説明

複屈折性フィルム、多環式化合物、コーティング液、及び画像表示装置

【課題】 本発明は、高温高湿環境下に長時間曝されてもクラックが生じ難い複屈折性フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の複屈折性フィルムは、分子構造中にアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体単位を含み且つ分子量が500以上であるリオトロピック液晶性の多環式化合物を主成分とするフィルムである。本発明の複屈折性フィルムは、好ましくは、屈折率楕円体がnx≧nz>nyの関係を示し、更に好ましくは、波長590nmにおける面内の複屈折率が0.01以上を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置の光学部材として好適な複屈折性フィルム、並びに、該複屈折性フィルムの形成材料などに使用される多環式化合物及びコーティング液等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、液晶分子の電気光学特性を利用して、文字や画像を表示する装置である。液晶表示装置などの画像表示装置に使用される光学部材としては、特定の偏光を取り出すことができる偏光素子や、所定の位相差をもたらす複屈折性フィルムが知られている。なお、偏光素子は、偏光子、偏光フィルムなどとも呼ばれる。複屈折性フィルムは、位相差フィルム、光学補償層などとも呼ばれる。
この複屈折性フィルムは、通常、ポリマーフィルム、液晶性化合物を含むフィルムなどが用いられている。
従来、リオトロピック液晶性化合物を用いた複屈折性フィルムが知られている。かかるリオトロピック液晶性化合物は、溶液状態で液晶相を示す。従って、前記液晶性化合物を含むコーティング液を液晶相に調製し、このコーティング液を適当な基材上に塗布し乾燥することによって、ポリマーフィルムに比して薄い塗膜(すなわち、薄い複屈折性フィルム)を形成することができる(特許文献1)。
【特許文献1】日本国特許公開2002−241434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記リオトロピック液晶性化合物を含むコーティング液から形成した塗膜は、高温環境下又は高温多湿環境下に於いて長時間保管した場合、クラックが発生するという問題があった。特に、複屈折性フィルムは、例えば車載用ディスプレイや液晶テレビなどの光学部材として使用される。かかる車載用ディスプレイなどは、比較的高温になり得る場所に設置される。従って、複屈折性フィルムには、高温環境下に曝されてもクラックなどが生じ難く、優れた耐久性が求められている。
【0004】
本発明の目的は、高温環境下又は高温高湿環境下に長時間曝されてもクラックが生じ難い複屈折性フィルムを提供することである。
また、本発明の他の目的は、上記複屈折性フィルムを形成するために用いることができる多環式化合物及びコーティング液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、分子構造中にアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体単位を含み且つ分子量が500以上であるリオトロピック液晶性の多環式化合物を含む複屈折性フィルムを提供する。
【0006】
上記本発明の複屈折性フィルムは、高温環境下又は高温高湿環境下に長時間曝されてもクラックが実質的に生じず、従って、耐久性に優れている。かかる複屈折性フィルムは、例えば、比較的高温になり得る場所に設置される画像表示装置用の光学部材として特に有用である。
【0007】
本発明の好ましい複屈折性フィルムは、上記多環式化合物が下記一般式(I)で表される化合物を含む。
【0008】
【化1】

【0009】
式(I)中、A、A、X及びXは、それぞれ独立して、−COOM、−SOM、−POM、−OH、又は−NHを表し、B、B、Y及びYは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、−OCOCH、−NHCOCH、−NO、−CF、−CN、−OCN、−SCN、−COOM、又は−CONHを表す。Mは、対イオンを表す。Zは、共有結合、−O(CO)1〜4−、−O−、−CO−O−(CH1〜4−O−CO−、−CO−NH−(CH1〜4−NH−CO−、−NH−CO−(CH1〜4−CO−NH−、又は炭素数1〜4のアルキル鎖を表す。k1、k2、l1及びl2は、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、m1、m2、n1及びn2は、それぞれ独立して、0〜6の整数であり、k1、k2、l1、l2、m1、m2、n1及びn2は、同時に0ではなく、k1、k2、n1及びn2の少なくともいずれか一つは、1以上である。
好ましくは、前記一般式(I)において、k1=k2、l1=l2、m1=m2、及びn1=n2である。
【0010】
上記式(I)の多環式化合物を含む複屈折性フィルムは、クラックが発生し難い上、透明性に優れている。さらに、該複屈折性フィルムは、面内の複屈折率(Δnxy)が高いため、比較的薄い厚みであっても所定の位相差値を有する。
【0011】
本発明の他の好ましい複屈折性フィルムは、波長590nmにおける透過率が85%以上である。
本発明の他の好ましい複屈折性フィルムは、屈折率楕円体がnx≧nz>nyの関係を示す。
本発明の他の好ましい複屈折性フィルムは、波長590nmにおける面内の複屈折率(Δnxy[590])が0.01以上である。
本発明の他の好ましい複屈折性フィルムは、厚みが10μm以下である。
【0012】
また、本発明は、分子構造中にアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体単位を含み、分子量が500以上であるリオトロピック液晶性の多環式化合物を提供する。
上記リオトロピック液晶性の多環式化合物としては、上記一般式(I)で表される多環式化合物が好ましい。
【0013】
本発明のリオトロピック液晶性の多環式化合物を製膜することにより、上記本発明の複屈折性フィルムを得ることができる。従って、本発明の多環式化合物は、クラックが生じ難い複屈折性フィルムの形成材料として特に有用である。
さらに、上記多環式化合物は、水溶性であるため、水系溶媒に溶解させることにより、コーティング液を調製することができる。
【0014】
