説明

複合酸化物粒子からなる材料、その製造法、及び電極活物質としてのその使用

本発明は、複合酸化物CO1のコアと、少なくとも部分的な複合酸化物CO2のコーティングと、そして接着的炭素表面付着物とを有する粒子からなる正極材料に関する。該材料は、複合酸化物CO1が高エネルギー密度を有する酸化物であること、及び酸化物CO2が炭素付着反応に対して触媒効果を有する金属の酸化物であり、該酸化物は良好な電子伝導性を有することを特徴とする。CO2層の存在は、酸化物粒子の表面での炭素接着層の付着を容易にし、材料の伝導性を、それが電極材料として使用される場合、改良する。該電極材料は特にリチウム電池の製造に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物の複合粒子で構成される材料、その製造法、及び電極活物質としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池は、液体溶媒中溶液、ポリマー又はゲル中にリチウム塩を含む電解質を通じて、負極と正極間のリチウムイオンの可逆的移動によって動作する。
負極は、一般的に、リチウムシート、リチウム合金又はリチウムを含む金属間化合物で構成されている。負極は、リチウムイオンを可逆的に挿入(インサート)できる材料、例えばグラファイト又は酸化物などの材料で構成することもできる。前記挿入材料は、単独で使用されるか又は少なくとも一つのバインダ及び電子伝導をもたらす一つの物質、例えば炭素を追加的に含む複合材料の形態で使用される。
【0003】
様々な複合酸化物が、リチウムイオンの可逆的挿入のための物質として働く正極用活物質として研究されている。特に、オリビン(かんらん石)構造を有し、式LiMXOに対応する化合物、式LiMXOに対応する化合物(式中、Mは少なくとも一つの遷移金属を表し、XはS、P、Si、B及びGeから選ばれる元素を表す(例えばLiFeSiO))、及び式Li(XOに対応し、菱面体晶構造を有するナシコン(Nasicon)型の化合物(式中、Mは少なくとも一つの遷移金属を表し、XはS、P、Si、B及びGeから選ばれる少なくとも一つの元素を表す)が挙げられる。これらの複合酸化物は、一般的にナノメートル又はマイクロメートル粒子の形態で使用される。所望により炭素で被覆及び/又は炭素結合を介して互いに結合されていてもよい。炭素の存在は、特にそれが複合酸化物上に付着された層の形態である場合、電気化学的性能を改良する。
【0004】
これらの酸化物の中で、MがFe、Mn又はCoを表しているものが、特にそれらのいくつかの電気化学的性質のため及び該金属の高い入手可能性によるそれらの比較的低コストのために好都合である。しかしながら、それらは多少の不利益も示す。Mが本質的にFeである酸化物LiMXO(特にLiFePO)は、それが炭素で被覆された粒子の形態の場合、良好な電子伝導性を有し、電極材料として使用される。それは、炭素の接着層で被覆された粒子の形態で容易に得ることができるが、比較的低電圧(およそ3.4V vs Li/Li)のためにエネルギー密度が低い。Mが本質的にMn及び/又はCo及び/又はNiである酸化物LiMXO(特にLiMnPO、LiCoPO及びLiNiPO)は、顕著に高い動作電圧(それぞれ、およそ4.1V、4.8V及び5.1V)を有し、従って高いエネルギー密度を有するが、炭素の接着層で被覆された粒子の形態でそれらを得ることが難しく、電子伝導性が比較的低い。
【0005】
そこで、酸化物LiMPOのコアと炭素のコーティングを有する粒子の使用が構想された(MはMnによって部分的に置換されたFeを表す)。しかしながら、電位の低い(3.5V)LiFePOの存在は、LiMnPO単独の使用と比べてエネルギー密度の低下をもたらす。LiFePOの含有量を20重量%未満の値に制限すると、カソードの電圧はLiMnPOの電圧(4.1V)によって支配され、エネルギー密度の低下が制限される。固溶体である化合物LiFe(1−x)MnPOは、xが0.6未満にとどまると、すなわち化合物LiFePOが支配的であると、容認可能な結果をもたらす(Yamada,J.Power Sources,Volume 189,Issue 2,15 April 2009,1154−1163ページ参照)。しかしながら、Feに対しMnの寄与を増大するのは不可能である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、リチウム電池で正極活物質として使用された場合に良好な性能、特に高エネルギー密度及び良好な電子及びイオン伝導性を有する電極材料を提供することである。
