説明

複数の酸性化合物を含む粘着性組成物

本発明は複数の酸性化合物を含む粘着性組成物を提供する。この粘着性組成物は、例えば、歯構造を修復し、歯科矯正装置を歯に接着させることを含む用途のために有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
未処置の歯構造(すなわち、エッチング剤、プライマーまたは結合剤で前処理されていない構造)に結合できる粘着性組成物は当該技術分野で知られている。こうした組成物は、補修組成物(例えば、充填材料および歯科矯正接着剤)を含む歯科手法および歯科矯正手法において有用である。好ましくは、こうした粘着性組成物はワンパート保存安定性組成物である。
【0002】
従来の補修組成物は、優れた機械的特性(例えば、曲げ弾性率および圧縮強度)を示すことが可能である一方で、適切な粘着力を歯構造に提供するために別個のエッチング工程および/または結合工程を必要とする。自己エッチングもする粘着性組成物は、未処置の歯構造と処置済み歯構造の両方に良好な粘着力をもたらすことが知られている。しかし、未処置の歯構造への良好な粘着力を示す粘着性組成物は従来の補修材の優れた機械的特性に欠けることが多い。
【0003】
優れた機械的特性および未処置の歯構造への良好な粘着力を有する粘着性組成物が必要とされている。
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第10/916,240号明細書
【特許文献2】米国特許第4,872,936号明細書
【特許文献3】米国特許第5,130,347号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0206932号明細書
【特許文献5】米国特許第4,259,075号明細書
【特許文献6】米国特許第4,499,251号明細書
【特許文献7】米国特許第4,537,940号明細書
【特許文献8】米国特許第4,539,382号明細書
【特許文献9】米国特許第5,530,038号明細書
【特許文献10】米国特許第6,458,868号明細書
【特許文献11】EP712,622号明細書
【特許文献12】EP1,051,961号明細書
【特許文献13】米国特許第4,652,274号明細書
【特許文献14】米国特許第4,642,126号明細書
【特許文献15】米国特許第4,648,843号明細書
【特許文献16】国際公開第00/38619号パンフレット
【特許文献17】国際公開第01/92271号パンフレット
【特許文献18】国際公開第01/07444号パンフレット
【特許文献19】国際公開第00/42092号パンフレット
【特許文献20】米国特許第5,076,844号明細書
【特許文献21】米国特許第4,356,296号明細書
【特許文献22】EP0373384号明細書
【特許文献23】EP0201031号明細書
【特許文献24】EP0201778号明細書
【特許文献25】米国特許第6,030,606号明細書
【特許文献26】米国特許第5,545,676号明細書
【特許文献27】米国特許第6,765,036号明細書
【特許文献28】米国特許第4,298,738号明細書
【特許文献29】米国特許第4,324,744号明細書
【特許文献30】米国特許第4,385,109号明細書
【特許文献31】米国特許第4,710,523号明細書
【特許文献32】米国特許第4,737,593号明細書
【特許文献33】米国特許第6,251,963号明細書
【特許文献34】EP0173567A2号明細書
【特許文献35】米国特許出願公開第2003/0166740号明細書
【特許文献36】米国特許出願公開第2003/0195273号明細書
【特許文献37】米国特許第5,501,727号明細書
【特許文献38】米国特許第5,154,762号明細書
【特許文献39】米国特許第4,695,251号明細書
【特許文献40】米国特許第4,503,169号明細書
【特許文献41】米国特許第6,387,981号明細書
【特許文献42】米国特許第6,572,693号明細書
【特許文献43】国際公開第01/30305号パンフレット
【特許文献44】国際公開第01/30306号パンフレット
【特許文献45】国際公開第01/30307号パンフレット
【特許文献46】国際公開第03/063804号パンフレット
【特許文献47】米国特許出願第10/847,781号明細書
【特許文献48】米国特許出願第10/847,782号明細書
【特許文献49】米国特許出願第10/847,803号明細書
【特許文献50】米国特許第6,331,080号明細書
【特許文献51】米国特許第6,444,725号明細書
【特許文献52】米国特許第6,528,555号明細書
【特許文献53】米国仮出願第60/600,558号明細書
【特許文献54】米国仮出願第60/586,326号明細書
【特許文献55】米国特許第6,309,215号明細書
【特許文献56】米国特許出願第10/865,649号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの態様において、本発明は粘着性組成物を提供する。幾つかの実施態様において、粘着性組成物は歯構造のための補修材として用いるためのものである。幾つかの実施態様において、粘着性組成物は歯の表面に歯科矯正装置を接着させる際に用いるためのものである。
【0006】
粘着性組成物は、少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基と少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基(式中、xは1または2である)とを含む第1の化合物であって、少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基と少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基がC1〜C4炭化水素基によって互いに連結されている化合物と、少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基と少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基(式中、xは1または2である)とを含む第2の化合物であって、少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基と少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基がC5〜C12炭化水素基によって互いに連結されている化合物と、酸官能基のないエチレン系不飽和化合物と、開始剤系と、充填剤とを含む。ここで、粘着性組成物は少なくとも40重量%の充填剤を含む。好ましくは、この組成物は非水性である。
【0007】
もう1つの態様において、本発明は歯構造を修復する方法を提供する。この方法は、本明細書で記載された粘着性組成物を歯構造表面に被着させる(apply)工程と、硬化した組成物と歯構造との間に結合を形成するのに有効な条件下で前記粘着性組成物を硬化させる工程とを含む。典型的には、歯構造表面はエナメル質、象牙質およびセメント質を含む。しばしば、歯構造表面は粘着性組成物を被着させる前にエッチングされていない。粘着性組成物が非水性である実施態様に関して、歯構造表面は粘着性組成物を被着させる前に、好ましくは湿っている。例えば、水性希釈剤をエッチングされていない歯構造表面に被着させ、湿ったエッチングされていない歯構造表面を提供することが可能である。
【0008】
もう1つの態様において、本発明は歯科矯正装置を歯に接着させる方法を提供する。
【0009】
1つの実施態様において、この方法は、粘着性組成物が歯の表面をエッチングするのに有効な条件下で本明細書に記載された粘着性組成物を歯の表面に被着させる工程と、前記粘着性組成物が上に被着された前記歯の表面に前記歯科矯正装置を適用させる工程と、前記歯科矯正装置と歯との間に結合を形成するのに有効な条件下で前記粘着性組成物を硬化させる工程とを含む。
【0010】
もう1つの態様において、この方法は、粘着性組成物が歯の表面をエッチングするのに有効な条件下で本明細書に記載された粘着性組成物を上に有する前記歯科矯正装置を湿った歯表面に適用させる工程と、前記歯科矯正装置と歯との間に結合を形成するのに有効な条件下で前記粘着性組成物を硬化させる工程とを含む。幾つかの実施態様において、粘着性組成物は、上に粘着性組成物を有する歯科矯正装置を提供するために歯科矯正装置に被着させることが可能である。あるいは、上に接着剤組成物を有する歯科矯正装置はプレコートされた歯科矯正装置として提供することが可能である。
【0011】
定義
本明細書で用いられる「接着剤」または「歯科用接着剤」は、歯構造に「歯科用材料」(例えば、「修復材」、歯科矯正装置(例えばブラケット)または「歯科矯正接着剤」)を接着させるために歯構造(例えば、歯)上での前処置として用いられる組成物を意味する。「歯科矯正接着剤」は、歯構造(例えば、歯)表面に歯科矯正装置を接着させるために用いられる高度に(40重量%を上回る)充填された組成物(「歯科用接着剤」より「修復材」に似ている)を意味する。一般に、歯構造表面は、例えば、歯構造表面への「歯科矯正接着剤」の粘着力を強化するために、エッチング、下塗りおよび/または接着剤を被着させることにより前処置される。
【0012】
本明細書で用いられる「非水性」組成物(例えば、接着剤)は、水が成分として添加されなかった組成物を意味する。しかし、組成物の他の成分中に偶発的な水が存在してもよいが、水の全量は非水性組成物の安定性(例えば保存寿命)に悪影響を及ぼさない。非水性組成物は、非水性組成物の全重量を基準にして好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満の水を含む。
【0013】
