説明

複数個の転動体を収容する、アンチフリクションベアリングのためのグラファイトから成るケージを製造する方法

複数個の転動体を収容する、アンチフリクションベアリングのためのグラファイトから成るケージを製造する方法において、炭素メソフェーズ粉末を含む材料から、射出成形法においてケージ射出成形体に射出され、引き続いて炭素をメソフェーズから純粋なグラファイトに変換するために熱処理をおこなう、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個の転動体を収容する、アンチフリクションベアリングのためのグラファイトから成るケージを製造する方法に関する。
【0002】
背景技術
種々の適用分野、たとえば真空技術、食品加工又は生産技術の分野において、アンチフリクションベアリングのグリース又は潤滑油の使用は可能でないか、または望ましくないか、あるいは、その運転温度が、前記潤滑剤の熱安定性を上廻る。したがって、高い温度安定性及び耐薬品性を示すと同時に最適化されたアンチフリクションベアリングの特性を有し、さらには乾燥運転に適した、特別なアンチフリクションベアリングが要求される。グリース又は油の形の潤滑剤の放棄及び高い温度安定性によって、このアンチフリクションベアリングは、特に、食品技術プラントにおける使用のみならず、温度負荷の際のベアリング、たとえば内燃機関等におけるベアリングにおける使用にも特に適している。
【0003】
このように適した公知のアンチフリクションベアリングは、しばしばセラミック性の転動体を有するが、しかしながらこれは、繰り返しの衝突のような過度の使用の際に、高い破壊リスクを示す。さらに、この製造は高価であり、かつ経済的にはそう何度も是認できるものではない。さらに、セラミック性原料からはニードルローラーを製造することができず、そのため、セラミックボールを備えた一次ボールベアリングが使用可能である。
【0004】
しかしながら、アンチフリンクションベアリングに、転動体を収容するグラファイトケージを備え付けることについても知られている。グラファイト自体が、潤滑剤として適しており、これは、このようなアンチフリクションベアリングが、ケージの最小限のグラファイト摩耗に基づく固有の潤滑作用(Eigenschmierung)を有しており、したがって前記クリティカルな使用分野において使用することができることを意味する。しかしながら、このようなグラファイトケージは、従来、回転又はフライスによるコストのかかる切削加工により製造しなければならず、この製造は、困難であり、これについてはすでにDE 36 11 907中で指摘されている。それというのも、このようなグラファイト部分は、高い易破壊性を示し、これは製造の枠内において問題である。したがって、切削加工により製造されたグラファイトケージの製造は、専ら少量生産において実施され、かつ極めてコスト集約的である。それにもかかわらず、このようなグラファイトケージを用いて、高性能のアンチフリクションベアリングが最小限の固有の潤滑作用で作製され、このアンチフリクションベアリングは、乾燥運転での適用及びその他の最小量の注油での適用又は中程度の注油での適用に顕著に適している。
【0005】
発明の概要
本発明は前記問題に基づいて、グラファイトケージを製造するための、従来知られた切削加工による製造方法に対して簡単な方法を提供する。
【0006】
前記問題を解消するために、炭素メソフェーズ粉末を含有する材料から、射出成形法において、ケージ射出成形体を射出し、引き続いて炭素をメソフェーズから純粋なグラファイトに変換するために熱処理をおこなう本発明による冒頭に挙げられた手段の方法が考えられる。
【0007】
本発明は、ケージ射出成形体を射出成形法において製造することが可能であり、その主要な構成成分がメソフェーズの形で存在する炭素粉末であるといった有利な認識に基づく。これは、粉末射出成形法、すなわちPIM法(PIM=粉末射出成形法)を使用することにより可能である。このような粉末射出成形法を用いて、本質的に完成したグラファイト成形体の形及び大きさに相当するケージ射出成形体を製造することが可能であるが、しかしながら、炭素をメソフェーズからグラファイトに変換するために、専らさらに熱処理方法中でグラファイト化しなければならない。射出成形法において、異なる幾何学的形状のケージを製造することができ、その後に可塑的に変形可能な材料が使用され、引き続いて、さらに熱処理のみをおこなうことが可能である。場合により実施しうる機械的、特に切削加工による後処理工程は必要ではなく、そのために、冒頭で挙げられた問題は、有利には本発明による方法の際には生じない。さらに、そのほぼ自由な成形性に基づいて、ケージは、種々の形態付けされた転動体の収容のために製造することが可能であり、その結果、ボールベアリングの製造のみならず、同様にニードルベアリング、ころベアリング、球面ころベアリングの製造が、本発明により製造されたグラファイトケージを使用して、それぞれのベアリング型の固有の潤滑作用を考慮して可能である。
