説明

複層塗膜形成方法

【課題】水性ベース塗料を2種類の違う塗料で2回塗りした後クリヤー塗料をウェット・オン・ウェットで塗装してなる複層塗膜形成方法で、ムラ、特にメタリックムラが無く高いフリップフロップ性を付与した複層塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】被塗装物上に形成された中塗り塗膜上に、第1水性ベース塗料を塗装して第1水性ベース塗膜を形成する工程(1)、前記工程(1)によって得られた第1ベース塗膜上に、第2水性ベース塗料を塗装して第2ベース塗膜を形成する工程(2)、を含む複層塗膜形成方法であって、前記中塗り塗膜がL値75以上を有すること特徴とする複層塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体等に形成される複層塗膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの高外観が必要な物品の塗装は、電着塗料および中塗り塗料で塗装した後、ベース塗料およびクリヤー塗料を塗装することが行われている。近年は、環境に対する影響を考慮して、塗料中に含まれる有機溶剤の量を低減するために、塗料の水性化が行われており、自動車の塗装においては、ベース塗料を水性化している。
【0003】
このような塗装系では、通常水性ベース塗料を2度塗装した後、クリヤー塗料を塗装する方法がとられているが、2度塗装する水性ベース塗料は基本的に同じ塗料を塗装する。
【0004】
しかし、特開2004−351390号公報(特許文献1)には、水性ベース塗料を2度塗りする際に、第1水性ベース塗料と第2水性ベース塗料の塗料中の光輝性顔料の配合量を第2水性ベース塗料の方を多くして、その光輝性顔料の顔料固形分比が第1ベース塗料/第2ベース塗料で1/4〜1/1.1に制御する方法が開示されている。この方法によれば、粒子感が少なく、光輝ムラのない高輝性塗膜が形成される。
【0005】
また、特開2004−351389号公報(特許文献2)には、特許文献1と同様に光輝性顔料の顔料固形分比を制御するだけでなく、塗料自体の樹脂などを含む固形分も第2水性ベース塗料が第1水性ベース塗料より多くして、特許文献1と同じ効果を得ている。特許文献1および2は、何れも優れた効果を発揮するが、更なる外観の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−351390号公報
【特許文献2】特開2004−351389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記特許文献1や2の技術を更に改善して、ムラ、特にメタリックムラが無く高い金属調の外観を付与する複層塗膜形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、被塗装物上に形成された中塗り塗膜上に、第1水性ベース塗料を塗装して第1水性ベース塗膜を形成する工程(1)、前記工程(1)によって得られた第1ベース塗膜上に、第2水性ベース塗料を塗装して第2ベース塗膜を形成する工程(2)、を含む複層塗膜形成方法であって、前記中塗り塗膜がL値75以上を有すること特徴とする複層塗膜形成方法を提供する。
【0009】
本発明では、前記第1水性ベース塗料が光輝性顔料を顔料固形分濃度で1質量%未満含むことが好ましい。
【0010】
また、前記第1水性ベース塗料は、着色顔料を顔料固形分濃度で1質量%未満含むのがより好ましい。
【0011】
本発明では、前記工程(2)で得られた第2ベース塗膜上に、さらにクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程(3)を含むのが好ましい。
【0012】
更に、本発明では、前記第1水性ベース塗膜、前記第2水性ベース塗膜および前記クリヤー塗膜を一度に加熱硬化させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、中塗り塗膜のL値を75以上にするという簡単な方法でムラ、特にメタリックムラが減少するのである。L値(明度)が75以上ということは、白っぽいということであり、中塗りが白っぽい色であれば、メタリックムラが減少する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によれば、被塗装物上に形成された中塗り塗膜上に、第1水性ベース塗料を塗装して第1水性ベース塗膜を形成する工程(1)、前記工程(1)によって得られた第1ベース塗膜上に、第2水性ベース塗料を塗装して第2ベース塗膜を形成する工程(2)、を含む複層塗膜形成方法において、第1水性ベース塗料の塗装前の中塗り塗膜がL値75以上、好ましくは85以上であることが必要である。
【0015】
値は、JIS Z 8722およびJIS Z 8730に準拠して求められる。分光測定器による標準光Cを用いて、380〜780nmの波長範囲で透過法により測定されたXYZ系における三刺激値X、Y、Z値に基づき、JIS規格Z8730で規定された式:L=10Y1/2により算出される。このL値は、ハンターの色差式における明度指数と呼ばれるものであり、その数値が増加するに従い被測定物質の白色度が増すこと、その数値が低下するに従い被測定物質の黒色度が増すことを意味する指数である。この明度指数L値は、例えば、「MA68II」(X−Rite社製測色計)を用いて測定することができる。
【0016】
値を75以上にするには、後述する中塗り塗料に配合する顔料を選択して、白くすることにより行われる。中塗り塗料は、標準的には、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料としたグレー系中塗り塗料であり、上塗りとの色相を合わせたものも存在する。白色の顔料、特に二酸化チタンを多く配合して、L値を75以上、好ましくは85以上にすると、本発明の効果、即ちムラ、特にメタリックムラが減少する。
【0017】
