説明

複合蛍光体及びその製造法

【課題】 本発明は、蛍光体粒子表面からの着色顔料粒子の脱離率が小さいことにより、高い輝度と高コントラストを有するプラズマディスプレイやカラーテレビジョン、蛍光表示管等を得ることのできる複合蛍光体及びその製造法を提供する。
【解決手段】 蛍光体と着色顔料とを混合攪拌して蛍光体の粒子表面に着色顔料を付着させた後、該混合物にテトラアルコキシシランを添加して40〜200℃の温度範囲で加熱することにより、着色顔料を蛍光体の粒子表面にテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物によって固定化させることによって、蛍光体の粒子表面に、着色顔料がテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物によって固定化されている複合蛍光体であって、前記着色顔料が前記蛍光体に対して0.01〜10重量%である複合蛍光体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粒子表面からの着色顔料粒子の脱離率が小さいことにより、高い輝度と高コントラストを有するプラズマディスプレイやカラーテレビジョン、蛍光表示管等を得ることのできる複合蛍光体及びその製造法を提供する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイやカラーテレビジョンの画像コントラストの向上を目的として、外光の反射を吸収し蛍光体の発光スペクトルをシャープにするフィルター材料、即ち顔料を蛍光体表面に付着させることが知られている。
【0003】
しかしながら、従来の顔料を付着させた蛍光体は、蛍光体スラリー製造中に蛍光体表面から顔料が脱離してしまい、脱離した顔料によってカラーフィルターやカラー受像管の輝度及びコントラストの低下を招くという問題を有していた。また、蛍光体表面への顔料付着処理は、多くの場合水溶液中で行われており、一部の蛍光体は特に耐湿性が劣るため、処理後の輝度の劣化が著しいものであった。
【0004】
これまでに、蛍光体表面に顔料を付着させる方法としては、蛍光体粒子表面にバインダーを介して顔料粒子を付着させる方法(特許文献1)、鉄塩水溶液又は酸化物ゾル溶液に赤色発光蛍光体を分散させ、沈殿剤を添加して沈殿物を生成させ、生成混合スラリーに水熱合成を施して蛍光体表面に顔料を付着させる方法(特許文献2)、赤色発光蛍光体表面に下地皮膜を介して酸化鉄を付着させる方法(特許文献3)が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平4−202286号公報
【特許文献2】特開平5−331462号公報
【特許文献3】特開平6−33051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蛍光体粒子表面からの顔料粒子の脱離率が小さい複合蛍光体は、現在最も要求されているところであるが、未だ得られていない。
【0007】
即ち、特許文献1には、蛍光体粒子表面にホットメルトタイプのバインダーを介して顔料粒子を付着させる方法が記載されているが、この方法は乾式で処理を行うため、処理後の輝度の劣化が少ないという利点はあるものの、蛍光体表面に顔料同士が凝集して付着するために、付着させた顔料による外光の反射を吸収し蛍光体の発光スペクトルをシャープにする十分な効果が期待できない。また、顔料が凝集して付着しているため、その部分からの顔料の脱離が大きいという問題を有している。
【0008】
特許文献2には、鉄塩水溶液又は酸化物ゾル溶液に赤色発光蛍光体を分散させ、沈殿剤を添加して沈殿物を生成させ、生成混合スラリーに水熱合成を施して蛍光体表面に顔料を付着させる方法が記載されているが、水系で処理を行うため、処理後の輝度の劣化が著しいという問題を有している。また、顔料は蛍光体表面に物理的に沈殿・付着しているだけなので、脱離率は大きいものとなる。
【0009】
また、特許文献3には、赤色発光蛍光体表面に下地皮膜を介して酸化鉄を付着させる方法が記載されているが、下地皮膜の形成を反応を水溶液中で行うため、処理後の輝度の劣化が著しいという問題を有している。また、顔料は蛍光体表面に物理的に沈殿・付着しているだけなので、脱離率は大きいものとなる。
【0010】
そこで、本発明は、蛍光体粒子表面からの着色顔料粒子の脱離率が小さい複合蛍光体及びその製造法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、蛍光体と着色顔料とを混合攪拌して蛍光体の粒子表面に着色顔料を付着させた後、該混合物にテトラアルコキシシランを添加して40〜200℃の温度範囲で加熱することにより、着色顔料を蛍光体の粒子表面にテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物によって固定化させた複合蛍光体粒子粉末は、処理前後の輝度の劣化が少ないと共に、蛍光体粒子表面からの顔料粒子の脱離率が小さいことを見いだし、本発明をなすに至った。
