説明

触媒の製造方法及びその触媒を用いたカルボン酸エステルの製造方法

【課題】遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物を担体に担持してなる触媒を効率的に製造でき、且つ触媒活性成分の金属が溶出し難く、経時劣化が小さい触媒を製造できる方法、及びその方法により製造された触媒を用いて、不飽和炭化水素、カルボン酸及び酸素求核剤を反応させ、カルボン酸エステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物をゾルゲル法により担体に担持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の製造方法及びその触媒を用いたカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、共役ジエンをカルボン酸及び分子状酸素と反応させて対応する不飽和グリコールのカルボン酸ジエステルを製造する際に用いられる触媒として、例えば、パラジウム、白金、ロジウム、テルル等を触媒活性成分とする固体触媒が知られている。具体的には、例えば、パラジウムに第2成分としてテルルを共存させた固体触媒(PdTe系触媒)、ロジウムに第2成分としてテルルを共存させた固体触媒(RhTe系触媒)等を使用し、ブタジエンを酢酸及び分子状酸素と反応させて、ブテンジオールジアセテートを製造する方法が知られている。
【0003】
また、RhTe系触媒は、PdTe系触媒と比べて極めて高い選択性を有し、所望の生成物の製造効率が高いことが知られている。例えば、特許文献1には、ロジウム化合物及びテルル化合物を溶解した溶液に無機多孔体を含浸して得られる固体触媒を用いて、ブタジエンと酢酸及び酸素とを反応させて、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを製造する方法が記載されている。
【0004】
また、2種以上の金属を含む合金粒子が担体に担持されてなる合金担持物を製造する技術として、例えば、特許文献2には、パラジウム、テルル等の2種以上の金属を含む金属溶液、錯化剤及び還元剤を含み、金属が溶出しない温度とpHとに調整した含浸用溶液を調製し、当該含浸用溶液を担体に含浸させた後、担体内部において還元反応を行うことにより、触媒として用いられる合金担持物を製造する方法が記載されている。この方法によれば、パラジウム、テルル等の金属粒子を担体中に均一な組成で、且つ高分散している状態で担持することができ、金属が溶出することを抑制することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−158113号公報
【特許文献2】特開2007−50388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のRhTe系触媒を用いる際、RhTe系触媒は反応中に失活しやすいという課題を有していた。具体的には、例えば特許文献1に記載の方法は、RhTe系触媒に含まれるロジウムが酢酸に大量に溶解して、極めて短時間で触媒活性が低下する(即ち、経時劣化が大きい)場合があるという課題を有していた。
【0007】
また、例えば特許文献2に記載の方法においては、錯化剤の添加とpH調整とにより、その触媒活性成分の各金属塩の還元速度を制御し、均一構造な合金粒子を担体上へ合成していた。そのため、合金粒子に含まれる金属の種類によっては、当該金属を含有する含浸用溶液のpHが非常に大きくなることがあった。また、触媒担体として使用される無機酸化物多孔体、例えばシリカゲル等は、pHが高い領域では溶解する場合があった。従って、含浸用溶液を担体に含浸させると、担体自体が溶解しうるため、合金粒子を担体上へ担持することが困難であるという課題を有していた。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物を担体に担持してなる触媒を効率的に製造でき、且つ触媒活性成分の金属が溶出し難く、経時劣化が小さい触媒を製造できる方法、及びその方法により製造された触媒を用いて、不飽和炭化水素、カルボン酸及び酸素求核剤を反応させ、カルボン酸エステルを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物をゾルゲル法により担体に担持することで、触媒を効率的に製造でき、且つ触媒活性成分の金属が溶出し難く、経時劣化が小さい触媒を製造できる方法、及びその方法により製造された触媒を用いて、不飽和炭化水素、カルボン酸及び酸素求核剤を反応させ、カルボン酸エステルを製造する方法を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物を担体に担持してなる触媒の製造方法であって、ゾルゲル法により、該金属間化合物を該担体に担持する担持工程を有することを特徴とする、触媒の製造方法に存する(請求項1)。
【0011】
この時、該担持工程に先立って、遷移金属材料と、カルコゲン材料と、錯化剤と、還元剤とを溶液中で接触させることにより、該金属間化合物を製造する金属間化合物製造工程を有することが好ましい(請求項2)。
さらに、該担体が、多孔体であることが好ましい(請求項3)。
そして、該金属間化合物中の遷移金属に対するカルコゲンのモル比が、0.1以上10以下であることが好ましい(請求項4)。
また、該遷移金属が、白金族元素であることが好ましい(請求項5)。
【0012】
また、本発明の別の要旨は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒の製造方法により得られた触媒の存在下、不飽和炭化水素、カルボン酸及び酸素求核剤を反応させ、カルボン酸エステルを製造する工程を有することを特徴とする、カルボン酸エステルの製造方法に存する(請求項6)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物を担体に担持してなる触媒を効率的に製造でき、且つ触媒活性成分の金属が溶出し難く、経時劣化が小さい触媒を製造できる方法、及びその方法により製造された触媒を用いて、不飽和炭化水素、カルボン酸及び酸素求核剤を反応させ、カルボン酸エステルを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0015】
[1.本発明の触媒の製造方法]
本発明の触媒の製造方法(以下、適宜「本発明の製造方法」と言う。)は、遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物を担体に担持してなる触媒(以下、適宜「本発明の触媒」と言う。)の製造方法であって、ゾルゲル法により、上記金属間化合物を上記担体に担持する担持工程を有するものである。また、本発明の製造方法は、担持工程以外の工程を有していてもよく、中でも、上記の担持工程のほかに、当該担持工程に先立って、金属間化合物を製造する金属間化合物製造工程を有することが特に好ましい。以下、本発明の製造方法が、担持工程のほかに金属間化合物製造工程も有するものとして記載するが、上記のように、本発明の製造方法は担持工程さえ有していればよい。従って、本発明の製造方法は、以下の記載の内容に限定されるものではない。
【0016】
[1−1.金属間化合物製造工程]
本発明の製造方法は、上記のように、担持工程に先立って、遷移金属材料と、カルコゲン材料と、錯化剤と、還元剤とを溶液中で接触させることにより、金属間化合物を製造する金属間化合物製造工程を有することが好ましい。即ち、本発明の製造方法においては、金属間化合物製造工程において製造された金属間化合物を、後述する担持工程に供することが好ましい。
【0017】
〔成分〕
(遷移金属材料)
金属間化合物製造工程において用いられる遷移金属材料としては、遷移金属を含むものである限り、任意のものを用いることが出来る。遷移金属材料としては、例えば、遷移金属の単体;無機化合物(例えば遷移金属の酸化物、硝酸塩、硫酸塩等)、ハロゲン化物(例えば遷移金属の塩化物等)、有機酸塩(例えば遷移金属の酢酸塩等)、錯塩(例えば遷移金属のアンミン錯体等)、有機金属化合物(例えば遷移金属のアセチルアセトナート錯体等)等が挙げられる。遷移金属材料は、1種を単独で用いてもよく、2種を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0018】
上記のものの中でも、遷移金属材料としては、無機化合物、ハロゲン化物、有機金属化合物が好ましく、遷移金属の塩化物が特に好ましい。
【0019】
遷移金属の種類も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は、周期表の第8族〜第11族金属が用いられる。中でも、第8族〜第10族金属が好ましく、第9族又は第10族金属がより好ましい。これらの族に属する金属の中でも、第5周期又は第6周期金属が好ましく、第5周期金属が特に好ましい。
具体的には、遷移金属は、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金等の白金族元素が好ましく、パラジウム、ロジウムがより好ましく、ロジウムが特に好ましい。遷移金属は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0020】
従って、遷移金属材料として、より具体的な好ましいものは、ロジウムを含む無機化合物、ロジウムのハロゲン化物、又はロジウムを含む有機金属化合物であり、中でも、特に好ましくは、ロジウムの塩化物(塩化ロジウム)である。
【0021】
(カルコゲン材料)
金属間化合物製造工程において用いられるカルコゲン材料としては、カルコゲンを含むものである限り、任意のものを用いることが出来る。カルコゲン材料としては、例えば、カルコゲンの単体、無機化合物(例えばカルコゲンの酸化物、水素化物、硝酸塩、カルコゲン酸及びその塩類、亜カルコゲン酸及びその塩類等)、ハロゲン化物(例えばカルコゲンの塩化物、臭化物等)、有機カルコゲン化合物(例えばアルキルカルコゲニド、アリールカルコゲニド等)等が挙げられる。カルコゲン材料は、1種を単独で用いてもよく、2種を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0022】
上記のものの中でも、カルコゲン材料としては、無機化合物、ハロゲン化物、有機カルコゲン化合物が好ましく、カルコゲンの酸化物、カルコゲンの塩化物がより好ましく、カルコゲン酸及びその塩類、並びに亜カルコゲン酸及びその塩類が特に好ましい。
【0023】
本発明において、カルコゲンは、酸素、硫黄、セレン、テルル、ポロニウムからなる群より選ばれる1種以上の原子を表わす。中でも、カルコゲンは、セレン、テルル、ポロニウムが好ましく、テルルが特に好ましい。カルコゲンは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0024】
従って、カルコゲン材料として、より具体的な好ましいものは、テルルを含む無機化合物、テルルのハロゲン化物、有機テルル化合物が好ましく、テルルの酸化物、テルルの塩化物がより好ましく、テルル酸及びその塩類、亜テルル酸及びその塩類が特に好ましい。