本発明では、また、第1水性ベース塗料が光輝性顔料を顔料固形分濃度で1質量%未満含むのが好ましい。顔料固形分濃度は、一般に、PWCと呼ばれるもので、顔料が固形分中にどれだけの量で含まれているかを示すものである。本発明では、第1水性ベース塗料の光輝性顔料の顔料固形分濃度は、1質量%未満、好ましくは0.5質量%以下である。より好ましくは、第1水性ベース塗料は、光輝性顔料を含まない。この場合の「含まない」は、本発明から逃れるためだけに光輝性顔料を少し配合するような場合を包含する。
【0018】
本発明では、第1水性ベース塗料は光輝性顔料以外の着色顔料も顔料固形分濃度で1質量%未満、好ましくは0.5質量%以下であるのが好ましい。第1水性ベース塗料は、着色顔料も含まないのがより好ましい。この場合の「含まない」も上述のような、本発明から逃れるためだけの着色顔料の添加を含む概念である。本発明の第1水性ベース塗料は、いわゆる顔料というものを含まないのが好ましい。
【0019】
上記の第1水性ベース塗料に光輝性顔料や着色顔料を含まない場合には、第2水性ベース塗料は、光輝性顔料を積極的に含まなければならない。第2水性ベース塗料は、光輝性顔料を顔料固形分濃度で5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%含む。第1水性ベース塗料に光輝性顔料を含まないので、第2水性ベース塗料では通常の水性ベース塗料より高い含有量で光輝性顔料を含まれる。第1水性ベース塗料は、着色顔料も含まないのが好ましく、その代わり第2水性ベース塗料には、着色顔料が含まれる。
【0020】
光輝性顔料としては、形状は特に限定されず、また着色されていてもよいが、例えば、平均粒径(D50)が2〜50μmであり、かつ厚さが0.01〜2μmであるものが好ましい。また、平均粒径が5〜25μmの範囲のものが光輝感に優れ、さらに好適に用いられる。具体的には、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属または合金等の無着色あるいは着色された金属製光輝剤およびその混合物が挙げられる。この他に干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料などもこの中に含めるものとする。
【0021】
一方、着色顔料としては、例えば有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等が挙げられ、無機系では黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等が挙げられる。
【0022】
本発明では、第1水性ベース塗料は、電着塗膜(下塗り塗膜)および中塗り塗膜を形成した被塗物上に塗装される。第2水性ベース塗料は、第1水性ベース塗料が塗装されて形成された第1水性ベース塗膜上に塗装される。第1水性ベース塗膜は、通常は、未硬化のまま、いわゆるウェット・オン・ウェットで第2水性ベース塗料が塗装される。
【0023】
本発明では、第2水性ベース塗膜上に、通常は更にクリヤー塗料が塗装される。クリヤー塗料は、第2水性ベース塗料を硬化しないで塗装してもよく、また第2水性ベース塗膜(第1水性ベース塗膜含む)を加熱硬化してからクリヤー塗料を塗装しても良い。最近は、省資源の観点から第2水性ベース塗膜を加熱硬化しないでクリヤー塗料を塗装して、その後にベース塗膜とクリヤー塗膜の両方を加熱硬化するツーコート・ワンベークが一般的に採用される。
【0024】
中塗り塗料
以下に中塗り塗料と水性ベース塗料の説明をする。中塗り塗膜の形成には中塗り塗料が用いられる。本発明では、中塗り塗料はL値が75以上、好ましくは85以上である必要がある。この中塗り塗料は、通常、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系や無機系の各種着色顔料及び体質顔料等が含有されるが、L値を制御するために顔料を調節する必要がある。
【0025】
上記中塗り塗料に含まれる塗膜形成性樹脂は、特に限定されるものではなく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の塗膜形成性樹脂が利用でき、これらは、先の水性ベースコート組成物のところで挙げた硬化剤と組み合わせて用いられる。得られた塗膜の諸性能、コストの点からアミノ樹脂および/またはイソシアネート樹脂が一般的に用いられる。
【0026】
上記中塗り塗料に含まれる着色顔料としては、先の水性ベースコート組成物の記載で挙げたものを同様に用いることができる。標準的には、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料としたグレー系中塗り塗料や上塗りとの色相を合わせたセットグレーや各種の着色顔料を組み合わせた、いわゆるカラー中塗り塗料を用いることが好ましい。更に、アルミニウム粉、マイカ粉等の扁平顔料が添加されていても良い。前述のように、中塗り塗料はL値を75以上にするために、顔料として白い色のもの、特に二酸化チタンを多く含む必要がある。これらの中塗り塗料中には、上記成分の他に塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、酸化防止剤、消泡剤等が配合されていてもよい。
【0027】
水性ベース塗料
第1水性ベース塗料と第2水性ベース塗料は、顔料の配合量が違うだけで、塗料配合としては同じであるので、両方を1つの「水性ベース塗料」として、以下に配合成分の説明をする。
【0028】
本発明の複層塗膜形成方法に用いられる水性ベース塗料は、上記顔料成分以外では、(a)アクリル樹脂エマルション、(b)水溶性アクリル樹脂、および(c)メラミン硬化剤を含有する。
【0029】
成分(a
エマルション樹脂としては、通常、水性塗料に使用され、乳化重合により得られるものを挙げることができる。このエマルション樹脂としては、酸価3〜50のα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を乳化重合して得られるものを含有することが好ましい。
