説明

観賞魚用ろ過成形体およびその製造方法

【課題】支持体に担持したイオン交換樹脂粉末の脱落を防止するとともに、支持体の型くずれを防止して回収・再使用を可能にした観賞魚用ろ過成形体を提供すること。
【解決手段】繊維材料よりなる支持体12と、支持体12に担持されたイオン交換樹脂粉末14と、支持体12の表面を被覆する被覆層16とを備えたろ過成形体10とする。この際、支持体12の全表面積に対する被覆層16の表面積の割合は、40〜95%の範囲内にあることが好ましい。また、支持体12の繊維材料の太さは、平均2〜5デシテックスの範囲内にあることが好ましい。さらに、支持体12は、マット状であることが好ましい。そして、繊維材料よりなる表面保護層をさらに備えることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観賞魚用水槽中の飼育水のろ過を行なうろ過材として好適な観賞魚用ろ過成形体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、観賞魚用水槽を用いて観賞魚等の人工飼育が盛んに行なわれている。飼育過程においては、観賞魚等の排泄物や残餌が出る。そのため、水質を維持する目的で、各種方法により飼育水のろ過が行なわれている。例えば、ウール等による物理ろ過により排泄物や残餌をある程度回収するとともに、残った排泄物や残餌を多孔質材を用いた生物ろ過により分解している。
【0003】
この分解過程では、可溶性のアンモニア態窒素や亜硝酸態窒素が発生する。これらは、観賞魚等にとって非常に毒性が強いものであり、観賞魚等に悪影響を与える。そしてこのアンモニア態窒素や亜硝酸態窒素は、硝化菌によって毒性の低い硝酸態窒素に分解される。このような硝化を行なう微生物は、水質浄化にとって有益であるが、その一方で、このような微生物が繁殖しすぎても、観賞魚等に悪影響を与える。そのため、これらのバランスを保ち、長期にわたって水質を維持し続けることは非常に難しいといわれている。
【0004】
また、装飾や観賞魚等の住みかなどの目的で、観賞魚用水槽内に流木を設置する場合がある。この際、流木の灰汁出しが十分でないと、飼育水中に流木から灰汁が溶出する。これにより、美観が損なわれるだけでなく、観賞魚等にも悪影響を与える。
【0005】
そこで、このような観賞魚等に悪影響を与える有害物質を除去、あるいは分解するための素材や技術が種々提案されている。
【0006】
例えば特許文献1には、袋状のシート体に粉末状の活性炭やゼオライトを内蔵し、活性炭やゼオライトの吸着作用を利用してろ過を行なう観賞魚用フィルターが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、繊維よりなる支持体に粉末イオン交換樹脂を担持させたろ過材を用いて観賞魚用水槽においてろ過を行なう技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−236774号公報
【特許文献2】特開平08−238040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のものにおいては、吸着効率を高くするため、粒径の小さい活性炭の微粉末を用いている。そしてこのまま用いたのでは水が濁るため、流出しないように内蔵するための袋体を用いる必要がある。また、取り扱い時等において袋体が破れると、活性炭により汚してしまうおそれがある。さらに、使用量が多く、また定期的に取り替えをする必要もあるため、コスト高になりやすい。
【0010】
一方、特許文献2に記載のものにおいては、取り扱い時に、繊維から粉末イオン交換樹脂が脱落しやすかった。そして、水中に入れると繊維が膨潤するため、さらに粉末イオン交換樹脂は脱落しやすくなり、水槽内を白濁させてしまうおそれがあった。また、水槽内で膨潤した繊維は形態をとどめない状態となり、回収・洗浄して再使用することは困難であった。さらには、湿式方法により粉末イオン交換樹脂を繊維に担持させるため、担持後にろ過材を乾燥させる必要があるが、乾燥工程で回転脱水をすると、繊維同士が擦れ合い、繊維表面に毛玉ができて、外観を悪くしていた。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、支持体に担持したイオン交換樹脂粉末の脱落を防止するとともに、支持体の型くずれを防止して回収・再使用を可能にした観賞魚用ろ過成形体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明に係る観賞魚用ろ過成形体は、繊維材料よりなる支持体と、前記支持体に担持されたイオン交換樹脂粉末と、前記支持体の表面を被覆する被覆層とを備えたことを要旨とするものである。
【0013】
この際、前記支持体の全表面積に対する前記被覆層の表面積の割合は、40〜95%の範囲内にあることが望ましい。
【0014】
そして、前記支持体の単位表面積当たりにおける前記被覆層の質量は、40〜120g/mの範囲内にあると良い。このとき、前記被覆層は、多孔質材料を含有すると良い。そして、前記多孔質材料は、吸着性材料であると良い。さらに、前記被覆層は、接着剤を含有すると良い。
【0015】
また、前記繊維材料の太さは、平均2〜5デシテックスの範囲内にあると良い。そして、前記支持体は、マット状であると良い。この際、前記被覆層は、前記マット状の支持体の片側表面のみに形成されていても良い。
