説明

複屈折測定装置、および複屈折測定方法

【課題】小型な構成で迅速に被測定物に係る複屈折を測定可能な技術を提供する。
【解決手段】電場の振動方向が設定されている第1偏光を出射する光源部と、第1偏光における電場の振動方向を順次に変更する偏光制御部と、第1偏光を収束後に拡がる第2偏光に変換する光学素子と、第2偏光が被測定物に照射される際に該被測定物から射出される光に基づいて、電場の振動方向が一方向である第3偏光を生成する偏光子と、第3偏光における光の強度分布を検知する検知部と、第1偏光における電場の各振動方向に応じて検知部で順次に検知された複数の光の強度分布に基づき被測定物に係る複屈折の情報を得る取得部と、を備える複屈折測定装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物における複屈折を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、いわゆる複屈折と呼ばれる現象を生じさせる物質が知られている。複屈折は、或る物質を光が透過する際に、その光の各偏光方向(電場ベクトルの方向に相当する)に対する屈折率が異なるために、1つの光線が或る物質を透過すると2つの光線に分かれる現象である。
【0003】
この複屈折を生じさせる物質は、例えば、方解石および液晶等のように、光学素子に利用される場合が多い。また、光学素子の基板およびパッケージの各材料等として、複屈折を生じさせる樹脂材料が用いられる場合も多い。なお、複屈折を生じさせる樹脂製の光学素子としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)およびトリアセチルセルロース(TAC)からなるフィルム等が挙げられる。
【0004】
ここで、複屈折の特徴について説明する。
【0005】
複屈折を生じさせる物質には、如何なる偏光方向を有する光が入射されても、複屈折が生じない光の入射角があり、そのときの光の入射方向に沿った軸が光学軸と称される。また、複屈折を生じさせる物質には、1つの光学軸を有する結晶(一軸性結晶とも言う)からなる物質と、2つの光学軸を有する結晶(二軸性結晶とも言う)からなる物質とが含まれる。
【0006】
一軸性結晶からなる物質では、光学軸と光の入射方向(入射方向ベクトルとも言う)とが成す平面に対して垂直な方向の電束密度ベクトルを有する光と、該平面内において電束密度ベクトルを有する光とが、異なる屈折率を感じることで、複屈折が生じる。一方、二軸性結晶からなる物質では、2つの光学軸が成す平面に垂直で且つ光の入射方向ベクトルが通る平面に対して垂直な方向の電束密度ベクトルを有する光と、該平面内において電束密度ベクトルを有する光とが、異なる屈折率を感じることで、複屈折が生じる。
【0007】
このような複屈折を有する物質(複屈折物質とも言う)における複屈折を表す指標として、例えば、図23で示されるような屈折率楕円体が用いられる。屈折率楕円体は、複屈折物質における光の入射方向に対する屈折率の大きさを示したものである。図23では、z軸が光学軸である一軸性結晶からなる物質についての屈折率楕円体500IEが一例として示されている。
【0008】
ここで、図24で示されるように、複屈折物質に対して或る方向sから光が入射する場合を想定する。このとき、屈折率楕円体の中心を通り且つ方向sに垂直な平面と屈折率楕円体との交線である楕円500Eの長軸に沿った方向(長軸方向とも言う)に電束密度ベクトルD1を有する光が、複屈折物質において電束密度ベクトルD1の大きさに相当する屈折率を感じる。また、楕円500Eの短軸に沿った方向(短軸方向とも言う)に電束密度ベクトルD2を有する光が、複屈折物質において電束密度ベクトルD2の大きさに相当する屈折率を感じる。なお、楕円500Eの長軸と短軸は主軸と総称され、主軸の方向(主軸方向とも言う)における屈折率は、主屈折率と称される。
【0009】
一方、複屈折を有さない物質(非複屈折物質とも言う)に係る屈折率楕円体は真球の形状を示す。ここで、非複屈折物質に対して或る方向sから光が入射する場合を想定する。このとき、如何なる入射方向の光についても、屈折率楕円体の中心を通り且つ方向sに垂直な平面と屈折率楕円体との交線は、常に真円になる。つまり、如何なる入射方向および如何なる偏光方向を有する光であっても、感じる屈折率が一定となる。よって、非複屈折物質が光学素子に採用される場合、その光学素子に係る光学的な設計および屈折率の測定が比較的容易である。
【0010】
これに対して、上述したように、複屈折物質に係る屈折率楕円体は楕円体であり、複屈折物質に対して或る方向sから光が入射する場合には、屈折率楕円体の中心を通り且つ方向sに垂直な平面と屈折率楕円体との交線が楕円となる。このため、光の入射方向および偏光方向によって、複屈折物質において光が感じる屈折率が異なる。更に、例えば、複屈折物質で基板が作製されると、この複屈折物質に係る屈折率楕円体は、基板に対して水平または垂直といった特定の方向に対して傾き得る。この場合、例えば、レンズおよび/またはミラー等が用いられて、基板の一主面の法線方向に対して或る角度を成す入射方向を有する光が入射されても、基板が、その法線方向を軸として回転されると、光が感じる屈折率が変わる。つまり、基板の光学的な特性が変化する現象が起こる。
【0011】
従って、複屈折物質が光学素子に採用される場合、その複屈折物質に係る屈折率楕円体の情報、つまり、光の様々な入射角度に応じた屈折率の情報を把握することは、光学素子の光学的な設計に対して非常に重要である。それゆえ、複屈折物質について光の様々な入射角度に応じた屈折率を測定すること、すなわち複屈折を測定することは非常に重要である。
【0012】
この複屈折物質における複屈折を測定する方法としては、例えば、被測定物の測定面の鉛直方向に対して角度を持った測定光を入射し、透過した測定光の位相差から複屈折率を算出する技術が提案されている(例えば、特許文献1等)。この技術では、複屈折を測定するために、被測定物に対して、あらゆる角度から測定光を入射する必要がある。このため、測定面の鉛直方向に対して測定光の入射角が変化自在となるように、測定光を出射する光源に対して可動機構が設けられており、被測定物が設置されるステージが、測定面の鉛直方向を中心軸として回転自在となっている。更に、ディテクター側の構成も光源とともに測定面の鉛直方向に対して配設角度が変化自在となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−76120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、可動部分が多く、被測定物に係る複屈折を測定する装置の大型化を招き得る。また、可動機構によって測定光の入射角が順次に変化されつつ被測定物に係る複屈折が測定されるため、この測定に長時間を要する。なお、ステージと共に被測定物が回転されるため、被測定物が破損する虞もある。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、小型な構成で迅速に被測定物に係る複屈折を測定可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、第1の態様に係る複屈折測定装置は、電場の振動方向が設定されている第1偏光を出射する光源部と、前記第1偏光における前記電場の振動方向を順次に変更する偏光制御部と、前記第1偏光を収束後に拡がる第2偏光に変換する光学素子と、前記第2偏光が被測定物に照射される際に該被測定物から射出される光に基づいて、電場の振動方向が一方向である第3偏光を生成する偏光子と、前記第3偏光における光の強度分布を検知する検知部と、前記第1偏光における各前記電場の振動方向に応じて前記検知部で順次に検知された複数の前記光の強度分布に基づき前記被測定物に係る複屈折の情報を得る取得部と、を備える。