【0030】
上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物は酸価が3〜50であり、好ましくは7〜40である。酸価が3未満では、作業性を向上させることができず、50を上回ると、塗膜の耐水性が低下する。一方、上記水性ベースコート塗料が硬化性を有する必要がある場合には、このα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物は水酸基価が10〜150であり、好ましくは20〜100である。10未満では、充分な硬化性が得られず、150を上回ると、塗膜の耐水性が低下する。また、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を重合して得られるエマルション樹脂のガラス転移温度は、−20〜80℃の間であることが、塗膜物性の点から好ましい。
【0031】
上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物は、酸基または水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーをその中に含むことにより、上記酸価および水酸基価を有することができる。
【0032】
また、上記酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α−ハイドロ−ω−((1−オキソ−2−プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1−オキソ−1,6−ヘキサンジイル))、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3−ビニルサリチル酸、3−ビニルアセチルサリチル酸等を挙げることができる。これらの中で好ましいものは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体である。
【0033】
一方、水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの付加物を挙げることができる。これらの中で好ましいものは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの付加物である。
【0034】
さらに、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物はさらにその他のα,β−エチレン性不飽和モノマーを含んでいてもよい。上記その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、エステル部の炭素数1または2の(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、エステル部の炭素数3以上の(メタ)アクリル酸エステル(例えば(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等)、重合性アミド化合物(例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、N−モノオクチル(メタ)アクリルアミド 2,4−ジヒドロキシ−4’−ビニルベンゾフェノン、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等)、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン及びビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、α−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)、また、分子内に2つ以上の重合性不飽和結合を有するモノマー等を挙げることができる。
【0035】
上記エマルション樹脂は、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を乳化重合して得られるものである。ここで行われる乳化重合は、通常よく知られている方法を用いて行うことができる。具体的には、水、または必要に応じてアルコールなどのような有機溶剤を含む水性媒体中に乳化剤を溶解させ、加熱撹拌下、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物および重合開始剤を滴下することにより行うことができる。乳化剤と水とを用いて予め乳化したα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を同様に滴下してもよい。
【0036】
好適に用いうる重合開始剤としては、アゾ系の油性化合物(例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)および2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)など)、および水性化合物(例えば、アニオン系の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)およびカチオン系の2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン));並びにレドックス系の油性過酸化物(例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドおよびt−ブチルパーベンゾエートなど)、および水性過酸化物(例えば、過硫酸カリおよび過酸化アンモニウムなど)が挙げられる。
【0037】
乳化剤には、当業者に通常使用されているものを用いうるが、反応性乳化剤、例えば、アントックス(Antox)MS−60(日本乳化剤社製)、エレミノールJS−2(三洋化成工業社製)、アデカリアソープNE−20(旭電化社製)およびアクアロンHS−10(第一工業製薬社製)などが特に好ましい。
