説明

触媒組成物及び酸化方法

【課題】基質を効率よく酸化できる触媒組成物、その固定化方法及び前記触媒組成物を用いた酸化方法を提供する。
【解決手段】触媒組成物は、触媒としてのポリ酸を反応器内部に固定化するための触媒組成物であって、ポリ酸とエポキシ樹脂とで構成された触媒組成物である。前記組成物は、反応器の内壁、及び反応器内部に配設可能な部材の表面から選択された少なくとも1つの被固定化部位に固定化するための組成物であってもよい。前記被固定化部位は、少なくとも中空状反応器の内壁であってもよい。前記ポリ酸は、ヘテロポリ酸であってもよい。また、前記ポリ酸は、タングステン、モリブテン、及びバナジウムから選択された少なくとも一種の金属元素と、周期表第8〜10族元素及び第13〜15族元素から選択された少なくとも一種の第2の元素とを有するヘテロポリ酸であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種基質(アルコール、環状オレフィン、スルフィドなど)を効率よく酸化するのに有用な触媒組成物、この触媒組成物を反応器内部に固定化する方法及び前記触媒組成物を用いた酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒反応では、均一系触媒を用いた均一反応の他、担体に担持させた触媒を用いる不均一反応が知られており、不均一反応では、均一反応に比べて、触媒と生成物との分離が容易であり、反応生成物の回収を容易に行うことができる。
【0003】
このような不均一反応に用いる触媒の例として、例えば、特開2006−167511号公報(特許文献1)には、ヘテロポリ酸を多孔質材料に固定化した燃料変換用触媒が開示されている。この文献には、金属アルコキシドから合成した金属酸化物ゲルにより、ヘテロポリ酸を多孔質材料(SiO、Al、CeO、TiOなど)に接着して固定化することが記載されている。
【0004】
また、特開2006−88061号公報(特許文献2)には、(A)ヘテロポリ酸セシウム塩、ヘテロポリ酸カリウム塩、ヘテロポリ酸ルビジウム塩及びヘテロポリ酸アンモニウム塩より成る群から選ばれるヘテロポリ酸塩95〜45重量部、及び(B)アミノ化又はシアン化された無機酸化物5〜55重量部を含む組成物およびこの組成物を含む固体酸触媒が開示されている。この文献では、アミノ化試薬又はシアン化試薬(3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシランなど)で無機酸化物(SiO,Tio、Ai、MgO、V、MnO、Fe、Taなど)を処理することによりアミノ化又はシアン化された無機酸化物を用いることにより、ヘテロポリ酸を無機酸化物に担持させている。
【0005】
特開2003−33659号公報(特許文献3)には、(3−アクリルアミド)(ドデシル)ジメチルアンモニウムブロミドとN−イソプロピルアクリルアミドが重合したポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)誘導体に硝酸ナトリウム水溶液を混合して鎖状ポリマーを得たのち、りんタングステン酸を水溶液に添加することにより得られるネットワーク状の新規なタングステン触媒が開示されている。この文献には、前記新規なタングステン触媒が、アリル型アルコールの二重結合を過酸化水素で酸化し、エポキシ体を得るための触媒として使用できることが記載されている。
【0006】
通常、これらの文献で触媒成分として用いられるヘテロポリ酸は、一次粒子径10〜20nm程度と小さいため反応液中で懸濁するが、これらの文献に記載されているように、ヘテロポリ酸を金属酸化物などに担持させる又は固定化することにより、前記懸濁を防止できる。しかし、これらの触媒は、反応溶液中に存在しているため、反応後に触媒と溶液とを分離し、回収する必要がある。また、不均一系では、基質と触媒との接触効率が低くなり、反応効率の点では不利となりやすい。このように、反応効率と、触媒の分離又は回収性との双方に優れ、工業的に利用可能な触媒を見出すのは困難である。
【特許文献1】特開2006−167511号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−88061号公報(特許請求の範囲、段落番号[0015])
【特許文献3】特開2003−33659号公報(段落番号[0011][0018])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、触媒を分離回収する必要が無く、基質を効率よく酸化できる触媒組成物、その固定化方法及び前記触媒組成物を用いた酸化方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、高い反応効率で基質を酸化することができる触媒組成物、その固定化方法及び前記触媒組成物を用いた酸化方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、反応系を省スペース化できる触媒組成物、その固定化方法及び前記触媒組成物を用いた酸化方法を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、高い安全性で基質を酸化できる触媒組成物、その固定化方法および前記触媒組成物を用いた酸化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、触媒としてのポリ酸とエポキシ樹脂とで触媒組成物を構成すると、ポリ酸とエポキシ樹脂とが反応するためか、ポリ酸を反応器内部(例えば、反応器の内壁)に簡便に固定化できること、このような触媒組成物が固定化された反応器内で、基質を酸化反応に供すると、触媒を回収することなく、高い反応効率で基質を酸化することができることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の触媒組成物は、触媒としてのポリ酸を反応器内部に固定化するための触媒組成物であって、ポリ酸とエポキシ樹脂とで構成された触媒組成物である。前記組成物は、反応器の内壁、及び反応器内部に配設可能な部材の表面から選択された少なくとも1つの被固定化部位に固定化するための組成物であってもよい。前記被固定化部位は、少なくとも中空状反応器の内壁であってもよい。前記組成物は、反応器の内壁などに固定化できるため、反応系を省スペース化できる。
