説明

親水性塗膜の形成方法及び親水性塗膜を有する基材

【課題】 水性エマルション塗料から得られた塗膜について、形成直後から高い親水性を有し、優れた耐汚染性能を有する塗膜が得られる親水性塗膜の形成方法を提供する。
【解決手段】 親水化処理用表面改質剤を含有する水性エマルション塗料を基材上に塗装して乾燥する工程(I)と、上記工程(I)によって形成された塗膜上に、シリケート化合物の加水分解体(A)、HLB値が10〜15であるアルキレンオキサイドユニットを有するノニオン系界面活性剤(B)、水(C)及び親水性有機溶剤(D)を含有する親水化処理剤を塗布する工程(II)とからなる親水性塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性塗膜の形成方法及び親水性塗膜を有する基材に関する。
【背景技術】
【0002】
シリケート化合物を塗料に添加することで、得られる塗膜の表面が親水化され、耐汚染性に優れた塗膜を得ることができることは従来から知られている。このようにして塗膜を親水化する場合、その親水化機能はシリケート化合物が表面に移行した後、加水分解することにより発現していると推察される。
【0003】
しかし、塗料として水性塗料を用い、これにシリケート化合物を添加した場合、塗料中に溶剤として水が存在するため、シリケート化合物がその水によって加水分解されてしまい、先に示したような親水化機能を発現させることができないという問題があった。
【0004】
このような問題点を解決することを目的とする水性塗料用の低汚染化剤として、特許文献1に非還元性の二、三糖類に炭素数2〜4のアルキレンオキシドを重合させた化合物からなる塗料用汚染低減剤、特許文献2にポリオキシアルキレン基及びアルコキシル基を有するアルコキシシランの変性縮合物を含む水性塗料用低汚染化剤がそれぞれ開示されている。しかし、これらの低汚染化剤では充分なレベルの耐汚染性を付与することはできなかった。
【0005】
特許文献3には、初期の耐汚染性改善を目的とする方法として、親水性塗膜の上に、シリケート化合物の加水分解物、HLBが10〜15でアルキレンオキサイドユニットを有しているノニオン系界面活性剤、水及び親水性有機溶剤を含む親水化処理剤を塗布し、乾燥する塗膜形成方法が開示されている。
【0006】
上記方法における親水性塗膜は、水性エマルション塗料を用いることにより形成されるものではなく、ここで記載されている親水化処理剤を水性エマルションにより形成される塗膜上に塗布した場合、塗布が均一でないという問題点を有する。これは、このエマルションの融着により得られた塗膜では、その表面の濡れ性が充分でないためと推察される。
【0007】
【特許文献1】国際公開第99/05228号パンフレット
【特許文献2】特開2003−342523号公報
【特許文献3】特開2002−273340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑み、水性エマルション塗料から得られた塗膜について、形成直後から高い親水性を有し、優れた耐汚染性能を有する塗膜が得られる親水性塗膜の形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、親水化処理用表面改質剤を含有する水性エマルション塗料を基材上に塗装して乾燥する工程(I)と、上記工程(I)によって形成された塗膜上に、シリケート化合物の加水分解体(A)、HLB値が10〜15であるアルキレンオキサイドユニットを有するノニオン系界面活性剤(B)、水(C)及び親水性有機溶剤(D)を含有する親水化処理剤を塗布する工程(II)とからなることを特徴とする親水性塗膜の形成方法である。
【0010】
上記親水化処理用表面改質剤は、ポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケート、非還元性の二、三糖類にアルキレンオキサイドを重合させたものをイソシアネートで結合した化合物及び有機シリケートからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
上記親水化処理剤において、上記ノニオン系界面活性剤(B)の含有量は、上記水(C)100質量部に対して、0.001〜5質量部であることが好ましい。
上記親水化処理剤は、更に酸性コロイダルシリカ(E)を含有するものであることが好ましい。
上記親水化処理剤は、更にシラノール基と相互作用可能な金属化合物(F)を含有するものであることが好ましい。
【0012】
上記水性エマルション塗料から得られる塗膜の水接触角は、65°以下であることが好ましい。
上記親水性塗膜の形成方法において、得られる親水性塗膜の水接触角は、30°以下であることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、上記親水性塗膜の形成方法によって得られる親水性塗膜を有する基材でもある。
上記基材が窯業サイディング材であることが好ましい。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の親水性塗膜の形成方法は、窯業サイディング材等の基材に適用することによって、形成直後から高い親水性を有する親水性塗膜を得ることができる方法である。このため、基材に対して、優れた耐汚染性能を付与することができる。
【0015】
本発明の親水性塗膜の形成方法においては、先ず、親水化処理用表面改質剤を含有する水性エマルション塗料を基材に塗装して乾燥する工程〔工程(I)〕を行うことによって塗膜を形成する。上記工程(I)によって得られる塗膜は、後述する特定の成分を含有する親水化処理剤を塗布するのに、充分な濡れ性を有するため、工程(II)において、工程(I)で形成される塗膜上に、上記親水化処理剤を均一に塗布することができる。従って、上記親水性塗膜の形成方法を適用することによって、形成直後から親水性が高く、長期間における耐汚染性能に優れた親水性塗膜を有する基材を得ることができる。
【0016】
上記親水性塗膜の形成方法は、先ず、親水化処理用表面改質剤を含有する水性エマルション塗料を基材上に塗装して乾燥する工程(I)を行うものである。
上記親水化処理用表面改質剤は、これを添加した水性エマルション塗料により形成される塗膜表面に、上記親水化処理剤を塗布するのに充分な濡れ性を付与する機能を有するものである。
【0017】
上記親水化処理用表面改質剤としては、上述の機能を有するものであれば特に限定されず、具体的なものとして、ポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケート、非還元性の二、三糖類にアルキレンオキサイドを重合させたものをイソシアネートで結合した化合物、有機シリケートを挙げることができる。
【0018】
上記親水化処理用表面改質剤として、ポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケートを用いる場合には、この化合物がアルキレンオキサイドユニットとシリケートユニットとを有しており、水性エマルションが融着して得られた塗膜の表面にこれらが存在することとなるため、工程(II)において、親水化処理剤を均一に塗布可能な表面状態を形成することができると推察される。
【0019】