【0016】
また、前記イオン交換樹脂は、陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂から選択された1種または2種以上であると良い。
【0017】
そして、上記観賞魚用ろ過成形体は、繊維材料よりなる表面保護層をさらに備えていても良い。
【0018】
一方、本発明に係る観賞魚用ろ過成形体の製造方法は、繊維材料よりなる支持体の表面に被覆層を形成する工程と、イオン交換樹脂粉末を含有する液中に前記支持体を浸漬する工程と、前記浸漬により浸潤した前記支持体を乾燥する工程とを有することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る観賞魚用ろ過成形体によれば、繊維材料よりなる支持体の表面に被覆層を設けているため、支持体に担持されたイオン交換樹脂粉末が支持体から脱離するのを防止できる。また、被覆層により支持体の表面が強化されているため、支持体の型くずれを防止できる。そしてこれにより、ろ過成形体を回収・再使用できる。
【0020】
この際、支持体表面を覆う被覆層の表面積の割合が上記特定範囲内であると、イオン交換樹脂粉末の脱落を防止する効果、および、支持体の型くずれを防止する効果に優れるとともに、飼育水と接触しやすく、ろ過効率にも優れる。
【0021】
そして、前記支持体の単位表面積当たりにおける前記被覆層の質量が上記特定範囲内であれば、確実に支持体の型くずれを防止できる。また、被覆層が多孔質材料を含有する場合には、多孔質材料は、その構造中に連続あるいは独立気孔を有し、比表面積が大きいため、飼育水中に投入したときに水含みが良い。そのため、ろ過成形体が飼育水中に素早く沈降でき、早期から優れたろ過効果が期待できる。また、飼育水との接触面積が大きいため、優れたろ過効果が期待できる。
【0022】
そして、この多孔質材料が吸着性材料である場合には、水槽中にイオンの形で溶解しているアンモニアや亜硝酸や塩素などの有害物質を積極的に吸着できる。したがって、イオン交換樹脂による吸着効果と合わせて高いろ過効果が得られる。さらに、被覆層が接着剤を含有する場合には、被覆層を硬くすることができるため、支持体の型くずれを防止する効果に優れる。
【0023】
そして、繊維材料の太さが平均2〜5デシテックスの範囲内にある場合には、イオン交換樹脂粉末の担持量を高くできるとともに、その分散性を良くすることができる。また、透水性にも優れる。これにより、高いろ過効果が得られる。
【0024】
このとき、支持体がマット状であると、型くずれを防止する効果が高い。そして、この際、被覆層をマット状の支持体の片側表面のみに形成すると、被覆層が形成されていない面は親水性が高いため、ろ過成形体が飼育水中に素早く沈降でき、早期から優れたろ過効果が期待できる。
【0025】
そして、イオン交換樹脂が陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂とを含有する場合には、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂とによって凝集体が形成されるため、透水性が確保されやすい。
【0026】
さらに、このろ過成形体が繊維材料よりなる表面保護層を備える場合には、支持体表面の被覆層が形成されていない部分を含むろ過成形体表面をさらに覆うため、イオン交換樹脂粉末の脱離を抑える効果をさらに高めることができる。
【0027】
そして、本発明に係る観賞魚用ろ過成形体の製造方法によれば、支持体の表面に被覆層を形成するため、支持体に担持されたイオン交換樹脂粉末の脱落および支持体の型くずれを防止できるろ過成形体が製造できる。また、支持体の表面に被覆層を形成するため、乾燥工程において回転脱水をしても、支持体表面には毛玉ができにくい。したがって、外観に優れるろ過成形体が製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るろ過成形体を表わす斜視図(a)および断面模式図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の一実施形態に係る観賞魚用ろ過成形体10(以下、ろ過成形体10ということがある。)は、図1に示すように、支持体12と、支持体12に担持されたイオン交換樹脂粉末14と、支持体12表面を被覆する被覆層16とを備えるものである。
【0030】
支持体12は、繊維材料よりなるものである。繊維材料としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維などを挙げることができる。これらは単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらのうち、繊維量を多くした場合においても繊維間の隙間ができやすいため、水を含みやすいなどの観点から、ポリエステル繊維が好ましい。
【0031】
繊維材料の太さは、透水性、メンテナンス性、浄化性、イオン交換樹脂粉末14が均一かつ緻密に付着しやすいなどの観点から、平均2〜5デシテックス(dtex、デニールの場合には、平均2〜4デニール、以下、デニールで表わす。)の範囲内にあることが好ましい。ここで、繊維材料の太さを平均で表わしているのは、同じ太さの繊維材料で支持体12が形成されても良いし、異なる太さの繊維材料で支持体12が形成されても良いためである。また、繊維の太さは、1デニール以下の極細カット繊維や5デニール以上のカット繊維などを混合して支持体を作製しても良い。
