説明

西洋わさび抽出物を含む抗酸化剤

【課題】従来技術では、天然由来の抗酸化剤を工業的に多量にかつ安定に入手することは困難であり、合成品は安全面で消費者に敬遠される問題がある。従って、本発明の目的は、安全性に優れた抗酸化剤を提供することにある。
【解決手段】アブラナ科の耐年性多年草植物である西洋わさび(ワサビダイコン、Cochlearia armoracia L.)から、抗酸化作用を有する抽出物を得、その抽出物を含むことを特徴とする抗酸化剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化作用に優れた薬剤に関する。さらに詳しくは、西洋わさび(ワサビダイコン、Cochlearia armoracia L.)から得られる抽出物を含有する抗酸化剤に関し、抗酸化効果、特には製品の保存安定性の向上効果等の優れた酸化防止効果や、各種疾病予防効果や抗老化効果等の優れた生体内抗酸化効果を有する抗酸化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生物は、酸素を利用することによって生存に必要なエネルギーを効率的に得ている。しかしながら、このようなエネルギー代謝のうち酸素が水に変換される過程で、中間体として活性酸素種が生じる。一般にこの活性酸素種としては、マクロファージの刺激などによって放出されるスーパーオキシド、放射線の被爆などによって生成されるヒドロキシラジカルなどが知られている。これらの活性酸素種は過度の放射線や紫外線の照射、化学物質やタバコの摂取等の外的誘因と虚血再還流、炎症、ストレス、老化等の内的要因が原因となって生成される。
【0003】
このようにして生体内で過剰に生成された活性酸素種は、一般に化学的反応性が高く、生体内で隣接する脂質や核酸、蛋白質等の成分と容易に反応し、さまざまな疾病に繋がる酸化的障害をもたらす。活性酸素種の一種であるスーパーオキシドは、さまざまな疾病と深い関わりがあることが明らかにされており、例えば動脈中のLDLは、スーパーオキシドによって酸化されて泡沫細胞を形成し、動脈硬化の原因を発生する。また放射線の照射によりもたらされるヒドロキシラジカルの産生は、発癌などの深刻な障害を生体に与える。(非特許文献1参照)。
【0004】
このような活性酸素種の生体に対する毒性が明らかになるにつれ、これらを効率的に消去する活性を有する活性酸素種消去物質等の抗酸化剤は、生体内または食品や医薬品、農薬等に含まれる成分の酸化的劣化の防御剤として有用であり、食品産業、特に水産加工品、健康食品、栄養食品のほか、医薬品・農薬分野や化粧品分野において実利的な利用が期待されているものである。
【0005】
化粧品分野において抗酸化剤は、美白剤として利用可能である。シミ、ソバカス等皮膚への色素沈着は、紫外線を浴びることによりメラニンを合成するメラノーマ細胞内のチロシナーゼ活性が上昇し、メラニンを盛んに産生することに起因する。このメラニンは、動植物界に広く分布しているが、脊髄動物においては、メラノサイト中の細胞質顆粒メラノソームで、チロシンがチロシナーゼにより酸化されて、ドーパ、ドーパキノンが生合成され、更にドーパキノンは紫外線による自動酸化によってインドールキノン等になり、複雑な経路を経てメラニンが生合成されることが知られている(非特許文献2参照)。抗酸化剤により、チロシナーゼによる酸化反応やメラニン生合成工程における酸化反応を阻害することで、美白効果が得られることが知られている(非特許文献2参照)。
【0006】
近年、抗酸化剤に限らず、化学合成品からなる食品添加物の安全性の問題に対する消費者の意識も高まっており、例えば、BHA(ブチルヒドロキシルアニソール)やBHT(ブチルヒドロキシトルエン)等の化学合成抗酸化剤は、その使用が避けられる傾向にある。また、他の抗酸化剤も、植物油由来のトコフェロール類など油溶性(非水溶性)のものが多く、実際の使用に際しては制約を受けることが多い。
【0007】
このような中、これまでさまざまな抗酸化剤が、主に天然物由来の原料から抽出され、その応用が検討されている。例えばスーパーオキシド消去活性を有するものとして酵素蛋白であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)等が、ヒドロキシラジカル消去活性を有するものとしてマンニトール、トリプトファン、ギ酸等が挙げられている(非特許文献3)。