上記ポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケートにおいて、ポリアルキレンオキサイドとしては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド等を挙げることができる。なかでも、工程(II)で使用する親水性処理剤の塗布に対する濡れ性に優れた塗膜を得ることができる点から、ポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0020】
上記ポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケートが有するアルコキシシリル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基等を挙げることができる。なかでも、工程(II)で使用する親水性処理剤の塗布に対する濡れ性に優れた塗膜を得ることができる点及び入手が容易な点から、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0021】
上記ポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケートは、有機シリケートと、例えば、ポリアルキレンオキサイド部分、すなわちアルキレンオキサイドユニットを有する化合物とのエステル交換反応で得る方法で得ることができる。
【0022】
上記有機シリケートは、炭素数1〜8のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン及びその縮合物、並びにこの縮合物をポリアルキレンオキサイド以外で変性したものである。
上記炭素数1〜8のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラヘキシルオキシシラン、テトラオクチルオキシシラン等を挙げることができる。また、これらの縮合物の中では、テトラメトキシシランの縮合物及びテトラエトキシシランの縮合物が、それぞれ、三菱化学からMKCシリケートMSシリーズとして、及びコルコート社からエチルシリケートシリーズとして市販されている。上記テトラアルコキシシラン及びその縮合物が有するアルコキシ基の種類としては、反応性の観点から、炭素数1〜4のものが好ましく、炭素数1又は2のものが特に好ましい。なお、縮合物の好ましい縮合度は、5〜50である。
【0023】
一方、上記縮合物をポリアルキレンオキサイド以外で変性したものとしては、縮合物のアルコキシ基をアルコールで置換したもの及びポリマー変性したものが挙げられる。上記縮合物のアルコキシ基のアルコールによる置換は、用いるアルコールがモノアルコールかジオールかによって、変性の目的が異なる。すなわち、モノアルコールである場合には、上記縮合物が有するアルコキシ基を上記モノアルコールが有するアルコキシ基に置換することにより、有機シリケート化合物の加水分解性や塗料及び/又は塗膜中での相溶性をそれぞれ制御することを変性の目的とする。
【0024】
これに対し、用いるアルコールがジオールである場合には、ジオール1分子と上記縮合物2分子との間で、縮合物のアルコキシ基とジオールの水酸基とが反応することで、上記縮合物2分子がジオールによって繋がれた変性物が得られる。このように、また、更にこの反応を繰りかえすことで、調整が困難である縮合を行わずに、また、反応性が低く、かさ高いアルコキシ基を用いたりしなくても、有機シリケート化合物の分子量を増加させることができる。
【0025】
上記縮合物のアルコキシ基のモノアルコールによる置換を行う場合、上記縮合物1モルに対して、モノアルコールを1モル以上用いて交換反応を行うことにより得ることができる。なお、反応性の観点から、上記縮合物はテトラメトキシシラン及び/又はテトラエトキシシランの縮合物であることが好ましい。上記モノアルコールの量は目的とする置換基の数に合わせて、適宜増量することができる。上記反応は、例えば約150℃までの加熱条件下で行われることが好ましい。また、反応を進行させるため、系を減圧にして、生成したメタノール又はエタノールを系外に留去することが好ましい。反応はアルコールによる置換が所定量行われた時点で終了される。反応終了後、必要に応じて分離・精製を行って目的とするシリケート化合物を得ることができる。このようにして得られるシリケート化合物は、一般に無色〜薄黄色の油状物質である。なお、上記アルコールによる置換量の決定は、生成したメタノール又はエタノールの量のチェックや分析機器を用いることにより行われる。
上記モノアルコールとしては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、2−ブトキシエタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール等を用いることができる。
【0026】
一方、上記縮合物のアルコキシ基のジオールによる置換を行う場合、上記縮合物1モルに対して、ジオールを0.6モル倍量以下用いて交換反応を行うことにより得ることができる。0.6モル倍量を上回ると、ゲル化してしまうおそれがある。反応は、モノアルコールと同様にして行うことができるが、得られた生成物に対して、更に0.5モル倍量以下のジオールを加えて更に反応することもできる。このようにして得られた変性物は、上記ジオールが有する2つの水酸基からそれぞれ水素原子を除いたジオールユニットの両末端の酸素原子に、テトラアルコキシシランの縮合物からアルコキシ基を1つ除いたシリケートユニットがそれぞれ結合した構造を有しているが、更にシリケートユニットの少なくとも1つは、別の上記ジオールユニットを介して別の上記シリケートユニットが結合していてもよい。
【0027】
なお、上記縮合物のアルコキシ基のアルコールによる置換では、溶剤は特に使用しなくてもいいが、用いる場合には、上記縮合物とモノアルコールとの合計質量に対して10倍以下であることが好ましい。溶剤の具体例としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、THF及びジオキサン等のエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル類、ジメチルカーボネート、アセトニトリル等が挙げられる。
【0028】
上記交換反応においては触媒として、必要に応じて酸又は塩基を用いることができる。酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、スルホン酸等のブレンステッド酸や有機スズ化合物等のルイス酸が挙げられる。また塩基としては、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジアザビシクロ[2.2.2.]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0.]ウンデセン−7等の3級アミン等を使用することができる。
【0029】
もうひとつの上記縮合物のポリマー変性は、上記縮合物のアルコキシ基とポリオールの水酸基とを反応させることにより、有機シリケート化合物に樹脂部分を導入するものである。この変性は、通常、塗料又は塗膜成分との相溶性を調節するために行われるものである。なお、ここで変性される縮合物としては、先の縮合物だけでなく、これをアルコールで置換したものも含むものとする。
【0030】
上記ポリオールとしては、水酸基価が5〜300、数平均分子量が500〜20000であるアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂を挙げることができる。上記ポリマー変性における上記縮合物(アルコール置換物含む)/上記ポリオールの固形分質量比は0.1/1〜10/1とすることができる。反応自体は、先のモノアルコール置換の方法に基づき行うことができる。
