説明

触媒担体、金属固定化触媒、その製造方法およびそれを用いたアルコールの酸化方法

【解決すべき課題】 化学的安定性に優れ、触媒活性の高い金属固定化触媒を提供する。
【解決手段】 一般式(I)
(MIV)(P) (I)
(式中、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、xは0.6〜1を表す。)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体に金属が固定化した、金属固定化触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体、金属固定化触媒、その製造方法およびそれを用いたアルデヒドもしくはケトンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化反応は有機化学における最も基本的な反応のひとつであり、化学工業プロセスの60%以上は酸化反応か、もしくはこれに関連する反応であるといわれている。なかでもアルコールの酸化によってアルデヒドやケトンを製造する方法は工業的に重要な反応である。アルコールの酸化反応を効率的に行うことを目的としてクロム酸や鉛化合物、水銀化合物、四酸化オスミウム等が触媒として用いられている。しかし、これらは毒性が強く取り扱いに細心の注意を払わなくてはならないばかりではなく、使用済みの触媒の処分においても環境負荷が大きいため問題となる。
【0003】
アルコールを酸化する方法の一つとして、ルテニウム錯体であるジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)と過酸化物等の酸化剤との組み合わせによる方法が知られている(特許文献1、特開平11−226417号公報)。ところが、この方法はルテニウム錯体の合成が煩雑であるのに加えて、均一系触媒反応系であるため反応液からのルテニウム錯体の分別や回収が非常に困難であるという欠点を有する。一方、不均一系触媒反応系においては、酸化剤として1気圧の分子状酸素だけを用いる環境負荷の小さな固体触媒が見出されている。例えば、上記の酸化反応において層状複水酸化物であるハイドロタルサイトにルテニウムを固定化した固体触媒を用いる方法(特許文献2、特開2002−274852号公報)、ヒドロキシアパタイトにルテニウムを固定化した固体触媒を用いる方法(特許文献3、特開2001−246262号公報)、およびアルミナにルテニウムを固定化した触媒を用いる方法(特許文献4、特開2004−894号公報)が提案されている。
【0004】
これらの固体触媒は反応後の反応液からの触媒の分別回収が容易であるが、触媒活性が十分でなく、アルデヒドやケトンの生産性が低いという問題がある。また、担体として用いられているハイドロタルサイトやヒドロキシアパタイトは酸性条件下で溶解する性質を有するため触媒の使用条件が著しく制約されてしまうという問題もある。
【特許文献1】特開平11−226417号公報
【特許文献2】特開2002−274852号公報
【特許文献3】特開2001−246262号公報
【特許文献4】特開2004−000894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は上記の問題を解決し、化学的安定性に優れ、触媒活性を高めることが可能な触媒担体、アルコール等の酸化反応に用いることのできる高活性な触媒組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題に鑑み鋭意検討した結果、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を含むリン酸塩含有触媒担体にルテニウム等の金属を固定化することにより、上記課題を一挙に解決し、該金属固定化触媒が酸化反応等の触媒反応に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式(I)
(MIV)(P) (I)
(式中、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、xは0.6〜1を表す。)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体に関する。
【0008】
また、一般式(II)
(MO)(MIV)(P) (II)
(式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、周期律表第6〜12族の第4周期元素および銀からなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、yは0.25〜1を表し、zは0.75〜1を表す。)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体に関する。
【0009】
さらに、本発明は、MIVがジルコニウムまたはチタンである、前記触媒担体に関する。
【0010】
また、本発明は、Mが、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムまたはマンガンである、前記触媒担体に関する。
【0011】
さらに、本発明は、一般式(I)または一般式(II)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体に金属が固定化した、金属固定化触媒に関する。
【0012】
また、本発明は、金属がルテニウムである、前記金属固定化触媒に関する。
【0013】
さらに、本発明は、ルテニウムの含有量が金属固定化触媒の全重量に対し0.1〜20重量%である、前記金属固定化触媒に関する。
【0014】
また、本発明は、一般式(I)
(MIV)(P) (I)
(式中、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、xは0.6〜1を表す。)で表されるリン酸塩に金属を接触させる、金属固定化触媒の製造方法に関する。
【0015】
さらに、本発明は、一般式(II)
(MO)(MIV)(P) (II)
(式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、周期律表第6〜12族の第4周期元素および銀からなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、yは0.25〜1を表し、zは0.75〜1を表す。)で表されるリン酸塩に金属を接触させる、金属固定化触媒の製造方法に関する。
【0016】
また、本発明は、リン酸塩にルテニウムを接触させる、前記金属固定化触媒の製造方法に関する。
【0017】
