説明

触媒材料およびその製造方法

【課題】活性な表面積を拡大することができる触媒材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミナと銀とが交互に積層された層状構造体と、Ag、Au、Cu、Sn、Pb、Ni、Zn、P、Mg、Al、Fe、S、CおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素が分散された硫酸カルシウムとを備え、層状構造体と、金属元素が分散された硫酸カルシウムとを接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒材料およびその製造方法に関し、特にディーゼルエンジンのパティキュレートの燃焼を促進させるために用いられる触媒材料およびその製造方法に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンのパティキュレート(PM)に含まれる炭素の燃焼を促進させる触媒材料として、アルミナと銀とを層状構造としたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の触媒材料によれば、300℃〜400℃といった従来よりも低温で炭素の燃焼を開始させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−219970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、触媒材料のPM燃焼性能は活性点の数によって左右されるが、活性点数は触媒量が同じであれば触媒表面積に依存する。
【0005】
ここで、上記特許文献1に記載の触媒材料では、金属銀および銀ベータアルミナ部分が活性点となる。しかしながら、当該触媒材料は、アルミナと銀とが層状構造をなしているので、金属銀および銀ベータアルミナ部分の表面積が小さく、すなわち活性点が限られている。このため、要求される触媒性能を発揮させるためには、高価な銀が相当量必要となり、製造コストが増加するという問題がある。
【0006】
また、一般に、触媒材料の活性点にディーゼルエンジンから排出される難燃性のアッシュ成分が堆積すると、パティキュレートマター(PM)燃焼性能を発揮できなくなるという問題もある。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、活性な表面積を拡大することができる触媒材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、アルミナと銀とが交互に積層された層状構造体と、Ag、Au、Cu、Sn、Pb、Ni、Zn、P、Mg、Al、Fe、S、CおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素が分散された硫酸カルシウムとを有し、層状構造体と、金属元素が分散された硫酸カルシウムとが接触していることを特徴としている。
【0009】
これによれば、詳細は不明であるが、例えば内燃機関の排気中に含まれる酸素が層状構造体の金属銀および銀ベータアルミナ部分に付着すると活性酸素(O)に変化するが、この活性酸素がAg、Au、Cu、Sn、PbNi、Zn、P、Mg、Al、Fe、S、CおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有した硫酸カルシウム中を伝播し、硫酸カルシウム表面上の炭素と反応して二酸化炭素になる、すなわち炭素を燃焼させることができると考えられる。このとき、硫酸カルシウム部分を活性面とすることができるので、活性な表面積を拡大することが可能となる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の触媒材料において、ディーゼルエンジンのパティキュレートを燃焼するために用いられていてもよい。
【0011】
この場合、ディーゼルエンジンから排出される難燃性のアッシュにより触媒性能が低下することが懸念されるが、アッシュ成分の主成分が硫酸カルシウムであるため、アッシュ成分が層状構造体の金属銀および銀ベータアルミナ部分に付着して活性面を被覆しても、加熱処理工程によりアッシュ(硫酸カルシウム)中に金属元素を分散できるため、結果として、金属元素が分散された硫酸カルシウムが層状構造体に接触した状態と同様の形態となり、金属銀および銀ベータアルミナ部分、または銀が分散した硫酸カルシウム部分を活性面としてパティキュレートを燃焼することができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の触媒材料において、硫酸カルシウムには、銀が分散されており、硫酸カルシウム中の銀の含有量が、0.1wt%以上であることを特徴としている。このように、硫酸カルシウム中の銀の含有量を0.1wt%以上とすることで、触媒としての性能を充分に発揮させることができる。
