説明

触媒性ヒドロホルミル化および関連反応における4リン酸配位子

4リン配位子を遷移金属塩と組み合わせ、ヒドロホルミル化、異性化−ヒドロホルミル化、ヒドロカルボキシル化、ヒドロシアン化、異性化−ホルミル化、ヒドロアミノメチル化および類似の関連反応に用いられる触媒を形成させる。本発明は、ヒドロホルミル化反応および関連反応のための触媒として用いられる複数キレート型配位モードを有する4リン配位子を目的とする。本発明の4リン配位子を用いて調製した遷移金属触媒は、高活性および高位置選択性である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2005年12月15日に出願された米国仮特許出願第60/750,733号の優先権の利益を主張する。米国仮特許出願第60/750,733号は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
発明の分野
【0003】
本発明は、新しいリン配位子群と、それら配位子のヒドロホルミル化および関連反応における利用に関する。より詳しくは、本発明は、複数キレート型モードを有するキレート型4リン配位子を有する遷移金属錯体に関する。複数キレート型モードを有する4リン配位子は、RhおよびNiなどの遷移金属への配位能力を高め、従って、触媒反応の選択性を高めることができる。本発明による遷移金属−4リン錯体は、ヒドロホルミル化、異性化−ヒドロホルミル化、ヒドロカルボキシル化、ヒドロシアン化、タンデム反応例えば異性化−ホルミル化、およびヒドロアミノメチル化における触媒として有用である。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
【0005】
ヒドロホルミル化は、Roelenによって1938年に発見され、業界で最も大規模な均一系触媒プロセスとなっている。Fe、Zn、Mn、Co、Cu、Ag、Ni、Pt、Pd、Rh、RuおよびIr系の触媒を利用して、年間150億ポンドを超えるアルデヒド類およびアルコール類が製造されてきた。これらのプロセスでは、商業利用上、直鎖生成物への高い選択性を実現することが極めて重要である。学界、ならびに産業界とりわけBASF、Dow、ShellおよびEastmanなど双方による広範な研究にもかかわらず、選択性については基本的な問題および実際的な問題がまだ残されている。触媒反応では、選択性を制御するための新しい概念が非常に重要である。効率の高い選択的な触媒であれば、いくつかの大量生産化学品をより温和な条件下、環境的に有効な方法で製造することが可能になる。
【0006】
1970年代初めにロジウム触媒(例えばHRh(CO)(PPh)が導入されるまでは、コバルト触媒(例えばHCo(CO))が工業的ヒドロホルミル化の主流であった。2004年の推計では、すべてのヒドロホルミル化プロセスの約75%がロジウムトリアリールホスフィン触媒によるものであった。ヒドロホルミル化および関連反応では、直鎖アルデヒドへの高い位置選択性を実現することが最も重要である。結果として得られるアルデヒドは、アルコール、カルボン酸または他の誘導体に変換され、可塑剤、洗剤、界面活性剤、溶媒、潤滑剤および化学中間体として用いられている。
【0007】
下の図式1
【0008】
【化9】

