説明

複合荷電粒子ビーム装置

【課題】FIB鏡筒とSEM鏡筒を直角に構成した装置において、観察している試料の位置関係を作業者が把握しやすいFIB像とSEM像を表示すること。
【解決手段】FIB鏡筒1と、FIB鏡筒1と略直角に配置されたSEM鏡筒2と、試料4を載置する試料ステージ3と、試料4から発生する二次粒子を検出する二次電子検出器5と、検出信号からFIB像とSEM像を形成する観察像形成部15と、FIB像内の試料の左右の向きとSEM像内の試料の左右の向きが同じであるFIB像とSEM像を表示する表示部9と、を有する複合荷電粒子ビーム装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は集束イオンビーム装置や走査電子顕微鏡などの荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスなどの微細な試料を加工、観察する装置として集束イオンビーム(FIB)装置が知られている。また、集束イオンビームで加工している試料を走査電子顕微鏡(SEM)でリアルタイム観察する装置としてFIB−SEM複合装置が知られている。
【0003】
FIB−SEM複合装置は、一般に、FIB鏡筒の照射軸とSEM鏡筒の照射軸とのなす角度が50度から60度程度になるようにそれぞれの鏡筒が配置されている。これにより、FIBとSEMで試料の同一領域を観察することができる。また、FIB像とSEM像で同じ観察対象を上下が同じ向きに見えるように観察像を表示している。
【0004】
例えば、図5(a)に示すように、試料ホルダ23に固定された薄片試料24に対し、イオンビーム51と電子ビーム52を照射し、観察像を取得する。図5(b)の左側のSEM像55と右側のFIB像56は、取得した観察像である。SEM像55とFIB像56は、薄片試料24の観察面24aが上下同じ向きになるように表示されている。このため、SEM像55とFIB像56で観察している薄片試料24の位置関係が明確であり、作業者は操作がしやすい。
【0005】
ところで、近年のデバイス寸法の縮小に伴い、FIBで加工している試料面を高分解能でSEM観察することが求められている。そこで、FIB鏡筒とSEM鏡筒を直角に構成した複合荷電粒子ビーム装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
この装置は、FIBで加工した断面に対し、垂直方向からSEM観察することができる。SEMは、一般に観察面に対し垂直方向から観察すると、高い分解能で観察できる。従って、特許文献1の装置はFIBで加工した断面を、その場で、高分解能でSEM観察することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1の装置はFIB鏡筒とSEM鏡筒を直角に配置されているため、FIBで観察している試料面をSEMで観察することができない。そのため、作業者が観察像内における試料の位置関係を把握することが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−231720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、FIB鏡筒とSEM鏡筒を直角に配置された装置において、FIB像とSEM像で観察している試料の位置関係を作業者が把握しやすい複合荷電粒子ビーム装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
FIB鏡筒と、FIB鏡筒と略直角に配置されたSEM鏡筒と、試料を載置する試料台と、試料から発生する二次粒子を検出する検出器と、検出器の検出信号からFIB像とSEM像を形成する観察像形成部と、FIB像内の試料の左右の向きとSEM像内の試料の左右の向きが同じであるFIB像とSEM像を表示する表示部と、を有する複合荷電粒子ビーム装置を用いる。
【0011】
さらに、複合荷電粒子ビーム装置は、FIB像内の試料の左右の向きとSEM像内の試料の左右の向きは同じになるようにFIB鏡筒とSEM鏡筒のビーム走査方向を制御する走査制御部を有する。
また、複合荷電粒子ビーム装置は、FIB像内の試料の左右の向きとSEM像内の試料の左右の向きは同じになるようにFIB像またはSEM像を画像処理する画像処理部を有する。
また、複合荷電粒子ビーム装置は、FIB照射による観察面形成と観察面のSEM像取得とを繰り返すことで取得した複数のSEM像の左右の向きを反転させ、反転させたSEM像から三次元像を形成する三次元像形成部を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置によれば、左右の向きが同じであるFIB像とSEM像を表示することにより、FIB像とSEM像で観察している試料の位置関係が明確となり、作業者が容易に操作できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る試料観察を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態に係る三次元像形成を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態に係る三次元像形成を説明する図である。
【図5】従来のFIB−SEM複合装置による試料観察を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は、FIB鏡筒とSEM鏡筒を直角に構成した装置でFIB像とSEM像の表示方向を揃える。