【0013】
前記ポリ酸は、ヘテロポリ酸であってもよい。また、前記ポリ酸は、タングステン、モリブテン、及びバナジウムから選択された少なくとも一種の金属元素と、周期表第8〜10族元素及び第13〜15族元素から選択された少なくとも一種の第2の元素とを有するヘテロポリ酸であってもよい。
【0014】
前記エポキシ樹脂は、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂であってもよい。グリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、ヒドロキシル基を有する炭素原子がカルボカチオンを形成しやすく、ポリ酸のポリアニオンと結合しやすい。前記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、140〜4000程度であってもよい。また、エポキシ樹脂の割合は、ポリ酸1重量部に対して0.1〜100重量部程度であってもよい。前記組成物は、さらに、溶媒を含んでいてもよい。前記溶媒は、ケトン類、アルコール類、及びエーテル類から選択された少なくとも一種であってもよい。
【0015】
本発明には、反応器内部に対応する被固定化部位を、ポリ酸とエポキシ樹脂とで構成された触媒組成物で処理し、前記触媒組成物を固定化する方法も含まれる。前記固定化方法では、被固定化部位に触媒組成物をコーティングしてもよい。
【0016】
また、本発明には、前記触媒組成物が固定化された反応器内で、基質と酸化剤とを反応させ、基質を酸化する方法も含まれる。前記酸化剤は、酸素であってもよい。前記酸化方法では、酸化剤として分子状酸素を用い、溶媒成分を使用することなく基質を酸化してもよい。酸化剤として分子状酸素を用いると、高い安全性で基質を酸化できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の触媒組成物は、ポリ酸とエポキシ樹脂とで構成することにより、反応器内部に固定化して使用できるため、触媒を分離回収する必要が無く、基質を効率よく酸化できる。また、反応器内部に固定化することにより、溶媒を使用する必要がなく、高い反応効率で基質を酸化することができる。さらに、本発明の触媒組成物は、コーティングなどを利用して反応器の内壁などに固定化できるため、反応系を省スペース化できる。さらにまた、本発明の触媒組成物は、酸化剤として分子状酸素(酸素ガス)用いることができ、高い安全性で基質を酸化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の触媒組成物は、触媒としてのポリ酸(又はポリ酸成分)とエポキシ樹脂とで構成されている。このような触媒組成物は、通常、反応器内部に固定化するための組成物として用いることができる。
【0019】
(ポリ酸)
前記ポリ酸(ポリ酸成分)は、イソポリ酸であってもよく、ヘテロポリ酸であってもよい。なお、ポリ酸は、塩を形成していてもよいが、カウンターカチオンとして少なくともプロトンを有するポリ酸であるのが好ましい。このようなプロトンを放出可能なポリ酸成分は、エポキシ樹脂の硬化触媒として作用するためか、後述するように、エポキシ樹脂により固定化されやすい。なお、ポリ酸、ヘテロポリ酸などは、水和水(結晶水)を含んでいてもよい。
【0020】
イソポリ酸は、例えば、周期表第5族元素(V、Nb、Taなど)及び周期表第6族元素(Cr、Mo、Wなど)などから選択された一種を金属元素として有するイソポリ酸であってもよく、特に、V、Mo、及Wびから選択された一種の金属元素を有している場合が多い。具体的なイソポリ酸としては、イソポリタングステン酸、イソポリバナジン酸、イソポリモリブデン酸などが挙げられる。
【0021】
また、ヘテロポリ酸は、前記例示の金属元素、例えば、周期表第5族元素(V、Nbなど)及び周期表第6族元素(Cr、Mo、Wなど)から選択された少なくとも二種の金属元素を有するヘテロポリ酸であってもよく、周期表第5族元素及び周期表第6族元素から選択された少なくとも1種の金属元素と、第2の元素(酸素、周期表第5族元素および周期表第6族元素以外の元素)とを有するヘテロポリ酸であってもよい。
【0022】
特に、ヘテロポリ酸は、V、Mo、及びWから選択された少なくとも一種の金属元素と、第2の元素とを有していてもよい。第2の元素としては、周期表第7族元素(Mnなど)、周期表第8族元素(Fe、Ruなど)、周期表第9族元素(Co、Rhなど)、周期表第10族元素(Ni、Pd、Ptなど)、周期表第11族元素(Cuなど)、周期表第12族元素(Znなど)、周期表第13族元素(B、Al、Gaなど)、周期表第14族元素(Si、Geなど)、周期表第15族元素(P、Asなど)、周期表第16族元素(Teなど)、周期表第17族元素(Iなど)などが挙げられる。ヘテロポリ酸は、これらの第2の元素を単独で又は二種以上組み合わせて有していてもよい。前記ヘテロポリ酸は、ケギン構造、ド−ソン構造、アンダーソン構造などであってもよく、特に、ケギン構造、ド−ソン構造などが好ましい。
