説明

観察装置及び観察方法

【課題】観察により取得される観察対象物の内部の媒質が変化する境界部に関する情報の解像度及び鮮明度のさらなる向上が図れる観察装置及び観察方法を提供する。
【解決手段】出力部11は、観察対象物2に含まれる感応因子の双極子モーメントを誘起させるコヒーレントな照射光31aを出力する。照射光31aの波長範囲の少なくも一部と、感応因子が光を吸収する吸収波長帯域の少なくとも一部とが重複する。レーザーユニットは、照射光の波長範囲を含む波長範囲を有するフェムト秒パルスレーザー光を生成する。光フィルタユニットは、フェムト秒パルスレーザー光を受け入れ、そのフェムト秒パルスレーザー光のうちの所定の短波長側境界値よりも短い波長成分、及び所定の長波長側境界値よりも長い波長成分を除去して、照射光31aとして送出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察対象物を観察する観察装置及び観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者らは、未公開ではあるが、先の特許出願(特願2011−1898号)において、観察対象物の内部の媒質が変化する境界部に関する情報を鮮明に取得できる観察装置及び観察方法を提案している。その観察装置等では、観察対象物に対し、観察対象物に含まれる感応因子の双極子モーメントを誘起するコヒーレントな照射光としてフェムト秒パルスレーザーを照射し、その照射光により観察対象物に含まれる感応因子の双極子モーメントが誘起され、これにより、観察対象物内において感応因子の分布に応じた誘電率(屈折率)の変化が誘起される。その結果、出力部が出力した照射光のうちの観察対象物を経た信号光(反射光又は透過光)に含まれる観察対象物内の構造に起因する信号成分を有効に増強されて、観察対象物内の媒質の構造に関する情報(例えば、観察対象物の断面構造に関する情報)を極めて鮮明に得られるようになっている。
【0003】
本願発明は、上記の先の特許出願に係る発明の改良に関するものであり、観察対象物の内部の媒質が変化する境界部に関する情報を、より高解像度でかつより鮮明に取得できるようにしたものである。
【0004】
なお、先行技術文献としては、上記の先の特許出願に対する拒絶理由通知書で引用された文献が挙げられる(非特許文献1、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】1.Povazay B , et.al.,Submicrometer axial resolution optical cohorence tomography,Optics Letters,2002年10月15日,Vol.27, No.20,p.1800-1802
【特許文献1】特開2009−128099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決すべき課題は、観察により取得される観察対象物の内部の媒質が変化する境界部に関する情報の解像度及び鮮明度のさらなる向上が図れる観察装置及び観察方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の観察装置に関する第1の局面では、コヒーレントな光に感応して双極子モーメントを誘起する感応因子を含んだ観察対象物を観察する観察装置であって、前記観察対象物に含まれる前記感応因子の双極子モーメントを誘起させるコヒーレントな照射光を出力する出力部と、前記出力部が出力した前記照射光のうちの前記観察対象物を経て到来する信号光、及び前記観察対象物を経ずに到来する参照光を検出する検出部と、前記検出部の検出結果に基づいて、前記観察対象物の構造を解析する解析部とを備え、前記出力部が出力する前記照射光の波長範囲の少なくも一部と、前記感応因子が光を吸収する吸収波長帯域の少なくとも一部とが重複し、前記出力部は、前記照射光の前記波長範囲を含む波長範囲を有するフェムト秒パルスレーザー光を生成するレーザーユニットと、前記レーザーユニットが生成した前記フェムト秒パルスレーザー光を受け入れ、そのフェムト秒パルスレーザー光のうちの所定の短波長側境界値よりも短い波長成分、及び所定の長波長側境界値よりも長い波長成分を除去して、前記照射光として送出する光フィルタユニットとを備える。
【0008】
また、本発明の観察装置に関する第2の局面では、上記第1の局面に係る観察装置において、前記出力部の前記光フィルタユニットは、前記照射光の前記長波長側境界値でのスペクトル形状が急峻に立ち上がるように、前記フェムト秒パルスレーザー光の前記長波長側境界値よりも長い波長成分を除去する長波長除去フィルタと、前記照射光の前記短波長側境界値でのスペクトル形状が急峻に立ち上がるように、前記フェムト秒パルスレーザー光の前記短波長側境界値よりも短い波長成分を除去する短波長除去フィルタとを備える。
【0009】
また、本発明の観察装置に関する第3の局面では、上記第1の局面に係る観察装置において、前記感応因子は、照射された前記照射光の前記感応因子の前記吸収波長帯域に属する波長成分を、所定の下限基準レベル以上の吸収度で吸収する。
【0010】
また、本発明の観察装置に関する第4の局面では、上記第3の局面に係る観察装置において、前記感応因子は、照射された前記照射光の前記感応因子の前記吸収波長帯域に属する波長成分を、所定の下限基準レベル以上、かつ所定の上限基準レベル以下の吸収度で吸収する。
【0011】
また、本発明の観察装置に関する第5の局面では、上記第1の局面に係る観察装置において、前記出力部が出力する前記照射光は、可視から近赤外の波長領域に属する。
【0012】
また、本発明の観察装置に関する第6の局面では、上記第5の局面に係る観察装置において、前記観察対象物は、生体組織である。
【0013】
また、本発明の観察装置に関する第7の局面では、上記第1の局面に係る観察装置において、前記感応因子は、色素である。
【0014】
また、本発明の観察装置に関する第8の局面では、上記第7の局面に係る観察装置において、前記感応因子は、有機色素である。
【0015】