は、Rhによって触媒されるヒドロホルミル化の触媒の解離を示している。
【0009】
HRh(CO)(PPh技術が商業化に成功したのは、ロジウムを過剰のホスフィン配位子とともに用いると活性で選択的なヒドロホルミル化触媒を形成するというUnion CarbideのPruettとUnion OilのBoothとの重要な発見によるものであった。過剰なホスフィンが必要なのは、図式1によって例を示した触媒系ではRh−PPh解離が容易なためである。HRh(CO)(PPhからPPhが失われると、活性は高いが位置選択性は低いヒドロホルミル化触媒BおよびCが生じる結果となる。商業プロセスでは、1−ヘキセンのヒドロホルミル化の場合、Rhに対して最大820倍の過剰なPPhを用いて高いすなわち最大17:1の直鎖:分岐選択性比を確保している。商業的なプロピレンのヒドロホルミル化は、Rhに対して400倍過剰のPPhを用いて行われ、8〜9:1の直鎖:分岐選択性比を実現している。
【0010】
Rh/PPh触媒ヒドロホルミル化は、すべてのオキソアルコールを作る上で最も重要である。プロピレンは、ヒドロホルミル化される最大の単一アルケンであり、ブチルアルデヒドを生成する。ブチルアルデヒドは、水素化してブタノールとするか、またはアルドール縮合によって二量体化した後、水素化して2−エチル−1−ヘキサノールとすることができる。2−エチル−1−ヘキサノールはヒドロホルミル化によって製造される最大の単一製品(年間50億ポンドを超える)である。通常、2−エチル−1−ヘキサノールは、無水フタル酸と反応させてフタル酸ジアルキルエステルを製造する。フタル酸ジアルキルエステルは、ポリ塩化ビニルプラスチックを柔らかく可撓性に保つ可塑剤として用いられている。
【0011】
ヒドロホルミル化プロセスでは、出発原料としてより安価な原料を得ることが決定的に重要である。例えば、アルケンを直鎖アルデヒドに変換するためには、3−オクテンなどの内部高級アルケン(SHOPアルケン)が望ましい。ラフィネートII(n−ブテン類/ブタン類の混合物)および1−ブテンと2−ブテンとの混合物をヒドロホルミル化にそのまま使用すると有用である。n−アルケンのヒドロホルミル化の場合、高い直鎖選択性を得ることが重要である。アリルアルコールをヒドロホルミル化し、続いて還元すると1,4ブテノ−ルとすることができる。官能化内部アルケンは、重合体のための二官能性ビルディングブロックへの代替経路として用いることができる。メチル−3−ペンテノエートをヒドロホルミル化すると、ポリアミドおよびポリエステル用出発原料を作ることになる。異性化とヒドロホルミル化とのタンデムプロセスでは、望ましくない水素化反応と共役化合物への異性化とをできるだけ抑制し、高い異性化速度と末端アルデヒドへの高い選択性とをともに得ることが望ましい。
【0012】
ヒドロホルミル化プロセスにおいて大過剰のホスフィン類を用いる必要性を克服し高い位置選択性を実現するために、ビスホスフィン配位子を用いる新しい世代の遷移金属触媒が開発されている。例えば、Eastman Chemicalによるビスビ(Bisbi)、University of AmsterdamのProf. Leeuwenによるキサントフォス(Xantphos)、非特許文献1、およびUnion CarbideによるUC−44である。これらの配位子を下
【0013】
【化10】

に図示する。これらの配位子を用いることによって一般的な400倍過剰のPPhが5倍過剰のキレート型ホスフィンに減った。この新しい世代のキレート型ホスフィンによって高い直鎖:分岐比がもたらされるとともに触媒活性が高くなった。例えば、1−ヘキセンのヒドロホルミル化では70〜120:1の直鎖:分岐比が観測された。Caseyおよびvan Leeuwenは、このRh触媒ヒドロホルミル化における位置選択性の一部は、形成された約120度の金属ビスホスフィンはさみ角によるとする説、すなわち下に示す「はさみ角仮説」
【0014】
【化11】

を提案した。
【0015】
ヒドロホルミル化反応および関連反応のための触媒として複数のキラルなビスリン配位子が用いられているが、ヒドロホルミル化のための高度に選択的で活性なリン配位子は依然として強い関心を集めている研究分野として残されている。しかし、Rh−CO配位からのホスフィン類の解離のため、は、高い位置選択性すなわち生成する生成物の高い直鎖対分岐比を実現する上での問題である。複数キレート型配位モードを有するリン配位子の系統を開発することは魅力的である。本発明の4リン配位子は、複数キレート型配位モードによる配位能力のため、金属−配位子触媒ヒドロホルミル化反応および関連反応における高度に部位選択的な遷移を生じさせ、従来得られたものより高い直鎖対分岐比を提供する。また、これらの配位子は対称性であるため、容易に合成することができる。
【非特許文献1】Bernhard Breit, Acc. Chem. Res. 2003, 36, 264−275、Bernhard Breit, Wolfgang Seiche, Synthesis 2001, 1, 1−36
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の要旨
本発明においては、下
【0017】
【化12】