【0023】
代表的なヘテロポリ酸には、式(1)で表されるヘテロポリ酸、式(2)で表されるヘテロポリ酸などが含まれる。
3+n[XY12−n40]・mHO (1)
4+n[XY12−n40]・mHO (2)
(式中、Xは周期表第8〜10族元素又は周期表第13〜14族元素を示し、Y及びZは互いに異なってタングステン、モリブテン、又はバナジウムを示し、mは0又は1以上の整数を示し、nは0又は1〜11の整数を示す。)
Xは、前記例示の周期表第8〜10族元素又は周期表第13〜14族元素を示し、特に、Fe、Ru、Co、Ni、B、Si、Geなどが好ましい。
【0024】
mは0又は1以上の整数、例えば、0〜60、好ましくは5〜55、さらに好ましくは10〜50程度であってもよい。また、nは0又は1〜11の整数を示し、好ましくは0〜8、さらに好ましくは1〜4(例えば2〜4)程度であってもよい。
【0025】
具体的なヘテロポリ酸としては、例えば、少なくともタングステンを含むヘテロポリ酸(又はヘテロポリタングステン酸、例えば、ケイタングステン酸(H[SiW1240]・mHOなど)、リンタングステン酸(H[PW1240]・mHOなど)、ケイバナドタングステン酸(H4+n[SiV12−n40]・mHOなど)、リンバナドタングステン酸(H3+n[PV12−n40]・mHOなど)、ケイモリブドタングステン酸(H4+n[SiMo12−n40]・mHOなど)、リンモリブドタングステン酸(H3+n[PMo12−n40]・mHOなど)など)、少なくともモリブデンを含むヘテロポリ酸(又はヘテロポリモリブデン酸、例えば、リンモリブデン酸(H[PMo1240]・mHOなど)、ケイモリブデン酸(H[SiMo1240]・mHOなど)、リンバナドモリブデン酸(H3+n[PVMo12−n40]・mHOなど)、ケイバナドモリブデン酸(H4+n[SiVMo12−n40]・mHOなど)など)、少なくともバナジウムを含むヘテロポリ酸(又はヘテロバナジン酸、例えば、ケイバナジウム酸(H[SiV1240]・mHOなど)、リンバナジウム酸(H[PV1240]・mHOなど)、リンモリブドバナジウム酸(H3+n[PMoV12−n40]・mHOなど)など)などが挙げられる。
【0026】
前記ポリ酸のうち、特に、触媒活性の観点などから、ヘテロポリ酸(少なくともタングステンを含むヘテロポリ酸、少なくともモリブデンを含むヘテロポリ酸など)が好ましい。
【0027】
ポリ酸は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0028】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、エポキシ環を有していれば特に制限されず、種々のエポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂[ビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂など)、ノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型など)など]、グリシジルエステル型エポキシ樹脂(ジグリシジルフタレート;ジグリシジルテトラヒドロフタレートなどのジグリシジルテトラ乃至ヘキサヒドロフタレート;ジメチルグリシジルフタレートなどのジC1−4アルキルグリシジルフタレート;ジメチルグリシジルヘキサヒドロフタレートなどのジC1−4アルキルグリシジルヘキサヒドロフタレートなど)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂[ジグリシジルアニリン系エポキシ樹脂(ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジンなど);ジグリシジルブロムアニリンなどのジグリシジルハロアニリン;トリグリシジルメタ−又はパラ−アミノフェノール;テトラグリシジルメタキシリレンジアミン;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのテトラグリシジルジアミノジフェニルC1−4アルカンなど]、環式脂肪族エポキシ樹脂(アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペートなど)などが挙げられる。
【0029】
ビスフェノール型エポキシ樹脂には、ビスフェノール類又はそのアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド)付加体を重合成分(又はベース)とするエポキシ樹脂(例えば、ビスフェノール類又はそのアルキレンオキシド付加体のジグリシジルエーテルなど)などが含まれる。
【0030】
ビスフェノール類としては、ビフェノール類(4,4’−ジヒドロキシビフェニルなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン類]、ビス(ヒドロキシビフェニリル)アルカン類[例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,3’−ビフェニリル)プロパンなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類[例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テルなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドなど)などが挙げられる。これらのビスフェノール類は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0031】
