説明

複合部材の製造方法

【課題】芯金の外周に樹脂製環状体を接合した複合部材を複数製造する際、手間を簡略化できて生産性を向上し得る複合部材の製造方法を提供する。
【解決手段】中心孔11を有した芯金15の外周に樹脂製環状体17を嵌合した組合せ部材25を複数用い、芯金15の中心孔11に軸状治具27を貫通させて複数の組合せ部材25を軸状治具27に支持させ、各芯金15に各樹脂製環状体17を融着して接合することで複数の複合部材23を製造する際、樹脂製環状体17の両端面が芯金15の両端面より張り出した複数の組合せ部材25を、隣り合う各組合せ部材25における樹脂製環状体17の端面同士を当接させて軸状治具27に支持させ、各芯金15を加熱することで各樹脂製環状体17の両端面を溶融することなく各樹脂製環状体17を各芯金15に融着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯金の外周に樹脂製環状体を接合した複合部材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芯金の外周に樹脂製環状体を接合した複合部材は種々の部品として使用されており、例えば、電動パワーステアリング装置のウオームホイールとしても使用されている。この電動パワーステアリング装置のウオームホイールは、操作性や耐久性等を確保するために、非常に高度な精度が要求される部品である。
【0003】
この電動パワーステアリング用ウオームホイールでは、金属の芯金の外周に樹脂製環状体が接合され、樹脂製環状体の外周にギアの歯部が形成されている。
【0004】
電動パワーステアリング用ウオームホイールの製造方法として、例えば下記特許文献1には、金属ボスの外周に樹脂成形体が一体化された部品を多数個取りするための製造方法が提案されている。ここでは、予め最終形状又はそれに近い形状に加工された複数の金属ボスを、軸状治具であるシャフトに串刺し状に固定し、複数の金属ボスに架け渡すように長尺筒状の樹脂成形体を嵌合して接合し、その後、隣接する金属ボス間で樹脂成形体を切断、分離することで、樹脂と金属との複合部材からなるウオームホイールブランクを作製し、このウオームホイールブランクを用いてウオームホイールが製造されていた。
【0005】
下記特許文献2には、芯金と樹脂製の歯車部とからなる嵌合部材について生産性を高める技術が提案されており、複数の芯金にそれぞれ歯車部を嵌合して複数の嵌合部材を形成し、この複数の嵌合部材を重ねて配置して融着している。ここでは、例えば、嵌合部材間にワッシャを配置して互いに離間させたり、芯金と歯車部の継ぎ目に凹部を設けたり、芯金の中心部分の端面を突出させるように段部を設けることで、芯金と歯車部との間の継ぎ目が隣接する嵌合部材と密着しないように配置して融着し、これにより融着後に隣接する嵌合部材間が接合されることを防止して製造されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3779136号公報
【特許文献2】特開2007−237459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の製造方法では、多数個のウオームホイールを製造する場合に手間を要して生産性を確保することが容易でなかった。
【0008】
即ち、例えば上記特許文献1では、複数の金属ボスをシャフトに配置する際、互いに隣接する金属ボス間にそれぞれスペーサを配置したり、金属ボスに凸部を形成したりする必要があった。そのため多数個のウオームホイールを製造する場合には、その芯金の数と同数のスペーサを配置したり凸部を形成したりしなければならず、融着作業の効率が著しく悪かった。
【0009】
しかも、融着後に隣接する金属ボス間の位置で長尺の樹脂成形体を切断しなければならず、位置ずれや誤差等による加工ミスも発生し易かった。
【0010】
上記特許文献2では、複数の嵌合部材を重ねて配置する際、融着後に隣接する嵌合部材間が接合されることを防止するために、例えば、芯金間にワッシャを介在させたり、芯金の端面の中心部分を突出させるように段部を設けたり、芯金及び歯車部の継ぎ目に凹部を加工して形成する必要があった。
【0011】
そのため多数個のウオームホイールを製造する場合には、芯金の数と同数のワッシャを配置したり、全ての芯金にそれぞれ金属加工して段部や凹部を形成したりしなければならず、やはり融着作業の効率が悪かった。しかも、段部や凹部等は製造時にのみ必要な形状であるため、芯金の外周に歯車部を融着後に除去するような場合には、更に金属加工を行なうことになり、一層生産性が低下し易かった。
【0012】