【0013】
また、請求項4に記載の発明では、アルミナと銀とが交互に積層された層状構造体と、銀が分散された硫酸カルシウムとを有するとともに、層状構造体と、銀が分散された硫酸カルシウムとが接触している触媒材料の製造方法であって、層状構造体と硫酸カルシウムとを混合する混合工程と、混合された層状構造体と硫酸カルシウムとを加熱処理することにより、銀を硫酸カルシウム中に拡散させる加熱処理工程とを備えることを特徴としている。
【0014】
これによれば、加熱処理工程において、層状構造体に含まれていた銀を硫酸カルシウム中に分散させることができるので、混合工程において別途銀を加える必要がなくなる。したがって、層状構造体と、銀が分散された硫酸カルシウムとを有する触媒材料を容易に製造することが可能となる。
【0015】
また、請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の触媒材料の製造方法において、加熱処理の温度は、600℃以上、1000℃以下であることを特徴としている。このように、加熱処理温度を1000℃以下とすることで層状構造体の構造を維持しつつ、加熱処理温度を600℃以上とすることで硫酸カルシウム中に銀を充分に拡散させることが可能となる。
【0016】
また、請求項6に記載の発明では、請求項1または2に記載の触媒材料の製造方法であって、層状構造体、金属元素および硫酸カルシウムを混合する混合工程を備えることを特徴としている。
【0017】
これによれば、混合工程において、硫酸カルシウム中に金属元素を分散することができるので、請求項1または2の触媒材料を適切に製造することが可能な製造方法を提供し得る。
【0018】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る触媒材料の模式的な構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る触媒材料の作用を説明するための模式図である。
【図3】エネルギー分散型蛍光エックス線分析装置により硫酸カルシウム中の銀の存在量を測定した結果を示すグラフである。
【図4】各触媒(A、B、C)についての重量変化と加熱温度との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態について図1〜図4に基づいて説明する。本実施形態の触媒材料は、ディーゼルエンジンのパティキュレート(PM)に含まれる炭素の燃焼を促進させるために用いられる。
【0021】
図1は本実施形態に係る触媒材料の模式的な構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態の触媒材料は、アルミナ(Al)1と銀2とが交互に積層された層状構造体(以下、層状銀アルミナ触媒3という)と、Ag、Au、Cu、Sn、Pb、Ni、Zn、P、Mg、Al、Fe、S、CおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素4が分散された硫酸カルシウム(CaSO)5とを有して構成されている。より詳細には、触媒材料は、層状銀アルミナ触媒3が、金属元素4が分散された硫酸カルシウム5により覆われた構成になっている。
【0022】
ここで、層状銀アルミナ触媒3は、アルミナ1と銀2とが層状構造をなすものであって、本実施形態では、アルミナ1として当該アルミナ自身にも銀が入り込んだAg−ベータアルミナを採用し、銀2として金属銀を採用している。また、本実施形態では、金属元素4として銀を採用している。
【0023】
また、本実施形態の触媒材料は、担体(図示せず)に担持されている。ここで、担体の材質としては、アルミナ、シリカ(SiO)、コージェライト(MgAl(AlSi18))、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスを採用することができる。また、担体としては、ハニカム構造体、ボール型、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)、ペレット等を採用することができる。
