説明

複合酸化物触媒の製造方法

【課題】機械的強度に優れ、高収率で目的生成物を製造できる複合酸化物触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】鉄、アンチモン、およびシリカを含有する複合酸化物触媒の製造方法であって、少なくとも、鉄とアンチモンとシリカの一部とを混合して混合スラリーを調製し、この混合スラリーを加熱処理する工程と、加熱処理後の混合スラリーに、触媒製造に使用する全シリカ量に対し、モル分率で3〜80%の量のシリカを添加する工程を含むことを特徴とする複合酸化物触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄、アンチモン、およびシリカを含有する複合酸化物触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンチモン含有複合酸化物触媒は、有機化合物の酸化反応によるアルデヒド類や不飽和酸の製造、アンモ酸化反応によるニトリル類や青酸の製造に適する触媒として広く知られている。特にアンチモン含有複合酸化物触媒はアンモ酸化反応に有用であり、例えば、プロピレンのアンモ酸化反応によるアクリロニトリル製造やメタノールのアンモ酸化反応による青酸製造等に用いられている。
【0003】
ところで、アクリロニトリルは「流動床アンモ酸化プロセス」として広く知られた方法により、工業的に合成されている。この流動床アンモ酸化プロセスにおいては、触媒の機械的強度が小さいと、触媒の破壊や磨耗等が起こり、安定運転が継続できないことがあった。従って、触媒は機械的強度に優れるほど好ましく、触媒の機械的強度を向上させる技術が求められている。
【0004】
従来、酸化反応およびアンモ酸化反応に用いられる触媒に関しては多くの検討がなされ、これまでに種々の触媒が提案されている。
例えば、特許文献1にはアンチモンと鉄、コバルト、ニッケルよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素との複合酸化物触媒が開示されている。
これらの触媒の改良検討も精力的に行われており、例えば、特許文献2〜11には鉄、アンチモンにテルル、バナジウム、タングステン、モリブデン、リン等を添加した触媒が開示されている。
【0005】
さらに触媒調製法の改良によって目的生成物収率を向上させる検討も続けられている。例えば、特許文献12〜16にはアンチモンと多価金属化合物を含むスラリーのpHを調整する方法やスラリーを加熱処理する方法等が開示されている。
また、触媒の機械的強度を向上させる手法として、例えば、特許文献17には、アンチモンを主成分とするアクリロニトリル合成用触媒の改良調製法において、シリカゾルおよびヒュームドシリカを原料として用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭38−19111号公報
【特許文献2】特公昭46−2804号公報
【特許文献3】特公昭47−19765号公報
【特許文献4】特公昭47−19766号公報
【特許文献5】特公昭47−19767号公報
【特許文献6】特開昭50−108219号公報
【特許文献7】特開昭58−145617号公報
【特許文献8】特開平1−257125号公報
【特許文献9】特開平3−26342号公報
【特許文献10】特開平4−118051号公報
【特許文献11】特開2001−114740号公報
【特許文献12】特公昭47−18722号公報
【特許文献13】特開昭49−40288号公報
【特許文献14】特開昭52−140490号公報
【特許文献15】特開昭60−137438号公報
【特許文献16】特開平1−265068号公報
【特許文献17】特開昭58−11045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの特許文献に開示された方法を用いて製造された触媒は、目的生成物の収率向上、および触媒の機械的強度などの物性面においてある程度の効果は見られるものの、必ずしも工業触媒として十分ではなく、更なる触媒性能の向上が望まれている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、機械的強度に優れ、高収率で目的生成物を製造できる複合酸化物触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の複合酸化物触媒の製造方法は、鉄、アンチモン、およびシリカを含有する複合酸化物触媒の製造方法であって、少なくとも、鉄とアンチモンとシリカの一部とを混合して混合スラリーを調製し、この混合スラリーを加熱処理する工程と、加熱処理後の混合スラリーに、触媒製造に使用する全シリカ量に対し、モル分率で3〜80%の量のシリカを添加する工程を含むことを特徴とする。
また、前記複合酸化物触媒が、下記式(I)で表される組成を有することが好ましい。
