説明

複合金属化合物の製造方法

【課題】液相法により、少ない有機化合物使用量で、小粒径で化学組成が均一で単相のSc含有複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物を効率的にかつ安価に製造する。
【解決手段】Scと、Sc以外の1種以上の金属元素とを含む、複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする複合金属化合物の製造方法。
a)少なくともSc化合物を含む2種以上の金属元素化合物と、ヒドロキシカルボン酸とを溶媒に溶解し、これらを反応させて金属錯体を生成させる工程
b)前記金属錯体が生成した液に多価アルコール化合物を加えて加熱することによりゲルを生成させる工程
c)生成したゲルを加熱することにより複合金属化合物前駆体を得る工程
d)前記複合金属化合物前駆体を熱処理する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物(以下、これらを単に「複合金属化合物」と称す場合がある。)を液相法で製造する方法に関し、詳しくは、磁性体、誘電体、蛍光体、光触媒、導電体、フィルター顔料などに適した、小粒径で化学組成が均一で単相の複合金属化合物を液相法により効率的に製造する方法に関する。
本発明の複合金属化合物の製造方法は、特に蛍光体として利用できる、複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物の製造方法として適している。
【背景技術】
【0002】
複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物は、磁性体、誘電体、蛍光体、光触媒、導電体、フィルター顔料などに利用されている。かかる複合金属化合物は、微細粒子化され、かつ、高度に単相化され、しかも化学的に均一な組成であることが要求されている。
【0003】
従来、複合金属化合物、例えば、複合金属酸化物の製造法は、例えば酸化物系の蛍光体の製造を例にすると、蛍光体を構成する金属元素を含む複数の化合物を原料として用い、これらの原料を混合した後、1000〜1400℃の高温で長時間焼成して固体間反応によって複合金属酸化物を製造するのが一般的である(固相法)。
【0004】
しかし、この固相法で複合金属酸化物を製造するには、高温で長時間の焼成を行う必要があり、その結果、複合金属酸化物(蛍光体)の粒子径も大きくなる。強いて小粒子径のものを得るには、前記焼成物を粉砕して分級する必要があるが、この焼成粉砕法は、収率が低く粒度調整も難しい。また、焼成温度を1000〜1200℃の比較的低温にすると、未反応原料が残存するため、未反応原料が残らないように反応させるためには焼成温度は例えば1400℃よりも高温にする必要があった。このような高温焼成は、低沸点金属元素を含む複合金属酸化物の製造において、前記低沸点金属元素の揮発を避けることができず、このため均一な化学組成を有する単相の複合金属酸化物を得ることができなかった。
【0005】
一方、複合金属酸化物の製造法には、固相法の他に、下記の液相法がある。
(イ)複数の有機酸金属塩をクエン酸と共に有機溶媒中に溶解し、次いで、加熱して有機溶媒の一部を蒸発させてゲル状の前駆体を生成させ、該前駆体を加熱分解するクエン酸法(例えば非特許文献1)
(ロ)複数の金属塩の水溶液にアルカリや蓚酸などの沈殿化剤を添加して金属の水酸化物や蓚酸塩などを共沈させ、得られた沈殿物を酸化する共沈法
(ハ)複数の金属化合物とアルコールとの反応により得た金属アルコキシドを熱分解するアルコキシド法
(ニ)複合金属酸化物を形成し得る金属イオン群を含有する溶液を、熱の作用の下で分解し得る錯化性有機物質の安定な溶液を形成し、該溶液を迅速に濃縮して固形物を生成させ、これを熱分解する方法(例えば、特許文献1参照)
(ホ)複数の金属塩及び/またはアルコキシド、並びに、オキシカルボン酸またはポリアミノキレート剤を含有する溶媒にポリオールを添加して重合させる錯体重合法(特許文献2参照)
(ヘ)複数の金属元素の化合物、及びポリビニルアルコールを溶媒に溶解し、両者を反応させて金属錯体を生成した後、加熱して前記溶媒を除去することで前記金属錯体を加熱してゲル化し、生成したゲルをさらに加熱することにより複合金属酸化物の前駆体を生成させ、次いで前記前駆体を焼成する方法(特許文献3参照)
【0006】
これらの液相法のうち、(イ)クエン酸法及び(ハ)アルコキシド法は、原料中の有機溶媒を除去する際の各原料化合物の溶解度に差があるため、均一な複合金属酸化物を得ることが難しく、複合金属酸化物の製造を煩雑にしている。特に、(ハ)アルコキシド法では、原料中の個々の成分は各金属元素の加水分解反応速度の相違により、均一分散が極めて困難である。また、(ロ)共沈法は、共沈の操作範囲が狭いため、適用できる金属元素が限定され、金属元素の組み合わせや、金属元素の比率を自由に選択することが難しいため、所望の複合金属酸化物を得ることができない。特に、Scを含む複合金属酸化物を母体化合物とする蛍光体、例えば、Ca3Sc2Si312:Ceの合成にあたっては、Si化合物の多くが水に難溶性であるため、(イ)クエン酸法、(ロ)共沈法は適用が難しく、(ハ)アルコキシド法もCaとSiのアルコキシドの反応速度が著しく異なるので採用することができない。
【0007】
ところで、複合金属酸化物が使用される工業製品の代表的な一例として蛍光体が挙げられる。ブラウン管やフィールドエミッションディスプレー(FED)などに用いる蛍光体は、従来、それを構成する一次粒子の中央粒径(メジアン径d50)が5μm〜30μmであり、蛍光体を構成する母体結晶を大きく成長させることで、粒子表面に存在する無輻射失活層の体積分率を低減して、輝度の高い粉末を得ていた。また、このように大きく成長させた単結晶よりなる一次粒子は、電子線や紫外線やX線などのエネルギーを吸収して効率良く蛍光を発する。例えば、このような蛍光体は、紫外〜可視光のうち最も吸光度の高い波長の光を照射して蛍光体を励起した場合の吸収した光子数に対する発光した光子数で定義される内部量子効率が、0.5〜1の範囲の高い効率を示す。
【0008】
従来の蛍光体の一般的な製造方法は、原料粉末を混合した後、坩堝などの焼成容器に入れて高温で加熱する固相反応で蛍光体を生成させて結晶化させた後、ボールミルなどで微粉砕する方法である(例えば、非特許文献2参照)。
【0009】
しかし、この方法で製造された蛍光体は、単結晶である一次粒子が集合して構成された二次粒子である凝集体粉末からなっていることが多く、この蛍光体粒子を塗布して蛍光膜を形成して得られるブラウン管やFEDなどの蛍光膜は不均質で充填密度が低いため、発光効率が低かった。
【0010】
また、固相反応後にボールミルなどで微粉砕して所望の粒径の蛍光体粒子を得ているが、その際に物理的及び化学的な衝撃が加えられ、その結果、一次粒子には表面に現れる晶癖面が少なくなり、その粒子内や表面に欠陥が発生して発光効率が低下するという不都合があった。
【0011】
一方で、最近では、FED等では画素の精細化のため、また、固体照明素子などでは発光効率の面から従来の技術で得られる粒径よりもさらに微細かつ高輝度な蛍光体が要求されている。これらの要求に対して、焼成後の粉砕による微細化では対応し得ず、従来法では、発光効率の低下が大きく、内部量子効率も低くなり、所望の蛍光体が得られず、その結果として、高精細なディスプレイや高効率の照明などが得られなかった。
【0012】
一方、固相反応で得られる粒子を微細なものとする場合は、反応温度を下げる必要があるが、その場合、反応が完全に進まず不純物相が混在して粒子の結晶成長が不完全となり、その結果、得られる蛍光体は内部量子効率が低くなり、発光特性の低下を招くこととなる。
