説明

複式遊星差動歯車減速機

【課題】 複式遊星差動歯車減速機において入力軸からの力を効率的、円滑に伝達する。
【解決手段】 入力軸2に第1の太陽歯車21と第2の太陽歯車22とが配設され、固定内歯歯車3と第1の太陽歯車21とに噛み合いながら公転する第1の遊星歯車51と、従動内歯歯車4と第2の太陽歯車22とに噛み合いながら公転する第2の遊星歯車52とを備える複式遊星差動歯車減速機1において、所定の減速比を維持するように、第1の遊星歯車51および第2の遊星歯車52の少なくとも一方のモジュールや転位などの歯車緒元を調整して、第1の遊星歯車51と第2の遊星歯車52とを共通の遊星歯車軸6に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、太陽歯車と遊星歯車とを複数組備えた複式遊星差動歯車減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
減速比の設定自由度が高く、かつ大きな減速比を得ることが可能な減速機として、複式遊星差動歯車減速機が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。この複式遊星差動歯車減速機は、図8、9に示すように、入力軸101に、第1の太陽歯車102と第2の太陽歯車103とが配設され、第1の太陽歯車102と噛み合う複数の第1の遊星歯車104が、固定内歯歯車105に噛み合って配設されている。また、第2の太陽歯車103と噛み合う複数の第2の遊星歯車106が、従動内歯歯車107に噛み合って配設され、第1の遊星歯車104と第2の遊星歯車106とは、共通の支持体108で支持されている。
【0003】
そして、入力軸101が駆動すると、第1の太陽歯車102の回転に伴って、第1の遊星歯車104が固定内歯歯車105に噛み合いながら公転すると同時に、第2の太陽歯車103の回転に伴って、第2の遊星歯車106が従動内歯歯車107に噛み合いながら公転する。このとき、第1の遊星歯車104と第2の遊星歯車106とは、共通の支持体108で支持されているため、同一の公転をしなければならない。このため、第1の遊星歯車104の公転数と第2の遊星歯車106の公転数との差だけ、従動内歯歯車107が逃げなければならず、これによって従動内歯歯車107が回転する。このようにして、入力軸101の回転を受けて、出力軸109が減速回転するものである。
【0004】
また、支持体108は、図8、10に示すように、第1の支持プレート110と第2の支持プレート111とを備え、これらの支持プレート110、111に複数の軸支孔110a、111aが形成されている。そして、この軸支孔110a、111aに遊星歯車軸112が支持され、ひとつの遊星歯車軸112に対してひとつの第1の遊星歯車104または第2の遊星歯車106が取り付けられている。つまり、遊星歯車104、106の数だけ、遊星歯車軸112が配設されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】有馬孝著「歯車減速機の基礎」株式会社パワー社出版、昭和52年7月31日、p.16−18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような複式遊星差動歯車減速機では、遊星歯車104、106の数だけ、遊星歯車軸112が配設されているため、例えば、第1の遊星歯車104と第2の遊星歯車106とをそれぞれ3つ配設する場合には、6つの遊星歯車軸112を配設しなければならない。そして、第1の支持プレート110と第2の支持プレート111とに対して、それぞれ6つの軸支孔110a、111aを同心上に設けなければならない。すなわち、異なる2つの支持プレート110、111に対して、6つの軸支孔110a、111aを精度高く形成する必要があり、しかも、2つの支持プレート110、111を精度高く組み付ける必要がある。しかしながら、このような精度の高い形成、組み付けは困難で、多大な労力と時間を要するばかりでなく、孔位置精度や組付精度が低いと遊星歯車軸112が傾くことになる。