Fe10Sb(SiO ・・・(I)
【0010】
式中、Fe、Sb、およびSiOはそれぞれ鉄、アンチモン、およびシリカを表し、Aはニッケル、銅、アルミニウム、マンガン、亜鉛、スズ、クロム、コバルト、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、鉛、バリウム、ニオブ、銀、ジルコニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、チタン、およびビスマスからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Dはバナジウム、モリブデン、およびタングステンからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Eはリン、ヒ素、ホウ素、ゲルマニウム、およびテルルからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Gはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Oは酸素を表し、i、a、d、e、g、x、およびyは各元素(シリカの場合はケイ素)の原子比を表し、Fe=10のとき、i=3〜100、a=0.1〜20、d=0〜15、e=0〜20、g=0〜3、x=上記各成分が結合して生成する金属酸化物の酸素の数、y=10〜200である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機械的強度に優れ、高収率で目的生成物を製造できる複合酸化物触媒の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の複合酸化物触媒の製造方法(以下、「本発明の触媒製造方法」ということがある。)は、鉄、アンチモン、およびシリカを含有する複合酸化物触媒の製造方法であって、少なくとも、鉄とアンチモンとシリカの一部とを混合して混合スラリーを調製し、この混合スラリーを加熱処理する工程と、加熱処理後の混合スラリーに、触媒製造に使用する全シリカ量に対し、モル分率で3〜80%の量のシリカを添加する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の触媒製造方法では、まず、少なくとも、鉄とアンチモンとシリカの一部とを含む触媒原料を混合して、加熱処理を行う前の混合スラリーを調製する。
加熱処理前の混合スラリーを調製する際の触媒原料の混合条件および混合順序については制限を受けない。
【0014】
触媒製造方法に用いる各成分の触媒原料については、特に制限されないが、以下に示すものが挙げられる。
鉄成分の原料としては、例えば、酸化第一鉄、酸化第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、硫酸鉄、塩化鉄、鉄有機酸塩、および水酸化鉄等を用いることができるほか、金属鉄を加熱した硝酸に溶解して用いてもよい。
【0015】
アンチモン成分の原料としては、例えば、三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等の酸化物、塩化アンチモンや硫酸アンチモン等を用いることができる。
【0016】
シリカ成分の原料としてはシリカゾルが好ましく、市販のものから適宜選択して用いることができる。
シリカゾルにおけるシリカ粒子の大きさは特に制限されないが、平均粒子径が2〜100nmであることが好ましく、5〜75nmであることがより好ましい。シリカゾルは、シリカ粒子の大きさが均一のものでもよく、数種類の大きさのシリカ粒子が混ざったものでもよい。また、平均粒子やpHなどの異なる複数種のシリカゾルを混合して用いてもよい。
ここで、シリカ粒子の平均粒子径とは、BET法により、シリカ粒子の表面に吸着された窒素の吸着量から求めた値である。
【0017】
なお、本発明の触媒製造方法により製造しようとする複合酸化物触媒が、鉄、アンチモン、およびシリカ以外の他の触媒成分を含有する場合、これらの触媒成分は、加熱処理前の混合スラリー中に含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。また、後述する加熱処理後の混合スラリーに添加してもよい。
これらの触媒成分の原料については特に制限はなく、各元素の酸化物、または加熱により容易に酸化物になり得る塩化物、硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、炭酸塩、水酸化物、有機酸塩、酸素酸、酸素酸塩、ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸塩、またはそれらの混合物等を用いることができる。また、これらを複数種、組み合わせて使用してもよい。
【0018】