【0038】
また、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタンおよびα−メチルスチレンダイマーなどのような連鎖移動剤を必要に応じて用いうる。
【0039】
反応温度は開始剤により決定され、例えば、アゾ系開始剤では60〜90℃であり、レドックス系では30〜70℃で行うことが好ましい。一般に、反応時間は1〜8時間である。α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物の総量に対する開始剤の量は、一般に0.1〜5重量%であり、好ましくは0.2〜2重量%である。
【0040】
上記乳化重合は二段階で行うことができる。すなわち、まず上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物のうちの一部(α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物1)を乳化重合し、ここに上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物の残り(α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物2)をさらに加えて乳化重合を行うものである。
【0041】
高外観な複層塗膜を形成する為に、α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物1はアミド基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーを含有していることが好ましい。またこの時、α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物2は、アミド基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーを含有していないことがさらに好ましい。
【0042】
このようにして得られる上記エマルション樹脂の粒子径は0.01〜1.0μmの範囲であることが好ましい。粒子径が0.01μm未満であると作業性の改善の効果が小さく、1.0μmを上回ると得られる塗膜の外観が悪化する恐れがある。この粒子径の調節は、例えば、モノマー組成や乳化重合条件を調整することにより可能である。
【0043】
上記エマルション樹脂は、必要に応じて塩基で中和することにより、pH5〜10で用いることができる。これは、このpH領域における安定性が高いからである。この中和は、乳化重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンやトリエチルアミンのような3級アミンを系に添加することにより行うことが好ましい。
【0044】
成分(a)のアクリル樹脂エマルションは、水性ベース塗料中に10〜85質量%、好ましくは20〜70質量%の量で配合するのが好ましい。10質量%未満では、高固形分化と良好なFF性が得られない。85質量%を超えると、塗着時の粘度上昇が速すぎ、得られる塗膜の色ムラが発生する。
【0045】
成分(b)
本発明の水性ベース塗料は、水溶性アクリル樹脂(b)を含有する。水溶性アクリル樹脂は、好ましくは水性ベース塗料中に樹脂固形分中90〜15質量%、より好ましくは80〜30質量%の量で含有する。15質量%より少ないと、塗着時の粘度上昇が速すぎ、得られる塗膜の色ムラが発生する。90質量%を超えると、良好なFF性が出なくなる。
【0046】
水溶性アクリル樹脂は、数平均分子量3000〜50000、好ましくは6000〜30000であることが好ましい。3000より小さいと作業性および硬化性が十分でなく、50000を越えると塗装時の不揮発分が低くなりすぎ、かえって作業性が悪くなる。
【0047】
また、水溶性アクリル樹脂は10〜100mgKOH/g、更に20〜80mgKOH/gの酸価を有することが好ましく、上限を越えると塗膜の耐水性が低下し、下限を下回ると樹脂の水分散性が低下する。また、20〜180mgKOH/g、更に30〜160mgKOH/gの水酸基価を有することが好ましく、上限を越えると塗膜の耐水性が低下し、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下する。
【0048】
この水溶性アクリル樹脂は、先のモノマー混合物のところで述べた酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーを必須成分とし、それ以外のα,β−エチレン性不飽和モノマーとともに溶液重合を行うことにより得ることができる。
【0049】
なお、上記水溶性アクリル樹脂は、通常、塩基性化合物、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びジメチルエタノールアミンのような有機アミンで中和し、水に溶解させて用いるが、この中和は、水溶性アクリル樹脂そのものに対して行っても、後述する水性ベース塗料の製造時に行ってもよい。
【0050】
成分(c)
本発明の水性ベース塗料は、メラミン硬化剤(c)を含有する。メラミン硬化剤は、水溶性であっても、非水溶性であってもよい。メラミン硬化剤のなかでも水トレランスが3.0以上のものを用いることが、安定性上好ましい。ここで用いる水トレランスとは、親水性の度合を評価するためのものであり、その値が高いほど親水性が高いことを意味する。水トレランス値の測定方法は、25℃において、100mlビーカー内で、サンプル0.5gをアセトン10mlに混合して分散させ、ビュウレットを用いてイオン交換水を徐々に加え、混合物が白濁を生じるまでに要するイオン交換水の量(ml)を測定し、このイオン交換水の量(ml)を水トレランス値としたものである。
【0051】
メラミン硬化剤の含有量は水性ベース組成物中の樹脂固形分に対し、例えば20〜40質量%である。20質量%未満では硬化性が低下し、40質量%を超えると塗料の安定性が低下するおそれがある。
