説明

複合粒子および該粒子を担持したインクジェット印刷用材料

【課題】インクジェット印刷の品位の向上については、材料表面にシリカやアルミナなどの無機粒子を含む層を1層から複数層形成させる技術、高吸水性樹脂を利用する技術、多孔質粒子を利用する技術などが知られているが、無機粒子は比重が高く紙が重くなる、高吸水性樹脂は膨潤する、多孔質粒子は染料まで取り込み印刷濃度が高くならないなどの課題がある。本発明は、これらの課題を克服することのできる複合粒子および該粒子を担持したインクジェット印刷用材料を提供することを目的とする。
【解決手段】架橋構造および1〜10mmol/gの塩型カルボキシル基を有する有機高分子粒子にカチオン性有機化合物をイオン結合させてなる複合粒子および該粒子を表面に担持させたインクジェット印刷用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットによる印刷の速度および品位の向上に寄与する複合粒子および該粒子を担持したインクジェット印刷用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、印刷対象物に接触せずに印刷が可能であるため、紙、プラスチックシート、布帛などの平面的な材料に限らず、表面に凹凸を有する建材など様々な材料に対する印刷において、広く利用されている。しかしながら、インクジェット印刷においては、インクの印刷対象物への浸透による滲みや裏抜け、水系インクで乾燥が遅いことによる汚染などの不具合が起こりやすいため、通常、これらの不具合を抑制する目的で、印刷対象物の表面には何らかの処理が施されている。
【0003】
例えば、材料表面にシリカやアルミナなどの無機粒子を含む層を1層から複数層形成させる技術(特許文献1、2)が開示されているが、無機粒子は比重が高いため、紙が重くなる、あるいは、形成する層が多いため製造コストが高くなるなどの課題を有している。また、高吸水性樹脂を利用する技術(特許文献3、4)や多孔質粒子を利用する技術(特許文献5)も開示されているが、高吸水性樹脂は膨潤する、あるいは、多孔質粒子は染料まで取り込み印刷濃度が高くならないなどの課題がある。
【特許文献1】特開2008−055696号公報
【特許文献2】特開2004−243719号公報
【特許文献3】特開2005−262765号公報
【特許文献4】特開平11−042851号公報
【特許文献5】特開平07−001835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように従来の技術は、それぞれ改良の余地が残されているものである。本発明の目的は、上述の課題を克服することのできる複合粒子および該粒子を担持したインクジェット印刷用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上述の目的を達成すべく鋭意検討を進めた結果、特定の構造を有する有機高分子粒子にカチオン性有機化合物を複合させてなる複合粒子を紙などの基材に適用することで、良好な印刷品位を与えることのできるインクジェット印刷用材料が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は以下の手段によって達成される。
(1)架橋構造および1〜10mmol/gの塩型カルボキシル基を有する有機高分子粒子にカチオン性有機化合物をイオン結合させてなる複合粒子。
(2)有機高分子粒子の水膨潤度が6倍以下であることを特徴とする(1)に記載の複合粒子。
(3)エマルジョン状であることを特徴とする(1)または(2)に記載の複合粒子。
(4)有機高分子粒子がビニル系高分子であり、架橋構造がヒドラジン系化合物またはジビニルベンゼンによるものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の複合粒子。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の複合粒子を表面に担持させたインクジェット印刷用材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合粒子は、架橋構造により水膨潤性を抑制した有機高分子粒子とカチオン性有機化合物を複合させたものである。このため、インク溶剤の吸収とインク染料の吸着の両方の機能を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳述する。本発明に採用する有機高分子粒子は、架橋構造および1〜10mmol/gの塩型カルボキシル基を有しているポリアミド系高分子、ポリエステル系高分子、ビニル系高分子などの高分子から構成することができる。
【0009】
本発明に採用する有機高分子粒子の塩型カルボキシル基を構成する対イオンとしてはLi、Na、K、Mg、Caなどの金属イオンや4級アンモニウムイオンなどが挙げられ、1種であっても複数種であってもよい。対イオンとしてNaを選択すればインク溶剤の吸収量がより多くなる効果が得られ、Kを選択すればインク溶剤の吸収速度がより速くなる効果が得られる。
【0010】