本発明の好ましい多環式化合物は、アセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体を含む単量体を二量化反応させて得られたものである。
本発明の他の好ましい多環式化合物は、芳香族テトラアミン化合物とアセナフテンキノン誘導体とを反応させて得られたものである。
【0015】
さらに、本発明は、上記いずれかの多環式化合物と水とを含む液晶相を示すコーティング液を提供する。
かかるコーティング液を適当な基材上に塗布し、乾燥させることにより、上記複屈折性フィルムを簡単に製造することができる。このため、本発明のコーティング液は、クラックが生じ難い複屈折性フィルムの形成材料として特に有用である。
【0016】
本発明の好ましいコーティング液は、多環式化合物の濃度が5質量%〜40質量%である。
【0017】
また、本発明は、上記いずれかの複屈折性フィルムを備える画像表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複屈折性フィルムは、高温環境下又は高温高湿環境下に長時間曝されてもクラックが生じ難く、耐久性に優れている。従って、該複屈折性フィルムを備える画像表示装置は、例えば、車載用ディスプレイなどの高温になり得る場所に設置される用途に特に有用である。
また、本発明の多環式化合物及びコーティング液は、特に、高温等に対する耐久性に優れた複屈折性フィルムの形成材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<本発明の複屈折性フィルム及びリオトロピック液晶性の多環式化合物>
本発明の複屈折性フィルムは、分子構造中にアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体単位を含み且つ分子量が500以上であるリオトロピック液晶性の多環式化合物を含むフィルムである。
ここで、複屈折性フィルムとは、その面内及び/又は厚み方向に屈折率の異方性を有し、位相差を生じるフィルムを言う。
【0020】
上記多環式化合物は、高温環境下又は高温高湿環境下に於いて、複屈折性フィルムにクラックが実質的に生じないようにするため、分子量500以上の化合物が用いられる。分子量500以上の多環式化合物を用いることにより、複屈折性フィルムにクラックが生じ難い理由は、明確ではない。しかし、本発明者らは、この理由を、上記多環式化合物を用いることによりフィルムに柔軟性が付与されるためと推定する。
多環式化合物は、好ましくは分子量600以上であり、より好ましくは分子量800以上である。
一方、多環式化合物の分子量の上限は特に限定されない。もっとも、水溶性に優れ、安定な液晶相を発現し得ることから、上記多環式化合物は、好ましくは分子量1,500以下であり、より好ましくは1,400以下の化合物が用いられる。
【0021】
上記多環式化合物は、基本骨格としてアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体を含んでいる。アセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体は、好ましくは−SOM基及び−COOM基の少なくとも何れか一方を有する。ただし、前記Mは、対イオンを表す。
上記誘導体を含む多環式化合物を用いることにより、面内の複屈折率(Δnxy)の高い複屈折性フィルムを得ることができる。
【0022】
本発明の多環式化合物としては、下記一般式(I)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体が挙げられる。
【0023】
【化2】

【0024】
式(I)中、A、A、X及びXは、それぞれ独立して、−COOM、−SOM、−POM、−OH、又は−NHを表し、B、B、Y及びYは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、−OCOCH、−NHCOCH、−NO、−CF、−CN、−OCN、−SCN、−COOM、又は−CONHを表す。Mは、対イオンを表す。Zは、共有結合、−O(CO)1〜4−、−O−、−CO−O−(CH1〜4−O−CO−、−CO−NH−(CH1〜4−NH−CO−、−NH−CO−(CH1〜4−CO−NH−、又は炭素数1〜4のアルキル鎖を表す。添え字のk1、k2、l1、l2、m1、m2、n1及びn2は、それぞれ対応するA、A、B、B、Y、Y、X及びXの置換数を表す。k1、k2、l1及びl2は、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、m1、m2、n1及びn2は、それぞれ独立して、0〜6の整数であり、k1、k2、l1、l2、m1、m2、n1及びn2は、同時に0ではなく、k1、k2、n1及びn2の少なくともいずれか一つは、1以上である。
好ましくは、式(I)において、k1=k2、l1=l2、m1=m2、及びn1=n2であり、より好ましくは、式(I)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体は、二量体である。
【0025】
好ましくは、式(I)のA、A、X及びXは、それぞれ独立して、−COOM、−SOM、又は−POMであり、より好ましくは、−SOM、又は−COOMである。また、好ましくは、式(I)のA及びAの置換数k1及びk2は、0〜2であり、X及びXの置換数n1及びn2は、1〜4である。
また、好ましくは、式(I)のB、B、Y及びYは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。その置換数l1、l2、m1及びm2は、好ましくは、0〜2であり、より好ましくは、0〜1である。式(I)のl1、l2、m1及びm2のいずれかが0でない多環式化合物は、B、B、Y及びYのいずれかの置換基を有するが、これらの置換基を有していても、水溶性が低下せず且つリオトロピック液晶性を示し、耐久性に優れた複屈折性フィルムを形成できる。
【0026】
本発明の多環式化合物の好ましい1つの態様は、上記式(I)で表されるB及びB2の置換数l1及びl2が0の場合(無置換)である。このような多環式化合物は、下記式(II)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体である。
【0027】
【化3】

【0028】
式(II)中、A、A、X、X、Y、Y、Z、k1、k2、m1、m2、n1及びn2は、上記式(I)と同様である。また、式(II)中、k1、k2、m1、m2、n1及びn2は、同時に0ではなく、k1、k2、n1及びn2の少なくともいずれか一つは、1以上である。好ましくは、式(II)において、k1=k2、m1=m2、及びn1=n2であり、より好ましくは、式(II)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体は、二量体である。