【0052】
その他の成分
本発明の水性ベース塗料には、上塗り塗膜とのなじみ防止、塗装作業性を確保するために、その他の粘性制御剤を添加することができる。粘性制御剤としては、一般にチクソトロピー性を示すものを使用でき、例えば、架橋あるいは非架橋の樹脂粒子、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドの燐酸塩等のポリアマイド系のもの、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体等のポリエチレン系等のもの、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイト等の有機ベントナイト系のもの、ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等の無機顔料、顔料の形状により粘性が発現する偏平顔料等を挙げることができる。
【0053】
本発明に用いられる水性ベース塗料中には、上記成分の他に塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤等を配合してもよい。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0054】
上記水性ベース塗料は、成分(c)のメラミン硬化剤の他に、他の硬化剤を含んでもよい。そのような硬化剤としては、塗料一般に用いられているものを使用することができる。このようなものとして、ブロックイソシアネート、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、金属イオン等が挙げられる。得られた塗膜の諸性能、コストの点からブロックイソシアネート樹脂が一般的に用いられる。
【0055】
上記ブロックイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のポリイソシアネートに活性水素を有するブロック剤を付加させることによって得ることができるものであって、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生するものが挙げられる。
【0056】
本発明の水性ベース塗料には、更に必要に応じて、ポリエステル樹脂を配合してもよい。ポリエステル樹脂は酸成分およびアルコール成分を縮重合して得られる。上記酸成分としては特に限定されず、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、無水フタル酸等の多価カルボン酸化合物およびそれらの無水物を挙げることができる。さらに、酸成分として、ジメチロールプロピオン酸等の1分子中にカルボン酸基と水酸基とを有する化合物を用いることができる。また、上記アルコール成分としては特に限定されず、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール等の多価アルコール化合物を挙げることができる。上記ポリエステル樹脂は、好ましくは、樹脂固形分酸価20〜80mgKOH/g、および数平均分子量1000〜15000を有する。ポリエステル樹脂は、得られる塗膜の色ムラを抑制するために添加される。第2水性ベース塗料に配合する場合、ポリエステル樹脂の塗料中の配合量は、5〜30質量%、好ましくは10〜20質量%である。5質量%より少ないと、色ムラ抑制の効果が小さく、30質量%より多いと、フリップフロップ性が低下するおそれがある。
【0057】
本発明に用いられる塗料の製造方法は、後述するものを含めて、特に限定されず、顔料等の配合物をニーダーまたはロール等を用いて混練、分散する等の当業者に周知の全ての方法を用い得る。
【0058】
クリヤー塗料
本発明で使用するクリヤー塗料は、水性型、粉体型と有機溶剤型あるが、通常は有機溶剤型であるので、有機溶剤型を説明する。有機溶剤型クリヤー塗料は、特に限定されず、塗膜形成性樹脂および硬化剤等を含有するクリヤー塗料を利用できる。更に下地の意匠性を妨げない程度であれば着色顔料を含有することもできる。
【0059】
上記有機溶剤型クリヤー塗料の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂及び/またはイソシアネートとの組合わせ、あるいはカルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂系等が挙げられる。
【0060】
更に、上記有機溶剤型クリヤー塗料には、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤が添加されていることが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。このようなものとして、例えば、上述の水性ベースコート組成物のところで述べたものを使用することができる。また必要により、硬化触媒、表面調整剤等を含むことができる。
【0061】
被塗物
本発明の塗膜形成方法は、種々の基材、例えば金属、プラスチック、発泡体等、特に金属表面、および鋳造物に有利に用い得るが、カチオン電着塗装可能な金属製品に対し、特に好適に使用できる。
【0062】
上記金属製品としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等およびこれらの金属を含む合金が挙げられる。具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および部品が挙げられる。これらの金属は予めリン酸塩、クロム酸塩等で化成処理されたものが特に好ましい。
【0063】
上記化成処理された鋼板上に電着塗膜が形成されていても良く、この電着塗料としては、カチオン型及びアニオン型を使用できるが、カチオン型電着塗料組成物が防食性において優れた複層塗膜を与えるため好ましい。
【0064】