これらのエポキシ樹脂のうち、ビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂など)、ノボラック型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、特に、ビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)が好ましい。
【0032】
これらのエポキシ樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0033】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、140〜4000、好ましくは、250〜3000、さらに好ましくは450〜2000程度であってもよい。エポキシ当量が小さすぎるとポリ酸と発熱を伴い激しく反応する。
【0034】
エポキシ樹脂の割合は、ポリ酸1重量部に対して、0.1〜100重量部、好ましくは1〜80重量部、さらに好ましくは10〜70重量部(例えば、15〜60重量部)程度であってもよく、通常10〜50重量部程度であってもよい。
【0035】
本発明では、ポリ酸とエポキシ樹脂とを組み合わせることにより、ポリ酸をコーティングすることなどができ、反応器内部に効率よく固定化できる。エポキシ樹脂を使用することにより固定化できる理由は定かではないが、ポリ酸がエポキシ樹脂の硬化に関与し、エポキシ樹脂に分散されるためであるものと考えられる。詳細には、ポリ酸の硬化剤としての作用(特に、ポリ酸に含まれるプロトンの作用)によりエポキシ樹脂のエポキシ基が開環し(すなわち、エポキシ樹脂が硬化し)、開環により形成されたカルボカチオンとポリ酸の共役塩基であるアニオン(ポリアニオン)とが結合する(すなわち、塩又はイオン結合のような形でエポキシ樹脂に固定化される)。そして、エポキシ樹脂は、硬化に伴って、後述する反応器に固定化しやすくなるものと考えられる。また、このような形でエポキシ樹脂とポリ酸とが反応することにより、エポキシ樹脂中にポリ酸が高分散され、ポリ酸の触媒活性が向上することも考えられる。
【0036】
触媒組成物は、さらに、溶媒を含む組成物であってもよい。溶媒を含んでいると、反応器内部(例えば、反応器の内壁など)に触媒組成物をコーティングなどにより固定化するのに有利である。すなわち、前記触媒組成物は、さらに溶媒を含むコーティング組成物の形態であってもよい。このような溶媒を含む組成物(コーティング組成物)において、ポリ酸およびエポキシ樹脂は、それぞれ、溶解していてもよく、溶解していなくても(例えば、分散していても)よい。通常、前記コーティング組成物では、少なくともエポキシ樹脂が溶解しており、特に、ポリ酸及びエポキシ樹脂が溶解していてもよい。
【0037】
前記溶媒(有機溶媒)としては、例えば、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など)、アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノールなどのC1−20アルキルアルコール、シクロヘキサノールなどのシクロアルカノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどのC7−20アラルキルアルコールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトンなどのジアルキルケトンなど)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、エーテル類(ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、セロソルブ類など)、ハロゲン系溶媒(クロロホルムなど)などが挙げられる。
【0038】
これらの溶媒は、単独又は二種以上組み合わせてもよい。
【0039】
好ましい溶媒には、ポリ酸(特にヘテロポリ酸)を溶解可能で、かつエポキシ樹脂と混合してもゲル化を生じない溶媒が含まれる。また、コーティング後において、乾燥除去しやすい溶媒も好ましい。
【0040】
このような観点から、好ましい溶媒には、アルコール類、ケトン類、エーテル類などが含まれ、特にケトン類(イソブチルメチルケトンなどのジアルキルケトン)などが好ましい。
【0041】
溶媒の割合は、ポリ酸1重量部に対して、0.1〜100重量部(例えば、0.5〜90重量部)、好ましくは1〜70重量部、さらに好ましくは3〜50重量部、特に5〜20重量部程度であってもよい。
【0042】
前記触媒組成物は、本発明の効果を害しない範囲であれば、さらに、バインダー樹脂(例えば、フェノール樹脂などのエポキシ樹脂以外のバインダー樹脂)、ポリ酸以外の触媒、硬化剤(例えば、酸成分など)などの成分を含んでいてもよい。これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0043】
本発明の触媒組成物の調製方法は、特に限定されず、ポリ酸と、エポキシ樹脂と、必要に応じて他の成分(例えば、溶媒)とを混合することにより調製できる。なお、溶媒を含む触媒組成物の調製方法は、特に限定されず、ポリ酸、エポキシ樹脂および溶媒を混合することにより調製してもよく、一方の成分(特に、ポリ酸)及び溶媒を含む混合物(例えば、ポリ酸を含む溶液)と、他方の成分(特にエポキシ樹脂)とを混合することにより調製してもよい。