【0007】
発明者らは、複合酸化物上に付着された炭素の層は、酸化物の金属が炭素の付着をもたらす反応に対して触媒効果を発揮すると、容易に得られることを見出した。発明者らはまた、驚くべきことに、高エネルギー密度を有する複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部に金属の酸化物の層を付着させると、前記金属が炭素の付着をもたらす前記反応に対して触媒効果を有する場合、動作電位を実質的に低減することなく、炭素の接着的付着が得られることも見出した。これにより、エネルギー密度を低減することなく電子伝導性を増大することが可能になる。
【0008】
従って、本発明の一側面に従って、複合酸化物CO1のコアと、複合酸化物CO2の少なくとも部分コーティングと、そして炭素の接着的表面付着物とを有する粒子で構成される正極材料を提供する。前記材料は、複合酸化物CO1は高エネルギー密度を有する酸化物であること、及び酸化物CO2は炭素の付着反応に対して触媒効果を有する金属の酸化物であり、前記酸化物は良好な電子伝導性を有することを特徴とする。CO2層の存在は、一方では酸化物粒子の表面への炭素の接着層の付着を容易にし、他方ではそれが電極材料として使用される場合、該材料の伝導性を改良するという効果を有する。
【0009】
本発明の別の側面に従って、前記電極材料の製造法を提供する。
本発明の別の側面は、複合電極(その活物質は本発明の材料である)、及びリチウム電池(その正極は本発明による前記電極材料を含む)に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例1に従って製造されたLiMnPOのX線回折図を示す。
【図2】図2は、実施例1に従って製造された、LiFePOで被覆されたLiMnPO粒子のX線回折図を示す。
【図3】図3は、電極を有する電気化学セルに関し、その活物質は、LiFePOと酢酸セルロースの熱分解によって付着された炭素層とで被覆されたLiMnPO粒子で構成されている。図3は、C/24速度で動作中の時間T(時間)の関数としての電位P(ボルト)の変化を示す。
【図4】図4は、電極を有する電気化学セルに関し、その活物質は、LiFePOと酢酸セルロースの熱分解によって付着された炭素層とで被覆されたLiMnPO粒子で構成されている。図4は、サイクル数Nの関数としての容量のパーセンテージ%C(□□□で表された曲線)及び放電/充電(D/C)比(○○○によって表された曲線)を示す。
【図5】図5は、電極を有する電気化学セルに関し、その活物質は、LiFePOと酢酸セルロースの熱分解によって付着された炭素層とで被覆されたLiMnPO粒子で構成されている。図5は、ラゴン(Ragone)図、すなわち放電速度Rの関数としての容量C(mAh/g)の変動を示す。
【図6】図6は、電極を有する電気化学セルに関し、その活物質は、LiFePOとラクトースの熱分解によって付着された炭素層とで被覆されたLiMnPO粒子で構成されている。図6は、C/24速度で動作中の時間T(時間)の関数としての電位P(ボルト)の変化を示す。
【図7】図7は、電極を有する電気化学セルに関し、その活物質は、LiFePOとラクトースの熱分解によって付着された炭素層とで被覆されたLiMnPO粒子で構成されている。図7は、サイクル数Nの関数としての容量のパーセンテージ%C(□□□で表された曲線)及び放電/充電(D/C)比(○○○によって表された曲線)を示す。
【図8】図8は、電極を有する電気化学セルに関し、その活物質は、LiFePOとラクトースの熱分解によって付着された炭素層とで被覆されたLiMnPO粒子で構成されている。図8は、ラゴン図、すなわち放電速度Rの関数としての容量C(mAh/g)の変動を示す。
【図9】図9は、化合物LiMn0.67Fe0.33POのX線回折図を示す。
【図10】図10は、電極を有する電気化学セルに関し、その活物質は、酢酸セルロースの熱分解によって付着された炭素層で被覆されたLiMn0.67Fe0.33PO粒子で構成されている。図10は、C/24速度で動作中の時間の関数としての電位の変化を示す。
