説明

視覚障害者支援システム及びそのシステムに使用する杖

【課題】可視光通信機能付きの杖で、照明灯からの誘導情報や警告情報を確実に受信する。
【解決手段】照明灯に設けられた記憶部12は、入力部11から案内情報を取得し記憶する。変調部13は、案内情報を記憶部12から取得し、可視光通信に用いる信号に変調する。LED駆動部14は、変調部13からの取得した信号に応じて発光部15を高速に点滅させ、照明光に案内情報を重畳して送信する。杖20に設けられた受光部21は、照射された可視光の路面からの反射光を受光する。復調部22は、受光部21からの信号を音声として出力できる信号に復調する。出力部23は、復調された案内情報をスピーカ、イヤホンなどからの音声、又はバイブレータからの振動として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚障害者に対して可視光通信を用いて、歩道での誘導や横断歩道での警告をする視覚障害者支援システム及びそのシステムに使用する杖に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、音声情報を使用して視覚障害者の歩行を補助する技術としては、例えば、各種のものが提案されている。特許文献1の技術は、視覚障害者誘導用ブロック及び杖に、赤外光による音声情報機能を内蔵し、杖を突きながら誘導用ブロック上を歩行する視覚障害者に音声情報を支援する。
【0003】
特許文献2の技術は、視覚障害者が、頭部に装着した受光装置で、交通信号機等の歩道路に設置されている情報発信機器からの可視光情報信号を受信する。これを音声に変換して頭部側で出力することにより、交通信号情報を容易に認識することができる。
【0004】
一方、情報伝達に当たり、反射光を使用する技術として、特許文献3においては、送光装置からの光信号を床面の反射により受信することが開示されている。この技術では、移動体への装置の装着負担が少なく、かつ遮蔽物に対する耐性の高い安定した受信が可能となり、人に対して負担をかけずに、確実に移動状況を取得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−50191号公報
【特許文献2】特開2006−81693号公報
【特許文献3】特開2009−204542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は、誘導用ブロックに赤外光による音声情報機能を内蔵しているため、歩道に物が置かれた場合に通信が遮られる。特許文献2の技術は、視覚障害者が頭部に装着した受光装置で可視光情報を受信するため、太陽光のような外光の影響を受け易い。外光の影響を削減するために、反射光を利用することも考えられるが、特許文献2の技術は、受光装置を頭部に装着しているため、路面からの反射光を受光することは困難である。
【0007】
一方、特許文献3の技術は、通信に反射光を利用しているが、室内における壁や床での反射光を対象としており、外光が存在する屋外で使用するものではない。そのため、外光による影響を排除することは考慮されていない。
【0008】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、太陽光などの外光の影響を排除して、照明灯から照射された情報を伝送するための可視光の反射光を、確実に受信することができる視覚障害者支援システム及びそれに用いる杖を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の視覚障害者支援システムは、次のような特徴を有する。
(1) 歩行者が通行する領域を照明すると共に、視覚障害者に対する案内情報を可視光で通信する照明灯と、この照明灯からの可視光通信を受信する杖とを備えた視覚障害者支援システムである。
(2)前記照明灯は、案内情報を記憶する情報記憶部と、前記情報記憶部からの案内情報を変調する変調部と、前記変調された信号に応じて照明用のLEDを点滅させるLED駆動部とを有する。
(3) 前記杖は、可視光の前記領域からの反射光を受光する受光部と、この受光部で受信された信号を復調する復調部と、復調された信号を音声あるいは振動として出力する出力部を有する。