また、本発明の観察装置に関する第9の局面では、上記第1の局面に係る観察装置において、前記観察装置は、前記出力部から出力された前記照射光を前記観察対象物に向かう入射光と参照物体に向かう前記参照光とに分割するとともに、前記入射光のうちの観察対象物を経由した前記信号光と前記参照物体を経由した前記参照光とを重畳させて干渉光を生成する分割結合光学系をさらに備え、前記検出部は、前記分割結合光学系から与えられた前記干渉光を検出する。
【0016】
また、本発明の観察方法に関する第1の局面では、人を除く観察対象物を観察する観察方法であって、前記観察対象物内に、コヒーレントな光に感応して双極子モーメントを誘起する感応因子を導入する感応因子導入段階と、前記観察対象物に含まれる前記感応因子の双極子モーメントを誘起させるコヒーレントな照射光を出力部に出力させ、前記出力部が出力した前記照射光のうちの前記観察対象物を経て到来する信号光、及び前記観察対象物を経ずに到来する参照光を検出部により検出し、前記検出部の検出結果に基づいて、前記観察対象物の構造を解析する観察段階とを備え、前記出力部が出力する前記照射光の波長範囲の少なくも一部と、前記感応因子が光を吸収する吸収波長帯域の少なくとも一部とが重複し、前記出力部が出力する前記照射光は、レーザーユニットに前記照射光の前記波長範囲を含む波長範囲を有するフェムト秒パルスレーザー光を生成させ、光フィルタユニットにより、そのフェムト秒パルスレーザー光のうちの所定の短波長側境界値よりも短い波長成分、及び所定の長波長側境界値よりも長い波長成分を除去することにより得られた光である。
【発明の効果】
【0017】
この発明の観察装置に関する上記第1の局面によれば、観察対象物に対し、観察対象物に含まれる感応因子の双極子モーメントを誘起するコヒーレントな照射光が照射され、その照射光により観察対象物に含まれる感応因子の双極子モーメントが誘起され、観察対象物内において感応因子の分布に応じた誘電率(屈折率)の変化が誘起される。これにより、観察対象物内における媒質が変化する境界部において、その境界部を挟んだ両側のいずれか一方側に感応因子が含まれている場合には、感応因子の双極子モーメントの変化により、感応因子が含まれている側の媒質の誘電率(屈折率)が変化する。このため、境界部の両側の媒質の誘電率の値について、積極的に差を生じさせること、あるいは誘電率の値の差を積極的に増大させることができ、その結果、観察対象物内の媒質の境界部において照射光が的確に反射されるようになる。これにより、観察対象物を経た信号光と観察対象物を経ていない参照光とを検出し、参照光と信号光とを比較すること等により、観察対象物内の媒質の境界部等に関する情報(例えば、観察対象物の断面構造に関する情報)を極めて鮮明な状態で取得できる。
【0018】
また、出力部が出力する照射光として、コヒーレントな光であるフェムト秒パルスレーザー光が用いられる。フェムト秒パルスレーザー光は、微小時間幅で強度がパルス状に立ち上がり、しかもコヒーレント光であるため、感応因子の双極子モーメントを極めて有効に誘起させることができる。しかも、単位時間当たりのパルスレーザー光の出力レベルは抑制されているため、パルスレーザー光の照射による観察対象物への影響を抑制できる。
【0019】
また、出力部が出力する照射光の波長範囲の少なくも一部と、感応因子が光を吸収する吸収波長帯域の少なくとも一部とが重複しているため、出力部が出力する照射光が感応因子に有効に吸収されて、照射光のエネルギーが感応因子の双極子モーメントの誘起に有効に転換される。その結果、照射光により感応因子の双極子モーメントを有効かつ効率よく誘起させることができる。
【0020】
このような感応因子の光吸収特性と観察用の照射光の波長との関係が分かる前は、照射光の波長と感応因子の種類の組み合わせを煩雑な試行錯誤により決定していたが、感応因子の光吸収特性と観察用の照射光の波長との関係を利用することにより、照射光の波長と感応因子の種類の好ましい組み合わせを容易に決定できるようになった。また、各波長の光に対する感応因子の吸収特性は比較的容易に計測できるため、感応因子の選定等を有利に行うことができる。
【0021】
また、照射光として用いられるフェムト秒パルスレーザー光はパルス波長幅(バンド幅)を大きくできる。このため、観察対象物に照射した照射光の反射光と、観察対象物を経ていない参照光との位相差等に基づいて観察対象物内の照射光の照射方向に沿った断面の構造に関する情報を取得する場合には、観察対象物の断面の照射方向に対する分解能を向上させることができる。
【0022】
また、照射光の所望とする波長範囲を含む波長範囲を有するフェムト秒パルスレーザー光がレーザーユニットによって生成され、そのフェムト秒パルスレーザー光が、そのフェムト秒パルスレーザー光のうちの所定の短波長側境界値よりも短い波長成分、及び所定の長波長側境界値よりも長い波長成分が光フィルタユニットにより除去されて、照射光として用いられる。このため、照射光のスペクトル形状として、その波長範囲の短波長側境界値及び長波長側境界値で鋭く立ち上がった形状が得られる。このため、照射光の波長範囲の実質的に全体を有効に使って感応因子の双極子モーメントを誘起させることができ、観察対象物の構造に関する情報をさらに鮮明に取得できる。
【0023】
しかも、照射光の波長範囲の実質的に全体を有効に使用できるため、照射光の有効なバンド幅を拡大でき、観察対象物の断面の照射方向に対する分解能をさらに向上させることができる。
【0024】
この発明の観察装置に関する上記第2の局面によれば、出力部の光フィルタユニットの長波長除去フィルタ及び短波長除去フィルタにより、波長範囲の両端である長波長側境界値及び短波長側境界値にてスペクトル形状が急峻に立ち上がった照射光が得られる。これにより、照射光の波長範囲の全体を確実に使用して感応因子に双極子モーメントを誘起させることができるとともに、照射光の有効なバンド幅をさらに拡大できる。その結果、観察により取得される観察対象物の構造に関する情報の鮮明度及び解像度をさらに向上させることができる。
【0025】