そこで、本発明では、芯金の外周に樹脂製環状体を接合した複合部材を複数製造する際、手間を簡略化できて生産性を向上させ得る複合部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の複合部材の製造方法は、貫通孔を有する芯金の外周に樹脂製環状体が嵌合された組合せ部材を複数用い、芯金の貫通孔に軸状治具を貫通させて複数の組合せ部材を軸状治具上に並べて支持させ、各芯金の外周に各樹脂製環状体を融着して接合することで複数の複合部材を製造する方法であり、樹脂製環状体の両端面が芯金の両端面より張り出した複数の組合せ部材を、隣り合う各組合せ部材における樹脂製環状体の端面同士を当接させて軸状治具に支持させ、各芯金を加熱することで、各樹脂製環状体の両端面を溶融することなく各樹脂製環状体を各芯金に融着する製造方法である。
【0014】
このような複合部材の製造方法によれば、樹脂製環状体の端面同士が当接した状態で各芯金の外周に各樹脂製環状体を融着しても、各芯金を加熱することで各樹脂製環状体の両端面を溶融することなく各樹脂製環状体を各芯金に融着するので、互いに隣り合う組合せ部材同士が接合されることを防止できる。
【0015】
しかも、各樹脂製環状体の両端面を各芯金の両端面より張り出して複数の組合せ部材を軸状治具に支持させることで、融着時に隣り合う組合せ部材同士が接合されることが防止できるため、各組合せ部材間にスペーサ等を介在させたり、芯金や樹脂製環状体に凹部や段部等の加工を施したりする必要がない。そのため、効率よく作業できて複合部材を容易に製造することが可能になり、多数の複合部材を製造する際、手間を簡略化できて生産性を向上することができる。
【0016】
本発明の複合部材の製造方法では、樹脂製環状体が芯金より厚い組合せ部材を複数用い、隣り合う各組合せ部材の樹脂製環状体同士を当接させると共に芯金同士を離間させて複数の組合せ部材を軸状治具に支持させ、各芯金を誘導加熱により加熱するのが好適である。
【0017】
このようにすれば、芯金を加熱する際、軸状治具に支持された各芯金が互いに離間していても、各芯金を同等に加熱し易く、融着時に各組合せ部材において樹脂製環状体が溶融又は軟化される程度を同等にでき、多数の複合部材の接合を防止して芯金と樹脂製環状体とを融着することが容易である。
【0018】
その場合、融着後に樹脂製環状体の端面と芯金の端面とを同一平面に加工してもよい。このようにすれば、融着の際に芯金と樹脂製環状体との境界部位からはみ出した樹脂を除去できるため、複合部材の端面を所定形状に精度よく形成できることに加え、加工時には樹脂製環状体に比べて芯金の加工量を少なく抑えることができるため、複合部材の端面の加工が容易である。
【0019】
本発明では、上述のような複合部材の製造方法によりウオームホイールブランクを製造した後、上記ウオームホイールブランクの外周にギアの歯部を形成することができる。
【0020】
このようにして電動パワーステアリング用ウオームホイールを製造すれば、上述の複合部材としてウオームホイールブランクを製造するので、隣り合う組合せ部材同士の接合を防止しつつ各芯金と各樹脂製環状体とを接合して複数のウオームホイールブランクを形成することが容易であり、そのため多数のウオームホイールを製造する際の手間を簡略化して生産性を向上し易い。
【発明の効果】
【0021】
本発明の複合部材の製造方法によれば、芯金の外周に樹脂製環状体を接合した複合部材を複数製造する際、手間を簡略化できて生産性を向上し易い複合部材の製造方法を提供することが可能である。
【0022】
本発明の複合部材の製造方法を利用して電動パワーステアリング用ウオームホイールを製造すれば、複数のウオームホイールを製造する際、手間を簡略化できて生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は実施形態の製造方法により製造するウオームホイールの正面図、(b)はその断面図である。
【図2】(a)は実施形態の製造方法により製造するウオームホイールブランクの正面図、(b)はその断面図である。
【図3】本発明の実施形態の製造方法に用いる芯金を、一部断面で示す端面図である。
【図4】実施形態の製造方法に用いる樹脂製環状体を、一部断面で示す端面図である。
【図5】実施形態の製造方法に係る複数の組合せ部材を軸状治具に支持させた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1乃至図5を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
まず、この実施形態において製造する電動パワーステアリング用ウオームホイールについて説明する。
【0026】
