説明

触媒構造体およびこれを用いたカーボンナノ構造体の製造方法

【課題】気相成長によって炭素結晶からなるカーボンナノ構造体を製造する際の析出効率を向上させることが可能な触媒構造体、および該触媒構造体を用いたカーボンナノ構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】気相成長によって炭素結晶からなるカーボンナノ構造体を製造するために用いられる触媒構造体であって、第1金属が少なくとも露出した第1表面と第2金属が少なくとも露出した第2表面とを有し、第1金属と第2金属とは互いに接するように形成され、第1金属は、鉄、コバルト、ニッケルから選択されるいずれかを主成分とする材質からなり、第2金属は、パラジウムを含有する材質からなる、触媒構造体、および該触媒構造体を用いたカーボンナノ構造体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばカーボンナノチューブ等のカーボンナノ構造体を効率良く生成させるために用いられる触媒構造体、およびこれを用いたカーボンナノ構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブ等のカーボンナノ構造体の製造において、炭素を浸透させることが可能な金属を触媒として用い、該触媒から炭素材料を成長させる方法が検討されている。
【0003】
たとえば特許文献1には、浸炭可能な金属元素を含む触媒層上にカーボンナノチューブを形成させる方法であって、触媒層上に設けられた突起部から上方に向かってカーボンナノチューブを成長させる工程を含むカーボンナノチューブの製造方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、触媒材料を含む触媒基材の結晶成長面から気相成長によってカーボン結晶を成長させるカーボンナノ構造体の製造方法において、触媒材料の内部を介してカーボンを結晶成長面に供給する技術が開示されている。
【0005】
しかし、触媒層を炭素が透過するようにして触媒層上に炭素材料を析出させる方法においては、触媒層上への炭素材料の析出をより均一かつ確実に生じさせ、炭素材料の析出効率を向上させることが求められている。
【特許文献1】特開2006−160592号公報
【特許文献2】特開2005−330175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の課題を解決し、気相成長によって炭素結晶からなるカーボンナノ構造体を製造する際の析出効率を向上させることが可能な触媒構造体、および該触媒構造体を用いたカーボンナノ構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、気相成長によって炭素結晶からなるカーボンナノ構造体を製造するために用いられる触媒構造体であって、第1金属が少なくとも露出した第1表面と第2金属が少なくとも露出した第2表面とを有し、第1金属と第2金属とは互いに接するように形成され、第1金属は、鉄、コバルト、ニッケルから選択されるいずれかを主成分とする材質からなり、第2金属は、パラジウムを含有する材質からなる、触媒構造体に関する。
【0008】
本発明の触媒構造体においては、第1金属が、鉄を主成分とする材質からなることが好ましい。
【0009】
本発明の触媒構造体は、第1金属と第2金属と基材とを有し、第1表面と第2表面とが主面をなす板状体であり、第1金属と第2金属とによって板状体が厚み方向に貫通されてなり、第1金属は複数のフィラメントとして形成され、フィラメントは、長さ方向が板状体の厚み方向となるように互いに間隔をあけて基材によって保持されていることが好ましい。また、該基材は、銀または銀含有合金からなることが好ましい。
【0010】
また、上記フィラメントの平均直径は、1〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上述のいずれかに記載の触媒構造体を用いたカーボンナノ構造体の製造方法であって、第1表面に炭素含有ガスを接触させることによって、第1金属の第1表面における露出部から第1金属の内部を経て第2金属に炭素を浸透させ、第2金属の第2表面における露出部から炭素結晶を析出させる工程を含む、カーボンナノ構造体の製造方法に関する。
【0012】