【0031】
上記アルキレンオキサイドユニットを有する化合物としては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−プロピレングリコール、ポリオキシエチレン−テトラメチレングリコール、ポリオキシエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシエチレンジグリコール酸、ポリオキシエチレングリコールビニルエーテル、ポリオキシエチレングリコールアリルエーテル、ポリオキシエチレングリコールジアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記アルキレンオキサイドユニットを有する化合物の平均分子量は150〜2000であることが好ましい。
【0032】
上記エステル交換反応を行う際には、必要に応じ、触媒の使用が可能である。
上記触媒としては、エステル交換反応に対して触媒作用があることが知られているものを用いることができ、例えば、有機錫化合物、リン酸又はリン酸エステル類、エポキシ化合物とリン酸及び/又は酸性モノリン酸エステルとの付加物、有機金属化合物(有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物)、酸性化合物、アミン化合物、アルカリ性化合物等を挙げることができる。
【0033】
次に、上記非還元性の二、三糖類にアルキレンオキサイドを重合させたものをイソシアネートで結合させた化合物について説明する。上記非還元性の二、三糖類とは、二つ又は三つの単糖がともにヘミアセタール水酸基によって結合している糖類のことであり、例えば、蔗糖、トレハロース、ラフィノース、ゲンチアノース等を挙げることができる。なかでも、特に好ましいのは蔗糖であり、微粉末化した精製ザラメ糖又はグラニュー糖を挙げることができる。また、上記非還元性の二、三糖類に付加重合させるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドを挙げることができる。
【0034】
上記非還元性の二、三糖類へのアルキレンオキサイドの重合モル数は、15〜100であり、好ましくは20〜90である。15モル未満であると、ぬれ性が充分でないおそれがある。100モルを超えると、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。アルキレンオキサイドを複数種重合させる場合、その付加重合の順序は特に限定されず、また重合形式もブロック、ランダム何れでもよい。
【0035】
上記アルキレンオキサイドの付加に用いられる重合形式としてはアニオン重合、カチオン重合又は配位アニオン重合等を挙げることができる。これらの重合形式は、単独で用いられても、また重合度に応じて併用して用いられても構わない。また、触媒としては、アルカリ若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、アルコラート又は炭酸塩等及びトリアルキルアミン等、塩化第二錫、トリフッ化ホウ素等のルイス酸系触媒や鉱酸等、特開昭63−277236号公報に見られる複合金属シアノ錯体若しくは特公平5−14734号公報に見られる有機アルミニウムポルフィリン錯体等が用いられる。なかでも、水酸化カリウム、水酸化セシウム、トリメチルアミン等が好ましい。上記触媒の使用量は、重合終了時の化合物の質量に対して、0.05〜2.0質量%の範囲であり、好ましくは0.1〜1.0質量%である。
【0036】
上記付加重合反応は通常の条件下で行えばよく、例えば、温度は、80〜130℃、好ましくは90〜110℃である。重合中の最高圧力(ゲージ圧)は、0.8MPa、好ましくは0.5MPaである。また、反応に要する時間は、通常4〜12時間である。
【0037】
上記付加重合により得られる重合体からの触媒除去の方法としては、例えば、特公昭47−3745号公報に記載のように、酸性成分によりアルカリ性触媒を中和し、生じた塩を濾過除去する方法、特開昭53−123499号公報のアルカリ吸着剤を用いる方法、特公昭49−14359号公報の溶媒に溶解して水洗する方法、特開昭51−23211号公報のイオン交換樹脂を用いる方法、特公昭52−33000号公報のアルカリ性触媒を炭酸ガスで中和して、生じた炭酸塩を濾過する方法、各種有機酸、無機酸により中和する方法、又は、酸性触媒の場合はいったんアルカリ成分により弱アルカリ性とした後上記方法にて除去する場合等があるが、そのいずれを用いても差し支えない。
このようにして得られた重合体をイソシアネートで結合させる。そのため、ここで用いられるイソシアネートは2又は3官能であるものが好ましい。
【0038】
一方、上記親水化処理用表面改質剤として使用される有機シリケートは、親水化処理剤を均一に塗布させる成分として機能すればよく、塗膜そのものに親水性を付与する必要はない。上記有機シリケートとしては、先のポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケートのところで用いられる有機シリケートそのものであってよい。
【0039】
上記親水化処理用表面改質剤として、ポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケート又は非還元性の二、三糖類にアルキレンオキサイドを重合させたものをイソシアネートで結合した化合物を加えた水性エマルション塗料によって工程(I)で塗膜を形成し、工程(II)において、この塗膜上に後述する親水化処理剤を塗布することにより、水接触角が10度以下という極めて高い親水性を発現させることができる。これは、工程(I)で使用される、ポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケート又は非還元性の二、三糖類にアルキレンオキサイドを重合させた化合物と工程(II)で使用される特定の親水化処理剤との相乗効果によるものであると推察される。このことによって、より優れた耐汚染性能を有する親水性塗膜を得ることができる。
【0040】
上記水性エマルション塗料における水性エマルションとしては、例えば、アクリル樹脂系エマルション、アクリルシリコン樹脂系エマルション、フッ素樹脂系エマルション、ウレタン樹脂系エマルション等を挙げることができる。
【0041】
上記アクリル樹脂系エマルションとしては、例えば、アクリル系単量体と、アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるもの等を挙げることができる。
【0042】
上記アクリル系単量体としては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブロビル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド含有(メタ)アクリル系単量体;アクリロニトリル等のニトリル基含有(メタ)アクリル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル系単量体等を挙げることができる。なお、本明細書における(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの両方を意味する。
【0043】