【0017】
第2の態様に係る複屈折測定装置は、第1の態様に係る複屈折測定装置であって、前記光源部が、電場の振動方向が既知である偏光を発する光源と、前記偏光制御部による制御によって、前記光源から発せられる偏光における電場の振動方向を回転させることで該電場の振動方向が順次に変更される前記第1偏光を生成する旋光子と、を有する。
【0018】
第3の態様に係る複屈折測定装置は、第2の態様に係る複屈折測定装置であって、前記光源から発せられる偏光が、直線偏光であるレーザー光線を含む。
【0019】
第4の態様に係る複屈折測定装置は、第2の態様に係る複屈折測定装置であって、前記光源から発せられる偏光が、軸対称偏光レーザー光線を含む。
【0020】
第5の態様に係る複屈折測定装置は、第1から第4の何れか1つの態様に係る複屈折測定装置であって、前記被測定物から射出される光を平行光に変換する変換素子、を更に備え、前記偏光子が、前記変換素子から射出される前記平行光から前記第3偏光を生成する。
【0021】
第6の態様に係る複屈折測定方法は、(a)電場の振動方向が設定されている第1偏光を光源部から出射する工程と、(b)光学素子が前記第1偏光を収束後に拡がる第2偏光に変換する工程と、(c)前記第2偏光が被測定物に照射される際に該被測定物から射出される光に基づいて偏光子が電場の振動方向が一方向である第3偏光を生成する工程と、(d)検知部が前記第3偏光における光の強度分布を検知する工程と、(e)偏光制御部が前記第1偏光における電場の振動方向を変更する工程と、(f)前記工程(e)において前記第1偏光における電場の振動方向が変更される度に前記工程(b)〜(d)を行う工程と、(g)各前記工程(d)において前記第1偏光における各前記電場の振動方向に応じて前記検知部によって順次に検知された複数の前記光の強度分布に基づき前記被測定物に係る複屈折の情報を得る工程と、を備える。
【発明の効果】
【0022】
第1から第5の何れの態様に係る複屈折測定装置によっても、光の入射角度を順次に変化させる必要がないため、小型な構成で迅速に被測定物に係る複屈折が測定され得る。
【0023】
第2の態様に係る複屈折測定装置によれば、光源を可動機構によって回転させる必要がないため、より小型な構成で更に迅速に被測定物に係る複屈折が測定され得る。
【0024】
第3の態様に係る複屈折測定装置によれば、光源の構成が簡略化される。
【0025】
第4の態様に係る複屈折測定装置によれば、被測定物に照射される直前の偏光の状態が容易に把握可能であるため、容易に被測定物に係る複屈折が測定され得る。
【0026】
第5の態様に係る複屈折測定装置によれば、演算および構成の少なくとも一方の簡略化が図られる。
【0027】
第6の態様に係る複屈折測定方法によれば、光の入射角度を順次に変化させる必要がないため、小型な構成で迅速に被測定物に係る複屈折が測定され得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一実施形態に係る複屈折測定装置の構成例を示す図である。
【図2】光学素子による光の集光態様を例示する図である。
【図3】複屈折による光線の分離によって受光面上において光線の照射位置の差が生じる様子を示す模式図である。
【図4】複屈折で分離した光線の受光面上における照射位置の差と入射角との関係を示す図である。
【図5】被測定物に対する入射角の変化に応じて受光面における照射位置がシフトする様子を示す模式図である。
【図6】被測定物に対する入射角と受光面における照射位置との関係を示す図である。
【図7】被測定物に対する入射角と受光面における照射位置との関係を示す図である。
【図8】情報処理部の機能的な構成を示すブロック図である。
【図9】制御部で実現される機能的な構成を示すブロック図である。
【図10】主軸と偏光方向との関係を示す図である。
【図11】複屈折による偏光の変換について示す図である。
【図12】主軸と被測定物から射出される楕円偏光と偏光子から射出される直線偏光との関係を示す図である。
【図13】主軸と照射光の偏光方向とu軸とv軸との関係を示す図である。
【図14】u軸方向の電場の成分における最大値の求め方を示す図である。
【図15】v軸方向の電場の成分における最大値の求め方を示す図である。
【図16】偏光子への入射前後における楕円偏光と直線偏光との関係を示す図である。
【図17】偏光子への入射前後における楕円偏光と直線偏光との関係を示す図である。
【図18】偏光子から射出される直線偏光の電場の成分の時間変化を示す図である。
【図19】受光部が受光する光の強度の時間変化を例示する図である。
【図20】複屈折測定装置の動作フローを示すフローチャートである。
【図21】軸対称偏光レーザー光線における偏光態様を例示する図である。
【図22】軸対称偏光レーザー光線における偏光態様を例示する図である。
【図23】屈折率楕円体を例示する図である。
【図24】入射光に応じた複屈折を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図面においては同様な構成および機能を有する部分については同じ符号が付されており、下記説明では重複説明が省略される。また、図面は模式的に示されたものであり、各図における各種構造のサイズおよび位置関係等は正確に図示されたものではない。更に、図2と図3と図5には、載置部13上に載置および固定されている被測定物13obの上下面(両主面)がXY平面に平行となるように右手系のXYZ座標系が付されている。
【0030】
<(1)複屈折測定装置の構成>
図1は、一実施形態に係る複屈折測定装置1の構成例を示す図である。複屈折測定装置1は、被測定物13obにおける複屈折を測定するための装置であり、主に、情報取得部10と情報処理部20とを備えている。
【0031】
<(1−1)情報取得部10の構成>
情報取得部10は、光源部11、光学素子12、載置部13、光学素子14、偏光子15、および受光部16を備えている。
【0032】
<(1−1−1)光源部11>
光源部11は、光源111と旋光子112とを備えている。
【0033】
