説明

複層ガラス

【課題】 複層ガラスに要求される断熱性と可視光透過性の両性能の向上が期待される2枚の板ガラス間に平板状の透明多孔体が挟まれた積層構造を有する複層ガラスであって外圧による変形に対する破壊耐性を強化した複層ガラスを提供する。
【解決手段】 透明多孔体3が引っ張り限界歪より大きい圧縮限界歪を有し、透明多孔体3に対して予め圧縮歪が付与されている。具体的には、2枚の板ガラス2から透明多孔体3に対して透明多孔体3の厚み方向に加えられる圧力によって、透明多孔体3に対して厚み方向に予め第1の圧縮歪が付与され、透明多孔体3が板ガラス2の表面に平行な方向へ拡張するのを抑止された状態で、透明多孔体3が2枚の板ガラスによって挟持されていることで、透明多孔体3に対して板ガラス2の表面に平行な方向に第2の圧縮歪が予め付与されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層ガラスに関し、特に、可視光を透過する平板状の透明多孔体が2枚の板ガラス間に挟まれた積層構造を有する複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅やビル等の建物の壁部、床部、天井部等を高断熱化する場合、住宅金融公庫の高断熱住宅の規格では、100〜200mm程度の厚さのロックウールが壁や天井等に対して規定されており、熱貫流率が約0.2〜0.5W/(m・K)の断熱性能を有する。これに対して、窓のガラス部は高性能の複層断熱ガラス(代表的空気層の厚み60mm)でも、熱貫流率が1.6〜3.0W/(m・K)と約1桁程度大きいため、換気によるものを除く外部との熱の出入りはその半分以上が窓のガラス部を通過している。従って、ガラス部の遮熱性を高めることは建物を高断熱化して省エネルギ化を図る上で非常に重要である。
【0003】
一般に、複層断熱ガラスは、2枚の板ガラス間に空気の対流が生じ難い範囲の密閉空気層を形成し断熱層としている。複層断熱ガラスを高断熱化するために、密閉空気層を空気より熱伝導性の低いアルゴンガス等を封入した複層断熱ガラスや、密閉空気層を真空排気した真空複層ガラスがある(例えば、下記特許文献1〜3参照)。また、アルゴンガス等の封入や真空排気により密閉空気層の気密性を確保する必要から、大面積の複層断熱ガラスの作製が困難なため、密閉空気層の空気量を低減する目的として、密閉空気層にシリカ微粒子が鎖状に繋がったエアロゾルを封入して高断熱化を図った複層断熱ガラスがある(例えば、下記特許文献4参照)。また、2枚の板ガラス間の中空層にシリカエアロゲル等の透明多孔質断熱層を設けた複層ガラスがある(例えば、下記特許文献5参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−199277号公報
【特許文献2】特開平11−092181号公報
【特許文献3】特開平11−079795号公報
【特許文献4】特開平11−071141号公報
【特許文献5】特開2006−282465号公報
【特許文献6】国際公開第2005/110919号パンフレット
【非特許文献1】Kazuyoshi Kanamori,etal.,“New Transparent Methylsilsesquioxane Aerogels and Xerogels with Improved Mechanical Properties”,Advanced Meterials,2007,19,pp.1589−1593
【非特許文献2】“Physical Properties:Silica Aerogels”、[online]、Lawrence Berkeley National Laboratory、[ 平成20年4月4日検索]、インターネット<URL:http://eande.lbl.gov/ECS/aerogels/sa-physical.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の真空複層ガラスでは、2枚の板ガラス間に外側から密閉空気層に加わる大気圧を支えるために2枚の板ガラス間に多くの支持部材を挿入した複雑な構造となり、板ガラスやサッシ部分の構造を頑強なものとする必要から重量化が避けられない。
【0006】
また、密閉空気層にエアロゾルを封入した複層断熱ガラスでは、粒子間に粒子径より大きな空隙が多く残存し、空気の対流が効果的に抑制されないため、一般的な複層ガラスより断熱化が図れるものの、飛躍的な断熱性能の改善は期待できない。また、粒子間に存在する空隙によって入射光が散乱するため、断熱層の可視光透過性が低下するという問題がある。
【0007】
また、2枚の板ガラス間の中空層にシリカエアロゲル等の透明多孔質断熱層を設けた複層ガラスの場合では、透明多孔質断熱層の可視光透過性を確保するには、屈折率の変化の周期が光の波長の1/5〜1/10程度になると急に散乱が大きくなるので、中心細孔径が数nm〜100nmで、当該細孔より孔径の大きい貫通孔や隙間や継ぎ目のない平板状の多孔体であることが望ましい。尚、上記特許文献5に開示されている複層ガラスの透明多孔質断熱層が、平板状の多孔体であるか否かはその開示内容からは不明である。また、平板状の多孔体に隙間や継ぎ目が多く存在するとその部分で光が乱反射するため透視性が損なわれるとともに隙間や継ぎ目が容易に目視できるため外観上も問題となる。従って、細孔のみの平板状の透明多孔体を用いることにより、密閉空気層にエアロゾルを封入した複層断熱ガラスと比較して、複層ガラスに要求される断熱性と可視光透過性の両性能の向上が期待される。
【0008】