上記プラスチック製品としては、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等のものが挙げられる。具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ等の自動車部品等が挙げられる。これらのプラスチック製品は、トリクロロエタンで蒸気洗浄または中性洗剤で洗浄されたものが好ましく、また、さらに静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
【0065】
複層塗膜形成方法
本発明の複層塗膜形成方法では、必要により電着塗膜および中塗り塗膜を形成した被塗物上に、水性ベース塗料によるベース塗膜及び有機溶剤型クリヤー塗料によるクリヤー塗膜を、順次形成することができる。特に、本発明では、水性ベース塗料の塗装が2ステージで構成されていて、第1水性ベース塗料によって第1水性ベース塗膜を形成し、その上に第2水性ベース塗料によって第2水性ベース塗膜を形成し、その上にクリヤー塗料が塗装される。
【0066】
本発明で、水性ベース塗料を、自動車車体に塗装する場合は、外観を高めるために、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、或いは、エアー静電スプレー塗装と、通称「μμ(マイクロマイクロ)ベル」、「μ(マイクロ)ベル」あるいは「メタベル」等と言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法等により塗膜を形成する方法を用いることができる。
【0067】
本発明における、水性ベース塗料による塗装時の塗膜の膜厚は所望の用途により変化するが、多くの場合10〜30μmが有用である。上限を越えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラあるいは流れ等の不具合が起こることがあり、下限を下回ると、下地が隠蔽できず膜切れが発生する。
【0068】
本発明の複層塗膜形成方法では、未硬化のベース塗膜の上にさらにクリヤー塗料を塗布し、クリヤー塗膜を形成すること(ウェット・オン・ウェット塗装)が焼き付け乾燥炉を省略することができ、経済性及び環境面からも好ましい。なお、良好な仕上がり塗膜を得るために、クリヤー塗料を塗布する前に、未硬化のベース塗膜を40〜100℃で2〜10分間加熱しておくことが望ましい。
【0069】
本発明の塗膜形成方法において、上記ベース塗膜を形成した後に塗装されるクリヤー塗膜は、上記ベース塗膜に起因する凹凸、チカチカ等を平滑にし、保護するために形成される。塗装方法として具体的には、先に述べたμμベル、μベル等の回転霧化式の静電塗装機により塗膜を形成することが好ましい。
【0070】
上記クリヤー塗料により形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10〜80μm程度が好ましく、より好ましくは20〜60μm程度である。上限を越えると、塗装時にワキあるいはタレ等の作業性の不具合が起こることもあり、下限を下回ると、下地の凹凸が隠蔽できない。
【0071】
上述のようにして得られたクリヤー塗膜は、先に述べたように未硬化のベース塗膜とともに焼き付ける、いわゆる2コート1ベークによって塗膜形成を行うことが好ましい。焼き付け温度を80〜180℃、好ましくは120〜160℃に設定することで高い架橋度の硬化塗膜が得られる。上限を越えると、塗膜が固く脆くなり、下限未満では硬化が充分でない。硬化時間は硬化温度により変化するが、120〜160℃で10〜30分が適当である。
【0072】
本発明で形成される複層塗膜の膜厚は、多くの場合30〜300μmであり、好ましくは50〜250μmである。上限を越えると、冷熱サイクル等の膜物性が低下し、下限を下回ると膜自体の強度が低下する。
【実施例】
【0073】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0074】
製造例1 アクリル樹脂エマルションa−1の製造
反応容器に脱イオン水126.5部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、アクリル酸メチル29.61部、アクリル酸エチル53.04部、スチレン4.00部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル9.28部、メタクリル酸3.07部およびメタクリル酸アリル1.00部のモノマー混合物100部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)0.7部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製)0.5部、および脱イオン水80部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.3部、および脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、脱イオン水70部およびジメチルアミノエタノール0.32部を加えpH6.5に調整し、平均粒子径150nm、不揮発分25%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/gの単層のアクリル樹脂エマルションa−1を得た。
【0075】
製造例2 水溶性アクリル樹脂の製造
反応容器にトリプロピレングリコールメチルエーテル23.89部およびプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、下記のモノマー混合物100部、トリプロピレングリコールメチルエーテル10.0部およびターシャルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液を3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。
【0076】