【図11】図11は、電極を有する電気化学セルに関し、その活物質は、酢酸セルロースの熱分解によって付着された炭素層で被覆されたLiMn0.67Fe0.33PO粒子で構成されている。図11は、ラゴン図、すなわち放電速度Rの関数としての容量C(mAh/g)の変動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第一主題は、複合酸化物CO1のコアと、複合酸化物CO2の少なくとも部分コーティングと、そして炭素の接着的表面付着物とを有する粒子で構成される正極材料であり、前記材料は、
−複合酸化物CO1は2.5Vより高い電位を有し、アルカリ金属と、Mn、Co、Ge、Au、Ag及びCuから選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物から選ばれ、そして
−酸化物CO2は、アルカリ金属と、炭素の付着反応に対して触媒効果を有する、Fe、Mo、Ni、Pt及びPdから選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物である
ことを特徴とする。
【0012】
アルカリ金属Aは、Li、Na及びKから選ばれるが、Liが特に好適である。好ましくは、アルカリ金属は両酸化物で同じである。
酸化物CO1は、酸化物A(1−a)XO(式中、Mは、Mn、Co、Cu及びGeから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Mは、Mn及びCo以外の遷移金属を表し、0≦a≦0.5、0≦z≦2、及びXは、P、Si、V及びTiから選ばれる元素を表す)、特に酸化物LiMnPO(式中、MnはCo及び/又はNiによって部分置換されていてもよい)でありうる。酸化物LiMnPOが特に好適である。
【0013】
酸化物CO2は、酸化物A(1−b)X’O又は酸化物A[M(1−c)(X”O](式中、Mは、Fe、Mo、Pt及びPdから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Mは、M以外の遷移金属を表し、0≦b≦0.5、0≦c≦0.5、0≦x≦3、0≦z≦2、及びX’又はX”は、P、Si、S、V、Ti及びGeから選ばれる少なくとも一つの元素を表す)でありうる。さらに、酸化物CO2は、酸化物LiFeBOであってもよい。酸化物LiFePO、LiFeVO、LiFeSiO、LiFeTiO及びLiFeGeOが酸化物CO2として特に好適であり、さらに好適なのはLiFePOである。
【0014】
本発明による材料はその構成元素の前駆体から製造される。製造法は下記段階を含む。
a)酸化物CO1の粒子をその前駆体から製造;
b)酸化物CO1の粒子を酸化物CO2の前駆体の溶液に導入し、酸化物CO2の前駆体の反応を引き起こすために熱処理を実施;
c)酸化物CO2のコーティングを持つ酸化物CO1の粒子を炭素の有機前駆体と接触させ、有機前駆体が炭素に還元されるように熱処理を実施。
【0015】
Li前駆体は、酸化リチウムLiO、水酸化リチウム、炭酸リチウムLiCO、中性リン酸塩LiPO、酸性リン酸塩LiHPO、オルトケイ酸リチウム、メタケイ酸リチウム、ポリケイ酸リチウム、硫酸リチウム、シュウ酸リチウム及び酢酸リチウムから選ばれる。いくつかの前駆体を同時に使用することもできる。リチウム前駆体は好ましくはLiCOである。
【0016】
鉄前駆体は、酸化鉄(III)、磁鉄鉱Fe、リン酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、ヒドロキシリン酸鉄リチウム、硫酸鉄(III)及び硝酸鉄(III)から選ぶことができる。
【0017】
マンガン前駆体は、二酸化マンガン、硝酸マンガンMn(NO・4HO及び硫酸マンガンMnSO・HOから選ぶことができる。
Ni前駆体は、硫酸塩NiSO・6HO、硝酸塩Ni(NO・6HO、酢酸塩Ni(CHCOO)・4HO、シュウ酸ニッケルNiC・2HO及びリン酸塩Ni(PO・7HOから選ぶことができる。
【0018】
Co前駆体は、酸化物Co、硝酸塩Co(NO・6HO、酢酸塩Co(CHCOO)・4HO、硫酸コバルト(II)、硝酸コバルト、シュウ酸コバルトCoC・2HO及びリン酸塩Co(POから選ぶことができる。
【0019】
五酸化二バナジウムはV前駆体として使用することができる。
X又はX’がPで、Li又はM前駆体がリン酸塩でない場合、リン酸HPO又はリン酸水素二アンモニウム(NHHPOはP前駆体として使用できる。