このウオームホイール10は、電動パワーステアリング装置の構成部品であり、図1に示すように、貫通孔としての中心孔11及び外周接合面13を同軸に有する芯金15と、芯金15の外周接合面13に接合された樹脂製環状体17とを備えている。芯金15と樹脂製環状体17とは強固に融着されて接合されている。
【0027】
樹脂製環状体17の外周にはウオームホイールの歯部19が形成されており、図示しないウオームと噛合可能となっている。一方、中心孔11にはキー溝21が設けられており、図示しないシャフトと相対回動不能に接合可能となっている。
【0028】
次に、このようなウオームホイール10を本実施形態により製造する方法について説明する。
【0029】
この実施形態では、まず、図2に示すような複合部材としてのウオームホイールブランク23を所定精度で製造し、そのウオームホイールブランク23を加工することでウオームホイール10を製造する。このようにすることは、ウオームホイールに要求される精度を実現し易くするためである。
【0030】
ここでウオームホイールブランクとは、ウオームホイール10を最終形状に仕上げるための中間体である。ウオームホイール10が各部において、極めて高い精度が要求されているため、加工前のウオームホイールブランク23の状態でも、高精度が要求される。
【0031】
この実施形態で、ウオームホイールブランク23を製造するには、図3に示すような芯金15と、図4に示すような樹脂製環状体17とを準備する準備工程と、これらを組み合わせて組合せ部材25を作製する嵌合工程と、複数の組合せ部材25を図5等に示すように軸状治具27に支持させる支持工程と、芯金を加熱することで芯金15の外周囲に樹脂製環状体17を融着する融着工程と、ウオームホイールブランク23としての精度を実現する前加工工程とにより製造する。
【0032】
まず、準備工程では、軸Lに沿う厚さが異なる芯金15及び樹脂製環状体17をそれぞれ複数準備する。これらは予め形成されたものを用いてもよいが、この実施形態では、それぞれを作製する。
【0033】
芯金15は、図3に示すように、中心部に軸Lに沿って厚さ方向に貫通する中心孔11を有すると共に、外周に略円柱形状の樹脂製環状体17を接合するための外周接合面13を有する。ここでは、中心孔11と外周接合面13とは、軸Lに対して精度よく同軸に形成されており、両端面15aはそれぞれ軸Lに対して直交するように形成されている。さらに、軸L方向の厚さが樹脂製環状体17とは異なる厚さとなっており、樹脂製環状体17より薄く形成されている。
【0034】
この芯金15は、金属の鍛造により成形体を作製し、必要に応じて機械加工等を施すことで作製する。鍛造により芯金15を作製すると、切削加工等により作製する場合に比べ、材料の無駄を省くことができると共に、多数の芯金15を所定精度で容易に作製できるため好適である。
【0035】
機械加工では、例えば中心部の中心孔11や樹脂製環状体17を接合するための外周接合面13を軸Lに沿って同軸に所定の精度で形成したり、両端面15aを軸Lに所定精度で直交するように形成したりする。
【0036】
なお、芯金15を構成する材料としては、ウオームホイール10として要求される強度が確保できる金属であればよい。
【0037】
芯金15の外周接合面13は、芯金15の両端面15a間全長で軸Lと直交する断面形状が一定となるように形成している。ここで、断面形状が一定とは、断面形状が軸L方向に均一であることの他、軸L方向に均一な表面を粗面化したり、その表面に凹凸形状を設けたりする場合なども含む。
【0038】
この実施形態では、鍛造により得られた外表面にローレット加工が施こされた凹凸形状に形成している。これにより芯金15と樹脂製環状体17との強固な接合を実現することができる。
【0039】
一方、樹脂製環状体17は、図4に示すように、芯金15の外周接合面13に接合可能な内周面を有する円環形状を呈する。
【0040】
樹脂の成形方法は用いる材料に応じて適宜選択できる。具体的には、樹脂製環状体17を構成する材料としては、ウオームホイール10として要求される強度が確保できると共に、芯金15に接触して配置された状態で芯金15を加熱することで、芯金15の温度により溶融又は軟化して接合可能な熱可塑性樹脂であればよいが、耐熱製や強度を確保し易くするなどのために、6,6−ナイロン、6ーナイロン、4,6−ナイロンなどのポリアミドを用いるのが好適である(ただし、ナイロンは登録商標)。特に、強度を確保し易くできるなどの理由で、6−ナイロンが好適である。なお、摺動性を確保するためには、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアセタール(POM)等を用いてもよい。
