説明

解除可能な固定手段を備えた組織再生器具の前駆体

【課題】
本発明の課題は、使用時にあらゆる症例に適用できるように長さ調節を可能とし、かつ両端が組織端の挿入を可能とした空間を備えた組織再生器具への調整を容易とする組織再生器具の前駆体を提供することである。
【解決手段】
本発明は、組織を再生するための組織再生器具を生産するための前駆体であって、長軸方向に内腔であり、生分解性材料からなる筒状体と、前記筒状体の内腔に具備し、生分解性材料からなる誘導手段及び前記筒状体に前記誘導手段を解除可能に固定する固定手段を備えた組織再生器具の前駆体を提供する。
本発明の組織再生器具の前駆体は、容易に両端に組織を挿入するための空間を備えた組織再生器具に調整可能である。このため、医師が特別な技術を必要とすることなく容易に埋植することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織再生器具の前駆体及び組織再生器具の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
事故や災害あるいは疾患によりヒトの神経及び腱などの組織が損傷し、自己の回復力により治癒できない場合、患者は知覚、感覚及び運動能力などに障害が発生する。このような患者に対して、当該損傷部を切除した後、患者の人体における他の部位から組織を採取し、切除部分に移植する治療が行われる場合がある。このような手術を自己移植というが、自己移植は損傷を受けていない他の健常な組織を採取するので、その部位には知覚、感覚及び運動能力などの障害を発生する場合がある。
【0003】
そこで、切除部位に細胞増殖の足場を備えた器具を埋植し、組織端から細胞を足場に沿って成長させることにより、組織を再生させ、その機能を回復させる治療法について種々の研究がなされている。世にいう再生医療の一環としての研究であり、係る器具はスキャフォールドと呼ばれるものである。
【0004】
スキャフォールドを用いる再生医療の研究において、当業者は特殊な細胞の機能を頼りに、安易に器具に薬剤又は細胞を組み込むことを考えてしまう。しかしながら、このような薬剤又は細胞を組みこんだ器具は、単純に器具の原価が高価になるだけではく、器具の保存及び安全管理の面で余分な労力を要する。また、医師に薬剤又は細胞の取り扱いの知識及び技術を要求する。このため、当該知識及び技術を得ることができない医師は、これらの器具を取り扱うことができない。
【0005】
例えば、特許文献1の神経再生チューブは、コラーゲン及びラミニンなどを含むゲルを使用しているため、非常に取り扱いにくい。何故ならば、ゲルが流動性を備えており形状が安定しないためである。また、ゲル中の水分が、コラーゲン体に浸透するため、いくらコラーゲン体に架橋処理を施したとしてもコラーゲン体は分解してしまう。これでは、長期保存をすることができない。
【0006】
また、特許文献2の神経再生チューブには、シュワン細胞を播種することが開示されているが、細胞を取り扱いの知識及び技術を持つ医師でなければ取り扱うことができない。
【0007】
本発明者らは、上述した再生医療の現状を鑑み、細胞を取り扱わない再生器具の開発に鋭意検討を行い、コラーゲン製の組織再生器具を発明するに至っている(特許文献3)。かかる器具は、全て生体内分解吸収性の材料であるコラーゲンで構成され、しかも、架橋剤などの化合物を使用していないために、生体内で安全に分解吸収される。さらに、驚くべきことにこの器具は、特殊な細胞を組み込むことなく組織が再生する。つまり、薬剤又は細胞を取り扱う必要がないため、メーカーは安価でこの器具を製造することができる。さらに、製造された器具は長期にわたって分解・劣化することがない。医師は、細胞を取り扱う技術を身につけることなく、切開及び縫合などの一般的な外科手術の技術を持つ医師ならば誰でも容易にこの器具を用いて治療を行うことができる。
【0008】
これらの器具の開発における次の課題は、取り扱い性の向上による付加価値の向上である。しかも、上述したように薬剤又は細胞を組み込むというものではなく、器具の構造面における取り扱い性の向上である。ここで医師が最も取り扱いが容易となる形状として、図1に示すような筒状体の両端内腔に組織端を挿入するための空間を供えた器具が考えられる。
【0009】
例えば、特許文献1及び2のように、器具の両端が平滑であると、端−端縫合という極めて高度な技術の縫合を行わなければならない。しかも、係る器具と組織を縫合しても、器具の端面と組織端面が当接しているだけであるため、組織の細胞が器具の外壁へ成長してしまうおそれがある。
【0010】
一方で、あらかじめ両端内腔に組織端を挿入するための空間を供えた器具を製造しても、再生すべき組織の長さは一定ではないため、ごく限られた組織の再生にしか使用できない。このため、係る器具は再生すべき組織の長さに合わせて切断するが、切断した面はもちろん平滑となってしまう。
【0011】
本発明者らは、少なくとも方端に組織端を挿入する空間部を有する神経再生誘導管が開示している(特許文献4)。係る器具は、再生すべき神経の長さに合わせて切断する。そして、中枢神経側の神経端を空間部に挿入することにより埋植することができる。しかしながら、それでも末梢神経側は平滑端を形成してしまう。末梢神経から細胞は成長しないので、器具の外壁に細胞が成長するという弊害は防止できるものの、端−端縫合を行うことには変わりない。
【0012】
【特許文献1】国際公開公報1998/022155号パンフレット
【特許文献2】特開2005−143979号公報
【特許文献3】特開2002−320630号公報
【特許文献4】特開2004−208808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、使用時にあらゆる症例に適用できるように長さ調節を可能とし、かつ両端が組織端の挿入するための空間を備えた組織再生器具の生産を容易とする組織再生器具の前駆体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討した結果、組織再生器具を生体内に埋植する際、取り扱い性を向上させるために軟化用溶媒で器具を浸漬・膨潤させてから使用することに着目し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、