【0025】
(錯化剤)
金属間化合物製造工程に用いられる錯化剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。錯化剤の具体例としては、硫黄原子及び/又は窒素原子を含む有機化合物、炭化水素、酸素原子を含む有機化合物、リン原子を含む有機化合物等が挙げられ、中でも、硫黄原子及び/又は窒素原子を含む有機化合物が好ましい。錯化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で用いてもよい。
【0026】
硫黄原子及び/又は窒素原子を含む有機化合物としては、例えば、有機酸、リン化合物、オキシム類、アミド類、アミン類、フェノール類等が挙げられる。
【0027】
有機酸の具体例としては、以下に記載する化合物等が挙げられる。
D−2−アミノ−3−メルカプト−3−メチルブタン酸(D-2-Amino-3-mercapto-3-methylbutanoic acid)(ペニシラミン(penicillamine):分子式C5112NS)、
イミノ二酢酸(Iminodiacetic acid)(略称IDA:C474N)、
(N−シクロヘキシル)イミノ二酢酸(N-(Cyclohexyl)iminodiacetic acid)(分子式C10174N)、
ニトリロ三酢酸(Nitrilotriacetic acid)(略称NTA:分子式C696N)、
N−(2−テトラヒドロピラニルメチル)イミノ二酢酸(N-(2-Tetrahydro pyranylmethyl)iminodiacetic acid)(分子式C10175N)、
N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジニトリロ−N,N’,N’−三酢酸(N-(2-Hydroxyethyl)ethylenedinitrilo-N,N',N'-triacetic acid)(略称HEDTA:分子式C101872)、
エチレンジニトリロ四酢酸(Ethylenedinitrilotetraacetic acid)(略称EDTA:分
子式C101682)、
DL−(メチルエチレン)ジニトリロ四酢酸(DL-(Methylethylene)dinitrilotetraacetic acid)(略称PDTA:分子式C111882)、
トランス−1,2−シクロヘキシレンジニトリロ四酢酸(trans-1,2-Cyclohexylene dinitrilotetraacetic acid)(略称CDTA:分子式C142282)、
エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(Ethylenebis(oxyethylenenitrilo) tetraacetic acid)(略称EGTA:分子式C1424102)、
ジエチレントリニトリロ四酢酸(Diethylenetrinitrilotetraacetic acid)(略称DTPA:分子式C1423103)、
トリエチレンテトラニトリロ六酢酸(Triethylenetetranitrilohexaacetic acid)(略称TTHA:分子式C1830124)、
6−メチルピリジン−2−カルボン酸(6-Methylpyridine-2-carboxylic acid)(分子式C772N)、
N−(2−ピリジルメチル)イミノ二酢酸(N-(2-Pyridylmethyl)iminodiacetic acid)
(分子式C101242)、
式Z−SCH2CO2Hで表わされる(置換チオ)酢酸((Substituted thio)acetic acid
)(前記式中、Zは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜30のアルキル基;2−プロペニル(Prop-2-enyl)基、3−ブテニル(But-3-enyl)基、4−ペンテニル(Pent-4-enyl)基等の炭素数2〜30のアルケニル基;ベンジル基等の炭素数6〜30のアリール基を表わす。)、DL−メルカプトブタン二酸(DL-Mercaptobutanedioic acid)(チオリンゴ酸(thiomalic acid):分子式C464S)、
(エチレンジチオ)二酢酸((Ethylenedithio)diacetic acid)(分子式C61042)、
オキシビス(エチレンチオ酢酸)(Oxybis(ethylenethioacetic acid))(分子式C81452)、
チオビス(エチレンチオ酢酸)(Thiobis(ethylenethioacetic acid))(分子式C814
43)、
カルボキシメチルチオブタン二酸(Carboxymethylthiobutanedioic acid)(分子式C686S)、
2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−3−メルカプトプロパノール(2,2-Bis(hydroxy methyl)-3-mercaptopropanol)(モノチオペンタエリスチトール(monothio pentaerythtitol):分子式C5123S)、
チオサリチル酸(Thiosalicylic acid)(略称TS:分子式C762S)。
【0028】
リン化合物の具体例としては、3−(ジフェニルホスフィノ)ベンゼンスルフォン酸(3-(Diphenylphosphino) benzenesulfonic acid)(3−スルホトリフェニルホスフィン(3-sulfotriphenylphosphine):分子式C18153SP)等が挙げられる。
【0029】
オキシム類の具体例としては、ブタン−2,3−ジオンジオキシム(Butane-2,3-dion dioxime)(ジメチルグリオキシム(dimethylglyoxime):分子式C4822)、1,
2−ジフェニルエタン−1,2−ジオキシム(1,2-Diphenylethane-1,2-dioxime)(慣用名α−ベンジルジオキシム(α-benzil dioxime):分子式C141222)、等が挙げられる。
【0030】
アミド類の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
チオカルバミド(Thiocarbamide)(チオ尿素(thiourea):分子式CH42S)、
モノチオオキサミド(Monothiooxamide)(分子式C24ON2S)、
N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)モノチオオキサミド(N,N'-Bis(2-hydroxyethyl)monothiooxamide)(分子式C61232S)、
N,N’−ビス(3−ヒドロキシプロピル)モノチオオキサミド(N,N'-Bis(3-hydroxypropyl)monothiooxamide)(分子式C81632S)、
N,N’−ビス(4−ヒドロキシブチル)モノチオオキサミド(N,N'-Bis(4-hydroxybutyl)monothiooxamide)(分子式C102032S)、
N,N’−ビス(5−ヒドロキシペンチル)モノチオオキサミド(N,N'-Bis(5-hydroxypentyl)monothiooxamide)(分子式C122432S)、
N,N’−ビス(2−スルフォエチル)ジチオオキサミド(N,N'-Bis(2-sulfoethyl) dithiooxamide)(分子式C612624)。
【0031】
アミン類の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
メチルアミン(Methylamine)(分子式CH5N)、
エチルアミン(Ethylamine)(分子式C27N)、
プロピルアミン(Propylamine)(分子式C39N)、
ブチルアミン(Butylamine)(分子式C411N)、
ペンチルアミン(Pentylamine)(分子式C513N)、
ヘキシルアミン(Hexylamine)(分子式C615N)、
イソブチルアミン(Isobutylamine)(分子式C411N)、
2−アミノエタノール(2-Aminoethanol)(エタノールアミン(ethanolamine):分子式C27ON)、
エチレンジアミン(Ethylenediamine)(分子式C282)、
トリメチレンジアミン(Trimethylenediamine)(分子式C3102)、
テトラエチレンジアミン(Tetraethylenediamine)(分子式C4122)、
ペンタメチレンジアミン(Pentamethylenediamine)(分子式C5142)、
1,3−ジアミノ−2−プロパノール(1,3-Diamino-2-propanol)(2−ヒドロキシトリメチレンジアミン(2-hydroxytrimethylenediamine):分子式C310ON2)、
オキシビス(2−エチルアミン)(Oxybis(2-ethylamine))(1,7−ジアザ−4−オキサヘプタン(1,7-Diaza-4-oxaheptane):分子式C412ON2)、
エチレンビス(オキシ−2−エチルアミン)(Ethylenebis(oxy-2-ethylamine))(1,
10−ジアザ−4,7−ジオキサデカン(1,10-diaza-4,7-dioxadecane):分子式C61622)、
チオビス(2−エチルアミン)(Thiobis(2-ethylamine))(1,7−ジアザ−4−チア
ヘプタン(1,7-diaza-4-thiaheptane):分子式C4122S)、
1,2,3−トリアミノプロパン(1,2,3-Triaminopropane)(分子式C3113)、
トリス(アミノメチル)メタン(Tris(aminomethyl)methane)(分子式C4133)、
ジメチルアミン(Dimethylamine)(分子式C27N)、
1,4,7−トリアザヘプタン(1,4,7-Triazaheptane)(分子式C4133)。
【0032】
フェノール類の具体例としては、1,3−ジヒドロキシ−4−(2−ピリジルアゾ)ベンゼン(1,3-dihydroxy-4-(2-pyridylazo)benzene)(略称PAR:分子式C11923)が挙げられる。
【0033】
上記のものの中でも、錯化剤としては、有機酸又はフェノール類が好ましい。具体的には、以下に挙げる化合物が好ましい。
オキシビス(エチレンチオ酢酸)(Oxybis(ethylenethioacetic acid))(分子式C81452)、
N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジニトリロ−N,N’,N’−三酢酸(N-(2-Hydroxyethyl)ethylenedinitrilo-N,N',N'-triacetic acid)(略称HEDTA:組成式C101872)、
エチレンジニトリロ四酢酸(Ethylenedinitrilotetraacetic acid)(略称EDTA:組
成式C101682)、
3−(ジフェニルホスフィノ)ベンゼンスルフォン酸(3-(Diphenylphosphino)benzene sulfonic acid)(3−スルホトリフェニルホスフィン(3-sulfotriphenylphosphine):