ここで、セラミックスやガラス材料の一般的性質として、圧縮限界歪に比べ引っ張り限界歪が極めて小さいという問題がある。これらの材料が引っ張り歪によって破壊しやすい理由として、引っ張り応力を掛けた場合に、表面の小さな傷(イナシャルクラック)に応力が集中し、クラックの進展とともに応力集中係数が大きくなって急速に破壊が進行するためと考えられる。これに対して、圧縮歪の場合には当該応力集中のメカニズムが働かないため、圧縮歪によって破壊しやすいという問題はない。従って、シリカエアロゲル等の透明多孔体は、セラミックスやガラス材料の一種であることから、引っ張り歪によって破壊しやすい特質を有している。このため、シリカエアロゲル等の透明多孔体が複層ガラスに使用された場合、強風等の外圧によってガラス面が湾曲した場合、透明多孔体もガラス面と同様に湾曲が生じ、その湾曲面に沿って引っ張り歪が生じる。シリカエアロゲル等の透明多孔体は、容易に引っ張り限界歪を超える引っ張り歪が生じることにより亀裂が生じ、当該亀裂面で光が乱反射するため、可視光透過性及び透視性が損なわれることになる。従って、シリカエアロゲル等の透明多孔体が引っ張り応力に対して破壊しやすいという欠点を改善できれば、高い断熱性と可視光透過性を具備する複層ガラスを提供できるようになる。
【0009】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複層ガラスに要求される断熱性と可視光透過性の両性能の向上が期待される2枚の板ガラス間に平板状の透明多孔体が挟まれた積層構造を有する複層ガラスであって外圧による変形に対する破壊耐性を強化した複層ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る複層ガラスは、可視光を透過する平板状の透明多孔体が2枚の板ガラス間に挟まれた積層構造を有する複層ガラスであって、前記透明多孔体が引っ張り限界歪より大きい圧縮限界歪を有し、前記透明多孔体に対して予め圧縮歪が付与されていることを第1の特徴とする。
【0011】
上記第1の特徴の複層ガラスによれば、透明多孔体の圧縮限界歪が大きいため、外圧による変形が生じて予め付与された圧縮歪に変形による圧縮歪が付加されても、圧縮限界歪以下であれば、透明多孔体は当該合成圧縮歪によって破壊されることはない。一方、透明多孔体の引っ張り限界歪は圧縮限界歪より小さいが、予め付与された圧縮歪と変形によって生じる引っ張り歪が相殺された合成歪では、引っ張り歪が大幅に軽減されるか、或いは、圧縮歪となるため、予め付与する圧縮歪を調整して、当該合成歪を引っ張り限界歪以下に設定することで、変形によって生じる引っ張り歪により透明多孔体が破壊されるのを未然に防止することが可能となる。
【0012】
以上の結果、セラミックスやガラス材料と同様に引っ張り歪によって破壊しやすい特質を有しているが、可視光透過性及び断熱性の両特性において優れた特性を示すシリカエアロゲルやメチル化シリカキセロゲル等の無機或いは有機無機ハイブリッド非晶質ゲル、或いは、その他同様の特性を有する透明多孔体材料を、複層ガラスの透明多孔体として使用することが可能となり、力学強度特性、可視光透過性、及び、断熱性に優れた複層ガラスを提供できるようになる。
【0013】
尚、本明細書では、圧縮歪、引っ張り歪、圧縮限界歪、及び、引っ張り限界歪は、以下のように定義して使用している。圧縮歪は、圧縮応力の方向における圧縮による長さの変化(ΔL)を圧縮前の物体の長さ(L)で除した比率(ΔL/L)で表され、引っ張り歪は、引っ張り応力の方向における引っ張りによる長さの変化(ΔL)を引っ張り前の物体の長さ(L)で除した比率(ΔL/L)で表される。圧縮歪は負の引っ張り歪と等価であり、圧縮歪と引っ張り歪は互いに符号が逆転する関係にある。また、圧縮限界歪は、物体が破壊に至る限界の圧縮歪で、引っ張り限界歪は、物体が破壊に至る限界の引っ張り歪である。
【0014】
更に、上記第1の特徴の複層ガラスは、前記2枚の板ガラスに加わる外圧による変形によって前記透明多孔体に生じると予測される引っ張り歪の最大値以上の圧縮歪が、前記予測される引っ張り歪の方向に付与されるように、前記透明多孔体に対して予め圧縮歪が付与されていることを第2の特徴とする。
【0015】
上記第2の特徴の複層ガラスによれば、外圧による変形によって透明多孔体に生じると予測される引っ張り歪の方向に予め付与する圧縮歪が、その引っ張り歪の予測最大値以上であるので、当該最大位置以内の引っ張り歪が発生しても、当該引っ張り歪の方向に引っ張り歪が発生することが回避されるため、透明多孔体の引っ張り限界歪が如何に小さくても、変形によって生じる引っ張り歪により透明多孔体が破壊されるのを未然に防止することが可能となる。
【0016】
更に、上記第1または第2の特徴の複層ガラスは、前記2枚の板ガラスから前記透明多孔体に対して前記透明多孔体の厚み方向に加えられる圧力によって、前記透明多孔体に対して前記厚み方向に予め第1の圧縮歪が付与され、前記透明多孔体が前記2枚の板ガラスの表面に平行な方向へ拡張するのを抑止された状態で、前記透明多孔体が前記2枚の板ガラスによって挟持されていることで、前記透明多孔体に対して前記2枚の板ガラスの表面に平行な方向に第2の圧縮歪が予め付与されていることを第3の特徴とする。
【0017】
上記第3の特徴の複層ガラスによれば、透明多孔体の厚み方向に加えられる圧力によって、透明多孔体に対して厚み方向に第1の圧縮歪、2枚の板ガラスの表面に平行な方向へ第2の圧縮歪を予め付与することができる。つまり、透明多孔体には全方向において圧縮歪が予め付与されることになる。複層ガラスの2枚の板ガラスの一方の外側面から強風等の強い圧力を受けると、2枚の板ガラスが他方側に向って湾曲する変形が生じる。この変形によって透明多孔体にも同様の湾曲が生じ、その湾曲面に沿って2枚の板ガラスの表面に平行な方向に引っ張り歪が生じる。従って、2枚の板ガラスの表面に平行な方向に予め付与された圧縮歪と湾曲面に沿って生じる引っ張り歪が相殺するため、引っ張り歪による破壊耐性が改善される。また、透明多孔体には全方向において圧縮歪が予め付与されているので、2枚の板ガラスの表面に平行な方向以外の方向に生じる引っ張り歪に対しても、上記同様に破壊耐性が改善されることになる。