混合スラリーを調製する際に使用する溶媒についても制限はなく、例えば、水、エチルアルコール、アセトンなどが挙げられるが、水を用いることが好ましい。また、溶媒中に、別途、硝酸、硫酸や塩酸などの酸や、アンモニア水などのアルカリ液を加えて用いてもよい。
【0019】
次に、混合スラリーの加熱処理を行う。ここで、混合スラリーの加熱処理とは、混合スラリーを80℃以上の温度で30分以上保持する工程のことをいう。
加熱処理温度は、下限は、好ましくは85℃以上、さらに好ましくは90℃以上であり、上限は、特に制限はないが、120℃以下が一般的である。加熱処理温度の下限が80℃未満であると、目的生成物を製造するのに有利と考えられる鉄−アンチモン結晶相の生成が不十分となり、目的生成物の収率が低下する。
加熱処理時間は、30分〜72時間の範囲で行うことができる。加熱処理時間が30分未満であると、目的生成物を製造するのに有利と考えられる鉄−アンチモン結晶相の生成が不十分となり、加熱処理の効果が十分に得られない。一方、加熱処理時間が72時間を超えても、得られる効果は頭打ちとなる。
加熱処理時の圧力は、通常、常圧下で行うが、特に制限を受けず、必要であれば、減圧下、もしくは加圧下で加熱処理を行ってもよい。
【0020】
次に、加熱処理後の混合スラリーにシリカ成分の原料を添加する。
複数種類のシリカ成分の原料を使用する場合は、加熱処理後の混合スラリーに別々に添加してもよいし、一緒に添加してもよい。
加熱処理後の混合スラリーにシリカ成分の原料を添加する際の添加条件および添加順序については制限を受けない。
【0021】
加熱処理後の混合スラリーに添加するシリカの量の割合は、触媒製造に使用する全シリカ量に対し、モル分率で3〜80%の範囲であることが重要であり、下限は5%以上であることが好ましく、上限は70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
【0022】
加熱処理後の混合スラリーに添加するシリカ量の割合が、触媒製造に使用する全シリカ量に対しモル分率で3%以上であれば、得られる触媒の機械的強度が向上する。
一方、加熱処理後の混合スラリーに添加するシリカ量の割合が、触媒製造に使用する全シリカ量に対しモル分率で80%以下であれば、高収率で目的生成物を製造できる触媒が得られる。
【0023】
また、本発明の触媒製造方法により製造しようとする複合酸化物触媒が、鉄、アンチモン、およびシリカ以外の他の触媒成分を含有する場合、これらの触媒成分の原料を加熱処理後の混合スラリーに添加してもよい。添加条件および添加順序については制限を受けない。
なお、上記混合スラリー中には、必ずしも触媒を構成する全ての元素を必要量含有していなくてもよく、該混合スラリーに含有されていない元素成分や、必要量に達していない元素成分の原料は後述する乾燥工程までに各工程で添加してもよく、乾燥後の触媒に含浸する等の方法により添加してもよい。
【0024】
次に、乾燥工程において、加熱処理後の混合スラリーにシリカを添加した後のスラリーを乾燥して乾燥物(触媒前駆体)を得る。
本発明の触媒製造方法により製造される複合酸化物触媒は、流動層触媒として用いるのが好適であり、その場合には噴霧乾燥により球状の粒子とすることが好ましい。噴霧乾燥の際には、加圧ノズル式、二流体ノズル式、回転円盤式などの噴霧乾燥器が用いられる。
【0025】
噴霧乾燥に際して、噴霧乾燥機の乾燥室内に流通させる熱風の温度は、乾燥室内への導入口付近における温度の下限は、好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃以上であり、上限は、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下である。また、乾燥室出口付近における温度の下限は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上であり、上限は、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下である。更には、導入口付近における温度と乾燥室出口付近における温度との差が20〜220℃に保たれていることが好ましく、30〜210℃に保たれていることがより好ましい。
上記の各温度が所定の範囲にない場合には、得られる触媒の活性や目的生成物の収率が低下したり、触媒のかさ密度、触媒の機械的強度等が低下したりする等の問題が生じる場合がある。
【0026】
次に、焼成工程において乾燥物(触媒前駆体)を焼成して、鉄、アンチモン、およびシリカを含有する複合酸化物触媒を得る。
本発明においては、焼成を2回以上に分けて実施することが好ましい。焼成を2回以上に分けて行うことで、目的生成物収率がより向上しやすくなる。
