親油性薬物送達ビヒクルおよびその使用方法
【課題】水性の環境中での安定性を増進し、そして所望の作用部位に対するこのような物質の有効な送達を可能にする、疎水性の生物活性物質のための改良された処方物を提供すること。
【解決手段】本発明は、個体に対する生物活性因子の送達のための組成物および方法を提供する。生物活性因子が局在化される脂質二重層の円周を取り囲む1つ以上の脂質結合性ポリペプチドを含む円盤形粒子中に、生物活性因子を含む送達ビヒクルが提供される。キメラの脂質結合性ポリペプチドもまた、提供され、そしてこのポリペプチドは、この送達粒子にさらなる機能的特性を追加するために使用され得る。脂質結合性ポリペプチド、脂質二重層、および生物活性因子を含有する生物活性因子送達粒子であって、この脂質二重層の内側は、疎水性領域を含み、そして、この生物活性因子は、この脂質二重層の疎水性領域と結合する、粒子が提供される。
【解決手段】本発明は、個体に対する生物活性因子の送達のための組成物および方法を提供する。生物活性因子が局在化される脂質二重層の円周を取り囲む1つ以上の脂質結合性ポリペプチドを含む円盤形粒子中に、生物活性因子を含む送達ビヒクルが提供される。キメラの脂質結合性ポリペプチドもまた、提供され、そしてこのポリペプチドは、この送達粒子にさらなる機能的特性を追加するために使用され得る。脂質結合性ポリペプチド、脂質二重層、および生物活性因子を含有する生物活性因子送達粒子であって、この脂質二重層の内側は、疎水性領域を含み、そして、この生物活性因子は、この脂質二重層の疎水性領域と結合する、粒子が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国仮特許出願番号60/447,508(2003年2月14日出願)および米国仮特許出願番号60/508,035(2003年10月1日出願)の利益を主張し、これらの両方の仮特許出願の開示は、その全体が、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(連邦政府の委託研究または委託開発に関する記載)
本発明は、アメリカ国立衛生研究所からの助成金番号HL65159によって援助される研究の間の一部をなす。政府は、本発明について、一定の権利を有し得る。
【0003】
(発明の分野)
本出願は、生物活性因子の送達のための、組成物および方法に関する。特に、本出願は、脂質結合性ポリペプチド、脂質二重層、および生物活性因子を含む生物活性因子送達粒子に関する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
生物活性物質(例えば、治療因子、ワクチン免疫原、および栄養分)は、多くの場合、純粋な形態で投与され得ないが、この生物活性物質の溶解性を向上させ、そしてそれを適切な形態で包んで、望ましくない副作用を最小限にしつつ最適の有益な効果を達成する、生体適合性処方物中に取り込まれる必要がある。生物活性因子の有効な送達は、多くの場合、体内での因子の短いクリアランス時間、作用部位に対する非効率的な標的化、またはその生物活性因子自体の性質(例えば、水性媒体に対する難溶性または疎水性)によって妨げられる。従って、多くの処方方法が、送達を改良するために開発され、その方法としては、徐放性処方物、エマルジョン、およびリポソームの調製物が挙げられる。
【0005】
リポソームによる薬学的送達システムが、記載されている。リポソームは、完全に閉じられており、包み込まれた(entrapped)水性の容積を含む球状の脂質二重層膜である。この脂質二重層は、疎水性の尾部領域および親水性の頭部領域を有する脂質で構成される、2つの脂質の単層を含む。この膜二重層の構造は、脂質分子の疎水性であり非極性の尾部が、この二重層の中心に向かって指向し、一方で親水性の頭部は、そのリポソームの内側および外側の両方にある水相に向かって指向するようなものである。リポソームの上記水性であり親水性のコア(core)領域は、溶解された生物活性物質を含有し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薬学的に有用な疎水性物質は、水性の環境に対して、不溶性であるかまたは難溶性であるので、薬学的に有用な疎水性物質の送達は、多くの場合、特に問題となる。医薬品として使用される疎水性化合物に関して、直接の注入は、不可能であるかまたは非常に問題となり得、これは、危険な状態(例えば、溶血、静脈炎、過敏症、器官不全、および/または死亡)を生じる。水性の環境中での安定性を増進し、そして所望の作用部位に対するこのような物質の有効な送達を可能にする、疎水性の生物活性物質のための改良された処方物についての必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、個体に対する生物活性因子の送達のための組成物および方法を提供する。
【0008】
1つの局面において、本発明は、生物活性因子送達粒子(脂質結合性ポリペプチド、疎水性領域を含む内側を有する脂質二重層およびこの脂質二重層の疎水性領域に結合する生物活性因子を含む)を提供する。生物活性因子送達粒子は、一般的に親水性のコアまたは水性のコアを含まない。
【0009】
生物活性因子送達粒子は、少なくとも1つの疎水性領域を含み、そして上記脂質二重層の疎水性の内側中に取り込まれるか、またはこの疎水性の内側と結合する、1つ以上の生物活性因子を含む。生物活性因子の疎水性領域は、一般的にその脂質二重層の内側にある疎水性表面(例えば、脂肪酸のアシル鎖)に結合する。1つの実施形態において、この生物活性因子は、アムホテリシンB(AmB)である。別の実施形態において、この生物活性因子は、カンプトテシンである。
【0010】
粒子は、代表的に円盤形であり、この粒子は、約7〜約29nmの範囲の直径を有する。
【0011】
生物活性因子送達粒子は、二重層を形成する脂質(例えば、リン脂質)を含む。いくつかの実施形態において、生物活性因子送達粒子は、二重層を形成する脂質および二重層を形成しない脂質の両方を含む。いくつかの実施形態において、生物活性因子送達粒子の上記脂質二重層は、リン脂質を含む。1つの実施形態において、送達粒子中に取り込まれるリン脂質としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)が挙げられる。1つの実施形態において、この脂質二重層は、DMPCおよびDMPGを7:3のモル比で含む。
【0012】
好ましい実施形態において、上記脂質結合性ポリペプチドは、アポリポタンパク質である。脂質結合性ポリペプチド(例えば、アポリポタンパク質分子)と上記脂質二重層との間の主な相互作用は、一般的に、両親媒性構造の疎水性表面の残基(例えば、脂質結合性ポリペプチドのα−へリックス)と外側表面上の脂質の脂肪酸のアシル鎖との間の、この粒子の周囲における疎水性相互作用である。本発明の粒子は、交換可能なアポリポタンパク質および/または交換不可能なアポリポタンパク質を含み得る。1つの実施形態において、この脂質結合性ポリペプチドは、アポリポタンパク質A−I(ApoA−I)である。
【0013】
いくつかの実施形態において、修飾されてこの粒子の安定性を増加する脂質結合性ポリペプチド分子(例えば、アポリポタンパク質分子)を含む粒子が提供される。1つの実施形態において、この修飾としては、分子内ジスルフィド結合および/または分子間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基の導入が挙げられる。
【0014】
別の実施形態において、1つ以上の結合された機能的部分、例えば、1つ以上の標的部分および/または1つ以上の、所望の生物学的活性(例えば、抗菌活性)を有する部分を有するキメラの脂質結合性ポリペプチド分子(例えば、キメラアポリポタンパク質分子)を含む粒子が、提供され、この所望の生物学的活性は、増大し得るか、または送達粒子中に取り込まれる生物活性因子の活性と共に相乗的に作用し得る。
【0015】
別の局面において、薬学的に受容可能なキャリア中に生物活性因子送達粒子を含む薬学的組成物が、提供される。生物活性因子を個体に投与するための方法もまた提供され、この方法は、薬学的に受容可能なキャリア中の生物活性因子送達粒子を含有する薬学的組成物をこの個体に対して投与する工程を包含する。いくつかの実施形態において、治療有効量の生物活性因子は、薬学的に受容可能なキャリア中に処理される。いくつかの実施形態において、投与は、非経口(例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、経粘膜、または鞘内)である。他の実施形態において、粒子は、エアロゾルとして投与される。いくつかの実施形態において、この生物活性因子は、徐放のために処方される。1つの実施形態において、方法は、個体において真菌感染を処置するために提供され、この方法は、本発明の生物活性因子送達粒子(多くの場合、治療有効量で薬学的に受容可能なキャリア中にある)中に取り込まれた抗真菌剤、例えば、AmBを投与する工程を包含する。別の実施形態において、方法は、個体において腫瘍を処置するために提供され、この方法は、本発明の生物活性因子送達粒子(多くの場合、治療有効量で薬学的に受容可能なキャリア中にある)中に取り込まれた抗腫瘍剤、例えば、カンプトテシンを投与する工程を包含する。1つの実施形態において、この生物活性因子送達粒子は、結合された血管作動性腸管ペプチドの標的部分を有する脂質結合性ポリペプチドを含み、そしてこの腫瘍は、乳房の腫瘍である。
【0016】
なおさらなる局面において、プロセスは、上記のような生物活性因子送達粒子を処方するために提供される。1つの実施形態において、この処方プロセスは、二重層を形成する脂質を含む混合物と生物活性因子とを接触させて、脂質小胞と生物活性因子との混合物を形成する工程、およびこの脂質小胞と生物活性因子との混合物と脂質結合性ポリペプチドとを接触させる工程を包含する。別の実施形態において、この処方プロセスは、生物活性因子(適切な溶媒中に溶解された)が添加される、先に形成された二重層を含む脂質小胞の分散物の形成を包含する。この手順のための生物活性因子を可溶化するための適切な溶媒としては、本発明の送達粒子中に取り込まれるべき生物活性因子を可溶化し得る、極性の特徴または親水性の特徴を有する溶媒が挙げられる。適切な溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルホルムアミドが挙げられるが、これらに限定されない。この小胞/生物活性因子混合物に対して、脂質結合性ポリペプチドが添加され、その後、インキュベートされるか、または超音波処理されるか、またはこの両方が行われる。1つの実施形態において、上記のプロセスのいずれかによって送達粒子中に取り込まれる生物活性因子は、アムホテリシンBである。1つの実施形態において、このアムホテリシンBは、DMSO中に可溶化される。別の実施形態において、この生物活性因子は、カンプトテシンである。1つの実施形態において、このカンプトテシンは、DMSO中に可溶化される。
【0017】
本発明は、上記のプロセスのいずれかによって調製された生物活性因子送達粒子、ならびに上記のプロセスのいずれかによって調製された粒子および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物を含む。
【0018】
別の局面において、本発明は、任意の上記生物活性因子送達粒子もしくは上記の薬学的組成物、または上記の方法のいずれかによって調製された送達粒子および/またはこの粒子を処方するための試薬、ならびに/あるいは生物活性因子を個体に対して投与するための方法に使用する指示書を備えるキットを提供する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
脂質結合性ポリペプチド、脂質二重層、および生物活性因子を含有する生物活性因子送達粒子であって、該脂質二重層の内側は、疎水性領域を含み、そして、該生物活性因子は、該脂質二重層の疎水性領域と結合する、粒子。
(項目2)
前記粒子は、親水性のコアを含まない、項目1に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目3)
上記粒子は、円盤形である、項目1または2に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目4)
前記円盤形粒子は、約7nm〜約29nmの直径を有する、項目1〜3のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目5)
前記生物活性因子は、少なくとも1つの疎水性領域を含む、項目1〜4のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目6)
前記生物活性因子の疎水性領域は、前記脂質二重層の内側において疎水性表面と結合する、項目1〜5のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目7)
前記生物活性因子は、アンホテリシンBである、項目1〜6のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目8)
前記生物活性因子は、カンプトテシンである、項目1〜6のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目9)
前記脂質結合性ポリペプチドは、アポリポタンパク質である、項目1〜8のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目10)
前記アポリポタンパク質は、交換可能なアポリポタンパク質である、項目9に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目11)
前記アポリポタンパク質は、ヒトアポリポタンパク質A−Iである、項目10に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目12)
前記アポリポタンパク質は、機能的部分を含むキメラアポリポタンパク質である、項目9に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目13)
前記機能的部分は、標的部分である、項目12に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目14)
前記機能的部分は、生物学的活性を含む、項目12に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目15)
前記アポリポタンパク質は、前記粒子の安定性を向上するために修飾されている、項目9に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目16)
前記修飾は、分子間ジスルフィド結合または分子内ジスルフィド結合を形成するシステイン残基の導入を包含する、項目15に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目17)
前記脂質二重層は、リン脂質を含む、項目1〜16のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目18)
前記リン脂質は、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)を含む、項目17に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目19)
個体に対して生物活性因子を送達するための薬学的組成物であって、該薬学的組成物は、項目1〜18のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子および薬学的に受容可能なキャリアを含有する、薬学的組成物。
(項目20)
前記組成物は、徐放のために処方される、項目19に記載の薬学的組成物。
(項目21)
個体に対して生物活性因子を投与するための方法であって、該方法は、該個体に対して項目19に記載の薬学的組成物を投与する工程を包含する、方法。
(項目22)
前記薬学的組成物は、治療有効量の前記生物活性因子を含有する、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記生物活性因子は、アンホテリシンBである、項目21または22に記載の方法。
(項目24)
前記生物活性因子は、カンプトテシンである、項目21または22に記載の方法。
(項目25)
投与は、非経口である、項目21〜24のいずれか1項に記載の方法。
(項目26)
前記非経口投与は、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経粘膜投与、および鞘内投与からなる群より選択される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記組成物は、エアロゾルとして投与され得る、項目21または22に記載の方法。
(項目28)
前記組成物は、徐放のために処方される、項目21または22に記載の方法。
(項目29)
個体において真菌感染を処置するための方法であって、該方法は、該個体に対して項目19に記載の薬学的組成物を投与する工程を包含し、前記生物活性因子は、抗真菌剤である、方法。
(項目30)
前記薬学的組成物は、治療有効量の前記抗真菌剤を含有する、項目29に記載の方法。
(項目31)
前記抗真菌剤は、アンホテリシンBである、項目29または項目30に記載の方法。
(項目32)
個体において腫瘍を処置するための方法であって、該方法は、該個体に対して項目19に記載の薬学的組成物を投与する工程を包含し、前記生物活性因子は、抗腫瘍剤である、方法。
(項目33)
前記薬学的組成物は、治療有効量の前記抗腫瘍剤を含有する、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記抗腫瘍剤は、カンプトテシンである、項目32または33に記載の方法。
(項目35)
前記脂質結合性ポリペプチドは、血管作動性腸管ペプチドを含み、そして前記腫瘍は、乳房の腫瘍である、項目32〜34のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
項目1に記載の生物活性因子送達粒子を処方するためのプロセスであって、該プロセスは、二重層を形成する脂質小胞と生物活性因子とを接触させて、二重層を形成する脂質小胞と生物活性因子との混合物を形成する工程、および該二重層を形成する脂質小胞と生物活性因子との混合物と脂質結合性ポリペプチドとを接触させる工程を包含する、プロセス。
(項目37)
項目1に記載の生物活性因子送達粒子を処方するためのプロセスであって、該プロセスは、以下の工程:
(a)脂質小胞の水性分散物を形成する工程であって、該脂質小胞は、二重層を形成する脂質を含む、工程;
(b)該脂質小胞の分散物に生物活性因子を添加して脂質小胞と生物活性因子との混合物を形成する工程;
(c)該脂質小胞と生物活性因子との混合物に脂質結合性ポリペプチドを添加して、脂質と生物活性因子と脂質結合性ポリペプチドとの混合物を形成する工程;および
(d)工程(c)において形成された該混合物をインキュベートする工程、
を包含する、プロセス。
(項目38)
項目37に記載の生物活性因子送達粒子を処方するためのプロセスであって、該プロセスは、前記工程(d)の混合物を超音波処理する工程をさらに包含する、プロセス。
(項目39)
前記生物活性因子は、前記二重層を形成する脂質小胞との接触前に、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に可溶化される、項目36に記載のプロセス。
(項目40)
前記生物活性因子は、前記脂質小胞の分散物への添加前に、DMSO中に可溶化される、項目37または38に記載のプロセス。
(項目41)
前記生物活性因子は、アンホテリシンBである、項目36〜項目40のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目42)
前記生物活性因子は、カンプトテシンである、項目36〜40のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目43)
項目36〜42のいずれか1項に記載のプロセスによって調製される、生物活性因子送達粒子。
(項目44)
項目43に記載の生物活性因子送達粒子、および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物。
(項目45)
項目19、20、または44のいずれか1項に記載の薬学的組成物、および個体に生物活性因子を投与するための方法において使用する教材を備える、キット。
(項目46)
前記真菌感染は、Candida albicansを含む、項目29〜32のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施例1のように調製された、生物活性因子を含まないApoA−I−リン脂質粒子の、250〜450nmにおけるUV/可視光吸収スペクトルを示す。
【図2】図2は、実施例1のように調製された、ApoA−I−リン脂質−AmB粒子の、250〜450nmにおけるUV/可視光吸収スペクトルを示す。
【図3】図3は、密度勾配超遠心分離後のApoA−I−リン脂質−AmB粒子についての、タンパク質濃度に対する画分の数のプロットを示す。粒子は、実施例2に記載されるように調製され、そしてKBrの添加によって1.3g/mlの密度に調整された。この溶液は、10℃にて275,000×gで5時間、不連続勾配(discontinuous gradient)において遠心分離された。遠心分離後、このチューブの内容物は、最上部から分画され、そして決められたそれぞれの画分のタンパク質内容物に分画された。
【図4】図4は、ApoA−I−リン脂質粒子のネイティブなポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)分析(4〜20%のアクリルアミド勾配のスラブゲル上での)を示す。粒子は、ApoA−Iおよび2つの異なる脂質調製物(DMPC/DMPGまたはパルミトイルオレイルホスファチジルコリン(POPC))によって調製された。このゲルは、Coomassie Blueによって染色された。レーン1:ApoA−I POPC粒子;レーン2:ApoA−I−POPC−AmB粒子;レーン3:ApoA−I−DMPC/DMPG−AmB粒子。大きさの基準の相対的移動は、左側に示される。
【図5】図5は、アポリポタンパク質EのN末端ドメイン(ApoE3NT)−DMPC/DMPG−AmB粒子の大きさおよび構造的な完全性に対する、異なる保存条件の影響の比較を示す。粒子は、密度超遠心分離によって単離され、次いでネイティブなPAGE(4〜20%勾配のスラブゲルによる)上での電気泳動に供された。このゲルは、Amido Blackによって染色された。レーン1:リン酸緩衝液中に4℃にて24時間保存された粒子;レーン2:リン酸緩衝液中に−20℃にて24時間保存された粒子;レーン3:凍結乾燥されそして−80℃にて24時間凍結され、次いでH2O中に再溶解された粒子。大きさの基準の相対的移動は、左側に示される。
【図6】図6は、生物活性因子送達粒子の、形および分子機構を模式的に示す。
【図7】図7は、キメラの脂質結合性ポリペプチドおよびそれらの生物活性因子送達粒子中への取り込みを、模式的に示す。このキメラタンパク質は、標的部分(図7A)または所望される生物学的活性を有する部分(図7B)を含み得る。図7Cは、図7Aおよび図7Bに示されるキメラポリペプチドの、生物活性因子送達粒子中への取り込みを、模式的に示す。
【図8】図8は、実施例2に記載されるような、培養液中のSaccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)に対するAmBを含む生物活性送達粒子の抗真菌活性を、グラフで示す。
【図9】図9は、実施例10に記載されるように調製されたAmBを含む生物活性送達粒子の凍結割段による電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、実施例8に記載されるような、ApoA−I−DMPC/DMPG−AmB粒子とAmBisome(登録商標)との間の、S.cerevisiaeの成長を阻害する能力の比較を示す。
【図11】図11は、実施例9に記載されるような、SDS中に可溶化されたカンプトテシン(図11A)とカンプトテシンを含む生物活性因子送達粒子(図11B)との間の、蛍光スペクトルの比較を示す。
【図12】図12は、実施例7に記載されるように調製された脂質粒子中へのAmBの取り込み(図12A)および実施例6に記載されるように調製された生物活性因子送達粒子中へのAmBの取り込み(図12B)の、UV/可視光スペクトルの比較を示す。
【図13】図13は、生物活性因子送達粒子の調製手順の実施形態の説明図である。
【図14】図14は、実施例13に記載されるような、示された投薬量のAmBを含む生物活性因子送達粒子を投与されたマウスの体重の変化を示す。
【図15】図15は、実施例13に記載されるような、示された投薬量のAmBを含む生物活性因子送達粒子を投与されたマウス中の、尿素の血清レベル(図15A)、クレアチニンの血清レベル(図15B)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の血清レベル(図15C)、およびアラニンアミノトランスフェラーゼの血清レベル(図15D)を示す。
【図16】図16は、実施例14に記載されるような示された処置を施されたマウスの生存率を示す。AMB−ND:AmBを含む生物活性因子送達粒子;AmB:AmBisome;FLCZ:フルコナゾール;ND:AmBを含まない円盤粒子。
【図17】図17は、図14に記載されるような指示された処置を施されたマウスの体重の変化を示す。AMB−ND:AmBを含む生物活性因子送達粒子;AmB:AmBisome;FLCZ:フルコナゾール;ND:AmBを含まない円盤粒子。
【図18】図18は、図14に記載されるような指示された処置を施されたマウス中の組織に対する真菌負荷を示す。AMB−ND:AmBを含む生物活性因子送達粒子;AmB:AmBisome;FLCZ:フルコナゾール;ND:AmBを含まない円盤粒子。
【図19】図19は、AmBのリン脂質小胞の光散乱強度に対するアポリポタンパク質A−Iの影響を示す。200マイクログラムのリン脂質(DMPCおよびDMPG(7:3のモル比)ならびに50マイクログラムのAmBは、20mMのリン酸ナトリウム(pH7.4)中に、ボルテックスすることによって分散され、そしてアポリポタンパク質の、存在下および非存在下で24℃にてインキュベートされた。試料の直角の光散乱強度は、Perkin−Elmer Model LS50bルミネセンス分光計において時間の関数として測定された。励起モノクロメーターおよび放射モノクロメーターは、4nmのスリット幅を備えて600nmに設定された。曲線A)AmBのリン脂質小胞調製物のみ。曲線B)80ミリグラムのアポリポタンパク質A−Iを加えたAmBのリン脂質小胞調製物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
本発明は、個体に対する生物活性因子の送達のための、組成物および方法を提供する。送達ビヒクルは、脂質結合性ポリペプチドおよび脂質二重層を含む粒子中に取り込まれた生物活性因子の形態で提供される。粒子の内側は、脂質分子の疎水性部分(例えば、脂質の脂肪酸のアシル鎖)を含む脂質二重層の疎水性領域を含み、対照的に、リポソームは、二重層の脂質の親水性表面に取り囲まれた完全に閉じられた水性の内側を含む。本発明の粒子の内側の疎水的な性質は、例えば、その二重層中の脂質分子間の相互作用によってか、またはその二重層のリーフレットの間の疎水性領域中への隔離によって、疎水性分子の取り込みを許容する。少なくとも1つの疎水性領域を含む生物活性因子は、この粒子の疎水性の内側中に取り込まれ得る。本明細書中で使用される場合、脂質二重層の疎水性領域中への生物活性因子の「取り込み」とは、この二重層の脂質分子の疎水性領域もしくは疎水性部分(例えば、二重層を形成する脂質の脂肪酸のアシル鎖)中への可溶化、またはその疎水性領域もしくは疎水性部分への結合、あるいはこの脂肪酸のアシル鎖との相互作用を呼ぶ。
上記粒子は、一般的に約7〜約29nmの範囲の直径を有する円盤形であり、この直径は、公知のストークス直径の基準(例えば、Blancheら、(1981)Biochim.Biophys.Acta.665(3):408−19に記載されるような)と比較して、ネイティブなポア(pore)を制限した勾配ゲル電気泳動によって決定された。いくつかの実施形態において、この粒子は、溶液中で安定であり、そして長期の保存のために凍結乾燥され、その後、水溶液中に再構成され得る。この脂質結合性ポリペプチド成分は、円板状の二重層の境界を規定し、この粒子に構造および安定性を提供する。
【0021】
キメラの脂質結合性ポリペプチド分子(例えば、アポリポタンパク質分子)もまた、提供され、そして本発明の送達粒子中に種々のさらなる機能的特性を取り込むために使用され得る。
【0022】
上記粒子は、個体に対して投与されて、この個体に生物活性因子を送達し得る。
【0023】
(生物活性因子送達粒子)
本発明は、「粒子」(また本明細書中で「送達粒子」または「生物活性因子送達粒子」と称される)を提供し、この粒子は、1つ以上の型の脂質結合性ポリペプチド、1つ以上の型の二重層を形成する脂質を含む脂質二重層、および1つ以上の生物活性因子を含む。いくつかの実施形態において、送達粒子はまた、1つ以上の型の二重層を形成しない脂質を含む。この粒子を含む組成物もまた、提供される。1つの実施形態において、送達粒子および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物が、提供される。
【0024】
粒子の内側は、疎水性領域(例えば、脂質の脂肪酸のアシル鎖で構成される)を含む。本発明の粒子は、代表的に、親水性のコアまたは水性のコアを含まない。この粒子は、上記脂質結合性ポリペプチドの、両親媒性の、α−へリックスおよび/またはβ−シートによって取り囲まれる、平らであり、円板状であり、ほぼ円形の脂質二重層を有するほぼ円盤形であり、その脂質結合性ポリペプチドは、この円盤の周縁のまわりの上記二重層の疎水性表面に結合する。本発明の円盤形の生物活性因子送達粒子の例示的な例は、図6に模式的に示される。
【0025】
代表的に、円盤形の送達粒子の直径は、約7〜約29nmであり、多くの場合、約10〜約25nmであり、多くの場合、約15〜約20nmである。「直径」は、上記円盤のほぼ円形形状の面の1つの直径を称する。
【0026】
(脂質結合性ポリペプチド)
本明細書中で使用される場合、「脂質結合性ポリペプチド」は、脂質表面と安定な相互作用を形成し、そして本発明の粒子の脂質二重層を安定化するために機能し得る、任意の、合成ペプチドもしくは合成タンパク質、または天然に存在するペプチドもしくは天然に存在するタンパク質を称する。粒子は、1つ以上の型の脂質結合性ポリペプチドを含み得る(すなわち、単一粒子中の脂質結合性ポリペプチドは、同一であってもよく、2以上の異なるポリペプチド配列で構成されてもよい)。この脂質結合性ポリペプチドは、この粒子の周縁を取り囲む。
【0027】