に例を示す複数キレート型配位モードを有するさまざまな4リン配位子(タイプA)を導入して配位能力を高める。ここで、Mは、Fe、Zn、Mn、Co、Cu、Ag、Ni、Pt、Pd、Rh、RuおよびIrからなる群から選ばれた金属であり、Xは、O、NH、NRおよびCHからなる群から選ばれ、Yは、Ar、OArおよびピロールからなる群から選ばれ、Rは有機基であり、Arはアリール基である。タイプA配位子は、本発明の4リン配位子である。タイプB配位子は、ビスリン配位子である。下
【0018】
【化13】

に例を示すように、4リン配位子(タイプA)には少なくとも4つのキレート型配位モードがあって配位能力を高めるが、ビスリン配位子(タイプB)には単一のモード、すなわちP−M−Pしかない。本発明の複数キレート型4リン配位子(タイプA)は、通常のビスリン配位子(タイプB)と比較すると、配位子の電子的性質を大きく変化させずに配位子の配位能力を高める。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、ヒドロホルミル化反応および関連反応のための触媒として用いられる複数キレート型配位モードを有する4リン配位子を目的とする。本発明の4リン配位子を用いて調製した遷移金属触媒は、高活性および高位置選択性である。本発明の4リン配位子は、以下の一般的な構造式
【0020】
【化14】

を有する。式中i、j、k、l、mおよびnは、独立して、H、R、Ar、置換Ar、OR、OAr、COOEt、ハロゲン化物、SOR、SOH、SONHR、POR、POArまたはNRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールである。X〜Xは、独立して、R、Ar、OR、OAr、ピロールまたは置換ピロールであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールである。Y、Y′、Y、Y′、Y、Y′、Y、Y′は、独立して、R、Ar、OR、OAr、ピロールまたは置換ピロールであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、R、Ar、OR、OAr、ピロールおよび置換ピロールは、炭素から炭素への結合、CH、NH、NRおよびOによって結合されている。置換基は、例えば、メチル、エチル、t−ブチルおよびフェニルを含む。
【0021】
以下
【0022】
【化15】

は、本発明の第1の実施態様を図示する。式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールである。a、b c、d、i、j、k、l、mおよびnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物であって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、a、b、c、d、i、j、k、l、mおよびnの2つが環状縮合環または拡大芳香環であってよい。
【0023】
以下
【0024】
【化16】

に本発明の第2の実施態様を図示する。式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールである。a、b c、d、i、j、k、l、mおよびnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物であて、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、a、b、c、d、i、j、k、l、mおよびnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい。
【0025】
以下
【0026】
【化17】

に本発明の第3の実施態様を図示する。式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールである。a、b c、d、i、j、k、l、mおよびnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物であって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、a、b、c、d、i、j、k、l、mおよびnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい。
【0027】
以下
【0028】
【化18】

に本発明の第4の実施態様を図示する。式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールである。Yは、炭素−炭素結合、O、CH、NHまたはNRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリールである。aからnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物、NRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、aからnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい。
【0029】
以下
【0030】
【化19】

に本発明の第5の実施態様を図示する。式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールである。a、b、c、d、e、i、j、k、l、mおよびnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物、NRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、a、b、c、d、e、i、j、k、l、mおよびnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい。
【0031】
以下
【0032】
【化20】

に本発明の第6の実施態様を図示する。式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールである。aからnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物、NRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、aからnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい。dおよびeが水素でないとき、これらの配位子のエナンチオマを調製して不斉触媒反応に用いてよい。
【0033】
下に本発明の4リン配位子の例(L1からL91)を図示する。
【0034】
【化21】