好ましくは、式(II)のA、A、X及びXは、それぞれ独立して、−COOM、−SOM、又は−POMであり、より好ましくは、−SOM、又は−COOMである。また、好ましくは、式(II)のA及びAの置換数k1及びk2は、0〜2であり、X及びXの置換数n1及びn2は、1〜4である。
また、好ましくは、式(II)のY及びYは、それぞれ独立してハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、その置換数m1及びm2は、0〜2である。より好ましくは、m1及びm2は、0〜1である。
また、好ましくは、式(II)のZは、共有結合、−O(CO)1〜4−、又は−O−であり、より好ましくは、共有結合、又は−O−である。
【0029】
本発明の多環式化合物の好ましい1つの態様は、上記式(II)で表されるY及びYの置換数m1及びm2が、0の場合(無置換)である。このような多環式化合物は、下記式(III)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体である。
【0030】
【化4】

【0031】
式(III)中、A、A、X、X、Z、k1、k2、n1及びn2は、上記式(I)と同様である。式(III)中、k1、k2、n1及びn2は、同時に0ではなく、k1、k2、n1及びn2の少なくともいずれか一つは、1以上である。好ましくは、式(III)において、k1=k2、及びn1=n2であり、より好ましくは、式(III)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体は、二量体である。
好ましくは、式(III)のA、A、X及びXは、それぞれ独立して、−COOM、−SOM、又は−POMであり、より好ましくは、−SOM、又は−COOMである。また、好ましくは、式(III)のA及びAの置換数k1及びk2は、0〜2であり、X及びXの置換数n1及びn2は、1〜3である。
また、好ましくは、式(III)のZは、共有結合、−O(CO)1〜4−、又は−O−であり、より好ましくは、共有結合、又は−O−である。
【0032】
本発明の多環式化合物の好ましい1つの態様は、上記式(III)で表されるA及びAの置換数k1及びk2が、0の場合(無置換)である。このような多環式化合物は、下記式(IV)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体である。
【0033】
【化5】

【0034】
式(IV)中、X、X、Z、n1及びn2は、上記式(I)と同様である。式(IV)中、n1及びn2は、同時に0ではなく、n1及びn2の少なくともいずれかは、1以上である。好ましくは、式(IV)において、n1=n2であり、より好ましくは、式(IV)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体は、二量体である。
好ましくは、式(IV)のX及びXは、それぞれ独立して、−COOM、−SOM、又は−POMであり、より好ましくは、−SOM、又は−COOMである。また、好ましくは、式(IV)のX及びXの置換数n1及びn2は、1〜3であり、より好ましくは1〜2である。
また、好ましくは、式(IV)のZは、共有結合、−O(CO)1〜4−、又は−O−であり、より好ましくは、共有結合、又は−O−である。
【0035】
式(IV)のZが、共有結合である多環式化合物は、下記式(V)で表される。
【0036】
【化6】

【0037】
上記−COOM、−SOM又は−POMのMは、任意の対イオンを表す。このMは、好ましくは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、金属イオン、又は置換若しくは無置換のアンモニウムイオンである。上記金属イオンとしては、例えば、Ni2+、Fe3+、Cu2+、Ag、Zn2+、Al3+、Pd2+、Cd2+、Sn2+、Co2+、Mn2+、Ce3+等が挙げられる。
なお、例えば、複屈折性フィルムが多環式化合物を含む水溶液から形成される場合、上記Mは、水に対する溶解性を向上させる基を選択することが好ましい。かかる水溶解性を向上させる基が導入されたの多環式化合物は、水系溶媒に溶解し易い。この化合物の水溶液を基材に塗布し、製膜することにより、複屈折性フィルムを形成した後、耐水性を高めるために、前記水溶解性を向上させる基を水に不溶性又は難溶性の基に置換してもよい。
【0038】
上記式(I)〜(V)で表される多環式化合物は、例えば、下記合成例(a)または(b)に従い合成することができる。
1)合成例(a):二量化反応。
上記式(I)〜(V)で表される多環式化合物は、2つのアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体を、2つの反応性官能基を有する化合物と反応させることにより得ることができる。2つの反応性官能基を有する化合物としては、例えば、直鎖状のジアミン化合物を用いることができる。該ジアミン化合物としては、1,4−ジアミノブタンなどが挙げられる。アセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体としては、上記式(I)のX又は/及びYで表される置換基を有するアセナフト[1,2−b]キノキサリンなどが挙げられる。
【0039】
2)合成例(b):縮合反応。
上記式(I)〜(V)で表される多環式化合物は、芳香族テトラアミン化合物とアセナフテンキノン誘導体とを、脱水縮合させることにより得ることができる。
芳香族テトラアミン化合物としては、例えば、4つのNH基を有するベンジジンを用いることができる。該ベンジジンとしては、3,3’−ジアミノベンジジンが挙げられる。該芳香族テトラアミン化合物は、無置換でもよいし、上記式(I)のA又は/及びBで表される置換基で置換されていてもよい。
アセトナフテンキノン誘導体としては、無置換のアセトナフテンキノン、上記式(I)のX又は/及びYで表される置換基を有するアセナフテンキノンが挙げられる。
【0040】
また、上記合成例(a)及び(b)で得られた多環式化合物が、−SOM(Mは、上記と同じ対イオンを表す)を有しない場合、又は、該多環式化合物が−SOMを有するが、更にその数を増やしたい場合、必要に応じて、前記得られた多環式化合物をスルホン化してもよい。