これらの塩型カルボキシル基は有機高分子粒子を構成する高分子を重合する際にこれらの塩型カルボキシル基を含有した単量体を共重合したり、あるいは、ニトリル基やカルボン酸エステルを含有する単量体を共重合した後に加水分解したりするなどして導入することができる。
【0011】
また、塩型カルボキシル基の量は1〜10mmol/gであり、好ましくは3〜10mmol/g、より好ましくは3〜8mmol/gである。塩型カルボキシル基の量が1mmol/g未満の場合には、十分なインク溶剤吸収性が得られず、印刷用材料に滲みが発生することがある。一方、10mmol/gを超える場合には、相対的に架橋構造が少なくなり、有機高分子粒子の膨潤が激しくなるため、材料の表面状態が悪くなる、あるいは、印刷の鮮明性が低下するなどの問題を起こすことがある。
【0012】
また、本発明に採用する有機高分子粒子は架橋構造を有するものである。架橋構造によって有機高分子粒子を構成する高分子同士が結び付けられているため、インク溶剤吸収時の膨潤を抑制することが可能となる。該粒子の水膨潤度としては、材料の表面状態や印刷の鮮明性を良好に維持するという観点などから、該粒子の乾燥体積に対して6倍以下であることが望ましい。この水膨潤度は、有機高分子粒子中の塩型カルボキシル基の量および対イオンの種類、架橋構造の導入量などを調節することによって制御することができる。
【0013】
上記の架橋構造の種類には特に限定はなく、例えば高分子重合時にジビニルベンゼンなどの多官能単量体を加えて形成させた架橋構造や、高分子重合後にヒドラジン、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの多官能化合物を反応させて形成させた架橋構造などを挙げることができる。
【0014】
なお、目的とする機能が阻害されない限り、上述した塩型カルボキシル基および架橋構造の他に、H型カルボキシル基やその他の官能基が存在していても構わない。
【0015】
本発明に採用する有機高分子粒子は、粉末状であってもよいが、エマルジョン状であることがより好ましい。エマルジョン状の場合であれば、最終的に得られる本発明の複合粒子もエマルジョン状で得ることができ、印刷用材料への適用が容易となる。また、粉末状に比べて粒子径が小さくなるので、印刷品位もより鮮明なものとすることが可能となる。
【0016】
上述してきた本発明に採用する有機高分子粒子の好ましい例としては、ジビニルベンゼンによる架橋構造および塩型カルボキシル基を有するビニル系高分子粒子が挙げられる。該粒子の製造方法としては、特に限定はなく、例えば、有機高分子にジビニルベンゼンおよびカルボキシル基を有するビニル系単量体をグラフト重合させる方法などが挙げられるが、架橋密度とカルボキシル基量を容易に制御できるという点で、ジビニルベンゼン、および、カルボキシル基を有するビニル系単量体あるいはカルボキシル基に変換できる官能基を有するビニル系単量体、さらに必要に応じその他のビニル系単量体を共重合させる方法が利用しやすい。以下、かかる方法について述べる。
【0017】
ジビニルベンゼンの使用量としては、特に限定はなく、水膨潤性やインク溶剤吸収性などを考慮して、目的の機能が果たせるように設定すればよいが、通常、使用する全単量体に対して、3〜40重量%となるようにするのが好ましい。3重量%以下では得られた粒子の水膨潤が激しくなり、表面状態の悪化や印刷品位の低下を招くことがある。一方、40重量%以上では塩型カルボキシル基量が少なくなるため、十分なインク溶剤吸収性が得られないことがある。
【0018】
カルボキシル基を有するビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸、およびこれらの酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など、また、カルボキシル基に変換できる官能基を有するビニル系単量体としては、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどが挙げられ、これらのうちの一種または複数種を使用することができる。なお、カルボキシル基に変換できる官能基を有するビニル系単量体を使用した場合には、重合によって得られた粒子に加水分解処理を施すなどしてカルボキシル基を生成させる。
【0019】
これらの単量体の使用量としては、良好な印刷品位を得るという観点などから、得られる粒子中に、塩型カルボキシル基が1〜10mmol/g、好ましくは3〜10mmol/g、より好ましくは3〜8mmol/gとなるように使用するのが望ましい。
【0020】
重合方法としては、特に限定はないが、粉末状の粒子を得る方法としては、懸濁重合(パール重合)または懸濁沈殿重合による方法を用いることが好ましく、またエマルジョン状の粒子を得る方法としては、乳化重合による方法が好ましい。
【0021】
上述したように重合組成としてカルボキシル基に変換できる官能基を有するビニル系単量体を採用した場合には、重合後、加水分解処理を行う。処理条件は上述のカルボキシル基量が得られるように適宜設定すればよいが、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%のアルカリ性金属塩水溶液中、温度50〜120℃で1〜10時間処理する方法が工業的に好ましい。かかる処理では、使用したアルカリ性金属塩に対応する金属イオンが結合した塩型カルボキシル基が得られる。ここで使用するアルカリ性金属塩としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等が挙げられ、金属種としては、Li、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属を挙げることができる。