【0035】
【化22】

【0036】
【化23】

【0037】
【化24】

【0038】
【化25】

【0039】
【化26】

【0040】
【化27】

【0041】
【化28】

【0042】
【化29】

ヒドロホルミル化反応または関連反応においては、遷移金属塩を配位子と混合して遷移金属−4リン配位子錯体を調製する。遷移金属塩は、Fe、Zn、Mn、Co、Cu、Ag、Ni、Pt、Pd、Rh、RuおよびIrからなる群から選ばれた遷移金属の塩である。遷移金属塩の例は、FeX、Fe(OTf)、Fe(OAc)、Mn(OAc)、Mn(OTf)、MnX、Zn(OTf)、Co(OAc)、AgX、Ag(OTf)、Ag(OTf)、AgOAc、PtCl、HPtCl、Pd(DBA)、Pd(OAc)、PdCl(RCN)、(Pd(アリル)Cl)、Pd(PR、(Rh(NBD))X、(Rh(NBD)Cl)、(Rh(COD)Cl)、(Rh(COD))X、Rh(acac)(CO)、Rh(エチレン)(acac)、(Rh(エチレン)Cl)、RhCl(PPh、Rh(CO)Cl、RuH(CO)(PPh、Ru(Ar)X、Ru(Ar)X(PPh、Ru(COD)(COT)、Ru(COD)(COT)X、RuX(シメン)、Ru(COD)、RuCl(COD)、(Ru(COD))X、RuX(PN)、RuCl(=CHR)(PR′、Ru(ArH)Cl、Ru(COD)(メタリル)、(Ir(NBD)Cl)、(Ir(NBD))X、(Ir(COD)Cl)、(Ir(COD))X、CuX(NCCH、Cu(OTf)、Cu(OTf)、Cu(Ar)X、CuX、Ni(acac)、NiX、(Ni(アリル)X)、Ni(COD)、MoO(acac)、Ti(OiPr)、VO(acac)およびMeReOである。ここで、各RおよびR′は、独立して、アルキルまたはアリールからなる群から選ばれ、Arはアリール基基であり、Xは、BF、ClO、OTf、SbF、CFSO、B(C(CF、Cl、BrまたはIなどの対アニオンであり、OTfは、OSOCFであり、DBAは、PhCH=CHCOCH=CHPhであり、NBDは、ノルボルナジエンであり、CODは、シクロオクトジエンであり、COTは、シクロオクトトリエンである。混合物をオートクレーブに入れ、オートクレーブを窒素でパージした後、COおよびHを充填する。
【実施例】
【0043】
四リン酸塩配位子の合成
下記に示す実施例における反応および操作はすべて窒素を満たしたグロ−ブボックス内で、または標準的なシュレンク技法を用いて実行した。THFおよびトルエンは窒素下のナトリウムベンゾフェノンケチルで乾燥および蒸留した。塩化メチレンはCaHから蒸留した。メタノールは窒素下でMgから蒸留した。カラムクロマトグラフィーは、EMシリカゲル60(230〜400メッシュ)を用いて実行した。1H、13Cおよび31P NMRは、ブルーカーWP−200、AM−300およびAMX−360スペクトロメ−タ−上で記録した。化学シフトは、溶媒共鳴を内部標準としてテトラメチルシランからの低磁場ppm値で報告した。MSスペクトルは、KRATOS質量分析計MS 9/50上でLR−EIおよびHR−EIを記録した。GC分析は、キラルキャピラリーカラムを用いてヒューレットパッカード6890ガスクロマトグラフィー上で行った。HPLC分析は、ウォーターズ(商標)600クロマトグラフィー上で行った。
【0044】
以下の手順を用いて構造式L1を有する配位子を合成した。THF(10mL)中のクロロジピロリホスフィン(4.4mmol、0.87g)の溶液に、トリエチルアミン1mLおよびTHF(5mL)中のテトラオール(1mmol、0.218g)の溶液を室温で滴下して加えた。テトラオールは、Lindsten, G.; Wennerstroem, O.; Isaksson, R., J Org. Chem. 1987, 52, 547−54に従って合成し、クロロジピロリホスフィンは、van der Slot, S. C.; Duran, J.; Luten, J.; Kamer, P. C. J.; van Leeuwen, P. W. N. M. Organometallies 2002, 21, 3873−3883に従って合成した。添加後、直ちにトリエチルアミン−HCl塩が形成された。反応混合物を室温で6時間撹拌した。次に、トリエチルアミン・HCl塩をろ過して除き、真空下で溶媒を除去した。粗生成物を塩基性酸化アルミニウム上のフラッシュクロマトグラフィーによって精製し、ヘキサン/EtOAc/NEt(6:1:0.01)で溶出させ、配位子L1(0.31g、36%)を空気中で安定な無色の固体として得た。
【0045】
【化30】