いくつかの実施形態において、本発明の送達粒子を生成するのに有用な脂質結合性ポリペプチドとしては、天然に存在するタンパク質、もしくはフラグメント、天然の改変体、アイソフォーム、アナログ、またはこれらのキメラ形態のアミノ酸配列を有するタンパク質、天然に存在しない配列を有するタンパク質が挙げられ、そして脂質に結合する特性を有する任意の長さのタンパク質またはペプチドは、公知のアポリポタンパク質と一致し、そしてそれは、天然の供給源から精製されても、組換え的(recombinantly)に生成されても、合成的に生成されてもよい。天然に存在するタンパク質のアナログが、使用され得る。脂質結合性ポリペプチドは、ペプチド結合が、代謝的分解に対してより耐性の構造に置換されるか、もしくは個々のアミノ酸が、類似の構造物に置換される1つ以上の非天然のアミノ酸(例えば、D−アミノ酸)、アミノ酸アナログ、またはペプチド模倣(peptidomimetic)構造物を含み得る。
【0028】
好ましい実施形態において、上記脂質結合性ポリペプチドは、アポリポタンパク質である。脂質二重層と結合して、円盤形粒子を形成し得る任意のアポリポタンパク質またはそれらのフラグメントもしくはそれらのそのアナログが、使用され得る。粒子は、交換可能なアポリポタンパク質分子、交換不可能なアポリポタンパク質分子、または交換可能なアポリポタンパク質分子と交換不可能なアポリポタンパク質分子との混合物を含み得る。
【0029】
アポリポタンパク質は、一般的にクラスAの両親媒性α−ヘリックス構造モチーフ(Segrestら、(1994)Adv.Protein Chem.45:303−369)、および/またはβ−シートモチーフを有する。アポリポタンパク質は、一般的に高い含量の、疎水性表面に結合する能力を有するα−ヘリックスの2次構造を含む。これらのタンパク質の特有の特徴は、特定の脂質二重層小胞と相互作用し、そして円盤形の複合体に変換する、それらの能力である(概説については、NarayanaswamiおよびRyan(2000)Biochimica et Biophysica Acta
1483:15−36を参照のこと)。脂質と接触する際、このタンパク質は、液体相互作用に適応するためにその構造を適合させる、コンフォメーションの変化を起こす。
【0030】
一般的に、このアポリポタンパク質と粒子中の脂質二重層との間の主要な相互作用は、アポリポタンパク質分子の両親媒性α−ヘリックスの疎水性の面上の残基と脂質の疎水性表面、例えば、リン脂質の脂肪酸のアシル鎖との間の、この生物活性因子送達粒子の周縁におけるこの二重層の端面における疎水性相互作用によるものである。アポリポタンパク質分子の両親媒性α−ヘリックスは、この粒子の周縁における脂質二重層の疎水性表面と接触する疎水性表面、およびこの粒子の外側に面し、そして粒子が水性媒体中に懸濁された場合にその水性の環境と接触する親水性表面の両方を含む。いくつかの実施形態において、アポリポタンパク質は、両親媒性β−シート構造を含み得、ここでこのβ−シートの疎水性残基は、上記円盤の周縁にて脂質の疎水性表面と相互作用する。
【0031】
生物活性因子送達粒子は、多くの場合、1粒子あたり約1分子〜約10分子の1つ以上の型のアポリポタンパク質を含む。粒子中のアポリポタンパク質に起因する両親媒性α−ヘリックスの量は、一般的に、上記円盤形脂質二重層の端面に位置する脂質分子の他の露出した疎水性表面(すなわち、上記粒子の周縁)を覆うのに十分である。アポリポタンパク質が、ヒトのアポリポタンパク質A−I(ApoA−I)であり、脂質二重層が、およびパルミトイルオレオイルホスファチジルコリンを含む1つの実施形態では、粒子は、約1分子のApoA−Iに対して約80分子のリン脂質の比で、2つのApoA−I分子を含む。
【0032】
本発明の送達粒子の形成に使用され得るアポリポタンパク質の例としては、ApoA−I、アポリポタンパク質E(ApoE)、およびアポリポタンパク質III(ApoIII)、アポリポタンパク質A−IV(ApoA−IV)、アポリポタンパク質A−V(ApoA−V)、アポリポタンパク質C−I(ApoC−I)、アポリポタンパク質C−II(ApoC−II)、アポリポタンパク質C−III(ApoC−III)、アポリポタンパク質D(ApoD)、アポリポタンパク質A−II(ApoA−II)、アポリポタンパク質B−100(ApoB−100)、アポリポタンパク質J(ApoJ)、アポリポタンパク質H(ApoH)、もしくはそれらのフラグメント、天然の改変体、アイソフォーム、アナログまたはキメラ形態が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記アポリポタンパク質は、ヒトApoA−Iである。他の実施形態において、上記アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質E3のC末端ドメインもしくはN末端ドメイン、またはそのアイソフォームである。いくつかの実施形態において、上記アポリポタンパク質は、合成的にかまたは組換え的に結合された機能的部分(例えば、このアポリポタンパク質に本来備わっていない、標的部分または生物学的活性を有する部分)を含む(例えば、図7を参照のこと)。
【0033】
いくつかの実施形態において、交換可能なアポリポタンパク質が、使用される。「交換可能なアポリポタンパク質」は、上記粒子の完全性を破壊せずに、脂質に対する結合親和力を有する別のタンパク質または別のペプチドによって、本発明の形成された円板状粒子から置換され得る。交換可能なアポリポタンパク質としては、脂質と安定な結合相互作用を形成し得る、合成もしくは天然のペプチドまたはタンパク質が挙げられる。12種を超える固有の交換可能なアポリポタンパク質が、脊椎動物および無脊椎動物の両方において同定されてきた(例えば、上述のNarayanaswamiおよびRyanを参照のこと)。
【0034】
いくつかの実施形態において、交換不可能なアポリポタンパク質が、使用される。本明細書中で使用される場合、「交換不可能なアポリポタンパク質」は、上記粒子の本来の構造を破壊せずに、脂質の表面と安定な相互作用を形成し、そして本発明の粒子のリン脂質二重層を安定化するために機能し得るが、この粒子の表面から除去され得ないタンパク質またはペプチドを称する。
【0035】
(生物活性因子)
上記送達粒子は、1つ以上の生物活性因子を含む。本明細書中で使用される場合、「生物活性因子」は、生物学的(治療的または診断的が挙げられる)活性を有する、任意の化合物または任意の組成物を称する。生物活性因子は、医療上の処置、診断、または予防に有用である薬学的因子、薬物、化合物または組成物であり得る。
【0036】
本明細書中に記載されるように送達粒子中に取り込まれる生物活性因子は、一般的に、脂質二重層の疎水性部分に結合し得るかまたはその中に組み込まれ得る、少なくとも1つの疎水性(例えば、親油性)領域を含む。いくつかの実施形態において、この生物活性因子の少なくとも1つの部分は、この送達粒子の内側中の脂質分子間に挿入される。本発明の送達粒子中に取り込まれ得る生物活性因子の例としては、抗生物質または抗菌(例えば、抗細菌、抗真菌、および抗ウイルス)剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍剤、ステロイド、ペプチド、タンパク質(例えば、細胞のレセプタータンパク質、酵素、ホルモン、神経伝達物質)、放射標識(例えば、放射性同位体、および放射性同位体で標識した化合物)、蛍光化合物、麻酔剤、生物活性脂質、抗癌剤、抗炎症剤、栄養分、抗原、農薬、殺虫剤、除草剤、または光ダイナミック療法に使用される感光剤が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、この生物活性因子は、抗真菌剤のAmBである。他の実施形態において、この生物活性因子は、カンプトテシン、オールtransレチノイン酸、アナマイシン(annamycin)、ニスタチン、パクリタキセル、ドセタキセル、またはエチオプルプリン(etiopurpurin)である。少なくとも1つの疎水性領域を含む生物活性因子は、当該分野において公知であり、そしてその生物活性因子としては、イブプロフェン、ジアゼパム、グリセオフルビン、シクロスポリン、コルチゾン、プロリューキン(proleukin)、エトポシド、タキサン、α−トコフェロール、ビタミンE、ビタミンA、およびリポ多糖類が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Kagkadisら、(1996)PDA J Pharm Sci Tech 50(5):317−323;Dardel(1976)Anaesth Scand 20:221−24;SweetanaおよびAkers(1996)PDA J Pharm Sci Tech 50(5):330−342;米国特許第6,458,373号を参照のこと。
【0037】
いくつかの実施形態において、本発明の送達粒子中に取り込まれた生物活性因子は、非ポリペプチドである。いくつかの実施形態において、個体に対する投与に関して、生物活性因子およびこの生物活性因子を含有する上記送達粒子は、個体に対して投与される場合、実質的に非免疫原性である。
【0038】
いくつかの実施形態において、本発明の送達粒子中に取り込まれ得る生物活性因子は、水性媒体中の上記生物活性因子の溶解性と比較して、改良された溶解性を示す。多くの場合、送達粒子中への処方は、この生物活性因子を含有する水性組成物の濁度の減少を生じる。このことは、多くの場合、送達粒子中への処方の際の、上記生物活性因子に関する変化した分光学的プロフィールに反映される。濁度の減少は、試料の光学密度の測定によって検出および/または定量化され得る。
【0039】
本発明は、脂質結合性ポリペプチド、脂質二重層、および生物活性因子を含む生物活性因子送達粒子を提供し、この脂質二重層の内側は、疎水性領域を含み、この生物活性因子は、この脂質二重層の疎水性領域と結合、そしてこの生物活性因子送達粒子は、水性媒体単独中の生物活性因子(すなわち、生物活性因子送達粒子中に処方されない)よりも、水性媒体に対してより大きい溶解性で、生物活性因子を含む。1つの実施形態において、AmBは、水性媒体中よりも送達粒子中において、より大きい水溶性を示す。別の実施形態において、カンプトテシンは、水性媒体中よりも送達粒子中において、より大きい水溶性を示す。
【0040】
本発明はまた、送達粒子中への生物活性因子の取り込みによって、送達粒子中への取り込みを伴わない水性媒体中よりも、より大きい溶解性を有する生物活性因子を含有する薬学的組成物を提供する。いくつかの実施形態において、上昇した溶解性は、遠心分離の際の沈殿物質の減少、減少した光散乱、および/または減少した固体物質を濾過する能力によって観察され得る。いくつかの実施形態において、生物活性因子の改良された溶解性は、送達粒子中への処方を伴わないか、または異なる処方物(例えば、水性処方物、リポソーム処方物、コロイド懸濁液、蝸牛状物(cochleate)、もしくはシクロデキストリンとの複合体)での投与で、可能および/あるいは有効であるよりも、より低い投薬量での生物活性因子の投与を可能にする。いくつかの実施形態において、生物活性因子の改良された溶解性は、哺乳動物の個体(例えば、ヒトの個体)のような個体に対して投与される場合、生物活性因子が、送達粒子中への処方を伴わないか、または異なる処方物(例えば、水性処方物、リポソーム処方物、コロイド懸濁液、蝸牛状物もしくはシクロデキストリンとの複合体)で投与される場合よりも、より低い毒性および/または改良された毒性プロフィールを生じる。いくつかの実施形態において、生物活性因子の上記改良された溶解性は、哺乳動物の個体(例えば、ヒトの個体)のような個体に対して投与される場合、生物活性因子が、送達粒子中への処方を伴わないか、または異なる処方物(例えば、水性処方物、リポソーム処方物、コロイド懸濁液、蝸牛状物、もしくはシクロデキストリンとの複合体で投与される場合よりも、より大きい有効性を生じる。
【0041】
(脂質二重層)
本発明の粒子は、脂質二重層を含み、この粒子は、一般的に、この粒子の内側から離れる方向を向く極性の頭部基、ならびに二重層を形成する脂質(単数または複数)および他の脂質成分(存在する場合)の疎水性部分を含む、この脂質二重層の疎水性領域を含む上記粒子の内側(すなわち、円形面の間の隙間)を含む円盤の円形の表面を有する。この二重層の端面における脂質分子の疎水性表面(生物活性因子送達粒子の円周の表面)は、上記で議論されるように、この粒子の脂質結合性ポリペプチドと接触する。粒子は、1つ以上の型の二重層を形成する脂質、または1つ以上の型の二重層を形成する脂質と1つ以上の型の二重層を形成しない脂質との混合物を含み得る。本明細書中で使用される場合、「脂質」は、有機溶媒に可溶であるかもしくは部分的に可溶であるか、または水相中に存在する場合、疎水的環境へと分離する、生物学的起源あるいは合成的起源の物質を称する。
【0042】
脂質結合性ポリペプチドと結合して円盤形構造を形成し得る任意の二重層を形成する脂質は、本発明によって使用され得る。本明細書中で使用される場合、「二重層を形成する脂質」とは、疎水性の内側および親水性の外側を有する脂質二重層を形成し得る脂質を称する。二重層を形成する脂質としては、リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、アルキルリン脂質、エーテル脂質、およびプラスマロゲンが挙げられるが、これらに限定されない。1つの型の二重層を形成する脂質が使用されても2つ以上の型の混合物が使用されてもよい。いくつかの実施形態において、この脂質二重層は、リン脂質を含む。適切なリン脂質の例としては、DMPC、DMPG、POPC、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、カルジオリピン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、卵黄ホスファチジルコリン(egg PC)、大豆のホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン、およびカチオン性のリン脂質が挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な二重層を形成する脂質の例としては、カチオン性の脂質、および糖脂質が挙げられる。1つの実施形態において、この粒子は、多くの場合、約7:3のモル比で、DMPCのリン脂質二重層およびDMPGのリン脂質二重層を含む。別の実施形態において、この粒子は、POPCのリン脂質二重層を含む。いくつかの実施形態において、二重層を形成する脂質の混合物が、少なくとも約1:100、約1:50、約1:20、約1:10、約1:5、約3:7、約1:2、または約1:1のいずれかのモル比で使用され得る。
【0043】
粒子はまた、二重層を形成しない脂質である脂質を含み得る。このような脂質としては、コレステロール、カルジオリピン、ホスファチジルエタノールアミン(この脂質は、特定の状況下で二重層を形成し得る)、オキシステロール、植物のステロール、エルゴステロール、シトステロール、カチオン性の脂質、セレブロシド、スフィンゴセリン、セラミド、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、トリアシルグリセロール、ガングリオシド、エーテル脂質、アルキルリン脂質、プラスマロゲン、プロスタグランジン、およびリゾリン脂質が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、送達粒子の調製に使用される脂質は、1つ以上の結合された機能的部分(例えば、標的部分、生物活性因子、または精製もしくは検出のためのタグ)を含み得る。
【0044】
(キメラの脂質結合性ポリペプチド)
本発明は、キメラの脂質結合性ポリペプチドを提供し、この脂質結合性ポリペプチドは、上記の送達粒子を調製するために使用され得る。キメラの脂質結合性ポリペプチドは、1つ以上の結合した「機能的部分」(例えば、1つ以上の標的部分、所望の生物学的活性を有する部分、精製を支援する親和性タグ、および/または特徴付けの研究もしくは局在性の研究のためのレポーター分子)を含み得る。生物学的活性を有する結合した部分は、上記送達粒子中に取り込まれる生物活性因子の生物学的活性によって、増大し得るかそして/または相乗効果を与えられ得る活性を有し得る。例えば、生物学的活性を有する部分は、抗菌(例えば、抗真菌、抗細菌、抗原生動物、静菌、静真菌、または抗ウイルス)活性を有し得る。1つの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドの結合された機能的部分は、上記脂質結合性ポリペプチドが生物活性因子送達粒子中に取り込まれる場合、脂質二重層の疎水性表面と接触しない。別の実施形態において、結合された機能的部分は、上記脂質結合性ポリペプチドが生物活性因子送達粒子中に取り込まれる場合、脂質二重層の疎水性表面と接触する。いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドの機能的部分は、天然のタンパク質に本来備わっているものである。いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドは、細胞表面のレセプターもしくは他の細胞表面の部分によって認識されるリガンドもしくは配列、またはそれらのレセプターもしくは他の細胞表面の部分と相互作用し得るリガンドまたは配列を含む。
【0045】
いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドは、キメラアポリポタンパク質である。1つの実施形態において、キメラアポリポタンパク質は、例えば、S.cerevisiaeのα−接合因子ペプチド、葉酸、トランスフェリン、またはラクトフェリンのようなネイティブなアポリポタンパク質に本来は備わっていない標的部分を含む。別の実施形態において、キメラアポリポタンパク質は、上記生物活性因子送達粒子中に取り込まれる生物活性因子(例えば、ヒスタチン−5、マゲイニンペプチド、メリチン、ディフェンシン、コリシン、N末端のラクトフェリンペプチド、エキノカンジン、ヘプシジン、バクテニシン(bactenicin)、またはシクロスポリンのような)の活性によって増大しそして/または相乗効果を与えられる所望の生物学的活性を有する部分を含む。1つの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドは、アポリポタンパク質に本来備わっている機能的部分を含み得る。アポリポタンパク質の本来備わっている機能的部分の1つの例は、ヒトApoEのアミノ酸130〜アミノ酸150によって、ほぼ形成される本来備わっている標的部分であり、この部分は、低密度リポタンパク質レセプターファミリーのメンバーによって認識されるレセプター結合領域を含む。アポリポタンパク質の本来備わっている機能的部分の他の例としては、低密度リポタンパク質レセプターと相互作用するApoB−100の領域およびスカベンジャーレセプターB1型と相互作用するApoA−Iの領域が挙げられる。他の実施形態において、機能的部分は、合成的または組換え的に付加されてキメラの脂質結合性ポリペプチドを生成し得る。
【0046】
本明細書中で使用される場合、「キメラの」は、分離して存在でき、そして一緒に結合されて、その構成分子の全ての所望の機能を有する単一分子を形成し得る2以上の分子を称する。このキメラ分子の構成分子は、化学的接合、またはこの構成分子が、全てポリペプチドまたはそのアナログであり、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、単一の連続的なポリペプチドを発現するように、組換え的に1つに融合され得ることによって合成的に結合され得る。このようなキメラ分子は、融合タンパク質と称される。「融合タンパク質」は、その構成分子が、全てポリペプチドであり、そしてこのキメラ分子が、連続的な単一鎖を形成するように、互いに結合される(融合される)キメラ分子である。種々の構成物は、互いに直接結合されてもよく、また1つ以上のリンカーを介して結合されてもよい。
【0047】
「リンカー」または「スペーサー」は、キメラ分子に関して本明細書中で使用される場合、上記キメラ分子の構成分子を連結するかまたは結合する任意の分子を称する。多くのリンカー分子が、市販されている(例えば、Pierce Chemical Company、Rockford Illinoisから)。適切なリンカーは、当業者に周知であり、そしてこのリンカーとしては、直鎖または分子鎖の炭素リンカー、複素環式炭素リンカー、またはペプチドリンカーが挙げられるが、これらに限定されない。このキメラ分子が、融合タンパク質である場合、このリンカーは、融合タンパク質を含むタンパク質を結合するペプチドであり得る。スペーサーは、一般的に、上記タンパク質を結合するか、もしくは任意の最小限の距離を維持する以外の特定の生物学的活性、またはそれらの間に他の空間的な関係を有さないが、ペプチドスペーサーの構成的アミノ酸は、折り畳み、正味電荷、または疎水性のような分子のいくつかの特性に影響するように選択され得る。
【0048】
いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチド(例えば、キメラアポリポタンパク質)は、この脂質結合性ポリペプチド分子と結合されるべき機能的部分とを、化学的に接合することによって調製される。分子を化学的に接合する手段は、当業者に周知である。このような手段は、結合されるべき部分の構造によって変わるが、これは、当業者にとって容易に確認可能である。
【0049】
ポリペプチドは、代表的に種々の官能基(例えば、カルボン酸(−COOH)、遊離型のアミノ(−NH2)基、またはスルフヒドリル(−SH)基を含み、これらは、上記機能的部分またはその部分をそこに結合するリンカー上の適切な官能基との反応に利用可能である。機能的部分は、N末端、C末端、またはアポリポタンパク質分子の内部残基(すなわち、N末端とC末端との間に介在する位置にある残基)上の官能基にて結合され得る。あるいは、このアポリポタンパク質および/またはタグ付けされる部分は、誘導体化されて、さらなる反応性官能基を曝し得るか、またはさらなる反応性官能基を結合し得る。
【0050】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドの機能的部分を含む脂質結合性ポリペプチド融合タンパク質は、組換え体発現系を使用して合成される。代表的に、これは、発現した場合に、2つのポリペプチドがフレーム内にあるように、この脂質結合性ポリペプチドおよびこの機能的部分をコードする核酸(例えば、DNA)配列を生成する工程、このDNAをプロモーターの制御下に配置する工程、宿主細胞中でタンパク質を発現させる工程、および発現したタンパク質を単離する工程を包含する。
【0051】
脂質結合性ポリペプチド配列および本明細書中に記載されるような機能的部分をコードする配列は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写ベースの増幅システム(TAS)または自己持続型配列複製システム(SSR)のようなインビトロの方法によって、クローニングされても増幅されてもよい。多種多様なクローニングの方法論およびインビトロの増幅の方法論は、当業者に周知である。インビトロの増幅方法によって当業者を導くのに十分な技術の例は、例えば、Mullisら、(1987)米国特許第4,683,202号;PCR Protocols A Guide to Methods and Applications(Innisら編)Academic Press Inc.San Diego,CA(1990)(Innis);Arnheim & Levinson(1990年10月1日)C&EN 36−47;The Journal Of NIH Research(1991)3:81−94;(Kwohら、(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173;Guatelliら、(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,1874;Lomellら、(1989)J.Clin.Chem.,35:1826;Landegrenら、(1988)Science,241:1077−1080;Van Brunt(1990)Biotechnology,8:291−294;WuおよびWallace,(1989)Gene,4:560;ならびにBarringerら、(1990)Gene,89:117に見出される。
【0052】
さらに、所望の融合タンパク質配列をコードするDNAは、当業者に周知の方法を使用して合成的に調製され得、これらの方法としては、例えば、Narangら、(1979)Meth.Enzymol.68:90−99のホスホトリエステル法、Brownら、(1979)Meth.Enzymol.68:109−151のホスホジエステル法、Beaucageら、(1981)Tetra.Lett.,22:1859−1862のジエチルホスホラミダイト法または米国特許第4,458,066号の固体支持体法のような方法による直接化学合成が挙げられる。
【0053】
キメラの脂質結合性ポリペプチド融合タンパク質をコードする核酸は、宿主細胞中の発現に適した形態の、組換え体発現ベクター中に取り込まれ得る。本明細書中で使用される場合、「発現ベクター」は、適切な宿主細胞中に導入される場合、転写され得、そしてポリペプチドへ翻訳され得る核酸である。このベクターはまた、プロモーター、エンハンサー、または他の発現制御要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)のような調節配列を含む。このような調節配列は、当業者に公知である(例えば、Goeddel(1990)Gene Expression Technology:Meth.Enzymol.185,Academic Press,San Diego,CA;BergerおよびKimmel,Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods in Enzymology 152 Academic Press,Ink.,San Diego,CA;Sambrookら、(1989)Molecular Cloning−A Laboratory Manual(第2版)第1巻〜第3巻、Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Press,NYなどを参照のこと)。
【0054】
いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドの生成のための組換え体発現ベクターは、プラスミドまたはコスミドである。他の実施形態において、この発現ベクターは、ウイルスの核酸中に導入された核酸によってコードされたタンパク質を発現し得るウイルス、またはその一部である。例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスが、使用され得る。発現ベクターは、バクテリオファージ(全てのDNAファージおよび全てのRNAファージ(例えば、コスミド)を含む)、または全ての真核細胞のウイルス(例えば、バキュロウイルスおよびレトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスおよび全ての1本鎖DNAウイルス、2本鎖DNAウイルス、および部分的2本鎖DNAウイルス、全ての+(positive)鎖RNAウイルスおよび−(negative)鎖RNAウイルス、および複製欠損レトロウイルス)に由来するウイルスベクターに由来し得る。発現ベクターの別の例は、酵母人工染色体(YAC)であり、これは、YACを小さい直鎖状染色体として複製し得るセントロメアおよび2つのテロメアの両方を含む。別の例は、細菌人工染色体(BAC)である。
【0055】
本発明のキメラの脂質結合性ポリペプチド融合タンパク質は、宿主細胞中で発現され得る。本明細書中で使用される場合、用語「宿主細胞」とは、上記のような、キメラのアポリポタンパク質融合タンパク質の生成のための組換え体発現ベクターが、発現のためにトランスフェクトされ得る、任意の細胞または任意の細胞株を称する。宿主細胞としては、単一の宿主細胞の子孫が挙げられ、この子孫は、自然突然変異、偶発的変異、または意図的変異に起因して、必ずしも元の親細胞と完全に同一(形態学または全ゲノムDNAの相補性において)ではあり得ない。宿主細胞としては、上記のような発現ベクターによってインビボで、トランスフェクトされた細胞、または形質転換された細胞が挙げられる。適切な宿主細胞としては、細菌細胞(例えば、E.coli)、真菌細胞(例えば、S.cerevisiae)、無脊椎動物細胞(例えば、SF9細胞のような昆虫細胞)、および哺乳動物細胞を含む脊椎動物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
キメラの脂質結合性ポリペプチド融合タンパク質をコードする発現ベクターは、標準的な技術を使用して宿主細胞中にトランスフェクトされ得る。「トランスフェクション」または「形質転換」とは、宿主細胞中への外因性のポリヌクレオチドの挿入を称する。この外因性のポリヌクレオチドは、例えば、プラスミドのような非一体化型のベクターとして維持され得るか、または代替的に、宿主細胞のゲノム中に一体化され得る。トランスフェクション技術の例としては、リン酸カルシウム共沈、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーションおよびマイクロインジェクションが挙げられるが、これらに限定されない。宿主細胞をトランスフェクトするための適切な方法は、Sambrookら、(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory pressおよび他の実験室の教科書に見出され得る。核酸はまた、レトロウイルスベクター(例えば、Ferryら、(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:8377−8381;およびKayら、(1992)Human Gene Therapy 3:641−647を参照のこと)、アデノウイルスベクター(例えば、Rosenfeld(1992)Cell 68:143−155;ならびにHerzおよびGerard(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:2812−2816を参照のこと)、レセプターを介したDNAの取り込み(例えば、WuおよびWu、(1988)J.Biol.Chem.263:14621;Wilsonら、(1992)J.Biol.Chem.267:963−967;および米国特許第5,166,320号を参照のこと)、DNAの直接注入(例えば、Acsadiら、(1991)Nature 332:815−818;およびWolffら、(1990)Science 247:1465−1468)または微粒子銃(particle bombardment)(遺伝子銃(biolistics))(例えば、Chengら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:4455−4459;およびZeleninら、(1993)FEBS Letts.315:29−32を参照のこと)を介するような、インビボにおける細胞中への核酸の導入に適した送達機構を介して、細胞中に輸送され得る。
【0057】
一旦発現されると、上記キメラの脂質結合性ポリペプチドは、当該分野において標準的な手順(アフィニティー精製、硫酸アンモニウム沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、またはゲル電気泳動が挙げられるが、これらに限定されない)によって精製され得る。