【0022】
上述した方法により得られたジビニルベンゼンによる架橋構造および塩型カルボキシル基を有する粒子の塩型カルボキシル基は、必要に応じ金属塩水溶液や酸水溶液などで処理を行うことによって、カルボキシル基に結合させる金属イオンの種類や量を調整することができる。
【0023】
有機高分子粒子の別の例としては、アクリロニトリル系高分子粒子にヒドラジン系化合物による架橋導入処理およびアルカリ金属塩による加水分解処理を施して塩型カルボキシル基を導入したビニル系高分子粒子が挙げられる。該粒子においても、架橋構造の量および塩型カルボキシル基量の調節を比較的容易に行うことができる。
【0024】
該ビニル系高分子粒子の原料粒子となるアクリロニトリル系高分子粒子としては、アクリロニトリル単独高分子またはアクリロニトリルを40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上含有するアクリロニトリル系高分子により形成された粒子を採用することができる。アクリロニトリルと共重合させる単量体については、特に制限はなく、適宜選択すればよい。該アクリロニトリル系高分子粒子は粉末状であっても、エマルジョン状であってもよい。エマルジョン状の場合でもそのまま後述する処理を行うことが可能である。
【0025】
アクリロニトリル系高分子粒子はヒドラジン系化合物による架橋導入処理を施されるが、該処理においてはアクリロニトリル系高分子粒子の有するニトリル基とヒドラジン系化合物の有するアミノ基が反応することによって架橋構造が形成され、繊維中の窒素含有量が増加する。この窒素含有量の増加は架橋度合の目安となるが、本発明の複合粒子に採用する場合、1〜10重量%とするのが好ましい。
【0026】
窒素含有量の増加を1〜10重量%に調整し得る方法としては、上述のアクリロニトリル系高分子粒子をヒドラジン系化合物の濃度5〜60重量%の水溶液中、温度50〜120℃で5時間以内で処理する方法が工業的に好ましい。
【0027】
ここで使用されるヒドラジン系化合物としては、特に限定されるものでなく、水加ヒドラジンや、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジンなどのヒドラジン誘導体、エチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のアミノ基を複数含有する化合物が例示される。
【0028】
ヒドラジン系化合物による架橋導入処理を施された粒子は、該処理で残留したヒドラジン系化合物を十分に除去した後、酸処理を施しても良い。ここに使用する酸としては、特に限定されず、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸や、有機酸等が挙げられる。該酸処理の条件としても、特に限定されないが、酸濃度3〜20重量%、好ましくは7〜15重量%の水溶液に、温度50〜120℃で0.5〜10時間被処理粒子を浸漬するといった例が挙げられる。
【0029】
ヒドラジン系化合物による架橋導入処理を経た粒子、或いはさらに酸処理を経た粒子は、続いてアルカリ性金属塩による加水分解処理を施される。この加水分解処理により、ヒドラジン系化合物による架橋導入処理に関与せずに残留しているニトリル基、又は架橋導入処理後酸処理を施した場合には残留しているニトリル基と一部酸処理で加水分解されて生成しているアミド基がアルカリ性金属塩に対応する金属イオンが結合した塩型カルボキシル基に変換される。
【0030】
ここで使用するアルカリ性金属塩としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等が挙げられ、金属種としては、Li、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属を挙げることが出来る。
【0031】
また、加水分解処理によって生成される塩型カルボキシル基の量は、良好な印刷品位を得るという観点などから、1〜10mmol/g、好ましくは3〜10mmol/g、より好ましくは3〜8mmol/gであることが望ましい。
【0032】
加水分解処理の条件は、必要量のカルボキシル基が生成されるように適宜設定すればよいが、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%のアルカリ性金属塩水溶液中、温度50〜120℃で1〜10時間処理する方法が工業的に好ましい。なお、加水分解処理を経た粒子は、ニトリル基が残留していてもいなくてもよい。ニトリル基が残留していれば、その反応性を利用して、さらなる機能を付与できる可能性がある。
【0033】
