1〜0.005μmのナノ粒子顔料を、該顔料に吸着性の高い高分子分散剤の存在下に疎水性アクリルモノマーと分散混合し、この分散体を水媒体中に混合して懸濁重合することを特徴とする複合球状ポリマー粒子の製造方法。
【請求項4】
化粧料基材中に、請求項1または2記載の複合球状ポリマー粒子が含有されていることを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−215554(P2010−215554A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63292(P2009−63292)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】