スルホン化処理は、多環式化合物に、硫酸、発煙硫酸、又はクロロスルホン酸などを接触させることにより実施できる。
【0041】
上記多環式化合物は、好ましくは溶液状態で液晶相(すなわち、リオトロピック液晶)を示す化合物である。なお、この液晶相は、配向性に優れるという点で、好ましくは、ネマチック液晶相である。このネマチック液晶相は、超分子を形成し、その形成体がネマチック状態にあるものも含まれる。
【0042】
本発明の複屈折性フィルムは、例えば、上記多環式化合物を含む溶液を製膜することによって作製できる。上記多環式化合物を用いれば、該化合物を溶液状に調製し、その溶液からのソルベントキャスティング法により、高い面内複屈折率を有し、可視光の領域で吸収がないか又は小さい、透明な複屈折性フィルムを形成できる。なお、複屈折性フィルムの製造方法については、下記に詳述する。
【0043】
本発明の複屈折性フィルムは、溶液の塗布によって形成し得るので、薄型に形成できる。さらに、本発明の複屈折性フィルムは、屈折率楕円体がnx≧nz>ny(nx>nz>ny又はnx=nz>ny)の関係を満足し、且つ、高い面内の複屈折率を示す。このため、従来の複屈折性フィルムに比べて、本発明の複屈折性フィルムは、格段に薄い厚みで、所望の位相差値を有する。
なお、本明細書に於いて、「nx=nz」とは、nxとnzが完全に同一である場合だけでなく、実質的に同一である場合も含まれる。nxとnzが実質的に同一である場合とは、例えば、Rth[590]が−10nm〜10nmであり、好ましくは−5nm〜5nmである。
また、「nx」及び「ny」は、複屈折性フィルムの面内に於いて互いに直交する方向の屈折率を表し(但し、nx≧ny)、「nz」は、複屈折性フィルムの厚み方向の屈折率を表す。
【0044】
本発明者等は、上記複屈折性フィルムが、高い複屈折性を示す理由は、次のように推定する。すなわち、上記多環式化合物が、溶液中で、会合体を形成し易く、この会合体を形成した状態の秩序性が高いために、かかる溶液から形成されたフィルムも高い配向性を示すと考えられる。特に、−SOM基及び/又は−COOM基を有する上記多環式化合物は、より高い配向性を示すので好ましい。この−SOM基及び/又は−COOM基の作用の1つは、多環式化合物の水系溶媒に対する溶解性を向上させ、ソルベントキャスティング法による製膜を可能にすることであり、もう1つは、3次元的に屈折率を制御し、屈折率楕円体がnx≧nz>nyの関係を満足するフィルムを形成し得ることである。
【0045】
上記複屈折性フィルムの波長590nmにおける単体透過率は、好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。複屈折性フィルムの厚みは、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。また、複屈折性フィルムの厚みは、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。
【0046】
上記複屈折性フィルムの23℃で波長590nmにおける面内の複屈折率(Δnxy[590]=nx−ny)は、好ましくは0.01以上であり、さらに好ましくは0.05以上であり、特に好ましくは0.1以上である。同Δnxy[590]の上限は、好ましくは0.5以下である。なお、このΔnxy[590]は、多環式化合物の分子構造により、上記範囲に、適宜、調整することができる。特に、−SOM基及び/又は−COOM基を有する多環式化合物を用いることによって、このような特性を満足する複屈折性フィルムを形成できる。
【0047】
上記複屈折性フィルムの波長590nmにおける面内の位相差値(Re[590])は、目的に応じて、適切な値に設定され得る。上記Re[590]は、10nm以上であり、好ましくは20nm〜300nmである。なお、面内の位相差値(Re[λ])は、23℃で波長λ(nm)における複屈折性フィルムの面内の位相差値をいう。Re[λ]は、複屈折性フィルムの厚みをd(nm)としたとき、Re[λ]=(nx−ny)×dによって求めることができる。
【0048】
上記複屈折性フィルムのRth[590]は、屈折率楕円体がnx≧nz>nyの関係を満足する範囲で、適切な値に設定され得る。複屈折性フィルムの波長590nmにおける面内の位相差値(Re[590])と厚み方向の位相差値(Rth[590])との差(Re[590]−Rth[590])は、好ましくは10nm〜200nmであり、さらに好ましくは20nm〜200nmである。なお、厚み方向の位相差値(Rth[λ])は、23℃で波長λ(nm)における複屈折性フィルムの厚み方向の位相差値をいう。Rth[λ]は、複屈折性フィルムの厚みをd(nm)としたとき、Rth[λ]=(nx−nz)×dによって求めることができる。
【0049】
上記複屈折性フィルムのNz係数は、好ましくは0〜0.9であり、さらに好ましくは0〜0.8であり、特に好ましくは0.1〜0.7である。Nz係数が上記の範囲であれば、複屈折性フィルムは、様々な駆動モードの液晶セルの光学補償に利用することができる。なお、Nz係数とは、Rth[590]/Re[590]から算出される値である。
【0050】
また、上記複屈折性フィルムの波長分散値(D)は、好ましくは1.05以上であり、さらに好ましくは1.06〜1.15である。なお、波長分散値(D)は、式;D=Re[480]/Re[550]から算出される値である。ポリマーフィルムを延伸して作製した従来の複屈折性フィルムは、このような急峻な波長依存性を示すフィルムは得られていなかった。本発明の複屈折性フィルムは、短波長の光で測定した位相差値が、長波長の光で測定した位相差値よりも十分に大きく、急峻な位相差の波長依存性を示すのである。
なお、上記各数値は、下記実施例の測定法に従って測定された数値である。
【0051】
<本発明の複屈折性フィルムの製造方法及びコーティング液>
本発明の複屈折性フィルムは、上記多環式化合物を含むコーティング液(多環式化合物を含む溶液)を、適当な基材上に、塗布し、乾燥することにより得ることができる。具体的には、複屈折性フィルムの製法は、下記工程A〜Gを有する。
工程A:上記多環式化合物を得る工程。
工程B:上記多環式化合物を水系溶媒に溶解させてコーティング液を調製する工程。
工程C:少なくとも塗布面が親水性を有する基材を準備する工程。
工程D:上記基材の塗布面に、コーティング液を塗布し、塗膜を形成する工程。
工程F:上記塗膜を乾燥する工程。
