説明

複層ガラス

【課題】外観を損なうことなく、かつ、複層ガラスのサイズによらず、遮音性能を向上させた複層ガラスを提供する。
【解決手段】複数枚のガラス板G1、2を、スペーサー4を介して隔置することによって、前記ガラス板G1、2同士の間に密閉された中空層1を形成し、該中空層1には前記スペーサー4と略平行で所定間隔の位置に共鳴用部材9が配置され、該共鳴用部材9、前記スペーサー4及び前記ガラス板G1、2にて区画された空洞部が形成された複層ガラス100であって、前記共鳴用部材9は、前記中空層1と前記空洞部2を連通し、所定幅を有する蛇行状の連通通路10が形成されており、さらに、前記連通通路10が前記スペーサー4の長手方向に沿って連続して形成されており、前記共鳴用部材9と前記空洞部2によって共鳴器を形成してなることを特徴とする複層ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低周波領域の遮音性を向上させる共鳴部材を備えた複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
複層ガラスは、一般に、複数枚のガラス板を、スペーサーを用いて隔置し、ガラス板とスペーサーとで密閉空間である中空層を形成せしめた構成であり、複層ガラスは中空層があることで断熱性能が高まり、結露防止、室内側冷暖房の負荷軽減などの利点があり、ガラスサッシとして一般住宅用を主として広く使われることが知られている。
【0003】
複層ガラスは中空層を有するため断熱性能には優れるが、この中空層が存在することによって、中空層を含めた同厚のガラス板に比較すると遮音性能は低い。このことは、密度の大きい物体ほど音を吸収減衰しやすく、また、固体抵抗により振動し難い
ので、ガラスの方が、気体であり分子が動き易い空気より、音の吸収減衰が大きいためである。特に、複層ガラスは、ドアや窓材として使用されるようになってきており、断熱性能とともに防音性能を十分に有するものが求められる。
【0004】
複層ガラスの遮音性能を低下させる要因についてはいくつかの現象が知られており、複層ガラスにおける遮音性能を向上させるには、主にコインシデンス効果と共鳴透過現象の二つの現象を抑制することが重要となることが知られている。
【0005】
コインシデンス効果とは、板状の材料において特有の周波数で透過損失が小さくなる、言い換えれば、遮音性能が低下する現象である。具体的には、音が板面に対し斜めに入射すると、板面上の位置によって音圧に位相差ができるため、板面にそって固有の屈曲強制振動を生じ、ある周波数で音の透過が大きくなり遮音性能が低下する現象である。
【0006】
また、共鳴透過現象とは、複層ガラスにおいて、1対のガラスが中空層をバネとして共振し、中空層のある部分(力学的平衡点)を境にして右側の系と左側の系が同じ振動数で振動する現象である。この2つの系はエネルギー的に等価であることになり互いに共鳴し、複層ガラスはこの振動数の元では遮音性能が低下する。
【0007】
これまで、複層ガラスの遮音性を向上させるために、音響エネルギーを熱エネルギーに変換させる吸音効果を利用したヘルムホルツ共鳴器を板ガラス間に介装させた複層ガラスが検討されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、板ガラスの周縁部に所定間隔で貫通した小孔を有する棒状の共鳴用部材を配し、共鳴用部材とスペーサーとの間に空気層部を有する吸音部を配して、音響エネルギーを熱エネルギーに変換させる吸音効果を利用したヘルムホルツ共鳴器を形成させる遮音構造を有する複層ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−063844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図6に示すように、特許文献1に開示された、従来の共鳴用部材を備えた複層ガラスは、2枚のガラス板G1、G2がスペーサー4を介して隔置され、2枚のガラスG1、G2とスペーサー4で密閉された空間である中空層1が形成される。さらに、中空層1内にはスペーサー4に平行にスペーサー4と所定距離Hの間隔を隔てて、棒状で厚さがLの共鳴用部材7が配置され、共鳴用部材7および2枚のガラス板G1、G2にて空洞部2が形成される。
【0011】
さらに、図7に示すように、共鳴用部材7には、中空層1と空洞部2とを連通する直径dの複数個の貫通孔8が所定ピッチ間隔Pを空けて設けられており、この共鳴用部材7と空洞部2によって、ヘルムホルツ共鳴器を形成する構成となっている。
【0012】
