説明

複雑乱反射菱形フィルム

【課題】玉虫色反射フィルムやホログラム模様フィルムの美しさに、割符による地紋のような連続菱目模様が加わることにより、袋物や衣服の一部素材として相応しい柔軟性と強度とを併有する積層フィルムを得る。
【解決手段】玉虫色反射フィルム又はホログラム模様フィルムの、貼着面にコロナ処理、オゾン処理又はその両者を施すことにより、ポリエチレンとの接着性を向上させ、縦・横一方の繊維が他方の繊維に対し、3乃至20倍の太さを有し、細い方の繊維をほぼ平行に並べ、太い繊維を2分し、一方の一方の太い繊維を細い繊維列に対し、80〜88度にほぼ平行に並べ、他方の太い繊維を細い繊維列に対し、92〜100度にほぼ平行に並べ、全体として太い繊維が連続した菱形模様を形成した菱形メッシュ状不織布を溶融ポリエチレンを押出しながら割符を融着させ、割符面に低密度ポリエチレンを押出し積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手提げ袋、小物入れ、化粧品袋、ハンドパッグ等の袋物や衣服の一部等に縫製することが可能で、光源に対する角度により種々の色彩に反射する従来の玉虫色反射フィルムやホログラムフィルムに、長めの菱目模様を組合わせて反射模様をより複雑にし、強度とファッション性を高めた複雑乱反射菱形フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
玉虫色反射フィルムは特許文献1及び特許文献2に開示され、透明フィルムでありながら美しい玉虫色に反射するため、ポリエステルフィルム等と貼着して補強し、そのまま使用し、或いは細い糸状に切断して繊維に織り込み、美しい玉虫色の光沢ある布地素材を提供してきた。
【0003】
一方、ホログラム模様とは、ホログラフィーに使用する素子、すなわち、物体により回折を受けた光波(信号波)を、それらと干渉性のある他の光波(参照波)と干渉させ、生じた干渉縞を感光材料に記録して測定する本来の意味でのホログラムとは多少異なり、単に平滑なフィルムやシートの表面に可視光線の波長程度の長さの緻密な縞状の凹凸からなる模様や画像を刻設したものである。その結果、この加工面に光線があたると凹凸にって可視光線が乱反射して虹色に輝き、その色調は角度により変化する。このようにして二次元、三次元のホログラム加工が可能で、複雑な模様や立体形状を美しい模様として表現することができる。
【0004】
ポリオレフィンフィルムを強く延伸し、該延伸フィルムを割って得た割繊維を縦、横に連続的に積層・熱融着した不織布(以下、割符〔登録商標〕とする)は、軽量で、通気性のある高強度素材として広く知られている。割符の材料となる割繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムを強力に縦延伸し、得られたフィルムを叩き割るようにして繊維状にしている。この割繊維を縦、横に連続的に積層し、熱融着して得られる。
【0005】
縦、横の割繊維の太さは自由であるが、本発明においては、一方の繊維を細く、他方の繊維をその3倍以上、好ましくは5〜20倍太くした。細い繊維を横糸とすると、太い繊維からなる縦糸は横糸に対して直角に交叉せず、やや斜めに交叉させ、しかも傾斜角度を直角に対し±2〜10度傾斜する2方向に熱融着した。その結果、太い繊維のみが目立ち、2方向の繊維が4〜20度の角度で交叉するため、連続する菱形の地模様を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平04−040681号公報
【特許文献2】特開平09−300540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
玉虫色反射フィルムやホログラム模様フィルムは、その美しさのためにポリエステルフィルムで補強した後、繊維状にし、衣服の繊維と組合わせて美しい布地として使用されている。これらのフィルムは、それ自体では強度にも模様の変化にも限界があり、組合わせる繊維や紙の色や素材感に負うところが大きい。元来透明なフィルムそれ自体で縫製にも耐え、独立した装飾的素材として使用できる素材が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、玉虫色反射フィルム或いはホログラム模様を施したフィルムと、割符による連続菱形地模様とを組合わせることにより、模様を一層複雑にし、複雑乱反射によって半透明であり、強度と柔軟性を有し、ファッション性の高い美しい模様を有し、強度もあるフィルム素材を提供するものである。
【0009】