【特許文献1】特公昭49−6040号公報
【特許文献2】特開平6−115934号公報
【特許文献3】特開平11−314905号公報
【非特許文献1】日本金属学会会報 第26巻、第10号、pp.943−949頁
【非特許文献2】「蛍光体ハンドブック」(株式会社オーム社発行)166頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、内部量子効率が高く発光特性に優れた蛍光体を提供し得る複合金属酸化物を製造するには、固相法では対応し得ず、液相法の改良が期待される。特に、固相法に用いる原料化合物として、反応性の高い材料が入手できないような複合金属酸化物の製造においては、結晶性が高く、かつ、小粒径で、化学組成の均一性の高い材料を製造するには、液相法の適用が必須となると考えられる。例えば、酸化スカンジウム(Sc23)は反応性が低いために、Scを含む複合金属酸化物の製造において、固相法では、結晶性が高く、かつ、小粒径で、化学組成の均一性の高い材料を製造することが困難であるが、液相法の適用により、この問題が解決されることが予想される。複合金属酸化物に限らず、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物についても同様のことが言える。
【0014】
従って、本発明は、固相法において、反応性の低い原料の使用が必要なSc含有複合金属酸化物の前述の問題点を解消し、液相法により、少ない有機化合物使用量で、小粒径で化学組成が均一で単相のSc含有複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物を効率的にかつ安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【0015】
特に、本発明は、高精細のディスプレイや、高輝度の照明素子、照明器具、高速イムノアッセイシステム等を実現し得る、結晶性に優れ、従来の大粒子並みの高輝度を有する小粒径の複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物蛍光体を、環境に対する負荷を低減した上で安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、液相法の一つである錯体重合法を適用することにより、Sc含有複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物を、小粒径で化学組成が均一で単相の複合金属化合物として効率的にかつ安価に製造することができること、特に、錯体重合法は、蛍光体のように、付活剤としての微量成分を含む複合金属化合物の製造において、微量成分の均一分散を容易に達成することができることを見出した。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0017】
[1] Scと、Sc以外の1種以上の金属元素とを含む、複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする複合金属化合物の製造方法。
a)少なくともSc化合物を含む2種以上の金属元素化合物と、ヒドロキシカルボン酸とを溶媒に溶解し、これらを反応させて金属錯体を生成させる工程
b)前記金属錯体が生成した液に多価アルコール化合物を加えて加熱することによりゲルを生成させる工程
c)生成したゲルを加熱することにより複合金属化合物前駆体を得る工程
d)前記複合金属化合物前駆体を熱処理する工程
【0018】
[2] [1]において、製造する複合金属化合物が、付活元素を含む蛍光体であることを特徴とする複合金属化合物の製造方法。
【0019】
[3] [1]または[2]において、製造する複合金属化合物が、下記式(1)で表される結晶を母体とする複合金属酸化物であることを特徴とする複合金属化合物の製造方法。
II3III2IV312 …(1)
(式(1)中、MIIは、2価の金属元素の1種又は2種以上を表し、MIIIは、3価の金属元素の1種又は2種以上を表し、その主成分としてScを含んでおり、MIVは、4価の金属元素の1種又は2種以上を表す。)
【0020】
[4] [1]または[2]において、請求項1または2において、製造する複合金属化合物が、下記式(2)で表される結晶を母体とする複合金属酸化物であることを特徴とする複合金属化合物の製造方法。
IIIII24 …(2)
(式(2)中、MIIは、2価の金属元素の1種又は2種以上を表し、MIIIは、3価の金属元素の1種又は2種以上を表し、その主成分としてScを含んでいる。)
【発明の効果】
【0021】
本発明の複合金属化合物の製造方法によれば、固相法原料の反応性が低い、Scを含む複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物の製造において、液相法により、小粒径で化学組成が均一で単相の複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物を効率的に製造することができる。しかも、本発明の方法は、水溶媒を選択できるため、有機化合物の使用量が少なく、環境に対する負荷が小さく、製造コストの低減が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。なお、以下においては、複合金属化合物として、特に複合金属酸化物の場合を例示して本発明を説明するが、本発明の複合金属化合物の製造方法は、複合金属酸化物に限らず、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物についても、後述のd)工程において、窒化または硫化すること以外は、同様に実施することができる。
【0023】
[複合金属酸化物の製造]
本発明の複合金属化合物の製造方法は、いわゆる錯体重合法と呼ばれるものであり、複合金属酸化物の製造にあたって、以下の工程を経るものである。
a)少なくともSc化合物を含む2種以上の金属元素化合物と、ヒドロキシカルボン酸とを溶媒に溶解し、これらを反応させて金属錯体を生成させる工程
b)前記金属錯体が生成した液に多価アルコール化合物を加えて加熱することによりゲルを生成させる工程
c)生成したゲルを加熱することにより複合金属酸化物前駆体を得る工程
d)前記複合金属酸化物前駆体を熱処理する工程
【0024】
以下に、上記a)〜d)の工程について説明する。
【0025】
a)工程:少なくともSc化合物を含む2種以上の金属元素化合物と、ヒドロキシカルボン酸とを溶媒に溶解し、これらを反応させて金属錯体を生成させる工程
【0026】
a)工程において使用する原料金属元素化合物としては、後述の溶媒に溶解するものであれば特に制限はなく、Sc及び他の金属元素の、塩化物、酸化物、水酸化物、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、フッ化物等を用いることができる。中でも、加熱により陰イオン成分を容易に除去できるため、硝酸塩を用いることが好ましい。また、溶媒に溶解しない原料金属元素化合物であっても、粒径が100nmを下回るような微粒子のゾル状態の原料金属元素化合物も使用することができる。
【0027】
原料金属元素化合物は、各々の金属元素について、これらの化合物の1種のみを用いても良く、2種以上の化合物を混合して用いても良い。
【0028】
溶媒としては、種々の液体を使用できるが、沸点が90℃以上の溶媒が好ましく、その中でも、製造工程の簡略化、製造コストの低減等の観点から、水、アルコール(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン)等の水溶性溶媒の1種又は2種以上が好ましく、とりわけ水を用いるのが特に好ましい。