【0044】
(触媒組成物の用途)
本発明の触媒組成物は、前記のように、反応器内部(又は反応系内部)に固定化(又は固相触媒を形成)するための触媒組成物として好適に用いることができる。換言すれば、本発明の触媒組成物は、反応器内部で、固定化された状態で触媒として作用する形態で使用される(又は、反応系に基質と接触可能な形態で固相として存在する)触媒組成物であればよい。詳細には、前記触媒組成物は、必ずしも反応器内部にそのまま固定化されていなくても、反応器の使用時(すなわち反応時)において、反応器内部に存在させることができれば、反応器外部で固定化してもよい。なお、本明細書において、「反応器」とは、本発明の触媒組成物を内部に固定化した状態で、基質の反応(酸化反応)を行うことができる反応系を構成できればよく、広義の意味に用いる。
【0045】
代表的には、前記触媒組成物は、(i)反応器の内壁(又は内側)、及び(ii)反応器内部に配設(又は内設)可能な部材(又は反応器に配設させて使用可能な部材)の表面から選択された少なくとも1つの部位(被固定化部位)に固定化するための触媒組成物として使用できる。
【0046】
反応器は、内部において基質の反応を行うことが可能であればよく、反応器の形状は、中空状、閉塞した形状(又は容器状)などのいずれの形状であってもよい。また、反応器の材質は、プラスチック、ガラス、SUS(ステンレス鋼)などの金属、セラミックスなどであってもよい。反応器としては、例えば、中空状反応器(例えば、カラム、重合管などの管状又は筒状反応器)、容器(例えば、フラスコ、ビーカー、スクリュー管など)などが挙げられる。
【0047】
前記配設可能な部材としては、反応器内部に存在させることができれば特に限定されず、反応器の形状などに応じて選択でき、例えば、ビーズ(ガラスビーズ、セラミックビーズなどの無機粒状物など)、攪拌子(マグネチックスターラー用攪拌子など)、攪拌棒、攪拌羽根(又はプロペラ)などが挙げられる。
【0048】
(触媒組成物の固定化方法)
本発明の触媒組成物の固定化は、反応器内部に対応する被固定化部位(又は、被処理部位)を、前記触媒組成物で処理することにより行うことができる。前記被固定化部位は、代表的には、反応器の内壁及び/又は反応器内部に配設可能な部材の表面である。
【0049】
処理は、前記被処理部位と触媒組成物とを接触させて行うことができ、接着剤を用いた前記被固定部位に対する前記触媒組成物(例えば、レート状などの形態に成形された触媒組成物など)の貼付などであってもよいが、通常、前記被固定部位に、前記触媒組成物をコーティングすることにより行うことが多い。本発明の触媒組成物は、前記のように、ポリ酸とエポキシ樹脂との組み合わせにより、コーティングにより簡便に前記被固定部位に固定化できる。
【0050】
コーティングは、被処理部位の形状や大きさに応じて適当な方法を選択でき、慣用のコーティング法を利用してもよく、例えば、被処理部位に対する触媒組成物の塗布(刷毛塗りなど)又は噴霧(吹きつけ)、触媒組成物に対する被処理部位の浸漬(ディッピング)などにより行うことができる。また、中空状部材に対しては、中空状部材(詳細には中空状部材の中空部、例えば、カラム内)に液状の触媒組成物(溶媒を含む触媒組成物など)を流通させることによりコーティングしてもよい。
【0051】
なお、前記のように、前記触媒組成物は、ポリ酸とエポキシ樹脂とで構成されているため、通常、粘性を有している。このような触媒組成物の粘性(又は粘度)は、エポキシ樹脂の種類、溶媒の種類および混合割合、触媒組成物の調製からの経過時間(又は硬化の進行の度合い)やポリ酸の割合などに応じて変化する。そのため、触媒組成物が適度な粘性を有している状態で、コーティング処理してもよい。コーティングに供する触媒組成物の粘度は、例えば、5〜800mPa・s、好ましくは20〜500mPa・s、さらに好ましくは50〜400mPa・s程度であってもよい。
【0052】
前記触媒組成物の処理量(又はコーティング量)は、0.05〜100mg/cm(例えば、0.1〜70mg/cmの範囲から選択でき、例えば、0.1〜50mg/cm、好ましくは0.5〜30mg/cm、さらに好ましくは1〜20mg/cm(例えば、2〜10mg/cm)程度であってもよい。
【0053】
なお、液状の触媒組成物を使用する場合、コーティング後、被固定部位(処理された部位)を乾燥してもよい。乾燥は、自然乾燥でもよいが、必要により、乾燥機(熱風乾燥機など)などを使用して乾燥してもよい。乾燥させる温度(乾燥温度)は、溶媒の沸点などに応じて、例えば、40〜250℃、好ましくは50〜200℃、さらに好ましくは60〜180℃(例えば、70〜150℃)程度であってもよい。特に、加熱乾燥させると、前記触媒組成物を高い密着性で固定化する(焼き付ける)ことができる。なお、コーティング後において、エポキシ樹脂の硬化を進行させるため、被固定部位を加熱してもよい。加熱は、乾燥とは別に行ってもよく、乾燥とともに行ってもよい。
【0054】
被固定部位に固定化された前記触媒組成物の形状は、処理方法に応じて、一次元的形状(線状など)、二次的形状[膜状(又は層状又はフィルム状)など]、三次元的形状(粒状、柱状など)などであってもよく、特にフィルム状であってもよい。フィルム状に固定化された触媒組成物(塗膜など)の平均厚みは、例えば、0.1〜50μm、好ましくは、0.5〜30μm、さらに好ましくは、1〜20μm程度であってもよい。
【0055】
(酸化反応)