特許文献1に記載の従来の構成では、共鳴用部材7に所定ピッチ間隔Pごとに連続的に貫通孔8を設け、ヘルムホルツ共鳴器が連続的に並んでいる構成と等価であると考えられており、この従来の構成では、共鳴用部材7の貫通孔8の数が多いほど、共鳴器の数が多くなり、その吸音効果は大きくなる。
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の複層ガラスは、十分な吸音効果を得るためには、貫通孔8の間隔に制限(所定の間隔が必要)があり、サイズの小さな窓などの開口部に適用した場合、複層ガラスの各辺が短くなるため、物理的に共鳴用部材7に十分な数の貫通孔8を設けることができない。
【0014】
そのため、特許文献1に記載のヘルムホルツ共鳴器の構成では、小型サイズの複層ガラスに適用する場合、短い辺の共鳴用部材7に十分な数の貫通孔8を設けることができず、ヘルムホルツ共鳴器の効果を十分に発現させ、優れた遮音特性を発揮することが難しくなるという問題点があった。つまり、従来の貫通孔を設ける共鳴用部材では、複層ガラスのサイズが小さくなると、吸音効果を発現する共鳴器の数を増やすことが難しくなる。また、複層ガラスの端部に位置する個々の共鳴器は、サイズの制限によって、設計通りの周波数の吸音効果を得られなくなる。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、共鳴用部材を備えた複層ガラスにおいて、外観を損なうことなく、かつ、小型サイズから大型サイズの開口部まで幅広い複層ガラスのサイズに対応でき、十分な遮音性能を向上させた複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、共鳴用部材に中空層と空洞部を連通する蛇行状の連通通路を形成し、低周波領域の吸音効果を発現させ、さらに、この連通通路をスペーサーの長手方向に沿って連続して形成させることによって、複層ガラスのサイズ(各辺の長さや形状)に影響を受けずに、ヘルムホルツ共鳴器の吸音効果を発現させることができることを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明は、複数枚のガラス板を、スペーサーを介して隔置することによって、前記ガラス板同士の間に密閉された中空層を形成し、該中空層には前記スペーサーと略平行で所定間隔の位置に共鳴用部材が配置され、該共鳴用部材、前記スペーサー及び前記ガラス板にて区画された空洞部が形成された複層ガラスであって、前記共鳴用部材は、前記中空層と前記空洞部を連通し、所定幅を有する蛇行状の連通通路が形成されており、さらに、前記連通通路が前記スペーサーの長手方向に沿って連続して形成されており、前記共鳴用部材と前記空洞部によって共鳴器を形成してなることを特徴とする複層ガラスである。
【0018】
また、前記共鳴用部材は、所定間隔を隔てて対向配置された少なくとも2つの断面略コ字状あるいは断面略ヨ字状部材からなる構成にしてもよい。
【0019】
この構成によれば、少なくとも2つの断面略コ字状部材あるいは断面略ヨ字状部材を対向させることによって、蛇行状の連通通路を容易に形成させることができるため、共鳴用部材に、特殊な孔加工など煩雑な作業を施す必要がなく、製造上の観点からコスト的に有利である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、共鳴用部材に中空層と空洞部を連結する蛇行状の連通通路が形成されているため、ヘルムホルツ共鳴器の開口部に対応する連通通路を長くできるため、低周波領域の吸音効果を十分に発現させることができる。また、この連通通路はスペーサーの長手方向に沿って連続して形成されているため、ガラスの形状に影響されず、小型サイズの複層ガラスなどの各辺の長さが小さい場合でも設計通りのヘルムホルツ共鳴器を形成させることができる。したがって、複層ガラスのサイズの影響を受けずにヘルムホルツ共鳴器の吸音効果を十分に発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る複層ガラスの一例を示す部分拡大断面図である。
【図2】図1の共鳴用部材近傍の拡大図である。
【図3】本発明に係る複層ガラスの斜視図である。
【図4】本発明に係る複層ガラスの遮音性能曲線グラフ(実施例1)である。
【図5】本発明に係る複層ガラスの遮音性能曲線グラフ(実施例2)である。
【図6】従来の複層ガラスの一例を示す部分拡大断面図である。