【0024】
次に、本実施形態の触媒材料の作用について述べる。図2は本実施形態に係る触媒材料の作用を説明するための模式図である。
【0025】
車両の内燃機関の排気中には酸素が含まれている。詳細は不明であるが、排気中の酸素が層状銀アルミナ触媒3の金属銀および銀ベータアルミナ部分2に付着すると、活性酸素(O)に変化し、この活性酸素が、銀4を含有した硫酸カルシウム5中を伝播し、硫酸カルシウム5表面上のPM(炭素)と反応して二酸化炭素になる、すなわちPMに含まれる炭素を燃焼させることができると考えられる。
【0026】
このとき、硫酸カルシウム5は、銀4が分散できる部分、更には活性酸素を伝播する部分を提供する役割を果たしており、結果として、層状銀アルミナ触媒の金属銀および銀ベータアルミナ部分のみならず、層状銀アルミナ触媒と接触した銀分散硫酸カルシウム部分も、炭素の燃焼可能領域として活用できるようになる。したがって、層状銀アルミナ触媒に銀が分散した硫酸カルシウムを接触させた状態を1つの新たな触媒体と見なすことができ、接触した炭素を燃焼できる有効領域が、これまでの金蔵銀および銀ベータアルミナ部分に加えて、銀が分散された硫酸カルシウム領域にも拡大できることになり、活性な表面積を拡大することが可能となる。これにより、触媒としての性能を確保しつつ、表面積が増えた分、要求される触媒性能を発揮させるための銀使用量の追加を不要とでき、結果、銀の使用量を低減することが可能となる。
【0027】
なお、層状銀アルミナ触媒3を触媒として利用した場合に、硫酸カルシウムを主成分とするアッシュが堆積し、層状銀アルミナ触媒3の活性点が埋没したときでも、加熱処理を行うことにより、層状銀アルミナ触媒3に含まれる銀を硫酸カルシウム中に分散することができる。これにより、活性な表面積を拡大、および活性酸素が伝播することができるので、触媒にアッシュが堆積したとしても、PM燃焼性能を発揮することが可能となる。
【0028】
次に、本実施形態の排気浄化用触媒の製造方法について述べる。まず、層状銀アルミナ触媒と硫酸カルシウムとを混合する(混合工程)。続いて、混合された層状銀アルミナ触媒と硫酸カルシウムとを加熱処理する(加熱処理工程)。これにより、層状銀アルミナ触媒に含まれる銀を硫酸カルシウム中に分散(拡散)させることができる。
【0029】
この製造方法によれば、加熱処理工程において、層状銀アルミナ触媒に含まれていた銀を硫酸カルシウム中に分散させることができるので、混合工程において別途銀を加える必要がなくなる。したがって、本実施形態の触媒材料を容易に製造することができる。
【0030】
本実施形態では、硫酸カルシウム中の銀の含有量を、0.1wt%以上としている。これは、本発明者の実験によると、硫酸カルシウム中の銀の含有量を0.1wt%より少なくすると、触媒としての性能を充分に発揮できないことがわかったからである。
【0031】
また、本実施形態では、上記加熱処理工程における加熱処理の温度は、600℃以上、1000℃以下としている。これは、後述する図3に示すように、加熱処理温度を600℃より低くすると、硫酸カルシウム中に銀を充分に拡散させることができないからである。一方、本発明者の実験によると、加熱処理温度を1100℃より高くした場合、層状銀アルミナ触媒の構造が維持できなくなることがわかったからである。
【0032】
ここで、層状銀アルミナ触媒中の銀が硫酸カルシウム中へ拡散することにより、層状銀アルミナ触媒自身の性能低下が懸念されるが、本発明者の実験によると、銀の拡散量は長時間加熱処理においても約1%以下と微量であり、性能への影響はほとんど見られないことがわかった。
【0033】
次に、限定するものではないが、上記実施形態の排気浄化用触媒およびその製造方法について、以下の各実施例を参照して、より具体的に説明する。
【0034】
(実施例1)
実施例1では、遷移アルミナと酸化銀あるいは酢酸銀との混合物を、酢酸が存在する環境にて150℃以上で水熱処理を行い、遷移アルミナと銀イオンとを反応させることにより、Ag−ベータアルミナよりなる層と銀よりなる層とが積層されてなる積層体としての触媒を形成した。この触媒材料は、後述の実施例2(図4参照)の銀アルミナボール触媒と同様に、400℃付近の低温から炭素微粉末を燃焼させることができるものである。
【0035】