本発明には、前記触媒組成物を用いて基質を反応させる方法も含まれる。このような方法は、前記ポリ酸が触媒として作用する方法であれば特に限定されず、酸化反応、重合反応、分解反応などのいずれであってもよい。特に、ポリ酸は酸化反応に好適である。酸化反応では、前記触媒組成物が固定化された(詳細には、固定化された状態で存在する)反応器内で、基質と酸化剤とを反応させる。
【0056】
前記酸化剤としては、基質の種類や酸化の種類に応じて選択でき、例えば、金属化合物[例えば、マンガン化合物(KMnO、MnOなど)、クロム化合物(CrOなど)、鉄化合物(FeClなど)、銅化合物(CuOなど)、銀化合物(AgOなど)、鉛化合物(PbOなど)など]、ハロゲン又はハロゲン化合物(F、Cl、Br、I、NaClOなど)、無機窒素化合物(HNO、HNOなど)、過酸化物(H、Na、BaOなど)、過酸類(過酢酸など)、有機化合物(カルボニル化合物など)、酸素類(酸素(O)、オゾンなど)などが挙げられる。
【0057】
本発明では、これらの酸化剤のうち、気体状又はガス状の酸化剤(例えば、酸素などの酸素類)、特に、分子状酸素(又は酸素ガス)であっても、好適に用いることができる。本発明では、ポリ酸が反応器内部に固定化されているため、ガス状の酸化剤であっても、効率よく酸化反応を行うことができる。また、前記酸化剤が分子状酸素であると、反応系がクリーンであり、環境や人体などに対する安全性を高めることができる。
【0058】
前記酸化剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0059】
前記基質は、反応の種類に応じて適宜選択でき、特に限定されず、有機基質(又は有機化合物)、例えば、アルコール類{例えば、第1級アルコール[メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルカノール(C1−10アルカノールなど);ベンジルアルコールなどのアラルキルアルコール(C7−10アラルキルアルコールなど)など]、第2級アルコール[2−プロパノールなどの第2級アルカノール(第2級C3−10アルカノールなど)、シクロヘキサノールなどのシクロアルカノール(C4−10シクロアルカノールなど)など]など}、アルデヒド類[例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルカナール(C1−6アルカナールなど);ベンズアルデヒドなどの芳香族アルデヒドなど]、ケトン類[アセトン、エチルメチルケトンなどのジアルキルケトン(ジC1−4アルキルケトンなど)、シクロヘキサノンなどのシクロアルカノン(C4−10シクロアルカノンなど)、アセトフェノンなどの芳香族ケトンなど]、エステル類[酢酸エチルなどのアルカン酸エスエル(C2−10アルカン酸エステルなど)など]、飽和炭化水素化合物[例えば、アルカンなどの直鎖状又は分岐状飽和脂肪族炭化水素(二級飽和脂肪族炭化水素、三級飽和脂肪族炭化水素など)、シクロヘキサンなどのシクロアルカン(C4−10シクロアルカンなど)などの脂環族炭化水素、橋架け環式炭化水素(二環式炭化水素、三環式炭化水素など)など]、炭素−炭素不飽和結合を有する化合物[例えば、炭素−炭素二重結合を有する化合物(エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテンなどのオレフィン(C2−10オレフィンなど);シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどの環状オレフィン;ブタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、α−テルピネンなどのC4−10ジエンなどのジエン(共役ジエンなど);トルエンなどのメチル基含有芳香族化合物など)など]、ヘテロ原子含有化合物[例えば、硫黄原子含有化合物(例えば、ジメチルスルフィド、メチルフェニルスルフィド、メチルパラトリルスルフィドなどのスルフィド類;アルカンチオールなどのチオール類など)など]などが挙げられる。
【0060】
酸化反応としては、基質および酸化剤の種類や反応条件(反応温度など)に応じて選択でき、特に制限されず、代表的には、アルコールの酸化(例えば、第1級アルコールからアルデヒド又はカルボン酸への酸化、第2級アルコールからケトンへの酸化)、アルデヒドの酸化(例えば、アルデヒドからカルボン酸への酸化など)、飽和化合物の酸化(又は脱水素、例えば、飽和脂肪族炭化水素から炭素−炭素二重結合を有する化合物への酸化)、炭素−炭素不飽和結合を有する化合物の酸化[例えば、炭素−炭素二重結合を有する化合物(オレフィン、共役ジエンなど)からポリエン(共役ジエン、共役トリエンなどの共役ポリエン)への酸化(又は脱水素)、炭素−炭素二重結合を有する化合物(オレフィンなど)からグリコールへの酸化、炭素−炭素二重結合を有する環状化合物(環状オレフィンなど)からケトンへの酸化、炭素−炭素二重結合を有する化合物(オレフィンなど)からエポキシド(又はオキシラン)への酸化など]、酸素以外のヘテロ原子含有化合物のヘテロ原子(窒素原子、硫黄原子など)の酸化(例えば、スルフィドからスルホキシド又はスルホンへの酸化など)などが挙げられる。
【0061】
なお、本発明では、異種の酸化部位を有する基質では、選択的な酸化反応を行うことも可能である。例えば、水酸基と炭素−炭素二重結合とを有する基質では、選択的に一方の酸化部位(例えば、水酸基)を酸化することができる。また、本発明では、基質が酸化反応により、複数の異性体(立体異性体、光学異性体など)を生成可能な基質である場合、特定の異性体を選択的に得ることもできる。
【0062】