[1] 組織を再生するための組織再生器具を生産するための前駆体であって、
長手方向に内腔であり、生分解性材料からなる筒状体と、
前記筒状体の内腔に具備し、生分解性材料からなる誘導手段及び
前記筒状体に前記誘導手段を解除可能に固定する固定手段を備え、
前記固定手段は、液体に浸漬することで解除されることを特徴とする組織再生器具の前駆体、
[2] 前記誘導手段の長手方向の長さが、前記筒状体の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短く、前記筒状体の片端と前記誘導手段の片端を揃えた[1]に記載の組織再生器具の前駆体、
[3] 組織挿入部形成長(D)が、2〜60mmである[2]に記載の組織再生器具の前駆体、
[4] 前記解除可能に固定する固定手段が、糸状物、ステープラー、バインダー及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるいずれか1である[1]に記載の組織再生器具の前駆体、
[5] 前記解除可能に固定する固定手段が、親水性高分子のバインダーである[1]に記載の組織再生器具の前駆体、
[6] 前記親水性高分子が、コラーゲン、ポリリジン、ポリグルタミン酸、ポリエチレングリコール及びグリコサミノグリカンからなる群より選択されるいずれか1である[5]に記載の組織再生器具の前駆体、
[7] 組織再生器具の前駆体から線状の組織を再生するための組織再生器具を生産する方法であって、
前記組織再生器具の前駆体は、
長手方向に内腔であり、生分解性材料からなる筒状体と、
前記筒状体の内腔に設けられ、生分解性材料からなる誘導手段及び
前記筒状体に前記誘導手段を解除可能に固定する固定手段を備え、
前記固定手段は、液体に浸漬することで解除されることを特徴とする組織再生器具の前駆体であり、
(1)前記組織再生器具の前駆体を軟化用溶媒に浸漬し、前記前駆体を膨潤する工程;
(2)前記固定手段を解除し、前記誘導手段を前記筒状体内腔において摺動可能にする工程;
(3)前記前駆体の長手方向の長さを、再生すべき組織の長さに組織挿入部形成長(D)を加えた長さとなるように、前記前駆体の一部を切除する工程;
(4)前記誘導手段の長手方向の長さが、前記筒状体の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短くなるように、前記誘導手段の一部を切除する工程;及び
(5)前記誘導手段を前記筒状体中央に配置することにより、前記筒状体の両端内腔に組織挿入部を形成する工程
を含む組織再生器具の生産方法。
[8] 前記前駆体の誘導手段の長手方向の長さが、前記前駆体の筒状体の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短く、前記前駆体の筒状体の片端と前記前駆体の誘導手段の片端を揃えたものであって、
前記(3)及び(4)の工程を同時に実施することを特徴とする[7]に記載の組織再生誘導器具の生産方法、
[9] 前記前駆体の固定手段が親水性高分子のバインダーであり、前記軟化用溶媒が生理食塩水であって、
前記(1)及び(2)の工程を同時に実施することを特徴とする[7]に記載の組織再生誘導器具の生産方法。
[10] 組織再生器具の前駆体から生産された組織を再生するための組織再生器具であって、
前記組織再生器具の前駆体は、
長手方向に内腔であり、生分解性材料からなる筒状体と、
前記筒状体の内腔に設けられ、生分解性材料からなる誘導手段及び
前記筒状体に前記誘導手段を解除可能に固定する固定手段を備え、
前記固定手段は、溶媒に浸漬することで解除されることを特徴とする組織再生器具の前駆体であり、
(1)前記組織再生器具の前駆体を軟化用溶媒に浸漬し、前記前駆体を膨潤する工程;
(2)前記固定手段を解除し、前記誘導手段を前記筒状体内腔において摺動可能にする工程;
(3)前記前駆体の長手方向の長さを、再生すべき組織の長さに組織挿入部形成長(D)を加えた長さとなるように、前記前駆体の一部を切除する工程;
(4)前記誘導手段の長手方向の長さが、前記筒状体の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短くなるように、前記誘導手段の一部を切除する工程;及び
(5)前記誘導手段を前記筒状体中央に配置することにより、前記筒状体の両端内腔に組織挿入部を形成する工程
により生産された組織再生器具に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の組織再生器具の前駆体は、容易に両端に組織を挿入するための空間を備えた組織再生器具に生産できる。このため、医師が特別な技術を必要とすることなく係る器具を容易に埋植することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について図面を用いて説明する。図1は本発明の最終的な目的である両端に組織挿入部を備えた組織再生器具Aを示す図である。
【0018】
「組織再生器具」とは、長手方向を有し、生体内に埋植し、切り離された組織端同士をつなぎ合わせるための器具をいい、その両端は損傷した組織端を挿入するための組織挿入部4を備える。また、埋植後、損傷した組織は器具の長手方向に沿って再生する一方、器具自体は生体内で分解・吸収される再生医療分野における器具をいう。
【0019】
本発明における組織としては、人体のもつ再生能力により再生しうる組織であれば特に限定されるものではない。例えば、神経、腱、靱帯、血管及び食道などが挙げられるが、特に神経、腱及び靭帯の再生に用いることが好適である。
【0020】