また、このようなシステムに使用する杖も、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、視覚障害者は、案内情報を重畳した可視光の反射光を受信機能付きの杖で受光することができ、歩道の遮蔽物や太陽光などの外光の影響を受けることなく、確実に案内情報を受信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態の視覚障害者支援システムを示すブロック図である。
【図2】実施形態の視覚障害者支援システムの概念を示す側面図である。
【図3】実施形態の視覚障害者支援システムの受信エリアを示す平面図である。
【図4】実施形態の杖を下方から見た斜視図である。
【図5】杖の受光部分の分解斜視図である。
【図6】図5の杖の断面図である。
【図7】杖の他の実施形態を示す断面図である
【図8】杖の他の実施形態を示す断面図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態の構成]
図1に示すとおり、本実施形態の視覚障害者支援システム1は、歩行中の視覚障害者に対して、可視光通信を用いて誘導情報を供給する誘導照明灯10、警告情報を供給する警告照明灯10a、及び視覚障害者が使用しこれらの情報を受信する杖20を備えている。なお、誘導情報及び警告情報は請求項に記載の案内情報に相当し、誘導照明灯10及び警告照明灯10aは請求項に記載の照明灯に相当する。
【0013】
誘導照明灯10と警告情報照明灯10aは、記憶媒体などから誘導情報又は警告情報を入力する入力部11と、入力部11からの情報を記憶する記憶部12を有する。また、照明灯10,10aは、記憶部12から出力された情報を送信用に変調する変調部13と、変調部13からの信号に基づいてLEDを所定の周波数で駆動するLED駆動部14と、LEDを用いた発光体である可視光の発光部15と、各部に電力を供給する電源部16とを有している。
【0014】
入力部11は、視覚障害者が歩行中に必要な情報である案内情報を取得する。入力部11への情報の入力は、照明灯の製造時に予め行っても良いし、照明灯の設置時や運用時に、照明灯の位置や周囲の環境に合わせて、設置者が記憶媒体あるいはパソコンなどの入力手段から供給してもよい。
【0015】
記憶部12は、入力部11から案内情報を取得し、記憶する。案内情報としては、誘導情報や警告情報などがある。誘導情報は、例えば、「進んでください」、「ここは歩道です」などの音声情報である。警告情報は、例えば、「横断歩道です。信号は赤です。止まってください」、「横断歩道です。もうすぐ、信号は赤になります。止まってください」などの音声情報である。本実施形態では、歩道に沿って設置される照明灯10には誘導情報を、横断歩道や踏切の手前に設置される照明灯10aには警告情報が記憶されている。
【0016】
変調部13は、案内情報を記憶部12から取得して、可視光通信に用いる信号に、位相変調、周波数変調などをする。LED駆動部14は、変調部13からの取得した信号に応じて発光部15に流れる電流を変化させ、発光部15を高速に点滅させる。発光部15は、照明灯の照明光に案内情報を重畳して送るものである。すなわち、LED駆動部14により、発光部15のLEDを人間の目ではちらつきがわからない、例えば数十Hz以上の速度でパルス状に点滅させ、その周波数変化を利用して、可視光通信を行なう。電源部16は、各部に電力を供給する商用電源、バッテリー、太陽光電池などの電源である。
【0017】
杖20は、可視光通信データを受信する受光部21、受信データの復調部22、その出力部23及び電池部24を有している。受光部21は、例えばフォトダイオード、フォトトランジスタなどの受光素子である。受光部21は、上方からの光が遮蔽され、歩道からの反射光を受光する。すなわち、受光部21は、誘導照明灯10又は警告照明灯10aから照射された可視光について、その路面からの反射光を受光する。
【0018】
復調部22は、受光部21からの信号を音声として出力できる信号に復調する。出力部23は、復調された信号をスピーカ、イヤホンなどからの音声として、及びバイブレータの振動などとして出力する。電池部24は、各構成に電力を供給するバッテリー、太陽光電池などの電源である。
【0019】
杖20の受光部21部分の構成について、図4〜図6を用いて説明する。図4にその全体形状を示す杖20は、歩道に接する杖先端部30と、その上部に設けられた透明筒31と、透明筒31のさらに上部に設けられた杖本体部32とを有する。この場合、透明筒31は、反射光を受光しやすいように、歩道に近い位置になるように設けられると良い。杖本体部32は、前記受光部21、復調部22、出力部23及び電池部24を内蔵している。