光源111は、電場の振動方向が既知である偏光PL0を発する。この光源111は、例えば、He-Neレーザー等で構成され、直線偏光である単色のレーザー光としての偏光PL0を出射する。この偏光PL0に係る光波の進行方向とその電場あるいは磁界の振動方向とを含む面(偏光面とも言う)は、事前に、光源111の設計によって決められても良いし、射出されるレーザー光の測定によって求められても良い。本実施形態では、説明の複雑化を避ける目的で、偏光面が、光波の進行方向とその電場の振動方向とを含む面であるものとして説明する。
【0034】
なお、光源111では、コリメータレンズによって単色のレーザー光がいわゆる平行光である偏光PL0となって出射される。平行光では、光の進行方向に垂直な平面において光線が通る領域のサイズが、光の進行方向に沿った位置(つまり、光の進行方向に沿った光源111からの離隔距離)に拘わらず略一定となる。
【0035】
旋光子112は、情報処理部20からの信号に応じて、光源111から発せられた偏光PL0における電場の振動方向を回転させる。これにより、電場の振動方向が順次に変更された偏光PL1が生成される。この旋光子112は、例えば、いわゆるファラデー回転子等の素子によって構成される。
【0036】
なお、ファラデー回転子は、ファラデー効果を用いた素子である。ファラデー効果は、ある物質に磁場をかけて、磁場と平行な方向に進む光を、その物質に入射すると、光の偏光面が回転するという現象である。そして、ファラデー効果によって偏光面が回転する度合いを示す旋光度(回転角)α(単位は度(deg))は、物質に印加される磁場の強さH(単位はエルステッド(Oe))と、物質中を光が通過する長さl(単位はセンチメートル(cm))と、旋光の大きさを表す指標であるベルデ定数V(単位はdeg/[Oe・cm])とによって、下式(1)で示される。
【0037】
α=V×H×l ・・・(1)。
【0038】
上式(1)において磁場の強さHが変更されることで、所定の回転方向に旋光度αが連続的に変化する。なお、本実施形態では、旋光度αが変化する所定の回転方向が、ファラデー回転子の入射側から射出側を見て、時計回りの方向であるものとして説明する。
【0039】
旋光子112では、例えば、電場の強さHを変更するための電磁石が設けられており、この電磁石に流れる電流が制御されることで、磁場の強さHが変更される。そして、旋光子112では、情報処理部20からの信号に応じて、電磁石に流れる電流が制御されることで、偏光PL0における電場の振動方向が回転され、この電場の振動方向が順次に変更される。これにより、電場の振動方向が順次に変更された第1偏光としての偏光PL1が生成される。
【0040】
このように、光源部11は、光源111と旋光子112とによって、電場の振動方向が設定されている偏光PL1を出射する。そして、この偏光PL1における電場の振動方向は、旋光子112の働きによって順次に変更される。そして、旋光子112では、例えば、旋光度αが、0°から179°まで所定角度(例えば1°)ずつ変更される。
【0041】
<(1−1−2)光学素子12>
光学素子12は、平行光である偏光PL1を、収束させた後に拡がる第2偏光としての偏光PL2に変換する。つまり、偏光PL2は、進めば進むほど収束して行き、略一点に一旦集光した後に、進めば進むほど拡がっていく。光学素子12は、いわゆる正のパワーを有する光学レンズ等によって構成されれば良く、この光学レンズと同じ機能を有するものであれば、回折格子等によって構成されたものであっても良い。
【0042】
図2は、光学素子12による集光態様を例示する図である。ここでは、被測定物13obは、互いに略平行な一主面(ここでは上面)および他主面(ここでは下面)を有する平板状またはシート状のものである。また、被測定物13obの一主面および他主面がXY平面と平行であり、一主面および他主面の法線に沿って偏光PL2が進行する。換言すれば、光学素子12の光軸が、被測定物13obの一主面および他主面の法線Ppと略一致する。つまり、法線Ppは、Z軸に平行であり、偏光PL2の光束の中心線と一致する。
【0043】
そして、図2で示されるように、光学素子12によって、偏光PL2の局所的な進行方向が法線Ppに対して様々な角度を成す。このため、被測定物13obに対して、様々な角度から偏光PL2が入射される。詳細には、偏光PL2を構成する直線偏光の進行方向と法線Ppとが成す角(入射角とも言う)θINが、0〜θINmaxの全範囲をカバーする。つまり、偏光PL2によって、0〜θINmaxの全範囲にわたる入射角θINを有する偏光PL2が被測定物13obに対して同時に入射される。すなわち、進行方向が法線Ppを基準としてXY平面に向けた全方位の0〜θINmaxの範囲の角度で傾けられた直線偏光が、被測定物13obに対して同時に入射される。
【0044】
また、偏光PL2は、被測定物13obの表面近傍で略一点に集光され、その後、拡がっていく。なお、入射角θINの最大値θINmaxは、例えば、80°等の90°に近い角度に設定される。80°程度の入射角θINが実現されるためには、例えば、光学素子12、載置部13、および光学素子14といった各部を水中に浸す手段(いわゆる液浸)が採用されれば良い。
【0045】
<(1−1−3)載置部13>
載置部13は、被測定物13obが載置され、この被測定物13obが保持される。被測定物13obは、例えば、透明な基板および透明なシート等であるとともに、複屈折を生じさせる数mm以下の厚さを有するものであれば良い。また、図2で示されるように、載置部13は、光軸Ppの近傍において、光軸Ppに沿って貫通する孔部が設けられている。ここで、被測定物13obが複屈折を生じる物質からなる場合、偏光PL2が被測定物13obを透過する際に、複屈折によって位相差が生じる。具体的には、直線偏光である偏光PL2が、被測定物13obにおける複屈折によって楕円偏光である偏光PL3となって、被測定物13obから射出される。
【0046】
<(1−1−4)光学素子14>
光学素子14は、被測定物13obから射出される偏光PL3を平行光である偏光PL4に変換する。この光学素子14は、例えば、正のパワーを有する光学レンズ等によって構成されれば良く、この光学レンズと同じ機能を有するものであれば、回折格子によって構成されたものであっても良い。
【0047】
<(1−1−5)偏光子15>
偏光子15は、光学素子14から射出される平行光としての偏光PL4から電場の振動方向が一方向である第3偏光としての偏光PL5を生成する。例えば、偏光子15では、楕円偏光としての偏光PL4のうちの一方向に係る電場の成分が透過されることで抽出され、電場の振動方向が一方向である直線偏光としての偏光PL5が生成される。
【0048】
<(1−1−6)受光部16>
受光部16は、偏光子15で生成された偏光PL5における光の強度分布を検知する。この受光部16は、例えば、多数のフォトディテクタが平面上においてマトリックス状(または放射状)に配列されたCCD(Charge Coupled Device)センサを有していれば良い。この受光部16によれば、種々の角度で被測定物13obに照射される偏光PL2に応じてこの被測定物13obから射出される光の強度がそれぞれ検知される。