加水分解処理を施された粒子は、必要に応じ金属塩を用いてカルボキシル基に結合させる金属イオンを調整する処理を行っても良い。該処理に用いる塩の種類としては、これらの金属の水溶性塩であれば良く、例えば水酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等が挙げられる。
【0034】
上述してきた本発明に採用する有機高分子粒子は該粒子の塩型カルボキシル基の一部において、カチオン性有機化合物とイオン結合することにより、本発明の複合粒子を形成する。
【0035】
本発明に採用されるカチオン性有機化合物の例としては、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤、あるいは、ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、1〜3級アミノ基や4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリレートの重合体、1〜3級アミノ基や4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体の重合体、ビニルアミン重合体またはその誘導体、アリルアミン重合体またはその誘導体、ジアリルアミン重合体、ジアリルメチルアミン重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、ジアリルアミン−二酸化イオウ共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−二酸化イオウ共重合体、アクリルアミド−ジアリルアミン共重合体、アクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体、ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合物、ジシアンジアミド−ジエチレントリアミン重縮合物、エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合体、アクリロニトリルとN−ビニルホルムアミド共重合体の加水分解物、ポリビニルアミジン系樹脂などのカチオン性高分子化合物を挙げることができ、単独または複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
特に、本発明に採用する有機高分子微粒子や酸性染料との結合力の強さの観点などから、4級アンモニウム基を有するカチオン性有機化合物を好ましく用いることができ、その中でも4級アンモニウム基を有するカチオン性高分子化合物を用いることがより好ましい。
【0037】
イオン結合させる方法としては、特に制限はないが、例えば、カチオン性有機化合物の水溶液に粒子状あるいはエマルジョン状の有機高分子粒子を混合する方法が挙げられる。混合後は、脱水後乾燥したり、噴霧乾燥したりしてもよいが、本発明に採用するエマルジョン状の有機高分子粒子であれば、カチオン性有機化合物と混合しても凝集沈澱を起こさず、エマルジョン状態の複合粒子を得ることが可能であり、印刷用材料に適用しやすい。
【0038】
有機高分子粒子に対してカチオン性有機化合物をイオン結合させる量としては、用いる有機高分子粒子やカチオン性有機化合物の官能基量、あるいは、担持させる印刷用材料の種類などを考慮して、最終的に印刷用材料に担持したときに良好な印刷品位を与えるように設定すればよい。例えば、上述したジビニルベンゼンを用いたエマルジョン状の有機高分子粒子とアクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体を用いる場合であれば、エマルジョン状有機高分子粒子とアクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体水溶液を固形分重量比10:1で混合する方法などが挙げられる。
【0039】
上述のようにして得られる本発明の複合粒子は、吸水性を有しながら低水膨潤性であり、表面がカチオン性となっているものである。酸性染料を含有する水性インクを用いるインクジェット印刷において、該複合粒子を担持した材料を適用した場合、酸性染料は粒子表面に留まり、溶剤である水は粒子内部に吸収される。このため、材料表面に該複合粒子の層を設けるだけで鮮明なインクジェット印刷が可能となる。
【0040】
本発明のインクジェット印刷用材料は、本発明の複合粒子を材料表面に担持させることによって得ることができる。採用できる材料としては、本発明の複合粒子が担持できるものであれば特に制限はなく、紙、プラスチックシート、布帛、木材、金属材料、コンクリート、ガラスなど様々なものを採用することができる。
【0041】
本発明の複合粒子を材料表面に担持させる方法としては、複合粒子がエマルジョン状の場合であれば、エマルジョン単独あるいはバインダーと混合して材料に塗布あるいは噴霧する方法を挙げることができる。また、複合粒子が粉末状であれば、バインダーと混合して材料に塗布する方法などを挙げることができる。
【0042】
また、本発明の複合粒子を担持させるにあたっては、必要に応じて、該粒子の他に、従来公知のシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、ゼオライトなどの無機粒子、導電度調整剤、消泡剤、沈澱防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防腐剤、酸化防止剤、褪色防止剤などを添加してもよい。