本明細書で用いられる「自己エッチング」組成物は、歯構造をエッチング剤で前処置せずに歯構造表面に結合する組成物を意味する。好ましくは、自己エッチング組成物は、別個のエッチング剤もプライマーも用いない自己プライマーとしても機能することが可能である。
【0014】
本明細書で用いられる「粘着性」組成物は、プライマーまたは結合剤で歯構造を前処置せずに歯構造表面に結合することが可能である組成物を意味する。好ましくは、粘着性組成物は、別個のエッチング剤を用いない自己エッチング組成物でもある。
【0015】
本明細書で用いられる「(メタ)アクリルオキシ」基は、アクリルオキシ基(すなわち、CH2=CHC(O)O−)および/またはメタアクリルオキシ基(すなわち、CH2=C(CH3)C(O)O−)を意味する短縮語である。
【0016】
本明細書で用いられる「炭化水素」基は元素である炭素および水素からなる有機基である。
【0017】
本明細書で用いられる「親水性」化合物は、当該化合物を含む粘着性組成物が硬化した組成物と歯構造との間で有効な結合を形成することを可能にするのに十分に歯構造表面を湿らせる能力を有する化合物を意味する。
【0018】
本明細書で用いられる「疎水性」化合物は、当該化合物を含む粘着性組成物が硬化した組成物と歯構造との間で有効な結合を形成することを可能にするのに十分に歯構造表面を湿らせる能力をもたない化合物を意味する。しかし、「疎水性」化合物は、高い曲げ強度値および圧縮強度値を有する硬化した組成物を提供する際に有効であることが可能である。
【0019】
本明細書で用いられる組成物を「硬化」または「キュア」させるは互換可能に用いられ、組成物中に含まれる1種以上の材料が関与する例えば光重合反応技術および化学重合技術(例えば、エチレン系不飽和化合物を重合させるのに有効なラジカルを形成させるイオン反応または化学反応)を含む重合反応および/または架橋反応を意味する。
【0020】
本明細書で用いられる「歯科構造表面」は歯構造(例えば、エナメル質、象牙質およびセメント質)および骨を意味する。
【0021】
本明細書で用いられる「アンカット」歯構造表面は、切削、摩砕、穴あけなどによって調製されなかった歯構造表面を意味する。
【0022】
本明細書で用いられる「未処置」の歯構造表面は、本発明の自己エッチング接着剤組成物または粘着性組成物の塗布の前にエッチング剤、プライマーまたは結合剤で処置されなかった歯表面または骨表面を意味する。
【0023】
本明細書で用いられる「エッチングされていない」歯構造表面は、本発明の自己エッチング接着剤組成物または粘着性組成物の塗布の前にエッチング剤で処理されなかった歯表面または骨表面を意味する。
【0024】
本明細書で用いられる「エッチング剤」は、歯構造表面を完全にまたは部分的に可溶化(すなわち、エッチング)することができる酸性組成物を意味する。エッチング効果は、人の裸眼に対しておよび/または(例えば光顕微鏡法による)計器で検出可能に可視であることが可能である。典型的には、エッチング剤は約10〜30秒の時間にわたり歯表面構造に被着される。
【0025】
本明細書で用いられる「湿った」歯構造表面は、水性液(例えば、水または唾液)が上に存在するとともに人の裸眼に見える歯構造の表面を意味する。
【0026】
本明細書で用いられる「乾燥」歯構造表面は、乾燥(例えば空気乾燥)されているとともに現在目に見える水をもたない歯構造の表面を意味する。
【0027】
本明細書で用いられる「歯科用材料」は、歯構造表面に結合されてもよく、そして例えば、歯科用補修材、歯科矯正装置および/または歯科矯正接着剤を含む材料を意味する。
【0028】
本明細書で用いられる単数形(「a」または「an」)は、特に指示がない限り「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の粘着性組成物は、硬い表面、好ましくは象牙質、エナメル質および骨などの硬い組織を処置するために有用である。本発明の組成物は、エッチング剤もプライマーも接着剤も必要としない修復材(例えば、充填材料)として用いることが可能である。
【0030】
粘着性組成物は、重合性成分(例えば、酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物および酸官能基のないエチレン系不飽和化合物)、充填剤および開始剤系を組み合わせることにより典型的に調製される。例示的な粘着性組成物は、例えば、2004年8月11日出願の(特許文献1)で開示されている。典型的には、重合性成分の選択は、所望のエッチング特性、下塗り特性、接着剤特性および/または補修特性を組成物に付与するように行われる。一般に、エッチング特性、下塗り特性、接着剤特性および/または補修特性を硬表面処置組成物に付与するために重合性成分および任意の他の成分を選択する技術は歯科用材料の配合に関わる当業者に周知されている。こうした組成物、歯科用接着剤および歯科用補修材の中で用いるために適する重合性成分を本明細書で議論する。
【0031】
本発明の粘着性組成物は、酸官能基を有する2種以上のエチレン系不飽和化合物、酸官能基のない1種以上のエチレン系不飽和化合物、開始剤系および充填剤を含む。
【0032】
酸官能基を有する2種以上のエチレン系不飽和化合物はそれぞれ少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基と少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基(式中、x=1または2)を含む。
【0033】
酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物の1種において、少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基と少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基は、C1〜C4炭化水素基、好ましくはC1〜C3炭化水素基、より好ましくはC2炭化水素基によって互いに連結されている。こうしたエチレン系不飽和化合物は、例えば式Iの化合物を含む。
【化1】

式中、mおよびnはそれぞれ独立して1または2であり、Qは水素またはメチル基であり、R1はC1〜C4炭化水素基、好ましくはC1〜C3炭化水素基、より好ましくはC2炭化水素基である。酸官能基を有するこうしたエチレン系不飽和化合物は典型的に親水性である。
【0034】
典型的に親水性化合物である式Iの適する化合物には、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、HEMA)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)ホスフェート、((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピルオキシホスフェートおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物のもう1種において、少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基と少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基は、C5〜C12炭化水素基、好ましくはC6〜C10炭化水素基、より好ましくはC6炭化水素基によって互いに連結されている。こうしたエチレン系不飽和化合物は、例えば式IIの化合物を含む。
【化2】

式中、oおよびpはそれぞれ独立して1または2であり、Qは水素またはメチル基であり、R2はC5〜C12炭化水素基、好ましくはC6〜C10炭化水素基、より好ましくはC6炭化水素基である。酸官能基を有するこうしたエチレン系不飽和化合物は典型的に疎水性である。
【0036】
典型的に疎水性化合物である式IIの適する化合物には、例えば、(メタ)アクリルオキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)ホスフェートおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0037】
典型的には、当業者は、良好な粘着力を提供するために粘着性補修組成物の中で用いるための親水性エチレン系不飽和化合物を選択してもよい。しかし、得られた組成物は、しばしば劣った機械的特性を有する。逆に、当業者は、良好な機械的特性を提供するために粘着性補修組成物の中で用いるための疎水性エチレン系不飽和化合物を選択してもよい。しかし、得られた組成物は、しばしば殆どまたは全く粘着力を示さない。本発明は、良好な粘着力と良好な機械的特性の両方を有する粘着性組成物につながり得る親水性エチレン系不飽和化合物と疎水性エチレン系不飽和化合物の組み合わせを開示している。
【0038】
式I(すなわち、典型的に親水性化合物)および式II(すなわち、典型的に疎水性化合物)の化合物は、好ましくは少なくとも1:5(式I対式II)、より好ましくは少なくとも1:4(式I対式II)の重量/重量比で用いられる。式I(すなわち、典型的に親水性化合物)および式II(すなわち、典型的に疎水性化合物)の化合物は、好ましくは多くとも10:1(式I対式II)、より好ましくは多くとも4:1(式I対式II)の重量/重量比で用いられる。
【0039】
上で議論した酸官能基を有する2種以上のエチレン系不飽和化合物に加えて、本発明の粘着性組成物は、必要に応じて酸官能基を有する追加のエチレン系不飽和化合物を含むことが可能である。本明細書で用いられる酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物は、エチレン不飽和官能基および酸官能基および/または酸前駆体官能基を有するモノマー、オリゴマーおよびポリマーを含む積もりである。酸前駆体官能基には、例えば、酸無水物、酸ハロゲン化物およびピロリン酸塩が挙げられる。
【0040】
酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物には、グリセロールホスフェートモノメタクリレート、グリセロールホスフェートジメタクリレート、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジメタクリレートまたはクエン酸トリメタクリレート、ポリ(メタ)アクリル化オリゴマー酸、ポリ(メタ)アクリル化高分子酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリカルボキシル−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリクロロ燐酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリスルホネートおよびポリ(メタ)アクリル化ポリ硼酸などの例えばα,β−不飽和酸性化合物が挙げられ、硬化性樹脂系の中の成分として用いてもよい。(メタ)アクリル酸、芳香族(メタ)アクリル化酸(例えば、メタクリレート化トリメリット酸)などの不飽和炭酸およびそれらの無水物のモノマー、オリゴマーおよびポリマーも用いることが可能である。本発明の特定の好ましい組成物は、少なくとも1個のP−OH部分を有する酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物を含む。
【0041】
これらの化合物の幾つかは、例えば、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートとカルボン酸との間の反応生成物として得られる。酸官能性成分とエチレン系不飽和成分の両方を有するこのタイプの追加の化合物は、(特許文献2)(エンゲルブレヒト(Engelbrecht))および(特許文献3)(ミトラ(Mitra))に記載されている。エチレン系不飽和部分と酸部分の両方を含む多様なこうした化合物を用いることが可能である。こうした化合物の混合物を必要ならば用いることが可能である。
【0042】
酸官能基を有する追加のエチレン系不飽和化合物には、例えば、(特許文献4)(アブエリヤマン(Abuelyaman))で開示された例えば重合性ビスホスホン酸、AA:ITA:IEM(例えば、(特許文献3)(ミトラ(Mitra))の実施例11に記載されたようにコポリマーの酸基の一部をメタクリレート側基に転化するのに十分な2−イソシアナトエチルメタクリレートとAA:ITAコポリマーを反応させることにより製造された側鎖メタクリレートを有するアクリル酸:イタコン酸のコポリマー)、ならびに(特許文献5)(ヤマウチ(Yamauchi)ら)、(特許文献6)(オームラ(Omura)ら)、(特許文献7)(オームラ(Omura)ら)、(特許文献8)(オームラ(Omura)ら)、(特許文献9)(ヤマモト(Yamamoto)ら)、(特許文献10)(オカダ(Okada)ら)、および欧州特許(特許文献11)(トクヤマ(Tokuyama Corp.))および欧州特許(特許文献12)(クラレ(Kuraray Co.,Ltd.))において挙げられたものが挙げられる。
【0043】
本発明の組成物は、未充填組成物の全重量を基準にして好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも3重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%の、酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物を含む。本発明の組成物は、未充填組成物の全重量を基準にして好ましくは多くとも80重量%、より好ましくは多くとも70重量%、最も好ましくは多くとも60重量%の、酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物を含む。
【0044】
酸官能基のないエチレン系不飽和化合物
本発明の組成物は、酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物に加えて1種以上の重合性成分も含み、よって硬化性組成物を形成する。重合性成分は、モノマー、オリゴマーまたはポリマーであってもよい。幾つかの実施態様において、酸官能基のないエチレン系不飽和化合物は、分子当たり少なくとも2個のエチレン系不飽和基(例えば、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、ビニル基、スチリル基およびそれらの組み合わせ)(例えば、分子当たり少なくとも2個のメタクリルオキシ基)を含む。
【0045】
特定の実施態様において、組成物は光重合性である。すなわち、組成物は光重合性成分と、化学線を照射すると組成物の重合(または硬化)を開始させる光開始剤(すなわち光開始剤系)とを含む。こうした光重合性組成物はラジカル重合性であることが可能である。
【0046】
特定の実施態様において、組成物は化学的に重合可能である。すなわち、組成物は化学的に重合可能な成分と、化学線による照射に依存せずに組成物を重合、キュアまたは別段に硬化させることが可能である化学的開始剤(すなわち開始剤系)とを含む。こうした化学的に重合可能な組成物は「自己キュア」組成物と時には呼ばれ、それらには、ガラスイオノマーセメント、樹脂変性ガラスイオノマーセメント、レドックスキュア系およびそれらの組み合わせを挙げてもよい。
【0047】
本発明の組成物は、未充填組成物の全重量を基準にして好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、最も好ましくは少なくとも15重量%の、酸官能基のないエチレン系不飽和化合物を含む。本発明の組成物は、未充填組成物の全重量を基準にして好ましくは多くとも95重量%、より好ましくは多くとも90重量%、最も好ましくは多くとも80重量%の、酸官能基のないエチレン系不飽和化合物を含む。
【0048】
光重合性組成物
適する光重合性組成物は、(ラジカル活性不飽和基を含む)エチレン系不飽和化合物を含む光重合性成分(例えば化合物)を含んでもよい。有用なエチレン系不飽和化合物の例には、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステルおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0049】
光重合性組成物はラジカル活性官能基を有する化合物を含んでもよく、こうした化合物は1個以上のエチレン系不飽和基を有するモノマー、オリゴマーおよびポリマーを含んでもよい。適する化合物は少なくとも1種のエチレン系不飽和結合を含み、追加の重合を受けることが可能である。こうしたラジカル重合性化合物には、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1−(2−アクリルオキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートおよびトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメタクリレートなどのモノ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレートまたはポリ(メタ)アクリレート(すなわち、アクリレートおよびメタクリレート)、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミドおよびジアセトン(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド(すなわち、アクリルアミドおよびメタクリルアミド)、ウレタン(メタ)アクリレート、(好ましくは200〜500の分子量の)ポリエチレングリコールのビス(メタ)アクリレート、(特許文献13)(ボエッチャー(Boettcher)ら)におけるものなどのアクリレート化モノマーの共重合性混合物、(特許文献14)(ザドール(Zador)ら)に記載のものなどのアクリレート化オリゴマーならびに(特許文献15)(ミトラ(Mitra))で開示されたものなどのポリ(エチレン系不飽和)カルバモイルイソシアヌレート、スチレンなどのビニル化合物、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルアジペートおよびジビニルフタレートが挙げられる。適する他のラジカル重合性化合物には、例えば、(特許文献16)(グゲンバーガー(Guggenberger)ら)、(特許文献17)(ウェインマン(Weinmann)ら)、(特許文献18)(グゲンバーガー(Guggenberger)ら)、(特許文献19)(グゲンバーガー(Guggenberger)ら)で開示されたシロキサン官能性(メタ)アクリレートおよび例えば(特許文献20)(フォック(Fock)ら)、(特許文献21)(グリフィス(Griffith)ら)、(特許文献22)(ワーゲンクネヒト(Wagenknecht)ら)、(特許文献23)(レイナーズ(Reiners)ら)および(特許文献24)(レイナーズ(Reiners)ら)で開示されたフルオロポリマー官能性(メタ)アクリレート)が挙げられる。2種以上のラジカル重合性化合物の混合物を必要ならば用いることが可能である。
【0050】
重合性成分は単一分子中にヒドロキシル基およびラジカル活性官能基も含んでよい。こうした材料の例には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレートまたはグリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレートまたはトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレートまたはペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、ソルビトールモノ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレートまたはソルビトールペンタ(メタ)アクリレートおよび2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビスGMA)が挙げられる。適するエチレン系不飽和化合物は、セントルイスのシグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich(St.Louis))などの様々な商業的供給業者から入手も可能である。エチレン系不飽和化合物の混合物を必要ならば用いることが可能である。