【0008】
しかしながら、SODは酵素タンパクであるため、熱などに対する安定性が乏しく、また経口投与した場合、投与した酵素のほとんどは消化・排泄されてしまい、その実効力は極めて低かった。また、ヒドロキシラジカルを効率的に消去できる実用的なヒドロキシラジカル消去剤は現在のところ少ない。従って、これら抗酸化剤を工業的に多量に、かつ安定に入手することは困難なのが現状である。また、通常、前述のSODはスーパーオキシドに対してのみ消去効果を有し、ヒドロキシラジカルに対しては全く効果がない。同様にマンニトールはスーパーオキシドを消去することができない。
【0009】
植物からの抗酸化剤も探索されているが、不用意に植物を選択し抽出物を得ようとすると植物毒の大半をしめるアルカロイドなどが混入するおそれがある。アルカロイドは、窒素を含むアルカリ性の分子で、神経ホルモンそっくりであるため、神経線維の末端部に入り込んで神経の作用を狂わせて、毒性を発揮する。そのため、植物の選択や有効成分の抽出方法には注意が必要である。
【0010】
【非特許文献1】Halliwell B. and Gutteridge M.C.、 Biochem.J. 219、1-14、(1984))
【非特許文献2】機能性化粧品の開発、シーエムシー出版、2000年
【非特許文献3】SODと活性酸素種調節剤-その薬理的作用と臨床応用、第224〜228頁、日本医学館、1989年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術では、天然由来の抗酸化剤を工業的に多量にかつ安定に入手することは困難であり、合成品は安全面で消費者に敬遠される問題がある。従って、本発明の目的は、安全性に優れた抗酸化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、意外なことに、食品用植物である西洋わさびの抽出物が抗酸化作用を有することを見い出し、さらにかかる抽出物を有効成分として含有せしめた抗酸化剤が、例えばクリームやローション等の皮膚用外用剤として有効であることを見い出し本発明を完成したものである。
【0013】
また、本発明者らは、上記有効成分を含有する西洋わさびの抽出物が、西洋わさびの根茎のみではなく、西洋わさびの葉や茎又は種々の残渣からも得られることを見い出した。西洋わさびは通常食品として根茎のみが用いられ、葉や茎はもとよりある種の酵素を抽出して得られる根茎残渣はそのまま捨てられる場合が多く、本発明を利用することにより廃材の有効利用が期待される。
【0014】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示すような手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、安全性に優れた抗酸化剤に関する。
1.西洋わさびの抽出物が有効成分として含まれることを特徴とする抗酸化剤。
2.西洋わさびの葉、西洋わさびの茎及び/又は西洋わさびの根茎からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物から、有効成分を含む抽出物を得ることを特徴とする1の抗酸化剤。
3.西洋わさびが、Cochlearia armoracia L.由来の西洋わさびであることを特徴とする1または2の抗酸化剤。
4.有効成分の作用が、抗酸化作用であることを特徴とする1または2の抗酸化剤。
5.西洋わさびの抽出物にポリフェノールが含まれることを特徴とする1または2の抗酸化剤。
6.西洋わさびの抽出物に加えて、さらに、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体、並びに/もしくは、アルブチン及び/又はアルブチン誘導体が含まれることを特徴とする1または2の抗酸化剤。
7.西洋わさび抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
8.西洋わさび抽出物が、西洋わさびの葉の抽出物、西洋わさびの茎の抽出物及び/又は、西洋わさびの根茎の抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする7の抗酸化剤。
9.西洋わさびが、Cochlearia armoracia L.由来の西洋わさびであることを特徴とする7または8の抗酸化剤。