【0029】
ヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸などの炭素数2〜6のヒドロキシカルボン酸が好ましく、中でも、一分子当りのカルボキシル基が3個と最も多く、エステル重合体の立体網目構造を形成しやすいことから、クエン酸が特に好ましい。
【0030】
これらのヒドロキシカルボン酸は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0031】
金属元素化合物とヒドロキシカルボン酸との使用割合は、金属元素換算で、全金属元素化合物/ヒドロキシカルボン酸=1/10〜1/1(モル比)程度とすることが好ましく、1/6〜1/3(モル比)、特に1/4(モル比)の場合には金属元素の均一分散の効果が高い点において好ましく、1/3〜1/1(モル比)、特に1/2(モル比)の場合には使用する有機物量を抑えた上で均一な錯体を製造できる点において好ましい。この範囲よりもヒドロキシカルボン酸が少ないと金属元素が十分に錯体化されず均一に分散しないので好ましくなく、多すぎると製造する複合金属化合物に対して多くの有機物を使用することとなりコスト面で好ましくない。
【0032】
溶媒の使用量は、均一な溶液を形成し得るような量であって、生成する金属錯体の飽和濃度に必要な量以上であれば良いが、金属元素換算で、全金属元素化合物1モルあたり1〜4L程度とすることが好ましい。溶媒の使用量が多過ぎるとエステル重合後の溶媒除去に時間がかかり、少な過ぎると金属錯体が過飽和となって沈殿し、不均一となり不都合である。
【0033】
a)工程は、好ましくは、金属元素化合物の溶液、特に水溶液に、所定量のヒドロキシカルボン酸を添加混合して加熱することにより実施される。このa)錯体形成工程では、溶媒が蒸発しない程度の温度に加熱すると共に、液を十分に撹拌することが好ましい。
【0034】
この場合の加熱温度は、用いる溶媒の種類によっても異なるが、70℃以上で溶媒の沸点以下が好ましく、例えば溶媒が水の場合は100℃以下、グリコールの場合は150℃以下とすることが好ましい。加熱温度が70℃未満ではヒドロキシカルボン酸と金属元素化合物との反応が進行しにくく、好適な金属錯体を形成しにくい。
加熱時間は加熱温度によっても異なるが、通常2〜4時間程度である。
【0035】
なお、金属元素化合物の溶液、例えば金属元素化合物水溶液の調製方法には特に制限はなく、例えば、硝酸塩水溶液の調製方法としては、水溶性の金属元素化合物を水に溶解させれば良いが、その他に、金属酸化物を硝酸に溶解させて、過剰の硝酸を除去する方法であっても良い。この方法は、純度の高い原料酸化物を使用することで、純度の高い硝酸塩水溶液を調製できる点で好ましい。
【0036】
b)前記金属錯体が生成した液に多価アルコール化合物を加え加熱してゲルを生成させる工程
【0037】
b)工程におけるゲルを生成させる工程は、金属錯体が生成した液に多価アルコール化合物を添加して加熱することにより実施される。この工程では、多価アルコール化合物のOH基と金属錯体のカルボキシル基が脱水縮合反応を起こしてエステル重合し、金属錯体と多価アルコール化合物とで形成される重合体(ゲル)中に金属元素化合物の金属元素が錯体として均一に分散した錯体重合体を得ることができる。
【0038】
b)工程で用いる多価アルコール化合物としては、炭素数2〜3の2〜3価アルコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコールや、グリセリンが好ましく、このうち、エチレングリコールは低価格で炭素量が少ない点で特に好ましく、プロピレングリコールは毒性が少ない点で特に好ましい。
【0039】
これらの多価アルコール化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0040】
多価アルコール化合物の使用割合は、a)工程で用いたヒドロキシカルボン酸/多価アルコール化合物=1/10〜2/1(モル比)とすることが好ましく、特に1/1(モル比)付近とすることが好ましい。この範囲よりもヒドロキシカルボン酸が多いとエステル重合体が硬化凝集して熱分解時の熱伝導性が低下し、より多くの加熱時間が必要になる。少ないとエステル重合化が不完全で流動性を持つゲルとなり、熱分解時の突沸による作業者への危険性や試料の損失の可能性がある。
【0041】
加熱温度は、用いた溶媒の沸点付近の温度とすることが好ましい。この加熱温度が低いと、溶媒除去に時間がかかり、温度が高すぎるとゲルの熱分解反応が同時に起こるため、物性制御が難しくなる。通常、溶媒として水を用いた場合はヒーター設定を90〜150℃とし水温を80〜95℃程度として加熱することが好ましく、グリコールを用いた場合は、ヒーター設定を150〜250℃程度で加熱することが好ましい。加熱時間は、ゲルが生成する時間であれば良く、通常12〜48時間である。
【0042】
なお、前記a)工程の加熱処理とb)工程の加熱処理とは、連続して実施することができる。ただし、b)工程において、ゲルが生成し始めた後は、溶液の粘性が高くなるため撹拌を停止し、加熱のみを行って全体をゲル化させる。
【0043】
c)工程:生成したゲルを加熱することにより複合金属酸化物前駆体を得る工程
【0044】
c)工程は、加熱によりb)工程で生成したゲルを熱分解して複合金属酸化物前駆体を得る工程であり、まず、ゲルを250〜550℃で加熱することにより、ゲル中の有機物を熱分解することが好ましい。この加熱温度が低すぎると熱分解に時間がかかり過ぎ、あるいは、熱分解が完結しない。加熱温度が高すぎると、異常な粒子成長が起きたり、構成成分の揮発が起きたりするおそれがあるので好ましくない。
【0045】
上記加熱処理は大気中で行うことができるが、この加熱処理後、100〜500Pa程度の減圧ないし真空条件下で真空加熱することが好ましい。この真空加熱の温度は、250〜1000℃が好ましく、600〜900℃が更に好ましい。このような真空加熱により、残留している有機物を高度に除去することができ、有機物を含まず、金属のみを含む前駆体を得ることができる。有機物の残留した前駆体は、次のd)工程で還元雰囲気で熱処理した場合にそれが炭化して黒い着色の原因となるため、好ましくない。
【0046】
c)工程における前段の大気中での加熱処理及びその後の真空加熱処理の時間は、加熱温度によっても異なるが、通常、前段の加熱処理時間は2〜8時間程度、後段の真空加熱処理時間は、6〜12時間程度である。
【0047】
d)工程:前記複合金属酸化物前駆体を熱処理する工程
【0048】
d)工程は、c)工程で得られた複合金属酸化物前駆体を所望の粒径となるまで熱処理する工程である。
d)工程の熱処理温度及び処理時間は複合金属酸化物の種類によるが、熱処理温度が高いほど、また、熱処理時間が長いほど粒径が大きくなる傾向にあるため、所望の粒径となるように適宜条件を選択する必要がある。通常、熱処理温度は600〜1400℃、好ましくは700〜1200℃である。処理時間は通常0.5時間〜12時間、好ましくは2〜6時間である。温度を変えて複数回の熱処理を行うことも好ましい方法の一つである。例えば、450〜700℃、特に600℃で所定時間加熱した後、700〜1400℃、例えば1100℃で所定時間加熱することは、結晶性の向上の点で好ましい方法である。
【0049】
複合金属酸化物前駆体を得るためのc)工程の熱分解工程と、複合金属酸化物前駆体から複合金属酸化物を得るためのd)工程の熱処理工程は連続的に行っても良いが、熱分解工程では含有する有機化合物からの分解生成ガスを排出、除去処理する必要があるため、熱分解工程は、後続する熱処理工程とは別工程であることが好ましい。