「組織挿入部」とは、組織再生器具Aと組織端とを結合するために組織再生器具Aに備えた空間をいう。組織挿入部4の長手方向の長さは、再生する組織の種類により当業者が適宜決定できるものであるため、特に限定されるものではない。例えば、神経の場合、神経の挿入を容易とする観点から、約2〜40mmであり、好ましくは約2〜10mmである。また、腱の場合、腱の挿入を容易とする観点から、約2〜60mmであり、好ましくは約5〜30mmである。さらに、靭帯の場合、靭帯の挿入を容易とする観点から、約2〜60mmであり、好ましくは約5〜30mmである。組織挿入部4を備えることにより、組織再生器具Aと組織端とを結合において特別な縫合技術を必要としなくとも容易に結合を行うことができ、組織の細胞が周辺組織への成長を防止するための手段をいう。
【0021】
本発明は、上述した図1の組織再生器具Aを生産するための前駆体Bを提供する。図2は、本発明の組織再生器具の前駆体Bの一実施態様を示す図である。組織再生器具の前駆体Bは、長手方向に内腔であり、生分解性材料からなる筒状体1と、筒状体1の内腔に具備し、生分解性材料からなる誘導手段2、及び、筒状体1に誘導手段2を解除可能に固定する固定手段3を備える。
【0022】
「組織再生器具の前駆体」とは、医師が患者の組織の損傷状態に応じて、目的の組織再生器具Aを生産することができるものをいう。本発明では、この組織再生器具の前駆体Bを単に「前駆体」と称する場合もある。例えば、損傷した組織の長さの計測、器具の長さの計測、器具の切断、溶媒による器具の膨潤及び器具の変形などの工程により生産することができる。これらの工程の説明は後述する。
【0023】
<筒状体>
「筒状体」とは、組織の細胞が周辺組織へ成長することを防止する構造のものをいう。筒状体1の形状は、例えば、円筒形(チューブ形状)及び角筒形(三角形、四角形、五角形及び六角形)などが挙げられる。中でも、製造が容易である観点から、円筒形(チューブ形状)が好ましいが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
筒状体1の長手方向の長さは、患者又は患畜の生物学的分類、体型並びに組織の種類に依存するため、特に限定されるものではないが、当業者が想定しうる切除された組織の長さよりも十分に長いことが好ましい。当業者が想定しうる切除された組織の長さとは、例えば、組織がヒトの正中神経である場合は、約1〜300mmである。また、組織がヒトの坐骨神経である場合は、約1〜500mmである。
【0025】
したがって、例えば、組織がヒトの神経である場合、筒状体1の長手方向の長さは、あらゆるヒトの神経の再生に適用できる観点から、約5mm以上であればよい。原材料の使用量による製造コストが高くならないようにする観点から、好ましくは約10〜200mmである。また、例えば、組織がヒトの靭帯である場合、筒状体の長手方向の長さは、約5mm以上であればよい。上述の神経と同じ理屈で、好ましくは約10〜100mmである。
【0026】
一方、筒状体1の内径に関しても再生する組織によって当業者が適宜設定できるものであり、特に限定されるものではない。例えば、組織が神経である場合は、取り扱い頻度が最も高い可能性がある観点から、約1〜20mm、好ましくは約1〜10mmである。また、例えば、組織がヒトの腱である場合は、約1〜30mm、好ましくは約1〜20mmである。さらに、例えば、組織がヒトの靭帯である場合は、約1〜20mmで、好ましくは約1〜10mmである。
【0027】
筒状体1は、再生医療用に用いるものであることから、生分解性材料からなる。生分解性材料とは、生体内に埋植後、分解されるものをいう。例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ε−アミノカプロラクトン、コラーゲン、及び、キトサン、アルギン酸並びにヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン類などが挙げられる。これらの材料の中でも炎症反応が生じることがなく、架橋処理などにより分解吸収を制御できる観点から、コラーゲンが好ましい。
【0028】
「コラーゲン」とは、動物の結合組織を構成する主要タンパク質成分をいい、分子の主鎖構造が、(Gly−X−Y)、(Gly−Pro−X)及び(Gly−Pro−Hyp)で構成されるものをいう。ここで、X及びYは、グリシン、プロリン並びにヒドロキシプロリン以外の天然及び非天然アミノ酸である。
【0029】
また、コラーゲンのタイプについては、I型、II型及びIII型などが挙げられる。中でも取り扱いが容易である観点から、I型及びIII型が好ましいが、これに限定されるものではない。また、本発明におけるコラーゲンは、熱変性コラーゲンであるゼラチンを含むが、細胞接着性の観点からコラーゲンであることが好ましい。
【0030】
コラーゲンは、生体組織からの抽出、化学的ポリペプチド合成及び組み替えDNA法などにより製造される。本発明出願当時では、製造コストの観点から、生体組織からの抽出により得られたものが好ましい。また、生体組織の由来は、例えば、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ネズミ、鳥類、魚類及びヒトなどが挙げられる。また、前記生体組織としては、これらの皮膚、腱、骨、軟骨及び臓器などが挙げられる。これらの選択は当業者が適宜行うことができるものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
さらに、コラーゲンは、工業的な製造を容易とする観点から、溶媒に溶解できるよう処理が施されたコラーゲンを選択することが好ましい。例えば、酵素可溶化コラーゲン、酸可溶化コラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン及び中性可溶化コラーゲンなどの可溶化コラーゲンが挙げられる。中でも取り扱いの容易性の観点から、酸可溶化コラーゲンが好ましい。さらに、生体内埋殖時の安全性の観点から、抗原決定基であるテロペプチドの除去処理が施されているアテロコラーゲンであることが好ましい。
【0032】