なお、酸化反応は、前記のように、反応器内で、基質と酸化剤とを反応させて行うことができ、例えば、前記触媒組成物が内壁に固定化された反応器内で反応させてもよく、前記触媒組成物が表面に固定化(例えば、コーティング)された部材を内設した反応器(前記触媒組成物が内壁に固定化されていてもよい反応器)内で反応させてもよい。酸化剤としてガス状の酸化剤(分子状酸素など)を用いる場合には、反応器内を前記ガス状の酸化剤が充填された反応器内で反応を行うことができる。また、反応は、基質及び酸化剤を反応器内に流通させつつ行ってもよい。例えば、内壁に前記触媒組成物が固定化(コーティング)されたカラム(カラム状反応器)に、基質および酸化剤(例えば、分子状酸素などのガス状酸化剤)を流通させつつ酸化反応を行ってもよい。
【0063】
なお、酸化反応は、溶媒成分の存在下で行ってもよいが、本発明では、反応器内に触媒組成物が固定化された反応系で反応を行うことができるため、溶媒を使用しなくても、基質を効率よく反応させることができる。
【0064】
反応(例えば、酸化反応)は、基質、還元剤及び触媒の種類、さらに目的とする生成物の種類に応じて、常温下で行ってもよく、加温下又は冷却下で行ってもよい。反応温度(例えば、酸化反応温度)は、代表的には、10〜200℃、好ましくは15〜180℃、さらに好ましくは20〜150℃、特に25〜120℃(例えば、室温〜100℃)程度であってもよい。基質や触媒の種類に応じて、常温(又は室温)下で反応を行うこともできる。
【0065】
以上のようにして、基質を反応させることができる。なお、反応(酸化反応)を行った後、基質や酸化剤を溶解可能な溶媒で反応器内部を洗浄し、この反応器を用いて繰り返し酸化反応を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の触媒組成物は、反応器内に固定化でき、触媒を分離することなく、簡便にかつ効率よく基質を反応(酸化)できる。しかも、溶媒を使用しなくても、酸化反応などを行うことができるため、コスト的にも環境的にも有利である。特に、酸素ガスを用いた酸化反応が可能であるため、高い安全性でかつクリーンな条件下で基質を酸化できる。なお、本発明の触媒組成物が固定化された反応器は、反応装置に組み込むこともできる。すなわち、このような反応装置は、前記触媒組成物が内部に固定化された反応器を備えている。例えば、カラムを備えた装置(ガスクロマトグラフィーなど)において、前記触媒組成物が内部に固定化されたカラムを使用すると、カラム内において簡便に基質を反応させることができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
リンバナドモリブデン酸(HPVMo40・mHO、日本無機化学工業(株)製)1gをイソブチルメチルケトン16.29gに溶解し、エポトートYD−011 70X(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量450〜500、東都化成(株)製、樹脂含有量70重量%)35.71gと混合し、10分攪拌を行い、触媒組成物1を得た。前記組成物のポリ酸とエポキシ樹脂との割合は、ポリ酸:エポキシ樹脂(重量比)=1:25であった。前記組成物を、30mlスクリュー管に流し込み、スクリュー管を回転させながら内壁に2.94mg/cmコーティングし、熱風乾燥機(増田理化工業(株)製 ドライオーブン)で、乾燥温度80℃で乾燥してフィルムを形成した。フィルムの厚みは約20μmであった。
【0069】
(実施例2)
リンバナドモリブデン酸に代えて、リンモリブデン酸(HPMo1240・mHO、m≒30、和光純薬工業(株)製 「12モリブド(VI)りん酸n水和物 和光特級 166−02131」)を用いる以外は実施例1と同様にして触媒組成物2を得た。また、実施例1と同様にしてフィルムを形成した。
【0070】
(実施例3)
リンバナドモリブデン酸に代えて、ケイタングステン酸(HSiW1240・mHO、m=26、和光純薬工業(株)製 「12タングスト(VI)けい酸26水 和光特級」)を用いる以外は実施例1と同様にして触媒組成物3を得た。また、実施例1と同様にしてフィルムを形成した。
【0071】
(実施例4)
リンバナドモリブデン酸に代えて、リンタングステン酸(HPW1240・mHO、m≒30、和光純薬工業(株)製 「12タングスト(VI)りん酸n水和物 和光特級」)を用いる以外は実施例1と同様にして触媒組成物4を得た。また、実施例1と同様にしてフィルムを形成した。
【0072】
(比較例1)
エポトートYD−011 70X(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量450〜500、東都化成(株)製)35.71gのみを、30mlスクリュー管に流し込み、実施例1と同様にしてフィルムを形成した。
【0073】
(実施例5〜8)
実施例1〜4で得られた触媒組成物1〜4を用いて、それぞれの触媒組成物についてベンジルアルコールの酸化反応を行った。以下に詳細を示す。
【0074】
触媒組成物1〜4がフィルム状に固定化されたスクリュー管をゴム栓で密閉し、スクリュー管内部を酸素(1気圧)1.3mmolにて十分置換した。ベンジルアルコールと内部標準物質アセトフェノンとを、ベンジルアルコール:アセトフェノン(モル比)=10:1の割合で混合した溶液120μlをスクリュー管内に投入し、熱風乾燥機(増田理化工業(株)製 ドライオーブン)で80℃の温度で24時間反応させた。反応後、酢酸エチルで反応後の溶液を抽出し、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製)で生成物の転化率及び選択率を内部標準法により算出した。
【0075】
(比較例2)