この発明の観察装置に関する上記第3の局面に関し、本願発明者らの研究により、感応因子が、照射された照射光の感応因子の吸収波長帯域に属する波長成分を、所定の下限基準レベル以上の吸収度で吸収するように、感応因子と照射光の波長の組み合わせを設定すると、照射光により感応因子に双極子モーメントを効果的に誘起させ得ることが分かった。換言すると、感応因子による光の吸収度が下限基準レベル未満となるような波長の照射光を感応因子に照射しても、観察対象物内の誘電率の分布を有効に変化させるだけの感応因子の双極子モーメントの誘起は生じないことが分かった。その結果、この感応因子の光吸収に関する下限基準レベルを判断基準として用いることにより、照射光の波長と感応因子の種類の好ましい組み合わせをより容易に決定できる。
【0026】
この発明の観察装置に関する上記第4の局面に関し、感応因子による光の吸収度が必要以上に大きすぎると、観察対象物に照射した照射光のうち、感応因子により吸収される照射光の割合が大きくなりすぎ、観察のために観察対象物から取得される照射光(透過光又は反射光)の強度が弱くなりすぎ、検出精度が低下するという問題がある。そこで、この局面では、出力部が出力する照射光の波長と感応因子の組み合わせを決定する際の条件として、感応因子が、照射された照射光の感応因子の吸収波長帯域に属する波長成分を、所定の下限基準レベル以上、かつ所定の上限基準レベル以下の吸収度で吸収するとうう条件を与えたものである。
【0027】
この発明の観察装置に関する上記第5の局面に関し、出力部が出力する照射光の波長の上限を近赤外領域(例えば、2.5μm程度)に設定したのは、波長がそれ以上長くなると観察対象物の断面の構造等に関する情報を取得する際の分解能が悪化するからである。また、波長が近赤外領域よりも長くなると、水により吸収される割合が大きくなり、本発明の技術を水を含んだ観察対象物(例えば、生体組織)の観察に有効に適用できなくなるからである。また、出力部が出力する照射光の波長の下限を可視領域(例えば、360nm程度)に設定したのは、紫外光は生体組織への影響が大きく、人体組織の観察には適さないからである。
【0028】
それ故、出力部が出力する照射光として可視から近赤外の波長領域に属する光を用いることにより、有利な分解能で生体組織等の観察対象物の断面の構造等に関する情報を取得できる。
【0029】
この発明の観察装置に関する上記第6の局面に係る技術を利用して、生体組織内の構造(例えば、断面の構造)に関する情報を取得できる。
【0030】
また、この発明の観察装置に関する上記第7の局面に関し、色素として種々のものが知られているが、色素は可視から近赤外の波長領域に光を吸収する吸収波長帯域を有しているものが多い。このため、感応因子に色素を用いることにより、観察用の照射光の波長と、感応因子として用いる色素の組合せの自由度を拡大できる。
【0031】
また、この発明の観察装置に関する上記第8の局面に関し、有機色素は生体組織内に多く存在するため、生体組織内に存在する有機色素を感応因子として利用できるという利点がある。
【0032】
この発明の観察方法に関する上記第1の局面では、上述の観察装置に関する上記第1の局面とほぼ同様な効果が得られるとともに、さらに以下の効果が得られる。すなわち、感応因子導入段階で、観察対象物内に、照射光に感応して双極子モーメントが変化する感応因子が積極的に導入される。このため、観察対象物内の特に観察対象となる部分(例えば、一部の媒質、構造物等)に感応因子を導入することにより、その部分の構造に関する情報をより鮮明な状態で取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係る観察装置が適用されたOCT(Optical Coherence Tomography)の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の出力部の構成を示す図である。
【図3】図2の出力部に使用可能な光学素子を示す図である。
【図4】図2のレーザーユニットにより生成されるフェムト秒パルスレーザー光のスペクトルを示すグラフである。
【図5】図1の出力部から出力される照射光のスペクトルを示すグラフである。
【図6】図1の出力部から出力される照射光の横軸を時間としたときのパルス波形を模式的に示すグラフである。
【図7】一般的なフェムト秒パルスレーザー光のスペクトルを示すグラフである。
【図8】インドシアニングリーン水溶液の吸収波長スペクトルを示すグラフである。
【図9】従来型OCTに光源として用いられるスーパールミネッセントダイオードの照射光のスペクトルを示すグラフである。
【図10】従来型OCTにより得られた被験者Aの眼底部における黄斑部位の断層画像である。
【図11】従来型OCTにより得られた被験者Aの眼底部における乳頭部位の断層画像である。
【図12】図1のOCTにより得られた被験者Aの眼底部位における黄斑部位の断層画像である。
【図13】図1のOCTにより得られた被験者Aの眼底部位における乳頭部位の断層画像である。
【図14】図1のOCTにより得られた被験者Aの眼底部位における黄斑部位の断層画像である。
【図15】図1のOCTにより得られた被験者Aの眼底部位における乳頭部位の断層画像である。
【図16】図1のOCTにより得られた被験者Bの眼底部位における乳頭部位の断層画像である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1ないし図8を参照して、本発明の一実施形態に係る観察装置が適用されたOCTについて説明する。このOCT1は、図1に示すように、出力部11、検出部12、制御部13、表示部14、操作部15及び分割結合光学系16を備えて構成されており、観察対象物2内の構造の観察に用いられる。本発明の解析部には、主に制御部13が相当している。
【0035】
観察対象物2は、複数の媒質からなっており、その複数の媒質のうちの少なくともいずれか一つは、コヒーレントな光に感応して双極子モーメントを誘起する感応因子を含んでいる。この感応因子は、観察対象物2の媒質中に通常の状態で含まれているものである場合の他に、観察装置1を用いた観察を行う前又は観察を行っている最中に観察対象物2の媒質中に積極的に導入したものである場合がある。感応因子の具体例としては、例えば生理活性物質などが挙げられる。