さらに、本発明は、前記金属固定化触媒を用いて、アルコールからアルデヒドまたはケトンを製造する方法に関する。
【0018】
また、本発明は、前記金属固定化触媒の、アルコールの酸化反応への使用に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の触媒担体は、上記の一般式(I)または一般式(II)で表される構造を有するリン酸塩を含有し、化学的安定性が高く、従来のハイドロタルサイトやヒドロキシアパタイトと異なり酸性条件でも溶解することがない。特に、MIVがジルコニウムまたはチタンであるリン酸塩担体は化学的な安定性に優れ、幅広いpH域での使用が可能である。
【0020】
一般式(II)で表されるリン酸塩は、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、周期律表第6〜12族の第4周期元素および銀からなる群から選択される1種または2種以上の元素(以下「カチオン成分」とも記す)Mが固定化されている(MO)を有するため、リン酸塩(MO)(MIV)(P)を含む担体自体の触媒活性が抑制される。したがって、触媒担体としてかかるリン酸塩を用いた触媒はより一層高い選択性を得ることができる。
【0021】
本発明の触媒担体は、一般式(I)または一般式(II)で表されるリン酸塩をそのまま触媒担体として使用することができるが、他の触媒担体と組合せて複合担体として使用することもできる。
【0022】
本発明の金属固定化触媒は、金属がルテニウムである場合、アルコール等の酸化反応に使用することにより、高転化率および高選択性でアルデヒドやケトンを容易に製造することができる。また、該金属固定化触媒は化学的安定性が高いため、高温条件下や高または低pH条件下での使用においても、触媒としての活性を低下させることなく、繰り返し使用することができる。さらに、酸化反応等の触媒反応により触媒活性が低下した場合であっても、酸、アルカリまたは塩化ナトリウムを含有する水溶液に浸漬することにより、容易に触媒活性を再生することができる。
【0023】
特に、ルテニウムの含有量が金属固定化触媒の全重量に対し0.1〜20重量%であるルテニウム固定化触媒は、高い転化率でアルコール等の酸化反応を行うことができる。また、本発明の金属固定化触媒は、触媒担体と金属を接触させるだけで製造することができるため、極めて簡便に金属固定化触媒を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(1)触媒担体
(i)本発明の触媒担体の一つの形態は、一般式(I)
(MIV)(P) (I)
(式中、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、xは0.6〜1を表す。)で表されるリン酸塩を含有するものである。
【0025】
ここで、触媒担体としてのリン酸塩の化学的安定性の観点から、MIVは好ましくはチタンまたはジルコニウムであり、より好ましくはジルコニウムである。
【0026】
IVが2種以上の元素から選択される場合、上記の元素の任意の組合せが可能であり、例えばジルコニウム・チタン、ジルコニウム・ハフニウム、ジルコニウム・ケイ素、ジルコニウム・ゲルマニウム、ジルコニウム・スズ、チタン・ハフニウム、チタン・ケイ素、チタン・ゲルマニウム、チタン・スズ、ケイ素・ハフニウム、ケイ素・ゲルマニウム、ケイ素・スズ、ゲルマニウム・ハフニウム、ゲルマニウム・スズおよびハフニウム・スズの2種の元素の組合せ、チタン・ジルコニウム・ハフニウム、チタン・ジルコニウム・ケイ素、チタン・ジルコニウム・ゲルマニウム、チタン・ジルコニウム・スズ、ジルコニウム・ハフニウム・ケイ素、ジルコニウム・ハフニウム・ケイ素、ジルコニウム・ハフニウム・ゲルマニウム、ジルコニウム・ハフニウム・スズ、ジルコニウム・ケイ素・ゲルマニウム、ジルコニウム・ケイ素・スズ等の3種の元素の組合せ、または上記の元素の4種以上の組合せが挙げられる。
【0027】
リン酸塩担体は結晶学的に純粋な物質である必要は無く、たとえばあるリン酸塩担体が結晶学的にピロリン酸ジルコニウムとオルトリン酸ケイ素の混合物であっても、それぞれの構成元素が一般式(I)を満足すればよい。したがって、一般式(I)を満たす限り、2種以上の元素が酸素に結合したリン酸塩であってもよい。例えばMIVがMIVおよびMIVの2種の元素の場合、一般式(I)は((MIV(MIV1−m)(P)で表すことができる(ここで、mは0<m<1の範囲の任意の数値を示す)。MIVが2種の元素であるリン酸塩としては、(Zr0.5Ti0.5)(P)、(Zr0.5Si0.5)(P)等が挙げられる。
【0028】
一般式(I)中の (P)のxは0.6〜1を表し、一般式(I)において(MIV)および(P)が、(MIV):(P)=1:0.6〜1の比率であることを示す。高い温度領域下での化学的な安定性の観点から、特に好ましくはxが0.67のオルトリン酸塩またはxが1のピロリン酸塩である。
【0029】
一般式(I)で表されるリン酸塩の好ましい例としては、オルトリン酸ジルコニウム(ZrO)(P)0.67、ピロリン酸ジルコニウム(ZrO)(P)、オルトリン酸チタン(TiO)(P) 0.67、ピロリン酸チタン(TiO)(P)、オルトリン酸ハフニウム(HfO) (P) 0.67、ピロリン酸ハフニウム(HfO)(P)、オルトリン酸ケイ素(SiO) (P) 0.67、ピロリン酸ケイ素(SiO)(P)、オルトリン酸ゲルマニウム(GeO) (P) 0.67、ピロリン酸ゲルマニウム(GeO)(P)、オルトリン酸スズ(SnO) (P) 0.67、ピロリン酸スズ(SnO)(P)等が挙げられる。
【0030】
上記のリン酸塩のうち、化学的安定性および耐熱性の観点から、オルトリン酸ジルコニウムまたはピロリン酸ジルコニウムがより好ましい。
【0031】
(ii)本発明の触媒担体の別の形態は、一般式(II)
(MO)(MIV)(P) (II)
(式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、周期律表第6〜12族の第4周期元素および銀からなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、yは0.25〜1を表し、zは0.75〜1を表す。)で表されるリン酸塩を含有するものである。
【0032】
(MIV)中のMIVは一般式(I)のMIVと同義である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛の周期律表第6〜12族の第4周期元素、ならびに銀からなる群から選択される1種または2種以上の金属を表す。リン酸塩の化学的安定性の観点から、Mは好ましくはナトリウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウムであり、より好ましくはカリウムまたはカルシウムである。