工程G:上記乾燥させた塗膜の表面に、アルミニウム塩、バリウム塩、鉛塩、クロム塩、ストロンチウム塩、及び分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物塩を含む溶液を接触させる工程。
【0052】
(工程A)
工程Aは、上記多環式化合物を合成する工程である。その方法については、上記合成例(a)及び合成例(b)並びに下記実施例の記載を参照されたい。
【0053】
(工程B)
工程Bは、コーティング液を調製する工程である。
上記多環式化合物は、水系溶媒に溶解し得る。該水系溶媒としては、好ましくは水を用いることができる。
前記水の電気伝導率は、好ましくは20μS/cm以下(下限値は0μS/cm)、より好ましくは0.001μS/cm〜10μS/cmであり、特に好ましくは0.01μS/cm〜5μS/cmである。水の電気伝導率を上記の範囲とするコーティング液を用いることにより、厚みバラツキが小さく、耐久性に優れた複屈折性フィルムが作製され得る。なお、前記電気伝導率は、溶液電導率計(京都電子工業(株)、製品名:CM−117)を用いて測定できる。
また、水系溶媒は、水に加えて、その他の溶媒が含まれていてもよい。該他の溶媒としては、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、セロソルブ類などが挙げられる。これら他の溶媒は、単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0054】
コーティング液は、水などの水系溶媒に、上記多環式化合物の1種または構造の異なる2種以上を溶解させることによって得ることができる。該コーティング液に於ける多環式化合物の濃度は、特に限定されない。前記多環式化合物の濃度は、溶液中に於いて多環式化合物が安定なネマチック液晶相を示すことから、好ましくは5質量%〜40質量%であり、より好ましくは5質量%〜30質量%であり、特に好ましくは5質量%〜20質量%である。なお、ネマチック液晶相は、偏光顕微鏡で観察される液晶相の光学模様によって、確認、識別することができる。
また、上記コーティング液は、好ましくはpH4〜10程度、更に好ましくはpH6〜8程度に調整される。
【0055】
さらに、コーティング液には、添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤、相溶化剤、架橋剤、および増粘剤などが挙げられる。これら添加剤の添加量は、好ましくは、コーティング液100質量部に対して、0を超え10質量部以下である。
【0056】
また、コーティング液には、界面活性剤が添加されていてもよい。界面活性剤は、多環式化合物の基材表面へのぬれ性や塗布性を向上させるために使用される。界面活性剤は、好ましくは、非イオン界面活性剤が用いられる。該界面活性剤の添加量は、好ましくは、コーティング液100質量部に対して、0を超え5質量部以下である。
【0057】
(工程C)
工程Cは、少なくとも塗布面が親水性を有する基材を準備する工程である。
基材は、上記コーティング液を均一に展開するために用いられる。該基材としては、コーティング液を均一に展開できれば特に限定されない。もっとも、水溶性のコーティング液を塗布することから、塗布面(コーティング液が塗布される基材の表面)が親水性を有する基材が好ましい。
【0058】
上記基材は、例えば、ポリマーフィルム(フィルムとは、一般にシートと言われるものを含む意味である)、ガラス板などを用いることができる。好ましい実施形態においては、基材は、単独のポリマーフィルムであり、好ましい他の実施形態においては、ポリマーフィルムを含む積層体である。このポリマーフィルムを含む積層体は、好ましくはポリマーフィルムに配向膜をさらに含む。
【0059】
上記ポリマーフィルムとしては、特に限定されないが、透明性に優れているフィルムが好ましい(例えば、ヘイズ値5%以下)。
ポリマーフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系;ポリカーボネート系;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系;塩化ビニル系;ナイロン、芳香族ポリアミド等のアミド系;ポリイミドなどのイミド系;ポリエーテルスルホン系;ポリエーテルエーテルケトン系;ポリフェニレンスルフィド系;ビニルアルコール系;塩化ビニリデン系;ビニルブチラール系;アクリレート系;ポリオキシメチレン系;エポキシ系などのポリマーから形成されたフィルムが挙げられる。また、前記ポリマーフィルムは、これらのポリマーを2種以上を含む混合物から形成されたフィルム等でもよい。また、前記ポリマーフィルムは、2以上のポリマーフィルムの積層体でもよい。
これらポリマーフィルムは、好ましくは延伸された延伸フィルムが用いられる。
【0060】
上記基材の厚みは、強度等に応じて適宜に設計しうるが、一般的には薄型軽量化の観点から、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。
【0061】
上記基材が配向膜を含む場合、この配向膜は、好ましくは配向処理を施して形成される。前記配向処理としては、ラビング処理などの機械的配向処理、光配向処理などの化学的配向処理等が挙げられる。
機械的配向処理は、基材の一面(または基材の一面に形成された適宜な塗膜の一面)に、布などで一方向にラビングすることにより実施できる。これにより、基材の一面に配向膜を形成できる。また、延伸処理を施した延伸フィルムを用いることもできる。ラビング処理などを行う塗膜は、特に限定されず、上記基材用のポリマーフィルムとして例示した上記ポリマーなどを用いることができる。配向膜は、液晶性化合物の配向効率の点から、好ましくはイミド系ポリマーである。
【0062】
化学的配向処理は、基材の一面に、配向剤を含む光配向膜を形成し、該光配向膜に光を照射することにより実施できる。これにより、基材に配向膜を形成できる。配向剤としては、例えば、光異性化反応、光開閉環反応、光二量化反応、光分解反応及び光フリース転移反応などの光化学反応を生じる光反応性官能基を有するポリマーなどが挙げられる。上記光配向膜は、配向剤を適用な溶媒に溶解させて溶液状にし、これを基材に塗布することによって形成できる。
【0063】
上記基材の塗布面(コーティング液が塗布される基材の表面)の親水性が低い場合には、必要に応じて、この塗布面に親水化処理が施される。
上記親水化処理は、例えば、塗布面の23℃における水の接触角を、好ましくは5°〜60°とする処理であり、さらに好ましくは5°〜50°とする処理であり、特に好ましくは5°〜45°とする処理である。基材の塗布面に於ける水の接触角を上記範囲とすることによって、面内の複屈折率が高く、且つ、厚みバラツキが小さい複屈折性フィルムが作製され得る。