【0018】
更に、上記第3の特徴の複層ガラスは、前記2枚の板ガラスを前記透明多孔体の厚み方向に挟持する窓枠によって、前記2枚の板ガラスを前記透明多孔体の厚み方向に締め付けることにより、或いは、前記透明多孔体内の気相を減圧することにより、前記2枚の板ガラスの両側から加わる大気圧によって、前記透明多孔体に対して前記第1の圧縮歪が予め付与され、前記透明多孔体が前記2枚の板ガラスの表面に平行な方向へ拡張するのを抑止されることで、前記透明多孔体に対して前記第2の圧縮歪が予め付与されていることを第4の特徴とする。
【0019】
上記第4の特徴の複層ガラスによれば、透明多孔体に対して第1及び第2の圧縮歪を具体的に予め付与することができるため、上記第3の特徴の複層ガラスの作用効果を確実に奏することができる。
【0020】
更に、上記第3または第4の特徴の複層ガラスは、前記透明多孔体に固有の圧縮限界歪が3.5%より大きく、前記第1の圧縮歪が3.5%以上、前記透明多孔体に固有の圧縮限界歪未満であることを第5の特徴とする。
【0021】
上記第5の特徴の複層ガラスによれば、例えば、透明多孔体としてメチル化シリカキセロゲルやシリカエアロゲル等の使用を想定した場合、これらの透明多孔体の材料としてのポアッソン比が0.2程度であるので、2枚の板ガラスの表面に平行な方向に第2の圧縮歪は0.7%以上、圧縮限界歪の0.2倍未満となる。ビル用の窓ガラスの限界変形は曲率半径5m程度に設計されているので、板ガラスの最大寸法を2mと想定し、板ガラスの当該最大寸法の両端間が2mの長さに拘束されているとすると、上記限界変形の湾曲が生じた場合は、上記2mの長さの板ガラスは、約2.0136mに伸張し、0.68%程度の引っ張り歪が生じることになる。ここで、板ガラスと透明多孔体が摩擦力をもって接触し、両者が接触面において完全に密着して相対的に動かない場合には、透明多孔体板に対し、ガラスの表面に平行な方向に板ガラスと同じく0.68%程度の引っ張り歪が生じることになる。従って、上記想定内の引っ張り歪は第2の圧縮歪によって相殺されて引っ張り歪として発現しないため、引っ張り限界歪を超えて透明多孔体に亀裂等が生じて破壊するのが未然に防止される。
【0022】
一方、板ガラスと透明多孔体が摩擦力をもって接触していない場合は、上記ビル用の窓ガラスの限界変形の湾曲によって透明多孔体に生じる歪は、透明多孔体の湾曲にのみ起因して発生するため、湾曲面の凸部側で引っ張り歪となり、凹部側で圧縮歪となる。透明多孔体の厚みが10mm程度とすると、曲率半径5mの湾曲に対して、2枚の板ガラスの表面に平行な方向に生じる最大の引っ張り歪は0.1%程度となる。従って、板ガラスと透明多孔体が摩擦力をもって接触する場合に比べて、引っ張り歪が大幅に緩和されるので、上記想定内の引っ張り歪は第2の圧縮歪によって相殺されて引っ張り歪として発現しないため、引っ張り限界歪を超えて透明多孔体に亀裂等が生じて破壊するのが未然に防止される。
【0023】
更に、上記何れかの特徴の複層ガラスは、前記透明多孔体が、無機或いは有機無機ハイブリッド非晶質ゲルであることを第6の特徴とする。尚、上記第6の特徴の複層ガラスにおいて、特に、前記透明多孔体が、骨格構造にケイ素と酸素を含むことが好ましく、更には、前記透明多孔体が、メチル化シリカキセロゲルであることが好ましい。
【0024】
上記第6の特徴の複層ガラスによれば、可視光透過性、断熱性を兼ね備えた平板状の透明多孔体が実現できるため、当該透明多孔体を使用して予め圧縮歪を付与することで、外圧による変形に対する破壊耐性を強化した可視光透過性、透視性、断熱性を兼ね備えた複層ガラスが実現できる。特に、メチル化シリカキセロゲルは、中心細孔径が数nm〜60nm程度の細孔のみを有する均質な透明多孔体であって、可視光透過性と断熱性を兼ね備えた複層ガラスの中間層として理想的な材料である。例えば、厚み10mmの十分に注意深く生産されたメチル化キセロゲルは可視光透過率80%以上、ヘイズ率2%以下と通常のビル用複層ガラスとして十分な光学特性を持つとともに、熱伝導率も10mW/mK以下という低い値を持っている。また、メチル化シリカキセロゲルは、80%以上の非常に大きな圧縮限界歪を実現できることが分かっているので、複層ガラスの開口面積が大きくなって、変形によって透明多孔体に生じると予測される引っ張り歪の最大値が更に大きくなっても、それに対応可能な十分大きい圧縮歪を予め付与できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係る複層ガラスの実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
【0026】
〈第1実施形態〉
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る複層ガラス1は、2枚の板ガラス2と、2枚の板ガラス2に挟持された平板状の透明多孔体3、ストッパ4、及び、窓枠5を備えて構成されている。尚、図1は、2枚の板ガラス2の表面と垂直な断面における複層ガラス1の概略の構造を示す断面図である。尚、以下の説明において、説明の理解の簡単化のために、透明多孔体3の厚み方向(つまり、2枚の板ガラス2と透明多孔体3の積層方向)をZ方向と称し、板ガラス2の表面に平行な板ガラス2の長辺方向で、Z方向と直交する方向をX方向と称し、板ガラス2の表面に平行な板ガラス2の短辺方向で、Z及びX両方向と直交する方向をY方向と称する。従って、図1の断面図は、Z方向とX方向に平行なXZ断面、或いは、Z方向とY方向に平行なYZ断面を示している。