ここで筒状体1の製造について説明するが、製造における条件などは、当業者が適宜設定できるものであるため、発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0033】
筒状体1を製造する方法としては、例えば、(i)射出成形、圧縮成形並びに押出成形などの工業的製法により直接筒状体1に成形する方法、(ii)フィルム、織布並びに不織布などの膜状物質を製造し、管状に成形する方法、及び、(iii)紡糸法などにより単糸を製造し、管状に成形する方法が挙げられる。これらの製造方法は、筒状体1の原材料により当業者が適宜設定できる。例えば、原材料がコラーゲンである場合は、製造が容易であり、かつ製造コストが安価である観点から、(iii)紡糸法などにより単糸を製造し、管状に成形する方法が好ましい。
【0034】
単糸は、例えば、湿式紡糸法、乾式紡糸法及び溶融紡糸法などで製造されたものが挙げられる。例えば、原材料がコラーゲンである場合は、製造が容易であり、かつ製造コストが安価である観点から、湿式紡糸法が好ましい。
【0035】
湿式紡糸法は、例えば、生体分解性高分子の水溶液を、ギアポンプ、ディスペンサー及び各種押し出し装置などを用いて、凝固浴槽に吐出する。均一な紡糸を行うためには脈動が少なく安定して溶液を定量吐出する観点から、ディスペンサーが好ましい。また、吐出するノズルの口径は、単糸の強度の観点から、約10〜200μm、好ましくは約50〜150μmである。さらに水溶液の濃度は、単糸の強度の観点から、約0.1〜20重量%、好ましくは約1〜10重量%である。
【0036】
湿式紡糸で用いる凝固浴の溶媒としては、生分解性高分子を凝固させる溶媒、懸濁液、乳濁液及び溶液であれば特に限定されるものではない。例えば、糸状物の原材料としてコラーゲンを用いる場合、無機塩類水溶液、無機塩類含有有機溶媒、アルコール類及びケトン類などが挙げられる。無機塩類水溶液としては、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムなどの水溶液が挙げられる。また、これらの無機塩類をアルコール類又はアセトン類に溶解若しくは分散させた液を用いてもよい。アルコール類は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アミルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール及びエチレングリコールなどが挙げられる。ケトン類としてはアセトン及びメチルエチルケトンなどが挙げられる。これらの中でも、紡糸した糸の強度の観点から、エタノール、塩化ナトリウムのエタノール溶液及び塩化ナトリウムのエタノール分散溶液を用いることが好ましい。
【0037】
凝固浴槽に吐出された生分解性材料の糸は、凝固浴槽から引き上げたのち、乾燥工程を経て、棒状体に巻きつけることにより筒状体1として成形される。ここで、乾燥工程はコラーゲンが熱変性せず、単糸の周囲に付着した凝固浴槽の液滴を除去し、かつ単糸が破断しない程度の条件で乾燥させる。この際、単糸の内部は多少の溶媒が残存していることが好ましい。これは、棒状に巻き取られた後、この残存した溶媒が単糸の外部へと染み出ることにより、単糸の一部を再溶解され、隣接する単糸同士が接着するからである。このような隣接する単糸同士が接着した状態で乾燥することにより、さらに強度が向上した筒状体1を形成することができる。以上の要件を満足するような乾燥方法としては、例えば、コラーゲン水溶液をエタノールの凝固浴槽に吐出して紡糸する場合、紡糸速度(=巻き速度又は引き上げ速度)約10〜10,000m/min、湿度約50%以下、温度43℃以下の条件で、空気を送風乾燥する方法が挙げられる。
【0038】
また、筒状体1の製造において、棒状体に何重にも巻きつけることにより複数層に積層する方法が挙げられる。この時、少なくとも1層の単糸の巻き密度を、他の層の単糸の巻き密度と異なるようにすることによりさらに強度は向上する。本発明における巻き密度とは、筒状体1の長手軸方向の単位長さ当りの巻き回数をいう。例えば、少なくとも1層の単糸の巻き密度は10回/cm未満とし、他の層の単糸の巻き密度を約10〜30回/cmとすることが好ましい。詳細は、特開2004−073221号公報の開示内容を参照されたい。
【0039】
また、筒状体1の側壁には、生分解性材料溶液を塗布、乾燥させることによっても強度は向上する。この処理に用いる生分解性材料は、筒状体1の材料との接着性がよい観点から、筒状体1の材料と同じ材料であることが好ましい。また、その濃度は、例えば生分解性高分子がコラーゲンである場合、溶液の取り扱いが容易である観点から、約0.1〜20重量%、好ましくは約1〜10重量%である。
【0040】
また、筒状体1は必要によりさらに架橋処理を施すことが好ましい。この架橋処理により、前駆体から生産された組織再生器具Aの生体内における分解時間を制御することができる。架橋方法としては、架橋剤による化学的架橋、γ線照射、紫外線照射、電子線照射、プラズマ照射及び熱脱水架橋などが挙げられる。特に、生体内埋殖後における安全性の観点から、熱脱水架橋が好ましい。熱脱水架橋の条件は、架橋温度が約100〜140度、架橋時間が6〜72時間である。特に架橋効率及び熱分解を抑える観点から、好ましくは架橋温度が約110〜130度、架橋時間が12〜48時間である。
【0041】
<誘導手段>
筒状体1の内腔には、生分解性材料からなる誘導手段2を備える。「誘導手段」とは、損傷した組織の細胞が、長手方向への成長を誘導する足場となるものをいう。その形態は、例えば、スポンジ、線維束、及び、織布、不織布並びにシートなどの膜状物を変形又は細断したものが挙げられる。特に筒状体の内腔において細胞が均等に成長させることができる観点ではスポンジが、筒状体の長手方向への成長しやすさの観点では線維束が、それぞれ好ましい。また、誘導手段2は、スポンジ及び線維束を組み合わせてもよい。
【0042】
「スポンジ」とは、均一又は不均一な大きさの空孔が連続又は不連続に分散した多孔体をいう。スポンジの空孔率は、細胞が成長可能な足場及び空間が保持できる観点から、10〜99%、好ましくは約50〜99.9%である。