【図7】従来の共鳴用部材を備えた複層ガラスの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る複層ガラス100について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明に係る複層ガラスの一例を示す部分拡大断面図である。また、図3は、本発明に係る複層ガラスの斜視図である。図6は、従来の共鳴用部材を備えた複層ガラスの一例を示す部分拡大断面図である。なお、図6において、図1の本発明の複層ガラスと同じ構成、作用を有する部分については、同一の符号を付した。
【0023】
図1に示すように、本発明の複層ガラス100は、2枚のガラス板G1、G2がスペーサー4を介して隔置され、2枚のガラスG1、G2とスペーサー4で密閉された空間である中空層1が形成される。
【0024】
スペーサー4の両側にはブチルゴム接着剤などの一次シール材5が貼着され、2枚のガラスG1、G2を一次シール材5で接着一体化し、2枚のガラスG1、G2を隔置して密閉された中空層1を形成する。スペーサー4にはゼオライトなどの乾燥剤が充填される。尚、2枚のガラスG1、G2とスペーサー4に囲まれた凹部の形状を有する二次シール部6には、水分などが浸入しないように、シリコーンシーラントやポリサルファイドシーラントなどが充填される。
【0025】
中空層1内には、スペーサー4と平行にスペーサー4と所定の間隔を隔てて、スリット型共鳴用部材9が配設される。以下、本発明に係る共鳴用部材をスリット型共鳴用部材9と称して説明する。このスリット型共鳴用部材9、スペーサー4及び2枚のガラスG1、G2によって区画された空洞部2が形成される。また、スリット型共鳴用部材9には中空層1と空洞部2を連通し、所定幅を有する蛇行状の連通通路10が形成されており、さらに、図3の斜視図に示すように、この連通通路10はスペーサー4の長手方向に沿って連続に形成されている。なお、スリット型共鳴用部材9と空洞部2によって吸音効果を発現するヘルムホルツ共鳴器が形成される。
【0026】
本発明の複層ガラス100におけるヘルムホルツ共鳴器において、共鳴用部材に蛇行状の連通通路10を形成する方法は、従来のアクリルや金属部材などの共鳴用部材に蛇行状の連通通路10を特殊な孔加工を施すことによって形成させるようにしてもよく特に限定はされない。例えば、コストや製造上の観点から、アルミなどの安価な金属製の断面略コ字状部材あるいは断面略ヨ字状部材(スリット型共鳴用部材9)を使用して、この断面略コ字状部材あるいは断面略ヨ字状部材を少なくとも2つ用いて、中空層1の空間内において、所定間隔を隔てて対向配置させることによって、共鳴用部材に蛇行状の連通通路10を形成するようにしてもよい。
【0027】
以下に、本発明の複層ガラス100に適用されるヘルムホルツ共鳴器の原理および共鳴周波数(fr)の算出について詳細に説明する。
【0028】
本発明におけるヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数(fr)は、図1〜図3に示される複層ガラス100の構成において、下記の数式1を用いて算出することができる。下記の数式1中において、Cは気体の音速、Lは連通通路10の長さ、bは連通通路10の幅、Hはスペーサー4からスリット型共鳴用部材9までの空気層の高さ、Wは中空層1の幅、Kは管端補正係数、である。なお、図2に示すように、連通通路10の長さLは、スリット型共鳴用部材9に設けられた連通通路10の空洞部2側の開口部Aから中空層1側の開口部Bまでの距離を表し、連通通路10の幅bの中心点を基準にして長さを測定して算出したものを表す。
【数1】

また、数式1に示されるKは、ヘルムホルツ共鳴器において、本発明のスリット型共鳴用部材9用いた場合の係数であり、Kbとして開口端補正値を表すものである。管端補正係数Kは、下記の数式2にて算出することができる。なお、数式2におけるPは、スリットの開口率(P=b/W)であり、ここにbは、連通通路10の幅、Wは、中空層1の幅である。
【0029】
なお、bの幅は、空洞部2の空洞部2側の開口部Aから、中空層1側の開口部Bまでにおける平均の値を表すものであり、連通通路10の任意に数箇所の幅bを測定して平均として算出したものである。
【数2】

上記の数式1より、複層ガラス100に形成させるヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数(fr)を適宜設計することが可能となる。本発明の複層ガラス100において、スリット型共鳴用部材9を形成し、中空層1と空洞部2を連通する連通通路10を蛇行状にすることによって、連通通路10の長さLを十分に長くすることができ、共鳴周波数(fr)を十分に低周波領域に設計することが可能となる。
【0030】