【0007】
また、入力軸101から出力軸109に伝達される力は、遊星歯車104、106を支持する遊星歯車軸112の剛性や位置精度、および遊星歯車軸112を支持する支持プレート110、111の剛性などに影響される。しかしながら、上記のように、6つの軸支孔110a、111aを精度高く形成、組み付けることは困難で、しかも、第1の支持プレート110と第2の支持プレート111とが別体であるため、遊星歯車軸112の剛性などが低い。さらに、支持プレート110、111は、遊星歯車軸112のみによって固定されているため、遊星歯車軸112のねじれ力を直接受け、固定内歯歯車105や従動内歯歯車107との噛み合いに影響を与える。これらの結果、上記のような複式遊星差動歯車減速機では、入力軸101からの力を効率的、円滑に出力軸109に伝達することが困難な場合が生じる。
【0008】
そこでこの発明は、入力軸からの力を効率的、円滑に伝達することが可能な複式遊星差動歯車減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、入力軸に第1の太陽歯車と第2の太陽歯車とが配設され、固定内歯歯車と前記第1の太陽歯車とに噛み合いながら前記第1の太陽歯車の周囲を公転する第1の遊星歯車と、従動内歯歯車と前記第2の太陽歯車とに噛み合いながら前記第2の太陽歯車の周囲を公転する第2の遊星歯車とを備え、前記第1の遊星歯車と第2の遊星歯車とが同期して公転するように配設され、前記入力軸の回転が所定の減速比で減速されて前記従動内歯歯車の回転として出力される複式遊星差動歯車減速機において、前記所定の減速比を維持するように、前記第1の遊星歯車および第2の遊星歯車の少なくとも一方のモジュールや転位などの歯車緒元を調整して、前記第1の遊星歯車と第2の遊星歯車とを共通の遊星歯車軸に配設した、ことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、ひとつの遊星歯車軸に第1の遊星歯車と第2の遊星歯車とが配設されているため、入力軸101が駆動すると、第1の遊星歯車と第2の遊星歯車とが同期して公転する(同一の公転を行う)。これにより、入力軸の回転が所定の減速比で減速された状態で、従動内歯歯車が回転する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の複式遊星差動歯車減速機において、前記遊星歯車軸の一端部を軸支する第1の軸支部と前記遊星歯車軸の他端部を軸支する第2の軸支部とを一体の保持体に設けた、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の複式遊星差動歯車減速機において、前記第1の遊星歯車と第2の遊星歯車との間に位置する前記遊星歯車軸の中間部を軸支する第3の軸支部を、前記保持体に設けた、ことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の複式遊星差動歯車減速機において、前記保持体に前記入力軸と同心の保持体軸部を設け、この保持体軸部を回転自在に軸支した、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、ひとつの遊星歯車軸に第1の遊星歯車と第2の遊星歯車とを配設するため、遊星歯車軸の数および遊星歯車軸を軸支する軸支部(軸支孔)の数が少なくなる。このため、軸支部の形成精度や遊星歯車軸の位置・組付精度が高くなり、遊星歯車軸の傾きも減少する。この結果、入力軸からの力を効率的、円滑に伝達することが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、遊星歯車軸の両端部を一体の保持体によって軸支するため、高い剛性で(強固に)遊星歯車軸の両端部を軸支することができ、また、遊星歯車軸のねじれ力を高い剛性で受けることができる。さらに、一体の保持体に第1の軸支部と第2の軸支部とを設けるため、軸支部の形成精度を高め、遊星歯車軸の位置・組付精度を高めることができる。