【0008】
グラファイト化のための熱処理は、好ましくは1800〜3200℃の温度、特に2000〜3000℃の温度で実施する。
【0009】
本発明の他の態様において、ケージ射出成形体の射出後に先ず150〜600℃、好ましくは200〜500℃の温度で、含まれるバインダを除去するために処理し、その後に、グラファイト化のための熱処理を実施することが考えられてもよい。使用された射出材料は、炭素メソフェーズ粉末及びグラファイト化に役立つ1個又は複数個の添加剤に加えて、材料の製造及び材料の粘度調整に役立つバインダの割合を含む。バインダは、ケージ射出成形体、すなわちケージグリーン体(Kaefiggrueling)になおも含まれ、かつ除去しなければならず、これは、前記熱的脱脂工程(Entbinderung)によって実施されるものである。温度が上昇することにより、バインダまたは種々のバインダ成分の粘度は減少し、これは引き続いて蒸発又は分解され、その際、この脱脂工程は数時間に亘る。脱脂された射出成形体は、しばしばブラウン体(Braunling)と呼称されるものであって、引き続いてグラファイト化のために熱的に処理される。
【0010】
熱的脱脂工程に対する代替法として、ケージ射出成形体を触媒的に脱脂することが可能であり、これは、たとえば2〜3時間の範囲の短い工程時間を導く。この方法の場合には、熱的脱脂工程よりも通常低い温度で実施され、たとえば50〜150℃の範囲である熱的分解の特別な形が重要である。この触媒的脱脂工程は、脱脂炉中の雰囲気に、ガス状の触媒、たとえばHNOを添加することにより可能である。
【0011】
さらに原則として、液体脱脂又は臨界超過のCOによる脱脂が考えられるが、しかしながら、前記それぞれの脱脂方法は、顕著に高いプロセス費用を招く。
【0012】
本発明による方法に加えて、本発明はさらに内輪、外輪並びに複数個の転動体を含むアンチフリクションベアリングに関し、この場合、これはその中に、前記手段の方法にしたがって切削加工することなしに製造された、グラファイトから成る転動体ケージを収容する。内輪及び外輪のみならず転動体も、種々の鋼から成っていてもよく、この場合、これはその都度使用に関連して選択すべきである。アンチフリクションベアリングを腐食性雰囲気中で使用する場合には耐腐食性鋼、あるいは、高い厳しい要求が設定される場合には耐熱性鋼又は肌焼鋼(einsatzgehaerteter Stahl)、また同様に普通鋼(konvensioneller Stahl)を使用することができ、その際、個々の部分が異なる鋼から構成されてもよいことは自明である。
【0013】
本発明の他の利点及び詳細は、図面に関連する以下の実施例に基づいて記載する。図面は模式図であり、かつ以下のことを示す:
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による方法を説明するための概略図
【図2】本発明によるアンチフリクションベアリングによる概略図の断面を示す図
【0015】
図面の詳細な説明
図1は、アンチフリクションベアリングのケージを製造するための、本発明による方法のフローを概略図の形で示す。
【0016】
部分図Iでは、先ず、射出可能な材料に溶融される粒状物を製造するための処理過程を示す。炭素メソフェーズ粉末1と、1種のバインダ2及びグラファイト化に役立つ1種又はそれ以上の添加剤3とから成る混合物から出発して、先ず、工程4中で混合物を製造し、引き続いて造粒工程5中で、後方に造粒装置を備えた押出機の使用下で処理し、その結果、最終生成物として粒状物6を生じ、この場合、この粒状物は、細かい、硬化したペレット又は顆粒(Granullen)を示し、かつ、炭素−メソフェーズ粉末、1種又はそれ以上の添加剤並びにバインダから成る。この粒状物は別個の加工物として製造され、かつ、グラファイトから成るケージを製造するとき、必要の際に加工される。
【0017】
この加工は、先ず、成形工程を表す工程II中でおこなう。粒状物6を、射出成形装置8が後続されている押出機7中に供給する。この射出成形ユニットは、PIM−射出成形法(PIM−粉末射出成形)のために作製されたものであり、すなわち、このような粉末から成る材料を加工することができる。押出機7中では、先ず、粒状物を溶融し、その後に溶融された材料を射出成形装置8に連行し、その中で、図1中で概略が表されているようにアンチフリクションベアリングケージに射出する。このケージ射出成形体9又はグリーン体を引き続いて、場合により予めの乾燥の後に、工程III中で脱脂し、これは、バインダ成分を除去することを意味する。これはa)で示されているように、脱脂系中のガス相に、相当する触媒、たとえばHNOを添加する場合に、触媒的に実施することができる。この触媒は、バインダ又はバインダ成分の分解過程又は蒸発過程を本質的に低い温度で実施することを可能にする。二者択一的に、b)に示すように熱的な脱脂工程も考えられるが、この際、ケージ射出成形体9を、200〜500℃の範囲の高い温度で加熱しなければならず、その一方で、触媒的脱脂工程は200℃を下廻る温度で実施することができる。