本発明における具体的な形状として、連通通路10の長さLは、10mm以上、160mm以下、とし、連通通路の幅bは、0.1mm以上、3.0mm以下、さらには、0.3mm以上、2.0mm以下、とすることが特に好ましい。また、スペーサー4とスリット型共鳴用部材9で構成される空洞部2の断面積(H×W)は、30mm2以上、1080mm2以下、ガラス板G1、G2の厚さを2.7mm以上、12.8mm以下、中空層1の幅Wは、6.0mm以上、12.0mm以下とすることが好ましい。上記の数値範囲にすることによって、複層ガラスの外観を損なうことなく、共鳴透過による低周波領域での遮音性能の改善が可能となる。
【0031】
本発明において、共鳴器の共鳴周波数は、150〜650Hzとなるように設計することが好ましい。一般的な複層ガラスにおいては、中空層の大きさ、該中空層に封入された気体の種類、板ガラスの厚さ、等の制限より、200〜1000Hz(特に、200〜500Hz)の音域で共鳴透過現象による遮音性能の低下という不具合が生じやすく、この周波数領域での遮音性能の低下が、遮音等級に影響を及ぼしやすくなる。そのため、共鳴器の共鳴周波数を150〜650Hzとすれば、200〜1000Hzの音域で共鳴透過現象による遮音性能の低下をできるだけ避けることによって、低周波領域の遮音性能を向上させ、例えば、遮音等級T−2、T−3などの優れた遮音性能を満たす複層ガラスを提供することができる。
【0032】
スリット型共鳴用部材9は複層ガラス100の4辺全周に沿って設けてもよいし、1辺のみ、もしくは2辺に沿って設けるようにしてもよい。また、スリット型共鳴用部材9は複層ガラス100の中央側に向け連続して複数個以上設けるようにしてもよい。
【0033】
スリット型共鳴用部材9をガラス板G1、G2に固定する方法は、特に制限はないが、例えば、耐候性や耐久性に優れる両面接着テープなどによって貼着する方法、その他として、同様な耐候性や耐久性に優れる接着力を発現する接着剤などを用いてもよい。
【0034】
スリット型共鳴用部材9の材質としては、各種材料を使用することができ、例えば、アクリルなどの硬質樹脂、ゴム、アルミなどの金属材料、を挙げることができ、吸音性を高めるために、表面を平滑に仕上げたものを使用してもよい。
【0035】
また、以上の実施の形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0036】
本発明に係るスリット型共鳴用部材9には、中空層1と空洞部2を連通する蛇行状の連通通路10が設けられており、この連通通路10がスペーサー4の長手方向に沿って連続的に形成されているため、従来の貫通孔を設ける複層ガラスに比べて、中空層1と空洞部2を連通する通路が大きくなる。そのため、乾燥剤3の除湿効果が中空層1に対して、短時間で十分に働き、複層ガラス内の結露発生をより完全に防止することができる。
【0037】
また、スリット型共鳴用部材9に十分な空間を有する蛇行状の連通通路10が形成されているため、特許文献1のような従来の共鳴用部材9を備えた複層ガラスに比べて、共鳴用部材に十分な連通通路10を有することとなり、共鳴用部材9を介した外部からの熱の伝達による影響が小さい。つまり、本発明においては、図6及び図7に示す従来例と比べ、共鳴用部材を介した熱の伝達による断熱性の低下が起こることを防ぐことができる。
【0038】
また、スリット型共鳴用部材9には、この連通通路10がスペーサー4の長手方向に沿って連続的に形成されているため、図6及び図7に示す従来例と比べ、複層ガラスのサイズによる貫通孔の位置のバラツキによって、外観上の見栄えを損なうことがないという利点もある。
【0039】
本発明は、上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0040】
本発明に係る複層ガラスにおいて、共鳴用部材として、少なくとも2つの断面略コ字状あるいは断面略ヨ字状部材を使用する場合、断面略コ字状あるいは断面略ヨ字状部材を夫々の組み合わせて使用することも可能であり、夫々、異なる材質のものを使用することも可能である。
【0041】
本発明に係る複層ガラスにおいて、複数枚のガラス板を、スペーサーを用いて隔置し、ガラス板とスペーサーとで密閉空間である中空層を形成せしめる構成とした種々の複層ガラスに適用することができる。例えば、中空層が1層のみならず、対向するガラス板を3枚以上用い、2層以上の中空層を形成した複層ガラスにも適用できる。
【0042】