最後に実施する焼成を最終焼成、最終焼成に先立って実施する焼成を仮焼成とすると、最終焼成の温度下限は、好ましくは550℃以上、より好ましくは570℃以上であり、上限は、好ましくは1100℃以下、より好ましくは1000℃以下である。温度が下限より低い場合には十分な触媒性能が発現せず、目的生成物収率が低下する場合がある。逆に上限より高い場合には目的生成物収率が低下したり、触媒の活性が過小となったりする場合がある。また、アンモ酸化反応おいてはアンモニア燃焼性が著しく増大し、アンモニア原単位が低下する場合があり好ましくない。
【0027】
また、最終焼成の時間の下限は、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上である。焼成時間が下限より短い場合には十分な触媒性能が発現せず、目的生成物収率が低下する場合がある。上限は特に制限はないが、必要以上に時間を延長しても得られる効果は一定以上にはならないため、通常、20時間以内である。
【0028】
一方、仮焼成の温度は200〜490℃の範囲が好ましい。
最終焼成および仮焼成には汎用の焼成炉を用いることができるが、ロータリーキルン、流動焼成炉等が特に好ましく用いられる。この際用いるガス雰囲気は、酸素を含んだ酸化性ガス雰囲気でも、例えば窒素等の不活性ガス雰囲気でも良いが、空気を用いるのが便利である。
【0029】
このようにして製造される触媒の平均粒径は、5〜200μmの範囲であることが好ましく、10〜150μmの範囲がより好ましい。得られる触媒の粒径分布を所望の範囲とするためには、噴霧乾燥の条件を適宜調整すればよい。
触媒の平均粒径は、レーザ回折・散乱法により測定される値(平均メディアン径)である。
【0030】
本発明の触媒製造方法により製造される複合酸化物触媒としては、少なくとも鉄、アンチモン、およびシリカを含有するものであれば特に限定されないが、下記一般式(I)で表される組成を有することが好ましい。触媒が下記一般式(I)で表される組成であれば、目的生成物収率が向上するなど、本発明の効果が十分に発現する。
Fe10Sb(SiO ・・・(I)
【0031】
式中、Fe、Sb、およびSiOはそれぞれ鉄、アンチモン、およびシリカを表し、Aはニッケル、銅、アルミニウム、マンガン、亜鉛、スズ、クロム、コバルト、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、鉛、バリウム、ニオブ、銀、ジルコニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、チタン、およびビスマスからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Dはバナジウム、モリブデン、およびタングステンからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Eはリン、ヒ素、ホウ素、ゲルマニウム、およびテルルからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Gはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Oは酸素を表し、i、a、d、e、g、x、およびyは各元素(シリカの場合はケイ素)の原子比を表し、Fe=10のとき、i=3〜100、a=0.1〜20、d=0〜15、e=0〜20、g=0〜3、x=上記各成分が結合して生成する金属酸化物の酸素の数、y=10〜200である。
【0032】
触媒を前記組成にするためには、例えば、混合スラリーを調製する際の触媒原料の添加量を適宜選択する方法や、混合スラリーの調製から焼成までの工程で添加する原料の添加量を適宜選択する方法などが挙げられる。
【0033】
触媒の組成は、ICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分析法、蛍光X線分析法、原子吸光分析法等により元素分析を行うことにより確認できる。著しく揮発性の高い元素を用いない場合は、触媒製造時に用いた各原料の仕込み量から算出しても差し支えない。
【0034】
このように、本発明によれば、触媒を製造する過程においてシリカの添加の時機とその量を定めることで、すなわち、鉄とアンチモンとシリカの一部とを混合して混合スラリーを調製し、この混合スラリーを加熱処理した後、この加熱処理後の混合スラリーに、触媒製造に使用する全シリカ量に対しモル分率で3%〜80%の量のシリカを添加することで、驚くべきことに、機械的強度に優れ、高収率で目的生成物を製造できる複合酸化物触媒が得られる。
【0035】
なお、触媒の機械的強度は、圧縮強度試験機等の測定機を用い、触媒の圧縮強度を測定することで評価できる。なお圧縮強度の測定には、通常、45〜50μmに篩別した触媒を用いる場合が多い。この際、任意に選択した50個程度の触媒について測定を行えば十分である。
【0036】
本発明により製造される複合酸化物触媒を用い、有機化合物のアンモ酸化反応によるニトリル類等の製造を行うには、流動層反応器を用いることが好ましい。流動層反応器に複合酸化物触媒を充填し、触媒層に、原料有機化合物、アンモニア、および酸素を含有する原料ガスを供給することにより実施できる。