【0020】
図5と図6は、杖先端部30と透明筒31と杖本体部32との接合部分の分解斜視図及び縦断面図である。これらの図に示すように、杖先端部30の上部は円錐形であり、その表面は光吸収材が塗布された外光吸収面34になっている。すなわち、この吸収面34で直射日光などの外光が吸収され、受光部21に外光が照射されない構造となっている。
【0021】
光の透過部となる透明筒31は、例えば、透明で強固な樹脂で円筒状に形成されている。その下端は杖先端部30と、上端は杖本体部32と接合している。上方からの直射日光などは、透明筒31を透過して前記光吸収面34に吸収される。一方、路面で反射された可視光は、透明筒31を透過して受光部21に照射される。
【0022】
杖本体部32は、その上端が取手であり、下端が前記透明筒31と接合している。杖本体部32の下端には、表面がコーティングなどで鏡面加工されたすり鉢状の反射面35が設けられている。この反射面35の中央に受光部21が設けられ、反射面35で反射した光が受光部21に集光される。
【0023】
[実施形態の作用]
図1〜図3を用いて、視覚障害者支援システム1の作用について説明する。
まず、本実施形態の照明灯を歩道の上方に一定の間隔で設置する。この場合、視覚障害者が安全に歩行できる領域(誘導エリア100)においては、案内情報として誘導情報を記憶した照明灯10を設ける。一方、交差点、信号、踏切のように視覚障害者に警告情報を伝えたい領域(警告エリア100a)においては、案内情報として警告情報を記憶した照明灯10aを設置する。
【0024】
このように照明灯10,10aが設置された道路を、図2に示すように、視覚障害者が杖20を使用して歩行しているとき、視覚障害者の上方に配置されている照明灯10から、道路の照明用の可視光が照射されると共に、誘導情報が可視光通信を用いて発信されている。なお、通常、街路灯などの照明灯10,10aは夜間あるいは薄暮時の照明用であるが、本実施形態では、視覚障害者の案内を行うため、昼間の明るい時間においても点灯させておき、可視光通信により案内情報を送信する。
【0025】
誘導照明灯10からの可視光が、図2、図3に示す誘導エリア100に照射されている状態において、視覚障害者が誘導エリア100を歩行すると、杖20の受光部21が、誘導情報を伝送する可視光の反射光を受光できる。視覚障害者が、歩行中に誘導エリア100から外れた場合、この反射光を受光できなくなり、誘導情報を得ることができなくなる。このとき、視覚障害者は、杖20を、例えば、小刻みに移動させ、反射光の受光を得るようにすると良い。視覚障害者は、杖20が反射光の受光を得た方向に移動して、歩行を続ければよい。
【0026】
なお、この場合の誘導情報としては、連続して音声ガイドや音楽をスピーカから出力したり、杖を連続して振動させても良いし、逆に、誘導情報の受信中はスピーカからの出力や杖の振動を停止しておき、受信エリア100から外れて誘導情報の受信が途絶えたときに、スピーカ出力を行ったり、杖を振動させたりすることもできる。
【0027】
図2に示すように、誘導照明灯10は、例えば、歩行する方向に連続して設けられている。この場合、誘導照明灯10から誘導情報を伝送する可視光が照射される誘導エリア100は、連続して存在する。視覚障害者は、誘導エリア100を通過したら、次の誘導エリア100で誘導を受けることができる。
【0028】
一方、警告エリアには、その上方に配置されている警告照明灯10aから警告情報を伝送する可視光が照射されている。そのため、視覚障害者が横断歩道の手前の警告エリアまで進むと、杖20の受光部21が警告情報を伝送する可視光の反射光を受光する。この場合の警告情報としては、「信号があります」「横断歩道です」「車両に注意してください」などの音声情報、あるいはそれらを知らせる音楽、チャイム、案内情報とは異なる杖の振動パターンなどが使用できる。
【0029】
[実施形態の効果]
本実施形態の視覚障害者支援システム1は、次のような効果を奏する。
【0030】
(1)照明灯に誘導機能や警告機能を付加することができることより、既存の照明灯を誘導灯や警告灯として機能させることができる。また、新たに照明灯を設置する場合においても、両機能を有する照明灯とすることができる。
(2)積雪、路面状態の変化に影響されることなく安定した誘導を行なうことができる。路面に突起物のようなものを埋めこむ必要がなく、高齢者、車椅子の使用者などの障害にならない。