【0051】
好ましい光重合性成分には、PEGDMA(約400の分子量を有するポリエチレングリコールジメタクリレート)、ビスGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、GDMA(グリセロールジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、(特許文献25)(ホルムス(Holmes))に記載されたビスEMA6、およびNPGDMA(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)が挙げられる。重合性成分の種々の組み合わせを必要ならば用いることが可能である。
【0052】
ラジカル光重合性組成物を重合させるために適する光開始剤(すなわち、1種以上の化合物を含む光開始剤系)には、二元系および三元系が挙げられる。典型的な三元系光開始剤は、(特許文献26)(パラゾット(Palazzotto)ら)に記載されたヨードニウム塩、光増感剤および電子供与体化合物を含む。好ましいヨードニウム塩はジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレートおよびトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。好ましい光増感剤は、400nm〜520nm(好ましくは、450nm〜500nm)の範囲内で多少の光を吸収するモノケトンおよびジケトンである。より好ましい化合物は、400nm〜520nm(なおより好ましくは、450〜500nm)の範囲内で多少の光吸収を有するアルファジケトンである。好ましい化合物は、樟脳キノン、ベンジルフリル3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン、1−フェニル−1,2−プロパンジオンおよび他の1−アリール−2−アルキル−1,2−エタンジオールならびに環式アルファジケトンである。樟脳キノンは最も好ましい。好ましい電子供与体化合物は置換アミン、例えばエチルジメチルアミノベンゾエートを含む。カチオン重合性樹脂を光重合させるために有用な適する他の三元光開始剤系は、例えば、(特許文献27)(デデ(Dede)ら)に記載されている。
【0053】
ラジカル光重合性組成物を重合させるために適する他の光開始剤には、380nm〜1200nmの機能性波長範囲を典型的に有する酸化ホスフィンの類が挙げられる。380nm〜450nmの機能性波長範囲を有する好ましい酸化ホスフィンラジカル開始剤は、(特許文献28)(レチェトケン(Lechtken)ら)、(特許文献29)(レチェトケン(Lechtken)ら)、(特許文献30)(レチェトケン(Lechtken)ら)、(特許文献31)(レチェトケン(Lechtken)ら)および(特許文献32)(エルリッチ(Ellrich)ら)、(特許文献33)(コーラー(Kohler)ら)ならびに(特許文献34)(イング(Ying))に記載されたものなどのアシル酸化ホスフィンおよびビスアシル酸化ホスフィンである。
【0054】
380nm〜450nmを上回る波長範囲で照射された時にラジカル開始できる市販酸化ホスフィン光開始剤には、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニル酸化ホスフィン(「イルガキュア(IRGACURE)」819、ニューヨーク州タリータウンのチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals(Tarrytown,NY))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルフェニル)酸化ホスフィン(CGI403、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルフェニル酸化ホスフィンと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの25:75混合物(「イルガキュア(IRGACURE)」1700、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニル酸化ホスフィンと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの1:1混合物(「ダロキュア(DAROCUR)」4265、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))およびエチル2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート(「ルシリン(LUCIRIN)」LR8893X、ノースカロライナ州シャーロットのバスフ・コーポレーション(BASF Corp.(Charlotte,NC))が挙げられる。
【0055】
酸化ホスフィン開始剤は、組成物の全重量を基準にして典型的には0.1重量%〜5.0重量%などの触媒有効量で光重合性組成物中に存在する。
【0056】
第三アミン還元剤はアシル酸化ホスフィンと組み合わせて用いてもよい。本発明において有用な例示的な第三アミンには、エチル4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエートおよびN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。アミン還元剤が存在する時、アミン還元剤は、組成物の全重量を基準にして0.1重量%〜5.0重量%の量で光重合性組成物中に存在する。他の開始剤の有用な量は当業者に周知されている。
【0057】
化学的に重合可能な組成物
化学的に重合可能な組成物は、重合性成分(例えばエチレン系不飽和重合性成分)と、酸化剤および還元剤を含むレドックス剤とを含むレドックスキュア系を含んでもよい。本発明において有用である適する重合性成分、レドックス剤、任意の酸官能性成分および任意の充填剤は、(特許文献35)(ミトラ(Mitra)ら)および(特許文献36)(ミトラ(Mitra)ら)に記載されている。
【0058】
還元剤および酸化剤は、樹脂系(例えばエチレン系不飽和成分)の重合を開始させることができるラジカルを生成させるために互いに反応するか、または別段に互いに協働するべきである。キュアのこのタイプは暗反応である。すなわち、それは光の存在に依存せず、光の存在しない状態で進行することが可能である。還元剤および酸化剤は、典型的な歯科条件下でそれらの貯蔵および使用を可能にするのに好ましくは十分に保存安定性で望ましくない着色がない。還元剤および酸化剤は、重合性組成物の他の成分への素早い溶解を可能にし(そして他の成分からの分離を妨害する)のに十分に樹脂系と混和性(および好ましくは水溶性)であるべきである。
【0059】
有用な還元剤には、(特許文献37)(ワング(Wang)ら)に記載されたアスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体および金属錯化アスコルビン酸化合物;、4−t−ブチルジメチルアニリンなどのアミン、特に第三アミン、p−トルエンスルフィン酸塩およびベンゼンスルフィン酸塩などの芳香族スルフィン酸塩、1−エチル−2−チオウレア、テトラエチルチオウレア、テトラメチルチオウレア、1,1−ジブチルチオウレアおよび1,3−ジブチルチオウレアなどのチオウレア、ならびにそれらの混合物が挙げられる。他の二次還元剤は、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に応じて異なる)、ジチオナイトアニオンまたはスルフィットアニオンの塩およびそれらの混合物を含んでもよい。好ましくは、還元剤はアミンである。
【0060】
適する酸化剤も当業者に熟知されており、それらには、過硫酸ならびにナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、セシウム塩およびアルキルアンモニウム塩などの過硫酸の塩が挙げられるが、それらに限定されない。追加の酸化剤には、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、クミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシドおよびアミルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド、ならびに塩化コバルト(III)および塩化第二鉄などの遷移金属の塩、硫酸セリウム(IV)、過硼酸およびその塩、過マンガン酸およびその塩、過燐酸およびその塩、ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0061】
2種以上の酸化剤または2種以上の還元剤を用いることが望ましい場合がある。遷移金属化合物の少量もレドックスキュアの速度を加速するために添加してよい。幾つかの実施態様において、(特許文献36)(ミトラ(Mitra)ら)に記載されたように重合性組成物の安定性を強化するために二次イオン塩を含めることが好ましい場合がある。
【0062】
還元剤および酸化剤は、適切なラジカル反応速度を可能にするのに十分な量で存在する。これは、任意の充填剤を除く重合性組成物の原料のすべてを組み合わせ、硬化した塊状物が得られるか否かを観察することにより評価することが可能である。
【0063】