【0036】
ここで、感応因子を観察対象物2内に積極的に導入する場合において、感応因子を導入する工程を感応因子導入段階といい、観察対象物2に出力部11の照射光31aを照射して観察対象物2の内部構造等を観察する工程を観察段階という。感応因子導入段階での感応因子の導入は、例えば、観察対象物2の表面を介して、又は表面に現れた複数の媒質の間の隙間を介して感応因子を浸透により観察対象物2内に導入する方法が挙げられる。この場合、観察対象物2を液体状の感応因子中に浸漬する方法、あるいは、液体状の感応因子を観察対象物2の表面に散布又は塗布する方法などが採用可能である。また、感応因子の他の導入方法として、液体状の感応因子を観察対象物2内に注入する方法が挙げられる。この場合、液体状の感応因子を所定の注入器具等を用いて観察対象物2内の所定部位(例えば、所定の媒質又は内部構造)に注入する方法等が採用可能である。例えば、注射器を用いて、感応因子が溶解した溶液を生体組織中の血管内に注入する方法等が採用可能である。
【0037】
出力部11は、制御部13の制御により、観察対象物2が設置された方向(プラスZ方向)に向けてコヒーレントな照射光31aを出力し、出力した照射光31aによって観察対象物2に含まれる感応因子の双極子モーメントを誘起させる。出力部11が出力する照射光31aについては後に詳述する。
【0038】
分割結合光学系16は、出力部11から出力された照射光31aを観察対象物2に向かう入射光31bと参照物体(例えば、ミラー等)17に向かう参照光31cとに分割するとともに、観察対象物2で反射された照射光31bの反射光と、参照物体47で反射された参照光31cの反射光とを重畳させて干渉光18を生成する。分割結合光学系16の主な構成要素として、図1に示す構成ではハーフミラーが用いられているが、光の入射側及び出射側の双方に分岐した2つの入出力端を有する分岐型の光ファイバ(あるいは、導光体)を用いてもよい。
【0039】
分割結合光学系16と観察対象物2との間の光路長と、分割結合光学系16と参照物体17との間の光路長とは実質的に等価に設定されており、観察対象物2で反射されて分割結合光学系46に到達する照射光31bの光路長と、参照物体17で反射されて分割結合光学系16に到達する参照光31cの光路長とが等しいときに、2つの反射波により生成される干渉光18の強度が極大値を形成する。
【0040】
なお、ここでは本実施形態に係る観察装置を反射型のOCT1に適用した場合について説明したが、本実施形態に係る観察装置を透過型のOCTに適用してもよい。また、図1に示すOCT1は、撮像速度の高速化に有利なフーリエドメインOCTであるが、本実施形態に係る観察装置はタイムドメインOCTにも当然適用できる。
【0041】
検出部12は、分光器12aと、受光素子12bとを備えている。分光器12aは、分割結合光学系16から与えられる干渉光18を受け入れて各波長成分に分光する。受光素子12b(例えば、CCD等の半導体受光素子)は、分光器12aにより分光された干渉光18の各波長成分の強度を検出し、制御部13に与える。なお、分光器12aの前段、及び分光器12aと受光素子12bとの間には、必要に応じてレンズ等の光学系が配置される。
【0042】
制御部13は、このOCT1全体の制御を司るとともに、受光素子12bから与えられた干渉光18の各波長成分ごとの強度をフーリエ変換することにより、観察対象物2の断面の構造に関する情報(断層画像等)を形成し、その情報(断層画像等)を表示部14に表示させる。操作部15は、観察装置1に対する操作入力を受け付ける。
【0043】
次に、図2ないし図8を参照して、出力部11、その出力部11が出力する照射光31a、及び照射光31aと感応因子との関係等について説明する。
【0044】
出力部11は、図2に示すように、レーザーユニット111と、光フィルタユニット112とを備えて構成されている。レーザーユニット111は、照射光31aの所望とする波長範囲を含む波長範囲を有するフェムト秒パルスレーザー光19を生成する。
【0045】
光フィルタユニット112は、レーザーユニット111が生成したフェムト秒パルスレーザー光19を受け入れ、そのフェムト秒パルスレーザー光19のうちの所定の短波長側境界値よりも短い波長成分、及び所定の長波長側境界値よりも長い波長成分を除去して、照射光31aとして送出する。
【0046】
このような光フィルタユニット112は、長波長除去フィルタ112a、短波長除去フィルタ112b及び吸収セル112cを備えて構成されている。長波長除去フィルタ112a、短波長除去フィルタ112b及び吸収セル112cの配置順序は、図2に示す構成に限定されるものではなく、任意の順番を採用可能である。
【0047】
長波長除去フィルタ112aは、フェムト秒パルスレーザー光19の光路上に配置され、フェムト秒パルスレーザー光19が長波長除去フィルタ112aを透過する際、照射光31aの長波長側境界値でのスペクトル形状が急峻(好ましくは、略直角)に立ち上がるように、フェムト秒パルスレーザー光19の長波長側境界値よりも長い波長成分を除去する。このような長波長除去フィルタ112aは、例えば色ガラスフィルタと誘電体多層膜との組み合わせ等により構成される。
【0048】
短波長除去フィルタ112bは、フェムト秒パルスレーザー光19の光路上に配置され、フェムト秒パルスレーザー光19が短波長除去フィルタ112bを透過する際、照射光31aの短波長側境界値でのスペクトル形状が急峻(好ましくは、略直角)に立ち上がるように、フェムト秒パルスレーザー光19の短波長側境界値よりも短い波長成分を除去する。このような短波長除去フィルタ112bは、例えば色ガラスフィルタと誘電体多層膜との組み合わせ等により構成される。
【0049】