【0027】
本実施形態では、透明多孔体3は、中心細孔径が数nm〜60nm程度の細孔のみを有するメチル化シリカキセロゲルを使用する。メチル化シリカキセロゲルは、中心細孔径が数nm〜60nm程度の細孔のみを有することで、10mm程度の厚みにおいて、可視光透過率80%以上、ヘイズ率2%以下と、通常のビル用複層ガラスとして十分な光学特性と、熱伝導率も10mW/mK以下という低い値の断熱特性を兼備するものが得られる。しかし、透明多孔体3は光学特性及び断熱特性は上記数値例に限定されるものではなく、製品としての複層ガラス1の仕様に依存して適切な特性のものが使用できる。
【0028】
メチル化シリカキセロゲルは、ケイ素と酸素を有する骨格構造にメチル基が固定した構造の有機無機ハイブリッド非晶質ゲルである。キセロゲルは、学術的には「溶媒が除去されたゲル」であり、溶媒を除去するための乾燥法に依存しない広い概念で定義されている。一方、エアロゲルは、乾燥法に超臨界乾燥を用いた低密度ゲルとして定義されている。そこで、本明細書では、キセロゲルという用語は、エアロゲルを含む広い概念として使用するため、メチル化シリカキセロゲルには、メチル化シリカエアロゲルが含まれる。メチル化シリカエアロゲルを含むメチル化シリカキセロゲルは、例えば、上記特許文献6或いは上記非特許文献1に開示されている公知の製造方法を用いて作製される。メチル化シリカキセロゲルに使用する乾燥法として、蒸発乾燥等の超臨界乾燥以外の乾燥法を用いても、メチル化シリカエアロゲルと同様の可視光透過性及び力学強度特性が得られている。本実施形態では、これらのメチル化シリカキセロゲルを使用する。メチル化シリカキセロゲルの力学強度特性の一例として、上記非特許文献1の第2図に、圧縮応力と圧縮歪の関係を示す特性曲線が開示されており、圧縮強度が約10MPa、圧縮限界歪として60%〜80%程度の特性を想定する。尚、メチル化シリカキセロゲルの引っ張り強度及び引っ張り限界歪は、従来のシリカエアロゲル等と同様に極めて低いという欠点を有している。
【0029】
尚、本実施形態で使用するメチル化シリカキセロゲルは、上述の通り、上記特許文献6或いは上記非特許文献1に開示されている公知の製造方法を用いて作製されるものを想定しており、気孔率(空隙率)として80〜90%程度を想定しているため、従来のシリカエアロゲル等と同様に、ヤング率は、高密度シリカ(例えば、板ガラス2)と比較して4桁程度低い値となる。上記非特許文献1の第2図に示されるように、メチル化シリカキセロゲルの圧縮応力・圧縮歪特性は非線形であるが、圧縮歪が0〜30%程度の範囲内では略線形な特性を示しており、その場合のヤング率は、概ね従来のシリカエアロゲル等と同程度である。尚、従来のシリカエアロゲルの物理特性については、上記非特許文献2のURLに開示されている。
【0030】
尚、板ガラス2及び透明多孔体3の縦横の寸法及び厚さは、光学特性及び断熱特性と同様に、製品としての複層ガラス1の仕様に依存して適切な寸法を選択すれば良い。
【0031】
ストッパ4は、透明多孔体3が厚み方向(Z方向)に2枚の板ガラス2によって両側から締め付けられ圧縮された場合に、透明多孔体3が板ガラス2の表面に平行な方向(X及びY方向)に伸張するのを抑制するためのものである。尚、また、ストッパ4の材料は、透明多孔体3のX及びY方向への伸張を抑制する必要から透明多孔体3より十分大きいヤング率を有する材料が好ましく、例えば、合成樹脂、ガラス、木材、金属等が使用可能である。
【0032】
ストッパ4は、透明多孔体3のX及びY方向に面した端面の外周部において、2枚の板ガラス2の一方側の内側面2aに固定されており、2枚の板ガラス2の他方側の内側面2bに向って突出している。他方側の板ガラス2の内側面2bと対向するストッパ4の先端部に、Oリング等のガスケット6を介装するための凹部4aが形成され、他方側の板ガラス2の内側面2bとストッパ4の先端部との間にガスケット6が設けられている。
【0033】
透明多孔体3が、2枚の板ガラス2によって両側から締め付けられ圧縮された場合に、ストッパ4が無い場合には、X及びY方向(つまり、板ガラス2の表面に平行な全方向)に向って伸張するが、ストッパ4によってその伸張が抑止される。この結果、透明多孔体3には、Z方向に、2枚の板ガラス2からの締め付けによる圧縮歪SCzが、X及びY方向に、Z方向の圧縮歪SCzに透明多孔体3のポアッソン比を乗じた圧縮歪SCxyが生じることになる。つまり、透明多孔体3には、全方向に圧縮応力が発生する。尚、メチル化シリカキセロゲルのポアッソン比は、上記非特許文献1の実験結果を参照すると、製造方法の細部の違いによって、0.2或いは0.12(一部のサンプル)となる。
【0034】
窓枠5は、透明多孔体3を両側から締め付けている状態の2枚の板ガラス2の間隔を固定するためのもので、各板ガラス2の外周部のZ方向外側面2c、2dをZ方向に挟み込む構造となっている。従って、図1に示す状態の複層ガラス1では、透明多孔体3には、全方向に予め圧縮歪が付与されている。窓枠5の材料としては、透明多孔体3のZ方向の圧縮歪を固定する必要から透明多孔体3より十分大きいヤング率を有する材料が好ましく、例えば、合成樹脂、ガラス、木材、金属等、種々のものが使用可能であるが、金属等の板ガラス2との熱膨張率の差が大きい材料を使用する場合には、熱膨張或いは熱収縮後において適正な圧縮歪が確保されるように予め大き目の圧縮歪を付与する必要がある。但し、アルミ材の場合でも、アルミの熱膨張率が0.23×10−4/Kであるので、周囲温度が設計温度から50℃変化しても圧縮歪の変動は0.1%程度であり、過度な圧縮歪を付与する必要はない。