上記アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族炭化水素系ビニル単量体;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸含有ビニル単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン等の塩素含有単量体;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル等の水酸基含有アルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテルジエチレングリコールモノアリルエーテル等のアルキレングリコールモノアリルエーテル類;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等のアリルエーテル等を挙げることができる。上記アクリル樹脂系エマルションは、耐久性、光沢の高さ、コスト面、樹脂設計の自由度の高さ等の点で有利である。
【0044】
上記アクリルシリコン樹脂系エマルションとしては、例えば、珪素含有アクリル系単量体と、珪素含有アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるもの等を挙げることができる。
【0045】
上記珪素含有アクリル系単量体としては特に限定されず、例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の加水分解性シリル基含有ビニル系単量体等を挙げることができる。
【0046】
上記珪素含有アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、上述のアクリル樹脂系エマルションで使用されるアクリル系単量体やアクリル系単量体と共重合可能な他の単量体等を特に限定されず使用できる。上記アクリルシリコン樹脂系エマルションは、耐候性、耐黄変性、耐久性、耐薬品性、耐汚染性等の点で有利である。
【0047】
上記フッ素樹脂系エマルションとしては、例えば、フッ素含有単量体と、フッ素含有単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるもの等を挙げることができる。
【0048】
上記フッ素含有単量体としては特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のフルオロオレフィン;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロへキシル(メタ)アクリレート等のフッ素含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0049】
上記フッ素含有単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、上述のアクリル樹脂系エマルションで使用されるアクリル系単量体やアクリル系単量体と共重合可能な他の単量体等を特に限定されず使用できる。上記フッ素樹脂系エマルションを用いた場合は、耐候性、耐黄変性、耐久性、耐薬品性、耐汚染性等が有利である。
【0050】
上記ウレタン樹脂系エマルションとは、塗膜形成後の塗膜中にウレタン結合を持つようになるエマルションを総称する。即ち、塗膜形成前からウレタン結合を有するものでもよいし、塗膜形成後の反応によりウレタン架橋を形成するものでもよい。エマルションの形態としては、1液型でもよいし2液型であってもよい。
【0051】
上記1液型としては、ウレタン結合を有する重合性単量体を他の共重合可能な単量体と共重合する方法、ウレタン結合を有する水性樹脂の存在下に重合性不飽和単量体を重合する方法、反応基を有する水性ウレタン樹脂と、上記反応基と反応することのできる基を含むエマルションとを混合する方法等を挙げることができる。上記2液型としては、水分敵性イソシアネートと水酸基含有エマルションとの組み合わせ等を挙げることができる。上記ウレタン樹脂系エマルションを用いた場合は、耐久性、耐溶剤性、耐薬品性、耐汚染性等が有利である。
【0052】
上記水性エマルションとしては、例えば、上述した水酸基とイソシアネート化合物とによる架橋反応以外に、カルボニル基とヒドラジド基、カルボン酸と金属イオン、エポキシ基とアミン、エポキシ基とカルボキシル基、カルボン酸とアジリジン、カルボン酸とカルボジイミド、カルボン酸とオキサゾリン、アセトアセテートとケチミン等を利用した架橋反応を形成するエマルション(架橋反応型エマルション)を使用することも可能である。上記架橋反応型エマルションは、1液タイプであっても、2成分以上の多成分タイプであってもよい。上記架橋反応型エマルションは、耐久性、耐溶剤性、耐薬品性、耐汚染性等の点で有利である。
【0053】
上記水性エマルションの製造方法としては特に限定されず、例えば、乳化重合法として、バッチ重合、モノマー滴下重合、乳化モノマー滴下重合等の方法により製造することができる。重合に用いる乳化剤は、一般に使用されるものであれば特に限定されず、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性、ノニオン−カチオン性、ノニオン−アニオン性のものを単独又は併用して使用することができる。また、耐水性の向上を目的として反応性基をもった乳化剤も使用することができる。
【0054】
重合開始剤としては、合成エマルションの製造において使用される公知のラジカル開始剤を限定されず使用することができ、過硫酸アンモニウム塩等の過硫酸塩、過酸化水素と亜硫酸水素ナトリウム等との組み合わせからなるレドックス開始剤、第一鉄塩、硝酸銀等の無機系開始剤を混合させた系、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタール酸パーオキシド等の二塩基酸過酸化物、アゾビスブチロニトリル等の有機系開始剤等を挙げることができる。
【0055】
上記重合開始剤の使用量は、単量体100質量部に対して通常0.01〜5質量部で使用できる。その他、乳化物のpH調整のため炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム等の無機塩及びトリエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基類を添加することができる。
【0056】
上記水性エマルション塗料において、上記親水化処理用表面改質剤の含有量は、塗料中の樹脂固形分の質量に対して、1〜10質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、添加することによる効果が見られないおそれがある。10質量%を超えると、経済的に不利となるおそれがある。
【0057】
上記水性エマルション塗料には、必要に応じて硬化触媒を添加することができる。上記硬化触媒の添加量は、水性エマルション塗料中の樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部が好適である。0.1質量部未満であると、反応速度が遅くなるため、結果として硬化塗膜の低汚染性の効果が低下するおそれがある。10質量部を超えると、塗膜の外観と耐久性とが低下するおそれがある。
【0058】
上記水性エマルション塗料には、必要に応じて通常塗料に用いられる造膜助剤、無機系着色顔料、有機系着色顔料、体質顔料等が配合可能である。顔料を含む場合、その体積顔料濃度は、25%以下であることが好ましい。25%を超えると、塗料の安定性に劣るおそれがある。なお、下限値については、カラークリアと呼ばれる微量の着色顔料を含む場合があるので特に規定されない。工程(I)で体積顔料濃度が高いエナメルタイプの水性エマルション塗料を用いる場合に、より高い親水性を発現させることができるため、より優れた耐汚染性能を付与することができる。