【0012】
即ち、本発明は、蛍光体と着色顔料とを混合攪拌して蛍光体の粒子表面に着色顔料を付着させた後、該混合物にテトラアルコキシシランを添加して40〜200℃の温度範囲で加熱することにより、着色顔料を蛍光体の粒子表面にテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物によって固定化させることを特徴とする複合蛍光体の製造法である(本発明1)。
【0013】
また、本発明は、テトラアルコキシシランの処理量がSi換算で0.01〜5.0重量%であることを特徴とする本発明1の複合蛍光体の製造法である(本発明2)。
【0014】
また、本発明は、蛍光体が赤色発光蛍光体であり、着色顔料がヘマタイト粒子粉末であることを特徴とする本発明1又は2記載の複合蛍光体の製造法である(本発明3)。
【0015】
また、本発明は、蛍光体の粒子表面に、着色顔料がテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物によって固定化されている複合蛍光体であって、前記着色顔料が前記蛍光体に対して0.01〜10重量%であることを特徴とする複合蛍光体である(本発明4)。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る複合蛍光体の製造法は、処理前後の輝度の劣化が少ないと共に、蛍光体粒子表面からの着色顔料粒子の脱離率が小さい複合蛍光体を得ることができるので、プラズマディスプレイやカラーテレビジョン、蛍光表示管等に用いられる蛍光体の製造法として好適である。
【0017】
本発明に係る複合蛍光体は、処理前後の輝度の劣化が少ないと共に、蛍光体粒子表面からの着色顔料粒子の脱離率が小さい複合蛍光体であるので、プラズマディスプレイやカラーテレビジョン、蛍光表示管等に用いられる蛍光体として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0019】
先ず、本発明に係る複合蛍光体の製造法について述べる。
【0020】
本発明に係る蛍光体粒子表面からの着色顔料粒子の脱離率が小さい複合蛍光体は、蛍光体と着色顔料とを混合攪拌して蛍光体の粒子表面に着色顔料を付着させた後、該混合物にテトラアルコキシシランを添加して40〜200℃の温度範囲で加熱することにより、着色顔料を蛍光体の粒子表面にテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物によって固定化させることにより得ることができる。
【0021】
本発明における蛍光体粒子粉末としては、YS:Eu、Y:Eu、YSiO:Eu、YAl12:Eu、YVO:Eu、(Y,Gd)BO:Eu、Zn(PO:Mn、MgSiO:Mn、(Zn,Cd)S:Ag等の赤色発光蛍光体、ZnS:Ag,AlCaWO、ZnS:Ag,Al、ZnS:Ag,Cl、2CaO・MgO・2SiO:Ce、YSiO:Ce、BaMgAl1017:Eu、BaMgAl1423:Eu、(Ca,Sr,Ba)10(POCl12:Eu、(Zn,Cd)S:Ag(Ca,Mg)SiO:Ti等の青色発光蛍光体、ZnSiO:Mn、BaAl1219:Mn、BaMgAl1423:Mn、LaPO:(Ce,Tb)、Y(Al,Ga)12:Tb、ZnS:Cu、ZnS:Cu,Al、ZnO:Zn、YS:Tb、Zn(S,Se):Ag等の緑色発光蛍光体、(ZnF・MgF):Mn、(KF・MgF):Mn、MgF:Mn、(Zn,Cd)S:Cu、CaSiO:Pb,Mn等の黄色発光蛍光体を用いることができる。
【0022】
本発明における蛍光体の粒子径及び粒子形状は、用途や特性に応じて選べばよく、特には限定されないが、平均粒子径は1〜30μmの範囲が好ましい。
【0023】
本発明における着色顔料としては、Fe、Pb等の赤色用物質、Cr等の緑色用物質、CoO・nAl、2(AlNaSiO10)・Na等の青色用物質、Fe・SiO・Al等の黄色用物質を用いることができ、被処理粒子である蛍光体と同系色の着色顔料を付着させることが好ましい。
【0024】
本発明における着色顔料の粒子径及び粒子形状は、用途や特性に応じて選べばよく、特には限定されないが、平均粒子径は1.0μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下、更により好ましくは0.3μm以下である。
【0025】
着色顔料の付着量は、蛍光体に対して0.01〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.02〜5重量%、更により好ましくは0.05〜2重量%である。着色顔料の付着が10重量%を超える場合には、得られる複合蛍光体の発光輝度が低下するため好ましくない。0.01重量%未満の場合には、十分なコントラスト改善効果が得られない。
【0026】