還元剤は、重合性組成物の成分の(水を含む)全量を基準にして好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%の量で存在する。還元剤は、重合性組成物の成分の(水を含む)全量を基準にして好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在する。
【0064】
酸化剤は、重合性組成物の成分の(水を含む)全量を基準にして好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.10重量%の量で存在する。酸化剤は、重合性組成物の成分の(水を含む)全量を基準にして好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在する。
【0065】
還元剤または酸化剤は、(特許文献38)(ミトラ(Mitra)ら)に記載されたようにマイクロカプセル化することが可能である。これは、重合性組成物の保存安定性を一般に強化し、必要ならば還元剤と酸化剤を一緒に包装することを可能にする。例えば、封入剤の適切な選択を通して、酸化剤および還元剤は酸官能性成分および任意の充填剤と組み合わせることが可能であり、貯蔵安定状態にしておくことが可能である。同様に、水不溶性封入剤の適切な選択を通して、酸化剤および還元剤はFASガラスおよび水と組み合わせることが可能であり、貯蔵安定状態で維持することが可能である。
【0066】
レドックスキュア系は、他のキュア系、例えば、(特許文献38)(ミトラ(Mitra)ら)に記載されたような光重合性組成物と組み合わせることが可能である。
【0067】
充填剤
本発明の組成物は充填剤も含むことが可能である。充填剤は、歯科用修復組成物中で現在用いられている充填剤などの、歯科用途のために用いられる組成物に導入するために適する多様な材料の1種以上から選択してもよい。
【0068】
充填剤は、好ましくは微細である。充填剤は、単峰または多峰(例えば複峰)の粒子サイズ分布を有することが可能である。充填剤の最大粒子サイズ(粒子の最大寸法、典型的には直径)は、好ましくは20マイクロメートル未満、より好ましくは10マイクロメートル未満、最も好ましくは5マイクロメートル未満である。充填剤の平均粒子サイズは、好ましくは0.1マイクロメートル未満、より好ましくは0.075マイクロメートル未満である。
【0069】
充填剤は無機材料であることが可能である。充填剤は、樹脂系に不溶性であるとともに任意に無機充填剤で充填されている架橋有機材料であることも可能である。充填剤は、とにかく毒性でなく且つ口の中で用いるために適するべきである。充填剤は放射線不透過性または放射線透過性であることが可能である。充填剤は、典型的には水に実質的に不溶性である。
【0070】
適する無機充填剤の例は、石英、窒化物(例えば窒化珪素)、例えば、Zr、Sr、Ce、Sb、Sn、Ba、ZnおよびAlから誘導されたガラス、長石、ホウケイ酸ガラス、カオリン、タルク、チタニア;、(特許文献39)(ランドクレブ(Randklev))に記載されたものなどの低モー硬度充填剤およびシリカ極微粒子(例えば、オハイオ州アクロンのデグッサ・コーポレーション(Degussa Corp.(Akron,OH))製の「OX50」、「130」、「150」および「200」シリカならびにイリノイ州ツコラのキャボット・コーポレーション(Cabot Corp.(Tuscola、IL))製のCAB−O−SIL M5シリカを含む「アエロジル(AEROSIL)」という商品名で入手できるものなどの熱分解法シリカ)に限定されないが、それらを含む天然材料または合成材料である。適する有機充填剤粒子の例には、充填剤入りまたは充填剤なしの微粉砕ポリカーボネートおよびポリエポキシドなどが挙げられる。
【0071】
好ましい非酸反応性充填剤粒子は、石英、極微粒子シリカおよび(特許文献40)(ランドクレブ(Randklev))に記載された型の非ガラス質微粒子である。これらの非酸反応性充填剤の混合物も有機材料と無機材料から製造された組み合わせ充填剤と同様に考慮されている。シラン処理ジルコニア−シリカ(Zr−Si)充填剤は特定の実施態様において特に好ましい。
【0072】
充填剤は酸反応性充填剤であることも可能である。適する酸反応性充填剤には、金属酸化物、ガラスおよび金属塩が挙げられる。典型的な金属酸化物には、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛が挙げられる。典型的なガラスには、硼酸塩ガラス、燐酸塩ガラスおよびフルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラスが挙げられる。FASガラスは特に好ましい。FASガラスは、FASガラスが硬化性組成物の成分と混合された時、硬化した歯科用組成物が生じるように十分な溶出性カチオンを典型的に含む。FASガラスは、硬化した組成物が抗う食特性を有するように十分な溶出性弗化物イオンも典型的に含む。FASガラスは、FASガラス製造技術に関わる当業者に熟知された技術を用いて弗化物、アルミナおよび他のガラス形成用原料を含む溶融物から製造することが可能である。FASガラスは、FASガラスが他のセメント成分と便利に混合できるとともに得られた混合物が口の中で用いられる時にうまく機能するように十分に微細である粒子の形を典型的に取っている。
【0073】
一般に、FASガラスに関する平均粒子サイズ(典型的には直径)は、例えば、沈降分析器を用いて測定した時、約12マイクロメートル以下、典型的には10マイクロメートル以下、より典型的には5マイクロメートル以下である。適するFASガラスは、当業者に熟知されており、多様な商業的供給業者から入手でき、「ビトレマー(VITREMER)」、「ビトレボンド(VITREBOND)」、「リライ・X・ルーティング・セメント(RELY X LUTING CEMENT)」、「リライ・X・ルーティング・プラス・セメント(RELY X LUTING PLUS CEMENT)」、「フォタック−フィル・クイック(PHOTAC−FIL QUICK)」、「ケタック・モラー(KETAC−MOLAR)」およびケタック・フィル・プラス(KETAC−FIL PLUS)」(ミネソタ州セントポールのスリーエム・ESPE・デンタル・プロダクツ(3M ESPE Dental Products(St.Paul,MN)))、「フジ(FUJI)」II LCおよび「フジ(FUJI)」IX(日本国東京のG−Cデンタル・インダストリアル・コーポレーション(G−C Dental Industrial Corp.(Tokyo,Japan)))および「ケムフィル・スペリオール(CHEMFIL Superior)」(ペンシルバニア州ヨークのデンツプライ・インターナショナル(Dentsply International(York,PA)))という商品名で市販されているものなどの現在入手できるガラスイオノマーセメントの中に多く見られる。充填剤の混合物を必要ならば用いることが可能である。
【0074】
充填剤粒子の表面は、充填剤と樹脂との間の結合を強化するためにカップリング剤で処理することも可能である。適するカップリング剤の使用は、ガンマメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマメルカプトプロピルトリエトキシシランおよびガンマアミノプロピルトリメトキシシランなどを含む。
【0075】
適する他の充填剤は、(特許文献41)(ザーン(Zhang)ら)および(特許文献42)(ウ(Wu)ら)、ならびに(特許文献43)(ザーン(Zhang)ら)、(特許文献44)(ウィンディッシュ(Windisch)ら)、(特許文献45)(ザーン(Zhang)ら)および(特許文献46)(ウ(Wu)ら)に記載されている。これらの参考文献に記載された充填剤成分には、ナノサイズシリカ粒子、ナノサイズ金属酸化物粒子およびそれらの組み合わせが挙げられる。ナノ充填剤は、(特許文献47)、(特許文献48)および(特許文献49)にも記載されている。これらの3つすべては2004年5月17日出願であった。
【0076】
本発明の粘着性組成物は、組成物の全重量を基準にして少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも45重量%、より好ましくは少なくとも50重量%の充填剤を含む。こうした実施態様に関して、本発明の組成物は、組成物の全重量を基準にして好ましくは多くとも90重量%、より好ましくは多くとも80重量%、なおより好ましくは多くとも75重量%の充填剤、最も好ましくは多くとも70重量%の充填剤を含む。
【0077】
任意の光漂白性染料
幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、好ましくは、歯構造とは著しく異なる初期色を有する。色は、好ましくは光漂白性染料の使用を通して組成物に付与される。組成物は、組成物の全重量を基準にして好ましくは少なくとも0.001重量%の光漂白性染料、より好ましくは少なくとも0.002重量%の光漂白性染料を含む。組成物は、組成物の全重量を基準にして好ましくは多くとも1重量%の光漂白性染料、より好ましくは多くとも0.1重量%の光漂白性染料を含む。光漂白性染料の量は、その吸光率、初期色を見分ける人の目の能力および所望する色の変化に応じて異なってもよい。
【0078】
光漂白性染料の発色特性および漂白特性は、例えば、雰囲気中の酸強度、誘電率、極性、酸素の量および含水率を含む様々な要素に応じて異なる。しかし、染料の漂白特性は、組成物に照射し、色の変化を評価することによって容易に決定することが可能である。好ましくは、少なくとも1種の光漂白性染料は硬化性樹脂に少なくとも部分的に可溶性である。
【0079】