【0059】
上記水性エマルション塗料には、また、本発明に影響しない程度の可塑剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤を単独又は併用して配合することができる。
【0060】
上記工程(I)において、上記水性エマルション塗料の塗装方法としては、種々の方法が適用可能である。基材が建築物や土木構造物の筐体である場合、ハケ塗り、スプレー塗装、ローラー塗装が適用され、サイディングボードや押出成形板のような建材である場合には、ロールコーター、フローコーター等の自動塗装機を使用することができる。
【0061】
上記工程(I)においては、塗装後、常温乾燥又は110℃程度の熱風による強制乾燥が行われる。工場において自動塗装機によりラインで塗装が行われる場合には、強制乾燥が好ましい。この乾燥は、塗膜中に水分が完全に残存しなくなるまで行ってもよいが、次に親水化処理剤を塗布しても、塗膜表面が著しく変化しない状態になるまで行われることが好ましい、これは、指触により乾燥していることが確認できる程度である。また、工程(I)の終了後、数日放置しておき乾燥することもできる。
【0062】
上記工程(I)を行うことにより形成された塗膜の水接触角は、65°以下であることが好ましい。65°以下であることより、本発明により得られる親水性塗膜に高い親水性を付与することができる。より好ましくは、50°以下である。
【0063】
上記水性エマルション塗料の乾燥膜厚は、特に規定されるものでなく、例えば、10〜40μmとすることができる。
【0064】
上記親水性塗膜の形成方法は、上記工程(I)を行った後、上記工程(I)によって形成された塗膜上に、シリケート化合物の加水分解体(A)、HLB値が10〜15であるアルキレンオキサイドユニットを有するノニオン系界面活性剤(B)、水(C)及び親水性有機溶剤(D)を含有する親水化処理剤を塗布する工程(II)を行うものである。
上記シリケート化合物は、先の親水化処理用表面改質剤における有機シリケートと重なるものが多い。しかし、本明細書においては、先の有機シリケートと区別する意味で、上記親水化処理剤に加水分解体として用いられるものをシリケート化合物と呼ぶことにする。
【0065】
上記シリケート化合物の加水分解体(A)を得るため、原料として用いられるシリケート化合物としては、平均縮合度が1〜30であるアルコキシシランの縮合物が好ましい。30を超えると、シリケート化合物の加水分解体(A)の粒子性が高くなり、塗膜が白濁する等、外観に不具合が生じるおそれがある。なお、平均縮合度が1であるものはアルコキシシランそのものである。シリケート化合物の加水分解体(A)を適度な粘度とする観点から、上記平均縮合度1〜25がより好ましく、5〜25が特に好ましい。
【0066】
上記シリケート化合物が有するアルコキシシリル基のアルキル基は、同一であっても異なっていてもよいが、置換基を有するか若しくは置換基を有しない炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましい。炭素数が8を超えると、加水分解性が低下するため好ましくない。炭素数1〜4のアルキル基が更に好ましく、炭素数1又は2のアルキル基が特に好ましい。最も好ましいものはメチル基である。
【0067】
上記置換基を有するか若しくは置換基を有しない炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、ネオアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の直鎖状又は分岐状のものを挙げることができる。これらの中で加水分解性の観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基が好ましい。より好ましくは、メチル基及びエチル基であり、特に好ましいのはメチル基である。上記アルキル基の置換基としては限定されず、例えば、クロロ、ブロモ等のハロゲン;メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基、シアノ基、ジメチルアミノ基等を挙げることができる。上記置換基を有する場合であっても、アルキル基の炭素数は1〜8であることが好ましい。
【0068】
上記アルコキシシリル基のアルキル基が置換基を有するか若しくは置換基を有しない炭素数1〜8のアルキル基であるシリケート化合物の具体例としては、メチルシリケートとも呼ばれるテトラメトキシシラン、エチルシリケートとも呼ばれるテトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラ−n−ペントキシシラン、テトラ−iso−ペントキシシラン、テトラネオペントキシシラン等が挙げられる。好ましくは、メチルシリケート及び/若しくはその縮合物、エチルシリケート及び/又はその縮合物であり、最も好ましいのがメチルシリケートである。
【0069】
上記メチルシリケートの縮合物としては、例えば、MKCシリケートMS51、MKCシリケートMS5、MKCシリケートMS60(いずれも三菱化学社製)等の市販品が挙げられる。上記エチルシリケートの縮合物としては、例えば、エチルシリケート28、エチルシリケート40、エチルシリケート48(いずれもコルコート社製)等の市販品が挙げられる。なお、上記シリケート化合物は、混合物であってもよい。
【0070】
上記加水分解は、上記シリケート化合物が有するアルコキシシリル基に対して当量以上の水と上記シリケート化合物とを反応させることにより得られる。反応は室温で進行し、触媒の存在する大過剰量の水中にシリケート化合物を添加して放置しておくことにより、上記シリケート化合物の加水分解体を得ることができる。また、必要に応じて加熱することにより、加水分解反応の進行を早めることも可能である。
【0071】
上記触媒としては、一般的に加水分解反応に用いられるものが使用できる。例えば、塩酸、酢酸、硝酸、ギ酸、硫酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸等の有機酸;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等のアルカリ触媒;有機金属;金属アルコキシド、例えばジブチルスズジラウリレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムモノブトキシイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)及びジルコニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)等の金属キレート化合物、ホウ素ブトキシド、ホウ酸等のホウ素化合物等を挙げることができる。加水分解で生成したシラノール基は、塩基性条件下で縮合反応が進行しやすいため、酸性のものを用いることが好ましい。上記触媒の量は特に限定されないが、通常、上記シリケート化合物に対して、0.1〜5質量%とすることができる。
【0072】