本発明におけるテトラアルコキシシランは、化1で表わされるテトラアルコキシシランから、加熱工程を経て生成される。
【0027】
<化1>
SiX4
X:−OR
R:C1〜C5のアルキル基
【0028】
テトラアルコキシシランとしては、具体的には、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン及びテトラペンチルオキシシラン等を用いることができる。
【0029】
着色顔料の脱離率を考慮すると、テトラエトキシシラン及びテトラメトキシシランが好ましい。
【0030】
テトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物による被覆量は、蛍光体に対して、Si換算で0.001〜5.0重量%であることが好ましい。より好ましくは0.005〜4.0重量%、更により好ましくは0.01〜3.0重量%である。
【0031】
テトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物による被覆量が0.001重量%未満の場合には、蛍光体の粒子表面に付着している着色顔料を固定化するには不十分な量であり、着色顔料が蛍光体の粒子表面から脱離しやすくなるため、コントラストを改善することが困難である。5.0重量%を超える場合には、蛍光体の粒子表面に付着している着色顔料を固定化することはできるが、非蛍光体成分であるテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物の増加により蛍光体の発光輝度が損なわれる。
【0032】
本発明に係る複合蛍光体は、蛍光体と着色顔料とを混合攪拌して蛍光体の粒子表面に着色顔料を付着させた後、該混合物にテトラアルコキシシランを添加して加熱処理することによって得ることができる。
【0033】
蛍光体の粒子表面への着色顔料の付着は、蛍光体と着色顔料とを機械的に混合攪拌すればよい。
【0034】
蛍光体と着色顔料との混合攪拌やテトラアルコキシシランと粒子表面に着色顔料が付着している蛍光体との混合攪拌をするための機器としては、粉体層にせん断力を加えることのできる装置が好ましく、殊に、せん断、へらなで及び圧縮が同時に行える装置、例えば、ホイール形混練機、ボール型混練機、ブレード型混練機、ロール型混練機を用いることができ、ホイール型混練機がより効果的に使用できる。
【0035】
前記ホイール型混練機としては、エッジランナー(「ミックスマラー」、「シンプソンミル」、「サンドミル」と同義語である)、マルチマル、ストッツミル、ウエットパンミル、コナーミル、リングマラー等があり、好ましくはエッジランナー、マルチマル、ストッツミル、ウエットパンミル、リングマラーであり、より好ましくはエッジランナーである。前記ボール型混練機としては、振動ミル等がある。前記ブレード型混練機としては、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー、ナウターミキサー等がある。前記ロール型混練機としては、エクストルーダー等がある。
【0036】
混合攪拌時における条件は、蛍光体の粒子表面に着色顔料ができるだけ均一に付着されるように、線荷重は19.6〜1960N/cm(2〜200Kg/cm)、好ましくは98〜1470N/cm(10〜150Kg/cm)、より好ましくは147〜980N/cm(15〜100Kg/cm)、処理時間は5〜120分、好ましくは10〜90分の範囲で処理条件を適宜調整すればよい。なお、撹拌速度は2〜2000rpm、好ましくは5〜1000rpm、より好ましくは10〜800rpmの範囲で処理条件を適宜調整すればよい。
【0037】
蛍光体の粒子表面に着色顔料を付着させた後、テトラアルコキシシランを添加して混合攪拌し加熱処理することにより、蛍光体に付着している着色顔料をテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物で固定化する。
【0038】
混合攪拌時における条件は、着色顔料が付着している蛍光体の粒子表面にテトラアルコキシシランができるだけ均一に被覆されるように、線荷重は19.6〜1960N/cm(2〜200Kg/cm)、好ましくは98〜1470N/cm(10〜150Kg/cm)、より好ましくは147〜980N/cm(15〜100Kg/cm)、処理時間は5〜120分、好ましくは10〜90分の範囲で処理条件を適宜調整すればよい。なお、撹拌速度は2〜2000rpm、好ましくは5〜1000rpm、より好ましくは10〜800rpmの範囲で処理条件を適宜調整すればよい。
【0039】
テトラアルコキシシランの添加量は、蛍光体100重量部に対して0.005〜70重量部が好ましい。0.005重量部未満の場合には、コントラストを改良できる程度に着色顔料を十分付着させることが困難である。70重量部を超える場合には、着色顔料を十分付着させることができるため、必要以上に添加する意味がない。