吸収セル112cは、フェムト秒パルスレーザー光19の光路上に配置され、フェムト秒パルスレーザー光19が吸収セル112cを透過する際、フェムト秒パルスレーザー光19に含まれる特定の波長成分を吸収して除去するものである。本実施形態では、照射光31aのスペクトル形状が略矩形状になるように、フェムト秒パルスレーザー光19の長波長側境界値と短波長側境界値との間の波長成分のうち、強度が他の部分よりも大きい波長成分を吸収セル112cによって吸収させている。このような吸収セル112cは、例えば1種類又は複数種類の無機色素体又は有機色素体の溶液がガラス等の透明セル内に入れられたもの、あるいは、1種類又は複数種類の無機色素体又は有機色素体がコロイド分散された薄膜を用いて構成される。なお、この吸収セル112cは必須のものではなく、省略可能である。
【0050】
また、変形例として、この吸収セル112cの代わりとして、あるいは、吸収セル112cに追加して、図3に示す対向配置された2つの反射型フィルタ112d,112eを用いてもよい。この反射型フィルタ112d,112eは、互いに対向する面が特定の波長の光を吸収して除去する反射面となっている。フェムト秒パルスレーザー19は、反射型フィルタ112d,112eの間に斜め方向から入射され、反射面間で何度か反射された後、送り出されるようになっている。反射型フィルタ112d,112eは同じ波長成分の光を吸収するようにしてもよいし、異なる波長成分の光を吸収するようにしてもよい。このような反射型フィルタ112d,112eは、例えば誘電体多層膜ミラー等により構成される。
【0051】
図4はレーザーユニット111により生成されるフェムト秒パルスレーザー光19のスペクトルを示すグラフであり、図5は光フィルタユニット112を経た後のフェムト秒パルスレーザー19、すなわち照射光31aのスペクトルを示すグラフである。
【0052】
本実施形態では、図4に示すように、レーザーユニット111に、約750nmから約900nmの間の約150nmの波長範囲を含み、かつより広い波長範囲を有するフェムト秒パルスレーザー19を出力させている。
【0053】
そして、この図4のようなスペクトルを有するフェムト秒パルスレーザー光19を光フィルタユニット112に透すことにより、図5のような略矩形状のスペクトル形状を有する照射光31aが得られた。この照射光31aでは、図5に示すように、その波長範囲の短波長側境界値及び長波長側境界値において、スペクトル形状が略直角に立ち上がっている。図5中のPs1,Pt1,Pm1は、照射光31aの短波長側の立ち上がり部における起点、頂点、中間点を示し、Ps2,Pt2,Pm2は、照射光31aの長波長側の立ち上がり部における起点、頂点、中間点を示している。中間点Pm1,Pm2は、スペクトル強度が頂点Pt1,Pt2の強度の半分になる点である。また、頂点Pt1及び中間点Pm1の横軸(波長)の値は752mn,748nmとなっており、頂点Pt1及び中間点Pm1の横軸(波長)の値は894mn,897nmとなっている。ここでは、短波長側の中間点Pm1と長波長側の中間点Pm2との間の範囲を照射光31aの有効な波長範囲としている。
【0054】
図5のスペクトル形状の短波長側及び長波長側の立ち上がり部の急峻さを示す指標として、中間点Pm1,Pm2の波長値λを、中間点Pm1,Pm2と頂点Pt1,Pt2との波長差dλで割った値λ/dλを求めると、短波長側の立ち上がり部はλ/dλ=187(=748/4)となり、長波長側の立ち上がり部は、λ/dλ=299(=897/3)となる。参考として、ガウス型のスペクトル形状を仮定した場合、λ/dλは31.4(=785nm/25nm)であるから、ガウス型のスペクトル形状と比較して、急峻さの程度が、約6倍から約9.5倍になっている。
【0055】
図6は、照射光31aの横軸を時間としたときのパルス波形を模式的に示すグラフでああり、照射光31aは、フェムト秒パルスレーザー光特有の極めて短い時間の間に急峻に立ち上がるパルス波形を有している。
【0056】
図7は、一般的なフェムト秒パルスレーザー光のスペクトルを示すグラフである。この図7のフェムト秒パルスレーザー光も、約750nmから約900nmまでの約150nm幅の波長範囲を有しているが、スペクトル形状がガウス型となっている。このため、図5に示す本実施形態に係る照射光31aとはスペクトル形状等が大きく異なっている。
【0057】
次に、照射光31aと観察対象物2中に含まれる感応因子との関係について説明する。出力部11の出力する照射光31aが観察対象物2に照射されると、その照射光31aにより観察対象物2に含まれる感応因子の双極子モーメントが誘起され、観察対象物2内において感応因子の分布に応じた誘電率(屈折率)の変化が誘起される。
【0058】
これにより、観察対象物2内における媒質が変化する境界部において、その境界部を挟んだ両側のいずれか一方側に感応因子が含まれている場合には、感応因子の双極子モーメントの変化により、感応因子が含まれている側の媒質の誘電率(屈折率)が変化する。このため、境界部の両側の媒質の誘電率の値について、積極的に差を生じさせること、あるいは誘電率の値の差を積極的に増大させることができる。その結果、観察対象物2内の媒質の境界部において照射光31aが的確に反射されるようになる。これにより、照射光31aの観察対象物2からの反射光である信号光、及びその信号光と参照光31cとが重畳された干渉光18の観察対象物2中の構造(例えば、媒質の境界部等)に関する信号成分が増強され、干渉光に基づいて観察対象物2中の構造に関する情報(例えば、断層画像)を形成する際の情報の感度(鮮明度)が向上する。
【0059】
次に、出力部11が出力する照射光31aと感応因子の光吸収特性との関係について説明する。出力部11が出力する照射光31aによって感応因子に双極子モーメントを誘起させるためには、照射光31aのエネルギーが感応因子の双極子モーメントの誘起に有効に変換される必要がある。そこで、本実施形態では、照射光31aの波長範囲の少なくも一部と、感応因子が光を吸収する吸収波長帯域の少なくとも一部とが重複するように、照射光31aと感応因子との組み合わせを設定している。
【0060】