【0020】
X又はX’がSの場合、S前駆体は(NHSOでありうる。
X又はX’がGeの場合、Ge前駆体はゲルマニウム酸テトラアルキルアンモニウムでありうる。
【0021】
有利な態様においては、上記のうち、酸化物のいくつかの構成元素の前駆体である少なくとも一つの化合物が利用される。
段階a)におけるCO1粒子の製造は、先行技術で公知の方法によって実施できる。すなわち、前駆体を担体液体中に少なくとも部分溶解し、前駆体の反応を引き起こすため及び酸化物CO1の沈殿を生じさせるために熱処理を適用し、反応媒体を冷却させ、粒子を回収し、それらを洗浄し、そしてそれらを乾燥させることを含む。熱処理の温度は120℃〜250℃が好都合である。乾燥温度は80〜140℃が好都合である。
【0022】
段階b)において、熱処理は120℃〜250℃の温度で都合よく実施され、複合粒子の回収は、段階a)のそれと類似の方法で実施される。
段階a)及びb)において、前駆体のための担体液体は、都合よくは水、好ましくは脱塩及び脱気水である。
【0023】
段階c)は様々な方法で実施できる。
第一の態様によれば、複合酸化物CO1のコアと複合酸化物CO2のコーティングを有する複合粒子上への炭素の付着は、有機前駆体の熱分解によって実施できる。熱分解に付される有機前駆体は、炭化水素及びそれらの誘導体、特に多環式芳香族物質(entities)、例えばタール又はピッチ、ペリレン及びその誘導体、多価化合物、例えば糖及び炭水化物、それらの誘導体、及びポリマーから選ぶことができる。ポリマーの例としては、ポリオレフィン、ポリブタジエン、ポリビニルアルコール、フェノールの縮合物(アルデヒドとの反応から得られるものを含む)、フルフリルアルコールから誘導されたポリマー、スチレン、ジビニルベンゼン、ナフタレン、ペリレン、アクリロニトリル及び酢酸ビニルから誘導されたポリマー、セルロース、デンプン及びそれらのエステル及びエーテル、並びにそれらの混合物が挙げられる。前駆体が水溶性の場合(例えば、グルコース、ラクトース及びそれらの誘導体)、熱分解は水溶液中の前駆体に対して実施できる。熱分解は一般的に100〜1000℃の温度で実施される。
【0024】
第二の態様によれば、複合粒子上への炭素の付着は、前記複合粒子を、一つ又は複数の炭素−ハロゲン結合を有する化合物と接触させ、前記化合物を、反応スキーム CY−CY + 2e → −C=C− + 2Y(式中、Yはハロゲン又は擬ハロゲンを表す)に従って還元することによって実施できる。この反応は、400℃未満の低又は中等度の温度で実施できる。擬ハロゲンは、Yイオンの形態で存在でき、対応するプロトン化化合物HYを形成できる有機又は無機ラジカルを意味すると理解される。ハロゲン及び擬ハロゲンのうち、特に、F、Cl、Br、I、CN、SCN、CNO、OH、N、RCO又はRSO(RはH又は有機ラジカルを表す)が挙げられる。CY結合の還元による形成は、好ましくは、還元元素、例えば水素、亜鉛、マグネシウム、Ti3+、Ti2+、Sm2+、Cr2+又はV2+イオン、テトラキス(ジアルキルアミノ)−エチレン又はホスフィンの存在下で実施される。還元により炭素を生成できる化合物のうち、特にポリマーの形態の過ハロカーボン、例えばヘキサクロロブタジエン及びヘキサクロロシクロペンタジエンが挙げられる。
【0025】
第三の態様によれば、複合粒子上への炭素の付着は、前記複合粒子を、一つ又は複数の−CH−CY−結合を有する化合物と接触させ、反応スキーム −CH−CY− + B → −C=C− + BHY に従って、低温反応によって水素化化合物HY(Yは上記定義の通り)を除去することによって実施できる。この態様に使用できる化合物の例としては、等数の水素原子及びY基を含む有機化合物、例えばハイドロハロカーボン、特にポリマー、例えばポリフルオリド、ポリクロリド、ポリブロミド、ポリ酢酸ビニリデン及び炭水化物が挙げられる。脱(擬)ハロゲン化水素は、周囲温度を含む低温で、HY化合物と反応して塩を形成できる塩基の作用によって得ることができる。塩基は、特にアミン、アミジン、グアニジン又はイミダゾールから選ばれる第三級塩基、又は水酸化アルカリから選ばれる無機塩基、及び強塩基として振る舞う有機金属化合物、例えばAN(Si(CH、LiN[CH(CH及びブチルリチウムでありうる。
【0026】