【0043】
スポンジの製造方法は、例えば、目的の形状に合わせて作製した型に、生分解性材料の溶液を流し込み、自然乾燥、真空乾燥、凍結融解及び真空凍結乾燥などの方法により形成する方法が挙げられる。特に、空孔を均一に形成させる観点から、真空凍結乾燥法が好ましい。真空凍結乾燥法の条件としては、例えば、製造の容易性の観点から、約0.05〜30重量%の生分解性材料の溶液を、約0.08Torr以下の条件で行う方法が挙げられる。
【0044】
一方、「繊維束」とは、少なくとも2本以上の糸状物から構成されたものをいい、それぞれの糸状物が筒状体1の長手方向に対して約45度以下、好ましくは約30度以下のなす角度で配列したものをいう。それぞれの糸状物同士は平行であっても、平行でなくてもよい。
【0045】
本発明において繊維束を構成する「糸状物」とは、単糸及び縒糸の総称をいう。特に製造コストの観点から、単糸であることが好ましい。単糸は、上述した筒状体1を構成する単糸と同様の製法で製造すればよい。
【0046】
また、繊維束の糸状物は、細胞が成長可能な足場及び空間が保持できる観点から、外径約1〜10,000μmの糸状物を約1〜99%、好ましくは約10〜30%の充填率で筒状体1の内腔に充填すればよい。ここで「充填率」とは、筒状体1の内腔の容積に対する繊維束の占有体積の比率をいう。
【0047】
繊維束を形成する方法としては、例えば、湿式紡糸後、少なくとも向かい合う2辺が平行な四角形の板状体又はフレームに、単糸をこの二辺と略直行するように複数回巻き取り、巻き取られた単糸を二辺付近で切断することにより得る方法が挙げられる。板状体及びフレームの巻き速度は、上述した単糸から筒状体1を製造する条件と同様とすればよい。
【0048】
以上の誘導手段2における形状、材料及び製造条件などは、当業者が適宜選択できるものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
また、誘導手段2の長手方向の長さは、本発明の課題である両端に組織を挿入するための組織挿入部4を備えた組織再生器具Aの生産を容易に行うことができる観点から、図3に示すように筒状体1の長手方向の長さよりも、組織挿入部形成長(D)だけ短い状態で、筒状体1の片端と誘導手段2の片端を揃えることが好ましい。「組織挿入部形成長」とは、両端に組織挿入部4を設けるために必要な長さをいう。以下、本発明では組織挿入部形成長をDと略すこともある。具体的な長さは、再生する組織により、当業者が適宜決定できるものであるから、特に限定されるものではないが、組織挿入部4の長手方向の長さの2〜4倍程度であればよい。特に組織の挿入を容易に行うことができる観点から、2倍程度、つまり約4〜60mmが好ましい。また、筒状体1の片端と誘導手段2の片端を揃えることによりその端面は略平滑となることから、本発明ではこの揃えた端を「平滑端」ともいう。一方、これに伴い前駆体Bのもう一端は、筒状体1の片端と誘導手段2の片端を揃ってなく、空間を形成していることから、本発明ではこの空間を「空間部」ともいう。
【0050】
<固定手段>
このようにして得られた誘導手段2は、筒状体1の内腔に挿入する。ここで、単に誘導手段2を筒状体1の内腔に挿入しただけでは、誘導手段2が筒状体1の内腔から滑り落ちてしまい、誘導手段2が汚染される弊害を伴う。
【0051】
例えば、特許文献2のコラーゲン体はチューブに固定されているわけではなく、コラーゲン体はチューブ内を摺動する。搬送時又は使用時にチューブからコラーゲン体が抜け落ちてしまい、コラーゲン体が汚染されるおそれがある。
【0052】
一方で、この課題を解決すべく特許文献2のコラーゲン体をチューブの内腔に密に充填することが考えられる。しかしながら、埋植前の生理食塩水による膨潤によりチューブが変形してしまうおそれがある。
【0053】
同様に、特許文献3の合成生体吸収性高分子からなるファイバーは、管状体に固定されているわけではなく、繊維束は管状体内を摺動する。このため、特許文献2と同様の問題がある。
【0054】
特許文献3においても、合成生体吸収性高分子からなるファイバーを管状体の内腔に密に充填することが考えられる。しかしながら、埋植前の生理食塩水による膨潤によりチューブが変形してしまうおそれがある。
【0055】
この弊害を防止するために、本発明では誘導手段2を筒状体1に固定する固定手段3を備える。しかしながら、単に固定手段3を設けただけでは、前駆体Bから器官再生器具Aを製造する際、本発明の課題である両端に組織を挿入するための組織挿入部4を設けた組織再生器具Aを生産することができない。
【0056】
例えば、特許文献4の器具は、再生すべき神経の長さに合わせて切断する。そして、中枢神経側の神経端を空間部に挿入することにより埋植することができる。しかしながら、マトリックス及び/又は神経誘導路は管状体に固定されているため、搬送時又は使用時におけるマトリックス及び/又は神経誘導路の抜け落ちるという問題はないが、末梢神経側は平滑端を形成してしまう問題がある。
【0057】
以上のことから、本発明の前駆体Bは筒状体1に誘導手段2を解除可能に固定する固定手段3を備える。「解除可能に固定する固定手段」とは、前駆体Bの製造時及び運搬時には、誘導手段2は筒状体1に固定されるが、前駆体Bから器官再生器具Aを生産する時には解除することができ、誘導手段2は筒状体1の内腔を摺動できるようになるものをいう。例えば、糸状物、ステープラー、バインダー及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるいずれか1であるものが挙げられる。糸状物及びステープラーによる固定は、筒状体1の外壁から誘導手段2に貫通するように固定することができる。そして、これらの固定手段3の解除は、そのまま固定手段3を物理的に除去すればよい。
【0058】