【0064】
上記親水化処理としては、任意の適切な方法が採用され得る。上記親水化処理としては、例えば、乾式処理でもよく、湿式処理でもよい。乾式処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理及びグロー放電処理などの放電処理;火炎処理;オゾン処理;UVオゾン処理;紫外線処理及び電子線処理などの電離活性線処理;などが挙げられる。湿式処理としては、例えば、水やアセトンなどの溶媒を用いた超音波処理、アルカリ処理、アンカーコート処理などが挙げられる。これらの処理は、1種単独で、又は、2種以上を組み合わせてもよい。
好ましくは、上記親水化処理は、コロナ処理、プラズマ処理、アルカリ処理、又はアンカーコート処理である。
【0065】
上記コロナ処理は、代表的には、コロナ放電内へ基材を通過させることによって、その表面を改質する処理である。上記プラズマ処理は、代表的には、低温プラズマ内へ基材を通過させることによって、その表面を改質する処理である。上記超音波処理は、代表的には、水や有機溶媒中に基材を浸漬させて超音波をあてることにより、その表面の汚染物を除去し、ぬれ性を改善する処理である。上記アルカリ処理は、代表的には、塩基性物質を水又は有機溶剤に溶解させたアルカリ処理液に、基材を浸漬することによって、その表面を改質する処理である。上記アンカーコート処理は、代表的には、基材の塗布面にアンカーコート剤を塗布する処理である。
【0066】
なお、工程A〜工程Cを行う順序は、特に限定されず、例えば、工程Cを先に実施した後、工程Bのコーティング液を調製してもよい。
【0067】
(工程D)
工程Dは、上記基材の塗布面に、コーティング液を塗布し、多環式化合物を含む塗膜を形成する工程である。
上記コーティング液は、基材の塗布面に塗布される。これにより、多環式化合物を含む塗膜が基材上に形成される。該塗膜の厚みは、特に限定されないが、通常、1μm〜100μmである。
【0068】
コーティング液の塗布方法としては、例えば、適切なコータを用いた塗布方法が採用され得る。該コータとしては、例えば、リバースロールコータ、正回転ロールコータ、グラビアコータ、ロッドコータ、スロットダイコータ、スロットオリフィスコータ、カーテンコータ、ファウンテンコータなどが挙げられる。
【0069】
(工程F)
工程Fは、工程Dにおいて形成した塗膜を乾燥する工程である。
工程Dにおいて形成した多環式化合物を含む塗膜は、適宜、適切な方法によって乾燥される。乾燥は、例えば、熱風又は冷風が循環する空気循環式恒温オーブン、マイクロ波もしくは遠赤外線などを利用したヒーター、温度調節用に加熱されたロール、加熱されたヒートパイプロール、加熱された金属ベルトなどを用いて行うことができる。
乾燥温度は、溶液の等方相転移温度以下であり、低温から高温へ徐々に昇温させることが好ましい。前記乾燥温度は、好ましくは10℃〜80℃であり、さらに好ましくは20℃〜60℃である。かかる温度範囲であれば耐久性に優れた複屈折性フィルムが作製され得る。
【0070】
乾燥させる時間は、乾燥温度や溶媒の種類によって、適宜、選択され得る。耐久性に優れた複屈折性フィルムを得るためには、乾燥時間は、例えば1分〜30分であり、好ましくは1分〜10分である。
得られた複屈折性フィルムの残存溶媒量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下である。
乾燥後の塗膜は、位相差を示し、乾燥後の塗膜が、本発明の複屈折性フィルムとなる。
【0071】
(工程G)
工程Gは、上記乾燥後の塗膜の表面(基材に接着した面と反対面)に、耐水性を付与する工程である。
具体的には、上記工程Fで形成された乾燥後の塗膜の表面に、アルミニウム塩、バリウム塩、鉛塩、クロム塩、ストロンチウム塩、及び分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物塩を含む溶液を接触させる。
【0072】
上記化合物塩としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化バリウム、塩化鉛、塩化クロム、塩化ストロンチウム、4,4’−テトラメチルジアミノジフェニルメタン塩酸塩、2,2’−ジピリジル塩酸塩、4,4’−ジピリジル塩酸塩、メラミン塩酸塩、テトラアミノピリミジン塩酸塩などが挙げられる。このような化合物塩の層を塗膜表面に形成することにより、塗膜の表面を水に対して不溶化又は難溶化させることができる。よって、多環式化合物を含む塗膜に、耐水性を付与できる。
【0073】
上記化合物塩を含む溶液に於いて、その化合物塩の濃度は、好ましくは3質量%〜40質量%であり、より好ましくは5質量%〜30質量%である。
上記乾燥させた塗膜の表面に、上記化合物塩を含む溶液を接触させる方法としては、例えば、該塗膜の表面に上記化合物塩を含む溶液を塗布する方法、該塗膜を上記化合物塩を含む溶液に浸漬する方法などが採用され得る。これらの方法を採用する場合、塗膜の表面は、水又は任意の溶剤で洗浄した後、乾燥しておくことが好ましい。
【0074】
<本発明の複屈折性フィルムなどの用途>
本発明の複屈折性フィルムの用途は、特に制限はないが、代表的には、液晶表示装置の光学部材(λ/4板、λ/2板、視野角拡大フィルムなど)として用いられる。
【0075】
1つの実施形態において、本発明の複屈折性フィルムは、これに偏光子を積層して、偏光板の態様で用いることができる。
上記偏光板は、本発明の複屈折性フィルムと偏光子とを少なくとも備える。この偏光板は、他の光学積層体、他の複屈折性フィルム、任意の保護層などを含んでいてもよい。実用的には、上記偏光板の、各層の間には、任意の適切な接着層が設けられ、各層が貼着される。
【0076】
偏光子は、自然光又は偏光を直線偏光に変換する機能を有する光学部材である。偏光子は、任意の適切なものが採用され得る。偏光子としては、好ましくは、ヨウ素又は二色性染料を含有するポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする延伸フィルムが用いられる。上記偏光子の厚みは、通常、5μm〜50μmである。
【0077】