【0015】
従来のFIB鏡筒とSEM鏡筒とが50度から60度程度で配置された複合装置では、同じ観察面を観察することができるため、同一対象物をFIB像とSEM像で表示することができる。従って、表示方向がどの方向であっても作業者は試料の位置関係を明確に把握することができた。
【0016】
しかし、FIB鏡筒とSEM鏡筒を直角に構成した装置では、特に、イオンビームで形成した観察面を、試料を移動させることなくその場で、観察面に対し略垂直方向から電子ビームを照射し観察面のSEM像を取得する場合においては、FIB像に観察面が表示されない。
【0017】
さらに、従来装置のように、FIB像とSEM像の表示方向も上下方向が同じ方向であったとしても、同一対象物をFIB像とSEM像に表示することができない場合であっても、作業者は試料の位置関係について容易に把握することができなかった。
【0018】
そこで、本発明の実施形態では、FIB像、またはSEM像の左右方向の表示方向を揃える。これにより同一対象物をFIB像とSEM像に表示することができなくても、表示方向が揃っているため、FIB像とSEM像から試料の位置関係を直感的に把握しやすくなった。
【0019】
さらに、取得したSEM像から三次元像を構築する場合においては、取得したSEM像の左右の向きをさらに反転させることにより、実際の試料の位置関係を再現した三次元像を構築することができる。
【0020】
以下、本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置の実施形態について説明する。
本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置は、図1に示すように、FIB鏡筒1と、SEM鏡筒2と、試料ステージ3と、二次電子検出器5と、透過電子検出器6を備えている。FIB鏡筒1とSEM鏡筒2は、それぞれのビーム照射軸が略垂直に交差するように配置されている。そして、試料ステージ3に固定された試料4近傍でそれぞれのビーム照射軸が交差するように配置されている。これにより、FIB鏡筒1から照射したイオンビームにより加工した加工面に対し、SEM鏡筒2から電子ビームを略垂直に照射しSEM観察することができる。
【0021】
試料ステージ3は、ステージ駆動機構7により駆動する。試料ステージ3は、FIB鏡筒1のビーム照射軸を中心に回転可能な回転機構と、X、Y、Zの三軸方向に移動可能な移動機構を備えている。また、試料ステージ3は、試料4をイオンビームに対し傾斜させる傾斜機構を備える。これにより、所望の角度からイオンビームを照射し試料4を加工することができる。
【0022】
透過電子検出器6、SEM鏡筒2のビーム照射軸上に配置されている。SEM鏡筒2から電子ビームを照射し、試料4を透過した電子や試料4で散乱した電子を検出することができる。
【0023】
二次電子検出器5と透過電子検出器6は、像形成部8と接続されている。二次電子検出器5の検出信号からFIB像やSEM像を形成する。二次電子検出器5の他に、電子ビーム鏡筒2内部に反射電子検出器を備え、反射電子像を形成することもできる。そして、試料4から放出される散乱電子を検出するスクリーンを備え、EBSD像を形成することもできる。透過電子検出器6の検出信号から透過電子像を形成する。また、試料4から放出されるX線を検出するEDS検出器16を備える。
【0024】
FIB像、SEM像や透過電子像は表示部9に表示される。表示部9は表示装置13と表示装置14からなり、それぞれの観察像を別々の表示装置に表示することができる。また、一つの表示装置にそれぞれの観察像を表示することもできる。その場合、表示部9は一つの表示装置からなる。
【0025】
作業者は入力部10を通して複合荷電粒子ビーム装置を操作する。ビーム照射条件や加工領域の設定などを入力することができる。
また、ビーム走査制御部11は、FIB鏡筒1やSEM鏡筒2から照射するイオンビームや電子ビームの走査方向を制御する。
【0026】
また、画像処理部12は、像形成部8で形成されたFIB像やSEM像などの観察像を画像処理する。
また、像形成部8で形成された複数のSEM像から三次元像を形成する三次元像形成部15を備えている。
【0027】
<実施形態1>
試料の観察像を表示する本願発明の実施形態について説明する。図2(a)は、上述した複合荷電粒子ビーム装置における薄片試料24に対するイオンビーム21と電子ビーム22の照射方向を説明する図である。
【0028】
薄片試料24は試料ホルダ23に固定されている。薄片試料24が薄くなるように薄片試料24の観察面24a側にイオンビーム21を照射し、薄片化加工を行う。観察面24aに対し略平行の方向からイオンビーム21を照射する。この方向からイオンビーム21を走査照射し、取得した観察像が図2(b)の右側のFIB像34である。
【0029】
薄片加工中、または加工前後に観察面24aをSEM観察する。観察面24aに対し略垂直の方向から電子ビーム22を照射する。観察面に対し略垂直方向から電子ビームを照射することで高分解能の観察像が得られる。この方向から電子ビーム22を走査照射し、取得した観察像が図2(b)の左側のSEM像31である。
【0030】
そして、観察像の表示方向設定について説明する。薄片試料24の座標系を、イオンビーム照射方向をX軸方向25、電子ビーム照射方向をY軸方向26とし、Z軸の方向をZ軸方向27とする。
【0031】
