説明

複層ガラスの分離処理方法

【課題】 ガラスを有機化合物からなる接着剤で支持部材に接着させたガラス製品から、板ガラス製造用原料として利用可能な良質のガラスカレットを高い回収率で取り出すことができ、且つ、合わせガラスを構成材料とした複層ガラスについても適用できるガラス製品からのガラス分離処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 赤外線照射機により近赤外線を照射し、ガラス製品の接着部分を加熱することによって接着剤を軟化または変質させ、ガラス部位を支持部材や金属製スペーサーから分離処理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス製品、特に、複層ガラスからのガラス分離処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、建築用の合わせガラスや複層ガラス等の機能性を持ったガラス製品の普及が進んでいる。これらのガラス製品からガラス板部位を分離しガラス原料としてリサイクル使用することは、資源保護のため好ましい。
【0003】
複層ガラスは、通常、少なくとも2枚のガラス板の間に中空層を設けるためにスペーサーを挟み込み、有機化合物の接着剤等を用いてガラス板に接着し、周縁部も有機化合物の接着剤で封着されている。またスペーサー内部には中空層を乾燥させるために乾燥剤が充填されている。よって、複層ガラスから乾燥剤を充填した金属製スペーサーを分離してガラス板部位を取り出せば、ガラスカレットとしてガラス溶融窯でリサイクル使用することができる。
【0004】
複層ガラスのガラス板部位を分離処理する装置が、特許文献1に開示されている。複層ガラスを格子状の桟を有する破砕装置で破砕することにより、ガラスカレットを得るものである。
【0005】
また、特許文献2には、複層ガラス製造時の板ガラス間にスペーサーを封着するブチル系封着材の加熱接着時間を短縮して複層ガラスの生産性を向上する方法が開示され、波長0.8μm〜2μmの範囲内の近赤外線を照射する近赤外線ヒーターが用いられている。しかしながら、特許文献2は複層ガラスの封着方法であり、技術分野がガラス製品からのガラス分離処理方法とは異なる。
【特許文献1】特開2003−71313号公報
【特許文献2】特開2006−321660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス製品を破壊してガラス板部位をガラスカレットとして回収する従来の分離装置では、回収率が低いという問題があった。
【0007】
例えば、複層ガラスにおいてガラス板とスペーサーが接着された部位は、複層ガラス破壊後もスペーサーにガラス板が付着残存しガラスカレットとして回収することができず、回収率が低くなる。
【0008】
また、通常複層ガラスは、少なくとも2枚のガラス板の間に中空層を設けるために、ゼオライト等の乾燥剤を内部に充填した断面が矩形の金属製スペーサー等をガラス板に挟み込んで接着していることが多く、複層ガラスの破壊時に金属製スペーサーが損傷し、回収したガラスカレット中に金属製スペーサーの剥離物や金属製スペーサー内部の乾燥剤が混入してしまい、板ガラス製造用原料として使用するためには乾燥剤の選別除去が必要となる可能性がある。また、合わせガラスを構成材料として用いた複層ガラスの場合には、ガラスに亀裂は入るものの、殆どのガラスは合わせフィルムに接着されたままの状態となり、ガラスカレットの回収は難しい。
【0009】
本発明は、ガラス製品、特に複層ガラスから、板ガラス製造用原料として利用可能な良質のガラスカレットを高い回収率で取り出すことができ、且つ、合わせガラスを構成材料とて用いた複層ガラスにも適用できるガラス製品からのガラス分離処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ガラス製品、特に複層ガラスに赤外線照射機より近赤外線を照射し、板ガラスを透過させ接着部を加熱することによって接着剤を軟化または変質させ、複層ガラスをガラス板と金属製スペーサーに分離するガラス製品からのガラス分離処理方法である。
【0011】
本発明により、分離したガラス板部位はガラスカレットとして再利用が可能となる。
【0012】
本発明のガラス製品からのガラス分離処理方法を複層ガラスに用いれば、ガラス原料として使用できない金属製スペーサーが板ガラスより完全に分離され、また、金属製スペーサーに無理な力を加えないため、ガラス品質に悪影響を及ぼす金属の剥離物や充填されている乾燥剤が回収したガラスカレット中に混入することも無い。
【0013】
本発明を用いれば、合わせガラスを構成材料として用いた複層ガラスについても同様に、合わせガラスと金属製スペーサーを分離でき、分離した合わせガラスは、粉砕等の既存の処理方法によって板ガラス製造用原料として利用可能なガラスカレットとする事ができる。
【0014】