【0050】
このような本発明の複合金属化合物の製造方法では、液相中で各金属イオンが均一に分散した状態で均一な金属錯体が予め形成されたものを熱処理するため、比較的低温の加熱処理により、優れた結晶化度で均一な化学組成を有する単相の複合金属酸化物を形成することができ、さらに粒子径が1μm以下の超微粒子の複合金属酸化物を得ることもできる。
【0051】
焼成雰囲気は、空気中が好ましいが必ずしも空気中である必要はなく、必要に応じて中性雰囲気(不活性ガス雰囲気)や還元性雰囲気中で行っても良い。特に、複数の価数を取りうる金属を還元側の価数にする必要がある場合には還元雰囲気とすることが好ましい。中性又は還元性の焼成雰囲気としては、例えば、N2、Ar、H、CO雰囲気或いはそれらの混合ガス雰囲気が良い。なかでも窒素と水素の混合ガス(水素比率1〜10モル%)がコスト面で好ましい。CO雰囲気は、COを含むガスボンベを用いる以外に固体の炭素を還元剤とし、ガス中の酸素との反応でCOを生成させる方法が簡便で好ましい。
【0052】
なお、複合金属硫化物、複合金属酸硫化物の製造においては、硫化水素(HS)や二硫化炭素(CS)を含む雰囲気で焼成することが好ましい。各種の硫化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの硫化剤を共存させることによって複合金属硫化物、複合金属酸硫化物を製造する方法も好ましい。複合金属窒化物、複合金属酸窒化物の製造においては、焼成雰囲気は、アンモニア(NH)、窒素(N)、窒素と水素の混合ガス(N+H)などが好ましい。
【0053】
本発明の製造方法で製造されたSc含有複合金属酸化物は、磁性体、誘電体、蛍光体、光触媒、導電体、フィルター顔料などの種々の用途に使用できるが、特に複合金属酸化物が蛍光体である場合、ブラウン管、FED、PDP、固体照明素子、固体照明器具、蛍光灯、バックライト用蛍光ランプ、蛍光表示管、夜光塗料、X線増感紙などに用いることができる。
【0054】
[複合金属酸化物蛍光体の製造]
本発明で製造される複合金属化合物の代表的な例として、Scを含有する複合金属化合物蛍光体が挙げられる。
【0055】
中でも酸化物蛍光体の製造に適用することが容易であり、好ましい。
【0056】
以下に本発明で製造される複合金属酸化物の代表的な例としてのSc含有複合金属酸化物蛍光体について、より詳細に説明する。
【0057】
製造される複合金属酸化物蛍光体の組成には特に制限はないが、その含有結晶母体の代表例として、下記式(1)又は(2)で表される結晶が挙げられる。
II3III2IV312 …(1)
(式(1)中、MIIは、2価の金属元素の1種又は2種以上を表し、MIIIは、3価の金属元素の1種又は2種以上を表し、その主成分としてScを含んでおり、MIVは、4価の金属元素の1種又は2種以上を表す。)
IIIII24 …(2)
(式(2)中、MIIは、2価の金属元素の1種又は2種以上を表し、MIIIは、3価の金属元素の1種又は2種以上を表し、その主成分としてScを含んでいる。)
【0058】
本発明で製造される複合金属酸化物蛍光体(以下、複合金属酸化物蛍光体を含めて、本発明の方法で製造される複合金属化合物蛍光体を「本発明の蛍光体」と称す場合がある。)は、上記(1)式又は(2)式で表される母体結晶に、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等の希土類金属元素やMn、Sb、Bi等の金属のイオンの1種又は2種以上を付活剤として添加したものが好ましく、中でもEu、Ce、Tb、及びMnから選ばれる1種又は2種以上を用いたものが好ましい。また、付活剤をあえて添加しなくても発光する材料、すなわち、格子欠陥や母体のエネルギー準位間の遷移によって発光する場合には、付活剤を添加せずに合成したものも有用である。
【0059】
特に、上記(1)式のMII3III2IV312において、好ましい構成元素は、MIIとしてはMg、Ca、Sr、Ba、及びZnから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、Caを主成分(50モル%以上)とすることが更に好ましく、すべてがCaであることが特に好ましい。MIIIとしては、Scを含有することが必須であり、Sc、Lu、Y、及びGdから選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましく、Scが50モル%以上であることが更に好ましく、Scが80モル%以上であることが特に好ましい。MIVは、Si、Ge、及びSnから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、Siが50モル%以上であることが更に好ましく、80モル%以上であることが特に好ましい。
【0060】
結晶母体がCa3Sc2Si312である場合には、発光に寄与する付活剤がCeであることが好ましく、発光に寄与する付活剤以外にMgとYの一方又は双方を少量含むことが好ましく、Mgを含むことが更に好ましい。また、NaやLiの一方、または双方を少量含むことも好ましい。これらの添加により発光スペクトルの形状を制御することができる。Ceを含む場合のその添加量は、Ca3Sc2Si312の1モルあたり0.02〜0.1モルであることが好ましく、0.04〜0.09モルであることがさらに好ましい。Mg及び/又はYを含む場合のその含有量は、Ca3Sc2Si312の1モルあたり0.001〜0.3モルであることが好ましく、0.01〜0.1モルであることがさらに好ましい。
【0061】
上記(2)式のMIIIII24において、好ましい構成元素は、MIIとしては、Mg、Ca、Sr、Ba、及びZnから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、CaとSrの一方または双方を含むことが更に好ましく、Caが80モル%以上であることが特に特に好ましい。MIIIとしては、Scを含有することが必須であり、Sc、Lu、Y、及びGdから選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましく、Scが50モル%以上であることが更に好ましく、Scが80モル%以上であることが特に好ましい。
【0062】
結晶母体がCaSc24である場合には、発光に寄与する付活剤がCeであることが好ましく、発光に寄与する付活剤以外に、Sr、Mg、及びYから選ばれる1種又は2種以上を少量含むことが好ましい。Ceを含む場合のその添加量は、CaSc24の1モルあたり0.005〜0.02モルであることが好ましく、0.007〜0.01モルであることがさらに好ましい。Mg、及びYから選ばれる1種又は2種以上を含む場合のその添加量は、CaSc24を1モルあたり0.001〜0.3モルであることが好ましく、0.01〜0.1モルであることがさらに好ましい。Srを含む場合は、CaSc24の1モルあたり0.01〜0.5モルが好ましい。この場合、Sr増加とともに発光が短波長側にシフトするので、用途に応じてSr量を選択する。
【0063】
本発明の複合金属酸化物蛍光体は、電子線による励起や、X線及び紫外から可視領域の光の吸収により、可視光を発する。特に、この複合金属酸化物蛍光体は、可視光線の吸収によって発光するので、発光ダイオードを一次光源とする発光素子に有用である。
【0064】
[複合金属酸化物の好適粒径]
本発明者らは、鋭意検討した結果、単結晶からなり粒界や表面で囲まれた領域として定義される一次粒径が0.05μm〜5μmの範囲に有る蛍光体(容易に一次粒子まで分散可能な形態)は、ブラウン管、FED、PDP、固体照明素子、蛍光灯、蛍光表示管、夜光塗料、X線増感紙などに適用する際に均質で緻密な高輝度蛍光膜、蛍光層を形成できることを見出した。また、医薬品開発に使用されるラジオイムノアッセイ用の蛍光ビーズとして本発明の蛍光体を使用することにより、従来より開発効率の高いハイスループット新薬スクリーニングシステムを得ることができることを見出した。