さらに、トリプロピレングリコールメチルエーテル5.0部およびターシャルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0077】
脱溶剤装置により、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.1部留去した後、脱イオン水204部およびジメチルアミノエタノール7.1部を加えて水溶性アクリル樹脂溶液を得た。得られた水溶性アクリル樹脂溶液の不揮発分は30%であり、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g、粘度は140ポイズ(E型粘度計1rpm/25℃)であった。
【0078】
モノマー混合物メタクリル酸メチル 13.1部アクリル酸エチル 68.4部メタクリル酸2−ヒドロキシエチル 11.6部メタクリル酸 6.9部
【0079】
製造例3 ポリエステル樹脂の製造
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にジメチルテレフタル酸372部、ジメチルイソフタル酸380部、2−メチル−1,3−プロパンジオール576部、1,5−ペンタンジオール222部、テトラブチルチタネート0.41部を仕込み、160℃から230℃まで昇温しつつ4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下まで減圧して、260℃にて40分間重縮合反応を行った。窒素雰囲気下、220℃まで冷却し、無水トリメリット酸を23部投入し、220℃で30分間反応を行ってポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂は、NMRの組成分析の結果、カルボン酸成分がモル比でテレフタル酸/イソフタル酸/トリメリット酸:48/49/3であり、ポリオール成分がモル比で2−メチル−1,3−プロパンジオール/1,5−ペンタンジオール:65/35であった。つまりポリカルボン酸成分、ポリオール成分のそれぞれの合計量を100モル%としたとき、芳香族ジカルボン酸が97モル%、イソフタル酸が49モル%、所定のジオールの合計量が65モル%、エチレングリコールは0モル%であった。
【0080】
得られた樹脂について、以下の通り、特性値を測定した。
(1)数平均分子量:ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したところ、12000であった。
(2)酸価:試料0.2gを精秤し20mlのクロロホルムに溶解した後、0.01Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定したところ、16.1mgKOH/gであった。
【0081】
このポリエステル樹脂100部に、ブチルセロソルブ40部、トリエチルアミン2.7部を投入した後、80℃で1時間攪拌を行って溶解させた。次いで、イオン交換水193部をゆるやかに添加し、不揮発分30%のポリエステル樹脂を含んだポリエステルの水分散体1を得た。平均粒子径を測定するために、専用セルにイオン交換水だけを入れ、この分散体を1滴添加しかき混ぜ、樹脂固形分濃度0.1質量%に調整して動的光散乱式粒径測定装置LB−500(堀場製作所社製)によって、20℃で測定したところ、35nmであった。
【0082】
製造例4 リン酸基含有アクリル樹脂の合成
攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた1リットルの反応容器にエトキシプロパノール40部を仕込み、これにスチレン4部、n−ブチルアクリレート35.96部、エチルヘキシルメタアクリレート18.45部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート13.92部、メタクリル酸7.67部、エトキシプロパノール20部に、ホスマーPP(ユニケミカル社製アシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート)20部を溶解した溶液40部、及びアゾビスイソブチロニトリル1.7部からなるモノマー溶液121.7部を120℃で3時間滴下した後、1時間さらに攪拌を継続した。得られた樹脂は、酸価105mgKOH/g、うちリン酸基による酸価55mgKOH/g、水酸基価60mgKOH/g、数平均分子量6000のアクリルワニスで、不揮発分が63%であった。
【0083】
製造例5
<水性メタリックベース塗料の製造>
先の製造例1で得られたエマルション樹脂a−1を160部、10質量%ジメチルアミノエタノール10部、製造例2の水溶性アクリル樹脂33部(樹脂固形分30%)、製造例3のポリエステル樹脂33部(樹脂固形分30%)、メラミン樹脂としてサイメル204(三井サイテック社製混合アルキル化型メラミン樹脂、固形分80%、水トレランス3.6ml)を38部、プライムポールPX−1000(三洋化成工業社製2官能ポリエーテルポリオール)10部、光輝性顔料を下記表1に記載する量、製造例4のリン酸基含有アクリル樹脂5部、ラウリルアシッドフォスフェート0.3部を添加し、さらに、2−エチルヘキサノール30部、アデカノールUH−814N2.5部(ADEKA社製粘性剤、固形分30%)を均一分散することにより水性メタリックベース塗料a−1〜a−5を得た。
【0084】
【表1】

*1 東洋アルミニウム社製アルミニウム顔料(D50=15.9μm、固形分濃度=65%)
*2 東洋アルミニウム社製アルミニウム顔料(D50=16.2μm、固形分濃度=65%)
*3 東洋アルミニウム社製アルミニウム顔料(D50=9.9μm、固形分濃度=61%、高輝度タイプ)
【0085】
製造例6
中塗り塗料の製造
オルガP−30グレー(日本ペイント社製ポリエステル・メラミン樹脂系中塗り塗料、L値=60)の顔料である、二酸化チタンのPWCを35質量%、カーボンブラックを0.03質量%に調整し、塗膜のL値を85とした高明度中塗り塗料と、二酸化チタンを用いず、カーボンブラックのPWCを3質量%に調整し、L値を3とした低明度中塗り塗料とを調製した。