【0037】
原料ガスとしては、特に限定されないが、有機化合物/アンモニア/酸素が1/1.1〜1.5/1.5〜3(モル比)の範囲の原料ガスが好ましい。
酸素源としては空気を用いるのが便利である。原料ガスは水蒸気、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスや、飽和炭化水素等で希釈して用いてもよく、また、酸素濃度を高めて用いてもよい。
アンモ酸化反応の反応温度は370〜500℃、反応圧力は常圧から500kPaの範囲内が好ましい。
見掛けの接触時間は、0.1〜20秒であることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
下記の実施例および比較例中の「部」は質量部を意味する。
なお、実施例および比較例で得られた触媒の組成は、触媒の製造に用いた各原料の仕込み量から求めた。
また、各例で得られた触媒の活性試験および機械的強度の評価は、以下の手順で実施した。
【0039】
(1)触媒の活性試験
触媒の活性を評価するため、下記の要領でプロピレンのアンモ酸化反応によるアクリロニトリルの製造を行った。
触媒流動部の内径が55mm、高さが2000mmである流動層反応器に、触媒と原料ガスの見掛け接触時間が表1の通りとなるように触媒を充填した。その際の接触時間は下記の式により求めた。
接触時間(秒)=見掛け嵩密度基準の触媒容積(mL)/反応条件に換算した供給原料ガス量(mL/秒)
【0040】
酸素源として空気を用い、組成がプロピレン:アンモニア:酸素=1:1.1:2.3(モル比)である原料ガスを、ガス線速度17cm/秒で触媒層に送入した。反応圧力は200kPa、反応温度は460℃とした。
反応生成物の定量にはガスクロマトグラフィーを用い、反応開始から4時間後のプロピレン転化率およびアクリロニトリル収率を求めた。その際のプロピレン転化率およびアクリロニトリル収率は下記の式により求めた。
プロピレン転化率(%)={(供給したプロピレンの炭素質量−未反応プロピレンの炭素質量)/供給したプロピレンの炭素質量}×100
アクリロニトリル収率(%)=(生成したアクリロニトリルの炭素質量/供給したプロピレンの炭素質量)×100
【0041】
(2)触媒の機械的強度の評価
篩別した45〜50μmの触媒から任意に採取した50個の触媒について、圧縮強度試験機(島津製作所社製「島津MCTM−200」)を用い、以下の測定条件で個々の圧縮強度を測定し、その平均値を触媒の機械的強度とした。
・上部加圧圧子:(ダイヤモンド製の500μm平面圧子)
・下部加圧板:SUS板
・負荷速度:7.1mN/秒
【0042】
[実施例1]
以下の手順にて触媒を製造した。
63質量%の硝酸4000部に、鉄粉末383.7部を溶解した。攪拌を行いながら、この溶液に純水3000部を添加した。この溶液を60℃に加熱した後、30質量%シリカ6536.0部、三酸化アンチモン粉末1802.7部、純水200部にパラモリブデン酸アンモニウム121.3部を溶解したモリブデン溶液を順次添加し、混合スラリーを調製した。
この混合スラリーに15質量%アンモニア水を添加して、pH2.2に調整し、得られた混合スラリーを還流下、98℃で4時間加熱処理を行った。
次いで、加熱処理後の混合スラリーを80℃まで冷却し、硝酸銅・3水和物332.0部、硝酸クロム・9水和物123.7部、硝酸ニッケル・6水和物99.9部、硝酸ルビジウム5.1部、85質量%リン酸63.4部、ホウ酸63.7部、テルル酸220.9部、30質量%シリカ344.0部を順次添加した。加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量の割合は、本触媒製造に使用した全シリカ量に対しモル分率で5%であった。
この混合スラリーをホモジナイザーを用いて微粒化処理した。
微粒化処理後の混合スラリーを噴霧乾燥器により乾燥し、球状の乾燥粒子を得た。次いで、得られた乾燥粒子を250℃で2時間、450℃で2時間焼成し、最終的に流動焼成炉を用いて750℃で4時間流動焼成して触媒を得た。
得られた触媒の組成は、以下の通りであった。
Fe10Sb18CuCr0.45Ni0.5Mo1.00.81.5Te1.4Rb0.05(SiO50
ここで、xは、上記各成分が結合して生成する金属酸化物の酸素の数である。
【0043】
得られた触媒について、活性試験を実施した。なお接触時間を2.7秒とした。また、活性試験後の触媒について、(2)に示した機械的強度の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、加熱処理前の混合スラリーの調製に用いたシリカ量を5160.0部に、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量を1720.0部に変更した以外は、実施例1と同様に触媒を製造し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