分子式C18153SP)、
DL−メルカプトブタン二酸(DL-Mercaptobutanedioic acid)(チオリンゴ酸(thiomalic acid):組成式C464S)、
チオサリチル酸(Thiosalicylic acid)(略称TS:組成式C762S)、
1,3−ジヒドロキシ−4−(2−ピリジルアゾ)ベンゼン(1,3-dihydroxy-4-(2-pyridylazo)benzene)(略称PAR:組成式C11923)。
【0034】
さらに、中でも、錯化剤としては、
エチレンジニトリロ四酢酸(Ethylenedinitrilotetraacetic acid)(略称EDTA:組
成式C101682)、
チオサリチル酸(Thiosalicylic acid)(略称TS:組成式C762S)、
1,3−ジヒドロキシ−4−(2−ピリジルアゾ)ベンゼン(1,3-dihydroxy-4-(2-pyridylazo)benzene)(略称PAR:組成式C11923
が、より好ましい。
【0035】
また、
チオサリチル酸(Thiosalicylic acid)(略称TS:組成式C762S)、
1,3−ジヒドロキシ−4−(2−ピリジルアゾ)ベンゼン(1,3-dihydroxy-4-(2-pyridylazo)benzene)(略称PAR:組成式C11923
が、特に好ましい。
【0036】
また、必要に応じて、以下に挙げる第二の錯化剤を、上記の錯化剤とともに用いてもよい。特に、金属間化合物を構成するカルコゲンがテルルである場合、第二の錯化剤を上記の錯化剤とともに用いることが好ましい。第二の錯化剤を用いる場合、その使用量は特に制限されず、所望の金属間化合物が製造できる限り、任意である。なお、第二の錯化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0037】
第二の錯化剤としては、例えば、カルボキシル基及び/又は水酸基を有し、水に可溶なものが挙げられる。第二の錯化剤の具体例としては、クエン酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、フタル酸、酸性アミノ酸、中性アミノ酸、塩基性アミノ酸等が挙げられる。中でも、第二の錯化剤は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸が好ましく、クエン酸が特に好ましい。
【0038】
(還元剤)
金属間化合物製造工程において用いられる還元剤は、後述する金属含有溶液に可溶なものであれば、任意である。還元剤の具体例としては、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物等の窒素化合物、水素化ホウ素ナトリウム等のホウ素化合物、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類、ギ酸及びその塩等のカルボン酸類、メタノール等のアルコール類等が挙げられる。中でも、還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物が好ましい。還元剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0039】
〔溶液中での接触〕
本発明の製造方法での金属間化合物製造工程においては、上記の遷移金属材料と、カルコゲン材料と、錯化剤と、還元剤とを溶液中で接触させることにより、金属間化合物を製造する。ここで、「溶液中で接触させる」とは、単一の溶液中に、これらの4つの成分を共存させることを表わす。従って、単一の溶液中でこれらの4つの成分を共存させて金属間化合物を製造する限り、各成分の混合順序、混合割合等の接触の条件に特に制限はない。ただし、本発明の製造方法おける金属間化合物製造工程においては、遷移金属材料と、カルコゲン材料と、錯化剤とを含む溶液(以下、適宜「金属含有溶液」と言う。)を、還元剤と接触させることにより、金属間化合物を製造することが好ましい。
【0040】
以下、金属間化合物製造工程において、金属含有溶液を、還元剤と接触させることにより、金属間化合物を製造することを例に、本発明の製造方法をより詳細に説明するが、本発明の製造方法は以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0041】
(金属含有溶液)
(溶媒)
金属含有溶液に用いられる溶媒は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は水又は有機溶媒が用いられる。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール等のアルコール類等が挙げられる。
中でも、溶媒は、金属含有溶液のpHを制御しやすいという観点から、水が好ましく、蒸留水を用いることが特に好ましい。
なお、溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0042】
溶媒の使用量も特に制限されず、所望の金属間化合物が製造できる限り、任意である。
【0043】
上記の溶媒に、上記の遷移金属材料、カルコゲン材料、及び錯化剤とを溶解させることにより、金属含有溶液を得ることが出来る。
【0044】
なお、金属間化合物の製造にあたり、還元剤により還元反応が進行する時点で、遷移金属材料、カルコゲン材料及び錯化剤が金属含有溶液中に完全に溶解し、析出のない均一な溶液となっていることが好ましい。
以上の点が達成出来れば、遷移金属材料、カルコゲン材料及び錯化剤を溶解、混合する方法は、特に制限されるものではない。例えば、遷移金属材料、カルコゲン材料、及び錯化剤を各々溶媒に溶解し、各々得られた溶液を混合してもよく、遷移金属材料、カルコゲン材料、及び錯化剤を先に混合し、これらをまとめて溶媒に溶解してもよい。
但し、金属含有溶液から遷移金属及びカルコゲンが析出することを防ぐために、溶媒に対する、遷移金属材料、カルコゲン材料、及び錯化剤の濃度、混合・溶解時の温度等を適切に選択することが望ましい。
【0045】
即ち、金属含有溶液中における遷移金属材料、カルコゲン材料、及び錯化剤の濃度を、それぞれ、遷移金属材料、カルコゲン材料、及び錯化剤の飽和溶解度以下の濃度とすることが望ましい。飽和溶解度は、遷移金属材料、カルコゲン材料、及び錯化剤の種類、溶媒の種類、溶解時の温度等により異なるため、それに応じて遷移金属材料、カルコゲン材料、及び錯化剤の濃度を選択すればよい。
【0046】
例えば、金属含有溶液における遷移金属材料の濃度は、遷移金属材料に含まれる遷移金属重量に換算した濃度で、通常0.001重量%以上、中でも0.005重量%以上、更には0.01重量%以上、また、通常10重量%以下、中でも5重量%以下、更には2重量%以下の範囲であることが好ましい。
また、カルコゲン材料の濃度も、上記の遷移金属材料の濃度範囲と同様の範囲にあることが好ましい。
【0047】
また、溶媒に溶解する遷移金属材料及びカルコゲン材料の量として、通常は、遷移金属材料に含まれる遷移金属及びカルコゲン材料に含まれるカルコゲンが、目的とする金属間化合物中の遷移金属及びカルコゲンの原子比と等しくなる量を混合する。
【0048】
錯化剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、錯化剤の使用量の比率は、遷移金属材料が有する遷移金属及びカルコゲン材料が有するカルコゲンに対して、通常は遷移金属及びカルコゲンに配位する量論比以上の量を用いる。
具体的には、錯化剤の使用量としては、量論比の通常1.0倍以上、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上、また、その上限は、通常10倍以下、中でも8倍以下、更には6倍以下、特に5倍以下の範囲が好ましい。錯化剤の使用量が少なすぎる場合、錯体を形成している遷移金属及びカルコゲンが少なく、また多すぎる場合、遷移金属及びカルコゲンに配位する錯化剤が極めて多くなり、その結果、本発明の触媒が担持できる遷移金属及びカルコゲンの量が減少する可能性がある。さらに、触媒の製造コストが増大する可能性もある。
【0049】
なお、金属含有溶液は、後述する還元反応を妨げない限り、上記の遷移金属材料、カルコゲン材料、錯化剤、及び溶媒に加え、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分は、例えば、遷移金属及びカルコゲン以外の原子を有する金属塩等が挙げられる。その他の成分は、1種を単独で含んでもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでもよい。
【0050】
(還元剤)
金属間化合物製造工程において、上記の金属含有溶液を、還元剤と接触させることにより、金属間化合物を製造することが出来る。
【0051】
還元剤の種類は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。中でも、上記の[1−1.金属間化合物製造工程]の〔成分〕の(還元剤)で説明したものを用いることが好ましい。
【0052】
還元剤の使用量も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、上記の金属含有溶液に含まれる全ての金属錯体を金属の単体に還元できる量を用いることが好ましい。
具体的には、金属含有溶液に含まれる、還元する全ての金属に対して、通常1倍当量以上であればよく、還元反応の効率を考慮すれば、好ましくは1.2倍当量以上、より好ましくは1.5倍当量以上、更に好ましくは2倍当量以上が望ましい。また、未反応物の後処理等を考慮すると、上限としては、通常1000倍当量以下、中でも500倍当量以下、更には300倍当量以下が好ましい。
【0053】
なお、還元剤として例えばヒドラジンを用いる場合、ヒドラジンを用いた還元反応においては、還元される金属の種類、pH等の条件により、還元反応が異なることが知られており、ヒドラジンの還元当量を一律で特定できない場合が多い。従って、本発明においては、ヒドラジン1モル当たり、2当量の金属を還元できるものとする。
【0054】
上記の金属含有溶液と上記の還元剤とを接触させる方法等の各種条件は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、接触させる方法として、通常は、上記の金属含有溶液と還元剤とを混合し、還元反応を行う。
【0055】
なお、金属含有溶液に還元剤を直接混合してもよいが、金属含有溶液に対する還元剤の混合及び溶解を容易にするために、還元剤を予め溶媒に溶解させ、還元剤を含む溶液(以下、適宜「還元剤溶液」と言う。)と金属含有溶液とを混合してもよい。
【0056】
この場合、溶媒としては、還元剤を溶解させることが可能なものであれば、その種類は制限されない。また、溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。ただし、還元剤溶液に用いられる溶媒は、通常、金属含有溶液に用いられる溶媒と同様の溶媒を用いる。