【0058】
いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドは、細胞を含まない発現システムを使用してか、または固体ペプチド合成を介して生成され得る。
【0059】
(修飾された脂質結合性ポリペプチド)
本発明のいくつかの実施形態において、このポリペプチドが、上記のような生物活性因子送達粒子中に取り込まれる場合、修飾が、この粒子の安定性を上昇させるか、または標的化能力を与えるように修飾された脂質結合性ポリペプチドが、提供される。いくつかの実施形態において、この修飾は、粒子の上記脂質結合性ポリペプチドが、粒子の円盤形構造またはコンフォメーションを安定化するのを可能にする。1つの実施形態において、この修飾としては、分子内ジスルフィド結合または分子間ジスルフィドの形成を可能にするアポリポタンパク質分子中へのシステイン残基の導入(例えば、部位特異的変異誘発による)が挙げられる。別の実施形態において、化学的架橋化剤が使用されて、アポリポタンパク質分子の間に分子間の連結が形成され、上記粒子の安定性を向上させる。分子間架橋は、この粒子からのアポリポタンパク質分子の解離を防ぐか、もしくは減少し、そして/またはこの粒子が、投与される個体内のアポリポタンパク質分子による置換を防ぐ。
【0060】
他の実施形態において、脂質結合性ポリペプチドは、細胞の表面レセプターに対する標的化能力もしくは細胞の表面レセプターによる認識を与える、1つ以上のアミノ酸残基の化学的な誘導体化、または部位特異的変異誘発のいずれかによって修飾される。
【0061】
(個体に対する生物活性因子の送達のための送達システム)
本発明は、個体に対する生物活性因子の送達のための送達システムを提供し、このシステムは、上記のような生物活性因子送達粒子およびキャリアを含み、必要に応じて薬学的に受容可能なキャリアを含む。いくつかの実施形態において、この送達システムは、有効量の上記生物活性因子を含む。
【0062】
本明細書中で使用される場合、「個体」は、生物活性因子を送達することが所望される、任意の原核生物または任意の真核生物を称する。いくつかの実施形態において、この個体は、細菌のような原核生物である。他の実施形態において、この個体は、真菌、植物、無脊椎動物(例えば、昆虫)、または脊椎動物のような真核生物である。いくつかの実施形態において、この個体は、ヒト、非ヒト霊長類、実験動物(例えば、マウスもしくはラット)、愛玩動物(例えば、ネコもしくはイヌ)、または家畜(例えば、ウマ、ヒツジ、ウシ、もしくはブタ)、トリ(すなわち、鳥類の個体)、または爬虫類(すなわち、爬虫類の個体)などの脊椎動物である。
【0063】
いくつかの実施形態において、送達粒子は、個体に対する投与に適したキャリア中に処方される。本明細書中で使用される場合、「キャリア」は、生物活性因子の投与を容易にする相対的に不活性な物質を称する。例えば、キャリアは、上記組成物に、形態または粘稠度を与え得るか、または希釈剤として作用し得る。「薬学的に受容可能なキャリア」は、生体適合性(すなわち、この宿主に対して有毒ではない)であり、そして薬理学的に有効な物質についての投与の特定の経路に適するキャリアを称する。適切な薬学的に受容可能なキャリアとしては、安定化剤、湿潤剤および乳化剤、容量オスモル濃度を変えるための塩、カプセル化剤、緩衝液、ならびに皮膚浸透促進剤が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に受容可能なキャリアの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Alfonso R.Gennaro,編、第18版、1990)に記載される。
【0064】
本明細書中で使用される場合、「有効量」は、所望の結果を達成するのに十分な、生物活性因子の量を称する。「治療有効量」または「治療用量」は、有益な臨床的結果(例えば、疾患の症状の軽減または緩和、真菌感染もしくは細菌感染の軽減または緩和などのような)を達成するのに十分な生物活性因子の量を称する。
【0065】
いくつかの実施形態において、上記送達システムは、生物活性因子送達粒子および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物である。いくつかの実施形態において、この薬学的組成物は、ポリペプチドではない生物活性因子および薬学的に受容可能なキャリアを含む生物活性因子送達粒子を含有する。いくつかの実施形態において、この生物活性因子送達粒子およびこの生物活性因子は、個体に対して投与される場合、非免疫原性である。免疫原性は、当該分野において周知の方法によって測定され得る。例えば、免疫原性は、ELISA法によって(例えば、生物活性因子送達粒子が、免疫吸着プレートに結合される当量の生物活性因子送達粒子に結合する抗体のために投与された個体由来の血清を精査することによって)評価され得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、本発明は、生物活性因子送達粒子を含有する薬学的組成物を提供し、この生物活性因子は、この送達粒子中への生物活性因子の取り込みによって、この送達粒子中への取り込みを伴わない水性媒体中の上記生物活性因子より、水性溶媒に対して、より大きい溶解度を示す。いくつかの実施形態において、本発明は、生物活性因子送達粒子を含有する薬学的組成物を提供し、この生物活性因子は、哺乳動物の個体(例えば、ヒトの個体)のような個体に対して投与される場合、生物活性因子送達粒子中への処方を伴わないか、または異なる処方物(例えば、水性処方物、リポソーム処方物)、コロイド懸濁液、蝸牛状物、もしくはシクロデキストリンとの複合体)で投与されるよりも、より低い毒性および/または改良された毒性プロフィールを示す。いくつかの実施形態において、本発明は、生物活性因子送達粒子を含有する薬学的組成物を提供し、この生物活性因子は、生物活性因子送達粒子中への処方を伴わないか、または異なる処方物(例えば、水性処方物、リポソーム処方物)、水性処方物、リポソーム処方物、コロイド懸濁液、蝸牛状物、もしくはシクロデキストリンとの複合体)で投与されるよりも、状態(例えば、細菌感染または真菌感染のような感染、疾患の状態、腫瘍など)の処置において改良された有効性を示す。いくつかの実施形態において、改良された溶解性、毒性プロフィール、および/または有効性を有する生物活性因子は、AmBである。別の実施形態において、改良された溶解性、毒性プロフィール、および/または有効性を有する生物活性因子は、カンプトテシンである。
【0067】
(使用方法)
本発明は、個体に対して生物活性因子を投与するための方法を提供する。本発明の方法は、脂質結合性ポリペプチド、脂質二重層、および生物活性因子を含む、上記のような送達粒子を投与する工程を包含し、この粒子の内側は、この脂質二重層の疎水性表面を含む。必要に応じて、治療有効量の上記粒子が、投与され、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリア中で、治療有効量の上記粒子が、投与される。一般的に、この粒子は、ネイティブなポアを制限した勾配ゲル電気泳動によって測定された場合、約7〜約29nmの直径を有する円盤形である。代表的に、この生物活性因子は、少なくとも1つの疎水性領域を含み、この疎水性領域は、上記脂質二重層の疎水性領域中に一体化され得る。
【0068】
投与の経路は、投与されるべき生物活性因子の性質、個体、処置されるべき状態によって変わり得る。個体が哺乳動物である場合、一般的に投与は、非経口的である。投与の経路としては、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、経粘膜、経鼻、鞘内、局所的、および経皮が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、この粒子は、エアロゾルとして投与される。送達粒子は、個体に対する投与のための薬学的に受容可能な形態(必要に応じて薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤中で)で処方され得る。本発明は、非経口投与ための溶液中の送達粒子の形態である薬学的組成物を提供する。このような組成物の調製に関して、当該分野において周知の方法が、使用され得、そして任意の薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、賦形剤、または当該分野で通常使用される他の添加剤が使用され得る。
【0069】
本発明の送達粒子は、適切な医療用キャリアまたは医療用希釈剤との組み合わせによって、薬学的組成物中に作製され得る。例えば、この送達粒子は、注射用溶液の調製に通常使用される溶媒(例えば、生理的食塩水、水、または水性デキストロース(のような))中に可溶化され得る。他の適切な薬学的キャリアおよびその処方物は、上述のRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載される。このような処方物は、送達粒子を含み、そして必要に応じて乾燥粉末形態または凍結乾燥された粉末形態の賦形剤を含む滅菌したバイアル中に構成され得る。使用前に、この生理学的に受容可能な希釈剤が添加され、そしてこの溶液は、個体に対する投与のために注射器によって採取される。
【0070】
送達粒子はまた、徐放のために処方され得る。本明細書中で使用される場合、「徐放」は、個体中の上記因子の血中濃度が、延長された持続時間(時間、日、週、またはそれより長い階級の期間にわたる)の間、治療域内に維持される速度での、処方物からの生物活性因子の放出を称する。送達粒子は、生体内分解性の制御用マトリックスまたは生体内非分解性の制御用マトリックス中に処方でき、多数のこれらのマトリックスが、当該分野において周知である。徐放用マトリックスとしては、合成ポリマーまたは合成コポリマー(例えば、ヒドロゲルの形態にある)が挙げられ得る。このようなポリマーの例としては、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ無水物、多糖類、ポリ(ホスホエステル)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ(イミドカーボネート)およびポリ(ホスファゼン)、ならびにポリ−ラクチド−コ−グリコリド(PLGA)、ポリ(乳酸)とポリ(グリコール酸)とのコポリマーが挙げられる。物質を含むコラーゲン、アルブミン、およびフィブリノゲンもまた、使用され得る。
【0071】
送達粒子は、本明細書中に記載される方法によって投与されて、多くの状態(細菌感染、真菌感染、疾患の状態、代謝障害が挙げられるが、これらに限定されない)を処置し得るか、または例えば細菌感染もしくは真菌感染を防ぐ予防的投薬法(例えば、手術前または手術後)として投与され得る。送達粒子は、例えば、抗腫瘍剤(例えば、化学療法剤、放射性核種)を腫瘍に送達するのに使用され得る。1つの実施形態において、この脂質結合性ポリペプチドは、特定の腫瘍に対して粒子を標的化する部分を含む。送達粒子はまた、栄養補助物質(すなわち、食品または健康の利益を提供する栄養補助食品)の投与のために使用され得る。いくつかの実施形態において、送達粒子は、他の通常療法と一緒に同時投与される(例えば、複数の薬物「カクテル」の一部として)か、または1つ以上の経口投与される因子(例えば、真菌感染の処置のための因子)との組み合わせで同時投与される。送達粒子はまた、殺虫剤または除草剤として投与され得る。
【0072】
1つの局面において、本発明はまた、個体において真菌感染を処置するための方法を提供する。本方法は、個体に対して薬学的に受容可能なキャリア中の治療有効量の抗真菌剤を投与する工程を包含し、この抗真菌剤は、脂質結合性ポリペプチドおよび脂質二重層を含む粒子中に取り込まれ、この脂質二重層の内側は、疎水性である。1つの実施形態において、この抗真菌剤は、AmBであり、これは、上記脂質二重層の疎水性の内側中に取り込まれる。いくつかの実施形態において、この脂質結合性ポリペプチドは、標的部分および/または生物学的活性を有する部分を含むキメラタンパク質である。1つの実施形態において、この脂質結合性ポリペプチドは、酵母のα−接合因子ペプチドのような標的部分を含む。別の実施形態において、この脂質結合性ポリペプチドは、抗微生物ペプチドであるヒスタチン5を含む。
【0073】
別の局面において、本発明は、個体において腫瘍を処置するための方法を提供する。本方法は、薬学的に受容可能なキャリア中にある上記のような生物活性因子送達粒子中の治療有効量の化学療法剤を投与する工程を包含する。1つの実施形態において、この化学療法剤は、カンプトテシンである。この送達粒子の脂質結合性ポリペプチド成分は、腫瘍細胞に対してこの粒子を標的化する標的部分を含み得る。1つの実施形態において、血管作動性腸管ペプチド(VIP)は、この脂質結合性ポリペプチドに結合される。乳癌細胞は、多くの場合、VIPレセプターを過剰発現するので、1つの実施形態において、カンプトテシンおよび脂質結合性ポリペプチド−VIPのキメラを含む生物活性因子送達粒子は、乳癌を処置するための方法に使用される。
【0074】
(標的化)
本発明の送達粒子は、標的化官能基(例えば、特定の細胞の型もしくは特定の組織の型、または感染性因子自体に対してこの粒子を標的化するための標的化官能基)を含み得る。いくつかの実施形態において、この粒子は、脂質結合性ポリペプチドまたは脂質成分に結合される標的部分を含む。いくつかの実施形態において、この粒子中に取り込まれるこの生物活性因子は、標的化能力を有する。
【0075】
いくつかの実施形態において、脂質結合性ポリペプチド(例えば、アポリポタンパク質分子)中にレセプターを認識する特性を操作することによって、上記粒子は、特定の細胞表面レセプターに対して標的化され得る。例えば、生物活性因子送達粒子は、この粒子の脂質結合性ポリペプチド成分を修飾して、それを標的化されるべき細胞型の表面上のレセプターと相互作用可能にすることによって特定の型の感染性因子を内部に有することが知られる特定の細胞型に対して標的化され得る。
【0076】
1つの局面において、レセプターを媒介した標的化の方法は、マクロファージに対して抗リーシュマニア属因子を送達するのに使用され得、このマクロファージは、リーシュマニア属による原生動物の寄生に対する感染の主要な部位である。このような種の例としては、Leishmania major、Leishmania donovani、およびLeishmania braziliensisが挙げられる。抗リーシュマニア因子を含む生物活性因子送達粒子は、この粒子の脂質結合性ポリペプチド成分を変化させて、マクロファージのエンドサイトーシスにおけるクラスAスカベンジャーレセプター(SR−A)による認識を与えることによって、マクロファージに対して標的化され得る。例えば、SR−Aと相互作用するように化学修飾または遺伝子改変されたアポリポタンパク質は、リーシュマニア種に対して有効である1つ以上の生物活性因子(例えば、AmB、5価アンチモン、および/またはヘキサデシルホスホコリンのような)を含む送達粒子中に取り込まれ得る。マクロファージに対して特異的な抗リーシュマニア因子を含む送達粒子の標的化は、リーシュマニア種の成長および増殖を阻害する手段として使用され得る。
【0077】
1つの実施形態において、AmBを含むSR−A標的化生物活性因子の送達粒子は、リーシュマニア感染に対する処置が必要な個体に投与される。別の実施形態において、ヘキサデシルホスホコリンのような別の抗リーシュマニア因子は、このAmB含有粒子による処置前、処置中、または処置後に投与される。
【0078】
いくつかの実施形態において、標的化は、上記生物活性因子送達粒子中に取り込まれるべき脂質結合性ポリペプチド(例えば、アポリポタンパク質)を修飾して、それによってこの粒子にSR−A結合能力を与えることによって達成される。いくつかの実施形態において、標的化は、1つ以上のリジン残基を、例えば、アルカリ性のpHにて、マロンジアルデヒド、無水マレイン酸、または無水酢酸で化学修飾することによって、この脂質結合性ポリペプチドの電荷密度を変化させること(例えば、Goldsteinら、(1979)Proc.Natl.Acad.Sci.98:241−260を参照のこと)によって達成される。1つの実施形態において、Apo B−100またはその短縮形態(例えば、ApoB−100のN末端の17%(apoB−17の残基1〜782))は、マロンジアルデヒドとの反応によって修飾される。他の実施形態において、アポリポタンパク質分子(例えば、本明細書中に記載されるアポリポタンパク質のいずれか)もまた、例えば、アセチル化またはマレイル化によって化学修飾され、そして抗リーシュマニア因子を含む生物活性因子送達粒子に組み込まれ得る。
【0079】
他の実施形態において、SR−A結合能力は、1つ以上の正に荷電したアミノ酸を中性のアミノ酸または負に荷電したアミノ酸で置換する部位特異的変異誘発によって、この脂質結合性ポリペプチドを修飾することによって送達粒子に与えられる。
【0080】
他の実施形態において、SR−Aによる認識は、SR−Aもしくは高濃度の負に荷電した残基を有するアミノ酸配列によって認識されるリガンドを有する、N末端の伸長またはC末端の伸長を含むキメラの脂質結合性ポリペプチドを調製することにより与えられる。負に荷電したポリペプチドの伸長は、この生物活性因子送達粒子の脂質表面に結合されず、従って、この粒子を、上記レセプターのリガンド結合部位に、より到達できるようにする。
【0081】
(生物活性因子送達粒子を調製するための方法)
本発明は、生物活性因子送達粒子を処方するための方法を提供する。1つの実施形態において、二重層を形成する脂質および生物活性因子分子を含む混合物に脂質結合性ポリペプチド分子を添加する工程を包含するプロセスが、提供される。
【0082】
いくつかの実施形態において、上記脂質−生物活性因子混合物はまた、界面活性剤(例えば、コール酸ナトリウム、コール酸、またはオクチルグルコシドのような)を含み、そしてこのプロセスは、上記脂質結合性ポリペプチドが添加された後に、この界面活性剤を除去する工程をさらに包含する。代表的に、この界面活性剤は、透析またはゲル濾過によって除去される。1つの実施形態において、このプロセスは、二重層を形成する脂質と生物活性因子分子を溶媒中で組み合わせて生物活性因子混合物を形成する工程、この混合物を乾燥(例えば、N2の流れの下および/または凍結乾燥によって)して溶媒を除去する工程、この乾燥した混合物を、界面活性剤を含む溶液と接触させて脂質−生物活性因子−界面活性剤混合物を形成する工程、この混合物に脂質結合性ポリペプチド分子を添加する工程、次いでこの界面活性剤を除去する工程を包含する。
【0083】
いくつかの実施形態において、上記粒子は、マイクロフルイダイザー(microfluidizer)プロセッサーを使用して調製される。この手順は、反応チャンバー中で上記成分を一緒に加圧する、高圧を利用する。
【0084】
いくつかの実施形態において、上記粒子は、脂質結合性ポリペプチド(例えば、アポリポタンパク質)の存在下で生物活性因子を含む脂質小胞の懸濁物のインキュベーションによって調製される。1つの実施形態において、この懸濁液は、超音波処理される。
【0085】
他の実施形態において、送達粒子は、予め形成された小胞分散物から調製される。脂質(例えば、リン脂質)は、緩衝液によって水和され、そして攪拌または超音波処理によって分散される。脂質二重層小胞の分散物に対して、可溶化された生物活性因子が適切な溶媒中で添加されて、脂質−生物活性因子複合体を形成する。いくつかの実施形態において、この溶媒は、脂質二重層小胞の分散物に対する生物活性因子の添加後の好都合な除去のために揮発性であるか、または透析可能である。さらなる攪拌の後、脂質結合性ポリペプチドが添加され、そしてこの試料は、インキュベートされ、攪拌によって混合され、そして/または超音波処理される。代表的に、この小胞およびアポリポタンパク質は、特定の二重層を形成する脂質または使用された二重層を形成する脂質の混合物の、液相−結晶相転移温度にてインキュベートされるか、またはその温度までのゲルの近くでインキュベートされる。この相転移温度は、熱量測定によって決定され得る。
【0086】
好ましくは、適切な二重層を形成する脂質組成物は、水性媒体中の分散の際、脂質小胞が、生物活性因子の沈殿または相分離を伴わずに、キャリア溶媒から水性環境中への生物活性因子の転移に対して適切な環境を提供するように使用される。この予め形成された脂質二重層小胞もまた、好ましくは本発明の送達粒子を形成するために脂質結合性ポリペプチド誘導性の変換を起こし得る。さらに、この脂質−生物活性因子複合体は、好ましくは、適切な条件下での脂質結合性ポリペプチドを伴うインキュベーションの際の、生物活性因子送達粒子への変換を可能にする脂質小胞の特性を維持する。脂質基質−生物活性因子複合体組織化と脂質結合性ポリペプチドの特性との固有の組み合わせは、システムを作製するために合わされ、それにより、pH、イオン強度、温度および脂質−生物活性因子−脂質結合性ポリペプチドの濃度の適切な条件下でこれらの物質の3次構造の再組織化が起こり、安定した脂質結合性ポリペプチドが取り囲む脂質二重層が、この二重層の脂質環境中に取り込まれた生物活性因子と共に生成される。異なる型のリン脂質小胞の円盤形粒子への変換を誘導する脂質結合性ポリペプチドの能力に対する、pH、イオン強度、および脂質結合性ポリペプチドの濃度の影響の議論に関しては、Weersら、(2001)Eur.J.Biochem.268:3728−35を参照のこと。
【0087】
上記のプロセスのいずれかによって調製された粒子は、さらに精製(例えば、透析、密度勾配遠心分離、および/またはゲル浸透クロマトグラフィーによって)され得る。
【0088】
生物活性因子送達粒子の処方のための調製方法において、この手順に使用された生物活性因子の、好ましくは少なくとも約70%が、より好ましくは少なくとも約80%が、なおより好ましくは少なくとも約90%が、なおより好ましくは少なくとも約95%が、上記粒子中に取り込まれる。
【0089】
本発明は、上記の方法のいずれかによって調製された生物活性因子送達粒子を提供する。1つの実施形態において、本発明は、上記の方法のいずれかによって調製された送達粒子および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物を提供する。
【0090】
(保存および安定性)
本発明の粒子は、多様な条件下において長時間安定である(例えば、図5を参照のこと)。粒子、または本発明の粒子を含む組成物は、室温、冷蔵されて(例えば、約4℃)、または凍結されて(例えば、約−20℃〜約−80℃)で保存され得る。それらは、溶液中または乾燥された状態(例えば、凍結乾燥された状態)で保存され得る。生物活性因子送達粒子は、不活性な雰囲気下において凍結乾燥された状態、凍結された状態、または4℃にて溶液中で保存され得る。粒子は、個体に対する生物活性因子の投与の方法における使用のために、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液または他の適切な緩衝液)のような液体媒体または例えば、薬学的に受容可能なキャリアのようなキャリア中に保存され得る。あるいは、粒子は、乾燥された形態、凍結乾燥された形態で保存され、次いで使用前に、液体媒体中に再構成され得る。
【0091】
(キット)
本明細書中に記載される試薬および粒子は、キット形態中に包装され得る。1つの局面において、本発明は、適切な包装中に送達粒子および/または送達粒子を調製するために有用な試薬を備えるキットを提供する。本発明のキットは、別個にか、または組み合わせにおいて以下のいずれかを備える:脂質結合性ポリペプチド(例えば、アポリポタンパク質)、リン脂質、生物活性因子、ベクター、試薬、酵素、宿主細胞ならびに/または組換え脂質結合性ポリペプチド(例えば、組換えアポリポタンパク質)および/もしくは脂質結合性ポリペプチドのキメラ(例えばアポリポタンパク質のキメラ)のクローニングおよび/または発現のための増殖培地、ならびに個体に対する投与のための送達粒子を処方するための試薬および/または薬学的に受容可能なキャリア。
【0092】
試薬または処方物の各々は、在庫の保存、または必要に応じて反応、培養、もしくは注射用媒体への交換もしくは追加に適した固体形態、液体の緩衝液、または薬学的に受容可能なキャリア中で供給される。適切な包装が、提供される。本明細書中で使用される場合、「包装」は、習慣的にシステム中で使用され、そして生物活性因子、または送達粒子(例えば、アポリポタンパク質分子、リン脂質、生物活性因子)を調製もしくは処方するための1つ以上の試薬の送達の方法において使用する、1つ以上の試薬あるいは成分(例えば、送達粒子)を定められた限度内に保持し得る固体マトリックスまたは固体物質を称する。このような物質としては、ガラス瓶およびプラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリカーボネート)瓶、バイアル、紙、プラスチック、およびプラスチックホイルでラミネート加工した包装材料などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
キットは、必要に応じて、本発明の方法および処方手順に有用であるさらなる構成要素(例えば、緩衝液、反応表面、または送達粒子を精製する手段)を提供する。
【0094】
さらに、上記キットは、必要に応じて、本発明の方法の実施(例えば、送達粒子の調製、処方および/または使用)のための、標識および/または指示を提供する説明書もしくは説明材料(すなわち、プロトコル)を備える。この教材は、代表的に記載された媒体または印刷物を含むが、それらは、これらの形式に限定されない。このような説明書を記録し、そして最終使用者にそれらを伝達し得る媒体は、本発明によって企図される。このような媒体としては、電気的記録媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学的媒体(例えば、CD ROM)などが挙げられるが、これらに限定されない。このような媒体は、このような説明書を提供するインターネットサイトについてのアドレスを含み得る。
【0095】
以下の実施例は、例示であり、本発明を限定しないことが意図される。
【実施例】
【0096】
(実施例1.ApoA−I−リン脂質−アムホテリシンB粒子の調製および特徴付け)
(組換えApoA−Iの調製)
組換えApoA−Iを、Ryanら、(2003)Protein Expression and Purification 27:98−103に記載されるように調製し、そしてApoA−I−リン脂質−AmB粒子を調製するために、以下に記載するように使用した。
【0097】
(ApoA−I−リン脂質−AmB粒子の調製)
ApoA−I−リン脂質−AmB粒子を以下のように調製した:
7:3のモル比の、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)を、クロロホルム:メタノール(3:1、v/v)中に溶解した。10mgの上記DMPC/DMPG混合物に、0.25mlのAmB(2mg/ml;酸性化したクロロホルム:メタノール(3:1、v/v)中に可溶化した)を添加した。この混合物を、N2ガス流下で乾燥して容器の壁上に薄いフィルムを形成した。その後、この乾燥した試料を、16時間凍結乾燥に供して、微量の溶媒を除去した。
【0098】
この乾燥した脂質混合物を、0.5mlのTris−生理食塩水緩衝液(10mMのTris塩基、150mMのNaCl、pH8)中に再懸濁し、そしてこの混合物を、30秒間ボルテックスした。
【0099】
この再懸濁した脂質混合物に、0.5mlの22mMコール酸ナトリウムを添加して、3分間ボルテックスした。この混合物を、10分ごとにボルテックスしながら37℃にて、1.25時間またはこの混合物が透明になるまでインキュベートした。この透明の溶液に、2mlの単離した組換えApoA−I(実施例1に記載したように調製した)を1.5mg/mlの濃度にて添加し、そしてこの混合物を、さらに1時間37℃にてインキュベートした。コール酸ナトリウムを除去するために、この試料を、24時間ごとに透析緩衝液を交換しながら72時間、4℃にて4リットルのTris−生理食塩水に対して透析した。
【0100】
この試料を、密度勾配超遠心分離によって、さらに精製した。この溶液を、1.5ml中の固体KBrの添加によって1.30g/mlの密度に調整した。この試料を、3mlの遠心管に移し、生理食塩水で表面を覆い(overlayer)、そして275,000×gにて3時間、Beckman L7−55遠心機で遠心分離した。
【0101】
(粒子の安定性)
この手順によって調製した粒子は、凍結乾燥した形態で3ヶ月を超えて安定であった。
【0102】
(粒子の特徴付け)
UV/可視光走査を、ApoA−I−リン脂質粒子(上記のように調製したが、AmBを添加しなかった)に対して行い、そしてAmB含有粒子についての走査と比較した。図1は、AmBを含まない粒子についての走査を示す。観察された唯一のピークは、280nm付近におけるタンパク質のピークであった。図2は、上記のように調製したAmB含有粒子についての走査を示す。280nm付近におけるピークに加えて、多くのさらなるピークが、300〜400nm領域のスペクトル中に観察され、AmBの存在を確認した。遊離のAmBは、水性媒体に対して不溶性であり、そしてそれは、図2に観察されるスペクトルの特性とは異なるスペクトルの特性を有する。Maddenら、(1990)Chemistry and Physics of Lipids,52:189−98。
【0103】
特徴付けの研究は、密度勾配超遠心分離に供した場合、ApoA−I、リン脂質、およびAmBが、分離した粒子集団として移動することを示した(図3)。この複合体は、粒子中のタンパク質/脂質の比に依存して、勾配における特徴的な密度に浮遊する。
【0104】
さらに、非変性条件下での勾配ゲル電気泳動は、生成した主要な複合体が、均一な大きさであり、8.5nmのストークス径を示すことを示した(図4)。単離した粒子の分析は、AmB、リン脂質、およびアポリポタンパク質の最初のモル比からの大きなずれが、起こらなかったことを示した。
【0105】
(実施例2.Saccharomyces cerevisiaeに対するAmB含有生物活性因子送達粒子の抗真菌活性)
ApoA−I−DMPC/DMPG−AmB粒子を、実施例1に記載したように調製し、そしてこの複合体の抗真菌活性を決定するために使用した。S.cerevisiaeの培養物を、種々の量のApoA−I−DMPC/DMPG−AmB粒子(0〜25μg
AmB/ml)の存在下で、YPD培地において増殖させた。この培養物を、30℃にて16時間増殖させ、そして培養物の増殖の程度を分光光度的にモニタリングした。図8に示すように、このAmB含有粒子は、用量依存様式での真菌増殖の阻害において非常に有効であった。
【0106】
(実施例3.生物活性因子送達粒子の長期安定性)
組換えApoE3NT末端ドメイン(ApoE3NT)を、Fisherら、(1997)Biochem Cell Biol 75:45−53のように調製した。ApoE3NT−AmB含有粒子を、実施例1に記載したようなコール酸透析法によって調製し、そしてそれを、長期安定性を評価するために使用した。
【0107】