【0033】
(MO)のMは、アルカリ金属等の1価の元素Mから選択される場合は(Mを意味し、アルカリ土類金属等の2価の元素MIIから選択される場合はMIIを意味する。 これらの1価または2価の元素は、価数にかかわらず、一般式(II)で表されるリン酸塩中に1種のみが含有されていても、2種以上が含有されていてもよい。したがって、一般式(II)を満たす限り、たとえば(NaO)(MIV)(P)のように1種の元素が酸素に結合した構造であっても、(NaKO)(MIV)(P)のように2種以上の元素が酸素に結合した構造であってもよく、また(NaO)(KO)(MIV)(P)のように、2種以上の元素の酸化物を有するリン酸塩であってもよい。
【0034】
(MO)を含有することによって、一般式(I)で表されるリン酸塩自体の触媒活性が抑制されるため、一般式(II)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体に金属を固定化した固体触媒では、リン酸塩による副反応が抑制され、高い選択性をもって触媒反応を進行させることが可能となる。
【0035】
yは、0.25〜1を示し、zは、0.75〜1を示す。yおよびzはそれぞれ独立して設定することが可能であるが、リン酸塩の化学的安定性の観点からは、リン酸塩がオルトリン酸塩となるようにyおよびzを設定するのが好適である。
【0036】
一般式(II)で表されるリン酸塩の好ましい例としては、(NaO)(ZrO)(P)(y=1、Z=1;ZrNa(PO))、(NaO)0.25(ZrO)(P)0.75(y=0.25、z=0.75;ZrNa(PO))、(KO)(ZrO)(P)(y=1、Z=1;ZrK(PO))、(KO)0.25(ZrO)(P)0.75(y=0.25、z=0.75;ZrK(PO))、(NaO)(TiO)(P)(y=1、Z=1;TiNa(PO))、(NaO)0.25(TiO)(P)0.75(y=0.25、z=0.75;TiNa(PO))、(CaO)0.25(ZrO)(P)0.75(y=0.25、z=0.75;ZrCa(PO))、(MnO)0.25(ZrO)(P)0.75(y=0.25、z=0.75;ZrMn(PO))等が挙げられる。
【0037】
これらのうち、例えばルテニウムを固定化してルテニウム固定化触媒とした場合に、アルコールの酸化反応の転化率および選択率が高い、(KO)(ZrO)(P)(y=1、Z=1;ZrK(PO))および(CaO)0.25(ZrO)(P)0.75(y=0.25、z=0.75;Zr4Ca(PO))が特に好ましい。
【0038】
(2)金属固定化触媒
本発明の金属固定化触媒は、上記の一般式(I)または一般式(II)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体に金属Mcatが固定化したものである。
【0039】
触媒担体に固定化する金属Mcatは、特に限定されないが、周期律表第3族から12族に含まれる元素であり、例えばルテニウム、オスミウム、ロジウム、パラジウム、白金および金が挙げられ、特にルテニウムが好ましい。金属Mcatは1種または2種以上の金属を触媒担体に固定化できる。なお、本発明の金属固定化触媒は、触媒反応において単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。
【0040】
(3)触媒担体および金属固定化触媒の製造
本発明の金属固定化触媒は、例えば、(a)リン酸塩含有触媒担体の原料成分を混合することにより一般式(I)または(II)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体を得た後、金属(触媒金属)を固定化する方法、(b)一般式(I)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体に、1価または2価のカチオン成分を固定化して一般式(II)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体とした後、金属を固定化する方法、(c)一般式(I)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体に1価または2価のカチオン成分および金属を同時に固定化する方法、(d)一般式(I)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体の原料成分と1価または2価のカチオン成分、金属を同時に混合して、一般式(II)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体に金属が固定化した金属固定化触媒を得る方法等が挙げられる。良好な触媒活性を有する目的物を簡便に得るという観点からは、(a)および(b)の方法が好ましい。以下、リン酸塩から構成される触媒担体の製造方法および金属としてルテニウムを用いる固定化方法についてさらに具体的に説明するが、これらの方法は本発明の製造方法の一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(i)一般式(I)で表されるリン酸塩から構成される触媒担体の製造方法
チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムまたはスズのオキシ硝酸塩、オキシ塩化物、オキシ酢酸塩または塩化物、アルコキシド等(以下「金属原料」とも記す)を水および/または有機溶媒(アルコール等)に溶かした溶液と、リン酸またはリン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸エステル等を水および/または有機溶媒(アルコール等)に溶かした溶液とを混合し、リン酸塩スラリーを調製した後、スラリーを噴霧乾燥して粒子状のリン酸塩触媒担体を製造する。金属原料の濃度は、0.01〜5.0mol/lが好ましく、0.5〜2.0mol/lがより好ましい。また、リン酸またはリン酸塩の濃度は、0.01〜5.0mol/lが好ましく、0.1〜2.0mol/lがより好ましい。混合時間は0.01〜24時間が好ましく、混合温度は15〜40℃が好ましい。得られたリン酸塩触媒担体は、ルテニウム固定化後の触媒活性を高めるとともに、触媒担体の機械的強度を高めるため、300〜800℃で0.1〜24時間、熱処理を施すのが好ましい。
【0042】
(ii)一般式(II)で表されるリン酸塩から構成される触媒担体の製造方法