この結果、入力軸からの力を効率的、円滑に伝達することが可能となる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、遊星歯車軸の中間部を保持体の第3の軸支部で軸支するため、より高い剛性で遊星歯車軸を軸支することができ、入力軸からの力をより効率的、円滑に伝達することが可能となる。また、第3の軸支部を備えるため、遊星歯車軸の中間部で遊星歯車軸を二分割し、メンテナンス性や製作性などを高めることも可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、保持体の保持体軸部を回転自在に軸支するため、入力軸のみを軸支する場合に比べて、入力軸への負荷が軽減され、また、保持体の位置精度(入力軸中心に対する位置精度)、剛性を高めることが可能となる。この結果、入力軸からの力を効率的、円滑に伝達することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態に係る複式遊星差動歯車減速機を示す断面図である。
【図2】図1の複式遊星差動歯車減速機の遊星歯車ホルダ内を示す断面図である。
【図3】図1の複式遊星差動歯車減速機の遊星歯車ホルダを示す斜視図である。
【図4】図1の複式遊星差動歯車減速機の各歯車の減速比に対する歯車緒元を示す図である。
【図5】図4の歯車緒元のモジュールを調整した状態を示す図である。
【図6】図4における第1の太陽歯車、第1の遊星歯車および固定内歯歯車の転位後(転位量ゼロ)の歯車緒元を示す図である。
【図7】図4における第2の太陽歯車、第2の遊星歯車および従動内歯歯車の転位後の歯車緒元を示す図である。
【図8】従来の複式遊星差動歯車減速機を示す断面図である。
【図9】図8の複式遊星差動歯車減速機の模式図である。
【図10】図8の複式遊星差動歯車減速機の支持体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0020】
図1は、この発明の実施の形態に係る複式遊星差動歯車減速機1を示す断面図である。この複式遊星差動歯車減速機1は、太陽歯車と遊星歯車とを複数組備え、大きな減速比が得られるようにした減速機であり、主として、入力軸2と、第1の太陽歯車21と、第2の太陽歯車22と、固定内歯歯車3と、従動内歯歯車4と、第1の遊星歯車51と、第2の遊星歯車52とを備えている。ここで、第1の太陽歯車21、固定内歯歯車3および第1の遊星歯車51を第1の歯車ユニットU1とし、第2の太陽歯車22、従動内歯歯車4および第2の遊星歯車52を第2の歯車ユニットU2とする。
【0021】
入力軸2は、モータMと連結され、両端部が入力軸ベアリング23によって回転自在に軸支されている。この入力軸2の入力軸ベアリング23間に、第1の太陽歯車21と第2の太陽歯車22とが同心上に形成されている。この太陽歯車21、22のモジュール、歯数、ピッチ円などの歯車緒元については、後述する。
【0022】
固定内歯歯車3は、リング状で内側の全周に歯が形成された歯車で、第1の遊星歯車51と噛み合うように歯車緒元が設定され、ケーシング7に固定されている。ここで、ケーシング7は、主として、第1のケーシング体71と、第2のケーシング体72と、第3のケーシング体73とから構成されている。そして、第1のケーシング体71と第2のケーシング体72とに挟まれた状態で固定内歯歯車3が固定され、第1のケーシング体71に一方の入力軸ベアリング23が装着されている。
【0023】
従動内歯歯車4は、リング状で内側の全周に歯が形成された歯車で、第2の遊星歯車52と噛み合うように歯車緒元が設定され、一端面側に従動体41が取り付けられている。この従動体41は、略円錐状の筒体で、底面側で従動内歯歯車4と接続され、一方の従動ベアリング42と他方の入力軸ベアリング23とによって回転自在に軸支されている。また、従動体41の内面にはスプライン溝41aが形成され、このスプライン溝41aに出力軸43が嵌合して、従動体41と出力軸43とが接続されている。この出力軸43は、第3のケーシング体73に装着された出力ベアリング44、45によって回転自在に軸支されている。
