説明

角度測定用ダミーチップ

【課題】電気配線が不要で、簡単な構成で且つ安価な角度測定用ダミーチップを提供することを課題とする。
【解決手段】角度測定用ダミーチップは、軸部材32、ボール部33、筒部材34、当接部35、揺動側ゲージ部材37、固定側ゲージ部材38及び固定側ゲージ部材38と揺動側ゲージ部材37との少なくとも一方に備える目盛39で構成する。
【効果】揺動側ゲージ部材37に備えた目盛39に対して、固定側ゲージ部材38の外縁の重なり数を測定することで、ワークに対する電極チップの当接角度を簡単に確認することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに対する溶接ガンの角度を確認するときに使用する角度測定用ダミーチップに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の製造に用いる溶接法の中で、車体の組立工程に多用する溶接法の1つにスポット溶接がある。スポット溶接は、溶接時間が短くて済むという特長を持っており、特に車体の高速製造ラインに適した溶接法である。
【0003】
図6は従来のスポット溶接装置の基本構成を説明する図であり、従来のスポット溶接装置100は、床に設置する垂直多関節ロボット101と、この垂直多関節ロボット101のアーム102に取付ける溶接ガン103と、この溶接ガン103の両端に備える電極ホルダ104、104と、これらの電極ホルダ104、104に取付ける電極チップ105、105と、これらの電極チップ105、105を保持する電極ホルダ104、104の移動側(図右側)に接続すると共に左右方向に伸縮することでワークに対する加圧力を調節するエアシリンダユニット106と、このエアシリンダユニット106の動作により電極チップ105、105で両側から挟んで接合させるワーク107、107と、これらのワーク107、107を両側から押さえるワーク押さえ108、108とからなる。
【0004】
前記スポット溶接では、溶接前にワークに対する電極チップの面直度を確認することが必要となる。
従来、電極チップの面直度を確認する計測装置として面直度センサが実用に供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−19571公報(図1)
【0005】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図7は従来の技術の基本構成を説明する図であり、(a)において、面直度センサ110は、電極チップの代わりに電極ホルダに取付ける基端側ヘッド111と、この基端側ヘッド111の上部に半球状に形成する凸部112と、この凸部112をドーナツ状に囲んで載せるシート状感圧センサ113と、このシート状感圧センサ113の上に載せる弾性シート114と、この弾性シート114の上に載せると共に下部に半球状の凹部115を備える先端側ヘッド116とからなり、この先端側ヘッド116の下部に設けた凹部115の下に凸部112を重ねて組み立てることで形成する細隙117とからなる。
【0006】
(b)はシート状感圧センサ113の平面図であり、シート状感圧センサ113は、等角度ピッチで円周状に置く12個の感圧素子120・・・(・・・は複数個を示す。以下同じ)と、これらの感圧素子120・・・を埋め込むと共にドーナツ状に形成する基材シート121と、この基材シート121の中心に凸部112に合致するように形成する開口部122とからなる。
感圧素子120は、ワークに面直度センサ110を当接したとき、面直度センサ110に設けた細隙117で規定される角度範囲内で弾性シート114を圧縮させて、その圧縮度に応じた加圧力を電気抵抗値に変換する特性を有する。
【0007】
しかし、面直度センサ110に電気配線を接続する必要があり、電気配線が邪魔になる。そして、面直度センサ110は構造が複雑であるために、取り扱いが難しく使用上の熟練を必要とする。また、価格が高価であるために、スポット溶接ラインに大量に使用することが難しい。
これらの理由から、面直度センサに代わる測定ツールの開発が求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電気配線が不要で、簡単な構成で且つ安価な角度測定用ダミーチップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、溶接ガンのホルダ部から電極チップを外し、このホルダ部に角度測定用ダミーチップを取付け、この角度測定用ダミーチップをワークに当接することで、ワークに対する溶接ガンの角度を確認するときに使用する角度測定用ダミーチップにおいて、この角度測定用ダミーチップは、前記ホルダ部に嵌合する嵌合部を一端に備える軸部材と、この軸部材の先端に揺動可能に取付ける筒部材と、ワークに当てるために前記筒部材の先端に備える平坦面と、前記筒部材の自由端に備える揺動側ゲージ部材と、この揺動側ゲージ部材の対向位置にて前記軸部材に備える固定側ゲージ部材と、この固定側ゲージ部材と前記揺動側ゲージ部材との少なくとも一方に備える目盛とからなり、前記平坦面をワークに当接したときの固定側ゲージ部材又は揺動側ゲージ部材と目盛の相関関係からワークに対する角度測定用ダミーチップの角度を測定することができるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、角度測定用ダミーチップは、純機械部品で構成したので、電気配線が不要である。