上記金属原料の溶液と、上記リン酸またはリン酸塩の溶液と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期律表第6〜12族の第4周期元素、ならびに銀からなる群から選択される1種または2種以上の元素の硝酸塩、塩化物、酢酸塩等を水および/または有機溶媒(アルコール等)に溶かした溶液とを混合し、一般式(II)で表されるリン酸塩スラリーを調製した後、スラリーを噴霧乾燥し粒子状のリン酸塩触媒担体を製造する。
【0043】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期律表第6〜12族の第4周期元素、ならびに銀からなる群から選択される1種または2種以上の元素の塩の濃度は、0.01〜5.0mol/lが好ましく、0.5〜2.0mol/lがより好ましい。金属原料、リン酸またはリン酸塩の濃度、混合時間、および混合温度は上記一般式(I)で表されるリン酸塩から構成される触媒担体の製造方法の場合と同様である。
【0044】
上記の方法により得られた一般式(II)で表されるリン酸塩から構成される触媒担体は、ルテニウム固定化後の触媒活性を高めるとともに、触媒担体の機械的強度を高めるため、300〜800℃で0.1〜24時間、熱処理を行うのが好ましい。また、あらかじめ一般式(I)で表されるリン酸塩から構成される触媒担体を調製しておき、カチオン成分を固定化して一般式(II)で表されるリン酸塩から構成される触媒担体とする場合、その成分、濃度、混合時間、および温度も上記の製造方法の場合と同様である。
【0045】
(iii)ルテニウムの固定化方法
ルテニウム化合物の水および/またはアルコール溶液と上記リン酸塩触媒担体とを接触させた後、濾過、洗浄、乾燥等を行う。ルテニウム化合物としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、ルテニウムアセチルアセトナート等が挙げられ、その溶液の濃度は0.001〜10g/lが好ましく、0.1〜5.0g/lがより好ましい。接触方法は、特に制限されず、混合、通液等のいずれの方法でもよい。接触時間は、0.1〜24時間が好ましく、0.5〜4時間がより好ましい。接触温度は、5〜50℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。洗浄は、水、アセトン、メタノール等により行うことができ、乾燥は真空乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、風乾等で行うことができる。より高い触媒活性を得るためには風乾が好ましい。
【0046】
ルテニウムの固定化量は、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し0.1〜20重量%が好ましく、高転化率で酸化反応を行なうためには1〜10重量%がより好ましい。また、上記(c)および(d)の方法の場合のカチオン成分とその濃度、ルテニウム化合物成分とその濃度は、上記の(i)または(ii)に記載の製造方法の場合と同様であり、固定化時間および温度は、(iii)のルテニウム固定化方法の場合と同様である。
【0047】
(4)アルコール等の酸化反応
上記の方法により得られたルテニウム固定化触媒を無溶媒または溶媒の存在下、アルコールと接触させることにより、対応するアルデヒドまたはケトンを製造することができる。反応に用いるアルコールとしては、炭素数1〜20の脂肪族直鎖アルコール、炭素数1〜20の脂肪族環状アルコール等が挙げられ、これらは飽和および不飽和のいずれであってもよく、非置換であっても置換基を有していてもよく、第一級アルコール、第二級アルコールおよび第三級アルコールのいずれをも含む。置換基としては、メチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、フェニル基等の芳香族炭化水素基、ピリジル基、チエニル等の複素環基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、塩素原子等のハロゲン等が挙げられる。
【0048】
反応に用いるアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、1−ドデカノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、シンナミルアルコール、2−(ヒドロキシメチル)ピリジン等の置換基を有してもよい脂肪族直鎖アルコール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、1−シクロへキセノール、1−シクロペンテノール等の置換基を有してもよい脂肪族環状アルコール等が挙げられる。
【0049】
溶媒は、酸化反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、使用しなくてもよい。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、ジクロロメタン、シクロヘキサン、ジクロロエタン、クロロホルム等が挙げられる。効率よく酸化反応を進行させるためには、トルエン、ベンゼン等が好ましい。
【0050】
酸化反応温度は好ましくは0〜150℃、より好ましくは20〜100℃である。反応時間は好ましくは0.01〜50時間、より好ましくは0.1〜30時間である。接触方法は特に制限されず、混合、通液等の手段を用いることができる。
【0051】
本発明のルテニウム固定化触媒は、アルコールの酸化触媒として特に好適であるが、これに限られずアルコール以外の基質の酸化反応にも用いることができる。例えばアルデヒド、アミンおよびチオールを基質として対応するカルボン酸、ニトリルおよびジスルフィドに酸化する反応に用いることができる。
【0052】
(5)金属固定化触媒の再生方法
本発明の金属固定化触媒は、使用により触媒活性が低下することがある。かかる場合、例えば酸化反応に使用した金属固定化触媒を、酸浸漬、アルカリ浸漬、塩化ナトリウム水溶液浸漬等の処理により触媒活性を再生することができる。ここで使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられ、その濃度は0.001〜1000mmol/lが好ましく、より高い再生効果を得るためには0.001〜100mmol/lがより好ましい。
【0053】
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、その濃度は0.001〜100mmol/lが好ましく、より高い再生効果を得るためには0.001〜10mmol/lがより好ましい。塩化ナトリウムは、0.001〜1000mol/lが好ましく、より高い再生効果を得るためには0.01〜100mol/lがより好ましい。いずれの浸漬液の場合も、浸漬時間は0.5〜24時間が好ましく、浸漬温度は15〜70℃が好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1