【0065】
なお、一次粒子は、単結晶からなり粒界や表面で囲まれた領域であり、その領域内では、結晶方位が本質的に同一である領域として定義される。即ち、本発明における一次粒子とは、単結晶X線回折において全領域が単一のX線反射を示すような結晶領域を表す。ただし、そのような結晶領域内では、必ずしも全ての結晶が完全に同一方向に正確に整列しておらず、結晶歪みが内在したり結晶欠陥を包含したりしているために結晶方位のわずかに異なる単位胞がモザイク構造を作っていて、ほんの少しずつ結晶方位がずれていることもありうる。
【0066】
本発明では、一次粒径は、一次粒子の粒径であり、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から任意に選んだ10個の粒子について、各粒子の最大直径と最小直径の平均値を求め、その平均値を一次粒径とした。
【0067】
一次粒径が0.05μmより小さいと、所望の高輝度を得ることができない上に、塗膜等の工程において粒子の取扱いが難しくなり、均質で緻密な蛍光膜や蛍光層を形成できない。一方、一次粒径が5μmより大きいと、ブラウン管、FED、PDP、固体照明素子、固体照明器具、蛍光灯、蛍光表示管、夜光塗料、X線増感紙などに使用した場合に高精細の蛍光膜が形成できず、また、医薬品開発に使用されるラジオイムノアッセイ用の蛍光ビーズとして使用する際には、分注用の蛍光ビーズスラリー中での蛍光体の沈降が短時間で起きてしまい、正確な蛍光強度の測定が不能になる。一次粒径は、特に1μm以上、3μm以下が好ましい。
【0068】
従って、本発明においては、特に、製造される複合金属酸化物が蛍光体である場合、上記範囲の一次粒径の複合金属酸化物が得られるように、例えば、d)工程における焼成温度及び焼成時間等を調整することが好ましい。
【0069】
[本発明の蛍光体を用いて製造される発光素子、および発光装置]
本発明の蛍光体は、励起光源と、該励起光源からの光の少なくとも一部を波長変換する蛍光体とを有する発光素子に用いることができ、下記のような励起光源と組み合わせて、白色、または、任意の色調の発光装置を構成することができる。
【0070】
本発明の蛍光体を用いた発光装置において、前記蛍光体に光を照射する励起光源は、波長360nmから490nmの光を発生するものが好ましい。励起光源の具体例としては、発光ダイオード(LED)またはレーザーダイオード(LD)、有機エレクトロルミネッセンス発光素子(OLED)、分散型または薄膜型の無機エレクトロルミネッセンス発光素子(無機EL)等を挙げることができる。消費電力が少ない点でより好ましくはレーザーダイオードであり、低コストで入手が容易な発光ダイオード(LED)が最も好ましい。その中で、GaN系化合物半導体を使用した、GaN系LEDやLDが好ましい。なぜなら、GaN系LEDやLDは、この領域の光を発するSiC系LED等に比し、発光出力や外部量子効率が格段に大きく、前記蛍光体と組み合わせることによって、非常に低電力で非常に明るい発光が得られるからである。例えば、20mAの電流負荷に対し、通常GaN系はSiC系の100倍以上の発光強度を有する。GaN系LEDやLDにおいては、AlGaN発光層、GaN発光層、またはInGaN発光層を有しているものが好ましい。
【0071】
GaN系LEDにおいては、それらの中でInGaN発光層を有するものが発光強度が非常に強いので、特に好ましく、GaN系LDにおいては、InGaN層とGaN層の多重量子井戸構造のものが発光強度が非常に強いので、特に好ましい。なお、上記においてX+Yの値は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましいものである。GaN系LEDは、これら発光層、p層、n層、電極、及び基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlGaN層、GaN層、またはInGaN層などでサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが発光効率が高く、好ましく、更にヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが発光効率が更に高く、より好ましい。
【0072】
波長変換材料としての前記蛍光体と、LEDやLDなどの半導体発光素子、OLED、無機ELなどの発光素子を励起光源として有する発光装置は、発光素子の発する紫外光から可視光の範囲の光を吸収してより長波長の可視光を発する演色性の高い発光装置とすることができ、バックライトユニットを使用したカラー液晶ディスプレイ等の画像表示装置や面発光等の照明装置等の光源として好適である。
【0073】
なお、本発明の蛍光体を用いた発光装置には、波長変換材料として本発明の蛍光体以外に、その他の蛍光体を含んでいてもよい。その他の蛍光体としては、青、青緑、緑、黄緑、黄色、橙色、赤色、または深赤色の発光を示す蛍光体が好ましく、固相法で製造されたものや、本発明の方法以外の溶液を経由する製造方法で製造されたものが使用できる。特に、本発明の製造方法で製造されるScを母体化合物の主成分として含みCeを発光イオンとして含む蛍光体を使用する場合には、これと、赤色、または、橙色の蛍光体と、励起光源としての青色発光ダイオードとを組み合わせることにより、白色の発光装置を構成することができるので、好ましい。更に、上述のSc含有、Ce付活蛍光体を使用する場合、任意の近紫外発光ダイオードと青色蛍光体と赤色または橙色蛍光体を組み合わせることによっても好ましい白色の発光装置を構成することができる。これらの白色発光装置には、黄色、あるいは、青緑色に発光する蛍光体を追加することで更に演色性を向上させることができるので好ましい。
【0074】
以下に、本発明の蛍光体を用いた発光装置に含んでいてもよい、その他の蛍光体を列挙するが、以下のものに限定されるものではない。
【0075】
緑色蛍光体としては、MSiO:Eu2+、MAl:Eu2+、MSi:Eu2+、MGa:Eu2+、MMgAl1017:Eu2+,Mn2+(以上、Mは、Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つを表す)などが挙げられる。
【0076】
赤色蛍光体としては、CaS:Eu2+、SrS:Eu2+等の硫化物系蛍光体、MSi:Eu2+、MAlSiN:Eu2+(Mは、Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも1種または2種以上を表す)等の窒化物系蛍光体、及び、M''(Si,Al)12(O,N)16:Eu2+(M''は、Li,Mg,Ca,Sr,Y,La,Gd,Lyから選ばれる少なくとも1種または2種以上を表す)等のオキシ窒化物系蛍光体等が挙げられ、また、3価のEuを発光中心イオンとしたものでは、LaS:Eu3+、YS:Eu3+等のオキシ硫化物系蛍光体、4価のMnを発光中心イオンとしたものでは、3.5MgO・0.5MgF・GeO:Mn4+等が挙げられる。
【0077】
青色蛍光体としては、MMgAl1017:Eu2+、MMgSi:Eu2+、MMgSi:Eu2+、MMgSi:Eu2+(以上、Mは、Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つを表す)、M’(POCl:Eu2+(以上、M’は、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つを表す)などが挙げられる。中でもBaをMの主成分とするMMgAl1017:Eu2+やSrをM’の主成分とするM’(POCl:Eu2+が好ましい。