図5は、リン酸緩衝液中に4℃にて保存した粒子(レーン1)、リン酸緩衝液中に−20℃にて保存した粒子(レーン2)、またはリン酸緩衝液中に−80℃にて凍結し、凍結乾燥し、そして分析前にH2O中に再溶解した粒子の、ネイティブなPAGE 4〜20%勾配スラブゲルを示す。このAmB含有粒子の大きさおよび移動度は、凍結および解凍することによっても、凍結乾燥および再可溶化(resolubilization)によっても影響されず、このことは、またはこの粒子が、これらの条件下でその完全性を保持したことを示した。これらは、AmB送達粒子の、スケールアップおよび長期保存に関して、重要なパラメータである。
【0108】
(実施例4.POPCを用いたAmB含有生物活性因子送達粒子の調製)
ApoA−I−POPC粒子を実施例1に記載したコール酸塩透析方法を使用して、調製した。ApoA−I−POPC粒子のネイティブなPAGE勾配ゲル分析は、図4に示される。AmBを含まない粒子は、レーン1に示され、そしてAmBを含む粒子は、レーン2に示される。このゲルは、上記粒子中へのAmBの取り込みが、その大きさを変えないことを示す。しかし、このゲルは、POPC含有粒子が、DMPC/DMPG粒子(レーン3に示される)とは異なる大きさであることを示唆する。
【0109】
(実施例5.マイクロフルイダイザ−プロセッサーを用いたAmB含有粒子の調製)
ApoA−I、AmB、egg PC、DPPG、およびコレステロールをマイクロフルイダイザーの試料保持器中で合わせ、そしてマイクロフルイダイザープロセッサーの反応チャンバーに18,000psiにて通過させた。生じた溶液を回収し、そして粒子処方物、疎水性物質の取り込み、大きさ、および安定性に関して特徴付けした。約16nmの直径のAmB含有粒子を入手し、この粒子は、凍結乾燥および水性溶媒における再構成に対して安定であった。
【0110】
(実施例6.リン脂質小胞からのAmB含有粒子の調製)
AmB含有リン脂質小胞の懸濁液を、DMSO中のAmBの20〜40mg/ml溶液のアリコート(2.5mgのAmBに相当する)を、7:3のモル比のDMPC:DMPGを含む先に形成したリン脂質の水性分散物に添加することによって調製した。この小胞をこのリン脂質の液相転移温度(約24℃)までゲルにてインキュベートした。4mgのアポリポタンパク質の添加は、AmB含有生物活性因子送達粒子の形成と一致して、試料の濁度における時間依存的減少を生じた。試料の完全な透明性を、21〜25℃にて1〜20分間の穏やかな浴での超音波処理または24℃にて超音波処理なしで4〜16時間の穏やかな浴によって達成した。生じた粒子は、>90%のAmBの取り込み効率(すなわち、送達粒子中に回収されるAmB出発物質の%)を示し、そして濾過、遠心分離、または透析の際に、物質は喪失しなかった。他の試験は、同様の結果が、5mg/10mgのリン脂質と同じ高さに調整したAmB濃度で達成され得ることを示した。この手順は、試験した、5つのアポリポタンパク質(ApoA−I、ApoE3NT、Bombyx mori ApoIII、および抗真菌ペプチドを含むC末端伸長を含むヒトApoA−Iの改変形態、ヒスタチン 5、およびS.cerevisiaeのα−接合因子ペプチドを含むC末端伸長を含むヒトApoA−Iの改変形態)のいずれによっても等しく良好に作用した。
【0111】
粒子を含むApoA−IまたはApoE3NTの、密度勾配超遠心分離は、脂質−タンパク質複合体の処方物と一致して1.21g/mlの範囲にある特徴的な密度に浮遊する粒子の単一の集団を示した。密度勾配超遠心分離に従って入手した画分の特徴付けは、リン脂質、AmB、およびアポリポタンパク質が、AmB含有粒子の処方物と一致する、この勾配中の同じ位置に移動したことを示した。
【0112】
ネイティブPAGE上での、公知の基準とのApoA−I−AmB含有粒子の相対的移動度の比較は、90%を超える粒子が、約8.5nmのストークス径を有することを示した。この値は、AmBの非存在下において生成した粒子と類似しており、この生物活性因子の添加が、この粒子の大きさの分布を顕著に変えないことを示す。
【0113】
ApoA−I−AmB含有生物活性因子送達粒子の全体の安定性の測定として、この粒子を、−20℃にて凍結したかまたは凍結乾燥した。凍結/解凍は、この粒子の大きさの分布に対して影響を有さなかった。同様に、この粒子を凍結乾燥に供する工程およびH2O中に再溶解する工程は、大きさの分布または試料の外見に影響しなかった。
【0114】
これらのデータは、AmB、リン脂質、およびアポリポタンパク質が、組み合わさって、AmBが完全に、この粒子の二重層部分中に一体化される、生物活性因子送達粒子の均一な集団を形成することを、強力に示唆する。AmB含有粒子の分光光度的分析は、生物活性因子送達粒子中のAmBの可溶化と一致する、可視光の範囲における一組の特徴的なピークを示した。
【0115】
(実施例7.実施例6のように調製したAmB含有粒子と代替手順によって調製した粒子との比較)
実施例6に記載した方法を使用する生物活性因子送達粒子中への生物活性因子の取り込みを、以下のような、Schoutenら、(1993)Molecular Pharmacology 44:486−492によって調製した「neo−HDL」粒子中への取り込みと比較した:3mgの卵黄ホスファチジルコリン、0.9mgのコレステロール、および1.5mgのAmB(クロロホルム中に溶解した)を、20mlのガラスバイアル中で混合し、そしてこの溶媒を、窒素流下でエバポレートした。脱気し、そして窒素で飽和した10mlの超音波処理緩衝液(10mMのTris HCI(pH8.0)、100mMのKCI、1mMのEDTA、および0.025%のNaN3)を添加し、そしてこのバイアルの内容物を、窒素流下で、Macrotip(14μmの平均出力)によって超音波処理した。温度を、41℃より高く、かつ50℃以下に維持した。この超音波処理を60分後に停止し、そして温度を、42℃に調整した。超音波処理を続け、そして20mgのApoA−I(2mlの4M尿素中に溶解した)を、10等量で10分間にわたって添加した。全てのタンパク質を添加した後、超音波処理を42℃にて30分間続けた。
【0116】
その後、この超音波処理混合物を3分間遠心分離して、大きい粒子および不溶性物質を除去し、そしてこの上清をUV/可視光分光光度法によって分析して生成粒子中に可溶化したアムホテリシンBの量を評価した。この溶液が、わずかに不透明であることが注目された。この試料を、250nm〜500nmまで走査した。比較のために、実施例6に記載した手順によって調製したAmB含有粒子を試験した。この結果は、図12に示される。AmBから生じるスペクトルの範囲(300〜500nm)は、この2つの試料間で全く離れていた。実施例6に記載したプロトコルを使用して生成したAmB含有生物活性因子送達粒子は、この粒子中へのAmBの可溶化および取り込みを示す特徴的な強い吸光極大を有した(Maddenら、上述)(図12B)が、Schoutenらに従って調製した試料は、これらの特徴的なスペクトルの極大を生じなかった(図12A)。実際に、この得られたスペクトルは、脂質の非存在下でのAmBの水性分散物についてMaddenら(上述)によって報告されたスペクトルと非常に類似している。従って、AmBは、この手順を使用する脂質粒子中に取り込まれなかったが、実施例6に記載した手順は、十分なAmBの取り込みを生じた。
【0117】
(実施例8.AmB含有生物活性因子送達粒子とリポソームAmB処方物との抗真菌活性の比較)
ApoA−I−AmB粒子(実施例6のように調製した)およびAmBの市販のリポソーム処方物(AmBisome(登録商標))の抗真菌活性を、酵母(S.cerevisiae)の増殖を阻害するそれらの能力に関して比較した。図10のデータは、ApoA−I−AmB生物活性因子送達粒子が、S.cerevisiaeの増殖を、同じ量の、AmB処方物(AmBisome(登録商標)のような)より、より効果的に阻害したことを示す。ApoA−I−AmB生物活性因子送達粒子は、1μg/mlにて90%の増殖阻害を達成したが、この阻害のレベルは、25μg/mlのAmBisome(登録商標)を必要とした。
【0118】
ApoA−I−AmB粒子およびAmBisome(登録商標)の抗真菌活性をまた、2種の病原性真菌、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus fumigatus(A.fumigatus)に対して、マイクロタイターブロスの全細胞アッセイにおいて比較した。コントロールとして、AmBを含まない粒子もまた試験した。この結果を、表1に示す。
【0119】
(表1.アムホテリシンBの病原性真菌増殖の阻害)
【0120】
【表1】
得られた結果は、AmB含有生物活性因子送達粒子が、AmBisome(登録商標)より、より低濃度にて両方の病原性真菌の種に対して有効であることを示した。AmBを欠くコントロール粒子は、有効ではなかった。AmB含有生物活性因子送達粒子は、C.albicansに対して0.1μg/mlの濃度にてED90(90%の増殖阻害が観察される濃度)を示したが、同じレベルの増殖阻害を達成するのに、0.8μg/mlのAmBisome(登録商標)を必要とした。A.fumigatusに関して、AmB含有生物活性因子送達粒子は、0.2μg/mlの濃度にて90%の真菌の増殖を阻害したが、同じ効果を達成するのに、1.6μg/mlのAmBisome(登録商標)を必要とした。
【0121】
別の実験において、上記脂質結合性ポリペプチドとしてアポリポタンパク質IIIを含むAmB含有生物活性因子送達粒子を、3種の病原性真菌、C.albicans、A.fumigatus、およびCryptococcus neoformans(C.neoformans)の増殖を阻害するそれらの能力について、AmBisome(登録商標)と比較した。このデータを、表2に示す。
【0122】
(表2.アムホテリシンBの病原性真菌増殖の阻害)
【0123】
【表2】
AmB含有生物活性因子送達粒子は、0.03μg/mlにてC.albicansの増殖を90%阻害した。相当するED90を、0.4μg/mlのAmBisome(登録商標)で得た。A.fumigatusの場合において、AmB含有生物活性因子送達粒子は、0.1μg/mlにて真菌の増殖を90%阻害したが、同じ効果を達成するのに2.5μg/mlのAmBisome(登録商標)の濃度を必要とした。同様の様式において、AmB含有粒子は、AmBisome(登録商標)より、5倍低いAmB濃度にてC.neoformans増殖の阻害において有効であった。
【0124】
試験した全ての試料は、この実験のために使用したRPMI培地中に可溶性であり、そして上記真菌の種のいずれかに対して試験した試料のいずれにおいても、沈殿または干渉を観察しなかった。これらのデータは、本発明の生物活性因子送達粒子中のAmBの処方物が、リポソーム処方物より、より強力な抗真菌活性を有することを示唆する。
【0125】
(実施例9.生物活性因子送達粒子中へのカンプトテシンの取り込み)
カンプトテシン含有生物活性因子送達粒子を、以下のように調製した:7:3のモル比のDMPC:DMPG(全量5mg)を、緩衝液(20mMのリン酸ナトリウム、pH7.0)中に、1分間ボルテックスすることによって分散して、リン脂質二重層小胞の分散物を生成した。DMSO中の10μlの10mg/mlのカンプトテシン溶液を、このリン脂質二重層の分散物に添加した。その後、2mgの組換えヒトアポリポタンパク質A−I(20mMのリン酸ナトリウム中の0.5mlの4mg/ml溶液、pH7.0)を添加し、そしてこの試料を、その後、超音波処理に供した。その後、この清澄化した試料を13,000×gにて3分間遠心分離し、そしてこの上清を除去し、そして4℃にて保存した。
【0126】
カンプトテシン含有粒子の蛍光スペクトルは、図11に示される(ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に可溶化したカンプトテシンと比較して)。蛍光測定を、400〜600nmでモニタリングされた発光を伴う360nmの励起波長にてPerkin Elmer LS 50B発光分光計上で得た。生物活性因子送達粒子中に取り込まれたカンプトテシン(図11B)と比較したSDSミセル中のカンプトテシン(図11A)によって誘発された蛍光発光極大におけるブルーシフトは、この薬物が、この送達粒子に対してミセル中では、より疎水性の環境に局在することが示唆する。
【0127】
(実施例10.AmB含有生物活性因子送達粒子の凍結割断の電子顕微鏡検査)
AmB含有生物活性因子送達粒子の調製物を、以下のように、凍結割断の電子顕微鏡検査のために調製した:DMPC:DMPG(7:3のモル比)のAmB生物活性因子送達粒子(3mg/mlのタンパク質)の試料(実施例6にあるように調製した)を、サンドウィッチ技術を使用してクエンチし、液体窒素は、プロパンを冷却した。凍結固定した試料を、加工する前に、2時間未満、液体窒素中に保存した。この割断プロセスをJOEL
JED−900フリーズエッチング装置において実施し、そしてこの露出した割断平面を25〜35度の角度にて30秒間Ptで覆い、そして35秒間、炭素で覆った(2kV/60〜80mA、1×10−5Torr)。この方法で作製したレプリカを、24時間、濃縮した発煙HNO3で浄化し、その後、少なくとも5回、新しいクロロホルム/メタノール(重量で1:1)と一緒に攪拌を繰り返した。この方法で浄化したレプリカを、JOEL 100 CXまたはPhilips CM 10電子顕微鏡上で試験した。
【0128】
上記のようなAmB含有粒子の凍結割断から得た電子顕微鏡写真は、図9に示される。数個の凍結割断調製物から取得した電子顕微鏡写真は、高濃度の小さいタンパク質−脂質複合体の存在を示す。見かけ上の直径は、40nm付近が高頻度である約20〜60nmの範囲である。凍結割断の電子顕微鏡検査によって観察した場合、粒子の見かけ上の直径は、ネイティブなポアを制限した勾配ゲル電気泳動によって得た値より、大きい値である。この差は、試料の取り扱い、または電子顕微鏡検査による粒子の可視化に使用する染色手順の影響に起因し得る。
【0129】
実質的に球状の複合体は、リポソームにおいて特徴的であるような凹型の面または凸型の面(それぞれ、この構造の前および後ろにおける影)を示さなかった。さらに、ミセル構造についての証拠を、観察しなかった。
【0130】
(実施例11.免疫応答性マウスにおけるAmB含有生物活性因子送達粒子の抗真菌活性のインビボ評価)
AmB含有生物活性因子送達粒子のインビボ抗真菌活性は、以下のように評価される。
【0131】
(動物)
6〜8週齢の雌のBALB/cマウス(20〜25g)が、標準的な実験室の条件下で、飼育され、そして維持される。
【0132】
(毒性の研究)
3匹のマウスの群の各々は、10mMのリン酸ナトリウムを用いてpH7.4に緩衝した生理食塩水中の、AmB含有生物活性因子送達粒子中の用量(例えば、1mg/kg、2mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、または15mg/kgのAmB)、またはAmBを含まないコントロール粒子を受ける。単回用量は、0.1mlの量を腹腔内に投与される。予備的な研究は、この生物活性因子送達粒子が、これらの条件下において、完全に溶解性であることを示した。
【0133】
注射の後、このマウスは、任意の一般的反応(例えば、異常行動または姿勢、呼吸困難、毛並み、または食物もしくは飲料を得る能力)について観察される。異常性または死亡についての観察は、投与後、直ちに開始し、1日に2回で7日間続ける。体重は、毎日同じ時期に記録する。
【0134】
血液は、安楽死前にマウスから収集される。この血液は、肝臓の特異的障害の程度を評価するために、乳酸デヒドロゲナーゼのような肝臓の酵素についてアッセイされる。
【0135】
(全身性クリプトコッカス属の処置におけるAmB含有生物活性因子送達粒子の効果)
AmB含有粒子の治療域は以下のように、決定され、そしてAmBisome(登録商標)と比較される。
【0136】
AmBに対して感受性であるC.neoformansの臨床的単離体(isolate)は、培養され、そして2×106分生子/mlの濃度にて、感染のための種菌として調製される。各マウスは、一般的な麻酔下で、頭蓋内に0.05mlの通常の生理食塩水中に1×105分生子の種菌を受ける。
【0137】
抗真菌剤は、感染後2時間から投与を開始し、5日間、1日に0.1mlの量で腹腔内に投与される。使用されるAmBの投薬量は、上記の毒性の研究に基づいて決定される。マウスの1つの処置群は、AmBisome(登録商標)を受け、1つの処置群は、AmB含有生物活性因子送達粒子を受け、そしてコントロール群は、治療を受けない。
【0138】
感染したマウスは、1日に2回モニタリングされ、そして病気または死亡の兆候はいずれも、28日間まで記録される。体重は、毎日同じ時期に記録される。正常に動けないか、または食物もしくは飲料を摂取できない瀕死の動物は、安楽死させる。これらの研究の結果に基づいて、第2の研究の組は、研究結果を検証し、そして再現するために実施される。利用されるAmB用量、ならびにコントロール群および処置群におけるマウスの数は、これまでの実験から得られた知識を反映して調整され得る。
【0139】
(組織に対する真菌負荷の決定)
マウスは、処置の最後の日の後、1日目に屠殺される。この腎臓および脳は、無菌的に取り除かれ、そして重量が量られる。組織は、ホモジェナイズされ、そして通常の生理食塩水中に連続的に希釈される。このホモジネートは、コロニー形成単位(CFU)を決定するために、PDA(ポテトデキストロース寒天)プレート上で48時間培養される。組織のCFU/gの真菌負荷が、決定される。
【0140】
(統計分析)
腎臓または脳における生菌および平均CFUの差は、適切な統計学的検定を使用して比較される。
【0141】
(薬物動態研究)
血液の試料、肝臓の試料、腎臓の試料、肺の試料、および脳脊髄液の試料は、感染したマウスから、0.8mg/kgの用量および2.0mg/kgの用量で、AmB生物活性因子送達粒子またはAmBisome(登録商標)の静脈内注入後、10分、2時間、8時間、および24時間の時点にて採取される。マウスは、一般的な麻酔下におかれ、全血は、腋下の血管から採取される。開胸が行われ、そして組織試料は、通常の生理食塩水を用いて灌流され、次いで外科的に除去される。組織は、1−アミノ−4−ニトロナフタレンを含むメタノールを用いてホモジェナイズされる。血清および組織ホモジネートの上清は、分析まで保存される。各サンプル中のAmBの濃度は、Granichら、(1986)Antimicrob.Agents Chemother.29:584−88に記載されるように、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって決定される。要約すると、血清試料(0.1ml)は、1mlあたり1.0mgの内部標準(1−アミノ−4−ニトロナフタレン)を含む1.0mlのメタノールと組み合わされ、そしてボルテックスすることによって混合される。遠心分離後、この上清は、減圧下で乾燥され、その後、HPLCカラム(C18逆相)上への注入のために0.2mlのメタノールで再溶解される。計量された水分を含む組織試料は、1mlあたり5.0mgの内部標準を含む10容量のメタノール中でガラスのホモジェナイザーによってホモジェナイズされ、そして遠心分離される。この移動相は、アセトニトリルの混合物および10mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0;11:17(vol/vol))の混合物である(1.0ml/分の流速)。AmBの濃度は、内部標準のピークの高さに対するAmBのピークの高さの比によって決定される。
【0142】
(実施例12.カンプトテシン含有生物活性因子送達粒子の腫瘍細胞に対する標的化)
生物活性因子送達粒子は、上記脂質結合性ポリペプチド成分に結合するVIP標的化部分を用いて調製される。
【0143】
カンプトテシン含有粒子の脂質結合性ポリペプチド成分は、脂質結合性ポリペプチドのコード配列を内部に有するプラスミドベクターによって形質転換されたEscherichia coli(E.coli)中に組換え形態で産生され得る。例えば、組換えヒトApoA−Iが、利用され得る。ApoA−I発現プラスミドを内部に有するE.coli細胞は、培地中で37℃にて培養される。600nmにおける培養物の光学的密度が、0.6に達する場合、ApoA−I合成は、イソプロピルチオガラクトシド(0.5mMの最終濃度)の添加によって誘導される。さらなる3時間の培養後、この細菌は、遠心分離によってペレットにされ、そして超音波処理によって破壊される。この細胞溶解物は、20,000×gで4℃にて30分間遠心分離され、そしてこの上清画分からapoA−Iが単離される。
【0144】
組換え脂質結合性ポリペプチドのキメラは、ApoA−Iを操作して28アミノ酸の神経ペプチド、血管作動性腸管ペプチド(VIP)に相当する、N末端ペプチド伸長および/またはC末端ペプチド伸長を含むことによって生成される。ApoA−I−VIPキメラは、リン脂質、カンプトテシンおよびApooA−I−VIPキメラを含む生物活性因子送達粒子を生成するために利用され得る。
【0145】
例えば、ApoA−I−VIPキメラは、末端にHind III部位およびXba I部位を有するVIP配列のコード配列に対応する相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを合成することによって構築され得る。このオリゴヌクレオチド(約100塩基対)は、アニーリングされて、所望の「付着末端」を有する2本鎖DNAを生成し、そして適切に配置されたHind III制限酵素部位およびXba I制限酵素部位を有するApoA−Iコード配列を含むプラスミドベクター中にサブクローニングされる。ライゲーション、形質転換およびポジティブなキメラ構築物についてスクリーニングの後、プラスミドDNAは単離され、そして自動化されたジデオキシ法配列分析に供される。この配列が、所望のキメラについて予測した配列に対応することを確認した後、組換えApoA−I−VIPキメラの生成は、野生型ApoA−Iについて上記される通りにE.coli中で行われる。その後、精製された組換えキメラは、ゲル電気泳動、質量分析によって評価され、そして実施例8に記載されるように、野生型ApoA−Iと同様の様式で、本発明の生物活性因子送達粒子を産生する能力について評価される。
【0146】
ApoA−I−VIPキメラ−カンプトテシン含有生物活性因子送達粒子は、脂質粒子の標的化の程度を測定するために乳癌細胞の増殖阻害研究に使用され得る。例えば、ヒトの乳癌細胞株MCF−7は、American Type Culture Collectionから入手され、そして10%ウシ胎仔血清および抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)を補充された改変イーグル培地中の単層培養として加湿した5% CO2のインキュベーター中で37℃にて維持される。単離された野生型ApoA−IまたはApoA−I−VIPキメラは、放射ヨウ素標識され、そして本発明のカンプトテシン含有生物活性因子送達粒子中に取り込まれ、そしてこの細胞と一緒にインキュベートされる。細胞に結合した放射活性は、4℃にて培養されたMCF−7細胞を伴う、標識されたカンプトテシン含有生物活性因子送達粒子のインキュベーション後に決定される。ApoA−I−VIPキメラまたは生物活性因子送達粒子に結合したApoA−I−VIPキメラの、MCF細胞に対する結合と競合するVIPの能力は、競合結合アッセイにおいて決定される。細胞の結合データは、スキャッチャード分析によって評価される。ApoA−I−VIPキメラ生物活性因子送達粒子のMCF−7細胞内在化の程度は、37℃における放射ヨウ素標識されたApoA−I−VIPキメラ含有生物活性因子送達粒子を伴うインキュベーションにおいて評価される。インキュベーションおよび洗浄の後、トリクロロ酢酸に可溶性の放射活性は決定され、脂質結合性ポリペプチド分解の測定を提供する。
【0147】
異なる生物活性因子送達粒子による増殖阻害の研究および細胞毒性の研究は、クローン原性のアッセイによって評価される。指数関数的に増殖する細胞は、培地中に再懸濁され、そして細胞の数が、電子計測器を使用して決定される。あるいは、カンプトテシン−ApoA−I−VIPキメラ生物活性因子送達粒子によるMCF−7のクローン増殖の阻害は、35S−メチオニン取り込みの減少に基づいて評価され得る。細胞のアリコートは、三連で培養皿中に播種される。インキュベーション後、特定の脂質粒子は、ストック溶液からこの皿に添加されて、0nM、0.1nM、1nM、5nM、10nM、50nM、100nM、250nMのカンプトテシンの最終濃度を達成する。0〜72時間の範囲にある特定の時間の間隔の後、培地は、吸引によって除去され、そして新鮮な培地が添加される。異なる露出時間によるそれぞれの薬物濃度における生存の%は、トリパンブルー排除細胞の数の比から決定され、そしてカンプトテシンを欠くコントロール粒子を用いて得られた結果と比較される。
【0148】
(実施例13.AmB含有生物活性因子送達粒子の毒性のインビボ評価)
研究を行って、AmB含有生物活性因子送達粒子の安全性および毒性を決定した。この粒子を、実施例6にあるように調製した。
【0149】
雌のBALB/cマウス(6〜8週齢、体重が20〜25グラム)を、3匹のマウスの群に分け、そして各群を、1mg/kg、2mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、または15mg/kgの生物活性因子送達粒子中のAmB処方物を用いて処置し、そして腹腔内(IP)に、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中0.1mlの容量において単回用量として送達した。コントロール群は、PBSのみを受けた。
【0150】
マウスを、体重の減少または外見および行動における異常性について、投与後直ちに、投与の2時間後に、および投与の6時間後に観察し、そしてその後、1日に少なくとも2回で7日間、観察した。血液を、投与後24時間で採取した。肝障害についてのマーカー(アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST))ならびに腎臓障害についてのマーカー(尿素およびクレアチニン)を定量した。
【0151】
表3は、以下にAmBを含む生物活性因子送達粒子のインビボでの安全性/毒性プロフィールを示す。
【0152】
(表3.マウスにおけるAmB含有生物活性因子送達粒子の毒性)
【0153】
【表3】
15mg/kgの投薬量が、マウスにおいて有毒であることを見出した。この投薬量レベルおいて、即死または異常性は存在しなかったが、3匹のマウスの内2匹が投与した次の日に死亡した。10mg/kg以下の用量にて、AmB含有粒子は、安全であることを見出した。図14に示されるように、名目上の体重減少を5mg/kgおよびそれ以下の投薬量にて観察した。10mg/kgで処置したマウスにおいて、顕著な体重減少を2日目に観察し、その後、その週の終わりには体重の90%までの回復を観察した。薬物のこの濃度にて、腎毒性のわずかな兆候(10mg/kgにて0.16mg/dlのクレアチニン対0mg/kgにて0.1mg/dl;尿素には変化無し)が観察され、そして肝毒性は、観察されなかった。この結果は、毒性において劇的な減少を記録した。なぜならこれまでに報告された実験は、AmBが界面活性剤のミセル中に処方された同様の実験条件下で、4.4mg/kgのAmBにて、マウスにおいて4%の生存率しか生じなかったからである(Barwiczら、(1992)Antimicrob Agents Chemother 36:2310−2315)。
【0154】
(実施例14.AmB含有生物活性因子送達粒子のインビボでの効果)
実験を行って、AmBの生物活性因子送達粒子中への処方が、その抗真菌効果を損なうか否かを決定した。
【0155】
雌のBALB/cマウス(6〜8週齢)を、各々10匹のマウスの4つの群に分けた。各マウスに、5×105のCandida albicans ATCC株90028の芽状胞子を接種した。接種の2時間後、マウスをフルコナゾール(経口的に投与可能な抗真菌処置(経口胃管栄養法を介して30mg/kg))、AmBisome(5mg/kg IP)、実施例13に記載されるようなAmB含有生物活性因子送達粒子(5mg/kg IP)処方物、またはAmBを含まないが、AmBを含む粒子と等価なタンパク質負荷を伴うコントロールの「空」生物活性因子送達粒子で処置した。処置を、1日に1回で5日間続けた。この研究を通して、マウスを、死亡率ならびに外見および行動における異常性についてモニタリングした。最後の処置後24時間にて、マウスを屠殺し、そして腎臓組織および脳組織を、真菌負荷の評価のために切除した。生存の評価に関して、マウスを、29日間観察し、そして1日に2回、死亡率、体重減少、および食物または飲料の摂取不全について試験した。
【0156】
図16に示すように、フルコナゾールで処置した全てのマウスは、この研究の期間生存した。AmB含有生物活性因子送達粒子で処置したマウスの1匹は、この研究の2日目に死亡した。このマウスの死の時期、そして毒性の欠如が、5mg/kgにおけるAmB含有粒子に関連する(上記の実施例13を参照のこと)ことに起因して、死亡が、この粒子の効果に関連したとは考えられない。逆に、「空」の円盤粒子で処置した全てのマウスが死に、そしてAmBisome処置マウスの1匹だけが生存した。
【0157】
図17に示すように、AmB含有生物活性因子送達粒子で処置したマウスは、この研究の過程にわたって、わずかな体重減少(<2%)のみを示した。逆に、フルコナゾール処置マウスおよびAmBisome処置マウスは、この実験の過程の間に、それぞれ、14%および23%の最大の体重減少を示した。
【0158】
図18に示すように、真菌負荷の評価は、AmB含有生物活性因子送達粒子で処置したマウスの、脳および腎臓において低い真菌レベルを示した。フルコナゾール処置マウスについての脳は別として、AmB含有粒子による処置は、異なる治療レジメンの間における、脳の真菌負荷および腎臓の真菌負荷の最も低いレベルを生じた。
【0159】
この研究の結果は、AmB含有生物活性因子送達粒子が、抗真菌処置に有効であることを実証した。AmBisome処置で観察した死亡率は、これまでに報告された、Cryptococcosis感染の処置について同様のレジメンを使用する研究(>90%の生存率を観察した)より高かった(ClemonsおよびStevens(1998)Antimicrob Agents Chemother 42:899−902)。しかし、Candida albicansの処置は、AmBisomeの効果が、処置時における感染のレベルに依存するという事実(van Ettenら、(1998) Antimicrob Agents Chemother 42:2431−2433)によって困難になり得る。この研究中で使用される種菌は、真菌負荷のレベルが、AmBisomeの有効に治療する能力を超えるが、AmB含有円盤粒子の効力は、この感染のレベルに影響されなかったことを示し得る。
【0160】
本発明は、明確な理解を目的として図および実施例によってある程度詳細に記載されてきたが、一定の変更および改変が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく実施され得ることが、当業者に明らかである。従って、この記載は、特許請求の範囲によって示される本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0161】