(1)リン酸ジルコニウム担体の製造
0.5mol/lのオキシ硝酸ジルコニウム水溶液1リットルと1.0mol/lのリン酸二水素アンモニウム水溶液1リットルを滴下混合して、リン酸ジルコニウムスラリーを調製した。スラリーを噴霧乾燥してリン酸ジルコニウム粒子を作製した。得られたリン酸ジルコニウム粒子を650℃で4時間熱処理し、X線回折測定を行った。
【0056】
粉末X線回折プロファイルにおいて観測された回折線は、Powder Diffraction File (PDF) No.85-0896 ZrP(International Centre for Diffraction Data)とよい一致が見られた。
【0057】
回折線No.;回折指数;格子面間隔(実測値/PDF値)、1;111;0.47665 nm / 0.47631 nm、2;200;0.41297 nm / 0.41250 nm、3;210;0.36957 nm / 0.36895 nm、4;211;0.33707 nm / 0.33681 nm、5;220;0.29191 nm / 0.29168 nm、6;311;0.24887 nm / 0.24875 nm
【0058】
なお、X線回折(リガク社製 RINT2100/PC)の測定条件は、ターゲット Cu、管電圧 40kV、管電流 40mA、発散スリット 1/2°、発散縦制限スリット 10.00mm、散乱スリット 1/2°、受光スリット 0.30mmに設定した。
【0059】
(2)ルテニウムの固定化
塩化ルテニウム水溶液(1リットル中にRu0.5gを含有する)1リットルにリン酸ジルコニウム担体10gを入れ、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを4.5に調整した後、常温で4時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。Ruの固定化量は蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し5重量%であることを確認した。なお、蛍光X線はZSX100e式波長分散型蛍光X線分析装置(リガク社製)を使用し、条件は、分析線 Ru−Lα、ターゲット Rh、管電圧−管電流 50kV−70mA、検出器 PC、分光結晶Geに設定した。
【0060】
実施例2
(1)リン酸ジルコニウム担体の製造
0.75mol/lのオキシ硝酸ジルコニウム水溶液1リットルと1.0mol/lのリン酸二水素アンモニウム水溶液1リットルを滴下混合して、リン酸ジルコニウムスラリーを調製した。スラリーを噴霧熱分解してリン酸ジルコニウム粒子を作製した。得られたリン酸ジルコニウム粒子を700℃で4時間熱処理し、実施例1と同様にX線回折測定を行った。粉末X線回折プロファイルは非晶質相を示すハローパターンが得られた。
【0061】
(2)ルテニウムの固定化
塩化ルテニウム水溶液(1リットル中にRu1.0gを含有する)1リットルにリン酸ジルコニウム担体10gを入れ、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを5.0に調整した後、常温で4時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。Ruの固定化量は、実施例1と同様に蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し10重量%であることを確認した。
【0062】
実施例3
(1)リン酸チタン担体の製造
0.5mol/lのチタニウムテトライソプロポキシドのイソプロパノール溶液1リットルと1.0mol/lのリン酸のイソプロパノール溶液1リットルを滴下混合して、リン酸チタンの白色沈殿を得た。白色沈殿は濾別水洗し、150℃で8時間乾燥した後、600℃で4時間熱処理し、実施例1と同様にX線回折測定を行った(TiP)。粉末X線回折プロファイルは非晶質相を示すハローパターンが得られた。
【0063】
(2)ルテニウムの固定化
塩化ルテニウム水溶液(1リットル中にRu0.5gを含有する)にリン酸チタン担体(1)10gを入れ、水酸化カリウム水溶液を加えてpHを4.5に調整した後、常温で4時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。Ruの固定化量は実施例1と同様に蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し5重量%であることを確認した。
【0064】
実施例4
(1)リン酸チタン担体の製造
0.75mol/lのチタニウムテトライソプロポキシドのイソプロパノール溶液1リットルと1.0mol/lのリン酸のイソプロパノール溶液1リットルを滴下混合して、リン酸チタンのスラリーを得た。スラリーは噴霧乾燥した後、650℃で4時間熱処理し、実施例1と同様にX線回折測定を行った。粉末X線回折プロファイルは非晶質相を示すハローパターンが得られた。
【0065】
(2)ルテニウムの固定化
硝酸ルテニウム水溶液(1リットル中にRu0.5gを含有する)1リットルにリン酸チタン担体10gを入れ、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを4.5に調整した後、常温で4時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。Ruの固定化量は、実施例1と同様に蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し5重量%であることを確認した。
【0066】
実施例5
(1)リン酸ジルコニウムカリウム担体の製造
0.5mol/lのオキシ硝酸ジルコニウム水溶液1リットルと、1mol/lのリン酸水溶液1リットルと、2mol/lの水酸化カリウム水溶液0.5リットルとを滴下混合して、リン酸ジルコニウムカリウムスラリーを調製した。スラリーを噴霧乾燥してリン酸ジルコニウムカリウム粒子を作製した。得られたリン酸ジルコニウムカリウム粒子を650℃で4時間熱処理し、触媒担体とした。実施例1と同様にX線回折測定を行ったところ、粉末X線回折プロファイルは非晶質相を示すハローパターンが得られた。さらに1000℃で熱処理して得られたリン酸ジルコニウムカリウムの粉末X線回折プロファイルにおいて観測された回折線は、PDF No.76-0242 KZr(PO) とよい一致が見られた。
【0067】