上記シリケート化合物の加水分解体(A)の製造において、上記シリケート化合物は、水に対する溶解性が充分でないため、効率的に加水分解反応を進行させるためには親水性有機溶剤を加えて、系を均一化することが好ましい。このような親水性有機溶剤としては、水に自由に混和するものが好ましく、例えば、アルコールとして、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等;グリコール誘導体として、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、メトキシプロパノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、テトラエチレングリコール等;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等を挙げることができる。上記親水性有機溶剤の添加量は、上記シリケート化合物が溶解する量以上であれば特に限定されない。上記親水性有機溶剤を用いる場合には、シリケート化合物を親水性有機溶剤に溶解させ、ここに加水分解触媒を加えた後、大過剰量の水を徐々に加えていく方法を取ることができる。
【0073】
上記シリケート化合物の加水分解体(A)の生成は、IRスペクトルを測定し、アルコキシシリル基に基づくピークが消失していることにより確認することができる。すなわち、上記シリケート化合物の加水分解体(A)は、上記シリケート化合物が有するアルコキシシリル基がシラノール基に加水分解された構造を有していると考えられる。このシラノール基を有していることで、塗布することによって親水性がすぐに発現するものと推察される。ただし、上記加水分解体(A)においては、上記シリケート化合物が有する全てのアルコキシシリル基がシラノール基に加水分解されていなくてもよい。このようにして得られるシリケート化合物の加水分解体(A)は、単離する際に、加水分解体間での縮合反応が進行してしまうおそれがあるため、加水分解を行って得られた溶液をそのまま使用することが好ましい。
【0074】
上記シリケート化合物の加水分解体(A)の親水化処理剤中における含有量は、上記加水分解前のシリケート化合物に換算して、0.05〜10質量%に相当する量が好ましい。0.05質量%未満であると、充分な親水性を付与することができないおそれがある。10質量%を超えると得られる膜の外観が低下するおそれがある。更に好ましくは、0.1〜5質量%であり、特に好ましくは0.1〜3質量%である。
【0075】
上記親水化処理剤に含まれるノニオン系界面活性剤(B)は、水の表面張力を低下させることにより、塗布手段に依らずに親水化処理剤の均一な塗布を可能にする。一方、カチオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤では、親水化処理剤の安定性が低下したり、均一な塗布ができなかったりする場合がある。
【0076】
上記ノニオン系界面活性剤(B)としては、親水性基としてアルキレンオキサイドユニットを有しているものが用いられる。このようなものとしてはポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル又はポリアルキレングリコールモノアルキルエステルが好ましい。上記ノニオン系界面活性剤(B)の親水性と疎水性とのバランスの指標であるHLBは、10〜15である。これらの範囲外では均一に塗布することができないおそれがある。なお、上記HLBは、アルキレンオキサイドユニット部の分子量をノニオン系界面活性剤全体の分子量で割った値を20倍して得られる値である。この値及びその求め方は、グリフィンの式として、当業者によく知られている。
【0077】
上記アルキレンオキサイドユニットの種類としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイドが挙げられ、この中で、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドが好ましい。また、上記アルキレンオキサイドユニットの繰返し数は7〜10であることが好ましい。また、アルキルエーテルのアルキル基の炭素数は8〜18であることが好ましい。
上記ノニオン系界面活性剤の具体例として、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル、ポリエチレングリコールモノオレイエート、ポリエチレングリコールモノデシルエーテル、ポリエチレングリコールモノオクチルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンモノデシルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンモノオレイルエーテルなどを挙げることができる。
【0078】
上記ノニオン系界面活性剤(B)の親水化処理剤中における含有量は、親水化処理剤中に含まれる水(C)100質量部に対して、0.001〜5質量部であることが好ましい。0.001質量部未満であると、目的とする効果が得られず、5質量部を超えても、それに見合う効果が得られず、かえって親水性膜に不具合が生じるおそれがある。また、塗膜性能に劣る場合がある。更に好ましい含有量は、0.01〜0.5質量部である。
【0079】
上記親水化処理剤は、溶剤として、水(C)及び親水性有機溶剤(D)を含んでいる。上記親水性有機溶剤(D)としては、先に挙げたものが使用できるが、早い揮発性を考慮すると、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを用いることが好ましく、揮発性を制御するためには、ブチルセロソルブやメトキシプロパノール等の使用が好ましい。水(C)と親水性有機溶剤(D)との質量比〔(C)/(D)〕は、特に限定されないが、例えば、5/95〜95/5とすることができる。
【0080】
上記親水化処理剤は、更に酸性コロイダルシリカ(E)を含有するものであることが好ましい。上記酸性コロイダルシリカ(E)は、通常のコロイダルシリカがナトリウム塩部分やアンモニウム塩部分を有しているために塩基性を示すのに対し、これらの部分をシラノール基化することにより、酸性を示すことを特徴としている。また、塩基性コロイダルシリカでは貯蔵安定性が悪化する。
上記酸性コロイダルシリカ(E)の平均粒子径は10〜20nmのものが一般的であり、これを好適に使用できるが、特に限定されるものではなく、上記範囲以外の、数nmのものや100nm程度のものも使用することができる。
上記酸性コロイダルシリカ(E)としては、水分散体及び水を有機溶剤に置換したものがある。日産化学工業社から市販されている水分散体として、スノーテックスOXS、スノーテックスOS、スノーテックスO、スノーテックスO−40、スノーテックスOL、スノーテックスOUP、スノーテックスPS−SO、スノーテックスPS−MO等を挙げることができる。一方、水分散体の水を有機溶剤に置換したものは、オルガノシリカゾルシリーズとして市販されているが、この中でアルコール等の親水性有機溶剤で置換したものが利用できる。
【0081】
上記親水化処理剤における、上記酸性コロイダルシリカ(E)の含有量は、上記(A)成分に対し、固形分で0.05〜300部であることが好ましい。0.05部未満だと目的とする効果が得られず、300部を超えても、それに見合う効果が得られず、かえって得られる膜に不具合が生じるおそれがある。なお、上記酸性コロイダルシリカ(E)の含有量は、先に示したシリケート化合物の加水分解体(A)の含有量以下(固形分)であることが更に好ましい。
【0082】
また、上記親水化処理剤は、更にシラノール基と相互作用可能な金属化合物(F)を含有するものであることが好ましい。先の酸性コロイダルシリカ(E)と合わせ、これら成分を含有することで上記親水化処理剤の貯蔵安定性を向上させることができる。