【0024】
第1の遊星歯車51は、第1の太陽歯車21と固定内歯歯車3とに噛み合いながら第1の太陽歯車21の周囲を公転する歯車であり、第2の遊星歯車52は、第2の太陽歯車22と従動内歯歯車4とに噛み合いながら第2の太陽歯車22の周囲を公転する歯車である。これらの遊星歯車51、52は、後述するようにして歯車緒元が調整され、共通の遊星歯車軸6に配設されている。すなわち、図2に示すように、ひとつの遊星歯車軸6に第1の遊星歯車51と第2の遊星歯車52とが、それぞれ遊星ベアリング53を介して回転自在に配設されている。そして、このような遊星歯車51、52および遊星歯車軸6が、図3に示すように、遊星歯車ホルダ(保持体)8に等間隔(等角度)に3組配設されている。
【0025】
この遊星歯車ホルダ8は、厚肉(厚壁)の円筒状で、内孔8a内に入力軸2が配設されている。また、第1の側壁部81に第1の軸支孔(第1の軸支部)81aが形成され、第1の側壁部81に対向する第2の側壁部82に、第2の軸支孔(第2の軸支部)82aが形成されている。このような軸支孔81a、82aが3対形成され、遊星歯車軸6の一端部が第1の軸支孔81aで軸支(支持)され、遊星歯車軸6の他端部が第2の軸支孔82aで軸支されている。
【0026】
さらに、第1の遊星歯車51と第2の遊星歯車52との間に位置する遊星歯車軸6の中間部6aを軸支する第3の軸支孔(第3の軸支部)83aが、遊星歯車ホルダ8に形成されている。つまり、第1の側壁部81と第2の側壁部82との間に中間壁部83が設けられ、この中間壁部83に第3の軸支孔83aが形成されている。このように、遊星歯車軸6は、その両端部と中間部6aとにおいて、遊星歯車ホルダ8に支持されている。
【0027】
また、遊星歯車ホルダ8の内孔8aの両端側には、入力軸2と同心の円筒状で、側壁部81、82から突出したホルダ軸部(保持体軸部)84が形成され、このホルダ軸部84の外周側に従動ベアリング42が装着されている。そして、この従動ベアリング42によって遊星歯車ホルダ8が、入力軸2の軸心を中心に回転自在に軸支されている。ここで、従動ベアリング42は、上記のように一方が従動体41に装着され、他方が第1のケーシング体71に装着されている。このような遊星歯車ホルダ8は、ブロック状の素材から一体で構成されている。すなわち、第1の側壁部81、第2の側壁部82、および中間壁部83などは、一体的に形成されている。
【0028】
次に、第1の歯車ユニットU1および第2の歯車ユニットU2の歯車緒元の設定方法などについて、説明する。
【0029】
まず、第1の太陽歯車21の歯数をT21、第2の太陽歯車22の歯数をT22、固定内歯歯車3の歯数をT3、従動内歯歯車4の歯数をT4、第1の遊星歯車51の歯数をT51、第2の遊星歯車52の歯数をT52とすると、出力軸43(従動内歯歯車4)の回転数Nは、次式のようなる。
N={T21/(T21+T3)−T22/(T22+T4)}
×(T22+T4)/T4
=T21/(T21+T3)×{1−(T3×T22)/(T21×T4)}
この回転数Nの逆数が減速比ρであり、この実施の形態では、減速比ρを1344と設定する。
【0030】
そして、このような減速比ρが得られるように、各歯車21〜52の歯車緒元を、例えば図4に示すように設定する。ここで、歯車緒元の設定条件(仮条件)として、いろいろな条件が設定可能であるが、例えば、次のような設定条件に基づいて歯車緒元を設定する。
「条件1」
第2の太陽歯車22の歯数T22を第1の太陽歯車21の歯数T21に対して、「同数枚」、「−1枚」あるいは「+1枚」とする。
「条件2」
条件1に基づいて、第1の太陽歯車21の歯数T21を9〜21、固定内歯歯車3の歯数T3を21〜202、従動内歯歯車4の歯数T4を20〜202とする。
「条件3」
第1の太陽歯車21の歯数T21と固定内歯歯車3の歯数T3とを加算した歯数(図4では96)が、第1の遊星歯車51の数、つまり3で割り切れ、かつ、第2の太陽歯車22の歯数T22と従動内歯歯車4の歯数T4とを加算した歯数(図4では102)が、第2の遊星歯車52の数、つまり3で割り切れること。