また、「バインダー」とは、いわゆる接着剤的な機能を有する高分子組成物をいい、筒状体1と誘導手段2との間に介在し、アンカー効果、物理的吸着、共有結合、イオン結合、疎水結合、配位結合及び水素結合などで結合しうるものをいう。これらバインダーによる固定方法としては、例えば、接着剤的な機能を有する高分子の溶液を調製後、筒状体1の内壁又は誘導手段2に塗布し、誘導手段2を筒状体1の内腔に挿入後、溶媒を乾燥する方法が挙げられる。
【0059】
一方、バインダーの解除は、バインダーを構成する高分子の良溶媒である処理することにより達成される。このような良溶媒を本発明ではバインダー用溶媒という。ただし、このバインダー用溶媒は、処理中に前駆体B自体を溶解しないように、前駆体Bを構成する生分解性高分子に対しては貧溶媒でなければならない。したがって、このバインダー用溶媒を決定すれば、バインダーを構成する高分子も容易に選択することができる。
【0060】
このようなバインダー用溶媒は、例えば、生分解性高分子がコラーゲンであって、係るコラーゲンが架橋されている場合、コラーゲンの主鎖骨格を分解するような強い酸又はアルカリでなければほとんどの溶媒が適用できる。具体的には、水、メタノール、エタノール、アセトン、ヘキサン、ベンゼン、キシレン、1,2−ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン及びジメチルスルホキシドなどが挙げられる。特に処理後の器具に残存しても生体に影響がない観点から、水が好ましいが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
水は、水道水、蒸留水、逆浸透水及びイオン交換水などが挙げられる。また、生理食塩水などのように生理学的に許容可能な塩を含んでもよい。ここで、組織再生器具Aは、組織再生器具の前駆体Bを軟化させるに、生理食塩水に浸漬することが一般的である。したがって、水は、本発明の前駆体Bを膨潤させる工程及びバインダーを解除する工程を同時に行うことができる観点から、生理食塩水が好ましい。
【0062】
そして、例えば、生分解性高分子が架橋コラーゲンであり、バインダー用溶媒として生理食塩水を使用する場合、係るバインダーを構成する高分子は、親水性高分子であれば特に限定されるものではない。このような親水性高分子としては、例えば、未架橋コラーゲン、ポリリジン、ポリグルタミン酸、ポリエチレングリコール、及び、アルギン酸、キトサン、ヒアルロン酸並びにコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカンが挙げられる。中でも筒状体1及び誘導手段2を構成する架橋コラーゲンとの接着性、及び、処理後に前駆体Bに残存しても生体に影響がない観点から、未架橋コラーゲンが好ましい。
【0063】
<組織再生器具の生産>
以下に本発明の組織再生器具の前駆体Bから組織再生器具Aを生産する方法について、図を用いて説明する。尚、組織再生器具の前駆体Bは全てコラーゲンからなるものとし、固定手段3は、未架橋コラーゲンのバインダーとするが、本発明はこれらに限定されるものではないことは上述したとおりである。
【0064】
本発明の組織再生器具Aの生産方法は、
(1)組織再生器具の前駆体Bを軟化用溶媒に浸漬し、前駆体Bを膨潤する工程;
(2)固定手段3を解除し、誘導手段2を筒状体1の内腔において摺動可能にする工程;
(3)前駆体B1の長手方向の長さを、再生すべき組織の長さに組織挿入部形成長(D)を加えた長さとなるように、前駆体B1の一部を切除する工程;
(4)誘導手段2の長手方向の長さが、筒状体1の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短くなるように、誘導手段2の一部を切除する工程;及び
(5)誘導手段を筒状体中央に配置することにより、筒状体の両端内腔に組織挿入部を形成する工程
を含む。
【0065】
(1)組織再生器具の前駆体Bを軟化用溶媒に浸漬し、前駆体Bを膨潤する工程
まず、本発明の組織再生器具の前駆体Bを、埋植時に縫合の取扱い性を向上させるために軟化用溶媒に浸漬し軟化させる。軟化用溶媒は、組織再生器具の前駆体Bを軟化させる溶液であれば特に限定されるものではないが、主に生理食塩水が使用される。
【0066】
(2)固定手段3を解除し、誘導手段2を筒状体1の内腔において摺動可能にする工程
上述の工程(1)において、未架橋コラーゲンは生理食塩水に溶解するため、固定手段3は解除される。もし、固定手段3が未架橋コラーゲン以外の、例えば、ステープラーなどであるならば、当該ステープラーを除去すればよい。ステープラーを含む固定手段3の除去は、上述の工程(1)の前後を問わないが、前駆体Bの膨潤により、当該固定手段3の除去が容易となる観点から、工程(1)の後に行うことが好ましい。このようにして、膨潤した前駆体B1においては、筒状体1と誘導手段2との濡れにより摩擦抵抗が大きくなるため、誘導手段2が筒状体1の内腔を摺動することはできるが、内腔からずり落ちることはない。
【0067】
(3)前駆体Bの長手方向の長さを、再生すべき組織の長さに組織挿入部形成長(D)を加えた長さとなるように、前駆体Bの一部を切除する工程
次に、再生すべき組織の長さに応じて、前駆体B1の一部を切除することにより、その長さを調節する。具体的には、前駆体Bの長手方向の長さを、再生すべき組織の長さ(以下、本発明ではLと略すこともある)に組織挿入部形成長(D)を加えた長さとなるように、当該前駆体B1を切除する(図4:B1〜B2)。例えば、再生すべき組織が神経であって、再生すべき神経の長さ(L)が100mmであり、組織挿入部形成長(D)を20mmとした場合、前駆体B1の長さが120mmとなるように切除する。切除は、はさみ、ミクロトーム及び手術用メスなどの切断用の器具を用いて行うことができる。このようにして、膨潤した前駆体B2においては、工程(1)で生じる筒状体1と誘導手段2との濡れにより摩擦抵抗が大きくなるため、誘導手段2が筒状体1の内腔を摺動することはできるが、内腔からずり落ちることはない。尚、本工程を実施する前において、前駆体B1の長さが再生すべき組織の長さに対応している場合は、特に何もすることなく本工程は実施されたものとみなす。
【0068】