【0057】
還元剤溶液における還元剤の濃度、還元剤溶液の使用量等も特に制限されない。還元剤溶液と金属含有溶液とを混合した場合に、混合後の金属含有溶液中の還元剤の量が、上記範囲を満たすように、適宜調整すればよい。
【0058】
(還元反応)
金属間化合物製造工程において、上記の金属含有溶液と上記の還元剤とを接触させることにより、金属含有溶液に含まれる金属の還元反応を行う。
還元反応時の温度は、通常55℃以上、好ましくは70℃以上、また、通常金属含有溶液の沸点以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下の範囲である。温度が低過ぎる場合、還元力が弱すぎて目的の金属間化合物を得ることができない可能性があり、温度が高過ぎる場合、還元反応が速く進行しすぎる為、目的の金属間化合物以外が生成する可能性がある。
なお、以下の記載では、上記規定の温度範囲を「規定温度範囲」という。
【0059】
なお、還元反応を行う方法としては、例えば以下の二つの方法等が挙げられるが、何れの手順を用いてもよい。ただし、還元反応を行う方法は、以下の方法に限定されるものではない。
・還元剤を混合しても還元反応が進行しない程度の低い温度(上記規定温度範囲未満の温度を表わし、具体的には、通常常温(通常は25℃)以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは5℃以下。)において、金属含有溶液と還元剤及び/又は還元剤溶液とを混合し、その後に還元反応が進行するために十分な温度(上記規定温度範囲内の温度)まで昇温する手法。
・還元反応が十分に進行する温度(上記規定温度範囲内の温度)まで金属含有溶液を予め加熱しておき、その状態で金属含有溶液と還元剤及び/又は還元剤溶液とを混合して還元反応を開始する手法。
【0060】
還元反応を行う時間は、特に制限されないが、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、また、その上限は、通常20時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは10時間以下である。時間が短すぎる場合、金属溶液の金属単体への還元が不十分となる可能性があり、長すぎる場合、目的とする金属間化合物以外の組成となる可能性がある。
【0061】
また、還元反応時には、反応液(金属含有溶液に還元剤を混合した後の溶液)をアルカリ性に調整することが好ましい。具体的には、反応液のpHは、通常10以上、好ましくは12以上、更に好ましくは13以上とすることが望ましい。反応液のpHが低過ぎる(即ち、アルカリ性が弱過ぎる)と、ロジウム錯体等の遷移金属を含む錯体を形成できない可能性がある。
【0062】
反応液のpHを調整する手法は制限されないが、通常はpH調整剤を用いる。
pH調整剤としては、遷移金属材料に含まれる遷移金属及びカルコゲン材料に含まれるカルコゲンと配位しないか、或いは錯化剤による金属の錯体形成を阻害しないほどの配位の程度が低い化合物であれば、その種類は制限されない。
pH調整剤の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。中でも、塩酸、硝酸、水酸化ナトリウムが好ましい。
なお、pH調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0063】
pH調整剤を用いてpHを調整する方法は制限されない。還元反応が進行する前に、遷移金属及びカルコゲンが析出しない状態を保持したまま、反応液のpHを上記規定範囲内に調整することが出来ればよい。具体的には、例えば以下の方法が挙げられるが、何れであってもよい。また、pHを調製する方法は、以下の内容に限定されるものではない。
・遷移金属材料、カルコゲン材料及び錯化剤を、それぞれ別の溶媒に溶解して、それぞれの溶液を調製した後、当該溶液のpHをpH調整剤により個別に調整する。そして、pH調整後の各溶液を混合してpHを調整した金属含有溶液とし、当該金属含有溶液に還元剤を混合する。
・遷移金属材料、カルコゲン材料及び錯化剤を含む金属含有溶液を調製した後、当該金属含有溶液のpHをpH調整剤により調整し、当該金属含有溶液に還元剤を混合する。
・遷移金属材料、カルコゲン材料及び錯化剤を含む金属含有溶液を調製した後、還元反応が進行しない温度(上記規定温度範囲未満の温度)下で還元剤を混合し、この反応液のpHをpH調整剤により調整する。そして、還元反応が進行する温度(上記規定温度範囲内の温度条件)に反応液を加熱する。
【0064】
pH調整剤によるpHの調整は、1回で行なってもよいが、2回以上に分けて行なってもよい。
【0065】
上記のように、遷移金属材料と、カルコゲン材料と、錯化剤と、還元剤とを溶液中で接触させ、還元反応を行うことにより、金属間化合物を得ることが出来る。得られた金属間化合物は、そのまま用いてもよいが、必要に応じて分離、洗浄、乾燥、熱処理等の後処理を行ってもよい。なお、後処理は、1種を単独で行ってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行ってもよい。
【0066】
得られた金属間化合物を反応液から分離する方法としては、限定されるものではないが、例えば濾紙、濾布等を用いた濾過法、遠心分離、沈降分離(デカンテーション等)等が挙げられる。中でも、通常は濾過法が採用される。これらの手法は何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせで用いてもよい。
【0067】
分離された金属間化合物を洗浄する場合、洗浄に用いる溶剤(洗浄溶剤)としては、金属間化合物と反応を生じるもの、金属間化合物の用途(触媒等の用途)に好ましからぬ影響を与えるものでない限り、限定されるものではない。ただし、洗浄溶剤として、通常は上記の金属含有溶液に用いた溶媒と同種の溶媒が用いられる。なお、洗浄溶剤は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0068】
分離(及び/又は洗浄)後の金属間化合物を乾燥する場合、乾燥時の圧力は制限されるものではなく、常圧(1気圧)でも、減圧(又は真空)でも、加圧でもよいが、通常は、常圧付近(常圧又は多少の加減圧)の条件下で乾燥を行なう。
【0069】
乾燥方式としては、オーブン等の静置式乾燥、キルン、ロータリーエバポレーター等の回転式乾燥、固定床気流乾燥、流動床乾燥、スプレードライヤー等の噴霧乾燥、ベルト炉等の移送型乾燥等が挙げられるが、何れを用いてもよい。また、乾燥方式は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせで用いてもよい。
【0070】
乾燥方式の選定は処理量等に応じて決定されるが、何れの乾燥方式を用いる場合でも、ガスを流通させながら乾燥させることが望ましい。
【0071】
乾燥時に流通させるガスとしては、限定されるものではないが、経済的観点から、通常は空気、窒素等が使用される。また、例えば金属間化合物に対して水素処理を行なう場合、乾燥時に流通させるガスに水素を混合してもよい。ここで、「水素処理」とは、金属間化合物の還元が不十分であったり、表面酸化物が残存していたりする可能性を考慮して行う、追還元反応のことを表す。
【0072】
一方、乾燥後に水素処理をすることなく金属間化合物を所望の用途に用いる場合、流通させるガスとしては、不活性ガスが好ましく、経済的観点からは窒素が好ましい。なお、流通させるガスは、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
また、高速に乾燥を行う観点からは、過熱水蒸気の流通下で乾燥を行なうことも好ましい。
【0073】
乾燥時の温度も特に制限されない。例えば、残留する溶媒又は洗浄溶剤の融点以下で乾燥する凍結乾燥、残留する溶媒又は洗浄溶剤の融点から常温(通常は25℃)までの温度で乾燥する低温乾燥又は常温乾燥、常温(通常は25℃)よりも高い温度で残留する溶媒又は洗浄溶剤の蒸気圧を高める加熱乾燥等が挙げられる。ただし、通常は加熱乾燥が用いられ、乾燥温度は通常40℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、また、その上限は、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下である。流通させるガスが過熱水蒸気以外の場合には、急激な突沸を防ぐ観点から、残留する溶媒又は洗浄溶剤の沸点以下の温度で処理される。
【0074】
さらに、金属間化合物に対して、熱処理を施してもよい。熱処理を施すことにより、金属間化合物の結晶化が促進されるという利点が得られる。
金属間化合物に熱処理を行なう場合、熱処理の方式としては、例えばオーブン等の静置式、キルン、ロータリーエバポレーター等の回転式、固定床、流動床、ベルト炉等の移送式等が挙げられるが、何れを採用してもよい。また、熱処理の方式は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせで用いてもよい。
【0075】
熱処理の方式の選定は、例えば処理量等に応じて決定されるが、何れの方式を用いる場合でも、ガスを流通させながら熱処理を行うことが好ましい。
【0076】
流通させるガスとしては、限定されるものではないが、中でも酸素を含まないガスが好ましい。具体的には、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、水素等が挙げられる。これらのガスは何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。中でも、流通させるガスとしては、窒素又は水素を単独で、又は混合物として用いることが好ましい。
【0077】
熱処理の温度も特に制限されないが、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは300℃以上である。
また、その上限は、通常は金属間化合物の融点以下であればよいが、高過ぎると金属間化合物がシンタリングにより大きくなり、金属表面積が低下することによって、得られた金属間化合物を触媒用途に使用した場合における触媒活性が低下する場合がある。従って、触媒の活性を向上させる観点からは、熱処理の温度の上限は、通常800℃以下、中でも600℃以下、更には500℃以下が好ましい。
【0078】
〔金属間化合物〕
上記の操作により、金属間化合物が得られる。ここで、本発明における「金属間化合物」とは、2種以上の金属元素又は半金属元素が簡単な整数比で結合したものを含む化合物であり、成分金属元素と異なる特有の物理的・化学的性質を示す化合物をいう。中でも、2種以上の金属元素又は半金属元素が簡単な整数比で結合したもののみからなる化合物が、顕著な性質を有するため好ましい。
【0079】
また、本発明における金属間化合物は、遷移金属及びカルコゲンを含むものであれば、特定の構造に限定される事はない。
【0080】