【0083】
上記シラノール基と相互作用可能な金属化合物(F)が有する金属としては、アルミニウム、チタニウム、又はジルコニウム等を挙げることができる。また、上記相互作用としては、キレート結合やイオン結合等が挙げられる。
具体的な化合物として、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムモノブトキシイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)等の金属キレート化合物が挙げられる。これらの中で入手が容易なことからアルミニウム化合物が好ましい。
これらの化合物は、先のシリケート化合物の加水分解体(A)についての説明で述べた加水分解触媒に含まれる。このため、上記加水分解体(A)を得るために上記化合物を使用し、得られた溶液をそのまま親水化処理剤として利用する場合には、上記シラノール基と相互作用可能な金属化合物(F)が親水化処理剤に含まれることになる。
【0084】
上記親水化処理剤中における、上記シラノール基と相互作用可能な金属化合物(F)の含有量は、上記成分(A)に対して0.5〜5質量%であることが好ましい。0.5質量%未満だと目的とする効果が得られず、5質量%を超えると均一な膜が得られないおそれがある。
【0085】
上記親水化処理剤は、先の各成分を混合することにより得られるが、水及び親水性有機溶剤の存在下で、上記シリケート化合物を加水分解反応することによって加水分解体(A)を得るとともに、上記それ以外の成分を加えることによっても得られる。ここで、「得るとともに加える」との表記は、上記加水分解反応の際に共存させること、上記加水分解反応終了後に加えること、及びそれらの両方を意味するものとする。
【0086】
この場合、上記ノニオン系界面活性剤(B)については、先に規定した所定量の全部を上記加水分解反応の際に共存させてもよいし、又は、上記加水分解反応終了後に加えてもよい。或いは、所定量を上記加水分解反応の前後に分けて加えることもできる。又、水(C)及び親水性有機溶剤(D)についても、これらを加水分解反応終了後に加えることにより、親水化処理剤を所定の濃度に調整することができる。
【0087】
一方、上記シラノール基と相互作用可能な金属化合物(F)は、先に述べたように、加水分解触媒として機能するものである。よって、上記シラノール基と相互作用可能な金属化合物(F)は、上記シリケート化合物の加水分解体(A)を得るための触媒として使用することにより、上記加水分解反応の際に共存させることができる。ただし、その量が多すぎるとかえって加水分解反応の進行に時間がかかるおそれがある。また、上記シラノール基と相互作用可能な金属化合物(F)を加水分解触媒として使用しなかった場合や加水分解触媒として使用したものの、その含有量として少ないと判断した場合には、加水分解反応終了後に必要量を加えることが可能である。
【0088】
また、上記酸性コロイダルシリカ(E)については、これが上記加水分解反応の際に関与することを避けるため、加水分解反応終了後に加えることが好ましい。なお、上記酸性コロイダルシリカ(E)が共存しても加水分解反応に影響を及ぼさないことが明確である場合には、上記酸性コロイダルシリカ(E)を加水分解反応の際に共存させても構わない。
【0089】
すなわち、上記親水化処理剤の製造は、水及び親水性有機溶剤の存在下で、上記シリケート化合物について、必要に応じ他の成分を共存させた状態で、まず加水分解反応を行う。こうして得られたものが、先の水性親水化処理剤における各成分を含むものであれば、これにより親水化処理剤が得られたと言える。また、上記加水分解により得られたものが、先に説明した親水化処理剤における各成分を含んでいない場合、又は各成分を含んでいるものの、更に好ましい量として規定された範囲の中で含有量の増加を希望する場合には、上記シリケート化合物の加水分解体(A)以外の、水(C)及び親水性有機溶剤(D)を含めた各成分を適宜量加えて各成分の量を調整することにより、親水化処理剤を得ることができる。
【0090】
本発明の水性親水化処理剤は、上記(A)〜(D)及び必要に応じて(E)、(F)成分からなるものであるが、その他の成分として、(E)、(F)以外の成分を全く含まないことを意味するものではない。すなわち、本発明の水性親水化処理剤の機能を阻害しない限り、他の成分として、樹脂成分、種々の添加剤、(A)、(B)、(E)、(F)成分由来の溶剤などを含むことができる。その場合、上記他の成分は、上記(A)、(B)、(E)、(F)成分の合計量の10質量%未満であることが好ましい。
【0091】
上記工程(II)は、上記工程(I)で得られた塗膜が指触感がなく、親水化処理剤を塗布しても、表面の溶解等の問題のない状態で塗装を行うことが好ましい。
【0092】
上記工程(II)において、上記親水化処理剤の塗布は、上記工程(I)における塗装と同様に行うことができるが、通常親水性化処理剤の固形分が低いため、それに適した、スプレー、ロールコーター、シャワーコーター等の利用が好ましい。また、塗布後の乾燥は、上記工程(I)における乾燥と同様に行う他、乾燥するまで室温で放置してもよい。
上記親水化処理剤の塗布は、工程(I)で得られた塗膜表面が、親水化処理剤で均一に被覆されていればよく、乾燥膜厚は特に規定されるものではない。
【0093】
上記親水性塗膜の形成方法を用いることにより得られる親水性塗膜の水接触角は、30°以下であることが好ましい。このような高い親水性塗膜は優れた耐汚染性を有している。上記親水性塗膜の水接触角は、10°以下であることがより好ましい。なお、上記工程(I)において、エナメル系塗料を用いる方がクリア系塗料を用いるよりも。水接触角が小さい親水性塗膜が得られる。
【0094】
上記親水性塗膜の形成方法は、例えば、金属、ガラス、磁器タイル、コンクリート、サイディングボード、押出成形板、プラスチック等の各種基材の表面仕上げに使用することができ、主に屋外に設置される建築物、土木構築物等の躯体の保護に使用することが好ましい。この際、上記親水化処理用表面改質剤を含有する水性エマルション塗料は、最終の仕上面に施されているものであり、基材に直接塗装することもできるし、何らかの下地処理等の表面処理を施した上に塗装することも可能である。
【0095】
なかでも、サイディングボード等のサイディング材に適用することが好ましい。上記サイディング材としては屋外に設置されるものであれば、特に限定されず、例えば、工場、住宅、物置、畜舎等の建物の外装に用いられるものを挙げることができる。
【0096】
上記親水性塗膜の形成方法によって得られる親水性塗膜を有する基材は、高い親水性を有する塗膜がその表面に形成されているため、優れた耐汚染性を有する。このような親水性塗膜を有する基材もまた、本発明の1つである。上記親水性塗膜を有する基材としては、より好適に適用することができる点で、窯業サイディング材であることが好ましい。上記サイディング基材は窯業系素材からなるものであり、例えば、JIS A 5422、JIS A 5430等に記載された窯業系材料、コンクリート、ガラス等を挙げることができる。なかでも、セメント系建材が好ましい。上記サイディング基材には下塗り塗膜が通常形成されている。
【0097】
本発明の親水性塗膜の形成方法は、上記水性エマルション塗料を用いる工程(I)と、上記親水化処理剤を塗布する工程(II)とからなるものであるため、形成直後から高い親水性を有する塗膜を得ることができ、その結果、優れた耐汚染性を付与することができる。