【0043】
また、場合によっては、本発明の複合粒子で構成される層の上側に光沢層を設けたり、下側にインク溶剤吸収層を設けたりするなど、従来公知の層を採用することも可能である。
【実施例】
【0044】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、これらはあくまでも例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。
【0045】
(1)塩型カルボキシル基量
十分乾燥した試料約1gを精秤し(W1[g])、これに200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2にし、次いで0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(V1[ml])を求め、次式によって全カルボキシル基量(A1[mmol/g])を算出する。

A1[mmol/g]=0.1×V1/W1

別途、上述の全カルボキシル基量測定操作中の1mol/l塩酸水溶液添加によるpH2への調整をすることなく同様に滴定曲線を求め、試料中に含まれるH型カルボキシル基(COOH)の量(A2[mmol/g])を求める。これらの結果から次式により塩型カルボキシル基量を算出する。

塩型カルボキシル基量[mmol/g]=A1−A2

【0046】
(2)水膨潤度
エマルジョン状有機高分子粒子の試料に固形分重量に対して70%のアロンフロックE(MTアクアポリマー(株)製)を添加して粒子を凝集させる。得られた凝集粒子を乾燥させた後、粉砕する。粉砕した粒子を目盛り付きの試験管に振動を加えながら体積が約1cmになるように入れ、試験管の目盛りで粒子の体積を読み取る(V2[cm])。次いで、この試験管に10cmの水を加え、遠心分離機(久保田商事(株)製 KS−8000)用いて、8000rpm、3分間遠心分離する。試験管を静かに取り出し、沈降した粒子の体積を測定し(V3[cm])、次式によって水膨潤度を算出した。

水膨潤度[倍]=V3/V2

【0047】
(3)インクの乾燥性
印刷10秒後の画像の上に市販のコピー用紙を重ねてこすりつけ、コピー用紙に転写されたインクの有無を下記の評価基準に従って評価した。
○:ほとんど転写されない
△:一部転写される
×:「△」の状態以上に転写される
【0048】
(4)印刷の鮮明性
印刷した画像の鮮明性を目視観察で下記の評価基準に従って評価した。
○:画像が鮮明である
△:画像がやや不鮮明である
×:画像が不鮮明でぼやけて見える
【0049】
[実施例1]
反応槽にイオン交換水210部およびエレミノールMON−2(三洋化成工業(株)製)2部を仕込む。次にこの反応槽を温度60℃まで昇温し、60℃に保ち攪拌しながら反応槽内にアクリル酸エチル78部、メタクリル酸メチル5部、ジビニルベンゼン17部からなるモノマー混合液、過硫酸アンモニウム0.6部を水30部に溶解した水溶液、および、ピロ亜硫酸ナトリウム0.5部を水30部に溶解した水溶液を3時間かけて滴下し、滴下終了後2時間同一条件に保つことで重合を行う。得られたエマルジョンは固形分21%であった。該エマルジョン480部に、10%水酸化カリウム水溶液400部を添加し、95℃で48時間加水分解反応を行った。次いで、加水分解後のエマルジョンをセルロース半透膜に入れ、イオン交換水中に浸し脱塩を行った後、イオン交換水を加え、固形分5%のエマルジョン状有機高分子粒子aを得た。該粒子の塩型カルボキシル基量および水膨潤度は表1のとおりであった。
【0050】
上記で得られた固形分5%のエマルジョン状有機高分子粒子aとアクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体(日東紡績(株)製 PAS−J−81L)の5%水溶液を10:1の割合で混合し、エマルジョン状の複合粒子Aを作成した。
【0051】
エマルジョン状複合粒子Aを市販のコピー用紙に付着量が10g/mとなるように塗布して乾燥した後、インクジェットプリンタ(キヤノン(株)製 PIXUS ip2600)で画像の印刷を行い、インクの乾燥性および印刷の鮮明性について評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2]
実施例1の加水分解反応において、水酸化カリウム水溶液の濃度を2.5%とした以外は実施例1と同様にして、固形分5%のエマルジョン状有機高分子粒子bを得た。該粒子を用いて、実施例1と同様にしてエマルジョン状複合粒子Bを作成し、該粒子を塗布したコピー用紙について印刷品位の評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例3]
実施例1においてモノマー混合液の組成をアクリル酸エチル92部、メタクリル酸メチル5部、ジビニルベンゼン3部、とすること、および、加水分解反応において、水酸化カリウム水溶液の濃度を15%とした以外は実施例1と同様にして、エマルジョン状有機高分子粒子cを得た。該粒子を用いて、実施例1と同様にしてエマルジョン状複合粒子Cを作成し、該粒子を塗布したコピー用紙について印刷品位の評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例4]