ここで、本発明における金属間化合物は、例えばアモルファス合金、コロイド粒子等ではない点に留意すべきである。例えば、Journal of Phase Equilibria, 12(1), 1991には、遷移金属としてロジウム、及びカルコゲンとしてテルルを含む金属間化合物として、例えばRhTe、RhTe0.9、RhTe、RhTe、RhTe等が示されている。
【0081】
このように、本発明における金属間化合物中の遷移金属に対するカルコゲンのモル比(即ち、カルコゲンの物質量/遷移金属の物質量)が、通常0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、また、その上限は、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは5以下である。モル比が小さすぎる場合、又は大きすぎる場合のいずれの場合でも、所望の金属間化合物が形成されない可能性がある。
【0082】
本発明における金属間化合物の形状は、特に制限されるものではないが、通常は、平均粒径1nm以上100nm以下程度の一次粒子が凝集して二次粒子を形成した凝集体粒子である。これは、粒子表面が保護基によって覆われているコロイド粒子とは全く異なる形状である。 また、本発明における金属間化合物の粒径は、通常2nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは8nm以上、また、その上限は、通常30nm以下、好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下であることが望ましい。粒径が小さすぎる場合、熱処理によって容易にシンタリングする可能性があり、大きすぎる場合、触媒活性が低下する可能性がある。
【0083】
本発明における金属間化合物は、遷移金属及びカルコゲンを含むものであるが、遷移金属及びカルコゲン以外に、他の原子を含んでいてもよい。含まれていてもよい他の原子としては、例えば、アンチモン、ビスマス、砒素、スズ、ガリウム、等が挙げられる。中でも、本発明における金属間化合物は、アンチモン、ビスマス、砒素、スズを含むことが好ましく、アンチモン、ビスマスを含むことがより好ましく、アンチモンを含むことが特に好ましい。他の原子は、1種を単独で含んでもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでもよい。
【0084】
[1−2.担持工程]
本発明の製造方法が有する担持工程(以下、適宜「本発明の担持工程」と言う。)は、ゾルゲル法により、金属間化合物を担体に担持することにより、本発明の触媒が得られるものである。
【0085】
(金属間化合物)
本発明の担持工程において用いられる金属間化合物は、遷移金属及びカルコゲンを含むものである限り、任意である。ただし、金属間化合物は、上記の金属間化合物製造工程により得られた金属間化合物を用いることが好ましい。金属間化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0086】
(担体)
金属間化合物を担持する単体は、本発明の効果が著しく損なわれない限り任意である。担体の具体例としては、多孔体、フィルム、ファインパーティクル等が挙げられる。中でも、担体は、多孔体であることが好ましい。
【0087】
多孔体の具体例としては、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al23)、二酸化チタン(TiO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)等の無機多孔体;ポリウレタン、アクリル樹脂等の有機多孔体;等が挙げられる。多孔体の中でも、無機多孔体が好ましく、無機多孔体の中でも、二酸化ケイ素(SiO2)がより好ましい。担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせでも用いてもよい。
【0088】
(ゾルゲル法)
本発明の製造方法において、上記の金属間化合物を担体に担持する方法としては、ゾルゲル法が用いられる。ここで、「ゾルゲル法」とは、例えば担体に含まれる金属を有する有機金属化合物及び/又は無機金属化合物等(以下、適宜「担体金属含有有機/無機化合物」と言う。)を加水分解、重縮合させることによって微粒子(ゾル)を作製し、その後重縮合反応、微粒子の凝集を進行させて金属酸化物ゲルを調製する方法である。担体金属含有有機/無機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0089】
具体的には、例えば、金属アルコキシドを用いる方法であり、担体に含まれる金属を「M」と表わした場合、金属アルコキシドは、M(OR)で表わされる。金属アルコキシドを加熱すると、脱エーテル反応により、(OR)m−1−M−O−M−(OR)m−1で表わされる、−M−O−M−結合を有する化合物(ゾル)が形成される。なお、Rは、任意の有機基を表わす。そして、得られた化合物(ゾル)から、最終的に架橋構造を有する化合物(ゲル)が得られる。
【0090】
以上のような担体の微粒子(ゾル)を調製する過程に該金属間化合物を存在させることによって金属担持固体触媒(即ち、本発明の触媒)が得られる。
【0091】
[1−3.担持工程の好ましい実施形態]
以下、担持工程の詳細を、例を挙げて、より具体的に説明する。ただし、本発明の製造方法においては、上記のゾルゲル法により、上記の金属間化合物を上記の担体に担持する限り、その条件等は任意である。従って、以下に記載する方法は、担持工程の一例であり、本発明の製造方法は以下の内容に限定されるものではない。
【0092】
本例の担持工程においては、通常は以下に記載する方法により、触媒を製造する。
(1)担体金属含有有機/無機化合物を該溶媒に溶解させて均一な溶液を調製する(金属溶液調製工程)。
(2)前記担体金属含有有機/無機化合物を含む溶液を該金属間化合物の存在下で加水分解、重縮合させ、該金属間化合物を含むゾル化溶液とする(ゾル製造工程)。
(3)前記ゾル化溶液の重縮合反応、ゾルの凝集を進行させることにより、該金属間化合物を含むゲル化溶液を形成させる(ゲル製造工程)。
(4)前記ゲル化溶液に、加熱処理、還元処理を施すことにより、該金属間化合物を含む本発明の触媒を得る(加熱還元工程)。
【0093】
〔1.金属溶液調製工程〕
金属溶液調製工程においては、担体金属含有有機/無機化合物を溶媒に溶解して金属溶液を調製する。
【0094】
(溶媒)
金属溶液調製工程において用いられる溶媒は、上記の担体金属含有有機/無機化合物を溶解して、溶液中に均一に分散させることができれば、特に限定されないが、好ましくは極性溶媒である。極性溶媒の中でも、溶媒は配位能を有するものが好ましく、具体的には水、アルコール類が好ましい。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0095】
(溶媒の使用量)
担体金属含有有機/無機化合物を溶解する溶媒の使用量は、担体金属含有有機/無機化合物を溶解できる量である限り、特に制限されない。ただし、溶媒の使用量としては、担体金属含有有機/無機化合物1gに対して、通常0.1mL以上、好ましくは0.5mL以上、より好ましくは1mL以上、また、その上限は、通常1000mL以下、好ましくは500mL以下、より好ましくは250mL以下であることが望ましい。溶媒の量が少なすぎる場合、均一なゾルが得られない可能性があり、多すぎる場合、後述のゲル化工程の進行速度が著しく減少する可能性がある。
【0096】
また、金属溶液は、本発明の効果を著しく損なわない限り、その他の成分を含んでもよい。
【0097】
〔2.ゾル製造工程〕
ゾル製造工程においては、上記の金属溶液を上記金属間化合物存在下で加水分解し、重縮合させることによって、ゾル化溶液とする
【0098】
(加水分解と重縮合)
加水分解と重縮合とは、例えば金属溶液に酸またはアルカリを加えても良いし、所望の温度に加熱してもよい。また2つを同時に行ってもよい。
ここで、「所望の温度」とは、通常は金属溶液から担体金属酸化物を含むゾルを形成させるための温度を表わす。具体的には、温度が、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、その上限は、通常100℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。温度が低すぎる場合、ゾルの生成速度が遅く、ゾルの凝集速度よりもゾルの粒子成長速度が大きくなってしまう可能性があり、その結果、担体金属酸化物の粒子径が大きくなって多孔体が得られない可能性がある。一方、温度が高すぎる場合、ゾルの生成速度が速く、不均質なゲルが得られる可能性がある。さらに、温度が〔2.ゾル製造工程〕で用いられる溶媒等の各成分の沸点を越える場合、反応中に溶媒等の各成分が蒸発する可能性もある。
【0099】
また、上記の加水分解及び重縮合は、上記の金属間化合物の存在下行うものである。従って、金属間化合物は、上記加水分解及び重縮合を行う前に金属溶液に混合されていてもよいし、加水分解及び重縮合中の金属溶液(即ち、加水分解及び重縮合後のゾル化溶液)に混合されてもよい。さらに、混合は一回で行ってもよく、二回以上に分けて行ってもよい。加水分解及び重縮合の前及び最中に金属間化合物を金属溶液に混合する場合、その具体的な混合の時期も、本発明の触媒が得られる限り、特に制限されない。
【0100】
なお、ゾル化を行う時間は、本発明の効果が著しく損なわれない限り、特に制限されない。
【0101】
また、ゾル化溶液は、本発明の効果が著しく損なわれない限り、その他の成分を含んでもよい。
【0102】
〔3.ゲル製造工程〕
本工程においては、上記ゾル化溶液から、重縮合反応、及びゾルの凝集により生ずる架橋構造を有する、該金属間化合物を含むゲル化溶液を形成させる。
【0103】
ゲル化反応を行う際の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、その上限は、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下である。上記の加水分解と重縮合との温度と同様に、温度が低すぎる場合、ゾルの凝集速度が遅く、ゾルの凝集速度よりもゾルの粒子成長速度が大きくなる可能性があり、その結果、担体金属酸化物の粒子径が大きくなって多孔体が得られない可能性がある。また、温度が高すぎる場合、ゾルの凝集速度が速く、不均質なゲルが得られる可能性がある。
【0104】
なお、ゲル化を行う時間は特に制限されない。ただし、ゲル化溶液を完全にゲル化させるために、通常10時間以上、好ましくは12時間以上、より好ましくは20時間以上、また、その上限は、通常100時間以下、好ましくは90時間以下、より好ましくは80時間以下、ゲル化を行った温度下で保持することが好ましい。
【0105】
また、ゲル化溶液は、本発明の効果を著しく損なわない限り、その他の成分を含んでもよい。
【0106】
〔4.加熱還元工程〕
本工程においては、上記ゲル化溶液に、加熱処理、還元処理を行うことにより、該金属間化合物を含む固体状態の本発明の触媒を得る。
【0107】