一般的ヒドロホルミル化プロセス
磁気撹拌子を入れた2mLバイアルに前の実施例で合成した4リン配位子L1(3μmol、2.6mg)およびRh(acac)(CO)(1μmol、トルエン中10mM溶液0.1mL)を入れた。この混合物を5分間撹拌した。次に、2−オクテン(10mmol、1.56mL)、続いて内部標準のデカン(0.01mL)を加えた。反応混合物をオートクレーブに移した。オートクレーブを窒素で3回パージし、続いてCO(5バ−ル)およびH(5バ−ル)を加えた。次に、オートクレーブを100℃に加熱した(油浴)。12時間後、オートクレーブを氷水中で冷却し、性能の良いフ−ド内で注意深く圧力を抜いた。反応混合物を直ちにGCによって分析した。
【0046】
複数キレート型4リン配位子L1を用いるスチレン、1−オクテンおよび1−ヘキセンのヒドロホルミル化の目ざましい位置選択性を表1に示す。通常、スチレンは、キサントフォスおよびUC−44などの従来技術のビスリン配位子と比較すると、2:1を超える分岐生成物に対する直鎖生成物の比を実現するのが難しい基質である。表1に示すように、L1などの新しい4リン配位子(タイプA)は、従来技術のビスリン配位子(タイプB)より選択性の高いヒドロホルミル化配位子である。反応条件は、0.1モル%Rh(CO)(acac)および配位子、反応温度80℃で20気圧のCOとHとを用い1時間であった。これらの結果によると、複数キレート型配位を有する4リン配位子を用いてビスホスフィン配位子の配位能力を高めることができる。タイプAによる位置選択性は、これまでに報告された最も高いものである。
【0047】
表1 アルケンの位置選択的ヒドロホルミル化
【0048】
【表1】

4リン配位子(タイプA)対ビスリン配位子(タイプB)を用いてアルデヒドを生成させる2−ヘキセンおよび2−オクテンのヒドロホルミル化の結果を下の表2に要約する。以下の表2から11では、「n:i」は、分岐アルデヒドに対する直鎖アルデヒドの比であり、「TOF」は、ターンオーバー頻度(触媒あたり時間あたりのターンオーバー)である。本発明の4リン配位子は、ビスリン配位子より高い「n:i」比を生じさせる。
【0049】
表2 2−ヘキセンおよび2−オクテンのヒドロホルミル化の結果
【0050】
【表2】

ヒドロホルミル化条件は、S/C=10000、[Rh]は0.69mM(2−ヘキセンの場合)および0.57mM(2−オクテンの場合)、配位子/Rh比は3:1、反応温度は100℃、CO/Hは5/5気圧、トルエンが溶媒、デカンが内部標準である。
【0051】
下の表3は、4リン配位子(タイプA)対ビスリン配位子(タイプB)を用いてアルデヒドを製造する2−ヘキセンおよび2−オクテンのヒドロホルミル化の結果を示す。
【0052】
表3 1−ヘキセンおよび1−オクテンのヒドロホルミル化の結果
【0053】
【表3】