光漂白性染料の例示的な類は、例えば、(特許文献50)(コール(Cole)ら)、(特許文献51)(ツロム(Trom)ら)および(特許文献52)(ニクトースキー(Nikutowski)ら)で開示されている。好ましい染料には、例えば、ローズベンガル、メチレンバイオレット、メチレンブルー、フルオレセイン、エオシンイエロー、エオシンY、エチルエオシン、エオシンブルーイッシュ、エオシンB、エリトロシンB、エリトロシンイエローイッシュブレンド、トルイジンブルー、4’,5’−ジブロモフルオレセインおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0080】
本発明組成物の色変化は光によって開始される。好ましくは、組成物の色変化は、十分な時間にわたって可視光線または近赤外線(IR)を放出する例えば歯科用キュア光を用いる化学線を用いて開始される。本発明の組成物の色変化を開始させるメカニズムは、樹脂を硬化させる硬化メカニズムから独立していてもよいか、または硬化メカニズムと実質的に同時に起こってもよい。例えば、組成物は化学的(例えばレドックス開始)または熱的に重合を開始させる時に硬化してもよく、初期色から最終色への色変化は、化学線を照射されて直ぐに硬化プロセスの後に起こってもよい。
【0081】
初期色から最終色への組成物の色変化は、好ましくは変色試験によって定量化される。変色試験を用いてΔE*の値は決定され、それは三次元色空間の全色変化を示す。人の目は、標準照明条件において約3ΔE*単位の色変化を検出することが可能である。本発明の歯科用組成物は、好ましくは少なくとも20の色変化ΔE*を有することが可能であり、より好ましくは、ΔE*は少なくとも30であり、最も好ましくは、ΔE*は少なくとも40である。
【0082】
任意の添加剤
任意に、本発明の組成物は溶媒(例えば、アルコール(例えば、プロパノール、エタノール)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(例えば酢酸エチル)および他の非水溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン))を含んでもよい。
【0083】
必要ならば、本発明の組成物は、インジケータ、染料、顔料、禁止剤、促進剤、粘度調整剤、湿潤剤、酒石酸、キレート剤、緩衝剤、安定剤および当業者に対して明らかである他の類似原料などの添加剤を含むことが可能である。更に、薬物または他の治療物質は、任意に歯科用組成物に添加することが可能である。例には、歯科用組成物中でしばしば用いられるタイプの弗化物源、白化剤、う食予防薬(例えばキシリトール)、鉱物成分再補給剤(例えば、燐酸カルシウム化合物)、酵素、ブレスフレッシュナー、麻酔薬、凝固剤、酸中和剤、化学療法薬、免疫応答調整薬、チキソトロープ、ポリオール、抗炎症薬、抗菌剤、抗真菌剤、口腔乾燥の治療薬および減感剤などが挙げられるが、それらに限定されない。上の添加剤のいずれかの組み合わせも用いてよい。こうしたいずれか1つの添加剤の選択および量は、所望する結果を達成するために過度の実験を行わずに当業者によって選択することが可能である。
【0084】
希釈剤
本発明の幾つかの特定の実施態様において、水性希釈剤(すなわち、水を含む希釈剤)は、表面を湿らすために歯構造表面に被着される。本発明幾つかの特定の実施態様において、非水性組成物(好ましくは、接着剤組成物)は、歯構造表面(好ましくは、歯の表面)に塗布するために希釈剤と混合される。
【0085】
幾つかの実施態様において、水性希釈剤は、水または界面活性剤と組み合わせた水から本質的になる。水は、蒸留水、脱イオン水または水道淡水であることが可能である。一般に、脱イオン水は好ましい。適する界面活性剤は上で記載されている。
【0086】
幾つかの実施態様において、水性希釈剤は、例えば、酸感受性染料、抗菌剤、水溶性モノマー、pH調節剤、緩衝剤、安定剤、界面活性剤、弗化物アニオン、弗化物放出剤またはそれらの組み合わせを含むことが可能である。適する酸感受性染料には、例えば、2004年8月11日出願の(特許文献53)および2004年7月8日出願の(特許文献54)で開示された染料が挙げられる。
【0087】
水性希釈剤が本発明の非水性組成物と混合される実施態様に関して、希釈剤の量は、適切な取扱い特性および混合特性を提供するとともに特に充填剤−酸反応においてイオンの輸送を可能にするのに十分であるべきである。水は、組成物を形成するために用いられる原料の全重量の好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも5重量%に相当する。水は、組成物を形成するために用いられる原料の全重量の好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下に相当する。
【0088】
使用の方法
本発明の粘着性組成物は、歯構造への歯科用材料の粘着力を促進するために用いることが可能である。例示的な歯科用材料には、歯科用補修材、歯科矯正装置および歯科矯正接着剤が挙げられるが、それらに限定されない。本発明の組成物は、歯科用補修材または歯科矯正接着剤であることが可能である。歯科用補修材には、例えば、複合材、充填物、シーラント、インレー、オンレー、歯冠および架工義歯が挙げられる。歯科矯正装置には、例えば、ブラケット、頬面管、バンド、クリート、ボタン、舌固定装置、リンガルバー、咬合阻止器、ヘルプスト装置への接続のために用いられる歯冠、例えば、(特許文献55)(ミラー(Miller)ら)および2004年6月10日出願の同時係属(特許文献56)(シナダー(Cinader)ら)に記載されたものなどの歯ポジショナおよび他の可撤式装置と合わせて用いるための連結装置、および歯の位置を変更するか、または保持することができる他の装置が挙げられる。歯科矯正装置は、任意に歯科矯正接着剤で前もって被覆することが可能である。歯科矯正接着剤は、硬化されていないことが可能であるか、または(例えば、間接結合方法において生じるように)硬化されていることが可能である。
【0089】
幾つかの実施態様において、粘着性組成物は歯科用材料を被着させる前に硬化される(例えば、従来の光重合技術および/または化学重合技術によって重合される)。他の実施態様において、粘着性組成物は、歯科用材料を被着させた後に硬化される(例えば、従来の光重合技術および/または化学重合技術によって重合される)。エナメル質と象牙質の両方への粘着力を促進するために組成物を配合することが可能であるか否かが重要である。エナメル質と象牙質の両方に関するエッチング剤、プライマー、接着剤および補修材(または歯科矯正接着剤)として機能するために組成物を配合することが可能であるか否かも特に重要である。
【0090】
本発明の方法において歯科用材料および歯科用接着剤組成物として用いることが可能である適する光重合性組成物は、(カチオン活性エポキシ基を含む)エポキシ樹脂、(カチオン活性ビニルエーテル基を含む)ビニルエーテル樹脂、(ラジカル活性不飽和基を含む、例えば、アクリレートおよびメタクリレート)エチレン系不飽和化合物およびそれらの組み合わせを含むことが可能である。単一化合物中にカチオン活性官能基とラジカル活性官能基の両方を含む重合性材料も適する。例には、エポキシ官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0091】
本発明の粘着性組成物は、任意に、界面活性剤、溶媒および他の添加剤を含むことが可能である。本明細書に記載された成分の種々の組み合わせは、本発明の粘着性組成物中で用いることが可能である。
【0092】
本発明の特定の好ましい非水性粘着性組成物(好ましくは、接着剤)(すなわち、組成物中に1重量%未満の水を含む)は強化された化学的安定性を有する。すなわち、例えば、少なくとも1年、好ましくは少なくとも2年の室温保存寿命安定性を有する。更に、こうした非水性粘着性組成物は、湿った歯構造表面(好ましくは歯表面)に直接被着させてもよい。あるいは、好ましい非水性粘着性組成物は、湿った歯構造表面または乾燥歯構造表面(好ましくは歯表面)に被着させる前に希釈剤(例えば、水または界面活性剤と組み合わせた水)と(例えばブラシ先端で)混合してもよい。
【0093】
粘着性組成物が非水性である本発明の実施態様に関して、有効なエッチング活性を達成するために処置の時点で水が構造表面上に存在することが一般に重要である。構造表面上に水を存在させるこの目的は、様々な技術および方法によって達成することが可能である。幾つかの典型的な方法を簡単に記載する。
【0094】
第1の方法は、医師がリンス後に構造表面を水で湿ったままに残すことである。従って、構造処置の前に典型的な乾燥工程を排除するか、または部分的に排除する。その後、非水性粘着性組成物は、従来の方法を用いて構造表面に被着させるとともにキュアさせることが可能である。
【0095】
第2の方法(「ウェットブラシ」技術)は、水性希釈剤(例えば、水または水と1種以上の添加剤)に歯科用塗布器を逐次浸漬し、その後、ウェットブラシを水性粘着性組成物(例えば、自己エッチング接着剤)と混合することである。その後、得られた水性混合物は、従来の方法を用いて構造表面に被着させるとともにキュアさせることが可能である。
【0096】
第3の方法は、水性希釈剤(例えば、水または水と1種以上の添加剤)で乾燥歯構造表面を逐次処置し、その後、非水性粘着性組成物を塗布することである。その後、得られた処置済み表面は、従来の方法を用いて更に処置するとともにキュアさせることが可能である。
【0097】
歯科用材料を歯構造表面に結合する方法は、実施例において記載された試験方法を用いて、好ましくは少なくとも0.7MPa、より好ましくは少なくとも1.5MPa、最も好ましくは少なくとも2MPaのエナメル質または象牙質(または好ましくは両方)への結合をもたらす。
【0098】
本発明の目的および利点を以下の実施例によって更に例示するが、これらの実施例で挙げた特定の材料および材料の量ならびに他の条件および詳細は本発明を不当に限定すると解釈されるべきではない。特に指示がない限り、すべての部および百分率は重量基準であり、すべての水は脱イオン水であり、すべての分子量は重量平均分子量である。
【実施例】
【0099】
試験方法
エナメル質または象牙質への粘着性力の試験方法