また、角度測定用ダミーチップは、主構成要素に軸部材及び筒部材を採用したので、構造が簡単になる。
【0011】
加えて、一対のゲージによって角度を検出する。これらのゲージは機械部品であって、電子部品に比較して格段に安価である。
したがって、請求項1によれば、電気配線が不要で、簡単な構成で且つ安価な角度測定用ダミーチップを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る角度測定用ダミーチップを備えた溶接ガンの要部側面図であり、溶接ガン10は、ロボットアーム11に取付ける基部12を備えたC型フレーム13と、このC型フレーム13の一方のフィンガー部14に取付けた固定側ホルダ部15と、この固定側ホルダ部15に取り外し可能に取付けた固定側電極チップ16と、C型フレーム13の他方のフィンガー部17に備えたシリンダユニット18と、このシリンダユニット18のピストンロッド19に取付けた可動側ホルダ部21と、この可動側ホルダ部21に取り外し可能に取付けた本発明の角度測定用ダミーチップ30とからなる。
【0013】
角度測定用ダミーチップ30は、可動側電極チップの代わりに可動側ホルダ部21に取付けたが、固定側電極チップ16の代わりに固定側ホルダ15に取付けることでも差し支えない。
【0014】
そして、ワーク押さえ22、22で支えたワーク23、23を固定側電極チップ16と角度測定用ダミーチップ30とで挟んで、溶接姿勢を再現する。
このときに、角度測定用ダミーチップ30で、ワーク23、23に対する可動側電極チップの角度を測定し、溶接ガン10の姿勢を確認する。
そのための角度測定用ダミーチップ30の詳細を以下に述べる。
【0015】
図2は本発明に係る角度測定用ダミーチップの断面図であり、角度測定用ダミーチップ30は、可動側ホルダ部21の穴に嵌合する嵌合部31と、この嵌合部31にねじ込む軸部材32と、この軸部材32の先端に形成するボール部33と、このボール部33に接触させて揺動可能に取付ける筒部材34と、この筒部材34の先端にボール部33のほぼ半分を覆うために取付ける当接部35と、この当接部35の先端に備える平坦面36と、筒部材34の自由端に軸部材32の略直交方向に突出するように形成する揺動側ゲージ部材37と、この揺動側ゲージ部材37の対向位置にて軸部材32に取付けると共に軸部材32の略直交方向に突出するように形成する固定側ゲージ部材38と、この固定側ゲージ部材38と揺動側ゲージ部材37との少なくとも一方に備える目盛39と、軸部材32−筒部材34に介在させた原点保持用スポンジ41と、軸部材32に嵌めたOリング42と、軸部材32に固定側ゲージ部材38を固定する止めねじ43とからなる。
目盛39の構成については後述する。
【0016】
筒部材34、当接部35及び揺動側ゲージ部材37は、想像線で示すようにボール部33の回転中心Pを揺動点として、半径Rを保持したまま図上下方向に揺動可能であることを特徴とする。加えて、筒部材34、当接部35及び揺動側ゲージ部材37は、筒部材34及び当接部35の内面とボール部33の外面が球体面で接触するために、図表裏方向にも揺動可能である。
【0017】
なお、Oリング42は、筒部材34及び当接部35が揺動する際に、筒部材34の内面と軸部材32の外面が当たることを防止するために取付ける保護材である。
【0018】
図3は図2の3−3線断面図であり、揺動側ゲージ部材37に備える目盛39は、同心円状に描いた第1目盛44、第2目盛45、第3目盛46、第4目盛47、第5目盛48及び第6目盛49からなる。
なお、目盛39は、固定側ゲージ部材38に備えてもよい。
【0019】
以上の構成からなる角度測定用ダミーチップの作用を次の図4及び図5で説明する。
図4は角度修正前の角度測定用ダミーチップの作用説明図である。
(a)は待機状態を示し、固定側電極チップ16と角度測定用ダミーチップの当接部35との間に、ワーク23、23を介在させる。このときに、ワーク23、23に直交する線51に対して、当接部35の軸線52が角度θだけ傾斜していたとする。この状態で、固定側電極チップ16に当接部35を近づける。
【0020】
(b)にて、固定側電極チップ16の先端は、ワーク23に対して角度θだけ傾いた状態になる。一方、当接部35は、ボール部33を中心に回転可能であるため、先端の平坦面36がワーク23に倣うように動作する。その結果、筒部材34及び当接部35は、ボール部33の回転中心Pを揺動点として、角度θだけ揺動する。
【0021】