本実施形態では、酸化銀とアルミナとのモル比は、酸化銀を1としたときアルミナを1以上とし、酸化銀と酢酸とのモル比は、酸化銀を1としたとき酢酸を1以上とする。この際、ある程度酢酸が多い方が分散性は高くなるが、酢酸が多すぎると銀が層状となったアルミナ層間に入らなくなる。具体的には、Alを10.0g、AgOを23.0g、酢酸を12.0g用意し、これらをイオン交換水1000mlに分散させた。
【0036】
次に、この分散液を、テフロン(登録商標)製の内容器を備えた圧力容器中に封入した。そして、185℃で24時間、水熱処理することで積層構造よりなる層状銀アルミナ触媒のゾルが得られた。
【0037】
このようにして得られた層状銀アルミナ触媒のゾルは乾燥、焼成して触媒粉末として得ることも可能である。また、担体等へ塗布する際にはゾル状態のまま利用することができる。
【0038】
層状銀アルミナ触媒は、例えばディップコート等によりセラミックスハニカム構造体等の担体に担持させて用いることができる。セラミックスハニカム構造体は、例えば外周壁と、該外周壁の内側においてハニカム状に設けられた隔壁と、該隔壁により仕切られていると共に少なくとも部分的に両端面に貫通してなる複数のセルとを有する。
【0039】
ここで、セルが両端面に貫通しているとは、当該セルがセラミックスハニカム構造体の両端部にて開口し、当該両端部間を貫通する孔としてセルが構成されていることである。そして、複数のセルのすべてが当該構造体の両端面にて開口していてもよい。また、複数のセルのうち一部のセルについては、当該両端面の部分が栓材等により閉塞されていてもよい。
【0040】
本実施例のセラミックスハニカム構造体においては、排気の入口側となる上流側端面及び排気の出口側となる下流側端面に位置するセルの端部は、栓部が配置された部分と配置されていない部分とをそれぞれ交互に有している。また、隔壁には多数の空孔が形成され、排気が通過できるようになっている。
【0041】
また、本実施例のセラミックスハニカム構造体の全体サイズは、直径30mm、長さ50mmであり、セルサイズは、セル厚さ0.3mm、セルピッチ1.47mmである。また、セラミックスハニカム構造体はコージェライトからなり、そのセルは、断面が四角形状のものを採用した。セルは、その他にも例えば、三角形、六角形等の様々な断面形状を採用することができる。
【0042】
そして、層状銀アルミナ触媒は、このセラミックスハニカム構造体におけるセルの内面として、上記隔壁に担持される。このような本実施例のハニカム構造体においては、銀が分散された層状アルミナを触媒材料としているため、低温で煤の燃焼が可能となる。また、層状銀アルミナ触媒は、焼成温度は銀の融点である962℃付近で焼成した場合に初期性能、耐久性に優れた触媒となる。
【0043】
続いて、上述した層状銀アルミナ触媒の周囲に硫酸カルシウムを被覆する方法を述べる。
【0044】
上記層状銀アルミナ触媒のゾルと硫酸カルシウムとの混合スラリーを作製した。この触媒分散液中にセラミックスハニカム構造体を浸漬させた後、乾燥させた。さらに浸漬と乾燥を繰り返すことにより、層状銀アルミナ触媒と硫酸カルシウムの混合触媒材料をセラミックスハニカム構造体に担持させた。その後、900℃で1時間焼成し、硫酸カルシウム中に銀を拡散させた。このようにして、本実施例のセラミックスハニカム構造体の内面、すなわち隔壁に銀含有硫酸カルシウム被覆銀アルミナ触媒が担持されたセラミックスハニカム構造体を得た。このセラミックスハニカム構造体を用いることにより、上記層状銀アルミナ触媒の優れた特徴を生かして、低温で煤を燃焼させることが可能となる。
【0045】
(実施例2)
本実施例2では、担体としてα−アルミナボールを用い、このα−アルミナボールの表面に触媒材料を担持した。以下、本実施例2に係る排気浄化用触媒の製造方法について述べる。
【0046】
まず、担体として直径2mmのα−アルミナボールを100g、銀を含む材料として酸化銀を1.16g、酢酸を1.2g用意し、これらに約35mlの蒸留水を加えて混合した。そして、この混合液を圧力容器に封入して、185℃で24時間、水熱処理を行った後、圧力容器から取り出し、表面に付着している酢酸銀を純水にて3回洗浄を行なった。その後、80℃で3時間乾燥させ、1000℃で4時間焼成した。
【0047】
これにより、担体としてのα−アルミナボールの表面に、層状銀アルミナ触媒が形成されてなる銀アルミナボール触媒(以下、触媒Aともいう)が得られた。
【0048】