本発明による材料は、リチウム電池の正極の活物質として特に有用である。正極は、集電体上に堆積された複合材料で構成される。集電体は、酸化に対して安定な金属で、アルミニウム、チタン又はステンレススチールでありうる。複合材料は、少なくとも60重量%の本発明による材料、所望により、バインダ及び/又は電子伝導をもたらす添加剤を含む。バインダは、ポリ(フッ化ビニリデン)又はPVDF、ポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロペン)コポリマー又はPVDF−HFP、ポリ(テトラフルオロエチレン)又はPTFE、ポリ(エチレン−コ−プロピレン−コ−5−メチレン−2−ノルボルネン)(EPDM)、又はポリ(メチルメタクリレート)又はPMMAであり得、バインダは複合材料の最大15重量%に相当する。電子伝導添加剤は、都合よくは、炭素ベースの材料、特にカーボンブラック、アセチレンブラック及びグラファイトから選ばれ、それは複合材料の最大25重量%に相当する。
【0027】
本発明による電極は電池に使用できる。その負極は、リチウム又は金属間リチウム合金のシート、又はリチウムイオンを可逆的に挿入できる材料である。電解質は、所望によりポリマーの添加によってゲル化されていてもよい極性非プロトン性液体溶媒、及び所望により非プロトン性液体溶媒によって可塑化されていてもよい溶媒和ポリマー(solvating polymers)から選ぶことができる溶媒中溶液に少なくとも一つのリチウム塩を含む。リチウム塩は、リチウムイオンの交換によって動作する電気化学的装置用のイオン伝導材料に従来使用されている塩から選ぶことができる。例えば、(CFSONLi(LiTFSI)、(CFSOCHLi、(CFSOCLi、CFSOLi、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiBOB、LiFSI又はLiIが挙げられる。
【0028】
本発明を実施例の助けを借りながら以下にさらに詳細に説明するが、本発明はそれに限定されない。
【実施例】
【0029】
実施例1
LiFePOで被覆されたLiMnPO粒子
LiMnPO粒子の製造
以下は窒素雰囲気下で製造された。
【0030】
−溶液A、30mlの脱塩及び脱気水中に4.62gのLiOH・HOを溶解;
−溶液B、50mlの脱塩及び脱気水中に9.27gのMn(NO・4HOを溶解;
−溶液C、10mlの脱塩及び脱気水中に4.0gの85%HPO水溶液を溶解;
溶液B及びCを混合した後、溶液Aをそれに徐々に加えた。溶液Aを加えると反応媒体の粘度が増大するのがわかった。測定された最終pHは6.6である。このようにして得られた反応媒体中、Mn濃度は0.4Mであり、Li/Mn/P比は3/1/1である。
【0031】
その後、反応媒体を、窒素雰囲気下で、加圧できるステンレススチールチャンバに組み込まれたPTFE容器に注ぎ入れ(Parr社、容積325ml)、その一式(setup)を220℃のオーブンに7時間入れ、次いで周囲温度に冷却した。沈殿粉末をろ過により回収し、100mlの蒸留水で3回洗浄した後、窒素雰囲気下90℃のオーブン中で12時間乾燥させた。
【0032】
全工程を2回繰り返し、ベージュ色粉末の形態の化合物12gをこのようにして得た。X線回折図を図1に示す。化合物は斜方晶系構造を示す単相であることを示している。そのパラメーターは、a=10.43100Å;b=6.09470Å;c=4.773660Åである。
【0033】
LiFePOによるLiMnPO粒子の被覆
以下は窒素雰囲気下で製造された。
−溶液D、40mlの脱塩及び脱気水中に3.08gのLiOH・HOを溶解;
−溶液E、50mlの脱塩及び脱気水中に10.0gのFeSO・7HOと4.75gの(NHHPOを溶解;
溶液Dを溶液Eに徐々に加えた。上記のように、溶液Dを加えると粘度が増大し、測定された最終pHは10.3である。このようにして得られたLiFePO前駆体の溶液中のLi/Fe/P比は2/1/1である。
【0034】
上記手順に従って製造された10gのLiMnPO粒子をこの前駆体溶液に導入した。このようにして得られた反応媒体を、窒素雰囲気下で、加圧できるステンレススチールチャンバに組み込まれたPTFE容器に注ぎ入れ(Parr社、容積325ml)、その一式を220℃のオーブンに7時間入れ、次いで周囲温度に冷却した。
【0035】