所定の試験サンプルに関するエナメル質または象牙質への接着強度を以下の手順により評価した。
【0100】
試験サンプルごとに、似た年齢および外観の抜き取ったばかりの5本の牛の歯を受理後に凍結し、使用の前に解凍した(貯蔵時間は約1〜2週間であった)。各歯を解凍後、過剰の牛肉を除去し、歯根を除去し、歯髄を引き抜いた。トリミングを行って、エナメル質または象牙質のいずれかを露出させ、得られた表面を湿ったシリコン紙(320グリッド/P400)で磨いた。
【0101】
その後、磨いた歯を柔らかいパテに包埋し、両面接着剤テープを用いて露出した表面をワックスモールド(円筒状ダイ、穴径6.0mm、結合面積28.3mm2)に取り付けた。露出した表面を再び湿らせ、空気乾燥させ、その後、摩擦運動を用いて20秒にわたり試験サンプル複合材で処置した。その後、複合材を「エリパー・トリライト(ELIPAR TRILIGHT)」ライトガン800mW/cm2(ミネソタ州セントポールのスリーエム・ESPE(3M ESPE(St.Paul,MN)))を用いて20秒にわたりキュアさせた。ワックスモールドを除去し、「ロカテック・シンホニー・システム(Rocatec/Sinfony System)」(3M ESPE)を用いてシラン化スクリューをキュアした複合材に接着させた。複合材のキュア全体を通して「ビジオ・ベータ(Visio Beta)」光キュア装置に入れたのは7分間であった。
【0102】
複合材試験サンプルアセンブリを36℃および相対湿度100%で24時間にわたり貯蔵し、その後、1mm/分のクロスヘッド速度で引張結合強度試験(「ズウィック・インストルメント(Zwick Instrument)」、モデルNo.Z010、ドイツ国ウルムのズウィック・カンパニー(Zwick Company(Ulm,Germany))に供した。
【0103】
エナメル質への粘着力または象牙質への粘着力の各報告値(単位MPa)は、5つの歯重複測定の平均を表している。
【0104】
曲げ強度(FS)試験方法
公開された試験規格ISO4049:2000に準拠して曲げ強度を測定した。
【0105】
圧縮強度(CS)試験方法
公開された試験規格ISO9917−1:2003に準拠して圧縮強度を測定した。
【0106】
【表1】

【0107】
出発材料の調製
6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート(MH−P)
6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートの合成
メカニカルスターラーおよびフラスコに乾燥空気を吹き込む細いチューブが装着された1リットルの三口フラスコに1,6−ヘキサンジオール(1000.00g、8.46モル、シグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich))を入れた。固体ジオールを90℃に加熱し、その温度ですべての固体を溶融した。連続攪拌しつつ、p−トルエンスルホン酸結晶(18.95g、0.11モル)、その後、BHT(2.42g、0.011モル)およびメタクリル酸(728.49.02g、8.46モル)を入れた。攪拌しつつ90℃での加熱を5時間にわたり継続した。その時間の間に、半時間の各反応時間後に水道水アスピレータを5〜10分にわたり用いて真空をかけた。熱を止め、反応混合物を室温に冷却した。得られた粘性液を10%水性炭酸ナトリウムで2回(2×240ml)で洗浄し、その後、水(2×240ml)で洗浄し、最後に飽和NaCl水溶液100mlで洗浄した。無水Na2SO4を用いて得られた油を乾燥させ、その後、真空濾過によって単離して、黄色油である1067g(67.70%)の6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートをもたらした。15〜18%の1,6−ビス(メタクリロイルオキシヘキサン)に加えてこの所望する製品を形成した。化学的特性分析はNMR分析によった。
【0108】
6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート(MH−P)の合成
メカニカルスターラーが装着された1リットルのフラスコ内でP410(178.66g、0.63モル)と塩化メチレン(500ml)をN2雰囲気下で混合することによりスラリーを形成した。フラスコを氷浴(0〜5℃)内で15分にわたり冷却した。連続攪拌しつつ、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート(962.82g、上述したようにジメタクリレート副生物に加えて3.78モルのモノメタクリレートを含んでいた)を2時間にわたりゆっくりフラスコに添加した。完全な添加後に、混合物を氷浴内で1時間にわたり、その後、室温で2時間にわたり攪拌した。BHT(500mg)を添加し、その後、温度を上げて45分にわたり還流(40〜41℃)させた。熱を止め、混合物を放置して室温に冷却した。溶媒を真空下で除去して、黄色油として1085g(95.5%)の6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート(MH−P)をもたらした。化学的特性分析はNMR分析によった。
【0109】
8−メタクリルオキシオクチルホスフェート(MO−P)
1,8−オクタンジオールを1,6−ヘキサンジオールの代わりに用いたことを除き、6−メタクリルオキシヘキシルホスフェートに関して上で記載された一般手順によって8−メタクリルオキシオクチルホスフェートを調製した。最終製品の化学的特性分析はNMR分析によった。
【0110】
10−メタクリルオキシデシルホスフェート(MD−P)
1,10−デカンジオールを1,6−ヘキサンジオールの代わりに用いたことを除き、6−メタクリルオキシヘキシルホスフェートに関して上で記載された一般手順によって10−メタクリルオキシデシルホスフェートを調製した。最終製品の化学的特性分析はNMR分析によった。
【0111】
実施例1〜5および比較例1〜3
以下の一般手順により表1の成分を組み合わせることによって実施例1〜5および比較例1〜3を調製した。キュア性エチレン系不飽和成分を混合して均一相を形成した。その後、均質状態に混合しつつ開始剤系成分添加した。最後に、充填剤および他の成分を添加し、完全に分散させて、均質なペースト組成物をもたらした。
【0112】
実施例1〜5および比較例1〜3の象牙質への粘着力、エナメル質への粘着力、曲げ強度および圧縮強度を本明細書に記載された試験方法により評価し、結果を表1で示した。比較例のどれもが歯表面への良好な粘着力と高い機械的値を提供しなかったことが表1から観察される(少なくとも3.0MPaの粘着力、少なくとも100MPaの曲げ強度および少なくとも250MPaの圧縮強度を有することが望ましい)。それに反して、本発明のすべての実施例(実施例1〜5)は、歯表面(象牙質、エナメル質または両方のいずれか)への良好な粘着力および高い機械的値を提供した。
【0113】
【表2】

【0114】
本発明の種々の修正および変更は本発明の範囲および精神を逸脱せずに当業者に対して明らかになるであろう。本明細書に記載された例示的な実施態様および実施例によって本発明が不当に限定されることは意図されておらず、こうした実施例および実施態様が例のみとして提示され、本明細書の冒頭で規定された特許請求の範囲によってのみ本発明の範囲が限定されることが意図されていることは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基と少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基(式中、xは1または2である)とを含む第1の化合物であって、前記少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基と前記少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基がC1〜C4炭化水素基によって互いに連結されている化合物と、
少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基と少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基(式中、xは1または2である)とを含む第2の化合物であって、前記少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基と前記少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基がC5〜C12炭化水素基によって互いに連結されている化合物と、
酸官能基のないエチレン系不飽和化合物と、
開始剤系と、
充填剤と、
を含む粘着性組成物であって、少なくとも40重量%の充填剤を含む粘着性組成物。
【請求項2】
前記第1の化合物の前記少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基と前記少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基がC1〜C3炭化水素基によって互いに連結されている、請求項1に記載の粘着性組成物。
【請求項3】
前記第1の化合物の前記少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基と前記少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基がC2炭化水素基によって互いに連結されている、請求項1または2に記載の粘着性組成物。
【請求項4】
前記第2の化合物の前記少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基と前記少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基がC6〜C10炭化水素基によって互いに連結されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項5】