【0040】
加熱温度は、通常40〜200℃が好ましく、より好ましくは60〜150℃である。処理時間は、10分〜36時間が好ましく、30分〜24時間がより好ましい。テトラアルコキシシランは、この加熱工程によりケイ素化合物となる。
【0041】
本発明に係る複合蛍光体の粒子形状や粒子サイズは、芯粒子となる蛍光体の粒子形状や粒子サイズに大きく依存し、蛍光体に相似する粒子形態を有している。
【0042】
本発明に係る複合蛍光体の粒子サイズは、特には限定されないが、平均粒子径は1.0〜30μmの範囲が好ましい。
【0043】
本発明に係る蛍光体の初期発光輝度は、コーティング処理前の初期発光輝度に対して85%以上である。蛍光体の初期発光輝度が、コーティング処理前の蛍光体の初期発光輝度に対して85%未満である場合には、処理による初期発光輝度の低下が激しく、高い初期発光輝度を有する蛍光体を得ることが困難となる。より好ましくは87.5%以上、更により好ましくは90%以上である。
【0044】
本発明に係る複合蛍光体の着色顔料の脱離率は20%以下が好ましく、より好ましくは15%以下、更により好ましくは10%以下である。着色顔料の脱離率が20%を超える場合には、脱離した着色顔料によってカラーフィルターやカラー受像管等の輝度及びコントラストが低下する。
【0045】
<作用>
本発明における最も重要な点は、蛍光体と着色顔料とを混合攪拌して蛍光体の粒子表面に着色顔料を付着させた後、該混合物にテトラアルコキシシランを添加して40〜200℃の温度範囲で加熱することにより着色顔料を蛍光体の粒子表面にテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物によって固定化させた複合蛍光体粒子粉末は、処理前後の輝度の劣化が少ないと共に、蛍光体粒子表面からの顔料粒子の脱離率が小さいという事実である。
【0046】
本発明に係る複合蛍光体の初期発光輝度の低下が抑制されている理由として、本発明者は、蛍光体粒子粉末の粒子表面への着色顔料の付着及び固定化処理を乾式で行ったことによるものと考えている。
【0047】
また、本発明に係る複合蛍光体の蛍光体粒子表面からの顔料粒子の脱離率が小さい理由として、本発明者は、蛍光体の粒子表面に存在する水酸基と蛍光体の粒子表面に付着している着色顔料の粒子表面に存在する水酸基を介してテトラアルコキシシランの加水分解が起こり、これを加熱処理して脱水することで、蛍光体の粒子表面と着色顔料とがテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物によって強固に結合されるためと考えている。
【実施例】
【0048】
以下、本発明における実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0049】
各粒子粉末の平均粒子径は、いずれも電子顕微鏡写真に示される粒子350個の粒子径をそれぞれ測定し、その平均値で示した。
【0050】
蛍光体の粒子表面に付着されている着色顔料の含有量は、各着色顔料に含まれている金属について、「蛍光X線分析装置3063M型」(理学電機工業株式会社製)を使用し、JIS K0119の「けい光X線分析通則」に従って測定した。
【0051】
各蛍光体粒子粉末のコーティング処理前及びコーティング処理後の発光輝度は、「分光蛍光光度計 RF−5300PC(株式会社島津製作所)」を用いて40℃、相対湿度90%の環境下測定を行った。
【0052】
複合蛍光体のコーティング前の発光輝度に対するコーティング後の発光輝度は、上述で測定した発光輝度をもとに、下記数1にそれぞれの測定値を挿入して求めた。
【0053】
<数1>
コーティング後の発光輝度/コーティング前の発光輝度(%)=コーティング後の発光輝度/コーティング前の発光輝度×100
【0054】
複合蛍光体に付着している着色顔料の脱離率(%)は、下記の方法により求めた値で示した。着色顔料の脱離率が0%に近いほど、複合蛍光体の粒子表面からの着色顔料の脱離量が少ないことを示す。
【0055】
複合蛍光体3gとエタノール40mlを50mlの沈降管に入れ、20分間超音波分散を行った後、120間分静置し、沈降速度の違いによって複合蛍光体と脱離した着色顔料とを分離した。次いで、この複合蛍光体に再度エタノール40mlを加え、更に20分間超音波分散を行った後120分間静置し、複合蛍光体と脱離した着色顔料を分離した。この複合蛍光体を80℃で1時間乾燥させ、前記「蛍光X線分析装置3063M型」(理学電機工業株式会社製)を使用し、JIS K0119の「けい光X線分析通則」に従って各着色顔料に含まれている金属量を測定し、下記数2に従って求めた値を着色顔料の脱離率(%)とした。
【0056】
<数2>
着色顔料の脱離率(%)={(Wa−We)/Wa}×100
Wa:複合蛍光体の着色顔料付着量
We:脱離テスト後の複合蛍光体の着色顔料付着量
【0057】
<実施例1:複合蛍光体の製造>