10.さらに、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体、並びに/もしくは、アルブチン及び/又はアルブチン誘導体を含有することを特徴とする7〜9のいずれかの抗酸化剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、強力なスーパーオキシド消去、ヒドロキシラジカル消去等の活性酸素除去機能、チロシナーゼ阻害作用やメラニン生成抑制作用を有する天然の抽出物を含有する抗酸化剤を、安定的に提供することができる。本発明の抗酸化剤は微量で強い抗酸化効果を有しており、該抗酸化剤を人体やその他飲食物、医薬品、化粧品、美白剤、肥料、飼料や皮膚外用剤等に使用することにより、抗酸化効果、特には製品の保存安定性の向上効果等の優れた酸化防止効果や、各種疾病予防効果や抗老化効果等の優れた生体内抗酸化効果を得ることができる。また、バイオマスを利用することから、バイオマス産業界にも大きく寄与することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、西洋わさびから得られる抽出物が、抗酸化効果、特には製品の保存安定性向上効果等の優れた酸化防止効果と、各種疾病予防効果と、抗老化効果や美白効果等の優れた生体内抗酸化効果を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、西洋わさびから得られる抽出物を有効成分として含有する抗酸化剤に関する。
【0017】
本発明で用いた西洋わさびは、その根茎を摺りおろして、ローストビーフの薬味として辛味料に使用する用途が知られているが、この西洋わさびの抽出物が抗酸化剤として有効であるということは全く知られていない。
【0018】
西洋わさびからの有効成分の抽出において、植物体全体から抽出操作を行ってもよい。また、植物体を大きく、根茎、茎、葉と分別して抽出操作を行ってもよいし、それぞれを組み合わせて抽出操作を実施してもよい。また、通常西洋わさび根茎からは、ある種の酵素を抽出されることが知られているが、酵素を抽出した後に得られ、廃棄されるところの残渣から抽出してもよい。本発明では、使用わさびの根、茎、葉のうち、特に葉に有効成分があることを見いだしているので、好ましくは葉から抽出操作を行うのがよい。西洋わさびは、その根茎を摺りおろして、ローストビーフの薬味として辛味料に使用する用途が知られているが、葉は捨てられているので、その有効利用が期待されている。西洋わさびの葉を利用することで、西洋わさびの生産者や、バイオマス分野の産業に大きく貢献することが期待できる。
【0019】
西洋わさびの植物体は、生の状態、凍結された状態、凍結乾燥された状態のいずれから抽出操作を行ってもよい。好ましくは、生の状態から抽出作業を行うのがよい。生または凍結された西洋わさびから抽出作業を行う場合には、まず、破砕をしても良い。破砕にはミキサー、ホモジナイザー、乳鉢などを用いて破砕すればよい。凍結乾燥されたものは、凍結乾燥操作後、粉状に破砕しても良い。
【0020】
破砕された植物体は溶媒を用いて、抽出操作を行う。抽出方法として、室温,冷却又は加熱した状態で含浸させて抽出する方法、水蒸気蒸留などの蒸留法を用いて抽出する方法、圧搾して抽出物を得る圧搾法、超臨界流体又は亜臨界流体を用いて抽出する方法などを用いてもよく、これらの方法を単独で、又は2種以上を組み合わせて抽出を行っても良い。好ましくは、細かく裁断した原料1gに対して、5〜100mlの溶媒を用い、1時間から1か月間、好ましくは1〜5日間、室温或いは加熱下で行うことが望ましい。
【0021】

抽出に用いられる溶媒は、有効成分が効果的に抽出される溶媒であれば特に限定されるものではないが、水または、エタノール等の低級アルコールのように水と混和する有機溶媒、またはそれらの混液、または水と混和しない有機溶媒たとえば酢酸エチル等を用いてもよい。