【0032】
異なる太さの繊維材料で形成する場合、質量割合で、比較的細い繊維材料を多くすると、繊維間にイオン交換樹脂粉末14が入りやすくなるため、ろ過成形体10のろ過性能の持続性に優れる。一方、比較的太い繊維材料を多くすると、透水性に優れる。したがって、これらのバランスを考慮して、適宜割合を調整すれば良い。より好ましくは、ろ過性能の持続性に優れる観点から、比較的細い繊維材料の割合を多くすることである。
【0033】
繊維材料の太さが平均2デニール未満の場合、繊維間の隙間が小さくなりやすい。そのため、イオン交換樹脂粉末14は均一かつ緻密に付着しやすいが、透水しにくい。このため、透水速度が低下しやすい。また、繊維間の隙間が小さくなると、観賞魚等の排泄物や残餌などが繊維に堆積して目詰まりしやすくなる。これにより、洗浄や取り替えの頻度が高くなり、メンテナンス性が悪くなるおそれがある。
【0034】
一方、繊維材料の太さが平均4デニールを超える場合、繊維間の隙間が大きくなりやすい。そのため、透水速度が速く、排泄物や残餌などの汚濁物を含んだ水の支持体12への滞留時間が短くなりやすいため、浄化が不十分になりやすい。また、繊維にイオン交換樹脂粉末14を付着させる際には、繊維間の隙間からイオン交換樹脂粉末14がこぼれ落ちやすいため、付着しにくい。さらに、イオン交換樹脂粉末14は繊維が密集している部分に付着するため、繊維間の隙間が大きくなる結果、イオン交換樹脂粉末14は支持体12において緻密かつ均一には分散されにくい。
【0035】
支持体12の形状としては、使用時、回収時、長期間の使用により付着した汚れ等を除去するための洗浄時等において型くずれしにくいなどの観点から、所定の形状に成形されていることが好ましい。支持体12の形状としては、より具体的には、マット状が好ましい。マット状の支持体は、その一の面の形状が三角形、四角形、五角形等の多角形であっても良いし、円形、楕円形等であっても良く、各種形状にすることができる。使用場所や水槽の大きさ、デザイン性等を考慮して、適宜調節することができる。また、支持体12の大きさは、飼育水の汚れ具合や水槽の大きさ等に合わせて適宜調節すれば良い。支持体12の形状がマット状であれば、目的の大きさにカットするなどの加工もしやすい。
【0036】
支持体12に担持するイオン交換樹脂粉末14は、予め粉末状にされているものを用いても良いし、粒状のイオン交換樹脂を粉砕したものを用いても良い。イオン交換樹脂粉末14の平均粒径は、特に限定されるものではない。粒径を小さくすれば、表面積が増大し、吸着効率が上昇するが、取り扱い性が低下する。この観点から、イオン交換樹脂粉末14の平均粒径は、250μm以下であることが好ましい。より好ましくは、平均粒径が1〜25μmの範囲内である。
【0037】
平均粒径が250μmを超えると、ろ過作用が、イオン交換基による化学的イオン交換作用のみに基づくものと推測されるため、ろ過処理に時間を要するおそれがある。これに対し、平均粒径が250μm以下では、表面活性が強まり、物理的吸着作用が現れると推測されるため、ろ過処理速度が速くなることが期待できる。さらに、平均粒径が1〜25μmの範囲内では、機械粉砕での製造が容易で、使用しやすいだけでなく、活性炭と同様の優れた物理的吸着作用を発揮でき、イオン交換基による化学的イオン交換作用との相乗効果により、優れたろ過作用を発揮できる。また、併せてろ過処理速度が著しく速くなる。なお、平均粒径が1μm未満では、ろ過処理速度に優れ、物理的吸着作用も有するが、機械粉砕での製造が難しく、コスト高になりやすい。
【0038】
粒状のイオン交換樹脂の粉砕方法としては、機械粉砕方法で良いが、可及的にイオン交換樹脂粉末14の機能を損なわない方法、例えば気流粉砕方法や、凍結粉砕方法などが挙げられる。この方法においては、例えば増野製作所製の粉砕装置「ニューミクロンシクロマット」を用いることができる。
【0039】
イオン交換樹脂としては、陰イオン交換樹脂であっても良いし、陽イオン交換樹脂であっても良い。また、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂とを併用することもできる。これらは1種または2種以上混合して用いることができる。このうち、観賞魚等に悪影響を与えるアンモニア態窒素成分や亜硝酸態窒素成分をより吸着しやすいなどの観点から、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂の両方を含有することが好ましい。また、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂とを併用する場合には、これらは凝集体をつくるため、支持体12の繊維間の隙間を埋めにくくする。そのため、透水性が確保されやすい。この際、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂の比率は、適宜調節すれば良いが、好ましくは、質量比で、4:1〜1:4の範囲内である。清澄作用は陽イオン交換樹脂粉末だけでは弱いが、陰・陽の両イオン交換樹脂粉末を用いることで、アンモニア態窒素成分と亜硝酸態窒素成分の両方に対して、優れた浄化機能を表わす。