続いて、上記の銀アルミナボール触媒の周囲に硫酸カルシウムを被覆する方法を述べる。硫酸カルシウムとしては、市販のものを用いてもよいし、実際の排気中に含まれる主成分が硫酸カルシウムのアッシュ成分を用いてもよい。
【0049】
まず、銀アルミナボール触媒0.5gと、硫酸カルシウム粉末0.05gを30ccスクリュー管に入れ、回転造粒機(アズワン株式会社製、型式:PZ−01R)にて25rpmで3分間処理し、硫酸カルシウム被覆銀アルミナボール触媒を得た。
【0050】
次に、硫酸カルシウム被覆銀アルミナボール触媒を600℃で1時間、大気中で焼成し、硫酸カルシウム中に銀を拡散させた銀含有硫酸カルシウム被覆銀アルミナボール触媒(以下、触媒Bともいう)を得た。
【0051】
図3はエネルギー分散型蛍光エックス線分析装置(株式会社島津製作所製、型式:EDX−800HS)により硫酸カルシウム中の銀の存在量を測定した結果である。図3より、600℃以上の温度での焼成により硫酸カルシウム中に銀が拡散していることが確認された。これにより、銀が拡散された硫酸カルシウム部分も触媒化、すなわちPMに含まれる炭素を燃焼させる触媒としての機能を発揮させることができる。
【0052】
このように、銀アルミナボール触媒の表面を、銀が拡散された硫酸カルシウムで覆うことにより、銀アルミナボール触媒のみでは限りのあった表面積や態様を、硫酸カルシウムの採り得る限りの様々な様態を採用することができる。具体的には、例えば硫酸カルシウムの表面に凹凸状の突起を設けること等により、触媒の表面積を拡大することができる。また、例えば触媒を担持させたい部位が特殊な形状をしていたとしても、当該部位の形状に合わせて硫酸カルシウムの形状を変化させることで、当該部位に触媒を担持させることができる。
【0053】
(比較例)
上記実施例2に対して、銀アルミナボール触媒表面に硫酸カルシウムを被覆した後、焼成工程を行なわず、硫酸カルシウム中に銀が存在していない未焼成硫酸カルシウム被覆銀アルミナボール触媒(以下、触媒Cともいう)を作製した。
【0054】
(煤燃焼性能評価)
上記実施例2および比較例で作製した触媒A、B、Cについて、排ガス浄化用触媒としての特性の評価、すなわち煤燃焼性能の評価を行った。この評価は、各触媒を炭素微粉と共に加熱したときの炭素微粉の重量変化と熱収支とを、示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、型式:EXSTAR TG/DTA6000)により測定することによって行った。
【0055】
まず、燃焼させる炭素微粉として、ディーゼルエンジンより採集した煤を用い、この煤を以下の方法で、各触媒の表面に被覆し、評価用のサンプルを作製した。
すなわち、まず、触媒A、B、Cの各々において、触媒に対する煤の重量比が1となるように調整した。具体的には、触媒Bを6個(約0.15g)に対して煤約1mgを30ccスクリュー管に入れ、回転造粒機(アズワン株式会社製、型式:PZ−01R)にて25rpm、3分間処理し、触媒Bの表面に煤を被覆した。触媒A、Cについても同様にして煤を表面に被覆した。
【0056】
次に、煤を被覆した各触媒A、B、Cを上述した示差熱熱重量同時測定装置にセットし、10体積%のOガスと90体積%のNガスとからなる混合ガスを、100ml/minで各触媒A、B、Cにフローさせながら、昇温速度10℃/minで加熱した。
【0057】
その結果を図4に示す。図4は、各触媒A、B、Cについての重量変化と加熱温度との関係を示す特性図である。図4において、重量変化は燃焼速度[mg/秒]として示してある。
【0058】
図4に示される触媒A(銀アルミナボール触媒)のデータからわかるように、400℃付近から炭素の燃焼が始まり、550℃付近に燃焼のピークがある。 また、触媒C(未焼成硫酸カルシウム被覆銀アルミナボール触媒)では、立ち上がり温度が500℃以上と触媒Aに比べると高く、燃焼のピークも650℃と高温にならないと炭素微粉末が燃焼しなかった。これらの結果より、触媒Cにおいては、硫酸カルシウムが触媒として機能していないことがわかる。
【0059】
これに対し、触媒B(銀含有硫酸カルシウム被覆銀アルミナボール触媒)では触媒Aとほぼ同等の性能を発揮できることがわかる。この詳細は不明であるが、マクロ的には全く同じ組成ながら、このような差異が出るのは、硫酸カルシウムと層状銀アルミナ触媒を混合し、焼成したことで、不活性な硫酸カルシウム中に銀が拡散して存在するようになり、それにより、層状銀アルミナボール触媒の触媒効果が、銀が拡散した硫酸カルシウム内を伝播し、銀が拡散した硫酸カルシウム部分でも触媒としての機能を発揮するようになったことによると考えられる。