本発明のカーボンナノ構造体の製造方法においては、カーボンナノ構造体がカーボンナノチューブであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炭素の固溶限が調整された第1金属と第2金属とを組合せることにより、気相成長によって炭素結晶からなるカーボンナノ構造体を製造する際の析出効率を向上させることが可能な触媒構造体、および該触媒構造体を用いたカーボンナノ構造体の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[触媒構造体]
本発明の触媒構造体は、気相成長によって炭素結晶からなるカーボンナノ構造体を製造するために用いられ、第1金属が少なくとも露出した第1表面と第2金属が少なくとも露出した第2表面とを有し、第1金属と第2金属とは互いに接するように形成される。
【0015】
図1は、本発明の触媒構造体の構成の例について示す断面図である。図1に示す触媒構造体100は、第1金属11と第2金属12と基材13とを有し、第1表面1には少なくとも第1金属11が露出し、第2表面2には少なくとも第2金属12が露出している。第1金属11と第2金属12とは互いに接するように形成されている。図1に示す触媒構造体100においては、第1金属11が露出した第1表面1側から炭素を供給し、該炭素を第1金属11および第2金属12の内部を経て第2表面2側に浸透させ、第2表面2側の第2金属12の露出面からカーボンナノ構造体14を析出させることができる。以下、本発明の触媒構造体の各要素の典型的な態様について説明する。
【0016】
<第1金属>
第1金属は、鉄、コバルト、ニッケルから選択されるいずれかを主成分とする材質からなる。該材質は合金であっても良い。鉄、コバルト、ニッケルはいずれも炭素を固溶させることができる金属であるため、本発明の触媒構造体においては、これらのいずれかを主成分とする材質からなる第1金属が少なくとも露出した第1表面から、第1金属の内部に炭素を浸透させることができる。
【0017】
本明細書において、炭素の固溶限とは、炭素を固溶させたときに該炭素が析出する最小平衡濃度を意味する。なお、1000℃での炭素の固溶限は、鉄が約6原子%、コバルトが約2原子%、ニッケルが約2原子%である。
【0018】
なお本明細書において主成分とは、全体の50質量%を超える量で含まれる成分を意味する。
【0019】
第1金属の材質は、炭素を浸透させる能力に優れる点で、鉄、コバルト、ニッケルから選択される1種以上からなることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分として、たとえば、パラジウム、白金等を含有しても良い。
【0020】
炭素を浸透させる能力に特に優れる点で、第1金属は鉄を主成分とする材質からなることが好ましい。
【0021】
第1金属は、単一の材質から形成されても良いし、たとえば第1表面への露出部の部分と該露出部以外の部分とで異なる材質を用いる等、材質が異なる複数の部分からなる複合体であっても良い。該複合体が採用される場合、材質が異なる各々の部分が、鉄、コバルト、ニッケルから選択されるいずれかを主成分とする材質で構成されていれば良い。
【0022】
<第2金属>
第2金属は、パラジウムを含有する材質からなる。該材質は合金であっても良い。該第2金属を第1金属と接するように形成することにより、第1金属に取り込まれた炭素は第2金属の第2表面における露出面から炭素結晶として析出しやすくなる。
【0023】
第2金属は、パラジウムを主成分とする材質からなることが特に好ましく、この場合、上記第2表面における上記露出面から炭素結晶が一層析出しやすくなる。
【0024】
第2金属は、パラジウムを含有する単一の材質、より好ましくはパラジウムを主成分とする単一の材質、から形成されても良いし、たとえば第2表面への露出部の部分と該露出部以外の部分とで異なる材質を用いる等、材質が異なる複数の部分からなる複合体であっても良い。該複合体が採用される場合、材質が異なる各々の部分が、パラジウムを含有する材質、より好ましくはパラジウムを主成分とする材質、で構成されていれば良い。
【0025】
<基材>
本発明の触媒構造体は、典型的には、図1に示すように、第1金属と第2金属と基材とを有し、第1表面と第2表面とが主面をなす板状体とされることができる。この構成においては基材が第1金属と第2金属とを保持するように形成される。
【0026】
また、第1金属と第2金属とによって板状体が厚み方向に貫通され、第1金属は複数のフィラメントとして形成され、フィラメントは、長さ方向が板状体の厚み方向となるように互いに間隔をあけて基材によって保持されていることが好ましい。これにより、フィラメントの一方の先端を第1表面に露出させ、他方の先端に第2金属を接合して該第2金属を第2表面に粒状に露出させることができ、より均一な微細構造を有するカーボンナノ構造体を効率良く生成させることができる。