【0040】
イオン交換樹脂粉末14の担持量は、特に限定されるものではない。例えば、イオン交換樹脂のイオン交換量や、飼育水の汚れ程度、水槽の大きさ、ろ過成形体10の大きさ、取り扱い性等を考慮して、適宜調節することができる。取り扱い性などの観点から、担持量は、多孔性支持体乾燥重量当たり0.1〜1g/g(支持体乾燥質量)の範囲内にすることが好ましい。
【0041】
本発明において好適に用いられるイオン交換樹脂としては、具体的には、例えば、三菱化学社のダイヤイオン(三菱化学社の登録商標)や、オルガノ社のアンバーライト(ローム・アンド・ハース社の登録商標)などが挙げられる。陰イオン交換樹脂としては、例えば、ダイヤイオンPA316、WA30、アンバーライトIRA900、IRA93などが挙げられる。また、陽イオン交換樹脂としては、例えば、ダイヤイオンPK216、WK11、アンバーライトIRC120、IRC50などが挙げられる。予め粉末状にされているイオン交換樹脂粉末の市販品としては、例えば、三菱化学社のダイヤイオンFMAや、オルガノ社のPOWDEXなどが挙げられる。
【0042】
被覆層16は、支持体12表面を覆っているため、支持体12に担持されたイオン交換樹脂粉末14が支持体12から脱落するのを防止する。また、支持体12の形状を維持するため、支持体12の型くずれを防止する。一方で、支持体12は繊維材料よりなるため、繊維間の隙間に水が入り込みやすく、支持体12は含水しやすくなっているが、被覆層16はその表面を覆うため、支持体12の吸水性を低下させやすい。これにより、支持体12と飼育水との接触に時間を要するため、ろ過効果を発揮するまでの時間を要することとなる。
【0043】
したがって、支持体12表面を被覆する被覆層16は、支持体12の全表面を被覆しても良いが、透水性を確保するなどの観点から、支持体12の全表面のうちの一部を被覆することが好ましい。すなわち、支持体12表面には、被覆層16が設けられている部分と設けられていない部分とが混在していることが好ましい。この際、支持体12の全表面積に対する被覆層16の表面積の割合は、40〜95%の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、40〜80%の範囲内である。
【0044】
被覆層16の表面積の割合が95%を超える場合には、上述するように、ろ過効果を発揮するまでの時間を要しやすいため、ろ過効率が低下しやすい。一方、被覆層16の表面積の割合が40%未満の場合には、被覆層16により支持体12を被覆する効果、すなわち、イオン交換樹脂粉末14の脱落防止や、支持体12の型くずれ防止の効果が低下しやすい。
【0045】
被覆層16は、生産性やデザイン性などを考慮して形成することができる。例えば支持体12がマット状である場合には、支持体12の上下面(最大面積を有する面)に形成すると量産しやすい。また、側面や、上下面の中心部のみ、あるいは上下面において格子状等の模様を形成するようにしても良い。
【0046】
また、支持体12がマット状である場合には、上記上下面のうち、一方の面のみに被覆層16を形成しても良い。この場合、被覆層16が形成されていない面は親水性が高いため、ろ過成形体10が飼育水中に素早く沈降でき、早期から優れたろ過効果が期待できる。
【0047】
被覆層16の塗布量は、支持体12の型くずれを防止する観点から、支持体12の単位表面積当たりで、40〜120g/mの範囲内にあることが好ましい。被覆層16の塗布量が40g/m未満では、量産時の脱水工程で型崩れが生じやすくなったり、フィルター内に敷き詰めて使用した場合に、形状が保持されにくく、支持体12が折れ曲りやすくなって、イオン交換樹脂粉末14が脱離して水槽内の水が濁るおそれがある。また、被覆層16の塗布量が120g/m超では、支持体12の柔軟性が極端に低下して市販のフィルターの中に入れづらかったり、メンテナンスの際にもみ洗いしにくかったりして、ハンドリング性にも欠ける。例えば、厚さ約8mm、幅50〜100mmの支持体では、塗布量を40〜120g/mにすることで、形状保持に優れた支持体12が得られる。
【0048】
被覆層16は、皮膜状に成形できるものであれば、特に限定されるものではない。好ましくは、多孔質材料を含有しているものである。多孔質材料は、その構造中に連続あるいは独立気孔を有し、比表面積が大きいため、飼育水中に投入したときに水含みが良い。そのため、多孔質材料を含有している場合には、ろ過成形体10が飼育水中に素早く沈降でき、早期から優れたろ過効果が期待できる。また、飼育水との接触面積が大きいため、優れたろ過効果が期待できる。
【0049】
そして、この多孔質材料が吸着性材料である場合には、水槽中にイオンの形で溶解しているアンモニアや亜硝酸や塩素などの有害物質を積極的に吸着できる。したがって、イオン交換樹脂による吸着効果と合わせて高いろ過効果が得られる。さらに、被覆層16が接着剤を含有する場合には、被覆層16を硬くすることができるため、支持体12の型くずれを防止する効果に優れる。
【0050】