反応条件 S/C=10000、Rh濃度は0.2mM、配位子/Rh比は3:1、温度は80℃、CO/Hは10/10気圧、トルエンが溶媒、デカンが内部標準である。
【0054】
ヒドロホルミル化反応は、反応条件に強く依存する。一般的な反応条件は、S/C=10000、配位子金属比は約3、遷移金属濃度は約0.2から0.7mM、反応温度は100℃、反応時間は12時間である。反応条件を最適化するために、4リン配位子(L1)を用いて以下の実験を行った。表2および3の「n:i」比によって立証されるように、本発明の4リン配位子を用いて生成した直鎖アルデヒドの量を、ビスリン配位子を用いた場合と対比すると、明らかに著しく改善されている。
【0055】
金属に対する配位子の比
最初に、金属に対する配位子の比をさまざまに変えてヒドロホルミル化を行った。表4に示すように、配位子金属比を増大させると反応速度は若干減少した。一方、金属に対する配位子の比は、位置選択性に顕著に影響する。比が低いとき低い位置選択性が観測された。高い位置選択性を実現するためには、金属に対する配位子の比として最低2が必須であり、このとき4リン配位子は複数配位モードで配位することができる。配位子対金属比をそれ以上増大させても位置選択性はほとんど高くならなかった。
【0056】
表4 配位子L1を用いたさまざまな配位子金属比での2−オクテンのヒドロホルミル化
【0057】
【表4】

反応条件 基質は2−オクテン、S/C=10000、Rh濃度は0.57mM、温度は100℃、CO/Hは10/10気圧、反応時間は1h、トルエンは溶媒、デカンは内部標準である。表4の結果によれば、4リン配位子の場合、高い位置選択性(n:iは2.92から17.7へ変化する)を実現する上で遊離のリン配位子が2つ存在することが重要である。下の表5は、2−ヘキセンを基質とする場合の同様な結果を示している。
【0058】
表5 配位子L1を用いたさまざまな配位子金属比での2−ヘキセンのヒドロホルミル化
【0059】
【表5】

反応条件 基質は2−ヘキセン、S/C=10000、Rh濃度は0.69mM、反応温度は100℃、CO/Hは10/10気圧、反応時間は1h、トルエンが溶媒、デカンが内部標準である。表5の結果によれば、4リン配位子の場合、高い位置選択性(n:iは12から42へ変化する)を実現する上で遊離のリン配位子が2つ存在することが重要である。
【0060】
温度
ヒドロホルミル化では反応温度も重要な役割を演じる。下の表6および7に示すように、低温では、高い位置選択性が観測されたが反応速度は低かった。オレフィン異性化およびヒドロホルミル化を容易にするために、高い反応速度ならびに許容できる位置選択性を実現する高温(100℃)が好ましい。
【0061】
表6 Rh配位子L1を用いたさまざまな温度での2−オクテンのヒドロホルミル化
【0062】
【表6】

反応条件 基質は2−オクテン、S/C=10000、Rh濃度は0.57mM、配位子/Rh比は3:1、CO/Hは10/10気圧、反応時間は1h、トルエンが溶媒、デカンが内部標準である。
【0063】
表7 Rh配位子L1を用いたさまざまな温度での2−ヘキセンのヒドロホルミル化
【0064】
【表7】

反応条件 基質は2−ヘキセン、S/C=10000、Rh濃度は0.69mM、配位子/Rh比は3:1、CO/Hは10/10気圧、反応時間は1h、トルエンが溶媒、デカンが内部標準である。
【0065】
圧力
CO/H全圧も反応に影響する。高い圧力では、反応速度と位置選択性との両方が低かった。一般に、圧力を下げると、反応速度および位置選択性が高くなる結果となる。CO/H圧力を10/10気圧から5/5気圧へ低下させても反応速度はあまり変化しなかったが、位置選択性はさらに高くなった。2−オクテンおよび2−ヘキセンのヒドロホルミル化からの結果を表8および9に示す。
【0066】
表8 配位子L1を用いたさまざまな圧力での2−オクテンのヒドロホルミル化
【0067】
【表8】