【0049】
受光部16では、1つのフォトディテクタが、1つの角度で被測定物13obに照射される偏光PL2に応じて被測定物13obから射出される光の強度を検知する。各フォトディテクタで検知される光の強度と、被測定物13obに対して偏光PL2が照射される角度(照射角度とも言う)との関係は、情報取得部10の構造に係る設計によって決定可能である。ここで、照射角度は、法線Ppを基準としてXY平面に向けた全方位の0〜θINmaxの範囲で傾けられた角度であり、例えば、法線Ppを基準としてX軸側へ傾けられた角度とY軸側へ傾けられた角度とが合成された角度として表現される。また、光の強度分布に係る信号は、例えば、受光部16においてデジタル信号に変換されて、情報処理部20に対して出力される。
【0050】
なお、例えば、各フォトディテクタにおける光電変換で得られる信号と光の強度との関係が予め設定され、各フォトディテクタに係るデジタル信号が直接的に光の強度を示す情報に対応している態様が考えられる。また、情報処理部20において、各フォトディテクタにおける光電変換で得られる信号と光の強度との関係に基づいて、各フォトディテクタに係るデジタル信号から光の強度を示す情報が得られても良い。
【0051】
CCDセンサに係る各種サイズについては、例えば、多数のフォトディテクタが配列される部分(受光面とも言う)が、直径が40mmである円形の領域を包含し、隣接するフォトディテクタの中心間の距離(すなわちフォトディテクタの配列周期)が200〜300μm程度であれば良い。このようなサイズであれば良い理由について、以下説明する。
【0052】
図3で示されるように、ある方向から被測定物13obに対して光線が入射されると、被測定物13obにおいて複屈折によって光線が2つに分かれる場合を想定する。ここでは、例えば、被測定物13obが、1mmの厚さを有するとともに、2つに分かれる光線がそれぞれ感じる屈折率n1,n2がn1=1.6584およびn2=1.4864の条件を有し、且つ被測定物13obの素材が方解石であるものとする。
【0053】
このとき、被測定物13obで分かれた2つの光線が、CCDセンサの受光面上で距離Pdif離れた位置に照射される。この距離Pdif(位置差とも言う)は、被測定物13obに対する光線の入射角θINに応じて変化する。具体的には、入射角θINと位置差Pdifとの関係は、図4の太線で描かれた曲線で示されるようなものとなる。図4で示されるように、入射角θINが80°以下であれば、位置差Pdifは約150μm以下となる。このため、例えば、フォトディテクタの配列に係るピッチが200μm以上であれば、光線が2つに分かれても、2つの光線が同一のフォトディテクタに照射される。
【0054】
また、図5で示されるように、被測定物13obに入射した光線が受光面にそれぞれ照射される位置(照射位置とも言う)は、入射角θINに応じて変化する。具体的には、入射角θINと照射位置との関係は、図6および図7で描かれた複数のプロットで示されるようなものとなる。図6および図7では、入射角θINの最大値θINmaxが80°である場合に照射位置が受光面の中心(ここでは、光軸Ppと一致する位置)から20mmシフトした位置となる条件で、0〜80°の範囲内における5°ごとの入射角θINと、受光面の中心を基準とした照射位置までの距離(照射位置のシフト量とも言う)との関係が示されている。
【0055】
図6および図7で示されるように、入射角θINが小さければ小さい程、入射角θINの差に対する照射位置のシフト量の差は小さく、5°の入射角θINの変化に対する照射位置のシフト量の変化の最小値は300μmよりも若干大きな値となる。このため、例えば、5°刻みの入射角θINに対して複屈折がそれぞれ測定される場合、フォトディテクタの配列周期が300μm以下であれば、5°ごとの各入射角に係る光線に他の入射角の光線が重畳して1つのフォトディテクタに対して入射されない。
【0056】
以上の観点から、CCDセンサに係る各種サイズについては、例えば、受光面が、直径が40mmである円形の領域を包含し、隣接するフォトディテクタの中心間の距離(すなわちフォトディテクタの配列周期)が200〜300μm程度であれば良い。
【0057】
また、受光部16は、情報処理部20から所定の信号が入力される度に、偏光PL5における光の強度分布を検知し、その光の強度分布を示す情報を情報処理部20に対して出力する。
【0058】
<(1−2)情報処理部20の機能的な構成>
図8は、情報処理部20の機能的な構成を示すブロック図である。図8で示されるように、情報処理部20は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)で構成され、操作部21、表示部22、インターフェース(I/F)部23、記憶部24、入出力部25、および制御部26を備える。
【0059】
操作部21は、マウスやキーボード等を含む。表示部22は、液晶ディスプレイ等を備えて構成される。I/F部23は、通信回線3aを介して光源部11に対して信号SMFを送信するとともに、通信回線3bを介して受光部16から光の強度分布に係る信号SIDを受信する。
【0060】
記憶部24は、例えばハードディスク等で構成され、受光部16で得られた光の強度分布に係る情報を記憶する。ここで、光の強度分布に係る情報は、各フォトディテクタのアドレスと光の強度を示すデータとが関連付けられた状態で記憶部24に記憶される。なお、後述する偏光制御部261と記憶制御部263との働きによって、偏光PL1の電場の各振動方向ごとに、光の強度分布に係る情報が記憶部24に記憶される。また、記憶部24には、複屈折に係る情報を得る処理(複屈折情報取得処理とも言う)を実行するためのプログラムPG等が格納される。
【0061】
入出力部25は、例えばディスクドライブを備えて構成され、光ディスク等の記憶媒体9を受け付け、制御部26との間で各種データの授受を行う。
【0062】
制御部26は、プロセッサーとして働くCPU26aと、情報を一時的に記憶するメモリ26bとを有し、情報処理部20の各部を統括的に制御する。また、制御部26では、記憶部24内のプログラムPGが読み込まれて実行されることで、複屈折情報取得処理に係る各種機能や各種情報処理等が実現される。なお、記憶媒体9に記憶されているプログラムおよび/またはデータを入出力部25を介してメモリ26b等に格納させることも可能である。
【0063】
図9は、制御部26で実現される複屈折情報取得処理に係る機能的な構成を示すブロック図である。ここでは、制御部26の機能的な構成が、プログラムPGの実行によって実現されるものとして説明しているが、専用のハードウエアによって実現されても良い。
【0064】