【発明の効果】
【0098】
本発明の親水性塗膜の形成方法は、上述した構成よりなるので、高い親水性を有する塗膜を得ることができ、優れた耐汚染性を基材に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0099】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0100】
製造例1 親水化処理用表面改質剤の製造
(ポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケート)
エチルシリケート40(コルコート社製、エチルシリケートの5分子縮合物)60.5部に、ポリエチレングリコールモノラウレート104部、トリエチルアミン0.33部を加え、100℃から140℃まで6時間かけて昇温した。エタノールの留出がなくなるまで加熱して、エチレンオキサイドで変性された有機シリケートを得た。なお、表中では「EO変性ES40」で示した。
(非還元性の二、三糖類にアルキレンオキサイドを重合させたものをイソシアネートで結合した化合物)
サンノプコ社製SN−1X3108(ショ糖のアルキレンオキサイド付加体をジイソシアネートで結合した化合物)を用いた。
(有機シリケート)
MKCシリケートMS−56(三菱化学社製、メチルシリケートの10分子縮合物)を用いた。
【0101】
製造例2 水性エマルション塗料の調製
水性アクリルエマルション(酸価8、数平均分子量約30万、樹脂固形分50質量%)をそのまま用いて、水性エマルションクリア塗料とした。また、この水性アクリルエマルション100部に、酸化チタン15部とアクリル系顔料分散剤1.5部とを分散して得られた顔料ペーストを加え、水性エマルションエナメル塗料を調製した。
この2種の水性エマルション塗料に、先の親水化処理用表面改質剤を表1に示した所定量加え、水性エマルション塗料を得た。
【0102】
製造例3 親水化処理剤の調製
MKCシリケートMS51(三菱化学社製、メチルシリケートの5分子縮合物)153部にアルミニウムトリス(アセチルアセトネート)10%メタノール溶液4.0部を加えて溶解させた。この混合液にポリエチレングリコールモノラウレート(HLB=14、アルキレンオキサイドの繰り返し数10)2.8部を加え、エタノール4100部に溶解させた。次いで、水5700部を徐々に加えて攪拌し、室温で一夜放置して、親水化処理剤Aを得た。更に、この親水化処理剤1500部に、メタノールシリカゾル(日産化学工業社製、メタノールに分散した酸性コロイダルシリカ、固形分30質量%)50部およびアルミニウムトリス(アセチルアセテート)10%メタノール溶液36部を加えて、親水化処理剤Bを得た。
【0103】
実施例1〜6及び比較例1〜7 親水化塗膜の形成方法
基材としての窯業建材試験用フレキ板に、日本ペイント社製ニッペウルトラシーラーIIIを乾燥膜厚が約30μmとなるように塗装して、100℃×10分加熱乾燥させた。このようにして下塗り塗膜が形成された基材に、製造例2で得られた水性エマルション塗料をそれぞれ約30μmとなるよう塗装して、ジェット乾燥機にて100℃で5分間、風速10m/秒の条件で乾燥させた。続いて、製造例3で得られた2種の親水化処理剤A及びBを塗装試験板に均一となるようスプレーでそれぞえ塗布した後、60℃で5分間乾燥した。このようにして得られた塗膜を以下の方法により評価した。その結果を表1及び2に示した。
【0104】
評価方法
(1)水性エマルション塗料の塗装・乾燥後の水接触角の測定
上記の水性エマルション塗料の塗装・乾燥後の水接触角を協和界面科学社製CA−A型接触角測定装置を用いて測定した。
(2)塗布・乾燥直後の水接触角の測定
上記で得られた試験板の水接触角を協和界面科学社製CA−A型接触角測定装置を用いて測定した。水接触角が40°以下のものが合格である。
(3)屋外曝露耐汚染性試験
JIS K5400 9.9に準拠して屋外曝露試験を行い、1ヶ月及び1年経過後に、水接触角及び初期塗膜との明度差(ΔL)を色差計により測定した。ΔLの絶対値が3以下のものが合格である。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
表1及び2から、実施例で得られた親水性塗膜は、乾燥直後、曝露1ヶ月後及び1年後の水接触角がいずれも40°以下であり、高い親水性を有するものであるとともに、初期塗膜との明度差(ΔL)の絶対値も3以下であり、形成直後から高い親水性を有し、耐汚染性に優れたものであることが明らかとなった。特に水性エマルション塗料がエナメル塗料である場合には、乾燥直後の親水性が10°以下という極めて小さい値を示すものであった。
これに対し、親水化処理用表面改質剤及び/又は親水化処理剤がない比較例では、いずれの場合も耐汚染性に優れた塗膜は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の親水性塗膜の形成方法は、建築用に使用する窯業サイディング基材等に好適に適用することができる方法であり、これにより得られる親水性塗膜を形成した窯業サイディング材は、種々の建築材料等として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水化処理用表面改質剤を含有する水性エマルション塗料を基材上に塗装して乾燥する工程(I)と、
前記工程(I)によって形成された塗膜上に、シリケート化合物の加水分解体(A)、HLB値が10〜15であるアルキレンオキサイドユニットを有するノニオン系界面活性剤(B)、水(C)及び親水性有機溶剤(D)を含有する親水化処理剤を塗布する工程(II)と
からなることを特徴とする親水性塗膜の形成方法。
【請求項2】
親水化処理用表面改質剤は、ポリアルキレンオキサイドで変性された有機シリケート、非還元性の二、三糖類にアルキレンオキサイドを重合させたものをイソシアネートで結合した化合物及び有機シリケートからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の親水性塗膜の形成方法。
【請求項3】
親水化処理剤において、ノニオン系界面活性剤(B)の含有量は、水(C)100質量部に対して、0.001〜5質量部である請求項1又は2記載の親水性塗膜の形成方法。
【請求項4】
親水化処理剤は、更に酸性コロイダルシリカ(E)を含有するものである請求項1、2又は3記載の親水性塗膜の形成方法。
【請求項5】
親水化処理剤は、更にシラノール基と相互作用可能な金属化合物(F)を含有するものである請求項1、2、3又は4記載の親水性塗膜の形成方法。
【請求項6】
水性エマルション塗料から得られる塗膜の水接触角は、65°以下である請求項1、2、3、4又は5記載の親水性塗膜の形成方法。
【請求項7】
得られる親水性塗膜の水接触角は、30°以下である請求項1、2、3、4、5又は6記載の親水性塗膜の形成方法。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の親水性塗膜の形成方法によって得られる親水性塗膜を有する基材。
【請求項9】
基材は、窯業サイディング材である請求項8記載の親水性塗膜を有する基材。



【公開番号】特開2006−51463(P2006−51463A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236142(P2004−236142)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】