(4)誘導手段2の長手方向の長さが、筒状体1の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短くなるように、誘導手段2の一部を切除する工程
そして、誘導手段2を、筒状体1の内腔を摺動させ、筒状体1の片端から組織挿入部形成長(D)だけ突出させる(図5:B2〜B3)。この突出した部分を切除することによって、誘導手段2の長手方向の長さを調節する(図5:B3〜B4)。この長さは、患部の切除された組織の長さと略同じとなる。例えば、再生すべき組織が神経であって、組織挿入部形成長(D)を20mmとし、前駆体Bの長さを120mmとした場合、上記の作業により得られる誘導手段2の長手方向の長さ(L:再生すべき神経の長さ)は100mmとなる。
【0069】
ここで図3に示すように、誘導手段2の長手方法の長さが、筒状体1の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短く、筒状体1の片端と誘導手段2の片端を揃えた構造(平滑端を備えた構造)である場合、上述の工程(2)において平滑端5側の前駆体B’1の一部を切除すれば、本工程も同時に実施されるため好ましい(図6:B’1〜B’2)。
【0070】
(5)誘導手段2を筒状体1の中央に配置することにより、筒状体1の両端内腔に組織挿入部4を形成する工程
その後、誘導手段2の長手方向中点と、筒状体1の長手方向中点が重なるように配置するように摺動すれば、長手方向の長さが、組織挿入部形成長(D)の2分の1(D/2)の組織挿入部4を両端に設けることができる(図7:B4〜A、又は、B’2〜A)。
【0071】
以上のようにして、本発明の組織再生器具の前駆体Bから生産された組織再生器具Aは、両端に組織挿入部4を設けているために、組織端を挿入するたけで埋植することができ、縫合などを行わなくとも容易に埋植手術を行うことができる。また、筒状体1の外壁に沿って細胞が成長してしまう弊害を防止することができる。
【実施例】
【0072】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
実施例1:組織再生器具の前駆体Bの製造
(1)筒状体1の製造
酵素可溶化コラーゲンを水に溶解して5%水溶液を作製した。このコラーゲン溶液を、99.5%エタノール凝固浴槽中に吐出すことにより、直径約200μmのコラーゲン単糸を紡糸した。エタノール凝固浴槽から引き上げられたコラーゲン単糸を、そのまま外径3.0mmのポリフッ化エチレン系繊維製の円筒鋳型に、約4,000mm/minの速度で巻き付けた後、乾燥させた。次に、この生成物を5%コラーゲン水溶液に浸漬、乾燥することにより筒状体1の最内層を形成した。さらに、この筒状体1の最内層の外周に前記コラーゲン単糸を約4,000mm/minの速度で再度巻き付け、バキュームドライオーブン(EYELA社製:VOS−300VD型)中にて減圧下(1torr以下)、120℃、24時間熱脱水架橋反応を施した。得られた筒状体を、再度5%コラーゲン水溶液を浸漬、乾燥させた後、熱架橋処理を行うことにより、内径3.0mm、外径3.3mm、長さ70mmの架橋コラーゲン製の筒状体1を製造した。
【0074】
(2)誘導手段2の製造
上述したエタノール凝固浴槽による湿式紡糸において、凝固浴槽から引き上げられた単糸を、温度約25度、湿度50%以下の条件で送風乾燥を行いながら、約150mm×150mmの長方形を有するフレームに巻き付けた。この時の紡糸速度は、約4,000mm/minとした。次に、フレームに巻き付けた状態で、バキュームドライオーブン(EYELA社製:VOS−300VD型)中にて減圧下(1torr以下)、120℃、24時間熱脱水架橋反応を施した。そして、巻き付けられた糸を長さ約50mmとなるように切断し、外径約3.0mmの円柱状となるように束ねた。この円柱状に束ねたものを5重量%コラーゲン水溶液に含浸させ、バキュームドライオーブン(EYELA社製:VOS−300VD型)中にて減圧下(1torr以下)、120℃、24時間で再度熱架橋処理を行うことにより、外径約3.0mm、長さ50mmの架橋コラーゲン製の繊維束からなる誘導手段2を作製した。誘導手段2の長手方向の長さは、筒状体1の長手方向の長さよりも20mm短い。つまり、組織挿入部形成長(D)は20mmとなる。
【0075】
(3)図3の組織再生器具の前駆体B’の製造
架橋コラーゲン製の誘導手段2の周囲に5%コラーゲン水溶液(バインダー)からなる固定手段3を塗布した。次にこの誘導手段2の片端を、筒状体1の片端と揃えるように、筒状体1の内腔に挿入した。この状態で乾燥することにより、誘導手段2を未架橋コラーゲンのバインダーで筒状体1に固定し、図3に示す組織再生器具の前駆体Bを得た。つまり、筒状体1の片端側の内腔には誘導手段2が存在し、平滑端5を形成するが、筒状体1のもう一端側の内腔には誘導手段2は存在しない。このようにして得られた前駆体Bは、25kGyのγ線滅菌処理を施した。
【0076】
実施例2:組織再生器具Aの生産
実施例1で得た組織再生器具の前駆体B’を生理食塩水にて、20分浸漬することにより器具の前駆体B’を膨潤させた。次に、平滑端5から20mmの位置で、ミクロトームを用いて前駆体B’1を切除した(図6:B’1〜B’2)。つまり、筒状体1の長手方向の長さは50mm、誘導手段2の長手方向の長さ(L:再生すべき組織の長さ)は30mmとなる。その後、筒状体1の内腔において誘導手段2を10mm摺動させ、略中央の位置に配置させることにより、両端に組織挿入部4を備えた組織再生器具Aを生産した(図7:B’2〜A)。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の組織再生器具の前駆体は、容易に両端に組織を挿入するための空間を備えた組織再生器具に生産できる。このため、医師が特別な技術を必要とすることなく係る器具を容易に埋植することができ、スキャフォールドを用いた再生医療が医療業界に普及するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の最終目的である組織再生器具Aを示す図である。