このような感応因子の光吸収特性と観察用の照射光31aの波長との関係が分かる前は、照射光の波長と感応因子の種類の組み合わせを煩雑な試行錯誤により決定していたが、感応因子の光吸収特性と観察用の照射光の波長との関係を利用することにより、照射光の波長と感応因子の種類の好ましい組み合わせを容易に決定できるようになった。また、各波長の光に対する感応因子の吸収特性は比較的容易に計測できるため、感応因子の選定等を有利に行うことができる。
【0061】
また、照射光31aとして用いられるフェムト秒パルスレーザー光はパルス波長幅(バンド幅)を大きくできる。このため、観察対象物2に照射した照射光31aの反射光と、観察対象物2を経ていない参照光31cとの位相差等に基づいて観察対象物2内の照射光31aの照射方向に沿った断面の構造に関する情報を取得する場合に、観察対象物2の断面の照射方向に対する分解能を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態に係るOCT1では、上述のように、照射光31aの所望とする波長範囲を含む波長範囲を有するフェムト秒パルスレーザー光19がレーザーユニット111によって生成され、そのフェムト秒パルスレーザー光19が、そのフェムト秒パルスレーザー光19のうちの所定の短波長側境界値よりも短い波長成分、及び所定の長波長側境界値よりも長い波長成分が光フィルタユニット112により除去されて、照射光31aとして用いられる。このため、照射光31aのスペクトル形状として、その波長範囲の短波長側境界値及び長波長側境界値で鋭く立ち上がった形状が得られる。このため、照射光31aの波長範囲の実質的に全体を有効に使って感応因子の双極子モーメントを誘起させることができ、観察対象物2の構造に関する情報をさらに鮮明に取得できる。
【0063】
しかも、照射光31aの波長範囲の実質的に全体を有効に使用できるため、照射光31aの有効なバンド幅を拡大でき、観察対象物2の断面の照射方向に対する分解能をさらに向上させることができる。
【0064】
これに対し、図7に示すようなガウス型のスペクトル形状を有するフェムト秒パルスレーザー光では、その波長範囲の短波長側及び長波長側の裾の部分の強度が強度不足となり、感応因子に対する十分な双極子モーメントの誘起が得られないおそれがある。また、有効な波長範囲が制限されるため、観察対象物の断面等に対する分解能も低下するおそれがある。
【0065】
また、光フィルタユニット112の長波長除去フィルタ112a及び短波長除去フィルタ112bにより、波長範囲の両端である長波長側境界値及び短波長側境界値にてスペクトル形状が急峻に立ち上がった照射光31aが得られる。これにより、照射光31aの波長範囲の全体を確実に使用して感応因子に双極子モーメントを誘起させることができるとともに、照射光31aの有効なバンド幅をさらに拡大できる。その結果、観察により取得される観察対象物2の構造に関する情報の鮮明度及び解像度をさらに向上させることができる。
【0066】
次に、感応因子による照射光31aの吸収度(Absorbance)に関する条件について説明する。感応因子は、照射された照射光31aの感応因子の吸収波長帯域に属する波長成分を、所定の下限基準レベル以上、かつ、所定の上限基準レベル以下の吸収度で吸収するものであるのがよい。吸収度Absは、感応因子に照射光31aを照射したときの照射光31aの入射強度をIinとし、透過強度をIoutとしたとき、
Abs=−log(Iout/Iin)
で与えられる無次元量である。なお、上の対数は常用対数である。
【0067】
上記の有効吸収波長帯域の下限(下限基準レベル)を設定したのは、感応因子による照射光31aの所定レベル以上の吸収がないと、観察対象物2内の誘電率の分布の有効な変化を生じさせるだけの感応因子の双極子モーメントの変化が得られないからである。また、有効吸収波長帯域の上限(上限基準レベル)を設定したのは、感応因子による照射光31aの吸収度が必要以上に大きすぎると、観察対象物2に照射した照射光31aのうち、感応因子により吸収される照射光31aの割合が大きくなりすぎ、観察のために観察対象物2から取得される照射光(本実施形態では、反射光)の強度が弱くなりすぎ、検出精度が低下するという問題があるからである。有効吸収波長帯域の下限基準レベルは例えば0.22程度(例えば、0.22)に設定され、上限基準レベルは例えば3程度(例えば、3)に設定される。
【0068】
なお、感応因子に吸収された照射光31aのエネルギーは双極子モーメントの誘起だけでなく、熱的な振動モード等の他の量子論的な他の状態変化に転換され、感応因子に吸収された照射光31aのエネルギーのどのくらいの割合が双極子モーメントの誘起に転換されたのかを計測するのは容易でない。しかし、感応因子の有効吸収波長帯域は比較的容易に調べられるため、それを利用して照射光31aの波長と感応因子の種類の好ましい組み合わせを選定することにより、その選定作業が飛躍的に効率化される。
【0069】
ここで、感応因子として有望な材料について記載する。まずは、色素(有機色素と無機色素を含む)等の生理活性物質が挙げられる。色素として種々のものが知られているが、色素は可視から近赤外の波長領域に光を吸収する吸収波長帯域を有しているものが多い。このため、感応因子に色素を用いることにより、観察用の電磁波の波長と、感応因子として用いる色素の組合せの自由度を拡大できる。また、感応因子として有機色素を用いる場合、有機色素は生体組織内に多く存在するため、生体組織内に存在する有機色素を感応因子として利用できるという利点がある。他の生理活性物質としては、例えばタンパク、コレステロール、脂肪球、脂質、赤血球、白血球、血小板などが挙げられる。この他、感応因子として水、氷、アルコール、ガラス、石英、ダイヤモンド、プラスチック、半導体なども挙げられる。但し、これらの材料の吸収波長特性と観察用の照射光の波長との関係が上記の条件を満たす必要がある。
【0070】