回折線No.;回折指数;格子面間隔(実測値/PDF値)、1;001;0.90190 nm / 0.90110 nm、2;011;0.40157 nm / 0.40134 nm、3;012;0.31794 nm / 0.31777 nm、4;110;0.25902 nm / 0.25880 nm、5;104;0.20127 nm / 0.20129 nm、6;11-3;0.19609 nm / 0.19606 nm
【0068】
(2)ルテニウムの固定化
塩化ルテニウム水溶液(1リットル中にRu0.5gを含有する)にリン酸ジルコニウムカリウム担体(1)10gを入れ、常温で4時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。ルテニウムの固定化量は実施例1と同様に蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し5重量%であることを確認した。
【0069】
実施例6
(1)リン酸ジルコニウムナトリウム担体の製造
0.5mol/lのオキシ硝酸ジルコニウム水溶液1リットルと、0.75mol/lのリン酸水溶液1リットルと、0.25mol/lの水酸化ナトリウム水溶液1.0リットルとを滴下混合して、リン酸ジルコニウムナトリウムスラリーを調製した。スラリーを噴霧乾燥してリン酸ジルコニウムナトリウム粒子を作製した。得られたリン酸ジルコニウムナトリウム粒子を650℃で4時間熱処理し、触媒担体とした。実施例1と同様にX線回折測定を行ったところ、粉末X線回折プロファイルにおいて観測された回折線は、PDF No.70-0233 NaZr(PO) とよい一致が見られた。
【0070】
回折線No.;回折指数;格子面間隔(実測値/PDF値)、1;104;0.45953 nm / 0.45604 nm、2;110;0.44004 nm / 0.44075 nm、3;113;0.38143 nm / 0.38105 nm、4;024;0.31625 nm / 0.31692 nm、5;116;0.28810 nm / 0.28741 nm、6;300;0.25364 nm / 0.25447 nm、7;324;0.16720 nm / 0.16738 nm
【0071】
(2)ルテニウムの固定化
塩化ルテニウム水溶液(1リットル中にRu0.5gを含有する)にリン酸ジルコニウムナトリウム担体(1)10gを入れ、常温で2時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。ルテニウムの固定化量は実施例1と同様に蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し5重量%であることを確認した。
【0072】
実施例7
(1)リン酸ジルコニウムリチウム担体の製造
0.5mol/lのオキシ硝酸ジルコニウム水溶液1リットルと、0.75mol/lのリン酸水素二アンモニウム水溶液1リットルと、1mol/lの硝酸リチウム水溶液0.25リットルとを滴下混合して、リン酸ジルコニウムリチウムスラリーを調製した。スラリーを噴霧乾燥してリン酸ジルコニウムリチウム粒子を作製した。得られたリン酸ジルコニウムリチウム粒子を650℃で4時間熱処理し、触媒担体とした。実施例1と同様にX線回折測定を行ったところ、粉末X線回折プロファイルにおいて観測された回折線は、PDF No.84-0998 LiZr(PO) とよい一致が見られた。
【0073】
回折線No.;回折指数;格子面間隔(実測値/PDF値)、1;110;0.44060 nm / 0.44235 nm、2;300;0.25476 nm / 0.25539 nm、3;134;0.19941 nm / 0.19850 nm
【0074】
(2)ルテニウムの固定化
塩化ルテニウム水溶液(1リットル中にRu0.5gを含有する)にリン酸ジルコニウムカリウム担体(1)10gを入れ、常温で4時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。ルテニウムの固定化量は実施例1と同様に蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し5重量%であることを確認した。
【0075】
実施例8
(1)リン酸ジルコニウムカルシウム担体の製造
2mol/lのオキシ硝酸ジルコニウム水溶液2リットルと、2mol/lのリン酸水素二アンモニウム水溶液3リットルと、2mol/lの硝酸カルシウム水溶液0.5リットルとを滴下混合して、リン酸ジルコニウムカルシウムスラリーを調製した。スラリーは噴霧熱分解してリン酸ジルコニウムカルシウム粒子を作製した。得られたリン酸ジルコニウムカルシウム粒子は650℃で4時間熱処理し、触媒担体とした(ZrCa(PO)。実施例1と同様にX線回折測定を行ったところ、粉末X線回折プロファイルにおいて観測された回折線は、PDF No.33-0321 CaZr(PO) とよい一致が見られた。
【0076】
回折線No.;回折指数;格子面間隔(実測値/PDF値)、1;012;0.62224 nm / 0.63160 nm、2;110;0.44225 nm / 0.43920 nm、3;113;0.37635 nm / 0.37980 nm、4;024;0.31360 nm / 0.31594 nm、5;116;0.28702 nm / 0.28651 nm、6;214;0.25576 nm / 0.25643 nm、7;220;0.21978 nm / 0.21965 nm、8;306;0.21132 nm / 0.21062 nm、9;134;0.19770 nm / 0.19777 nm
【0077】
(2)ルテニウムの固定化
塩化ルテニウム水溶液(1リットル中にRu0.5gを含有する)にリン酸ジルコニウムカルシウム担体(1)10gを入れ、さらにpH4.0になるように1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を加え、 常温で4時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。ルテニウムの固定化量は実施例1と同様に蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し5重量%であることを確認した。
【0078】
実施例9
(1)リン酸ジルコニウムマグネシウム担体の製造
2mol/lのオキシ硝酸ジルコニウム水溶液2リットルと、2mol/lのリン酸水素二アンモニウム水溶液3リットルと、2mol/lの硝酸マグネシウム水溶液0.5リットルとを滴下混合して、リン酸ジルコニウムマグネシウムスラリーを調製した。スラリーは噴霧熱分解してリン酸ジルコニウムマグネシウム粒子を作製した。得られたリン酸ジルコニウムマグネシウム粒子を750℃で4時間熱処理し、触媒担体とした。実施例1と同様にX線回折測定を行ったところ、粉末X線回折プロファイルにおいて観測された回折線は、PDF No.45-0419 MgZr(PO) とよい一致が見られた。