【0031】
(3)照明と可視光通信にLEDを使用しており、長寿命、低消費電力である。
(4)太陽光の路面からの反射光は、弱いので、影響を受けることなく、可視光通信の反射光は、確実に受光部21で受光することができる。直射日光は、吸収面34で吸収され影響がない。
(5)通信手段として可視光を用いることより、誘導エリア100や警告エリア100aを目視により判定することができ、正確な領域とすることができる。
【0032】
[他の実施形態]
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下のような他の実施形態も包含する。
【0033】
(1) 図7に示す杖20は、上方からの光を反射する傘状の遮蔽板40を、透明筒31の上方に設けることで、上方からの直射日光が透明筒31内に直接進入することを防止したものである。この実施形態では、透明筒31内部の吸収面34と、この遮蔽板40との相乗効果により、直射日光が受光部21に照射することを防止できる。
【0034】
(2)図8に示す杖20は、透明筒31を設ける代わりに、前記図7の傘状の遮蔽板40の下方に、路面側に開口した透明窓41を設けたものである。この場合、透明窓41は、杖20の周方向に複数個設けられ、各透明窓41にそれぞれ受光部21を設けている。この実施形態においても、太陽光などの外光が受光部21に進入することを防止できる。
【0035】
(3) 前記実施形態は、案内情報として誘導情報又は警告情報を送信しているが、これらの情報に加えて他の情報を送信してもよい。例えば、位置情報を送信すれば、利用者が現在位置を知ることができる。
【0036】
(4)前記実施形態は、誘導照明灯10と警告照明灯10aと杖20とから構成されているが、誘導照明灯10と杖20、又は警告照明灯10aと杖20とからなる視覚障害者支援システムとして構成しても良い。
【0037】
(5)前記実施形態の杖20は、可視光通信の受信機能を内蔵しているが、これに限定されない。例えば、受信機能などを有する装置は、杖に対して外付け、例えば、貼り付け、ねじで固着させるなどでも良い。
【0038】
(6)照明灯10や10aの記憶部に案内情報を記録する場合に、各照明灯を予めネットワークに接続しておき、情報センターなどの外部入力手段により情報を入力する。このようにすると、案内情報の書き換えが容易になる。
【符号の説明】
【0039】
1…視覚障害者支援システム、10…誘導照明灯、10a…警告照明灯、11…入力部、12…誘導情報記憶部、13…変調部、14…LED駆動部、15…発光部、16…電源部、20…杖、21…受光部、22…復調部、23…出力部、24…電池部、30…杖先端部、31…透明筒、32…杖本体部、34…吸収面、35…反射面、40…遮蔽板、41…透明窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
視覚障害者が歩行する領域を照明するととも、視覚障害者に対する案内情報を可視光で通信する視覚障害者支援システムであって、
前記案内情報を記憶する情報記憶部と、前記情報記憶部からの案内情報を変調する変調部と、前記変調された信号に応じて照明用のLEDを点滅させるLED駆動部とを有する照明灯と、
前記可視光の前記領域からの反射光を受光する受光部と、この受光部で受信された信号を復調する復調部と、復調された信号を音声あるいは振動として出力する出力部とを備えた杖と、
を備えることを特徴とする視覚障害者支援システム。
【請求項2】
視覚障害者が歩行する領域の上方からの外光を遮蔽又は吸収する遮蔽部又は吸収部と、
照明灯から照射された可視光の前記領域の路面から反射光を受光する受光部と、
前記受光した可視光重畳されている案内情報を復調する復調部と、
前記復調された情報を音声又は振動として出力する出力部と、
を有することを特徴とする杖。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−55582(P2012−55582A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203598(P2010−203598)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(390005223)株式会社タムラ製作所 (526)
【Fターム(参考)】