【0041】
この準備工程における樹脂製環状体17は、芯金15の外周接合面13に対応した内径にすると共に、外径をギアの歯部19の加工代を含めた寸法とし、軸L方向沿う厚みを芯金15に応じて調整して作製する。ここでは、樹脂製環状体17の軸Lに沿う厚みを、芯金15の外周接合面13の軸Lに沿う厚みより厚く形成しており、両端面17aは軸Lに対して直交するように形成されている。
【0042】
次いで、嵌合工程では、各芯金15の外周接合面13に各樹脂製環状体17を嵌合させることで、図2に示すように、芯金15の外周に樹脂製環状体17の内周面を接触させて組合せ部材25を複数作製する。各組合せ部材25では、芯金15の外周接合面13と樹脂製環状体17の内周面との接触状態は限定されず、例えば、芯金15の外周接合面13が粗面や凹凸形状に形成されている場合、樹脂製環状体17の内周面が粗面又は凹凸形状の頂部だけに接触していてもよく、樹脂製環状体17の内周面に粗面又は凹凸形状の頂部が一部埋設されてもよく、外周接合面13の全面に樹脂製環状体17が密着していてもよい。
【0043】
この実施形態では、芯金15の外周接合面13の最大直径、即ち、ローレット形状の各頂部の直径に対する樹脂製環状体17の内径を、嵌合することで相互に位置関係を保つことが可能な程度としている。嵌合させた状態では、芯金15と樹脂製環状体17との間にローレット形状による微細な間隙が多数形成された状態であってもよい。
【0044】
軸Lに沿う方向の芯金15と樹脂製環状体17との位置関係は、互いに径方向に隣接する芯金15の端面15aと樹脂製環状体17の端面17aとが互いに軸L方向に異なる位置にずれるように配置する。
【0045】
ここでは、芯金15の端面15aより樹脂製環状体17の端面17aが外側に配置され、互いに隣接する芯金15の端面15aと樹脂製環状体17の端面17aとの間に軸Lに沿う所定量の段差dを形成することが必要である。ここでは、両側の端面15a、17aにおいて、それぞれ所定量の段差dを形成する。
【0046】
この所定量の段差dは、後述する融着工程において、組合せ部材25の樹脂製環状体17と芯金15との境界部位から、溶融又は軟化した樹脂が端面15aから軸L方向にはみ出す量或いははみ出し得る量より大きくすること、即ち、融着時に芯金15と樹脂製環状体17との境界部位から軸L方向にはみ出し得る樹脂が、隣り合う組合せ部材25と非接触状態を保てる量とすることが必要である。
【0047】
このはみ出し量或いははみ出し得る量は、樹脂製環状体17を構成する樹脂の物性、芯金15の直径や粗面状態、樹脂製環状体17の内径や接圧、後述する融着工程における加熱条件等、種々の条件に応じて変動する。そのため、芯金15の厚みと樹脂製環状体17の厚みとの差は、例えば、予め予備実験などを行うことで、適切な値に設定できる。
【0048】
なお、特に限定されるものではないが、この嵌合工程では、芯金15の外周接合面13と樹脂製環状体17との間に、両者の接合力を向上するために、各種の接着材のような結合力向上剤層を設けてもよい。
【0049】
次いで、支持工程では、図5に示すように、嵌合工程で得られた多数の組合せ部材25を軸状治具27に支持させる。
【0050】
軸状治具27は、各芯金15の中心孔11内を貫通させることで各組合せ部材25を支持する支持軸部27aと、支持軸部27aの一方の端部に設けられたフランジ部27bと、他方の端部に設けられた固定部27cとを備えている。
【0051】
この軸状治具27に多数の組合せ部材25を支持させるには、フランジ部27bに隣接する位置に、溶融工程で昇温され難いセラミックス等の絶縁材料からなる支持プレート27dを配置し、各組合せ部材25の中心孔11に支持軸部27aを貫通させることで、複数の組合せ部材25を順次同じ向きにして支持させる。固定部27cに隣接する位置にもセラミックス等の絶縁材料からなる支持プレート27dを配置し、ストッパリング27eを配置した状態で固定部27cを固定することで、多数の組合せ部材25を軸状治具27に支持させる。ここでは、固定部27cは支持軸部27aに設けられた雄ねじ27fと、この雄ねじ27fに螺合するナット27gとから構成されている。
【0052】
ここでは、支持軸部27aの長さが、所定数の組合せ部材25を配置した状態でストッパリング27eを介してナット27gにより圧接できる程度に設定されているため、固定部27cを固定することで、全ての組合せ部材25がそれぞれ隣り合う組合せ部材25に互いに当接した状態で支持される。
【0053】