【0027】
上記フィラメントの平均直径は、1〜100nmの範囲内であることが好ましい。該平均直径が1nm以上である場合フィラメントを比較的容易に作製でき、100nm以下である場合、より均一な微細構造を有するカーボンナノ構造体を効率良く生成させることができる。上記のフィラメントの平均直径は、1〜10nmの範囲内であることがより好ましい。
【0028】
また、複数のフィラメントが互いに間隔をあけて基材に保持される場合、該フィラメントが、径方向においてたとえば1〜1000nm程度の間隔をあけて配置されることができる。フィラメントの径方向の間隔が1nm以上である場合、より均一な微細構造を有するカーボンナノ構造体を高密度に生成させることができ、1000nm以下である場合、カーボンナノ構造体フィラメントの基材面からの垂直な立ち上がり形状を特に良好に維持できる。フィラメントの径方向の間隔は、さらに好ましくは1〜100nmの範囲内であることができる。
【0029】
基材の融点は、カーボンナノ構造体の生成温度よりも高いことが好ましい。この場合、炭素結晶成長時の触媒構造体の変形が生じ難く、均一な形状のカーボンナノ構造体をより確実に生成させることができる。
【0030】
基材の材質としては、炭素結晶の浸透方向が制御されることにより、形状のより均一なカーボンナノ構造体を効率良く生成させることができる点で、炭素を実質的に固溶せず、炭素と反応しないもので、かつ第1金属と化合物または合金を形成しない材質が好ましい。典型的には、安価で加工し易く、化学的に安定である点で、銀および銀含有合金は好ましい。銀含有合金としては、Ag−Pd合金、Ag−Pt合金、Ag−Au合金等を好ましく使用できる。
【0031】
[触媒構造体の作製]
図1に示すような形状の触媒構造体はたとえば下記のような方法で形成できる。中実または中空の細線状または棒状の第1金属用材料を、パイプ状の基材用材料に充填する。これを引抜ダイスに通して引抜加工して塑性変形させることによって伸線加工による縮径を行ない、さらにパイプ状の基材に充填し、縮径する。上記の操作を繰り返すことによってナノメートルレベルの直径を有するフィラメントを作製する。
【0032】
得られたフィラメントが所望の長さになるように該フィラメントの両端を切断して第1金属を形成する。フィラメントの長さは、たとえば1〜1000μm程度とすることができる。フィラメントの長さが1μm以上である場合には触媒構造体の作製が容易であり、1000μm以下である場合には炭素を効率良く第2金属に供給することができる。
【0033】
切断面は、たとえばイオンミリング、レーザービーム加工等によって研磨されることが好ましい。その後、切断面の一方を第2金属用材料で被覆する。このようにして触媒構造体を形成できる。
【0034】
伸線加工の方法としては、第1金属用材料、または第1金属用材料と基材用材料との複合材料を塑性変形させて径を小さくすることが可能な方法が採用でき、具体的には、引抜加工、押出加工、ロール加工、鍛造加工から選択される少なくともいずれか1つが好ましく挙げられる。これらのうち2以上の加工を組み合わせて行なう場合、たとえば棒状等に形成された材料をロール加工で一定の程度まで細線化した後、引抜加工または押出加工によってさらに縮径する方法、鍛造加工によって棒状材料の半径方向に応力をかけるよう型押しして一定の程度まで細線化した後、引抜加工または押出加工によってさらに縮径する方法、等が採用できる。縮径加工を行なう際には、材料の物性低下を防止するため、急激な塑性変形を生じさせない加工条件を適宜選択することが好ましい。
【0035】
以下に、触媒構造体の作製のより具体的な手順について説明する。まず、第1金属を形成するために、鉄を伸線加工することによってフィラメントを作製する。たとえば直径1mmの超高純度鉄(純度99.998質量%)線材を純銀(純度99.99質量%)パイプに挿入し、伸線加工1により縮径して鉄(Fe)と銀(Ag)との複合線材を得る。次に、該複合線材を長さ50cm程度に切断した後、61本束ねて嵌合して、外径20mm、内径16mmの銀パイプに挿入し、伸線加工2により縮径する。その後、焼鈍処理(たとえば水素・アルゴン混合気流中700℃×1時間)によって軟化処理を行なう。上記の嵌合と伸線加工2と焼鈍処理とを、鉄(Fe)フィラメントの直径がたとえば10nmになるまで繰返す。
【0036】