アクリロニトリル490部、p−スチレンスルホン酸ソーダ16部及びイオン交換水1181部をオートクレーブ内に仕込み、更に重合開始剤としてジ−tert−ブチルパーオキサイドを単量体全量に対して0.5%添加した後、密閉し、次いで撹拌下において150℃の温度にて23分間重合せしめた。反応終了後、撹拌を継続しながら約90℃まで冷却し、原料粒子βのエマルジョンを得た。この原料粒子βのエマルジョンに、浴中濃度が35%となるようにヒドラジンを加え、102℃で2.5時間架橋処理を行った。続いて浴中濃度が10%となるように水酸化ナトリウムを加え、102℃で5時間加水分解処理を行った。得られたエマルジョンをセルロースチューブに入れてイオン交換水で1週間透析・脱塩した後、水を加え、固形分5%のエマルジョン状有機高分子粒子dを得た。該粒子の塩型カルボキシル基量および水膨潤度は表1のとおりであった。
【0055】
エマルジョン状有機高分子粒子dを用いて、実施例1と同様にしてエマルジョン状複合粒子Dを作成し、該粒子を塗布したコピー用紙について印刷品位の評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
実施例1の加水分解反応において、水酸化カリウム水溶液の濃度を1.5%とした以外は実施例1と同様にして、固形分5%のエマルジョン状有機高分子粒子eを得た。該粒子を用いて、実施例1と同様にしてエマルジョン状複合粒子Eを作成し、該粒子を塗布したコピー用紙の印刷品位の評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例2]
実施例3において水酸化カリウム水溶液の濃度を20%とした以外は実施例1と同様にして、エマルジョン状有機高分子粒子fを得た。該粒子を用いて、実施例1と同様にしてエマルジョン状複合粒子Fを作成し、該粒子を塗布したコピー用紙の印刷品位の評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例3]
実施例1のエマルジョン状有機高分子粒子aを市販のコピー用紙に付着量が10g/mとなるように塗布して乾燥した後、インクジェットプリンタ(キヤノン(株)製 PIXUS ip2600)で画像の印刷を行い、インクの乾燥性および印刷の鮮明性について評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例4]
アクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体(日東紡績(株)製 PAS−J−81L)を市販のコピー用紙に付着量が10g/mとなるように塗布して乾燥した後、インクジェットプリンタ(キヤノン(株)製 PIXUS ip2600)で画像の印刷を行い、インクの乾燥性および印刷の鮮明性について評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
表1からわかるように、本発明の複合粒子を採用した実施例1〜4ではインクの乾燥性が良好であり、印刷も鮮明なものとなった。これに対して、比較例1は有機高分子粒子中の塩型カルボキシル基が少なすぎるため、十分にインク溶剤を吸収できずに紙自体にもインクが浸透したため、インクの乾燥性および印刷の鮮明性が劣るものとなったと考えられる。比較例2は有機高分子粒子中の塩型カルボキシル基が多すぎるため、粒子の水膨潤が激しくなり、印刷の鮮明性が低下したと考えられる。
【0061】
比較例3では、カチオン性有機化合物を複合していないため、インク染料が粒子表面で広がりやすくなり、印刷の鮮明性が劣るものとなったと考えられる。比較例4では、カチオン性有機化合物のみであるため、インク溶剤は紙自体に吸収されることとなり、インクの乾燥性および印刷の鮮明性が劣るものとなったと考えられる。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋構造および1〜10mmol/gの塩型カルボキシル基を有する有機高分子粒子にカチオン性有機化合物をイオン結合させてなる複合粒子。
【請求項2】
有機高分子粒子の水膨潤度が6倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
エマルジョン状であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項4】
有機高分子粒子がビニル系重合体であり、架橋構造がヒドラジン系化合物またはジビニルベンゼンによるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の複合粒子を表面に担持させたインクジェット印刷用材料。

【公開番号】特開2009−298917(P2009−298917A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154817(P2008−154817)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】