FIB像34は、FIB像のX軸方向35が薄片試料24の座標系のZ軸方向27の逆方向に、FIB像のY軸方向36が試料24の座標系のY軸方向26になるように表示する。
SEM像31は、SEM像のX軸方向32が試料24の座標系のZ軸方向27に、SEM像のY軸方向33が薄片試料24の座標系のX軸方向25の逆方向になるように表示する。
【0032】
従来のFIB−SEM複合装置では、図5(b)に示すようにSEM像のX軸方向57は、FIB像のX軸方向59と逆の方向になっている。これに対し、複合荷電粒子ビーム装置では、図2(b)に示すようにSEM像のX軸方向32とFIB像のX軸方向35を同じ方向に表示している。これにより、同じ観察面を表示できないSEM像31とFIB像34であっても、X軸方向を揃えているため作業者は試料24の位置関係を容易に把握することができる。
【0033】
<実施形態2>
三次元像を構築する本願発明の実施形態について説明する。図3(a)に示すようにイオンビーム21により、試料24をスライス加工し、露出した面をSEM観察する。スライスされた面のSEM像とスライス面と次のスライス面の間隔から、SEM像をスライス間隔に対応した間隔で並べることで三次元像を構築する。
【0034】
イオンビーム21を試料24の座標系のZ軸方向27に平行に走査照射し加工する。加工により露出したスライス面24bに対し略垂直方向から電子ビーム22を照射し、SEM像を取得し、記憶する。再びイオンビーム21で加工し、スライス面24cを露出させ、スライス面24cのSEM像を取得する。次にスライス面24dを露出するように、スライス加工とSEM像取得を繰り返し行う。
【0035】
イオンビーム21と電子ビーム22の入射方向を変えることなく加工と観察ができるので、高分解能SEM像を効率良く取得することができる。
【0036】
次に三次元像形成部15での処理について説明する。記憶したスライス面のSEM像を図3(b)に示すように薄片試料24の構造を再現するように配置する。これにより、図3(c)に示すように薄片試料24の三次元像38を形成することができる。三次元像38は薄片試料24内部の構造物37の形状を再現することができるので、二次元像では把握しにくい構造を容易に把握することができる。
【0037】
また、三次元像形成部15では、取得したSEM像の方向と実際の観察対象の方向を揃える処理を行う。図4(a)は取得したSEM像31である。実際の薄片試料24に対しSEM像のX軸方向32が逆になっている。そこで、図4(b)に示すようにSEM像31をX軸方向が逆になるように反転させる。反転させたSEM像41で三次元像を形成することで、実際の薄片試料24の方向も再現した三次元像を形成することができる。
【0038】
上記の説明では、SEM像について説明したが、SEM像の代わりに透過電子像、反射電子像、EDS像、EBSD像を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…FIB鏡筒
2…SEM鏡筒
3…試料ステージ
4…試料
5…二次電子検出器
6…透過電子検出器
7…ステージ駆動機構
8…像形成部
9…表示部
10…入力部
11…ビーム走査制御部
12…画像処理部
13、14…表示装置
15…三次元像形成部
24…薄片試料
24a…観察面
24b、24c、24d…スライス面
25…X軸方向
26…Y軸方向
27…Z軸方向
31…SEM像
32…SEM像のX軸方向
33…SEM像のY軸方向
34…FIB像
35…FIB像のX軸方向
36…FIB像のY軸方向
37…構造物
38…三次元像
41…反転させたSEM像
51…イオンビーム
52…電子ビーム
55…SEM像
56…FIB像
57…SEM像のX軸方向
58…SEM像のY軸方向
59…FIB像のX軸方向
60…FIB像のY軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FIB鏡筒と、
前記FIB鏡筒と略直角に配置されたSEM鏡筒と、
試料を載置する試料台と、
前記試料から発生する二次粒子を検出する検出器と、
前記検出器の検出信号からFIB像とSEM像を形成する観察像形成部と、
前記FIB像内の前記試料の左右の向きと前記SEM像内の前記試料の左右の向きが同じである前記FIB像と前記SEM像を表示する表示部と、を有する複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記FIB像内の前記試料の左右の向きと前記SEM像内の前記試料の左右の向きは同じになるように前記FIB鏡筒と前記SEM鏡筒のビーム走査方向を制御する走査制御部を有する請求項1に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記FIB像内の前記試料の左右の向きと前記SEM像内の前記試料の左右の向きは同じになるように前記FIB像または前記SEM像を画像処理する画像処理部を有する請求項1に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
FIB照射による観察面形成と前記観察面のSEM像取得とを繰り返すことで取得した複数のSEM像の左右の向きを反転させ、反転させたSEM像から三次元像を形成する三次元像形成部を有する請求項1から3のいずれか一つに記載の複合荷電粒子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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