【0060】
(他の実施形態)
上記実施形態では、触媒材料の製造方法として、層状銀アルミナ触媒と硫酸カルシウムとを混合した後、混合された層状銀アルミナ触媒と硫酸カルシウムとを加熱処理することで、銀を硫酸カルシウム中に拡散させた例について説明したが、これに限らず、銀および硫酸カルシウムを混合することにより(混合工程)、硫酸カルシウム中に銀を分散させてもよい。その後、層状銀アルミナ触媒と混合または接触させれば触媒としての機能を発揮できるようになる。
【0061】
特に、硫酸カルシウム中に分散させる金属元素として銀以外の金属元素(Au、Cu、Sn、Pb、Ni、Zn、P、Mg、Al、Fe、S、CまたはMo)を採用した場合には、硫酸カルシウム中に当該金属元素を分散させる方法として、当該金属元素および硫酸カルシウムを混合する方法を採用する必要がある。触媒性能を発揮させるためには、これに層状銀アルミナ触媒を接触した状態を混合工程などにより作製すればよい。
【0062】
また、上記実施例2では、担体として、全体がα−アルミナからなるα−アルミナボールを用いた例について説明したが、これに限らず、担体のうち触媒材料が担持される表面部分がα−アルミナであればよく、内部は別の材料よりなるものであってもよい。具体的には、担体としては、コージェライトなどのα−アルミナとは異なる材料よりなる芯材の表面に、α−アルミナを塗布・溶射などによってコーティングしたものであってもよい。
【0063】
また、上記実施例2では、硫酸カルシウム被覆銀アルミナボール触媒として、層状銀アルミナ触媒表面を硫酸カルシウムが被覆したものを用いた例について説明したが、これに限らず、層状銀アルミナ触媒および硫酸カルシウムが混合されたものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 銀ベータアルミナ
2 銀
3 層状銀アルミナ触媒(層状構造体)
4 銀(金属または酸化物)
5 硫酸カルシウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナと銀とが交互に積層された層状構造体と、
Ag、Au、Cu、Sn、Pb、Ni、Zn、P、Mg、Al、Fe、S、CおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素が分散された硫酸カルシウムとを有し、
前記層状構造体と、前記金属元素が分散された硫酸カルシウムとが接触していることを特徴とする触媒材料。
【請求項2】
ディーゼルエンジンのパティキュレートを燃焼するために用いられることを特徴とする請求項1に記載の触媒材料。
【請求項3】
前記硫酸カルシウムには、銀が分散されており、
前記硫酸カルシウム中の銀の含有量が、0.1wt%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒材料。
【請求項4】
アルミナと銀とが交互に積層された層状構造体と、銀が分散された硫酸カルシウムとを有するとともに、前記層状構造体と、前記銀が分散された硫酸カルシウムとが接触している触媒材料の製造方法であって、
前記層状構造体と硫酸カルシウムとを混合する混合工程と、
前記混合された層状構造体と硫酸カルシウムとを加熱処理することにより、銀を硫酸カルシウム中に拡散させる加熱処理工程とを備えることを特徴とする触媒材料の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理の温度は、600℃以上、1000℃以下であることを特徴とする請求項4に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の触媒材料の製造方法であって、
前記層状構造体、前記金属元素および前記硫酸カルシウムを混合する混合工程を備えることを特徴とする触媒材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−86187(P2012−86187A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236621(P2010−236621)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】