【図2】本発明の組織再生器具の前駆体の一実施態様(B)を示す図である。
【図3】本発明の組織再生器具の前駆体の変形例(B’)を示す図である。
【図4】膨潤した図2の組織再生器具の前駆体B1を切除する工程を示す図である。
【図5】図4の工程の後、組織再生器具の前駆体B2から、誘導手段2を摺動・突出させた後、突出した部分を切除する工程を示す図である。
【図6】膨潤した図3の組織再生器具の前駆体B’1を切除する工程を示す図である。
【図7】図5又は図6の工程の後、誘導手段2を摺動させ、両端に組織挿入部4を設ける工程を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1 筒状体
2 誘導手段
3 解除可能な固定手段
4 組織挿入部
5 平滑端
A 組織再生器具
B、B1〜B4、B’、B’1、B’2 組織再生器具の前駆体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織を再生するための組織再生器具を生産するための前駆体であって、
長手方向に内腔であり、生分解性材料からなる筒状体と、
前記筒状体の内腔に具備し、生分解性材料からなる誘導手段及び
前記筒状体に前記誘導手段を解除可能に固定する固定手段を備え、
前記固定手段は、溶媒に浸漬することで解除されることを特徴とする組織再生器具の前駆体。
【請求項2】
前記誘導手段の長手方向の長さが、前記筒状体の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短く、前記筒状体の片端と前記誘導手段の片端を揃えた請求項1に記載の組織再生器具の前駆体。
【請求項3】
組織挿入部形成長(D)が、2〜60mmである請求項2に記載の組織再生器具の前駆体。
【請求項4】
前記解除可能に固定する固定手段が、糸状物、ステープラー、バインダー及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるいずれか1である請求項1に記載の組織再生器具の前駆体。
【請求項5】
前記解除可能に固定する固定手段が、親水性高分子のバインダーである請求項1に記載の組織再生器具の前駆体。
【請求項6】
前記親水性高分子が、コラーゲン、ポリリジン、ポリグルタミン酸、ポリエチレングリコール及びグリコサミノグリカンからなる群より選択されるいずれか1である請求項5に記載の組織再生器具の前駆体。
【請求項7】
組織再生器具の前駆体から線状の組織を再生するための組織再生器具を生産する方法であって、
前記組織再生器具の前駆体は、
長手方向に内腔であり、生分解性材料からなる筒状体と、
前記筒状体の内腔に設けられ、生分解性材料からなる誘導手段及び
前記筒状体に前記誘導手段を解除可能に固定する固定手段を備え、
前記固定手段は、溶媒に浸漬することで解除されることを特徴とする組織再生器具の前駆体であり、
(1)前記組織再生器具の前駆体を軟化用溶媒に浸漬し、前記前駆体を膨潤する工程;
(2)前記固定手段を解除し、前記誘導手段を前記筒状体内腔において摺動可能にする工程;
(3)前記前駆体の長手方向の長さを、再生すべき組織の長さに組織挿入部形成長(D)を加えた長さとなるように、前記前駆体の一部を切除する工程;
(4)前記誘導手段の長手方向の長さが、前記筒状体の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短くなるように、前記誘導手段の一部を切除する工程;及び
(5)前記誘導手段を前記筒状体中央に配置することにより、前記筒状体の両端内腔に組織挿入部を形成する工程
を含む組織再生器具の生産方法。
【請求項8】
前記前駆体の誘導手段の長手方向の長さが、前記前駆体の筒状体の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短く、前記前駆体の筒状体の片端と前記前駆体の誘導手段の片端を揃えたものであって、
前記(3)及び(4)の工程を同時に実施することを特徴とする請求項7に記載の組織再生誘導器具の生産方法。
【請求項9】
前記前駆体の固定手段が親水性高分子のバインダーであり、前記軟化用溶媒が生理食塩水であって、
前記(1)及び(2)の工程を同時に実施することを特徴とする請求項7に記載の組織再生誘導器具の生産方法。
【請求項10】
組織再生器具の前駆体から生産された組織を再生するための組織再生器具であって、
前記組織再生器具の前駆体は、
長手方向に内腔であり、生分解性材料からなる筒状体と、
前記筒状体の内腔に設けられ、生分解性材料からなる誘導手段及び
前記筒状体に前記誘導手段を解除可能に固定する固定手段を備え、
前記固定手段は、溶媒に浸漬することで解除されることを特徴とする組織再生器具の前駆体であり、
(1)前記組織再生器具の前駆体を軟化用溶媒に浸漬し、前記前駆体を膨潤する工程;
(2)前記固定手段を解除し、前記誘導手段を前記筒状体内腔において摺動可能にする工程;
(3)前記前駆体の長手方向の長さを、再生すべき組織の長さに組織挿入部形成長(D)を加えた長さとなるように、前記前駆体の一部を切除する工程;
(4)前記誘導手段の長手方向の長さが、前記筒状体の長手方向の長さよりも組織挿入部形成長(D)だけ短くなるように、前記誘導手段の一部を切除する工程;及び
(5)前記誘導手段を前記筒状体中央に配置することにより、前記筒状体の両端内腔に組織挿入部を形成する工程
により生産された組織再生器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−250069(P2012−250069A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−199888(P2012−199888)
【出願日】平成24年9月11日(2012.9.11)
【分割の表示】特願2006−166682(P2006−166682)の分割
【原出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】