【0035】
次に、図1に示す複層ガラス1の組立方法について、図2を参照して簡単に説明する。図2(a)及び(b)は、夫々図1と同じ断面における透明多孔体3に対する圧縮歪付与前と付与後の複層ガラス1の断面構造を示す図である。図2(a)に示すように、2枚の板ガラス2の一方を固定して、他方に対してZ方向外側(図中上側)から圧力Fを加えて、透明多孔体3をZ方向に押し込む。この結果、図2(b)に示すように、圧縮歪付与前に厚さTであった透明多孔体3が、厚さ(T−ΔT)に変化すると、透明多孔体3を両側から締め付けている状態の2枚の板ガラス2の外周部に、窓枠5をX及びY方向外側から嵌め込み、各板ガラス2の外周部のZ方向外側面2c、2dをZ方向に挟み込んで、透明多孔体3の厚さ(T−ΔT)を固定する。ここで、板ガラス2と透明多孔体3では、ヤング率に大きな差があり、透明多孔体3のヤング率が板ガラス2より4桁程度小さいので、板ガラス2の外周部を窓枠5で固定するだけで、透明多孔体3の全面をZ方向に締め付けることができる。以上により、透明多孔体3には、Z方向に圧縮歪SCz(第1の圧縮歪に相当)が、X及びY方向に圧縮歪SCxy(第2の圧縮歪に相当)が予め付与されることになる。
【0036】
図2に示す場合、Z方向の圧縮歪SCzは、以下の数1で与えられる。また、Z方向の圧縮歪SCzによって、ストッパ4によってX及びY方向の伸張ΔLx、ΔLyが抑止されなければ、ポアッソン比をRpとして、伸張ΔLx、ΔLyと圧縮歪SCzとポアッソン比Rpの関係は、以下の数2のようになる。ここで、Lx、Lyは圧縮前のX及びY方向の透明多孔体3の長さである。
【0037】
(数1)
SCz=ΔT/T
(数2)
Rp=(ΔL/L)/(ΔT/T)
ΔL/L=ΔLx/Lx=ΔLy/Ly
【0038】
従って、X及びY方向に発生する圧縮歪SCxyは、ΔL/Lが小さい場合には、近似的に以下の数3で与えられることになる。
【0039】
(数3)
SCxy=ΔL/(ΔL+L)≒ΔL/L=Rp・SCz
【0040】
次に、図1に示す複層ガラス1の透明多孔体3に予め付与する圧縮歪の大きさについて説明する。ここで、複層ガラス1に要求される力学的性能として、以下を想定する。つまり、板ガラス2のX方向の長さを2mとした場合に、外圧によって曲率半径5mの湾曲が生じた場合に、透明多孔体3に生じる引っ張り歪が、予め付与する圧縮歪によって相殺されて、透明多孔体3に引っ張り歪による破壊が生じないことを要件とする。
【0041】
複層ガラス1の窓枠5のX及びY方向の位置が固定され、板ガラス2のX及びY方向の両端が窓枠5に固定されていると、板ガラス2のX方向の両端間の間隔は2mに拘束される。この状態で、板ガラス2に曲率半径5mの湾曲が生じると、図3に模式的に示すように、その湾曲面に沿った板ガラス2の長さは、約2.0136mに伸長する。つまり、板ガラス2には、湾曲面に沿って約0.68%の引っ張り歪が生じる。同様に、2枚の板ガラス2に挟まれた透明多孔体3にも曲率半径5mの湾曲が生じる。
【0042】
板ガラス2の内側面2a、2bと透明多孔体3の間の摩擦力によって、透明多孔体3の動きが、板ガラス2の内側面2a、2bに完全に拘束されている場合は、透明多孔体3には、板ガラス2の湾曲面に沿って、板ガラス2と同じ引っ張り歪が生じる。つまり、湾曲状態のX方向に約0.68%の引っ張り歪STxが生じる。尚、湾曲状態のY方向にも、板ガラス2のY方向の長さに応じた引っ張り歪STyが生じるが、Y方向の長さの方がX方向の長さより短いので、引っ張り歪STyは引っ張り歪STxより小さい。
【0043】
本実施形態では、この引っ張り歪STx、STyをX及びY方向に予め付与した圧縮歪SCxyで相殺するために、圧縮歪SCxyを引っ張り歪STx、STy以上の値、例えば0.7%に設定する。ここで、ポアッソン比Rpが0.2の場合を想定すると、上記数3より、Z方向に予め付与すべき圧縮歪SCzは、3.5%となる。本実施形態で使用するメチル化シリカキセロゲルは、上述の通り、圧縮限界歪が80%と非常に大きな値を示すので、3.5%の圧縮歪SCzで破壊することはない。ここで、熱膨張または収縮によってZ方向に予め付与した圧縮歪SCzが0.1%変化しても、X及びY方向に予め付与した圧縮歪SCxyは、0.02%の変化にしかならないので、約0.68%の引っ張り歪STxに対して十分である。
【0044】
板ガラス2の内側面2a、2bと透明多孔体3の間の摩擦力がなく、透明多孔体3の動きが、板ガラス2の内側面2a、2bに拘束されない場合は、湾曲した透明多孔体に生じる歪は、板ガラス2の内側面2a、2bからの拘束を受けないため、湾曲面の凸部側で引っ張り歪となり、凹部側で圧縮歪となる。透明多孔体3の厚みが10mm程度とすると、曲率半径5mの湾曲に対して、2枚の板ガラス2の表面に平行な方向に生じる最大の引っ張り歪は0.1%程度となる。当該引っ張り歪は、透明多孔体3の動きが板ガラス2の内側面2a、2bに完全に拘束されている場合の引っ張り歪STx(0.68%)と比較して小さな値となっている。実際に、板ガラス2の内側面2a、2bと透明多孔体3の間の接触状態は、透明多孔体3の動きが板ガラス2の内側面2a、2bに完全に拘束されている状態、透明多孔体3の動きが板ガラス2の内側面2a、2bに拘束されていない状態、或いは、その中間状態の何れかであるので、予測される最大の引っ張り歪としては、透明多孔体3の動きが板ガラス2の内側面2a、2bに完全に拘束されている場合を想定すれば十分である。
【0045】