多孔質材料としては、例えば、ゼオライト、活性炭、ベントナイト、珪藻土、ケイ酸カルシウム水和物の粉粒体等を例示することができる。また、吸着性材料としては、例えば、ゼオライト、活性炭、クリストバライト、麦飯石などの電荷を帯びた(イオン交換能のある)材料を例示することができる。
【0051】
接着剤(硬化材)としては、例えば、アクリル酸エステル(共)重合体、合成ゴム、(変性)スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)などを例示することができる。より具体的には、アクリル酸エステル共重合水性エマルジョン(昭和高分子社製、「ポリゾールFF08」)や、合成ゴムラテックス(DIC社製、「ラックスター」)などを例示することができる。このうち、多孔質材料と併用したときに、多孔質材料の多孔質部分を阻害しにくい効果が高い点などから、アクリル酸エステル共重合水性エマルジョンが好ましい。
【0052】
被覆層16が多孔質材料を含有する場合、被覆層16中における多孔質材料の含有量は、30〜115g/mの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、40〜110g/mの範囲内である。多孔質材料の含有量が30g/m未満では、表面に薄い層ができ、そこからイオン交換樹脂粉末14が流出しやすい。一方、多孔質材料の含有量が115g/mを超えると、撥水性が強くなりやすい。そのため、飼育水中に入れたときに、支持体12の水含みが低下し、ろ過効果が発揮されにくい。
【0053】
ろ過成形体10は、さらに表面保護層を備えていても良い。表面保護層を備える場合には、支持体12表面の被覆層16が形成されていない部分を含むろ過成形体10表面をさらに覆うため、イオン交換樹脂粉末14の脱離を抑える効果をさらに高めることができる。表面保護層は、繊維材料よりなることが好ましい。繊維材料としては、セルロース、ポリエステル、ナイロンなどが挙げられる。このうち、セルロースは、親水性が高いため、ろ過成形体10が飼育水中に素早く沈降でき、早期から優れたろ過効果が期待できる点で好ましい。この際、繊維材料は、フィブリル化(分繊化、小繊維化)されているとより好ましい。フィルブリル化は、公知の方法により行なうことができる。このような繊維材料としては、ダイセル化学工業社製のセルロース繊維「セリッシュ」などが挙げられる。
【0054】
本発明に係るろ過成形体10は、観賞魚用水槽中の飼育水のろ過を行なうろ過材として好適であり、例えば、観賞魚用水槽内におけるろ過器の吸い込み口や吹き出し口、あるいはろ過器内などの、飼育水が通過する場所に設置して使用することができる。この際、ろ過成形体10をそのままの状態で用いても良いし、水が通過可能となるように網目状等に穴のあいたプラスチックケースなどに収容して用いても良い。
【0055】
本発明に係るろ過成形体10においては、メカニズムは十分に解明されてはいないが、イオン交換樹脂粉末14の電荷と浄化微生物とが選択的に結びつき、支持体12が浄化微生物の増殖の場になりやすいことが、従来よりも優れたバイオリアクター的効果を発揮できる一因であると考えられる。
【0056】
次に、本発明に係る観賞魚用ろ過成形体の製造方法(以下、本製造方法ということがある。)について説明する。本製造方法は、被覆層を形成する工程と、支持体を浸漬する工程と、支持体を乾燥する工程とを有する。
【0057】
被覆層を形成する工程では、まず、被覆層形成用組成物を調製する。被覆層形成用組成物を調製するには、例えば、上記多孔質材料と、上記接着剤と、必要に応じてその他の成分とを混合する。次いで、得られた被覆層形成用組成物を支持体表面に塗布する。塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ロールコーティング方法、ディッピング方法、スプレーコーティング方法などの各種方法を挙げることができる。
【0058】
支持体を浸漬する工程では、まず、イオン交換樹脂粉末を水などの分散液に分散させた後、この分散液中に支持体を浸漬する。これにより、支持体の繊維構造中にイオン交換樹脂粉末を分散させる。この際、支持体の繊維構造中にイオン交換樹脂粉末が分散しやすいように、分散液を撹拌しても良い。
【0059】
また、上記分散液中に支持体を浸漬する前に、予め、支持体を構成する繊維材料よりも微小な繊維状物を含有する液体中に支持体を浸漬する処理を行なうと、この微小な繊維状物が支持体の繊維材料に付着し、支持体の繊維の目がより緻密にされる。これにより、支持体からイオン交換樹脂粉末がさらに脱離しにくくなる。このような微小な繊維状物としては、具体的には、例えば、ダイセル化学工業社製のセルロース繊維「セリッシュ」などが挙げられる。
【0060】
支持体を乾燥する工程では、上記浸漬により浸潤した支持体を乾燥する。この際、まず、遠心分離機などを用いて支持体を脱水することができる。次いで、加熱や送風などの方法により乾燥することができる。乾燥温度、送風量、乾燥時間は、適宜定めることができる。なお、乾燥温度は、支持体を構成する繊維材料を傷めない温度範囲内に調整することが好ましい。
【0061】
そしてこのように、イオン交換樹脂粉末を含有する液中に支持体を浸漬した後、これを乾燥することにより、支持体にイオン交換樹脂を担持することができる。イオン交換樹脂粉末の担持量を調節するなどの理由により、必要に応じて、これらの操作を繰返し行なうことができる。
【0062】