ゲル化溶液を加熱する前に、通常はゲル化溶液を乾燥させる。具体的には、ゲル化溶液を通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、また、その上限は、通常400℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下に加熱し、乾燥させることにより、ゲル乾燥物が得られる。この時、加熱時間は、通常10時間以上、好ましくは12時間以上、より好ましくは20時間以上、また、その上限は、通常100時間以下、好ましくは90時間以下、より好ましくは80時間以下であることが望ましい。また、乾燥は常圧(1気圧)下、減圧下のいずれでも行うことができる。また、乾燥方式も、公知の任意のものを用いることが出来るが、例えば、[1−1.金属間化合物製造工程]に記載した乾燥方式を用いることが出来る。
【0108】
上記ゲル乾燥物は粉砕して粉体として利用してもよく、成型して利用してもよい。当該ゲル乾燥物を成型する場合にはゲル化と同時に気相造粒、オイルドロップ等の方法によって成型してもよく、粉砕したものをバインダーを用いて、あるいはそのまま成型してもよい。粉砕の程度、粉砕方法、粉砕物の形状等の各種条件は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に決定できる。例えば、粉砕物が球状である場合、粉砕後のゲル乾燥物の平均粒径が、通常100nm以上、好ましくは200nm以上、より好ましくは500nm以上、また、その上限は、通常1mm以下、好ましくは0.8mm以下、より好ましくは0.5mm以下となるように粉砕することが好ましい。平均粒径が小さすぎる場合、例えばゲル乾燥物を固定床反応器で用いる場合には差圧が大きくなり、懸濁床で用いる場合には分離が困難となる可能性があり、大きすぎる場合、成型しにくくなる可能性がある。
なお、平均粒径は、例えば、レーザー散乱分析、レーザー回折等の手法によって測定することができる。
【0109】
粉砕装置は、公知の任意のものを用いることが出来るが、例えば、スクリーンミル、ボールミル等を用いることが出来る。また、粉砕の時間も、所望の平均粒径を有する程度まで行えばよい。
【0110】
粉砕したゲル乾燥物(ゲル粉砕物)を加熱処理に供する際の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、また、その上限は、通常800℃以下、好ましくは700℃以下、より好ましくは600℃以下である。温度が低すぎる場合、上記金属間化合物の結晶性が低くなる可能性があり、高すぎる場合、上記金属間化合物がシンタリングする可能性がある。
【0111】
また、加熱処理時の雰囲気は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は窒素である。また、例えばヘリウム、アルゴン、水素、水蒸気等の雰囲気下あるいは、該金属間化合物の酸化物が生成しない範囲で空気、酸素等の雰囲気で加熱処理を行ってもよい。加熱処理時の雰囲気は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよく、処理を繰り返し行ってもよい。
加熱処理の方式も本発明の効果を著しく損なわない限り任意に決定できるが、例えば、[1−1.金属間化合物製造工程]に記載した熱処理の方式を用いることが出来る。
【0112】
上記の加熱処理後のゲル粉砕物又は成型物に対して還元処理を行って、本発明の触媒を得る。本発明の効果が著しく損なわれない限り、還元処理の方法に特に制限はないが、通常は水素ガスを用いて、ゲル粉砕物または成型物の還元を行う。より具体的には、水素ガスを流通させ、ゲル粉砕物または成型物を還元することが好ましい。
【0113】
水素ガスを流通させて還元処理を行う場合、水素ガスの流通量に特に制限はない。ただし、水素ガスの使用量としては、全てのゲル粉砕物又は成型物を還元できる量を用いることが好ましい。
【0114】
[1−4.その他の工程]
本発明の製造方法は、担持工程を有するとともに、必要に応じて金属間化合物製造工程を有することもできる。さらに、本発明の製造方法は、担持工程、金属間化合物製造工程以外のその他の工程を有していてもよい。なお、その他の工程は1種を単独で有していてもよく、2種以上を任意に組み合わせて有していてもよい。
【0115】
その他の工程の具体例としては、還元反応を行う工程、洗浄工程、乾燥工程等が挙げられる。
【0116】
その他の工程を行う際の各種条件は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に決定できる。例えば、その他の工程として、還元反応を行う工程、洗浄工程、乾燥工程等を行う際の条件は、例えば、[1−1.金属間化合物製造工程]において説明した内容を適用することができる。
【0117】
[1−5.本発明の製造方法の利点]
本発明の製造方法は、遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物を担体に担持してなる触媒の製造方法であって、ゾルゲル法により、該金属間化合物を該担体に担持する担持工程を有するものである。本発明の製造方法により得られる触媒は、触媒を用いた反応中、触媒活性成分の金属が反応溶媒にほとんど溶出しないことから、長時間高い触媒活性を保持できるという利点を有する。従って、本発明の触媒を用いて、例えばカルボン酸エステル等を製造する際、触媒が反応中にほとんど分解しないことから、高い収率でカルボン酸エステル等を製造することが出来る。
また、本発明の製造方法は、例えば、任意の遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物を多孔体に担持できるという利点も得られる。
【0118】
また、本発明の製造方法によれば、効率的に遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物を担体に担持してなる触媒を製造できる。具体的には、収率は、通常50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上となる。
なお、本明細書において、金属間化合物に含まれる遷移金属及びカルコゲンの全てを含む触媒が得られた時に、収率が100%であるとする。従って、得られた触媒に含まれる遷移金属及びカルコゲンの量を測定し、原料である金属間化合物に含まれていた遷移金属及びカルコゲンの量と比較することにより、上記の収率を算出することが出来る。この際、金属間化合物及び触媒に含まれる遷移金属及びカルコゲンの量は、例えば、蛍光X線、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)、重量分析等の方法を用いて測定することができる。
【0119】
[2.本発明の触媒]
本発明の触媒は、本発明の製造方法により、製造されたものである。
【0120】
[2−1.物性]
(組成)
本発明の触媒は、少なくとも、遷移金属、カルコゲン及び担体金属を含む。遷移金属及びカルコゲンの合計含有量は、触媒重量に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、また、その上限は、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下であることが望ましい。含有量が少なすぎる場合、該金属間化合物が多孔体内部に取り込まれる可能性があり、多すぎる場合、ゲル化工程において均質なゲルが得られない可能性がある。
【0121】
また、担体金属の含有量は、触媒重量に対して、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、また、その上限は、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下であることが望ましい。含有量が少なすぎる場合、該金属間化合物の分散性が低くなる可能性があり、多すぎる場合、該金属間化合物が多孔体内部に取り込まれる可能性がある。
【0122】
(平均粒径)
本発明の触媒の形状は、通常は球状である。従って、本発明の触媒の平均粒径は、通常100nm以上、好ましくは200nm以上、より好ましくは500nm以上、また、その上限は、通常20mm以下、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。平均粒径が小さすぎる場合、例えば触媒を固定床反応器で用いる場合に差圧が大きくなり、また、懸濁床で用いる場合に分離が困難となる可能性がある。また、大きすぎる場合、固定床反応器で用いる場合に槽高が高くなることで必要な反応器の体積が大きくなり建設費が増大する可能性がある。
なお、平均粒径は、例えば、[1−3.担持工程の好ましい実施形態]に記載の方法に従って、測定することができる。
【0123】
触媒が有する細孔の容積は、水銀圧入法によって測定した値で、通常0.1cm/g以上、好ましくは0.2cm/g以上、より好ましくは0.3cm/g以上、また、その上限は、通常10cm/g以下、好ましくは通常5cm/g以下、より好ましくは通常2cm/g以下である。細孔容積が小さすぎる場合、細孔表面に存在する該金属間化合物量が少なくなる可能性があり、大きすぎる場合、触媒強度が低下する可能性がある。なお、細孔容積は、例えば、BET法、水銀圧入法等の方法に基づいて測定できる。
【0124】
また、触媒の比表面積は、BET法によって測定した値で、通常10m/g以上、好ましくは20m/g以上、より好ましくは30m/g以上、また、その上限は、通常1500m/g以下、好ましくは通常1200cm/g以下、より好ましくは通常1000m/g以下である。比表面積が小さすぎる場合、細孔表面に存在する該金属間化合物量が少なくなる可能性があり、大きすぎる場合、触媒強度が低下する可能性がある。なお、比表面積は、例えば、BET法、水銀圧入法等の方法に基づいて測定できる。
【0125】
[2−2.本発明の触媒の利点]
本発明によれば、触媒を用いた反応中に触媒活性成分の金属が触媒から溶出し難く、経時劣化が小さい触媒を提供することが出来る。具体的には、触媒からの触媒活性成分の金属の溶出量は、触媒1gあたり、通常1mg以下、好ましくは0.5mg以下、より好ましくは0.2mg以下である。溶出量が多すぎる場合、触媒が即座に失活する可能性がある。
【0126】
また、本発明の触媒は、その用途によって異なるため一概には言えないが、通常高い触媒活性を有する。例えば、本発明の触媒を後述するようなカルボン酸エステルの製造反応に用いる場合、触媒活性は、触媒1gあたりに触媒活性成分の金属が1重量%存在するときの単位時間当たりの生成物の物質量で規定し、通常1ミリモル/{(g−触媒)・時間}以上、好ましくは2ミリモル/{(g−触媒)・時間}以上、より好ましくは3ミリモル/{(g−触媒)・時間}以上である。触媒活性が小さすぎる場合、工業用触媒として利用できない可能性がある。
【0127】
[2−3.本発明の触媒の用途]
本発明の触媒は、様々な反応に用いることが出来る。例えば、カルボン酸エステル製造反応、ニトリル製造反応、エーテル製造反応等の酸化的アニオン付加反応が挙げられる。中でも、本発明の触媒は、カルボン酸エステルの製造反応に用いることが好ましい。本発明の触媒を用いることにより、高選択的にカルボン酸エステルが得られ、かつ触媒活性成分の金属の溶出が少ないという利点が得られる。