尚、板ガラス2のX及びY方向の長さが2mより長くなると、その長さに応じてZ方向に予め付与すべき圧縮歪SCzを大きくする必要が生じる。また、板ガラス2のX及びY方向の長さが2mより短くなると、その長さに応じてZ方向に予め付与すべき圧縮歪SCzを小さくすることができる。しかし、板ガラス2のX及びY方向の長さが短くなると、透明多孔体3の動きが板ガラス2の内側面2a、2bに拘束されていない状態における2枚の板ガラス2の表面に平行な方向に生じる最大の引っ張り歪の方が、透明多孔体3の動きが板ガラス2の内側面2a、2bに完全に拘束されている場合の引っ張り歪STx、STyより大きくなる場合があるので、何れか大きい方の引っ張り歪を予測される最大の引っ張り歪として扱うことになる。
【0046】
〈第2実施形態〉
次に、本発明の第2実施形態に係る複層ガラス7について説明する。図4に示すように、本発明の第2実施形態に係る複層ガラス7は、2枚の板ガラス2と、2枚の板ガラス2に挟持された平板状の透明多孔体3、ストッパ4、スペーサー部材8、封止材9、及び、窓枠5を備えて構成されている。尚、図4は、2枚の板ガラス2の表面と垂直な断面(XZ断面またはYZ断面)における複層ガラス1の概略の構造を示す断面図である。尚、図4において、図1の第1実施形態に係る複層ガラス1と共通する部位については共通の符号を付して説明する。
【0047】
第2実施形態に係る複層ガラス7と第1実施形態に係る複層ガラス1との相違点は、複層ガラス7の組立方法と、透明多孔体3に対してZ方向に予め付与する圧縮歪SCzの掛け方、及び、スペーサー部材8と封止材9を備えている点の3つであり、これらの相違点は、相互に関連している。2枚の板ガラス2とストッパ4と窓枠5については、第1実施形態に係る複層ガラス1と同じであるので、重複する説明は割愛する。
【0048】
スペーサー部材8は、ストッパ4と窓枠5の間の2枚の板ガラス2間に設けられ、2枚の板ガラス2の内側面2a、2bとスペーサー部材8の間には、気密封止用の封止材9が設けられている。スペーサー部材8と封止材9により、2枚の板ガラス2とスペーサー部材8で囲まれた内部空間を気密封止するため、スペーサー部材8は気密な材料である必要があり、例えば、合成樹脂、ガラス、金属等が利用可能である。封止材9は、2枚の板ガラス2の内側面2a、2bとスペーサー部材8の間を気密封止可能な材料の中から適宜選択すればよく、例えば、ガラスフリット、エポキシ樹脂等の樹脂接着封止剤、ブチルゴム等が利用可能である。
【0049】
次に、図4に示す複層ガラス7の組立方法について、図5を参照して簡単に説明する。図5(a)及び(b)は、夫々図4と同じ断面における窓枠5を取り付ける前の透明多孔体3に対する圧縮歪付与前と付与後の複層ガラス7の断面構造を示す図である。図5(a)に示すように、2枚の板ガラス2とスペーサー部材8で囲まれた内部空間を真空引きして透明多孔体3の気相部分を減圧する。当該気相部分の内圧と2枚の板ガラス2の外側の大気圧の差により、2枚の板ガラス2の両側から圧力Fを加えて、透明多孔体3をZ方向に押し込む。この結果、図2(b)に示すように、圧縮歪付与前に厚さTであった透明多孔体3が、厚さ(T−ΔT)に変化すると、封止材9を硬化させて、2枚の板ガラス2とスペーサー部材8で囲まれた内部空間を気密封止する。これにより、圧力Fの印加状態が維持される。引き続き、透明多孔体3が両側から大気圧で締め付けている状態の2枚の板ガラス2の外周部に、窓枠5をX及びY方向外側から嵌め込み、各板ガラス2の外周部のZ方向外側面2c、2dをZ方向に挟み込んで、透明多孔体3の厚さ(T−ΔT)を固定することで、図4に示す複層ガラス7が得られる。
【0050】
以上の組立方法により組み立てられた複層ガラス7は、第1実施形態の場合と同様に、透明多孔体3に対して、Z方向に数1で与えられる圧縮歪SCz(第1の圧縮歪に相当)が、X及びY方向に数3で与えられる圧縮歪SCxy(第2の圧縮歪に相当)が予め付与されることになる。
【0051】
2枚の板ガラス2とスペーサー部材8で囲まれた内部空間の真空度は、数1で与えられる圧縮歪SCzが付与される圧縮応力Fcと釣り合う圧力Fとなるように設定すればよい。圧縮応力Fcは、使用する透明多孔体3の圧縮歪SCzと圧縮応力Fc間の特性に導出される。また、大気圧は気象条件によって変動するため、気圧低下によって圧力Fが減少するのを見越して透明多孔体3の気相部分を減圧すれば良い。尚、複層ガラス1に要求される力学的性能として、第1実施形態の場合と同様の要件を想定した場合、Z方向に予め3.5%以上の圧縮歪SCzを付与するのに、上記真空度としては、0.5ata(≒0.049MPaA)程度で十分である。
【0052】
以下に、別の実施形態につき説明する。
〈1〉上記第1及び第2実施形態では、ストッパ4は、図1及び図4に示すように、透明多孔体3のX及びY方向に面した端面の外周部において、2枚の板ガラス2の一方側の内側面2aに固定され、2枚の板ガラス2の他方側の内側面2bに向って突出し、板ガラス2の内側面2bとストッパ4の先端部との間にガスケット6を備えた構造としたが、ストッパ4の構造は、図1及び図4に示す構造に限定されるものではない。
【0053】
ストッパ4は、透明多孔体3にZ方向の圧縮歪SCzが付与された場合に、X及びY方向に伸張するのを抑制できる構造であれば、その目的は達成されるので、ストッパ4の部材は必ずしも必要ではない。例えば、板ガラス2の内側面2a、2bと透明多孔体3の間の摩擦力によって、透明多孔体3の動きが板ガラス2の内側面2a、2bに完全に拘束されている場合は、図1及び図4に示すようなストッパ4の部材は不要である。また、板ガラス2の内側面2a、2bと透明多孔体3の間の摩擦力が、ストッパとして機能するには小さすぎる場合に、例えば、図6に示すように、板ガラス2の内側面2a、2bと透明多孔体3の間の摩擦力を高めるように、内側面2a、2bの外周部を粗面(矢符S)に加工しても構わない。更に、2枚の板ガラス2と透明多孔体3の端部を揃えることで、窓枠5を圧縮歪SCzの付与後におけるストッパとして兼用することもできる。