本発明の複層ガラス100に適用されるガラス板G1、G2は、フロート法等で製造された後、何ら後処理がなされていない生板ガラス(単板ガラス)、製造後、風冷強化または化学強化等の強化処理がなされた強化ガラス、ポリビニルブチラール膜などの樹脂中間膜を介して接合した合わせガラス、網入りガラス等を使用することができる。また、本発明の複層ガラスを構成する2枚のガラス板の内の少なくとも1枚に熱伝達を抑制する低放射膜をコーティングしたLow−Eガラスを用いることももちろん可能である。
【0043】
さらに、複層ガラスに封入されるガスの種類についても特に限定されないが、例えば、一般的に公知の複層ガラスに封入されるアルゴン、クリプトン、キセノン、ヘリウム、ネオン、六フッ化イオウ等のガスを挙げることができる。なお、本発明の複層ガラスは単一成分のガスまたは単一成分のガスを少なくとも2種以上混合したガスを封入した複層ガラスに適用することももちろん可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。以下の遮音性能試験によって、本発明に係る複層ガラスの遮音性能の評価を行った。
【0045】
具体的には、共鳴用部材を設けた実施例1、2と、共鳴用部材を設けない比較例1によって、本発明に係るスリット型共鳴用部材の設置による遮音性能の効果について評価した。
【0046】
<遮音性能の評価>
遮音性能試験は、「サッシ」JIS A4706:2000に準拠し、「実験室における音響透過損失の測定方法」JIS A 1416に基づき行った。その際、前記JISに基づいて、規程の1/3オクターブ中心周波数における音響透過損失を測定した。尚、測定において音源はガラス板G1側におき、測定器はガラス板G2側に設置した。
【0047】
詳しくは、JIS A1416:2000に記載されるタイプI試験室(残響室)を使用し、2本の木製押縁(25mm×25mm)を用いて、試験体を固定し設置を行い、JIS A1416:2000に記載の方法で音響透過損失の測定を行った。音響透過損失の測定値が、JISA4706:2000に記載の判断基準、「a)125Hz〜4000Hzの16点における音響透過損失が、全て該当する遮音等級線を上回ることとする。尚、各周波数帯域で該当する遮音等級線を下回る値の合計が3dB以下の場合は、その遮音等級とする。b)全周波数帯域において、音響透過損失を換算し、その換算値(6点)が該当する遮音等級線を上回ることとする。」に対し、遮音等級について、a)、b)いずれかに基準を満たした場合、各遮音等級に合格するとした。
【0048】
[実施例1]
図1に示されるような複層ガラスにおいて、総厚22.4mmであって、ガラス板G1、G2の板厚が7.7mmのフロート単板ガラス(FL8)、4.7mmのフロート単板ガラス(FL5)であり、スリット型共鳴用部材9を設置し、厚さを10mmとした中空層1(Re10)からなる構成の複層ガラス(FL8+Re10+FL5)を用いて遮音性能の測定を行った。なお、測定した複層ガラスの大きさは、1230mm×1480mmのものを使用した。
【0049】
スリット型共鳴用部材9として、図1に示すような形状で、材質としてアルミ製の断面略コ字状部材を複数個使用した。断面略コ字状部材の一面側に形成された凹状部を夫々非接触状態において、対向配置させることによって、蛇行状の連通通路を形成し、所定の幅(b)になるように調整した。なお、断面略コ字状部材の他面側は、それぞれガラス板G1、G2側を市販の両面接着テープで貼着した。
【0050】
スリット型共鳴用部材9は、各スペーサーに対して平行に設置し、長辺側左右及び短辺側上下、計4箇所に配置した。複層ガラス内部の長辺側(1480mm)には、連通通路10の長さ(L)140mm、連通通路10の幅(b)1mm、空気層高さ(H)20mm、空気層幅(W)10mmとし、共鳴周波数を325Hzに設計したスリット型共鳴用部材9を設置した。
【0051】
また、短辺側(1230mm)には、連通通路10の長さ(L)64mm、連通通路10の幅(b)1mm、空気層高さ(H)20mm、空気層幅(W)10mmとし、共鳴周波数を479Hzに設計したスリット型共鳴用部材9を設置した。なお、長辺側及び短辺側の連通通路10の長さ(L)の長さは、必要に応じて、スリット型共鳴用部材9を連続して複数個並べることによって調整した。
【0052】
[実施例2]
実施例1と同様な複層ガラスの構成(FL8+Re10+FL5)にて、複層ガラス内部の長辺側(1480mm)および短辺側(1230mm)に、連通通路10の長さ(L)26mm、連通通路10の幅(b)1mm、空気層高さ(H)80mm、空気層幅(W)10mmとし、共鳴周波数を371Hzに設計したスリット型共鳴用部材9を設置した。なお、長辺側及び短辺側の連通通路10の長さ(L)の長さは、必要に応じて、スリット型共鳴用部材9を複数個連続して並べることによって調整した。