【0078】
以下に、このような励起光源及び本発明の蛍光体を備える発光装置(以下「本発明の発光装置」と称す場合がある。)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0079】
図1は、励起光源(波長360nmから490nmの短波長の光を発生する半導体発光素子)と蛍光体とを有する本発明の発光装置の一実施例を示す模式的断面図であり、図2は、図1に示す発光装置を組み込んだ面発光照明装置の一実施例を示す模式的断面図である。図1及び図2において、1は発光装置、2はマウントリード、3はインナーリード、4は励起光源、5は蛍光体含有樹脂部、6は導電性ワイヤー、7はモールド部材、8は面発光照明装置、9は拡散板、10は保持ケースである。
【0080】
この発光装置1は、図1に示されるように、一般的な砲弾型の形態をなし、マウントリード2の上部カップ内には、GaN系発光ダイオード等からなる励起光源(波長360〜490nm励起光源)4が、その上に、蛍光体をシリコーン樹脂、エポキシ樹脂やアクリル樹脂等のバインダーに混合、分散させ、カップ内に流し込むことにより形成された蛍光体含有樹脂部5で被覆されることにより固定されている。一方、励起光源4とマウントリード2、及び励起光源4とインナーリード3は、それぞれ導電性ワイヤー6で導通されており、これら全体がエポキシ樹脂等によるモールド部材7で被覆、保護されてなる。
【0081】
また、この発光装置1を組み込んだ面発光照明装置8は、図2に示されるように、内面を白色の平滑面等の光不透過性とした方形の保持ケース10の底面に、多数の発光装置1を、その外側に発光装置1の駆動のための電源及び回路等(図示せず。)を設けて配置し、保持ケース10の蓋部に相当する箇所に、乳白色としたアクリル板等の拡散板9を発光の均一化のために固定してなる。
【0082】
そして、面発光照明装置8を駆動して、発光装置1の励起光源4に電圧を印加することにより波長360nmから490nmの短波の光を発光させ、その発光の一部を、蛍光体含有樹脂部5における前記蛍光体が吸収して、より長波長(波長380〜780nm)の可視光を発光し、一方、蛍光体に吸収されなかった青色光等との混色により演色性の高い発光が得られ、この光が拡散板9を透過して、図面上方に出射され、保持ケース10の拡散板9面内において均一な明るさの照明光が得られることとなる。
【0083】
なお、上記発光装置1における蛍光体含有樹脂部5は、次のような効果を有する。即ち、励起光源からの光や蛍光体からの光は通常四方八方に向いているが、蛍光体粉を樹脂中に分散させると、光が樹脂の外に出る時にその一部が反射されるので、ある程度光の向きを変えることができるため、光の混合が行われ、配光が均一化される傾向にある。従って、効率の良い向きに光をある程度誘導できるので、前記蛍光体の粉を樹脂中へ分散して使用するのが好ましい。また、蛍光体を樹脂中に分散させると、励起光源からの光の蛍光体への全照射面積が大きくなるので、蛍光体からの発光強度を大きくすることができるという利点も有する。
【0084】
この蛍光体含有樹脂部に使用できる樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等各種のものを1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、蛍光体粉の分散性が良い点で好ましくはシリコーン樹脂、エポキシ樹脂である。蛍光体の粉を樹脂中に分散させる場合、当該蛍光体粉と樹脂との合計に対するその蛍光体粉の重量割合は、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.3〜15重量%、更に好ましくは0.5〜10重量%である。この範囲よりも蛍光体が多すぎると蛍光体粉の凝集により発光効率が低下することがあり、少なすぎると今度は樹脂による光の吸収や散乱のため発光効率が低下することがある。
【0085】
この樹脂中には、色斑(ムラ)を防止するために、増量剤または拡散剤を添加してもよい。具体的な拡散剤としては、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素等が好適に用いられる。このような拡散剤の使用によって良好な指向特性を有する発光装置が得られる。例えば、粒径1nm〜1μmの拡散剤は、半導体発光素子からの光波長に対する干渉効果が低い反面、光度を低下させることなく樹脂粘度を高めることができる。これにより、ポッティング等により蛍光体含有樹脂などを配置させる場合、シリンジ内において樹脂中の蛍光体をほぼ均一に分散させ、その状態を維持することが可能となり、比較的取り扱いが困難である粒径の大きい蛍光体を用いた場合でも均一性の高い蛍光体含有樹脂部を歩留まり良く形成することが可能となる。拡散剤は、その粒径範囲により作用が異なり、使用方法に合わせて選択若しくは組み合わせて用いることができる。
【0086】
なお、前述の如く、蛍光体は必要に応じて公知の表面処理を行ってから樹脂中に分散することが好ましい。
【0087】
本発明の発光装置においては、面発光型の発光体、特に面発光型GaN系レーザーダイオードを励起光源として使用することは、発光装置全体の発光効率を高めることになるので、特に好ましい。面発光型の発光体とは、膜の面方向に強い発光を有する発光体であり、面発光型GaN系レーザーダイオードにおいては、発光層等の結晶成長を制御し、かつ、反射層等をうまく工夫することにより、発光層の縁方向よりも面方向の発光を強くすることができる。面発光型のものを使用することによって、発光層の縁から発光するタイプに比べ、単位発光量あたりの発光断面積が大きくとれる結果、波長変換材料としての蛍光体にその光を照射する場合、同じ光量で照射面積を非常に大きくすることができ、照射効率を良くすることができるので、波長変換材料である蛍光体からより強い発光を得ることができる。
【0088】
このように励起光源として面発光型のものを使用する場合、波長変換材料としての蛍光体を膜状に形成するのが好ましい。面発光型の励起光源からの光は断面積が十分大きいので、蛍光体をその断面の方向に膜状に形成すると、励起光源からの蛍光体単位量あたりの照射断面積が大きくなるので、蛍光体からの発光の強度をより大きくすることができる。
【0089】
また、励起光源として面発光型のものを使用し、蛍光体を膜状に形成したものを用いる場合、励起光源の発光面に、直接膜状の蛍光体を接触させた形状とするのが好ましい。ここでいう接触とは、励起光源と蛍光体とが空気や気体を介さないで密着している状態をつくることを言う。その結果、励起光源からの光が蛍光体の膜面で反射されて外にしみ出るという光量損失を避けることができるので、装置全体の発光効率を良くすることができる。
【0090】
図3は、このように、励起光源として面発光型のものを用い、蛍光体を膜状に形成したものを適用した発光装置の一例を示す模式的斜視図である。図3中、11は、前記蛍光体を有する膜状の発光体、12は励起光源としての面発光型GaN系LD、13は基板を表す。相互に接触した状態をつくるために、励起光源12のLDと蛍光体含有膜11とそれぞれ別個に作成し、それらの面同士を接着剤やその他の手段によって接触させても良いし、LD12の発光面上に蛍光体11を製膜(成型)させても良い。これらの結果、LD12と蛍光体11とを接触した状態とすることができる。
【0091】