すなわち、玉虫色反射フィルム又はホログラム模様フィルムを、菱形メッシュ状不織布と貼着するにあたっては、玉虫色反射フィルム又はホログラム模様フィルムの貼着面にコロナ処理、オゾン処理又はその両者を施すことにより、ポリエチレンとの接着性を向上させる。その上で、溶融ポリエチレンを押出しながら、割符を融着させる。更に、割符面に低密度ポリエチレンを押出し積層することにより、縫製にも耐える袋物に相応しい素材を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、玉虫色反射フィルムやホログラム模様フィルムの美しさに、割符による地紋のような連続菱目模様が加わることにより、模様に一段と深みが増し、しかも袋物や衣服の一部素材として相応しい柔軟性と強度とを併有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
玉虫色反射フィルムは屈折率が0.03、好ましくは0.06以上異なる2種類の透明な超薄膜を75層以上、好ましくは100層以上積層して得ることができる。この積層フィルムの両表面層にはやや厚めのスキン層が形成されている。
【0012】
屈折率が異なる一方の樹脂としてはアクリル系樹脂を使用する。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等の比較的低分子量のアクリル系モノマーの重合体を挙げることができる。場合によっては、上記のモノマーに他の共重合可能なモノマーとの共重合体であっても、アクリル系樹脂を主成分とするものは包含される。
【0013】
他方の樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(A成分)、ポリエチレンテレフタレート弾性体(B成分)及び線状低密度ポリエチレン(C成分)のポリマーブレンドが使用される。
【0014】
A成分のポリエチレンテレフタレートとしては1,4−ブタンジオールとテレフタール酸又はジメチルテレフタレートとの触媒的重縮合反応によって得られたものが好ましい。 B成分のポリエチレンテレフタレート弾性体は、エチレンテレフタレート基を含有し、弾性を有するポリマーであれば本発明の目的を達成するが、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールとの共重合体、好ましくはブロック共重合体が用いられる。
C成分の線状低密度ポリエチレンは市販されている各種の線状低密度ポリエチレンを使用することができる。一般に比重0.85〜0.93、メルトインデックス(以下、MIとする)1〜50である。
【0015】
A成分とB成分とC成分との配合比率は、A成分:B成分:C成分=80〜95:3〜15:0.5〜5重量%、好ましくは85〜93:5〜10:1〜4重量%である。B成分の比率が15重量%を越えると透明性が阻害され、3重量%未満では耐衝撃性が改善されず、フィルム全体としての強度が増加しない。C成分が5重量%を越えると透明性が阻害され、0.5重量%未満では耐衝撃性が改善されない。
A成分、B成分及びC成分の3成分を溶融混練して本発明のフィルムの一方の超薄層として使用する。
【0016】
本発明の玉虫色反射フィルムを構成する樹脂は上記に限定されるものではなく、ポリブチレンテレフタレートとポリメチルメタクリレートとの組合わせ、ポリブチレンテレフタレートとエチレンビニルアセテート、ポリエチレンテレフタレートとエチレンビニルアセテートとの組合わせ等を挙げることができる。
【0017】
本発明のフィルムは、2機の押出機のそれぞれから樹脂溶融物を捕集し、これらを希望する層パターンに配列するためのフィードブロックと通常のシングルマニホールドフラットフィルムダイとを組合わせた冷却ロールキャスティング法によって製造される。
このフィードブロックは2成分交互層を形成するのに用いられる。非常に細い複数層の樹脂の流れがシングルマニホールドフラットフィルムダイを通して流れ、そこで各層が同時にダイの幅まで拡張され、最終ダイの出口の厚さまで肉薄化される。層厚の分布は異なったフィードボードモジュールを挿入することにより変更できる。通常最外層は他の層より厚く、これをスキン層と呼ぶ。
【0018】
本発明のホログラムフィルムの基材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、塩化ビニル、ポリエチレン等特に限定はない。ホログラム加工は市販されるホログラム加工機により容易に行われる。例えば、米国、DIMENTIONAL ARTS 社製の「DAVIS LIGHT MACHINE 」又は「 LIGHT MACHINE」により加工することができる。干渉性の大きいレーザー光により平滑な表面に可視光線の波長程度、380〜800nmの凹凸を刻設する。