反応条件 基質は2−オクテン、S/C=10000、Rh濃度は0.57mM、配位子/Rh比は3:1、反応温度は100℃、反応時間は1h、トルエンが溶媒、デカンが内部標準である。
【0068】
表9 配位子L1を用いたさまざまな圧力での2−ヘキセンのヒドロホルミル化
【0069】
【表9】

反応条件 基質は2−ヘキセン、S/C=10000、Rh濃度は0.69mM、配位子/Rh比は3:1、反応温度は100℃、反応時間は1h、トルエンが溶媒、デカンが内部標準である。
【0070】
反応時間
反応時間もヒドロホルミル化選択性に影響を及ぼす。下の表10および11に示すように、反応時間が長いほど位置選択性は低くなる。反応時間を12hから18hへさらに増やしても、ターンオーバー数(TON)すなわち触媒あたりのターンオーバーはわずかしか向上せず、位置選択性が低くなってしまった。
【0071】
表10 配位子L1を用いたさまざまな時間での2−オクテンのヒドロホルミル化
【0072】
【表10】

反応条件 基質は2−オクテン、S/C=10000、Rh濃度は0.57mM、配位子/Rh比は3:1、反応温度は100℃、CO/Hは5/5気圧、トルエンが溶媒、デカンが内部標準である。
【0073】
表11 配位子L1を用いたさまざまな時間での2−ヘキセンのヒドロホルミル化
【0074】
【表11】

反応条件 基質は2−ヘキセン、S/C=10000、Rh濃度は0.69mM、配位子/Rh比は3:1、反応温度は100℃、CO/Hは5/5気圧、トルエンが溶媒、デカンが内部標準である。
【0075】
いくつかの好ましい実施態様を参照して本発明を説明してきたが、上記の詳細な説明を読めば本発明のさまざまな変化形および変更形は当業者に自明と考えられる。従って、すべてのそのような変化形および変更形は、本発明の真の技術思想および範囲内に含まれるとして、以下の添付の請求項を解釈するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式
【化1】

式中、i、j、k、l、mおよびnは、独立して、H、R、Ar、置換Ar、OR、OAr、COOEt、ハロゲン化物、SOR、SOH、SONHR、POR、POArまたはNRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであり、X〜Xは、独立して、O、CH、NH、NR、NSOR、またはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであり、Y、Y′、Y、Y′、Y、Y′、Y、Y′は、独立して、R、Ar、OR、OAr、ピロールまたは置換ピロールであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるか、またはR、Ar、OR、OAr、ピロールおよび置換ピロールは、炭素から炭素への結合、CH、NH、NRまたはOによって結合されている、
を有するリン配位子。
【請求項2】
前記配位子は、以下の構造式
【化2】

式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであり、a、b、c、d、i、j、k、l、mおよびnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物であって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるか、または、a、b、c、d、i、j、k、l、mおよびnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい、
を有する請求項1に記載のリン配位子。
【請求項3】
前記配位子は、以下の構造式
【化3】


式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであり、a、b、c、d、e、f、i、j、k、l、mおよびnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物であって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、a、b、c、d、e、f、i、j、k、l、mおよびnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい、
を有する請求項1に記載のリン配位子。
【請求項4】
前記配位子は、以下の構造式
【化4】

式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであり、a、b、c、d、e、i、j、k、l、mおよびnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物、NRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、a、b、c、d、e、i、j、k、l、mおよびnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい、
を有する請求項1に記載のリン配位子。
【請求項5】
前記配位子は、以下の構造式
【化5】

式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであり、Yは、炭素−炭素結合、O、CH、NHまたはNRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリールであり、aからnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物、NRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるか、またはaからnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい、
を有する請求項1に記載のリン配位子。
【請求項6】
前記配位子は、以下の構造式
【化6】