図9で示されるように、制御部26は、機能的な構成として、光源制御部260、偏光制御部261、情報受付部262、記憶制御部263、および特性情報取得部264を有する。以下、各部260〜264について順次に説明する。
【0065】
光源制御部260は、光源111からの偏光PL0の射出を制御する。例えば、光源制御部260によって、光源111から偏光PL0が射出される期間の開始および終了が制御される。
【0066】
偏光制御部261は、旋光子112に対して、旋光子112における電場の強さHを変更するための信号を出力する。これにより、偏光制御部261における制御に応じて、旋光子112によって偏光PL1の電場の振動方向が順次に変更される。ここで、偏光制御部261から旋光子112に対して出力される信号は、旋光子112による旋光度αと旋光子112によって生成される偏光PL1の電場の振動方向とに対応する。また、偏光制御部261は、偏光PL1の電場の振動方向に係る情報を記憶制御部263に対して出力する。
【0067】
ここでは、旋光子112による所定の回転方向における旋光度αを示す情報が、偏光PL1の電場の振動方向(すなわち偏光面)に係る情報として、記憶制御部263に対して出力されれば良い。なお、例えば、偏光PL0の偏光面が基準の偏光面(基準偏光面とも言う)であれば、所定の回転方向における旋光度αが、基準偏光面と偏光PL1の偏光面との成す角度となる。換言すれば、所定の回転方向における旋光度αが、旋光子112において偏光面が回転される角度(偏光回転角度とも言う)に相当する。
【0068】
また、偏光制御部261は、偏光回転角度が変更されたことを示す信号を受光部16に出力する。このとき、受光部16は、偏光回転角度が変更されたことを示す信号を受け取る度に、偏光PL5における光の強度分布を検知して、その光の強度分布を示す情報を情報受付部262に対して出力する。
【0069】
情報受付部262は、受光部16で検知された光の強度分布に係る情報を受け付ける。具体的には、情報受付部262は、各偏光回転角度に対応する光の強度分布を示す情報を受け付ける。そして、情報受付部262は、光の強度分布を示す情報を記憶制御部263に出力する。
【0070】
記憶制御部263は、偏光制御部261から偏光回転角度に係る情報を得るとともに、情報受付部262から各偏光回転角度に対応する光の強度分布を示す情報を得る。そして、記憶制御部263は、偏光回転角度ごとに、偏光回転角度と光の強度分布を示す情報とを関連付けて記憶部24に記憶する。なお、光の強度分布については、例えば、各フォトディテクタによって検知された光の強度を示す情報が、該フォトディテクタに照射される偏光PL5の素となる偏光PL2が被測定物13obに照射される角度(照射角度)を示す情報と関連付けられて記憶される。
【0071】
特性情報取得部264は、記憶部24に記憶された光の強度分布を示す情報に基づいて被測定物13obで生じる複屈折の情報を得る。なお、ここでは、記憶部24には、偏光PL1における電場の各振動方向に応じて受光部16によって順次に検知された複数の光の強度分布が記憶されている。
【0072】
具体的には、特性情報取得部264では、演算によって、照射角度ごとに、被測定物13obで生じる複屈折の主軸と、複屈折の程度の大きさを示す位相差とが求められる。この複屈折の主軸には、光の進む速度が相対的に速い(位相が進む)方位に相当する軸(いわゆる進相軸)と、光の進む速度が相対的に遅い(位相が遅れる)方位に相当する軸(いわゆる遅相軸)とが含まれる。
【0073】
以下、主軸の求め方と位相差の求め方とについて順次に説明する。
【0074】
なお、被測定物13obで生じる複屈折は、被測定物13obを透過する前後の偏光の偏光状態が比較されることで求められる。このため、被測定物13obに照射される前の偏光PL2について、被測定物13obに照射される各方向(すなわち各照射角度)に係る偏光の状態が予め把握されていなければならない。
【0075】
しかしながら、直線偏光である偏光PL1の偏光方向と光学素子12による光の屈折との関係に起因して、偏光PL2において電場の振幅のばらつきが生じる。この問題に対し、電場の振幅のばらつきは、光学素子12の屈折率の設計から予め把握可能である。また、光学素子14による電場の振幅の変化も設計から予め把握可能である。そこで、特性情報取得部264では、予め把握された光学素子12,14等における電場の振幅の変化に応じた補正を含む演算が実行されれば良い。
【0076】
但し、以下で説明する主軸の求め方と位相差の求め方とについては、説明の複雑化を避けるために、電場の振幅の変化を踏まえた演算については省略する。
【0077】
<(1−3)主軸の求め方>
被測定物13obが複屈折を生じさせ、この被測定物13obに直線偏光が照射される場合を想定する。この被測定物13obでは、偏光方向(電場ベクトルの方向とも言う)が一の方向である直線偏光(一の直線偏光とも言う)と、偏光方向が一の方向と一の直線偏光の進行方向とに対して直交する他の方向である直線偏光(他の直線偏光とも言う)との間で、直線偏光が感じる屈折率が異なる。
【0078】
ここでは、一の方向が一方の主軸の方向(x軸方向とも言う)とされるとともに、他の方向が他方の主軸の方向(y軸方向とも言う)とされる。また、被測定物13obに照射される偏光PL2の偏光方向(偏光面)とx軸とが成す角がθ、偏光子15が透過させる電場の振動方向(すなわち偏光PL5の偏光方向)とx軸とが成す角がφとされる。図10は、被測定物13obで生じる複屈折の主軸と偏光PL2の偏光方向と偏光PL5の偏光方向との関係を示す図である。図10では、偏光PL2の偏光方向が太線の矢印で示されており、偏光PL5の偏光方向が太い破線の矢印で示されている。
【0079】
このとき、偏光PL2の電場に係る角周波数がω、時刻がtで表されれば、偏光PL2の電場ベクトルは、下式(2),(3)で示される。なお、下式(2),(3)のうちのA,Bは、振幅の絶対値がI0とされると、下式(4),(5)で示される。
【0080】
x=A×sin(ωt) ・・・(2)
y=B×sin(ωt) ・・・(3)
A=I0×cosθ ・・・(4)
B=I0×sinθ ・・・(5)。
【0081】
偏光PL2が被測定物13obを通過する際に、偏光PL2の偏光方向がx軸方向であれば偏光PL2が感じる屈折率がn1、偏光PL2の偏光方向がy軸方向であれば偏光PL2が感じる屈折率がn2、偏光PL2が被測定物13ob内を通過する距離がd、偏光PL2の波長がλであれば、被測定物13obから射出される偏光PL3の電場ベクトルは、下式(6),(7)で示される。なお、下式(6),(7)のうちのδ1,δ2は、下式(8),(9)で示される。
【0082】
x=A×sin(ωt−δ1) ・・・(6)
y=B×sin(ωt−δ2) ・・・(7)
δ1=−(2π/λ)×n1×d ・・・(8)
δ2=−(2π/λ)×n2×d ・・・(9)。
【0083】
また、上式(6)〜(9)から下式(10),(11)が導出される。ここでは、時刻tに関するωtが相殺されている。