【0086】
実施例1〜4および比較例1〜7
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料「パワートップU−50」(日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた塗板に、25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に、製造例6で製造した明度(L値)が3、60、85の各中塗り塗料を、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレーで2ステージ塗装し、140℃で30分間、焼き付けた。
【0087】
次に、第1水性ベース塗料を、脱イオン交換水を用いて4000mPa・s(B型粘度計を使用し、6rpmの条件にて、20℃で測定)に希釈した。希釈した塗料の固形分濃度を表2に示した。室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚7.5μmになるようにABBカートリッジベル(ABB製)で第1ステージ塗装した。第1ステージ塗布後、1分30秒間のインターバルセッティングを行った。次いで、第2水性ベース塗料を脱イオン交換水を用いて4000mPa・s(B型粘度計を使用し、6rpmの条件にて、20℃で測定)に希釈した。希釈した塗料の固形分濃度を表2に示した。室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚7.5μmになるようにABBカートリッジベル(ABB製)で第2ステージ塗装した。第2ステージの塗布後、1分30秒間のインターバルをとって、セッティングを行った。その後、80℃で5分間のプレヒートを行った。
【0088】
プレヒート後、塗装板を室温まで放冷し、クリヤー塗料としてマックフロー−O−1810(日本ペイント社製溶剤型クリヤー塗料)、乾燥膜厚35μmとなるように1ステージ塗装し、7分間セッティングした。ついで、塗装板を乾燥機で140℃で30分間焼き付けを行うことにより、複合塗膜を得た。
【0089】
得られた塗膜について、IV値(輝度)を関西ペイント社製アルコープメーターで測定した。結果を表2に記載する。また、ムラ、特にメタリックムラを目視で評価し、そのランクを表2に記載する。
【0090】
ムラランク
A3サイズのパネルに塗装したメタリック塗膜の色ムラを目視評価し、その発生程度を以下のランク付けした:
ランク5:メタリックムラがない。
ランク4:ランク3とランク5の中間程度のムラが見える。
ランク3:メタリックムラが若干見える。
ランク2:ランク1とランク3の中間程度のムラが見える。
ランク1:メタリックムラが目立つ。
【0091】
【表2】

【0092】
上記結果から明らかなように、実施例1と比較例1を比較すると、全く同じ水性ベース塗料で2ステージ塗装する場合(これは従来の塗装方法の場合)、明度(L値)が高い実施例1ではムラランクが4と良いが、明度が60(グレー色)と低い比較例1ではムラランクが3と良くない。実施例2と比較例2及び3と比較すると、比較例は比較例2が明度60でグレー色であり、比較例3が明度3で黒色であるが、それらのムラランクに比べて、中塗りの明度が85と高い実施例2ではムラランクが高く成っていることが解る。尚、この実施例2、比較例2および3では、第1水性ベース塗料でアルミニウム顔料のPWC0%であり、第2水性ベース塗料のアルミニウム顔料のPWCが18%と高い場合の例である。この実施例2、比較例2および比較例3では、実施例1および比較例1と同じアルミニウム顔料を用いているので、第1水性ベース塗料と第2水性ベース塗料の顔料固形分濃度を第1水性ベース塗料で0にし、第2水性ベース塗料で18%にした時に、輝度(IV値)が上昇することが解る。実施例3、比較例4及び比較例5の群と、実施例4、比較例6及び比較例7の群は、使用するアルミニウム顔料が異なる例であるが、ムラランクが中塗り塗膜の明度が高い実施例で高く、優れていることが解る。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の複層塗膜形成方法は、自動車車体等の高外観塗膜を形成する際に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物上に形成された中塗り塗膜上に、第1水性ベース塗料を塗装して第1水性ベース塗膜を形成する工程(1)、前記工程(1)によって得られた第1ベース塗膜上に、第2水性ベース塗料を塗装して第2ベース塗膜を形成する工程(2)、を含む複層塗膜形成方法であって、前記中塗り塗膜がL値75以上を有すること特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記第1水性ベース塗料が光輝性顔料を顔料固形分濃度で1質量%未満含む請求項1記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記第1水性ベース塗料が、着色顔料を顔料固形分濃度で1質量%未満含む請求項2記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記工程(2)で得られた第2ベース塗膜上に、さらにクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程(3)を含む請求項3記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記第1水性ベース塗膜、前記第2水性ベース塗膜および前記クリヤー塗膜を一度に加熱硬化させる請求項4記載の複層塗膜形成方法。

【公開番号】特開2010−247092(P2010−247092A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100115(P2009−100115)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】