式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであり、a、b、c、d、e、i、j、k、l、mおよびnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物、NRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、a、b、c、d、e、i、j、k、l、mおよびnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい、
を有する請求項1に記載のリン配位子。
【請求項7】
前記配位子は、以下の構造式
【化7】

式中、Xは、O、CH、NH、NR、NSORまたはNSOArであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであり、aからnは、独立して、H、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、OR、OAr、SiR、CF、COOR、SOR、SOH、POR、ハロゲン化物、NRであって、Rはアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリール、Arはアリールであるかまたは、aからnの2つは環状縮合環または拡大芳香環であってよい、
を有する請求項1に記載のリン配位子。
【請求項8】
前記配位子は、以下の構造式
【化8】

を有する請求項1に記載のリン配位子。
【請求項9】
請求項1から8に記載の配位子と、遷移金属塩とを含む触媒であって、前記金属塩の前記金属は、Fe、Zn、Mn、Co、Cu、Ag、Ni、Pt、Pd、Rh、RuおよびIrからなる群から選ばれる、触媒。
【請求項10】
前記遷移金属塩は、FeX、Fe(OTf)、Fe(OAc)、Mn(OAc)、Mn(OTf)、MnX、Zn(OTf)、Co(OAc)、AgX、Ag(OTf)、Ag(OTf)、AgOAc、PtCl、HPtCl、Pd(DBA)、Pd(OAc)、PdCl(RCN)、(Pd(アリル)Cl)、Pd(PR、(Rh(NBD))X、(Rh(NBD)Cl)、(Rh(COD)Cl)、(Rh(COD))X、Rh(acac)(CO)、Rh(エチレン)(acac)、(Rh(エチレン)Cl)、RhCl(PPh、Rh(CO)Cl、RuH(CO)(PPh、Ru(Ar)X、Ru(Ar)X(PPh、Ru(COD)(COT)、Ru(COD)(COT)X、RuX(シメン)、Ru(COD)、RuCl(COD)、(Ru(COD))X、RuX(PN)、RuCl(=CHR)(PR′、Ru(ArH)Cl、Ru(COD)(メタリル)、(Ir(NBD)Cl)、(Ir(NBD))X、(Ir(COD)Cl)、(Ir(COD))X、CuX(NCCH、Cu(OTf)、Cu(OTf)、Cu(Ar)X、CuX、Ni(acac)、NiX、(Ni(アリル)X)、Ni(COD)、MoO(acac)、Ti(OiPr)、VO(acac)およびMeReOからなる群から選ばれ、式中、各RおよびR′は、アルキルまたはアリールからなる群から独立に選ばれ、Arは、アリール基であり、Xは、BF、ClO、OTf、SbF、CFSO、B(C(CF、Cl、BrまたはIなどの対アニオンであり、OTfは、OSOCFであり、DBAは、PhCH=CHCOCH=CHPhであり、NBDは、ノルボルナジエンであり、CODは、シクロオクトジエンであり、COTはシクロオクトトリエンである、請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
前記遷移金属塩は、(Rh(COD)Cl)、(Rh(COD))X、Rh(acac)(CO)およびRuH(CO)(PPhからなる群から選ばれる、請求項10に記載の触媒。
【請求項12】
前記触媒は、アルケンのヒドロホルミル化、異性化−ヒドロホルミル化、ヒドロカルボキシル化、ヒドロシアン化、異性化−ホルミル化およびヒドロアミノメチル化反応からなる群から選ばれた反応における触媒である、請求項10に記載の触媒を用いる方法。
【請求項13】
前記反応は、ヒドロホルミル化反応である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒をヒドロホルミル化反応において用いる方法であって、前記触媒は、請求項8に記載の配位子と(Rh(COD)Cl)、(Rh(COD))X、Rh(acac)(CO)およびRuH(CO)(PPhからなる群から選ばれた遷移金属塩とを含む方法。

【公表番号】特表2009−519941(P2009−519941A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545819(P2008−545819)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/047766
【国際公開番号】WO2007/078859
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(501139858)
【Fターム(参考)】