【0079】
回折線No.;回折指数;格子面間隔(実測値/PDF値)、1;011;0.56116 nm / 0.56015 nm、2;111;0.44270 nm / 0.44171 nm、3;-121;0.39554 nm / 0.39553 nm、4;-221;0.37788 nm / 0.37670 nm、5;012;0.33472 nm / 0.3352 nm、6;-222;0.31341 nm / 0.31349 nm、7;400;0.31042 nm / 0.31069 nm、8;-213;0.27450 nm / 0.27462 nm、9;202;0.25545 nm / 0.25511 nm
【0080】
(2)ルテニウムの固定化
塩化ルテニウム水溶液(1リットル中にRu0.5gを含有する)にリン酸ジルコニウムマグネシウム担体(1)10gを入れ、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを4.5に調整した後、 常温で4時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。ルテニウムの固定化量は実施例1と同様に蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し5重量%であることを確認した。
【0081】
実施例10
(1)リン酸ジルコニウムマンガン担体の製造
2mol/lのオキシ硝酸ジルコニウム水溶液2リットルと、2mol/lリン酸水素二アンモニウム水溶液3リットルと、2mol/lの硝酸マンガン水溶液0.5リットルとを滴下混合して、リン酸ジルコニウムマンガンスラリーを調製した。スラリーは噴霧熱分解してリン酸ジルコニウムマンガン粒子を作製した。得られたリン酸ジルコニウムマンガン粒子を800℃で4時間熱処理し、触媒担体とした。実施例1と同様にX線回折測定を行ったところ、粉末X線回折プロファイルにおいて観測された回折線は、PDF No.45-0015 MnZr(PO) とよい一致が見られた。
【0082】
回折線No.;回折指数;格子面間隔(実測値/PDF値)、1;200;0.44268 nm / 0.44230 nm、2;211;0.37770 nm / 0.37810 nm、3;004;0.31073 nm / 0.31250 nm、4;213;0.28675 nm / 0.28720 nm、5;114;0.28183 nm / 0.27990 nm、6;312;0.25546 nm / 0.25560 nm、7;420;0.19814 nm / 0.19840 nm
【0083】
(2)ルテニウムの固定化
塩化ルテニウム水溶液(1リットル中にRu0.5gを含有する)にリン酸ジルコニウムマンガン担体(1)10gを入れ、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを4.0に調整した後、 常温で4時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。ルテニウムの固定化量は実施例1と同様に蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し5重量%であることを確認した。
【0084】
実施例11
(1)リン酸ジルコニウム銀担体の製造
0.5mol/lのオキシ硝酸ジルコニウム水溶液1リットルと、0.75mol/lのリン酸水溶液1リットルと、0.25mol/l硝酸銀水溶液1.0リットルとを滴下混合して、リン酸ジルコニウム銀スラリーを調製した。スラリーを噴霧乾燥してリン酸ジルコニウム銀粒子を作製した。得られたリン酸ジルコニウム銀粒子を600℃で4時間熱処理し、触媒担体とした。実施例1と同様にX線回折測定を行ったところ、粉末X線回折プロファイルにおいて観測された回折線は、PDF No.34-1245 AgZr(PO)とよい一致が見られた。
【0085】
回折線No.;格子面間隔(実測値/PDF値)、1; 0.44141 nm / 0.43800 nm、2; 0.38244 nm / 0.38000 nm、3; 0.28634 nm / 0.28700 nm、4; 0.25466 nm / 0.25400 nm、5; 0.19089 nm / 0.19000 nm
【0086】
(2)ルテニウムの固定化
塩化ルテニウム水溶液(1リットル中にRu0.5gを含有する)にリン酸ジルコニウム銀担体(1)10gを入れ、常温で2時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。その後濾別水洗、アセトン洗浄後風乾した。ルテニウムの固定化量は実施例1と同様に蛍光X線分析により定量し、ルテニウム固定化触媒の全重量に対し5重量%であることを確認した。
【0087】
実施例12
実施例2のルテニウム(10重量%)固定化リン酸ジルコニウム0.1g、DL−1−フェニルエチルアルコール2mmolをトルエン10mlに投入し、大気圧下、酸素雰囲気下で、80℃で0.5時間撹拌した。生成物を実施例12と同様にガスクロマトグラフィーにより定量したところ、アセトフェノンが96%の収率で得られた。このときの転化率は96%、選択率は100%であった。なお、ガスクロマトグラフィーはGC−17A(島津製作所製)を使用し、分析条件は、カラム:DB−WAX 30m×0.25mm(J&W社製)、キャリヤーガス:ヘリウム、検出器:FID、カラム温度:180℃とした。
【0088】
実施例13
実施例4のルテニウム(5重量%)固定化リン酸チタン0.1g、DL−1−フェニルエチルアルコール2mmolをトルエン10mlに投入し、大気圧下、酸素雰囲気下で、80℃で1時間撹拌した。生成物を実施例12と同様にガスクロマトグラフィーにより定量したところ、アセトフェノンが99%の収率で得られた。このときの転化率は99%、選択率は100%であった。
【0089】
実施例14
実施例5のルテニウム(5重量%)固定化リン酸ジルコニウムカリウム0.1g、DL−1−フェニルエチルアルコール2mmolをトルエン10mlに投入し、大気圧下、酸素雰囲気下、または空気雰囲気下、80℃で反応させた。生成物を実施例12と同様にガスクロマトグラフィーにより定量したところ、いずれの雰囲気下においても反応時間0.5時間においてアセトフェノンが100%の収率で得られた。それぞれの条件における転化率と選択率はともに100%であった。
【0090】
実施例15