そのほかにも例を挙げるならば、メタノール,イソプロパノール,イソブタノール,n-ヘキサノール,メチルアミルアルコール,2-エチルブタノール,n-オクチルアルコール等の1価アルコール類、グリセリン,エチレングリコール,エチレングリコールモノメチルエーテル,プロピレングリコール,プロピレングリコールモノメチルエーテル,プロピレングリコールモノエチルエーテル,トリエチレングリコール,1,3-ブチレングリコール,へキシレングリコール等の多価アルコール又はその誘導体、アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,メチル-n-プロピルケトン等のケトン類,酢酸イソプロピル等のエステル類、エチルエーテル,イソプロピルエーテル,n-ブチルエーテル等のエーテル類、スクワラン,ワセリン,パラフィンワックス,パラフィン油などの炭化水素類、オリーブ油,小麦胚芽油,米油,ゴマ油,マカダミアンナッツ油,アルモンド油,ヤシ油等の植物油脂、牛脂,豚脂,鯨油等の動物油脂などが例示される。また、リン酸緩衝生理食塩水等の無機塩類を添加した極性溶媒、界面活性剤を添加した溶媒を用いることもでき、特に限定されない。飲食物等への使用、皮膚への塗布を含む人体への使用における安全性等を考えれば、特に、水および/またはアルコールのいずれかにより抽出することが好ましい。
【0022】
また、段階的に抽出操作を行っても良い。たとえば、エタノール等の低級アルコールのように水と混和する有機溶媒で抽出操作を行い、エバポレーターなどで濃縮し、水と混和しない有機溶媒たとえば酢酸エチル等と水を加え、有機層と水層に分離しても良い。この場合、有機層にも水層にもチロシナーゼ阻害作用、メラニン生成抑制作用、抗酸化作用がある成分が抽出されるので、用途別に利用しても構わない。例えば、水層の成分は、洗顔用途、化粧水用途及び入用剤用途など水と親和性が必要な抗酸化剤が所望される場合に利用が期待でき、また、有機層のものはクリーム及び乳液など油と親和性が必要な抗酸化剤が所望される場合に利用が期待できるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
このようにして得られた西洋わさびの抽出物は、そのまま用いることもできるが、その効果を失わない範囲で、脱臭や脱色などの精製操作を加えたりして用いてもよい。また、抽出物中の有効成分の濃度を高めるために、所望により、得られた抽出物を更に、濃縮、液液分配、吸着クロマトグラフィー、順相もしくは逆相クロマトグラフィー等の手段に付すことも可能である。これらの抽出物や精製物又は分画物は、これらから溶媒を除去することによって乾固物とすることもでき、さらに、アルコールなどの溶媒に可溶化した形態、或いは乳剤の形態で用いることができる。
【0024】
西洋わさびの抽出物に、他のチロシナーゼ阻害作用、メラニン生成抑制作用及び/又は抗酸化作用などを有する薬剤を併用しても構わない。他の薬剤と併用することで相乗効果が期待できる。併用する場合は、安全性の高い薬剤を併用するのが好ましい。より好ましくは、天然由来の薬剤または天然由来の薬剤を模倣した薬剤を併用するのが好ましい。例えば、アスコルビン酸などは、天然に存在し食品用途にも利用されているので、比較的併用しやすい。本発明で使用しても差し支えないL−アスコルビン酸及びその塩又はその誘導体としては、例えばL−アスコルビン酸モノステアレート,L−アスコルビン酸モノパルミテート,L−アスコルビン酸モノオレエート等のアスコルビン酸モノアルキル若しくはモノアルケニルエステル類、L−アスコルビン酸モノリン酸エステル,L−アスコルビン酸-2-硫酸エステル等のアスコルビン酸モノエステル誘導体、L−アスコルビン酸ジステアレート,L−アスコルビン酸ジパルミテート,L−アスコルビン酸ジオレエート等のL−アスコルビン酸ジアルキル若しくはジアルケニルエステル誘導体、L−アスコルビン酸トリステアレート,L−アスコルビン酸トリパルミテート,L−アスコルビン酸トリオレエート等のL−アスコルビン酸トリアルキル若しくはトリアルケニルエステル誘導体、

L−アスコルビン酸トリリン酸エステル等のL−アスコルビン酸トリエステル誘導体等を挙げることが出来る。これらのL−アスコルビン酸及びその塩又はその誘導体のうち、特に好ましいものは、L−アスコルビン酸,L−アスコルビン酸リン酸エステル及びこれらの塩である。コケモモ由来のアルブチンも天然するので比較的安全と考えられるので、併用しても差し支えない。アルブチンの構造を模倣したものまたはその誘導体と併用してもよい。
【0025】