本明細書中に引用される全ての刊行物、特許、および特許出願は、全ての目的のために、そして各々の刊行物、特許、または特許出願が具体的かつ個別に参考として援用されることを示されるのと同じ程度に、それらの全体が本明細書に参考として援用される。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国仮特許出願番号60/447,508(2003年2月14日出願)および米国仮特許出願番号60/508,035(2003年10月1日出願)の利益を主張し、これらの両方の仮特許出願の開示は、その全体が、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(連邦政府の委託研究または委託開発に関する記載)
本発明は、アメリカ国立衛生研究所からの助成金番号HL65159によって援助される研究の間の一部をなす。政府は、本発明について、一定の権利を有し得る。
【0003】
(発明の分野)
本出願は、生物活性因子の送達のための、組成物および方法に関する。特に、本出願は、脂質結合性ポリペプチド、脂質二重層、および生物活性因子を含む生物活性因子送達粒子に関する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
生物活性物質(例えば、治療因子、ワクチン免疫原、および栄養分)は、多くの場合、純粋な形態で投与され得ないが、この生物活性物質の溶解性を向上させ、そしてそれを適切な形態で包んで、望ましくない副作用を最小限にしつつ最適の有益な効果を達成する、生体適合性処方物中に取り込まれる必要がある。生物活性因子の有効な送達は、多くの場合、体内での因子の短いクリアランス時間、作用部位に対する非効率的な標的化、またはその生物活性因子自体の性質(例えば、水性媒体に対する難溶性または疎水性)によって妨げられる。従って、多くの処方方法が、送達を改良するために開発され、その方法としては、徐放性処方物、エマルジョン、およびリポソームの調製物が挙げられる。
【0005】
リポソームによる薬学的送達システムが、記載されている。リポソームは、完全に閉じられており、包み込まれた(entrapped)水性の容積を含む球状の脂質二重層膜である。この脂質二重層は、疎水性の尾部領域および親水性の頭部領域を有する脂質で構成される、2つの脂質の単層を含む。この膜二重層の構造は、脂質分子の疎水性であり非極性の尾部が、この二重層の中心に向かって指向し、一方で親水性の頭部は、そのリポソームの内側および外側の両方にある水相に向かって指向するようなものである。リポソームの上記水性であり親水性のコア(core)領域は、溶解された生物活性物質を含有し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薬学的に有用な疎水性物質は、水性の環境に対して、不溶性であるかまたは難溶性であるので、薬学的に有用な疎水性物質の送達は、多くの場合、特に問題となる。医薬品として使用される疎水性化合物に関して、直接の注入は、不可能であるかまたは非常に問題となり得、これは、危険な状態(例えば、溶血、静脈炎、過敏症、器官不全、および/または死亡)を生じる。水性の環境中での安定性を増進し、そして所望の作用部位に対するこのような物質の有効な送達を可能にする、疎水性の生物活性物質のための改良された処方物についての必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、個体に対する生物活性因子の送達のための組成物および方法を提供する。
【0008】
1つの局面において、本発明は、生物活性因子送達粒子(脂質結合性ポリペプチド、疎水性領域を含む内側を有する脂質二重層およびこの脂質二重層の疎水性領域に結合する生物活性因子を含む)を提供する。生物活性因子送達粒子は、一般的に親水性のコアまたは水性のコアを含まない。
【0009】
生物活性因子送達粒子は、少なくとも1つの疎水性領域を含み、そして上記脂質二重層の疎水性の内側中に取り込まれるか、またはこの疎水性の内側と結合する、1つ以上の生物活性因子を含む。生物活性因子の疎水性領域は、一般的にその脂質二重層の内側にある疎水性表面(例えば、脂肪酸のアシル鎖)に結合する。1つの実施形態において、この生物活性因子は、アムホテリシンB(AmB)である。別の実施形態において、この生物活性因子は、カンプトテシンである。
【0010】
粒子は、代表的に円盤形であり、この粒子は、約7〜約29nmの範囲の直径を有する。
【0011】
生物活性因子送達粒子は、二重層を形成する脂質(例えば、リン脂質)を含む。いくつかの実施形態において、生物活性因子送達粒子は、二重層を形成する脂質および二重層を形成しない脂質の両方を含む。いくつかの実施形態において、生物活性因子送達粒子の上記脂質二重層は、リン脂質を含む。1つの実施形態において、送達粒子中に取り込まれるリン脂質としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)が挙げられる。1つの実施形態において、この脂質二重層は、DMPCおよびDMPGを7:3のモル比で含む。
【0012】
好ましい実施形態において、上記脂質結合性ポリペプチドは、アポリポタンパク質である。脂質結合性ポリペプチド(例えば、アポリポタンパク質分子)と上記脂質二重層との間の主な相互作用は、一般的に、両親媒性構造の疎水性表面の残基(例えば、脂質結合性ポリペプチドのα−へリックス)と外側表面上の脂質の脂肪酸のアシル鎖との間の、この粒子の周囲における疎水性相互作用である。本発明の粒子は、交換可能なアポリポタンパク質および/または交換不可能なアポリポタンパク質を含み得る。1つの実施形態において、この脂質結合性ポリペプチドは、アポリポタンパク質A−I(ApoA−I)である。
【0013】
いくつかの実施形態において、修飾されてこの粒子の安定性を増加する脂質結合性ポリペプチド分子(例えば、アポリポタンパク質分子)を含む粒子が提供される。1つの実施形態において、この修飾としては、分子内ジスルフィド結合および/または分子間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基の導入が挙げられる。
【0014】
別の実施形態において、1つ以上の結合された機能的部分、例えば、1つ以上の標的部分および/または1つ以上の、所望の生物学的活性(例えば、抗菌活性)を有する部分を有するキメラの脂質結合性ポリペプチド分子(例えば、キメラアポリポタンパク質分子)を含む粒子が、提供され、この所望の生物学的活性は、増大し得るか、または送達粒子中に取り込まれる生物活性因子の活性と共に相乗的に作用し得る。
【0015】
別の局面において、薬学的に受容可能なキャリア中に生物活性因子送達粒子を含む薬学的組成物が、提供される。生物活性因子を個体に投与するための方法もまた提供され、この方法は、薬学的に受容可能なキャリア中の生物活性因子送達粒子を含有する薬学的組成物をこの個体に対して投与する工程を包含する。いくつかの実施形態において、治療有効量の生物活性因子は、薬学的に受容可能なキャリア中に処理される。いくつかの実施形態において、投与は、非経口(例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、経粘膜、または鞘内)である。他の実施形態において、粒子は、エアロゾルとして投与される。いくつかの実施形態において、この生物活性因子は、徐放のために処方される。1つの実施形態において、方法は、個体において真菌感染を処置するために提供され、この方法は、本発明の生物活性因子送達粒子(多くの場合、治療有効量で薬学的に受容可能なキャリア中にある)中に取り込まれた抗真菌剤、例えば、AmBを投与する工程を包含する。別の実施形態において、方法は、個体において腫瘍を処置するために提供され、この方法は、本発明の生物活性因子送達粒子(多くの場合、治療有効量で薬学的に受容可能なキャリア中にある)中に取り込まれた抗腫瘍剤、例えば、カンプトテシンを投与する工程を包含する。1つの実施形態において、この生物活性因子送達粒子は、結合された血管作動性腸管ペプチドの標的部分を有する脂質結合性ポリペプチドを含み、そしてこの腫瘍は、乳房の腫瘍である。
【0016】
なおさらなる局面において、プロセスは、上記のような生物活性因子送達粒子を処方するために提供される。1つの実施形態において、この処方プロセスは、二重層を形成する脂質を含む混合物と生物活性因子とを接触させて、脂質小胞と生物活性因子との混合物を形成する工程、およびこの脂質小胞と生物活性因子との混合物と脂質結合性ポリペプチドとを接触させる工程を包含する。別の実施形態において、この処方プロセスは、生物活性因子(適切な溶媒中に溶解された)が添加される、先に形成された二重層を含む脂質小胞の分散物の形成を包含する。この手順のための生物活性因子を可溶化するための適切な溶媒としては、本発明の送達粒子中に取り込まれるべき生物活性因子を可溶化し得る、極性の特徴または親水性の特徴を有する溶媒が挙げられる。適切な溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルホルムアミドが挙げられるが、これらに限定されない。この小胞/生物活性因子混合物に対して、脂質結合性ポリペプチドが添加され、その後、インキュベートされるか、または超音波処理されるか、またはこの両方が行われる。1つの実施形態において、上記のプロセスのいずれかによって送達粒子中に取り込まれる生物活性因子は、アムホテリシンBである。1つの実施形態において、このアムホテリシンBは、DMSO中に可溶化される。別の実施形態において、この生物活性因子は、カンプトテシンである。1つの実施形態において、このカンプトテシンは、DMSO中に可溶化される。
【0017】
本発明は、上記のプロセスのいずれかによって調製された生物活性因子送達粒子、ならびに上記のプロセスのいずれかによって調製された粒子および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物を含む。
【0018】
別の局面において、本発明は、任意の上記生物活性因子送達粒子もしくは上記の薬学的組成物、または上記の方法のいずれかによって調製された送達粒子および/またはこの粒子を処方するための試薬、ならびに/あるいは生物活性因子を個体に対して投与するための方法に使用する指示書を備えるキットを提供する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
脂質結合性ポリペプチド、脂質二重層、および生物活性因子を含有する生物活性因子送達粒子であって、該脂質二重層の内側は、疎水性領域を含み、そして、該生物活性因子は、該脂質二重層の疎水性領域と結合する、粒子。
(項目2)
前記粒子は、親水性のコアを含まない、項目1に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目3)
上記粒子は、円盤形である、項目1または2に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目4)
前記円盤形粒子は、約7nm〜約29nmの直径を有する、項目1〜3のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目5)
前記生物活性因子は、少なくとも1つの疎水性領域を含む、項目1〜4のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目6)
前記生物活性因子の疎水性領域は、前記脂質二重層の内側において疎水性表面と結合する、項目1〜5のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目7)
前記生物活性因子は、アンホテリシンBである、項目1〜6のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目8)
前記生物活性因子は、カンプトテシンである、項目1〜6のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目9)
前記脂質結合性ポリペプチドは、アポリポタンパク質である、項目1〜8のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目10)
前記アポリポタンパク質は、交換可能なアポリポタンパク質である、項目9に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目11)
前記アポリポタンパク質は、ヒトアポリポタンパク質A−Iである、項目10に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目12)
前記アポリポタンパク質は、機能的部分を含むキメラアポリポタンパク質である、項目9に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目13)
前記機能的部分は、標的部分である、項目12に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目14)
前記機能的部分は、生物学的活性を含む、項目12に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目15)
前記アポリポタンパク質は、前記粒子の安定性を向上するために修飾されている、項目9に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目16)
前記修飾は、分子間ジスルフィド結合または分子内ジスルフィド結合を形成するシステイン残基の導入を包含する、項目15に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目17)
前記脂質二重層は、リン脂質を含む、項目1〜16のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目18)
前記リン脂質は、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)を含む、項目17に記載の生物活性因子送達粒子。
(項目19)
個体に対して生物活性因子を送達するための薬学的組成物であって、該薬学的組成物は、項目1〜18のいずれか1項に記載の生物活性因子送達粒子および薬学的に受容可能なキャリアを含有する、薬学的組成物。
(項目20)
前記組成物は、徐放のために処方される、項目19に記載の薬学的組成物。
(項目21)
個体に対して生物活性因子を投与するための方法であって、該方法は、該個体に対して項目19に記載の薬学的組成物を投与する工程を包含する、方法。
(項目22)
前記薬学的組成物は、治療有効量の前記生物活性因子を含有する、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記生物活性因子は、アンホテリシンBである、項目21または22に記載の方法。
(項目24)
前記生物活性因子は、カンプトテシンである、項目21または22に記載の方法。
(項目25)
投与は、非経口である、項目21〜24のいずれか1項に記載の方法。
(項目26)
前記非経口投与は、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経粘膜投与、および鞘内投与からなる群より選択される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記組成物は、エアロゾルとして投与され得る、項目21または22に記載の方法。
(項目28)
前記組成物は、徐放のために処方される、項目21または22に記載の方法。
(項目29)
個体において真菌感染を処置するための方法であって、該方法は、該個体に対して項目19に記載の薬学的組成物を投与する工程を包含し、前記生物活性因子は、抗真菌剤である、方法。
(項目30)
前記薬学的組成物は、治療有効量の前記抗真菌剤を含有する、項目29に記載の方法。
(項目31)
前記抗真菌剤は、アンホテリシンBである、項目29または項目30に記載の方法。
(項目32)
個体において腫瘍を処置するための方法であって、該方法は、該個体に対して項目19に記載の薬学的組成物を投与する工程を包含し、前記生物活性因子は、抗腫瘍剤である、方法。
(項目33)
前記薬学的組成物は、治療有効量の前記抗腫瘍剤を含有する、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記抗腫瘍剤は、カンプトテシンである、項目32または33に記載の方法。
(項目35)
前記脂質結合性ポリペプチドは、血管作動性腸管ペプチドを含み、そして前記腫瘍は、乳房の腫瘍である、項目32〜34のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
項目1に記載の生物活性因子送達粒子を処方するためのプロセスであって、該プロセスは、二重層を形成する脂質小胞と生物活性因子とを接触させて、二重層を形成する脂質小胞と生物活性因子との混合物を形成する工程、および該二重層を形成する脂質小胞と生物活性因子との混合物と脂質結合性ポリペプチドとを接触させる工程を包含する、プロセス。
(項目37)
項目1に記載の生物活性因子送達粒子を処方するためのプロセスであって、該プロセスは、以下の工程:
(a)脂質小胞の水性分散物を形成する工程であって、該脂質小胞は、二重層を形成する脂質を含む、工程;
(b)該脂質小胞の分散物に生物活性因子を添加して脂質小胞と生物活性因子との混合物を形成する工程;
(c)該脂質小胞と生物活性因子との混合物に脂質結合性ポリペプチドを添加して、脂質と生物活性因子と脂質結合性ポリペプチドとの混合物を形成する工程;および
(d)工程(c)において形成された該混合物をインキュベートする工程、
を包含する、プロセス。
(項目38)
項目37に記載の生物活性因子送達粒子を処方するためのプロセスであって、該プロセスは、前記工程(d)の混合物を超音波処理する工程をさらに包含する、プロセス。
(項目39)
前記生物活性因子は、前記二重層を形成する脂質小胞との接触前に、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に可溶化される、項目36に記載のプロセス。
(項目40)
前記生物活性因子は、前記脂質小胞の分散物への添加前に、DMSO中に可溶化される、項目37または38に記載のプロセス。
(項目41)
前記生物活性因子は、アンホテリシンBである、項目36〜項目40のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目42)
前記生物活性因子は、カンプトテシンである、項目36〜40のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目43)
項目36〜42のいずれか1項に記載のプロセスによって調製される、生物活性因子送達粒子。
(項目44)
項目43に記載の生物活性因子送達粒子、および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物。
(項目45)
項目19、20、または44のいずれか1項に記載の薬学的組成物、および個体に生物活性因子を投与するための方法において使用する教材を備える、キット。
(項目46)
前記真菌感染は、Candida albicansを含む、項目29〜32のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施例1のように調製された、生物活性因子を含まないApoA−I−リン脂質粒子の、250〜450nmにおけるUV/可視光吸収スペクトルを示す。
【図2】図2は、実施例1のように調製された、ApoA−I−リン脂質−AmB粒子の、250〜450nmにおけるUV/可視光吸収スペクトルを示す。
【図3】図3は、密度勾配超遠心分離後のApoA−I−リン脂質−AmB粒子についての、タンパク質濃度に対する画分の数のプロットを示す。粒子は、実施例2に記載されるように調製され、そしてKBrの添加によって1.3g/mlの密度に調整された。この溶液は、10℃にて275,000×gで5時間、不連続勾配(discontinuous gradient)において遠心分離された。遠心分離後、このチューブの内容物は、最上部から分画され、そして決められたそれぞれの画分のタンパク質内容物に分画された。
【図4】図4は、ApoA−I−リン脂質粒子のネイティブなポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)分析(4〜20%のアクリルアミド勾配のスラブゲル上での)を示す。粒子は、ApoA−Iおよび2つの異なる脂質調製物(DMPC/DMPGまたはパルミトイルオレイルホスファチジルコリン(POPC))によって調製された。このゲルは、Coomassie Blueによって染色された。レーン1:ApoA−I POPC粒子;レーン2:ApoA−I−POPC−AmB粒子;レーン3:ApoA−I−DMPC/DMPG−AmB粒子。大きさの基準の相対的移動は、左側に示される。
【図5】図5は、アポリポタンパク質EのN末端ドメイン(ApoE3NT)−DMPC/DMPG−AmB粒子の大きさおよび構造的な完全性に対する、異なる保存条件の影響の比較を示す。粒子は、密度超遠心分離によって単離され、次いでネイティブなPAGE(4〜20%勾配のスラブゲルによる)上での電気泳動に供された。このゲルは、Amido Blackによって染色された。レーン1:リン酸緩衝液中に4℃にて24時間保存された粒子;レーン2:リン酸緩衝液中に−20℃にて24時間保存された粒子;レーン3:凍結乾燥されそして−80℃にて24時間凍結され、次いでH2O中に再溶解された粒子。大きさの基準の相対的移動は、左側に示される。
【図6】図6は、生物活性因子送達粒子の、形および分子機構を模式的に示す。
【図7】図7は、キメラの脂質結合性ポリペプチドおよびそれらの生物活性因子送達粒子中への取り込みを、模式的に示す。このキメラタンパク質は、標的部分(図7A)または所望される生物学的活性を有する部分(図7B)を含み得る。図7Cは、図7Aおよび図7Bに示されるキメラポリペプチドの、生物活性因子送達粒子中への取り込みを、模式的に示す。
【図8】図8は、実施例2に記載されるような、培養液中のSaccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)に対するAmBを含む生物活性送達粒子の抗真菌活性を、グラフで示す。
【図9】図9は、実施例10に記載されるように調製されたAmBを含む生物活性送達粒子の凍結割段による電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、実施例8に記載されるような、ApoA−I−DMPC/DMPG−AmB粒子とAmBisome(登録商標)との間の、S.cerevisiaeの成長を阻害する能力の比較を示す。
【図11】図11は、実施例9に記載されるような、SDS中に可溶化されたカンプトテシン(図11A)とカンプトテシンを含む生物活性因子送達粒子(図11B)との間の、蛍光スペクトルの比較を示す。
【図12】図12は、実施例7に記載されるように調製された脂質粒子中へのAmBの取り込み(図12A)および実施例6に記載されるように調製された生物活性因子送達粒子中へのAmBの取り込み(図12B)の、UV/可視光スペクトルの比較を示す。
【図13】図13は、生物活性因子送達粒子の調製手順の実施形態の説明図である。
【図14】図14は、実施例13に記載されるような、示された投薬量のAmBを含む生物活性因子送達粒子を投与されたマウスの体重の変化を示す。
【図15】図15は、実施例13に記載されるような、示された投薬量のAmBを含む生物活性因子送達粒子を投与されたマウス中の、尿素の血清レベル(図15A)、クレアチニンの血清レベル(図15B)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の血清レベル(図15C)、およびアラニンアミノトランスフェラーゼの血清レベル(図15D)を示す。
【図16】図16は、実施例14に記載されるような示された処置を施されたマウスの生存率を示す。AMB−ND:AmBを含む生物活性因子送達粒子;AmB:AmBisome;FLCZ:フルコナゾール;ND:AmBを含まない円盤粒子。
【図17】図17は、図14に記載されるような指示された処置を施されたマウスの体重の変化を示す。AMB−ND:AmBを含む生物活性因子送達粒子;AmB:AmBisome;FLCZ:フルコナゾール;ND:AmBを含まない円盤粒子。
【図18】図18は、図14に記載されるような指示された処置を施されたマウス中の組織に対する真菌負荷を示す。AMB−ND:AmBを含む生物活性因子送達粒子;AmB:AmBisome;FLCZ:フルコナゾール;ND:AmBを含まない円盤粒子。
【図19】図19は、AmBのリン脂質小胞の光散乱強度に対するアポリポタンパク質A−Iの影響を示す。200マイクログラムのリン脂質(DMPCおよびDMPG(7:3のモル比)ならびに50マイクログラムのAmBは、20mMのリン酸ナトリウム(pH7.4)中に、ボルテックスすることによって分散され、そしてアポリポタンパク質の、存在下および非存在下で24℃にてインキュベートされた。試料の直角の光散乱強度は、Perkin−Elmer Model LS50bルミネセンス分光計において時間の関数として測定された。励起モノクロメーターおよび放射モノクロメーターは、4nmのスリット幅を備えて600nmに設定された。曲線A)AmBのリン脂質小胞調製物のみ。曲線B)80ミリグラムのアポリポタンパク質A−Iを加えたAmBのリン脂質小胞調製物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
本発明は、個体に対する生物活性因子の送達のための、組成物および方法を提供する。送達ビヒクルは、脂質結合性ポリペプチドおよび脂質二重層を含む粒子中に取り込まれた生物活性因子の形態で提供される。粒子の内側は、脂質分子の疎水性部分(例えば、脂質の脂肪酸のアシル鎖)を含む脂質二重層の疎水性領域を含み、対照的に、リポソームは、二重層の脂質の親水性表面に取り囲まれた完全に閉じられた水性の内側を含む。本発明の粒子の内側の疎水的な性質は、例えば、その二重層中の脂質分子間の相互作用によってか、またはその二重層のリーフレットの間の疎水性領域中への隔離によって、疎水性分子の取り込みを許容する。少なくとも1つの疎水性領域を含む生物活性因子は、この粒子の疎水性の内側中に取り込まれ得る。本明細書中で使用される場合、脂質二重層の疎水性領域中への生物活性因子の「取り込み」とは、この二重層の脂質分子の疎水性領域もしくは疎水性部分(例えば、二重層を形成する脂質の脂肪酸のアシル鎖)中への可溶化、またはその疎水性領域もしくは疎水性部分への結合、あるいはこの脂肪酸のアシル鎖との相互作用を呼ぶ。
上記粒子は、一般的に約7〜約29nmの範囲の直径を有する円盤形であり、この直径は、公知のストークス直径の基準(例えば、Blancheら、(1981)Biochim.Biophys.Acta.665(3):408−19に記載されるような)と比較して、ネイティブなポア(pore)を制限した勾配ゲル電気泳動によって決定された。いくつかの実施形態において、この粒子は、溶液中で安定であり、そして長期の保存のために凍結乾燥され、その後、水溶液中に再構成され得る。この脂質結合性ポリペプチド成分は、円板状の二重層の境界を規定し、この粒子に構造および安定性を提供する。
【0021】
キメラの脂質結合性ポリペプチド分子(例えば、アポリポタンパク質分子)もまた、提供され、そして本発明の送達粒子中に種々のさらなる機能的特性を取り込むために使用され得る。
【0022】
上記粒子は、個体に対して投与されて、この個体に生物活性因子を送達し得る。
【0023】
(生物活性因子送達粒子)
本発明は、「粒子」(また本明細書中で「送達粒子」または「生物活性因子送達粒子」と称される)を提供し、この粒子は、1つ以上の型の脂質結合性ポリペプチド、1つ以上の型の二重層を形成する脂質を含む脂質二重層、および1つ以上の生物活性因子を含む。いくつかの実施形態において、送達粒子はまた、1つ以上の型の二重層を形成しない脂質を含む。この粒子を含む組成物もまた、提供される。1つの実施形態において、送達粒子および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物が、提供される。
【0024】
粒子の内側は、疎水性領域(例えば、脂質の脂肪酸のアシル鎖で構成される)を含む。本発明の粒子は、代表的に、親水性のコアまたは水性のコアを含まない。この粒子は、上記脂質結合性ポリペプチドの、両親媒性の、α−へリックスおよび/またはβ−シートによって取り囲まれる、平らであり、円板状であり、ほぼ円形の脂質二重層を有するほぼ円盤形であり、その脂質結合性ポリペプチドは、この円盤の周縁のまわりの上記二重層の疎水性表面に結合する。本発明の円盤形の生物活性因子送達粒子の例示的な例は、図6に模式的に示される。
【0025】
代表的に、円盤形の送達粒子の直径は、約7〜約29nmであり、多くの場合、約10〜約25nmであり、多くの場合、約15〜約20nmである。「直径」は、上記円盤のほぼ円形形状の面の1つの直径を称する。
【0026】
(脂質結合性ポリペプチド)
本明細書中で使用される場合、「脂質結合性ポリペプチド」は、脂質表面と安定な相互作用を形成し、そして本発明の粒子の脂質二重層を安定化するために機能し得る、任意の、合成ペプチドもしくは合成タンパク質、または天然に存在するペプチドもしくは天然に存在するタンパク質を称する。粒子は、1つ以上の型の脂質結合性ポリペプチドを含み得る(すなわち、単一粒子中の脂質結合性ポリペプチドは、同一であってもよく、2以上の異なるポリペプチド配列で構成されてもよい)。この脂質結合性ポリペプチドは、この粒子の周縁を取り囲む。
【0027】
いくつかの実施形態において、本発明の送達粒子を生成するのに有用な脂質結合性ポリペプチドとしては、天然に存在するタンパク質、もしくはフラグメント、天然の改変体、アイソフォーム、アナログ、またはこれらのキメラ形態のアミノ酸配列を有するタンパク質、天然に存在しない配列を有するタンパク質が挙げられ、そして脂質に結合する特性を有する任意の長さのタンパク質またはペプチドは、公知のアポリポタンパク質と一致し、そしてそれは、天然の供給源から精製されても、組換え的(recombinantly)に生成されても、合成的に生成されてもよい。天然に存在するタンパク質のアナログが、使用され得る。脂質結合性ポリペプチドは、ペプチド結合が、代謝的分解に対してより耐性の構造に置換されるか、もしくは個々のアミノ酸が、類似の構造物に置換される1つ以上の非天然のアミノ酸(例えば、D−アミノ酸)、アミノ酸アナログ、またはペプチド模倣(peptidomimetic)構造物を含み得る。
【0028】
好ましい実施形態において、上記脂質結合性ポリペプチドは、アポリポタンパク質である。脂質二重層と結合して、円盤形粒子を形成し得る任意のアポリポタンパク質またはそれらのフラグメントもしくはそれらのそのアナログが、使用され得る。粒子は、交換可能なアポリポタンパク質分子、交換不可能なアポリポタンパク質分子、または交換可能なアポリポタンパク質分子と交換不可能なアポリポタンパク質分子との混合物を含み得る。
【0029】
アポリポタンパク質は、一般的にクラスAの両親媒性α−ヘリックス構造モチーフ(Segrestら、(1994)Adv.Protein Chem.45:303−369)、および/またはβ−シートモチーフを有する。アポリポタンパク質は、一般的に高い含量の、疎水性表面に結合する能力を有するα−ヘリックスの2次構造を含む。これらのタンパク質の特有の特徴は、特定の脂質二重層小胞と相互作用し、そして円盤形の複合体に変換する、それらの能力である(概説については、NarayanaswamiおよびRyan(2000)Biochimica et Biophysica Acta