【0053】
[比較例1]
本発明に係る共鳴用部材を設置しない複層ガラスとして、総厚22.4mmであって、ガラス板G1、G2の板厚が7.7mmのフロート単板ガラス(FL8)、4.7mmのフロート単板ガラス(FL5)であり、中空層1の厚さを10mmとした中空層1(Air10)からなる構成の複層ガラス(FL8+Air10+FL5)を用いて遮音性能の測定を行った。なお、測定した複層ガラスの大きさは、1230mm×1480mmのものを使用した。
【0054】
図4、5の本発明における複層ガラスの遮音性能曲線グラフより、本発明の共鳴用部材を設けた実施例1、2の複層ガラスは、共鳴用部材を設けない比較例1と比較して、200〜1000Hzの周波数領域の遮音性能が大幅に改善されていることが分かり、本発明の共鳴用部材による遮音特性の向上が得られていることが分かる。
【0055】
また、実施例1、2より本発明の複層ガラスは、総厚が22.4mmであり、限られた厚さにおいて、遮音等級T−3等級満たす優れた遮音性能を有する複層ガラスであることが分かる。本発明の複層ガラスは、十分な遮音性能を得るためにガラス板の厚さを必要以上に増やすことなく、従来の複層サッシ枠を適用することができ、別途、特注の複層サッシ枠を製作する必要がなく、コスト的にも有利である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明による複層ガラスによれば、建築物、車両だけでなく、より外部からの騒音が懸念される幹線道路、電車、航空機に隣接したマンション等の開口部に利用される窓やドア部材等に適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
100 複層ガラス
G1、G2 ガラス板
1 中空層
2 空洞部
3 乾燥剤
4 スペーサー
5 一次シール材
6 二次シール材
7 共鳴用部材(従来例)
8 貫通孔
9 スリット型共鳴用部材(断面略コ字状部材)
10 連通通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のガラス板を、スペーサーを介して隔置することによって、前記ガラス板同士の間に密閉された中空層を形成し、該中空層には前記スペーサーと略平行で所定間隔の位置に共鳴用部材が配置され、該共鳴用部材、前記スペーサー及び前記ガラス板にて区画された空洞部が形成された複層ガラスであって、
前記共鳴用部材は、前記中空層と前記空洞部を連通し、所定幅を有する蛇行状の連通通路が形成されており、さらに、前記連通通路が前記スペーサーの長手方向に沿って連続して形成されており、前記共鳴用部材と前記空洞部によって共鳴器を形成してなることを特徴とする複層ガラス。
【請求項2】
前記共鳴用部材が、所定間隔を隔てて対向配置された少なくとも2つの断面略コ字状部材あるいは断面略ヨ字状部材からなることを特徴とする請求項1に記載の複層ガラス。
【請求項3】
前記中空層と前記空洞部を連通する蛇行状の連通通路の長さが、10mm以上、160mm以下、であり、前記スペーサーと前記共鳴用部材からなる空洞部の断面積が、30mm2以上1080mm2以下であり、前記連通通路の所定幅が、0.1mm以上、3.0mm以下、であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複層ガラス。
【請求項4】
前記共鳴器の共鳴周波数が、150Hz以上、650Hz以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の複層ガラス。
【請求項5】
サッシとした際にJIS A4706:2000に準拠する遮音等級T−3等級に合格することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の複層ガラス。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の複層ガラスを取り付けてなることを特徴とする窓。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の複層ガラスを取り付けてなることを特徴とするドア。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−43798(P2013−43798A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182082(P2011−182082)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】