その際、上述したように、樹脂製環状体17が芯金15より厚く形成されているため、軸状治具27により支持された状態では、隣り合う組合せ部材25は樹脂製環状体17の端面17a同士が直接当接すると共に、芯金15の端面15a同士が互いに離間した状態で配置され、芯金15の端面15aと樹脂製環状体17の端面17aとの間に、上述のような所定量の段差dが形成された状態で全ての組合せ部材25が支持される。
【0054】
次いで、融着工程では、軸状治具27に支持された複数の組合せ部材25毎に、各芯金15の外周接合面13に各樹脂製環状体17をそれぞれ融着して接合する。
【0055】
この融着工程は、芯金15を昇温可能な各種の加熱装置を用いて行うことができるが、ここでは、図5に示すように、芯金15を加熱させるための誘導加熱装置を用いて行う。この装置では、軸状治具27に支持された多数の組合せ部材25を同軸状に囲んで交番磁界を発生させるコイル31が設けられ、コイル31と軸状治具27とが軸Lに沿って相対移動可能となっている。
【0056】
この加熱時には、組合せ部材25とコイル31とを軸Lを中心に相対回転させると共に軸L方向に所定速度で相対移動させながら、コイル31に高周波電力を供給することで、芯金15の外周接合面13を、樹脂製環状体17を構成する樹脂の軟化温度以上、例えば融点以上に加熱する。これにより、樹脂製環状体17のうち外周接合面13に接触している部分及びその近接部分が軟化又は溶融し、特にローレット形状が接触している部分がより多く軟化又は溶融して樹脂製環状体17の樹脂がローレット形状の内部に入り込む。このとき、芯金15を加熱することで樹脂製環状体17の樹脂を軟化又は溶融するため、樹脂製環状体17の端面17aは殆ど軟化又は溶融されない。
【0057】
その後、例えば大気中で放熱されて冷却されると、軟化又は溶融した樹脂が芯金15のローレット形状に入り込んだ状態で固化され、樹脂製環状体17が芯金15に接合される。結合力向上剤層が設けられている場合には、さらに結合力向上剤層を介して樹脂製環状体17の内側と芯金15とが強固に接合される。この状態では、芯金15の外周接合面13と樹脂製環状体17の内周面とが出来るだけ多くの範囲で直接又は結合力向上剤層を介して密着されることが好ましく、ローレット形状全体が樹脂製環状体17に埋設されて外周接合面13の全面に密着するのが好適である。
【0058】
一方、樹脂製環状体17の端面17aでは、樹脂が軟化又は溶融していないため、隣り合う組合せ部材25の樹脂製環状体17の端面17a同士が当接していても分離状態で維持されている。
【0059】
なお、融着工程では、芯金15の外周接合面13と樹脂製環状体17の内周面との境界部位から、各組合せ部材25の軸Lに沿う両端面側に溶融又は軟化した樹脂の一部が、芯金15の端面15aから軸L方向に徐々にはみ出すことがある。しかし、上述のように段差dが存在するため、はみ出した樹脂は隣り合う組合せ部材25に達することなく固化される。
【0060】
融着工程後、この実施形態では前加工工程を実施することで、樹脂製環状体17の端面17aと樹脂製環状体17の端面17aに径方向に隣接する部位の芯金15の端面15aとが同一平面となるように加工する。このとき、樹脂製環状体17と芯金15との段差dや、融着工程において側方にはみ出した樹脂も除去する。
【0061】
そしてこの前加工工程により、例えば中心孔11の精度や軸Lに対する樹脂製環状体17の外周面の平行度、両端面15a,17aの直交度等の各部の高い精度を実現し、これにより図2に示すようなウオームホイールブランク23の製造を終了する。
【0062】
次に、このようにして得られたウオームホイールブランク23に対し、中心孔11にキー溝21を形成すると共に、樹脂製環状体17の外周に所望のウオームホイールの歯部19を精度良く加工することで、図1に示すようなウオームホイール10の製造を完了することができる。
【0063】
以上のようにして、電動パワーステアリング用のウオームホイールブランク23を製造すれば、樹脂製環状体17の端面同士が当接した状態で各芯金15の外周に各樹脂製環状体17を融着しても、各芯金15を加熱することで各樹脂製環状体17の両端面を溶融することなく各樹脂製環状体17を各芯金15に融着することができるので、互いに隣り合う組合せ部材25同士が接合されることを防止できる。
【0064】
しかも、融着後に隣り合う組合せ部材25同士が接合されることを防止するために、各樹脂製環状体17の両端面17aを各芯金15の両端面15aよりも軸方向両外側に張り出して複数の組合せ部材25を軸状治具27に支持させるだけでよいため、従来のように、各組合せ部材25間にスペーサ等を介在させたり、芯金15や樹脂製環状体17に凹部や段部等の加工を施したりする必要がない。そのため、効率のよい作業でウオームホイールブランク23を容易に製造することが可能であり、多数のウオームホイールブランク23を効率よく容易に製造することが可能である。