本発明における西洋わさび抽出物は、そのまま抗酸化剤として使用することができ、更に通常の化粧料、医薬部外品等に用いられる成分、例えば油性成分、界面活性剤、紫外線吸収剤、低級アルコール、防腐剤、殺菌剤、色剤、粉末、香料、水溶性高分子、緩衝材等をその剤形にあわせ、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合し抗酸化剤とすることも可能である。この場合、当該抽出物は、抗酸化剤の全組成中に、抽出に用いた植物の乾燥固形分として0.0001〜20重量%、特に0.01〜10重量%配合するのが望ましい。
【0026】
また、本発明の皮膚外用剤の剤型は任意であり、例えば化粧水などの可溶化系,クリーム,乳液などの乳化系,カラミンローション等の分散系として、提供することもでき、また噴射剤と共に充填したエアゾールの剤型をとってもよい。
【0027】
また、本発明の抗酸化剤の形態としては、散剤、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤など)、顆粒剤(コーティングした物、丸剤、トローチ剤、液剤、またはこれらの製剤学的に許容され得る徐放化製剤など)などが挙げられる。
【0028】
これらの製剤は公知の製剤学的製法に準じ、製剤として薬理学的に許容され得る基剤、担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等と共に用いてもよい
【0029】
これらの製剤に用いる担体や賦形剤としては、例えば乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末などが挙げられる。
【0030】
これらの製剤に用いる結合剤としては、例えばデンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0031】
これらの製剤に用いる崩壊剤としては例えばデンプン、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0032】
これらの製剤に用いる滑沢剤としては例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴールなどが挙げられる。
【0033】
これらの製剤に用いる着色剤としては医薬品に添加することが許容されているものを、それぞれ用いることができる。
【0034】
錠剤、顆粒剤を調製する場合は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体などで被膜しても良いし、2つ以上の層で被膜しても良い。さらにエチルセルロースやゼラチンのような物質のカプセルでも良い。
【0035】
外用剤の形態としては、経皮投与用または口腔内あるいは経鼻などの経粘膜投与用の固体、半固体、半固体状、または液状の製剤が挙げられる。液状製剤としては、例えば製剤学的に許容される乳剤あるいはローション剤などの乳濁剤、外用チンキ剤、経粘膜投与用液剤などが挙げられる。この製剤は通常用いられる希釈剤としては、例えばエタノール、油分、乳化剤などを含む。半固体製剤としては、例えば油性軟膏、親水性軟膏などの軟膏剤が挙げられる。この製剤は通常用いられる基剤あるいは担体として、例えば、水、ワセリン、ポリエチレングリコール、油分、界面活性剤などを含む。半固体あるいは固体製剤としては、例えば硬膏(ゴム膏、プラスターなど)、フィルム剤、テープ剤、あるいはパップ剤などの経皮投与用または経粘膜(口腔内、経鼻)投与用の貼付剤などが挙げられる。この製剤は通常用いられる基剤あるいは担体として、例えば天然ゴム、ブタジエンゴム、SBR、SISなどの合成ゴムなどのゴム系高分子、ゼラチン、カオリン、酸化亜鉛などの泥状化剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムなどの親水性高分子、アクリル樹脂、流動パラフィンなどの粘着付与剤、水、その他の油分、界面活性剤を含む。これらの製剤は、さらに安定化剤、溶解補助剤、経皮吸収促進剤のような補助剤、あるいは芳香剤、防腐剤などの添加剤などを用いても良い。
【0036】