【0031】
このようにして設定した歯車緒元では、第1の遊星歯車51の公転径と第2の遊星歯車52の公転径とが一致しないため、このままでは第1の遊星歯車51と第2の遊星歯車52とが同期して公転しない。このため、モジュールを変更、調整して公転中心位置を近づける。このとき、すべての歯車21〜52(歯車ユニットU1、U2)のモジュールを調整してもよいが、この実施の形態では、第2の歯車ユニットU2のモジュールのみを調整する。このとき、製作性や保守性などを考慮して、JIS(日本工業規格)などで規格されているモジュールに従って調整することが望ましい。例えば、図5に示すように、第2の歯車ユニットU2のモジュールを「3」から「2.75」に調整する。
【0032】
これにより、第2の遊星歯車52の公転径が第1の遊星歯車51の公転径に近づくが、一致はしていない。このため、歯車を転位させて公転中心位置を一致させる。このとき、すべての歯車21〜52を転位させてもよいが、この実施の形態では、第2の歯車ユニットU2のみを転位させる。これにより、第1の歯車ユニットU1の歯車緒元(転位量ゼロ)は、図6に示すようになり、第2の歯車ユニットU2の歯車緒元は、図7に示すようになり、第2の遊星歯車52の公転径(中心距離)が第1の遊星歯車51の公転径に一致する。このようにして、所定の減速比ρが維持されるように、歯車21〜52の歯数は変えずに、第2の歯車ユニットU2のモジュールと転位量を調整して、第1の遊星歯車51の公転径と第2の遊星歯車52の公転径とを一致させる。これにより、第1の遊星歯車51と第2の遊星歯車52とを共通の遊星歯車軸6に配設することができるものである。
【0033】
次に、このような構成の複式遊星差動歯車減速機1の作用について、説明する。
【0034】
まず、モータMを起動させることで入力軸2が回転駆動し、第1の太陽歯車21が回転すると、この回転に伴って、第1の遊星歯車51が固定内歯歯車3に噛み合いながら、第1の太陽歯車21の周囲を公転する。これと同時に、第2の太陽歯車22の回転に伴って、第2の遊星歯車52が従動内歯歯車4に噛み合いながら、第2の太陽歯車22の周囲を公転する。このとき、第1の遊星歯車51と第2の遊星歯車52とは、共通の遊星歯車軸6に配設されているため、同期して公転する(同一の公転を行う)。つまり、遊星歯車ホルダ8が遊星歯車51、52および遊星歯車軸6とともに公転する。
【0035】
そして、第1の太陽歯車21に対する第1の遊星歯車51の公転数(T21/(T3+T21))と、第2の太陽歯車22に対する第2の遊星歯車52の公転数(T22/(T4+T22))との差だけ、従動内歯歯車4が回転し、従動体41を介して出力軸43が回転する。このようにして、入力軸2の回転数に対して所定の減速比ρで減速して、出力軸43が回転するものである。つまり、入力軸2が1344回転すると、出力軸43が1回転する。
【0036】
以上のように、この複式遊星差動歯車減速機1によれば、ひとつの遊星歯車軸6に第1の遊星歯車51と第2の遊星歯車52とを配設するため、遊星歯車軸6および軸支孔81a、82a、83aの数が少なくなる。さらに、遊星歯車軸6の両端部を軸支する軸支孔81a、82aと、中間部6aを軸支する軸支孔83aとが、一体の遊星歯車ホルダ8に形成されているため、軸支孔81a、82a、83aを同時加工することができる。この結果、軸支孔81a、82a、83aの形成・加工精度や遊星歯車軸6の位置・組付精度を高くすることが可能となり、さらに、遊星歯車軸6の傾きも減少する。
【0037】
また、一体の遊星歯車ホルダ8で遊星歯車軸6を支持するため、高い剛性で(強固に)遊星歯車軸6を支持することができ、また、遊星歯車軸6のねじれ力を高い剛性で受けることができる。しかも、遊星歯車軸6の中間部6aをも遊星歯車ホルダ8で支持するため、より高い剛性で遊星歯車軸6を支持することができる。
【0038】