1483:15−36を参照のこと)。脂質と接触する際、このタンパク質は、液体相互作用に適応するためにその構造を適合させる、コンフォメーションの変化を起こす。
【0030】
一般的に、このアポリポタンパク質と粒子中の脂質二重層との間の主要な相互作用は、アポリポタンパク質分子の両親媒性α−ヘリックスの疎水性の面上の残基と脂質の疎水性表面、例えば、リン脂質の脂肪酸のアシル鎖との間の、この生物活性因子送達粒子の周縁におけるこの二重層の端面における疎水性相互作用によるものである。アポリポタンパク質分子の両親媒性α−ヘリックスは、この粒子の周縁における脂質二重層の疎水性表面と接触する疎水性表面、およびこの粒子の外側に面し、そして粒子が水性媒体中に懸濁された場合にその水性の環境と接触する親水性表面の両方を含む。いくつかの実施形態において、アポリポタンパク質は、両親媒性β−シート構造を含み得、ここでこのβ−シートの疎水性残基は、上記円盤の周縁にて脂質の疎水性表面と相互作用する。
【0031】
生物活性因子送達粒子は、多くの場合、1粒子あたり約1分子〜約10分子の1つ以上の型のアポリポタンパク質を含む。粒子中のアポリポタンパク質に起因する両親媒性α−ヘリックスの量は、一般的に、上記円盤形脂質二重層の端面に位置する脂質分子の他の露出した疎水性表面(すなわち、上記粒子の周縁)を覆うのに十分である。アポリポタンパク質が、ヒトのアポリポタンパク質A−I(ApoA−I)であり、脂質二重層が、およびパルミトイルオレオイルホスファチジルコリンを含む1つの実施形態では、粒子は、約1分子のApoA−Iに対して約80分子のリン脂質の比で、2つのApoA−I分子を含む。
【0032】
本発明の送達粒子の形成に使用され得るアポリポタンパク質の例としては、ApoA−I、アポリポタンパク質E(ApoE)、およびアポリポタンパク質III(ApoIII)、アポリポタンパク質A−IV(ApoA−IV)、アポリポタンパク質A−V(ApoA−V)、アポリポタンパク質C−I(ApoC−I)、アポリポタンパク質C−II(ApoC−II)、アポリポタンパク質C−III(ApoC−III)、アポリポタンパク質D(ApoD)、アポリポタンパク質A−II(ApoA−II)、アポリポタンパク質B−100(ApoB−100)、アポリポタンパク質J(ApoJ)、アポリポタンパク質H(ApoH)、もしくはそれらのフラグメント、天然の改変体、アイソフォーム、アナログまたはキメラ形態が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記アポリポタンパク質は、ヒトApoA−Iである。他の実施形態において、上記アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質E3のC末端ドメインもしくはN末端ドメイン、またはそのアイソフォームである。いくつかの実施形態において、上記アポリポタンパク質は、合成的にかまたは組換え的に結合された機能的部分(例えば、このアポリポタンパク質に本来備わっていない、標的部分または生物学的活性を有する部分)を含む(例えば、図7を参照のこと)。
【0033】
いくつかの実施形態において、交換可能なアポリポタンパク質が、使用される。「交換可能なアポリポタンパク質」は、上記粒子の完全性を破壊せずに、脂質に対する結合親和力を有する別のタンパク質または別のペプチドによって、本発明の形成された円板状粒子から置換され得る。交換可能なアポリポタンパク質としては、脂質と安定な結合相互作用を形成し得る、合成もしくは天然のペプチドまたはタンパク質が挙げられる。12種を超える固有の交換可能なアポリポタンパク質が、脊椎動物および無脊椎動物の両方において同定されてきた(例えば、上述のNarayanaswamiおよびRyanを参照のこと)。
【0034】
いくつかの実施形態において、交換不可能なアポリポタンパク質が、使用される。本明細書中で使用される場合、「交換不可能なアポリポタンパク質」は、上記粒子の本来の構造を破壊せずに、脂質の表面と安定な相互作用を形成し、そして本発明の粒子のリン脂質二重層を安定化するために機能し得るが、この粒子の表面から除去され得ないタンパク質またはペプチドを称する。
【0035】
(生物活性因子)
上記送達粒子は、1つ以上の生物活性因子を含む。本明細書中で使用される場合、「生物活性因子」は、生物学的(治療的または診断的が挙げられる)活性を有する、任意の化合物または任意の組成物を称する。生物活性因子は、医療上の処置、診断、または予防に有用である薬学的因子、薬物、化合物または組成物であり得る。
【0036】
本明細書中に記載されるように送達粒子中に取り込まれる生物活性因子は、一般的に、脂質二重層の疎水性部分に結合し得るかまたはその中に組み込まれ得る、少なくとも1つの疎水性(例えば、親油性)領域を含む。いくつかの実施形態において、この生物活性因子の少なくとも1つの部分は、この送達粒子の内側中の脂質分子間に挿入される。本発明の送達粒子中に取り込まれ得る生物活性因子の例としては、抗生物質または抗菌(例えば、抗細菌、抗真菌、および抗ウイルス)剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍剤、ステロイド、ペプチド、タンパク質(例えば、細胞のレセプタータンパク質、酵素、ホルモン、神経伝達物質)、放射標識(例えば、放射性同位体、および放射性同位体で標識した化合物)、蛍光化合物、麻酔剤、生物活性脂質、抗癌剤、抗炎症剤、栄養分、抗原、農薬、殺虫剤、除草剤、または光ダイナミック療法に使用される感光剤が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、この生物活性因子は、抗真菌剤のAmBである。他の実施形態において、この生物活性因子は、カンプトテシン、オールtransレチノイン酸、アナマイシン(annamycin)、ニスタチン、パクリタキセル、ドセタキセル、またはエチオプルプリン(etiopurpurin)である。少なくとも1つの疎水性領域を含む生物活性因子は、当該分野において公知であり、そしてその生物活性因子としては、イブプロフェン、ジアゼパム、グリセオフルビン、シクロスポリン、コルチゾン、プロリューキン(proleukin)、エトポシド、タキサン、α−トコフェロール、ビタミンE、ビタミンA、およびリポ多糖類が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Kagkadisら、(1996)PDA J Pharm Sci Tech 50(5):317−323;Dardel(1976)Anaesth Scand 20:221−24;SweetanaおよびAkers(1996)PDA J Pharm Sci Tech 50(5):330−342;米国特許第6,458,373号を参照のこと。
【0037】
いくつかの実施形態において、本発明の送達粒子中に取り込まれた生物活性因子は、非ポリペプチドである。いくつかの実施形態において、個体に対する投与に関して、生物活性因子およびこの生物活性因子を含有する上記送達粒子は、個体に対して投与される場合、実質的に非免疫原性である。
【0038】
いくつかの実施形態において、本発明の送達粒子中に取り込まれ得る生物活性因子は、水性媒体中の上記生物活性因子の溶解性と比較して、改良された溶解性を示す。多くの場合、送達粒子中への処方は、この生物活性因子を含有する水性組成物の濁度の減少を生じる。このことは、多くの場合、送達粒子中への処方の際の、上記生物活性因子に関する変化した分光学的プロフィールに反映される。濁度の減少は、試料の光学密度の測定によって検出および/または定量化され得る。
【0039】
本発明は、脂質結合性ポリペプチド、脂質二重層、および生物活性因子を含む生物活性因子送達粒子を提供し、この脂質二重層の内側は、疎水性領域を含み、この生物活性因子は、この脂質二重層の疎水性領域と結合、そしてこの生物活性因子送達粒子は、水性媒体単独中の生物活性因子(すなわち、生物活性因子送達粒子中に処方されない)よりも、水性媒体に対してより大きい溶解性で、生物活性因子を含む。1つの実施形態において、AmBは、水性媒体中よりも送達粒子中において、より大きい水溶性を示す。別の実施形態において、カンプトテシンは、水性媒体中よりも送達粒子中において、より大きい水溶性を示す。
【0040】
本発明はまた、送達粒子中への生物活性因子の取り込みによって、送達粒子中への取り込みを伴わない水性媒体中よりも、より大きい溶解性を有する生物活性因子を含有する薬学的組成物を提供する。いくつかの実施形態において、上昇した溶解性は、遠心分離の際の沈殿物質の減少、減少した光散乱、および/または減少した固体物質を濾過する能力によって観察され得る。いくつかの実施形態において、生物活性因子の改良された溶解性は、送達粒子中への処方を伴わないか、または異なる処方物(例えば、水性処方物、リポソーム処方物、コロイド懸濁液、蝸牛状物(cochleate)、もしくはシクロデキストリンとの複合体)での投与で、可能および/あるいは有効であるよりも、より低い投薬量での生物活性因子の投与を可能にする。いくつかの実施形態において、生物活性因子の改良された溶解性は、哺乳動物の個体(例えば、ヒトの個体)のような個体に対して投与される場合、生物活性因子が、送達粒子中への処方を伴わないか、または異なる処方物(例えば、水性処方物、リポソーム処方物、コロイド懸濁液、蝸牛状物もしくはシクロデキストリンとの複合体)で投与される場合よりも、より低い毒性および/または改良された毒性プロフィールを生じる。いくつかの実施形態において、生物活性因子の上記改良された溶解性は、哺乳動物の個体(例えば、ヒトの個体)のような個体に対して投与される場合、生物活性因子が、送達粒子中への処方を伴わないか、または異なる処方物(例えば、水性処方物、リポソーム処方物、コロイド懸濁液、蝸牛状物、もしくはシクロデキストリンとの複合体で投与される場合よりも、より大きい有効性を生じる。
【0041】
(脂質二重層)
本発明の粒子は、脂質二重層を含み、この粒子は、一般的に、この粒子の内側から離れる方向を向く極性の頭部基、ならびに二重層を形成する脂質(単数または複数)および他の脂質成分(存在する場合)の疎水性部分を含む、この脂質二重層の疎水性領域を含む上記粒子の内側(すなわち、円形面の間の隙間)を含む円盤の円形の表面を有する。この二重層の端面における脂質分子の疎水性表面(生物活性因子送達粒子の円周の表面)は、上記で議論されるように、この粒子の脂質結合性ポリペプチドと接触する。粒子は、1つ以上の型の二重層を形成する脂質、または1つ以上の型の二重層を形成する脂質と1つ以上の型の二重層を形成しない脂質との混合物を含み得る。本明細書中で使用される場合、「脂質」は、有機溶媒に可溶であるかもしくは部分的に可溶であるか、または水相中に存在する場合、疎水的環境へと分離する、生物学的起源あるいは合成的起源の物質を称する。
【0042】
脂質結合性ポリペプチドと結合して円盤形構造を形成し得る任意の二重層を形成する脂質は、本発明によって使用され得る。本明細書中で使用される場合、「二重層を形成する脂質」とは、疎水性の内側および親水性の外側を有する脂質二重層を形成し得る脂質を称する。二重層を形成する脂質としては、リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、アルキルリン脂質、エーテル脂質、およびプラスマロゲンが挙げられるが、これらに限定されない。1つの型の二重層を形成する脂質が使用されても2つ以上の型の混合物が使用されてもよい。いくつかの実施形態において、この脂質二重層は、リン脂質を含む。適切なリン脂質の例としては、DMPC、DMPG、POPC、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、カルジオリピン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、卵黄ホスファチジルコリン(egg PC)、大豆のホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン、およびカチオン性のリン脂質が挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な二重層を形成する脂質の例としては、カチオン性の脂質、および糖脂質が挙げられる。1つの実施形態において、この粒子は、多くの場合、約7:3のモル比で、DMPCのリン脂質二重層およびDMPGのリン脂質二重層を含む。別の実施形態において、この粒子は、POPCのリン脂質二重層を含む。いくつかの実施形態において、二重層を形成する脂質の混合物が、少なくとも約1:100、約1:50、約1:20、約1:10、約1:5、約3:7、約1:2、または約1:1のいずれかのモル比で使用され得る。
【0043】
粒子はまた、二重層を形成しない脂質である脂質を含み得る。このような脂質としては、コレステロール、カルジオリピン、ホスファチジルエタノールアミン(この脂質は、特定の状況下で二重層を形成し得る)、オキシステロール、植物のステロール、エルゴステロール、シトステロール、カチオン性の脂質、セレブロシド、スフィンゴセリン、セラミド、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、トリアシルグリセロール、ガングリオシド、エーテル脂質、アルキルリン脂質、プラスマロゲン、プロスタグランジン、およびリゾリン脂質が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、送達粒子の調製に使用される脂質は、1つ以上の結合された機能的部分(例えば、標的部分、生物活性因子、または精製もしくは検出のためのタグ)を含み得る。
【0044】
(キメラの脂質結合性ポリペプチド)
本発明は、キメラの脂質結合性ポリペプチドを提供し、この脂質結合性ポリペプチドは、上記の送達粒子を調製するために使用され得る。キメラの脂質結合性ポリペプチドは、1つ以上の結合した「機能的部分」(例えば、1つ以上の標的部分、所望の生物学的活性を有する部分、精製を支援する親和性タグ、および/または特徴付けの研究もしくは局在性の研究のためのレポーター分子)を含み得る。生物学的活性を有する結合した部分は、上記送達粒子中に取り込まれる生物活性因子の生物学的活性によって、増大し得るかそして/または相乗効果を与えられ得る活性を有し得る。例えば、生物学的活性を有する部分は、抗菌(例えば、抗真菌、抗細菌、抗原生動物、静菌、静真菌、または抗ウイルス)活性を有し得る。1つの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドの結合された機能的部分は、上記脂質結合性ポリペプチドが生物活性因子送達粒子中に取り込まれる場合、脂質二重層の疎水性表面と接触しない。別の実施形態において、結合された機能的部分は、上記脂質結合性ポリペプチドが生物活性因子送達粒子中に取り込まれる場合、脂質二重層の疎水性表面と接触する。いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドの機能的部分は、天然のタンパク質に本来備わっているものである。いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドは、細胞表面のレセプターもしくは他の細胞表面の部分によって認識されるリガンドもしくは配列、またはそれらのレセプターもしくは他の細胞表面の部分と相互作用し得るリガンドまたは配列を含む。
【0045】
いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドは、キメラアポリポタンパク質である。1つの実施形態において、キメラアポリポタンパク質は、例えば、S.cerevisiaeのα−接合因子ペプチド、葉酸、トランスフェリン、またはラクトフェリンのようなネイティブなアポリポタンパク質に本来は備わっていない標的部分を含む。別の実施形態において、キメラアポリポタンパク質は、上記生物活性因子送達粒子中に取り込まれる生物活性因子(例えば、ヒスタチン−5、マゲイニンペプチド、メリチン、ディフェンシン、コリシン、N末端のラクトフェリンペプチド、エキノカンジン、ヘプシジン、バクテニシン(bactenicin)、またはシクロスポリンのような)の活性によって増大しそして/または相乗効果を与えられる所望の生物学的活性を有する部分を含む。1つの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドは、アポリポタンパク質に本来備わっている機能的部分を含み得る。アポリポタンパク質の本来備わっている機能的部分の1つの例は、ヒトApoEのアミノ酸130〜アミノ酸150によって、ほぼ形成される本来備わっている標的部分であり、この部分は、低密度リポタンパク質レセプターファミリーのメンバーによって認識されるレセプター結合領域を含む。アポリポタンパク質の本来備わっている機能的部分の他の例としては、低密度リポタンパク質レセプターと相互作用するApoB−100の領域およびスカベンジャーレセプターB1型と相互作用するApoA−Iの領域が挙げられる。他の実施形態において、機能的部分は、合成的または組換え的に付加されてキメラの脂質結合性ポリペプチドを生成し得る。
【0046】
本明細書中で使用される場合、「キメラの」は、分離して存在でき、そして一緒に結合されて、その構成分子の全ての所望の機能を有する単一分子を形成し得る2以上の分子を称する。このキメラ分子の構成分子は、化学的接合、またはこの構成分子が、全てポリペプチドまたはそのアナログであり、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、単一の連続的なポリペプチドを発現するように、組換え的に1つに融合され得ることによって合成的に結合され得る。このようなキメラ分子は、融合タンパク質と称される。「融合タンパク質」は、その構成分子が、全てポリペプチドであり、そしてこのキメラ分子が、連続的な単一鎖を形成するように、互いに結合される(融合される)キメラ分子である。種々の構成物は、互いに直接結合されてもよく、また1つ以上のリンカーを介して結合されてもよい。
【0047】
「リンカー」または「スペーサー」は、キメラ分子に関して本明細書中で使用される場合、上記キメラ分子の構成分子を連結するかまたは結合する任意の分子を称する。多くのリンカー分子が、市販されている(例えば、Pierce Chemical Company、Rockford Illinoisから)。適切なリンカーは、当業者に周知であり、そしてこのリンカーとしては、直鎖または分子鎖の炭素リンカー、複素環式炭素リンカー、またはペプチドリンカーが挙げられるが、これらに限定されない。このキメラ分子が、融合タンパク質である場合、このリンカーは、融合タンパク質を含むタンパク質を結合するペプチドであり得る。スペーサーは、一般的に、上記タンパク質を結合するか、もしくは任意の最小限の距離を維持する以外の特定の生物学的活性、またはそれらの間に他の空間的な関係を有さないが、ペプチドスペーサーの構成的アミノ酸は、折り畳み、正味電荷、または疎水性のような分子のいくつかの特性に影響するように選択され得る。
【0048】
いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチド(例えば、キメラアポリポタンパク質)は、この脂質結合性ポリペプチド分子と結合されるべき機能的部分とを、化学的に接合することによって調製される。分子を化学的に接合する手段は、当業者に周知である。このような手段は、結合されるべき部分の構造によって変わるが、これは、当業者にとって容易に確認可能である。
【0049】
ポリペプチドは、代表的に種々の官能基(例えば、カルボン酸(−COOH)、遊離型のアミノ(−NH2)基、またはスルフヒドリル(−SH)基を含み、これらは、上記機能的部分またはその部分をそこに結合するリンカー上の適切な官能基との反応に利用可能である。機能的部分は、N末端、C末端、またはアポリポタンパク質分子の内部残基(すなわち、N末端とC末端との間に介在する位置にある残基)上の官能基にて結合され得る。あるいは、このアポリポタンパク質および/またはタグ付けされる部分は、誘導体化されて、さらなる反応性官能基を曝し得るか、またはさらなる反応性官能基を結合し得る。
【0050】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドの機能的部分を含む脂質結合性ポリペプチド融合タンパク質は、組換え体発現系を使用して合成される。代表的に、これは、発現した場合に、2つのポリペプチドがフレーム内にあるように、この脂質結合性ポリペプチドおよびこの機能的部分をコードする核酸(例えば、DNA)配列を生成する工程、このDNAをプロモーターの制御下に配置する工程、宿主細胞中でタンパク質を発現させる工程、および発現したタンパク質を単離する工程を包含する。
【0051】
脂質結合性ポリペプチド配列および本明細書中に記載されるような機能的部分をコードする配列は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写ベースの増幅システム(TAS)または自己持続型配列複製システム(SSR)のようなインビトロの方法によって、クローニングされても増幅されてもよい。多種多様なクローニングの方法論およびインビトロの増幅の方法論は、当業者に周知である。インビトロの増幅方法によって当業者を導くのに十分な技術の例は、例えば、Mullisら、(1987)米国特許第4,683,202号;PCR Protocols A Guide to Methods and Applications(Innisら編)Academic Press Inc.San Diego,CA(1990)(Innis);Arnheim & Levinson(1990年10月1日)C&EN 36−47;The Journal Of NIH Research(1991)3:81−94;(Kwohら、(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173;Guatelliら、(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,1874;Lomellら、(1989)J.Clin.Chem.,35:1826;Landegrenら、(1988)Science,241:1077−1080;Van Brunt(1990)Biotechnology,8:291−294;WuおよびWallace,(1989)Gene,4:560;ならびにBarringerら、(1990)Gene,89:117に見出される。
【0052】
さらに、所望の融合タンパク質配列をコードするDNAは、当業者に周知の方法を使用して合成的に調製され得、これらの方法としては、例えば、Narangら、(1979)Meth.Enzymol.68:90−99のホスホトリエステル法、Brownら、(1979)Meth.Enzymol.68:109−151のホスホジエステル法、Beaucageら、(1981)Tetra.Lett.,22:1859−1862のジエチルホスホラミダイト法または米国特許第4,458,066号の固体支持体法のような方法による直接化学合成が挙げられる。
【0053】
キメラの脂質結合性ポリペプチド融合タンパク質をコードする核酸は、宿主細胞中の発現に適した形態の、組換え体発現ベクター中に取り込まれ得る。本明細書中で使用される場合、「発現ベクター」は、適切な宿主細胞中に導入される場合、転写され得、そしてポリペプチドへ翻訳され得る核酸である。このベクターはまた、プロモーター、エンハンサー、または他の発現制御要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)のような調節配列を含む。このような調節配列は、当業者に公知である(例えば、Goeddel(1990)Gene Expression Technology:Meth.Enzymol.185,Academic Press,San Diego,CA;BergerおよびKimmel,Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods in Enzymology 152 Academic Press,Ink.,San Diego,CA;Sambrookら、(1989)Molecular Cloning−A Laboratory Manual(第2版)第1巻〜第3巻、Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Press,NYなどを参照のこと)。
【0054】
いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドの生成のための組換え体発現ベクターは、プラスミドまたはコスミドである。他の実施形態において、この発現ベクターは、ウイルスの核酸中に導入された核酸によってコードされたタンパク質を発現し得るウイルス、またはその一部である。例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスが、使用され得る。発現ベクターは、バクテリオファージ(全てのDNAファージおよび全てのRNAファージ(例えば、コスミド)を含む)、または全ての真核細胞のウイルス(例えば、バキュロウイルスおよびレトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスおよび全ての1本鎖DNAウイルス、2本鎖DNAウイルス、および部分的2本鎖DNAウイルス、全ての+(positive)鎖RNAウイルスおよび−(negative)鎖RNAウイルス、および複製欠損レトロウイルス)に由来するウイルスベクターに由来し得る。発現ベクターの別の例は、酵母人工染色体(YAC)であり、これは、YACを小さい直鎖状染色体として複製し得るセントロメアおよび2つのテロメアの両方を含む。別の例は、細菌人工染色体(BAC)である。
【0055】
本発明のキメラの脂質結合性ポリペプチド融合タンパク質は、宿主細胞中で発現され得る。本明細書中で使用される場合、用語「宿主細胞」とは、上記のような、キメラのアポリポタンパク質融合タンパク質の生成のための組換え体発現ベクターが、発現のためにトランスフェクトされ得る、任意の細胞または任意の細胞株を称する。宿主細胞としては、単一の宿主細胞の子孫が挙げられ、この子孫は、自然突然変異、偶発的変異、または意図的変異に起因して、必ずしも元の親細胞と完全に同一(形態学または全ゲノムDNAの相補性において)ではあり得ない。宿主細胞としては、上記のような発現ベクターによってインビボで、トランスフェクトされた細胞、または形質転換された細胞が挙げられる。適切な宿主細胞としては、細菌細胞(例えば、E.coli)、真菌細胞(例えば、S.cerevisiae)、無脊椎動物細胞(例えば、SF9細胞のような昆虫細胞)、および哺乳動物細胞を含む脊椎動物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
キメラの脂質結合性ポリペプチド融合タンパク質をコードする発現ベクターは、標準的な技術を使用して宿主細胞中にトランスフェクトされ得る。「トランスフェクション」または「形質転換」とは、宿主細胞中への外因性のポリヌクレオチドの挿入を称する。この外因性のポリヌクレオチドは、例えば、プラスミドのような非一体化型のベクターとして維持され得るか、または代替的に、宿主細胞のゲノム中に一体化され得る。トランスフェクション技術の例としては、リン酸カルシウム共沈、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーションおよびマイクロインジェクションが挙げられるが、これらに限定されない。宿主細胞をトランスフェクトするための適切な方法は、Sambrookら、(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory pressおよび他の実験室の教科書に見出され得る。核酸はまた、レトロウイルスベクター(例えば、Ferryら、(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:8377−8381;およびKayら、(1992)Human Gene Therapy 3:641−647を参照のこと)、アデノウイルスベクター(例えば、Rosenfeld(1992)Cell 68:143−155;ならびにHerzおよびGerard(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:2812−2816を参照のこと)、レセプターを介したDNAの取り込み(例えば、WuおよびWu、(1988)J.Biol.Chem.263:14621;Wilsonら、(1992)J.Biol.Chem.267:963−967;および米国特許第5,166,320号を参照のこと)、DNAの直接注入(例えば、Acsadiら、(1991)Nature 332:815−818;およびWolffら、(1990)Science 247:1465−1468)または微粒子銃(particle bombardment)(遺伝子銃(biolistics))(例えば、Chengら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:4455−4459;およびZeleninら、(1993)FEBS Letts.315:29−32を参照のこと)を介するような、インビボにおける細胞中への核酸の導入に適した送達機構を介して、細胞中に輸送され得る。
【0057】
一旦発現されると、上記キメラの脂質結合性ポリペプチドは、当該分野において標準的な手順(アフィニティー精製、硫酸アンモニウム沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、またはゲル電気泳動が挙げられるが、これらに限定されない)によって精製され得る。
【0058】
いくつかの実施形態において、キメラの脂質結合性ポリペプチドは、細胞を含まない発現システムを使用してか、または固体ペプチド合成を介して生成され得る。
【0059】
(修飾された脂質結合性ポリペプチド)
本発明のいくつかの実施形態において、このポリペプチドが、上記のような生物活性因子送達粒子中に取り込まれる場合、修飾が、この粒子の安定性を上昇させるか、または標的化能力を与えるように修飾された脂質結合性ポリペプチドが、提供される。いくつかの実施形態において、この修飾は、粒子の上記脂質結合性ポリペプチドが、粒子の円盤形構造またはコンフォメーションを安定化するのを可能にする。1つの実施形態において、この修飾としては、分子内ジスルフィド結合または分子間ジスルフィドの形成を可能にするアポリポタンパク質分子中へのシステイン残基の導入(例えば、部位特異的変異誘発による)が挙げられる。別の実施形態において、化学的架橋化剤が使用されて、アポリポタンパク質分子の間に分子間の連結が形成され、上記粒子の安定性を向上させる。分子間架橋は、この粒子からのアポリポタンパク質分子の解離を防ぐか、もしくは減少し、そして/またはこの粒子が、投与される個体内のアポリポタンパク質分子による置換を防ぐ。
【0060】
他の実施形態において、脂質結合性ポリペプチドは、細胞の表面レセプターに対する標的化能力もしくは細胞の表面レセプターによる認識を与える、1つ以上のアミノ酸残基の化学的な誘導体化、または部位特異的変異誘発のいずれかによって修飾される。