触媒組成物1〜4がフィルム状に固定化されたスクリュー管に代えて、比較例1で得られたエポキシ樹脂のみがフィルム状に形成されたスクリュー管を用いる以外は実施例5〜8と同様にしてベンジルアルコールの酸化反応を行った。
【0076】
(実施例9)
実施例1で得られた触媒組成物1を用いて、α−テルピネンの酸化反応を行った。以下に詳細を示す。
【0077】
触媒組成物1がフィルム状に固定化されたスクリュー管をゴム栓で密閉し、スクリュー管内部を酸素(1気圧)1.3mmolにて十分置換した。α−テルピネンと内部標準物質アセトフェノンとを、α−テルピネン:アセトフェノン(モル比)=10:1の割合で混合した溶液120μlをスクリュー管内に投入し、熱風乾燥機(増田理化工業(株)製 ドライオーブン)で25℃の温度で24時間反応させた。反応後、酢酸エチルで反応後の溶液を抽出し、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製)で生成物の転化率及び選択率を内部標準法により算出した。
【0078】
(実施例10)
実施例1で得られた触媒組成物1を用いて、メチルパラトリルスルフィドの酸化反応を行った。以下に詳細を示す。
【0079】
触媒組成物1がフィルム状に固定化されたスクリュー管をゴム栓で密閉し、スクリュー管内部を酸素(1気圧)1.3mmolにて十分置換した。メチルパラトリルスルフィドと内部標準物質アセトフェノンとを、メチルパラトリルスルフィド:アセトフェノン(モル比)=10:1の割合で混合した溶液120μlをスクリュー管内に投入し、熱風乾燥機(増田理化工業(株)製 ドライオーブン)で80℃の温度で24時間反応させた。反応後、酢酸エチルで反応後の溶液を抽出し、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製)で生成物の添加率及び選択率を内部標準法により算出した。
【0080】
(実施例11)
実施例1で得られた触媒組成物1を用いて、ベンジルアルコールの酸化反応の繰り返し試験を行った。
【0081】
実施例5と同様にベンジルアルコールの酸化反応を行った後、酢酸エチルで反応後の溶液を抽出し、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製)で生成物の転化率及び選択率を内部標準法により算出した。スクリュー管内部を酢酸エチルで洗浄後、1日乾燥させた。これを15回繰り返し行った。
【0082】
転化率及び選択率を測定した結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
また、実施例11で行った繰り返し試験の結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表1から明らかなように、実施例では、高い選択率で酸化生成物が得られた。また、表2から明らかなように、本発明の触媒組成物が固定化された反応器内で、繰り返し酸化反応を行っても、高い選択率及び転化率で酸化生成物が得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒としてのポリ酸を反応器内部に固定化するための触媒組成物であって、ポリ酸とエポキシ樹脂とで構成された触媒組成物。
【請求項2】
反応器の内壁、及び反応器内部に配設可能な部材の表面から選択された少なくとも1つの被固定化部位に固定化するための組成物である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
被固定化部位が、少なくとも中空状反応器の内壁である請求項2記載の組成物。
【請求項4】
ポリ酸がヘテロポリ酸である請求項1記載の組成物。
【請求項5】
ポリ酸が、タングステン、モリブテン、及びバナジウムから選択された少なくとも一種の金属元素と、周期表第8〜10族元素及び第13〜15族元素から選択された少なくとも一種の第2の元素とを有するヘテロポリ酸である請求項1記載の組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂がグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である請求項1記載の組成物。
【請求項7】
エポキシ樹脂のエポキシ当量が140〜4000である請求項1記載の組成物。
【請求項8】
エポキシ樹脂の割合が、ポリ酸1重量部に対して0.1〜100重量部である請求項1記載の組成物。
【請求項9】
さらに、溶媒を含む請求項1記載の組成物。
【請求項10】
溶媒がケトン類、アルコール類、及びエーテル類から選択された少なくとも一種である請求項9記載の組成物。
【請求項11】
反応器内部に対応する被固定化部位を、請求項1記載の触媒組成物で処理し、前記触媒組成物を固定化する方法。
【請求項12】
被固定化部位に触媒組成物をコーティングする請求項11記載の固定化方法。
【請求項13】
請求項1記載の触媒組成物が固定化された反応器内で、基質と酸化剤とを反応させ、基質を酸化する方法。
【請求項14】
酸化剤が酸素である請求項13記載の酸化方法。
【請求項15】
酸化剤として分子状酸素を用い、溶媒成分を使用することなく基質を酸化する請求項13記載の酸化方法。



【公開番号】特開2008−104991(P2008−104991A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292484(P2006−292484)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(501334659)石川ペイント株式会社 (1)
【Fターム(参考)】