上記接着層は、隣り合う部材の面と面とを接合し、実用上十分な接着力と接着時間で、一体化させるものであれば、任意の適切なものが選択され得る。上記接着層を形成する材料としては、例えば、接着剤、粘着剤、アンカーコート剤が挙げられる。上記接着層は、被着体の表面にアンカーコート剤層が形成され、その上に接着剤層または粘着剤層が形成されたような多層構造であってもよいし、肉眼的に認知できないような薄い層(ヘアーラインともいう)であってもよい。偏光子の一方の側に配置された接着層と他方の側に配置された接着層は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0078】
また、本発明の複屈折性フィルム及び該複屈折性フィルムを含む光学フィルムは、各種画像表示装置の光学部材として使用できる。
本発明の画像表示装置は、液晶表示装置の他、有機ELディスプレイ、及びプラズマディスプレイ等が含まれる。画像表示装置の好ましい用途はテレビ(特に、画面サイズ40インチ以上の大型テレビ)である。画像表示装置が液晶表示装置の場合には、その好ましい用途は、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機などのOA機器;携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機などの携帯機器;ビデオカメラ、電子レンジなどの家庭用電気機器;バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオなどの車載用機器;商業店舗用インフオメーション用モニターなどの展示機器;監視用モニターなどの警備機器;介護用モニター、医療用モニターなどの介護・医療機器等である。
【実施例】
【0079】
以下、実施例および比較例を示して、本発明を更に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いた各測定方法は、以下の通りである。
(1)厚みの測定方法:
厚みの測定は、三次元非接触表面形状計測システム((株)菱化システム製、製品名:「Micromap MM5200」)を用い、塗膜の一部を剥離し、塗膜(複屈折性フィルム)と基材(ガラス板)の段差を測定し、これを厚みとした。
(2)nx、ny、nz及びRe[590]、Rth[590]、Nz係数の測定方法:
王子計測機器(株)製、商品名「KOBRA21−ADH」を用いて、23℃で測定した。なお、平均屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ(株)製、製品名:「DR−M4」)を用いて測定した値を用いた。
(3)単体透過率の測定方法:
分光光度計[村上色彩技術研究所(株)製、製品名「DOT−3」]を用いて、23℃の条件で測定した。なお、単体透過率の測定値は、波長550nmを基準とした。
単体透過率は、JlS Z 8701−1995の2度視野に基づく、三刺激値のY値である。
【0080】
[合成例1]
攪拌機を備えた反応容器に、50gのジメチルホルムアミドと、2.0gの3,3’−ジアミノベンジジンとを加え、15分間攪拌した。これにアセナフテンキノン−2−スルホン酸とアセナフテンキノン−3−スルホン酸の混合物(質量比で等量)を5.87g添加し、室温にて24時間攪拌して反応させた(下記反応式(VI))。反応終了後、53.4gのジメチルホルムアミドをさらに加えて希釈し、酢酸エチルを用いて再結晶を行った。得られた固形分をろ過後、24時間真空乾燥させた。収率は、86.1%であった。精製物の赤外分光スペクトルを測定したところ、原料であるアセナフテンキノンのピーク(1739cm−1,1713cm−1)は消失しており、反応が完結していることが確認できた。
得られた精製物は、下記式(VI)に表される[9,9’]ビ[アセナフト[1,2−b]キノキサリニル]ジスルホン化物であり、その分子量は、遊離酸として666.7である。
【0081】
【化7】

【0082】
[実施例]
上記合成例1で得られた、5gの[9,9’]ビ[アセナフト[1,2−b]キノキサリニル]ジスルホン化物を、200mlのイオン交換水に溶解させた。得られた水溶液を、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液でpH=7まで中和した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて、[9,9’]ビ[アセナフト[1,2−b]キノキサリニル]ジスルホン化物の濃度が10.1質量%となるまで濃縮することによって、コーティング液を調製した。ここで、このコーティング液を偏光顕微鏡観察すると、23℃でネマチック液晶相を示していた。
【0083】
一方、ガラス板(松浪ガラス工業(株)製、厚み1.3mm)の両面を、超音波洗浄器を用いて洗浄した。該超音波洗浄は、最初アセトン中で3分間、その後イオン交換水中で5分間行った。
【0084】
上記コーティング液を、上記ガラス板の配向膜の表面に、バーコータ(BUSCHMAN社製、商品名:「mayer rot HS1.5」)を用いて塗布し、23℃の恒温室内で自然乾燥させて、ガラス板上に厚み280nmの複屈折性フィルム(塗膜)を作製した。さらに、この複屈折性フィルムを20質量%の塩化バリウム水溶液に浸漬し、イオン交換水で濯いで、複屈折性フィルムに不溶化処理を施した。
【0085】
上記複屈折性フィルムは、屈折率楕円体がnx>nz>nyの関係を示し、各種光学的特性は、下記の通りであった。
波長590nmにおける単体透過率=91%。
波長590nmにおける面内の複屈折率(Δnxy[590])=0.3。
Nz係数(Rth[590]/Re[590])=0.21。
波長590nmにおける面内の位相差値(Re[590])=84nm。
波長590nmにおける厚み方向の位相差値(Rth[590])=17nm。
【0086】
この複屈折性フィルムのサンプルを2枚用意した。そのうち1枚を90℃の恒温乾燥器内に入れ、残る1枚を90℃/60%RHの恒温恒湿乾燥器内に入れ、それぞれ220時間保管し、耐熱性試験及び耐湿性試験を行った。
試験後の複屈折性フィルムの表面を偏光顕微鏡観察したところ、クラックは観察されなかった。図1に、実施例に係る複屈折性フィルムの観察写真画像を示す。
【0087】
[合成例2]
下記反応式(VII)に表すように、300gのアセナフト[1,2−b]キノキサリンに、30%発煙硫酸(2.1L)を加えて24時間室温で攪拌後、130℃に加熱し、32時間攪拌し、反応させた。得られた溶液を40℃〜50℃に保ちながら、4.5Lのイオン交換水を加えて希釈し、さらに3時間攪拌した。沈殿物をろ過し、硫酸で再結晶を行い、1Lのアセトンで3回洗浄を行った後、ろ過し、60℃で12時間真空乾燥を行い、アセナフト[1,2−b]キノキサリン−2,5−ジスルホン酸を得た。
【0088】
【化8】