上記で得た、鉄(Fe)フィラメント直径が10nmの複合線材を円柱状に輪切り切断し、円柱の高さが50μmになるまで研磨加工する。さらに、過酸化水素とアンモニアとの混合水溶液を用いて銀(Ag)をエッチング処理し、円柱の2つの底面の鉄(Fe)フィラメントを露出させる。以上の操作により、銀(Ag)基材に複数本の鉄(Fe)フィラメントが互いに30nmの間隔をあけて保持された円柱状の複合体を得ることができる。
【0037】
さらに、上記で得た複合体の底面のうち一方にのみ、スパッタリング等の蒸着法にてパラジウム(Pd)をたとえば厚み10nmで形成する。以上の方法で、本発明の触媒構造体を作製できる。
【0038】
なお、本発明において、第1金属の第1表面における露出部の形状は任意に設定できる。たとえば上記の方法において伸線加工される超高純度鉄の線材としてテープ状のものを用いれば矩形形状の露出面を持つ第1金属を形成できる。その他にも、目的のカーボンナノ構造体の形状に応じて第1金属の形状を適宜設計することが可能である。
【0039】
[カーボンナノ構造体の製造方法]
本発明はまた、上述したような触媒構造体を用いたカーボンナノ構造体の製造方法をも提供する。本発明のカーボンナノ構造体の製造方法においては、第1表面に炭素含有ガスを接触させることによって、第1金属の第1表面における露出部から第1金属の内部を経て第2金属に炭素を浸透させ、第2金属の第2表面における露出部から炭素結晶を析出させる工程を含む、カーボンナノ構造体の製造方法に関する。
【0040】
本発明によれば、触媒構造体における第2金属の形状を自由に設計でき、本発明のカーボンナノ構造体の製造方法によれば、種々のカーボンナノ構造体を製造できる。具体的には、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノテープ、カーボンナノホーン等を好ましく例示でき、より典型的にはカーボンナノチューブを例示できる。
【0041】
たとえば図1に示す触媒構造体100を用いる場合を例にカーボンナノ構造体の典型的な製造方法について説明する。
【0042】
カーボンナノ構造体を気相成長させるために第1表面に接触させる炭素含有ガスとしては、メタンガス、プロパンガス、エチレンガス、アセチレンガス等の炭化水素系ガス、メチルアルコールガス、エチルアルコールガス等のアルコール系ガス、一酸化炭素等、カーボンナノ構造体の製造に対して一般的に用いられるガスを用いることができる。触媒構造体が比較的変形温度の低い材質からなる場合には、より低温でカーボンナノ構造体の生成が可能なアルコール系ガスが好ましく用いられる。炭素含有ガスは1種で用いても2種以上を混合して用いても良い。
【0043】
本発明においては、浸炭性の炭素含有ガスのみが第1表面に接触されても良いし、浸炭性の炭素含有ガスと非浸炭性のガスとの混合ガスが第1表面に接触されても良い。非浸炭性のガスとしては、たとえば、アルゴン、窒素、水素、二酸化炭素、水、等を例示できる。
【0044】
生成したカーボンナノ構造体は、浸炭性のガスやその分解ガス等により分解する場合があるため、触媒構造体の第2表面側には、生成する炭素結晶を実質的に変質させないガスをキャリアガスとして供給することが好ましい。好ましいキャリアガスとしては、たとえばアルゴン、窒素等の不活性ガスが挙げられる。上記のようなキャリアガスを用いる場合、不純物の生成を抑制し、より高純度のカーボンナノ構造体を生成させることができる。この場合、触媒構造体の第2表面近傍に炭素含有ガスが供給されず、第2表面から触媒構造体の内部に向かって炭素の侵入による圧力がかからないため、炭素は第2表面近傍で過飽和状態になり、炭素結晶が効率良く析出する。
【0045】
また、第1表面に対して、浸炭性の炭素含有ガスと非浸炭性のガスとを組合わせて吹付けたり、プラズマ等のイオンによる付着炭素の除去処理を行なったりすることによって、第1表面への炭素の付着を防ぐことが好ましい。
【0046】
本発明においては、炭素結晶を析出させる前または炭素結晶を析出させる際に、第2表面に対して還元性ガスを接触させることが好ましい。触媒構造体の作製工程、第2表面に対する表面加工工程等を経ると、触媒構造体の第2表面は酸化されている場合がある。第2表面に還元性ガスを接触させることによって、特に第2金属表面の金属酸化物層を除去し、カーボンナノ構造体をより均一な形状で生成させることができる。還元性ガスを接触させる方法としては、たとえば水素ガス等を含む雰囲気ガスを第2表面に接触させる方法等を例示できる。
【0047】