さらに、遊星歯車ホルダ8の両側端に位置するホルダ軸部84を従動ベアリング42で回転自在に軸支するため、入力軸2のみを軸支する場合に比べて、入力軸2への負荷が軽減されるとともに、遊星歯車ホルダ8の入力軸2中心に対する位置精度、剛性を高めることが可能となる。そして、これらの結果、入力軸2からの力を効率的、円滑に出力軸43に伝達することが可能となる。また、遊星歯車軸6が中間部6aでも支持されているため、遊星歯車軸6の中間部6aで遊星歯車軸6を二分割し、メンテナンス性や製作性などを高めることも可能となる。さらには、一体の遊星歯車ホルダ8に3組の遊星歯車51、52および遊星歯車軸6が、一体的に組み込まれているため、メンテナンス性や製作性などが高められる。
【0039】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、第2の歯車ユニットU2のモジュールと転位量を調整しているが、設計上要する減速比ρや元の歯車緒元(図4)などによっては、モジュールまたは転位量の一方のみを調整してもよく、また、歯車ユニットU1、U2の双方を調整してもよい。さらに、第1のケーシング体71と第2のケーシング体72との間に固定内歯歯車3を配設しているが、第1のケーシング体71などに固定内歯歯車3を一体的に設けてもよい。また、歯車緒元を設定する際の設定条件は、上記の「条件1〜3」の歯数などに限らず、さらに、遊星歯車51、52および遊星歯車軸6を等間隔に例えば4組配設してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 複式遊星差動歯車減速機
2 入力軸
21 第1の太陽歯車
22 第2の太陽歯車
3 固定内歯歯車
4 従動内歯歯車
41 従動体
51 第1の遊星歯車
52 第2の遊星歯車
6 遊星歯車軸
6a 中間部
7 ケーシング
8 遊星歯車ホルダ(保持体)
81a 第1の軸支孔(第1の軸支部)
82a 第2の軸支孔(第2の軸支部)
83a 第3の軸支孔(第3の軸支部)
84 ホルダ軸部(保持体軸部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸に第1の太陽歯車と第2の太陽歯車とが配設され、固定内歯歯車と前記第1の太陽歯車とに噛み合いながら前記第1の太陽歯車の周囲を公転する第1の遊星歯車と、従動内歯歯車と前記第2の太陽歯車とに噛み合いながら前記第2の太陽歯車の周囲を公転する第2の遊星歯車とを備え、前記第1の遊星歯車と第2の遊星歯車とが同期して公転するように配設され、前記入力軸の回転が所定の減速比で減速されて前記従動内歯歯車の回転として出力される複式遊星差動歯車減速機において、
前記所定の減速比を維持するように、前記第1の遊星歯車および第2の遊星歯車の少なくとも一方のモジュールや転位などの歯車緒元を調整して、前記第1の遊星歯車と第2の遊星歯車とを共通の遊星歯車軸に配設した、ことを特徴とする複式遊星差動歯車減速機。
【請求項2】
前記遊星歯車軸の一端部を軸支する第1の軸支部と前記遊星歯車軸の他端部を軸支する第2の軸支部とを一体の保持体に設けた、ことを特徴とする請求項1に記載の複式遊星差動歯車減速機。
【請求項3】
前記第1の遊星歯車と第2の遊星歯車との間に位置する前記遊星歯車軸の中間部を軸支する第3の軸支部を、前記保持体に設けた、ことを特徴とする請求項2に記載の複式遊星差動歯車減速機。
【請求項4】
前記保持体に前記入力軸と同心の保持体軸部を設け、この保持体軸部を回転自在に軸支した、ことを特徴とする請求項2または3のいずれか1項に記載の複式遊星差動歯車減速機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−69471(P2011−69471A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222882(P2009−222882)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(390027786)大久保歯車工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】