前記第2の化合物の前記少なくとも1個の−O−P(O)(OH)x基と前記少なくとも1個の(メタ)アクリルオキシ基がC6炭化水素基によって互いに連結されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項6】
前記酸官能基のないエチレン系不飽和化合物が分子当たり少なくとも2個のエチレン系不飽和基を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項7】
前記少なくとも2個のエチレン系不飽和基が、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、ビニル基、スチリル基およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の粘着性組成物。
【請求項8】
前記酸官能基のないエチレン系不飽和化合物が分子当たり少なくとも2個のメタクリルオキシ基を含む、請求項6または7に記載の粘着性組成物。
【請求項9】
式I
【化1】

(式中、mおよびnはそれぞれ独立して1または2であり、Qは水素またはメチル基であり、R1はC1〜C4炭化水素基である)
の化合物と、
式II
【化2】

(式中、oおよびpはそれぞれ独立して1または2であり、Qは水素またはメチル基であり、R2はC5〜C12炭化水素基である)
の化合物と、
酸官能基のないエチレン系不飽和化合物と、
開始剤系と、
充填剤と、
を含む粘着性組成物であって、少なくとも40重量%の充填剤を含む粘着性組成物。
【請求項10】
1はC1〜C3炭化水素基である、請求項9に記載の粘着性組成物。
【請求項11】
1はC2炭化水素基である、請求項9または10に記載の粘着性組成物。
【請求項12】
2はC6〜C10炭化水素基である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項13】
2はC6炭化水素基である、請求項9〜12のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項14】
前記組成物が非水性である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項15】
前記組成物が歯科矯正接着剤である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項16】
前記歯科矯正接着剤が、プレコートされた歯科矯正装置として提供される、請求項15に記載の粘着性組成物。
【請求項17】
歯構造のための修復材として用いるための、請求項1〜14のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項18】
前記組成物が歯構造表面に被着され、硬化した組成物と歯構造との間に結合を形成するのに有効な条件下で硬化される、請求項17に記載の粘着性組成物。
【請求項19】
前記歯構造表面がエナメル質、象牙質またはセメント質を含む、請求項18に記載の粘着性組成物。
【請求項20】
前記歯構造表面が前記粘着性組成物を前記表面に被着させる前にエッチングされていない、請求項18または19に記載の粘着性組成物。
【請求項21】
前記粘着性組成物が非水性である、請求項18〜20のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項22】
前記歯構造表面が前記粘着性組成物を前記表面に被着させる前に湿っている、請求項21に記載の粘着性組成物。
【請求項23】
湿ったエッチングされていない歯構造表面を提供するために、エッチングされていない歯構造表面に水性希釈剤が被着される、請求項22に記載の粘着性組成物。
【請求項24】
前記水性希釈剤が、酸感受性染料、抗菌剤、水溶性モノマー、pH調節剤、緩衝剤、安定剤、界面活性剤、弗化物アニオン、弗化物放出剤またはそれらの組み合わせを更に含む、請求項23に記載の粘着性組成物。
【請求項25】
歯科矯正装置を歯の表面に接着させる際に用いるための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項26】
前記粘着性組成物が歯の表面をエッチングするのに有効な条件下で前記組成物が歯の表面に被着され、前記粘着性組成物が上に被着された前記歯の表面に前記歯科矯正装置が適用され、前記歯科矯正装置と歯との間に結合を形成するのに有効な条件下で前記粘着性組成物が硬化される、請求項25に記載の粘着性組成物。
【請求項27】
前記組成物が前記歯科矯正装置の上にあり、前記粘着性組成物が歯の表面をエッチングするのに有効な条件下で前記装置が湿った歯の表面に適用され、前記歯科矯正装置と歯との間に結合を形成するのに有効な条件下で前記組成物が硬化される、請求項26に記載の粘着性組成物。
【請求項28】
前記粘着性組成物が前記歯科矯正装置に被着される、請求項27に記載の粘着性組成物。
【請求項29】
前記粘着性組成物が、プレコートされた歯科矯正装置として提供される、請求項27に記載の粘着性組成物。
【請求項30】
前記歯科矯正装置が、ブラケット、頬面管、バンド、クリート、ボタン、舌固定装置、リンガルバー、咬合阻止器、ヘルプスト装置への接続のために用いられる歯冠、歯ポジショナと合わせて用いるための連結装置、可撤式装置と合わせて用いるための連結装置およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項16または25〜29のいずれか1項に記載の粘着性組成物。
【請求項31】
歯構造を修復する方法であって、
請求項1に記載の粘着性組成物を歯構造表面に被着させる工程と、
硬化した組成物と歯構造との間に結合を形成するのに有効な条件下で前記粘着性組成物を硬化させる工程と、
を含む方法。
【請求項32】
前記歯構造表面がエナメル質、象牙質またはセメント質を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記歯構造表面が前記粘着性組成物を被着させる前にエッチングされていない、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記粘着性組成物が非水性である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記歯構造表面が前記粘着性組成物を被着させる前に湿っている、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
湿ったエッチングされていない歯構造表面を提供するために、エッチングされていない歯構造表面に水性希釈剤を被着させることを更に含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記水性希釈剤が、酸感受性染料、抗菌剤、水溶性モノマー、pH調節剤、緩衝剤、安定剤、界面活性剤、弗化物アニオン、弗化物放出剤またはそれらの組み合わせを更に含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
歯科矯正装置を歯に接着させる方法であって、
粘着性組成物が歯の表面をエッチングするのに有効な条件下で請求項1に記載の粘着性組成物を歯の表面に被着させる工程と、
前記粘着性組成物が上に被着された前記歯の表面に前記歯科矯正装置を適用させる工程と、
前記歯科矯正装置と歯との間に結合を形成するのに有効な条件下で前記粘着性組成物を硬化させる工程と、
を含む方法。
【請求項39】
前記歯科矯正装置が、ブラケット、頬面管、バンド、クリート、ボタン、舌固定装置、リンガルバー、咬合阻止器、ヘルプスト装置への接続のために用いられる歯冠、歯ポジショナと合わせて用いるための連結装置、可撤式装置と合わせて用いるための連結装置およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
歯科矯正装置を歯に接着させる方法であって、
請求項1に記載の粘着性組成物を上に有する前記歯科矯正装置を、前記粘着性組成物が歯の表面をエッチングするのに有効な条件下で湿った歯表面に適用させる工程と、
前記歯科矯正装置と歯との間に結合を形成するのに有効な条件下で前記粘着性組成物を硬化させる工程と、
を含む方法。
【請求項41】
前記粘着性組成物を上に有する前記歯科矯正装置を提供するために請求項1に記載の粘着性組成物を前記歯科矯正装置に被着させる工程を更に含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記粘着性組成物を上に有する前記歯科矯正装置が、請求項1に記載の粘着性組成物を上に有するプレコートされた歯科矯正装置として提供される、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記歯科矯正装置が、ブラケット、頬面管、バンド、クリート、ボタン、舌固定装置、リンガルバー、咬合阻止器、ヘルプスト装置への接続のために用いられる歯冠、歯ポジショナと合わせて用いるための連結装置、可撤式装置と合わせて用いるための連結装置およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項40に記載の方法。

【公表番号】特表2008−510038(P2008−510038A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525785(P2007−525785)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/028536
【国際公開番号】WO2006/020760
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【出願人】(504169278)スリーエム イーエスピーイー アーゲー (43)
【Fターム(参考)】