【0084】
(x/A)2+(y/B)2−2{(x×y)/(A×B)}×cosδ=sin2δ ・・・(10)
δ=δ1−δ2=(2π/λ)×(n1−n2)×d ・・・(11)。
【0085】
上式(10),(11)では、δは、偏光PL2が被測定物13obを通過する際に異なる屈折率n1,n2を感じることで生じる位相差を示している。また、上式(10),(11)は、一般的な楕円を示す式となっている。このため、直線偏光である偏光PL2が、被測定物13obを通過する際に生じる複屈折によって、楕円偏光PL3に変換され、この楕円偏光PL3が被測定物13obから射出される。
【0086】
つまり、電場ベクトルの先端がxy平面に投影された場合に図10の太線矢印で描かれた線分を示す直線偏光PL2から、電場ベクトルの先端がxy平面に投影された場合に図11の太線で描かれた楕円を示す楕円偏光PL3に変換される。
【0087】
次に、被測定物13obから射出される偏光PL3が、光学素子14および偏光子15を順次に介して生成される偏光PL5が、受光部16(具体的には各フォトディテクタ)で如何なる強度で検知されるのかについて説明する。
【0088】
まず、偏光子15を透過する光の電場の成分における振動方向がu軸の方向とされ、このu軸と光の進行方向とに直交する方向がv軸とされる。図12は、被測定物13obにおける複屈折の主軸を示すxy軸と、被測定物13obから射出される偏光PL3の電場ベクトルの先端が描く軌跡(太い楕円)と、uv軸と、偏光子15を透過する光の電場の成分における振動方向(太い破線の矢印)とを示す図である。
【0089】
このとき、xy軸とuv軸とは、下式(12),(13)の関係を有する。
【0090】
x=u×cosφ−v×sinφ ・・・(12)
y=u×sinφ+v×cosφ ・・・(13)。
【0091】
上式(12),(13)が、上式(10)に代入されると、下式(14)が導出される。
【0092】
【数1】

【0093】
上式(14)は、偏光PL3,PL4の電場ベクトルを示す式に相当する。そして、ここで、上式(14)で示される偏光PL4の電場の成分のうちのu軸方向の電場の成分が、偏光子15を透過する。
【0094】
ここで、偏光PL4におけるu軸方向の電場の成分が最大となる時刻が0とされ、その時のu軸方向の電場の成分(すなわち電場の強度である電場ベクトル)がImとされる場合を考える。このとき、偏光子15を透過する電場の成分Iと時刻τとの関係が下式(15)で示され、フォトディテクタが検知する光の強度Pと時刻τとの関係が下式(16)で示される。但し、時刻τは、下式(17)の関係を有する。
【0095】
I=Im×cos(τ) ・・・(15)
P=Im2×cos2(τ) ・・・(16)
τ=ω×t ・・・(17)。
【0096】
更に、受光部16の各フォトディテクタによって検知される光の強度は、u軸方向における電場の成分の2乗の平均値となる。そして、各フォトディテクタによって検知される光の強度Paveは、下式(18)で示されるように、各フォトディテクタによって検知される光の強度Pの時間経過に伴う平均値(時間平均値とも言う)となる。
【0097】
【数2】

【0098】
ここで、仮に、主軸の方向と偏光PL2の偏光方向とが一致している場合を想定する。
【0099】
まず、図13で示されるように、一方の主軸の方向であるx軸方向と偏光PL2の偏光方向(太線矢印)とが一致する場合(θ=0の場合)を想定する。この場合、(2)〜(5)のθに0が代入されると、下式(19),(20)が導出される。
【0100】
x=A×sin(ωt) ・・・(19)
A=I0 ・・・(20)。
【0101】
また、x軸方向と偏光PL2の偏光方向とが一致していれば、図14で示されるように、u軸方向の電場の成分の最大値Imは、下式(21)で示される。
【0102】
m=I0cosφ ・・・(21)。
【0103】
そして、このとき、上式(18)と上式(21)とから、下式(22)が導出される。
【0104】
ave=(1/2)×I02cos2φ ・・・(22)。
【0105】
次に、図15で示されるように、他方の主軸の方向であるy軸方向と偏光PL2の偏光方向とが一致する場合(θ=90°の場合)を想定する。この場合、u軸方向の電場の成分の最大値Imは、下式(23)で示される。
【0106】
m=I0cos{(π/2)−φ} ・・・(23)。
【0107】
このとき、上式(18)と上式(23)とから、下式(24)が導出される。
【0108】
ave=(1/2)×I02cos2{(π/2)−φ} ・・・(24)。
【0109】
上式(22)および(24)には、2つの変数I0,φが存在しているが、そのうち、偏光PL2の電場ベクトルの振幅の絶対値I0は、光源部11から出射される偏光PL1の設定と、光学素子12の特性とから予め求められ得る。
【0110】
また、偏光子15が透過させる電場の振動方向とx軸とが成す角度φは、x軸方向と偏光PL2の偏光方向とが一致する場合には、偏光子15が透過させる電場の振動方向と偏光PL2の偏光方向とが成す角度となる。一方、y軸方向と偏光PL2の偏光方向とが一致する場合には、角度φは、偏光子15が透過させる電場の振動方向と偏光PL2の偏光方向とが成す角度を90°から減じた角度となる。
【0111】
そして、各フォトディテクタによって検知される光の強度Paveが、上式(22)または(24)の関係を満たす場合には、偏光PL2の偏光方向と主軸とが一致するため、偏光PL2の偏光方向が、主軸の方向として導出され得る。
【0112】
なお、偏光子15が光軸Ppを中心として回転することで偏光PL2の偏光方向と偏光子15が透過させる電場の振動方向とが常に一致する構成(φ=0)が採用されても良い。この構成では、Paveが(1/2)I02または0となる際の偏光PL2の偏光方向が、主軸の方向として導出され得る。
【0113】
<(1−4)位相差の求め方>
図16および図17は、偏光子15に入射される楕円偏光PL4と偏光子15から射出される直線偏光PL5との関係を示す図である。図16および図17では、楕円偏光PL4の電場ベクトル(図中の太線の矢印)の先端が太線で表された楕円を描く態様が示されている。
【0114】
ここでは、細線の矢印で示されるように、時間の経過とともに、楕円偏光PL4の電場ベクトルの先端が、反時計回りに回転する。そして、楕円偏光PL4の電場ベクトルをu軸に投影したベクトル(図16中の破線の矢印)が、直線偏光PL5の電場ベクトルに相当する。
【0115】
そして、図17で示されるように、楕円偏光PL4の電場ベクトルにおけるu軸方向の成分は、(du/dv)=0である場合に、最大(umax)または最小(umin)となる。なお、偏光子15で射出される直線偏光PL5の電場の成分の時間的な変化は、例えば、図18の太線で示されるようなものとなる。また、上式(18)で示された光の強度Paveの時間的な変化は、例えば、図19の太線で示されるようなものとなる。
【0116】