本発明の発光装置は、励起光源と、波長変換材料として本発明の蛍光体を備え、該蛍光体が、励起光源の発する波長360nmから490nmの短波長の光を吸収して、使用環境によらず演色性が良く、かつ、高強度の可視光を発生させることのできる発光装置である。
【0092】
このような本発明の発光装置は、バックライト光源、信号機などの発光源、また、カラー液晶ディスプレイ等の画像表示装置や面発光等の照明装置等の光源に適している。画像表示装置としては、例えば、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)等が挙げられる。また、本発明の発光装置は、画像表示装置用のバックライトにも使用することができる。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
なお、以下の実施例1〜7および比較例1〜5において、製造された蛍光体の発光スペクトル、Sc23残留量、粒径は次のようにして求めた。
【0095】
(発光スペクトルの測定法)
日立製分光蛍光光度計F−4500を使用して、光源:キセノンランプ,励起光スリット:5.0nm,蛍光スリット:1.0nmの条件で測定した。蛍光スペクトル測定時の励起波長と励起スペクトル測定時の蛍光波長は、それぞれ励起スペクトルと蛍光スペクトルのピーク波長とした。また、447nm励起発光強度は、波長447nmの光で励起したときの各蛍光体の発光強度を、比較例5の蛍光体を100とする相対値で示した。
【0096】
(Sc23残留量)
粉末X線回折データよりSc23に帰属されるピークの強度を主生成相(CaScSi12)の強度と比較し、定性的に微量、少量、多量と分類した。
【0097】
(粒径)
走査型電子顕微鏡(SEM)写真から任意に選んだ10個の一次粒子について、各粒子の最大直径と最小直径の平均値を求め、その平均値を算出して一次粒径とした。
また、凝集粒子についても同様に算出し、凝集粒径とした。
【0098】
また、実施例3,6,9で得られた蛍光体、および実施例8の白色の前駆体の粉末X線回折パターンは、次のようにして求めた。
【0099】
(粉末X線回折パターンの測定法)
RIGAKU製RINT2000を使用して、X線源CuKα線、管球出力40kV−30mA、二倍角範囲10−90°、走査速度23.999°/分の条件で測定した。
【0100】
また、実施例8〜11で得られた蛍光体の蛍光スペクトルと励起スペクトルは、日本分光製測定装置を用いて次のようにして測定した。
【0101】
(発光スペクトルの測定法)
150Wキセノンランプの光を回折格子分光器で分光して455nmの光を取り出し、光ファイバーを用いてサンプルに照射した。蛍光体の発する光は、回折格子分光器で分光し、マルチチャンネル検出器(浜松フォトニクス製C7041)によって検出し、光源や検出器などの感度補正などの処理を行って発光スペクトルを得た。
【0102】
(励起スペクトルの測定法)
150Wキセノンランプの光を回折格子分光器で分光し、波長を走査させながら光ファイバーを用いてサンプルに照射し、回折格子分光器と光電子増倍管により特定の波長(455nm励起の発光スペクトルのピーク波長)の光を検出した。光源や検出器などの感度補正などの処理を行った後、走査させた波長に対して検出された発光強度をグラフ化して励起スペクトルを得た。
【0103】
<実施例1>
硝酸カルシウム(関東化学製、特級)と硝酸セリウムを水に溶解し、それぞれCa又はCeが1mol/L濃度の水溶液(以下では、それぞれ「Ca水溶液」、「Ce水溶液」と記す。)を調製した。
別に酸化スカンジウム(日本イットリウム製、純度99.99%)を硝酸(関東化学製、特級、濃度60%)に入れ、加熱して溶解し、余剰の硝酸を除去し、水を加えて、Scが1mol/L濃度の硝酸スカンジウム水溶液(以下、「Sc水溶液」と記す。)を調製した。
無水クエン酸(和光純薬製、特級)を水に溶解し、2mol/L濃度の水溶液(以下、「クエン酸水溶液」と記す。)を調製した。
【0104】
二酸化珪素(fumed silica,平均粒径7nm)5.41g、Ca水溶液89.1ml、Ce水溶液0.9ml、Sc水溶液60ml、クエン酸水溶液480mlをビーカーに入れた。これは、金属元素がCa:Ce:Sc:Si=2.97:0.03:2.00:3.00のモル比となるように各溶液等を混合し、さらに全金属元素の4倍モル数のクエン酸を加えたことになる。これを、80℃にて2時間加熱撹拌した。撹拌にはマグネチックスターラーを使用した。さらに、プロピレングリコール(関東化学製、特級、純度99%)70ml(クエン酸と等モル量)を加え、120℃にて、固化するまで(約36時間)加熱した。途中、溶液の粘性が高くなったため、マグネチックスターラーの撹拌子を取り出し、撹拌を中止し、加熱のみを行って固化させた。固化した物質は、透明薄茶色のゲルだった。
【0105】
得られたゲルをマントルヒーターで450℃に4時間加熱して有機物を熱分解して揮発させた。更にこの後500Paの減圧下で800℃まで3時間かけて加熱し、その温度で8時間の熱処理を行って、有機物を完全に除去し、白色の前駆体を得た。
【0106】
この前駆体0.5gを10mlサイズのアルミナるつぼに入れ、そのるつぼを黒鉛粉末を満たした50mlサイズのアルミナるつぼに埋め込んで蓋をし、電気炉(光洋サーモシステム社製、KDF−314N)で1400℃にて12時間の熱処理を行って、Ca3Sc2Si312:Ce3+蛍光体を得た。得られた蛍光体の製造条件と特性を表1にまとめた。
また、得られた蛍光体のSEM写真を図4(a),(b)に示した。
【0107】
<実施例2,3>
1400℃での熱処理時間をそれぞれ4時間、2時間に変更した以外は実施例1と同様の手順で、それぞれ実施例2,3の蛍光体を得た。
得られた蛍光体の製造条件と特性を表1にまとめた。
【0108】
<実施例4,5,6>
1400℃での熱処理を、前駆体をアルミナボートに載せて、電気炉内に置くことで、大気雰囲気で行ったこと以外は実施例1〜3と同様の手順で、それぞれ実施例4,5,6の蛍光体を得た。
得られた蛍光体の製造条件と特性を表1にまとめた。
【0109】
<実施例7>
1400℃での熱処理を、水素を4モル%含む窒素を流通した電気炉内で2時間行ったこと以外は実施例1と同様の手順で実施例7の蛍光体を得た。
得られた蛍光体の製造条件と特性を表1にまとめた。
【0110】
<比較例1〜5>
硝酸カルシウム(関東化学製、特級)6.959g(29.7mmol)、硝酸セリウム0.130g(0.3mmol)、酸化スカンジウム(日本イットリウム製、純度99.99%)1.379g(20.0mmol)、二酸化珪素(和光純薬製、平均粒径70nm)1.802g(30.0mmol)をメノウ乳鉢を用いて良く混合した。得られた混合物を光洋サーモシステム社製KDF75と真空ポンプを用いて、真空中、800℃で10時間熱処理した後、1000〜1400℃の温度で大気中で熱処理して比較例1〜5のCa3Sc2Si312:Ce3+蛍光体を得た。
【0111】
得られた蛍光体の製造条件と特性を表1にまとめた。
得られた蛍光体のうち、1200℃以下で熱処理されたものはCa3Sc2Si312が生成しておらず、熱処理温度1300℃と1400℃では、Ca3Sc2Si312が生成しているものの酸化スカンジウムが共存しており、1300℃ではその残留量がかなりの量であることがわかった。また、この方法では粒子同士の凝集が激しかった。
【0112】
【表1】

【0113】
なお、各例で得られた蛍光体のうち、実施例3,6で得られた蛍光体の粉末X線回折パターンを図5に示した。この図5において、Sc23はSc23の計算パターン(ICSD=202905より導出)であり、Ca3Sc2Si312はCa3Sc2Si312の計算パターン(ICSD=20214より導出)である。