【0018】
引き続いて、脱脂された射出成形体9は、ブラウン体とも呼称されるものであって、工程IV中で炭素メソフェーズ粉末を、純粋なグラファイトに変換するために熱的な後処理をおこなうが、この場合、前記粉末は、脱脂工程、特に熱的脱脂工程の場合には、すでにいくらか焼結されている。熱的な後処理は、2000〜3000℃の温度で、相当する炉中で実施する。この処理中で、射出成形体9を完全に焼結し、かつ添加剤と一緒になって、炭素をメソフェーズからグラファイトに変換する。さらにこのグラファイト化工程を、数時間継続する。冷却後に、いつでも使用できる状態のグラファイトケージが得られ、この場合、これは、切削加工による後処理を必要とすることはない。
【0019】
図2は、本発明によるアンチフリクションベアリング10を概略図の形で示すものであり、この場合、このアンチフリクションベアリング10は、外輪11、内輪12並びに本発明による方法によって製造されたグラファイトケージ13から成り、この中に、転動体14、ここではボールが収容されている。外輪11、内輪リング12及び転動体14は、それぞれ使用目的に応じて選択された鋼から構成されており、このアンチフリクションベアリングが腐蝕性雰囲気中で使用される場合には、たとえば耐腐食性鋼から成る。しかしながら、耐熱性鋼、肌焼鋼又は普通鋼も使用可能である。本発明によるアンチフリクションベアリング10は特に乾燥運転における適用に適している。したがって、ベアリング又は転動体の運動によるグラファイトケージ13のグラファイトの最小限の摩擦は、最小限の注油を保証するのに十分であり、そのため、本発明によるアンチフリクションベアリングは、さらにクリティカルな使用分野においても使用することができる
【符号の説明】
【0020】
1 炭素−メソフェーズ粉末、 2 バインダ、 3 添加剤、 4 工程、 5 造粒工程、 6 粒状物、 7 押出機、 8 射出成形装置、 9 ケージ射出成形体、 10 アンチフリクションベアリング、 11 外輪、 12 内輪、 13 グラファイトケージ、 14 転動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の転動体を収容する、アンチフリクションベアリングのためのグラファイトから成るケージの製造方法において、炭素メソフェーズ粉末を含む材料から、射出成形法においてケージ射出成形体を射出し、引き続いて炭素をメソフェーズから純粋なグラファイトに変換するために熱処理をおこなうことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
グラファイト化のための熱処理を、1800〜3200℃、特に2000〜3000℃の温度で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ケージ射出成形体の射出後、先ず150〜600℃、特に200〜500℃の温度で含まれるバインダを除去するために処理し、その後にグラファイト化のための熱処理をおこなう、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ケージ射出成形体の射出後に、触媒的に脱脂する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法により、切削加工なしで製造されたグラファイトから成る転動体ケージ(13)を収容する、内輪、外輪並びに複数個の転動体を含むアンチフリクションベアリング。
【請求項6】
内輪(12)及び外輪(11)及び転動体(14)が、耐腐食性鋼、耐熱性鋼、肌焼鋼又は普通鋼から成る、請求項5に記載のアンチフリクションベアリング。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−534306(P2010−534306A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517357(P2010−517357)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059244
【国際公開番号】WO2009/013181
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(390009623)シエツフレル コマンディートゲゼルシャフト (99)
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 1−3, D−91074 Herzogenaurach, Germany
【Fターム(参考)】