蛍光体A(種類:Y:Eu、平均粒子径1.5μm)1,000gをエッジランナー(製品名:MPUV−2型、株式会社松本鋳造鉄工所製)に投入し、次いで、着色顔料A(種類:α−Fe、平均粒子径0.08μm) 2gを添加し、294N/cm(30Kg/cm)の線荷重で30分間混合攪拌を行い、上記蛍光体Aの粒子表面に着色顔料Aを付着させた。なお、この時の攪拌速度は22rpmで行った。蛍光X線分析の結果、得られた蛍光体Aの着色顔料Aの付着量は、Fe換算で0.14重量%であった。
【0058】
次に、テトラエトキシシラン(商品名:KBE 信越化学工業株式会社製)13.6gを、エッジランナーを稼動させながら10分間かけて添加し、更に294N/cm(30Kg/cm)の線荷重で20分間、混合攪拌を行い、粒子表面に着色顔料Aが付着している蛍光体Aにテトラエトキシシランを被覆した。なお、このときの攪拌速度は22rpmで行った。
【0059】
上記で得られた粒子表面に着色顔料Aが付着している蛍光体Aを、乾燥機を用いて60℃で120分加熱処理することにより、テトラエトキシシランから生成するケイ素化合物によって蛍光体Aの粒子表面に着色顔料Aを固定化するとともに、テトラエトキシシランの加水分解などによって生成したエタノールや残留した水分等を揮散させた。得られた複合蛍光体は、電子顕微鏡観察の結果、テトラエトキシシランから生成するケイ素化合物による固定化処理後も着色顔料Aの存在がほとんど認められないことから、添加した着色顔料Aは、ほぼ全量が蛍光体Aの粒子表面に固定化されていることが認められた。テトラエトキシシランから生成するケイ素化合物量はSi換算で0.05重量%であった。
【0060】
得られた複合蛍光体粒子粉末は、平均粒子径が1.5μmであった。コーティング前の発光輝度に対するコーティング後の発光輝度は93.8%であり、着色顔料の脱離率は2.6%であった。
【0061】
前記実施例1に従って複合蛍光体を作製した。各製造条件及び得られた複合蛍光体の諸特性を示す。
【0062】
蛍光体粒子A〜C:
被処理粒子粉末として表1に示す特性を有する蛍光体粒子粉末を用意した。
【0063】
【表1】

【0064】
着色顔料:
着色顔料として表2に示す諸特性を有する無機顔料を用意した。
【0065】
【表2】

【0066】
実施例2〜6、比較例1及び2:
蛍光体粒子粉末の種類、着色顔料の付着工程における着色顔料の種類、添加量、エッジランナー処理の線荷重及び時間、テトラアルコキシシランによる被覆工程におけるテトラアルコキシシランの種類、添加量、エッジランナー処理の線荷重及び時間、加熱処理温度及び時間を種々変化させた以外は、前記実施例1と同様にして複合蛍光体を得た。
【0067】
このときの製造条件を表3に、得られた複合蛍光体の諸特性を表4に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る複合蛍光体の製造法は、処理前後の輝度の劣化が少ないと共に、蛍光体粒子表面からの着色顔料粒子の脱離率が小さい複合蛍光体を得ることができるので、プラズマディスプレイやカラーテレビジョン、蛍光表示管等に用いられる蛍光体の製造法として好適である。
【0071】
本発明に係る複合蛍光体は、処理前後の輝度の劣化が少ないと共に、蛍光体粒子表面からの着色顔料粒子の脱離率が小さい複合蛍光体であるので、プラズマディスプレイやカラーテレビジョン、蛍光表示管等に用いられる蛍光体として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体と着色顔料とを混合攪拌して蛍光体の粒子表面に着色顔料を付着させた後、該混合物にテトラアルコキシシランを添加して40〜200℃の温度範囲で加熱することにより、着色顔料を蛍光体の粒子表面にテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物によって固定化させることを特徴とする複合蛍光体の製造法。
【請求項2】
テトラアルコキシシランの処理量がSi換算で0.01〜5.0重量%であることを特徴とする請求項1記載の複合蛍光体の製造法。
【請求項3】
蛍光体が赤色発光蛍光体であり、着色顔料がヘマタイト粒子粉末であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の複合蛍光体の製造法。
【請求項4】
蛍光体の粒子表面に、着色顔料がテトラアルコキシシランから生成するケイ素化合物によって固定化されている複合蛍光体であって、前記着色顔料が前記蛍光体に対して0.01〜10重量%であることを特徴とする複合蛍光体。



【公開番号】特開2007−16195(P2007−16195A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202255(P2005−202255)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】