【0089】
[合成例3]
下記反応式(VIII)に表すように、300gのアセナフト[1,2−b]キノキサリンに、30%発煙硫酸(2.1L)を加えて室温で48時間攪拌し、反応させた。得られた溶液を40℃〜50℃に保ちながら、4.5Lのイオン交換水を加えて希釈し、さらに3時間攪拌した。沈殿物をろ過し、1Lのアセトンで3回洗浄を行った後、ろ過し、60℃で12時間真空乾燥を行い、アセナフト[1,2−b]キノキサリン−2−スルホン酸を得た。
【0090】
【化9】

【0091】
[比較例]
合成例2で得られたアセナフト[1,2−b]キノキサリン−2,5−ジスルホン酸を52gと、合成例3で得られたアセナフト[1,2−b]キノキサリン−2−スルホン酸を28gと、を混合し、これを780mlのイオン交換水に溶解させた。
得られた水溶液を5%の水酸化ナトリウム水溶液でpH=7.1まで中和したのち、ロータリーエバポレーターを用いて25質量%まで濃縮し、コーティング液を調製した。
【0092】
このコーティング液を、上記実施例と同様の方法で塗布し、乾燥することにより、複屈折性フィルムを作製し、該フィルムについて、同様に、耐熱性試験及び耐湿性試験を行った。
試験後の複屈折性フィルムを偏光顕微鏡観察したところ、細かなクラックが全体的に観察された。図1に、比較例に係る複屈折性フィルムの観察写真画像を示す。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】実施例及び比較例の複屈折性フィルムの試験後の表面写真図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造中にアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体単位を含み且つ分子量が500以上であるリオトロピック液晶性の多環式化合物を含む、複屈折性フィルム。
【請求項2】
前記多環式化合物が、下記一般式(I)で表される化合物を含む請求項1に記載の複屈折性フィルム。
【化1】

ただし、式(I)中、A、A、X及びXは、それぞれ独立して、−COOM、−SOM、−POM、−OH、又は−NHを表し、B、B、Y及びYは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、−OCOCH、−NHCOCH、−NO、−CF、−CN、−OCN、−SCN、−COOM、又は−CONHを表す。Mは、対イオンを表す。Zは、共有結合、−O(CO)1〜4−、−O−、−CO−O−(CH1〜4−O−CO−、−CO−NH−(CH1〜4−NH−CO−、−NH−CO−(CH1〜4−CO−NH−、又は炭素数1〜4のアルキル鎖を表す。k1、k2、l1及びl2は、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、m1、m2、n1及びn2は、それぞれ独立して、0〜6の整数であり、k1、k2、l1、l2、m1、m2、n1及びn2は、同時に0ではなく、k1、k2、n1及びn2の少なくともいずれか一つは、1以上である。
【請求項3】
前記一般式(I)において、k1=k2、l1=l2、m1=m2、及びn1=n2である請求項2に記載の複屈折性フィルム。
【請求項4】
波長590nmにおける透過率が、85%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の複屈折性フィルム。
【請求項5】
屈折率楕円体が、nx≧nz>nyの関係を示す請求項1〜4のいずれかに記載の複屈折性フィルム。
【請求項6】
波長590nmにおける面内の複屈折率(Δnxy[590])が、0.01以上である請求項1〜5のいずれかに記載の複屈折性フィルム。
【請求項7】
厚みが10μm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の複屈折性フィルム。
【請求項8】
分子構造中にアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体単位を含み、分子量が500以上であるリオトロピック液晶性の多環式化合物。
【請求項9】
下記一般式(I)で表される請求項8に記載の多環式化合物。
【化2】

ただし、式(I)中、A、A、X及びXは、それぞれ独立して、−COOM、−SOM、−POM、−OH、又は−NHを表し、B、B、Y及びYは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、−OCOCH、−NHCOCH、−NO、−CF、−CN、−OCN、−SCN、−COOM、又は−CONHを表す。Mは、対イオンを表す。Zは、共有結合、−O(CO)1〜4−、−O−、−CO−O−(CH1〜4−O−CO−、−CO−NH−(CH1〜4−NH−CO−、−NH−CO−(CH1〜4−CO−NH−、又は炭素数1〜4のアルキル鎖を表す。k1、k2、l1及びl2は、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、m1、m2、n1及びn2は、それぞれ独立して、0〜6の整数であり、k1、k2、l1、l2、m1、m2、n1及びn2は、同時に0ではなく、k1、k2、n1及びn2の少なくともいずれか一つは、1以上である。
【請求項10】
アセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体を含む単量体を二量化反応させて得られたものである請求項9に記載の多環式化合物。
【請求項11】
芳香族テトラアミン化合物とアセナフテンキノン誘導体とを反応させて得られたものである請求項9に記載の多環式化合物。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の多環式化合物と水とを含み、液晶相を示すコーティング液。
【請求項13】
前記多環式化合物の濃度が、5質量%〜40質量%である請求項12に記載のコーティング液。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれかに記載の複屈折性フィルムを備える画像表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−262156(P2008−262156A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305481(P2007−305481)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】