【0128】
[3.本発明の触媒を用いた好ましい反応の態様]
以下、本発明の触媒を用いた反応として、カルボン酸エステルの製造反応(即ち、製造方法)を例に具体的に説明する。ただし、上記のように、本発明の触媒は、カルボン酸エステルの製造反応以外にも用いることができ、また、本発明の触媒を用いたカルボン酸エステルの製造方法が以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0129】
本発明におけるカルボン酸エステルの製造方法(以下、適宜「本発明の反応」と言う。)は、本発明の触媒の存在下、不飽和炭化水素、カルボン酸及び酸素求核剤を反応させ、カルボン酸エステルを製造する工程(以下、適宜「カルボン酸エステル製造工程」と言う。)を有するものである。不飽和炭化水素、カルボン酸及び酸素求核剤を反応させる方法は任意であり、気相反応、液相反応のいずれに対しても適用可能であるが、本発明の反応においては、不飽和炭化水素及びカルボン酸を含む溶液を、酸素求核剤を含有する気体を用いて、液相下で本発明の触媒と接触させることが好ましい。
【0130】
以下の記載においては、本発明の触媒の存在下、不飽和炭化水素及びカルボン酸を含む溶液を、酸素求核剤を含有する気体を用いて、液相下で本発明の触媒と接触させることにより、カルボン酸エステルを製造することを例に、本発明の反応を説明する。
【0131】
[3−1.カルボン酸エステル製造工程]
本工程においては、本発明の触媒の存在下、不飽和炭化水素及びカルボン酸を含む溶液を、酸素求核剤を含有する気体を用いて、液相下で本発明の触媒と接触させることにより、カルボン酸エステルを製造する。中でも、カルボン酸エステルとして、カルボン酸ジエステルを製造することが好ましく、不飽和グリコールのカルボン酸ジエステルを製造することがより好ましい。
【0132】
(不飽和炭化水素)
本発明の反応において用いられる不飽和炭化水素は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。不飽和炭化水素として、脂肪族不飽和炭化水素、芳香族不飽和炭化水素が挙げられるが、中でも脂肪族不飽和炭化水素が好ましい。
脂肪族不飽和炭化水素が有する二重結合の数は、通常1以上、好ましくは2以上、また、その上限は、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下であることが望ましい。二重結合の数が少なすぎる場合、反応速度が遅くなる可能性があり、多すぎる場合、副生成物の量が多くなる可能性がある。
中でも、脂肪族不飽和炭化水素が有する二重結合は、2個であることがさらに好ましく、当該2個の二重結合が共役していることが特に好ましい。即ち、本発明において用いられる不飽和炭化水素は、共役ジエンであることが特に好ましい。
【0133】
また、不飽和炭化水素が有する炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、不飽和炭化水素が有する炭素数は、通常2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、また、その上限は、通常50以下、好ましくは30以下、より好ましくは20個以下であることが望ましい。炭素数が少なすぎる場合、反応速度を上げるために高い圧力が必要となる可能性があり、多すぎる場合、液相下で反応を行う場合に粘度が高くなり、反応溶液の攪拌効率が減少する可能性がある。
【0134】
また、不飽和炭化水素は、置換基を有していても良い。置換していてもよい置換基の具体例としては、アルキル基、アリール基、エステル基、ヒドロキシル基、等が挙げられる。中でも、置換基は、アルキル基、アリール基、エステル基が好ましく、アルキル基、エステル基がより好ましく、アルキル基が特に好ましい。なお、置換基は1個が単独で置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0135】
さらに、不飽和炭化水素は、本発明の効果を著しく損なわない限り、三重結合も有していてよい。そして、不飽和炭化水素は、直鎖であってもよく、分岐を有していてもよい。また、不飽和炭化水素は、鎖状であってもよく、環状であってもよい。
【0136】
以上の観点から、不飽和炭化水素の具体例としては、ブタジエン、アルキル置換ブタジエン(例えばイソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチルブタジエン等。)、ピペリレン(例えば1,3−ペンタジエン等)、1,4−ヘキサジエン、環状共役ジエン(例えばシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等)等の共役ジエン;エチレン、プロピレン等のオレフィン;1−ブテン−3−イン等のエンイン化合物;等が挙げられる。中でも、ブタジエン、ピペリレン、アルキル置換ブタジエンが好ましい。なお、不飽和炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0137】
本発明の反応において、不飽和炭化水素は必ずしも純粋である必要はなく、例えば窒素ガス等の不活性ガス、メタン、エタン、ブタン等の飽和炭化水素、ブテン等の不飽和炭化水素等、その他の成分を含むものであってもよい。但し、その他の成分を含む場合、その他の成分の含有量は以下に記載する範囲内であることが好ましい。具体的には、反応に関与する不飽和炭化水素及びその他の成分に対する、反応に関与する不飽和炭化水素の割合が、通常10重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
【0138】
(カルボン酸)
本発明の反応において用いられるカルボン酸は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、例えば、脂肪族カルボン酸、脂環族カルボン酸、芳香族カルボン酸等が用いられる。
【0139】
カルボン酸が有する炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、カルボン酸が有する炭素数は、通常1個以上、好ましくは2以上、また、その上限は、通常50以下、好ましくは40以下、より好ましくは30以下であることが望ましい。炭素数が多すぎる場合、反応速度が低下する可能性がある。
【0140】
また、カルボン酸が有するカルボキシル基の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、1つであることが好ましい。
【0141】
以上の観点から、カルボン酸の具体例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸等の炭素数4以下の低級脂肪族カルボン酸;マレイン酸、フマル酸、コハク酸等のジカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸等の多価カルボン酸;等が挙げられる。中でも、工業的な観点から、カルボン酸としては、炭素数4以下の低級脂肪族モノカルボン酸を用いることが好ましく、反応性及び価格の点から、酢酸がより好ましい。カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0142】
カルボン酸は、通常、本発明の反応における反応液を構成する溶媒としても用いられる。ただし、必要に応じて、例えば飽和炭化水素、エステル等の反応に関与しない有機溶媒等の溶媒を反応溶液の一部として用いてもよい。但し、反応液中、カルボン酸の濃度は、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上であることが望ましい。カルボン酸の量が少なすぎる場合、反応速度が著しく低下する可能性がある。
【0143】
カルボン酸の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、カルボン酸は、不飽和炭化水素に対して、通常2倍モル以上、好ましくは5倍モル以上、より好ましくは10倍モル以上、また、その上限は、通常1000倍モル以下、好ましくは500倍モル以下、より好ましくは100倍モル以下用いることが好ましい。カルボン酸の量が少なすぎる場合も多すぎる場合も、反応速度が著しく低下する可能性がある。
【0144】
(酸素求核剤)
本発明の反応において、酸素求核剤は、不飽和結合部位に対して酸化的付加反応を行うものである。酸素求核剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることが出来る。酸素求核剤の具体例としては、分子状酸素、過酸化水素、酸素ラジカル、ヒドロキシラジカル等が挙げられるが、本発明の反応においては、酸素求核剤として分子状酸素を用いることが好ましい。酸素求核剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。ここで、「分子状酸素」とは、2個の酸素原子が共有結合した酸素分子のことを表す。
【0145】
従って、本発明の反応においては、分子状酸素を含有する気体を用いることが好ましい。ここで、「分子状酸素を含有する気体」とは、純酸素又は酸素と不活性気体との混合気体が好ましい。不活性気体としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。また、混合気体には、空気も含まれる。
【0146】
例えば、酸素求核剤として分子状酸素を用いる場合、分子状酸素は、任意の混合比率にて分子状酸素と不活性気体とを混合した混合気体として、大気圧下又は加圧下で反応系に供給することができる。ただし、この時、反応系内の気相部における酸素濃度が、爆発組成とならない範囲が好ましい。具体的には、反応系内の気相部における酸素濃度が、例えば60kgf/cm、80℃の場合、通常10体積%以下、好ましくは8体積%以下、より好ましくは6体積%以下であることが望ましい。
【0147】
通常、酸化的付加反応等の酸化反応は、酸素分圧が高い程反応速度的に有利なので、その限定された範囲内で安全率を考慮した最大濃度で反応系に供給することがより好ましい。
【0148】
また、反応系内の酸素分圧は、例えば、反応系に供給する酸素濃度、反応系中の組成及び反応圧力、温度等により決定される。
【0149】
本発明の反応に用いられる酸素求核剤の量は、酸素求核剤の種類によって一概には言えないが、不飽和炭化水素が有する全ての二重結合に対して半分以上のモル量の酸素原子を用いることが好ましい。具体的には、例えば酸素求核剤が分子状酸素である場合、分子状酸素の使用量は、不飽和炭化水素が有する不飽和結合の量に対して、通常0.5倍モル以上、好ましくは0.7倍モル以上、より好ましくは1倍モル以上、また、その上限は、通常10倍モル以下、好ましくは7倍モル以下、より好ましくは5倍モル以下であることが望ましい。分子状酸素の量が少なすぎる場合、反応速度が著しく低下する可能性があり、多すぎる場合、原料である不飽和炭化水素または生成物であるカルボン酸エステルの燃焼が促進される可能性がある。