また、実施例1〜6で得られた蛍光体の蛍光波長501nmの励起スペクトルを図6(a)〜(f)に、同励起波長447nmの蛍光スペクトルを図7(a)〜(f)に示した。
【0114】
<実施例8>
Ca水溶液49.5ml、Ce水溶液0.5ml、Sc水溶液100ml、クエン酸水溶液300mlをビーカーに入れた。これは、金属元素がCa:Ce:Sc=0.99:0.01:2.0のモル比となるように各溶液を混合し、さらに全金属元素の4倍モル数のクエン酸を加えたことになる。これを、80℃にて2時間加熱撹拌した。撹拌にはマグネチックスターラーを使用した。さらに、プロピレングリコール(関東化学製、特級、純度99%)43.89ml(クエン酸と等モル量)を加え、120℃で12時間加熱した。途中、溶液の粘性が高くなったため、マグネチックスターラーの撹拌子を取り出し、撹拌を中止し、加熱のみを行って固化させた。固化した物質は、透明薄茶色のゲルだった。
【0115】
得られたゲルをマントルヒーターで、500℃で4時間加熱して有機物を熱分解して揮発させた。これをアルミナるつぼに移し、500Paの減圧下、800℃で、8時間の熱処理を行って、有機物を完全に除去し、白色の前駆体を得た。
この白色の前駆体の粉末X線回折パターンを図8に示す。
【0116】
この前駆体0.5gを10mlサイズのアルミナるつぼに入れ、水素窒素混合ガス(水素と窒素の体積比率=4:96)雰囲気の電気炉で1200℃にて2時間の熱処理を行って、CaSc2:Ce3+蛍光体を得た。得られた蛍光体の製造条件と特性を表2にまとめた。
また、455nm励起の発光スペクトルと、その発光ピーク波長で発光を検出した励起スペクトルを図9と図10に示した。
【0117】
<実施例9>
白色の前駆体を得るまでの過程を実施例8と同様に行った。
この前駆体0.5gを10mlサイズのアルミナるつぼに入れ、大気雰囲気の電気炉で、1200℃にて2時間熱処理を行い、それをさらに水素窒素混合ガス(水素と窒素の比率=体積比4:96)雰囲気の電気炉で1200℃にて2時間の熱処理を行って、CaSc2:Ce3+蛍光体を得た。得られた蛍光体の製造条件と特性を表2にまとめた。
また、455nm励起の発光スペクトルと、その発光ピーク波長で発光を検出した励起スペクトルを図9と図10に示した。また、得られた蛍光体の粉末X線回折パターンを図8に示した。
【0118】
<実施例10>
白色の前駆体を得るまでの過程を実施例8と同様に行った。
この前駆体0.5gを10mlサイズのアルミナるつぼに入れ、水素窒素混合ガス(水素と窒素の比率=体積比4:96)雰囲気の電気炉で1400℃にて2時間の熱処理を行って、CaSc2:Ce3+蛍光体を得た。得られた蛍光体の製造条件と特性を表2にまとめた。
また、455nm励起の発光スペクトルと、その発光ピーク波長で発光を検出した励起スペクトルを図9と図10に示した。
【0119】
<実施例11>
白色の前駆体を得るまでの過程を実施例8と同様に行った。
この前駆体0.5gを10mlサイズのアルミナるつぼに入れ、大気雰囲気の電気炉で、1400℃にて2時間熱処理を行い、それをさらに水素窒素混合ガス(水素と窒素の比率=体積比4:96)雰囲気の電気炉で1400℃にて2時間の熱処理を行って、CaSc2:Ce3+蛍光体を得た。得られた蛍光体の製造条件と特性を表2にまとめた。
また、455nm励起の発光スペクトルと、その発光ピーク波長で発光を検出した励起スペクトルを図9と図10に示した。
【0120】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の製造方法で製造された蛍光体を用いた発光装置の実施の形態(砲弾型)を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の製造方法で製造された蛍光体を用いた発光装置を用いた面発光照明装置の一例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の製造方法で製造された蛍光体を用いた発光装置の他の実施の形態を示す模式的な斜視図である。
【図4】実施例1で得られた蛍光体のSEM写真である。
【図5】実施例3,6で得られた蛍光体の粉末X線回折パターンのチャートである。
【図6】(a)〜(f)は、それぞれ実施例1〜6で得られた蛍光体の蛍光波長501nmの励起スペクトルのチャートである。
【図7】(a)〜(f)は、それぞれ実施例1〜6で得られた蛍光体の蛍光波長447nmの蛍光スペクトルのチャートである。
【図8】実施例8で得られた白色の前駆体と実施例9で得られた蛍光体の粉末X線回折パターンのチャートである。
【図9】実施例8〜11で得られた蛍光体の波長455nm励起の発光スペクトルのチャートである。
【図10】実施例8〜11で得られた発光体の発光ピーク波長で発光を検出した励起スペクトルのチャートである。
【符号の説明】
【0122】
1;発光装置
2;マウントリード
3;インナーリード
4;励起光源
5;蛍光体含有樹脂部
6;導電性ワイヤー
7;モールド部材
8;面発光照明装置
9;拡散板
10;保持ケース
11;膜状の蛍光体(蛍光体含有膜)
12;面発光型GaN系LD
13;基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Scと、Sc以外の1種以上の金属元素とを含む、複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属酸窒化物、複合金属硫化物、または複合金属酸硫化物を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする複合金属化合物の製造方法。
a)少なくともSc化合物を含む2種以上の金属元素化合物と、ヒドロキシカルボン酸とを溶媒に溶解し、これらを反応させて金属錯体を生成させる工程
b)前記金属錯体が生成した液に多価アルコール化合物を加えて加熱することによりゲルを生成させる工程
c)生成したゲルを加熱することにより複合金属化合物前駆体を得る工程
d)前記複合金属化合物前駆体を熱処理する工程
【請求項2】
請求項1において、製造する複合金属化合物が、付活元素を含む蛍光体であることを特徴とする複合金属化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、製造する複合金属化合物が、下記式(1)で表される結晶を母体とする複合金属酸化物であることを特徴とする複合金属化合物の製造方法。
II3III2IV312 …(1)
(式(1)中、MIIは、2価の金属元素の1種又は2種以上を表し、MIIIは、3価の金属元素の1種又は2種以上を表し、その主成分としてScを含んでおり、MIVは、4価の金属元素の1種又は2種以上を表す。)
【請求項4】
請求項1または2において、製造する複合金属化合物が、下記式(2)で表される結晶を母体とする複合金属酸化物であることを特徴とする複合金属化合物の製造方法。
IIIII24 …(2)
(式(2)中、MIIは、2価の金属元素の1種又は2種以上を表し、MIIIは、3価の金属元素の1種又は2種以上を表し、その主成分としてScを含んでいる。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−332016(P2007−332016A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291057(P2006−291057)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月22日 粉体粉末冶金協会発行の「粉体粉末冶金協会講演概要集平成18年度春季大会」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】