沈殿した化合物をろ過により回収し、100mlの蒸留水で3回洗浄した後、窒素雰囲気下90℃のオーブン中で12時間乾燥させた。
ベージュ色粉末の形態の化合物15.1gをこのようにして得た。X線回折図を図2に示す。この図において、
−記号◆によって識別されたピークは化合物LiFePOに対応する;
−記号□によって識別されたピークは化合物LiMnPOに対応する。
【0036】
従って、得られた化合物は、LiFePO相及びLiMnPO相を含み、どちらもオリビン構造及び異なる格子パラメーター:
LiMnPO a=10.43100、b=6.09470、c=4.73660
LiFePO a=6.01890、b=10.34700、c=4.70390
を有する斜方晶相を有することが明白である。
【0037】
炭素の付着
前段階で得られた化合物を、酢酸セルロースのアセトン/イソプロパノール(1/1)混合物中溶液に導入した。アセテート/[LiMnPO]LiFePO比は1/7であった。次いで、反応媒体を不活性雰囲気下で、400℃で1時間の段階とその後の600℃で3時間の段階を含む熱処理に付した。最終材料は灰黒色粉末の形態で得られた。
【0038】
特徴付け
得られた材料の電気化学的性能の測定を、前記材料がカソードを構成し、アノードがリチウム金属であり、電解質がEC/DEC 50/50混合物中LiPFの1M溶液である電気化学セルにて理論速度C/24で実施した。
【0039】
図3は、理論的には48時間サイクルに相当するC/24の速度で動作中の、時間の関数としての電位の変化を示す。図3は、36時間というサイクル時間を示しているが、これは、全理論的容量が得られるわけではないという事実のせいである。また、Feに対応して3.5Vで第一のプラトー、Mnに対応して4.0Vで第二のプラトーの存在も示されている。電解質の溶媒の劣化を回避するために、電位は4.5Vで維持され、それ以上には上げない。従って、第一充電の容量は94.9mAh/gに限定される(理論値170mAh/gの代わりに)。これは、材料から抽出されたリチウムのレベルxに相当し、例えばx=0.558となる。
【0040】
図4は、容量のパーセンテージ(左側の縦座標)及び放電/充電(D/C)比(右側の縦座標)を、サイクル数の関数として示している。サイクル中、充電はC/4の速度で実施され、放電は1Cの速度で実施される。図4は、可逆容量が99.5mAh/gであり、効率(D/C比)が実質的に約99%に維持されていることを示している。
【0041】
図5は、材料のラゴン図、すなわち、放電速度の関数としての容量の変動を示す。10Cの速度で、放出された容量は53mAh/gであることを示している。
実施例2
LiFePOで被覆されたLiMnPO粒子
LiFePOで被覆されたLiMnPO粒子の製造については実施例1の手順を繰り返した。
【0042】
炭素の付着
LiFePOで被覆されたLiMnPO粒子をラクトースの水中溶液に導入した。ラクトース/[LiMnPO]LiFePO比は1/10であった。次いで、反応媒体を不活性雰囲気下で、400℃で1時間の段階とその後の600℃で3時間の段階を含む熱処理に付した。最終材料は灰黒色粉末の形態で得られた。
【0043】
特徴付け
得られた材料の電気化学的性能を実施例1と同様に測定した。図6は、時間の関数としての電位の変化を示す。第一充電の容量が116mAh/gであることを示しており、これは、材料から抽出されたリチウムのレベルx=0.682に相当する。
【0044】
図7は、容量のパーセンテージ(左側の縦座標)及び放電/充電(D/C)比(右側の縦座標)を、サイクル数の関数として示している。サイクル中、充電はC/4の速度で実施され、放電は1Cの速度で実施される。図7は、可逆容量が119.3mAh/gであり、D/C比は実質的に一定のままであることを示している。
【0045】
図8は、材料のラゴン図、すなわち、放電速度の関数としての容量の変動を示す。10Cの速度で、放出された容量は65.5mAh/gであることを示している。
比較例
LiMn0.67Fe0.33PO粒子
比較のために、リン酸塩LiMPOの粒子(MはMnによって部分置換されたFeを表す)を製造し、前記粒子上に、実施例1と同様に炭素ベースの前駆体の炭化によって炭素コーティングを付着させた。
【0046】
LiMn0.67Fe0.33PO粒子の製造
以下は窒素雰囲気下で製造された。
−溶液A、30mlの脱塩及び脱気水中に4.62gのLiOH・HOを溶解;