また、本発明は、赤外線照射機として近赤外線域にピーク波長を持つ赤外線ヒーターを使用し、赤外線ヒーターの加熱により接着部位の温度を、100℃以上、400℃以下にしたことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明は、0.8μm以上、2.0μm以下の近赤外域にピーク波長を持つ赤外線ヒーターを用いたことを特徴とする。
【0016】
ガラス製品の加熱源である赤外線照射機に、0.8μm以上、2.0μm以下の近赤外線域にピーク波長を持つヒーターを使用することにより、ガラスおよび合わせガラスの構成材料であるポリビニルブチラール(以下、PVBと略する)またはエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと略する)等の合わせフィルム等を透過させて、直接且つ効率よく有機化合物からなる接着剤を集中的に放射加熱する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のガラス製品からのガラス分離処理方法を用いれば、ガラスを有機化合物からなる接着剤で支持部材に接着させたガラス製品の接着部に赤外線照射機より近赤外線を照射し、ガラス部を透過させ接着部を加熱することによって接着剤を軟化または変質させ、ガラスを支持部材から分離させることが可能となる。
【0018】
赤外線放射機による近赤外線の照射により、直接且つ効率よく接着部を集中的に放射加熱することが可能で、前記ガラス製品をガラスと支持部材とに完全に分離させてガラスを効率よく分離処理することが容易となった。
【0019】
特に、複層ガラスをガラス板と金属製スペーサーとに分離処理する際に、接着部に近赤外線を照射し加熱することによって接着剤を軟化または変質させガラス板を分離するので、破砕装置等による破砕と異なり金属製スペーサーに無理な力を加えることなく、ガラス品質に悪影響を及ぼす金属の剥離物やスペーサー内部に充填されている乾燥剤が分離回収したガラスの中に混入することも無い。
【0020】
また、赤外線ヒーターは安価であり、本発明に使用する装置の製作費用は比較的安価となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態の一例として合わせガラスを構成材料として用いた複層ガラスに対して、本発明のガラス分離処理方法を使用した例について説明する。
【0022】
図1は、合わせガラスを構成材料として用いた複層ガラスに対して本発明のガラス製品からのガラス分離処理方法を使用した際の説明図である。
【0023】
図1に示すように、複層ガラス1は、PVB、EVA等からなる合わせフィルム2で接着された2枚の板ガラス3Aおよび3Bからなる合わせガラス4と、板ガラス3Cとの間に有機化合物からなる接着剤の1次シーラント5を介して乾燥剤6を充填した金属製スペーサー7を接着し、更に有機化合物からなる接着剤の2次シーラント8で封着した構成である。
【0024】
複層ガラス1の接着部位に、合わせガラス4より離間させて設けた赤外線ヒーター9より近赤外線を照射し、板ガラス3A、合わせフィルム2および板ガラス3Bを透過させた後、1次シーラント5および2次シーラント8を加熱する。また、複層ガラスの1のガラス3C側に離間させて設けた赤外線ヒーターより近赤外線を照射し、板ガラス3Cを透過させた後、1次シーラント5および2次シーラント8を加熱する。
【0025】
このように、複層ガラスに通常用いられる板ガラスおよび合わせフィルム2は、可視域から近赤外線域にかけての光透過率が高いため、赤外線ヒーター9より近赤外線を照射すると、その放射熱エネルギーがガラス板を通して直接接着部位に伝わるため、接着部位を効率的に加熱することができ、図1の様に、構成材料として合わせガラス4を使用した複層ガラス1の場合にも、直接、合わせガラス4中の合わせフィルム2を通して、接着部位を加熱することができる。接着部位の1次シーラント5および2次シーラント8のみを加熱するべく近赤外線を集光照射できる赤外線ヒーター9を使用することは、使用電力の節約になり省エネルギーの面でも好ましい。
【0026】
近赤外線は可視域に近い波長0.7〜2.5μmの電磁波で、ガラスに対する透過率が高いため、ガラスに吸収される熱量が少なく、接着部位にまで効率良く放射熱エネルギーが伝わる。波長4.0〜1000μmの遠赤外線を照射する赤外線ヒーターも同様に放射熱エネルギーを利用し加熱するものであるが、ガラスにおける遠赤外線域の透過率は可視域から近赤外線域の透過率よりも低いため、ガラスに吸収される熱量が増え、接着部位にまで伝わる放射熱エネルギーが少なくなり効率が落ちる。また構成材料として合わせガラス4を用いた複層ガラス1の場合には合わせガラス中の合わせフィルム2に大半の放射熱エネルギーが吸収され、接着部位にまで熱が伝わりにくくなる。赤外線ヒーター9は、横軸に波長、縦軸に放射熱エネルギー量をプロットしたグラフにおいて、近赤外域にピーク波長を持つ赤外ヒーターを用いることが好ましい。ピーク波長は、0.8μm以上、2.0μm以下の近赤外線域にあることが好ましく、これにより板ガラスおよび合わせフィルム2を通過する放射熱エネルギー量の減衰を小さくすることができる。