この凹凸を保護するために、ホログラム加工されたフィルム基材の両面又は片面を二酸化アルミニウム、硫化アンチモン等の透明金属化合物の薄層を被覆する。
【0019】
本発明の割符は、縦方向に配列する割繊維と横方向に配列する割繊維の断面積が極端に異なる。一方の割繊維の断面積に対する他方の割繊維の断面積は3倍以上、好ましくは5〜20倍である。3倍以下であると地模様としての連続菱目模様が明瞭でなく、模様として単調である。20倍を越えると細い繊維を配列した方向の強度が低下して好ましくない。
【0020】
細い繊維をほぼ一定の間隔で配列した後に、太い繊維を細い繊維の配列方向とほぼ直角方向に配列する。この際、太い方の繊維を2分し、一方を細い繊維に対し90−2〜10度、好ましくは90−4〜8度の角度で相互に平行に並べる。他方の太い繊維を、細い繊維に対し90+2〜10度、好ましくは90+4〜8度の角度で相互に平行に並べる。この状態で熱融着することにより本発明の割符が得られる。この割符は、太い方の繊維が2方向に配列しており、その結果、太い繊維により連続した細長い菱形が連続して並ぶ模様になる。
【0021】
本発明の割符は、15〜35g/m2 であることが好ましい。15g/m2 未満では連続した菱形が目立たず、模様として充分な存在感がない。一方35g/m2 を越えると複雑乱反射菱形フィルムが強張り、柔軟性に欠けて素材フィルムとして扱い難い。
【0022】
複雑乱反射菱形フィルムを製造するにあたっては、玉虫色反射フィルム又はホログラムフィルムの上に、低密度ポリエチレンを押出し積層すると共に割符を重ね合わせ、玉虫色反射フィルム又はホログラムフィルムと割符をポリエチレン層を介して一挙に積層する。押出しするポリエチレン層の厚みは限定がなく、玉虫色反射フィルム又はホログラムフィルムと割符を確実に積層するに充分な厚みであればよい。一般には、10〜40μmである。更に割符の上から低密度ポリエチレンを押出し積層して完成する。最後に積層するポリエチレンの厚みも特に限定がなく、割符の太い繊維による凹凸が多少残り、且つ、割符を確実に覆う厚みであればよく、一般には20〜50μmである。
【0023】
得られた複雑乱反射菱形フィルムは、連続菱目模様の地紋の上にホログラムや玉虫色反射フィルムの模様が浮かび、深みのある半透明なフィルムである。しかも、しなやかで強靱であり、種々の半装飾的用途に加工するのが容易な素材である。太い繊維により形成された連続菱目模様は、細い繊維がほぼ直角に交叉しているため、菱目を形成する線条は細い繊維による横断方向の模様となり、菱目模様を一段と深みのある模様にしている。
【実施例】
【0024】
実施例1
(玉虫色反射フィルムの製造)
屈折率の低い方の一方の層として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いた。 屈折率の高い方の樹脂として、
A成分:ポリブチレンテレフタレート(PBT)粘度1Pa・s 90重量%
B成分:PBTとポリエチレングリコールとの共重合体(米国、デュポン社製、HYTREL
7246 使用) 7重量%
C成分:(密度0.92、MI、2のもの) 3重量%
を配合し、よく混練して押出し機でフィードブロックまで供給した。PMMAは別の押出し機で別のフィードブロックに供給し、混合樹脂を表面層とし、高屈折率樹脂:低屈折率樹脂の比率を2:1とし、キャスティング法により交互積層超薄膜123層で、全体厚さ18μmの玉虫色反射フィルムを得た。
なお、A成分、B成分、C成分混合樹脂の屈折率は1.49であった。
【0025】
(割符の製造)
ポリエチレンフィルムを縦方向に強く延伸して、得られたフィルムを割るようにして断面積0.02mm2 の割繊維を得た。この割繊維をほぼ平行に配列した。
別に縦方向に強く延伸したポリエチレンを割るようにして、断面積0.12mm2 の太い割繊維を得た。この太い割り繊維を2分し、一方を細い割り繊維の配列方向に対し84度の角度で、ほぼ等間隔に並べ、他方の太い繊維を細い割り繊維の配列方向に対し96度の角度で、ほぼ等間隔に並べ、これら3方向の繊維を加熱押圧して一体に成型し、割符を得た。この割符は24g/m2 であり、太い方の繊維が相互に12度の角度で斜めに交叉して連続菱形模様を形成した。
【0026】
得られた玉虫色反射フィルムの上から、低密度ポリエチレンを溶融押出し積層しながら同時に連続菱形模様の割符を積層して一体化した。この際の低密度ポリエチレン層の厚さは15μmであった。得られた積層フィルムの割符層の上に、更に低密度ポリエチレンを押出し積層して表面層とした。この表面層の厚さは35μmであった。