−溶液F、50mlの脱塩及び脱気水中に3.33gのFeSO・7HO、4.02gのMnSO・HO及び4.75gの(NHHPOを溶解;
溶液Aを溶液Fに徐々に加えた。溶液Aを加えると反応媒体の粘度が増大するのが分かった。測定された最終pHは10.7である。このようにして得られた反応媒体におけるLi/Mn/Fe/P比は3/0.66/0.33/1である。
【0047】
その後、反応媒体を、窒素雰囲気下で、加圧可能なステンレススチールチャンバに組み込まれたPTFE容器に注ぎ入れ(Parr社、容積325ml)、その一式を220℃のオーブンに7時間入れ、次いで周囲温度に冷却した。沈殿粉末をろ過により回収し、100mlの蒸留水で3回洗浄した後、窒素雰囲気下90℃のオーブン中で12時間乾燥させた。
【0048】
薄灰色を有する粉末形の化合物6.2gをこのようにして得た。X線回折図を図9に示す。化合物は斜方晶系構造を示す単相であることを示している。
炭素の付着
前段階で得られた化合物を、酢酸セルロースのアセトン/イソプロパノール(1:1)混合物中溶液に導入した。アセテート/LiMn0.67Fe0.33PO比は1/7であった。次いで、反応媒体を不活性雰囲気下で、400℃で1時間の段階とその後の600℃で3時間の段階を含む熱処理に付した。最終材料は灰黒色粉末の形態で得られた。
【0049】
特徴付け
得られた材料の電気化学的性能を実施例1と同様に測定した。
図10は、時間の関数としての電位の変化を示す。第一充電の容量は54.5mAh/gであることを示しており、これは、材料から抽出されたリチウムのレベルx=0.32に相当する。可逆容量は55.7mAh/gである。
【0050】
図11は、材料のラゴン図を示す。10Cの速度で、放出された容量は23.3mAh/gであることを示している。
このように、類似の全体的組成を有する材料に関して、“LiFePOで被覆されたLiMnPO核を含む粒子”の形態は、“複合酸化物LiFe1−nMnPOの粒子”の形態より顕著に優れた電気化学的性能を示すことが明白である。粒子はどちらの場合も炭素付着物を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合酸化物CO1のコアと、複合酸化物CO2の少なくとも部分コーティングと、そして炭素の接着的表面付着物とを有する粒子で構成される正極材料であって、前記材料は、
−複合酸化物CO1は2.5Vより高い電位を有し、アルカリ金属と、Mn、Co、Ge、Au、Ag及びCuから選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物から選ばれ、そして
−酸化物CO2は、アルカリ金属と、炭素の付着反応に対して触媒効果を有する、Fe、Mo、Ni、Pt及びPdから選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物である
ことを特徴とする正極材料。
【請求項2】
アルカリ金属Aが、Li、Na及びKから選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
アルカリ金属がCO1とCO2で同じであることを特徴とする、請求項2に記載の材料。
【請求項4】
酸化物CO1が、酸化物A(1−a)XO(式中、Mは、Mn、Co、Cu及びGeから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Mは、Mn及びCo以外の遷移金属を表し、0≦a≦0.5、0≦z≦2、及びXは、P、Si、V及びTiから選ばれる元素を表す)であることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項5】
酸化物CO1が、LiMnPO(式中、MnはCo及び/又はNiによって部分置換されていてもよい)であることを特徴とする、請求項4に記載の材料。
【請求項6】
酸化物CO2が、
−LiFeBO
−酸化物A(1−b)X’O及び酸化物A[M(1−c)(X”O](式中、Mは、Fe、Mo、Pt及びPdから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Mは、M以外の遷移金属を表し、0≦b≦0.5、0≦c≦0.5、0≦x≦3、0≦z≦2、及びX’又はX”は、P、Si、S、V、Ti及びGeから選ばれる少なくとも一つの元素を表す)