本発明の抗酸化剤は、常法にしたがって経口、非経口の製品に配合することができ、飲食物、皮膚外用剤、医薬品、医薬部外品、飼料、餌料、農薬等の様々な分野で利用することができる。例えば、飲食物に配合した場合には、生体内抗酸化効果および酸化防止効果を有する飲食物を提供することができる。この飲食物は例えば、風味劣化・変色抑制等の酸化防止効果が期待でき、かつ、生活習慣病予防等の効果が期待できる。生活習慣病予防等の効果からは、健康食品、栄養食品等として用いられることも期待できる。さらには、該抽出物の濃縮等の条件を調整することで、これを含有する飲食物を継続的に摂取することにより、更なる効果を発揮する機能的な飲食物を提供することができる。その他、家畜、魚類の飼料、餌料に利用することができ、特に魚類の餌料は水分を必須とするものが多く放置すると酸化劣化し易いものがあり、また、水中投下するので水と接しいたみ易いが、これらを改善した餌料等を提供することができる。また、併せて、一部には飼育の困難な鑑賞用や養殖等の魚類も存在するが、本発明の抗酸化剤を用いた餌料等は生体内抗酸化効果等の効果を有することから、これらの育成・生存率の向上に寄与する餌料等を提供することができる。
【0037】
本発明では、西洋わさび抽出物中に、新鮮重1gの葉から抽出した抽出物中に約0.1〜10mgのポリフェノールが含有されることを見出している。ポリフェノールとは、多くの物質の総称で、これらの中心となるものは、フラボノイドと呼ばれる、化学構造が似ている一連の物質である。フラボノイド系には、フラバノール(カテキン類)、フラボン類、イソフラボン類、フラボノール類、フラバン類、フラバノン類、カルコン類、アントシアニン類などがある。フラボノイド系以外にも、フェニルプロパノイド系、リグナン系、クマリン系、クルクミン類を含むジアリルペプタノイド系、カプサイシン系などがある。そのほかにも多くのポリフェノールがある。
【0038】
これらのポリフェノールには、抗酸化作用、抗変異原性、抗がん性、血圧上昇抑制作用、血糖抑制作用、抗アレルギー作用、抗菌・抗ウイルス作用などがあることが知られている。特に、ポリフェノールの抗酸化作用は、活性酸素を減らすことで注目されている。これらについては、ポリフェノール全体に共通する構造である複数の水酸基(-OH)が関係していると言われている。この部分が非常に酸化しやすく、共存する他の物質より先にポリフェノールが酸化するため、他の物質の酸化が遅らせるといわれている。またポリフェノールの種類によって反応のしやすさが異なるため、必ずしも1種類のポリフェノールで全ての活性酸素を減らすのは容易ではないことがいわれている。
【0039】
本発明では、西洋わさび抽出物にチロシナーゼ阻害作用、メラニン生成抑制作用があることを見出している。これらの作用の一機序として、西洋わさびに含まれるポリフェノールの関与が推測される。メラニン色素は表皮基底層及び毛根部、外毛根鞘に存在する色素細胞(メラノサイト)内の小器官であるメラノソームで生成される。メラニン色素の生成過程は、色素細胞(メラノサイト)内でチロシンにチロシナーゼが活性作用して、チロシンが酸化され、ドーパ、ドーパキノンに変換、更に自動酸化しドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドールを経て重合し、最終的にメラニン色素になる。かくして生成されたメラニンは、色素細胞(メラノサイト)の樹枝状突起から基底細胞に分泌され、基底細胞が分裂し、有棘細胞となると共に上昇し角質層に達する。さらにこのメラニンに紫外線が照射されると、既存のメラニンが酸化され、一時的に黒くなることも報告されている。西洋わさび抽出物にふくまれるポリフェノールが、これらのメラニン色素の生成過程における酸化反応工程を阻害し、チロシナーゼ阻害作用、メラニン生成抑制作用を示すことが推測される。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0041】
メラニン生成抑制試験方法
メラニン生成抑制試験はマウスのメラノーマ細胞を用いて、次の様に行った。先ず、10%(v/v)牛胎児血清を含むDMEM培地で、5%(v/v)炭酸ガスに調整した炭酸ガスインキュベーターで37℃で1×105個になるよう培養したB16メラノーマ細胞500μlを、24穴細胞培養プレートに播種し、次いでこのプレートに、エタノールに溶解した250mg/ml〜0.025mg/mlの試料を0.5μl添加した。同条件でさらに4日間培養した後その白色化度を顕微鏡下で肉眼で評価し、メラニン生成抑制能の指標とした。
【0042】
チロシナーゼ活性阻害試験方法