【0150】
本発明の反応は、回分式、連続式の何れの方法でも行なうことができ、また、これらの2つを組み合わせて行うこともできる。
【0151】
また、反応方式としては、例えば固定床式、流動床式、懸濁槽式等、任意の方式を採用することができるが、工業的には固定床式がより好ましい。反応方式も、1種を単独で採用してもよく、2種以上を任意に組み合わせて採用してもよい。
【0152】
反応温度は、通常20℃以上の温度で行なうことが可能であるが、反応速度及び副生物の生成等を考慮すると、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上、また、その上限は、通常120℃以下、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下の温度で行なうことが好ましい。
また、反応圧力は、常圧(1気圧)、加圧の何れも可能である。反応速度を高めるためには、加圧の方が好ましいが、反応設備経費が高くなる傾向がある。それらを考慮すると、反応圧力は、通常常圧(1気圧)以上、好ましくは10kgf/cm2以上、より好ましくは20kgf/cm2以上、また、その上限は、通常150kgf/cm2以下、好ましくは120kgf/cm2以下、より好ましくは100kgf/cm2以下の範囲である。
【0153】
本発明の触媒の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、本発明の触媒の使用量としては、例えば流通反応では不飽和炭化水素1モル/時間に対して、通常0.1g・時間/モル以上、好ましくは0.2g・時間/モル以上、より好ましくは0.5g・時間/モル以上、また、その上限は、通常10g・時間/モル以下、好ましくは5g・時間/モル以下、より好ましくは1g・時間/モル以下であることが望ましい。触媒の使用量が少なすぎる場合、生成物が検出不可能となる可能性があり、多すぎる場合、含有金属量の増加によって触媒製造コストが増大する可能性がある。
【実施例】
【0154】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施例により限定されるものではない。
【0155】
[1.実施例]
(触媒の調製)
蒸留水に対して0.19ミリモルの塩化ロジウム、及び、0.38ミリモルの1,3−ジヒドロキシ−4−(2−ピリジルアゾ)ベンゼン(1,3−dihydroxy−4−(2−pyridylazo)benzene:略称PAR:分子式C11)を加え、更に水酸化ナトリウムを加えてpHを13に調整することにより、塩化ロジウムとPARとを溶解させ、ロジウム含有溶液8mLを調製した。この溶液をA溶液とする。
【0156】
また、別の蒸留水に対して、0.5ミリモルのクエン酸を加えて溶解させた後、0.13ミリモルのテルル酸を加えて溶解させ、テルル含有溶液1mLを調製した。この溶液をB溶液とする。
【0157】
次に、A溶液とB溶液とを混合し、混合して得られた溶液に蒸留水と水酸化ナトリウムとを加えてpHを13に調整し、全量を10mLとした。その後、十分な時間をかけて混合し、更にヒドラジン一水和物1mLを加え、70℃で3時間還元した。
【0158】
還元することにより得られた黒色粉末を含む溶液に、水ガラス3号10mLを加えた後、4規定硫酸を15mL加えてゲル化させ、得られたゲルを水洗し、窒素気流下(30NL/時間)、内温が90℃に到達するまで加熱し、90℃に到達してから1時間保温し、その後、150℃まで昇温して2時間乾燥させた。そして、水素気流下(12NL/時間)、0.5時間かけて400℃まで昇温し、この温度で1時間還元することで、触媒を得た。
【0159】
得られた触媒の組成を測定したところ、ロジウムの担持量は0.37重量%、テルルの担持量は0.33重量%であった。この時、測定装置は、堀場製作所社製ULTIMA2C誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いた。また、含まれるロジウムに対するテルルのモル比は0.72であった。
【0160】
(ブタジエンのアセトキシ化反応)
上記の触媒1.352gを内径12mmのSUS製反応管に充填し、窒素で60kgf/cmに加圧し、窒素流通下、酢酸を150mL/時間の流量で流通させながら80℃に昇温した後、1,3−ブタジエンを8g/時間の流量で供給を開始した。1,3−ブタジエンの供給を開始してから0.5時間後に窒素の流通を止め、6体積%酸素/窒素の混合気体を433NL/時間の流量で供給を開始し、圧力を60kgf/cmに維持して反応を開始した。この時、反応系内の酸素分圧は、3.31kgf/cmであった。反応開始20.5時間後にサンプリングを行い、島津社製GC−2014を用いたガスクロマトグラフィーにより1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを定量した。また、20.5時間反応を行った後の、反応液に含まれるロジウムの量をAgilent Technologies 社製7500ce型誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)により定量した。
【0161】
得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの物質量は46.0ミリモルであったことから、触媒に含まれるロジウムを1重量%に換算した場合の触媒活性は、4.59ミリモル/{(g−触媒)・時間}であった。
【0162】
また、20.5時間反応を行った後の反応液に含まれるロジウムの濃度は0.045ppmであった。即ち、触媒から溶出したロジウムの量は0.138mgであった。
【0163】
[2.比較例1]
[1.実施例]と同様の方法で調製したA液とB液とを混合して得られた溶液に蒸留水と水酸化ナトリウムとを加えてpHを13に調整し、全量を10mLとした。その後、十分な時間をかけて混合し、更に0℃に冷却した後にヒドラジン一水和物1mLを加え、シリカ(富士シリシア化学社製CARiACT−Q−15:商品名、6〜10メッシュ、平均細孔直径15.4nm、細孔容積0.99mL/g)10gの細孔にこの混合液を導入後70℃に加熱した。混合液導入後5分以内にシリカが溶解し、金属間化合物を担持した触媒を得ることはできなかった。
【0164】
[3.比較例2]
(触媒の調製)
50mLメスフラスコに7.64重量%テルル酸水溶液6.121gと、8.74重量%塩化ロジウム水溶液(NEケムキャット社製塩化ロジウム)6.121gを加え、更に水を加えることにより50mLにメスアップした。得られた溶液の重量は51.38gであった。
【0165】
この溶液にシリカ(富士シリシア化学社製CARiACT−Q−15:商品名、6〜10メッシュ、平均細孔直径15.4nm、細孔容積0.99mL/g)52.63gを加え、約1時間浸漬した。完全にシリカ内部にまで溶液が浸透したことを確認した後、遠心脱液を行った。この時、シリカの細孔内に残留した溶液の重量は51.38gであった。これより計算されるシリカに対するロジウムの担持量は1.00重量%、テルルの担持量は0.87重量%、含まれるロジウムに対するテルルのモル比は0.703であった。なお、担持量の測定は、[1.実施例]に記載のものと同様の装置を用いて行った。
【0166】
この化合物を、空気気流下(空間速度(SV);1500時間−1)、150℃で3時間乾燥した後、500℃で2時間焼成した。その後、一旦20℃まで降温し、窒素気流下(SV;750時間−1)、1時間かけて300℃まで昇温し、300℃に達した事を確認後、供給ガスを水素に変え、水素気流下(SV;750時間−1)、更に1時間かけて400℃まで昇温し、この温度で2時間還元処理し、SiO担持触媒を得た。
【0167】
(ブタジエンのアセトキシ化反応)
上記のSiO担持触媒1.354gを用いて、[1.実施例]と同様の方法により、反応開始20時間後にサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーにより1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを定量した。また、19時間反応を行った後の、反応溶液中に含まれるロジウムの量を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)により定量した。なお、ガスクロマトグラフィーとICP−MSとの測定装置は、[1.実施例]と同様のものを用いた。
【0168】
得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの物質量は74.1ミリモルであったことから、SiO担持触媒に含まれるロジウムを1重量%に換算した触媒活性は、2.89ミリモル/{(g−触媒)・時間}であった。
【0169】
また、19時間反応を行った後の反応液に含まれるロジウムの濃度は0.71ppmであった。即ち、SiO担持触媒から溶出したロジウムの量は2.02mgであった。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の触媒の製造方法により得られた触媒は、従来の触媒よりも経時劣化が小さいため、カルボン酸エステルの製造、ニトリル製造、エーテル製造等の酸化的アニオン付加反応に特に好適に用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属及びカルコゲンを含む金属間化合物を担体に担持してなる触媒の製造方法であって、ゾルゲル法により、該金属間化合物を該担体に担持する担持工程を有することを特徴とする、触媒の製造方法。
【請求項2】
該担持工程に先立って、遷移金属材料と、カルコゲン材料と、錯化剤と、還元剤とを溶液中で接触させることにより、該金属間化合物を製造する金属間化合物製造工程を有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
該担体が、多孔体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
該金属間化合物中の遷移金属に対するカルコゲンのモル比が、0.1以上10以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
該遷移金属が、白金族元素であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒の製造方法により得られた触媒の存在下、不飽和炭化水素、カルボン酸及び酸素求核剤を反応させ、カルボン酸エステルを製造する工程を有することを特徴とする、カルボン酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2009−226324(P2009−226324A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75191(P2008−75191)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】