ここで、上式(14)の両辺がvで微分されると、下式(25)が導出される。
【0117】
【数3】

【0118】
ここで、(du/dv)=0の関係が成立する条件下では、上式(25)から下式(26)が導出される。
【0119】
【数4】

【0120】
上式(26)を上式(14)に代入すると、uに関する2次方程式が得られ、このとき、u軸方向の電場の成分が±Imであるため、下式(27)が得られる。
【0121】
【数5】

【0122】
上式(27)のうち、u軸方向の電場の成分Imは、各フォトディテクタによって検知される光の強度Paveから算出可能である。値A,Bは、偏光PL2の偏光方向とx軸とが成す角度θが上式(4),(5)に代入されることで算出可能である。角度φは、偏光子15が透過させる電場の振動方向とx軸とから算出可能である。このため、上式(27)は、cosδに係る2次方程式となり、この2次方程式から位相差δが算出され得る。
【0123】
なお、2つの主軸(x軸とy軸)が求められれば、x軸およびy軸の何れとも一致しない条件(θ≠0°,90°)を満たす偏光方向を有する偏光PL2に係る光の強度Pave、その角度θ、および角度φから、位相差δが算出され得る。
【0124】
<(2)動作フロー>
図20は、複屈折測定装置1の動作フローを示すフローチャートである。本動作フローは、制御部26がプログラムPGを読み込んで実行することで実現される。なお、本動作フローは、例えば、操作部21からの指示に応じて開始されて、図20のステップS1に進む。
【0125】
ステップS1では、偏光制御部261によって旋光子112が初期状態に設定される。この初期状態は、例えば、旋光子112に係る旋光度(ここでは偏光回転角度)αが0となる状態であれば良い。これにより、偏光PL1の偏光面が設定されることになる。なお、このとき、偏光制御部261から記憶制御部263に対して偏光回転角度に係る情報が送られる。
【0126】
ステップS2では、光源制御部260によって光源111からの偏光PL0の射出が開始される。このとき、旋光子112から射出される偏光PL1の偏光面は、光源111から射出される偏光PL0の偏光面と旋光子112における旋光度αとに応じたものに設定される。また、光学素子12によって平行光である偏光PL1が一旦収束した後に拡がる偏光PL2に変換されるとともに、被測定物13obによって直線偏光である偏光PL2が複屈折によって楕円偏光PL3に変換される。更に、光学素子14によって偏光PL3が平行光である偏光PL4に変換されるとともに、偏光子15によって偏光PL4から電場の振動方向が一方向である第3偏光としての偏光PL5が生成される。
【0127】
ステップS3では、受光部16によって偏光PL5における光の強度分布が検知される。このとき、情報受付部262が、受光部16で検知された光の強度分布に係る情報を受け付けるとともに、この光の強度分布に係る情報を記憶制御部263に出力する。
【0128】
ステップS4では、記憶制御部263によって現在の偏光回転角度と情報受付部262で受け付けられた光の強度分布に係る情報とが関連付けられて記憶部24に記憶される。
【0129】
ステップS5では、偏光制御部261によって旋光子112に係る旋光度αが予め準備された全ての旋光度に設定されたか否か判定される。ここで、未だ全ての旋光度に設定されていなければステップS6に進み、既に全ての旋光度に設定されていればステップS7に進む。なお、予め準備された全ての旋光度は、例えば、0°から179°までの所定角度(例えば1°)刻みの偏光度であれば良い。
【0130】
ステップS6では、偏光制御部261によって旋光子112に係る旋光度αが変更され、ステップS3に進む。ここでは、例えば、直前の旋光度αが所定角度増加される。そして、ステップS6で偏光PL1における電場の振動方向が変更される度に、ステップS3〜S5の処理が行われる。その結果、偏光回転角度ごとに偏光回転角度と光の強度分布に係る情報とが関連付けられて記憶部24に記憶される。
【0131】
ステップS7では、光源制御部260によって光源111からの偏光PL0の射出が終了される。
【0132】
ステップS8では、特性情報取得部264によって記憶部24に偏光回転角度ごとに記憶された光の強度分布に係る情報に基づき照射角度ごとに被測定物13obにおける複屈折の主軸と複屈折の程度の大きさを示す位相差とが算出される。
【0133】
このようなステップS1〜S8の処理によって、1つの被測定物13obに係る複屈折を示す情報が得られる。
【0134】
<(3)一実施形態のまとめ>
以上のように、本実施形態に係る複屈折測定装置1によれば、光学素子12によって偏光PL1が一旦収束した後に拡がる偏光PL2に変換された上で、被測定物13obに対して照射される。このため、被測定物13obに対して光の入射角度を順次に変化させる必要がない。従って、小型な構成で迅速に被測定物13obに係る複屈折が測定され得る。また、被測定物13obが回転されないため、被測定物13obが破損し難くなる。
【0135】
また、旋光子112によって偏光における電場の振動方向が変更されるため、光源が可動機構によって回転されなくても良い。その結果、より小型な構成で更に迅速に被測定物13obに係る複屈折が測定され得る。
【0136】
また、光源111から発せられる偏光が、直線偏光であるレーザー光線であれば、光源111の構成が簡略化される。
【0137】
<(4)変形例>
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
【0138】
◎例えば、上記一実施形態では、予め準備された全ての偏光回転角度について光の強度分布に係る情報が得られた後に、偏光回転角度ごとの光の強度分布に係る情報に基づいて照射角度ごとに被測定物13obにおける複屈折の主軸と位相差とが求められたが、これに限られない。例えば、次の工程(I)〜(III)が順次に行われることで、照射角度ごとに被測定物13obにおける複屈折の主軸と位相差とが求められても良い。このような態様によれば、演算量が低減される。
【0139】
(I)偏光回転角度が変更されて、その偏光回転角度についての光の強度分布に係る情報が得られる度に、照射角度ごとに、その光の強度分布に係る情報に基づく光の強度Paveが(1/2)I02または0であれば、その際の偏光PL2の偏光方向に沿った軸が一方の主軸と決定される。
【0140】
(II)偏光PL2の進行方向に沿った軸を中心として一方の主軸が90°回転された軸が他方の主軸と決定される。
【0141】
(III)一方および他方の主軸の双方に対して傾斜するように偏光方向が設定された偏光PL2が被測定物13obに照射された際に得られる光の強度分布に係る情報に基づいて、被測定物13obにおける複屈折の程度の大きさを示す位相差δが求められる。
【0142】