イオン交換樹脂として陰・陽両イオンを担持する場合には、一方(例えば陰イオン交換樹脂)を含有する液中に支持体を浸漬し、これを脱水した後、他方(例えば陽イオン交換樹脂)を含有する液中に支持体を浸漬し、これを脱水する方法などにより、陰・陽両イオンを担持することができる。
【0063】
被覆層を形成する工程およびイオン交換樹脂粉末を担持する工程は、いずれの工程を先に行なっても良い。例えば被覆層を形成する工程を先に行なう場合には、支持体を乾燥する工程において、より毛玉ができにくい。
【0064】
ろ過成形体の表面に表面保護層を形成する場合には、表面保護層を構成する材料、例えば上記繊維材料を水等の液体に分散させた後、この液体中に、イオン交換樹脂粉末を担持し、かつ、被覆層を形成した支持体を浸漬する。次いで、脱水・乾燥を行なう。この際、pHを中性付近に調整するpH緩衝剤を用いて、上記液体のpHを7〜7.8の範囲内に調節することが好ましい。pHを中性付近に調整するpH緩衝剤を用いて表面保護層を形成するための処理を行えば、pH緩衝剤がろ過成形体に付着できるため、飼育水のpHを中性付近に維持する緩衝作用を付与できる。飼育水のpHを中性付近に維持できれば、pHの急激な変動による鑑賞魚等の死亡や、これによる水中の有害成分の増加を防止できる。
【0065】
以上に示す本製造方法によれば、支持体表面に被覆層を形成するため、イオン交換樹脂粉末の脱落および支持体の型くずれを防止できるろ過成形体が製造できる。そして、得られたろ過成形体は、再使用に適したものである。すなわち、長期使用によりろ過成形体表面には汚れが付着するため、使用後のろ過成形体は回収・洗浄する必要がある。この場合に、支持体表面に被覆層が形成されているため、例えば洗浄後の乾燥工程で脱水したときに、支持体表面に毛玉ができにくい。したがって、再使用する際の性能低下や外観の悪化を防止できる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0067】
(実施例)
<ろ過成形体の作製>
表1に記載の繊維材料をマット状に成形した支持体(厚み8mm)の表面に、表1に記載の塗布部位、塗布量で、人工ゼオライト(中部電力社製、「シーキュラス」)と接着剤(アクリル酸エステル共重合水性エマルジョン、昭和高分子社製、「ポリゾールFF08」)の混合物をスプレー塗布し、被覆層を形成した。次いで、カッターを用いてカット加工して、80mm×65mmの被覆層形成支持体を作製した。
【0068】
次いで、得られた被覆層形成支持体を、微小繊維状セルロース(ダイセル化学工業社製、「セリッシュ」)1%含有前処理水10L中に1分間浸漬後、脱水処理を行なった。次いで、陰イオン交換樹脂粉末(三菱化学社製、「ダイヤイオンPA318」を気流粉砕して調製した平均粒径15μmのイオン交換樹脂粉末)5%含有処理水10L中に浸漬し、5〜10分間撹拌後、遠心分離機で脱水した。次いで、陽イオン交換樹脂粉末(三菱化学社製、「ダイヤイオンPA218」を気流粉砕して調製した平均粒径15μmのイオン交換樹脂粉末)1%含有処理水10L中に浸漬し、1〜5分間撹拌後、遠心分離機で脱水した。次いで、80℃以下の温度で送風乾燥した。これにより、被覆層形成支持体に両イオン交換樹脂を担持して、実施例に係るろ過成形体を作製した。
【0069】
なお、表面保護層「有」の場合には、さらに、微小繊維状セルロース(ダイセル化学工業社製、「セリッシュ」)1%含有処理水10L中に1分間浸漬後、脱水処理を行なった。次いで、80℃以下の温度で送風乾燥して、実施例に係るろ過成形体を作製した。
【0070】
(比較例1〜2)
表1に記載の繊維材料よりなる支持体に、実施例1と同様の方法により微小繊維状セルロースによる前処理を行なった後、実施例1と同様の方法により両イオン交換樹脂を担持して、比較例1〜2に係るろ過体を作製した。比較例1〜2に係るろ過体の支持体はマット状に成形されておらず、また、この支持体の表面には被覆層は形成されていない。
【0071】
(比較例3〜6)
表1に記載の繊維材料の1本1本の繊維を、実施例の被覆層を構成する被覆材料(人工ゼオライトと接着剤)と同じ材料で被覆した後、この繊維をマット状に成形して、支持体を作製した。次いで、実施例1と同様の方法により微小繊維状セルロースによる前処理を行なった後、実施例1と同様の方法により両イオン交換樹脂を担持して、比較例3〜6に係るろ過成形体を作製した。
【0072】
各ろ過成形体あるいはろ過体を用いて、イオン交換樹脂の脱離、使用後の形状、再使用の可否、吸着効果について調べた。また、量産性やハンドリング性についても併せて調べた。
【0073】
(参考例)
ろ過材として、上記ろ過成形体に代えて、活性炭(キョーリン社製、「ブラックホール」)を用いた。
【0074】
<評価方法>
(イオン交換樹脂の脱離について)
実施例または比較例に係るろ過体を2cm角に裁断して形成した試験体を蒸留水100ml中に入れ、回転スピード30rpmの振とう機(東京理化器機社製、マルチシェーカー、以下、同じ)で24時間振とうさせた。その後、試験体を静かに取り出し、蒸留水中のイオン交換樹脂粉末による濁りや沈降具合を目視にて評価した。濁りや沈降がほとんどない場合を合格「○」、濁りや沈降がやや見られる場合を合格「△」、濁りや沈降が目立つ場合を不合格「×」とした。
【0075】
(使用後の形状について)