本発明におけるカーボンナノ構造体の生成温度は特に限定されず、使用される触媒構造体の性状や炭素含有ガスの種類等によって適宜選択されれば良いが、たとえば500〜960℃程度に設定されることができる。但し製造条件によっては触媒構造体が変形する場合がある他、第1金属または第2金属に不純物が付着して該第1金属または該第2金属の合金化や化合物化等が生じ、触媒活性が低下するという変質が起こる場合がある。特に、第2金属における第2表面への露出部が変形または変質した場合、所望の形状を有するカーボンナノ構造体を確実に成長させることが困難となるため、カーボンナノ構造体の生成温度は第1金属および第2金属をできるだけ変形または変質させない温度に設定されることが好ましい。たとえば第1金属が鉄を主成分とする場合、カーボンナノ構造体の生成温度は、鉄のA1変態温度(たとえば純鉄のA1変態温度である723℃)以上、特に850℃以上に設定されることができる。
【0048】
カーボンナノ構造体の製造方法のより典型的な態様について以下に説明する。加熱装置である電気炉、ガス導入・排気系、成長温度制御系、真空制御系、ガス流量計等を備えた耐熱耐圧熱処理炉管に、触媒構造体を挿入する。耐熱耐圧熱処理炉管は、触媒構造体によってガス供給側の空間と析出側の空間とに分離されることが好ましい。ガス供給側の空間には、たとえば隔壁等を適宜設けてガス流路を調整し、炭素含有ガスを供給する。析出側の空間にはキャリアガスを供給する。
【0049】
まず、耐熱耐圧熱処理炉管内にアルゴンガス等のキャリアガスを供給し、温度をたとえば850℃程度に設定する。その後、ガス供給側に炭素含有ガスとしてたとえばメタンガスを流しながらたとえば1時間放置し、さらに徐々にたとえば500℃まで温度を下げ、メタンガスの供給を止めた後、室温まで冷却する。以上の方法により、析出側からカーボンナノ構造体を生成させることができる。
【0050】
本発明においては、カーボンナノ構造体をより高効率に生成させる目的で、炭素含有ガスの分解により得られる炭素をイオン化した状態で第1金属に接触させることが好ましい。具体的には、イオン化した炭素を電界により加速して第1金属に衝突させることができる。イオン化した状態で炭素を供給することによって、第1金属に対する炭素の溶解性を向上させ、より高濃度の炭素を第2金属に供給できるため、カーボンナノ構造体の製造効率を向上させることができる。
【0051】
イオン化した炭素を第1金属に供給する方法としては、たとえばプラズマ浸炭処理等が採用され得る。プラズマ浸炭処理としては、炭素含有ガスが供給された炉管と触媒構造体との間に電圧を印加してグロー放電させ、炭素含有ガスのプラズマを発生させることによって、イオン化した状態の炭素を供給する方法等が採用できる。
【0052】
本発明の触媒構造体を用いた製造方法によって製造されるカーボンナノ構造体は、均一な形状でかつ高純度であり、たとえば電子回路、高強度複合材料、電線材料、クッション材料等種々の用途に好適に適用され得る。
【0053】
[実験例]
以下、実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
厚み50μm、直径10mmの円形の鉄箔を用意した。該鉄箔の表面をそれぞれガス供給面および析出面とし、各面の一部に、スパッタリング法で厚み100nmのパラジウム膜を形成して、評価用鉄箔を作製した。上記の方法により、評価用鉄箔には、面積が等しい下記の4つの扇形の領域が形成された。
領域A ガス供給面:パラジウム膜あり、析出面:パラジウム膜あり
領域B ガス供給面:パラジウム膜あり、析出面:パラジウム膜なし
領域C ガス供給面:パラジウム膜なし、析出面:パラジウム膜あり
領域D ガス供給面:パラジウム膜なし、析出面:パラジウム膜なし
上記の評価用鉄箔を、ガス供給面と析出面とに対して独立してガス供給できる熱処理装置にセットし、ガス供給面側に炭素含有ガスとして一酸化炭素(CO)ガスを、析出面側にキャリアガスとしてアルゴンガスを、それぞれ供給し、850℃で60分間保持したところ、評価用鉄箔のガス供給面および析出面に堆積物が生成した。
【0055】
領域A〜Dのガス供給面および析出面における堆積物の生成状況を電子顕微鏡で観察し、炭素の生成が認められた面積と炭素の生成が認められなかった面積とを白黒パターンに分離することにより、視野内で炭素の生成が認められた面積の比率を求める方法で、画像解析を行なった。その結果、堆積物の生成状況は下記の通りであった。
領域A:析出面において炭素の生成が認められた面積は、観察視野の約50%であった。
領域B:析出面において炭素の生成が認められた面積は、観察視野の約15%であった。