から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項7】
酸化物CO2が、LiFePO、LiFeVO、LiFeSiO、LiFeTiO及びLiFeGeOから選ばれることを特徴とする、請求項6に記載の材料。
【請求項8】
酸化物CO1のコアが20nm〜100μmの平均サイズを有し、酸化物CO2の層が1nm〜6μmの厚さを有し、炭素付着物が0.1nm〜100nmの厚さを有することを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項9】
請求項1に記載の材料の製造法であって、下記段階:
a)酸化物CO1の粒子をその前駆体から製造;
b)酸化物CO1の粒子を酸化物CO2の前駆体の溶液に導入し、酸化物CO2の前駆体の反応を引き起こすために熱処理を実施;
c)酸化物CO2のコーティングを持つ酸化物CO1の粒子を炭素の有機前駆体と接触させ、有機前駆体が炭素に還元されるように熱処理を実施
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
段階a)におけるCO1粒子の製造が、前駆体を担体液体中に少なくとも部分溶解し、前駆体の反応を引き起こすため及び酸化物CO1の沈殿を生じさせるために熱処理を適用し、反応媒体を冷却させ、粒子を回収し、それらを洗浄し、そしてそれらを乾燥させることを含む方法によって実施されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
熱処理が120℃〜250℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
段階b)の熱処理が120℃〜250℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
段階c)が下記方法の一つ:
−炭化水素及びそれらの誘導体、多価化合物及びポリマーから選ばれる有機前駆体の熱分解;
−段階b)から得られた複合粒子を、一つ又は複数の炭素−ハロゲン結合を有する化合物と接触させ、前記化合物を400℃未満の低又は中等度の温度で還元する;
−段階b)から得られた複合粒子を、一つ又は複数の−CH−CY−結合を有する化合物と接触させ、反応スキーム −CH−CY− + B → −C=C− + BHY(式中、Yはハロゲン又は擬ハロゲンを表し、Bは塩基を表す)に従って、低温反応によって水素化化合物HYを除去する
に従って実施されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
集電体上に堆積された複合材料で構成される電極であって、前記複合材料は活物質として請求項1に記載の材料を含むことを特徴とする電極。
【請求項15】
集電体が、アルミニウム、チタン及びステンレススチールから選ばれる、酸化に対して安定な金属であることを特徴とする、請求項14に記載の電極。
【請求項16】
複合材料が、少なくとも60重量%の活物質、バインダ及び/又は電子伝導をもたらす添加剤を含むことを特徴とする、請求項14に記載の電極。
【請求項17】
正極、負極及び電解質を含む電池であって、正極は、請求項14に記載の電極であることを特徴とし、負極は、リチウム又は金属間リチウム合金のシート、又はリチウムイオンを可逆的に挿入できる材料であり、電解質は、所望によりポリマーの添加によってゲル化されていてもよい極性非プロトン性液体溶媒、及び所望により非プロトン性液体溶媒によって可塑化されていてもよい溶媒和ポリマーから選ぶことができる溶媒中溶液に少なくとも一つのリチウム塩を含む電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−504858(P2013−504858A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529072(P2012−529072)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001418
【国際公開番号】WO2011/032264
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(597164909)イドロ−ケベック (30)
【氏名又は名称原語表記】Hydro−Quebec
【Fターム(参考)】