実施例または比較例に係るろ過体を2cm角に裁断して形成した試験体を蒸留水100ml中に入れ、水温16.5〜17.0℃、回転スピード30rpmの振とう機で24時間振とうさせた。その後、試験体を静かに取り出し、試験体の形状が維持されているか否かを目視にて評価した。試験体の形状がほとんど変わらず、形状を維持している場合を合格「○」、試験体が一部崩壊しているか、やや膨張している場合を合格「△」、試験体が大きく崩壊しているか、膨張しすぎている場合を不合格「×」とした。
【0076】
(初回の吸着効果について)
灰汁とりしていない市販の流木を1ヶ月間水に漬け、灰汁成分を溶出させることにより、茶色の試験水<1>を調製した。また、メチレンブルー(試薬)の粉末0.5gをエタノール50mlに完全に溶解させた後、蒸留水を加えて100mlの溶液とした。これを原液として200倍に希釈して、試験水<2>を調製した。
【0077】
次いで、実施例または比較例に係るろ過体を2cm角に裁断して形成した試験体を試験水<1>に入れ、回転スピード30rpmの振とう機で24時間振とうさせた。その後、試験体を静かに取り出し、静置後の上澄み液を目視および吸光分光光度計(日本分光工業社製、「UVIDEC−340」、測定波長300nm)による吸光度の値により評価した。また、同様の操作を試験水<2>に対しても行ない、目視および吸光度の値(測定波長665nm)により評価した。いずれの試験水においても、目視では透明あるいはほとんど透明であり、吸光度の値が70%以上の場合を合格「○」、いずれの試験水においても、目視で色がついているのが分かる程度であり、吸光度の値が40〜70%の場合を合格「△」、いずれの試験水においても、目視でブランクとほとんど変わらないほど色が残っており、吸光度の値が40%未満の場合を不合格「×」とした。
【0078】
(再使用時の吸着効果について)
初回の吸着効果試験を行なった試験体について、新しい試験液<1><2>を用いて再度吸着試験を行なった。評価は、上記初回の吸着効果の評価と同様、目視および吸光度の値により行なった。
【0079】
(量産性について)
上記実施例もしくは比較例において前処理水による処理まで行なった被覆層形成支持体もしくは被覆層を形成していない支持体を8×7cmに裁断したもの30枚に対して、上記実施例における方法と同様の方法で、イオン交換樹脂粉末を含有する処理水中への浸漬、脱水、乾燥の操作を3回繰り返した後のろ過体の表面状態を目視にて評価した。毛玉の発生がなく、イオン交換樹脂粉末の付着ムラがほとんど見られない場合を合格「○」、毛玉の発生とイオン交換樹脂粉末の付着ムラが若干見られる場合を合格「△」、毛玉の発生とイオン交換樹脂粉末の付着ムラが多い場合を不合格「×」とした。
【0080】
(ハンドリング性について)
実施例または比較例に係るろ過体を8×7cmに裁断して形成した試験体を、手のひらで3回握り、柔軟性を評価した。握った後、試験体が元に戻り、形状が維持されている場合を合格「○」、硬くて握りにくさがある、もしくは、曲がってからの戻りが遅い場合を合格「△」、折れ曲らず握れない、もしくは、折れ曲ったまま元に戻らない場合を不合格「×」とした。
【0081】
(総合評価について)
イオン交換樹脂粉末の脱落の評価、使用後の形状の評価、初回の吸着効果の評価、再使用の可否、再使用時の吸着効果の評価のすべてにおいて合格の評価である場合を「○」以上とし、さらに量産性、ハンドリング性にも優れる場合を「◎」とした。一方、イオン交換樹脂粉末の脱落の評価、使用後の形状の評価、初回の吸着効果の評価、再使用の可否、再使用時の吸着効果の評価のいずれか1つでも不合格の評価がある場合を「×」とした。
【0082】
【表1】

【0083】
面積%は、支持体の全表面積に対する被覆層の表面積の割合を表わし、塗布量は、支持体の単位表面積当たりにおける被覆層の質量を表わしている。
【0084】
比較例1〜2では、取り扱い時において支持体からイオン交換樹脂粉末が脱離しやすかった。また、観賞魚用水槽中に沈めた時には、支持体が膨潤して、イオン交換樹脂粉末の脱離が進行した。さらに、観賞魚用水槽中に沈めた時には、支持体が膨潤してどろどろの状態になったため、使用したろ過体を回収して再使用することが困難であった。
【0085】
比較例3〜6では、取り扱い時および観賞魚用水槽中に沈めた時のいずれにおいても、支持体からイオン交換樹脂粉末が脱離しやすかった。また、観賞魚用水槽中に沈めた時には、支持体が型くずれを起こした。そのため、繰返し再使用が難しいものと推察される。さらに、支持体を構成する1本1本の繊維に被覆材料が被覆されているため、硬くなりすぎてハンドリング性にも劣っていた。
【0086】
また、比較例においては、支持体の乾燥工程で回転脱水を行なった際に支持体どうしがこすれあって、その表面に毛玉が発生した。そのため、量産性に劣っていた。
【0087】
これに対し、実施例においては、支持体の乾燥工程で回転脱水を行なっているが、その表面に毛玉の発生は見られなかった。そのため、量産性に優れていることが確認できた。
【0088】
また、実施例に係るろ過成形体では、取り扱い時および観賞魚用水槽中に沈めた時のいずれにおいても、イオン交換樹脂粉末の脱離が少ないことが確認できた。また、観賞魚用水槽中に沈めた時においては、支持体の膨潤は抑えられ、その形状を維持していた。そして、観賞魚用水槽から引き上げた後もその形状を維持しており、再使用できることが確認できた。さらに、初期および再使用時において、吸着効果はともに優れており、この観点からも再使用できることが確認できた。