(c)は(b)のc−c線断面図であり、固定側ゲージ部材38の中心と、揺動側ゲージ部材37の中心とが、図上下にずれていることを示す。固定側ゲージ部材38の図上縁が第4目盛47に、ほぼ一致していることから、作業者(又は測定者)は目視で、ずれの量が4目盛り分であることを認識できる。そこで、作業者は、ずれの量がゼロになるように、ロボットの姿勢を修正する(具体的には(b)における角度θがゼロになるように角度を修正する。)。
【0022】
図5は角度修正後の角度測定用ダミーチップの作用説明図である。
(a)において、角度修正が功を奏して、固定側ゲージ部材38の図上縁、下縁、左縁、右縁共に第1目盛44から等間隔になった。これで、固定側ゲージ部材38の中心と揺動側ゲージ部材37の中心とが、一致したことになる。
【0023】
(b)はワークと角度測定用ダミーチップの良好な当接状態を示す。当接部35に備えた平坦面36及び固定側電極チップ16が、ワーク23、23に各々面直に当った状態である。これで、ワーク23、23に対する電極チップの当接角度が直角であることを確認できた。当接角度の確認後は、角度測定用ダミーチップ30を可動側ホルダ部21から外して、代わりに電極チップを取付けてワーク23、23の溶接を始めることができる。
【0024】
したがって、角度測定用ダミーチップは、揺動側ゲージ部材37に備えた目盛39に対して、固定側ゲージ部材38の外縁の重なり数を測定することで、ワーク23、23に対する電極チップの当接角度を簡単に確認できることを特徴とする。
【0025】
そして、以上に述べたとおりに、本発明では、角度測定用ダミーチップは、純機械部品で構成したので、電気配線が不要である。また、角度測定用ダミーチップは、主構成要素に軸部材及び筒部材を採用したので、構造が簡単になる。
【0026】
加えて、一対のゲージによって角度を検出する。これらのゲージは機械部品であって、電子部品に比較して格段に安価である。
したがって、本発明によれば、電気配線が不要で、簡単な構成で且つ安価な角度測定用ダミーチップを提供することができる。
【0027】
尚、本発明の角度測定用ダミーチップは、ワークに対する電極チップの当接角度の確認で使用するスポット溶接装置に好適であるが、一般の部品加工における当接角度の確認に適用することでも差し支えない。
【0028】
また、角度測定用ダミーチップの嵌合部、軸部材、筒部材、ボール部、当接部及び目盛の形状及び材質は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の角度測定用ダミーチップは、ワークに対する電極チップの当接角度の確認で使用するスポット溶接装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る角度測定用ダミーチップを備えた溶接ガンの要部側面図である。
【図2】本発明に係る角度測定用ダミーチップの断面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】角度修正前の角度測定用ダミーチップの作用説明図である。
【図5】角度修正後の角度測定用ダミーチップの作用説明図である。
【図6】従来のスポット溶接装置の基本構成を説明する図である。
【図7】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0031】
10…溶接ガン、15…固定側ホルダ部、16…固定側電極チップ、21…可動側ホルダ部、23…ワーク、30…角度測定用ダミーチップ、31…嵌合部、32…軸部材、34…筒部材、36…平坦面、37…揺動側ゲージ部材、38…固定側ゲージ部材、39…目盛。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ガンのホルダ部から電極チップを外し、このホルダ部に角度測定用ダミーチップを取付け、この角度測定用ダミーチップをワークに当接することで、ワークに対する溶接ガンの角度を確認するときに使用する角度測定用ダミーチップにおいて、
この角度測定用ダミーチップは、前記ホルダ部に嵌合する嵌合部を一端に備える軸部材と、この軸部材の先端に揺動可能に取付ける筒部材と、ワークに当てるために前記筒部材の先端に備える平坦面と、前記筒部材の自由端に備える揺動側ゲージ部材と、この揺動側ゲージ部材の対向位置にて前記軸部材に備える固定側ゲージ部材と、この固定側ゲージ部材と前記揺動側ゲージ部材との少なくとも一方に備える目盛とからなり、
前記平坦面をワークに当接したときの固定側ゲージ部材又は揺動側ゲージ部材と目盛の相関関係からワークに対する角度測定用ダミーチップの角度を測定することができるように構成したことを特徴とする角度測定用ダミーチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−98448(P2007−98448A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293883(P2005−293883)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】