【0065】
ここでは、芯金15より樹脂製環状体17が厚くて各芯金15間が離間した複数の組合せ部材25を用いていても、融着工程において各芯金15を誘導加熱により加熱しているので、複数の組合せ部材25において樹脂製環状体17が溶融又は軟化される程度を同等にでき、隣り合うウオームホイールブランク23の接合を防止し易い。
【0066】
さらに、芯金15より厚い樹脂製環状体17を用い、融着工程後に、互いに隣接する樹脂製環状体17の端面17aと芯金15の端面15aとを同一平面に加工するので、得られるウオームホイールブランク23の両端面を精度よく仕上げることができ、しかも、軟質で加工し易い樹脂製環状体17の加工量を多くすると共に、硬質で加工し難い芯金15の加工量を少なくすることで、高精度のウオームホイールブランク23を一層容易に製造できる。
【0067】
そしてこのようにして製造されたウオームホイールブランク23を用いて、ウオームホイール10を製造すれば、上述のように容易に複数のウオームホイールブランク23を形成できるため、多数のウオームホイール10を製造する際の手間を簡略化できて生産性を向上することができる。
【0068】
上記実施形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。例えば、上記では、ウオームホイールブランク23の製造に本発明を適用した例について説明したが、芯金の周囲に樹脂製環状体が配置されて一体に接合された部材であれば、本発明を同様に適用して製造することが可能である。
【0069】
上記では、芯金15として中心孔11が中心に形成されたものを用いたが、他の位置に貫通孔が形成された芯金であっても使用可能である。
【0070】
上記では、芯金15を誘導加熱することで樹脂製環状体17を芯金15に融着したが、各芯金15に直接電力を供給して抵抗加熱により芯金15を加熱するように構成してもよい。その場合、高周波電圧を印加することで、表皮効果により芯金15の表面側だけを昇温させるようにすれば、樹脂製環状体17の過剰な溶融又は軟化を防止でき好適である。
【0071】
さらに、上記の芯金15及び樹脂製環状体17の形状は適宜変更可能であり、外表面が多角形形状を呈するものであってもよい。
【符号の説明】
【0072】
10 ウオームホイール
11 中心孔(貫通孔)
13 外周接合面
15 芯金
15a,17a 端面
17 樹脂製環状体
23 ウオームホイールブランク(複合部材)
25 組合せ部材
27 軸状治具
31 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する芯金の外周に樹脂製環状体が嵌合された組合せ部材を複数用い、上記芯金の貫通孔に軸状治具を貫通させて上記複数の組合せ部材を上記軸状治具上に並べて支持させ、上記各芯金の外周に上記各樹脂製環状体を融着して接合することで複数の複合部材を製造する方法であって、
上記樹脂製環状体の両端面が上記芯金の両端面より張り出した上記複数の組合せ部材を、隣り合う上記各組合せ部材における上記樹脂製環状体の端面同士を当接させて上記軸状治具に支持させ、上記各芯金を加熱することで、上記各樹脂製環状体の両端面を溶融することなく上記各樹脂製環状体を上記各芯金に融着する、複合部材の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂製環状体が前記芯金より厚い前記組合せ部材を複数用い、隣り合う各組合せ部材の上記樹脂製環状体同士を当接させると共に上記芯金同士を離間させて複数の組合せ部材を前記軸状治具に支持させ、上記各芯金を誘導加熱により加熱する、請求項1に記載の複合部材の製造方法。
【請求項3】
融着後に、前記樹脂製環状体の端面と前記芯金の端面とを同一平面に加工する、請求項2に記載の複合部材の製造方法。
【請求項4】
鍛造により作製された前記芯金を用いて前記組合せ部材を形成する、請求項1に記載の複合部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の複合部材の製造方法によりウオームホイールブランクを製造した後、該ウオームホイールブランクの外周囲にギアの歯部を形成する、複合部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−62920(P2011−62920A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215754(P2009−215754)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】