この触媒の製造において、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量の割合は、本触媒製造に使用した全シリカ量に対しモル分率で25%であった。
【0045】
[実施例3]
以下の手順にて触媒を製造した。
攪拌している純水3000部に、63質量%の硝酸3000部を添加して硝酸溶液を調製した。この硝酸溶液を60℃に加熱後、硝酸第二鉄・9水和物2953.7部を添加し溶解させた。この溶液に、40質量%シリカ4200.4部、三酸化アンチモン粉末1865.0部、純水200部にパラモリブデン酸アンモニウム56.8部、メタバナジン酸アンモニウム0.86部を溶解したモリブデン−バナジウム混合溶液、50質量%メタタングステン酸アンモニウム液84.8部を順次添加し、混合スラリーを調製した。
この混合スラリーに15質量%アンモニア水を添加して、pH2.2に調整し、得られた混合スラリーを還流下、98℃で4時間加熱処理を行った。
次いで、加熱処理後の混合スラリーを80℃まで冷却し、硝酸ニッケル・6水和物42.5部、硝酸銅・3水和物53.0部、硝酸マグネシウム28.1部、85質量%リン酸227.6部、テルル酸302.2部、40質量%シリカ741.2部を順次添加した。加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量の割合は、本触媒製造に使用した全シリカ量に対しモル分率で15%であった。
この混合スラリーをホモジナイザーを用いて微粒化処理した。
微粒化処理後の混合スラリーを噴霧乾燥器により乾燥し、球状の乾燥粒子を得た。次いで、得られた乾燥粒子を250℃で2時間、450℃で2時間焼成し、最終的に流動焼成炉を用いて800℃で4時間流動焼成して触媒を得た。
得られた触媒の組成は、以下の通りであった。
Fe10Sb17.5Ni0.2Cu0.3Mg0.15Mo0.440.250.01Te1.82.7(SiO45
ここで、xは、上記各成分が結合して生成する金属酸化物の酸素の数である。
【0046】
得られた触媒について、活性試験を実施した。なお接触時間を2.8秒とした。また、活性試験後の触媒について、(2)に示した機械的強度の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例4]
実施例3において、加熱処理前の混合スラリーの調製に用いたシリカ量を2470.8部に、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量を2470.8部に変更した以外は、実施例3と同様に触媒を製造し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
この触媒の製造において、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量の割合は、本触媒製造に使用した全シリカ量に対しモル分率で50%であった。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、加熱処理前の混合スラリーの調製に用いたシリカ量を6880.0部に変更し、加熱処理後の混合スラリーにシリカを添加しなかった以外は、実施例1と同様に触媒を製造し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
この触媒の製造において、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量の割合は、本触媒製造に使用した全シリカ量に対しモル分率で0%であった。
【0049】
[比較例2]
実施例1において、加熱処理前の混合スラリーの調製にシリカを用いず、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量を6880.0部に変更した以外は、実施例1と同様に触媒を製造し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
この触媒の製造において、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量の割合は、本触媒製造に使用した全シリカ量に対しモル分率で100%であった。
【0050】
[比較例3]
実施例3において、加熱処理前の混合スラリーの調製に用いたシリカ量を4892.2部に、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量を49.4部に変更した以外は、実施例3と同様に触媒を製造し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