【0089】
実施例1〜8を見ると、被覆層の面積率が30%の場合には、被覆層により被覆されていない部分が比較的多いため、イオン交換樹脂粉末の脱落防止効果および支持体の型くずれ防止効果にやや劣っている。被覆層の面積率が96%の場合には、浸水させた際に含水しにくく、初期のろ過効率にやや劣っている。これに対し、被覆層の面積率が40〜95%の範囲内では、支持体からのイオン交換樹脂粉末の脱落防止効果および支持体の型くずれ防止効果が比較的高いことが確認できた。また、被覆層により被覆されていない露出面を適度に有するため、浸水させた際に含水しやすく、比較的、初期のろ過効率にも優れることが確認できた。
【0090】
実施例9〜12を見ると、塗布量が40〜120g/mの範囲では、支持体の形状を維持し、型くずれを防止する効果が高く、特に、塗布量が45〜70g/mの範囲では、さらにハンドリング性にも優れていた。
【0091】
実施例2、13〜16を見ると、支持体の繊維材料の太さが平均2〜4デニールの範囲内では、吸着効果が比較的高いことが確認できた。これは、繊維材料が適度な大きさの網の目を形成するため、透水速度が適度な範囲に維持されているとともに、イオン交換樹脂粉末の担持量が高いためと推察される。これに対し、支持体の繊維材料の太さが平均4デニールを超えていると、吸着効果にやや劣っている。これは、繊維材料の網の目の大きさが比較的大きくなり、透水速度が速くなりすぎやすいため、また、イオン交換樹脂粉末の担持量が低下しやすいためと推察される。また、イオン交換樹脂粉末の脱離防止効果にもやや劣っていた。
【0092】
実施例18〜19を見ると、表面保護層を有する場合においても、本願発明の効果は高いことが確認できた。
【0093】
なお、イオン交換樹脂の浸漬回数による本願発明の効果の影響は小さいことも分かった。
【0094】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0095】
10 ろ過成形体
12 支持体
14 イオン交換樹脂粉末
16 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料よりなる支持体と、
前記支持体に担持されたイオン交換樹脂粉末と、
前記支持体の表面を被覆する被覆層とを備えたことを特徴とする観賞魚用ろ過成形体。
【請求項2】
前記支持体の全表面積に対する前記被覆層の表面積の割合は、40〜95%の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の観賞魚用ろ過成形体。
【請求項3】
前記支持体の単位表面積当たりにおける前記被覆層の質量は、40〜120g/mの範囲内にあることを特徴とする請求項1または2に記載の観賞魚用ろ過成形体。
【請求項4】
前記被覆層は、多孔質材料を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の観賞魚用ろ過成形体。
【請求項5】
前記多孔質材料は、吸着性材料であることを特徴とする請求項4に記載の観賞魚用ろ過成形体。
【請求項6】
前記被覆層は、接着剤を含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の観賞魚用ろ過成形体。
【請求項7】
前記繊維材料の太さは、平均2〜5デシテックスの範囲内にあることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の観賞魚用ろ過成形体。
【請求項8】
前記支持体は、マット状であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の観賞魚用ろ過成形体。
【請求項9】
前記被覆層は、前記マット状の支持体の片側表面のみに形成されていることを特徴とする請求項8に記載の観賞魚用ろ過成形体。
【請求項10】
前記イオン交換樹脂は、陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂から選択された1種または2種以上であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の観賞魚用ろ過成形体。
【請求項11】
繊維材料よりなる表面保護層をさらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の観賞魚用ろ過成形体。
【請求項12】
繊維材料よりなる支持体の表面に被覆層を形成する工程と、
イオン交換樹脂粉末を含有する液中に前記支持体を浸漬する工程と、
前記浸漬により浸潤した前記支持体を乾燥する工程とを有することを特徴とする観賞魚用ろ過成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−207177(P2010−207177A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59278(P2009−59278)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】