【0027】
本発明のガラス製品に使用する接着剤として、通常、複層ガラスの1次シーラント5にはブチルゴム接着剤、2次シーラント8にはシリコーンゴム接着剤およびポリサルファイドゴム接着剤が用いられているため、シーラントの加熱温度については100℃以上、400℃以下の範囲が好ましく、シーラントの温度が100℃より低い場合はシーラントの軟化、変質が不充分で金属製スペーサー7の分離が困難であり、400℃より高い場合は、既に金属製スペーサーが分離可能な状態にあるにもかかわらず、更に加熱する事になるためエネルギー消費、処理時間のロスが生じる。またシーラントの発火燃焼や高温となったガラスが冷える際のガラスの割れ等の問題も生じ分離し難くなる。合わせガラス4が構成材料として使用されている複層ガラス1の場合には、合わせフィルム2の発火燃焼の懸念も生じる。
【実施例】
【0028】
分離対象のガラス製品として、合わせガラス4を構成材料として用いた複層ガラスを使用した。まず、図1に示す様に、厚さ3mmの2枚のガラス板3A、3BをPVBからなる合わせフィルム2で接着した合わせガラス4と厚さ5mmのガラス3Cとの間に、1次シーラント5としてブチルゴム接着剤を介し、乾燥剤6としてゼオライトを内部充填した金属製スペーサー7の断面矩形の筒状アルミスペーサーを挟み込むように接着し、前記ガラス3B、3C間に2次シーラント8としてポリサルファイドゴム接着剤を充填した。このような複層ガラス1の合わせガラス4の面に対し、25mm上の位置から出力3kwの集光型近赤外線ヒーター9によるピーク波長1.0μmの近赤外線を照射し、放射熱エネルギーをガラス板3A、3Bに透過させ接着部位の1次シーラント5および2次シーラント8を加熱した。この条件で加熱したところ、約2分後にブチルゴムが軟化、ポリサルファイドゴムが変質し、アルミスペーサーとガラス部位を容易に引き剥がして分離することができた。
【0029】
このようにして分離した合わせガラス4には、板ガラス製造用原料として再利用する場合に、板ガラスの製品品質に悪影響を与えるアルミやゼオライトの付着も見られなかった。したがって、本発明のガラス製品からのガラス分離処理方法を使用することによって板ガラス製造用原料として利用可能な良質なガラスカレットを回収できた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】合わせガラスを用いた複層ガラスに対して本発明のガラス製品からのガラス分離処理方法を使用した際の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 複層ガラス
2 合わせフィルム
3A、3B、3C ガラス板
4 合わせガラス
5 1次シーラント
6 乾燥剤
7 金属製スペーサー
8 2次シーラント
9 赤外線ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスを有機化合物からなる接着剤で支持部材に接着させたガラス製品からのガラス分離処理方法であって、ガラス製品に赤外線照射機より近赤外線を照射してガラス部を透過させ、接着部を加熱することによって接着剤を軟化または変質させてガラスを支持部材から分離させることを特徴とするガラス製品からのガラス分離処理方法。
【請求項2】
少なくとも2枚のガラス板の間に有機化合物からなる接着剤でスペーサーを接着して中空層を形成させ、周縁部を有機化合物からなる接着剤で封着した複層ガラスに赤外線照射機より近赤外線を照射してガラス板を透過させ、接着部を加熱することによって接着剤を軟化または変質させ、複層ガラスをガラス板とスペーサーに分離させることを特徴とする請求項1に記載のガラス製品からのガラス分離処理方法。
【請求項3】
赤外線照射機として近赤外線域にピーク波長を持つ赤外線ヒーターを使用し、赤外線ヒーターの加熱により接着部位の温度を、100℃以上、400℃以下にしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガラス製品からのガラス分離処理方法。
【請求項4】
0.8μm以上、2.0μm以下の近赤外線域にピーク波長を持つ赤外線ヒーターを用いたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス製品からのガラス分離処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−50801(P2009−50801A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220514(P2007−220514)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】