また、出力部が出力する照射光31aは、可視から近赤外の波長領域に属する光であるのが好ましい。このように照射光31aの波長の上限を近赤外領域(例えば、2.5μm程度)に設定したのは、波長がそれ以上長くなると観察対象物2の断面の構造等に関する情報を取得する際の分解能が悪化するからである。また、波長が近赤外領域よりも長くなると、水により吸収される割合が大きくなり、本発明の技術を水を含んだ観察対象物(例えば、生体組織)の観察に有効に適用できなくなるからである。また、照射光31aの波長の下限を可視領域(例えば、360nm程度)に設定したのは、紫外光は生体組織への影響が大きく、人体組織の観察には適さないからである。それ故、照射光31aとして可視から近赤外の波長領域に属する光を用いることにより、有利な分解能で生体組織等の観察対象物の断面の構造等に関する情報を取得できる。
【0071】
照射光31aとして、可視から近赤外の波長領域に属するレーザー光を用いる場合における、感応因子の好ましい例としては、例えばインドシアニングリーン(Indocyanine Green)(以下、「ICG」と記す)が挙げられる。ICGが有望であるのは、図8に示すようにICGは可視光領域に光を吸収する強い吸収波長帯域を有しており、本願発明者による試験により、照射光31aによる強い双極子モーメントの誘起が得られることが分かっているからである。また、ICGは生体組織に導入された際にも導入による影響が小さく、安全性についても確認されているからである。なお、図8はICG水溶液の吸収波長特性を示すものであるが、ICG水溶液中の水による光吸収は主に約900nm以上の波長領域で寄与するため、図8のグラフは主にICGの吸収波長特性を示している。
【0072】
以下では、本実施形態に係るOCT1を用いて行った効果実証試験の結果について記載する。
【0073】
観察対象として、人の眼底部の断層撮像を行った。比較試験は、現在医療現場で使用されている従来型OCT(高性能モデル)を用いて行った。
【0074】
比較例である従来型OCTは、以下の構成を有している。
【0075】
・光源 : 高輝度発光ダイオード
・光源光量 : 1.44mW
・光源スペクトル幅 : 約50nm(中心波長:810nm)
・測定時間(光照射時間): 1秒(積算値)
この従来型OCTでは、眼底部の撮像部位を1秒間に50回撮像し、それによって得られる50枚の画像データを重ね合わせて1枚の断層画像を作成している。このように画像データを重ね合わせるのは、1枚の画像データでは感度が不十分で鮮明な画像が得られないからである。このため、撮像に時間を要し、撮像中の撮像対象(眼球自体及びその内部の各部位)の微動により、画像が劣化しやすいという問題がある。
【0076】
本実施形態に係るOCT1は、以下の構成を有している。
【0077】
・光源 : フェムト秒パルスレーザー装置(自作によるもの)
・光源光量 : 1.19mW
・光源スペクトル幅 : 約150nm(中心波長:810nm)
・測定時間(光照射時間): 0.02秒
このOCT1は、測定時間が20ミリ秒と極めて短時間であるとともに、1枚の画像データで十分に鮮明な画像が得られるため、画像データの積層も不要である。このため、撮像中の撮像対象の微動の影響を受けず、鮮明な画像が得られる。また、1回の撮像が20ミリ秒で完了するため、撮像対象の動画撮像も可能である。
【0078】
また、照射光源にフェムト秒パルスレーザー光を用いることにより、照射光の波長幅(バンド幅)を大きくできるため、観察対象物の断面の照射方向に対する分解能を飛躍的に高めることができた。具体的には、従来型OCTではせいぜい10μm程度の分解能であったのを、本実施形態に係るOCT1では、2.3μmの分解能が得られている。
【0079】
なお、今回の試験に用いた従来型OCTの光源には、図9に示すスペクトルの光を生成するスーパールミネッセントダイオードが用いられている。これに対し、本実施形態に係るOCT1の照射光31aには、上述の図5のスペクトルを有する光を用いている。
【0080】
次に、図10ないし図16を参照して、従来型OCTにより得られる断層画像と、本実施形態に係るOCT1により得られる断層画像とを比較する。
【0081】
図10、図11は、従来型OCTにより得られた被験者Aの眼底部における黄斑部位及び乳頭部位の断層画像である(図10が黄斑部位、図11が乳頭部)。
【0082】
図12ないし図15は、本実施形態に係るOCT1により得られた被験者Aの眼底部位における黄斑部位及び乳頭部位の断層画像で(図12、図14が黄斑部位、図13、図15が乳頭部位)、図16は本実施形態に係るOCT1により得られた被験者Bの眼底部位における乳頭部位の断層画像である。
【0083】
また、図12、図13は、被験者に外部からの感応因子の導入を行わずに撮像したものである。この場合、被験者の眼底部を形成する組織中の物質が感応因子として作用する。図14ないし図16は、被験者に外部から感応因子としてICGを導入した状態で撮像したものである。この場合、被験者の眼底部を形成する組織中の物質、及び導入されたICGが感応因子として作用する。なお、ICGの導入は、ICGを生理食塩水で希釈して静注した。
【0084】
図10、図11と図12、図13とを比較して、図10、図11の断層画像は50枚の画像データの積層画像であるのに対して、図12、図13の断層画像は20m秒の1回の撮像で得られた画像であるにも関わらず、眼底部の断面構造がほぼ同等な鮮明度で画像中に反映されていることが分かる。
【0085】
特に、図14、図15のICGを導入して得られた断層画像では、図10、図11と比較して、画像の解像度及び鮮明度等が飛躍的に向上していることが分かる。
【0086】
例えば、図14の黄斑部位の断層画像では、矢印A1で示す部分において、内境界膜、神経繊維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層、外境界膜構造等が鮮明に視認できる。また、矢印A2で示す部分において、眼底視細胞層の構成が鮮明に視認できる。また、矢印A3で示す部分において、ブルッフ膜、脈絡毛細管板が視認できる。また、矢印A4で示す部分において、脈絡膜血管像が鮮明に視認できる。
【0087】
また、図15の乳頭部位の断層画像では、乳頭貫入部、血管走行の様子が鮮明になっているとともに、矢印B1で示す部分において、篩状板部が初めて鮮明に観察できるようになった。