【0054】
また、図1及び図4に示すストッパにおいて、2枚の板ガラス2とストッパ4で囲まれた透明多孔体3の気相部分を気密封止する必要がなければ、ガスケット6は設けなくても構わない。
【0055】
〈2〉上記第2実施形態では、ストッパ4とスペーサー部材8の両方を備えた構造としたが、スペーサー部材8と封止材9を設けずに、ストッパ4の先端部と他方側の板ガラス2の内側面2bの間に設けていたガスケット6だけで気密封止するようにしても構わない。更には、当該ガスケット6に代えて、封止材9を設けて、圧縮歪SCzの付与後にストッパ4の先端部と他方側の板ガラス2の内側面2b間の封止材9を硬化させるようにしても構わない。
【0056】
〈3〉上記実施形態では、透明多孔体3にZ方向の圧縮歪SCzを予め付与するための圧力Fの掛け方として、窓枠5により2枚の板ガラス2をZ方向に締め付ける方法(第1実施形態)と、透明多孔体3の気相部分を減圧して、当該気相部分の内圧と2枚の板ガラス2の外側の大気圧の差により2枚の板ガラス2をZ方向に締め付ける方法(第2実施形態)を夫々説明したが、上記第1及び第2実施形態の締め付け方法を組み合わせるのも好ましい実施の形態である。即ち、上記第1及び第2実施形態の締め付け方法を組み合わせると、2枚の板ガラス2をZ方向に締め付けた後に、気圧が低下しても窓枠5により初期の締め付け状態が維持できる。
【0057】
〈4〉上記第2実施形態では、透明多孔体3の気相部分を0.5ata程度に減圧したが、更に減圧して断熱性を向上させても構わない。この場合、Z方向の圧縮歪SCzが更に増加することになるが、圧縮限界歪以下であれば問題ない。上記第2実施形態では、透明多孔体3に圧縮強度が約10MPaのメチル化シリカキセロゲルを使用しているので、透明多孔体3の気相部分を高真空状態にしてもZ方向に掛かる圧力Fはせいぜい大気圧であるので全く問題ない。
【0058】
〈5〉上記第1及び第2実施形態では、透明多孔体3に、圧縮強度が約10MPa、圧縮限界歪として60%〜80%程度の特性を有するメチル化シリカキセロゲルを使用することを想定したが、透明多孔体3は、メチル化シリカキセロゲルに限定されるものではない。製品としての複層ガラス1の仕様に応じてZ方向に予め付与される圧縮歪SCzが圧縮限界歪未満となる限りにおいて、メチル化シリカキセロゲルより圧縮限界歪の小さい透明多孔体材料を用いても構わない。
【0059】
例えば、板ガラス2のX方向の長さを1mとした場合には、外圧によって曲率半径5mの湾曲が生じた場合の湾曲面に沿った板ガラス2の長さは、約1.0017mに伸長する。つまり、板ガラス2には、X方向の湾曲面に沿って約0.17%の引っ張り歪が生じる。従って、透明多孔体3には、板ガラス2の湾曲面に沿って、板ガラス2と同じ約0.17%の引っ張り歪STxが生じる。ポアッソン比Rpが0.2の透明多孔体3では、Z方向に予め付与する圧縮歪SCzは0.85%以上で良いことになる。従って、圧縮限界歪が1%程度の透明多孔体3でも使用できることが分かる。従来のシリカエアロゲル(ケイ素と酸素からなる骨格構造を備えた無機非晶質ゲル)は、圧縮限界歪が1%程度であるので、板ガラス2のX及びY方向の長さが1m程度であれば、透明多孔体3として利用可能である。
【0060】
また、圧縮限界歪が1%程度の透明多孔体3であっても、板ガラス2の内側面2a、2bと透明多孔体3の間の摩擦力がなく、透明多孔体3の動きが、板ガラス2の内側面2a、2bに拘束されない場合は、上述の通り、透明多孔体3に対して湾曲状態のX及びY方向に生じる引っ張り歪STx、STyが大幅に低減するので、板ガラス2のX及びY方向の長さが2m程度の場合でも、引っ張り歪STx、STyが0.1%程度であるので、ポアッソン比Rpが0.2の透明多孔体3では、Z方向に予め付与する圧縮歪SCzは0.5%以上で良いことになる。従って、従来のシリカエアロゲルのような圧縮限界歪が1%程度の透明多孔体3でも使用できることが分かる。また、板ガラス2の内側面2a、2bと透明多孔体3の間の摩擦力が生じる場合であっても、透明多孔体3の板ガラス2の内側面2a、2bとの接触面を有機高分子等で被膜して摩擦力を低減する処理をすることで、実質的に透明多孔体3の圧縮限界歪を高めることが可能となる。
【0061】
また、透明多孔体3の材料として、ケイ素と酸素を有する骨格構造に限定されるものではない。例えば、チタニアやアルミナのように光吸収のないエアロゲルは、原理的には、透明多孔体3の材料として利用できる。
【0062】
〈6〉上記第1及び第2実施形態では、透明多孔体3に対して、湾曲状態のX及びY方向に予め付与する圧縮歪SCxyとして、湾曲状態のX及びY方向に生じると予測される引っ張り歪STx、STyの最大値以上の値を付与する場合を説明したが、圧縮歪SCxyは、引っ張り歪STx、STy未満であっても、圧縮歪SCxyと相殺後に生じている引っ張り歪が、引っ張り限界歪未満であれば十分である。従って、湾曲状態のX及びY方向に予め付与する圧縮歪SCxyとして、湾曲状態のX及びY方向に生じると予測される引っ張り歪STx、STyの最大値以上の値を付与しなくても、透明多孔体3の引っ張り限界歪を正確に把握できれば、外圧による湾曲等の変形によって生じる引っ張り歪によって透明多孔体3が破壊されるのを、本発明の原理によって防止できる。
【0063】