Anal.Biochem.,179,375(1989)の方法に従って、被検液750μlにプロリン溶液(80mM、pH7.6リン酸緩衝液に溶解)750μl及びピロカテコール溶液(4mM、pH7.6リン酸緩衝液に溶解)750μlを加え、更に酵素チロシナーゼ溶液(pH6.8リン酸緩衝液に溶解)を終濃度20U/mlになるよう添加し、反応液全量が1mlになるようpH6.8リン酸緩衝液を添加した上で速やかに混合し、直ちに525nmにおける吸光度を測定開始し、反応開始時の測定値(D1)及び反応後10秒時の測定値(D2)を求めた。即ちD1を100%阻害と換算してD2測定時の阻害率を求め(式1)チロシナーゼ活性阻害の指標とした。
【0043】
【数1】

【0044】
抗酸化作用試験方法
抽出液について、ラジカル消去活性を測定した。すなわち、安定なラジカルであるDPPHを0.5Mになるようエタノールにて調製し、試験管中に0.5ml分注、これに0.1M Tris-HCl(pH7.4)バッファーを0.4ml及びこのバッファーで種々の濃度に調製した抽出物溶解液0.1mlを混合し、常温暗所にて20分反応後517nmにおける吸光度を測定し、この値をAとした。また、強力なラジカルスカベンジャーであるTroloxをエタノールで100mMに調製し、これを抽出物溶解液の代わりに0.1ml添加し同様に反応させた反応液の吸光度を測定し、この値をBとした。さらに、抽出物溶解液の代わりに0.1M Tris-HCl(pH7.4)バッファーを0.1ml添加したブランクの吸光度を測定し、これをCとした。抽出物のラジカル消去率を式2で求めた。
【0045】
【数2】

【0046】
ポリフェノール含量の測定方法
ポリフェノール測定装置PA-20(東洋紡エンジニアリング社製)を用いて、抽出物に含まれる総ポリフェノール含量を測定した。方法は、PA-20のマニュアルに従い実施した。検体は50μl使用した。
【0047】
西洋わさび(葉及び根茎)抽出物の調製
西洋わさびの葉及び根茎それぞれ100gずつを細かく裁断し、エタノール1000mlを加えて室温下、24時間抽出し抽出液を濾別した。残渣はさらにエタノール200mlを加えて、同様に再抽出した。抽出液を集めて減圧濃縮し、溶媒を留去した後、水20mlおよび酢酸エチル80mlを加え、これを分液ロートに移して激しく振とうした後静置して2層に分離し、上層の酢酸エチル層を集めた。これを無水硫酸ナトリウムで乾燥した後減圧濃縮し、西洋わさび葉抽出物1.367g及び根茎抽出物0.2gを得た。
【0048】
実施例1 メラニン生成抑制試験
前記のメラニン生成抑制試験方法で、西洋わさび葉抽出物について、種々の濃度でメラニン生成抑制を測定した。結果を表1に示す。本発明の抽出物は、終濃度25μg/ml以上の範囲で、実用化に充分な++(白色化度大)のメラニン生成抑制効果を示した。このことは、本発明の抽出物が、優れた抗酸化効果と高い安全性を兼ね備えた、有用な抗酸化成分であることを示すものである。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例2 チロシナーゼ活性阻害
西洋わさび葉抽出物及び標準品アルブチン(合成品)について、チロシナーゼ酵素阻害活性を、前記のチロシナーゼ活性阻害試験方法にしたがって調べた。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2の結果から、アルブチンと天然の西洋わさび葉抽出液からなる本発明の抗酸化剤は、ほぼ同等の濃度でチロシナーゼ酵素活性を抑制した。
【0053】
実施例3 抗酸化作用
西洋わさび葉抽出物について、前記の抗酸化作用試験方法にしたがい、抗酸化試験を実施した。抗酸化試験の結果を図1に示す。葉抽出物は、アルブチンより強い抗酸化作用を示した。根茎抽出物にも、わずかながら抗酸化作用が認められた。
【0054】
実施例4 ポリフェノール含量の測定
ポリフェノール測定装置PA-20(東洋紡エンジニアリング社製)を用いて、抽出物に含ま
れる総ポリフェノール含量を測定したところ、新鮮重1gの葉から抽出した抽出物中に約2mgのポリフェノールが含まれていることが確認された。
【0055】
実施例5 クリームの製造
以下に示す組成のクリームを常法により製造した。
得られたクリームは、美白効果に優れたものであり、シミ、ソバカス等の色素沈着症を改善することができた。
【0056】
(組成) (重量%)
ステアリン酸 2.5
ステアリルアルコール 6.0
還元ラノリン 2.5
スクワレン 6.0
オクチルデカノール 6.5
ポリエチレンセグリコール 4.0
香料 0.1
防腐剤、酸化防止剤 適量
プロピレングリコール 4.5