◎また、上記一実施形態では、光源111から射出される偏光PL0が直線偏光であったが、これに限られない。例えば、光源111から射出される偏光PL0が、偏光状態が既知である軸対称偏光レーザー光線であっても良い。なお、軸対称偏光レーザー光線の射出が可能な光源としては、フォトニック結晶レーザー等が挙げられる。また、偏光素子によって直線偏光が軸対称偏光レーザー光線に変換されるような構成が採用されても良い。
【0143】
図21および図22は、軸対称偏光レーザー光線における偏光態様を示す図である。図21および図22では、軸対称偏光レーザー光線の進行方向が−Z方向であり、軸対称偏光レーザー光線が進行方向と垂直な2つの相互に離隔する面で切られた状態が示されている。また、電場の振動方向が太線の矢印で示されている。図21および図22で示されるように、軸対称偏光レーザー光線では、電場の振動方向が、進行方向に沿った軸を中心(中心軸とも言う)とした回転対称の関係を有する。例えば、偏光方向が放射状または同心円状となる。
【0144】
ここで、上述したように、被測定物13obにおける複屈折が求められるためには、被測定物13obに照射される前の偏光PL2に係る偏光情報が予め把握されていなければならない。このような要求に対して、このような軸対称偏光レーザー光線が偏光PL1に適用されれば、偏光PL2をその進行方向の側方のどの方向から見ても、入射方向と偏光方向との関係が一定となるため、偏光PL2に係る偏光情報が予め容易に把握可能となる。従って、容易に被測定物13obに係る複屈折が測定され得る。
【0145】
◎また、上記一実施形態では、旋光子112によって偏光PL2の偏光方向が変更されたが、これに限られない。例えば、旋光子112が設けられず、偏光PL0の中心軸を中心として光源111が回転することで、偏光PL2の偏光方向が変更されても良い。但し、上記一実施形態のように、旋光子112によって偏光PL2の偏光方向が変更される方が、光源111を可動機構によって回転させる必要がないため、より小型な構成で更に迅速に被測定物13obに係る複屈折が測定され得る。
【0146】
◎また、上記一実施形態では、光学素子14によって偏光PL3が平行光である偏光PL4に変換されたが、これに限られない。例えば、光学素子14が設けられず、偏光子15によって偏光PL3から偏光PL5が生成されても良い。但し、このような構成では、偏光子15に対する偏光PL3の種々の入射角度が生じることで、入射角度に応じて光の強度が変化する。従って、この場合、特性情報取得部264において、偏光子15に対する偏光PL3の入射角度に応じた強度の変化分を補正する演算が必要となる。また、偏光子15および受光部16の構成を、入射角度に応じたものとすることも考えられる。
【0147】
但し、演算および構成の少なくとも一方の簡略化が図られる観点から言えば、上記一実施形態のように、光学素子によって偏光PL3が平行光である偏光PL4に変換される方が好ましい。
【0148】
◎また、上記一実施形態では、光源111にレーザーが用いられる例が採用されていたが、これに限られない。例えば、自然光を直線偏光に変換する構成(例えば、偏光子等)が採用されても良い。
【0149】
◎なお、上記一実施形態および各種変形例をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0150】
1 複屈折測定装置
10 情報取得部
11 光源部
12,14 光学素子
13 載置部
13ob 被測定物
15 偏光子
16 受光部
20 情報処理部
24 記憶部
26 制御部
111 光源
112 旋光子
260 光源制御部
261 偏光制御部
262 情報受付部
263 記憶制御部
264 特性情報取得部
PG プログラム
PL0〜PL5 偏光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電場の振動方向が設定されている第1偏光を出射する光源部と、
前記第1偏光における前記電場の振動方向を順次に変更する偏光制御部と、
前記第1偏光を収束後に拡がる第2偏光に変換する光学素子と、
前記第2偏光が被測定物に照射される際に該被測定物から射出される光に基づいて、電場の振動方向が一方向である第3偏光を生成する偏光子と、
前記第3偏光における光の強度分布を検知する検知部と、
前記第1偏光における各前記電場の振動方向に応じて前記検知部で順次に検知された複数の前記光の強度分布に基づき前記被測定物に係る複屈折の情報を得る取得部と、
を備えることを特徴とする複屈折測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の複屈折測定装置であって、
前記光源部が、
電場の振動方向が既知である偏光を発する光源と、
前記偏光制御部による制御によって、前記光源から発せられる偏光における電場の振動方向を回転させることで該電場の振動方向が順次に変更される前記第1偏光を生成する旋光子と、
を有することを特徴とする複屈折測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の複屈折測定装置であって、
前記光源から発せられる偏光が、
直線偏光であるレーザー光線を含むことを特徴とする複屈折測定装置。
【請求項4】
請求項2に記載の複屈折測定装置であって、
前記光源から発せられる偏光が、
軸対称偏光レーザー光線を含むことを特徴とする複屈折測定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1つの請求項に記載の複屈折測定装置であって、
前記被測定物から射出される光を平行光に変換する変換素子、
を更に備え、
前記偏光子が、
前記変換素子から射出される前記平行光から前記第3偏光を生成することを特徴とする複屈折測定装置。
【請求項6】
(a)電場の振動方向が設定されている第1偏光を光源部から出射する工程と、
(b)光学素子が前記第1偏光を収束後に拡がる第2偏光に変換する工程と、
(c)前記第2偏光が被測定物に照射される際に該被測定物から射出される光に基づいて偏光子が電場の振動方向が一方向である第3偏光を生成する工程と、
(d)検知部が前記第3偏光における光の強度分布を検知する工程と、
(e)偏光制御部が前記第1偏光における電場の振動方向を変更する工程と、
(f)前記工程(e)において前記第1偏光における電場の振動方向が変更される度に前記工程(b)〜(d)を行う工程と、
(g)各前記工程(d)において前記第1偏光における各前記電場の振動方向に応じて前記検知部によって順次に検知された複数の前記光の強度分布に基づき前記被測定物に係る複屈折の情報を得る工程と、
を備えることを特徴とする複屈折測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−247706(P2011−247706A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120117(P2010−120117)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】