【0061】
(個体に対する生物活性因子の送達のための送達システム)
本発明は、個体に対する生物活性因子の送達のための送達システムを提供し、このシステムは、上記のような生物活性因子送達粒子およびキャリアを含み、必要に応じて薬学的に受容可能なキャリアを含む。いくつかの実施形態において、この送達システムは、有効量の上記生物活性因子を含む。
【0062】
本明細書中で使用される場合、「個体」は、生物活性因子を送達することが所望される、任意の原核生物または任意の真核生物を称する。いくつかの実施形態において、この個体は、細菌のような原核生物である。他の実施形態において、この個体は、真菌、植物、無脊椎動物(例えば、昆虫)、または脊椎動物のような真核生物である。いくつかの実施形態において、この個体は、ヒト、非ヒト霊長類、実験動物(例えば、マウスもしくはラット)、愛玩動物(例えば、ネコもしくはイヌ)、または家畜(例えば、ウマ、ヒツジ、ウシ、もしくはブタ)、トリ(すなわち、鳥類の個体)、または爬虫類(すなわち、爬虫類の個体)などの脊椎動物である。
【0063】
いくつかの実施形態において、送達粒子は、個体に対する投与に適したキャリア中に処方される。本明細書中で使用される場合、「キャリア」は、生物活性因子の投与を容易にする相対的に不活性な物質を称する。例えば、キャリアは、上記組成物に、形態または粘稠度を与え得るか、または希釈剤として作用し得る。「薬学的に受容可能なキャリア」は、生体適合性(すなわち、この宿主に対して有毒ではない)であり、そして薬理学的に有効な物質についての投与の特定の経路に適するキャリアを称する。適切な薬学的に受容可能なキャリアとしては、安定化剤、湿潤剤および乳化剤、容量オスモル濃度を変えるための塩、カプセル化剤、緩衝液、ならびに皮膚浸透促進剤が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に受容可能なキャリアの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Alfonso R.Gennaro,編、第18版、1990)に記載される。
【0064】
本明細書中で使用される場合、「有効量」は、所望の結果を達成するのに十分な、生物活性因子の量を称する。「治療有効量」または「治療用量」は、有益な臨床的結果(例えば、疾患の症状の軽減または緩和、真菌感染もしくは細菌感染の軽減または緩和などのような)を達成するのに十分な生物活性因子の量を称する。
【0065】
いくつかの実施形態において、上記送達システムは、生物活性因子送達粒子および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物である。いくつかの実施形態において、この薬学的組成物は、ポリペプチドではない生物活性因子および薬学的に受容可能なキャリアを含む生物活性因子送達粒子を含有する。いくつかの実施形態において、この生物活性因子送達粒子およびこの生物活性因子は、個体に対して投与される場合、非免疫原性である。免疫原性は、当該分野において周知の方法によって測定され得る。例えば、免疫原性は、ELISA法によって(例えば、生物活性因子送達粒子が、免疫吸着プレートに結合される当量の生物活性因子送達粒子に結合する抗体のために投与された個体由来の血清を精査することによって)評価され得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、本発明は、生物活性因子送達粒子を含有する薬学的組成物を提供し、この生物活性因子は、この送達粒子中への生物活性因子の取り込みによって、この送達粒子中への取り込みを伴わない水性媒体中の上記生物活性因子より、水性溶媒に対して、より大きい溶解度を示す。いくつかの実施形態において、本発明は、生物活性因子送達粒子を含有する薬学的組成物を提供し、この生物活性因子は、哺乳動物の個体(例えば、ヒトの個体)のような個体に対して投与される場合、生物活性因子送達粒子中への処方を伴わないか、または異なる処方物(例えば、水性処方物、リポソーム処方物)、コロイド懸濁液、蝸牛状物、もしくはシクロデキストリンとの複合体)で投与されるよりも、より低い毒性および/または改良された毒性プロフィールを示す。いくつかの実施形態において、本発明は、生物活性因子送達粒子を含有する薬学的組成物を提供し、この生物活性因子は、生物活性因子送達粒子中への処方を伴わないか、または異なる処方物(例えば、水性処方物、リポソーム処方物)、水性処方物、リポソーム処方物、コロイド懸濁液、蝸牛状物、もしくはシクロデキストリンとの複合体)で投与されるよりも、状態(例えば、細菌感染または真菌感染のような感染、疾患の状態、腫瘍など)の処置において改良された有効性を示す。いくつかの実施形態において、改良された溶解性、毒性プロフィール、および/または有効性を有する生物活性因子は、AmBである。別の実施形態において、改良された溶解性、毒性プロフィール、および/または有効性を有する生物活性因子は、カンプトテシンである。
【0067】
(使用方法)
本発明は、個体に対して生物活性因子を投与するための方法を提供する。本発明の方法は、脂質結合性ポリペプチド、脂質二重層、および生物活性因子を含む、上記のような送達粒子を投与する工程を包含し、この粒子の内側は、この脂質二重層の疎水性表面を含む。必要に応じて、治療有効量の上記粒子が、投与され、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリア中で、治療有効量の上記粒子が、投与される。一般的に、この粒子は、ネイティブなポアを制限した勾配ゲル電気泳動によって測定された場合、約7〜約29nmの直径を有する円盤形である。代表的に、この生物活性因子は、少なくとも1つの疎水性領域を含み、この疎水性領域は、上記脂質二重層の疎水性領域中に一体化され得る。
【0068】
投与の経路は、投与されるべき生物活性因子の性質、個体、処置されるべき状態によって変わり得る。個体が哺乳動物である場合、一般的に投与は、非経口的である。投与の経路としては、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、経粘膜、経鼻、鞘内、局所的、および経皮が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、この粒子は、エアロゾルとして投与される。送達粒子は、個体に対する投与のための薬学的に受容可能な形態(必要に応じて薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤中で)で処方され得る。本発明は、非経口投与ための溶液中の送達粒子の形態である薬学的組成物を提供する。このような組成物の調製に関して、当該分野において周知の方法が、使用され得、そして任意の薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、賦形剤、または当該分野で通常使用される他の添加剤が使用され得る。
【0069】
本発明の送達粒子は、適切な医療用キャリアまたは医療用希釈剤との組み合わせによって、薬学的組成物中に作製され得る。例えば、この送達粒子は、注射用溶液の調製に通常使用される溶媒(例えば、生理的食塩水、水、または水性デキストロース(のような))中に可溶化され得る。他の適切な薬学的キャリアおよびその処方物は、上述のRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載される。このような処方物は、送達粒子を含み、そして必要に応じて乾燥粉末形態または凍結乾燥された粉末形態の賦形剤を含む滅菌したバイアル中に構成され得る。使用前に、この生理学的に受容可能な希釈剤が添加され、そしてこの溶液は、個体に対する投与のために注射器によって採取される。
【0070】
送達粒子はまた、徐放のために処方され得る。本明細書中で使用される場合、「徐放」は、個体中の上記因子の血中濃度が、延長された持続時間(時間、日、週、またはそれより長い階級の期間にわたる)の間、治療域内に維持される速度での、処方物からの生物活性因子の放出を称する。送達粒子は、生体内分解性の制御用マトリックスまたは生体内非分解性の制御用マトリックス中に処方でき、多数のこれらのマトリックスが、当該分野において周知である。徐放用マトリックスとしては、合成ポリマーまたは合成コポリマー(例えば、ヒドロゲルの形態にある)が挙げられ得る。このようなポリマーの例としては、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ無水物、多糖類、ポリ(ホスホエステル)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ(イミドカーボネート)およびポリ(ホスファゼン)、ならびにポリ−ラクチド−コ−グリコリド(PLGA)、ポリ(乳酸)とポリ(グリコール酸)とのコポリマーが挙げられる。物質を含むコラーゲン、アルブミン、およびフィブリノゲンもまた、使用され得る。
【0071】
送達粒子は、本明細書中に記載される方法によって投与されて、多くの状態(細菌感染、真菌感染、疾患の状態、代謝障害が挙げられるが、これらに限定されない)を処置し得るか、または例えば細菌感染もしくは真菌感染を防ぐ予防的投薬法(例えば、手術前または手術後)として投与され得る。送達粒子は、例えば、抗腫瘍剤(例えば、化学療法剤、放射性核種)を腫瘍に送達するのに使用され得る。1つの実施形態において、この脂質結合性ポリペプチドは、特定の腫瘍に対して粒子を標的化する部分を含む。送達粒子はまた、栄養補助物質(すなわち、食品または健康の利益を提供する栄養補助食品)の投与のために使用され得る。いくつかの実施形態において、送達粒子は、他の通常療法と一緒に同時投与される(例えば、複数の薬物「カクテル」の一部として)か、または1つ以上の経口投与される因子(例えば、真菌感染の処置のための因子)との組み合わせで同時投与される。送達粒子はまた、殺虫剤または除草剤として投与され得る。
【0072】
1つの局面において、本発明はまた、個体において真菌感染を処置するための方法を提供する。本方法は、個体に対して薬学的に受容可能なキャリア中の治療有効量の抗真菌剤を投与する工程を包含し、この抗真菌剤は、脂質結合性ポリペプチドおよび脂質二重層を含む粒子中に取り込まれ、この脂質二重層の内側は、疎水性である。1つの実施形態において、この抗真菌剤は、AmBであり、これは、上記脂質二重層の疎水性の内側中に取り込まれる。いくつかの実施形態において、この脂質結合性ポリペプチドは、標的部分および/または生物学的活性を有する部分を含むキメラタンパク質である。1つの実施形態において、この脂質結合性ポリペプチドは、酵母のα−接合因子ペプチドのような標的部分を含む。別の実施形態において、この脂質結合性ポリペプチドは、抗微生物ペプチドであるヒスタチン5を含む。
【0073】
別の局面において、本発明は、個体において腫瘍を処置するための方法を提供する。本方法は、薬学的に受容可能なキャリア中にある上記のような生物活性因子送達粒子中の治療有効量の化学療法剤を投与する工程を包含する。1つの実施形態において、この化学療法剤は、カンプトテシンである。この送達粒子の脂質結合性ポリペプチド成分は、腫瘍細胞に対してこの粒子を標的化する標的部分を含み得る。1つの実施形態において、血管作動性腸管ペプチド(VIP)は、この脂質結合性ポリペプチドに結合される。乳癌細胞は、多くの場合、VIPレセプターを過剰発現するので、1つの実施形態において、カンプトテシンおよび脂質結合性ポリペプチド−VIPのキメラを含む生物活性因子送達粒子は、乳癌を処置するための方法に使用される。
【0074】
(標的化)
本発明の送達粒子は、標的化官能基(例えば、特定の細胞の型もしくは特定の組織の型、または感染性因子自体に対してこの粒子を標的化するための標的化官能基)を含み得る。いくつかの実施形態において、この粒子は、脂質結合性ポリペプチドまたは脂質成分に結合される標的部分を含む。いくつかの実施形態において、この粒子中に取り込まれるこの生物活性因子は、標的化能力を有する。
【0075】
いくつかの実施形態において、脂質結合性ポリペプチド(例えば、アポリポタンパク質分子)中にレセプターを認識する特性を操作することによって、上記粒子は、特定の細胞表面レセプターに対して標的化され得る。例えば、生物活性因子送達粒子は、この粒子の脂質結合性ポリペプチド成分を修飾して、それを標的化されるべき細胞型の表面上のレセプターと相互作用可能にすることによって特定の型の感染性因子を内部に有することが知られる特定の細胞型に対して標的化され得る。
【0076】
1つの局面において、レセプターを媒介した標的化の方法は、マクロファージに対して抗リーシュマニア属因子を送達するのに使用され得、このマクロファージは、リーシュマニア属による原生動物の寄生に対する感染の主要な部位である。このような種の例としては、Leishmania major、Leishmania donovani、およびLeishmania braziliensisが挙げられる。抗リーシュマニア因子を含む生物活性因子送達粒子は、この粒子の脂質結合性ポリペプチド成分を変化させて、マクロファージのエンドサイトーシスにおけるクラスAスカベンジャーレセプター(SR−A)による認識を与えることによって、マクロファージに対して標的化され得る。例えば、SR−Aと相互作用するように化学修飾または遺伝子改変されたアポリポタンパク質は、リーシュマニア種に対して有効である1つ以上の生物活性因子(例えば、AmB、5価アンチモン、および/またはヘキサデシルホスホコリンのような)を含む送達粒子中に取り込まれ得る。マクロファージに対して特異的な抗リーシュマニア因子を含む送達粒子の標的化は、リーシュマニア種の成長および増殖を阻害する手段として使用され得る。
【0077】
1つの実施形態において、AmBを含むSR−A標的化生物活性因子の送達粒子は、リーシュマニア感染に対する処置が必要な個体に投与される。別の実施形態において、ヘキサデシルホスホコリンのような別の抗リーシュマニア因子は、このAmB含有粒子による処置前、処置中、または処置後に投与される。
【0078】
いくつかの実施形態において、標的化は、上記生物活性因子送達粒子中に取り込まれるべき脂質結合性ポリペプチド(例えば、アポリポタンパク質)を修飾して、それによってこの粒子にSR−A結合能力を与えることによって達成される。いくつかの実施形態において、標的化は、1つ以上のリジン残基を、例えば、アルカリ性のpHにて、マロンジアルデヒド、無水マレイン酸、または無水酢酸で化学修飾することによって、この脂質結合性ポリペプチドの電荷密度を変化させること(例えば、Goldsteinら、(1979)Proc.Natl.Acad.Sci.98:241−260を参照のこと)によって達成される。1つの実施形態において、Apo B−100またはその短縮形態(例えば、ApoB−100のN末端の17%(apoB−17の残基1〜782))は、マロンジアルデヒドとの反応によって修飾される。他の実施形態において、アポリポタンパク質分子(例えば、本明細書中に記載されるアポリポタンパク質のいずれか)もまた、例えば、アセチル化またはマレイル化によって化学修飾され、そして抗リーシュマニア因子を含む生物活性因子送達粒子に組み込まれ得る。
【0079】
他の実施形態において、SR−A結合能力は、1つ以上の正に荷電したアミノ酸を中性のアミノ酸または負に荷電したアミノ酸で置換する部位特異的変異誘発によって、この脂質結合性ポリペプチドを修飾することによって送達粒子に与えられる。
【0080】
他の実施形態において、SR−Aによる認識は、SR−Aもしくは高濃度の負に荷電した残基を有するアミノ酸配列によって認識されるリガンドを有する、N末端の伸長またはC末端の伸長を含むキメラの脂質結合性ポリペプチドを調製することにより与えられる。負に荷電したポリペプチドの伸長は、この生物活性因子送達粒子の脂質表面に結合されず、従って、この粒子を、上記レセプターのリガンド結合部位に、より到達できるようにする。
【0081】
(生物活性因子送達粒子を調製するための方法)
本発明は、生物活性因子送達粒子を処方するための方法を提供する。1つの実施形態において、二重層を形成する脂質および生物活性因子分子を含む混合物に脂質結合性ポリペプチド分子を添加する工程を包含するプロセスが、提供される。
【0082】
いくつかの実施形態において、上記脂質−生物活性因子混合物はまた、界面活性剤(例えば、コール酸ナトリウム、コール酸、またはオクチルグルコシドのような)を含み、そしてこのプロセスは、上記脂質結合性ポリペプチドが添加された後に、この界面活性剤を除去する工程をさらに包含する。代表的に、この界面活性剤は、透析またはゲル濾過によって除去される。1つの実施形態において、このプロセスは、二重層を形成する脂質と生物活性因子分子を溶媒中で組み合わせて生物活性因子混合物を形成する工程、この混合物を乾燥(例えば、N2の流れの下および/または凍結乾燥によって)して溶媒を除去する工程、この乾燥した混合物を、界面活性剤を含む溶液と接触させて脂質−生物活性因子−界面活性剤混合物を形成する工程、この混合物に脂質結合性ポリペプチド分子を添加する工程、次いでこの界面活性剤を除去する工程を包含する。
【0083】
いくつかの実施形態において、上記粒子は、マイクロフルイダイザー(microfluidizer)プロセッサーを使用して調製される。この手順は、反応チャンバー中で上記成分を一緒に加圧する、高圧を利用する。
【0084】
いくつかの実施形態において、上記粒子は、脂質結合性ポリペプチド(例えば、アポリポタンパク質)の存在下で生物活性因子を含む脂質小胞の懸濁物のインキュベーションによって調製される。1つの実施形態において、この懸濁液は、超音波処理される。
【0085】
他の実施形態において、送達粒子は、予め形成された小胞分散物から調製される。脂質(例えば、リン脂質)は、緩衝液によって水和され、そして攪拌または超音波処理によって分散される。脂質二重層小胞の分散物に対して、可溶化された生物活性因子が適切な溶媒中で添加されて、脂質−生物活性因子複合体を形成する。いくつかの実施形態において、この溶媒は、脂質二重層小胞の分散物に対する生物活性因子の添加後の好都合な除去のために揮発性であるか、または透析可能である。さらなる攪拌の後、脂質結合性ポリペプチドが添加され、そしてこの試料は、インキュベートされ、攪拌によって混合され、そして/または超音波処理される。代表的に、この小胞およびアポリポタンパク質は、特定の二重層を形成する脂質または使用された二重層を形成する脂質の混合物の、液相−結晶相転移温度にてインキュベートされるか、またはその温度までのゲルの近くでインキュベートされる。この相転移温度は、熱量測定によって決定され得る。
【0086】
好ましくは、適切な二重層を形成する脂質組成物は、水性媒体中の分散の際、脂質小胞が、生物活性因子の沈殿または相分離を伴わずに、キャリア溶媒から水性環境中への生物活性因子の転移に対して適切な環境を提供するように使用される。この予め形成された脂質二重層小胞もまた、好ましくは本発明の送達粒子を形成するために脂質結合性ポリペプチド誘導性の変換を起こし得る。さらに、この脂質−生物活性因子複合体は、好ましくは、適切な条件下での脂質結合性ポリペプチドを伴うインキュベーションの際の、生物活性因子送達粒子への変換を可能にする脂質小胞の特性を維持する。脂質基質−生物活性因子複合体組織化と脂質結合性ポリペプチドの特性との固有の組み合わせは、システムを作製するために合わされ、それにより、pH、イオン強度、温度および脂質−生物活性因子−脂質結合性ポリペプチドの濃度の適切な条件下でこれらの物質の3次構造の再組織化が起こり、安定した脂質結合性ポリペプチドが取り囲む脂質二重層が、この二重層の脂質環境中に取り込まれた生物活性因子と共に生成される。異なる型のリン脂質小胞の円盤形粒子への変換を誘導する脂質結合性ポリペプチドの能力に対する、pH、イオン強度、および脂質結合性ポリペプチドの濃度の影響の議論に関しては、Weersら、(2001)Eur.J.Biochem.268:3728−35を参照のこと。
【0087】
上記のプロセスのいずれかによって調製された粒子は、さらに精製(例えば、透析、密度勾配遠心分離、および/またはゲル浸透クロマトグラフィーによって)され得る。
【0088】
生物活性因子送達粒子の処方のための調製方法において、この手順に使用された生物活性因子の、好ましくは少なくとも約70%が、より好ましくは少なくとも約80%が、なおより好ましくは少なくとも約90%が、なおより好ましくは少なくとも約95%が、上記粒子中に取り込まれる。
【0089】
本発明は、上記の方法のいずれかによって調製された生物活性因子送達粒子を提供する。1つの実施形態において、本発明は、上記の方法のいずれかによって調製された送達粒子および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物を提供する。
【0090】
(保存および安定性)
本発明の粒子は、多様な条件下において長時間安定である(例えば、図5を参照のこと)。粒子、または本発明の粒子を含む組成物は、室温、冷蔵されて(例えば、約4℃)、または凍結されて(例えば、約−20℃〜約−80℃)で保存され得る。それらは、溶液中または乾燥された状態(例えば、凍結乾燥された状態)で保存され得る。生物活性因子送達粒子は、不活性な雰囲気下において凍結乾燥された状態、凍結された状態、または4℃にて溶液中で保存され得る。粒子は、個体に対する生物活性因子の投与の方法における使用のために、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液または他の適切な緩衝液)のような液体媒体または例えば、薬学的に受容可能なキャリアのようなキャリア中に保存され得る。あるいは、粒子は、乾燥された形態、凍結乾燥された形態で保存され、次いで使用前に、液体媒体中に再構成され得る。
【0091】
(キット)
本明細書中に記載される試薬および粒子は、キット形態中に包装され得る。1つの局面において、本発明は、適切な包装中に送達粒子および/または送達粒子を調製するために有用な試薬を備えるキットを提供する。本発明のキットは、別個にか、または組み合わせにおいて以下のいずれかを備える:脂質結合性ポリペプチド(例えば、アポリポタンパク質)、リン脂質、生物活性因子、ベクター、試薬、酵素、宿主細胞ならびに/または組換え脂質結合性ポリペプチド(例えば、組換えアポリポタンパク質)および/もしくは脂質結合性ポリペプチドのキメラ(例えばアポリポタンパク質のキメラ)のクローニングおよび/または発現のための増殖培地、ならびに個体に対する投与のための送達粒子を処方するための試薬および/または薬学的に受容可能なキャリア。
【0092】
試薬または処方物の各々は、在庫の保存、または必要に応じて反応、培養、もしくは注射用媒体への交換もしくは追加に適した固体形態、液体の緩衝液、または薬学的に受容可能なキャリア中で供給される。適切な包装が、提供される。本明細書中で使用される場合、「包装」は、習慣的にシステム中で使用され、そして生物活性因子、または送達粒子(例えば、アポリポタンパク質分子、リン脂質、生物活性因子)を調製もしくは処方するための1つ以上の試薬の送達の方法において使用する、1つ以上の試薬あるいは成分(例えば、送達粒子)を定められた限度内に保持し得る固体マトリックスまたは固体物質を称する。このような物質としては、ガラス瓶およびプラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリカーボネート)瓶、バイアル、紙、プラスチック、およびプラスチックホイルでラミネート加工した包装材料などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
キットは、必要に応じて、本発明の方法および処方手順に有用であるさらなる構成要素(例えば、緩衝液、反応表面、または送達粒子を精製する手段)を提供する。
【0094】
さらに、上記キットは、必要に応じて、本発明の方法の実施(例えば、送達粒子の調製、処方および/または使用)のための、標識および/または指示を提供する説明書もしくは説明材料(すなわち、プロトコル)を備える。この教材は、代表的に記載された媒体または印刷物を含むが、それらは、これらの形式に限定されない。このような説明書を記録し、そして最終使用者にそれらを伝達し得る媒体は、本発明によって企図される。このような媒体としては、電気的記録媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学的媒体(例えば、CD ROM)などが挙げられるが、これらに限定されない。このような媒体は、このような説明書を提供するインターネットサイトについてのアドレスを含み得る。
【0095】
以下の実施例は、例示であり、本発明を限定しないことが意図される。
【実施例】
【0096】
(実施例1.ApoA−I−リン脂質−アムホテリシンB粒子の調製および特徴付け)
(組換えApoA−Iの調製)
組換えApoA−Iを、Ryanら、(2003)Protein Expression and Purification 27:98−103に記載されるように調製し、そしてApoA−I−リン脂質−AmB粒子を調製するために、以下に記載するように使用した。
【0097】
(ApoA−I−リン脂質−AmB粒子の調製)
ApoA−I−リン脂質−AmB粒子を以下のように調製した:
7:3のモル比の、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)を、クロロホルム:メタノール(3:1、v/v)中に溶解した。10mgの上記DMPC/DMPG混合物に、0.25mlのAmB(2mg/ml;酸性化したクロロホルム:メタノール(3:1、v/v)中に可溶化した)を添加した。この混合物を、N2ガス流下で乾燥して容器の壁上に薄いフィルムを形成した。その後、この乾燥した試料を、16時間凍結乾燥に供して、微量の溶媒を除去した。
【0098】
この乾燥した脂質混合物を、0.5mlのTris−生理食塩水緩衝液(10mMのTris塩基、150mMのNaCl、pH8)中に再懸濁し、そしてこの混合物を、30秒間ボルテックスした。
【0099】
この再懸濁した脂質混合物に、0.5mlの22mMコール酸ナトリウムを添加して、3分間ボルテックスした。この混合物を、10分ごとにボルテックスしながら37℃にて、1.25時間またはこの混合物が透明になるまでインキュベートした。この透明の溶液に、2mlの単離した組換えApoA−I(実施例1に記載したように調製した)を1.5mg/mlの濃度にて添加し、そしてこの混合物を、さらに1時間37℃にてインキュベートした。コール酸ナトリウムを除去するために、この試料を、24時間ごとに透析緩衝液を交換しながら72時間、4℃にて4リットルのTris−生理食塩水に対して透析した。
【0100】
この試料を、密度勾配超遠心分離によって、さらに精製した。この溶液を、1.5ml中の固体KBrの添加によって1.30g/mlの密度に調整した。この試料を、3mlの遠心管に移し、生理食塩水で表面を覆い(overlayer)、そして275,000×gにて3時間、Beckman L7−55遠心機で遠心分離した。
【0101】
(粒子の安定性)
この手順によって調製した粒子は、凍結乾燥した形態で3ヶ月を超えて安定であった。
【0102】
(粒子の特徴付け)
UV/可視光走査を、ApoA−I−リン脂質粒子(上記のように調製したが、AmBを添加しなかった)に対して行い、そしてAmB含有粒子についての走査と比較した。図1は、AmBを含まない粒子についての走査を示す。観察された唯一のピークは、280nm付近におけるタンパク質のピークであった。図2は、上記のように調製したAmB含有粒子についての走査を示す。280nm付近におけるピークに加えて、多くのさらなるピークが、300〜400nm領域のスペクトル中に観察され、AmBの存在を確認した。遊離のAmBは、水性媒体に対して不溶性であり、そしてそれは、図2に観察されるスペクトルの特性とは異なるスペクトルの特性を有する。Maddenら、(1990)Chemistry and Physics of Lipids,52:189−98。
【0103】
特徴付けの研究は、密度勾配超遠心分離に供した場合、ApoA−I、リン脂質、およびAmBが、分離した粒子集団として移動することを示した(図3)。この複合体は、粒子中のタンパク質/脂質の比に依存して、勾配における特徴的な密度に浮遊する。
【0104】
さらに、非変性条件下での勾配ゲル電気泳動は、生成した主要な複合体が、均一な大きさであり、8.5nmのストークス径を示すことを示した(図4)。単離した粒子の分析は、AmB、リン脂質、およびアポリポタンパク質の最初のモル比からの大きなずれが、起こらなかったことを示した。
【0105】
(実施例2.Saccharomyces cerevisiaeに対するAmB含有生物活性因子送達粒子の抗真菌活性)
ApoA−I−DMPC/DMPG−AmB粒子を、実施例1に記載したように調製し、そしてこの複合体の抗真菌活性を決定するために使用した。S.cerevisiaeの培養物を、種々の量のApoA−I−DMPC/DMPG−AmB粒子(0〜25μg
AmB/ml)の存在下で、YPD培地において増殖させた。この培養物を、30℃にて16時間増殖させ、そして培養物の増殖の程度を分光光度的にモニタリングした。図8に示すように、このAmB含有粒子は、用量依存様式での真菌増殖の阻害において非常に有効であった。
【0106】
(実施例3.生物活性因子送達粒子の長期安定性)
組換えApoE3NT末端ドメイン(ApoE3NT)を、Fisherら、(1997)Biochem Cell Biol 75:45−53のように調製した。ApoE3NT−AmB含有粒子を、実施例1に記載したようなコール酸透析法によって調製し、そしてそれを、長期安定性を評価するために使用した。
【0107】
図5は、リン酸緩衝液中に4℃にて保存した粒子(レーン1)、リン酸緩衝液中に−20℃にて保存した粒子(レーン2)、またはリン酸緩衝液中に−80℃にて凍結し、凍結乾燥し、そして分析前にH2O中に再溶解した粒子の、ネイティブなPAGE 4〜20%勾配スラブゲルを示す。このAmB含有粒子の大きさおよび移動度は、凍結および解凍することによっても、凍結乾燥および再可溶化(resolubilization)によっても影響されず、このことは、またはこの粒子が、これらの条件下でその完全性を保持したことを示した。これらは、AmB送達粒子の、スケールアップおよび長期保存に関して、重要なパラメータである。
【0108】
(実施例4.POPCを用いたAmB含有生物活性因子送達粒子の調製)
ApoA−I−POPC粒子を実施例1に記載したコール酸塩透析方法を使用して、調製した。ApoA−I−POPC粒子のネイティブなPAGE勾配ゲル分析は、図4に示される。AmBを含まない粒子は、レーン1に示され、そしてAmBを含む粒子は、レーン2に示される。このゲルは、上記粒子中へのAmBの取り込みが、その大きさを変えないことを示す。しかし、このゲルは、POPC含有粒子が、DMPC/DMPG粒子(レーン3に示される)とは異なる大きさであることを示唆する。
【0109】
(実施例5.マイクロフルイダイザ−プロセッサーを用いたAmB含有粒子の調製)
ApoA−I、AmB、egg PC、DPPG、およびコレステロールをマイクロフルイダイザーの試料保持器中で合わせ、そしてマイクロフルイダイザープロセッサーの反応チャンバーに18,000psiにて通過させた。生じた溶液を回収し、そして粒子処方物、疎水性物質の取り込み、大きさ、および安定性に関して特徴付けした。約16nmの直径のAmB含有粒子を入手し、この粒子は、凍結乾燥および水性溶媒における再構成に対して安定であった。