西洋わさび抽出液 1.0
精製水 全体で100となる量
【0057】
実施例6 ローションの製造
以下に示す組成のローションを常法により製造した。
得られたローションは、美白効果に優れたものであり、シミ、ソバカス等の色素沈着症を改善することができた。
【0058】
(組成) (重量%)
ステアリン酸 0.5
セタノール 2.0
ワセリン 2.5
ラノリンアルコール 2.5
流動パラフィン 9.0
ポリエチレンセグリコール 2.5
香料 0.1
グリセリン 3.5
プロピレングリコール 4.5
トリエタノールアミン 1.0
西洋わさび抽出液 2.0
精製水 全体で100となる量
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により、強力なスーパーオキシド消去、ヒドロキシラジカル消去等の活性酸素除去機能、チロシナーゼ阻害作用やメラニン生成抑制作用を有する天然の抽出物を含有する抗酸化剤を、安定的に提供することができる。本発明の抗酸化剤は微量で強い抗酸化効果を有しており、該抗酸化剤を人体やその他飲食物、医薬品、化粧品、美白剤、肥料、飼料や皮膚外用剤等に使用することにより、抗酸化効果、特には製品の保存安定性の向上効果等の優れた酸化防止効果や、各種疾病予防効果や抗老化効果等の優れた生体内抗酸化効果を得ることができる。従って、産業界に大きく寄与することが期待される。また、バイオマスを利用することから、バイオマス産業界にも大きく寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】抗酸化試験の結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
西洋わさびの抽出物が有効成分として含まれることを特徴とする抗酸化剤。
【請求項2】
西洋わさびの葉、西洋わさびの茎及び/又は西洋わさびの根茎からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物から、有効成分を含む抽出物を得ることを特徴とする請求項1に記載の抗酸化剤。
【請求項3】
西洋わさびが、Cochlearia armoracia L.由来の西洋わさびであることを特徴とする請求項1または2に記載の抗酸化剤。
【請求項4】
有効成分の作用が、抗酸化作用であることを特徴とする請求項1または2に記載の抗酸化剤。
【請求項5】
西洋わさびの抽出物にポリフェノールが含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の抗酸化剤。
【請求項6】
西洋わさびの抽出物に加えて、さらに、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体、並びに/もしくは、アルブチン及び/又はアルブチン誘導体が含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の抗酸化剤。
【請求項7】
西洋わさび抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項8】
西洋わさび抽出物が、西洋わさびの葉の抽出物、西洋わさびの茎の抽出物及び/又は、西洋わさびの根茎の抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項7に記載の抗酸化剤。
【請求項9】
西洋わさびが、Cochlearia armoracia L.由来の西洋わさびであることを特徴とする請求項7または8に記載の抗酸化剤。
【請求項10】
さらに、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体、並びに/もしくは、アルブチン及び/又はアルブチン誘導体を含有することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の抗酸化剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−232807(P2006−232807A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268402(P2005−268402)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】