領域C:析出面において炭素の生成が認められた面積は、観察視野の約80%であった。
領域D:析出面において炭素の生成が認められた面積は、観察視野の約20%であった。
【0056】
なお、堆積物をラマン分光分析したところ、ガス供給面の堆積物は、欠陥の多いグラファイト、またはアモルファスカーボンであり、析出面の堆積物は、欠陥のほとんどないグラファイトであった。
【0057】
領域A〜Dについての上記の結果においては、炭素結晶の析出効率の向上という点で、ガス供給面への堆積物の生成は少ない方が好ましく、析出面への堆積物の生成は多い方が好ましい。領域Aと領域Bとの比較および領域Cと領域Dとの比較から、析出面にパラジウム膜を形成することによって、析出面の堆積物の生成が促進されることが分かる。また、領域Aと領域Cとの比較から、析出面にパラジウム膜を形成する場合にはガス供給面にパラジウム膜を用いない方が析出面の堆積物の生成の促進効果が良好であることが分かる。
【0058】
すなわち、本発明の第1金属に相当する鉄箔の少なくとも析出面側に本発明の第2金属に相当するパラジウム膜を形成することによって炭素結晶の析出効率を向上させることができ、該パラジウム膜を析出面側にのみ形成すると、炭素結晶の析出効率の向上効果が特に良好に得られることが分かる。
【0059】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の触媒構造体を用いた製造方法によって製造されるカーボンナノ構造体は、たとえば電子回路、高強度複合材料、電線材料、クッション材料等種々の用途に好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の触媒構造体の構成の例について示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
100 触媒構造体、1 第1表面、2 第2表面、11 第1金属、12 第2金属、13 基材、14 カーボンナノ構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長によって炭素結晶からなるカーボンナノ構造体を製造するために用いられる触媒構造体であって、
第1金属が少なくとも露出した第1表面と、第2金属が少なくとも露出した第2表面と、を有し、
前記第1金属と前記第2金属とは互いに接するように形成され、
前記第1金属は、鉄、コバルト、ニッケルから選択されるいずれかを主成分とする材質からなり、
前記第2金属は、パラジウムを含有する材質からなる、触媒構造体。
【請求項2】
前記第1金属が、鉄を主成分とする材質からなる、請求項1に記載の触媒構造体。
【請求項3】
前記第1金属と前記第2金属と基材とを有し、前記第1表面と前記第2表面とが主面をなす板状体であり、
前記第1金属と前記第2金属とによって前記板状体が厚み方向に貫通されてなり、
前記第1金属は複数のフィラメントとして形成され、
前記フィラメントは、長さ方向が前記板状体の厚み方向となるように互いに間隔をあけて前記基材によって保持されている、請求項1または2に記載の触媒構造体。
【請求項4】
前記基材が、銀または銀含有合金からなる、請求項3に記載の触媒構造体。
【請求項5】
前記フィラメントの平均直径が1〜100nmの範囲内である、請求項4に記載の触媒構造体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の触媒構造体を用いたカーボンナノ構造体の製造方法であって、
前記第1表面に炭素含有ガスを接触させることによって、前記第1金属の前記第1表面における露出部から前記第1金属の内部を経て前記第2金属に炭素を浸透させ、前記第2金属の前記第2表面における露出部から炭素結晶を析出させる工程を含む、カーボンナノ構造体の製造方法。
【請求項7】
前記カーボンナノ構造体がカーボンナノチューブである、請求項6に記載のカーボンナノ構造体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−296196(P2008−296196A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148064(P2007−148064)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンナノチューブの新製法に関する先導調査」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】