得られた積層フィルムは、玉虫色の反射フィルムに連続した菱目模様が加わり、強靱でしなやかで、しかも袋物等への縫製が容易な美しいフィルムであった。しかも連続する菱目を形成する線状は、構成する割符の細い方の繊維により横断する縞目模様が加わり、深みのある美しさであった。
【0027】
実施例2
(ホログラムフィルム)
20μm厚のポリエステルフィルムに、縦、横各3cmの格子状のホログラム模様を刻設した。米国、DIMENTIONAL ARTS 社製の機械を使用する台湾のK.LASER 社に委託してホログラム模様を刻設し、表面を透明金属化合物で保護した。このフィルムを、実施例1の玉虫色反射フィルムに使用した以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを製造した。得られたフィルムは虹色の格子模様と連続菱目模様とが相乗作用を発揮して、実施例1で得られたフィルムとは異なる美観の美しいフィルムが得られた。得られたフィルムの物理的性状は実施例1で得られたフィルムとほぼ同等であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)実質的に均一な厚みを有する少なくとも75層の樹脂の超薄膜層からなり、各超薄膜層の厚さは可視光線の波長程度であり、互いに隣接する超薄膜層が光の屈折率が少なくとも0.03異なる異種素材からなる玉虫色反射フィルム、又は
樹脂フィルムにホログラム模様を刻設し、該表面の凹凸を透明金属化合物で被覆保護したホログラムフィルムと
(2)ポリオレフィンフィルムを強く延伸し、該延伸フィルムを割って得た割繊維を縦、横に連続的に積層・熱融着した不織布であって、縦・横一方の繊維が他方の繊維に対し、3乃至20倍の太さを有し、細い方の繊維をほぼ平行に並べ、太い繊維を2分し、一方の一方の太い繊維を細い繊維列に対し、90−2〜10度にほぼ平行に並べ、他方の太い繊維を細い繊維列に対し、90+2〜10度にほぼ平行に並べ、全体として太い繊維が連続した菱形模様を形成した菱形メッシュ状不織布が、
低密度ポリエチレンフィルムを介して一体化され、菱形メッシュ状不織布層に低密度ポリエチレン層が押出し積層されていることを特徴とする複雑乱反射菱形フィルム。
【請求項2】
玉虫色反射フィルムを構成する樹脂が、一方の樹脂はアクリル系樹脂で、他方の樹脂はポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート弾性体及び線状低密度ポリエチレンのポリマーブレンドであることを特徴とする請求項1記載の複雑乱反射菱形フィルム。
【請求項3】
他方の樹脂の、ポリブチレンテレフタレート:ポリブチレンテレフタレート弾性体:線状低密度ポリエチレンの配合比率が、80〜95:3〜15:0.5〜5重量%であることを特徴とする請求項2記載の複雑乱反射菱形フィルム。
【請求項4】
玉虫色反射フィルムを構成する樹脂が、一方の樹脂はポリブチレンテレフタレートであり、他方の樹脂はポリメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1記載の複雑乱反射菱形フィルム。
【請求項5】
菱形メッシュ状不織布が、15乃至35g/m2 であることを特徴とする請求項1記載の複雑乱反射菱形フィルム。
【請求項6】
ホログラム加工を施す樹脂基材がポリエステル、ポリアミド又はポリ塩化ビニルであることを特徴とする請求項1記載の複雑乱反射菱形フィルム。
【請求項7】
ホログラム加工面を被覆・保護する透明金属化合物が、二酸化アルミニウム又は硫化アンチモンであることを特徴とする請求項1又は6に記載する複雑乱反射菱形フィルム。
【請求項8】
玉虫色反射フィルム又はホログラムフィルムと菱形メッシュ状不織布を低密度ポリエチレンを介して積層するにあたり、玉虫色反射フィルム又はホログラムフィルムのポリエチレンと接触する面に、コロナ処理及び/又はオゾン処理を施して積層することを特徴とする請求項1記載の複雑乱反射菱形フィルム。
【請求項9】
菱形メッシュ状不織布の上に25乃至50μmのポリエチレン層が押出しラミネートされていることを特徴とする請求項1記載の複雑乱反射菱形フィルム。

【公開番号】特開2010−260285(P2010−260285A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113538(P2009−113538)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(592012524)株式会社エール化成商事 (1)
【Fターム(参考)】