【0088】
また、図16の乳頭部位の断層画像では、篩状板部及び篩状板部下部構造の構成が良好に視認できる。これにより、緑内障の診断、治療に非常に有用な情報が得られる。
【0089】
以上の試験結果より、本実施形態に係るOCT1によって、従来型OCTと比較して人体組織等の断層画像の解像度及び鮮明度が飛躍的に向上していることが確認できた。なお、ここでは本実施形態に係るOCT1を人体組織の断層画像の取得に用いたが、OCT1は、人体以外の生体組織、及び生体組織以外の種々の観察対象物の断層画像の取得にも用いることができる。
【符号の説明】
【0090】
1 OCT、2 観察対象物、11 出力部、12 検出部、12a 分光器、12b 受光素子、13 制御部、14 表示部、15 操作部、16 分割結合光学系、17 参照物体、18 干渉光、19 フェムト秒パルスレーザー光、31a 照射光、31b 入射光、31c 参照光、111 レーザーユニット、112 光フィルタ、112a 長波長除去フィルタ、112b 短波長除去フィルタ、112c 吸収セル、112d,112e 反射型フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレントな光に感応して双極子モーメントを誘起する感応因子を含んだ観察対象物を観察する観察装置であって、
前記観察対象物に含まれる前記感応因子の双極子モーメントを誘起させるコヒーレントな照射光を出力する出力部と、
前記出力部が出力した前記照射光のうちの前記観察対象物を経て到来する信号光、及び前記観察対象物を経ずに到来する参照光を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記観察対象物の構造を解析する解析部と、
を備え、
前記出力部が出力する前記照射光の波長範囲の少なくも一部と、前記感応因子が光を吸収する吸収波長帯域の少なくとも一部とが重複し、
前記出力部は、
前記照射光の前記波長範囲を含む波長範囲を有するフェムト秒パルスレーザー光を生成するレーザーユニットと、
前記レーザーユニットが生成した前記フェムト秒パルスレーザー光を受け入れ、そのフェムト秒パルスレーザー光のうちの所定の短波長側境界値よりも短い波長成分、及び所定の長波長側境界値よりも長い波長成分を除去して、前記照射光として送出する光フィルタユニットと、
を備えることを特徴とする観察装置。
【請求項2】
請求項1に記載の観察装置において、
前記出力部の前記光フィルタユニットは、
前記照射光の前記長波長側境界値でのスペクトル形状が急峻に立ち上がるように、前記フェムト秒パルスレーザー光の前記長波長側境界値よりも長い波長成分を除去する長波長除去フィルタと、
前記照射光の前記短波長側境界値でのスペクトル形状が急峻に立ち上がるように、前記フェムト秒パルスレーザー光の前記短波長側境界値よりも短い波長成分を除去する短波長除去フィルタと、
を備えることを特徴とする観察装置。
【請求項3】
請求項1に記載の観察装置において、
前記感応因子は、照射された前記照射光の前記感応因子の前記吸収波長帯域に属する波長成分を、所定の下限基準レベル以上の吸収度で吸収することを特徴とする観察装置。
【請求項4】
請求項3に記載の観察装置において、
前記感応因子は、照射された前記照射光の前記感応因子の前記吸収波長帯域に属する波長成分を、所定の下限基準レベル以上、かつ所定の上限基準レベル以下の吸収度で吸収することを特徴とする観察装置。
【請求項5】
請求項1に記載の観察装置において、
前記出力部が出力する前記照射光は、可視から近赤外の波長領域に属することを特徴とする観察装置。
【請求項6】
請求項5に記載の観察装置において、
前記観察対象物は、生体組織であることを特徴とする観察装置。
【請求項7】
請求項1に記載の観察装置において、
前記感応因子は、色素であることを特徴とする観察装置。
【請求項8】
請求項7に記載の観察装置において、
前記感応因子は、有機色素であることを特徴とする観察装置。
【請求項9】
請求項1に記載の観察装置において、
前記観察装置は、
前記出力部から出力された前記照射光を前記観察対象物に向かう入射光と参照物体に向かう前記参照光とに分割するとともに、前記入射光のうちの観察対象物を経由した前記信号光と前記参照物体を経由した前記参照光とを重畳させて干渉光を生成する分割結合光学系をさらに備え、
前記検出部は、前記分割結合光学系から与えられた前記干渉光を検出することを特徴とする観察装置。
【請求項10】
人を除く観察対象物を観察する観察方法であって、
前記観察対象物内に、コヒーレントな光に感応して双極子モーメントを誘起する感応因子を導入する感応因子導入段階と、
前記観察対象物に含まれる前記感応因子の双極子モーメントを誘起させるコヒーレントな照射光を出力部に出力させ、前記出力部が出力した前記照射光のうちの前記観察対象物を経て到来する信号光、及び前記観察対象物を経ずに到来する参照光を検出部により検出し、前記検出部の検出結果に基づいて、前記観察対象物の構造を解析する観察段階と、
を備え、
前記出力部が出力する前記照射光の波長範囲の少なくも一部と、前記感応因子が光を吸収する吸収波長帯域の少なくとも一部とが重複し、
前記出力部が出力する前記照射光は、レーザーユニットに前記照射光の前記波長範囲を含む波長範囲を有するフェムト秒パルスレーザー光を生成させ、光フィルタユニットにより、そのフェムト秒パルスレーザー光のうちの所定の短波長側境界値よりも短い波長成分、及び所定の長波長側境界値よりも長い波長成分を除去することにより得られた光であることを特徴とする観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−83449(P2013−83449A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221436(P2011−221436)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(510095868)株式会社CADENZ (2)
【Fターム(参考)】