〈7〉上記第1及び第2実施形態では、透明多孔体3の気相成分について、特に明示しなかったが、当該気相成分として、空気等以外に、希ガスを使用するのも好ましい。透明多孔体3の気相部分には通常空気が入っている。しかしながら、空気の主成分である窒素や酸素及び水は多原子分子であるため分子全体の運動エネルギのほかに、振動回転のエネルギを持っており熱伝導率が高い。よって、透明多孔体3の気相成分として希ガスを用いることで、透明多孔体3の気相成分による熱伝導を低減でき、断熱性能の向上が図れる。また、透明多孔体3の気相成分としてはできるだけ分子量の大きなAr(アルゴン)等の希ガスが望ましい。
【0064】
尚、上記第1実施形態において、透明多孔体3の気相成分に希ガスを使用する場合には、透明多孔体3の気相部分を減圧するか否かに拘らず、気密封止する必要があるので、図1に示す構造において、他方側の板ガラス2の内側面2bとストッパ4の先端部との間にガスケット6を設けるのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る高断熱複層ガラスは、住宅やビル等の建物の壁等に設ける複層ガラスとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る複層ガラスの第1実施形態における概略構造を模式的に示す断面図
【図2】図1に示す複層ガラスの透明多孔体に対する圧縮歪付与前と付与後の複層ガラスの断面構造を模式的に示す断面図
【図3】図1に示す複層ガラスの板ガラスに生じる引っ張り歪を説明する図
【図4】本発明に係る複層ガラスの第2実施形態における概略構造を模式的に示す断面図
【図5】図4に示す複層ガラスの透明多孔体に対する圧縮歪付与前と付与後の複層ガラスの窓枠を取り付ける前の断面構造を模式的に示す断面図
【図6】本発明に係る複層ガラスのストッパ部材を設けない他の実施形態における概略構造を模式的に示す断面図
【符号の説明】
【0067】
1、7: 複層ガラス
2: 板ガラス
2a、2b: 板ガラスの内側面
2c、2d: 板ガラスの外側面外周部
3: 透明多孔体
4: ストッパ
4a: ストッパの凹部
5: 窓枠
6: ガスケット
8: スペーサー部材
9: 封止材
F: 圧縮歪をZ方向に予め付与するための圧力
S: 粗面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光を透過する平板状の透明多孔体が2枚の板ガラス間に挟まれた積層構造を有する複層ガラスであって、
前記透明多孔体が引っ張り限界歪より大きい圧縮限界歪を有し、
前記透明多孔体に対して予め圧縮歪が付与されていることを特徴とする複層ガラス。
【請求項2】
前記2枚の板ガラスに加わる外圧による変形によって前記透明多孔体に生じると予測される引っ張り歪の最大値以上の圧縮歪が、前記予測される引っ張り歪の方向に付与されるように、前記透明多孔体に対して予め圧縮歪が付与されていることを特徴とする請求項1に記載の複層ガラス。
【請求項3】
前記2枚の板ガラスから前記透明多孔体に対して前記透明多孔体の厚み方向に加えられる圧力によって、前記透明多孔体に対して前記厚み方向に予め第1の圧縮歪が付与され、
前記透明多孔体が前記2枚の板ガラスの表面に平行な方向へ拡張するのを抑止された状態で、前記透明多孔体が前記2枚の板ガラスによって挟持されていることで、前記透明多孔体に対して前記2枚の板ガラスの表面に平行な方向に第2の圧縮歪が予め付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の複層ガラス。
【請求項4】
前記2枚の板ガラスを前記透明多孔体の厚み方向に挟持する窓枠によって、前記2枚の板ガラスを前記透明多孔体の厚み方向に締め付けることにより、前記透明多孔体に対して前記第1の圧縮歪が予め付与され、
前記透明多孔体が前記2枚の板ガラスの表面に平行な方向へ拡張するのを抑止されることで、前記透明多孔体に対して前記第2の圧縮歪が予め付与されていることを特徴とする請求項3に記載の複層ガラス。
【請求項5】
前記透明多孔体内の気相を減圧することにより、前記2枚の板ガラスの両側から加わる大気圧によって、前記透明多孔体に対して前記第1の圧縮歪が予め付与され、
前記透明多孔体が前記2枚の板ガラスの表面に平行な方向へ拡張するのを抑止されることで、前記透明多孔体に対して前記第2の圧縮歪が予め付与されていることを特徴とする請求項3に記載の複層ガラス。
【請求項6】
前記透明多孔体に固有の圧縮限界歪が3.5%より大きく、
前記第1の圧縮歪が3.5%以上、前記透明多孔体に固有の圧縮限界歪未満であることを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載の複層ガラス。
【請求項7】
前記透明多孔体が、無機或いは有機無機ハイブリッド非晶質ゲルであることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の複層ガラス。
【請求項8】
前記透明多孔体が、骨格構造にケイ素と酸素を含むことを特徴とする請求項7に記載の複層ガラス。
【請求項9】
前記透明多孔体が、メチル化シリカキセロゲルであることを特徴とする請求項8に記載の複層ガラス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−286685(P2009−286685A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144300(P2008−144300)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(304057472)株式会社ルネッサンス・エナジー・インベストメント (12)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】