この触媒の製造において、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量の割合は、本触媒製造に使用した全シリカ量に対しモル分率で1%であった。
【0051】
[比較例4]
実施例3において、加熱処理前の混合スラリーの調製に用いたシリカ量を247.1部に、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量を4694.5部に変更した以外は、実施例3と同様に触媒を製造し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
この触媒の製造において、加熱処理後の混合スラリーに添加したシリカ量の割合は、本触媒製造に使用した全シリカ量に対しモル分率で95%であった。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、実施例1〜4で得られた複合酸化物触媒は、いずれも触媒の機械的強度が高く、かつ高収率でアクリロニトリルを製造できた。
一方、比較例1で得られた複合酸化物触媒は、実施例1および2で得られた複合酸化物触媒と同じ組成であるにもかかわらず、実施例1および2で得られた触媒と比較してアクリロニトリルの収率の点では問題はなかったが、触媒の機械的強度が低かった。
また、比較例2で得られた複合酸化物触媒は、実施例1および2で得られた複合酸化物触媒と同じ組成であるにもかかわらず、実施例1および2で得られた触媒と比較して触媒の機械的強度の点では問題はなかったが、アクリロニトリルの収率が低かった。
【0054】
同様に、比較例3で得られた複合酸化物触媒は、実施例3および4で得られた複合酸化物触媒と同じ組成であるにもかかわらず、実施例3および4で得られた触媒と比較してアクリロニトリルの収率の点では問題はなかったが、触媒の機械的強度が低かった。
また、比較例4で得られた複合酸化物触媒は、実施例3および4で得られた複合酸化物触媒と同じ組成であるにもかかわらず、実施例3および4で得られた触媒と比較して触媒の機械的強度の点では問題はなかったが、アクリロニトリルの収率が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により製造した複合酸化物触媒は、触媒の機械的強度が高く、かつ有機化合物の酸化反応によるアルデヒド類や不飽和酸の製造、アンモ酸化反応によるニトリル類や青酸の製造において高い収率で目的生成物を製造することができる。よって、その工業的価値は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄、アンチモン、およびシリカを含有する複合酸化物触媒の製造方法であって、
少なくとも、鉄とアンチモンとシリカの一部とを混合して混合スラリーを調製し、この混合スラリーを加熱処理する工程と、
加熱処理後の混合スラリーに、触媒製造に使用する全シリカ量に対し、モル分率で3〜80%の量のシリカを添加する工程を含むことを特徴とする複合酸化物触媒の製造方法。
【請求項2】
前記複合酸化物触媒が、下記式(I)で表される組成を有することを特徴とする請求項1に記載の複合酸化物触媒の製造方法。
Fe10Sb(SiO ・・・(I)
(式中、Fe、Sb、およびSiOはそれぞれ鉄、アンチモン、およびシリカを表し、Aはニッケル、銅、アルミニウム、マンガン、亜鉛、スズ、クロム、コバルト、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、鉛、バリウム、ニオブ、銀、ジルコニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、チタン、およびビスマスからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Dはバナジウム、モリブデン、およびタングステンからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Eはリン、ヒ素、ホウ素、ゲルマニウム、およびテルルからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Gはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Oは酸素を表し、i、a、d、e、g、x、およびyは各元素(シリカの場合はケイ素)の原子比を表し、Fe=10のとき、i=3〜100、a=0.1〜20、d=0〜15、e=0〜20、g=0〜3、x=上記各成分が結合して生成する金属酸化物の酸素の数、y=10〜200である。)

【公開番号】特開2011−255311(P2011−255311A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131931(P2010−131931)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】