実施例5のルテニウム(5重量%)固定化リン酸ジルコニウムカリウム 0.5gを触媒として、表1に示す基質についての転化率および選択率を調べた。転化率、選択率、反応温度および反応時間を表1に示す。表1に示す通り、いずれの基質を用いても高転化率および高選択率でアルデヒドまたはケトンが得られることがわかる。
【0091】
【表1】

【0092】
実施例16
実施例6のルテニウム(5重量%)固定化リン酸ジルコニウムナトリウム0.5g、DL−1−フェニルエチルアルコール2mmolをトルエン10mlに投入し、大気圧下、酸素雰囲気下で、80℃で1時間撹拌した。生成物を実施例12と同様にガスクロマトグラフィーにより定量したところ、アセトフェノンが100%の収率で得られた。このときの転化率は100%、選択率は100%であった。
【0093】
実施例17
実施例7のルテニウム(5重量%)固定化リン酸ジルコニウムリチウム0.5g、ベンジルアルコール2mmolをトルエン10mlに投入し、大気圧下、酸素雰囲気下で、80℃で1時間撹拌した。生成物を実施例12と同様にガスクロマトグラフィーにより定量したところ、ベンズアルデヒドが100%の収率で得られた。このときの転化率は100%、選択率は100%であった。
【0094】
実施例18
実施例8のルテニウム(5重量%)固定化リン酸ジルコニウムカルシウム0.1g、DL−1−フェニルエチルアルコール2mmolをトルエン10mlに投入し、大気圧下、酸素雰囲気下で、80℃で2時間撹拌した。生成物を実施例12と同様にガスクロマトグラフィーにより定量したところ、アセトフェノンが98%の収率で得られた。このときの転化率は99%、選択率は99%であった。
【0095】
実施例19
実施例9のルテニウム(5重量%)固定化リン酸ジルコニウムマグネシウム0.1g、DL−1−フェニルエチルアルコール2mmolをトルエン10mlに投入し、大気圧下、酸素雰囲気下で、80℃で2時間撹拌した。生成物を実施例12と同様にガスクロマトグラフィーにより定量したところ、アセトフェノンが98%の収率で得られた。このときの転化率は99%、選択率は99%であった。
【0096】
実施例20
実施例10のルテニウム(5重量%)固定化リン酸ジルコニウムマンガン0.1g、DL−1−フェニルエチルアルコール2mmolをトルエン10mlに投入し、大気圧下、酸素雰囲気下で、80℃で2時間撹拌した。生成物を実施例12と同様にガスクロマトグラフィーにより定量したところ、アセトフェノンが99%の収率で得られた。このときの転化率は99%、選択率は100%であった。
【0097】
実施例21
実施例11のルテニウム(5重量%)固定化リン酸ジルコニウム銀0.2g、DL−1−フェニルエチルアルコール2mmolをトルエン10mlに投入し、大気圧下、酸素雰囲気下、80℃で反応させた。生成物を実施例12と同様にガスクロマトグラフィーにより定量したところ、反応時間4時間においてアセトフェノンが100%の収率で得られた。上記の条件における転化率と選択率はともに100%であった。
【0098】
比較例1
実施例6と同様、ルテニウム(9.2重量%)/ヒドロキシアパタイト(HAp、和光純薬工業株式会社製)、ルテニウム(5重量%)/アルミナ(アクロス社製)をそれぞれ0.1gと1−フェニルエチルアルコール2mmolをトルエン10mlに投入し、大気圧下、酸素雰囲気下で、80℃で1時間撹拌した。生成物を実施例5と同様にガスクロマトグラフィーにより定量した結果を表2に示す。本発明のルテニウム固定化触媒と比較して、ルテニウム/HApやルテニウム/アルミナは転化率が低かった。
【0099】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
(MIV)(P) (I)
(式中、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、xは0.6〜1を表す。)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体。
【請求項2】
一般式(II)
(MO)(MIV)(P) (II)
(式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、周期律表第6〜12族の第4周期元素および銀からなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、yは0.25〜1を表し、zは0.75〜1を表す。)で表されるリン酸塩を含有する触媒担体。
【請求項3】
IVがジルコニウムまたはチタンである、請求項1または2に記載の触媒担体。
【請求項4】
Mが、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムまたはマンガンである、請求項2または3に記載の触媒担体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の触媒担体に金属が固定化した、金属固定化触媒。
【請求項6】
金属がルテニウムである、請求項5に記載の金属固定化触媒。
【請求項7】
ルテニウムの含有量が金属固定化触媒の全重量に対し0.1〜20重量%である、請求項6に記載の金属固定化触媒。
【請求項8】
一般式(I)
(MIV)(P) (I)
(式中、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、xは0.6〜1を表す。)で表されるリン酸塩に金属を接触させる、金属固定化触媒の製造方法。
【請求項9】
一般式(II)
(MO)(MIV)(P) (II)
(式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、周期律表第6〜12族の第4周期元素および銀からなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、MIVはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群から選択される1種または2種以上の元素を表し、yは0.25〜1を表し、zは0.75〜1を表す。)で表されるリン酸塩に金属を接触させる、金属固定化触媒の製造方法。
【請求項10】
リン酸塩にルテニウムを接触させる、請求項8または9に記載の金属固定化触媒の製造方法。
【請求項11】
請求項6または7に記載の金属固定化触媒を用いて、アルコールからアルデヒドまたはケトンを製造する方法。
【請求項12】
請求項6または7に記載の金属固定化触媒の、アルコールの酸化反応への使用。

【公開番号】特開2007−44602(P2007−44602A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230293(P2005−230293)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】