【0110】
(実施例6.リン脂質小胞からのAmB含有粒子の調製)
AmB含有リン脂質小胞の懸濁液を、DMSO中のAmBの20〜40mg/ml溶液のアリコート(2.5mgのAmBに相当する)を、7:3のモル比のDMPC:DMPGを含む先に形成したリン脂質の水性分散物に添加することによって調製した。この小胞をこのリン脂質の液相転移温度(約24℃)までゲルにてインキュベートした。4mgのアポリポタンパク質の添加は、AmB含有生物活性因子送達粒子の形成と一致して、試料の濁度における時間依存的減少を生じた。試料の完全な透明性を、21〜25℃にて1〜20分間の穏やかな浴での超音波処理または24℃にて超音波処理なしで4〜16時間の穏やかな浴によって達成した。生じた粒子は、>90%のAmBの取り込み効率(すなわち、送達粒子中に回収されるAmB出発物質の%)を示し、そして濾過、遠心分離、または透析の際に、物質は喪失しなかった。他の試験は、同様の結果が、5mg/10mgのリン脂質と同じ高さに調整したAmB濃度で達成され得ることを示した。この手順は、試験した、5つのアポリポタンパク質(ApoA−I、ApoE3NT、Bombyx mori ApoIII、および抗真菌ペプチドを含むC末端伸長を含むヒトApoA−Iの改変形態、ヒスタチン 5、およびS.cerevisiaeのα−接合因子ペプチドを含むC末端伸長を含むヒトApoA−Iの改変形態)のいずれによっても等しく良好に作用した。
【0111】
粒子を含むApoA−IまたはApoE3NTの、密度勾配超遠心分離は、脂質−タンパク質複合体の処方物と一致して1.21g/mlの範囲にある特徴的な密度に浮遊する粒子の単一の集団を示した。密度勾配超遠心分離に従って入手した画分の特徴付けは、リン脂質、AmB、およびアポリポタンパク質が、AmB含有粒子の処方物と一致する、この勾配中の同じ位置に移動したことを示した。
【0112】
ネイティブPAGE上での、公知の基準とのApoA−I−AmB含有粒子の相対的移動度の比較は、90%を超える粒子が、約8.5nmのストークス径を有することを示した。この値は、AmBの非存在下において生成した粒子と類似しており、この生物活性因子の添加が、この粒子の大きさの分布を顕著に変えないことを示す。
【0113】
ApoA−I−AmB含有生物活性因子送達粒子の全体の安定性の測定として、この粒子を、−20℃にて凍結したかまたは凍結乾燥した。凍結/解凍は、この粒子の大きさの分布に対して影響を有さなかった。同様に、この粒子を凍結乾燥に供する工程およびH2O中に再溶解する工程は、大きさの分布または試料の外見に影響しなかった。
【0114】
これらのデータは、AmB、リン脂質、およびアポリポタンパク質が、組み合わさって、AmBが完全に、この粒子の二重層部分中に一体化される、生物活性因子送達粒子の均一な集団を形成することを、強力に示唆する。AmB含有粒子の分光光度的分析は、生物活性因子送達粒子中のAmBの可溶化と一致する、可視光の範囲における一組の特徴的なピークを示した。
【0115】
(実施例7.実施例6のように調製したAmB含有粒子と代替手順によって調製した粒子との比較)
実施例6に記載した方法を使用する生物活性因子送達粒子中への生物活性因子の取り込みを、以下のような、Schoutenら、(1993)Molecular Pharmacology 44:486−492によって調製した「neo−HDL」粒子中への取り込みと比較した:3mgの卵黄ホスファチジルコリン、0.9mgのコレステロール、および1.5mgのAmB(クロロホルム中に溶解した)を、20mlのガラスバイアル中で混合し、そしてこの溶媒を、窒素流下でエバポレートした。脱気し、そして窒素で飽和した10mlの超音波処理緩衝液(10mMのTris HCI(pH8.0)、100mMのKCI、1mMのEDTA、および0.025%のNaN3)を添加し、そしてこのバイアルの内容物を、窒素流下で、Macrotip(14μmの平均出力)によって超音波処理した。温度を、41℃より高く、かつ50℃以下に維持した。この超音波処理を60分後に停止し、そして温度を、42℃に調整した。超音波処理を続け、そして20mgのApoA−I(2mlの4M尿素中に溶解した)を、10等量で10分間にわたって添加した。全てのタンパク質を添加した後、超音波処理を42℃にて30分間続けた。
【0116】
その後、この超音波処理混合物を3分間遠心分離して、大きい粒子および不溶性物質を除去し、そしてこの上清をUV/可視光分光光度法によって分析して生成粒子中に可溶化したアムホテリシンBの量を評価した。この溶液が、わずかに不透明であることが注目された。この試料を、250nm〜500nmまで走査した。比較のために、実施例6に記載した手順によって調製したAmB含有粒子を試験した。この結果は、図12に示される。AmBから生じるスペクトルの範囲(300〜500nm)は、この2つの試料間で全く離れていた。実施例6に記載したプロトコルを使用して生成したAmB含有生物活性因子送達粒子は、この粒子中へのAmBの可溶化および取り込みを示す特徴的な強い吸光極大を有した(Maddenら、上述)(図12B)が、Schoutenらに従って調製した試料は、これらの特徴的なスペクトルの極大を生じなかった(図12A)。実際に、この得られたスペクトルは、脂質の非存在下でのAmBの水性分散物についてMaddenら(上述)によって報告されたスペクトルと非常に類似している。従って、AmBは、この手順を使用する脂質粒子中に取り込まれなかったが、実施例6に記載した手順は、十分なAmBの取り込みを生じた。
【0117】
(実施例8.AmB含有生物活性因子送達粒子とリポソームAmB処方物との抗真菌活性の比較)
ApoA−I−AmB粒子(実施例6のように調製した)およびAmBの市販のリポソーム処方物(AmBisome(登録商標))の抗真菌活性を、酵母(S.cerevisiae)の増殖を阻害するそれらの能力に関して比較した。図10のデータは、ApoA−I−AmB生物活性因子送達粒子が、S.cerevisiaeの増殖を、同じ量の、AmB処方物(AmBisome(登録商標)のような)より、より効果的に阻害したことを示す。ApoA−I−AmB生物活性因子送達粒子は、1μg/mlにて90%の増殖阻害を達成したが、この阻害のレベルは、25μg/mlのAmBisome(登録商標)を必要とした。
【0118】
ApoA−I−AmB粒子およびAmBisome(登録商標)の抗真菌活性をまた、2種の病原性真菌、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus fumigatus(A.fumigatus)に対して、マイクロタイターブロスの全細胞アッセイにおいて比較した。コントロールとして、AmBを含まない粒子もまた試験した。この結果を、表1に示す。
【0119】
(表1.アムホテリシンBの病原性真菌増殖の阻害)
【0120】
【表1】
得られた結果は、AmB含有生物活性因子送達粒子が、AmBisome(登録商標)より、より低濃度にて両方の病原性真菌の種に対して有効であることを示した。AmBを欠くコントロール粒子は、有効ではなかった。AmB含有生物活性因子送達粒子は、C.albicansに対して0.1μg/mlの濃度にてED90(90%の増殖阻害が観察される濃度)を示したが、同じレベルの増殖阻害を達成するのに、0.8μg/mlのAmBisome(登録商標)を必要とした。A.fumigatusに関して、AmB含有生物活性因子送達粒子は、0.2μg/mlの濃度にて90%の真菌の増殖を阻害したが、同じ効果を達成するのに、1.6μg/mlのAmBisome(登録商標)を必要とした。
【0121】
別の実験において、上記脂質結合性ポリペプチドとしてアポリポタンパク質IIIを含むAmB含有生物活性因子送達粒子を、3種の病原性真菌、C.albicans、A.fumigatus、およびCryptococcus neoformans(C.neoformans)の増殖を阻害するそれらの能力について、AmBisome(登録商標)と比較した。このデータを、表2に示す。
【0122】
(表2.アムホテリシンBの病原性真菌増殖の阻害)
【0123】
【表2】
AmB含有生物活性因子送達粒子は、0.03μg/mlにてC.albicansの増殖を90%阻害した。相当するED90を、0.4μg/mlのAmBisome(登録商標)で得た。A.fumigatusの場合において、AmB含有生物活性因子送達粒子は、0.1μg/mlにて真菌の増殖を90%阻害したが、同じ効果を達成するのに2.5μg/mlのAmBisome(登録商標)の濃度を必要とした。同様の様式において、AmB含有粒子は、AmBisome(登録商標)より、5倍低いAmB濃度にてC.neoformans増殖の阻害において有効であった。
【0124】
試験した全ての試料は、この実験のために使用したRPMI培地中に可溶性であり、そして上記真菌の種のいずれかに対して試験した試料のいずれにおいても、沈殿または干渉を観察しなかった。これらのデータは、本発明の生物活性因子送達粒子中のAmBの処方物が、リポソーム処方物より、より強力な抗真菌活性を有することを示唆する。
【0125】
(実施例9.生物活性因子送達粒子中へのカンプトテシンの取り込み)
カンプトテシン含有生物活性因子送達粒子を、以下のように調製した:7:3のモル比のDMPC:DMPG(全量5mg)を、緩衝液(20mMのリン酸ナトリウム、pH7.0)中に、1分間ボルテックスすることによって分散して、リン脂質二重層小胞の分散物を生成した。DMSO中の10μlの10mg/mlのカンプトテシン溶液を、このリン脂質二重層の分散物に添加した。その後、2mgの組換えヒトアポリポタンパク質A−I(20mMのリン酸ナトリウム中の0.5mlの4mg/ml溶液、pH7.0)を添加し、そしてこの試料を、その後、超音波処理に供した。その後、この清澄化した試料を13,000×gにて3分間遠心分離し、そしてこの上清を除去し、そして4℃にて保存した。
【0126】
カンプトテシン含有粒子の蛍光スペクトルは、図11に示される(ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に可溶化したカンプトテシンと比較して)。蛍光測定を、400〜600nmでモニタリングされた発光を伴う360nmの励起波長にてPerkin Elmer LS 50B発光分光計上で得た。生物活性因子送達粒子中に取り込まれたカンプトテシン(図11B)と比較したSDSミセル中のカンプトテシン(図11A)によって誘発された蛍光発光極大におけるブルーシフトは、この薬物が、この送達粒子に対してミセル中では、より疎水性の環境に局在することが示唆する。
【0127】
(実施例10.AmB含有生物活性因子送達粒子の凍結割断の電子顕微鏡検査)
AmB含有生物活性因子送達粒子の調製物を、以下のように、凍結割断の電子顕微鏡検査のために調製した:DMPC:DMPG(7:3のモル比)のAmB生物活性因子送達粒子(3mg/mlのタンパク質)の試料(実施例6にあるように調製した)を、サンドウィッチ技術を使用してクエンチし、液体窒素は、プロパンを冷却した。凍結固定した試料を、加工する前に、2時間未満、液体窒素中に保存した。この割断プロセスをJOEL
JED−900フリーズエッチング装置において実施し、そしてこの露出した割断平面を25〜35度の角度にて30秒間Ptで覆い、そして35秒間、炭素で覆った(2kV/60〜80mA、1×10−5Torr)。この方法で作製したレプリカを、24時間、濃縮した発煙HNO3で浄化し、その後、少なくとも5回、新しいクロロホルム/メタノール(重量で1:1)と一緒に攪拌を繰り返した。この方法で浄化したレプリカを、JOEL 100 CXまたはPhilips CM 10電子顕微鏡上で試験した。
【0128】
上記のようなAmB含有粒子の凍結割断から得た電子顕微鏡写真は、図9に示される。数個の凍結割断調製物から取得した電子顕微鏡写真は、高濃度の小さいタンパク質−脂質複合体の存在を示す。見かけ上の直径は、40nm付近が高頻度である約20〜60nmの範囲である。凍結割断の電子顕微鏡検査によって観察した場合、粒子の見かけ上の直径は、ネイティブなポアを制限した勾配ゲル電気泳動によって得た値より、大きい値である。この差は、試料の取り扱い、または電子顕微鏡検査による粒子の可視化に使用する染色手順の影響に起因し得る。
【0129】
実質的に球状の複合体は、リポソームにおいて特徴的であるような凹型の面または凸型の面(それぞれ、この構造の前および後ろにおける影)を示さなかった。さらに、ミセル構造についての証拠を、観察しなかった。
【0130】
(実施例11.免疫応答性マウスにおけるAmB含有生物活性因子送達粒子の抗真菌活性のインビボ評価)
AmB含有生物活性因子送達粒子のインビボ抗真菌活性は、以下のように評価される。
【0131】
(動物)
6〜8週齢の雌のBALB/cマウス(20〜25g)が、標準的な実験室の条件下で、飼育され、そして維持される。
【0132】
(毒性の研究)
3匹のマウスの群の各々は、10mMのリン酸ナトリウムを用いてpH7.4に緩衝した生理食塩水中の、AmB含有生物活性因子送達粒子中の用量(例えば、1mg/kg、2mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、または15mg/kgのAmB)、またはAmBを含まないコントロール粒子を受ける。単回用量は、0.1mlの量を腹腔内に投与される。予備的な研究は、この生物活性因子送達粒子が、これらの条件下において、完全に溶解性であることを示した。
【0133】
注射の後、このマウスは、任意の一般的反応(例えば、異常行動または姿勢、呼吸困難、毛並み、または食物もしくは飲料を得る能力)について観察される。異常性または死亡についての観察は、投与後、直ちに開始し、1日に2回で7日間続ける。体重は、毎日同じ時期に記録する。
【0134】
血液は、安楽死前にマウスから収集される。この血液は、肝臓の特異的障害の程度を評価するために、乳酸デヒドロゲナーゼのような肝臓の酵素についてアッセイされる。
【0135】
(全身性クリプトコッカス属の処置におけるAmB含有生物活性因子送達粒子の効果)
AmB含有粒子の治療域は以下のように、決定され、そしてAmBisome(登録商標)と比較される。
【0136】
AmBに対して感受性であるC.neoformansの臨床的単離体(isolate)は、培養され、そして2×106分生子/mlの濃度にて、感染のための種菌として調製される。各マウスは、一般的な麻酔下で、頭蓋内に0.05mlの通常の生理食塩水中に1×105分生子の種菌を受ける。
【0137】
抗真菌剤は、感染後2時間から投与を開始し、5日間、1日に0.1mlの量で腹腔内に投与される。使用されるAmBの投薬量は、上記の毒性の研究に基づいて決定される。マウスの1つの処置群は、AmBisome(登録商標)を受け、1つの処置群は、AmB含有生物活性因子送達粒子を受け、そしてコントロール群は、治療を受けない。
【0138】
感染したマウスは、1日に2回モニタリングされ、そして病気または死亡の兆候はいずれも、28日間まで記録される。体重は、毎日同じ時期に記録される。正常に動けないか、または食物もしくは飲料を摂取できない瀕死の動物は、安楽死させる。これらの研究の結果に基づいて、第2の研究の組は、研究結果を検証し、そして再現するために実施される。利用されるAmB用量、ならびにコントロール群および処置群におけるマウスの数は、これまでの実験から得られた知識を反映して調整され得る。
【0139】
(組織に対する真菌負荷の決定)
マウスは、処置の最後の日の後、1日目に屠殺される。この腎臓および脳は、無菌的に取り除かれ、そして重量が量られる。組織は、ホモジェナイズされ、そして通常の生理食塩水中に連続的に希釈される。このホモジネートは、コロニー形成単位(CFU)を決定するために、PDA(ポテトデキストロース寒天)プレート上で48時間培養される。組織のCFU/gの真菌負荷が、決定される。
【0140】
(統計分析)
腎臓または脳における生菌および平均CFUの差は、適切な統計学的検定を使用して比較される。
【0141】
(薬物動態研究)
血液の試料、肝臓の試料、腎臓の試料、肺の試料、および脳脊髄液の試料は、感染したマウスから、0.8mg/kgの用量および2.0mg/kgの用量で、AmB生物活性因子送達粒子またはAmBisome(登録商標)の静脈内注入後、10分、2時間、8時間、および24時間の時点にて採取される。マウスは、一般的な麻酔下におかれ、全血は、腋下の血管から採取される。開胸が行われ、そして組織試料は、通常の生理食塩水を用いて灌流され、次いで外科的に除去される。組織は、1−アミノ−4−ニトロナフタレンを含むメタノールを用いてホモジェナイズされる。血清および組織ホモジネートの上清は、分析まで保存される。各サンプル中のAmBの濃度は、Granichら、(1986)Antimicrob.Agents Chemother.29:584−88に記載されるように、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって決定される。要約すると、血清試料(0.1ml)は、1mlあたり1.0mgの内部標準(1−アミノ−4−ニトロナフタレン)を含む1.0mlのメタノールと組み合わされ、そしてボルテックスすることによって混合される。遠心分離後、この上清は、減圧下で乾燥され、その後、HPLCカラム(C18逆相)上への注入のために0.2mlのメタノールで再溶解される。計量された水分を含む組織試料は、1mlあたり5.0mgの内部標準を含む10容量のメタノール中でガラスのホモジェナイザーによってホモジェナイズされ、そして遠心分離される。この移動相は、アセトニトリルの混合物および10mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0;11:17(vol/vol))の混合物である(1.0ml/分の流速)。AmBの濃度は、内部標準のピークの高さに対するAmBのピークの高さの比によって決定される。
【0142】
(実施例12.カンプトテシン含有生物活性因子送達粒子の腫瘍細胞に対する標的化)
生物活性因子送達粒子は、上記脂質結合性ポリペプチド成分に結合するVIP標的化部分を用いて調製される。
【0143】
カンプトテシン含有粒子の脂質結合性ポリペプチド成分は、脂質結合性ポリペプチドのコード配列を内部に有するプラスミドベクターによって形質転換されたEscherichia coli(E.coli)中に組換え形態で産生され得る。例えば、組換えヒトApoA−Iが、利用され得る。ApoA−I発現プラスミドを内部に有するE.coli細胞は、培地中で37℃にて培養される。600nmにおける培養物の光学的密度が、0.6に達する場合、ApoA−I合成は、イソプロピルチオガラクトシド(0.5mMの最終濃度)の添加によって誘導される。さらなる3時間の培養後、この細菌は、遠心分離によってペレットにされ、そして超音波処理によって破壊される。この細胞溶解物は、20,000×gで4℃にて30分間遠心分離され、そしてこの上清画分からapoA−Iが単離される。
【0144】
組換え脂質結合性ポリペプチドのキメラは、ApoA−Iを操作して28アミノ酸の神経ペプチド、血管作動性腸管ペプチド(VIP)に相当する、N末端ペプチド伸長および/またはC末端ペプチド伸長を含むことによって生成される。ApoA−I−VIPキメラは、リン脂質、カンプトテシンおよびApooA−I−VIPキメラを含む生物活性因子送達粒子を生成するために利用され得る。
【0145】
例えば、ApoA−I−VIPキメラは、末端にHind III部位およびXba I部位を有するVIP配列のコード配列に対応する相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを合成することによって構築され得る。このオリゴヌクレオチド(約100塩基対)は、アニーリングされて、所望の「付着末端」を有する2本鎖DNAを生成し、そして適切に配置されたHind III制限酵素部位およびXba I制限酵素部位を有するApoA−Iコード配列を含むプラスミドベクター中にサブクローニングされる。ライゲーション、形質転換およびポジティブなキメラ構築物についてスクリーニングの後、プラスミドDNAは単離され、そして自動化されたジデオキシ法配列分析に供される。この配列が、所望のキメラについて予測した配列に対応することを確認した後、組換えApoA−I−VIPキメラの生成は、野生型ApoA−Iについて上記される通りにE.coli中で行われる。その後、精製された組換えキメラは、ゲル電気泳動、質量分析によって評価され、そして実施例8に記載されるように、野生型ApoA−Iと同様の様式で、本発明の生物活性因子送達粒子を産生する能力について評価される。
【0146】
ApoA−I−VIPキメラ−カンプトテシン含有生物活性因子送達粒子は、脂質粒子の標的化の程度を測定するために乳癌細胞の増殖阻害研究に使用され得る。例えば、ヒトの乳癌細胞株MCF−7は、American Type Culture Collectionから入手され、そして10%ウシ胎仔血清および抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)を補充された改変イーグル培地中の単層培養として加湿した5% CO2のインキュベーター中で37℃にて維持される。単離された野生型ApoA−IまたはApoA−I−VIPキメラは、放射ヨウ素標識され、そして本発明のカンプトテシン含有生物活性因子送達粒子中に取り込まれ、そしてこの細胞と一緒にインキュベートされる。細胞に結合した放射活性は、4℃にて培養されたMCF−7細胞を伴う、標識されたカンプトテシン含有生物活性因子送達粒子のインキュベーション後に決定される。ApoA−I−VIPキメラまたは生物活性因子送達粒子に結合したApoA−I−VIPキメラの、MCF細胞に対する結合と競合するVIPの能力は、競合結合アッセイにおいて決定される。細胞の結合データは、スキャッチャード分析によって評価される。ApoA−I−VIPキメラ生物活性因子送達粒子のMCF−7細胞内在化の程度は、37℃における放射ヨウ素標識されたApoA−I−VIPキメラ含有生物活性因子送達粒子を伴うインキュベーションにおいて評価される。インキュベーションおよび洗浄の後、トリクロロ酢酸に可溶性の放射活性は決定され、脂質結合性ポリペプチド分解の測定を提供する。
【0147】
異なる生物活性因子送達粒子による増殖阻害の研究および細胞毒性の研究は、クローン原性のアッセイによって評価される。指数関数的に増殖する細胞は、培地中に再懸濁され、そして細胞の数が、電子計測器を使用して決定される。あるいは、カンプトテシン−ApoA−I−VIPキメラ生物活性因子送達粒子によるMCF−7のクローン増殖の阻害は、35S−メチオニン取り込みの減少に基づいて評価され得る。細胞のアリコートは、三連で培養皿中に播種される。インキュベーション後、特定の脂質粒子は、ストック溶液からこの皿に添加されて、0nM、0.1nM、1nM、5nM、10nM、50nM、100nM、250nMのカンプトテシンの最終濃度を達成する。0〜72時間の範囲にある特定の時間の間隔の後、培地は、吸引によって除去され、そして新鮮な培地が添加される。異なる露出時間によるそれぞれの薬物濃度における生存の%は、トリパンブルー排除細胞の数の比から決定され、そしてカンプトテシンを欠くコントロール粒子を用いて得られた結果と比較される。
【0148】
(実施例13.AmB含有生物活性因子送達粒子の毒性のインビボ評価)
研究を行って、AmB含有生物活性因子送達粒子の安全性および毒性を決定した。この粒子を、実施例6にあるように調製した。
【0149】
雌のBALB/cマウス(6〜8週齢、体重が20〜25グラム)を、3匹のマウスの群に分け、そして各群を、1mg/kg、2mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、または15mg/kgの生物活性因子送達粒子中のAmB処方物を用いて処置し、そして腹腔内(IP)に、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中0.1mlの容量において単回用量として送達した。コントロール群は、PBSのみを受けた。
【0150】
マウスを、体重の減少または外見および行動における異常性について、投与後直ちに、投与の2時間後に、および投与の6時間後に観察し、そしてその後、1日に少なくとも2回で7日間、観察した。血液を、投与後24時間で採取した。肝障害についてのマーカー(アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST))ならびに腎臓障害についてのマーカー(尿素およびクレアチニン)を定量した。
【0151】
表3は、以下にAmBを含む生物活性因子送達粒子のインビボでの安全性/毒性プロフィールを示す。
【0152】
(表3.マウスにおけるAmB含有生物活性因子送達粒子の毒性)
【0153】
【表3】
15mg/kgの投薬量が、マウスにおいて有毒であることを見出した。この投薬量レベルおいて、即死または異常性は存在しなかったが、3匹のマウスの内2匹が投与した次の日に死亡した。10mg/kg以下の用量にて、AmB含有粒子は、安全であることを見出した。図14に示されるように、名目上の体重減少を5mg/kgおよびそれ以下の投薬量にて観察した。10mg/kgで処置したマウスにおいて、顕著な体重減少を2日目に観察し、その後、その週の終わりには体重の90%までの回復を観察した。薬物のこの濃度にて、腎毒性のわずかな兆候(10mg/kgにて0.16mg/dlのクレアチニン対0mg/kgにて0.1mg/dl;尿素には変化無し)が観察され、そして肝毒性は、観察されなかった。この結果は、毒性において劇的な減少を記録した。なぜならこれまでに報告された実験は、AmBが界面活性剤のミセル中に処方された同様の実験条件下で、4.4mg/kgのAmBにて、マウスにおいて4%の生存率しか生じなかったからである(Barwiczら、(1992)Antimicrob Agents Chemother 36:2310−2315)。
【0154】
(実施例14.AmB含有生物活性因子送達粒子のインビボでの効果)
実験を行って、AmBの生物活性因子送達粒子中への処方が、その抗真菌効果を損なうか否かを決定した。
【0155】
雌のBALB/cマウス(6〜8週齢)を、各々10匹のマウスの4つの群に分けた。各マウスに、5×105のCandida albicans ATCC株90028の芽状胞子を接種した。接種の2時間後、マウスをフルコナゾール(経口的に投与可能な抗真菌処置(経口胃管栄養法を介して30mg/kg))、AmBisome(5mg/kg IP)、実施例13に記載されるようなAmB含有生物活性因子送達粒子(5mg/kg IP)処方物、またはAmBを含まないが、AmBを含む粒子と等価なタンパク質負荷を伴うコントロールの「空」生物活性因子送達粒子で処置した。処置を、1日に1回で5日間続けた。この研究を通して、マウスを、死亡率ならびに外見および行動における異常性についてモニタリングした。最後の処置後24時間にて、マウスを屠殺し、そして腎臓組織および脳組織を、真菌負荷の評価のために切除した。生存の評価に関して、マウスを、29日間観察し、そして1日に2回、死亡率、体重減少、および食物または飲料の摂取不全について試験した。
【0156】
図16に示すように、フルコナゾールで処置した全てのマウスは、この研究の期間生存した。AmB含有生物活性因子送達粒子で処置したマウスの1匹は、この研究の2日目に死亡した。このマウスの死の時期、そして毒性の欠如が、5mg/kgにおけるAmB含有粒子に関連する(上記の実施例13を参照のこと)ことに起因して、死亡が、この粒子の効果に関連したとは考えられない。逆に、「空」の円盤粒子で処置した全てのマウスが死に、そしてAmBisome処置マウスの1匹だけが生存した。
【0157】
図17に示すように、AmB含有生物活性因子送達粒子で処置したマウスは、この研究の過程にわたって、わずかな体重減少(<2%)のみを示した。逆に、フルコナゾール処置マウスおよびAmBisome処置マウスは、この実験の過程の間に、それぞれ、14%および23%の最大の体重減少を示した。
【0158】
図18に示すように、真菌負荷の評価は、AmB含有生物活性因子送達粒子で処置したマウスの、脳および腎臓において低い真菌レベルを示した。フルコナゾール処置マウスについての脳は別として、AmB含有粒子による処置は、異なる治療レジメンの間における、脳の真菌負荷および腎臓の真菌負荷の最も低いレベルを生じた。
【0159】
この研究の結果は、AmB含有生物活性因子送達粒子が、抗真菌処置に有効であることを実証した。AmBisome処置で観察した死亡率は、これまでに報告された、Cryptococcosis感染の処置について同様のレジメンを使用する研究(>90%の生存率を観察した)より高かった(ClemonsおよびStevens(1998)Antimicrob Agents Chemother 42:899−902)。しかし、Candida albicansの処置は、AmBisomeの効果が、処置時における感染のレベルに依存するという事実(van Ettenら、(1998) Antimicrob Agents Chemother 42:2431−2433)によって困難になり得る。この研究中で使用される種菌は、真菌負荷のレベルが、AmBisomeの有効に治療する能力を超えるが、AmB含有円盤粒子の効力は、この感染のレベルに影響されなかったことを示し得る。
【0160】
本発明は、明確な理解を目的として図および実施例によってある程度詳細に記載されてきたが、一定の変更および改変が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく実施され得ることが、当業者に明らかである。従って、この記載は、特許請求の範囲によって示される本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0161】
本明細書中に引用される全ての刊行物、特許、および特許出願は、全ての目的のために、そして各々の刊行物、特許、または特許出願が具体的かつ個別に参考として援用されることを示されるのと同じ程度に、それらの全体が本明細書に参考として援用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図19】
【公開番号】特開2010−248255(P2010−248255A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173171(P2010−173171)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2006−533840(P2006−533840)の分割
【原出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(503037929)チルドレンズ ホスピタル アンド リサーチ センター アット オークランド (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2006−533840(P2006−533840)の分割
【原出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(503037929)チルドレンズ ホスピタル アンド リサーチ センター アット オークランド (6)
【Fターム(参考)】
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